説明

内燃機関

【課題】吸気バルブへの燃料の付着を減少させること
【解決手段】吸気ポート11b又は/及び燃焼室CCに燃料を噴射する燃料噴射装置41と、この燃料噴射装置41から噴射された燃料の流動経路上に配置され又は当該流動経路上に移動する吸気バルブ31と、を備えた内燃機関において、その吸気バルブ31の温度分布を測定するバルブ温度測定手段又は当該温度分布を推定するバルブ温度推定手段(電子制御装置1)と、燃料噴射装置41からの燃料の流動経路上に吸気バルブ31の高温部分を移動させるべく当該吸気バルブ31をバルブステムの軸線を中心にして回転させるバルブ回転手段32と、を設けること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置からの燃料の流動経路上に吸気バルブが存在している内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関においては、機関回転数等の様々な運転条件に応じた良好な燃焼を実現させる為に、その運転条件に応じた空燃比の混合気を燃焼室内に形成させるべく種々の制御が為されている。
【0003】
尚、下記の特許文献1には、吸気バルブの温度の均一化と低減化を図る為に当該吸気バルブの周方向への回転を促進させる技術が開示されている。また、下記の特許文献2には、バルブ本体のフェースとバルブシートにおけるカーボン等の固形物の介在の防止を目的として、バルブステムに螺旋溝を設け、バルブの往復運動に連動させてバルブ本体を周方向に回転させる技術が開示されている。また、下記の特許文献3,4には、バルブやその関連部品の偏磨耗の抑制を目的として、バルブを周方向に回転させる技術が開示されている。その特許文献4においては、電磁駆動手段によってバルブを回転させている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−14014号公報
【特許文献2】実開昭63−118314号公報
【特許文献3】特開平8−21213号公報
【特許文献4】特開平8−135417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の内燃機関においては、燃料噴射装置からの噴霧燃料の一部が気化されずに吸気バルブ(特に、その傘部)に付着してしまうので、上記の運転条件に応じた空燃比よりも実際の空燃比は希薄になり、その乖離幅を考慮に入れた上で補正等して空燃比制御を行わなければ、その運転条件に応じた良好な燃焼を実現することができない。従って、この従来の内燃機関においては、応答遅れが発生するなど空燃比制御性が悪く、これ以外の燃焼制御等によって燃焼状態を良好なものにしなければならなかった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、吸気バルブへの燃料の付着を減少させることが可能な内燃機関を提供することを、その目的とする。
【0007】
尚、上記特許文献1には吸気バルブの一部分の温度が特に高くなると不正燃焼の原因になる旨記載されているが、その不正燃焼の具体的な原因が如何なるものであるのか、更には、吸気バルブの回転によって如何様にして温度の均一化と低減化が図られるのかについて何ら開示されていない。しかしながら、かかる特許文献1の発明は、吸気バルブの温度の均一化と低減化を目的としたものであり、後述する本発明における高温部分を利用した燃料の気化促進との観点とは大きく相違するので、本発明とは目的が異なる。また、上記特許文献2〜4についても目的が本発明とは相違する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、吸気ポート又は/及び燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、この燃料噴射装置から噴射された燃料の流動経路上に配置され又は当該流動経路上に移動する吸気バルブと、を備えた内燃機関において、その吸気バルブの温度分布を測定するバルブ温度測定手段又は当該温度分布を推定するバルブ温度推定手段と、燃料噴射装置からの燃料の流動経路上に吸気バルブの高温部分を移動させるべく当該吸気バルブをバルブステムの軸線を中心にして回転させるバルブ回転手段と、を設けている。
【0009】
この請求項1記載の内燃機関においては、吸気バルブの高温部分に噴霧燃料が当たり、その燃料が吸気バルブの高温部分で気化されるので、吸気バルブへの液状の燃料の付着が減少する。
【0010】
