説明

内燃機関

【課題】ペントルーフ形状のシリンダヘッドを採用した内燃機関において、燃料噴射弁から直接燃焼室に噴射された燃料を、ピストン頂部に形成されたキャビティに適切に供給する。
【解決手段】本発明の一態様の内燃機関は、燃焼室12に直接燃料を噴射する燃料噴射弁14、ピストン頂部に形成されたキャビティ30、及びシリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24において該燃料噴射弁14の周囲に設けられた突出部44、46を備える。キャビティ30は、シリンダヘッド16のペントルーフ形状の燃焼室画成壁部24に適合するようにキャビティ30の底部38からの距離が互いに異なる複数の外側縁部37、39、40、42を有する。突出部44、46は、複数の外側縁部のうちキャビティ30の底部38からの距離が相対的に短い外側縁部37、39と燃料噴射弁14との間の空間領域に突出するように設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた内燃機関に関し、特に燃焼室がペントルーフ形状を有している内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えた内燃機関としては、ディーゼルエンジン、直噴ガソリンエンジンがある。このような内燃機関では、運転特性の悪化や排気ガスの悪化を抑制するように燃焼室壁面への燃料の付着を抑制することが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1は、筒内噴射式の火花点火エンジンの一例を開示する。このエンジンの燃焼室上部はその中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなし、燃焼室の上部略中央にはこの燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁が装着され、この燃料噴射弁の近傍に隣接して点火プラグが装着されている。さらに、燃料噴射弁の周囲に、シリンダヘッドの下面から下方へ突出する突出部が設けられ、この突出部は燃料噴射弁と点火プラグおよび排気ポートとの間に設けられている。そして、特許文献1の記載によれば、燃料噴射弁から下方に噴射された燃料噴霧は、コアンダ効果により周囲の突出部の湾曲面に沿って上方に流動すると共に、微粒子だけが更に上方に巻き上げられて点火プラグに誘導され、良好な成層燃焼を実現することができ、点火プラグや燃焼室壁面への燃料付着を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−180202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、上記特許文献1に記載のエンジンなど、ペントルーフ形状の燃焼室を有する内燃機関では、燃焼室の深さが場所によって異なる。吸気弁が位置する吸気側領域と排気弁が位置する排気側領域とを結ぶ方向(吸排方向)では燃焼室の略中央から縁部に至るにしたがってシリンダヘッドの燃焼室画成壁部がシリンダブロック側に傾斜し、燃焼室深さが徐々に小さくなる。これに対して、その吸排方向と直角を成す方向において、燃焼室の略中央と縁部とで燃焼室深さは概ね変化しない。このようなガソリンエンジンにおけるペントルーフ形状のシリンダヘッドは、コスト削減の観点から、ディーゼルエンジンでも使用されることが望まれる。
【0006】
ディーゼルエンジンでは、一般に、ピストンが上死点近くにある所定のタイミングに、ピストンの頂部のキャビティまたは燃焼室キャビティに向けて、燃焼噴射弁から、その燃料噴射弁を中心として略径方向(または放射状)に燃料が噴射される。このようなディーゼルエンジンにペントルーフ形状のシリンダヘッドを採用したとき、シリンダヘッドの燃焼室画成壁部のその形状特性に基づき、ピストンのキャビティの外側縁部の高さは場所によって異なることになる。