説明

内燃機関用点火コイル

【課題】導電体と点火プラグとの接続を、より高信頼性なものへと安価に達成する。
【解決手段】内燃機関用点火コイル1のジョイント20を構成するブーツ23を、内部空間を水平方向に分割する分割部232を有し、全体として竹筒のような内部形状となるように形成し、かつ、この分割部232に、点火プラグの頭部を通過させ、スプリング18の点火プラグ側端部181を通過させない弁形状にした切れ目232aを設けてなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンの点火プラグにおいて火花放電を発生させるために、点火プラグに高電圧を供給するモールド型の内燃機関用点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関用点火コイルの一例を以下に説明する。
【0003】
従来の内燃機関用点火コイルは、例えば、閉磁路を形成するセンタ鉄心およびサイド鉄心と、このセンタ鉄心の外周に巻回され、通電されることによりセンタ鉄心およびサイド鉄心を励磁する一次コイルと、この一次コイルの外周に巻回され、一次コイルの通電に基づいて高電圧が誘起される二次コイルと、これらの部品を収容するケースと、このケースに充填されて硬化し、一次コイル、二次コイル、センタ鉄心およびサイド鉄心の各間の絶縁を行う絶縁材(例えば、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂)と、ケースに設けられ、二次コイルで誘起された高電圧を受け取る高圧端子と、この高圧端子に接続され、高圧端子で受け取られた高電圧を点火プラグに伝達するスプリングと、このスプリングからの放電を防止して絶縁するためのラバー、アダプタ、ブーツからなる絶縁性のジョイントとから構成されている。
【0004】
ここで、図4に示すように、スプリング18は、点火プラグ側端部181が、点火プラグの頭部を包み込むように巻き径が大きく形成されている。また、ジョイント20を構成するブーツ23には、中心部に貫通孔を有する段部231が形成されている。これにより、内燃機関用点火コイルと点火プラグとは、スプリング18の巻き径が大きく形成された点火プラグ側端部181が、ブーツ23の段部231に載置されるようになるとともに、図示を省略した点火プラグが図4においてブーツ23の下端側から挿入され、点火プラグの頭部が、段部231の貫通孔を通過してスプリング18の点火プラグ側端部181に接触するようになって、接続状態が維持されるようになる。なお、スプリング18の点火プラグ側端部181は、巻き径が大きく形成されてブーツ23の段部231に載置されているので、スプリング18の点火プラグ側への脱落防止が図られている。
【0005】
下記特許文献1では、上述のように、スプリングの点火プラグ側端部を、巻き径を大きく形成するとともに、ブーツに段部を設けることで、スプリングをブーツの段部に載置させてスプリングの点火プラグ側への脱落防止を図ることができる内燃機関用点火コイルに係る発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3936944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来例では、スプリング18の点火プラグ側端部181と点火プラグの頭部との寸法上、段部231を形成する自由度に大きな制約があり、スプリング18の脱落防止を確実に図ることが容易とはいえなかった。例えば、脱落防止を確実なものとするため、段部231の貫通孔を小さくすれば、この貫通孔に点火プラグの頭部を通過させ、スプリング18に接続させることが困難になる一方、点火プラグの頭部を確実に通過させ、スプリング18との接続の信頼性を高めようとして貫通孔を大きくすれば、スプリング18の脱落防止の確実性が劣ってしまうという問題があった。また、スプリング18や点火プラグは、寸法が常に同一のものが内燃機関用点火コイルの構成部品として採用されるとは限らず、これらの寸法が変わるたびにブーツ23の段部231の大きさを変更する必要があり、スプリング18の脱落防止に対応しようとすれば、バラエティに富んだ段部231を用意しなければならない、すなわち複数のブーツ23(あるいは、ブーツ23を成形するための複数の金型)をあらかじめ用意しなければならないという煩雑さもあった。
【0008】
