説明

内面溝付伝熱管及び熱交換器

【課題】拡管時のフィンの潰れ及び倒れに起因する伝熱性能の低下を確実に防止できる内面溝付伝熱管を提供する。
【解決手段】管軸直交断面において管周方向に高フィン2が複数個配置され、各高フィン2間に夫々3乃至5個の低フィン3が配置されている。高フィン2の高さが0.14乃至0.20mm、高フィン2の頂角が10乃至20°であり、低フィン3の高さが0.10乃至0.14mm、低フィン3の頂角が10乃至15°である。高フィン2と低フィン3との高さの差が0.04mm以上0.06mm以下である。高フィン2及び低フィン3のリード角は、相互に同一で、20乃至40°の範囲にある。また、高フィン2及び低フィン3の頂部は、管軸直交断面において、曲率半径を有する曲面である。高フィンの頂部の曲率半径は0.03乃至0.06mm、低フィンの頂部の曲率半径は0.03乃至0.04mである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン等に組み込まれる熱交換器用の内面溝付伝熱管において、拡管により管外面に放熱用プレートフィンを取り付ける際の管内面のフィンの変形による伝熱性能の低下を防止した内面溝付伝熱管及びそれが組み込まれた熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
内面溝付伝熱管は、銅又は銅合金製であり、管内に冷媒としてフロンR410A等を通流させて、エアコン等の空調機器の熱交換器等に使用される。この内面溝付伝熱管は、管内面に螺旋状の溝が形成されており、この管内面の溝間にフィンが形成されている。この溝又はフィンにより、管内面に供給される冷媒との間の接触面積が増大し、溝又はフィンがない平滑管に比して、伝熱性能が向上する。
【0003】
この内面溝付伝熱管は、シームレス管の場合は、管内に、溝付プラグを挿入し、管外面に転動ボールを周方向に転動させて管壁を溝付プラグに向けて押圧し、溝付プラグ表面の溝形状を、管内面に転写して螺旋状の溝を管内面に形成することにより製造される。そして、アルミニウム製板等に孔を設けたプレートフィンを複数個平行に配置し、各プレートフィンの孔に、内面溝付伝熱管を挿入し、管内に拡管マンドレルを挿入することにより管外径を拡大し、内面溝付伝熱管とプレートフィンとを密着させることにより、管外面にプレートフィンを取り付ける。
【0004】
このようにして製造される内面溝付伝熱管においては、熱交換器の熱交換性能を向上させるためには、伝熱管の伝熱性能を高める必要があり、このためには、管内面のフィン形状を、可及的に先鋭なものにする必要がある。また、このような先鋭なフィンを、管内面に多数形成することが、伝熱性能の向上にとって重要である。更に、拡管後の伝熱管と、プレートフィンとを、密着させること、即ち、伝熱管とプレートフィンとの密着率を高めることも伝熱性能の向上にとって必要である。
【0005】
しかしながら、この拡管作業において、拡管マンドレルが伝熱管内面に形成されている内面フィンを押圧するため、管内面に形成されている内面フィンの頂部を潰してしまい、また内面フィンを押し倒してしまう。この内面フィンの潰れ又は倒れが大きいと、伝熱管の外径拡管率が低下し、その結果、プレートフィンと伝熱管との密着率が低下し、熱交換器の熱交換性能を低下させてしまう。また、内面フィンの潰れ又は倒れが大きいと、冷媒と伝熱管との間の接触面積が低下して伝熱性能が低下すると共に、伝熱管内の冷媒の圧力損失が増加して、結果的に熱交換器の熱交換性能が低下してしまう。
【0006】
