説明

内燃機関

【課題】気筒内をピストンが往復運動する内燃機関において、オイルの消費量を抑制すること。
【解決手段】気筒3内を往復運動するピストン5は、気筒3の内部を燃焼空間3Bと非燃焼空間3Cとに区画する。トップリング溝5Tの内壁には、環状かつ板状の弾性体で構成される逆止弁41が設けられる。逆止弁41は、内側の端部がトップリング溝5Tの内壁面5Tiに固定されて、内壁面5Tiから突出している。そして、逆止弁41の外側の端部、すなわち、逆止弁41の固定側における端部とは反対側の端部が、トップリング40Tの内周部40Tiに接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンが気筒内を往復運動する内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンが気筒内を往復する、いわゆるレシプロ式の内燃機関は、ピストンの側周部にピストンリングを設け、気密性や潤滑性を確保する。例えば、特許文献1には、ピストンリング内に連通孔を設けるとともに、ピストンリングのクランクケース側から燃焼室側へのオイルの流れを許容する逆止弁を設ける内燃機関が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭63−67021号公報 3頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された内燃機関は、燃焼室(燃焼空間)側の圧力がクランクケース側の圧力よりも高い場合には、燃焼室側からクランクケース側へのオイルの流れを止めることはできる。しかし、特許文献1の内燃機関は、クランクケース側から燃焼室側へのオイルの流れを許容するため、燃焼室側の圧力がクランクケース側の圧力よりも低い場合には、クランクケース側から燃焼室側へのオイルの流れを止めることはできない。その結果、クランクケース側から燃焼室側へオイルが流れることに起因するオイルの消費量の増加を招いていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ピストンが気筒内を往復する内燃機関において、ピストンと気筒との間を通過してクランクケース側から燃焼空間側へオイルが流れることに起因するオイルの消費量を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る内燃機関は、気筒の内部を往復運動するとともに、前記気筒の内部を燃焼空間と非燃焼空間とに区画するピストンと、前記ピストンの側周部と前記気筒の内壁との間を通過するオイルの経路に設けられて、前記燃焼空間側からの前記オイルの流れを許容するとともに、前記非燃焼空間側からの前記オイルの流れを制限する逆止弁と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0007】
上記構成により、ピストンの側周部と気筒の内壁との間では、燃焼空間側から非燃焼空間側へはオイルが流れるが、非燃焼空間側から燃焼空間側へはオイルの流れが制限される。これによって、燃焼空間へ流入するオイルを抑制できるので、燃焼空間で燃焼して消費されるオイルの消費量を抑制できる。その結果、ピストンと気筒との間を通過してクランクケース側から燃焼空間側へオイルが流れることに起因するオイルの消費量を抑制できる。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記逆止弁は、前記ピストンの側周部に設けられるピストンリング溝と、前記ピストンリング溝に取り付けられるピストンリングとの間に設けられることが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記逆止弁は、前記ピストンリング溝の内壁に設けられることが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記逆止弁は、前記ピストンリングの内周部に設けられることが好ましい。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記逆止弁は、前記ピストンの側周部に設けられ、前記ピストンの側周部と前記気筒の内壁との間に配置されることが好ましい。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記逆止弁は、前記ピストンリング溝の内部に配置され、前記ピストンリング溝の内壁と、前記ピストンリングの内周部と、前記非燃焼空間側における前記ピストンリング溝の面との間に設けられる環状の部材であることが好ましい。
