説明

内燃機関用クランク角検出装置

【課題】内燃機関の幅方向長さを短縮して内燃機関の小型化及び軽量化を実現でき、且つ部品点数及び組付工数を低減できると共に、第1のギアの強度上の信頼性を確保できる。
【解決手段】エンジンに備えられたクランク軸25と、このクランク軸の回転角をクランク角として検出するクランク角センサ41と、を有する内燃機関用クランク角検出装置において、クランク軸25のクランクウェイト38Aにプライマリドライブギア32が回転一体に設けられ、このプライマリドライブギアは、隣接するプライマリドリブンギアに動力を伝達すると共に、一部の歯に切欠部42を備え、クランク角センサ41は、切欠部42を基準としてプライマリドライブギア32を検知することで前記クランク角を検出し、切欠部42を備えた歯46は、エンジンにおける全ての気筒で最大燃焼圧力が発生する位相を回避した位相でプライマリドリブンギアに噛み合うよう構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク角を検出する内燃機関用クランク角検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示すように、内燃機関(エンジン)用のクランク角検出装置100は、従来、クランク軸101の軸端に取り付けられたセンシングロータ102の外周における突起または窪みをクランク角センサ103が検知することで、クランク軸101の回転角、つまりクランク角を検出するよう構成されている。
【0003】
前記クランク角センサ103は、クランクケース104の側部で、エンジンサイドカバー105の内側に設置されている。尚、クランク軸101の回転力は、クランク軸101に設けられたプライマリドライブギア108を経てプライマリドリブンギア109に伝達される。
【0004】
また、特許文献1には、クランク軸のクランクウェイトに、クランク角検出用の歯が外周に形成された弓形セグメントを取り付け、クランク軸の回転時に、クランク角センサにより弓形セグメントの歯を検出することで、クランク軸の回転角(クランク角)を検出するクランク角検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−184434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図6に示すクランク角検出装置100では、クランク軸101の軸端にセンシングロータ102を取り付ける構成であるため、エンジンの軸方向長さが増大して、エンジンの小型化及び軽量化が困難になってしまうと共に、クランク軸101やクランクケース104の剛性確保も困難になってしまう。
【0007】
また、センシングロータ102は、ワッシャ106や取付ボルト107を用いてクランク軸101に取り付けられるため、部品点数が増加し、組付工数も増加してしまう。
【0008】
更に、クランク軸101にセンシングロータ102を取り付ける為の隙間分のガタツキによって、クランク角センサ103によるクランク角の検出精度が低下してしまう。
【0009】
また、自動二輪車に搭載されたエンジンの場合には、車両のバンク角を確保するために、センシングロータ102の外径を大きくすることができない。従って、センシングロータ102の外周の突起または窪みの周速度が低くなるので、特にクランク軸101の低速回転時にはクランク角センサ103によりクランク角を高精度に検出することができない恐れがある。
【0010】
他方、特許文献1に記載のクランク角検出装置では、クランク軸には、動力伝達用のプライマリドライブギアやカムドライブスプロケットなどのほかに、クランク角検出用のギア(弓形セグメント)が必要になるので、部品点数及び組付工数が増加してしまう。
【0011】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、内燃機関の幅方向長さを短縮して内燃機関の小型化及び軽量化を実現でき、且つ部品点数及び組付工数を低減できると共に、第1のギアの強度上の信頼性を確保できる内燃機関用クランク角検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、内燃機関に備えられたクランク軸と、このクランク軸の回転角をクランク角として検出するクランク角センサと、を有する内燃機関用クランク角検出装置において、前記クランク軸の一部に第1のギアが回転一体に設けられ、この第1のギアは、隣接する第2のギアに動力を伝達すると共に、一部の歯に切欠部を備え、前記クランク角センサは、前記切欠部を基準として前記第1のギアを検知することで前記クランク角を検出し、前記切欠部を備えた歯は、内燃機関における全ての気筒で最大燃焼圧力が発生する位相を回避した位相で前記第2のギアに噛み合うよう構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クランク軸の一部に回転一体に設けられた第1のギアに切欠部が設けられ、クランク角センサが、前記切欠部を基準として第1のギアを検知することでクランク角を検出するので、クランク角検出用のセンシングロータをクランク軸の端部に設ける必要がない。