また、上記目的を達成する為、請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の内燃機関において、燃料噴射装置の燃料噴射時期に合わせて吸気バルブの回転動作を実行させるべくバルブ回転手段を構成している。
【0011】
この請求項2記載の内燃機関においては、例えば、燃料噴射開始前に吸気バルブを回転させれば確実に吸気バルブの高温部分へと噴霧燃料が当たるようになり、吸気バルブへの液状の燃料の付着を確実に減少させることができる。また、この内燃機関においては、例えば、燃料噴射期間中に吸気バルブを回転させれば、噴霧燃料がより多くの高温部分に当たるので気化され易くなり、吸気バルブへの液状の燃料の付着を効率良く減少させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る内燃機関においては、吸気バルブに当たった噴霧燃料がその高温部分を利用して気化され、これが燃焼室内に混合気として送られる。これが為、この内燃機関においては、吸気バルブへの液状の燃料の付着が減少し、運転条件に応じた空燃比に実際の空燃比を近づけることが可能になるので、その運転条件に応じた良好な燃焼を実現することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る内燃機関の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
本発明に係る内燃機関の実施例1を図1から図4に基づいて説明する。
【0015】
この内燃機関は、図1に示す電子制御装置(ECU)1によって燃焼制御等が行われる。その電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),CPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
【0016】
最初に、ここで例示する内燃機関の構成についての説明を行う。
【0017】
この内燃機関には、燃焼室CCを形成するシリンダヘッド11,シリンダブロック12及びピストン13が備えられている。ここで、そのシリンダヘッド11とシリンダブロック12は図1に示すヘッドガスケット14を介してボルト等で締結されており、これにより形成されるシリンダヘッド11の下面の凹部11aとシリンダブロック12のシリンダボア12aとの空間内にピストン13が往復移動可能に配置される。そして、上述した燃焼室CCは、そのシリンダヘッド11の凹部11aの壁面とシリンダボア12aの壁面とピストン13の頂面13aとで囲まれた空間によって構成される。
【0018】
その燃焼室CCには、図1に示す吸気通路21とシリンダヘッド11の吸気ポート11bを介して外部からの空気が導入される。
【0019】
ここで、その吸気通路21上には、導入した外部の空気から塵埃等の異物を除去するエアクリーナ22と、外部からの吸入空気量を検出するエアフロメータ23と、が設けられている。この内燃機関においては、そのエアフロメータ23の検出信号が電子制御装置1へと送られ、この電子制御装置1においてその検出信号に基づき外部からの吸入空気量が算出される。
【0020】
また、吸気通路21上におけるエアフロメータ23よりも下流側には、燃焼室CC内への吸入空気量を調節するスロットルバルブ24と、このスロットルバルブ24を開閉駆動するスロットルバルブアクチュエータ25と、が設けられている。電子制御装置1は、そのスロットルバルブアクチュエータ25に対してスロットルバルブ24の開弁角度の制御指令を行い、その開弁角度に応じた所望の吸入空気量を燃焼室CC内へと吸入させる。この内燃機関においては、そのスロットルバルブ24の開度を検出するスロットル開度センサ26が設けられており、このスロットル開度センサ26の検出信号が電子制御装置1へと送られる。
【0021】
一方、吸気ポート11bはその一端が燃焼室CCに開口しており、その開口部分に当該開口を開閉させ得る吸気バルブ31が配設されている。例えば、この吸気バルブ31は、図示しない吸気側カムシャフトの回転と弾性部材(弦巻バネ)の弾発力に伴って開閉駆動する。この内燃機関においては、その吸気バルブ31を開弁させることによって吸気ポート11bから燃焼室CC内に空気が吸入される一方、その吸気バルブ31を閉弁させることによって燃焼室CC内への空気の流入が遮断される。尚、その吸気ポート11bにおける燃焼室CC内への開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に吸気バルブ31が配備される。
