説明

内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物

【課題】低温でも泡立ちが少なく、且つ洗浄力に優れた内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物及び内視鏡の洗浄方法を提供する。
【解決手段】(A)界面活性剤を1〜50質量%及び(B)プロテアーゼ〔以下、(B)成分という〕を含有し、界面活性剤中、下記一般式(I)で表される非イオン界面活性剤の割合が90質量%以上である、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物。
R−O−[(EO)m/(PO)n]−H (I)
〔式中、Rは炭素数7〜9の分岐鎖アルキル基、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基、m及びnは平均付加モル数であり、mは1〜30の数、nは2〜50の数である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示す記号である。また、EOとPOの付加順序は問わない。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物及び内視鏡の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内視鏡は、使用した後の再処理方法として、十分に洗浄し、消毒を行った後、次の処置に用いられていた。内視鏡の洗浄用として、内視鏡自動洗浄機が存在しているが、洗浄力が不十分なために、内視鏡洗浄機を用いる前には、必ず手洗いにより洗浄を行うことが必要であった。この原因の一つは、洗浄時に泡立ちが生じ、超音波や水流による物理力を内視鏡に働かせることができないためであると考えられる。また、凝固血液のような表面に固着した汚れは、表面の目に見える汚れはある程度洗浄することができても、フィブリンのような残留タンパクは通常の洗浄剤では落とすことができない。この残留タンパクの影響により、洗浄後の消毒工程において、消毒不良の原因になることがあることも、他の原因として挙げられる。
【0003】
特許文献1には、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン系ノニオン界面活性剤を含有する洗浄液を用いた特定の内視鏡洗浄方法が開示されている。特許文献1には、内視鏡を浸漬させた洗浄液を、洗浄液の液面下に存在する循環液排出手段により循環させることが記載されている。また、特許文献2には、気液2相流により内視鏡管を洗浄する方法が開示されている。また、特許文献3には、特定のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルカノールアミン類、特定の無機アルカリ剤を特定条件で含有する医療器具用洗浄剤組成物が開示されている。また、特許文献4には、液媒体、酵素組成物、特定の分散性安定成分、及び特定の界面活性剤を含有し、アルカリ金属水酸化物または活性塩素源を実質的に含まない、液体安定化酵素含有洗剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−57846号公報
【特許文献2】国際公開第2010/39736号パンフレット
【特許文献3】特開2009−144070号公報
【特許文献4】特表平10−505374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内視鏡自動洗浄機による洗浄では、水道水を加温することなくそのままの温度で用いることが一般的であるが、特許文献1の一般式(I)の界面活性剤では、水温が低いときに、著しい泡立ちが生じ洗浄性が低下する。また、引用文献1では、循環のための排出ノズルを水中、すなわち洗浄液の液面下に設けることが記載されているが、液面下にノズルを設置すると、水流の状態が目視では確認することができないため、ノズルの目詰まりによって、洗浄性が低下しても気がつくことができず、洗浄不良の原因となり、内視鏡のカバー等にも水流が届かないため汚れが洗浄機に蓄積しやすい。また、特許文献2の方法は、内視鏡の管路内を洗浄するものであり、外側表面に適用することができない。また、特許文献3の洗浄剤組成物は、内視鏡洗浄剤に固着した凝固血液を目に見えない残留タンパクの部分まで洗浄することができない。また、特許文献4のような食器加工分野での洗浄では、一般に温水が用いられるのに対し、内視鏡洗浄機による洗浄では、水道水等を加温することなく用いられることが多く、低温で泡立ちの問題が発生する。このように、従来、低温でも泡立ちが少なく、且つ洗浄力に優れた内視鏡自動洗浄機用の洗浄剤は見出されていなかった。
【0006】