したがって、ペントルーフ形状のシリンダヘッドを採用したディーゼルエンジンにおいて、従来のディーゼルエンジンと同様に燃料噴射弁から燃料を噴射するだけでは、そのようなキャビティに対する燃料の供給に問題が生じる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ペントルーフ形状のシリンダヘッドを採用した内燃機関において、燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁から噴射された燃料を、ピストン頂部に形成されたキャビティに適切に供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様によれば、燃焼室に直接燃料を噴射するようにシリンダヘッドに設けられた燃料噴射弁と、ピストン頂部に形成されたキャビティであって、該シリンダヘッドのペントルーフ形状の燃焼室画成壁部に適合するように該キャビティの底部からの距離が互いに異なる複数の外側縁部を有して形成されたキャビティと、該シリンダヘッドの該燃焼室画成壁部において該燃料噴射弁の周囲に設けられた突出部であって、複数の外側縁部のうち該キャビティの該底部からの距離が相対的に短い外側縁部と該燃料噴射弁との間の空間領域に突出するように設けられた突出部とを備えた、内燃機関が提供される。
【0009】
好ましくは、突出部は、キャビティ内へ該燃料噴射弁から噴射された燃料を方向付けるように設計されている。
【0010】
好ましくは、シリンダヘッドの燃焼室画成壁部は、吸気側に傾斜する吸気側傾斜部、排気側に傾斜する排気側傾斜部、および、該吸気側傾斜部と該排気側傾斜部との間に延在する頂稜部を備え、キャビティにおいて、吸気側に位置する吸気側外側縁部および排気側に位置する排気側外側縁部は、該吸気側外側縁部と該排気側外側縁部との間に延在する中間外側縁部に比べて、該キャビティの該底部からの距離の点で短いように形成されている場合、該吸気側外側縁部と前記燃料噴射弁との間の空間領域に突出するように吸気側突出部が設けられ、該排気側外側縁部と該燃料噴射弁との間の空間領域に突出するように排気側突出部が設けられているとよい。
【0011】
例えば、シリンダヘッドの燃焼室画成壁部の頂稜部がシリンダ中心軸線から排気側に偏っている場合、排気側突出部の突出量は、吸気側突出部の突出量よりも多いとよい。
【0012】
中間外側縁部と燃料噴射弁との間の空間領域に突出するようにさらに中間突出部が設けられることができる。この場合、中間突出部は、吸気側突出部の突出量および排気側突出部の突出量よりも、少ない突出量を有するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の一部の断面模式図である。
【図2】図1の断面と直角をなす方向における、図1の内燃機関の一部の断面模式図である。
【図3】図1の内燃機関における模式図であり、吸気バルブ、排気バルブ、燃料噴射弁および突出部の位置関係を説明するための図である。
【図4】図1の内燃機関におけるシリンダヘッドの燃焼室側の部分の模式図であり、シリンダヘッドのペントルーフ形状の燃焼室画成壁部に対する、吸気バルブ、排気バルブおよび燃料噴射弁の位置関係を説明するための図である。
【図5】図1の内燃機関とは異なる内燃機関に関する図である。
【図6】図1の内燃機関のシリンダヘッド形状およびピストン頂部形状を説明するための図である。
【図7】図1の内燃機関における突出部を説明するための図である。
【図8】突出部がない燃焼室に燃料を噴射したときの、コンピュータシュミレーション結果を表す図である。
【図9】突出部が設けられた燃焼室に燃料を噴射したときの、コンピュータシュミレーション結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【0015】
図1、図2に実施形態に係る内燃機関10の一部の、特に燃焼室12周囲の断面模式図を示す。図示される内燃機関(エンジン)10は、ディーゼルエンジンであり、燃焼室12に直接燃料を噴射する燃料噴射弁14を有する。燃焼室12は、シリンダヘッド16と、シリンダブロック18に設けられたシリンダ20と、ピストン22とで区画形成されているので、シリンダヘッド16、シリンダブロック18、およびピストン22はそれぞれ燃焼室を区画形成する壁部つまり燃焼室画成壁部を有する。なお、燃料噴射弁14はシリンダヘッド16に設けられている。
【0016】
エンジン10では、燃焼室12の形状として、ペントルーフ形状が採用されていて、シリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24はペントルーフ形状をなしている。したがって、図1および図2から理解できるように、シリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24は、頂稜部24aと、2つの傾斜部24b、24cとを有する。