【0022】
更に、本実施例1の内燃機関においては、その吸気ポート11b内に燃料を噴射する燃料噴射装置41が配備されている。この燃料噴射装置41は、電子制御装置1によって燃料噴射量,燃料噴射時期及び燃料噴射期間等が制御される。例えば、その電子制御装置1は、内燃機関の運転条件等に応じてスロットルバルブアクチュエータ25の開弁角度と燃料噴射装置41の燃料噴射量等を制御し、これにより生成された空気と燃料の混合気を燃焼室CC内に吸入させる。
【0023】
この電子制御装置1は、図1に示す点火プラグ51の点火時期を制御して、燃焼室CC内に形成された混合気への点火を実行させる。これにより、この内燃機関においては、燃焼動作が開始される。そして、燃焼後の筒内ガスは、燃焼室CCから図1に示す排気ポート11cへと排出される。ここで、この排気ポート11cには、燃焼室CCとの間の開口を開閉させ得る排気バルブ61が配設されている。例えば、この排気バルブ61は、図示しない排気側カムシャフトの回転と弾性部材(弦巻バネ)の弾発力に伴って開閉駆動する。これが為、その排気バルブ61を開弁させることによって燃焼室CC内から排気ポート11cに燃焼後の筒内ガスが排出され、その排気バルブ61を閉弁させることによって筒内ガスの排気ポート11cへの排出が遮断される。尚、その排気ポート11cにおける燃焼室CC内への開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に上述した排気バルブ61が配備される。
【0024】
また更に、本実施例1の内燃機関には、クランクシャフト15の回転角度を検出するクランク角センサ71及び冷却水の温度を検出する水温センサ72等の各種センサが設けられている。これら各種センサの検出信号についても夫々電子制御装置1に送られる。
【0025】
ところで、燃焼室CC内の混合気は、機関回転数や負荷等の様々な運転条件で良好な燃焼制御を実行させるべく、その運転条件等に応じて要求された最良の空燃比となるよう緻密に制御される。以下においては、その空燃比を「要求空燃比」という。
【0026】
しかしながら、燃料噴射装置41から噴射された噴霧燃料の一部が気化されぬまま吸気バルブ31(特に、その傘部)に付着してしまうので、実際に生成された混合気の空燃比が要求空燃比よりも希薄になり、このままでは運転条件に対応させた所望の燃焼を行うことができない。これが為、実際には、例えば、排気ガス中の残存酸素量等から実際に生成された空燃比を推測し、フィードバック制御によって実際の空燃比を要求空燃比に補正しなければならないので、応答遅れが発生するなど空燃比制御性が悪い。
【0027】
一方、燃料噴射装置41からの噴霧燃料は予め定められた噴霧角や噴射角度で噴射されるので既定の流動経路しか辿らず、また、吸気バルブ31はバルブステムの軸線方向に往復移動するのみであるので、その吸気バルブ31には、略固定された位置に液状の燃料が付着する。そして、通常の内燃機関においては吸気バルブ31の全体(特に、その傘部の全体)に均等に液状の燃料が付着するわけではないので、その吸気バルブ31の温度分布は、多くの場合不均一になっている。即ち、吸気バルブ31は、液状の燃料の付着箇所において燃料の気化潜熱で温度が低下させられるので、その付着量の多少にも影響されるが、その付着箇所と未付着箇所とで温度差が生じてしまう可能性がある。
【0028】
そこで、本実施例1にあっては、バルブステムの軸線を中心にして吸気バルブ31を回転させ、その吸気バルブ31の中でも相対的に高温となっている部分に噴霧燃料を当てて液状の燃料の付着を減少させるべく、以下のように構成する。ここでは、燃料噴射装置41からの噴霧燃料の流動経路上に吸気バルブ31の傘部の一部分が存在しているものとして説明する。
【0029】
この内燃機関においては、その吸気バルブ31をバルブステムの軸線を中心にして回転させるバルブ回転手段32を設ける。このバルブ回転手段32としては、例えば、電動モータの駆動力や油圧発生装置の油圧等をバルブステムの軸線中心の回転力として伝達する駆動装置などが考えられる。
【0030】
このバルブ回転手段32は、電子制御装置1によって駆動制御させる。
【0031】
