説明

内膜過形成および関連する状態に対する治療

本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管壁における内膜過形成の予防または治療の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に移植された材料への細胞の浸潤の予防のための方法および組成物に関する。具体的には、内膜過形成および加速化アテローム硬化症によって生じる再狭窄の結果としての血管グラフト不全の予防、ならびに内膜過形成によって生じる移植片またはプロテーゼの閉塞の予防に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム硬化症は、血管疾患の最も一般的な形態であり、重要な身体臓器への不十分な血液の供給を招き、心臓発作、卒中および腎不全を生じる。アテローム硬化症は、喫煙者および高血圧、内臓脂肪症候群または糖尿病を罹患している人々において主要合併症も生じる。アテローム硬化症は、通常は、血流を制御する血管の緊張を調節している動脈壁内の正常血管平滑筋細胞(VSMC)のいくらかがその性質を変化させ、癌様の挙動を発症する慢性血管傷害の一形態である。これらのVSMCは、異常に増殖性となり、それらを血管内層中に浸入および拡散できるようにする成長因子、組織分解酵素および他のタンパク質などの物質を分泌し、血流を遮断し、かつ局所的な血液凝固によって異常なほど血管を完全に閉鎖させやすくし、最終的にはその動脈による供給を受けている組織の死を生じる。
【0003】
静脈バイパス移植は、閉塞性の動脈病変を治療するための血管再構築の最も一般的な方法である。自己静脈グラフトは、依然として血管再構築の多くの型に対する唯一の外科的代替法であるが、これらのグラフトの1年後の不全率は20%に近く、動脈-冠動脈および末梢静脈グラフトの不全率は、1年後に10%から40%、10年後に50%から60%に達する。移植された血管での新生内膜またはアテローム硬化症の発症は、しばしば閉塞性の狭窄を生じる。新生内膜病変の特徴は、単核細胞の浸潤、平滑筋細胞の増殖および細胞外マトリックスの沈着である。これらの疾患の病因は、ほとんど理解されないままであり、有効な臨床的インターベンションは特定されていない。
【0004】
静脈移植後に閉塞性疾患の血管造影での証拠を有する患者において、グラフト内のアテローム硬化性病変は、手術後6から12カ月の早期に組織学的に示されている。血管バイパスグラフト内の構造変化は、一般的に加速化アテローム硬化症として周知であり、通常のアテローム硬化症とは形態学的に異なるアテローム硬化症の急速進行性で構造的に区別される形態の発症から生じる。通常の血管アテロームは、近位、局所偏心性かつ脆弱でなく、十分に発達した線維性キャップを有する一方で、静脈グラフトアテローム硬化性病変は、よりびまん性、同心性でかつ脆弱であり、ほとんど発達していない線維性キャップを有するかまたは線維性キャップを有さない。加速化アテローム硬化性病変は、様々な程度の脂質蓄積ならびにマクロファージ/単核細胞および炎症細胞の浸潤を有し、泡沫細胞も通常のアテローム硬化性病変より多く含有する。
【0005】
再狭窄、矯正手術後の狭窄または動脈狭窄の再発は、アテローム硬化症の加速化形態である。近年の証拠は、冠動脈再狭窄、冠静脈グラフトおよび心臓同種移植アテローム硬化症が、自然発症アテローム硬化症を生じる同じ発症過程の、より加速化した形態を表すと考え得るという、血管損傷の統一仮説を支持している(Ipら、(1990)J Am Coll Cardiol 15:1667〜1687;Mullerら、(1992)J Am Coll Cardiol 19:418〜432)。
【0006】
再狭窄は、アテローム硬化性病変の後期でも共通である血小板由来増殖因子(PDGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む強力な増殖-制御分子が関与し、血管平滑筋細胞の増殖、遊走および新生内膜蓄積を生じる、血管傷害への複雑に連続した線維増殖性応答によることが示唆されている。
【0007】
再狭窄は、冠動脈バイパス手術、動脈内膜切除術および心臓移植の後に、具体的には、心臓バルーン血管形成術、粥腫切除術、レーザー焼灼術または血管内ステント留置の後に生じ、それぞれにおいて1/3の患者が術後6カ月までに再狭窄を再発し、症状の再発または死の原因となる。頻回の血管再生術がしばしば必要とされる。10年を超える研究ならびに、血管形成術、バイパス移植および動脈内膜切除術を含むアテローム硬化性疾患の様々な内科的および外科的治療での初期成功率における著しい改善の一方で、遅発性再狭窄による続発性不全は、患者の30〜50%において依然として生じている。
【0008】
血管狭窄も、臓器移植の長期的な成功の主な制限要因であり、最終的に虚血性グラフト不全を生じる。同種移植片-加速化移植組織硬化症として既知である、この現象の病因は完全には理解されていないが、内皮損傷、単核細胞浸潤、平滑筋細胞増殖および内膜でのマトリックスタンパク質の沈着に関連する。この症候群について、いくつかのマウスモデルが利用可能である(Xu(2004)American Journal of Pathology 165(1):1〜10)。
【0009】
内膜過形成(IH)および加速化アテローム硬化症の結果としての早期の内膜肥厚の発症は、手術中の機械的損傷、周期的な伸展および動脈循環におけるより高いずり応力によって開始する静脈グラフト壁における炎症反応の結果であると考えられている。これら両方の現象は、結果的にグラフト不全の一因となる場合がある。
【0010】
新生内膜過形成としても周知の内膜過形成は、細胞外結合組織マトリックスの随伴性沈着を伴う血管の内膜層における血管平滑筋細胞の異常な遊走および増殖である。
【0011】
このリモデリング過程において生じる最初の現象の1つは走化性であり、炎症細胞、主に単球の静脈グラフト壁の内膜への接着および遊走が続く。これらの細胞は、平滑筋細胞遊走および泡沫細胞蓄積に対する強力な刺激である炎症誘発性サイトカインおよび増殖因子の供給源である。静脈グラフトの内膜中における平滑筋細胞および泡沫細胞の蓄積は、肥厚化血管壁および管腔直径の減少を生じる。
【0012】
タキソール、ピクロリムス(picrolimus)、ラパマイシンなどの薬剤を含有する薬剤コートステントまたは薬剤溶出ステントは、宿主動脈の内膜層由来の細胞の不増殖によってステントの再閉塞の問題を克服しようとするために広汎に使用されている(Bhargavaら、(2003)British Medical Journal 327:274〜279)。これらの薬剤溶出ステントは、幾分かの成功を経験しているが、それらは、主にVSMCの侵入を阻害する。それらは、内膜過形成の問題全体には対処しない。
【0013】
Pexeluzimab(Alexion Pharmaceuticals.Inc.)、C5に対するヒト化モノクローナル1本鎖抗体断片は、急性心筋梗塞を罹患している患者における血栓溶解剤または最初の経皮経管冠動脈形成術(PCA)への補助治療として試されている。血栓溶解剤との組合せにおけるpexeluzimabについては、利益は観察されず、PCA群において死亡率の減少があったが、梗塞の大きさの減少はなかった(Grangerら、(2003)Circulation 108:1184〜1190;Shernanら、(2004)Ann.Thorac.Surg.77:942〜949)。冠動脈バイパス移植を受けた患者についての他の研究において(Verrierら、(2004)JAMA 291:2319〜2327)、pexeluzimabは、バイパス移植のみを受けた患者において死亡または心筋梗塞の危険性を低減しなかったが、弁手術を伴うまたは伴わずに移植を受けた患者においては危険性を幾分か低減した。しかし、出願人の知る限りでは、pexeluzimabまたはeculizamab(Alexionによって製造される他の抗C5抗体)のいずれが内膜過形成の阻害において有用であり得るとは示唆されていない。
【0014】
血管の閉鎖を低減または予防するための有効な化学療法的療法の必要性がある。この疾患を予防する最も有効な方法は、合併症または死亡の著しい危険性、時間および費用の浪費を生じる場合があり、かつ患者に不都合がある頻回の再血管新生手術とは対照的に、細胞レベルにおいてである。
【0015】
内膜過形成に関与する走化性および細胞活性化過程の阻害は、炎症細胞の接着、流入および活性化の低減、ならびに最終的に静脈グラフト肥厚およびステント再狭窄の低減を生じる可能性がある。血小板由来増殖因子(PDGF)およびケモカインなどの様々な増殖因子ならびに特定のG-タンパク質共役受容体などの他の標的は、内膜過形成の病因学に関連しているがこの状態の機序は、まだ理解されていない。
【0016】
補体カスケードの生物学的活性成分の1つ、C5aは、強力な走化性タンパク質である。補体カスケードは、免疫系の重要な部分であり、循環タンパク質群および数個の膜-結合制御酵素から成る。補体カスケードの活性化は、補体成分C3の切断を生じ、結果としてC5aを含む生物学的に活性な最終産物の形成を生じる。
【0017】
C5aは、その機能をC5a受容体(C5aR)を通じて発現し、単球、T-およびB-リンパ球ならびに好中球を含むきわめて多数の細胞型に対して走化性である。C5aは、敗血症、気管支喘息および虚血性/再灌流傷害などのいくつかの炎症過程において重要であることが示されている。しかし、アテローム硬化症ならびに血管形成後再狭窄および静脈グラフト肥厚などの状況におけるインターベンション後血管リモデリングなどの血管の炎症性過程におけるC5aの役割は、たとえあるとしてもまだ完全には理解されておらず、これまでこの点についての詳細な研究はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際特許出願PCT/AU02/01427(WO2003/033528)
【特許文献2】国際特許公開WO02/49993
【特許文献3】WO03/078457
【特許文献4】米国特許第5,807,824号
【特許文献5】米国特許第5,480,974号
【特許文献6】米国特許第6,358,556号
【特許文献7】米国特許第5,545,208号
【特許文献8】米国特許第6,273,913号
【特許文献9】米国特許第6,140,127号
【特許文献10】国際特許出願PCT/AU98/00490(WO99/00406)
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Ipら、(1990)J Am Coll Cardiol 15:1667〜1687
【非特許文献2】Mullerら、(1992)J Am Coll Cardiol 19:418〜432
【非特許文献3】Xu(2004)American Journal of Pathology 165(1):1〜10
【非特許文献4】Bhargavaら、(2003)British Medical Journal 327:274〜279
【非特許文献5】Grangerら、(2003)Circulation 108:1184〜1190
【非特許文献6】Shernanら、(2004)Ann.Thorac.Surg.77:942〜949
【非特許文献7】Verrierら、(2004)JAMA 291:2319〜2327
【非特許文献8】Sumichika(2004)Current Opinion in Investigational Drugs 5(5):505〜510
【非特許文献9】Sumichikaら、(2002)J Biol Chem.277(51):49403〜49407
【非特許文献10】Zwolakら、(1987)J Vasc Surg.5:126〜136
【非特許文献11】Finchら、(1999)J Med Chem.42:1965〜1974
【非特許文献12】Woodruffら、(2003)J Immunol.171:5514〜5520
【非特許文献13】Woodruffら、(2004)J Surg Res.116:81〜90
【非特許文献14】Coligan、Dunn、Ploegh、SpcicherおよびWingfield;「Current protocols in Protein Science」(1999)Volumes IおよびII(John Wiley & Sons Inc.)