この結果、内燃機関の幅方向長さが短縮して内燃機関の小型化及び軽量化を実現できる。更に、センシングロータが不要になるので、部品点数及び組付工数を低減できる。
【0014】
また、切欠部を備えた歯は、内燃機関における全ての気筒で最大燃焼圧力が発生する位相を回避した位相で第2のギアに噛み合うよう構成されたので、いずれの気筒における最大燃焼圧力の発生時にも、第1のギアにおける切欠部を備えた歯が第2のギアに噛み合うことがない。このため、第1のギアにおける切欠部を備えた歯と第2のギアとの噛み合い時に過大な荷重が作用しないので、第1のギアにおける切欠部を備えた歯の強度上の信頼性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る内燃機関用クランク角検出装置の一実施形態が適用された内燃機関としてのエンジンを搭載した自動二輪車を示す左側面図。
【図2】図1のエンジンを示す右側面図。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図。
【図4】図3のクランクシャフト、コンロッド及びクランク角センサを示す側面図。
【図5】図2に示すプライマリドライブギアからプライマリドリブンギア及びバランサドリブンギアへ伝達される伝達トルクの変化を示すグラフ。
【図6】従来のクランクシャフトに取り付けられたセンシングロータ、クランク角センサ等を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明に係る内燃機関用クランク角検出装置の一実施形態が適用された内燃機関としてのエンジンを搭載する自動二輪車を示す左側面図である。尚、本実施形態において、前後、上下、左右の表現は、自動二輪車に乗車した乗員を基準にしたものである。
【0018】
この図1に示すように、自動二輪車1は車体フレーム2を有し、その前方にヘッドパイプ3が設けられる。ヘッドパイプ3には、図示しないサスペンション機構を内装し前輪4を回動自在に支持する左右一対のフロントフォーク5やハンドルバー6等から構成されるステアリング機構7が設けられ、ハンドルバー6により前輪4が左右に回動自在に操舵される。
【0019】
一方、車体フレーム2は、例えばツインチューブ型のもので、ヘッドパイプ3の直後で左右方向に拡開された後、互いに平行に後斜下方に延びる左右一対のタンクレールを兼ねたメインフレーム8と、これらのメインフレーム8の後端部に接続され、略上下方へ向かって延びる左右一対のセンタフレーム9と、これらのセンタフレーム9の後上端から後方に延びる左右一対のシートレール10とを有して構成される。
【0020】
メインフレーム8の上方には燃料タンク11が配置され、シートレール10の上方にはライダシート12A、ピリオンシート12Bが車両の前後にそれぞれ配置される。また、センタフレーム9の略中央下部にはピボット軸13が架設され、このピボット軸13にスイングアーム14がピボット軸13廻りにスイング自在に枢着されると共に、このスイングアーム14の後端に後輪15が回動自在に軸支される。そして、前輪4と後輪15間の車体中央下部で燃料タンク11下方に、内燃機関としてのエンジン16が配置される。
【0021】
更に、この自動二輪車1は車体の前部が流線形のカウリング17で覆われており、走行中の空気抵抗低減と、走行風圧からのライダの保護が図られている。尚、図1中の符号18Aは、エンジン16からの排気ガスを排出するエキゾーストパイプであり、このエキゾーストパイプ18Aの後端に排気マフラ18Bが接続されている。
【0022】
図2及び図3に示すように、エンジン16は4サイクル多気筒エンジン、例えば4サイクル並列4気筒エンジンであり、主にヘッドカバー19、シリンダヘッド20、シリンダブロック21及びクランクケース22から外形が構成される。このクランクケース22は分割式であり、例えば図2における上下方向に2分割され、シリンダブロック21が別体に設けられたアッパクランクケース22Aと、ロアクランクケース22Bとから構成される。ロアクランクケース22Bの下部にオイルパン28が設置されている。
【0023】
