説明

内燃機関用ピストンの冷却装置

【課題】この発明は、内燃機関用ピストンの冷却装置に関し、プレイグニッションが発生し易い低回転高負荷領域において、プレイグニッションの発生確率を効果的に低減させることを目的とする。
【解決手段】内燃機関10を潤滑する潤滑油をピストン34に向けて噴射可能なオイルジェット機構36を備える。オイルジェット機構36は、内燃機関10の運転領域がプレイグニッションの発生し易い所定の低回転高負荷領域である場合に、爆発行程でのみ、潤滑油がピストン34に向けて噴射されるように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関用ピストンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、エンジンオイル(潤滑油)をピストンに向けて噴射するオイルジェット機構を備える内燃機関用ピストンの冷却装置が開示されている。この従来の冷却装置では、内燃機関の高負荷時に、オイルジェット機構を用いてピストンに向けてエンジンオイルを噴射するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−325694号公報
【特許文献2】特開2008−57500号公報
【特許文献3】特開2010−13996号公報
【特許文献4】特開平4−134120号公報
【特許文献5】特開2003−97269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の低回転高負荷領域には、オイル上がりによって燃焼室側に流入した潤滑油の存在に起因してプレイグニッションが発生し易いプレイグニッション発生領域が存在する。上記従来の技術では、高負荷時にオイルジェット機構を用いてピストンに向けて潤滑油を噴射するため、プレイグニッションの発生を助長させる恐れがある。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、プレイグニッションが発生し易い低回転高負荷領域において、プレイグニッションの発生確率を効果的に低減させることのできる内燃機関用ピストンの冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関用ピストンの冷却装置であって、
内燃機関を潤滑する潤滑油をピストンに向けて噴射可能なオイルジェット機構を備え、
前記オイルジェット機構は、前記内燃機関の運転領域がプレイグニッションの発生し易い所定の低回転高負荷領域である場合に、爆発行程でのみ、前記潤滑油が前記ピストンに向けて噴射されるように制御され、もしくは設定されていることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記内燃機関の運転領域が前記低回転高負荷領域であるか否かを判定するプレイグ領域判定手段と、
前記内燃機関の運転領域が前記低回転高負荷領域であると判定された場合に、爆発行程でのみ前記潤滑油が前記ピストンに向けて噴射されるように前記オイルジェット機構を制御するオイルジェット制御手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1または第2の発明によれば、プレイグニッションの発生し易い低回転高負荷領域では、爆発行程でのみ、潤滑油がピストンに向けて噴射されるようになる。爆発行程は、燃焼により生じた熱がピストンに伝達される期間である。本発明によれば、ピストンの冷却が必要とされるそのような期間に限って潤滑油が噴射される。つまり、潤滑油の噴射が必要最小限の行程での噴射のみに留められることになる。これにより、上記低回転高負荷領域において潤滑油を用いたピストンの冷却を図りつつ、本領域において潤滑油を常時噴射する場合と比べて、シリンダボアに付着する燃料量を低減することができるので、オイル上がり量を低減することができる。その結果、上記低回転高負荷領域におけるプレイグニッションの発生確率を効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1における内燃機関のシステム構成を説明するための図である。
【図2】図1に示す内燃機関の筒内の構成を説明するための模式図である。
【図3】内燃機関の運転領域(トルクとエンジン回転数とで規定)との関係でプレイグニッションの発生領域を表した図である。
【図4】本発明の実施の形態1における特徴的な制御を説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2におけるオイルジェット機構の特徴的な構成を説明するための図である。
【図7】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関10のシステム構成を説明するための図である。内燃機関10の各気筒内には、吸気通路12および排気通路14が連通している。
【0011】
