説明

内燃機関の電子制御システム

【課題】この発明は、システム構成を簡略化しつつ、複数の制御装置間でクランク位置の算出値を確実かつ容易に同期させることを目的とする。
【解決手段】エンジン制御用マイコン10は、クランク角センサから入力されるNE信号に基いて現在のクランク位置を算出し、現在のクランク位置をエッジ時間Anに変換する。また、マイコン10は、NE信号の入力時刻とエッジ時間Anとの加算値に対応するエッジ出力時刻を算出し、エッジ出力時刻の到来時にCPS制御用マイコン20にエッジ信号を出力する。一方、マイコン20は、NE信号の入力時刻とエッジ信号の入力時刻との差分に基いてエッジ時間Anを算出し、エッジ時間Anから現在のクランク位置を算出する。これにより、専用のシリアル通信線や通信開始信号等を使用しなくても、マイコン10,20間で現在のクランク位置を同期させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電子制御装置を備えた内燃機関の電子制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、例えば特許文献1(特開2009−292168号公報)に開示されているように、複数の制御装置(ECU)を備えた内燃機関の電子制御システムが知られている。従来技術では、2つのECU間でシリアル通信を行うときに、通信データとは別の信号である通信開始信号を送信し、シリアル通信時に生じる通信遅れを通信開始信号に基いて計測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−292168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、2つのECU間でシリアル通信を行うときに、通信開始信号を送信し、シリアル通信時の通信遅れを補正する構成としている。しかし、通信開始信号を送受信するために、例えば専用のシリアル通信線を追加した場合には、ECUのリソース(シリアル通信用の入出力端子等)が余分に使用されることになり、システム構成の複雑化やコストアップを招くという問題がある。また、従来技術において、通信開始信号を使用しない場合には、クランク位置の算出値等をECU間で同期させることが困難となる。
【0005】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、システム構成を簡略化しつつ、複数の制御装置間でクランク位置の算出値を確実かつ容易に同期させることが可能な内燃機関の電子制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、クランク軸の回転に同期して生成される回転信号がそれぞれ入力される制御装置であって、前記回転信号を用いて制御を実行する第1,第2の制御装置を備え、
前記第1の制御装置は、前記回転信号の入力時刻を記憶する第1の入力時刻記憶手段と、前記回転信号に基いて前記クランク軸の回転位置であるクランク位置を算出する第1のクランク位置算出手段と、前記クランク位置算出手段により算出される全てのクランク位置に対して、それぞれ異なるオフセット時間を割当てるように予め設定された第1のオフセット時間割当手段と、前記回転信号が入力されたときに、当該回転信号の入力時刻と、当該回転信号により算出された特定のクランク位置に対応する前記オフセット時間との加算値に基いて、前記第2の制御装置に対する信号出力時刻を設定する信号出力時刻設定手段と、前記信号出力時刻が到来したときに、エッジ状のクランク位置算出信号を前記第2の制御装置に出力するエッジ信号出力手段と、を備え、
前記第2の制御装置は、前記回転信号及び前記クランク位置算出信号の入力時刻をそれぞれ記憶する第2の入力時刻記憶手段と、前記第1のオフセット時間割当手段と同様に構成された第2のオフセット時間割当手段と、前記回転信号の入力時刻と前記クランク位置算出信号の入力時刻との時間差に基いて前記オフセット時間を算出し、当該オフセット時間に基いて前記第2のオフセット時間割当手段によりクランク位置を算出する第2のクランク位置算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明によると、前記第2の制御装置は、前記第2のオフセット時間割当手段により設定される最大のオフセット時間よりも大きい所定の異常判定時間と、
前記回転信号の入力時刻から前記異常判定時間が経過しても前記クランク位置算出信号が入力されない場合に、前記回転信号または前記クランク位置算出信号の入力異常と判定する異常判定手段と、を備えている。