【0013】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、さらに、前記環状の部材と前記非燃焼空間側における前記ピストンリング溝の面との間に、前記ピストンの頂部へ向かう力を前記環状の部材へ付与する弾性部材を設けることが好ましい。
【0014】
本発明の望ましい態様としては、前記内燃機関において、前記環状の部材は断面が円形であり、前記環状の部材が配置される部分における前記ピストンリング溝の内壁面、又は前記ピストンリングの内周部には、斜面が形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ピストンが気筒内を往復する内燃機関において、ピストンと気筒との間を通過してクランクケース側から燃焼空間側へオイルが流れることに起因するオイルの消費量を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。以下においては、火花点火式の内燃機関を例として説明するが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、いわゆるディーゼルエンジンにも適用することができる。
【0017】
本実施形態に係る内燃機関は、気筒内を往復運動するピストンによって気筒の内部が燃焼空間と非燃焼空間とに区画される内燃機関であり、ピストンの側周部と気筒の内壁との間を通過するオイルの経路に設けられて、燃焼空間側からのオイルの流れを許容するとともに、非燃焼空間側からのオイルの流れを制限する逆止弁を備える点に特徴がある。ここで、オイルは、内燃機関の潤滑や冷却に用いられる、いわゆるエンジンオイルである。
【0018】
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略構成図である。内燃機関1は、気筒内に配置されたピストンの往復運動を回転運動に変換して出力として取り出す、いわゆるレシプロ式の内燃機関である。内燃機関1は、気筒3を複数備えている。図1においては、内燃機関1が備える複数の気筒3のうち、一つを示してある。複数の気筒3は、例えば、4個を直列に並べて配置される。なお、本実施形態において、気筒3の数や配置は、この形態に限定されるものではない。
【0019】
この内燃機関1は、シリンダブロック3Aと、シリンダブロック3Aの一端部に取り付けられるシリンダヘッド2と、シリンダブロック3Aのシリンダヘッド2が取り付けられる端部とは反対側の端部に設けられるクランクケース4とを備える。これらが内燃機関1の筐体を構成する。
【0020】
気筒3の内部には、ピストン5が配置されて往復運動する。ピストン5は、コネクティングロッド6に対して回動自在に取り付けられる。また、コネクティングロッド6は、クランクケース4の内部空間(クランクケース内部空間)4Iに配置されるクランク軸7に対して回動自在に取り付けられる。これによって、ピストン5は、コネクティングロッド6を介してクランク軸7と連結される。
【0021】
このような構成により、内燃機関1の運転時においては、ピストン5の往復運動がクランク軸7によって回転運動に変換されて、内燃機関の出力として取り出される。また、内燃機関1を始動するときには、クランク軸7をスタータモータによって駆動してピストン5を往復運動させる。
【0022】
内燃機関1の気筒3の内部は、ピストン5により燃焼空間3Bと非燃焼空間3Cとに区画される。燃焼空間3Bは、ピストン5と、シリンダブロック3Aと、シリンダヘッド2とで囲まれた空間であり、混合気が燃焼する。また、非燃焼空間3Cは、ピストン5よりもクランクケース内部空間4I側における気筒3の内部の空間であり、クランクケース内部空間4Iとつながっている。非燃焼空間3Cは、ピストン5によって2つに区画される気筒3の内部空間のうちの一方であり、ピストン5を基準として、燃焼空間3Bと対向する。気筒3の燃焼空間3Bには、燃焼空間3Bへ燃焼用の空気を導入する吸気ポート9Iと、燃焼空間3Bから排ガスを排出させる排気ポート9Eとが接続される。なお、吸気ポート9Iと排気ポート9Eとは、シリンダヘッド2に形成される。
【0023】
内燃機関1のシリンダヘッド2には、燃料噴射弁8が取り付けられている。燃料噴射弁8は、内燃機関1の各気筒3に対してそれぞれ設けられている。燃料噴射弁8は、燃焼空間3Bへ直接燃料を噴射する。この燃料は、吸気ポート9Iから燃焼空間3Bへ導入される燃焼用空気と混合気を形成し、燃焼空間3Bで燃焼する。混合気の燃焼によって発生する圧力(燃焼圧力)によって、ピストン5が駆動される。本実施形態に係る内燃機関1は、燃焼空間3Bへ直接燃料を噴射する、いわゆる直噴式の燃料噴射方式を用いるが、吸気ポート9I内へ燃料を噴射する、いわゆるポート噴射式の燃料噴射方式を用いてもよい。さらに、直噴式及びポート噴射式を併用してもよい。
