説明

内燃機関用すべり軸受

【課題】 耐疲労性を維持しつつ、摩擦係数が低く、非焼付性に優れた内燃機関用すべり軸受を提供する。
【解決手段】 摺動層6に固体潤滑剤が含有された潤滑表層5を有し、その潤滑表層5は、固体潤滑剤に含まれる元素を当該潤滑表層内の最大濃度で5質量%以上含有し、且つ当該潤滑表層5の表面に少なくとも一次粒子が複数集合して構成される固体潤滑剤の粒子4が存在し、その固体潤滑剤の粒子4の長辺が潤滑表層5の表面視野で20μm以上100μm未満の大きさである固体潤滑剤集合粒子が存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な耐疲労性を維持しつつ摩擦係数を低減し、非焼付性を向上させた内燃機関用すべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や一般産業機械の内燃機関用として使用されるすべり軸受には、優れた非焼付性、耐疲労性、耐摩耗性が要求される。従来の内燃機関用すべり軸受には、裏金層上にアルミニウム合金をライニングしたアルミニウム基合金軸受、裏金層上に銅合金をライニングした銅基合金軸受、更に、この銅基合金軸受の表面にオーバレイを施した軸受があり、使用環境に応じて使い分けをしている。
【0003】
しかしながら、最近の内燃機関は、高速高出力化、軽量化、省燃費化の傾向にあり、これに対応すべくすべり軸受には更なる高性能化が望まれている。即ち、内燃機関の高速高出力化により、軸受面全体の油膜が薄くなり、また、軽量化により軸受ハウジングが変形し易くなる。その結果、片当たりし易く、油膜が非常に薄くなって直接接触(金属接触)する部分が増加し、凝着などによる異常摩耗や焼付きに至る場合がある。これらを避けるために、すべり軸受には、油膜を早期に確保すべく、なじみ性が要求され、更に金属接触しても容易に焼付かず、早期に疲労しない性質が要求される。
【0004】
また、省燃費化の一方策として、潤滑油のせん断抵抗を下げるべく、低粘度の潤滑油が使用される。そのため、上記の内燃機関の高速出力化、軽量化の場合と同様に油膜が薄くなって金属接触する部分が増加する。その金属接触部分では、相手軸との摩擦抵抗が大きく、省燃費に貢献できない可能性があると共に、摩擦による熱も発生する。更にこの熱により、潤滑油の粘度低下を引き起こし、金属接触が助長される。発熱を防止するには、相手軸との摩擦係数を低減させることが求められ、摩擦係数を低減させることができれば、発熱量の減少にとどまらず、更に非焼付性も向上させることができる。
【0005】
なお、すべり軸受ではないが、特許文献1には、内燃機関のピストンの摩擦抵抗を低減させるために、ピストンの表面に二硫化モリブデン(MoS2)の微細粉末を衝突させることにより、表面から深さ20μm以内の表層に、固体潤滑剤である二硫化モリブデンを含有させて二硫化モリブデン含有層を設けることが開示されている。
【特許文献1】国際公開第02/40743号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すべり軸受において、固体潤滑剤を軸受合金の成分中に配合したり、軸受合金層の表面に固体潤滑剤をバインダ樹脂と共にコーティングしたりして、相手軸との摩擦抵抗を低減させることは良く知られた技術である。
しかしながら、軸受合金層の表面に固体潤滑剤をコーティングする方法は、コーティング層の接着力に問題があり、また、バインダ樹脂の存在により固体潤滑剤の摩擦低減効果を十分に得られない場合がある。
【0007】
更に、軸受合金の成分中に固体潤滑剤を配合する方法の場合、アルミニウム基合金では、固体潤滑剤粉末をアルミニウム基合金粉末にブレンドするのが一般的である。これにより、アルミニウム基合金中に固体潤滑剤を含有させることはできるが、粉末冶金材であるが故に強度が不足し、内燃機関用すべり軸受としての使用に耐え得ない。軸受合金が銅基合金の場合では、主に、銅基合金粉末を原材料として固体潤滑剤粉末を混合し、焼結法により製造されるが、その製造中に固体潤滑剤が熱分解してしまい、合金中に含有させることが困難である。
【0008】