【0008】
第3の発明によると、前記第1の制御装置は、前記クランク位置が確定される前に前記クランク位置算出信号を出力するときに、前記オフセット時間を前記第1のオフセット時間割当手段に設定された全てのオフセット時間と異なる所定の値に設定する第3のオフセット時間割当手段を備え、
前記第2の制御装置は、前記第3のオフセット時間割当手段により設定された所定のオフセット時間を検出したときに、前記クランク位置が未確定であると判定するクランク位置未確定判定手段を備えている。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、第1,第2の制御装置において、単純なエッジ状の信号出力が可能な出力端子と、信号のエッジを検出することが可能な入力端子とを用いるだけで、第1の制御装置により算出した現在のクランク位置を第2の制御装置に送信することができる。これにより、専用のシリアル通信線を追加したり、通信開始信号等を使用しなくても、制御装置間において現在のクランク位置を確実かつ容易に同期させることができる。従って、システム構成を簡略化し、制御装置のリソースを有効に活用することができる。
【0010】
第2の発明によれば、回転信号の入力時刻からの経過時間を計測することにより、信号の入力異常を容易に検出することができ、信頼性を向上させることができる。
【0011】
第3の発明によれば、クランク位置が未確定であるという情報をオフセット時間の一形態に含めることができる。これにより、オフセット時間やクランク位置算出信号の形態を複雑化しなくても、クランク位置の未確定情報を第2の制御装置に通知することができる。従って、第2の制御装置は、クランク位置の確定状態を自ら判定しなくても、未確定時の処理を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。
【図2】クランク位置とエッジ時間との関係を設定したエッジ時間データマップの一例を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1において、エンジン制御用マイコンにより実行される制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1において、CPS制御用マイコンにより実行される制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、図1乃至図4を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための全体構成図である。本実施の形態のシステムは、エンジン制御用マイコン10と、CPS制御用マイコン20とを備えている。これらのマイコン10,20は、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)として構成され、それぞれ、ROM、RAM等の記憶回路と、入出力端子と、演算処理回路とを備えている。
【0014】
エンジン制御用マイコン10は、自動車等に搭載される内燃機関としてのエンジンを制御するもので、マイコン10の入力端子には、エンジン制御に必要な各種のセンサが接続されている。この入力端子には、クランク角センサから出力される回転信号(NE信号)が入力されるNE入力端子11と、カム角センサから出力されるカム角信号(G2信号)が入力されるG2入力端子12とを備えている。マイコン10の他の入力端子には、例えばエアフローセンサ、水温センサ、空燃比センサ等が接続されている。一方、マイコン10の出力端子には、スロットルバルブ、燃料噴射弁、点火プラグ等のアクチュエータが接続されている。そして、マイコン10は、各センサの出力に基いてアクチュエータを駆動し、エンジンの運転状態を制御する。
【0015】
また、マイコン10の出力端子には、マイコン20に対してエッジ状のクランク位置算出信号(エッジ信号)を出力するためのエッジ出力端子13が含まれている。エッジ信号とは、信号値がONレベル(High)からOFFレベル(Low)またはOFFレベルからONレベルへとエッジ状(ステップ状)に変化する信号として定義される。なお、エッジ信号は、本実施の形態のクランク位置算出信号に対応している。また、マイコン10は、マイコン20との間でシリアル通信によりデータを送受信するためのシリアル通信端子を備えている。
【0016】