【非特許文献15】Sambrook、FritschおよびManiatis:「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(2001)
【非特許文献16】Shuler,M.L.:Bioprocess Engineering:Basic Concepts(2nd Edition、Prentice-Hall International、1991)
【非特許文献17】Glazer,A.N.、DeLange,R.J.およびSigman,D.S.:Chemical Modification of Proteins(North Holland Publishing Company、Amsterdam、1975)
【非特許文献18】Graves,D.J.、Martin,B.L.およびWang,J.H.:Co- and post-translational modification of proteins:chemical principles and biological effects(Oxford University Press、1994)
【非特許文献19】Lundblad,R.L.(1995)Techniques in protein modification.CRC Press,Inc.Boca Raton、Fl、USA
【非特許文献20】Goding,J.W Monoclonal Antibodies:priciples and practice(Academic Press、New York:3rded、1996)
【非特許文献21】Zouら、(1998)Am J Pathol.153:1301〜1310
【非特許文献22】Lardenoyeら、(2002)Circulation Research 577〜584
【非特許文献23】Alpら、(2002)Cardiovascular Research 56:164〜172
【非特許文献24】Petrofskiら、(2004)J Thorac Cardiovasc Surg.127:27〜33
【非特許文献25】Remington's Pharmaceutical Sciences、20th ed.Williams & Wilkins(2000)
【非特許文献26】The British National Formulary 43rd ed.(British Medical Association and Royal Pharmaceutical Society of Great Britain、2002;http://bnf.rhn.net)
【非特許文献27】Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis for Therapeutics(7th ed.、1985)
【非特許文献28】Langer、Science、249:1527、(1990)
【非特許文献29】Van Beckら、(2000)Exp Neurol.161:373〜382
【非特許文献30】Marchら、(2004)Mol Pharmacol.65:868〜879
【非特許文献31】Woodruffら、(2005)J Pharmacol Exp Ther.
【非特許文献32】Yasojimaら、(2001)Am J Pathol.158:1039〜1051
【非特許文献33】Patelら、(2001)Biochem Biophys Res Commun.286:165〜170
【非特許文献34】Speidlら、(2005)Eur Heart J.
【非特許文献35】Danenbergら、(2002)Circulation.105:2917〜2922
【非特許文献36】Toutouzasら、(2004)Eur Heart J.25:1679〜1687
【非特許文献37】Chenら、(2004)Arterioscler Thromb Vasc Biol.24:709〜714
【非特許文献38】Usuiら、(2002)FASEB J.16:1838〜1840
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
出願人は、C5aが静脈グラフト疾患において炎症誘発性、狭窄誘発的役割を演じ、C5a機能の干渉が内膜過形成の低減および内膜過形成におけるマクロファージ由来泡沫細胞の数の減少を生じるであろうとの仮説を立てた。本明細書において出願人は、C5aが静脈グラフト肥厚の発症において機能的役割を演じており、C5aの遮断が静脈グラフト不全およびステント再狭窄を克服するための治療のための潜在的標的である証拠を初めて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
第1の態様において本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管壁における内膜過形成の予防または治療の方法を提供する。
【0022】
第2の態様において本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管グラフト肥厚の発症を抑制する方法を提供する。
【0023】
第3の態様において本発明は、ステントが移植されている哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、ステント再狭窄の発症を抑制する方法を提供する。
【0024】
第4の態様において本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない増殖、遊走もしくは肥大を予防または治療する方法を提供する。
【0025】
狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない増殖、遊走もしくは肥大は、以下のリストの状態;アテローム硬化症、慢性閉塞性肺動脈障害、移植、血管グラフト、静脈手術、動脈手術、バイパスグラフト不全、形成術、組織移植、腫瘍、黄斑変性、血管新生、迷走性創傷修復、子宮内膜症、脈管炎、血栓症に続く血行再建不良、プロテーゼ術、瘢痕、動脈瘤手術/修復、リンパ手術/修復、脊髄傷害/手術/修復、内皮腫瘍、ケロイド、肉芽腫、血管腫、血栓性障害後の治療/修復、血管形成術および再建術、のうちの1つの結果であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における使用のための好ましい環状ペプチドC5a受容体アンタゴニストの構造を示す図である。
【図2】手術後の様々な時期での免疫組織化学による静脈バイパスグラフト中のC5の検出を例示する図である。手術直後にC5は、白血球に接着して見られる。C5の最高量は、術後7日に見られ、その後の時点でC5は、主に内皮細胞、泡沫細胞および外膜線維芽細胞に存在し続けている(倍率150〜400×)。
【図3】半定量的RT-PCRによって検出した静脈グラフトにおけるC5a受容体mRNAの発現を、大静脈血管での基礎発現と比較して示す図である(1時点当たりn=4)。C5a受容体mRNAの極少量が大静脈血管に存在した。C5a受容体mRNAの上方制御が、グラフトの挿置後に見られ、手術後7日でピーク発現、その後発現レベルは正常に戻る。
【図4】高コレステロール血症マウス(1群当たりn=8)での静脈グラフトへのC5aの適用の効果を示す図である。 パネルA:20% Pluronic gel単独、0.5μg組換えC5aタンパク質を含有する20% Pluronic gelまたは5μg組換えC5aタンパク質を含有する20% Pluronic gelのいずれかに暴露した静脈グラフトの代表的断面である。 パネルB:内膜過形成における用量-依存増大がC5a処置マウスにおいて見られた(0.5μg:p=0.1、5μg:p=0.002、矢印は、内膜過形成を示す、倍率200×)。
【図5】静脈グラフトへのC5a適用の、泡沫細胞の内膜過形成への寄与における効果を例示する図である。 パネルA:抗マクロファージ抗体を使用する免疫組織化学で評価された通り、C5aへの暴露の増大は、内膜過形成への泡沫細胞の寄与の顕著な増大を生じる(0.5μg:p=0.1、5μg:p<0.001、倍率200×)。 パネルB:総面積の百分率として表す泡沫細胞の増大の定量的評価。
【図6】C5a受容体アンタゴニストHCおよびAcFでの静脈グラフトの処置の効果を示す図である。 パネルA:手術後28日での対照および処置静脈グラフトの代表的断面であり、内膜過形成における減少が、AcFまたはHCのいずれかで1日に0.3mg/kgの用量で処置した群において見られた(ヘマトキシリン-フロキシン-サフラン染色、倍率200×)。 パネルB:手術後28日での対照および処置静脈グラフトにおける、mm2で示す内膜過形成表面の定量(1群当たりn=7、*は、p<0.05を表す)、C5a受容体アンタゴニスト処置は、手術後28日で静脈グラフトにおける内膜過形成の減少を生じる。 パネルC:内膜過形成総表面の百分率として表す、マクロファージ由来泡沫細胞の内膜過形成における寄与の免疫組織化学による定量である、C5a受容体アンタゴニストでの処置は、血管壁中の泡沫細胞含有量における減少を生じる(1群当たりn=7、*は、p<0.05を表す)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の態様において本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管壁における内膜過形成の予防または治療の方法を提供する。
【0028】
一実施形態において哺乳類は、血管グラフトまたはプロテーゼのレシピエントである。グラフトは、静脈または動脈グラフトであり得る。他の実施形態において哺乳類は、心臓、心肺または腎臓の移植などの臓器移植のレシピエントである。
【0029】
第2の態様において本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管グラフト肥厚の発症を抑制する方法を提供する。
【0030】
グラフトは、静脈または動脈グラフトであり得る。
【0031】
第3の態様において本発明は、ステントが移植されている哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、ステント再狭窄の発症を抑制する方法を提供する。
【0032】
第4の態様において本発明は、哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない増殖、遊走もしくは肥大を予防または治療する方法を提供する。
【0033】
狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない増殖、遊走もしくは肥大は、以下のリストの状態;アテローム硬化症、慢性閉塞性肺動脈障害、移植、血管グラフト、静脈手術、動脈手術、バイパスグラフト不全、形成術、組織移植、腫瘍、黄斑変性、血管新生、迷走性創傷修復、子宮内膜症、脈管炎、血栓症に続く血行再建不良、プロテーゼ術、瘢痕、動脈瘤手術/修復、リンパ手術/修復、脊髄傷害/手術/修復、内皮腫瘍、ケロイド、肉芽腫、血管腫、血栓性障害後の治療/修復、血管形成術および再建術、のうちの1つの結果であり得る。
【0034】
一実施形態においてインヒビターは、移植可能な腔内デバイス上またはその内部にあり、化合物は、移植されたデバイスから化合物が溶出するようにデバイスを哺乳類の体内に移植する工程によって投与される。
【0035】
デバイスは、ステントを含むことができ、治療有効量の化合物がステントから溶出し、ステントが移植された動脈または静脈の再閉塞を防止するように、哺乳類の動脈または静脈に移植できる。動脈は、冠動脈であり得る。
【0036】