【0017】
また、エンジン10では、1つの燃焼室12つまり1つのシリンダ20当たり、2つの吸気バルブ26と、2つの排気バルブ28とが用いられている。したがって、2つの傾斜部24b、24cのうちの一方の傾斜部24bつまり吸気側傾斜部に2つの吸気バルブが位置し、2つの傾斜部24b、24cのうちの他方の傾斜部24cつまり排気側傾斜部に2つの排気バルブが位置する。
【0018】
特に、エンジン10では、一般的なガソリンエンジンと同様に、吸気バルブ26が排気バルブ28よりも大きいために(図3参照)、頂稜部24aがシリンダ中心軸線Aまたはピストン中心軸線から排気側にずれている。ここで、図3、図4における線L1、L2は、シリンダ中心軸線Aを含みかつ吸気側と排気側との中間に延びるように定義される面に含まれ、吸気側から排気側へと延びる方向を吸排方向とすると、この吸排方向と直角をなす中間方向に延びる。なお、図3の線L3は、シリンダ中心軸線Aを含みかつ吸排方向に延びるように定義される面に含まれる。したがって、頂稜部24aは、図3、4において、中間方向に延びる線L1、L2の排気側に実質的に延在する。なお、図1は吸排方向におけるエンジン10の断面模式図であり、図2は中間方向におけるエンジン10の断面模式図である。
【0019】
ピストン22は、シリンダブロック18に設けられたシリンダ20内を往復移動可能に設けられ、図示しないクランクシャフトに連結されている。ピストン22の頂部には、キャビティ30が設けられている。キャビティ30は略ドーナツ形状の凹部として構成されている。ディーゼルエンジンであるエンジン10では、例えばピストン22が上死点近くにあるときに、燃料噴射弁14から燃焼室12に燃料を噴射するように、燃料噴射弁14は制御される。特に、このような燃料噴射弁14から噴射された燃料がキャビティ30内に供給されるように、その燃料噴射時期などは制御される。
【0020】
ピストン22のキャビティ30は、シリンダヘッド16のペントルーフ形状の燃焼室画成壁部24に適合するように形成されている。ここでキャビティ30などの形状を図5、図6に基づいて説明する。図5はエンジン10とは異なるエンジン10´の模式図であり、図6はエンジン10の模式図であるが、図6では後述される突出部(図1参照)は省略されている。なお、図5および6では、シリンダヘッドの略中央の領域に設けられた燃料噴射弁は省略されている。
【0021】
まず、エンジン10の比較例としてのエンジン10´に関して、図5に基づいて説明する。図5のエンジンでは、シリンダヘッド16´がペントルーフ形状にされていて、燃焼室画成壁部24´は、頂稜部24a´と、2つの傾斜部24b´、24c´とを有する。頂稜部24a´はシリンダ20´の軸線A´上に位置し、中間方向に延在する。燃焼室画成壁部24´はドリルでテーパ加工されるので、吸気側傾斜部24b´のスキッシュ部25b´および排気側傾斜部24c´のスキッシュ部25c´の傾斜角度は略同じ角度θである。これに対して、キャビティ30´の周囲に延在するピストン22´の頂部の斜めスキッシュ部32b´、32c´も同様の傾斜角度で形づくられている。キャビティ30´は、それの中心軸線B´がシリンダ中心軸線A´に一致するように、形成され、図5において排気側と吸気側とで略対称になっている。
【0022】
次に、エンジン10に関して主に図6に基づいて説明する。
【0023】
エンジン10では、上記したように、シリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24の頂稜部24aはシリンダ20の中心から排気側に偏っている。しかし、エンジン10では、回転軸線がシリンダ軸線Aと一致するように動かされるドリルで燃焼室画成壁部24がテーパ加工されるので、吸気側傾斜部24bのスキッシュ部25bの傾斜角度および排気側傾斜部24cのスキッシュ部25cの傾斜角度は略同じ角度θである。
【0024】