ここで、閉弁状態のときに吸気バルブ31を回転させた場合には、その傘部とバルブシート(シートリング)との間に磨耗が発生し、また、その間の摩擦に伴ってバルブ回転手段32の駆動力を無駄に高めなければならないので好ましくない。これが為、本実施例1にあっては、吸気バルブ31が開弁状態(例えば、吸気行程)のときにバルブ回転手段32を駆動させる。その際、バルブ回転手段32の駆動時期か否かについては、吸気バルブ31の開弁状態(吸気行程)を判断し得る周知の技術を利用して判定する。例えば、本実施例1の如き内燃機関の場合、電子制御装置1は、クランクシャフト15の回転角度や吸気側カムシャフトの回転角度の情報を用いて、吸気バルブ31の開弁状態(吸気行程)を判断することができる。また、吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を可変させ得る所謂可変バルブタイミング&リフト機構が配備された内燃機関の場合、電子制御装置1は、その可変バルブタイミング&リフト機構に対する吸気バルブ31の開弁指令から判断することができる。
【0032】
具体的に、本実施例1の電子制御装置1は、例えば、予め定めた所定の回転角度で吸気バルブ31を回転させるように設定することができる。その際の所定の回転角度としては、吸気バルブ31の傘部における燃料の付着面積を予め実験やシミュレーションから求め、少なくとも燃料の未付着箇所を燃料の流動経路上まで移動させ得るだけの角度に設定する。尚、燃料の未付着箇所よりも付着箇所の範囲内に相対的な高温部分が存在している場合には、その高温部分まで移動させる角度を回転角度として設定する。
【0033】
これにより、本実施例1の内燃機関においては、吸気バルブ31の傘部の相対的な高温部分に噴霧燃料が当たるようになるので、この高温部分に接した燃料の気化が促進され、その傘部への液状の燃料の付着を減少させることができる。従って、この内燃機関においては、その傘部に当たって気化した燃料についても空気と混合させて燃焼室CC内に送れるので、その燃焼室CC内に形成された混合気の実際の空燃比を要求空燃比に近づけることができる。これが為、この内燃機関は、その要求空燃比への補正が不要になる又は補正量が軽減されるので、空燃比制御性が向上し、運転条件に応じた良好な燃焼制御を実行することができるようになる。
【0034】
ところで、上述したバルブ回転手段32は、図示しないが、吸気バルブ31のバルブステムの外周面に形成した螺旋状の溝と、この螺旋状の溝に連通し且つそのバルブステムの外周面に形成した軸線方向の溝と、そのバルブステムの外周面と対向する内周面に突起が形成された筒体と、を備えて構成することができる。かかるバルブ回転手段32は、吸気バルブ31が上昇(又は下降)する際に筒体の突起を螺旋状の溝に沿わせて上記の所定の回転角度で回転させ、吸気バルブ31が下降(又は上昇)する際にその突起を軸線方向の溝に沿わせて回転させないように設定したものである。これにより、電子制御装置1による制御や電動モータ等が不要になるので、吸気バルブ31の傘部への液状の燃料の付着を減少させつつシステムの簡素化を図ることができる。
【0035】
ここで、吸気バルブ31は、多くの状況下でその温度分布が不均等になっているものとの仮定を前提にして吸気行程毎に少なくとも1度ずつ回転させてもよいが、燃料噴射量や筒内圧如何ではその温度分布が均等になっており、あえて回転させる必要がないとの状況も考えられる。これが為、吸気バルブ31については、その温度分布を知った上で回転させることが好ましい。従って、本実施例1にあっては、吸気バルブ31の傘部の温度分布を測定するバルブ温度測定手段又は当該温度分布を推定するバルブ温度推定手段を設ける。そのバルブ温度測定手段やバルブ温度推定手段は、電子制御装置1の一機能として配備する。
【0036】
バルブ温度測定手段については、例えば、図2に示す如く、吸気バルブ31の傘部31aに周方向に等間隔で埋設した複数の熱電対等の温度センサ73の検出信号から測定させる。ここでは、その傘部31aを周方向にて4つに区画し、その4つのセル31a1〜31a4に温度センサ73を各々埋設する。
【0037】
また、バルブ温度推定手段については、例えば、その夫々のセル31a1〜31a4の熱収支から当該各セル31a1〜31a4の温度を求め、これにより傘部31aの温度分布を推定させる。
【0038】
具体的に、このバルブ温度推定手段は、機関始動直後や電子制御装置1がイグニッションON信号を検知した後に、図3のフローチャートに示す如く各セル31a1〜31a4の初期温度Tvを各々算出する(ステップST1)。その際の吸気バルブ31やシリンダヘッド11等は冷却水と同等の温度になっているものと推定できるので、バルブ温度推定手段は、水温センサ72の検出信号から冷却水温度Twを求め、これを各セル31a1〜31a4の初期温度Tvとして設定する。
