説明

内装材の剥落特性測定装置

【課題】トンネル内壁に取り付けた内装材の剥落防止に関する有効な技術を提供することである。
【解決手段】トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材の剥落特性を測定する剥落特性測定装置であって、トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材を覆うカバー体と、前記カバー体で覆われた空間内の気体を排気する排気手段と、前記カバー体で覆われた空間内に気体を供給する給気手段と、前記取付具の変位量を測定する変位計と、前記内装材の変位量を測定する変位計とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル下地に取り付けられる内装材の剥落特性測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示される如く、トンネルの内壁(コンクリートや鋼材等のトンネル下地の内面側)を耐火被覆材や反射板等の内装材で覆うことが提案されている。この内装材の取付けには、特開2003−239693号公報や特開2007−211442号公報に示される如く、取付具が用いられている。このような内装材が取り付けられているトンネルとしては、例えば道路トンネルや鉄道トンネル等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−239693号公報
【特許文献2】特開2007−211442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、トンネルを車両が通行すると、動風圧が生じ、内装材の表面に変動圧が掛かる。頻繁に繰り返して車両が通行することから、変動圧が内装材の表面に繰り返して頻繁に掛かる。この繰り返して頻繁に作用する変動圧により、内装材や取付具には、これ等の部材をトンネル内壁から引き剥がすような引張応力が作用する。そして、引張応力により取付具が引き抜かれたり、内装材にひび割れが起きると、内装材はトンネル下地から剥落する。そうすると、そもそも、内装材を取り付けた効果が失われるのみではなく、剥落した内装材や取付具がトンネルを通過する車両に当り、事故の原因ともなり兼ねない。
【0005】
ところで、本発明者の知る限り、トンネル内壁に取り付けた内装材の剥落防止に関する有効な技術は無い。特に、内装材の剥落防止を定量的に評価し、剥落防止に役立てる有効な技術は無い。
【0006】
しかしながら、内装材の剥落防止、即ち、車両の通過で繰り返し発生する負圧が原因となって起きる取付具や内装材の損傷の限度を評価し、剥落防止を図ることは非常に意義が高い。
【0007】
従って、本発明が解決しようとする第1の課題は、トンネル内壁に取り付けた内装材の剥落防止に関する有効な技術を提供することである。
【0008】
本発明が解決しようとする第2の課題は、トンネルに内装材を取り付ける前に模擬トンネルに取り付けられた内装材などが安全基準を満たすか否かを判定し、安全基準が満たされている場合には、前記取付方で内装材を実際のトンネルに取り付けるようになし、安全基準が満たされて無い場合には、前記取付方とは異なる取付方で内装材を取り付け、この取り付けられた内装材が安全基準を満たすか否かを判定することにより、内装材の剥落防止を図ることが出来る技術を提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとする第3の課題は、トンネル内壁に取り付けた内装材の剥落防止特性を評価できる技術を提供することである。
【0010】
尚、例えば特公平6−72836号公報や特開平8−233697号公報には、カーテンウォールやガラスパネル等の建材の耐動風圧性能を試験する装置が提案されている。しかしながら、これらの公報に記載の技術は、板状の建材が動風圧に耐え得るか否かを試験するもので、取付具を用いて取り付けた内装材が剥落するか否かを試験するものでは無い。そして、特公平6−72836号公報や特開平8−233697号公報に開示の技術と本願発明とは、基本的な技術思想が全く異なっており、例えば解決しようとする課題が異なり、かつ、互いの構成要件も相違し、そして奏される効果も異なっている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題は、
トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材の剥落特性を測定する剥落特性測定装置であって、
トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材を覆うカバー体と、
前記カバー体で覆われた空間内の気体を排気する排気手段と、
前記カバー体で覆われた空間内に気体を供給する給気手段と、
前記取付具の変位を測定する変位計と、
前記内装材の変位を測定する変位計
とを具備することを特徴とする剥落特性測定装置によって解決される。
【0012】
又、上記の剥落特性測定装置であって、トンネル下地体と内装材との間に設けられたフィルムを更に具備することを特徴とする剥落特性測定装置によって解決される。トンネル下地体と内装材との間にフィルムを介在させた場合、フィルムが無い場合に比べて、内装材とトンネル下地体との接着力(密着力)が弱まり、変動圧(負圧)によって内装材はひび割れが起き易く(剥落し易く)なるので、より安全性の高い評価が可能になる。すなわち、斯かるものとした場合、内装材はトンネル下地体に固着してないので、内装材に掛かる負圧によって、取付具には引き抜き方向の力が作用し、内装材には曲げ応力が作用してひび割れが引き起こされるようになり、内装材が剥落し易くなるので、より安全性の高い評価が可能になる。
【0013】
又、上記の剥落特性測定装置であって、内装材の周辺部に設けられたシール材を更に具備してなり、前記シール材により内装材とトンネル下地体との間の気密性が向上せしめられてなることを特徴とする剥落特性測定装置によって解決される。例えば、シール材により内装材とトンネル下地体との間の気密性を向上させた場合、変動圧(負圧)が内装材に確実に作用するようになる。例えば、内装材と模擬トンネルとの間の気密性が全く無い場合、負圧が内装材に掛かり難い恐れが有る。
【0014】
又、上記の剥落特性測定装置であって、排気手段および給気手段を制御する制御手段を更に具備してなり、前記制御手段によりカバー体で覆われた空間内の(最大圧−最小圧)が0.5〜20kPa、圧変動が0.5秒/サイクル〜60分/サイクルで繰り返して行われるように構成されてなることを特徴とする剥落特性測定装置によって解決される。尚、(最大圧−最小圧)は、より好ましくは0.8kPa以上である。更には、1kPa以上である。中でも、5kPa以上である。そして、10kPa以下である。ところで、変動圧力が作用することによって、内装材には、内装材を剥落させようとする負圧が作用する。この(最大圧−最小圧)が小さ過ぎる場合には、生ずる負圧が小さいことから、逆に、(最大圧−最小圧)が大き過ぎる場合には、必要とする装置が大掛かりなものとなることから、上記条件の場合が好ましいものであった。変動の繰り返しは、即ち、1サイクルの時間は、0.5秒〜60分である。更には、6秒〜60秒が好ましいものであった。すなわち、1サイクルの時間が長すぎることは、圧の変動度がゆっくりしたものになり、これでは負圧が内装材に効果的に作用し難かったからによる。又、1サイクルの時間が短すぎるのは、より高い能力の吸気手段及び排気手段が必要となる。作用させる変動圧は、負圧のみとすることが、装置が簡素化できること及び内装材とトンネル下地との間隔が無い場合でも本発明を有効に行えることから好ましい。
【発明の効果】
【0015】
取付具を用いてトンネルに取り付けた内装材の剥落特性が得られ、剥落防止に非常に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】給排気機構であるバルブ部の概略断面図
【図2】模擬トンネル(トンネル下地体)に取り付けた内装材の剥落防止特性を調べる際の装置の概略断面図
【図3】変動圧(負圧)を作用させた際に内装材(耐火被覆材)に生じた最大歪と動風圧サイクル数との関係を示すグラフ
【図4】変動圧(負圧)を作用させた際に取付具(アンカー)に生じた最大歪と動風圧サイクル数との関係を示すグラフ
【図5】内装材を取り付けたトンネルの概略断面図
【図6】掛けた変動圧(負圧)と内装材(耐火被覆材)に生じた最大歪との関係を示すグラフ
【図7】掛けた変動圧(負圧)と取付具(アンカー)に生じた最大歪との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は剥落特性測定装置である。特に、トンネル下地体(本明細書において、トンネル下地体とは、実際のトンネルに準じて構成される模擬トンネルの下地体を意味する場合もある。)に取付具が用いられて取り付けられた内装材の剥落特性を測定する剥落特性測定装置である。