このような背景の下に、特許文献1には、拡管時において内面フィンが倒れず、冷媒に二酸化炭素を使用した熱交換器に適した伝熱性能が優れた内面溝付伝熱管を提供することを目的として、管内面に2種類のフィンを管周方向に交互に形成した内面溝付伝熱管が提案されている。この2種類のフィンは、第2のフィンの高さと第1のフィンの高さとの比が、0.5〜0.9と高さが異なるものであり、その他、第1のフィンの高さ、第1及び第2のフィンの頂角、第1のフィンの頂部の曲率半径と高さとの比等が規定されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−257160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献1に記載された公知技術においては、高圧で使用されるCO冷媒用の伝熱管であるため、管の厚さ(溝底部の管肉厚さ:以下底肉厚)が0.4mmと厚く、拡管しにくいという事情がある。このため、拡管時には、フィンに高い応力が印加され、フィンが潰れやすい状況にあり、また、拡管時に印加された応力を受けるのは高い方の第1フィンであるため、この第1のフィンを極めて厚くし(頂角を大きくすると共に頂部に平面部を設け)、高い第1フィンと低い第2フィンとを交互に配列して、第1フィンの数を多数確保する必要がある。
【0009】
しかし、この場合は、第2フィンは潰れない代わりに、第1フィンの潰れ及び倒れが問題となり、フィン潰れ及び倒れによる伝熱性能の低下を有効に防止できないという問題点がある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、拡管時のフィンの潰れ及び倒れに起因する伝熱性能の低下を確実に防止できる内面溝付伝熱管及び熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る内面溝付伝熱管は、管内面にフィンが形成された内面溝付伝熱管において、管軸直交断面において管周方向に複数個配置された高フィンと、管軸直交断面において管周方向の各高フィン間に夫々3乃至5個配置された低フィンとを有し、前記高フィンの高さが0.14乃至0.20mm、フィンの頂角が10乃至20°であり、前記低フィンの高さが0.10乃至0.14mm、フィンの頂角が10乃至15°であり、前記高フィンと前記低フィンとの高さの差が0.04mm以上0.06mm以下であり、前記高フィン及び低フィンのリード角は、相互に同一で、20乃至40°であり、前記高フィン及び低フィンの頂部は、管軸直交断面において、曲率半径を有する曲面であり、前記高フィンの頂部の前記曲率半径は0.03乃至0.06mm、前記低フィンの頂部の前記曲率半径は0.03乃至0.04mであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る熱交換器は、前記内面溝付伝熱管を、プレートフィンの孔に挿入し、前記内面溝付伝熱管の管内に拡管マンドレルを挿入して、これを拡管することにより、前記内面溝付伝熱管を前記プレートフィンに密着させて構成されたことを特徴とする。
【0013】
この熱交換器において、前記拡管後に、前記内面溝付伝熱管は、例えば、管軸直交断面において、前記高フィンが配置された部分を頂点とする多角形状をなす。
【0014】
また、前記拡管の拡管率が、管外径の比で、6乃至8%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高フィンと低フィンとの間に0.04mm以上の高低差があるので、拡管時に、高フィンが、拡管マンドレルに接触し、低フィンは、拡管マンドレルに接触しない状態で、内面溝付伝熱管を拡管することができる。このため、拡管時に高フィンは、フィン倒れ又はフィン潰れが発生するが、低フィンは、フィン潰れ及びフィン倒れが発生することが防止される。このため、低フィンにおいては、拡管作業による伝熱性能の低下は防止される。一方、管周方向において、各高フィン間に3乃至5個の低フィンが配置されており、高フィンの数は少ないため、管周方向における高フィンの占める割合は小さく、高フィンが伝熱性能に関して寄与する割合は小さいので、高フィンにフィン倒れ及びフィン潰れが生じても、伝熱性能の低下は、内面溝付伝熱管全体でみれば、小さい。よって、本発明によれば、拡管時における伝熱性能の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施形態を示す管軸直交断面における内面溝付伝熱管を示す一部断面図である。この内面溝付伝熱管1においては、管内面4に管軸方向に螺旋状に延びる2種類のフィン2,3が形成されている。管周方向については、高さが高い高フィン2と高さが低い低フィン3とが2個の高フィン2間に3個の低フィン3が配置されるようにして、形成されている。