【0039】
続いて、このバルブ温度推定手段は、後の工程で用いる各種状態量を取得する(ステップST2)。その状態量としては、クランクシャフト15の回転角度や吸気側カムシャフトの回転角度等を取得する。
【0040】
そして、このバルブ温度推定手段は、クランクシャフト15の回転角度や吸気側カムシャフトの回転角度の情報を用いて、吸気バルブ31が開弁状態であるか閉弁状態であるかについて判断する(ステップST3)。
【0041】
ここで、吸気バルブ31が開弁状態にあれば、バルブ温度推定手段は、その吸気バルブ31(特に、傘部31a)の近傍においてのガスの流動方向を判断する(ステップST4)。そのガスとは、大別すれば、燃焼室CCに吸入される空気(混合気)と燃焼室CCから逆流する筒内ガス(燃焼ガス)とがある。従って、このバルブ温度推定手段は、例えば、クランクシャフト15の回転角度や吸気側カムシャフトの回転角度に基づいて、吸気行程中のバルブオーバーラップ期間以外と判定した場合にガスの流動方向を順流(空気の吸入)と判断し、吸気行程中のバルブオーバーラップ期間と判定した場合にガスの流動方向を筒内ガスの逆流と判断する。
【0042】
バルブ温度推定手段は、そのステップST4にて「順流」と判断した場合、各セル31a1〜31a4の吸気ポート11b側表面においての順流時ガス(空気、混合気)との熱伝達を求める(ステップST5)。かかる場合のバルブ温度推定手段は、その順流時ガスの温度Tg,順流時ガスの圧力,順流時ガスの流速及び順流時ガスの熱伝達率等に基づいて、夫々のセル31a1〜31a4への順流時ガス(空気、混合気)からの入出力エネルギを算出する。その順流時ガスの温度Tgとしては、例えば外気温等の情報を利用することができる。また、その順流時ガスの圧力としては、吸気ポート11b等の内部圧力の情報を利用することができる。また、その順流時ガスの流速としては、機関回転数や吸入空気量、吸気バルブ31の開閉時期の情報を利用して求めることができる。尚、そのステップST4にて「逆流」と判断した場合には、各セル31a1〜31a4の吸気ポート11b側表面においての逆流時ガス(筒内ガス)との熱伝達を同様にして求める(ステップST12)。
【0043】
また、このバルブ温度推定手段は、これと同様にして各セル31a1〜31a4の燃焼室CC側表面においての筒内ガスとの熱伝達,即ち、夫々のセル31a1〜31a4への筒内ガスからの入出力エネルギを求める(ステップST6)。
【0044】
更に、このバルブ温度推定手段は、各セル31a1〜31a4においての燃料が蒸発した際の気化潜熱を求め(ステップST7)、また、その各セル31a1〜31a4における隣接するセルとの間の熱伝達を求める(ステップST8)。
【0045】
そして、このバルブ温度推定手段は、上記の各熱伝達と気化潜熱に基づいて各セル31a1〜31a4の熱収支を算出し(ステップST9)、夫々の温度Tvを更新する(ステップST10)。
【0046】
このバルブ温度推定手段は、機関停止状態か否か判断し(ステップST11)、停止していれば本処理動作を終了し、停止していなければ上記のステップST2に戻る。
【0047】
一方、上記のステップST3において「閉弁」との判断が為された場合、バルブ温度推定手段は、各セル31a1〜31a4の吸気ポート11b側表面における吸気ポート11b内のガス(空気、混合気)との熱伝達を求め(ステップST13)、更に、その各セル31a1〜31a4におけるバルブシート接触面との熱伝達を求める(ステップST14)。そして、上記のステップST6に進む。
【0048】
このバルブ温度推定手段は、上記の動作を繰り返して各セル31a1〜31a4の温度を推定する。
【0049】
以下に、本実施例1の内燃機関の電子制御装置1による処理動作を図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
先ず、本実施例1の電子制御装置1は、上述したバルブ温度測定手段又はバルブ温度推定手段によって、吸気バルブ31の傘部31aの温度分布を測定又は推定し(ステップST20)、その温度分布が均等であるか否か(即ち、各セル31a1〜31a4の間に温度差があるか否か)を判断する(ステップST25)。
【0051】
ここで、この電子制御装置1は、温度分布が不均等であると判断した場合、クランクシャフト15の回転角度や吸気側カムシャフトの回転角度の情報を用いて、吸気バルブ31が開弁状態であるか閉弁状態であるかを判断する(ステップST30)。