本発明の課題は、低温でも泡立ちが少なく、且つ洗浄力に優れた内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物及び内視鏡の洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物であって、(A)界面活性剤〔以下、(A)成分という〕を1〜50質量%及び(B)プロテアーゼ〔以下、(B)成分という〕を含有し、含有する界面活性剤の中で下記一般式(I)で表される非イオン界面活性剤〔以下、(A1)成分という〕の割合が90質量%以上である、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物に関する。
R−O−[(EO)m/(PO)n]−H (I)
〔式中、Rは炭素数7〜9の分岐鎖アルキル基、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基、m及びnは平均付加モル数であり、mは1〜30の数、nは2〜50の数である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示す記号である。また、EOとPOの付加順序は問わない。〕
【0008】
本発明において、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物とは、内視鏡洗浄機で用いる洗浄剤組成物であって酵素を含有するものという意味であり、内視鏡洗浄機により内視鏡を洗浄するための酵素含有洗浄剤組成物である。
【0009】
また、本発明は、上記本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物を水で50〜1000倍に希釈した希釈洗浄液を用いた内視鏡洗浄機による内視鏡の洗浄方法であって、前記希釈洗浄液の水流により内視鏡を洗浄する洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温でも泡立ちが少なく、且つ洗浄力に優れた内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物及び内視鏡の洗浄方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<(A)成分>
(A)成分は、界面活性剤である。(A)成分としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤のいずれも使用可能であるが、しかしながら、内視鏡洗浄機に関しては、洗浄時の水温に温度管理がされていないものが多く、常温や温水で洗浄した場合には、特に泡が問題にならない場合でも、水温が低くなると、泡が消えにくくなる。
【0012】
一方、洗浄力を高めるために、内視鏡洗浄機の中では常に高圧で噴出された水が循環しており、非常に泡立ちやすくなっている。泡がたつと、泡により超音波や水流の物理力が緩和され、内視鏡表面に伝わりにくくなり洗浄力が低下する。それだけではなく、内視鏡洗浄機に備えられている洗浄水の供給や排出を感知するための水位センサーの誤感知を起こし、洗浄が停止してしまう。また、RO水や、イオン交換水など極端に硬度が低い水を使用したときにも同様の問題が見られる。そのため5℃の低硬度の水を使用した場合でも泡立ちが抑制されていることが必要である。このような条件では、ほとんどすべての界面活性剤が高い起泡性を有し洗浄に適さない。一方起泡性の非常に低い界面活性剤を用いると、洗浄力弱すぎて使用に適さない。
【0013】
本発明のように、(A)成分として(A1)成分を一定量以上用いた場合にのみ、低温で泡立ちを少なくすることと洗浄力を両立させることができる。しかも、少量でも他の種類の界面活性剤が混ざると、泡立ちが増加したり、洗浄力が低下してしまうために、洗浄剤組成物中の大部分の界面活性剤が、(A1)成分の特定の界面活性剤のみで構成されていなくてはならない。具体的には、一般式(I)で表される非イオン界面活性剤の割合が、(A)成分中、90質量%以上でなくてはならない。また、95質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。
R−O−[(EO)m/(PO)n]−H (I)
〔式中、Rは炭素数7〜9の分岐鎖アルキル基、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基、m及びnは平均付加モル数であり、mは1〜30の数、nは2〜50の数である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示す記号である。また、EOとPOの付加順序は問わない。〕
【0014】
洗浄力の点からRの炭素数は8〜9が好ましい。また低温での泡立ちを抑制する点において、mは1〜20であることが好ましく、2〜15であることがより好ましく、3〜10であることが特に好ましい。また、nは3〜20であることが好ましく、4〜10であることが特に好ましい。また、EOとPOはランダム付加体であることが好ましい。
【0015】