CPS制御用マイコン20は、図示しない筒内圧センサ(CPS)の出力と、クランク角センサの出力とに基いて所定の制御(例えば、燃焼制御に用いるパラメータの算出制御等)を行うもので、エンジン制御用マイコン10の演算負荷を軽減するために用いられている。マイコン20は、クランク角センサからNE信号が入力されるNE入力端子21と、マイコン10からエッジ信号が入力されるエッジ入力端子22とを備えている。マイコン20の他の入力端子には、筒内圧センサ等が接続されている。また、マイコン20は、マイコン10との間でシリアル通信を行うためのシリアル通信端子を備えており、筒内圧センサの出力に基いて算出した各種のパラメータ等を、シリアル通信によりマイコン10に送信する。
【0017】
次に、クランク角センサの構成、及びクランク位置の算出処理について説明する。NE信号は、エンジンのクランク軸の回転に同期して生成されるパルス状の信号であり、クランク軸が一定角度(例えば、10°CA)だけ回転する毎に、クランク角センサから1つのNE信号が出力される。また、クランク角センサは、例えばクランク軸が1回転のうちの基準位置(基準角度)に到達する毎に、基準信号を出力する。この基準信号は、例えばNE信号を1つ欠落させることで生成してもよいし、NE信号とは異なる他の信号を生成する構成としてもよい。
【0018】
エンジン制御用マイコン10は、クランク軸の回転位置(クランク位置)を算出するためのカウンタ(クランクカウンタ)を備えている。そして、マイコン10は、例えばクランク角センサから基準信号が入力されたときのクランク位置を基準位置として確定し、クランクカウンタを基準位置に対応する値にリセットする。また、クランク位置の確定後には、NE信号が入力される毎に、クランクカウンタを前記一定角度ずつ増加させる。これにより、任意の時点でのクランク位置を算出することができる。なお、前述したカム角センサは、エンジンのカムシャフトが所定角度だけ回転する毎に、G2信号をマイコン10に出力するもので、このG2信号はクランク位置を特定する情報として用いられる。
【0019】
上述したNE信号は、CPS制御用マイコン20にも入力されるので、マイコン20においても、NE信号に基いてクランク位置の算出処理を実行することが可能である。しかし、NE信号は、クランク軸の相対的な回転量を表す信号に過ぎないので、例えばNE信号の誤計測等が生じた場合には、マイコン10,20間でクランク位置の算出値にずれが生じる虞れがある。マイコン20は、マイコン10の算出値と正確に同期されたクランク位置に基いて燃焼制御用のパラメータの算出制御等を行うのが好ましい。一方、マイコン10,20間でクランク位置を同期させるために、シリアル通信を用いる構成とした場合には、専用のシリアル通信端子が必要となってマイコンのリソースを余分に使用することになる。
【0020】
このため、本実施の形態では、エンジン制御用マイコン10により算出したクランク位置を単純なエッジ信号によってCPS制御用マイコン20に送信し、マイコン10,20間でクランク位置を同期させる構成としている。以下、この同期制御について、マイコン10,20のそれぞれの動作を説明する。
【0021】
(エンジン制御用マイコンの動作)
エンジン制御用マイコン10は、まず、クランク角センサからNE信号が入力されたときに、その入力時刻(NE入力時刻)を記憶する。そして、前述したように、NE信号に基いて現在のクランク位置を算出する。次に、マイコン10は、予め記憶したエッジ時間データマップに基いて、現在のクランク位置に対応するオフセット時間(エッジ時間An)を算出する。エッジ時間Anは、現在のクランク位置が反映された情報としてCPS制御用マイコン20に伝達されるものである。
【0022】
図2は、クランク位置とエッジ時間との関係を設定したエッジ時間データマップの一例を示している。この図に示すように、エッジ時間データマップは、1サイクル(720°CA)中でクランクカウンタがとり得る全てのクランク位置に対して、それぞれ異なるエッジ時間Anを割当てるように設定されている。即ち、個々のエッジ時間Anは、エッジ時間データマップに記載された各クランク位置と1対1で対応するユニークな値を有している。これにより、現在のクランク位置に対応するエッジ時間Anが与えられた場合には、当該エッジ時間Anに基いて現在のクランク位置を特定することができる。なお、図2では、NE信号が5°CA毎に出力される場合を例示している。また、エッジ時間Anは、個々のクランク位置と1対1対応していればよいもので、その並び方は自由に設定することができる。即ち、エッジ時間An同士の大小関係は、クランク位置に対して降順、昇順またはランダムの何れに設定してもよい。
【0023】