【0024】
吸気ポート9Iと燃焼空間3Bとの間には吸気開口部が形成されている。この吸気開口部には、吸気バルブ10Iが取り付けられており、所定のタイミングで吸気開口部を開閉する。吸気開口部が開いたときに、吸気ポート9Iから燃焼空間3Bへ燃焼用空気が導入される。また、排気ポート9Eと燃焼空間3Bとの間には排気開口部が形成されている。この排気開口部には、排気バルブ10Eが取り付けられており、所定のタイミングで排気開口部を開閉する。排気開口部が開いたときに、燃焼空間3Bから排気ポート9Eへ排ガスが排出される。
【0025】
内燃機関1は、吸気バルブ10Iと排気バルブ10Eとを開閉させるための弁装置を備える。弁装置は、吸気カム12Iが取り付けられる吸気カムシャフト11Iと、排気カム12Eが取り付けられる排気カムシャフト11Eと、吸気側ロッカーアーム13Iと、排気側ロッカーアーム13Eと、吸気側ラッシュアジャスタ14Iと、排気側ラッシュアジャスタ14Eと、を含んで構成される。
【0026】
吸気バルブ10Iは、吸気ポート9Iと燃焼空間3Bとの間の吸気開口部に配置され、吸気カムシャフト11Iが回転することにより開閉する。また、排気バルブ10Eは、排気ポート9Eと燃焼空間3Bとの間の排気開口部に配置され、排気カムシャフト11Eが回転することにより開閉する。
【0027】
吸気カムシャフト11I及び排気カムシャフト11Eは、カムシャフトハウジング16に取り付けられる。ここで、カムシャフトハウジング16はシリンダヘッド2に取り付けられる。吸気カムシャフト11I及び排気カムシャフト11Eは、タイミングチェーンやタイミングベルトを介して、クランク軸7の回転に連動して回転する。吸気カムシャフト11Iには吸気カム12Iが取り付けられており、排気カムシャフト11Eには排気カム12Eが取り付けられている。
【0028】
吸気カム12Iは、吸気側ロッカーアーム13Iに接しており、また、排気カム12Eは、排気側ロッカーアーム13Eに接している。吸気カムシャフト11I及び排気カムシャフト11Eが回転することにより、吸気カム12I及び排気カム12Eが回転する。これによって、吸気カム12Iは、吸気側ロッカーアーム13Iを介して吸気バルブ10Iを開閉し、排気カム12Eは、排気側ロッカーアーム13Eを介して排気バルブ10Eを開閉する。
【0029】
吸気側ロッカーアーム13Iの吸気バルブ10Iとは反対側の支点には、吸気側ラッシュアジャスタ14Iが配置されており、排気側ロッカーアーム13Eの排気バルブ10Eとは反対側の支点には、排気側ラッシュアジャスタ14Eが配置されている。吸気側ラッシュアジャスタ14I及び排気側ラッシュアジャスタ14Eは、吸気カム12Iと吸気側ロッカーアーム13Iとの間の隙間、及び排気カム12Eと排気側ロッカーアーム13Eとの間の隙間を常に0にするものであり、内燃機関1の摺動部を潤滑するためのオイルを作動油として動作する。
【0030】
図2は、図1に示す内燃機関のピストンを拡大した断面図である。本実施形態において、ピストン5は3本のピストンリング及びピストンリング溝を備える。なお、ピストンリング及びピストンリング溝の数はこれに限定されるものではない。ピストン5の側周部(以下ピストン側周部)5Sには、ピストン5の頂部(以下ピストン頂部)5H側から順にトップリング溝5T、セカンドリング溝5M、オイルリング溝5Lが形成されている。そして、トップリング溝5Tには第1のピストンリング(以下トップリング)40Tが取り付けられ、セカンドリング溝5Mには第2のピストンリング(以下セカンドリング)40Mが取り付けられ、オイルリング溝5Lにはオイルリング40Lが取り付けられる。
【0031】
トップリング40T、及びセカンドリング40M、及びオイルリング40Lは環状の部材である。それぞれのピストンリングの外周部は、気筒3の内壁(以下気筒内壁)30に接しており、ピストン5が気筒3内を往復運動する際には、気筒内壁30と摺動する。ここで、矢印Uがピストン5の上死点方向を表し、矢印D方向はピストン5の下死点方向を表す。次に、本実施形態に係る内燃機関1が備えるピストン5のピストンリング部の構造を説明する。
【0032】
図3、図4−1、図4−2は、本実施形態に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。図3に示すように、本実施形態に係る内燃機関1が備えるピストン5は、トップリング溝5Tの内壁面5Tiに、逆止弁41が設けられる。なお、逆止弁41を設けるリング溝はトップリング溝5Tに限定されるものではないが、トップリング溝5Tに逆止弁41を設けることにより、効率的に燃焼空間3B側のオイルを非燃焼空間3C側へ移動させることができる。逆止弁41は、環状かつ板状の弾性体である。逆止弁41は、内側の端部が内壁面5Tiに固定されて、内壁面5Tiから突出している。そして、逆止弁41の外側の端部、すなわち、逆止弁41の固定側における端部とは反対側の端部が、トップリング40Tの内周部40Tiに接触する。