そこで、上記の特許文献1に記載された技術を内燃機関用すべり軸受に適用して軸受合金層の表面に二硫化モリブデンの含有層を形成することが考えられる。特許文献1に記載の技術は、ピストン表面に二硫化モリブデンの微細粉末を衝突させることにより、深さ20μm以内の表層に二硫化モリブデン含有層を形成すると共にピストンの表面に微細なディンプルを設け、二硫化モリブデンそれ自身の潤滑効果と表面のディンプルの油溜効果とにより摩擦低減を図る。また、二硫化モリブデンの微細粉末を高速でピストンの表面に衝突させるため、ピストンの一部が溶融して二硫化モリブデン中のモリブデンと金属間化合物を形成する温度にまでピストンの表面温度が上昇して二硫化モリブデンの固着強度を高め、しかも表面が加工硬化して耐摩耗性が向上する、というものである。
【0009】
ところが、ピストンは硬さがビッカース硬さで300以上の硬いアルミニウム基合金で作られている。一方、軸受合金はピストンと違い軟質であるため、固体潤滑剤の微細粉末を衝突させると、表面粗さが増加し、更には表面のディンプルも大きく不規則な形状となり、油溜効果よりも逆にディンプルの存在により油膜破断を起こし、これにより発熱が生じ、非焼付性、耐疲労性を損ねてしまうことが本発明者の実験により確かめられた。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、摺動層の表面粗さを粗くすることなく、その摺動層に固体潤滑剤が含有された潤滑表層を設けることができ、これにより耐疲労性を維持しつつ、摩擦係数が低く、非焼付性に優れた内燃機関用すべり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は内燃機関用すべり軸受において、摺動層に、固体潤滑剤が含有された潤滑表層を有し、その潤滑表層は、固体潤滑剤に含まれる元素を最大濃度で5質量%以上含有し、且つ前記潤滑表層の表面に、少なくとも一次粒子が多数集合して構成される固体潤滑剤の粒子であって潤滑表層の表面視野で長辺が20μm以上100μm未満の大きさである固体潤滑剤集合粒子が存在することを特徴とする(請求項1)。
【0012】
内燃機関の運転初期ではミスアライメントなどにより、また、定常運転時では高回転や急な回転変化などにより、すべり軸受表面と相手軸との間に形成される油膜が薄くなる傾向にある。このような条件下にあってすべり軸受の表面は相手軸と金属接触し、適度な変形や摩耗を生ずる。つまり、すべり軸受の表面は適度な変形や摩耗を生ずることによって油膜を確保し、内燃機関の運転に伴い発生する油膜圧力を受け、内燃機関の正常な運転を確保する機能を有する。
【0013】
すべり軸受が相手軸と金属接触を起こすと、油膜が確保されている流体潤滑状態に比して摩擦抵抗が増大する。そして、その接触部分では発熱を伴い、この発熱により軸受表面材料の強度低下が生じ、相手軸への軸受表面材料の凝着が増加することで焼付く場合がある。
本発明のすべり軸受は、摺動層が固体潤滑剤を含む潤滑表層を有している。固体潤滑剤は自己潤滑性を有し、低摩擦係数を示す。従って、本発明のすべり軸受によれば、潤滑表層の存在が直接接触による摩擦抵抗の増大を防止することができる。このため、発熱による材料強度の低下が抑制され、非焼付性に有利となる。
【0014】
固体潤滑剤に含まれる元素は最大濃度部で5質量%以上(固体潤滑剤が複数種存在する場合は、それぞれの固体潤滑剤に含まれる元素の合計で5質量%以上)含むことで摩擦係数の低減効果を得ることができる。好ましくは、15質量%以上である。ここで、固体潤滑剤に含まれる元素とは、固体潤滑剤が1種の元素から構成されているときはその元素を指し、固体潤滑剤が2種以上の元素から構成されているときは最も原子量の大きい元素を指している。固体潤滑剤に含まれる元素の最大濃度は、潤滑表層を、その表面から一定の厚さで多数の薄い層に分割したとき、その分割単位毎に測定した元素の濃度のうち、最大のものを言う。
【0015】