【0018】
本装置は、トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材を覆うことが出来るカバー体を具備する。カバー体は対象物(内装材)に対して負圧が掛けられる構成のものであれば、如何なるものでも良い。尚、内部を覗くことが出来るように一部または全部が透明材で構成されることは好ましい。例えば、アクリル樹脂やカーボネート樹脂などの有機ガラス材は好ましい。無機ガラスを用いることも出来る。カバー体は、例えばトンネル下地体に対して気密性が有るように取り付けられる。カバー体とトンネル下地体との接合部に、例えばシーリング材を設けた場合には、気密性が保持される。勿論、シーリング材なしでも気密性が保持される構造であれば、シーリング材は不要である。例えば、カバー体におけるトンネル下地体との接合部が弾性ゴムなどで構成されておれば、カバー体内の空気を排気した際、カバー体はトンネル下地体に対して気密性良く密着するものとなる。
【0019】
本装置は、カバー体で覆われた空間内の気体を排気する排気手段(吸気手段)を具備する。排気手段は、例えばポンプ(真空ポンプ)等である。本装置は、カバー体で覆われた空間内に気体を供給する給気手段を具備する。給気手段は、例えば三口を備えたバルブで構成される。すなわち、バルブを操作することで、カバー体で覆われた空間が外気に繋がれば、外部の空気が前記空間内に自然に供給される。勿論、加圧ポンプを用いることも出来る。排気手段(吸気手段)や給気手段は、一体型の装置で構成することも出来る。その他にも圧力タンクを利用することも出来る。
【0020】
本装置は、好ましくは、排気手段や給気手段を制御する制御手段を更に具備する。この制御手段により、カバー体で覆われた空間における(最大圧−最小圧)が0.5〜20kPa、圧変動が0.5秒/サイクル〜60分/サイクルで繰り返して行われる。
【0021】
制御手段はバルブに対して設けられたコントローラであっても良い。例えば、開閉コントローラ付バルブとして構成することが出来る。開閉コントローラ付バルブは、バルブ部の開閉時間を調節可能な開閉コントローラ部が備わるバルブである。開閉コントローラ部とバルブ部が伝達経路で繋がり、この伝達経路を通って、開閉コントローラ部による開閉の命令が、命令信号、通電、電圧変化、油圧や空気圧の圧力変化等の伝達手段によりバルブ部に伝わり、バルブ部の開閉をコントロールすることが出来るようになっている。そして、開閉コントローラ部とバルブ部とが分かれていても、一体となっていても良い。開閉コントローラ付バルブは、バルブ部および開閉コントローラ部が各1個から構成されていても良いし、バルブ部および開閉コントローラ部の一方又は両方が複数備わっていても良い。開閉コントローラ付バルブのバルブ部は、例えば三口、即ち、三方バルブである。シンプルな構造の三方バルブを用いた場合、内装材表面への空気圧(負圧)の負荷と開放とが簡単に行なわれる。尚、バルブ部の形式は、特に限定されない。但し、構造がシンプルで、開閉動作もスムーズなボールバルブは好ましい。特に、電磁式のボールバルブは好ましい。バルブ部が三口、即ち、三方バルブの概略断面が図1に示される。図1(a)には、真空ポンプとカバー体内空間とが繋がり、真空ポンプの作動により、カバー体内空間の空気が排気される場合が示される。図1(b)には、外気とカバー体内空間とが繋がり、カバー体内空間が大気圧下に保持される場合が示される。すなわち、三方バルブの一つが吸気口になっていると、真空ポンプで吸引することによって内装材表面に掛けた負圧を開放する時に、短時間で確実に行える。尚、内装材表面に負圧を掛ける時には、吸気口は弁構造などで閉じる構造のものでなければならないが、三方バルブは掛かる要件を満たしている。カバー体内の密閉空間内に空気を供給する為の吸気口は、カバー体と排気手段(吸気手段)との間の経路に設けられておれば、何所に在っても良い。一つのみでは無く、複数個であっても良い。吸気口の開閉制御は、開閉コントローラ付バルブの場合であれば、開閉コントローラ部でコントロールしても良いし、開閉コントローラ付バルブの開閉コントローラ部と連動する他の開閉コントローラ部により行われるものでも良い。但し、何れの場合も、開閉コントローラ付バルブの開閉と吸気口の開閉とを同期させ、内装材表面に空気圧(負圧)を掛ける時には、吸気口を閉じ、空気圧(負圧)を開放する時には、吸気口を開けるようにする。制御手段はレギュレータを持つ場合もある。すなわち、内装材表面に繰り返し掛ける空気圧(負圧)を調整する制御手段としてレギュレータを挙げることも出来る。レギュレータの形式、大きさ、材質などは特に限定されない。