エンジン制御用マイコン10は、エッジ時間データマップに基いて現在のクランク位置に対応するエッジ時間Anを算出した後に、当該エッジ時間Anと、前述のNE入力時刻とを加算し、CPS制御用マイコン20に対する信号出力時刻(エッジ出力時刻)を設定する。即ち、エッジ出力時刻は、下記(1)式により設定される。そして、エッジ出力時刻が到来したときには、CPS制御用マイコン20にエッジ信号を出力する。
【0024】
エッジ出力時刻=NE入力時刻+エッジ時間An ・・・(1)
【0025】
(CPS制御用マイコンの動作)
一方、CPS制御用マイコン20には、エンジン制御用マイコン10と同時刻にNE信号が入力されるので、マイコン20は、その入力時刻(NE入力時刻)を記憶する。これにより、NE入力時刻は、マイコン10,20間で共通の基準時刻として機能する。また、CPS制御用マイコン20は、エンジン制御用マイコン10からエッジ信号が入力されたときに、その入力時刻(エッジ入力時刻)を記憶する。エッジ入力時刻(マイコン10におけるエッジ出力時刻)は、前記(1)式から判るように、NE入力時刻よりも遅い時刻となる。
【0026】
また、CPS制御用マイコン20には、エンジン制御用マイコン10と同一のエッジ時間データマップが予め記憶されている。そこで、マイコン20は、下記(2)式に示すように、NE入力時刻とエッジ入力時刻との時間差の絶対値をエッジ時間として算出し、算出したエッジ時間に基いてエッジ時間データマップを参照することにより、現在のクランク位置を算出する。
【0027】
エッジ時間=|NE入力時刻−エッジ入力時刻| ・・・(2)
【0028】
上述したように、エンジン制御用マイコン10により算出された現在のクランク位置は、クランク位置と1対1対応の関係をもって設定されたエッジ時間Anに変換される。そして、このエッジ時間Anは、マイコン10,20間で共通のNE入力時刻を利用して、エッジ出力時刻(=エッジ入力時刻)としてCPS制御用マイコン20に送信され、マイコン20において、現在のクランク位置に復元される。
【0029】
従って、本実施の形態によれば、マイコン10,20において、単純なエッジ信号の出力が可能なエッジ出力端子13と、信号のエッジを検出することが可能なエッジ入力端子22とを用いるだけで、エンジン制御用マイコン10により算出した現在のクランク位置をCPS制御用マイコン20に送信することができる。これにより、専用のシリアル通信線を追加したり、通信開始信号等を使用しなくても、マイコン10,20間において現在のクランク位置を確実かつ容易に同期させることができる。
【0030】
より詳しく述べると、従来技術では、マイコン間において、一定の周期(例えば、4ms)でDMA通信を実行しているが、この通信はクランク位置の変化を送信するには遅すぎる。また、別のシリアル通信手段を用いる選択肢も考えられるが、クランク位置を同期するために専用のシリアル通信線(シリアル入出力端子)を占有するのは、リソースの浪費につながる。これに対し、本実施の形態では、シリアル入出力端子よりもリソースの数が多いエッジ入出力端子を使用するので、マイコン10,20のリソースを有効に活用することができる。また、シリアル通信の回数や通信量を減らし、システムの構成及び制御を簡略化することができる。さらに、信号変化の片方のエッジ(ON→OFFエッジまたはOFF→ONエッジ)のみを検出可能な入出力端子を利用してクランク位置を通信することができるので、クランクカウンタをパルス幅で送信する手段と比較しても、通信制御を簡略化することができる。
【0031】
(クランク位置が未確定時の処理)
エンジン制御用マイコン10は、前述したように、クランク角センサにより基準信号が入力された時点から、現在のクランク位置を確定することが可能となるので、クランク位置が確定される前の状態では、この状態をCPS制御用マイコン20にも通知することが好ましい。そこで、マイコン10は、クランク位置が確定される前にエッジ信号を出力するときに、エッジ時間を所定の時間Bに設定する。このエッジ時間Bは、エッジ時間データマップに記憶された全てのエッジ時間Anと異なる値を有している。
【0032】
一方、CPS制御用マイコン20は、前記(2)式の右辺の演算を実行することによりエッジ時間Bを検出した場合に、クランク位置が未確定であると判定し、クランク位置未確定処理(クランク位置が未確定である場合の処理)を実行する。クランク位置未確定処理の一例を挙げると、燃焼制御用のパラメータの算出制御を中止したり、当該パラメータを所定の初期値に保持する等である。本構成によれば、クランク位置が未確定であるという情報をエッジ時間の一形態に含めることができ、エッジ時間やエッジ信号の形態を複雑化しなくても、クランク位置の未確定情報をマイコン20に通知することができる。従って、マイコン20は、クランク位置の確定状態を自ら判定しなくても、未確定時の処理を的確に行うことができる。