【0033】
逆止弁41は、外側の端部がピストン頂部5Hとは反対側(すなわち、非燃焼空間3C側)に向かうように撓ませて、外側の端部がトップリング40Tの内周部に接するようにしてある。このように構成することにより、逆止弁41の弾性力によって逆止弁41の外側の端部がトップリング40Tの内周部40Tiに押し付けられる。ここで、逆止弁41は、金属材料や耐熱性の樹脂材料を用いることができる。金属材料を用いる場合、例えば、ステンレスやばね鋼等を用いることができる。
【0034】
このように構成することにより、ピストン5と気筒内壁30との間を通過するオイルは、ピストン頂部5H側から流入する流れが許容され、ピストン頂部5Hとは反対側から流入する流れは制限される。すなわち、トップリング40Tを境界として、燃焼空間3Bから非燃焼空間3Cへ向かうオイルの移動は許容され、非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの移動は抑制される。その結果、トップリング40Tの燃焼空間3B側に存在するオイルを、図1に示す内燃機関1のクランクケース内部空間4Iへ戻すことができるので、燃焼空間3B内で燃焼して消費されるオイルの量を抑制でき、また、非燃焼空間3C側のオイルが燃焼空間3Bへ戻ることを抑制できるので、オイルの消費量を抑制できる。
【0035】
図4−1に示すように、ピストン5が上死点方向(矢印U方向)へ移動するとき、トップリング40Tの燃焼空間3B側に存在するオイルLは、トップリング溝5Tとトップリング40Tとの間から逆止弁41とトップリング40Tの内周部40Tiとの間を通り、非燃焼空間3C側へ流れる。これによって、燃焼空間3B内で燃焼し、消費されるオイルの量を抑制できる。図4−2に示すように、ピストン5が下死点方向(矢印D方向)へ移動するとき、トップリング40Tの非燃焼空間3C側に存在するオイルLはトップリング溝5T内へ流入するが、逆止弁41によってオイルLの流れが制限される。これによって、非燃焼空間3C側から燃焼空間3Bへ向かうオイルLの移動が制限される。これらの作用により、本実施形態に係る内燃機関1では、オイルの消費量を抑制できる。
【0036】
図5は、本実施形態の第1変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。図5に示すように、本変形例に係る内燃機関1’が備えるピストン5は、トップリング40T’の内周部40Ti’に逆止弁41が設けられる。なお、逆止弁41を設けるリング溝はトップリング40T’に限定されるものではない。例えば、図3に示すセカンドリング40Mやオイルリング40Lに逆止弁41を設けてもよい。ただし、セカンドリング40Mやオイルリング40Lのリング溝における非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイル量と比較して、トップリング40T’のリング溝における非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイル量は少ない。このため、逆止弁41を設けるリング溝をトップリング40T’のリング溝とすることで、非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの移動をより効果的に抑制できる。
【0037】
逆止弁41は、環状かつ板状の弾性体である。逆止弁41は、外側の端部がトップリング40T’の内周部40Ti’に固定されて、内周部40Ti’からトップリング溝5Tの内壁面5Tiへ向かって突出している。そして、逆止弁41の内側の端部、すなわち、逆止弁41の固定側における端部とは反対側の端部が、トップリング溝5Tの内壁面5Tiに接触する。
【0038】
逆止弁41は、内側の端部がピストン頂部5Hとは反対側(すなわち、クランクケース内部空間4I側)に向かうように撓ませて、内側の端部がトップリング溝5Tの内壁面5Tiに接するようにしてある。このように構成することにより、逆止弁41の弾性力によって逆止弁41の内側の端部がトップリング溝5Tの内壁面5Tiに押し付けられる。ここで、逆止弁41は、金属材料や耐熱性の樹脂材料を用いることができる。金属材料を用いる場合、例えば、ステンレスやばね鋼等を用いることができる。
【0039】