吸気通路12の入口近傍には、エアクリーナ16が取り付けられている。エアクリーナ16の下流近傍には、吸気通路12に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ18が設けられている。エアフローメータ18の下流には、ターボ過給機20のコンプレッサ20aが設置されている。コンプレッサ20aは、排気通路14に配置されたタービン20bと連結軸を介して一体的に連結されている。
【0012】
コンプレッサ20aの下流には、圧縮された空気を冷却するインタークーラ22が設けられている。インタークーラ22の下流には、電子制御式のスロットルバルブ24が設けられている。スロットルバルブ24の近傍には、スロットル開度を検出するためのスロットルポジションセンサ26が配置されている。また、内燃機関10の各気筒には、吸気ポートに燃料を噴射するための燃料噴射弁28が設けられている。更に、内燃機関10の各気筒には、混合気に点火するための点火プラグ30が設けられている。
【0013】
図2は、図1に示す内燃機関10の筒内の構成を説明するための模式図である。
図2に示すように、内燃機関10の各気筒内には、シリンダボア32に沿って往復移動するピストン34が配置されている。また、シリンダボア32の下端部付近には、内燃機関10を潤滑するための潤滑油をピストン34の裏面に向けて噴射するオイルジェット機構36が設置されている。
【0014】
オイルジェット機構36は、潤滑油が流れるオイル通路36aを備えている。オイル通路36aの先端には、図2に示すように、噴出口がピストン34の裏面に向くように設定されたノズル部36a1が設けられている。また、オイル通路36aの途中には、当該オイル通路36aの開閉を担う開閉弁36bが設置されている。より具体的には、開閉弁36bは、後述するECU40からの駆動指令を受けた際に、内燃機関10のクランクシャフト(図示省略)の回転と同期して所定のタイミング(図4を参照して後述)で開閉動作を行うバルブとして構成されているものとする。
【0015】
また、図1に示すように、クランクシャフトの近傍には、エンジン回転数を検出するためのクランク角センサ38が設けられている。図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40の入力部には、上述したエアフローメータ18、スロットルポジションセンサ26およびクランク角センサ38等の内燃機関10の運転状態を検知するための各種センサが接続されている。また、ECU40の出力部には、上述したスロットルバルブ24、燃料噴射弁28、点火プラグ30および開閉弁36b等の内燃機関10の運転状態を制御するための各種アクチュエータが接続されている。ECU40は、上述した各種センサの出力に基づき、所定のプログラムに従って各種アクチュエータを作動させることにより、内燃機関10の運転状態を制御するものである。
【0016】
図3は、内燃機関10の運転領域(トルクとエンジン回転数とで規定)との関係でプレイグニッションの発生領域を表した図である。
図3に示すように、ターボ過給機20を備える内燃機関10の低回転高負荷(トルク)領域には、オイル上がりによって燃焼室42(図2参照)側に流入した潤滑油の存在に起因してプレイグニッションが発生し易いプレイグニッション領域(以下、「プレイグ発生領域」と略する)が存在する。このようなプレイグ発生領域において、オイルジェット機構を用いた潤滑油の噴射が不用意に行われると、プレイグニッションの発生を助長させる恐れがある。
【0017】
図4は、本発明の実施の形態1における特徴的な制御を説明するための図である。
上記の課題を解決するために、本実施形態では、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合には、爆発行程でのみ、潤滑油がピストン34の裏面に向けて噴射されるようにオイルジェット機構36を制御するようにした。
【0018】
具体的には、本実施形態では、上記のようにクランクシャフトの回転と同期して所定のタイミングで開閉動作が可能な開閉弁36bを、図4(A)に示すように爆発行程においては開弁し、かつ、図4(B)に示すように爆発行程以外の行程においては閉弁するように構成した。そのうえで、ECU40が、現在の運転領域が上記プレイグ発生領域であると判定した場合に、図4に示す開閉動作を行うように開閉弁36bに駆動指令を与えるようにした。
【0019】
図5は、上記の機能を実現するために、本実施の形態1においてECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、所定の制御周期毎に繰り返し実行されるものとする。
【0020】
