内燃機関用のイオン電流検出処理装置
【課題】内燃機関の燃焼状態を解析するためのパラメータを平易且つ正確に算出し得る内燃機関用のイオン電流検出処理装置を提供する。
【解決手段】イオン電流演算ルーチンS10は、誘導性放電の終了直後に起動され、先ず、イオン電流検出信号Sinsの検出値をメモリ回路へ格納していく(S11)。その後、コンデンサCの放電電荷量Siの算出処理が実施される(S12)。その後、面積値Siから算出した放電電荷量に基づいて、漏洩電流測定時刻tnでのコンデンサの両端電圧Vnが算出される(S13)。更に後、先の処理の結果値に基づいて、燻ぶり抵抗R(leak)の算出処理が行われる(S14)。このように、燻ぶり抵抗R(leak)は、コンデンサの放電電荷量に基づいて演算されるので、其の値が正確な値となる。
【解決手段】イオン電流演算ルーチンS10は、誘導性放電の終了直後に起動され、先ず、イオン電流検出信号Sinsの検出値をメモリ回路へ格納していく(S11)。その後、コンデンサCの放電電荷量Siの算出処理が実施される(S12)。その後、面積値Siから算出した放電電荷量に基づいて、漏洩電流測定時刻tnでのコンデンサの両端電圧Vnが算出される(S13)。更に後、先の処理の結果値に基づいて、燻ぶり抵抗R(leak)の算出処理が行われる(S14)。このように、燻ぶり抵抗R(leak)は、コンデンサの放電電荷量に基づいて演算されるので、其の値が正確な値となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のイオン電流検出処理装置に関し、特に、内燃機関内の燃焼状態を解析する際に用いて好適のものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃焼状態(失火・燃焼判定,ノック判定,燻ぶり判定等)を、イオン電流に基づいて解析する技術が知られている。混合ガスの燃焼に応じて生じるイオン電流は、電離した雰囲気中を流れる電流として現われ、其の波形がECU(Engine Control Unit)でサンプリングされる。そして、ECUでは、イオン電流の波形に基づいて内燃機関の燃焼状態に係る情報を抽出し、当該情報により種々の解析を行なっている。
【0003】
ところが、点火プラグのプラグギャップ近傍では、内燃機関の不完全燃焼等によってカーボンCbが堆積し、当該プラグギャップ間の絶縁抵抗を低下させてしまう、所謂「燻ぶり」という現象を起こしてしまう。このため、ECUではギャップ間での漏洩電流を検出してしまうため燃焼状態の誤判定を生じてしまうとの問題が生じる。また、燻ぶり状態が進行すると、プラグギャップでの放電が行なわれずに失火してしまうとの問題が生じる。
【0004】
例えば、特開2003−083222号公報(特許文献1)では、燻ぶり抵抗(カーボン等によって形成される抵抗)を予め算出しておき、図14に示される等価回路に基づいて、漏洩電流iが次の式から求められている。
i=Vo/(Rn+Ro)・EXP{−t/Co・(Rn+Ro)},・・・A式
i:漏洩電流,
Vo:コンデンサの初期電圧(ツェナーダイオードによって設定される),
Ro:検出抵抗,
Rn:燻ぶり抵抗,
Co:コンデンサの電気容量,
t:時間,
この漏洩電流iは、サンプルしたイオン電流から漏洩電流の成分をキャンセルさせる際に用いられる。
【0005】
燻ぶり抵抗Rnについては、吸気工程近傍でサンプルされたイオン電流が漏洩電流を表しているところ、特許文献1では、吸気工程近傍の2点のイオン電流i1,i2をサンプルし、次の式を用いて燻ぶり抵抗Rnが求められている。
Rn=〔Δt/{Co・ln(i1/i2)}〕−Ro,・・・B式
Rn:燻ぶり抵抗,
Co:コンデンサの電気容量,
Ro:検出抵抗,
i1:第1の漏洩電流の検出値(時刻t1、吸気工程近傍),
i2:第2の漏洩電流の検出値(時刻t2、吸気工程近傍),
Δt:(i1の検出時刻t1)−(i2の検出時刻t2)
【0006】
上式Bの如く、特許文献1での燻ぶり抵抗Rnは、吸気工程近傍の2点のイオン電流i1,i2と、このサンプル間隔Δtと、検出抵抗Roに基づいて算出される。そして、当該燻ぶり抵抗Rnが算出されると、A式によって各時間における漏洩電流iが推測可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−083222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、対数関数・指数関数といった特殊関数を用いて演算処理を行う必要があるので、演算結果の精度を向上させる為には、CPU等の演算処理に用いられる回路構成に負担を与え、処理速度の低下を招くとの問題が生じる。また、演算処理装置に高性能DSPを搭載させて演算処理の高速化を図ることも考えられるが、当該DSPの導入に伴ってコストの高騰を招いてしまう。
【0009】
また、特許文献1に示される燻ぶり抵抗Rnは、検出抵抗Roが正確に把握されていないと漏洩電流iの算出結果に誤差が生じる。ところが、検出抵抗Roは各素子によって公証値に対する若干の誤差が生じていること、実際のイオン電流の検出回路では検出抵抗Roの他に種々の抵抗・インピーダンスが含まれ設計誤差が生じてしまうこと等から、B式の方法では、燻ぶり抵抗Rnの算出結果が不正確な値となる事態が起こり得る。
【0010】
このことは、A式についても同様であり、検出抵抗及び周辺の抵抗値等を正確に把握できない性質上、A式で算出される漏洩電流の算出結果にも無視できない誤差が含まれてしまうことが起こり得る。従って、燃焼直後に検出したイオン電流からA式を用いて漏洩電流をキャンセルさせる処理を行うと、其の結果値(イオン電流の真値)についても誤差が含まれてしまうため、イオン電流に基づいて行なわれる燃焼状態の解析精度が低下してしまうとの問題が生じる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、内燃機関の燃焼状態を解析するためのパラメータを平易且つ正確に算出し得る内燃機関用のイオン電流検出処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では次のような内燃機関用のイオン電流検出処理装置の構成とする。即ち、一次コイル及び二次コイルによって高電圧を生成するものであって内燃機関の点火プラグへ前記高電圧を印加させる点火コイルと、前記一次コイルの通電を断続制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子へ点火信号を与えて当該スイッチング素子を制御させる制御装置と、コンデンサへチャージされた電荷の放電によって前記点火プラグでイオン電流を生じさせ且つ前記イオン電流に比例するイオン電流検出信号を出力させるイオン電流検出回路とを備え、
前記制御装置は、前記イオン電流が流れ始めてから吸気工程又は圧縮工程の漏洩電流測定時刻に至るまでの所定期間について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、前記所定期間における前記コンデンサの放電電荷量に基づいて前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値及び前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧に基づいて前記点火プラグの燻ぶり抵抗を算出する処理と、を機能させることとする。
【0013】
好ましくは、前記漏洩電流検出時刻における前記コンデンサの両端電圧をVnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
前記コンデンサの両端電圧Vnは、Vn={C・Vz−(ΣIc)・dt}/C,によって算出されることとする。
【0014】
好ましくは、前記燻ぶり抵抗をR(leak)とし、前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値をIcnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
当該燻ぶり抵抗R(leak)は、R(leak)={C・Vz−(ΣIc)・dt}/(C・Icn),によって算出されることとする。
【0015】
好ましくは、前記制御装置は、従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗を読み出す処理と、前記所定期間の各時刻について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、前記イオン電流検出信号の各々のサンプル値に対応させて前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、前記イオン電流検出信号の所定時刻のサンプル値と、当該サンプル値に対応する前記コンデンサの両端電圧と、前記従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗の読み出し値とに基づいて、点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせる処理と、を機能させることとする。
【0016】
好ましくは、点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせた値を真イオン電流値Iiとし、前記所定時刻における前記イオン電流検出信号のサンプル値をIcとし、前記燻ぶり抵抗をR(leak)とすると、
当該真イオン電流値Iiは、Ii=Ic−{Vc/R(leak)},によって算出されることとする。
【0017】
好ましくは、前記制御装置は、前記真イオン電流値Iiに基づいて、内燃機関の燃焼状態を解析する為の他のパラメータを算出することとし、具体的には、前記パラメータは、当該パラメータをP1とすると、P1=Ii/Vc,または、前記パラメータをP2とすると、P2=Vc/Ii,によって算出されることとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る内燃機関用のイオン電流検出処理装置によると、対数関数・指数関数といった特殊関数を用いずに解析用の各種パラメータを算出できるので、ECU等の制御装置における演算処理の負担が軽減される。
