説明

内燃機関

【課題】粒子状物質の生成を抑制することができる内燃機関を得る。
【解決手段】ガソリンエンジン10は、クランク室22内の被潤滑部に潤滑油を供給するためのクランク室用潤滑系統82と、クランク室22とは非連通とされたシリンダヘッド室40内の動弁系58に潤滑油を供給するためのシリンダヘッド用潤滑系統84とを備えている。シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油は、カルシウム系の添加剤を含まない潤滑油とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク室、シリンダヘッド室内の各被潤滑部が潤滑油にて潤滑される内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク室内の被潤滑要素を潤滑するためのクランク室内用潤滑系統と、シリンダヘッド室内に収容された動弁系を潤滑するための動弁系潤滑系統とを具備した二系統潤滑式内燃機関が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−246831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の如き従来の技術では、動弁系の潤滑性については考慮されているものの、動弁系の潤滑油に起因する粒子状物質の生成について考慮されておらず、この点に改善の余地があった。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、粒子状物質の生成を抑制することができる内燃機関を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係る内燃機関は、クランク室内の被潤滑部に潤滑油を供給するための第1潤滑系統と、前記クランク室とは非連通とされたシリンダヘッド室内の動弁系に、カルシウム系の添加剤を含まない潤滑油を供給するための第2潤滑系統と、を備えている。
【0006】
請求項1記載の内燃機関では、クランク室内の被潤滑部は第1潤滑系統により供給される潤滑油にて潤滑され、シリンダヘッド室の動弁系は第2潤滑系統にて供給される潤滑油にて潤滑される。第2潤滑系統の潤滑油にはカルシウム系の添加剤が含まれていないので、吸気弁を経由してカルシウムが内燃機関の燃焼室に燃料(例えば混合気)と共に吸入されることがない。このため、本内燃機関では、燃焼室内での燃焼に伴ってカルシウムが粒子化することがなく、粒子状物質の生成が抑制される。
【0007】
このように、請求項1記載の内燃機関では、粒子状物質の生成を抑制することができる。なお、カルシウム系添加剤は、カルシウム又はカルシウムの化合物を含むものとされる。
【0008】
請求項2記載の発明に係る内燃機関は、クランク室内の被潤滑部に潤滑油を供給するための第1潤滑系統と、前記クランク室とは非連通とされたシリンダヘッド室内の動弁系に、前記第1潤滑系統の潤滑油よりもカルシウム系の添加剤の濃度が低い潤滑油を供給するための第2潤滑系統と、を備えている。
【0009】
請求項2記載の内燃機関では、クランク室内の被潤滑部は第1潤滑系統により供給される潤滑油にて潤滑され、シリンダヘッド室の動弁系は第2潤滑系統にて供給される潤滑油にて潤滑される。ここで、本内燃機関では、第2潤滑系統の潤滑油は、第1潤滑系統の潤滑油と比較して、カルシウム系の添加剤の濃度(単位質量当たりのモル数)が少ない。このため、例えば第1潤滑系統の潤滑油をシリンダヘッド室に導く構成(潤滑系統が1系統である構成)と比較して、吸気弁を経由して内燃機関の燃焼室に燃料(例えば混合気)と共に吸入されるカルシウムの量が減少される。このため、本内燃機関では、燃焼室内での燃焼に伴って粒子化するカルシウムが少なく、粒子状物質の生成が抑制される。
【0010】
このように、請求項2記載の内燃機関では、粒子状物質の生成を抑制することができる。なお、カルシウム系添加剤は、カルシウム又はカルシウムの化合物とされる。また、本発明における第2潤滑系統の潤滑油は、Ca系添加剤の濃度0である潤滑油を含む。
【0011】
請求項3記載の発明に係る内燃機関は、クランク室内の被潤滑部に潤滑油を供給するための第1潤滑系統と、前記クランク室とは非連通とされたシリンダヘッド室内の動弁系に、カルシウム系の添加剤の濃度が0.004mol/kg以下である潤滑油を供給するための第2潤滑系統と、を備えている。