一般式(I)の界面活性剤は曇点が低いことから、高温にすると分離しやすいため、他の種類の界面活性剤を併用することができるが、泡立ちを抑制するために、他の種類の界面活性剤は全界面活性剤中の10質量%以下でなくてはならない。
【0016】
<(B)成分>
(B)成分はプロテアーゼである。プロテアーゼは、好ましくは中性からアルカリ側に至適pHが存在するものであれば如何なる酵素でもよく、またこの条件を満たす複数のプロテアーゼを組合せて使用することが可能である。本発明の(D)成分はBacillus SPに由来するズブチリシンプロテアーゼが好ましく、中でも、Bacillus Halodurans、Bacillus clausiiに由来するズブチリシンプロテアーゼが好ましい。市販されているアルカリプロテアーゼとしては、ノボザイムズジャパン社から入手できるアルカラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、エスペラーゼ、カンナーゼ、オボザイム、ジェネンコア・インターナショナル社から入手できるプラフェクト、プロペラーゼなどがある。また特開2007−61101号公報に記載されたプロテアーゼも好適に使用できる。
【0017】
また、本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物を水で50〜1000倍に希釈した希釈洗浄液中、(B)成分の含有量(タンパク質分解活性)は、固着タンパク質除去効果及びコストの観点から、洗浄剤1gあたり、0.01〜200PUが好ましく、0.05〜100PUがより好ましく、0.1〜50PUがさらに好ましく、0.5〜20PUが特に好ましい。本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物中の(B)成分の含有量は、このような希釈洗浄液中の含有量を考慮して適宜決定できる。
【0018】
なお、タンパク質分解活性(PU/g)は次の方法により測定される。
1w/v%の濃度でカゼイン(ハマーステイン:メルク社)を含む50mmol/Lホウ酸緩衝液(pH10.5)1mLを30℃で5分間保温した後、0.1gの酵素溶液と混合し、30℃で15分間反応を行う。反応停止液(0.11mol/Lトリクロロ酢酸−0.22mol/L酢酸ナトリウム−0.33mol/L酢酸)2mLを加え、室温で10分間放置する。次に酸変性タンパク質をろ過(No.2ろ紙;ワットマン社製)し、ろ液0.5mLにアルカリ性銅溶液[1w/v%酒石酸カリウム・ナトリウム水溶液:1w/v%硫酸銅水溶液:炭酸ナトリウムの0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液溶解物(炭酸ナトリウム濃度2w/v%)=1:1:100(V/V)]2.5mLを添加し30℃、10分間保温する。さらに、希釈フェノール試薬[フェノール試薬(関東化学社製)をイオン交換水で2倍に希釈したもの]0.25mLを加え、30℃で30分間保温後、このサンプルの660nmにおける吸光度を測定する。また、上記の酵素反応系に反応停止液を混合した後、酵素溶液を加えたものをブランクとして同様に吸光度を測定する。次にサンプルとブランクとの吸光度差により、遊離してきた酸可溶性のタンパク質分解物量(チロシン換算された量)が得られ、これを反応時間(本条件の場合:15分)及び酵素溶液量(本条件の場合:0.1g)で除して、タンパク質分解活性値を求めることができる。なお、1PUは、上記の反応条件において1分間に1mmolのチロシンに相当する酸可溶性タンパク質分解物を遊離する酵素量とする。
【0019】
<(C)成分>
本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物は、多価アルコール〔(C)成分〕を含有することが好ましい。
【0020】
(A1)成分は、低泡性ではあるが曇点が低く高温で分離しやすい界面活性剤である。(A1)成分を高温で可溶化するために、他の界面活性剤を加えると、低温における泡立ちの問題が生じ、パラトルエンスルホン酸ナトリウムのような一般的なヒドロトロープ剤を配合すると、プロテアーゼの安定性が低下する。しかしながら、多価アルコールを配合することにより、泡立ちや酵素の安定性に影響を与えることなく、高温での配合安定性を高めることができる。
【0021】