【0019】
また、当該イオン電流検出処理装置は、コンデンサの放電電荷量に基づいて「燻ぶり抵抗」を算出させることとなる。このため、イオン電流検出回路内の抵抗因子(検出抵抗の値・その他の抵抗値・インピーダンス値)について公証値上の誤差・設計上の誤差が生じても、これらの抵抗因子を含めて「燻ぶり抵抗」が算出されることとなり、当該「燻ぶり抵抗」の算出結果は、精度の高い値を示すこととなる。
【0020】
更に、当該イオン電流検出処理装置によると、「燻ぶり抵抗」に基づいて解析用のパラメータ(真イオン電流値,パラメータP1,パラメータP2)を算出処理させているので、これらのパラメータについても正確な値が得られることとなり、燃焼状態の解析精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係るイオン電流検出処理装置の構成を示す図。
【図2】点火プラグと其の電極部を示す図。
【図3】イオン電流発生時における点火プラグ周辺の等価回路。
【図4】点火信号,二次電圧,イオン電流,及び,イオン電流のサンプリング期間のタイミングチャート。
【図5】実施の形態に係る燻ぶり抵抗の演算プログラムを説明するフローチャート。
【図6】実施の形態に係るイオン電流検出信号のサンプル値を示す図。
【図7】実施例1に係る真イオン電流値の演算プログラムを説明するフローチャート。
【図8】実施例1で逐次算出される物理量を示す図。
【図9】イオン電流検出信号のサンプル値と真イオン電流の算出値とを比較する図(燃焼時)。
【図10】イオン電流検出信号のサンプル値と真イオン電流の算出値とを比較する図(失火時)。
【図11】実施例2に係る解析用パラメータの演算プログラムを説明するフローチャート。
【図12】真イオン電流の波形を示す図。
【図13】パラメータP1の波形を示す図。
【図14】特許文献1に係る点火プラグ周辺の等価回路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。図1に示す如く、内燃機関用のイオン電流検出処理装置100(以下、単にイオン電流検出処理装置と呼ぶ)は、制御装置ECUとパワートランジスタTrと点火コイルCLとイオン電流検出回路INSと点火プラグPGとから構成される。
【0023】
制御装置ECU(Engine Control Unit)は、内燃機関で駆動する自動車(ハイブリッド車をも含む)に搭載されており、当該装置は、CPU,メモリ回路,クロック回路,通信回路,及びAD変換回等の情報処理装置を構成している。そして、入力された各種情報に基づいて点火信号SG、その他、インジェクション用の制御信号、スロットル開度制御用の信号等を出力させる。特に、本実施の形態に係る制御装置ECUは、燻ぶり抵抗を算出するプログラム,真イオン電流(燃焼状態を解析する為のパラメータの一形態)を算出するプログラム,他のパラメータを算出するプログラム,検出したイオン電流のサンプル値,前記プログラムによって算出された燻ぶり抵抗値等をメモリ回路へ格納しておき、必要に応じてこれらのプログラムを起動させ、また、これらの情報を適宜に用いて「内燃機関の燃焼状態に係る解析」を実施する。
【0024】
スイッチング素子Trは、IGBT又はMOSFET等のパワートランジスタであって、制御信号ECUから送られる点火信号SGによって制御され、後述する点火コイルの一次側の電流を断続制御させる。
【0025】
点火コイルCLは、一次コイルL1,二次コイルL2,及び珪素鋼板から成る鉄心を備え、磁束変動に応じて二次電圧を発生させるトランスを形成している。当該点火コイルは、一次コイルL1の一端にバッテリ電圧(+12V〜+24V)が印加され、他端はスイッチング素子Trに接続されている。一方、二次コイルL2は、一端が点火プラグPGに接続され、他端がイオン電流検出回路INSに接続されている。
【0026】
点火プラグPGは、図2(a)に示す如く、中心電極25に電気的に接続されている入力端子21が設けられており、当該入力端子21の周囲に碍子22(絶縁体)が形成されている。また、碍子22の外周には雄ネジタップ24,外側電極26等を一体的の形成させた電気導電性のシェル23が形成され、当該シェル23は、内燃機関のプラグホール内に固定され、且つ、内燃機関と同電位、即ち、グランド電位に一致している。
【0027】
イオン電流検出処理装置100は、制御装置ECUから点火信号SGが出力されると、トランジスタTrが駆動され、一次コイルL1の通電が断続的に制御される。このとき、二次コイルL2では、鉄心の磁束変化を受けて負の高電圧(−数百kV)を点火プラグPGの入力端子21へ印加させ、プラグギャップにて放電を生じさせる。
【0028】
イオン電流検出回路INSは、図1に示の如く、コンデンサC,ツェナーダイオードZD,ダイオードD1,D2,抵抗R1〜R3(R2については検出抵抗と呼ぶ),オペアンプAMPから構成される。この主構成要素について説明すると、ツェナーダイオードZD及びコンデンサCは、並列回路を形成し、その一端が二次コイルL2に接続され、他端がダイオードD1のアノード側に接続されている。
【0029】
コンデンサCとツェナーダイオードZDのアノード側の接点は、抵抗R1を介して、オペアンプの反転入力端子(−)へ接続されている。当該オペアンプAMPは、更に、反転入力端子(−)と出力端子との間に検出抵抗R2が接続され、出力端子が抵抗R3を介してグランドへ接続され、非反転入力端子(+)がグランド電位とされている。
【0030】
点火コイルの印加電圧によって点火プラグPGの放電が生じる場合、図示の如く、点火プラグPG→二次コイルL2→コンデンサC→ダイオードD1→グランド,の経路で放電電流Icombが流れる。このとき、放電電流Icombは、コンデンサCの両端電圧Vcがツェナー電圧Vzに到達した時点で、点火プラグPG→二次コイルL2→ツェナーダイオードZD→ダイオードD1→グランド,の経路を辿る。
【0031】
一方、コンデンサCの両端電圧Vcによって点火プラグPGの放電が生じる場合、コンデンサC→二次コイルL2→点火プラグPG,の経路でイオン電流Icが流れる。図3は、かかる場合の等価回路が示されている。図示の如く、イオン電流Icの値は、コンデンサCの放電電荷量に応じて定まる値であって、且つ、点火プラグの絶縁抵抗R,抵抗R1及び検出抵抗R2に影響される。
【0032】
このように、イオン電流Icが生じる場合、オペアンプAMPの出力端子からイオン電流Icに比例する信号、即ち、イオン電流検出信号Sinsを出力させ、制御装置ECUでは、当該信号Sinsを受信して適宜に処理を行う。
【0033】
図2(b)は、絶縁抵抗Rの構造が示されている。当該絶縁抵抗Rは、プラグギャップに生じるイオン抵抗Riと、漏洩電流の原因となる燻ぶり抵抗R(leak)とから成る。このうち、イオン抵抗Riは、燃焼ガスを構成する分子の電離状態に応じて変動するものであって、当該燃焼ガスの圧力状態によっても変動する。そのため、イオン抵抗Riは、燃焼サイクル(圧縮工程→膨張行程→排気工程→吸気工程)に応じて時々刻々と変動する。一方、燻ぶり抵抗R(leak)は、カーボン等の堆積状態に応じてその抵抗値を変動させるものであって、1サイクル程度の時間間隔では大きく変動するものではない。これらの抵抗は、両者とも絶縁抵抗Rを構成するものであって、本実施の形態にあっては、イオン抵抗Ri及び燻ぶり抵抗R(leak)が、図3に示す如く並列接続されているものと見做している。
【0034】
図4は、内燃機関の動作を現すタイムチャートが示されている。図示の如く、本実施の形態に係る内燃機関は、4サイクルエンジンが採用されており、圧縮工程→膨張行程→排気工程→吸気工程という燃焼サイクルを繰り返す。
【0035】
点火信号SGは、圧縮工程毎に制御装置ECUからパルスが発せられ、二次電圧V2では、点火信号SGの立下りエッジに対応して負の高電圧(−数百kV)を発生させる。イオン電流検出回路INSでは、点火プラグPGの放電動作に応じてコンデンサCに電荷がチャージされる。其の電荷の初期値Qzは、Qz=C・Vz,で表される。
【0036】
点火プラグPGの放電収束際、コンデンサCでは、短期的な誘導性の放電(放電ノイズ)が現われ、その後、電荷の放電(容量性放電)が開始する。この容量性放電は、一般に膨張行程から排気工程に亘って現われ、イオン電流を形成させる。イオン電流Icは、イオン電流検出回路INSによってイオン電流検出信号Sinsへと変換され、制御装置ECUへ出力される。
【0037】
このとき、制御装置ECUは、イオン電流検出信号Sinsを所定期間WinについてAD変換するようにマスク処理させ(図4d参照)、これにより、燃焼開始直後からイオン電流が収束する迄の検出値をメモリ回路へ格納(サンプリング)し、これにより、イオン電流Icの波形が保持されることとなる。
【0038】
所定期間Winの開始点は、誘導性放電(放電ノイズ)が現われる区間を推定し、其の区間が終了する時点に一致させると良い。かかる技術は、特開2002−188552号公報,特開2009−115023等で紹介されており、イオン電流の検出を開始する時刻を特定する際に有用である。所定期間Winの開始点は、図示の如く、膨張行程の前段に設定されるものであって、本実施の形態では、この開始点を放電開始時刻と呼ぶこととする。
【0039】
また、所定期間Winの終点は、イオン電流Icの波形が収束した後のタイミングに設けられるのが好ましい。この終点は、一般に吸気工程または圧縮工程の適宜の位置に設定されるものであって、以後、漏洩電流測定時刻と呼ぶこととする。
【0040】
図5は、制御装置ECUで実施される燻ぶり抵抗算出ルーチンが示されている。当該ルーチンS10は、誘導性放電の終了直後に起動され、先ず、イオン電流検出信号Sinsの検出値をメモリ回路へ格納していく(S11)。処理S11では、ADタイミング毎にイオン電流の記録(サンプリング)が順次行なわれ、漏洩電流測定時刻tnに到達すると、現燃焼サイクルにおける検出値の格納処理S11が完了する(図6a参照)。