本発明では、例えばアルミニウム基合金軸受、銅基合金軸受、オーバレイ付銅基合金軸受を使用することができる。アルミニウム基合金軸受、銅基合金軸受は、図1に示すように、裏金層1上にアルミニウム基軸受合金、または銅基軸受合金からなる軸受合金層2をライニングした形態のすべり軸受である。アルミニウム基軸受合金は、アルミニウムに、錫3〜20質量%、ケイ素1.5〜8質量%、その他耐疲労性を向上させる元素として、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、バナジウム、モリブデン、クロム、ニッケル、コバルト、タングステンなどが添加され、その硬さがビッカース硬さで40〜80程度のものとすることができる。また、銅基軸受合金は、銅に、錫、ニッケルなどが添加され、ビッカース硬さで80〜150程度のものとすることができる。オーバレイ付銅基合金軸受は、図2に示すように、銅基軸受合金からなる軸受合金層2の表面に電気メッキなどによって鉛合金、錫合金、ビスマス合金などからなる金属のオーバレイ3を被着したものである。オーバレイ3は、鉛合金などの比較的軟質な金属が使用されるので、その硬さはビッカース硬さで1030程度である。なお、オーバレイは、通常、15μm程度の厚さに形成される。
【0016】
このようなすべり軸受において、図1の場合には、軸受合金層2が摺動層6とされ、図2の場合には、軸受合金層2とオーバレイ3とを含めて摺動層6とされる。摺動層の表層へ固体潤滑剤を含有させて潤滑表層を形成する方法は、固体潤滑剤の粒子4を摺動層6の表面に衝突させるいわゆるショットピーニング技術を応用することが考えられる。このショットピーニングのために用いる固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、黒鉛、二硫化タングステン、h−窒化硼素、弗化黒鉛、三酸化モリブデンのうちの1種或は2種以上を用いることができる(請求項5)。
【0017】
この固体潤滑剤の粒子4のうちには、一つの粒子単体(一次粒子)からなる固体潤滑剤の粒子と、一次粒子が複数集合して構成された固体潤滑剤の粒子とが存在する。これらの固体潤滑剤の粒子4をすべり軸受の摺動層表面8に衝突させると、その摺動層6の表面部分に固体潤滑剤の粒子4が入りこんで潤滑表層5が形成される。この摺動層表面8への固体潤滑剤の粒子4の衝突時において、一次粒子が複数集合して構成された固体潤滑剤の粒子は、その衝突時の衝撃でつぶれて偏平になる。以下の説明において、特に一次粒子が複数集合して構成された固体潤滑剤の粒子(二次粒子)を言う場合には、これを固体潤滑剤集合粒子と言うこととする。固体潤滑剤集合粒子は、複数の一次粒子が分子間力程度の力で凝集しているため、一次粒子に比して強度が低い。そのため、固体潤滑剤集合粒子を投射しても、その投射された面は荒れない(粗い表面粗さの面にしない)。
【0018】
本発明では、この固体潤滑剤集合粒子が、図3(b)に示すように、潤滑表層5の表面に表面視野で20μm以上100μm未満の大きさで存在する。ここで、固体潤滑剤集合粒子の大きさは、その長辺の長さ(最大差し渡し長さ)で表す。勿論、一次粒子からなる固体潤滑剤の粒子4が潤滑表層5の表面に存在しても良い。
この20μm以上100μm未満の大きさの固体潤滑剤集合粒子が摺動層表面(潤滑表層表面)に存在することで、摩擦係数の低減が可能となる。相手軸との直接接触時に潤滑表層から、または固体潤滑剤集合粒子から固体潤滑剤が摺動層表面に供給されることにより、摩擦抵抗が低減される。固体潤滑剤集合粒子が20μm未満のもののみでは供給量が不足し、100μm以上では固体潤滑剤集合粒子自体が潤滑表層から剥離または脱落する場合がある。固体潤滑剤集合粒子の大きさは、20〜50μmが好ましい。この20μm以上100μm未満の大きさの固体潤滑剤集合粒子は、4.5mm2当たり5個以上400個未満存在(請求項3)すると、摩擦抵抗の減少に更に効果がある。好ましくは、30個以上200個以下である。
【0019】
前に述べたようにすべり軸受の表面は油膜を確保するために適度に摩耗する。内燃機関の寿命までの摩耗を考慮して固体潤滑効果を得ようとすると、固体潤滑剤を含む潤滑表層は軸受合金層の表面から深さ10μm以内とすることが好ましい(請求項2)。10μmを越えると、軸受合金層の強度低下を招き、油膜圧力により疲労に至る。より好ましくは5μm以内である。
【0020】
ショットピーニング時の摺動層への衝突によって、固体潤滑剤集合粒子は、つぶれて偏平になる。この固体潤滑剤集合粒子は、図3(a)に示すように、潤滑表層5内に完全に埋没している場合、一部が埋まって一部が潤滑表層5の表面から突出している場合などがある。厚さ方向の大きさTが例えば15μmで、一部が潤滑表層5に埋まっている場合、埋め込み深さ10μm、潤滑表層5の表面からの突出高さ5μmで構成される。厚さ方向の大きさが15μm以内の場合、埋め込み深さを10μm以内とし易いため、軸受合金の強度を維持しながら固体潤滑効果を得易く、また、突出高さを5μm以内とし易いため、粗さによる油膜破断を防止し易い。厚さが0.01μm以上の場合、潤滑表層5の表面への固体潤滑剤の供給性が向上し、更なる摩擦係数の低減を図ることができる。したがって、前記固体潤滑剤集合粒子における厚さ方向の大きさは0.01〜15μmが好ましい。より好ましくは、1〜10μmである。