(C)成分の多価アルコールとは、ヒドロキシ基を分子中に2個以上有し、窒素原子を含まない化合物である。具体的には、炭素数2〜10の直鎖、分岐鎖、又は環状の炭化水素を基本骨格とするもの、又は、糖骨格を基本骨格とするものが挙げられ、少なくとも水素原子の2つ以上が水酸基で置換されたもの、または、それらの、1〜4分子がエーテル結合により縮合したものである。本発明の多価アルコールとしてはケトン基やアルデヒド基等の他の官能基も有することができるが、水酸基やエーテル基以外の他の官能基は無い方が好ましい。多価アルコールとしては、炭素数3〜6の直鎖の炭化水素を基本骨格とするものが好ましい。具体的な多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ジブチレングリコール、2,4−ペンタンジオール、1.2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、グリセリンモノアルキルエーテル、グリセリン、1,2,3−ヘキサントリオール、ソルビトール、キシリトール、グルコース、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トレハロース、マルチトール、スクラロース、イノシトール、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、シクロヘキサンテトラオール等が挙げられる。より好ましくは、炭素数が3〜6で水酸基を2つ有するものである。特に好ましくは、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、ジプロピレングリコールである。多価アルコールの配合量としては、(A1)成分の可溶化の点で、本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物中、5〜80質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましく、20〜70質量%が更に好ましく、30〜60質量%がより更に好ましい。また(A)成分/(C)成分の質量比、好ましくは(A1)成分/(C)成分の質量比は、好ましくは1/1以上、より好ましくは1/1〜1/20、更に好ましくは1/2〜1/20、より更に好ましくは1/3〜1/10である。
【0022】
<(D)成分>
本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物は、アルカリ剤〔(D)成分〕を含有することが好ましい。
【0023】
本発明の洗浄剤組成物にアルカリ剤を添加することにより、より洗浄力を向上することができる。アルカリ剤としては、アルカノールアミン、アルキルアミン、4級アンモニウムなどの有機アルカリ化合物、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩から選ばれる一種以上を配合することが可能である。アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、1号珪酸カリウム、1号珪酸ナトリウム、2号珪酸カリウム、2号珪酸ナトリウム、オルト珪酸カリウム、オルト珪酸カリウムなどを挙げる事ができるが、好ましくはアルカノールアミンである。アルカノールアミンとしては、一般式 N(R1)(R2)(R3) で表されるものが挙げられる。R1はOH基を1〜3含む炭素数1〜8の炭化水素基であり、R2、R3は、それぞれ、独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルカノール基である。R1は、炭素数2〜4のアルカノール基が好ましく、R2、R3としては、水素原子が好ましい。前記一般式のアルカノールアミンとしてはモノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルプロパノールアミン、N−ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリスヒドロキシアミノメタン等が挙げられ中でも、洗浄力の点からモノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタンが好ましく、モノエタノールアミンが最も好ましい。アルカリ剤の配合量としては、本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物中、1〜30質量%が好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0024】
<その他の成分>
本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物(高濃度品)には、本発明の目的を損なわない範囲で、金属封鎖剤、溶剤、ハイドロトロープ剤、分散剤、pH調整剤、増粘剤、粘度調整剤、香料、着色剤、酸化防止剤、防腐剤、抑泡剤、漂白剤、漂白活性化剤などを配合することができる。これらの成分は、該洗浄剤組成物を希釈して調製する洗浄液に配合してもよい。
【0025】
本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物は、金属封鎖剤を含有することができる。金属封鎖剤を含有することにより、アルカリ土類金属イオンや、アルカリ土類金属塩により結合して固着したタンパク質汚れをより効率的に洗浄することができる。
【0026】