【0022】
カバー体には排気手段(吸気手段)などが接続される連通口が備わっている。この連通口と排気手段(吸気手段)とが、開閉コントローラ付バルブやレギュレータを介して接続されている。従って、内装材表面に一定圧力の空気圧の負荷と開放のサイクルとが自動的に行なわれる。
【0023】
本装置は、好ましくは、内装材表面に繰り返し掛ける空気圧(負圧)の圧力を確認できるようにする為、真空計又は圧力計を具備する。真空計又は圧力計は、空気圧のデータを外部の記録計に出力させることが出来るものが好ましい。特に、デジタルデータとして出力できるデジタル式真空計又はデジタル式圧力計は好ましいものである。
【0024】
本装置は、取付具の変位を測定する変位計を具備する。すなわち、内装材表面に空気圧変動が掛かったことによって引き起こされる取付具の変位を測定できる変位計を具備する。この種の変位計としては、例えば歪ゲージ、コンタクトゲージ、レーザー変位計などが挙げられる。より微細な歪を測定できる歪ゲージやコンタクトゲージは好ましいものである。特に、データ処理が楽なことから、歪データが電気信号で得られる歪ゲージ等の変位計は好ましいものである。そして、歪ゲージをデータロガーに接続し、歪データを電子データに変換して利用すると、データ処理が楽になる。
【0025】
本装置は、内装材の変位を測定する変位計を具備する。すなわち、内装材表面に空気圧変動が掛かったことによって引き起こされる内装材の変位を測定できる変位計を具備する。この種の変位計としては、例えば歪ゲージ、コンタクトゲージ、レーザー変位計などが挙げられる。より微細な歪を測定できる歪ゲージやコンタクトゲージは好ましいものである。特に、データ処理が楽なことから、歪データが電気信号で得られる歪ゲージ等の変位計は好ましいものである。そして、歪ゲージをデータロガーに接続し、歪データを電子データに変換して利用すると、データ処理が楽になる。
【0026】
尚、上記変位計によって得られた各々の変位量が各々の材の疲労限界時の変位量を越えないものであった場合、或は各々の材の最大荷重の1/6の荷重時の変位量を越えないものであった場合には、内装材の剥落が起き難いものと判断する。すなわち、変位量が上記閾値以下の場合には、内装材や取付具の損傷が起き難く、安全性が高いと判断する。
【0027】
本装置は、好ましくは、トンネル下地体と内装材との間に設けられたフィルムを更に具備する。本装置は、好ましくは、内装材の周辺部に設けられたシール材を更に具備する。
【0028】
本発明におけるトンネルは、NATM工法等による山岳トンネルでも、シールド工法等による都市トンネルでも良く、沈埋函により形成されるトンネルでも良い。トンネル下地体の材質は特に限定され無い。例えば、コンクリート、鋼材、鋳鉄等から選ばれる一種からなるもの又はこれら二種以上を組み合わせたものでも良い。
【0029】
本発明における取付具は、トンネル下地体に内装材を取り付けることが出来るものであれば、如何なるものでも良い。その形状とか大きさとか材質に格別な限定は無い。そして、内装材に一部が内在するものでも良い。
【0030】
本発明における内装材は、例えば耐火被覆材、反射材、吸音材、化粧材、防汚材などが挙げられる。前記列挙した以外のものであっても良い。すなわち、取付具を用いて取り付けることが出来るものであれば良い。例えば、アンカーや網体を用いて下地上に設けることが出来るものであれば良い。因みに、モルタル等の如きの無定形のものを用いて構成することが出来る。その他にも、最初から、板材等の如きの定形のものであっても良い。
【0031】
以下、具体的実施例を挙げて本発明を説明する。但し、以下の例によって本発明は制約を受けるものでは無い。
【0032】
ステンレス製メッシュ(線径1.6mm、ピッチ50mm)2が、寸法60×600×600mmのコンクリート板(模擬トンネル下地)1に、4本のステンレス製アンカーピン(直径4mm)3を用いて取り付けられている。尚、アンカーピン3の各中心の距離が横方向では426mm、縦方向では300mmであるように取り付けられている。これらのアンカーピン3には、該アンカーピンの伸縮を測定できる歪ゲージ4が設置されている。
【0033】