【0021】
軸受合金層に潤滑表層を形成する場合、その軸受合金の硬さはビッカース硬さで160以下が好ましい。軸受合金層の硬さがビッカース硬さで160を越える場合、軸受合金層に固体潤滑剤を含有させるために、高いエネルギ(衝突速度や粉末質量)が必要となり、結果として表面にディンプルが生じたり、溶融によって表面粗さが粗くなったりすることがある。しかし、軸受合金層の硬さがビッカース硬さで40未満では、高速高出力化が望まれる内燃機関の軸受としては負荷に耐えることができない。よって、軸受合金層の硬さは、ビッカース硬さで40以上160未満が好ましい。
【0022】
オーバレイに潤滑表層を形成する場合には、オーバレイが軟らかいことから、固体潤滑剤の衝突エネルギを低くして表面にディンプルが生じないようにする。
軸受合金層に潤滑表層を形成するもの、オーバレイに潤滑表層を形成するもののいずれも、固体潤滑剤の微細粉末をショットピーニングするものでは、ショットピーニング条件によっては潤滑表層の表面にディンプルが生じて表面粗さが粗くなることがあり得る。その粗さは、最大高さRZで5μm以下であることが油膜破断防止の面で好ましい(請求項4)。摩擦係数や非焼付性に対しても好ましい。より好ましい表面粗さは3μm以下である。
【0023】
本発明では、潤滑表層表面に、固体潤滑剤からなる厚さ0.01〜10μmの表面被覆層を設けることができる(請求項7)。この表面被覆層は固体潤滑剤の衝突エネルギを小さくすることによって形成できる。衝突エネルギを小さくすれば、固体潤滑剤同士が分子間力で結合し、潤滑表層の表面に層となって付着する。
【0024】
表面被覆層は固体潤滑剤のみで構成されるため、更に自己潤滑性能を高めることができる。この表面被覆層の厚さが0.01μm未満の場合、軸受合金層の表面から深さ10μm以内に、固体潤滑剤に含まれる元素を5質量%以上含有した場合と同程度の効果である。また、表面被覆層の厚さが10μmを超えると、軸受合金層から剥離し易くなる。より好ましい表面被覆層の厚さは0.1〜5μmである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、具体的な実施例を参照して本発明を更に詳細に説明する。
(1)まず、すべり軸受の製造法について、アルミニウム基合金軸受、銅基合金軸受、オーバレイ付銅基合金軸受に分けて述べる。
【0026】
<アルミニウム基合金軸受>
通常の鋳造および圧延によって軸受合金層用のアルミニウム基軸受合金板を作り、裏金層を構成する低炭素鋼ストリップに重ね合わせてロール圧接し、軸受の素材となるバイメタルを製造する。そして、バイメタルを半円筒状に加工してすべり軸受を作製する。
【0027】
<銅基合金軸受>
裏金層を構成する低炭素鋼ストリップ上に銅基軸受合金粉末を散布し、高温で焼結し、バイメタルを製造する。そして、バイメタルを半円筒状に加工してすべり軸受を作製する。
【0028】
<オーバレイ付銅基合金軸受>
上記のように作製した銅基合金軸受の内面に電気メッキにより金属オーバレイを施す。
【0029】
(2)次に、潤滑表層を形成する方法を述べる。
潤滑表層は、上記のようにして作製したすべり軸受の摺動層表面に、固体潤滑剤を含有させて形成する。それには、作製したすべり軸受の摺動層表面に、大きさが0.5〜80μmの固体潤滑剤粉末を0.5〜1.0MPaの圧縮空気により投射し、固体潤滑剤を摺動層中に存在させる。
【0030】
この場合の投射粉末は、一次粒子と、一次粒子が多数集合して構成される粒子(固体潤滑剤集合粒子)からなる。一次粒子は0.5〜20μm、固体潤滑剤集合粒子は20〜80μmの大きさで、固体潤滑剤集合粒子は固体潤滑剤の粉末全体の70体積%以下が望ましい。より望ましくは5〜30体積%である。
なお、潤滑表層を形成した後、その表面に固体潤滑剤からなる表面被覆層を設けても良い。
【0031】