【0052】
そして、この電子制御装置1は、吸気バルブ31が開弁状態にあれば、バルブ回転手段32を駆動制御して吸気バルブ31を上記の所定の回転角度まで回転させる(ステップST35)。これにより、吸気バルブ31の傘部31aにおいて相対的に高温になっている部分が燃料の流動経路上まで移動させられるので、上述したが如くその傘部31aへの液状の燃料の付着を減少させることができる。従って、この内燃機関においては、空燃比制御性が向上して要求空燃比の混合気を形成し易くなるので、運転条件に応じた良好な燃焼制御を実行することができるようになる。
【0053】
一方、この電子制御装置1は、上記ステップST25にて温度分布が均等であると判断した場合又は上記ステップST30にて吸気バルブ31が閉弁状態であると判断した場合、本処理動作を一端終了させて上記のステップST20に戻る。これにより、無用な吸気バルブ31の回転動作が回避されるので、バルブ回転手段32の電動モータ等への電力供給が不要になり、電力消費量の軽減を図ることができる。
【0054】
以上示した如く、本実施例1の内燃機関によれば、吸気バルブ31の傘部31aへの液状の燃料の付着が減少されるので、運転条件に応じた要求空燃比による良好な燃焼制御を実行することができる。
【0055】
ところで、上記の例示においては吸気バルブ31の回転角度を所定値に設定しているが、その回転角度は、測定又は推定した吸気バルブ31の温度分布に基づいてその都度設定してもよい。即ち、この内燃機関においては、その温度分布から相対的な高温部分を判別することができるので、その高温部分を燃料の流動経路上まで移動可能な回転角度を算出し、その回転角度で電子制御装置1にバルブ回転手段32を駆動制御させることが好ましい。これにより、吸気バルブ31の高温部分へと正確に噴霧燃料を当てることができるので、より確実に燃料が気化されて液状の燃料の付着を回避することができる。
【実施例2】
【0056】
次に、本発明に係る内燃機関の実施例2を図1及び図5に基づいて説明する。
【0057】
前述した実施例1においては、吸気バルブ31が開弁状態であれば当該吸気バルブ31を回転させるように設定した。しかしながら、かかる開弁状態であっても燃料噴射後の場合には、吸気バルブ31の低温部分にも噴霧燃料が当たってしまうので、その低温部分にて効果的に燃料を気化させることができず、液状の燃料の付着量を減少させることができなくなる。
【0058】
そこで、本実施例2にあっては、燃料噴射装置41の駆動状態(換言すれば、1サイクル中の吸気行程にて燃料が噴射されたか否か)を判断させ、燃料の噴射が開始される前に吸気バルブ31の回転を実行させるように電子制御装置1を設定する。かかる駆動状態については、例えば、電子制御装置1によって燃料噴射装置41に噴射開始指令が為されたか否か、又は、その噴射開始指令に応じた燃料噴射開始時期よりも前のクランク角であるか否かなどから判断することができる。
【0059】
具体的に、本実施例2の電子制御装置1は、図5のフローチャートに示す如く処理動作を行う。尚、本実施例2においても、先ず始めに吸気バルブ31の傘部31aの温度分布の測定又は推定処理を行った後(ステップST20)、その温度分布の状態判断処理(ステップST25)、吸気バルブ31の開閉状態の判断処理(ステップST30)を実行するが、これらステップST20〜ST30の処理動作については前述した実施例1と同様にして実行されるので、ここでの説明は省略する。
【0060】
本実施例2の電子制御装置1は、上記ステップST30にて吸気バルブ31が開弁状態にあると判断した場合、燃料の噴射開始前であるか否かを判断する(ステップST32)。
【0061】
ここで、燃料の噴射開始後や噴射中であれば、この電子制御装置1は、本処理動作を一端終了させて上記ステップST20に戻る。これにより、無用な吸気バルブ31の回転動作が回避されるので、バルブ回転手段32の電動モータ等への電力供給が不要になり、電力消費量の軽減を図ることができる。
【0062】
一方、上記ステップST32にて燃料の噴射開始前との判断が為された場合、この電子制御装置1は、前述した実施例1と同様にして吸気バルブ31を所定の回転角度まで又は温度分布に応じた設定回転角度まで回転させ(ステップST35)、回転終了後に燃料噴射装置41から燃料を噴射させる(ステップST37)。これにより、燃料噴射装置41からの噴霧燃料が確実に吸気バルブ31の高温部分に当たるようになるので、その傘部31aへの液状の燃料の付着を確実に減少させることができる。