金属封鎖剤としては、アミノカルボン酸系、有機酸系、ホスホン酸系、リン酸系、ポリカルボン酸系、のいずれも用いることができる。例えば、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、ジエンコル酸、等のアミノポリ酢酸又はこれらの塩、ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、カルボキシメチルコハク酸、カルボキシメチル酒石酸、グルタミン酸二酢酸、等の有機酸またはこれらの塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)などのホスホン酸またはその塩、トリポリリン酸などのリン酸またはその塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸、等のポリカルボン酸またはその塩などが挙げられる。
【0027】
これらの塩の対イオンとしては、アルカリ金属、4級アミン、アルカノールアミン等が挙げられるが、医療器具に対する防食性の点から、アルカノールアミン塩が好ましい。さらに、モノエタノールアミン塩が好ましい。金属封鎖剤としてアルカノールアミン塩型の化合物を用いる場合には、アルカノールアミンのみの量を(D)成分の一部として取り扱うものとする。
【0028】
金属封鎖剤は、タンパク質汚れの除去効果及びコストの観点から、本発明の本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物から調製した洗浄液中、好ましくは0.002〜0.5質量%、より好ましくは0.005〜0.3質量%、更に好ましくは0.01〜0.2質量%、より更に好ましくは0.02〜0.1%質量%となるように配合することが好ましい。
【0029】
また、本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物には、酵素安定剤として水溶性カルシウム塩、ホウ酸またはその塩、ホウ砂等のホウ素化合物、ギ酸またはその塩を含有することができる。
【0030】
溶剤としては、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール類、エチレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル等のグリコールエーテル類、ハイドロトロープ剤としてはパラトルエンスルホン酸、安息香酸、キシレンスルホン酸又はその塩、尿素等、分散剤としては、ポリビニルピロリドン、酸化防止剤としては、ブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸ナトリウム、亜流酸水素ナトリウム、抑泡剤として、平均分子量500〜10000のポリプロピレングリコール、炭素数8〜18、平均ポリプロピレングリコール付加モル数1〜10のポリプロピレングリコールアルキルエーテル、シリコーン、シリカ等が挙げられる。pH調整剤としては、グルコン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸等が挙げられる。なお、溶剤として(C)成分に該当する化合物を用いることもできるが、その場合、当該化合物の量は(C)成分の量に算入する。
【0031】
本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物は、25℃のpHが好ましくは10.5以上、更に好ましくは10.5〜13、より好ましく10.5〜12.5、より更に好ましくは11〜12である。本発明の内視鏡洗浄機用洗浄剤組成物は、そのまま使用してもよいが、通常、該洗浄剤組成物を水で希釈して調製した洗浄液を洗浄に用いる。希釈倍率は限定されないが、通常50倍〜1000倍程度に希釈することが好ましい。洗浄力には、洗浄時のpHも重要であり、本発明の内視鏡洗浄機用洗浄剤組成物は、水による200倍希釈物のpHが25℃で9.5以上、更に10以上、より更に10.5以上であることが望ましい。また、200倍希釈物のpHの上限値は基材損傷性の観点から12以下が好ましい。
【0032】
<内視鏡の洗浄方法>
本発明の内視鏡の洗浄方法は、上記本発明の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物を水で50〜1000倍に希釈した希釈洗浄液を用いた内視鏡洗浄機による内視鏡の洗浄方法であって、前記希釈洗浄液の水流により内視鏡を洗浄する。本発明の洗浄方法では、内視鏡洗浄機内部に内視鏡を浸漬する液体部を設け、該液体部の水面より上から、前記希釈洗浄液の水流を供給することが好ましい。前記液体部を設ける場合、該液体部の液体を前記希釈洗浄液として循環使用することが好ましい。また、本発明の洗浄方法では、前記希釈洗浄液のpHは9.5以上、更に10以上、より更に10.5以上が好ましく、基材損傷性の観点から12以下が好ましい。
【0033】