このように構成することにより、ピストン5と気筒内壁30との間を通過するオイルは、ピストン頂部5H側から流入する流れが許容され、ピストン頂部5Hとは反対側から流入する流れは制限される。その結果、トップリング40Tの燃焼空間3B側に存在するオイルを、図1に示す内燃機関1のクランクケース内部空間4Iへ戻すことができるので、燃焼空間3B内で燃焼して消費されるオイルの量を抑制でき、また、非燃焼空間3C側のオイルが燃焼空間3Bへ戻ることを抑制できるので、オイルの消費量を抑制できる。
【0040】
図6、図7−1、図7−2は、本実施形態の第2変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。図6に示すように、本変形例に係る内燃機関1aが備えるピストン5aは、セカンドランド5RMのピストン側周部5Saに逆止弁42が設けられる。なお、逆止弁42は、ピストン5aのピストン側周部5Saであれば、セカンドランド5RM以外に設けてもよい。例えば、ファーストランド5RTやサードランド53RLに逆止弁42を設けてもよい。ただし、トップリング40Tが存在することにより、ファーストランド5RTの近傍と比較してセカンドランド5RM近傍の燃焼圧力は低い。このため、セカンドランド5RMに逆止弁42を設けることで、逆止弁42が受ける燃焼圧力をより抑制できる。これによって、逆止弁42の耐久性を確保できる。また、サードランド53RL近傍における非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイル量と比較して、セカンドランド5RM近傍における非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうは少ない。このため、セカンドランド5RMに逆止弁42を設けることで、非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの移動をより効果的に抑制できる。
【0041】
ここで、逆止弁42は、環状かつ板状の弾性体である。逆止弁42は、内側の端部がセカンドランド5RMに固定されて、ピストン5aのピストン側周部5Saから気筒内壁30へ向かって突出している。そして、逆止弁42の外側の端部、すなわち、逆止弁42の固定側における端部とは反対側の端部が、気筒内壁30に接触する。
【0042】
逆止弁42は、外側の端部がピストン頂部5Hとは反対側(すなわち、非燃焼空間3C側)に向かうように撓ませて、外側の端部が気筒内壁30に接するようにしてある。このように構成することにより、逆止弁42の弾性力によって逆止弁42の外側の端部が気筒内壁30に押し付けられる。ここで、逆止弁42は、金属材料や耐熱性の樹脂材料を用いることができる。金属材料を用いる場合、例えば、ステンレスやばね鋼等を用いることができる。
【0043】
このように構成することにより、ピストン5と気筒内壁30との間を通過するオイルは、ピストン頂部5H側から流入する流れが許容され、ピストン頂部5Hとは反対側から流入する流れは制限される。その結果、トップリング40Tの燃焼空間3B側に存在するオイルを、図1に示す内燃機関1のクランクケース内部空間4Iへ戻すことができるので、燃焼空間3B内で燃焼して消費されるオイルの量を抑制でき、また、非燃焼空間3C側のオイルが燃焼空間3Bへ戻ることを抑制できるので、オイルの消費量を抑制できる。
【0044】
図7−1に示すように、ピストン5aが上死点方向(矢印U方向)へ移動するとき、トップリング40Tの燃焼空間3B側に存在するオイルLは逆止弁42を通り、非燃焼空間3C側へ流れる。これによって、燃焼空間3B内で燃焼し、消費されるオイルの量を抑制できる。図7−2に示すように、ピストン5aが下死点方向(矢印D方向)へ移動するとき、非燃焼空間3C側に存在するオイルLは燃焼空間3Bへ移動しようとするが、逆止弁42によってオイルLの流れが制限される。これによって、非燃焼空間3C側から燃焼空間3Bへ向かうオイルLの移動が制限される。これらの作用により、本変形例に係る内燃機関1aでは、オイルの消費量を抑制できる。また、本変形例では、セカンドランド5RMのピストン側周部5Saに逆止弁42を設けるので、ピストンリングの種類を選ばないでよいという利点もある。
【0045】