一実施形態において化合物は、閉塞した血管を治療するために血管形成術、粥腫切除術および/またはステント移植を受けているまたは受けるであろう患者に投与され、化合物は、血管の再閉塞を妨げるために有効である量および経路で投与される。
【0037】
他の実施形態において化合物は、アテローム硬化症の発症を、喫煙者、または高血圧、内臓脂肪症候群もしくは糖尿病を罹患している対象などのこの状態の危険性が上昇している対象において、予防するために使用できる。
【0038】
本発明のこれらの各態様の一実施形態において、C5a機能のインヒビターは、C5a受容体のアンタゴニスト(C5aR)である。他の実施形態においてC5a機能のインヒビターは、C5aに対する抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。第3の実施形態においてC5a機能のインヒビターは、C5aの断片である。
【0039】
好ましいC5a受容体アンタゴニストは、式I
【化1】

の環状ペプチドまたはペプチド様化合物であり、
式中、Aは、H、アルキル、アリール、NH2、NH-アルキル、N(アルキル)2、NH-アリール、NH-アシル、NH-ベンゾイル、NHSO3、NHSO2-アルキル、NHSO2-アリール、OH、O-アルキルまたはO-アリールであり、
Bは、アルキル基、アリール基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基もしくはインドール基またはL-フェニルアラニンもしくはL-フェニルグリシンなどのD-もしくはL-アミノ酸の側鎖であるが、グリシン、D-フェニルアラニン、L-ホモフェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ホモトリプトファン、L-チロシンもしくはL-ホモチロシンの側鎖ではなく、
Cは、グリシン、アラニン、ロイシン、バリン、プロリン、ヒドロキシプロリンまたはチオプロリンなどのD-、L-またはホモ-アミノ酸の側鎖などの小さい置換基であるが、好ましくは、イソロイシン、フェニルアラニンまたはシクロヘキシルアラニンなどのかさ高い置換基ではなく、
Dは、D-ロイシン、D-ホモロイシン、D-シクロヘキシルアラニン、D-ホモシクロヘキシルアラニン、D-バリン、D-ノルロイシン、D-ホモノルロイシン、D-フェニルアラニン、D-テトラヒドロイソキノリン、D-グルタミン、D-グルタミン酸またはD-チロシンなどの中性D-アミノ酸の側鎖であるが、好ましくは、グリシンもしくはD-アラニンの側鎖などの小さい置換基、D-トリプトファンなどのかさ高い平面状の側鎖またはD-アルギニンもしくはD-リジンなどのかさ高い荷電側鎖ではなく、
Eは、L-フェニルアラニン、L-トリプトファンおよびL-ホモトリプトファンから成る群から選択されるアミノ酸の側鎖などのかさ高い置換基またはL-1-ナフチルもしくはL-3-ベンゾチエニルアラニンであって、D-トリプトファン、L-N-メチルトリプトファン、L-ホモフェニルアラニン、L-2-ナフチルL-テトラヒドロイソキノリン、L-シクロヘキシルアラニン、D-ロイシン、L-フルオレニルアラニン、またはL-ヒスチジンの側鎖ではなく、
Fは、L-アルギニン、L-ホモアルギニン、L-シトルリンもしくはL-カナバニンの側鎖またはそれらの生物学的等価物である、すなわち、末端グアニジン基または尿素基は保持されているが、炭素骨格が異なる構造を有するが側鎖全体としては標的タンパク質に親基と同様に反応する基によって置き換えられている側鎖であり、
X1は、-(CH2)nNH-または(CH2)n-S-(式中、nは1、2、3または4、好ましくは2または3の整数である)、-(CH2)2O-、-(CH2)3O、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-CH2COCHRNH-または-CH2-CHCOCHRNH-(式中、Rは任意の通常のまたは通常でないアミノ酸の側鎖である)である。
【0040】
Cにおいて、ヒドロキシプロリンおよびチオプロリンのシス形態およびトランス形態の両方を使用できる。
【0041】
好ましくはAは、アセトアミド基、アミノメチル基または置換されたもしくは置換されていないスルホンアミド基である。
【0042】
好ましくは、Aが置換されたスルホンアミドである場合、置換基は、炭素原子1、2、3、4、5もしくは6個、好ましくは炭素原子1、2、3もしくは4個のアルキル鎖またはフェニル基もしくはトルイル基である。
【0043】
特に好ましい実施形態において、化合物はC5a受容体に対するアンタゴニスト活性を有し、C5aアゴニスト活性を実質的に有さない。
【0044】
化合物は好ましくは、ヒト好中球、単球、リンパ球およびマクロファージを非限定的に含むヒトおよび哺乳類細胞でのC5a受容体のアンタゴニストである。化合物は、好ましくはC5a受容体に強力かつ選択的に結合し、より好ましくはマイクロモル濃度以下で強力なアンタゴニスト活性を有する。さらにより好ましくは化合物は、IC50<25μMの受容体親和性およびIC50<1μMのアンタゴニスト活性を有する。
【0045】
最も好ましくは化合物は、国際特許出願PCT/AU02/01427(WO2003/033528)に記載の化合物1(PMX53;AcF[OP-DCha-WR])、化合物33(PMX273;AcF[OP-DPhe-WR])、化合物60(PMX95;AcF[OP-DCha-FR])もしくは化合物45(PMX201;AcF[OP-DCha-WCit])、ヒドロ桂皮酸-[OPdChaWR](PMX205)またはヒドロ桂皮酸-[OPdPheWR](PMX218)である。これらの環状ペプチドの構造は、図1に例示される。
【0046】
特に好ましい実施形態において、C5a受容体アンタゴニストは、AcF-[OP-(D-Cha)WR]またはヒドロ桂皮酸-[OP-(D-Cha)WR]である。
【0047】
他のC5a受容体アンタゴニストは、既知であり、例えば、Sumichika(2004)Current Opinion in Investigational Drugs 5(5):505〜510;Sumichikaら、(2002)J Biol Chem.277(51):49403〜49407による総説;ならびにNeurogen Corporationによる国際特許公開WO02/49993およびIBA GmbHによるWO03/078457を参照されたい。C5aの多数の他の低分子非ペプチドインヒビターが記載されており、当業者は、関連する文献および特許明細書を容易に同定できる。Ciba-Geigyによる米国特許第5,807,824号は、C5a受容体アンタゴニストであるヒトC5aのポリペプチド類似物、これらの類似物の二量体、およびポリペプチドに対する抗体を開示している。The Scripps Research Instituteによる米国特許第5,480,974号は、ヒトC5a受容体の細胞外親水性領域中に見出された21アミノ酸のペプチドに結合し、C5aの活性を遮断するモノクローナル抗体を開示している。Pexeluzimabおよびeculizimabは、C5に対するモノクローナル抗体であり、Alexion Pharmaceuticals,Incによって製造されている。Pexeluzimabは、ヒト化1本鎖抗体断片である。これら両製品は臨床試験中である。
【0048】
C5a機能のインヒビターは、任意の簡便な非経口経路、例えば皮下、静脈または筋肉注射によって全身に投与され得る。いくつかのC5a受容体は、腸内投与を通じて利用可能であり、その利便性からこの投与経路が好ましい場合がある。本発明の好ましい化合物は、経口でまたは直腸に投与され得る。
【0049】
あるいはC5a機能のインヒビターは、カテーテルまたは同様の血管内送達デバイスを通じて移植片またはプロテーゼの部位に局所的に投与され得る。
【0050】
血管手術に関連する特定の制限があり、アクセスグラフト術に続いて筋肉細胞の過剰増殖が、その他は健康な血管の壁に生じる場合がある(すなわち内膜過形成)。これは、重篤な合併症を避けるためのさらなる手術の必要を通例生じる血管の完全な閉鎖(新たな狭窄)を生じる場合があることから、重要な問題である。
【0051】
さらに、腎不全を有する患者は、彼らの死を防ぐために透析装置を通じて彼らの血液を濾過する必要がある。プロセスは、通常少なくとも1週間に2回実施され、患者に針を2本、1本は彼らの血液を排出するため、もう1本は濾過された血液を戻すため、の挿入を必要とする。しかし、正常な血管は、繰り返し太い針が挿入されることに耐えられない。これを克服するための1つの方法は、患者の腕の静脈と動脈の間にプラスチックチューブを外科的に挿入すること(アクセスグラフト)である。これにより針は、患者を透析装置に繋ぐためにグラフト内に繰り返し挿入され得る。
【0052】
しかし、血液透析アクセスグラフトの60%までが挿入後1年以内に新たな狭窄のために閉鎖し、そのため頻回の手術が実施されなければならない。その様な頻回の手術もしばしば、しかも適切さに劣る部位が使用されることからより早く不全となり、限定された回数だけ実施できる。このため濾過を達成するために代替えの、より困難な経路が必要とされる。これらの状況において、患者の平均余命は、短くなる場合がある。
【0053】
したがって、他の別法の実施形態において、C5a機能のインヒビターは、血管グラフトの、または内膜過形成を予防するステントもしくはエンドグラフトなどの腔内医療用デバイスの表面に放出可能であるように結合され得る。血管グラフトは、動脈または静脈グラフトであり得る。
【0054】
薬剤溶出ステントなどを製造するための方法は、十分に周知であり、例えば、Boston Scientific Corporationによる米国特許第6,358,556号、Medtronic,Inc.による米国特許第5,545,208号およびCordis Corporationによる米国特許第6,273,913号を参照されたい。薬剤溶出ステントは、Cordis Corporation(the Cypher stent、ラパマイシンを放出)およびBoston Scientific(the Taxus stent、パクリタキセルを放出)によって市販されており、他のその様なステントは、Medtronic,Inc.によって開発されている。
【0055】
具体的には、Cordis Corporationによる米国特許第6,140,127号は、ペプチド剤でステントをコーティングするための方法を開示している。
【0056】
哺乳類は、ヒトであり得、または家畜、コンパニオンアニマルまたは動物園の動物であり得る。本発明の化合物がヒトの医学的治療における使用に適切であることが具体的に検討されている一方で、それらは、イヌおよびネコなどのコンパニオンアニマルならびにウマ、ウシおよびヒツジなどの家畜またはヒト以外の霊長類、ネコ科、イヌ科、ウシ科および有蹄類などの動物園の動物の治療を含む獣医学的治療にも適用できる。
【0057】
出願人は、C5aが静脈グラフト疾患において炎症誘発性、狭窄誘発的役割を演じるとの仮説を立てた。仮説が正しいとすると、C5a機能の妨害は、内膜過形成の低減および内膜過形成中のマクロファージ由来泡沫細胞の数の減少を生じるであろう。仮説を検証するために、出願人は、静脈グラフト肥厚が内膜過形成および加速化アテローム硬化症に伴っている、静脈グラフト疾患についてのマウスモデルを使用した。高コレステロール血症ApoE-/-マウスにおいて静脈グラフトが実施される場合、手術後28日のグラフトの形態は、罹患しているヒト静脈グラフトにおいて見られる変化に非常に類似しており、このモデルを、静脈グラフト肥厚の臨床的問題を研究するために非常に有用なものにしている(Zwolakら、(1987)J Vasc Surg.5:126〜136)。