【0041】
その後、コンデンサCの放電電荷量Siの算出処理が実施される(S12)。ここでの処理S12は、イオン電流検出信号SinsのADタイミングt1〜tn迄の面積値Siが算出される(図6b参照)。イオン電流Icは、Ic=dQ/dt(dQ:単位時間dtにおけるコンデンサの放電電荷量)とされるところ、イオン電流Icと時間軸とで囲まれる面積値Siは、ADタイミングt1〜tnに至るまでのコンデンサの放電電荷量を示す。尚、ADタイミングt1では、放電開始時刻であって、コンデンサの電荷量が初期放電電荷量Qzに一致する。
【0042】
この演算処理では、ADタイミングt1〜tnまでのイオン電流検出信号Sinsの総和をΣIcとし、ADタイミングの時間間隔(数μsec程度)をdtとすると、面積値Siは、Si=(ΣIc)・dt,によって算出するのが好ましい。前処理S11にてADタイミングt1〜tnまでのイオン電流検出信号Sinsが記録されているので、検出値Sinsの総和ΣIcを先に求めてから、ADタイミングの時間間隔dtを乗算させることで、Si=(Ic1・dt+Ic2・dt+・・・+Icn・dt),といった煩雑な演算を行なわずに済む。
【0043】
処理S12が終了すると、処理S13では、面積値Siによって算出された放電電荷量に基づいて、漏洩電流測定時刻tnでのコンデンサの両端電圧Vnが算出される(S13)。
【0044】
具体的に説明すると、任意の時刻tにおけるコンデンサの両端電圧Vcは、
Vc={Qz−Si(t)}/C,・・・C式
Qz:イオン電流が流れ始める直前のコンデンサの電荷量(C・Vz)
Si(t):放電開始時刻t1を起算点とする任意の時間的区間での放電電荷量
(Vz:ツェナー電圧)
によって算出される。
【0045】
C式を参照すると、コンデンサの両端電圧Vcは、検出時刻tが進むにつれて極板間の電荷が放電され、当該電圧が減少することが解る(図6c参照)。また、この両端電圧Vcは、初期電荷量Qzと放電電荷量Si(t)とに基づいて算出されるので、イオン電流検出回路の抵抗因子に関わり無く、正確な値が算出される。
【0046】
ここで、検出時刻tが漏洩電流測定時刻tnであるとし、その時刻でのコンデンサの両端電圧をVnとすると、
この両端電圧Vnは、
Vn={C・Vz−(ΣIc)・dt}/C,・・・D式
C:コンデンサの電気容量
Vz:ツェナー電圧
ΣIc:時刻tnにおけるイオン電流検出値Sinsの積算値
dt:ADタイミングの時間間隔
によって算出されることとなる。
【0047】
かかる如く算出された両端電圧Vnは、漏洩電流測定時刻tnがイオン電流の収束以後に設定されているので、漏洩電流が流れる際の印加電圧に相当する。この両端電圧Vnは、イオン電流検出回路の抵抗因子に関わり無く、正確な値として算出される。
【0048】
処理S13が終了すると、燻ぶり抵抗R(leak)の算出処理が行われる(S14)。処理S14では、イオン電流検出信号Sinsのうち漏洩電流測定時刻tnにおけるサンプル値Icnと、漏洩電流測定時刻tnにおけるコンデンサの両端電圧Vn(処理13での結果値)とに基づいて、燻ぶり抵抗R(leak)が算出される。
【0049】
具体的に説明すると、燻ぶり抵抗R(leak)は、
R(leak)=Vn/Icn,・・・E式
によって算出される。
【0050】
上述の如く、本実施の形態に係る内燃機関用のイオン電流検出処理装置によると、燻ぶり抵抗R(leak)は、対数関数・指数関数といった特殊関数を用いずに算出されるので、ECU等の制御装置における演算処理の負担が軽減される。
【0051】
また、当該イオン電流検出処理装置は、コンデンサの放電電荷量に基づいて「燻ぶり抵抗」を算出させることとなる。このため、イオン電流検出回路内の抵抗因子(検出抵抗の値・その他の抵抗値・インピーダンス値)について公証値上の誤差・設計上の誤差が生じても、これらの抵抗因子を含めて「燻ぶり抵抗」が算出されることとなり、当該「燻ぶり抵抗」の算出結果は、精度の高い値を示すこととなる。
【0052】
特に、漏洩電流測定時刻tnにおける燻ぶり抵抗R(leak)は、イオン電流検出回路内の抵抗因子を含む値として正確な値を示すこととなる。
【0053】
これに対し、特許文献1で紹介されている燻ぶり抵抗Rn(B式)にあっては、点火プラグにおける燻ぶり抵抗そのものを算出する式とされるので、他の抵抗成分等を誤差なく把握していなければ、式Bにおける燻ぶり抵抗は、正確な値として算出されることはない。また、このようなイオン電流検出回路内の抵抗因子は、誤差なく完全に把握することが困難なものである。即ち、特許文献1に係る燻ぶり抵抗Rn(B式)では、イオン電流検出回路内の抵抗因子について公証値に対する誤差・その他の設計上の誤差が計上されてしまうと、当該燻ぶり抵抗Rn(B式)が正確に算出されることはない。その意味においても、本実施の形態に係る燻ぶり抵抗(E式)は、正確な値を示していることが理解できる。
【実施例1】
【0054】
以下、上述した燻ぶり抵抗R(leak)を用いたイオン電流の演算処理について説明する。本実施例に係るイオン電流演算ルーチンS20は、イオン電流のサンプリングが行われる期間WinのADタイミングに対応して逐次起動される。先ず、放電開始時刻t1が到来すると、図7に示す如く、従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗R(leak)の結果値を読み出す(処理S21)。このとき、燻ぶり抵抗R(leak)は、直前の燃焼サイクルの結果値であっても良く、数サイクル前の結果値が用いられても良いが、当該燻ぶり抵抗の結果値と実際の燻ぶり抵抗とに大きな差異が生じないことを条件とする。
【0055】
イオン電流検出処理装置100は、処理21が終了すると、時刻t1でのイオン電流検出信号Ic1をサンプリングする(図8a−Ic参照)。その後、時刻t1における処理23では、コンデンサでの初期電荷量Qzが算出保持され、具体的には、Qz=C・Vz,によって算出される。
【0056】
次に、処理24では、イオン電流検出信号のサンプル値Icに対応させて、其の時刻t1におけるコンデンサの両端電圧Vcを算出させる(図8a−Vc参照)。処理24では、検出時刻t1が放電開始時刻であるので、Vc=Vz(ツェナー電圧),となるように設定される。
【0057】
その後、処理25では、イオン電流検出信号のサンプル値Ic1,当該サンプル値Ic1に対応するコンデンサの両端電圧Vc,現ルーチンS20における燻ぶり抵抗R(leak)の結果値,に基づいて、サンプル値Icから漏洩電流をキャンセルさせる(以下、このキャンセルされた値を真イオン電流値Iiと呼ぶ)。具体的に説明すると、真イオン電流値Ii1は、
Ii=Ic−{Vc/R(leak)},・・・F式
によって算出され、Ii1=Ic1−{Vz/R(leak)},を得る。但し、放電電流が流れる直前の燻ぶり抵抗R(leak)は、R(leak)=∞,とされるので、真イオン電流値Ii1は零となる(図8a−Ii参照)。
【0058】
かかる後、真イオン電流値Ii1がメモリ回路へ格納される(S26)。そして、処理10では、時刻tnでの処理S22〜S26が完了した後に機能するように設定されているため、現時刻t1におけるルーチン20では、燻ぶり抵抗R(leak)の更新処理は実施されない。即ち、時刻t1〜tnについては、同値の燻ぶり抵抗R(leak)が用いられることとなる。
【0059】
かかる処理が完了すると、時刻t1に対応するルーチンS20がスリープし、当該ルーチンS20は、次の起動時刻t2を待つ。そして、時刻t2が到来すると、時刻t2に対応するルーチンS20が起動し、先と同値の燻ぶり抵抗R(leak)の結果値を呼び出し(S21)、イオン電流検出信号のサンプル値Ic2を取得する(S22/図8b−Ic参照)。
【0060】
その後、処理23では、時刻t1から時刻t2に至るまでにコンデンサから放電した放電電荷量ΔQ2を算出する。
具体的に説明すると、時刻t2で算出される放電電荷量ΔQ2は、
ΔQ=Ic・dt,・・・G式
dt:ADタイミングの時間間隔
を用いて、ΔQ2=Ic2・dt,と算出される。
【0061】
また、処理23では、時刻t2においてコンデンサで蓄積されている電荷量Q2を算出させる。
コンデンサに蓄積されている電荷量Qcは、
Qc=Qz−ΔQ,・・・H式
によって算出されるところ、時刻t2における電荷量Qc2は、Qc2=Qz−Ic2・dt,と算出される。
【0062】
その後、処理24では、コンデンサの両端電圧Vc2(時刻t2)がC式に基づいて算出され、Vc2={C・Vz−(Ic2・dt)}/C,を得る(図8b−Vc参照)。かかる両端電圧Vcは、時刻t1からt2に至るまでの放電電荷量に応じて減少している。
【0063】
更に後、処理25では、時刻t2での真イオン電流Ii2がF式に基づいて算出され、Ii2=Ic2−{Vc2/R(leak)},を得る(図8b−Ii参照)。ここで、コンデンサの両端電圧Vc2は、時刻t2において正確な値を現している。また、燻ぶり抵抗R(leak)は、数サイクル前の値が用いられるので、カーボンCbの堆積状態に大きな変動が無ければ、その値も正確な値とされる。特に、燻ぶり抵抗R(leak)は、直前の燃焼サイクルでの結果値が用いられることにより、より正確な値とされることが期待できる。従って、これらの正確な値により算出される真イオン電流の値Ii2についても同様に正確な値とされ、この値Ii2がメモリ回路に保持されることとなる。
【0064】
即ち、本実施例に係る演算処理では、特許文献1のように検出抵抗等を正確に把握せずとも、実施の形態で算出された燻ぶり抵抗R(leak)を用いることにより、真イオン電流Iiを演算誤差の少ない値として算出することが可能となる。
【0065】
そして、処理26が終了すると、時刻t2である場合には、燻ぶり抵抗の値を更新させる処理10を実施せず、次の時刻t3の待機状態に入る。このように、時刻の経過に応じてルーチン20が起動され、各時刻における放電電荷量ΔQ,コンデンサに蓄積されている電荷量,コンデンサの両端電圧Vc,真イオン電流Ii,等が逐次算出されてゆく(図8c及び図8d参照)。そして、漏電電流測定時刻tnに対応するルーチンS20が終了すると、燻ぶり抵抗R(leak)の更新処理を行い(実施の形態を参照)、現燃焼サイクル終了時点で取得されたイオン電流等の情報に基づいて、同サイクルにおける新たな燻ぶり抵抗を算出させる(S10)。そして、かかる処理10が終了すると、燃焼サイクルの進行に応じて、ルーチン20を適宜起動させる。