【0012】
請求項3記載の内燃機関では、クランク室内の被潤滑部は第1潤滑系統により供給される潤滑油にて潤滑され、シリンダヘッド室の動弁系は第2潤滑系統にて供給される潤滑油にて潤滑される。第2潤滑系統の潤滑油はカルシウム系の添加剤の濃度低いので、吸気弁を経由して内燃機関の燃焼室に燃料(例えば混合気)と共に吸入されるカルシウム系添加剤の量が減少される。このため、本内燃機関では、燃焼室内での燃焼に伴って粒子化するカルシウムが少なく、粒子状物質の生成が抑制される。
【0013】
このように、請求項3記載の内燃機関では、粒子状物質の生成を抑制することができる。なお、カルシウム系添加剤は、カルシウム又はカルシウムの化合物とされる。また、本発明における第2潤滑系統の潤滑油は、Ca系添加剤の濃度0である潤滑油を含む。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明に係る内燃機関は、粒子状物質の生成を抑制することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態に係る内燃機関としての4サイクルのガソリンエンジン10について、図1及び図2に基づいて説明する。
【0016】
図1には、ガソリンエンジン10のクランクシャフト12の軸線との直交面に沿った断面図が示されている。この図に示される如く、シリンダブロック14と、シリンダブロック14の下部に接合されたオイルパン16と、シリンダブロック14の上部に接合されたシリンダヘッド18と、シリンダヘッド18の上部に接合されたシリンダヘッドカバー20とを備えている。
【0017】
このシリンダブロック14の下部とオイルパン16とは、内部にクランクシャフト12が収容されるクランク室22が形成されたクランクケース24を構成している。ガソリンエンジン10のクランクシャフト12には、コネクティングロッド26を介して、シリンダブロック14のシリンダ28内に該シリンダ28の軸方向に変位可能に配置されたピストン30が連結されている。シリンダブロック14のシリンダ28の内面とピストン30との間は、ピストンリング32にてシールされている。また、シリンダブロック14におけるシリンダ28の側部には、エンジン冷却水を流通させるための冷却水路14Aが形成されている。
【0018】
シリンダヘッド18には、シリンダ28にガソリンと空気との混合気を導入するための吸気ポート34、シリンダ28から燃焼排ガス(排気ガス)を排出するための排気ポート36が設けられている。吸気ポート34は、シリンダ28との連通部分において吸気バルブ38にて開閉されるようになっている。吸気バルブ38のバルブステム38Aは、シリンダヘッド18を貫通して、該シリンダヘッド18とシリンダヘッドカバー20とで形成するシリンダヘッド室40に突出している。
【0019】
より具体的には、吸気バルブ38は、シリンダヘッド18を貫通して設けられたバルブステムガイド42によって、バルブステム38Aが軸方向にスライド可能に支持されており、バルブスプリング44にて吸気ポート34を閉止する方向に付勢されている。また、バルブステムガイド42とバルブステム38Aとの間は、バルブステムガイド42の上端に設けられたステムシール46にてシールされている。
【0020】
同様に、排気ポート36は、シリンダ28との連通部分において排気バルブ50にて開閉されるようになっている。排気バルブ50のバルブステム50Aは、シリンダヘッド18を貫通して設けられたバルブステムガイド52に軸方向にスライド可能に支持されており、その先端がシリンダヘッド室40内に突出している。排気バルブ50は、バルブスプリング54にて排気ポート36を閉止する方向に付勢されている。また、バルブステムガイド52とバルブステム50Aとの間は、バルブステムガイド52の上端に設けられたステムシール56にてシールされている。
【0021】
また、ガソリンエンジン10は、シリンダヘッド室40内に設けられ、吸気バルブ38、排気バルブ50を駆動するための動弁系58を備えている。動弁系58は、吸気カムシャフト60と、吸気カムシャフト60に設けられた吸気カム62と、排気カムシャフト64と、排気カムシャフト64に設けられた排気カム66とを主要部として構成されている。吸気カムシャフト60は、すべり軸受である軸受68にてシリンダヘッド18(シリンダヘッド室40)に対し回転自在に支持されており、排気カムシャフト64は、すべり軸受である軸受70にてシリンダヘッド18に対し回転自在に支持されている。なお、動弁系58は、上記した吸気バルブ38、排気バルブ50等を含むものとして把握することもできる。