【0017】
この高フィン2と低フィン3との管周方向に占める割合は、本実施形態では、1個の高フィン2に対して、低フィン3は3個であるが、この割合はこれに限らず、高フィン2間に、3乃至5個の低フィン3が配置されていればよい。即ち、1個の高フィン2に対して、3乃至5個の低フィン3が配置されているものであればよい。
【0018】
また、高フィン2の高さは0.14乃至0.20mm、高フィン2の頂角は10乃至20°である。一方、低フィン3の高さは0.10乃至0.14mm、低フィン3の頂角は10乃至15°である。但し、高フィン2と低フィン3との高さの差は0.04mm以上0.06mm以下であることが必要である。更に、この内面溝付伝熱管において、高フィン2及び低フィン3のリード角は、相互に同一で、20乃至40°の範囲にあることが好ましい。また、各フィン2,3の頂部の形状は、一定の曲率半径を有する曲面であることが好ましい。
【0019】
このように構成された内面溝付伝熱管において、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金製のプレートフィン(図示せず)に設けた孔に、この伝熱管1を挿入し、伝熱管1内に拡管マンドレル(図示せず)を挿入し、伝熱管1を拡管すると、マンドレルは、高さが高い高フィン2に接触し、この高フィン2を介して、内面溝付伝熱管1の管壁部分を押し広げる。これにより、内面溝付伝熱管1の外面5が、プレートフィンに密着して、内面溝付伝熱管1がプレートフィンに所望の熱伝達性能を有して固定される。
【0020】
この拡管時に、高フィン2と低フィン3とは、0.04mm以上の高さの差があるので、拡管マンドレルには高フィン2のみが実質的に接触し、低フィン3は拡管マンドレルに実質的に接触しない。このため、低フィン3におけるフィン潰れ及びフィン倒れは発生しない。よって、低フィン3における伝熱性能の低下は防止され、低フィン3の形状を、もっぱら伝熱性能の観点から好ましい形状に設計することができ、低フィン3においては、高伝熱性能を得ることができる。一方、高フィン2においては、フィン潰れ又はフィン倒れが発生するが、管周方向において、高フィンが占める割合は少なく、高フィンにおける伝熱性能の低下は、内面溝付伝熱管1の全体でみれば、極めて小さいものである。よって、本発明の内面溝付伝熱管1は、拡管時の伝熱性能の低下が少なく、低フィン3は、伝熱性能にとって理想的な形状にすることができ、低フィン3における伝熱性能の向上は極めて大きい。従って、本発明の内面溝付伝熱管は、従来の内面溝付伝熱管よりも、拡管後の伝熱性能を向上させることができる。
【0021】
このように構成された熱交換器は、伝熱管1が高フィン2の部分でもっぱら拡管時の応力を受けるため、拡管後の伝熱管1の管軸直角断面の形状は、この高フィン2の部分を頂角とするほぼ多角形の形状を有するものとなりやすい。このような多角形の形状を有すると、伝熱管1とプレートフィンとの間では、高フィン2の間の部分で、管外面5とプレートフィンとが十分に密着しない場合が生じる。このため、伝熱管の拡管率は管外径で6乃至8%とすることが好ましい。この程度の拡管率であれば、管外面5とプレートフィンとの密着性を阻害することはない。
【0022】
次に、本発明における各数値の限定理由について説明する。但し、図1に示す内面溝付伝熱管において、外径をD(mm)、底肉厚(溝底部の管壁の厚さ)をt(mm)、高フィン2の高さh1(mm)、高フィン2の頂部の曲率半径をR1(mm)、高フィン2のフィン頂角をγ1(°)、低フィン3の高さをh2(mm)、低フィン3の頂部の曲率半径をR2(mm)、低フィン3のフィン頂角をγ2(°)とする。但し、フィンの高さとは管内面の溝の底部からフィン頂部までの距離のことをいう。フィン頂角とはフィンの一方の側面(斜面)と他方の側面とのなす角度のことをいう。後述するフィンのリード角とは内面溝付伝熱管を管軸に平行に展開したとき、管軸方向と内面フィンが伸びる方向とがなす角度のことをいう。