このようなペントルーフ形状のシリンダヘッド16に適合するようにピストン22が形づくられている。ピストン22の頂部の斜めスキッシュ部32b、32cは、シリンダヘッド16との間の隙間を適正化するように、スキッシュ部25b、25cの傾斜角度と同様の傾斜角度で形成されている。そして、斜めスキッシュ部32b、32cは、上記スキッシュ部32b´、32c´と同様に、中心軸線A上に頂点を有する円錐面の一部であるように形成されている。このようなピストン中心軸線Aを中心とした形状を有する斜めスキッシュ部32b、32cに対して、キャビティ30は、シリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24の頂稜部24aと同様に排気側に偏っている。つまり、キャビティ30の中心軸線Bはシリンダ20の中心軸線Aと重ならない。そして、中心軸線Bの方向から見た場合、キャビティ30の内側周縁部34および外側周縁部(リップ)36はそれぞれ中心軸線Bを中心とした略真円に沿って実質的に延在している。したがって、図6に表され、また図6から理解できるように、排気側に位置する排気側外側縁部37とキャビティ30の底部(最も深い部分または最もクランクシャフトに近い部分)38との間の距離H1は、吸気側に位置する吸気側外側縁部39とキャビティ30の底部38との間の距離H2に比べて、短い。なお、外側周縁部36にそれぞれが含まれる各外側縁部(リップ部分)と、キャビティ30の底部38との間の距離は、シリンダ中心軸線A方向のそれらの間の長さである。そして、キャビティ30の底部38は、中心軸線Aに直交する1つの平面上に実質的に延在する。ただし、排気側外側縁部37および吸気側外側縁部39は、図1、図2から明らかなように、これらの間にこれらに挟まれるように延在する中間外側縁部40、42に比べて、キャビティ30の底部38からの距離の点で短いように形成されている。
【0025】
このようにキャビティ30は、底部38からの距離が互いに異なる複数の外側縁部を有している。そして、このキャビティ30の外側縁部のうち、底部38からの距離が相対的に長い外側縁部、本実施形態では中間外側縁部40、42を基準に、燃料噴射弁14は設けられると共に、燃料噴射弁14からの燃料噴射は制御される。したがって、上記構成のみでは、キャビティ30の中心軸線B上に設置された燃料噴射弁14から噴射された燃料は、吸気側および排気側で直進して、シリンダ壁面などに付着する可能性がある。
【0026】
そこで、このようなエンジン10では、さらにシリンダヘッド16に、燃焼室12に向けて突出する突出部44、46が設けられている。突出部44、46は、吸気側に位置する吸気側突出部と、排気側に位置する排気側突出部であり、分離独立している。吸気側突出部44は吸気側外側縁部39と燃料噴射弁14との間の(燃焼室の)空間領域に突出するように設けられ、排気側突出部46は排気側外側縁部37と燃料噴射弁14との間の空間領域に突出するように設けられている。
【0027】
そして、これら突出部44、46は、キャビティ30内へ燃料噴射弁14から噴射された燃料を方向付けるように設計されて設けられている。具体的には、突出部44、46は、キャビティ30内へ燃料噴射弁14から噴射された燃料を方向付けるように設定された、形状、突出量(突出高さ)および突出位置を有する。突出部44、46のそれぞれの形状、突出位置および突出量は、任意に設定できるが、好ましくは、実験により最適化される。
【0028】
突出部44、46はそれぞれ、燃料噴射弁14(の噴孔)の方向を向いた内側面44a、46aを有する。図1では内側面44a、46aは直線的に表されているが、種々の形状を有するように形成されることができ、図1のような断面において凹状にまたは凸状を有するように、さらには曲面形状に内側面44a、46aは形成されることができる。また、図3に表されるように、突出部44、46はそれぞれ燃料噴射弁14を中心にそこから略等距離に延在する内側面44a、46aを有し、略三日月形状を有する。これら突出部44、46は、本実施形態では、シリンダ中心軸線Aを含み吸排方向に延びる面上に位置する部分でつまり図3の線L3上に位置する部分で、突出量および突出幅が最も多くなり、それらの端部に至るにしたがってその突出量および突出幅が少なくなるように形成されている。本実施形態では、図7に示すように、シリンダ中心軸線Aを含み吸排方向に延びる面上で、突出部44、46の各突出量は、突出部44、46の先端部44b、46bが燃料噴射弁14の噴孔位置よりも、ピストン22側に位置するように設定されている。それ故、ここでは、シリンダ中心軸線Aに直交する方向において吸気側から吸気側突出部44をみることができる場合、燃料噴射弁14は吸気側突出部44の陰に隠れて見えない。排気側から排気側突出部46を見る場合も、同様である。
【0029】