この発明は、上記実情に鑑み提案され、スプリングと点火プラグとの接続に関する信頼性を損なうことなくスプリングの脱落を防止するとともに、様々な寸法のスプリングや点火プラグの接続にも対応可能としてコストダウンにつながる内燃機関用点火コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、この鉄心、前記一次コイル及び二次コイルを収容するケースと、このケースに設けられ、前記二次コイルで電磁誘導により発生させた高電圧を受け取る高圧端子と、この高圧端子に接続され、前記高圧端子で受け取られた前記高電圧を点火プラグに伝達する導電体と、この導電体を収容する絶縁性のジョイントとから構成される内燃機関用点火コイルにおいて、前記ジョイントを、内部空間が分割される分割部を有する竹筒状に形成し、この分割部に前記点火プラグの頭部を通過させ、前記導電体を通過させない切れ目を設けて構成したことを特徴としている。
【0010】
特に、上記内燃機関用点火コイルでは、ジョイントの分割部に設ける切れ目を弁形状にすることが好ましい。また、導電体はスプリングであり、このスプリングがジョイントに収容されると、分割部により圧縮状態に保持されることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ジョイントを、内部空間が分割される分割部を有する竹筒状に形成し、この分割部に点火プラグの頭部を通過させ、導電体を通過させない切れ目を設けて内燃機関用点火コイルを構成したので、分割部の切れ目によって点火プラグの頭部を通過させ、導電体を通過させないようにすることができ、導電体の脱落防止を図ることができる。特に、分割部に切れ目を設けるといった自由度の大きな手法により、従来のように導電体の脱落防止のために、段部の貫通孔の大小を詳細に検討することを不要とするので、容易に導電体の脱落防止を達成することが可能となる。したがって、安価に導電体と点火プラグとの接続に関する信頼性を損なうことなく導電体の脱落を防止することができる。さらには、分割部に切れ目を設けるといった自由度の大きな手法であるので、様々な寸法のスプリングや点火プラグの接続にも対応可能とし、コストダウンにもつながる内燃機関用点火コイルを提供することができる。
【0012】
また、本発明では、ジョイントの分割部に設ける切れ目を弁形状にすることで、点火プラグの頭部を通過させ、導電体を通過させないようにすることを確実かつ容易に達成することができる。特に、切れ目が弁形状であり、容易に形成可能な形状であるので、安価に、導電体と点火プラグとの接続に関する信頼性を損なうことなく導電体の脱落を防止することができる。なお、分割部の切れ目が弁形状であれば、分割部を形成するための自由度も大きいので、様々な寸法のスプリングや点火プラグの接続にも対応でき、コストダウンも大いに見込めるものとなる。
【0013】
さらに、本発明では、導電体がスプリングであり、このスプリングがジョイントに収容されると、分割部により圧縮状態に保持される構成であるので、二次コイルで電磁誘導により発生させた高電圧を、導電体を介して確実に点火プラグに導くことができ、導電体と点火プラグとの接続に関する信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る内燃機関用点火コイルの一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る内燃機関用点火コイルの要部を、一部断面にして斜視にて示す一部断面要部斜視図である。
【図3】本発明における分割部の切れ目の変形例を説明する説明図である。
【図4】従来の内燃機関用点火コイルにおけるブーツ付近を拡大した縦断面で示す概略拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る内燃機関用点火コイルについて、一実施形態を図面とともに説明する。なお、以下説明する一実施形態は、本発明の構成を具現化した一例に過ぎず、本発明は多数の実施形態を含むものである。また、図4に従来例として示した内燃機関用点火コイルと同一又は相当部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0016】
本発明に係る内燃機関用点火コイル1は、図1に示すように、閉磁路を形成するセンタ鉄心13およびサイド鉄心14と、センタ鉄心13の外周に巻回され、通電されることによりセンタ鉄心13およびサイド鉄心14を励磁する一次コイル11と、一次コイル11の外周に巻回され、一次コイル11の通電に基づいて高電圧が誘起される二次コイル12と、これらの部品を収容するケース15と、ケース15に充填されて硬化し、一次コイル11、二次コイル12、センタ鉄心13およびサイド鉄心14の各間の絶縁を行う絶縁材16と、ケース15に設けられ、二次コイル12で誘起された高電圧を受け取る高圧端子17と、高圧端子17に接続され、高圧端子17で受け取られた高電圧を点火プラグに伝達する導電体としてのスプリング18と、スプリング18を収容することで、スプリング18からの放電を防止して絶縁するラバー21、アダプタ22、ブーツ23からなる絶縁性のジョイント20と、から構成されている。