シリンダブロック21は直立よりやや前傾して配置され、また、アッパクランクケース22Aとロアクランクケース22Bとの合わせ面23の内側に軸受部24がそれぞれ上下に分割して形成される。これらの軸受部24に、エンジン16の幅方向に延びるクランク軸25が回転自在に支持される。
【0024】
クランク軸25には、コンロッド26の大端部26Aが連結され、図4に示すように、コンロッド26の小端部26Bにはピストン27が連結される。そして、シリンダブロック21内にはピストン27が、図における略上下方向に摺動自在に収納される。また、シリンダヘッド20とピストン27との間の空間には燃焼室(不図示)が形成される。この燃焼室内での混合気の燃焼によってピストン27が往復運動し、このピストン27の往復運動がクランク軸25により回転運動に変換される。
【0025】
図2に示すように、クランクケース22内には、クランク軸25の後方にカウンタ軸29及びドライブ軸30が、クランク軸25の前方にバランサ軸31がそれぞれ配置される。このうち、カウンタ軸29とバランサ軸31がクランク軸25と共に、アッパクランクケース22Aとロアクランクケース22Bとの合せ面23に軸支されている。これらのクランク軸25、カウンタ軸29、ドライブ軸30及びバランサ軸31は、エンジン16の幅方向(つまり自動二輪車1の車幅方向)に延在してクランクケース22内に収容されている。
【0026】
クランク軸25には、後に詳説するようにプライマリドライブギア32が回転一体に設けられ、このプライマリドライブギア32が、カウンタ軸29に回転自在に軸支されたプライマリドリブンギア33に噛み合う。カウンタ軸29には、プライマリドリブンギア33に連結されたクラッチ機構34が軸端に設けられると共に、図示しない複数段のミッションドライブギアが軸装される。これらのミッションドライブギアは、ドライブ軸30に軸装された図示しない複数段のミッションドリブンギアに噛み合う。これらのミッションドライブギア及びミッションドリブンギアは、図示しないシフト機構と共に変速ミッション機構を構成する。
【0027】
ドライブ軸30の軸端はクランクケース22の外部に突出し、このドライブ軸30の軸端にドライブスプロケット(不図示)が固定される。また、後輪15には、図1に示すようにドリブンスプロケット35が固定され、これらのドライブスプロケットとドリブンスプロケット35との間にドライブチェーン36が巻き掛けられる。
【0028】
従って、図1及び図2に示すエンジン16のクランク軸25の回転力(つまりエンジン16の駆動力)は、プライマリドライブギア32、プライマリドリブンギア33及びクラッチ機構34を経てカウンタ軸29に伝達され、このカウンタ軸29から変速ミッション機構を経てドライブ軸30へ伝達される。そして、このドライブ軸30に伝達されたクランク軸25の回転力は、ドライブスプロケット、ドライブチェーン36及びドリブンスプロケット35を経て後輪15に伝達される。
【0029】
また、バランサ軸31には、バランサドリブンギア37が回転一体に設けられると共に、図示しないバランサウェイトが配置される。バランサドリブンギア37は、バランサドライブギアとしても機能するプライマリドライブギア32に噛み合う。従って、クランク軸25の回転によりプライマリドライブギア32及びバランサドリブンギア37を介してバランサウェイトが回転し、クランク軸25に設けられたクランクウェイト38(図3)と共に、ピストン27の往復運動に伴うエンジン16の振動が低減される。
【0030】
ところで、クランク軸25に回転一体に設けられた第1のギアとしての前記プライマリドライブギア32は、図3及び図4に示すように、クランクウェイト38に設けられる。このプライマリドライブギア32は、クランクウェイト38を直接歯切り加工して形成されてもよく、または別途加工されたギアを圧入などによりクランクウェイト38に結合することで形成されてもよい。このプライマリドライブギア32が、前述の如く、第2のギアとしての隣接するプライマリドリブンギア33とバランサドリブンギア37に噛み合い、クランク軸25の回転力をカウンタ軸29とバランサ軸31にそれぞれ伝達する。
【0031】
ここで、プライマリドライブギア32が設けられるクランクウェイト38は、クランク軸25における一端側(例えば車両右端側)に設けられた一対のクランクウェイト38A及び38Bのうち、エンジン16の中心側に位置するクランクウェイト38Aである。
【0032】