図5に示すルーチンでは、先ず、内燃機関10の現在の運転領域がプレイグ発生領域(図4中にハッチングを付して示す低回転高負荷領域)であるか否かが判定される(ステップ100)。本ステップ100では、運転領域がプレイグ発生領域であるか否かを、トルクを判断するための情報としての吸入空気量とエンジン回転数との関係で上記プレイグ発生領域を予め定めたマップ(図示省略)に基づいて判断する。尚、本判定は、上記の手法に代え、吸気管負圧とエンジン回転数との関係、もしくはスロットル開度とエンジン回転数との関係で上記プレイグ発生領域を予め定めたマップ(図示省略)に基づいて判断してもよい。
【0021】
上記ステップ100において現在の運転領域が上記プレイグ発生領域であると判定された場合には、オイルジェット機構36の開閉弁36bに対して上記図4に示す開閉動作を行う駆動指令が発せられる(ステップ102)。
【0022】
以上説明した図5に示すルーチンによれば、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合に、開閉弁36bが上記図4に示す開閉動作を行うようになる。その結果、上記プレイグ発生領域では、爆発行程でのみ、ノズル部36a1を介して潤滑油がピストン34の裏面に向けて噴射されるようになる。爆発行程は、燃焼により生じた熱がピストン34に伝達される期間である。上記ルーチンの処理によれば、ピストン34の冷却が必要とされるそのような期間に限って潤滑油が噴射される。つまり、潤滑油の噴射が必要最小限の行程での噴射のみに留められることになる。これにより、プレイグ発生領域において潤滑油を用いたピストン34の冷却を図りつつ、本領域において潤滑油を常時噴射する場合と比べて、シリンダボア32に付着する燃料量を低減することができるので、オイル上がり量を低減することができる。その結果、上記プレイグ発生領域におけるプレイグニッションの発生確率を効果的に低減させることができる。
【0023】
ところで、上述した実施の形態1においては、ECU40が、現在の運転領域が上記プレイグ発生領域であるか否かを判定したうえで、上記プレイグ発生領域である場合には、爆発行程でのみ、潤滑油の噴射が行われるように開閉弁36bに駆動指令を発するようになっている。しかしながら、本発明は、このようにECU40からの駆動指令に基づいて開閉弁36bが開閉動作する構成により実現されるものに限定されるものではない。すなわち、本発明は、例えば、内燃機関の運転領域が上記プレイグ発生領域に入った際に、爆発行程でのみ、潤滑油がピストンに向けて噴射されるように設定された(機械仕掛けの)オイルジェット機構を備えるものであってもよい。
【0024】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU40が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第2の発明における「プレイグ領域判定手段」が、上記ステップ102の処理を実行することにより前記第2の発明における「オイルジェット制御手段」が、それぞれ実現されている。
【0025】
実施の形態2.
次に、図6および図7を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
図6は、本発明の実施の形態2におけるオイルジェット機構50の特徴的な構成を説明するための図である。尚、図6は、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合の動作を表した図である。また、図6においては、ピストン34等の図示を省略している。
【0026】
図6に示すオイルジェット機構50は、上述した実施の形態1のオイルジェット機構36と同様に、先端にノズル部50a1が設けられたオイル通路50aと、上記開閉弁36bと同様の構成を有する開閉弁50bとを備えている。そのうえで、オイルジェット機構50は、オイル通路50aの途中に(図6の例では、開閉弁50bの下流側に)、ECU40からの指令に基づいて開閉駆動される電磁弁50cを備えている。
【0027】
上記図6に示す構成のオイルジェット機構50を有する本実施形態のシステムは、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合に、爆発行程でのみ、かつ、間欠的に、潤滑油がピストン34の裏面に向けて噴射されるようにオイルジェット機構50を制御するようにしたという点に特徴を有している。
【0028】
具体的には、本実施形態では、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域に入った場合には、基本的に電磁弁50cを閉じるようにした。そのうえで、プレイグ発生領域での運転時間(積算時間)が所定時間(例えば、30分)よりも長くなった場合に、短時間(一瞬)だけ電磁弁50cを開くようにし、その後は、次の上記所定時間が経過するまで、再び電磁弁50cを閉じるようにした。
【0029】