【0058】
C5およびその受容体(C5aR)の存在および発現は、このマウスモデルにおいて評価された。静脈グラフト肥厚へのC5aの暴露の効果を検討するために、組換えC5aが、静脈グラフトに適用された。C5a機能を抑制する効果は、静脈グラフト手術を受けたマウスを2種類の強力なC5a受容体アンタゴニスト、AcF-[OP-(D-Cha)WR]およびヒドロ桂皮酸-[OP-(D-Cha)WR]で処置することによって検査された。出願人は、これらの化合物がin vivoでC5a機能を阻害できることを既に示している、例えば国際特許出願PCT/AU98/00490(WO99/00406)およびPCT/AU02/01427(WO2003/033528);Finchら、(1999)J Med Chem.42:1965〜1974;Woodruffら、(2003)J Immunol.171:5514〜5520;Woodruffら、(2004)J Surg Res.116:81〜90を参照されたい、これらのすべての内容は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0059】
本明細書において使用する、単数形「a」、「an」および「the」は、他に内容に明確に記述する場合を除いて対応する複数関係を含む。したがって、例えば「1つの酵素」に関して、その様な酵素の複数を含み、「1つのアミノ酸」に関して、1つまたは複数のアミノ酸に関する。
【0060】
値の範囲が表されている場合、その範囲が、範囲の上限および下限ならびにこれらの限度の間のすべての値を含むことは明確に理解される。
【0061】
新生内膜過形成としても周知の内膜過形成は、細胞外結合組織マトリックスの沈着を伴う血管の内膜層中の血管平滑筋細胞の異常な遊走および増殖である。
【0062】
経皮経管冠動脈形成術(PTCA)としても周知の血管形成術は、血流を改善するために、カテーテル-ガイドバルーンが狭くなった冠動脈を広げるために使用される手段である。通常ステントは、血管形成術中に狭くなった部分に留置される。血管形成術は、冠動脈疾患または脚の末梢動脈疾患を治療するために使用できる。経皮的冠動脈形成術(PCI)としても周知の冠動脈の血管形成術は、適時にそれを実施できる場合、心筋への血流の増大のためになされるが直視下心臓手術を必要とするバイパス手術よりも、それが低侵襲性であり、短い回復時間ですむことから、ステントの留置と共に心臓発作のための治療の第一選択である。大動脈または腸骨動脈の血管形成術においては、ステントと称される、小さな拡張式ワイヤーメッシュチューブが通常、同時に留置される。ステントが使用される場合、動脈の再閉鎖(再狭窄)は、より生じにくい。しかし、ステントは、典型的には大腿、膝窩または脛骨動脈の血管形成術では、これらの血管がさらに外傷および損傷の対象になることから、使用されない。
【0063】
ステントは、金属またはプラスチックメッシュでできた拡張式チューブであり、血管または解剖学的経路に、その管腔を開いておくため、および狭窄または外部からの圧迫から生じる閉鎖を予防するために挿入される。通常ステントは、放射線学的誘導下で挿入され、経皮的に挿入され得る。ステントは、アテローム硬化症または他の状態のために動脈が危険なほど狭まっている人々において心臓への血流を回復させるために血管内に挿入され得る。それらは、心臓疾患の管理において広く使用され、血管形成術の診療の標準的要素になっている。ステントは、狭窄または癌によって狭まった場合に食道において、腎臓からの排出を維持するために尿管において、または膵臓癌もしくは胆管癌によって狭まった場合に胆管においても一般に使用される。
【0064】
明細書全体を通じて、アミノ酸を表すために通常の1文字および3文字表記が使用される。
【0065】
本明細書の目的のために、用語「アルキル」は、炭素1、2、3、4、5または6個の、好ましくは1、2、3または4個の、直鎖、分岐鎖または環状の、置換されたまたは置換されないアルキル鎖を意味すると理解される。最も好ましいアルキル基は、メチル基である。用語「アシル」は、炭素原子1、2、3、4、5または6個の、好ましくは1、2、3または4個の、置換されたまたは置換されていないアシルを意味すると理解される。最も好ましいアシル基は、アセチルである。用語「アリール」は、環が、好ましくは5または6員環である、置換されたまたは置換されていない単素環または複素環アリール基を意味すると理解される。
【0066】
「通常の」アミノ酸は、グリシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、メチオニン、アルギニン、リジン、プロリン、セリン、スレオニンおよびヒスチジンから成る群から選択されるL-アミノ酸である。
【0067】
「通常でない」アミノ酸は、D-アミノ酸、ホモアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、デヒドロアミノ酸、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン以外)、オルト-、メタ-またはパラ-アミノ安息香酸、オルニチン、シトルリン、カナバニン、ノルロイシン、γ-グルタミン酸、アミノ酪酸、L-フルオレニルアラニン、L-3-ベンゾチエニルアラニン、α,α-二置換アミノ酸を非限定的に含む。
【0068】
一般に、用語「治療する」、「治療」などは、本明細書において、所望の薬学的および/または生理学的効果を得るために対象、組織、または細胞に影響を与えることを意味して使用される。効果は、完全にまたは部分的に疾患またはその徴候もしくは症状を予防する見地から予防的、および/あるいは疾患の部分的または完全な治癒の見地から治療的であり得る。
【0069】
本明細書において使用する用語「治療する」は、脊椎動物、哺乳類、具体的にはヒトにおける疾患の任意の治療もしくは予防に及び、かつ疾患の素因がある可能性があるが、まだ罹患していると診断されていない対象における疾患の発症を予防すること、疾患を抑制すること、すなわちその発症を抑止すること、または疾患の影響を緩和または改善すること、すなわち疾患の影響の退行を生じさせることを含む。
【0070】
本発明が、本明細書に記載の具体的な材料および方法に限定されないことは、これらを変更できることから明確に理解される。本明細書において使用する用語は、詳細な実施形態を記載する目的のためのだけであり、添付の請求項によってのみ限定される本発明の範囲を限定する意図ではないことも理解される。
【0071】
他に示す場合以外は、本発明は、当業者の能力の範囲の従来の化学、タンパク質化学、分子生物学および酵素学的技術を使用する。その様な技術は、当業者に十分に周知であり、文献において完全に説明されている。Coligan、Dunn、Ploegh、SpcicherおよびWingfield;「Current protocols in Protein Science」(1999)Volumes IおよびII(John Wiley & Sons Inc.);Sambrook、FritschおよびManiatis:「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」(2001);Shuler,M.L.:Bioprocess Engineering:Basic Concepts(2nd Edition、Prentice-Hall International、1991);Glazer,A.N.、DeLange,R.J.およびSigman,D.S.:Chemical Modification of Proteins(North Holland Publishing Company、Amsterdam、1975);Graves,D.J.、Martin,B.L.およびWang,J.H.:Co-and post-translational modification of proteins:chemical principles and biological effects(Oxford University Press、1994);Lundblad,R.L.(1995)Techniques in protein modification.CRC Press,Inc.Boca Raton、Fl、USA;Goding,J.W Monoclonal Antibodies:principles and practice(Academic Press、New York:3rded、1996)を参照されたい。
【0072】
他に定義する場合以外は、本明細書において使用するすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の技術者に通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様または等価の任意の材料および方法を、本発明を実施または検証するために使用できるが、好ましい材料および方法が記載されている。
【0073】
Zouらは、マウスにおいて静脈バイパス移植を実施するための方法を記載している。静脈バイパスグラフトアテローム硬化症のこのモデルにおいて、正常コレステロールC57B1/6マウスにおける血管平滑筋細胞の増殖によって主に生じる静脈グラフトの動脈化が、記載された。この平滑筋細胞の増殖は、ICAMノックアウトマウスにおいて顕著に低減し、静脈グラフト肥厚におけるICAM-1の役割を示した(Zouら、(1998)Am J Pathol.153:1301〜1310)。加えて、増殖因子受容体アンタゴニスト、スラミンでの静脈グラフトの前処置は、新生内膜過形成の顕著な低減を生じ、PDGF受容体が静脈グラフト肥厚に関与していることを示した(Huら、1999)。
【0074】
移植アテローム硬化症を含む、アテローム硬化症のマウスモデルは、Xu(2004)American Journal of Pathology 165(1):1〜10において概説され、加速化アテローム硬化症のモデルは、Lardenoyeら、(2002)Circulation Research 577〜584によって記載されている。
【0075】
内膜過形成についてのモデルは、ウサギにおいて(Zwolakら、1986;Alpら、(2002)Cardiovascular Research 56:164〜172)およびイヌにおいて(Petrofskiら、(2004)J Thorac Cardiovasc Surg.127:27〜33)記載されており、これらも本発明を使用するさらなる研究において有用である。
【0076】
略語
Ac アセチル
AcF AcF-[OP-(D-Cha)WR]
bFGF 塩基性線維芽細胞増殖因子
C5aR C5a受容体
C5aRA C5a受容体アンタゴニスト
Cit シトルリン
dCha D-シクロヘキシルアミン
DPhe D-フェニルアラニン
HC ヒドロ桂皮酸-[OP-(D-Cha)WR]
IH 内膜過形成
PCA 経皮的冠動脈形成術
PDGF 血小板由来増殖因子
PG Pluronic gel
RT-PCR 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
VSMC 血管平滑筋細胞
【0077】
本発明は、疾患を改善するために有用な様々な医薬組成物の使用を含む。本発明の一実施形態による医薬組成物は、式Iの化合物、その類似体、誘導体もしくは塩と1つもしくは複数の薬学的活性剤とを、または式Iの化合物の組合せと1つまたは複数の薬学的活性剤とを、担体、賦形剤および添加剤または補助剤を使用して対象への投与に適切な形態にすることによって調製される。
【0078】