【0063】
従って、以上示した本実施例2の内燃機関によれば、より正確な要求空燃比の混合気を形成することができるので、運転条件に対応させた良好な燃焼制御が実行できるようになる。
【実施例3】
【0064】
次に、本発明に係る内燃機関の実施例3を図1及び図6に基づいて説明する。
【0065】
前述した実施例2においては、燃料の噴射前に吸気バルブ31の回転動作を終了させて高温部分へと確実に噴霧燃料を当てるように設定した。しかしながら、例えば、その燃料の噴霧角が狭く、その噴霧燃料が傘部31aに局所的にしか当たらない場合もあり、かかる場合には、燃料の当たっていない部分も高温状態になっている可能性が高いにも拘わらずここで燃料を気化させないのは非効率であり、また、燃料噴射量が多ければ気化しきれない可能性も考えられる。
【0066】
そこで、本実施例3にあっては、燃料噴射期間中であれば、その間に吸気バルブ31を少なくとも1回転させるように構成する。その燃料噴射期間中であるか否かについては、例えば、電子制御装置1による燃料噴射装置41への噴射指令、又は、その噴射指令に応じた燃料噴射期間中のクランク角などから判断することができる。
【0067】
ここで、吸気バルブ31を何回転させるかについては、運転条件に応じて決定する。例えば、運転条件によっては燃料噴射量が多く設定される場合もあるので、燃料噴射量が多ければ吸気バルブ31を複数回回転させ、これにより傘部31aの高温状態を保たせつつ気化効率を向上させることが好ましい。
【0068】
具体的に、本実施例3の電子制御装置1は、図6のフローチャートに示す如く処理動作を行う。尚、本実施例3においても、先ず始めに吸気バルブ31の傘部31aの温度分布の測定又は推定処理を行った後(ステップST20)、その温度分布の状態判断処理(ステップST25)、吸気バルブ31の開閉状態の判断処理(ステップST30)を実行するが、これらステップST20〜ST30の処理動作については前述した実施例1,2と同様にして実行されるので、ここでの説明は省略する。
【0069】
本実施例3の電子制御装置1は、上記ステップST30にて吸気バルブ31が開弁状態にあると判断した場合、燃料噴射期間中であるか否かについて判断する(ステップST33)。
【0070】
ここで、燃料噴射期間中でなければ、この電子制御装置1は、本処理動作を一端終了させて上記ステップST20に戻る。これにより、無用な吸気バルブ31の回転動作が回避されるので、バルブ回転手段32の電動モータ等への電力供給が不要になり、電力消費量の軽減を図ることができる。
【0071】
一方、上記ステップST33にて燃料噴射期間中との判断が為された場合、この電子制御装置1は、運転条件に応じて吸気バルブ31の角速度を求め、この角速度となるようにバルブ回転手段32を駆動制御して吸気バルブ31を燃料噴射期間中に回転させる(ステップST35)。これにより、吸気バルブ31の傘部31a全体に噴霧燃料が当たるようになり、また、局所的な気化潜熱による温度低下が抑制されて傘部31a全体の温度を高温状態に保ちながら均等にできるので、その噴霧燃料がより多くの高温部分を利用して気化され易くなり、その傘部31aへの液状の燃料の付着を効率良く減少させることができる。
【0072】
従って、以上示した本実施例3の内燃機関によれば、運転条件に対応させた正確な要求空燃比の混合気による良好な燃焼制御が実行できるようになる。
【0073】
ところで、本実施例3の内燃機関においては、前述した実施例1,2と同様に、吸気バルブ31の傘部31aの温度分布が均等であるか否かに応じて吸気バルブ31の回転動作の実行要否を判断させている。しかしながら、この内燃機関においては、燃料噴射期間中に吸気バルブ31を少なくとも1回転させるべく構成しているので、その回転動作を行うことによって傘部31aの温度分布が均等になっていく。従って、本実施例3にあっては、その温度分布に係る上記ステップST20,ST25の処理動作を必ずしも行わなくてよい。
【0074】
一方、この内燃機関においては、燃料噴射期間中に吸気バルブ31を少なくとも1回転させることによって傘部31aの低温部分にも噴霧燃料を当てるので、その傘部31a全体の温度差の大小等の諸要件如何ではその低温部分が温度上昇するまでに時間がかかり、その低温部分での燃料の気化が遅れてしまう可能性がある。これが為、少なくとも傘部31aの温度分布が均等になるまでは、測定又は推定した温度分布に基づいて高温部分のみを燃料の流動経路上に位置させるように回転動作を制御してもよい。尚、電子制御装置1には、かかる回転動作のみを行わせてもよい。