【0022】
吸気カムシャフト60、排気カムシャフト64は、それぞれ図示しないタイミングスプロケット、タイミングチェーン等を介して伝達されるクランクシャフト12の駆動力にて同期して回転されるようになっている。なお、吸気ポート34、排気ポート36の開閉タイミングを変更可能な構成としても良い。そして、吸気カム62は、吸気カムシャフト60の回転に伴って、タペット72を介して吸気バルブ38をバルブステムガイド42によるガイド方向に往復動させることで、吸気ポート34を開閉させるようになっている。同様に排気カム66は、排気カムシャフト64の回転に伴って、タペット74を介して排気バルブ50をバルブステムガイド52によるガイド方向に往復動させることで、排気ポート36を開閉させるようになっている。
【0023】
また、ガソリンエンジン10は、クランク室22と、吸気ポート34に接続された吸気管76とを連通するブローバイガス環流通路75を備えている。より具体的には、ブローバイガス環流通路75の吸気管76との合流部は、吸気ポート34にガソリンを噴射するための燃料噴射弁78よりも上流側で、かつシリンダ28への吸気量を調整するための吸気絞り弁80よりも下流側とされている。これにより、ガソリンエンジン10では、ブローバイガスがシリンダヘッド室40に導入されない構成とされている。換言すれば、シリンダヘッド室40は、クランク室22に対し、直接的に連通されることのない非連通構造とされている。
【0024】
以上説明したガソリンエンジン10は、燃料噴射弁78がシリンダヘッド18に設けられており、吸気ポート34内にガソリンを噴射することで上記の通りシリンダ28にガソリンと空気との混合気が吸入される、予混合エンジンとされている。
【0025】
そして、このガソリンエンジン10は、2つの潤滑系等を備えている。具体的には、ガソリンエンジン10は、主にクランク室22内の被潤滑部であるクランクシャフト12、ピストン30、コネクティングロッド26等を潤滑するための第1潤滑系統としてのクランク室用潤滑系統82を備えている。また、ガソリンエンジン10は、シリンダヘッド室40内に設けられた動弁系58を潤滑するための第2潤滑系統としてのシリンダヘッド用潤滑系統84を備えている。
【0026】
クランク室用潤滑系統82は、オイルパン16の底部に溜まった潤滑油を、オイルポンプ86によって、シリンダブロック14に形成された油路88(図1では模式的にシリンダブロック14外に示している)を通じて、上記した各被潤滑部に圧送する構成とされている。各被潤滑部の潤滑に供された潤滑油は、オイルパン16に戻されるようになっている。このクランク室用潤滑系統82で用いられる潤滑油として、潤滑油中に生成される酸性成分を中和する中和剤、及び潤滑油の汚れを分散、清浄する分散・清浄剤としてCa(カルシウム)系添加剤が添加された潤滑油が用いられる。中和剤によって潤滑油の酸化劣化が抑制され、分散・清浄剤によって、潤滑油中のカーボン及びスラッジ等による潤滑油の汚れ劣化及びクランク室22内への汚れ付着が抑制される構成である。中和剤としては例えばCaCO(炭酸カルシウム)等が挙げられ、分散・清浄剤としては例えばCa石ケン(Caスルフォネート、Caサリシレート)等が挙げられる。
【0027】
なお、この実施形態では、クランク室用潤滑系統82で用いられる潤滑油は、Ca系添加剤に加えてZn(亜鉛)系添加剤が添加された潤滑油とされている。この潤滑油は、Ca系添加剤による潤滑油中のカルシウムの元素濃度が略0.05mol/kg、Zn系添加剤による潤滑油中の亜鉛の元素濃度が略0.015mol/kgとされている。加えて、この潤滑油は、必要に応じてMo(モリブデン)系添加剤が添加される場合もある。この場合、Mo系添加剤による潤滑油中のモリブデンの元素濃度が略0.01mol/kgとされる。Zn系添加剤、Mo系添加剤は、それぞれ各摺動部の耐摩耗性、摩擦低減に寄与する。
【0028】