しばしば使用される担体または補助剤は、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、乳糖、マンニトールおよび他の糖類、タルク、乳タンパク質、ゼラチン、デンプン、ビタミン類、セルロースおよびその誘導体、動物性および植物性油、ポリエチレングリコール類ならびに滅菌水、アルコール、グリセロールおよび多価アルコールなどの溶媒を含む。静脈内ビヒクルは、体液および栄養の補充物を含む。保存剤は、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスを含む。他の薬学的に許容される担体は、水溶液、塩、保存剤、緩衝剤などを含む無毒性賦形剤を、例えば、その内容が参照として本明細書に組み込まれるRemington's Pharmaceutical Sciences、20th ed.Williams & Wilkins(2000)およびThe British National Formulary 43rd ed.(British Medical Association and Royal Pharmaceutical Society of Great Britain、2002;http://bnf.rhn.net)において記載された通り含む。医薬組成物の様々な成分のpHおよび正確な濃度は、当分野の日常的技術に従って調整される。Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis for Therapeutics(7th ed.、1985)を参照されたい。
【0079】
医薬組成物は、好ましくは用量単位で調製および投与される。固形用量単位は、錠剤、カプセルおよび座薬を含む。対象の治療のために、化合物の活性、投与の方法、障害の性質および重症度、対象の年齢および体重に依存して、様々な日用量を使用できる。しかし、特定の条件下では、より高いまたはより低い日用量が適切である場合がある。日用量の投与は、個々の用量単位またはいくつかの低用量単位の形態における1回投与によって、および特定の間隔での細分化された用量の複数回投与によっての両方で実施できる。
【0080】
本発明による医薬組成物は、治療有効用量で局所的または全身に投与され得る。この使用のために有効な量は、当然、疾患の重症度ならびに対象の体重および全身状態に依存する。典型的には、in vitroで使用される用量は、医薬組成物の本来の投与のために有用な量について有用な指針を提供でき、動物モデルは、細胞毒性副作用の治療のために有効な用量を決定するために使用できる。様々な考察が、例えばLanger、Science、249:1527、(1990)に記載されている。
【0081】
経口使用のための製剤は、活性成分が、不活性な固形希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンと混合されている、硬ゼラチンカプセルの形態であり得る。それらは、活性成分が、水または、ピーナッツ油、流動パラフィンもしくはオリーブ油などの油媒体と混合されている軟ゼラチンカプセルの形態でもあり得る。
【0082】
水性の懸濁剤は、通常活性物質を、水性懸濁液の製造のために適切な賦形剤との混合で含有する。その様な賦形剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの懸濁剤、拡散剤または湿潤化剤であり、
(a)レシチンなどの天然に見出されるホスファチド、
(b)アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物、例えばステアリン酸ポリオキシエチレン、
(c)エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、例えばヘプタデカエチレンオキシオクタノール、
(d)エチレンオキシドと、脂肪酸とヘキシトール由来の部分エステルとの縮合生成物、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレートなど、または、
(e)エチレンオキシドと、脂肪酸とヘキシトール無水物由来の部分エステルとの縮合生成物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレート
であり得る。
【0083】
医薬組成物は、滅菌済の注射可能な水性または油性懸濁液の形態であり得る。この懸濁液は、上記で挙げた適切な拡散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用する周知の方法に従って処方できる。滅菌済の注射可能な調製物は、非毒性で非経口に許容される希釈剤または溶剤中の滅菌済の注射可能な溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液としてもあり得る。使用され得る許容されるビヒクルおよび溶剤には、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。追加的に、滅菌済、固定油は、溶剤または懸濁用媒体として通常使用されている。この目的のために、合成モノ-、またはジグリセリドを含む任意の銘柄の固定油を使用できる。追加的に、オレイン酸などの脂肪酸を注射可能剤の調製において使用できる。
【0084】
式Iの化合物は、小さい単層ベシクル、大きい単層ベシクルおよび多重層ベシクルなどのリポソーム送達系の形態においても投与され得る。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンなどの様々なリン脂質から形成できる。
【0085】
本発明の式Iの化合物の用量レベルは、通常、体重1キログラム当たり約0.5mgから約20mg程度、好ましい用量範囲は1日に体重1キログラム当たり約0.5mgから約10mg(1日に患者1人当たり約0.5gから約3g)の間、より好ましくは1日に0.1mg/kgから10mg/kgである。単一用量を生成するために担体物質と組み合わせ得る活性成分の量は、治療される宿主および具体的な投与の様式に依存して変動する。例えば、ヒトへの経口投与を意図する製剤は、組成物全体の約5から95パーセントに変動する場合がある適切かつ利便性のある量の担体物質と共に、約5mgから1gの活性化合物を含有できる。用量単位形態は、一般に約5mgから500mgの間の活性成分を含有する。
【0086】
しかし、任意の具体的な患者に対する具体的な用量レベルが、使用される具体的な化合物の活性、年齢、体重、全身状態、性別、食餌、投与の時期、投与経路、排泄速度、薬剤の組合せおよび治療を受ける具体的な疾患の重症度を含む様々な要因に依存することは、理解される。
【0087】
追加的に、本発明の化合物のいくつかは、水または一般的有機溶剤と溶媒和物を形成できる。その様な溶媒和物は、本発明の範囲内に包含される。
【0088】
本発明の化合物は、有効な組合せを提供するために他の治療用化合物と追加的に組み合わせ得る。薬学的に活性な薬剤の化学的に適合する任意の組合せを含むことが、組合せが本発明の化合物の活性を除去しない限り、意図される。例えば、本発明の化合物は、内膜過形成の治療または予防において有益であると周知の任意の薬剤と共に投与され得る。これは、薬剤コートステントの移植と合わせての経口、直腸または非経口投与を含む。
【0089】
本発明の本質がより明確に理解され得るために、その好ましい形態は、ここで以下の非限定的実施例を参照して記載される。
【実施例1】
【0090】
一般的方法
ペプチド合成
式Iの環状ペプチド化合物は、その開示全体が参照として本明細書に組み込まれる出願人の先行する出願、PCT/AU98/00490(WO99/00406)およびPCT/AU02/01427(WO2003/033528)に詳細に記載された方法に従って調製される。本発明は、化合物AcF-[OPdChaWR](PMX53)(対応する直鎖ペプチドは、Ac-Phe-Orn-Pro-dCha-Trp-Argである)、およびヒドロ桂皮酸-[OP-(D-Cha)WR](PMX205)(対応する直鎖ペプチドは、ヒドロ桂皮酸-Orn-Pro-dCha-Trp-Argである)を参照して具体的に例示されるが、本発明がこれらの化合物に限定されないことは、明確に理解される。
【0091】
国際特許出願PCT/AU98/00490(WO99/00406)に開示の化合物1〜6、17、20、28、30、31、36および44、ならびに国際特許出願PCT/AU02/01427(WO2003/033528)において初めて開示された化合物10〜12、14、15、25、33、35、40、45、48、52、58、60、66および68〜70は、ヒト好中球のC5a受容体に対するかなりのアンタゴニスト活性(IC50<1μM)を有する。PMX205、PMX53、およびPMX273、PMX201およびPMX218は、最も好ましい。
【0092】
出願人は、検査した範囲においては、式Iの化合物のすべてが広く類似の薬理学的活性を有するが、個々の化合物の物理化学的性質、活性および生物利用能は、具体的な置換基に依存して幾分か変化することを見出した。
【0093】
以下に記載の一般的検査は、C5a受容体のインヒビター候補の一次スクリーニングのために使用できる。
【0094】
薬剤調製および製剤
ヒトC5a受容体アンタゴニストAcF-[OPdChaWR](AcPhe[Orn-Pro-D-シクロヘキシルアラニン-Trp-Arg])およびヒドロ桂皮酸-[OP-(D-Cha)WR]は、上記の通り合成され、逆相HPLCによって精製、ならびに質量分析およびプロトンNMR分析によって完全に特徴付けられた。C5aアンタゴニストは、皮下注射用に30%プロピレングリコール中に調製された。
【0095】
受容体結合アッセイ
アッセイは、既に記載の通り(Sandersonら、1995)単離した新鮮ヒトPMNで、50mM HEPES、1mM CaCl2、5mM MgCl2、0.5%ウシ血清アルブミン、0.1%バシトラシンおよび100μMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の緩衝液を使用して実施する。4℃で実施されるアッセイにおいては、緩衝液、非標識ヒト組換えC5a(Sigma)または検査するペプチド、ハンター/ボルトン法によって調製される標識125I-C5a(〜20pM)(New England Nuclear、MA)およびPMN(0.2×106)を、1ウェル当たり200μLの最終容積を有するようにMillipore Multiscreen assay plate(HV0.45)に逐次的に添加する。4℃、60分間のインキュベーション後、試料を濾過し、プレートを緩衝液で1回洗浄する。濾紙を乾燥させ、袋に入れ、LKB gamma counterで計測する。非特異的結合は、典型的には全結合の10〜15%を生じる1mMペプチドまたは100nM C5aの含有によりアッセイする。
【0096】
データは、非線形回帰およびダネットポストテストでの統計を使用して分析する。
【0097】
アンタゴニスト活性についてのミエロペルオキシダーゼ放出アッセイ
細胞を、以前記載された通り(Sandersonら、1995)単離し、サイトカラシンBとインキュベートする(5μg/mL、15分間、37℃)。0.15%ゼラチンを含むハンクス平衡塩液および検査ペプチドを、続いて細胞25μL(4×106/mL)を96穴プレート(総容積1ウェル当たり100μL)に添加する。C5aに拮抗する各ペプチドの能力を評価するために、細胞を37℃、5分間、各ペプチドとインキュベートし、C5a(100nM)の添加およびさらなる5分間のインキュベートが続く。次いで、リン酸ナトリウム(0.1M、pH6.8)50μLを各ウェルに添加し、プレートを室温に冷却し、ジメトキシベンジジン(5.7mg/mL)とH2O2(0.51%)の等容積新鮮混合物25μLを各ウェルに添加する。10分で反応を、2%アジ化ナトリウムの添加によって停止させる。吸光度を450nmでBioscan 450 plate readerで測定し、対照値(ペプチドなし)に対して補正し、非線形回帰によって分析する。