【0033】
(エッジ信号の入力異常時の処理)
CPS制御用マイコン20は、NE入力時刻から所定の異常判定時間Dが経過してもエッジ信号が入力されない場合に、NE信号またはエッジ信号の入力異常と判定し、入力異常時の処理(エラー処理)を実行する。ここで、異常判定時間Dは、エッジ時間データマップに記憶された全てのエッジ時間An及びエッジ時間Bのうちで最大のエッジ時間を基準として、当該最大のエッジ時間に所定の余裕代を加算することにより予め設定されている。この余裕代は、入力信号値の検出精度や外乱による信号値のばらつき等に応じて適切な値に決定されるもので、零に設定してもよい。
【0034】
NE入力時刻から異常判定時間Dが経過した場合には、エッジ信号が入力されないか、またはエッジ信号が入力されたとしても設定として存在しない異常なエッジ時間が算出されることになるので、信号の入力異常と判定することができる。従って、本構成によれば、NE入力時刻からの経過時間を計測することにより、信号の入力異常を容易に検出することができ、信頼性を向上させることができる。
【0035】
[実施の形態1を実現するための具体的な処理]
次に、図3及び図4を参照して、上述した制御を実現するための具体的な処理について説明する。図3は、本発明の実施の形態1において、エンジン制御用マイコンにより実行される制御を示すフローチャートであり、図4は、CPS制御用マイコンにより実行される制御を示すフローチャートである。これらの図に示すルーチンは、エンジンの運転中に繰返し実行されるものとする。
【0036】
まず、エンジン制御用マイコン10は、クランク角センサからNE信号が入力されたときに、図3中のステップ100において、NE入力時刻を記憶する。次に、ステップ102では、現在のクランク位置を算出するためにクランクカウンタを増加させ、ステップ104では、クランク位置の確定前であるか否かを判定する。この判定が成立した場合には、クランクカウンタを現在のクランク位置として用いることができるので、ステップ106では、エッジ時間データマップに基いて、現在のクランク位置からエッジ時間Anを設定する。また、ステップ104の判定が不成立の場合には、クランク位置の確定前であるから、ステップ108において、エッジ時間を所定の時間Bに設定する。次に、ステップ110では、前記(1)式によりエッジ出力時刻を算出し、算出したエッジ出力時刻をマイコン10のタイマに設定する。これにより、エッジ出力時刻が到来したときには、ステップ112において、ハードウェアの信号出力機能が作動し、エッジ信号が出力される。
【0037】
一方、CPS制御用マイコン20は、クランク角センサからNE信号が入力されたときに、図4中のステップ200において、NE入力時刻を記憶する。次に、ステップ202では、エッジ信号が入力されたか否かを判定し、この判定が成立した場合には、ステップ204において、前記(2)式によりエッジ時間を算出する。そして、ステップ206では、算出したエッジ時間が所定の時間Bと異なるか否か(エッジ時間Anに含まれるか否か)を判定し、この判定が成立した場合には、ステップ208において、エッジ時間データマップによりエッジ時間Anから現在のクランク位置を算出する。そして、ステップ210では、現在のクランク位置に基いて、所定のCPS制御処理(燃焼制御用パラメータの算出制御等)を実行する。
【0038】
また、ステップ206の判定が不成立の場合には、エンジン制御用マイコン10において、クランク位置が未確定であると判断されるので、ステップ212に移行し、前述のクランク位置未確定処理を実行する。一方、ステップ202の判定が不成立の場合には、ステップ214において、NE入力時刻から異常判定時間Dが経過したか否かを判定する。そして、この判定が成立した場合には、ステップ216において、CPS制御処理の停止や警報等のエラー処理を実行する。
【0039】
なお、前記実施の形態1では、図2に示すエッジ時間データマップが第1,第2のオフセット時間割当手段の具体例を示している。また、図3中のステップ100は、第1の入力時刻記憶手段の具体例を示し、ステップ102は、第1のクランク位置算出手段の具体例を示し、ステップ106,110は、信号出力時刻設定手段の具体例を示し、ステップ112は、エッジ信号出力手段の具体例を示し、ステップ104,108は、第3のオフセット時間割当手段の具体例を示している。また、図4中のステップ200は、第2の入力時刻記憶手段の具体例を示し、ステップ204,208は、第2のクランク位置算出手段の具体例を示し、ステップ214は、異常判定手段の具体例を示し、ステップ206は、クランク位置未確定判定手段の具体例を示している。