後述の如く、プライマリドライブギア32をセンシング(検知)するクランク角センサ41に接続される図示しないケーブルの配索を考慮した場合、プライマリドライブギア32の位置はエンジン16の外側に近い位置であることが望ましい。しかし、クランクウェイト38は、クランク軸25の両端に設置することがエンジン16の振動抑制の観点から効果的であるため、クランクウェイト38Aとクランクウェイト38Bのうち、クランク軸25の最端に位置するクランクウェイト38Bは、本来のクランクウェイトとしたい。これらのことから、プライマリドライブギア32が設けられる位置を上述のクランクウェイト38Aとしたのである。
【0033】
さて、本実施形態のエンジン16は、内燃機関用のクランク角検出装置40を備える。このクランク角検出装置40は、クランク軸25の回転角をクランク角として検出するクランク角センサ41と、このクランク角センサ41がセンシング(検知)の対象とする、クランク軸25に設けられた前記プライマリドライブギア32とを有して構成される。
【0034】
前記プライマリドライブギア32には、周方向の任意の一箇所に、プライマリドライブギア32の径方向に高低差hを有する段差部としての切欠部42が形成されている。この切欠部42は、プライマリドライブギア32における1歯または複数歯(例えば2歯)の歯幅を寸法eだけ縮小することで形成されたものである。例えば、高低差hは10mmに、寸法eは5mmにそれぞれ設定される。
【0035】
プライマリドライブギア32における上記切欠部42を備えた歯46は、エンジン16における全ての気筒で最大燃焼圧力が発生する位相を回避した位相(位置)で、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)に噛み合うように構成されている。つまり、プライマリドライブギア32における切欠部42を備えた歯46は、エンジン16のいずれの気筒における最大燃焼圧力の発生時にも、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)に噛み合わない位相(位置)に設けられる。
【0036】
プライマリドライブギア32からプライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37へ伝達される伝達トルクは、図5に示すように、クランク軸25の1回転で周期的に変化している。プライマリドライブギア32における切欠部42は、プライマリドライブギア32からプライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)へ伝達される伝達トルクが最小の値、例えば図5の点Aに示す0の値となる位相(位置)に設けられることが好ましい。これにより、プライマリドライブギア32における切欠部42を備えた歯46は、上記伝達トルクが最小の値(例えば0の値)で、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)に噛み合うことになり、歯の強度の信頼性が確保される。
【0037】
また、プライマリドライブギア32には、このプライマリドライブギア32のギア径の中心に対し切欠部42と略点対称となる位置に、重量バランサ手段としてのバランサ穴43またはバランサ窪みが形成される。このバランサ穴43等の存在によって、プライマリドライブギア32に切欠部42が形成されている場合でも、プライマリドライブギア32におけるクランク軸25周りの慣性モーメントの中心がプライマリドライブギア32のギア径の中心と略一致する。これにより、プライマリドライブギア32の回転時における重量バランスが良好に確保される。
【0038】
前記クランク角センサ41は、プライマリドライブギア32の切欠部42を基準としてプライマリドライブギア32を検知し、切欠部42による磁界の変化を測定することで、クランク軸25の回転角(つまりクランク角)を検出する。このクランク角センサ41は、クランクケース22の下部、つまりロアクランクケース22Bに設置された開口45に挿入されて設置される。
【0039】
このとき、クランク角センサ41の検出部44は、プライマリドライブギア32の歯に対向すると共に、このプライマリドライブギア32に設けられた切欠部42における高低差hの方向(つまり、プライマリドライブギア32の径方向)に位置づけられる。更に、クランク角センサ41の検出部44は、その中央位置P(図3)が、切欠部42におけるクランク軸25の軸方向に沿う範囲内、つまり切欠部42におけるプライマリドライブギア32の歯幅方向に沿う寸法eの範囲内となるように配置される。
【0040】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(9)を奏する。
【0041】