一方、シリンダヘッド用潤滑系統84は、シリンダヘッド室40の低所である潤滑油溜り部90に溜まった潤滑油を、オイルポンプ92によって、シリンダヘッド18に形成された油路94(図1では模式的にシリンダヘッド18外に示している)を通じて、上記した各被潤滑部に圧送する構成とされている。このシリンダヘッド用潤滑系統84で用いられる潤滑油として、クランク室用潤滑系統82で用いられている潤滑油よりもCa系添加剤の濃度が低い潤滑油が用いられている。この実施形態では、シリンダヘッド用潤滑系統84で用いられる潤滑油におけるCa系添加剤によるカルシウムの元素濃度は、0.004mol/kg以下である0mol/kgとされている。
【0029】
より具体的には、この実施形態においてシリンダヘッド用潤滑系統84で用いられる潤滑油は、上記したクランク室用潤滑系統82で用いられている潤滑油に対し、Ca系添加剤が含まれない点のみが異なる潤滑油とされており、Zn系添加剤による亜鉛の元素濃度が略0.015mol/kgとされている。この潤滑油は、必要に応じてMo系添加剤が添加され、この場合は、Mo系添加剤によるモリブデンの元素濃度が略0.01mol/kgとされる。
【0030】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
【0031】
上記構成のガソリンエンジン10では、シリンダ28内で吸入行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程がこの順で繰り返されることで、ピストン30の往復直線運動がクランクシャフト12の回転運動に変換され、動力が発生する。また、クランクシャフト12の回転によって吸気カムシャフト60、排気カムシャフト64が回転駆動され、吸気バルブ38、排気バルブ50が駆動されて上記吸入行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程が維持される。
【0032】
すなわち、吸入行程では、吸気バルブ38が吸気カム62によってバルブスプリング44の付勢力に抗して吸気ポート34を開放させる姿勢をとり、該吸気ポート34には、燃料噴射弁78からの噴射燃料と吸気管76からの空気との混合ガスが吸入される。圧縮行程では、吸気バルブ38が吸気ポート34を閉止する姿勢をとり、密閉されたシリンダ28内で混合気がピストン30の上昇と共に圧縮される。図示しない点火装置にてシリンダ28内の混合気が点火されると、膨張行程となり、混合気は燃焼(爆発)に伴って膨張しつつピストン30を押し下げてクランクシャフト12にトルクを作用させる。次いで、排気行程では、排気バルブ50が排気カム66によってバルブスプリング54の付勢力に抗して排気ポート36を開放させる姿勢をとり、ピストン30の上昇に伴って燃焼排ガスがシリンダ28から排気ポート36に押し出される。
【0033】
そして、このようにクランクシャフト12が動作している期間中、シリンダヘッド室40内のクランクシャフト12、コネクティングロッド26、ピストン30等の被潤滑部は、クランク室用潤滑系統82によって供給(循環)される潤滑油によって潤滑されており、動弁系58を構成する吸気カムシャフト60、吸気カム62、排気カムシャフト64、排気カム66、軸受68、70、タペット72、74等は、シリンダヘッド用潤滑系統84によって供給(循環)される潤滑油によって潤滑されている。
【0034】
ところで、膨張行程では、ピストンリング32の隙間から燃焼生成物である水、NOx(窒素酸化物)、すす、及び未燃の混合気(ガソリン中の炭化水素成分)等を含むブローバイガスがクランク室22に漏れ出る場合がある。ブローバイガスは、ブローバイガス環流通路75を通じて再度シリンダ28に導入され、燃焼ガスと共に排出される。このブローバイガス中の水とNOxはクランク室用潤滑系統82内にて硝酸を生成し潤滑油を劣化させる原因となり、すすや未燃の混合気はクランク室用潤滑系統82の潤滑油の汚れの原因となるが、Ca系添加剤である添加剤(中和剤、分散・清浄剤)が添加されている潤滑油はこれら劣化が抑制される。
【0035】
一方、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油は、ブローバイガスに曝されることがないので、該ブローバイガスによる劣化は生じない。すなわち、Ca系添加剤を添加しないことによる悪影響はない。
【0036】
そして、ガソリンエンジン10では、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油がCa系添加剤を含まないため、粒子状物質が生成されることが抑制(粒子状物質の生成量が低減)される。