【0066】
図9(a)は、所定の条件で燃焼された場合のイオン電流のサンプル値が示され、図9(b)は、これと同条件下での真イオン電流Iiの結果値が示されている。双方の波形を比較すると、区間Bに示されるように、真イオン電流Iiでは、漏洩電流によって検出されていた不要な波形がキャンセルされている様子を確認できる。また、区間Aに示されるように、真イオン電流Iiに現われる曲線波形部は、この部分についても漏洩電流の値が好適にキャンセルされ、実際のイオン電流に近い波形が現れている様子を確認できる。
【0067】
また、図10(a)は、所定の条件で失火した場合のイオン電流のサンプル値が示され、図9(b)は、これと同条件下での真イオン電流Iiの結果値が示されている。双方の波形を比較すると、真イオン電流Iiでは、全時刻t1〜t2を通じて漏洩電流がキャンセルされている様子を確認できる。
【0068】
上述の如く、本実施例に係るイオン電流検出処理装置100によると、正確に算出された「燻ぶり抵抗」に基づいて真イオン電流値(燃焼状態の解析を行なうパラメータの一形態)を算出処理させているので、この真イオン電流値についても正確な値が得られることとなる。従って、イオン電流検出処理装置100では、誤診断・誤判定されることなく、燃焼状態の解析が好適に実施される。
【実施例2】
【0069】
本実施例に係るイオン電流演算ルーチンS30は、図11に示す如く、真イオン電流Iiを記憶させる処理S26が省略され、その代わりに、イオン抵抗Riの算出処理S31と、当該イオン抵抗Riの記憶処理S32とが新たに追加されている。尚、本実施例にあっては、実施の形態・実施例1にて既に説明された重複部分(処理、構成)について同一符号を付し、当該重複部分に係る説明を省略するものとする。
【0070】
本実施例に係るイオン電流演算ルーチンS30は、ADタイミング毎に起動されるものであって、所定のADタイミングに対応させて真イオン電流Iiを逐次算出させてゆく(S21〜S25)。
【0071】
その後、処理31では、イオン抵抗の逆数に係るパラメータP1を算出する。
当該パラメータP1は、対応する時刻(t1〜tn)について、
P1=Ii/Vc,・・・I式
によって算出される。
【0072】
真イオン電流Iiは、燃焼状態に影響される他、F式から明らかなように、コンデンサの両端電圧vcの減衰にも影響されてしまう。従って、本実施例に係るルーチン30は、このような真イオン電流の波形成分を除去するために改案されたものである。具体的に説明すると、処理31で算出されるパラメータP1は、真イオン電流Iiから同時刻におけるコンデンサの両端電圧Vcを除算させることで、両端電圧Vcの減衰に係る成分を相殺させている。
【0073】
図12は、真イオン電流Iiの演算結果が、燃焼時(上段)及び失火時(下段)について各々示されている。また、本実験に係る条件は以下の通りである。
条件;
内燃機関の回転数:1600(rpm)
点火プラグの絶縁抵抗1:1(MΩ)
点火プラグの絶縁抵抗2:10(MΩ)
点火プラグの絶縁抵抗3:100(MΩ)
(各々の絶縁抵抗は、燻ぶり状態の程度を現しており、一般に100MΩ以上で正常状態とされている。)
【0074】
一方、図13は、イオン抵抗の逆数に係るパラメータP1の演算結果が、燃焼時(上段)及び失火時(下段)について各々示されている。また、本実験に係る条件は、上述実験と同じである。
【0075】
先ず、図12における各々の波形を観察すると、放電電荷に起因して生じる減衰波形は、絶縁抵抗が小さいほど顕著となるのが確認できる。このため、絶縁抵抗が10MΩまたは100MΩの場合の波形(真イオン電流)は、燃焼波形が現われているのか否かの区別が困難となり、例えば失火・燃焼判定を行なう解析処理において、其の判定精度が低下する惧れがある。
【0076】
これに対し、図13における各々の波形を観察すると、絶縁抵抗100MΩ,10MΩにあっては、略一定値を示している。また、絶縁抵抗1MΩにあっても、減衰状態の波形が幾分認められるものの、其の程度はイオン電流値の波形と比較して格段に解消されている。このため、本実施例に係るパラメータP1は、閾値を設定することで燃焼波形が現われているか否かの判断が容易に行われる為、失火・燃焼判定等の解析処理の精度が向上する。
【0077】
このように、本実施例に係るイオン電流検出処理装置100によると、解析用のパラメータP2は、燃焼波形以外の領域では不要な波形が重畳されなくなるので、制御装置ECUでは、このパラメータP2を用いることにより、燃焼状態の解析が更に正確に行なわれることとなる。例えば、当該パラメータP2は、燃焼波形以外の領域が一定値とされるので、燃焼波形が現われているか否かの判別が容易となる。また、当該パラメータの示す一定値は、堆積物により形成される燻ぶり抵抗を示すものであり、その値によって燻ぶり状態を把握することが可能となる。
【0078】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記された技術的思想の範囲内において、種々の変更が可能である。例えば、実施例2では、解析用のパラメータがイオン抵抗の逆数として算出されているが、これに限定することなく、イオン抵抗に係る波形を解析用のパラメータとして用いることも可能である。この場合、失火燃焼等の解析に用いられる閾値のディメンションをイオン抵抗に合わせるといった変更を加えれば、実施例2と同様の解析結果が得られることとなる。
【符号の説明】
【0079】
100 内燃機関用のイオン電流検出処理装置
CL 点火コイル
PG 点火プラグ
Tr スイッチング素子
ECU 制御装置
SG 点火信号
C コンデンサ
Sins イオン電流検出信号
INS イオン電流検出回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のイオン電流検出処理装置に関し、特に、内燃機関内の燃焼状態を解析する際に用いて好適のものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の燃焼状態(失火・燃焼判定,ノック判定,燻ぶり判定等)を、イオン電流に基づいて解析する技術が知られている。混合ガスの燃焼に応じて生じるイオン電流は、電離した雰囲気中を流れる電流として現われ、其の波形がECU(Engine Control Unit)でサンプリングされる。そして、ECUでは、イオン電流の波形に基づいて内燃機関の燃焼状態に係る情報を抽出し、当該情報により種々の解析を行なっている。
【0003】
ところが、点火プラグのプラグギャップ近傍では、内燃機関の不完全燃焼等によってカーボンCbが堆積し、当該プラグギャップ間の絶縁抵抗を低下させてしまう、所謂「燻ぶり」という現象を起こしてしまう。このため、ECUではギャップ間での漏洩電流を検出してしまうため燃焼状態の誤判定を生じてしまうとの問題が生じる。また、燻ぶり状態が進行すると、プラグギャップでの放電が行なわれずに失火してしまうとの問題が生じる。
【0004】
例えば、特開2003−083222号公報(特許文献1)では、燻ぶり抵抗(カーボン等によって形成される抵抗)を予め算出しておき、図14に示される等価回路に基づいて、漏洩電流iが次の式から求められている。
i=Vo/(Rn+Ro)・EXP{−t/Co・(Rn+Ro)},・・・A式
i:漏洩電流,
Vo:コンデンサの初期電圧(ツェナーダイオードによって設定される),
Ro:検出抵抗,
Rn:燻ぶり抵抗,
Co:コンデンサの電気容量,
t:時間,
この漏洩電流iは、サンプルしたイオン電流から漏洩電流の成分をキャンセルさせる際に用いられる。
【0005】
燻ぶり抵抗Rnについては、吸気工程近傍でサンプルされたイオン電流が漏洩電流を表しているところ、特許文献1では、吸気工程近傍の2点のイオン電流i1,i2をサンプルし、次の式を用いて燻ぶり抵抗Rnが求められている。
Rn=〔Δt/{Co・ln(i1/i2)}〕−Ro,・・・B式
Rn:燻ぶり抵抗,
Co:コンデンサの電気容量,
Ro:検出抵抗,
i1:第1の漏洩電流の検出値(時刻t1、吸気工程近傍),
i2:第2の漏洩電流の検出値(時刻t2、吸気工程近傍),
Δt:(i1の検出時刻t1)−(i2の検出時刻t2)
【0006】
上式Bの如く、特許文献1での燻ぶり抵抗Rnは、吸気工程近傍の2点のイオン電流i1,i2と、このサンプル間隔Δtと、検出抵抗Roに基づいて算出される。そして、当該燻ぶり抵抗Rnが算出されると、A式によって各時間における漏洩電流iが推測可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−083222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、対数関数・指数関数といった特殊関数を用いて演算処理を行う必要があるので、演算結果の精度を向上させる為には、CPU等の演算処理に用いられる回路構成に負担を与え、処理速度の低下を招くとの問題が生じる。また、演算処理装置に高性能DSPを搭載させて演算処理の高速化を図ることも考えられるが、当該DSPの導入に伴ってコストの高騰を招いてしまう。
【0009】
また、特許文献1に示される燻ぶり抵抗Rnは、検出抵抗Roが正確に把握されていないと漏洩電流iの算出結果に誤差が生じる。ところが、検出抵抗Roは各素子によって公証値に対する若干の誤差が生じていること、実際のイオン電流の検出回路では検出抵抗Roの他に種々の抵抗・インピーダンスが含まれ設計誤差が生じてしまうこと等から、B式の方法では、燻ぶり抵抗Rnの算出結果が不正確な値となる事態が起こり得る。
【0010】