そして、排気側突出部46の内側面46aのシリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24からの突出量p1は、吸気側突出部44の内側面44aのシリンダヘッド16の燃焼室画成壁部24からの突出量p2よりも多い(図7参照)。これは、排気側外側縁部37が吸気側外側縁部39に対して底部38からの距離の点で短いように形成されていることに対応する。そして、本実施形態では、排気側突出部46の先端部46bが、吸気側突出部44の先端部44bよりも、ピストン側に位置付けられている。
【0030】
なお、中間外側縁部40、42と燃料噴射弁14との間の空間領域には突出部が設けられていない。これは、排気側外側縁部37の底部38からの距離および吸気側外側縁部39の底部38からの距離よりも、中間外側縁部40、42の底部38からの距離が長いので、中間外側縁部と燃料噴射弁14との間の空間領域に突出量がゼロ(<p1またはp2)の突出部が設けられていると理解されることができる。
【0031】
そして、本実施形態では、突出部44、46は、それぞれ、図7に示されるように、シリンダ中心軸線Aの方向に内側周縁部34および外側周縁部36をそれぞれ延ばすことで形成される、中心に孔の開いた円筒状の領域(中空円筒状領域)Cに、それぞれの内側面44a、46aが位置するように、位置決めされる。これは、上記したように、燃料噴射弁14から噴射された燃料をより適切にキャビティ30に方向付けるためである。なお、本実施形態では、吸気側突出部44および排気側突出部46の各突出位置、好ましくは内側面44a、46aの各突出位置は、シリンダ中心軸線Aから略等距離である。ただし、突出部44、46の内側面44a、46aは燃料噴射弁から異なる距離に配されてもよい。また、内側面44a、46aが中空円筒状領域C外に、例えば領域Cよりも燃料噴射弁14側の領域に配されることを本発明は排除しない。
【0032】
ここで、このような突出部の効果を調べるべく、コンピュータシュミレーションを行ったので、その結果が説明される。
【0033】
図8は、上記したような突出部が突出しない燃焼室に所定のタイミングで燃料噴射弁から燃料を噴射したときの結果である。図8に表されるように、突出部を設けなかった場合、燃料は直進し、ピストンのキャビティに適切に到達しなかった。
【0034】
図9は突出部が突出する燃焼室に燃料噴射弁から燃料を噴射したときの結果である。図9に表されるように、上記突出部44、46のような突出部を設けた場合、燃料噴射弁からの燃料噴霧による気流や燃焼室内の2次流れ(反射等により方向が変えられた流体の流れ)の干渉により、燃料噴射弁から噴射された燃料の進行方向は曲がり、該燃料はピストンのキャビティに適切に方向付けられた。
【0035】
このように、燃料噴射弁の周囲に上記したような突出部を設けることで、燃料噴射弁から噴射された燃料の方向を曲げ、燃料または火炎をピストンのキャビティに導くことができる。また、このように燃料の流れ方向が変えられることで、燃焼室における燃料の貫通力は(例えば30%)低減され得る。したがって、そのような突出部を設けることで、燃料の微粒化などのために燃料の噴射圧力を高めた場合であっても、キャビティ壁面への燃料の付着も適切に抑制され、スモークの発生をさらに抑制することができる。なお、上記したような燃料噴霧による気流や燃焼室内の2次流れの干渉作用により、さらに燃料噴霧の微粒化および燃料への空気の巻き込みも促進されるので、燃料の燃焼性も高められ得る。
【0036】
つまり、上記したように、エンジン10では中間外側縁部40、42を基準に燃料噴射弁14から燃料が噴射される。したがって、突出部44、46がない場合には燃料が直進して吸気側および排気側で燃料がシリンダ壁面などに付着する可能性があった。しかし、吸気側および排気側突出部44、46があるので、キャビティ30のリップ部分が低い吸気側および排気側でも、適切に燃料をキャビティ30に導いて燃焼させることができる。
【0037】
また、このように燃料または火炎をキャビティに適切に導くことができるので、燃料噴射弁からの燃料の噴射角を、燃料噴射弁を中心に広角にすることができる。したがって、フラットヘッドの従来のディーゼルエンジンと同様に、上記エンジン10では、噴射燃料への十分な空気の巻き込みを実現することができ、よって燃料の燃焼性を確保し、スモーク発生を抑制できる。
【0038】