【0040】
また、前記実施の形態1では、NE信号が出力される角度間隔を5°CAに設定した場合を例示した。しかし、本発明はこれに限らず、NE信号が出力される角度間隔は、5°CA以外の任意の角度に設定してよいものである。一例を挙げると、NE信号が1°CA毎に出力される構成とした場合には、エッジ時間データマップに記憶させるクランク位置を0〜719°CAとし、該各クランク位置に対してそれぞれ異なるエッジ時間を割当てればよい。
【0041】
また、前記実施の形態1では、第1の制御装置がエンジン制御用マイコン10であり、第2の制御装置がCPS制御用マイコン20である場合を例示した。しかし、本発明はこれに限らず、エンジン制御やCPS制御処理以外の処理を行う各種のマイコン(ECU)に広く適用することができる。さらに、本発明は、第2の制御装置を複数個備えた電子制御システムに適用してもよい。この場合には、第1の制御装置から複数の第2の制御装置に対してクランク位置算出信号を出力し、全ての制御装置間でクランク位置を同期させる構成とすればよい。
【符号の説明】
【0042】
10 エンジン制御用マイコン(制御装置)
11 NE入力端子
12 G2入力端子
13 エッジ出力端子
20 CPS制御用マイコン(制御装置)
21 NE入力端子
22 エッジ入力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸の回転に同期して生成される回転信号がそれぞれ入力される制御装置であって、前記回転信号を用いて制御を実行する第1,第2の制御装置を備え、
前記第1の制御装置は、
前記回転信号の入力時刻を記憶する第1の入力時刻記憶手段と、
前記回転信号に基いて前記クランク軸の回転位置であるクランク位置を算出する第1のクランク位置算出手段と、
前記クランク位置算出手段により算出される全てのクランク位置に対して、それぞれ異なるオフセット時間を割当てるように予め設定された第1のオフセット時間割当手段と、
前記回転信号が入力されたときに、当該回転信号の入力時刻と、当該回転信号により算出された特定のクランク位置に対応する前記オフセット時間との加算値に基いて、前記第2の制御装置に対する信号出力時刻を設定する信号出力時刻設定手段と、
前記信号出力時刻が到来したときに、エッジ状のクランク位置算出信号を前記第2の制御装置に出力するエッジ信号出力手段と、を備え、
前記第2の制御装置は、
前記回転信号及び前記クランク位置算出信号の入力時刻をそれぞれ記憶する第2の入力時刻記憶手段と、
前記第1のオフセット時間割当手段と同様に構成された第2のオフセット時間割当手段と、
前記回転信号の入力時刻と前記クランク位置算出信号の入力時刻との時間差に基いて前記オフセット時間を算出し、当該オフセット時間に基いて前記第2のオフセット時間割当手段によりクランク位置を算出する第2のクランク位置算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の電子制御システム。
【請求項2】
前記第2の制御装置は、
前記第2のオフセット時間割当手段により設定される最大のオフセット時間よりも大きい所定の異常判定時間と、
前記回転信号の入力時刻から前記異常判定時間が経過しても前記クランク位置算出信号が入力されない場合に、前記回転信号または前記クランク位置算出信号の入力異常と判定する異常判定手段と、
を備えてなる請求項1に記載の内燃機関の電子制御システム。
【請求項3】
前記第1の制御装置は、前記クランク位置が確定される前に前記クランク位置算出信号を出力するときに、前記オフセット時間を前記第1のオフセット時間割当手段に設定された全てのオフセット時間と異なる所定の値に設定する第3のオフセット時間割当手段を備え、
前記第2の制御装置は、前記第3のオフセット時間割当手段により設定された所定のオフセット時間を検出したときに、前記クランク位置が未確定であると判定するクランク位置未確定判定手段を備えてなる請求項1または2に記載の内燃機関の電子制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86541(P2013−86541A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225935(P2011−225935)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】