このことは、A式についても同様であり、検出抵抗及び周辺の抵抗値等を正確に把握できない性質上、A式で算出される漏洩電流の算出結果にも無視できない誤差が含まれてしまうことが起こり得る。従って、燃焼直後に検出したイオン電流からA式を用いて漏洩電流をキャンセルさせる処理を行うと、其の結果値(イオン電流の真値)についても誤差が含まれてしまうため、イオン電流に基づいて行なわれる燃焼状態の解析精度が低下してしまうとの問題が生じる。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、内燃機関の燃焼状態を解析するためのパラメータを平易且つ正確に算出し得る内燃機関用のイオン電流検出処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では次のような内燃機関用のイオン電流検出処理装置の構成とする。即ち、一次コイル及び二次コイルによって高電圧を生成するものであって内燃機関の点火プラグへ前記高電圧を印加させる点火コイルと、前記一次コイルの通電を断続制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子へ点火信号を与えて当該スイッチング素子を制御させる制御装置と、コンデンサへチャージされた電荷の放電によって前記点火プラグでイオン電流を生じさせ且つ前記イオン電流に比例するイオン電流検出信号を出力させるイオン電流検出回路とを備え、
前記制御装置は、前記イオン電流が流れ始めてから吸気工程又は圧縮工程の漏洩電流測定時刻に至るまでの所定期間について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、前記所定期間における前記コンデンサの放電電荷量に基づいて前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値及び前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧に基づいて前記点火プラグの燻ぶり抵抗を算出する処理と、を機能させることとする。
【0013】
好ましくは、前記漏洩電流検出時刻における前記コンデンサの両端電圧をVnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
前記コンデンサの両端電圧Vnは、Vn={C・Vz−(ΣIc)・dt}/C,によって算出されることとする。
【0014】
好ましくは、前記燻ぶり抵抗をR(leak)とし、前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値をIcnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
当該燻ぶり抵抗R(leak)は、R(leak)={C・Vz−(ΣIc)・dt}/(C・Icn),によって算出されることとする。
【0015】
好ましくは、前記制御装置は、従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗を読み出す処理と、前記所定期間の各時刻について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、前記イオン電流検出信号の各々のサンプル値に対応させて前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、前記イオン電流検出信号の所定時刻のサンプル値と、当該サンプル値に対応する前記コンデンサの両端電圧と、前記従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗の読み出し値とに基づいて、点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせる処理と、を機能させることとする。
【0016】
好ましくは、点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせた値を真イオン電流値Iiとし、前記所定時刻における前記イオン電流検出信号のサンプル値をIcとし、前記燻ぶり抵抗をR(leak)とすると、
当該真イオン電流値Iiは、Ii=Ic−{Vc/R(leak)},によって算出されることとする。
【0017】
好ましくは、前記制御装置は、前記真イオン電流値Iiに基づいて、内燃機関の燃焼状態を解析する為の他のパラメータを算出することとし、具体的には、前記パラメータは、当該パラメータをP1とすると、P1=Ii/Vc,または、前記パラメータをP2とすると、P2=Vc/Ii,によって算出されることとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る内燃機関用のイオン電流検出処理装置によると、対数関数・指数関数といった特殊関数を用いずに解析用の各種パラメータを算出できるので、ECU等の制御装置における演算処理の負担が軽減される。
【0019】
また、当該イオン電流検出処理装置は、コンデンサの放電電荷量に基づいて「燻ぶり抵抗」を算出させることとなる。このため、イオン電流検出回路内の抵抗因子(検出抵抗の値・その他の抵抗値・インピーダンス値)について公証値上の誤差・設計上の誤差が生じても、これらの抵抗因子を含めて「燻ぶり抵抗」が算出されることとなり、当該「燻ぶり抵抗」の算出結果は、精度の高い値を示すこととなる。
【0020】
更に、当該イオン電流検出処理装置によると、「燻ぶり抵抗」に基づいて解析用のパラメータ(真イオン電流値,パラメータP1,パラメータP2)を算出処理させているので、これらのパラメータについても正確な値が得られることとなり、燃焼状態の解析精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係るイオン電流検出処理装置の構成を示す図。
【図2】点火プラグと其の電極部を示す図。
【図3】イオン電流発生時における点火プラグ周辺の等価回路。
【図4】点火信号,二次電圧,イオン電流,及び,イオン電流のサンプリング期間のタイミングチャート。
【図5】実施の形態に係る燻ぶり抵抗の演算プログラムを説明するフローチャート。
【図6】実施の形態に係るイオン電流検出信号のサンプル値を示す図。
【図7】実施例1に係る真イオン電流値の演算プログラムを説明するフローチャート。
【図8】実施例1で逐次算出される物理量を示す図。
【図9】イオン電流検出信号のサンプル値と真イオン電流の算出値とを比較する図(燃焼時)。
【図10】イオン電流検出信号のサンプル値と真イオン電流の算出値とを比較する図(失火時)。
【図11】実施例2に係る解析用パラメータの演算プログラムを説明するフローチャート。
【図12】真イオン電流の波形を示す図。
【図13】パラメータP1の波形を示す図。
【図14】特許文献1に係る点火プラグ周辺の等価回路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。図1に示す如く、内燃機関用のイオン電流検出処理装置100(以下、単にイオン電流検出処理装置と呼ぶ)は、制御装置ECUとパワートランジスタTrと点火コイルCLとイオン電流検出回路INSと点火プラグPGとから構成される。
【0023】
制御装置ECU(Engine Control Unit)は、内燃機関で駆動する自動車(ハイブリッド車をも含む)に搭載されており、当該装置は、CPU,メモリ回路,クロック回路,通信回路,及びAD変換回等の情報処理装置を構成している。そして、入力された各種情報に基づいて点火信号SG、その他、インジェクション用の制御信号、スロットル開度制御用の信号等を出力させる。特に、本実施の形態に係る制御装置ECUは、燻ぶり抵抗を算出するプログラム,真イオン電流(燃焼状態を解析する為のパラメータの一形態)を算出するプログラム,他のパラメータを算出するプログラム,検出したイオン電流のサンプル値,前記プログラムによって算出された燻ぶり抵抗値等をメモリ回路へ格納しておき、必要に応じてこれらのプログラムを起動させ、また、これらの情報を適宜に用いて「内燃機関の燃焼状態に係る解析」を実施する。
【0024】
スイッチング素子Trは、IGBT又はMOSFET等のパワートランジスタであって、制御信号ECUから送られる点火信号SGによって制御され、後述する点火コイルの一次側の電流を断続制御させる。
【0025】
点火コイルCLは、一次コイルL1,二次コイルL2,及び珪素鋼板から成る鉄心を備え、磁束変動に応じて二次電圧を発生させるトランスを形成している。当該点火コイルは、一次コイルL1の一端にバッテリ電圧(+12V〜+24V)が印加され、他端はスイッチング素子Trに接続されている。一方、二次コイルL2は、一端が点火プラグPGに接続され、他端がイオン電流検出回路INSに接続されている。
【0026】
点火プラグPGは、図2(a)に示す如く、中心電極25に電気的に接続されている入力端子21が設けられており、当該入力端子21の周囲に碍子22(絶縁体)が形成されている。また、碍子22の外周には雄ネジタップ24,外側電極26等を一体的の形成させた電気導電性のシェル23が形成され、当該シェル23は、内燃機関のプラグホール内に固定され、且つ、内燃機関と同電位、即ち、グランド電位に一致している。
【0027】
イオン電流検出処理装置100は、制御装置ECUから点火信号SGが出力されると、トランジスタTrが駆動され、一次コイルL1の通電が断続的に制御される。このとき、二次コイルL2では、鉄心の磁束変化を受けて負の高電圧(−数百kV)を点火プラグPGの入力端子21へ印加させ、プラグギャップにて放電を生じさせる。
【0028】
イオン電流検出回路INSは、図1に示の如く、コンデンサC,ツェナーダイオードZD,ダイオードD1,D2,抵抗R1〜R3(R2については検出抵抗と呼ぶ),オペアンプAMPから構成される。この主構成要素について説明すると、ツェナーダイオードZD及びコンデンサCは、並列回路を形成し、その一端が二次コイルL2に接続され、他端がダイオードD1のアノード側に接続されている。
【0029】
コンデンサCとツェナーダイオードZDのアノード側の接点は、抵抗R1を介して、オペアンプの反転入力端子(−)へ接続されている。当該オペアンプAMPは、更に、反転入力端子(−)と出力端子との間に検出抵抗R2が接続され、出力端子が抵抗R3を介してグランドへ接続され、非反転入力端子(+)がグランド電位とされている。