そして、ステンレス製メッシュ2が埋設されるように耐火被覆材(セメント、発泡バーミュキライト、混和材料及び水を混練した軽量モルタル)が吹付けられた。この後、表面を鏝で均し、コンクリート板1の表面に30×500×400mmの耐火被覆材からなる層(厚みが30mmの内装材)5を形成した。この時、コンクリート1表面と耐火被覆材層(内装材)5との縁が切れる、即ち、コンクリート1表面に耐火被覆材が直接付着しないようにする為、モルタルの塗設に先立って、コンクリート板1と耐火被覆材層(内装材)5との界面(コンクリート板1表面)にビニールシート(図示せず)が配設されている。
【0034】
耐火被覆材層5の表面には歪ゲージ6が設置されている。
【0035】
耐火被覆材層(内装材)5とコンクリート板1との境界(周囲)付近にはシーリング材7が塗布され、耐火被覆材層5とコンクリート板1との界面が外気から遮断されている。
【0036】
この後、耐火被覆材層(内装材)5を覆うように60×580×510mmの透明なアクリルケース8が被せられた。そして、アクリルケース8の縁(周囲)に沿ってシーリング材9が塗布され、コンクリート板1にアクリルケース8が接着・密閉された。
【0037】
アクリルケース8の連通口8aには、開閉コントローラ付バルブ10、真空計(圧力計)11、及びレギュレータ12を介して真空ポンプ13が接続されている。
【0038】
そして、真空ポンプ13を作動・吸引させ、耐火被覆材層(内装材)5表面に−20kPaまで負圧を掛け、各圧力とそのときの歪ゲージ6及び4の各最大値(但し、アンカーピンに設置した歪ゲージの最大値は、実測値を4倍した値)との関係を、それぞれ図6及び図7に示した。図6及び図7の圧力は、共に、負圧を意味する。図6及び図7から、掛けた圧力(負圧)と、耐火被覆材層(内装材)5及びアンカーピン3に発生する最大歪とは、それぞれ高い相関関係が得られた。
【0039】
その後、真空ポンプ13を作動・吸引させ、耐火被覆材層(内装材)5表面に−10kPaまで負圧を掛け、所定時間後に開閉コントローラ付バルブ10を外部に開放してアクリルケース8内を大気圧に戻した。この吸引・開放を繰り返した。すなわち、0kPa(外気に開放時)と−10kPa(負荷時:真空ポンプ13による吸引時)との間の1サイクルを10秒として、20万回まで模擬的な動風圧を繰り返して掛けた。
【0040】
この時に得られた歪ゲージ4,6による歪の特性が図3,4に示される。図3は変動圧(負圧)を作用させた際に耐火被覆材層(内装材)5に生じた最大歪と動風圧サイクル数との関係を示すグラフであり、図4は変動圧(負圧)を作用させた際に取付具(アンカー)3に生じた最大歪(測定した最大歪を4倍した値)と動風圧サイクル数との関係を示すグラフである。尚、図3には、用いた耐火被覆材層(内装材)5の曲げ強さ(1.2N/mm)の1/6の応力を掛けた時に耐火被覆材層5に発生した歪εbrd(90μ)を合わせて示した。又、図4には、用いたアンカー3の引抜き荷重(2880N)の1/6の応力を掛けた時にアンカー3に発生した歪εPrd(300μ)を合わせて示した。図3中、S−横は横方向に並んだ2個の取付具の中央位置に当る耐火被覆材層(内装材)5表面に横方向の歪を測定する為に設置した歪ゲージ6の値を意味し、W−縦は縦方向に並んだ2個の取付具の中央位置に当る耐火被覆材層(内装材)5表面に縦方向の歪を測定する為に設置した歪ゲージの値を意味し、C−横及びC−縦は耐火被覆材層(内装材)5の中央付近の表面にそれぞれ横方向及び縦方向の歪を測定する為に設置した歪ゲージの値を意味する。又、図4中、SW、SE、NW及びNEは、それぞれ4つの取付具3に設置した歪ゲージ4から得られた値を意味する。
【0041】
図3によれば、耐火被覆材層(内装材)5に発生した歪は、0サイクルから20万サイクルまで、サイクル数増加による影響は殆ど認められず、最大でも10μ程度であることが判る。この最大歪10μは、用いた耐火被覆材層(内装材)5の曲げ強さ(1.2N/mm)の1/6の応力(0.2N/mm)を掛けた時に耐火被覆材層に発生した歪(90μ)に比べても遥かに小さい。
【0042】
図4によれば、アンカー3に発生した歪は、0サイクルから20万サイクルまで、サイクル数増加による影響は殆ど認められず、最大でも50μ程度であることが判る。この最大歪50μは、用いたアンカー3の引抜き荷重(2880N)の1/6の応力(480N)を掛けた時にアンカー3に発生した歪(300μ)に比べても遥かに小さい。
【0043】