【0075】
ここで、前述した各実施例1〜3においては吸気バルブ31の高温部分における燃料の気化作用のみを以て液状の燃料の付着を減少させたが、その液状の燃料の付着を減少させる為には、これに加えて又はこれとは別に、吸気バルブ31の回転に伴う遠心力を利用してもよい。かかる場合には、付着した燃料を吸気バルブ31(特に、その傘部31a)から振り落とすことが可能な角速度を予め定め、この角速度で上記各実施例1〜3の何れかの回転時期に吸気バルブ31を継続して回転させるように電子制御装置1を設定する。これにより、かかる構成を単独で利用する場合には上記の各実施例1〜3の同様の効果を奏することができ、また、かかる構成と上記の各実施例1〜3の構成を併用する場合には当該各実施例1〜3よりも確実に液状の燃料の付着が減少される。尚、その角速度については、運転条件に応じて設定してもよい。例えば、その角速度は、前述したように運転条件によって燃料噴射量が異なるので、燃料噴射量が多ければ大きな遠心力が掛かるように大きく設定し、燃料噴射量が少なければ小さな遠心力で事足りるので小さく設定することができる。
【0076】
また、前述した各実施例1〜3においてはポート噴射式の内燃機関を用いて例示したが、上述したバルブ回転手段32に係る各種構成については、筒内直接噴射式の内燃機関やポート噴射と筒内直接噴射を併用する内燃機関にも適用可能である。そして、その筒内直接噴射式の内燃機関の場合には筒内に直接噴射された燃料の流動経路上に吸気バルブ31が存在することがあれば、また、そのポート噴射と筒内直接噴射を併用する内燃機関の場合には夫々の噴霧燃料の流動経路上に吸気バルブ31が存在することがあれば、上述したポート噴射式の内燃機関の場合と同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明に係る内燃機関は、吸気バルブへの噴霧燃料の付着量を減少させ、混合気の要求空燃比への制御性を向上させる技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る内燃機関の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る吸気バルブの一例をバルブステム側から見た上面図である。
【図3】吸気バルブの温度分布の推定動作について説明するフローチャートである。
【図4】実施例1の内燃機関の制御動作について説明するフローチャートである。
【図5】実施例2の内燃機関の制御動作について説明するフローチャートである。
【図6】実施例3の内燃機関の制御動作について説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1 電子制御装置
11b 吸気ポート
31 吸気バルブ
31a 傘部
31a1〜31a4 セル
32 バルブ回転手段
41 燃料噴射装置
CC 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポート又は/及び燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置と、該燃料噴射装置から噴射された燃料の流動経路上に配置され又は当該流動経路上に移動する吸気バルブと、を備えた内燃機関において、
前記吸気バルブの温度分布を測定するバルブ温度測定手段又は当該温度分布を推定するバルブ温度推定手段と、
前記燃料噴射装置からの燃料の流動経路上に前記吸気バルブの高温部分を移動させるべく、該吸気バルブをバルブステムの軸線を中心にして回転させるバルブ回転手段と、
を設けたことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記バルブ回転手段は、前記燃料噴射装置の燃料噴射時期に合わせて前記吸気バルブの回転動作を実行させるべく構成したことを特徴とする請求項1記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−291941(P2007−291941A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120469(P2006−120469)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】