【0030】
点火コイルの印加電圧によって点火プラグPGの放電が生じる場合、図示の如く、点火プラグPG→二次コイルL2→コンデンサC→ダイオードD1→グランド,の経路で放電電流Icombが流れる。このとき、放電電流Icombは、コンデンサCの両端電圧Vcがツェナー電圧Vzに到達した時点で、点火プラグPG→二次コイルL2→ツェナーダイオードZD→ダイオードD1→グランド,の経路を辿る。
【0031】
一方、コンデンサCの両端電圧Vcによって点火プラグPGの放電が生じる場合、コンデンサC→二次コイルL2→点火プラグPG,の経路でイオン電流Icが流れる。図3は、かかる場合の等価回路が示されている。図示の如く、イオン電流Icの値は、コンデンサCの放電電荷量に応じて定まる値であって、且つ、点火プラグの絶縁抵抗R,抵抗R1及び検出抵抗R2に影響される。
【0032】
このように、イオン電流Icが生じる場合、オペアンプAMPの出力端子からイオン電流Icに比例する信号、即ち、イオン電流検出信号Sinsを出力させ、制御装置ECUでは、当該信号Sinsを受信して適宜に処理を行う。
【0033】
図2(b)は、絶縁抵抗Rの構造が示されている。当該絶縁抵抗Rは、プラグギャップに生じるイオン抵抗Riと、漏洩電流の原因となる燻ぶり抵抗R(leak)とから成る。このうち、イオン抵抗Riは、燃焼ガスを構成する分子の電離状態に応じて変動するものであって、当該燃焼ガスの圧力状態によっても変動する。そのため、イオン抵抗Riは、燃焼サイクル(圧縮工程→膨張行程→排気工程→吸気工程)に応じて時々刻々と変動する。一方、燻ぶり抵抗R(leak)は、カーボン等の堆積状態に応じてその抵抗値を変動させるものであって、1サイクル程度の時間間隔では大きく変動するものではない。これらの抵抗は、両者とも絶縁抵抗Rを構成するものであって、本実施の形態にあっては、イオン抵抗Ri及び燻ぶり抵抗R(leak)が、図3に示す如く並列接続されているものと見做している。
【0034】
図4は、内燃機関の動作を現すタイムチャートが示されている。図示の如く、本実施の形態に係る内燃機関は、4サイクルエンジンが採用されており、圧縮工程→膨張行程→排気工程→吸気工程という燃焼サイクルを繰り返す。
【0035】
点火信号SGは、圧縮工程毎に制御装置ECUからパルスが発せられ、二次電圧V2では、点火信号SGの立下りエッジに対応して負の高電圧(−数百kV)を発生させる。イオン電流検出回路INSでは、点火プラグPGの放電動作に応じてコンデンサCに電荷がチャージされる。其の電荷の初期値Qzは、Qz=C・Vz,で表される。
【0036】
点火プラグPGの放電収束際、コンデンサCでは、短期的な誘導性の放電(放電ノイズ)が現われ、その後、電荷の放電(容量性放電)が開始する。この容量性放電は、一般に膨張行程から排気工程に亘って現われ、イオン電流を形成させる。イオン電流Icは、イオン電流検出回路INSによってイオン電流検出信号Sinsへと変換され、制御装置ECUへ出力される。
【0037】
このとき、制御装置ECUは、イオン電流検出信号Sinsを所定期間WinについてAD変換するようにマスク処理させ(図4d参照)、これにより、燃焼開始直後からイオン電流が収束する迄の検出値をメモリ回路へ格納(サンプリング)し、これにより、イオン電流Icの波形が保持されることとなる。
【0038】
所定期間Winの開始点は、誘導性放電(放電ノイズ)が現われる区間を推定し、其の区間が終了する時点に一致させると良い。かかる技術は、特開2002−188552号公報,特開2009−115023等で紹介されており、イオン電流の検出を開始する時刻を特定する際に有用である。所定期間Winの開始点は、図示の如く、膨張行程の前段に設定されるものであって、本実施の形態では、この開始点を放電開始時刻と呼ぶこととする。
【0039】
また、所定期間Winの終点は、イオン電流Icの波形が収束した後のタイミングに設けられるのが好ましい。この終点は、一般に吸気工程または圧縮工程の適宜の位置に設定されるものであって、以後、漏洩電流測定時刻と呼ぶこととする。
【0040】
図5は、制御装置ECUで実施される燻ぶり抵抗算出ルーチンが示されている。当該ルーチンS10は、誘導性放電の終了直後に起動され、先ず、イオン電流検出信号Sinsの検出値をメモリ回路へ格納していく(S11)。処理S11では、ADタイミング毎にイオン電流の記録(サンプリング)が順次行なわれ、漏洩電流測定時刻tnに到達すると、現燃焼サイクルにおける検出値の格納処理S11が完了する(図6a参照)。
【0041】
その後、コンデンサCの放電電荷量Siの算出処理が実施される(S12)。ここでの処理S12は、イオン電流検出信号SinsのADタイミングt1〜tn迄の面積値Siが算出される(図6b参照)。イオン電流Icは、Ic=dQ/dt(dQ:単位時間dtにおけるコンデンサの放電電荷量)とされるところ、イオン電流Icと時間軸とで囲まれる面積値Siは、ADタイミングt1〜tnに至るまでのコンデンサの放電電荷量を示す。尚、ADタイミングt1では、放電開始時刻であって、コンデンサの電荷量が初期放電電荷量Qzに一致する。
【0042】
この演算処理では、ADタイミングt1〜tnまでのイオン電流検出信号Sinsの総和をΣIcとし、ADタイミングの時間間隔(数μsec程度)をdtとすると、面積値Siは、Si=(ΣIc)・dt,によって算出するのが好ましい。前処理S11にてADタイミングt1〜tnまでのイオン電流検出信号Sinsが記録されているので、検出値Sinsの総和ΣIcを先に求めてから、ADタイミングの時間間隔dtを乗算させることで、Si=(Ic1・dt+Ic2・dt+・・・+Icn・dt),といった煩雑な演算を行なわずに済む。
【0043】
処理S12が終了すると、処理S13では、面積値Siによって算出された放電電荷量に基づいて、漏洩電流測定時刻tnでのコンデンサの両端電圧Vnが算出される(S13)。
【0044】
具体的に説明すると、任意の時刻tにおけるコンデンサの両端電圧Vcは、
Vc={Qz−Si(t)}/C,・・・C式
Qz:イオン電流が流れ始める直前のコンデンサの電荷量(C・Vz)
Si(t):放電開始時刻t1を起算点とする任意の時間的区間での放電電荷量
(Vz:ツェナー電圧)
によって算出される。
【0045】
C式を参照すると、コンデンサの両端電圧Vcは、検出時刻tが進むにつれて極板間の電荷が放電され、当該電圧が減少することが解る(図6c参照)。また、この両端電圧Vcは、初期電荷量Qzと放電電荷量Si(t)とに基づいて算出されるので、イオン電流検出回路の抵抗因子に関わり無く、正確な値が算出される。
【0046】
ここで、検出時刻tが漏洩電流測定時刻tnであるとし、その時刻でのコンデンサの両端電圧をVnとすると、
この両端電圧Vnは、
Vn={C・Vz−(ΣIc)・dt}/C,・・・D式
C:コンデンサの電気容量
Vz:ツェナー電圧
ΣIc:時刻tnにおけるイオン電流検出値Sinsの積算値
dt:ADタイミングの時間間隔
によって算出されることとなる。
【0047】
かかる如く算出された両端電圧Vnは、漏洩電流測定時刻tnがイオン電流の収束以後に設定されているので、漏洩電流が流れる際の印加電圧に相当する。この両端電圧Vnは、イオン電流検出回路の抵抗因子に関わり無く、正確な値として算出される。
【0048】
処理S13が終了すると、燻ぶり抵抗R(leak)の算出処理が行われる(S14)。処理S14では、イオン電流検出信号Sinsのうち漏洩電流測定時刻tnにおけるサンプル値Icnと、漏洩電流測定時刻tnにおけるコンデンサの両端電圧Vn(処理13での結果値)とに基づいて、燻ぶり抵抗R(leak)が算出される。
【0049】
具体的に説明すると、燻ぶり抵抗R(leak)は、
R(leak)=Vn/Icn,・・・E式
によって算出される。
【0050】
上述の如く、本実施の形態に係る内燃機関用のイオン電流検出処理装置によると、燻ぶり抵抗R(leak)は、対数関数・指数関数といった特殊関数を用いずに算出されるので、ECU等の制御装置における演算処理の負担が軽減される。
【0051】
また、当該イオン電流検出処理装置は、コンデンサの放電電荷量に基づいて「燻ぶり抵抗」を算出させることとなる。このため、イオン電流検出回路内の抵抗因子(検出抵抗の値・その他の抵抗値・インピーダンス値)について公証値上の誤差・設計上の誤差が生じても、これらの抵抗因子を含めて「燻ぶり抵抗」が算出されることとなり、当該「燻ぶり抵抗」の算出結果は、精度の高い値を示すこととなる。
【0052】
特に、漏洩電流測定時刻tnにおける燻ぶり抵抗R(leak)は、イオン電流検出回路内の抵抗因子を含む値として正確な値を示すこととなる。
【0053】
これに対し、特許文献1で紹介されている燻ぶり抵抗Rn(B式)にあっては、点火プラグにおける燻ぶり抵抗そのものを算出する式とされるので、他の抵抗成分等を誤差なく把握していなければ、式Bにおける燻ぶり抵抗は、正確な値として算出されることはない。また、このようなイオン電流検出回路内の抵抗因子は、誤差なく完全に把握することが困難なものである。即ち、特許文献1に係る燻ぶり抵抗Rn(B式)では、イオン電流検出回路内の抵抗因子について公証値に対する誤差・その他の設計上の誤差が計上されてしまうと、当該燻ぶり抵抗Rn(B式)が正確に算出されることはない。その意味においても、本実施の形態に係る燻ぶり抵抗(E式)は、正確な値を示していることが理解できる。
【実施例1】
【0054】
以下、上述した燻ぶり抵抗R(leak)を用いたイオン電流の演算処理について説明する。本実施例に係るイオン電流演算ルーチンS20は、イオン電流のサンプリングが行われる期間WinのADタイミングに対応して逐次起動される。先ず、放電開始時刻t1が到来すると、図7に示す如く、従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗R(leak)の結果値を読み出す(処理S21)。このとき、燻ぶり抵抗R(leak)は、直前の燃焼サイクルの結果値であっても良く、数サイクル前の結果値が用いられても良いが、当該燻ぶり抵抗の結果値と実際の燻ぶり抵抗とに大きな差異が生じないことを条件とする。