【0098】
材料と方法
マウス
すべての実験は、Animal Welfare Committee of the Department of Surgery、Leiden University Medical Centreによって承認された。オスApoE-/-マウス、週齢12から16週をすべての実験について使用した。マウスには、標準的固形試料を与え、水および飼料を随意に与えた。手術前にマウスを、ミダゾラム(5mg/kg、Roche)、メデトミジン(0.5mg/kg、Orion)およびフェンタニル(0.05mg/kg、Janssen)の腹腔内注射によって麻酔した。血清中のコレステロールレベルは、屠殺時点に決定した。
【0099】
静脈グラフトモデル
静脈グラフト手術は、Zouら、(1998)Am J Pathol.153:1301〜1310によって記載の通り実施した。簡潔には、遺伝的に同一のドナーマウス由来の大静脈血管を採取し、移植まで100U/mlヘパリンを含む0.9% NaCl中、4℃で保存した。グラフトレシピエントにおいて、右頸動脈を切開し、中央で切断した。ポリエチレンカフを動脈の両端に配置した。動脈をカフの周囲で裏返し、シルク8.0縫合糸で連結した。大静脈血管を2つのカフにかぶせて連結した。移植の成功を静脈グラフト内の血管拍動および乱血流の存在によって確認した。手順全体は、通常約30分間を要する。
【0100】
免疫組織化学による静脈グラフト中のC5の検出
24匹のマウスを静脈グラフト手術後の以下の時点、手術直後、手術後24時間、3日、7日、14日および28日に屠殺した。屠殺の際に、静脈グラフトを5分間の4%ホルムアルデヒドでのin vivo灌流固定の後に採取した。静脈グラフトは、4%ホルムアルデヒド中で一晩固定し、脱水し、パラフィン中に包埋した。包埋した血管の5μm垂直断面系列を標本全体で作製した。マウスC5に対する抗体(HyCult Biotechnology、1:25希釈)を免疫組織化学によって静脈グラフト中のC5の存在を検出するために使用した。当業者は、C5aはC5の切断生成物であり、C5aが生成される場合、それはC5が同定される部位で生じることを承知している。
【0101】
RNA単離、cDNA合成およびRT-PCR
全RNAは、手術後24時間、ならびに手術後3日、7日および28日に採集した静脈グラフト16個ならびにドナーマウスの大静脈血管から単離した。
【0102】
RNA Isolation Mini Kit for Fibrous Tissue(Qiagen)を、製造者によって提供される手順書に従ってRNAを単離するために使用した。DNAの混入を避けるために、DNase処置が含まれた(RNase Free DNase set、Qiagen)。RNA(250μg)をReady-To-Go You-Prime First-Strand Beats kit(Amersham Biosciences)を製造者の手順書に従って使用して逆転写した。
【0103】
半定量的RT-PCR(Robocycler Gradient 96、Stratagene)をC5a受容体に対するプライマー、
順方向:GACCCCATAGATAACAGCA
逆方向:CAGAGGCAACACAAAACCCA
(Van Beckら、(2000)Exp Neurol.161:373〜382)およびβ-アクチン(Perkin-Elmer)で実施した。
【0104】
試料を94℃、2分間の初回サイクルに続いて35サイクル増幅した。各サイクルは、94℃で30秒間、56℃で30秒間および65℃で90秒間に続くから、74℃で4分間の伸長サイクルから成った。PCR生成物は、臭化エチジウムを含む1.2%アガロースゲル上で可視化した。
【0105】
内膜過形成の定量および組織学的評価
静脈グラフトの断面をヘマトキシリン-フロキシン-サフランで、従来法を使用して染色した。肥厚化静脈グラフトの内膜過形成表面を、image analysis software(Qwin、Leica)を使用して測定した。各静脈グラフトについて、6個の等間隔断面を血管壁肥厚化の程度を決定するために使用した。
【0106】
マクロファージおよびマクロファージ由来泡沫細胞を同定するために、免疫組織化学をAIA31240抗マウスマクロファージ一次抗体(1:3000、Accurate Chemical)を使用して実施した。マクロファージおよび泡沫細胞の内膜過形成への寄与をcomputer-assisted analysis(Qwin、Leica)によって、抗体AIA31240で染色された面積として測定し、総内膜過形成表面の百分率として表した。
【0107】
統計的分析
すべてのデータは、平均±SEMとして表す。全体の統計的有意性を決定するために、すべての群の間の比較をone-way ANOVAを使用して実施した。差が有意であった場合、次いで各群を対照群とスチューデントのT検定を使用してそれぞれ比較した。P値<0.05を有意と認めた。
【実施例2】
【0108】
C5は、リモデリング静脈グラフトに存在する。
発症中の内膜過形成におけるC5の存在を、手術後のいくつかの時点(t=6時間、1、3、7、14および28日)で採取した静脈グラフト(1時点当たりn=4)で免疫組織化学によって評価した。
【0109】
手術後6時間および1日で採取された静脈グラフトにおいて、接着している単球および外膜線維芽細胞において多量のC5が検出できた。手術後7日のものからC5は、再生中の内皮においても検出された。この段階において、染色は、最も明確かつびまん性を呈して現れ、血管壁中の多量のC5の存在を示していた。以後の時点(手術後14および28日)では、これは、内膜過形成の発症と並行して観察され、C5の発現が内皮細胞、接着している単球、外膜線維芽細胞および泡沫細胞において見られた。図2に示す通り、少数の平滑筋細胞だけがC5に対して陽性染色を示した。
【実施例3】
【0110】
リモデリング静脈グラフトにおけるC5a受容体mRNAの時間依存的発現
C5aに対する受容体が静脈グラフト中に存在および生成されたかを評価するために、全RNAを単離し、C5aR mRNAの存在についてRT-PCRで検査した。静脈グラフトをいくつかの時点(t=24時間、3日、7日および28日、1時点当たりn=4)で採取し、正常大静脈血管も対照として使用するために採取した。すべての標本中の全cDNA量をハウスキーピング遺伝子β-アクチンの存在により評価した。
【0111】
正常大静脈血管は、C5aRの微量の発現を示した。静脈グラフトでのC5aの発現は、時間依存的に徐々に増加した。ピーク発現は、手術後7日で見られ、その後発現は、手術後28日で正常大静脈血管において観察されたレベルに下がった、これを図3に例示する。
【0112】
これらのデータは、C5aに対する受容体が、静脈グラフトに存在し、静脈グラフト肥厚化の過程の初期において上方制御されることを確認する。
【実施例4】
【0113】
C5aは内膜過形成を増大させる。
C5aの静脈グラフト肥厚の発症への関与を検討するために、出願人は、2種の濃度(0.5μgおよび5μg、20%Pluronic gel 100μlに溶解、1群当たりn=7)の組換えC5aを手術時に静脈グラフトに直接適用した。対照群では、C5aを含まない20%Pluronic gel 100μlを適用した。手術時の血清コレステロールは、10.4±1.2であり、実験中に有意に変化しなかった。体重および血清コレステロールは、3群の間で異ならなかった。
【0114】
静脈グラフトを28日後に回収し、静脈グラフト肥厚を定量した。図4Aおよび図4Bに示す通り、C5aの過剰発現は、内膜過形成によって生じた静脈グラフト肥厚の用量依存的増大を生じた。組換えC5aでの処置は、対照静脈グラフトと比較して、内膜過形成表面の用量依存的増大を生じた(対照:0.24±0.02mm2、0.5μg C5a:0.29±0.03mm2対p=0.14、5μg C5a:0.41±0.04mm2、対照と比較した場合p=0.002、0.5μg C5a処置群と比較した場合p=0.037)。3つの異なる群の間で管腔面積に有意差は、見られなかった。
【実施例5】
【0115】
C5aは、内膜過形成において泡沫細胞含有量を増大させる。
C5aは、単球/マクロファージに対する強力な走化性因子であることから、肥厚化静脈グラフト中のマクロファージおよびマクロファージ由来泡沫細胞の数を研究した。
【0116】
21匹のマウスを無作為に3群に分けた。処置群において、大腸菌(E.coli)由来組換えマウスC5a(HyCult Biotechnology)の0.5μgまたは5μgのいずれかを20%Pluronic gel 0.1mlに溶解し、手術時に挿置静脈周辺に適用した。対照群では、C5aを含まない20%Pluronic gel 0.1mlを適用した。マウスは、28日後に屠殺した。内膜過形成へのマクロファージの寄与における用量依存的増大が、C5a処置静脈グラフトにおいて、図5Aおよび5Bに示す通り観察された。
【0117】
対照群において、内膜過形成の約17±2%は、マクロファージおよびマクロファージ由来泡沫細胞から成っていた。0.5μg C5aを適用した場合、この百分率は、22±3%(p=0.11)に増大した。静脈グラフトへの5μg C5aの適用は、有意に増大したマクロファージ/泡沫細胞含有量33±2%を生じた(対照グラフトと比較した場合p<0.001、C5a 0.5μgで処置したグラフトと比較した場合p=0.008)。
【実施例6】
【0118】
C5a受容体アンタゴニストでの処置は内膜過形成を低減する。
C5a機能を阻害するために、21匹のマウスを無作為に3群に分け、環状ペプチドC5aアンタゴニスト、AcF-[OP-(D-Cha)WR](AcF)またはヒドロ桂皮酸-[OP-(D-Cha)WR](HC)で処置した。両化合物は、C5a受容体に対して強力な拮抗活性を示し、上記およびMarchら、(2004)Mol Pharmacol.65:868〜879に記載の通り合成した。
【0119】
AcFを、皮下に、30%プロピレングリコール70%滅菌水0.1mlに中3mg/kgの日用量で、手術の1日前から投与した。HCは、in vivoでAcFより強い活性を用量依存的に示すことから(Woodruffら、(2005)J Pharmacol Exp Ther.)、それを2種類の用量、1日に3mg/kgおよび0.3mg/kgで、どちらも30%プロピレングリコール70%滅菌水0.1ml中で投与した。対照群(n=7)には、30%プロピレングリコール70%滅菌水0.1mlを毎日注射した。すべてのマウスを手術後28日で屠殺した。
【0120】
28匹のマウスに30%プロピレングリコール中のC5a受容体アンタゴニストAcF(皮下(s.c.)に1日に3mg/kg、n=7)、30%プロピレングリコール中のC5a受容体アンタゴニストHC(s.c.1日に3および0.3mg/kg、各n=7)、または30%プロピレングリコールの毎日の注射s.c.(n=7)のいずれかを投与した。手術時の血清コレストロールは11.7±2.0であった。異なる処置群の間に体重および血清コレステロールの差異は観察されなかった。
【0121】