図8、図9−1、図9−2は、本実施形態の第3変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。図8に示すように、本変形例に係る内燃機関1bが備えるピストン5bは、トップリング溝5Tの底面5TB、すなわち、トップリング溝5Tの非燃焼空間3C側の面に、逆止弁として機能するリング43が設けられる。なお、リング43を設けるリング溝はトップリング溝5Tに限定されるものではない。例えば、セカンドリング溝5Mやオイルリング溝5Lにリング43を設けてもよい。ただし、セカンドリング溝5Mやオイルリング溝5Lにおける非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの量と比較して、トップリング溝5Tにおける非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの量は少ない。このため、リング43を設けるリング溝をトップリング溝5Tのすることで、非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの移動をより効果的に抑制できる。リング43は、環状の部材であり、断面は円形である。なお、リング43の断面形状は円形に限られず、三角形や四角形のような多角形や楕円形でもよい。
【0046】
トップリング溝5Tの内壁面5Tiは、底面5TBに向かうにしたがってピストン5bの中心に向かって形成される部分を有する。これによって、トップリング溝5Tの内壁面5Tiには、底面5TBと接続する部分に、底面5TB及び内壁面5Tiに対して傾斜する斜面(ピストン側斜面)SPが形成される。また、トップリング40Tbの内周部40Tibは、トップリング溝5Tの底面5TBと対向する部分に向かうにしたがって、トップリング40Tbの外周部に広がって形成される部分を有する。これによって、トップリング40Tbの内周部40Tibには、トップリング溝5Tの底面5TBと対向する部分と接続する部分に、トップリング40Tbの内周部40Tibに対して傾斜する斜面(ピストンリング側斜面)SRが形成される。ここで、リング43は、金属材料や耐熱性の樹脂材料を用いることができる。リング43に金属材料を用いる場合、例えば、ステンレスやばね鋼等を用いることができる。
【0047】
逆止弁として機能するリング43は、トップリング溝5Tの底面5TBと、ピストン側斜面SPと、ピストンリング側斜面SRとで囲まれる部分に配置される。また、トップリング溝5Tの内壁面5Tiとトップリング40Tbの内周部40Tibとの間に形成される空間は、オイルが燃焼空間3Bから非燃焼空間3C側へ流れるときの通路(油路)OLとなる。ここで、リング43がピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRに接触すると、油路OLが閉じられて、リング43がピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRから離れると、油路OLが開かれる。
【0048】
このように構成することにより、ピストン5bと気筒内壁30との間を通過するオイルは、ピストン頂部5H側から流入する流れが許容され、ピストン頂部5Hとは反対側から流入する流れは制限される。すなわち、リング43が逆止弁として機能し、リング43を境界として燃焼空間3Bから非燃焼空間3Cへ向かうオイルの移動は許容され、非燃焼空間3Cから燃焼空間3Bへ向かうオイルの移動は抑制される。その結果、トップリング40Tbの燃焼空間3B側に存在するオイルを、図1に示す内燃機関1のクランクケース内部空間4Iへ戻すことができるので、燃焼空間3B内で燃焼して消費されるオイルの量を抑制でき、また、非燃焼空間3C側のオイルが燃焼空間3Bへ戻ることを抑制できるので、オイルの消費量を抑制できる。なお、ピストン側斜面SPと、ピストンリング側斜面SRとは、少なくとも一方を設ければよく、例えば、ピストン側斜面SPのみ、ピストンリング側斜面SRのみであってもよい。
【0049】
図9−1に示すように、ピストン5bが上死点方向(矢印U方向)へ移動するとき、トップリング40Tbの燃焼空間3B側に存在するオイルLは、トップリング溝5Tとトップリング40Tbとの間から油路OL、リング43とピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRとの間を通り、非燃焼空間3C側へ流れる。これによって、燃焼空間3B内で燃焼することによって消費されるオイルの量を抑制できる。図9−2に示すように、ピストン5bが下死点方向(矢印D方向)へ移動するとき、トップリング40Tbの非燃焼空間3C側に存在するオイルLはトップリング溝5T内へ流入するが、逆止弁として機能するリング43によってオイルLの流れが制限される。これによって、非燃焼空間3C側から燃焼空間3Bへ向かうオイルLの移動が制限される。これらの作用により、本変形例係る内燃機関1bでは、オイルの消費量を抑制できる。
【0050】
図10、図11−1、図11−2は、本実施形態の第4変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。本変形例は、変形例3とほぼ同様の構成であるが、リング43とトップリング溝5Tの底面5TBとの間に弾性部材を介在させ、この弾性部材の反発力を利用して、リング43をピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRに押し付ける点が異なる。他の構成は、変形例3と同様である。