従って、上記構造のものは、アンカー(取付具)3が引き抜かれたりすることが起き難く、かつ、耐火被覆材層(内装材)5が剥落し難いものであることが判る。よって、上記設計構造に準じたトンネル構造のものは内装材の耐久性に富むことが予想される。
【0044】
尚、0kPa(外気に開放時)と−10kPa(負荷時:真空ポンプ13による吸引時)との間の1サイクルを10秒として、20万回まで模擬的な動風圧を繰り返して掛けても、同様な結果が得られた。
【0045】
ところで、アンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の設計構造が上記の設計構造の場合、アンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の最大歪が基準値(閾値)より小さいものであった。従って、実際のトンネルにも上記模擬トンネルに対するアンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の設計構造に則って構築すれば問題の無いことが窺える。但し、アンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の設計構造によっては、アンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の最大歪が基準値(閾値)より大きい場合も有る。このような場合には、アンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の設計構造を変更し、この変更されたものについて上記装置を用いて同様なテストを行い、アンカー(取付具)3や耐火被覆材層(内装材)5の最大歪が基準値(閾値)より小さなものが得られた場合、その設計構造で以って実際のトンネルに応用すれば問題の無いことが窺える。
【0046】
上記においては、内装材を実際のトンネルに取り付ける為にテストで行われた場合である。
【0047】
しかしながら、上記技術思想は、実際に設けられているトンネルにおける内装材の剥落防止の為の評価として利用することも出来る。すなわち、実際のトンネルに準じた模擬トンネルを作成し、これに対して本発明装置を用いてテストし、最大歪が基準値(閾値)を越える場合、或は基準値(閾値)を越えるであろうことが予想される場合には、予め補強工事を実施することで安全性を高めることが出来るようになる。
【符号の説明】
【0048】
1 コンクリート板(模擬トンネル:模擬トンネル下地)
2 ステンレス製メッシュ
3 アンカーピン(取付具)
4,6 歪ゲージ(変位計)
5 耐火被覆材層(内装材)
7,9 シーリング材
8 アクリルケース(カバー体)
8a 連通口
10 開閉コントローラ付バルブ
11 真空計
12 レギュレータ
13 真空ポンプ(排気手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材の剥落特性を測定する剥落特性測定装置であって、
トンネル下地体に取付具が用いられて取り付けられた内装材を覆うカバー体と、
前記カバー体で覆われた空間内の気体を排気する排気手段と、
前記カバー体で覆われた空間内に気体を供給する給気手段と、
前記取付具の変位を測定する変位計と、
前記内装材の変位を測定する変位計
とを具備することを特徴とする剥落特性測定装置。
【請求項2】
トンネル下地体と内装材との間に設けられたフィルムを更に具備する
ことを特徴とする請求項1の剥落特性測定装置。
【請求項3】
内装材の周辺部に設けられたシール材を更に具備してなり、前記シール材により内装材とトンネル下地体との間の気密性が向上せしめられてなる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の剥落特性測定装置。
【請求項4】
排気手段および給気手段を制御する制御手段を更に具備してなり、前記制御手段によりカバー体で覆われた空間内の(最大圧−最小圧)が0.5〜20kPa、圧変動が0.5秒/サイクル〜60分/サイクルで繰り返して行われるように構成されてなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの剥落特性測定装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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