AcFでの処置は、静脈グラフト肥厚における53%の有意な減少を、対照マウスと比較した場合に生じたが(0.19±0.03mm2、対照0.39±0.06mm2、p=0.046)、同様の用量のHCでの処置は、静脈グラフト肥厚における減少を生じなかった(0.33±0.03mm2、p=0.23)。しかし、1/10用量の0.3mg/kg HCでの処置は、対照動物と比較した場合に内膜過形成の有意な減少を生じた(0.23±0.03mm2、p=0.035)。これらの結果を図6Aおよび6Bにまとめる。
【0122】
対照群、AcFおよび3mg/kg HCの間で管腔の大きさに差異は見られなかったが、0.3mg/kg HCでの処置は、管腔面積の有意な増大を生じた(対照:0.42±0.04mm2、AcF:0.41±0.08mm2、p=0.48、HC 3mg/kg:0.48±0.03mm2、p=0.15、HC 0.3mg/kg:0.61±0.04mm2、p=0.005)。
【実施例7】
【0123】
C5aRA処置は、内膜過形成における泡沫細胞の含有量を減少させる。
対照の、未処置静脈グラフトの内膜過形成は、約30±4%の泡沫細胞から成る。AcF処置静脈グラフトにおいてこの泡沫細胞の寄与の有意な低減が見られた(16±3%、対照と比較した場合p=0.01)。1日に3mg/kg HCで処置した群においては、有意な低減は見られなかった(内膜過形成における泡沫細胞22±3%、対照と比較した場合p=0.07)。しかし、1日に0.3mg/kgの日用量でのHCの投与は、内膜過形成における泡沫細胞の寄与の有意な低下を生じた(16±3%、p=0.01)。これらの結果を図6Cにまとめる。
【実施例8】
【0124】
アテローム硬化症のモデルにおけるC5aRAの効果
アテローム硬化症についてのC5a受容体アンタゴニストの効果のさらなる調査のために、in vitro研究のためのラット血管平滑筋細胞(VSMC)、内皮細胞およびマクロファージを使用する細胞モデル、ならびにin vivo研究のためのトランスジェニックマウスモデル(ApoEノックアウト)を使用できる。アテローム硬化症のラット再狭窄モデルおよびウサギはく離/高コレステロール血症モデルも利用可能である。
【0125】
PMX C5a受容体アンタゴニストは、VSMCのみの、ならびに内皮細胞および/またはマクロファージとの共培養での増殖について、その効果を決定するためのin vitro研究のために最初に使用される。
【0126】
化合物は、ApoEノックアウトマウスモデル、ウサギはく離/高コレステロール血症モデル、およびラット再狭窄モデルなどの疾患のin vivoモデルにおいて検査される。化合物は、予防および治療手順の両方において投与される。
【実施例9】
【0127】
考察
出願人は、静脈グラフト肥厚化の過程における補体成分C5aの関与を初めて示している。C5aは、単球、好中球およびT-細胞を含む免疫および炎症細胞に対する非常に強力な走化性剤であり、いくつかの疾患において炎症誘発効果を調節することが示されているが、静脈グラフト肥厚におけるその役割は従来評価されたことがない。
【0128】
本研究において、静脈グラフト中のC5タンパク質の存在が、免疫組織化学によって手術後のいくつかの時点で示された。C5は、接着している単球、外膜線維芽細胞、内皮細胞および内膜過形成中の泡沫細胞において主に発現され、染色は手術後7日で最も強く現れた。しかし、使用された抗体がC5aに特異的ではないことから、これは、C5、C5aおよびC5b-9の形態である可能性がある。
【0129】
追加的に、C5a受容体をコードするmRNAの発現の経時的変化をRT-PCRで追跡した。正常大静脈血管でのベースラインにおいて、非常に低いレベルのC5aR mRNAが検出された。次いで急速な上方制御が静脈の移植の1日後において観察された。発現ピークは、手術後7日に、免疫組織化学を使用して観察したC5染色の最高レベルも示して生じた。続いて発現は、移植後28日にベースラインレベルに低下した。
【0130】
内膜過形成の形成におけるC5aの機能的関与を研究するために、C5aへの暴露の増大の効果を、静脈グラフトへのマウス組換えC5aタンパク質の適用によって研究した。静脈グラフトへの炎症細胞の走化性は、内膜過形成発症の過程において見られる初期の現象であることから、出願人は、C5aへの暴露の増大は、内膜過形成の形成の増大を生じるとの仮説を立てた。出願人は、C5aへの暴露の増大が内膜過形成の形成を悪化させるだけでなく、内膜過形成におけるマクロファージ由来泡沫細胞の含有量を増大させ、これら両方のC5aへの応答が用量依存的であることを見出した。
【0131】
さらに、C5a機能を強力なC5aRアンタゴニストAcFおよびHCを使用して遮断した場合、反対の効果が見られた。C5aR機能の阻害は、内膜過形成への泡沫細胞の寄与の低減を伴う、内膜過形成発症の減少を生じた。
【0132】
これらのデータは、静脈グラフト疾患のためのこのマウスin vivoモデルにおいて、C5aの狭窄誘発、アテローム生成誘発的効果があることを示す。
【0133】
出願人は、HCの効果は用量依存的であることを見出した。最高用量、1日に3mg/kgで投与した場合、HCでの処置は、出願人のモデルにおいて内膜過形成を阻害しなかった。これは、炎症性腸疾患のラットモデルにおけるHCでの出願人の結果と一致する(Woodruffら、(2005)J Pharmacol Exp Ther)。出願人は、高用量で投与されたHCの炎症性腸疾患での治療効果の欠如は、未同定の受容体での有害効果、局所的毒性、またはまだ認識されていない他の要因による可能性があるとの仮説を立てた。同様の結果が、HCのより高い用量、3mg/kgを使用し、有効でなかった本研究において見出されたが、内膜過形成は、1/10低い用量が投与された場合に顕著に低減した。
【0134】
2種の異なるC5a受容体アンタゴニストを使用する本研究の結果は、内膜過形成の病因におけるC5aRの役割を明確に示している。
【0135】
炎症関連血管リモデリングの他の形態におけるC5aの役割については、ほとんど知られていない。自然発症アテローム硬化症における補体の役割について述べたいくつかの研究があるが、これらの研究は、決定的ではない結果を報告している。C5 mRNAおよびタンパク質の両方が正常動脈に存在し、アテローム硬化症動脈においては、C5 mRNAおよびタンパク質の実質的な増加がある(Yasojimaら、(2001)Am J Pathol.158:1039〜1051)。ApoE/C5ダブルノックアウトマウスは、自然発症アテローム硬化症を、そのApoE-/-同腹子と同様の割合で発症する(Patelら、(2001)Biochem Biophys Res Commun.286:165〜170)。しかし、C5ノックアウトマウスは、C5の削除が補体成分C5b-9の形成も阻害することから、C5aの役割の明確な同定について適切ではない。進行したアテローム硬化症を有する患者におけるC5aの血清レベルの増大は、主要な心臓血管有害事象の発症によって決められる通り、心臓血管の危険性の増大に関連し(Speidlら、(2005)Eur Heart J.)、C5aが患者における危険性評価のための有用なマーカーとなり得ることを示唆している。
【0136】
現在まで血管リモデリングの第3の形態、いわゆる血管形成術後再狭窄におけるC5aの役割の報告は、ない。通常これらの病変は、主に新生内膜中の平滑筋細胞から成り、少数の炎症細胞だけが存在するが、炎症がこの過程において中心的役割を演じることが示されている(Danenbergら、(2002)Circulation.105:2917〜2922;Toutouzasら、(2004)Eur Heart J.25:1679〜1687)。さらに他の走化性因子が再狭窄の発症に関与することが示されている(Chenら、(2004)Arterioscler Thromb Vasc Biol.24:709〜714;Usuiら、(2002)FASEB J.16:1838〜1840)。
【0137】
出願人の結果は、C5aもアテローム硬化症および再狭窄に関与しているであろうし、したがってC5a受容体アンタゴニストは、これらの状態の治療および予防においても有用であることを示す。
【0138】
本明細書において引用した文献は、以下の頁に記載され、参照として本明細書に組み込まれる。
【0139】
本明細書全体において用語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変化形は、記述された要素、整数もしくは段階、または要素、整数もしくは段階の群の含有を意味するが、任意の他の要素、整数もしくは段階または要素、整数もしくは段階の群の排除を意味しないと理解される。
【0140】
本明細書において記載したすべての文献は、参照として本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれている任意の、文書の考察、作用、材料、デバイス、文献などは、単に本発明の内容を提供する目的のためである。任意またはすべてのこれらの事項が先行技術の基礎の一部を形成する、または、それが本出願の各特許請求の優先日以前にオーストラリアまたは他の場所に存在したことから本発明に関連する分野の従来の一般的知識であることの承認として理解されない。
【0141】
多数の変更および/または改変を、明白に記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、具体的な実施形態において示す通り本発明に作製できることは当業者に理解される。したがって本実施形態は、すべての関連において例示的であり、かつ制限的でないとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管壁における内膜過形成を予防または治療する方法。
【請求項2】
哺乳類が血管グラフトまたはプロテーゼのレシピエントである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グラフトが静脈グラフトまたは動脈グラフトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
哺乳類が臓器移植のレシピエントである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
臓器移植が、心臓移植、心肺移植および腎臓移植から成る群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、血管グラフト肥厚の発症を抑制する方法。
【請求項7】
グラフトが静脈または動脈グラフトである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステントが移植されている哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、ステント再狭窄の発症を抑制する方法。
【請求項9】
哺乳類に治療有効量のC5a機能のインヒビターを投与する工程を含む、狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない増殖、遊走もしくは肥大を予防または治療する方法。
【請求項10】
狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない増殖、遊走もしくは肥大が、アテローム硬化症、慢性閉塞性肺動脈障害、移植、血管グラフト、静脈手術、動脈手術、バイパスグラフト不全、形成術、組織移植、腫瘍、黄斑変性、血管新生、迷走性創傷修復、子宮内膜症、脈管炎、血栓症に続く血行再建不良、プロテーゼ術、瘢痕、動脈瘤手術/修復、リンパ手術/修復、脊髄傷害/手術/修復、内皮腫瘍、ケロイド、肉芽腫、血管腫、血栓性障害後の治療/修復、血管形成術および再建術から選択される1つまたは複数の状態の結果である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