(3)以上の方法によって次の表1〜3に示す発明品試料と比較品試料を作製し、性能試験を実施した。表1は軸受合金層がAl−10Sn−3Si−1Cu(数字は含有量で、質量%で示す。以下、同じ。)からなるアルミニウム基合金軸受、表2は軸受合金層がCu−10Snからなる銅基合金軸受、表3は軸受合金層が表2と同一成分の銅基軸受合金にPb−9Sn−9Inからなるオーバレイを被着したオーバレイ付銅基合金軸受である。なお、表1〜3の試料はいずれも表面被覆層を設けていない。また、潤滑表層の固体潤滑剤に含まれる元素の濃度は、GDOES(グロー放電分光法)により測定した。性能試験は、起動摩擦係数測定試験、焼付試験、疲労試験を実施し、それぞれの試験条件を表4〜6に、それぞれの試験結果を図4〜図6に示した。起動摩擦係数測定試験は、固体潤滑剤を含有させない比較品11,15,18の摩擦係数を100として図示した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
(3−1)アルミニウム基合金軸受(表1)の試験結果について解説する。
<起動摩擦係数測定試験>
潤滑表層の固体潤滑剤に含まれる元素の最大濃度(固体潤滑剤元素最大濃度)が5質量%以上であって、固体潤滑剤集合粒子の長辺(固体潤滑剤粒子長辺)が20μm以上100μm未満である発明品1〜4は、いずれも、潤滑表層のない比較品11、固体潤滑剤を含む表層を有していても、固体潤滑剤元素最大濃度又は固体潤滑剤粒子長辺が本発明の範囲外である比較品12〜14に比して摩擦係数が低減されている。
【0039】
固体潤滑剤粒子の大きさに着目してみると、比較例品14は、固体潤滑剤元素最大濃度が5質量%以上あっても、固体潤滑剤粒子長辺が120μmと大形であるため、発明品1〜4ほどの摩擦係数低減効果が得られていない。これは、固体潤滑剤集合粒子が100μmを超えるような大形のものであると、早期に剥離してしまい、固体潤滑剤の摩擦係数低減効果を期待できなくなるからである。
【0040】
また、発明品1は、固体潤滑剤集合粒子の数(固体潤滑剤粒子数)が4.5mm2当たり15と比較的少ないが、それでも比較品12〜14に比べて、摩擦係数が低減されている。特に、固体潤滑剤粒子数が多い発明品2は、固体潤滑剤元素最大濃度が34.4質量%と多いこともあるが、発明品の中でも最も摩擦係数低減効果が高い。
【0041】
<焼付試験、疲労試験>
いずれの発明品1〜4も、比較品11〜14と同等以上の非焼付性、耐疲労性を示している。
固体潤滑剤元素最大濃度が5質量%以上であって、固体潤滑剤粒子長辺が20μm以上100μm未満で、その個数が5〜400個/4.5mm2の発明品2は、比較品11〜14に比べ非焼付性及び耐疲労性が向上している。これは、試験中の境界潤滑時に軸との摩擦抵抗を低減し、摺動層表面の温度上昇が抑制されたことによる。
発明品1〜4と比較品14とを比較すると、比較品14の耐疲労性は全試験結果中、最も低い結果となっている。これは、比較品14では、固体潤滑剤集合粒子が大形であることから、前述したように固体潤滑剤集合粒子の剥離発生により、摩擦係数の低減が図られず、また潤滑表層深さが大きいことにより、摺動層の強度低下を招いたことによる。
【0042】
(3−2)次に、銅基合金軸受(表2)の試験結果について解説する。
<起動摩擦係数測定試験>
いずれの発明品5〜7も、潤滑表層のない比較品15、固体潤滑剤を含む表層を有していても、固体潤滑剤元素最大濃度が本発明の範囲外である比較品16,17に比して摩擦係数が低減されている。
固体潤滑剤元素最大濃度が5質量%以上であって、固体潤滑剤粒子長辺が20μm以上100μm未満の摺動表層を有する発明品6は、固体潤滑剤元素最大濃度が他の発明品5,7に比して少ないが、固体潤滑剤集合粒子が長辺0.5μmと小形の比較品16、130μmと大形の比較品17に比べて、摩擦係数が低減されている。
【0043】
発明品5〜7と比較品17とを比較すると、固体潤滑剤元素最大濃度が5質量%未満であって、固体潤滑剤粒子長辺が100μmを超え、表面粗さがRzで5μmを超える比較品17は、表面粗さが粗いため、軸との直接接触が過度となり、摩擦抵抗が低減できず、且つ摺動中に固体潤滑剤集合粒子が剥離してしまい、発明品5〜7ほどの摩擦係数低減効果が得られていない。
【0044】
<焼付試験、疲労試験>