【0055】
イオン電流検出処理装置100は、処理21が終了すると、時刻t1でのイオン電流検出信号Ic1をサンプリングする(図8a−Ic参照)。その後、時刻t1における処理23では、コンデンサでの初期電荷量Qzが算出保持され、具体的には、Qz=C・Vz,によって算出される。
【0056】
次に、処理24では、イオン電流検出信号のサンプル値Icに対応させて、其の時刻t1におけるコンデンサの両端電圧Vcを算出させる(図8a−Vc参照)。処理24では、検出時刻t1が放電開始時刻であるので、Vc=Vz(ツェナー電圧),となるように設定される。
【0057】
その後、処理25では、イオン電流検出信号のサンプル値Ic1,当該サンプル値Ic1に対応するコンデンサの両端電圧Vc,現ルーチンS20における燻ぶり抵抗R(leak)の結果値,に基づいて、サンプル値Icから漏洩電流をキャンセルさせる(以下、このキャンセルされた値を真イオン電流値Iiと呼ぶ)。具体的に説明すると、真イオン電流値Ii1は、
Ii=Ic−{Vc/R(leak)},・・・F式
によって算出され、Ii1=Ic1−{Vz/R(leak)},を得る。但し、放電電流が流れる直前の燻ぶり抵抗R(leak)は、R(leak)=∞,とされるので、真イオン電流値Ii1は零となる(図8a−Ii参照)。
【0058】
かかる後、真イオン電流値Ii1がメモリ回路へ格納される(S26)。そして、処理10では、時刻tnでの処理S22〜S26が完了した後に機能するように設定されているため、現時刻t1におけるルーチン20では、燻ぶり抵抗R(leak)の更新処理は実施されない。即ち、時刻t1〜tnについては、同値の燻ぶり抵抗R(leak)が用いられることとなる。
【0059】
かかる処理が完了すると、時刻t1に対応するルーチンS20がスリープし、当該ルーチンS20は、次の起動時刻t2を待つ。そして、時刻t2が到来すると、時刻t2に対応するルーチンS20が起動し、先と同値の燻ぶり抵抗R(leak)の結果値を呼び出し(S21)、イオン電流検出信号のサンプル値Ic2を取得する(S22/図8b−Ic参照)。
【0060】
その後、処理23では、時刻t1から時刻t2に至るまでにコンデンサから放電した放電電荷量ΔQ2を算出する。
具体的に説明すると、時刻t2で算出される放電電荷量ΔQ2は、
ΔQ=Ic・dt,・・・G式
dt:ADタイミングの時間間隔
を用いて、ΔQ2=Ic2・dt,と算出される。
【0061】
また、処理23では、時刻t2においてコンデンサで蓄積されている電荷量Q2を算出させる。
コンデンサに蓄積されている電荷量Qcは、
Qc=Qz−ΔQ,・・・H式
によって算出されるところ、時刻t2における電荷量Qc2は、Qc2=Qz−Ic2・dt,と算出される。
【0062】
その後、処理24では、コンデンサの両端電圧Vc2(時刻t2)がC式に基づいて算出され、Vc2={C・Vz−(Ic2・dt)}/C,を得る(図8b−Vc参照)。かかる両端電圧Vcは、時刻t1からt2に至るまでの放電電荷量に応じて減少している。
【0063】
更に後、処理25では、時刻t2での真イオン電流Ii2がF式に基づいて算出され、Ii2=Ic2−{Vc2/R(leak)},を得る(図8b−Ii参照)。ここで、コンデンサの両端電圧Vc2は、時刻t2において正確な値を現している。また、燻ぶり抵抗R(leak)は、数サイクル前の値が用いられるので、カーボンCbの堆積状態に大きな変動が無ければ、その値も正確な値とされる。特に、燻ぶり抵抗R(leak)は、直前の燃焼サイクルでの結果値が用いられることにより、より正確な値とされることが期待できる。従って、これらの正確な値により算出される真イオン電流の値Ii2についても同様に正確な値とされ、この値Ii2がメモリ回路に保持されることとなる。
【0064】
即ち、本実施例に係る演算処理では、特許文献1のように検出抵抗等を正確に把握せずとも、実施の形態で算出された燻ぶり抵抗R(leak)を用いることにより、真イオン電流Iiを演算誤差の少ない値として算出することが可能となる。
【0065】
そして、処理26が終了すると、時刻t2である場合には、燻ぶり抵抗の値を更新させる処理10を実施せず、次の時刻t3の待機状態に入る。このように、時刻の経過に応じてルーチン20が起動され、各時刻における放電電荷量ΔQ,コンデンサに蓄積されている電荷量,コンデンサの両端電圧Vc,真イオン電流Ii,等が逐次算出されてゆく(図8c及び図8d参照)。そして、漏電電流測定時刻tnに対応するルーチンS20が終了すると、燻ぶり抵抗R(leak)の更新処理を行い(実施の形態を参照)、現燃焼サイクル終了時点で取得されたイオン電流等の情報に基づいて、同サイクルにおける新たな燻ぶり抵抗を算出させる(S10)。そして、かかる処理10が終了すると、燃焼サイクルの進行に応じて、ルーチン20を適宜起動させる。
【0066】
図9(a)は、所定の条件で燃焼された場合のイオン電流のサンプル値が示され、図9(b)は、これと同条件下での真イオン電流Iiの結果値が示されている。双方の波形を比較すると、区間Bに示されるように、真イオン電流Iiでは、漏洩電流によって検出されていた不要な波形がキャンセルされている様子を確認できる。また、区間Aに示されるように、真イオン電流Iiに現われる曲線波形部は、この部分についても漏洩電流の値が好適にキャンセルされ、実際のイオン電流に近い波形が現れている様子を確認できる。
【0067】
また、図10(a)は、所定の条件で失火した場合のイオン電流のサンプル値が示され、図9(b)は、これと同条件下での真イオン電流Iiの結果値が示されている。双方の波形を比較すると、真イオン電流Iiでは、全時刻t1〜t2を通じて漏洩電流がキャンセルされている様子を確認できる。
【0068】
上述の如く、本実施例に係るイオン電流検出処理装置100によると、正確に算出された「燻ぶり抵抗」に基づいて真イオン電流値(燃焼状態の解析を行なうパラメータの一形態)を算出処理させているので、この真イオン電流値についても正確な値が得られることとなる。従って、イオン電流検出処理装置100では、誤診断・誤判定されることなく、燃焼状態の解析が好適に実施される。
【実施例2】
【0069】
本実施例に係るイオン電流演算ルーチンS30は、図11に示す如く、真イオン電流Iiを記憶させる処理S26が省略され、その代わりに、イオン抵抗Riの算出処理S31と、当該イオン抵抗Riの記憶処理S32とが新たに追加されている。尚、本実施例にあっては、実施の形態・実施例1にて既に説明された重複部分(処理、構成)について同一符号を付し、当該重複部分に係る説明を省略するものとする。
【0070】
本実施例に係るイオン電流演算ルーチンS30は、ADタイミング毎に起動されるものであって、所定のADタイミングに対応させて真イオン電流Iiを逐次算出させてゆく(S21〜S25)。
【0071】
その後、処理31では、イオン抵抗の逆数に係るパラメータP1を算出する。
当該パラメータP1は、対応する時刻(t1〜tn)について、
P1=Ii/Vc,・・・I式
によって算出される。
【0072】
真イオン電流Iiは、燃焼状態に影響される他、F式から明らかなように、コンデンサの両端電圧vcの減衰にも影響されてしまう。従って、本実施例に係るルーチン30は、このような真イオン電流の波形成分を除去するために改案されたものである。具体的に説明すると、処理31で算出されるパラメータP1は、真イオン電流Iiから同時刻におけるコンデンサの両端電圧Vcを除算させることで、両端電圧Vcの減衰に係る成分を相殺させている。
【0073】
図12は、真イオン電流Iiの演算結果が、燃焼時(上段)及び失火時(下段)について各々示されている。また、本実験に係る条件は以下の通りである。
条件;
内燃機関の回転数:1600(rpm)
点火プラグの絶縁抵抗1:1(MΩ)
点火プラグの絶縁抵抗2:10(MΩ)
点火プラグの絶縁抵抗3:100(MΩ)
(各々の絶縁抵抗は、燻ぶり状態の程度を現しており、一般に100MΩ以上で正常状態とされている。)
【0074】
一方、図13は、イオン抵抗の逆数に係るパラメータP1の演算結果が、燃焼時(上段)及び失火時(下段)について各々示されている。また、本実験に係る条件は、上述実験と同じである。
【0075】
先ず、図12における各々の波形を観察すると、放電電荷に起因して生じる減衰波形は、絶縁抵抗が小さいほど顕著となるのが確認できる。このため、絶縁抵抗が10MΩまたは100MΩの場合の波形(真イオン電流)は、燃焼波形が現われているのか否かの区別が困難となり、例えば失火・燃焼判定を行なう解析処理において、其の判定精度が低下する惧れがある。
【0076】
これに対し、図13における各々の波形を観察すると、絶縁抵抗100MΩ,10MΩにあっては、略一定値を示している。また、絶縁抵抗1MΩにあっても、減衰状態の波形が幾分認められるものの、其の程度はイオン電流値の波形と比較して格段に解消されている。このため、本実施例に係るパラメータP1は、閾値を設定することで燃焼波形が現われているか否かの判断が容易に行われる為、失火・燃焼判定等の解析処理の精度が向上する。
【0077】
このように、本実施例に係るイオン電流検出処理装置100によると、解析用のパラメータP2は、燃焼波形以外の領域では不要な波形が重畳されなくなるので、制御装置ECUでは、このパラメータP2を用いることにより、燃焼状態の解析が更に正確に行なわれることとなる。例えば、当該パラメータP2は、燃焼波形以外の領域が一定値とされるので、燃焼波形が現われているか否かの判別が容易となる。また、当該パラメータの示す一定値は、堆積物により形成される燻ぶり抵抗を示すものであり、その値によって燻ぶり状態を把握することが可能となる。