【0017】
なお、本発明に係る内燃機関用点火コイル1におけるジョイント20は、ラバー21、アダプタ22およびブーツ23からなる上記実施形態の例のほか、アダプタ22を省略し、収納ケースの一部、ラバーおよびブーツにより構成される形態とすることも可能である。スプリング18は、本実施形態のように一体的な構成としてもよく、スプリングを複数に分割し、高電圧の逆流を防止する抵抗体等を間に挟んだ構成としてもよい。また、スプリング18は、点火プラグ側端部181が巻き径を大きく形成されることが好ましい。
【0018】
ここで、本発明に係る内燃機関用点火コイル1は、図2に示すように、ジョイント20を構成するブーツ23の内側に、従来の段部に代わるものとして、内部空間を図1において水平方向に分割する分割部232を有し、全体として内部が竹筒様の形態となるように形成されている。さらに、この分割部232には、点火プラグの頭部(図示省略)を通過させ、スプリング18の点火プラグ側端部181を通過させない切れ目、特に、弁形状とした切れ目232aが設けられている。また、この分割部232は、ジョイント20のアダプタ22内にスプリング18を挿入して内燃機関用点火コイル1を組立てる際に、スプリング18を圧縮状態にて保持することが可能なブーツ23の内側の位置に設定される。
【0019】
以下、本発明に係る内燃機関用点火コイル1の組立と、その後の点火プラグとの接続について、図1とともに簡単に説明する。
【0020】
まず、センタ鉄心13およびサイド鉄心14と、一次コイル11と、二次コイル12とでコイル−鉄心組立体を構成し、このコイル−鉄心組立体をケース内に収容する。続いて、このケース15に設けた高圧端子17と二次コイル12との接続を確認するとともに、絶縁材16を充填し、硬化させてコイル−鉄心組立体の各部品間の絶縁を確保する。さらに、高圧端子17にスプリング18を接続するとともに、このスプリング18をジョイント20に挿入して収容し、内燃機関用点火コイル1の組立が終了する。なお、ジョイント20は、高圧端子17にラバー21側が配置される向きで、スプリング18を収容するように留意する。
【0021】
ジョイント20にスプリング18を収容すると、ブーツ23の分割部232にスプリング18の点火プラグ側端部181が当接するようになる。特に、ブーツ23の分割部232は、スプリング18を圧縮状態で保持することができる位置に設定されているため、スプリング18が圧縮したままの状態で内燃機関用点火コイル1の組立が終了することになる。
【0022】
次に、内燃機関用点火コイル1の組立を終えると、点火プラグをブーツ23の図1において下端側から挿入する。そうすると、点火プラグの頭部は、分割部232の弁形状に形成された切れ目232aを通過(突破)し、巻き径が大きく形成されたスプリング18の点火プラグ側端部181に接触して、点火プラグとスプリング18との接続状態が成立するようになる。スプリング18は、ブーツ23の分割部232に貫通孔がなく、弁形状の切れ目232aのみが形成された構成であるために、点火プラグ側に脱落することがなくなる。
【0023】
このように、本発明に係る内燃機関用点火コイル1では、ジョイント20を構成するブーツ23の内部を、内部空間が分割される分割部232を設けた竹筒状に形成し、この分割部232にてスプリング18の点火プラグ側端部181を通過させないで当接させ、かつ、スプリング18を圧縮状態にて保持する構成としている。さらに、分割部232に点火プラグの頭部を通過させる弁形状の切れ目232aを設け、点火プラグの頭部を容易に通過(突破)させることが可能な構成ともしている。
【0024】
したがって、本発明に係る内燃機関用点火コイル1は、分割部232と、分割部232に設けた弁形状の切れ目232aによって、容易に点火プラグの頭部が分割部232を通過(突破)するとともに、スプリング18の点火プラグ側端部181が分割部232に当接して通過することができない構成となり、スプリング18の脱落防止を確実に達成することができる。特に、分割部232に切れ目232aを設けるといった自由度の大きな手法、特に、切れ目232aを複雑な形状ではない弁形状とする手法により、容易に、スプリング18の脱落防止を達成することができ、安価にスプリング18と点火プラグとの接続に関する信頼性を向上させることができる。本発明は、スプリング18がジョイント20に収容されると、ブーツ23の分割部232により圧縮状態に保持される構成であるので、二次コイル12で電磁誘導により発生させた高電圧を、スプリング18を介して確実に点火プラグに導くことができ、スプリング18と点火プラグとの接続に関する信頼性を一段と向上させることができる。このほか、分割部232に切れ目232aを設けるといった自由度の大きな手法は、様々な寸法のスプリングや点火プラグの接続に対応可能であり、内燃機関用点火コイル自体のコストダウンにつながることが期待できる。