(1)クランク軸25のクランクウェイト38Aに回転一体に設けられたプライマリドライブギア32に切欠部42が形成され、クランク角センサ41が、切欠部42を基準としてプライマリドライブギア32を検知することでクランク角を検出する。このため、クランク角検出用のセンシングロータ(図6のセンシングロータ102)をクランク軸25の端部に設ける必要がない。この結果、エンジン16の幅方向(つまり自動二輪車1の車幅方向)長さが短縮して、エンジン16の小型化及び軽量化を実現できる。
【0042】
(2)クランク角センサ41が、クランク軸25に回転一体に設けられたプライマリドライブギア32を検知することでクランク軸25のクランク角を検出するので、センシングロータが不要になる。このため、センシングロータ取付用の取付ボルトやワッシャ(図6の取付ボルト107やワッシャ106)等も不要になり、部品点数及び組付工数を低減できる。
【0043】
(3)クランク角センサ41は、センシングロータではなく、クランク軸25に回転一体に設けられたプライマリドライブギア32を直接検知するので、クランク軸25にセンシングロータ102を取り付ける為の隙間分のガタツキの影響がなく、クランク角センサ41の検出精度を向上させることができる。
【0044】
(4)プライマリドライブギア32は、自動二輪車1のバンク角を大きくした場合にも、センシングロータに比べて外径を大きく設定することができる。このため、切欠部42を含むプライマリドライブギア32の周速度が大きくなり、特にクランク軸25の低速回転時においても、信号パルスの波形が明確になって、クランク角センサ41の検出精度を向上させることができる。
【0045】
(5)切欠部42を備えた歯46は、エンジン16における全ての気筒で最大燃焼圧力が発生する位相を回避した位相(位置)で、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)に噛み合うよう構成されている。従って、いずれの気筒における最大燃焼圧力の発生時にも、プライマリドライブギア32における切欠部42を備えた歯46が、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)に噛み合うことがない。
【0046】
このため、プライマリドライブギア32における切欠部42を備えた歯46と、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)との噛み合い時に過大な荷重が作用しない。この結果、プライマリドライブギア33における切欠部42を備えた歯46を、他の歯の歯幅と同一にすることなく、この切欠部42を備えた歯46の強度上の信頼性、ひいてはプライマリドライブギア32の強度上の信頼性を確保できる。
【0047】
(6)特に、切欠部42は、プライマリドライブギア32において、このプライマリドライブギア32からプライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)へ伝達される伝達トルクが0(ゼロ)となる位相(位置)に設けられている。このため、プライマリドライブギア32において切欠部42を備えた歯46が、プライマリドリブンギア33及びバランサドリブンギア37(特にプライマリドリブンギア33)と噛み合うときに、この歯46に作用する荷重が最小になるので、この歯46の強度上の信頼性、ひいてはプライマリドライブギア32の強度上の信頼性をより一層確保できる。
【0048】
(7)クランク角センサ41がプライマリドライブギア32を検知してクランク軸25のクランク角を検出する際に、プライマリドライブギア32の歯幅を縮小して形成された切欠部42をセンシングの基準としている。このため、例えばプライマリドライブギア32の側面に突設された凸部をセンシングの基準にする場合に比べ、プライマリドライブギア32に隣接する部品に対し形状変更や、プライマリドライブギア32の配置位置の変更などが不要になるので、部品のレイアウト面で有利である。
【0049】
(8)プライマリドライブギア32には、このプライマリドライブギア32におけるクランク軸25周りの慣性モーメントの中心がプライマリドライブギア32におけるギア径の中心となるように、このプライマリドライブギア32の重量をバランスさせるバランサ穴43が設けられている。このため、回転時におけるプライマリドライブギア32の重量バランスが良好に確保されて、プライマリドライブギア32に回転振れが発生せず、この結果、クランク軸25の振れ回りの低減に寄与できる。
【0050】