【0023】
(a)高フィン2と低フィン3との管周方向に占める割合
高フィン2間に、3乃至5個の低フィン3が配置されている。即ち、1個の高フィン2に対して、3乃至5個の低フィン3が、管周方向に配置されている。高フィン2間の低フィン3の数が3個より小さいと、内面積の増分が小さくなり、所望の伝熱性能が得られない。高フィン2間の低フィン3が5個より多いと、高フィン2と高フィン2との間の距離が長くなりすぎて、拡管時に低フィンが拡管マンドレルと接触して潰されてしまう。その結果、所望の伝熱性能が得られなくなり、圧力損失も増加する。
【0024】
(b)高フィン2の高さh1
高フィン2の高さは0.14乃至0.20mmである。高フィン2は拡管時に潰れることにより低フィン3を保護し、低フィン3の形状をそのまま保持するためのフィンであり、拡管時にマンドレルからの応力を受けるフィンである。後述する低フィン3は、伝熱性能の観点から、高さh2が0.10乃至0.14mmとする。また、拡管時における拡管率を6乃至8%とした場合、高フィン2のマンドレル拡管による潰れ量は0.04mm以上0.06mm以下である。従って、高フィン2と低フィン3との高低差h1−h2は、0.04mm以上0.06mm以下であることが必要である。このため、高フィン2の高さは必然的に0.14mm以上0.20mm以下となる。一方、高フィン2の高さの上限値はいたずらに高くする必要はなく、伝熱管1の単重を重くしないためにも、高フィン2の高さは0.20mm以下とする。
【0025】
(c)高フィン2の頂部の曲率半径R1
高フィン2の頂部は平面である必要はない。本発明におけるフィン形状においては、高フィン2の頂部が平面の場合と、曲率半径を有する曲面の場合とでは、拡管時の潰れ量に大きな差は無い。むしろ、頂部に平面を設けようとすると、高フィン2が太い形状となり、伝熱管の単重が増してしまい、コストが上昇する。
【0026】
よって、高フィン2の頂部の曲率半径R1は0.03乃至0.06mmであることが好ましい。R1が0.03mmより小さくなると、溝付プラグの製作効率が極端に悪くなる。また、高フィン2が細く華奢なフィンとなり、拡管したときに、高フィン2の潰れ及び倒れが激しくなる。高フィン2の曲率半径R1が0.06mmより大きくなると、伝熱管の単重が重くなり、伝熱管のコストが上昇してしまう。
【0027】
(d)高フィン2の頂角γ1
高フィン2の頂角γ1は10乃至20°である。高フィン2のフィン頂角が10°より小さくなると、溝付プラグの製作効率が極端に悪くなる。また、高フィン2が細く、華奢なフィンとなり、拡管したときにフィンの潰れ及び倒れが激しくなる。フィン頂角γ1が20°より大きくなると、伝熱管の単重が重くなり、伝熱管のコストが上昇してしまう。
【0028】
(e)低フィン3の高さh2
低フィン3の高さは0.10乃至0.14mmである。前述のごとく、低フィン3は、熱伝達に寄与するフィンであり、内面溝付伝熱管の伝熱性能を決めるフィンである。このため、伝熱性能の観点から、低フィン3の高さh2は、0.10乃至0.14mmとする。低フィン3の高さh2が0.10mmより小さいと、冷媒に接触する面積が小さくなり、高伝熱性能が得られない。一方、低フィン3の高さh2が0.14mmより大きいと、圧力損失が増加し、伝熱性能が低下する。よって、低フィン3の高さh2は0.10乃至0.14であることが必要である。
【0029】
(f)低フィン3の頂部の曲率半径R2