上記開閉弁36bと同様の構成を有するもう一方の開閉弁50bは、図6に示すように、爆発行程でのみ開くように構成されている。従って、本実施形態のオイルジェット機構50によれば、図6(B)に示すように、爆発行程以外の行程においては、電磁弁50cは間欠的に開閉され、開閉弁50bは閉じられた状態となる。また、図6(A)に示すように、爆発行程においては、電磁弁50cは間欠的に開閉され、開閉弁50bは開かれた状態となる。このため、本実施形態のシステムによれば、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合に、爆発行程でのみ、かつ、間欠的に、潤滑油の噴射が行われるようになる。
【0030】
図7は、上記の機能を実現するために、本実施の形態2においてECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、図7において、実施の形態1における図5に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0031】
図7に示すルーチンでは、ステップ100において現在の運転領域が上記プレイグ発生領域であると判定された場合には、オイルジェット機構50の開閉弁50bに対して上記図6に示す開閉動作を行う駆動指令が発せられる(ステップ200)。この場合には、次いで、電磁弁50cが間欠的に駆動される(ステップ202)。具体的には、プレイグ発生領域での積算運転時間が所定時間(例えば、30分)を経過する毎に、一時的に開くように電磁弁50cが制御される。
【0032】
以上説明した図7に示すルーチンによれば、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合に、爆発行程でのみ、かつ、間欠的に、潤滑油の噴射が行われるようになる。これにより、上述した実施の形態1におけるオイルジェット噴射と比べて、潤滑油を噴射する機会が必要最小限に減らされる。これにより、プレイグ発生領域での潤滑油を用いたピストン34の冷却を図りつつ、上述した実施の形態1と比べて、シリンダボア32に付着する燃料量を更に低減することができるので、オイル上がり量を更に低減することができる。その結果、上記プレイグ発生領域におけるプレイグニッションの発生確率を更に効果的に低減させることができる。
【0033】
尚、上記図6および図7に示す制御例では、内燃機関10の運転領域が上記プレイグ発生領域である場合に、爆発行程でのみ、かつ、間欠的に、潤滑油の噴射を行うオイルジェット機構50について説明を行った。このような制御例以外にも、例えば、次のような制御を行ってもよい。すなわち、上記電磁弁50cと同様の電磁弁のみを有するオイルジェット機構を備えるようにし、爆発行程かそれ以外の行程であるかを問わずに、プレイグ発生領域での運転時間(積算時間)が所定時間(例えば、30分)よりも長い場合に、短時間だけ電磁弁を開くようにし、その後は、次の上記所定時間が経過するまで、再び電磁弁を閉じるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 内燃機関
12 吸気通路
14 排気通路
18 エアフローメータ
20 ターボ過給機
20a コンプレッサ
20b タービン
24 スロットルバルブ
26 スロットルポジションセンサ
28 燃料噴射弁
30 点火プラグ
32 シリンダボア
34 ピストン
36、50 オイルジェット機構
36a、50a オイル通路
36a1、50a1 ノズル部
36b、50b 開閉弁
38 クランク角センサ
40 ECU(Electronic Control Unit)
42 燃焼室
50c 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を潤滑する潤滑油をピストンに向けて噴射可能なオイルジェット機構を備え、
前記オイルジェット機構は、前記内燃機関の運転領域がプレイグニッションの発生し易い所定の低回転高負荷領域である場合に、爆発行程でのみ、前記潤滑油が前記ピストンに向けて噴射されるように制御され、もしくは設定されていることを特徴とする内燃機関用ピストンの冷却装置。
【請求項2】
前記内燃機関の運転領域が前記低回転高負荷領域であるか否かを判定するプレイグ領域判定手段と、
前記内燃機関の運転領域が前記低回転高負荷領域であると判定された場合に、爆発行程でのみ前記潤滑油が前記ピストンに向けて噴射されるように前記オイルジェット機構を制御するオイルジェット制御手段と、
を更に備えることを特徴とする内燃機関用ピストンの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−136953(P2012−136953A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288016(P2010−288016)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】