【0051】
逆止弁として機能するリング43は、トップリング溝5Tの底面5TBと、ピストン側斜面SPと、ピストンリング側斜面SRとで囲まれる部分に配置される。リング43とトップリング溝5Tの底面5TBとの間には、弾性部材としてばね44が配置される。なお、弾性部材はばねに限定されるものではなく、リング43をピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRに押し付ける力をリング43へ与えられるものであればよい。
【0052】
また、本変形例において、ばね44はつる巻ばねであるが、板ばねのような他の形式のばねを用いてもよい。このような構成により、リング43は、ばね44によってピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRに押し付けられるので、油路OLを確実に閉じることができる。これによって、トップリング溝5T内を通過して燃焼空間3Bへ流入しようとするオイルの流れを確実に抑制することができる。
【0053】
図11−1に示すように、ピストン5cが上死点方向(矢印U方向)へ移動するとき、トップリング40Tcの燃焼空間3B側に存在するオイルLは、トップリング溝5Tとトップリング40Tcとの間から油路OL、リング43とピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRとの間を通り、非燃焼空間3C側へ流れる。これによって、燃焼空間3B内で燃焼することによって消費されるオイルの量を抑制できる。図11−2に示すように、ピストン5が下死点方向(矢印D方向)へ移動するとき、トップリング40Tcの非燃焼空間3C側に存在するオイルLはトップリング溝5T内へ流入するが、逆止弁として機能するリング43によってオイルLの流れが制限される。また、リング43は、ばね44によってピストン側斜面SP及びピストンリング側斜面SRに押し付けられるので、油路OLは確実に閉じられる。これによって、非燃焼空間3C側から燃焼空間3Bへ向かうオイルLの移動はより確実に制限される。これらの作用により、本変形例係る内燃機関1cでは、オイルの消費量を抑制できる。
【0054】
以上、本実施形態及びその変形例では、気筒内を往復運動するピストンによって気筒の内部が燃焼空間と非燃焼空間とに区画される内燃機関において、ピストンの側周部と気筒の内壁との間を通過するオイルの経路に、燃焼空間側から非燃焼空間側へのオイルの流れを許容するとともに、非燃焼空間側から燃焼空間側へのオイルの流れを制限する逆止弁を設ける。これによって、燃焼空間へ流入するオイルを抑制できるので、燃焼空間で燃焼して消費されるオイルの消費量を抑制できる。その結果、ピストンが気筒内を往復する内燃機関において、ピストンと気筒との間を通過してクランクケース側から燃焼空間側へオイルが流れること、いわゆるオイル上がりに起因するオイルの消費量を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明に係る内燃機関は、レシプロ式の内燃機関に有用であり、特に、いわゆるオイル上がりに起因するオイルの消費量を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施形態に係る内燃機関の概略構成図である。
【図2】図1に示す内燃機関のピストンを拡大した断面図である。
【図3】本実施形態に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図4−1】本実施形態に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図4−2】本実施形態に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図5】本実施形態の第1変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図6】本実施形態の第2変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図7−1】本実施形態の第2変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図7−2】本実施形態の第2変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図8】本実施形態の第3変