【0078】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記された技術的思想の範囲内において、種々の変更が可能である。例えば、実施例2では、解析用のパラメータがイオン抵抗の逆数として算出されているが、これに限定することなく、イオン抵抗に係る波形を解析用のパラメータとして用いることも可能である。この場合、失火燃焼等の解析に用いられる閾値のディメンションをイオン抵抗に合わせるといった変更を加えれば、実施例2と同様の解析結果が得られることとなる。
【符号の説明】
【0079】
100 内燃機関用のイオン電流検出処理装置
CL 点火コイル
PG 点火プラグ
Tr スイッチング素子
ECU 制御装置
SG 点火信号
C コンデンサ
Sins イオン電流検出信号
INS イオン電流検出回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル及び二次コイルによって高電圧を生成するものであって内燃機関の点火プラグへ前記高電圧を印加させる点火コイルと、前記一次コイルの通電を断続制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子へ点火信号を与えて当該スイッチング素子を制御させる制御装置と、コンデンサへチャージされた電荷の放電によって前記点火プラグでイオン電流を生じさせ且つ前記イオン電流に比例するイオン電流検出信号を出力させるイオン電流検出回路とを備え、
前記制御装置は、
前記イオン電流が流れ始めてから吸気工程又は圧縮工程の漏洩電流測定時刻に至るまでの所定期間について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、
前記所定期間における前記コンデンサの放電電荷量に基づいて前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、
前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値及び前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧に基づいて前記点火プラグの燻ぶり抵抗を算出する処理と、
を機能させることを特徴とするイオン電流検出処理装置。
【請求項2】
前記漏洩電流検出時刻における前記コンデンサの両端電圧をVnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
前記コンデンサの両端電圧Vnは、
Vn={C・Vz−(ΣIc)・dt}/C,
によって算出されることを特徴とする請求項1に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項3】
前記燻ぶり抵抗をR(leak)とし、前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値をIcnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
当該燻ぶり抵抗R(leak)は、
R(leak)={C・Vz−(ΣIc)・dt}/(C・Icn),
によって算出されることを特徴とする請求項1に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗を読み出す処理と、
前記所定期間の各時刻について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、
前記イオン電流検出信号の各々のサンプル値に対応させて前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、
前記イオン電流検出信号の所定時刻のサンプル値と、当該サンプル値に対応する前記コンデンサの両端電圧と、前記従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗の読み出し値とに基づいて、点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせる処理と、
を機能させることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項5】
点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせた値を真イオン電流値Iiとし、前記所定時刻における前記イオン電流検出信号のサンプル値をIcとし、前記燻ぶり抵抗をR(leak)とすると、
当該真イオン電流値Iiは、
Ii=Ic−{Vc/R(leak)},
によって算出されることを特徴とする請求項4に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記真イオン電流値Iiに基づいて、内燃機関の燃焼状態を解析する為の他のパラメータを算出することを特徴とする請求項5に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項7】
前記パラメータは、当該パラメータをP1とすると、P1=Ii/Vc,によって算出されることを特徴とする請求項6に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項8】
前記パラメータは、当該パラメータをP2とすると、P2=Vc/Ii,によって算出されることを特徴とする請求項6に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項1】
一次コイル及び二次コイルによって高電圧を生成するものであって内燃機関の点火プラグへ前記高電圧を印加させる点火コイルと、前記一次コイルの通電を断続制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子へ点火信号を与えて当該スイッチング素子を制御させる制御装置と、コンデンサへチャージされた電荷の放電によって前記点火プラグでイオン電流を生じさせ且つ前記イオン電流に比例するイオン電流検出信号を出力させるイオン電流検出回路とを備え、
前記制御装置は、
前記イオン電流が流れ始めてから吸気工程又は圧縮工程の漏洩電流測定時刻に至るまでの所定期間について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、
前記所定期間における前記コンデンサの放電電荷量に基づいて前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、
前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値及び前記漏洩電流測定時刻における前記コンデンサの両端電圧に基づいて前記点火プラグの燻ぶり抵抗を算出する処理と、
を機能させることを特徴とするイオン電流検出処理装置。
【請求項2】
前記漏洩電流検出時刻における前記コンデンサの両端電圧をVnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
前記コンデンサの両端電圧Vnは、
Vn={C・Vz−(ΣIc)・dt}/C,
によって算出されることを特徴とする請求項1に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項3】
前記燻ぶり抵抗をR(leak)とし、前記イオン電流検出信号のうち前記漏洩電流測定時刻におけるサンプル値をIcnとし、前記コンデンサの両端電圧の初期値をVzとし、前記コンデンサの電気容量をCとし、前記イオン電流検出信号を検出する時間間隔をdtとし、前記所定期間における前記イオン電流検出信号のサンプル値を積算させた値をΣIcとすると、
当該燻ぶり抵抗R(leak)は、
R(leak)={C・Vz−(ΣIc)・dt}/(C・Icn),
によって算出されることを特徴とする請求項1に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗を読み出す処理と、
前記所定期間の各時刻について前記イオン電流検出信号をサンプリングする処理と、
前記イオン電流検出信号の各々のサンプル値に対応させて前記コンデンサの両端電圧を算出する処理と、
前記イオン電流検出信号の所定時刻のサンプル値と、当該サンプル値に対応する前記コンデンサの両端電圧と、前記従前の燃焼サイクルにおける燻ぶり抵抗の読み出し値とに基づいて、点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせる処理と、
を機能させることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項5】
点火プラグでの漏洩電流を前記サンプル値からキャンセルさせた値を真イオン電流値Iiとし、前記所定時刻における前記イオン電流検出信号のサンプル値をIcとし、前記燻ぶり抵抗をR(leak)とすると、
当該真イオン電流値Iiは、
Ii=Ic−{Vc/R(leak)},
によって算出されることを特徴とする請求項4に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記真イオン電流値Iiに基づいて、内燃機関の燃焼状態を解析する為の他のパラメータを算出することを特徴とする請求項5に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項7】
前記パラメータは、当該パラメータをP1とすると、P1=Ii/Vc,によって算出されることを特徴とする請求項6に記載のイオン電流検出処理装置。
【請求項8】
前記パラメータは、当該パラメータをP2とすると、P2=Vc/Ii,によって算出されることを特徴とする請求項6に記載のイオン電流検出処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−117420(P2012−117420A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266736(P2010−266736)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】
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