【0037】
ここで、先ず、ガソリンエンジン10において粒子状物質が生成されるメカニズムを説明する。ガソリンエンジン10では、シリンダ28に漏洩する潤滑油のうち、ピストン30(クランク室22)経由のものや排気バルブ50(シリンダヘッド室40)経由のものは、高温の燃焼ガスに曝されて蒸発して消失される。このため、潤滑油中の灰分(又は不揮発性成分)は、ピストン30上や排気バルブ50上に残留し、多数の粒子状物質を生成することはない。一方、吸気バルブ38経由で漏洩した潤滑油は、吸気ポート34に供給された混合気(ガソリン)によって洗い流されてしまい、該潤滑油中の灰分はガソリン混合気と共にシリンダ28(燃焼室)に吸入されることとなる。このようにして燃焼室に吸入された灰分は、ガソリン、空気と共に略均質な混合気となり、燃焼行程で燃焼される。この燃焼過程を経ることにより、潤滑油中の灰分は微小な粒子状物質となり、燃焼排ガスと共にガソリンエンジン10から排出されることになる。すなわち、本願の出願人は、ガソリンエンジンにおいて、吸気バルブ38経由で漏洩する潤滑油中の灰分が粒子状物質を生成する主要因であるとの知見を得た。
【0038】
また、潤滑油中の灰分としては、Ca、Zn、Mo等が挙げられる。そして、本願の出願人は、これらの灰分のうちで、通常は潤滑油の質量当たりのCaの添加量(元素濃度)が最も多くなるCaが、仮に他の灰分と等濃度で添加されていたとしても最も粒子化し易いとの知見を得た。具体的には、図2に示される如く、上記したクランク室用潤滑系統82の灰分濃度比(Ca系添加剤によるCa元素濃度:略0.05mol/kg、Zn系添加剤によるZn元素濃度:略0.015mol/kg、Mo系添加剤によるMo元素濃度:略0.01mol/kg)の潤滑油をシリンダヘッド用潤滑系統84に使用した場合では、Caにより生成される粒子状物質の生成量が支配的であるとの知見を得た。
【0039】
図2について補足すると、この図2は、Caが0.05mol/kgだけ添加された潤滑油(他の灰分は含まない)でCaが粒子化されて生成される粒子状物質の量を1とした場合に、Znが0.015mol/kgだけ添加された潤滑油(他の灰分は含まない)ではZnが粒子化されて生成される粒子状物質の生成量は略0.08であり、Mo0.01mol/kgだけ添加された潤滑油(他の灰分は含まない)ではMoが粒子化されて生成される粒子状物質の生成量は略0.02であることを示している。
【0040】
これらの知見に基づいて、吸気バルブ38経由でシリンダ28内に漏れ出し得る潤滑油を、Ca系添加剤を含まない潤滑油としたため、ガソリンエンジン10では、クランク室用潤滑系統82と同じ潤滑油で動弁系58を潤滑する構成と比較して、粒子状物質の生成量、排出量が著しく低減される。そして、上記の通りブローバイガスを吸気管76にのみ還流するようにしたので、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油がブローバイガスにて劣化されることが防止される。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、上記第1の実施形態と基本的に同一の部品・部分には、上記第1の実施形態と同一の符号を付して説明を省略し、また図示を省略する場合がある。
【0042】
図3には、第2の実施形態に係るガソリンエンジン100が図1に対応する断面図にて示されている。この図に示される如く、ガソリンエンジン100では、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油溜り部90が模式的にシリンダヘッド18の外部に設けられている点で、潤滑油溜り部90がシリンダヘッド室40の低所とされた第1の実施形態とは異なる。
【0043】
潤滑油溜り部90には、回収管102経由で、動弁系58の潤滑後にシリンダヘッド室40の低所に落ちた潤滑油が回収されるようになっている。この潤滑油溜り部90は、例えば、シリンダヘッド18に一体に形成することができる。ガソリンエンジン100の他の構成は、ガソリンエンジン10の対応する構成と同じである。
【0044】
したがって、第2の実施形態に係るガソリンエンジン100によっても、基本的に第1の実施形態と同様の作用によって、同様の効果を得ることができる。また、ガソリンエンジン100では、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油溜り部90がシリンダヘッド室40の外側に設けられているので、ステムシール46が潤滑油に浸されることがなく、良好なシール性を得ることができる。