【0025】
なお、ブーツ23は、絶縁性と弾性を有する材質であって、分割部232と、この分割部232に設けた切れ目232aにより、点火プラグの頭部を通過させ、スプリング18の点火プラグ側端部を通過させないようにすることを達成するものである限り、適宜のもので形成することが可能である。例えば、弾性のある絶縁性のゴム材、さらに具体的には、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴムといったもので形成することを例示することができる。また、分割部232の厚みは、点火プラグの頭部を通過させ、スプリング18の点火プラグ側端部181を通過させないようにするために、1mm程度以上あれば十分である。なお、1mm以下であっても、形状、寸法、材料硬度などを適宜調整すれば、スプリング18の脱落を防止することができる。
【0026】
ここで、上記実施形態では、ブーツ23の分割部232の切れ目232aの形状について弁形状を例示して説明したが、この形状に限定されるものではない。例えば、図3に示すように、切れ目を十文字に入れた形状、変形した三角形状、星形の形状等、点火プラグの頭部を通過させるとともに、スプリング18の点火プラグ側端部181を通過させないで、かつ、自由度の大きい分割部232とすることができる切れ目を形成すればよい。すなわち、本発明におけるブーツの分割部の切れ目の形状は無数に作成することが可能である、ということができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態を例示して詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【0028】
例えば、本発明は、開磁路を形成する鉄心を備えた内燃機関用点火コイルにも適用することができる。さらに、導電体はスプリングのほか、分割部や分割部に設けた切れ目との関係から適宜選ばれる導電体を採用可能である。その他、本発明に係る内燃機関用点火コイルを構成する各構成部品については、公知の手段により成形することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・・内燃機関用点火コイル
11・・・一次コイル
12・・・二次コイル
13・・・センタ鉄心
14・・・サイド鉄心
15・・・ケース
16・・・絶縁材
17・・・高圧端子
18・・・スプリング
181・・点火プラグ側端部
20・・・ジョイント
21・・・ラバー
22・・・アダプタ
23・・・ブーツ
231・・段部(従来)
232・・分割部
232a・切れ目(弁形状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイル及び二次コイルと、これら二つのコイルを磁気的に結合させる鉄心と、この鉄心、前記一次コイル及び二次コイルを収容するケースと、このケースに設けられ、前記二次コイルで電磁誘導により発生させた高電圧を受け取る高圧端子と、この高圧端子に接続され、前記高圧端子で受け取られた前記高電圧を点火プラグに伝達する導電体と、この導電体を収容する絶縁性のジョイントとから構成される内燃機関用点火コイルにおいて、
前記ジョイントは、内部空間が分割される分割部を有する竹筒状に形成され、この分割部に前記点火プラグの頭部を通過させ、前記導電体を通過させない切れ目が設けられている、
ことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記切れ目は弁形状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記導電体はスプリングであり、
このスプリングが前記ジョイントに収容されると、前記分割部により圧縮状態に保持される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関用点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154275(P2012−154275A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15300(P2011−15300)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000174426)日立オートモティブシステムズ阪神株式会社 (291)
【Fターム(参考)】