上記実施形態では、吸気側突出部44の突出量と排気側突出部46の突出量とを異ならせたが、同じであってもよい。例えば、燃焼室画成壁部の頂稜部がシリンダ軸線上に位置するシリンダヘッド(図5に表したようなシリンダヘッド)が用いられる場合、シリンダ中心軸線とキャビティの中心軸線とは概ね重なるので、吸気側突出部と排気側突出部とは実質的に同じように形成され得る。また、吸気側突出部と排気側突出部との間に、中間突出部が設けられてもよい。そして、中間突出部が設けられる場合、中間突出部は吸気側突出部および排気側突出部のいずれか一方または両方と一体的に設けられてもよい。つまりこれら突出部は燃料噴射弁の周囲に連続してもよい。ただし、中間突出部の突出量は、吸気側突出部の突出量および排気側突出部の突出量よりも、少ないとよい。これは、上記したように、中間外側縁部のキャビティ底部からの距離よりも、吸気側外側縁部の同底部からの距離および排気側外側縁部の同底部からの距離が短いからである。
【0039】
なお、上記実施形態は本発明をディーゼルエンジンに適用したものであったが、本発明は、他の形式のエンジンに適用されてもよい。例えば、本発明は、筒内噴射用の燃料噴射弁を備えたガソリンエンジンに適用されてもよい。
【0040】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限られない。特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジン
12 燃焼室
14 燃料噴射弁
22 ピストン
30 キャビティ
37 排気側外側縁部
38 底部
39 吸気側外側縁部
44、46 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に直接燃料を噴射するようにシリンダヘッドに設けられた燃料噴射弁と、
ピストン頂部に形成されたキャビティであって、該シリンダヘッドのペントルーフ形状の燃焼室画成壁部に適合するように該キャビティの底部からの距離が互いに異なる複数の外側縁部を有して形成されたキャビティと、
該シリンダヘッドの該燃焼室画成壁部において該燃料噴射弁の周囲に設けられた突出部であって、前記複数の外側縁部のうち該キャビティの該底部からの距離が相対的に短い外側縁部と該燃料噴射弁との間の空間領域に突出するように設けられた突出部と
を備えた、内燃機関。
【請求項2】
前記突出部は、前記キャビティ内へ該燃料噴射弁から噴射された燃料を方向付けるように設計されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記シリンダヘッドの前記燃焼室画成壁部は、吸気側に傾斜する吸気側傾斜部、排気側に傾斜する排気側傾斜部、および、該吸気側傾斜部と該排気側傾斜部との間に延在する頂稜部を備え、
前記キャビティにおいて、吸気側に位置する吸気側外側縁部および排気側に位置する排気側外側縁部は、該吸気側外側縁部と該排気側外側縁部との間に延在する中間外側縁部に比べて、該キャビティの該底部からの距離の点で短いように形成され、
該吸気側外側縁部と前記燃料噴射弁との間の空間領域に突出するように吸気側突出部が設けられ、該排気側外側縁部と該燃料噴射弁との間の空間領域に突出するように排気側突出部が設けられている、
請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記シリンダヘッドの前記燃焼室画成壁部の前記頂稜部はシリンダ中心軸線から排気側に偏っていて、
前記排気側突出部の突出量は、前記吸気側突出部の突出量よりも多い、
請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記中間外側縁部と前記燃料噴射弁との間の空間領域に突出するようにさらに中間突出部が設けられ、
該中間突出部は、前記吸気側突出部の突出量および前記排気側突出部の突出量よりも、少ない突出量を有する、
請求項3または4に記載の内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−72321(P2013−72321A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210844(P2011−210844)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】