内視鏡洗浄機による内視鏡の洗浄方法としては、特開昭60−220032号公報に示されたような水の噴射による方法や、特開平11−151198号公報に記載された超音波による洗浄方法がある。このような流水や超音波を用いた洗浄方法が、オリンパス社製内視鏡洗浄消毒機OER−2、OER−3等に使用されている。このような洗浄機では、内視鏡浸漬することができる洗浄槽に貯留した洗浄液を、水面上に設置したノズルから高圧で内視鏡表面や洗浄漕カバーに対して噴出させて洗浄を行っている。さらに、引き続き、洗浄液を排出し、すすぎを行い、さらに引き続きに消毒液に浸漬することで内視鏡を再使用可能な状態にしている。ここで洗浄液を噴出するノズルを水面上に設置することは、洗浄液の噴出状態を目視で確認できる、カバーを洗浄することができるというメリットがある一方、洗浄槽内は泡が非常に立ちやすいという問題がある。万が一、洗浄液の循環ラインやノズルに目詰まりがあると洗浄力が低下してしまう。洗浄が十分でないとその後、消毒を行ったとしても、十分な効果を得ることができず、菌が生存してしまし院内感染の原因となる恐れがあるため、ノズルからの水の噴出状態を目視で確認できることは非常に重要である。一方、洗浄槽内で泡が立つと、洗浄槽内に設置された水位センサーが誤動作して洗浄作業が停止したり、洗浄槽から泡があふれたり、洗浄力が低下したりという様々な問題が生じることが知られている。
【0034】
本発明の洗浄剤組成物は上記のような洗浄方法に使用できるが、内視鏡洗浄機に供給した場合に泡立ちの問題が発生することなく洗浄を行うことができる。本発明の洗浄剤組成物の希釈倍率としては、洗浄力やコストの観点から50〜1000倍であることが好ましく、100〜500倍であることがより好ましく、200〜400倍であることが特に好ましい。また、洗浄剤組成物は、洗浄機にセットすることにより、洗浄機に自動的供給されることが洗浄剤組成物の投入忘れを防ぐことができることから好ましい。また、本発明の洗浄剤組成物から調製した希釈洗浄液の粘度は10000mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・sであることがより好ましく300ppm以下であることが特に好ましい。このときの洗浄温度(希釈洗浄液の温度)は洗浄力の点で5〜50℃、更に10〜40℃が好ましい。また、洗浄時間は30秒〜30分、更に1分〜15分が好ましい。
【実施例】
【0035】
表1の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物を調製し、以下の方法で抑泡性と洗浄性を評価した。結果を表1に示す。なお、pHは、堀場製作所製 pHメータ F−21を用いて測定した。
【0036】
<抑泡性>
オリンパスメディカルシステムズ社製の内視鏡洗浄消毒装置OER−2を用いて評価を行った。5℃に冷却した水道水を供給した。内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物は、水道水と同時に洗浄槽に投入した。洗浄時間を10分に設定し、洗浄時の泡状態を以下の基準で評価した。
4 泡立ちが少なく動作に問題がない。
3 泡立ちが多く、泡により多少液面の上昇が見られる。洗浄には特に問題ない
2 泡立ちが激しく、液面が上昇し、長時間洗浄した場合、泡があふれる出てくることもある。泡立ちによる洗浄性の低下がみられる
1 著しい泡立ちのためが装置から液が多量に漏れるため、使用不可能。
評価点が3点以上であれば、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物として使用可能である。
【0037】
<洗浄性>
テフロン製のテストピースに、グリセリン、血清、ムチン、小麦粉、サフラニンからなるEN/ISO15883-5 Annex Rに記載のモデル汚れを10mg/cm2の割合で塗布し、室温で1時間乾燥させたものを実験に用いた。洗浄は、オリンパスメディカルシステムズ(株)製内視鏡洗浄消毒器OER-2内に固定し、洗浄時間を10分に設定し洗浄を行った。洗浄終了後、テストピースを取り出し、別に用意した水槽中のイオン交換水を用いて穏やかにすすいだ。乾燥後、目視で汚れの残留があるかを判定した後、目視で残留が認められないものに関しては、Coomassie Protein Assay Reagent(タンパク質定量キット添付の試薬、Thermo Scientific社製)に3分間浸漬後(CBB染色)、イオン交換水で充分濯いだ後の染色状態で下記の判定基準に従い判定した。尚、試験にあたっては5枚のテストピースを用い、結果はその平均値とした。
判定基準
5:目視でも、CBB染色後でも汚れの残留がほとんどみられない。
4:目視では残留が認められないが、CBB染色では、一部にタンパク質の残留が認められる。
3:目視では残留が認められないが、CBB染色では、全面にタンパク質の残留が認められる
2:目視でも僅かに残留が見られる
1:目視で多くの血液の残留が認められる