フィンの頂部は平坦であるよりも、曲率半径を有しているほうが伝熱性能が優れており、好適である。伝熱に寄与する低フィン3はその頂部の曲率半径R2が0.03乃至0.04mmであることが好ましい。伝熱に寄与する低フィン3は極力スリムな形状で、頂部もシャープなエッジ形状を有する方が、伝熱性能が向上すると共に、冷媒圧力損失が低減し、省エネルギーとなる。曲率半径R2が0.03mmより小さくなると、管内面に溝を形成するための溝付プラグの製作効率が極端に悪くなるか、又は溝加工ができなくなる。曲率半径R2が0.04mmより大きくなると、伝熱性能が低下し、圧力損失も増加すると共に、伝熱管の単重が重くなり、伝熱管のコストが上昇してしまう。このため、望ましくは、低フィン3の頂部の曲率半径R2は0.03乃至0.035mmである。
【0030】
(e)低フィンの頂角γ2
低フィン3の頂角γ2は10乃至15°である。伝熱に寄与する低フィン3は、前述のごとく、極力スリム形状でシャープなエッジ形状を有する方が、伝熱性能が向上すると共に冷媒圧力損失が低減し、省エネルギーとなる。望ましくは、低フィンの頂角γ2は、10乃至12°である。低フィン3の頂角γ2が10°より小さくなると、溝付プラグの製作効率が極端に悪くなるか、又は溝加工できなくなる。フィン頂角R2が12°より大きくなると、伝熱性能が低下し、圧力損失も増加すると共に、伝熱管の単重が重くなり、伝熱管のコストが上昇してしまう。
【0031】
(f)高フィン2と低フィン3との高さの差h1−h2
高フィン2と低フィン3との高さの差h1−h2は0.04mm以上0.06mm以下である。高フィン2と低フィン3との高さの差が0.04mmより小さいと、拡管したときに、高フィン2だけではなく、伝熱に寄与する低フィン3まで潰れてしまう。なお、高フィン2と低フィン3との高さの差h1−h2が0.06mmより高くなると、転造加工の効率が悪くなると共に、伝熱管の単重が増加してしまう。このため、h1−h2は0.04mm以上0.06mm以下とすることが好ましい。
【0032】
(g)リード角
高フィン2及び低フィン3のリード角は、相互に同一で、20乃至40°の範囲にあることが好ましい。高フィン2と低フィン3のリード角は、相互に同一であり、両フィン2,3が平行であることが好ましい。このように、両フィン2,3を平行とすることにより、溝付プラグによる転造加工により、シームレス管の管内面に溝を形成することができる。また、このリード角(管軸方向に対するフィンのねじれ角)は20乃至40°、より好ましくは30乃至40°であることが好ましい。リード角が20°より小さいと、所望の伝熱性能が得られない。また、リード角が40°を超えると、溝付プラグの製作効率が極端に悪くなるか、又は溝付プラグの製作が不可能になる。更に、リード角が40°を超えると、溝付プラグによる転造加工においても、加工効率が低下すると共に、冷媒の圧力損失が増加し、伝熱管の性能が低下する。
【0033】
(h)伝熱管の拡管率
なお、本発明の内面溝付伝熱管及び熱交換器は、通常の転造加工により製造することができる。即ち、母材となる銅又は銅合金管の管内に、溝付プラグを挿入し、管外面に自転しながら管外面を公転するボールを押し付けて管壁を管内側に押圧し、管内面を溝付プラグに押しつける。これにより、所定の内面フィンが管内面に形成される。こうして製造された内面溝付伝熱管の外径より大きな孔が形成されているアルミニウム又はアルミニウム合金製プレートフィンを複数枚用意し、内面溝付伝熱管をプレートフィンの孔に挿入し、拡管マンドレルを伝熱管内に挿入することにより、伝熱管を拡管し、管外面を拡大して伝熱管とプレートフィンとを密着させる。このようして、熱交換器が製作される。
【0034】