C5a機能のインヒビターが、閉塞した血管を治療するために血管形成術、粥腫切除術および/またはステント移植を受けているまたは受ける患者に投与され、化合物が有効量で、血管の再閉塞を妨げるために有効である投与経路によって投与される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
C5a機能のインヒビターがC5a受容体(C5aR)のアンタゴニストである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
C5a受容体のアンタゴニストが、式I
【化1】

の環状ペプチドまたはペプチド様化合物であり、
式中、Aが、H、アルキル、アリール、NH2、NH-アルキル、N(アルキル)2、NH-アリール、NH-アシル、NH-ベンゾイル、NHSO3、NHSO2-アルキル、NHSO2-アリール、OH、O-アルキルまたはO-アリールであり、
Bが、アルキル基、アリール基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基もしくはインドール基またはD-もしくはL-アミノ酸の側鎖であるが、グリシン、D-フェニルアラニン、L-ホモフェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ホモトリプトファン、L-チロシンもしくはL-ホモチロシンの側鎖ではなく、
Cが、D-、L-またはホモ-アミノ酸の側鎖であるが、イソロイシン、フェニルアラニンまたはシクロヘキシルアラニンの側鎖ではなく、
Dが、中性D-アミノ酸の側鎖であるが、グリシンもしくはD-アラニンの側鎖、かさ高い平面状の側鎖またはかさ高い荷電側鎖ではなく、
Eが、かさ高い置換基であるが、D-トリプトファン、L-N-メチルトリプトファン、L-ホモフェニルアラニン、L-2-ナフチルL-テトラヒドロイソキノリン、L-シクロヘキシルアラニン、D-ロイシン、L-フルオレニルアラニン、またはL-ヒスチジンの側鎖ではなく、
Fが、L-アルギニン、L-ホモアルギニン、L-シトルリンもしくはL-カナバニンの側鎖またはそれらの生物学的等価物であり、
X1が、-(CH2)nNH-または(CH2)nS-(式中、nは1から4の整数である)、-(CH2)2O-、-(CH2)3O、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-CH2COCHRNH-または-CH2-CHCOCHRNH-(式中、Rは任意の通常のまたは通常でないアミノ酸の側鎖である)である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
nが2または3である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
Aがアセトアミド基、アミノメチル基または置換されたもしくは置換されていないスルホンアミド基である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
Aが置換されたスルホンアミド基であり、前記置換基が炭素原子1から6個のアルキル鎖またはフェニルもしくはトルイル基である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
置換基が炭素原子1から4個のアルキル鎖である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
BがL-フェニルアラニンまたはL-フェニルグリシンの側鎖である、請求項13から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
Cがグリシン、アラニン、ロイシン、バリン、プロリン、ヒドロキシプロリンまたはチオプロリンの側鎖である、請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
DがD-ロイシン、D-ホモロイシン、D-シクロヘキシルアラニン、D-ホモシクロヘキシルアラニン、D-バリン、D-ノルロイシン、D-ホモ-ノルロイシン、D-フェニルアラニン、D-テトラヒドロイソキノリン、D-グルタミン、D-グルタミン酸またはD-チロシンの側鎖である、請求項13から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
Eが、L-フェニルアラニン、L-トリプトファンおよびL-ホモトリプトファンから成る群から選択されるアミノ酸の側鎖またはL-1-ナフチルもしくはL-3-ベンゾチエニルアラニンである、請求項13から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
化合物がC5a受容体に対して検出可能なアゴニスト活性を有さない、請求項13から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
化合物が、IC50<25μmの受容体親和性、およびIC50<1μmのアンタゴニスト活性を有する、請求項13から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
化合物がPCT/AU02/01427(WO2003/033528として公開)に記載の化合物1〜6、10〜15、17、19、20、22、25、26、28、30、31、33〜37、39〜45、47〜50、52〜58および60〜70から成る群から選択される、請求項13から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
化合物がAcF[OP-DCha-WR]、AcF[OP-DPhe-WR]、AcF[OP-DCha-FR]、AcF[OP-DCha-WCit]、HC-[OP-DCha-WR]、AcF-[OP-DCha-WCit]およびHC-[OP-DPhe-WR]から成る群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
化合物がAcF[OP-DCha-WR]またはHC-[OP-DCha-WR]である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
C5a機能のインヒビターが局所的に投与される、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
インヒビターが移植可能な腔内デバイス上またはその内部にあり、化合物が、移植されたデバイスから化合物が溶出するようにデバイスを哺乳類の体内に移植することによって投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
デバイスが哺乳類の動脈または静脈に移植されるステントを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
C5a機能のインヒビターが血管内送達デバイスを通じて移植片またはプロテーゼの部位に局所的に投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
血管内送達デバイスがカテーテルである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
C5a機能のインヒビターが全身に投与される、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
全身投与経路が皮下、静脈内および筋肉内注射、腸内投与、経口投与、直腸投与ならびに非経口投与から成る群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
全身投与が経口または直腸投与による、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
哺乳類がヒト、コンパニオンアニマル、家畜および動物園の動物から成る群から選択される、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
哺乳類がヒトである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
哺乳類の血管壁における内膜過形成を予防または治療するための薬剤を製造するための治療有効量のC5a機能のインヒビターの使用。
【請求項38】
哺乳類における血管グラフト肥厚の発症を抑制するための薬剤を製造するための治療有効量のC5a機能のインヒビターの使用。
【請求項39】
哺乳類におけるステント再狭窄の発症を抑制するための薬剤を製造するための治療有効量のC5a機能のインヒビターの使用。
【請求項40】
狭窄、再狭窄または哺乳類の血管壁もしくは他の解剖学的構造における細胞の望ましくない細胞増殖、遊走もしくは肥大を予防または治療するための薬剤を製造するための治療有効量のC5a機能のインヒビターの使用。
【請求項41】
C5a機能のインヒビターが、式I
【化2】

の環状ペプチドまたはペプチド様化合物であって、
式中、Aが、H、アルキル、アリール、NH2、NH-アルキル、N(アルキル)2、NH-アリール、NH-アシル、NH-ベンゾイル、NHSO3、NHSO2-アルキル、NHSO2-アリール、OH、O-アルキルまたはO-アリールであり、
Bが、アルキル基、アリール基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基もしくはインドール基またはD-もしくはL-アミノ酸の側鎖であるが、グリシン、D-フェニルアラニン、L-ホモフェニルアラニン、L-トリプトファン、L-ホモトリプトファン、L-チロシンもしくはL-ホモチロシンの側鎖ではなく、
Cが、D-、L-またはホモ-アミノ酸の側鎖であるが、イソロイシン、フェニルアラニンまたはシクロヘキシルアラニンの側鎖ではなく、
Dが、中性D-アミノ酸の側鎖であるが、グリシンもしくはD-アラニンの側鎖、かさ高い平面状の側鎖またはかさ高い荷電側鎖ではなく、
Eが、かさ高い置換基であるが、D-トリプトファン、L-N-メチルトリプトファン、L-ホモフェニルアラニン、L-2-ナフチルL-テトラヒドロイソキノリン、L-シクロヘキシルアラニン、D-ロイシン、L-フルオレニルアラニン、またはL-ヒスチジンの側鎖ではなく、
Fが、L-アルギニン、L-ホモアルギニン、L-シトルリンもしくはL-カナバニンの側鎖またはそれらの生物学的等価物であり、
X1が、-(CH2)nNH-または(CH2)nS-(式中、nは1から4の整数である)、-(CH2)2O-、-(CH2)3O、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-CH2COCHRNH-または-CH2-CHCOCHRNH-(式中、Rは任意の通常のまたは通常でないアミノ酸の側鎖である)である、
請求項37から40のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−544627(P2009−544627A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521063(P2009−521063)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【国際出願番号】PCT/AU2007/001008
【国際公開番号】WO2008/009062
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(509021155)プロミックス・ピーティーワイ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】