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図9−1】本実施形態の第3変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図9−2】本実施形態の第3変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図10】本実施形態の第4変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図11−1】本実施形態の第4変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【図11−2】本実施形態の第4変形例に係る内燃機関のピストンリング部の構造を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0057】
1、1’、1a、1b、1c 内燃機関
2 シリンダヘッド
3 気筒
3A シリンダブロック
3B 燃焼空間
3C 非燃焼空間
4 クランクケース
4I クランクケース内部空間
5、5a、5b、5c ピストン
5L オイルリング溝
5M セカンドリング溝
5T トップリング溝
5RL サードランド
5RM セカンドランド
5RT ファーストランド
5H ピストン頂部
5S、5Sa ピストン側周部
5TB 底面
5Ti 内壁面
30 気筒内壁
40L オイルリング
40M セカンドリング
40T、40Tb、40Tc トップリング
40Ti、40Tib 内周部
41、42 逆止弁
43 リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒の内部を往復運動するとともに、前記気筒の内部を燃焼空間と非燃焼空間とに区画するピストンと、
前記ピストンの側周部と前記気筒の内壁との間を通過するオイルの経路に設けられて、前記燃焼空間側からの前記オイルの流れを許容するとともに、前記非燃焼空間側からの前記オイルの流れを制限する逆止弁と、
を含んで構成されることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記逆止弁は、前記ピストンの側周部に設けられるピストンリング溝と、前記ピストンリング溝に取り付けられるピストンリングとの間に設けられることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記逆止弁は、前記ピストンリング溝の内壁に設けられることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記逆止弁は、前記ピストンリングの内周部に設けられることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記逆止弁は、前記ピストンの側周部に設けられ、前記ピストンの側周部と前記気筒の内壁との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記逆止弁は、前記ピストンリング溝の内部に配置され、前記ピストンリング溝の内壁と、前記ピストンリングの内周部と、前記非燃焼空間側における前記ピストンリング溝の面との間に設けられる環状の部材であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項7】
さらに、前記環状の部材と前記非燃焼空間側における前記ピストンリング溝の面との間に、前記ピストンの頂部へ向かう力を前記環状の部材へ付与する弾性部材を設けることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関。
【請求項8】
前記環状の部材は断面が円形であり、前記環状の部材が配置される部分における前記ピストンリング溝の内壁面、又は前記ピストンリングの内周部には、斜面が形成されることを特徴とする請求項6又は7に記載の内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9−1】
image rotate

【図9−2】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11−1】
image rotate

【図11−2】
image rotate


【公開番号】特開2009−52478(P2009−52478A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220140(P2007−220140)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】