よって、拡管時に、内面溝付伝熱管は、拡管マンドレルが接触してこのマンドレルからの管半径方向外側への応力を受ける高フィン2の部分が拡径しやすく、高フィン2と高フィン2との間の部分は拡径しにくい。このため、拡径後には、内面溝付伝熱管は高フィン2の部分が角部となる多角形に近似した形状になる。このため、通常、拡管率は5%程度であるが、この程度の拡管率であると、高フィン2の部分の管外面はプレートフィンと密着しやすいが、高フィン2と高フィン2との間の部分の管外面はプレートフィンとの密着性が低くなる。そこで、拡管率は、管外径で、6乃至8%にすることが好ましい。拡管率がこの程度であれば、拡管後の伝熱管1の形状が多角形となって、高フィン2と高フィン2との間の部分の密着性が低下する虞が少ない。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の効果を示す実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。下記表1及び表2に示す内面溝付伝熱管を製造し、更に、この内面溝付伝熱管から熱交換器を製作し、風洞試験装置にて伝熱性能を測定した。熱交換器は一般的なプレートフィンチューブ型熱交換器であり、一般的なアルミニウムフィンと本発明の内面溝付伝熱管で構成した。リターンベンド管として平滑管を使用した。即ち、複数個の板状のアルミニウムフィンを適長間隔をおいて平行に配置し、このアルミニウムフィンに設けた複数個の孔内に内面溝付伝熱管を挿通し、全てのフィンを挿通する内面溝付伝熱管を夫々横一列に配置した。そして、各内面溝付伝熱管内にマンドレルを挿入し、内面溝付伝熱管を拡管してフィンと密着させた。そして、フィン列から外方に突出した伝熱管の端部を、隣接する伝熱管の隣接する端部同士に、U字形に湾曲させたリターンベンド管を接合することにより、連結し、各伝熱管を直列に接続する冷媒通路を形成した。
【0036】
下記表3に熱交換器の寸法、測定条件、下記表4に凝縮試験及び蒸発試験の測定条件を示す。但し、表1は従来例の内面溝付伝熱管の仕様を示し、表2は実施例1乃至13の内面溝付伝熱管の仕様を示す。従来例は、均一な高さのフィンを形成したものである。また、表3の熱交換器寸法の中の290mmは、前述の熱交換器の内面溝付伝熱管の並置された方向(管軸に直交する方向)の寸法であり、300mmは、内面溝付伝熱管に接触するアルミニウムフィンの列のうち、両端部間のフィン間の距離である。この両端部間のフィン間の距離は、熱交換器の熱交換に寄与する有効長さでもある。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
図4は空気熱交換器性能測定装置の概要を示す。この装置は恒温恒湿機能付きの吸引型風洞と冷凍サイクルで構成されている。この風洞においては空気流入口から流入されて空気排出口から排出される空気の流通経路に熱交換器12が配置され、この熱交換器12の上流側及び下流側に夫々エアーサンプラ11、15が配置されている。このエアーサンプラ11,15には夫々温度・湿度測定ボックス10,14が連結されており、採取された空気の乾球温度及び湿球温度を測定している。また、エアーサンプラ15の下流側には誘引ファン16が設けられ、空気排出口に空気を排出している。また、熱交換器12とエアーサンプラ11との間、及びエアーサンプラ15と誘引ファン16との間には熱交換器12を通過した空気を整流する整流板13が設けられている。冷媒供給装置はコンプレッサー、オイルセパレーター、凝縮器、膨張弁、蒸発器、アキュムレータ、流量計により構成されており、冷媒配管を通じて、風洞内に備えられた熱交換器12の内部に圧力及び温度を調節した冷媒が供給される。熱交換器12の入口及び出口には冷媒の温度及び圧力を測定する装置が設けられている。空調機(図示せず)は風洞の空気流入口に温度及び湿度が制御された空気を供給している。
【0042】
そして、凝縮性能試験の結果を下記表5に、また蒸発性能試験の結果を下記表6に示す。なお、表5及び表6において、()内は、従来例に対する増加分(+)及び減少分(−)である。
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