非焼付性については、いずれの発明品5〜7も、比較品15〜17に比して優れている。耐疲労性については、発明品5〜7は比較品15〜17に比して同等以上である。
特に、比較品17では、固体潤滑剤集合粒子が大形のため剥離してしまうので、非焼付性に劣ると共に、耐疲労性においても劣っている。
【0045】
(3−3)オーバレイ付銅基合金軸受(表3)の起動摩擦係数測定、焼付試験、疲労試験の試験結果については、いずれの発明品8〜10も、比較品18〜20に比して摩擦係数の低減効果が見られ、また、非焼付性、耐疲労性においても優れる。発明品8〜10は、銅基合金軸受の軸受合金層表面にオーバレイを付した軸受であるが、オーバレイを付すことによって、特に非焼付性に改善が見られる。
【0046】
(3−4)以上のように、本発明の実施の形態によれば、耐疲労性が向上し、摩擦係数が低く、非焼付性に優れた内燃機関用すべり軸受を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の摺動層(オーバレイ無し)の潤滑表層を概念的に示す断面図
【図2】本発明の摺動層(オーバレイ有り)の潤滑表層を概念的に示す断面図
【図3】潤滑表層中の固体潤滑剤粒子の埋め込み状態を示す概念図
【図4】アルミニウム基合金軸受の性能試験の結果を示すグラフ
【図5】銅基合金軸受の性能試験の結果を示すグラフ
【図6】オーバレイ付銅基合金軸受の性能試験の結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0048】
図面中、1は裏金層、2は軸受合金層、3はオーバレイ、4は固体潤滑剤の粒子、5は潤滑表層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用すべり軸受において、
摺動層に、固体潤滑剤が含有された潤滑表層を有し、
その潤滑表層は、固体潤滑剤に含まれる元素を最大濃度で5質量%以上含有し、
且つ前記潤滑表層の表面に、少なくとも一次粒子が複数集合して構成される固体潤滑剤の粒子であって潤滑表層の表面視野で長辺が20μm以上100μm未満の大きさである固体潤滑剤集合粒子が存在することを特徴とする内燃機関用すべり軸受。
【請求項2】
前記潤滑表層は、前記摺動層表面から深さ10μm以内に固体潤滑剤を含有して構成されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用すべり軸受。
【請求項3】
前記潤滑表層表面に存在する20μm以上100μm未満の固体潤滑剤集合粒子が、表面視野で4.5mm2当たり5個以上400個未満存在することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関用すべり軸受。
【請求項4】
前記潤滑表層の表面粗さが、最大高さ粗さRzで5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内燃機関用すべり軸受。
【請求項5】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、黒鉛、二硫化タングステン、h−窒化硼素、弗化黒鉛、三酸化モリブデンの1種以上からなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の内燃機関用すべり軸受。
【請求項6】
前記潤滑表層表面に存在する20μm以上100μm未満の固体潤滑剤集合粒子は、当該潤滑表層の厚さ方向の大きさが0.01〜15μmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の内燃機関用すべり軸受。
【請求項7】
前記潤滑表層表面上に、固体潤滑剤からなる厚さ0.01〜10μmの表面被覆層を設けたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の内燃機関用すべり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−46638(P2007−46638A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229473(P2005−229473)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】