(9)プライマリドライブギア32に設けられる切欠部42は、プライマリドライブギア32の径方向に高低差hを有して形成され、クランク角センサ41の検出部44は、プライマリドライブギア32の歯に対向すると共に、このプライマリドライブギア32に形成された切欠部42の前記高低差hの方向に位置づけられる。このため、切欠部が仮にプライマリドライブギア32の歯幅方向に高低差を有して形成され、この高低差の方向にクランク角センサ41の検出部44が位置づけられた場合に比べ、本実施形態の場合には、プライマリドライブギア32の歯幅の縮小を最小限に抑えることができる。この結果、切欠部42の形成によってもプライマリドライブギア32の強度を良好に確保できる。
【0051】
(10)クランク角センサ41は、クランクケース22の下部に設置されたので、エンジン16の前方に配置されたラジエータやオイルクーラ(共に図示せず)、またはエンジン16の前方を通るエキゾーストパイプ18A等による熱の影響を回避できる。
【0052】
(11)クランク角センサ41の検出部44は、その中央位置Pがプライマリドライブギア32の切欠部42における歯幅方向に沿う寸法eの範囲内に配置されたので、クランク角センサ41の取付位置に誤差が生じた場合にも、このクランク角センサ41による検出精度の低下を防止できる。
【0053】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【0054】
例えば本実施形態では、段差部は、プライマリドライブギア32の歯幅を縮小して形成された切欠部42の場合を述べたが、プライマリドライブギア32の側面に突設された凸部であってもよく、この凸部をクランク角センサ41がセンシングの基準としてもよい。このときクランク角センサ41は、検出部44をプライマリドライブギア32の歯に対向させた位置、またはこの位置に対して90度回転させた位置(つまりプライマリドライブギア32の側面に対向させた位置)にそれぞれ位置づけて、段差部としての前記凸部を検知してもよい。
【符号の説明】
【0055】
16 エンジン(内燃機関)
22 クランクケース
25 クランク軸
29 カウンタ軸
31 バランサ軸
32 プライマリドライブギア(第1のギア)
33 プライマリドリブンギア(第2のギア)
37 バランサドリブンギア(第2のギア)
38、38A クランクウェイト
40 クランク角検出装置
41 クランク角センサ
42 切欠部
43 バランサ穴(重量バランサ手段)
44 検出部
46 切欠部を備えた歯
h 高低差
P 中央位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に備えられたクランク軸と、このクランク軸の回転角をクランク角として検出するクランク角センサと、を有する内燃機関用クランク角検出装置において、
前記クランク軸の一部に第1のギアが回転一体に設けられ、この第1のギアは、隣接する第2のギアに動力を伝達すると共に、一部の歯に切欠部を備え、
前記クランク角センサは、前記切欠部を基準として前記第1のギアを検知することで前記クランク角を検出し、
前記切欠部を備えた歯は、内燃機関における全ての気筒で最大燃焼圧力が発生する位相を回避した位相で前記第2のギアに噛み合うよう構成されたことを特徴とする内燃機関用クランク角検出装置。
【請求項2】
前記第1のギアにおける切欠部は、前記第1のギアから第2のギアへの伝達トルクが0となる位相に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用クランク角検出装置。
【請求項3】
前記切欠部は、第1のギアの歯幅を縮小して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用クランク角検出装置。
【請求項4】
前記第1のギアは、カウンタ軸に設けられた第2のギアとしてのプライマリドリブンギアに噛み合うプライマリドライブギアであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用クランク角検出装置。
【請求項5】
前記第1のギアは、バランサ軸に設けられた第2のギアとしてのバランサドリブンギアに噛み合うバランサドライブギアであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用クランク角検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136997(P2012−136997A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289311(P2010−289311)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】