この表5に示すように、凝縮性能については、従来例(フィン高さが一定)に比して、実施例1は、全ての風速において、伝熱性能が向上し、圧力損失が低下した。実施例6は全ての風速において伝熱性能が向上し、圧力損失の増加も低い数値に収まっている。一方、表6に示す蒸発性能についても、実施例1は、全ての風速において伝熱性能が向上し、圧力損失は低下した。実施例6については、全ての風速において伝熱性能が向上し、圧力損失の増加も低い数値にとどまっている。実施例1乃至13の伝熱性能は従来例に比してかなり向上しており、蒸発器用伝熱管及び凝縮器用伝熱管として使用する効果は大きく、蒸発凝縮性能双方が優れたものとなり、本発明の適用の効果は極めて大きい。
【0046】
図2は、実施例1の拡管前の内面溝付伝熱管(外径7mm)の管軸直交断面における断面形状を示し、図3は、実施例1の拡管後の伝熱管の管軸直交断面における断面形状を示す。いずれも一部断面図であり、顕微鏡写真を拡大して、輪郭をトレースしたものである。この図2に示すように、拡管前は高フィン2及び低フィン3が転造時の形状を有しているのに対し、図3に示すように、拡管後は高フィン6が倒れると共に潰れている。しかし、低フィン3については、その形状に変化がなく、フィン潰れ及びフィン倒れが発生していないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る内面溝付伝熱管の一部断面図(管軸直交断面)である。
【図2】本発明の実施形態に係る内面溝付伝熱管の拡管前のフィン形状を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る内面溝付伝熱管の拡管後のフィン形状を示す断面図である。
【図4】空気熱交換器性能測定装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1:内面溝付伝熱管
2:高フィン
3:低フィン
4:管内面
5:管外面
6:高フィン(潰れ又は倒れ発生後)
10,14:温度・湿度測定ボックス
11,15:エアーサンプラ
12:熱交換器
16:誘引ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内面にフィンが形成された内面溝付伝熱管において、管軸直交断面において管周方向に複数個配置された高フィンと、管軸直交断面において管周方向の各高フィン間に夫々3乃至5個配置された低フィンとを有し、前記高フィンの高さが0.14乃至0.20mm、フィンの頂角が10乃至20°であり、前記低フィンの高さが0.10乃至0.14mm、フィンの頂角が10乃至15°であり、前記高フィンと前記低フィンとの高さの差が0.04mm以上0.06mm以下であり、前記高フィン及び低フィンのリード角は、相互に同一で、20乃至40°であり、前記高フィン及び低フィンの頂部は、管軸直交断面において、曲率半径を有する曲面であり、前記高フィンの頂部の前記曲率半径は0.03乃至0.06mm、前記低フィンの頂部の前記曲率半径は0.03乃至0.04mであることを特徴とする内面溝付伝熱管。
【請求項2】
プレートフィンの孔に前記請求項1に記載の内面溝付伝熱管を挿入し、前記内面溝付伝熱管の管内に拡管マンドレルを挿入して、これを拡管することにより、前記内面溝付伝熱管を前記プレートフィンに密着させて構成されたことを特徴とする熱交換器。
【請求項3】
前記拡管後に、前記内面溝付伝熱管は、管軸直交断面において、前記高フィンが配置された部分を頂点とする多角形状をなすことを特徴とする請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記拡管の拡管率が、管外径の比で、6乃至8%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−133668(P2010−133668A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311637(P2008−311637)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(504136753)株式会社コベルコ マテリアル銅管 (79)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】