【0045】
なお、上記した実施形態では、シリンダヘッド用潤滑系統84がオイルポンプ92を有する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、シリンダヘッド用潤滑系統84は、オイルポンプ92を有しないで構成されても良い。補足すると、すべり軸受である軸受68、70を備えたガソリンエンジン10、100では、オイルポンプ92による潤滑油の圧送が要求されるが、例えば吸気カムシャフト60、排気カムシャフト64を転がり軸受にて支持した構成では、シリンダヘッド室40内に位置する潤滑油溜り部90に溜められた潤滑油を各被潤滑部に撥ねかけることで、所要の潤滑性能を得ることができる。このため、例えば、吸気カムシャフト60、排気カムシャフト64自身の回転に伴って潤滑油溜り部90の潤滑油を撥ねかける構成とすることで、オイルポンプ92を不要にすることが可能である。また、この構成においては、潤滑油の粘度を低く設定して(例えば、クランク室用潤滑系統82の潤滑油の粘度よりも低粘度として)、ガソリンエンジン10、100の燃費向上に寄与させることが可能である。
【0046】
また、上記した実施形態では、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油中のCa系添加剤濃度が0である例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、Caにより生成される粒子状物質の量が、図2に示すZnにより生成される粒子状物質の量と同等程度となる濃度まで低減されるように、Ca系添加剤の濃度を減じる(例えば、0.004mol/kg程度まで減らす)構成とすることもできる。換言すれば、シリンダヘッド用潤滑系統84の潤滑油は、Ca系の微量の不純物の混入は許容される。
【0047】
さらに、上記した実施形態では、予混合ガソリンエンジンに本発明が適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、動弁系経由で潤滑油が燃焼室内に吸入され得る各種の燃料、燃料供給方式の内燃機関に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る内燃機関の概略全体構成を模式的に示す断面図である。
【図2】潤滑油中の成分ごとの粒子化の生じ易さを比較するための図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る内燃機関の概略全体構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 ガソリンエンジン(内燃機関)
12 クランクシャフト(クランク室内の被潤滑部)
22 クランク室
26 コネクティングロッド(クランク室内の被潤滑部)
30 ピストン(クランク室内の被潤滑部)
58 動弁系
82 クランク室用潤滑系統(第1潤滑系統)
84 シリンダヘッド用潤滑系統(第2潤滑系統)
100 ガソリンエンジン(内燃機関)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室内の被潤滑部に潤滑油を供給するための第1潤滑系統と、
前記クランク室とは非連通とされたシリンダヘッド室内の動弁系に、カルシウム系の添加剤を含まない潤滑油を供給するための第2潤滑系統と、
を備えた内燃機関。
【請求項2】
クランク室内の被潤滑部に潤滑油を供給するための第1潤滑系統と、
前記クランク室とは非連通とされたシリンダヘッド室内の動弁系に、前記第1潤滑系統の潤滑油よりもカルシウム系の添加剤の濃度が低い潤滑油を供給するための第2潤滑系統と、
を備えた内燃機関。
【請求項3】
クランク室内の被潤滑部に潤滑油を供給するための第1潤滑系統と、
前記クランク室とは非連通とされたシリンダヘッド室内の動弁系に、カルシウム系の添加剤の濃度が0.004mol/kg以下である潤滑油を供給するための第2潤滑系統と、
を備えた内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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