評価点3.6以上であれば、再使用にあたっては問題ないレベルであり、良好に洗浄できたものと判断する。
【0038】
【表1】

【0039】
・分岐型非イオン界面活性剤(1):一般式(I)中のRが炭素数9の分岐鎖アルキル基、mが9、nが5.2、EOとPOがランダム付加体である非イオン界面活性剤(Plurafac LF901(BASFジャパン製))
・分岐型非イオン界面活性剤(2):一般式(I)中のRが炭素数9の分岐鎖アルキル基、mが5.8、nが4.8、EOとPOがランダム付加体である非イオン界面活性剤(Plurafac LF900(BASFジャパン製))
・分岐型非イオン界面活性剤(3):便宜上一般式(I)の構造で表すと、一般式(I)中のRが炭素数12〜14の分岐鎖アルキル基、mが7.0、nが7.5、EOとPOがEO、POの順のブロック付加体である非イオン界面活性剤(ソフタノール7085(日本触媒(株)製))
・分岐型非イオン界面活性剤(4):便宜上一般式(I)の構造で表すと、一般式(I)中のRが炭素数8の分岐鎖アルキル基、mが3、nが0である非イオン界面活性剤
【0040】
・直鎖型非イオン界面活性剤(1):便宜上一般式(I)の構造で表すと、一般式(I)中のRが炭素数12の直鎖アルキル基、mが5.7、nが3.6、EOとPOがEO、POの順のブロック付加体である非イオン界面活性剤
・直鎖型非イオン界面活性剤(2):便宜上一般式(I)の構造で表すと、一般式(I)中のRが炭素数8の直鎖アルキル基、mが0、nが3.0である非イオン界面活性剤
・直鎖型非イオン界面活性剤(3):便宜上一般式(I)の構造で表すと、一般式(I)中のRが炭素数8の直鎖アルキル基、mが3.0、nが2.5、EOとPOがEO、POの順のブロック付加体である非イオン界面活性剤
・直鎖型非イオン界面活性剤(4):便宜上一般式(I)の構造で表すと、一般式(I)中のRが炭素数8の直鎖アルキル基、mが7.0、nが10.0、EOとPOがEO、POの順のブロック付加体である非イオン界面活性剤
・直鎖型非イオン界面活性剤(5):R’−O−(EO)m1−(PO)n1−(EO)m2−Hで表される非イオン界面活性剤であって、該式中、R’が炭素数8の直鎖アルキル基、m1が3.5、n1が2.5、m2が3.5、EO、PO、EOがこの順のブロック付加体である非イオン界面活性剤
【0041】
・サビナーゼ:ノボザイム社製、プロテアーゼ、酵素活性 12PU/g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物であって、(A)界面活性剤を1〜50質量%及び(B)プロテアーゼを含有し、含有する界面活性剤の中で下記一般式(I)で表される非イオン界面活性剤の割合が90質量%以上である、内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物。
R−O−[(EO)m/(PO)n]−H (I)
〔式中、Rは炭素数7〜9の分岐鎖アルキル基、EOはエタンジイルオキシ基、POはプロパンジイルオキシ基、m及びnは平均付加モル数であり、mは1〜30の数、nは2〜50の数である。“/”はEOとPOがランダムでもブロックでもよいことを示す記号である。また、EOとPOの付加順序は問わない。〕
【請求項2】
多価アルコールを5〜80質量%含有する請求項1記載の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物。
【請求項3】
アルカリ剤を1〜30質量%有する請求項1又は2記載の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物。
【請求項4】
アルカリ剤がモノエタノールアミンである請求項3記載の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の内視鏡洗浄機用酵素含有洗浄剤組成物を水で50〜1000倍に希釈した希釈洗浄液を用いた内視鏡洗浄機による内視鏡の洗浄方法であって、前記希釈洗浄液の水流により内視鏡を洗浄する洗浄方法。
【請求項6】
内視鏡洗浄機内部に内視鏡を浸漬する液体部を設け、該液体部の水面より上から、前記希釈洗浄液の水流を供給する、請求項5記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記希釈洗浄液のpHが9.5以上である、請求項5又は6記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記液体部の液体を前記希釈洗浄液として循環使用する、請求項6又は7記載の洗浄方法。

【公開番号】特開2012−140487(P2012−140487A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292240(P2010−292240)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】