説明

円偏波アンテナ

【課題】無給電素子を排除し、且つ給電素子の構造を改造することにより、特許文献1の課題を解決する。
【解決手段】円偏波を対象とする円偏波アンテナにおいて、屈曲方向が互いに異なって連続する屈曲辺からなるアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子を直角の範囲の角度に屈曲形成している。本発明によれば、無給電素子を排除し、しかも1本のアンテナ素子により、円偏波に必要な電流に位相差をもたせることができることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円偏波アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、簡易な構成で良好な円偏波特性を得ることができ、且つ小型化を図る平面アンテナが開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されている円偏波アンテナは、線状の給電アンテナ素子と、複数の線状の無給電アンテナ素子とを備え、前記無給電アンテナ素子をそれぞれ前記給電アンテナ素子と非接触で交差する位置及び方向に配置するとともに、その交差部分を前記給電アンテナ素子と並行するように折り曲げ加工した構造に構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−35219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された円偏波アンテナについてシミュレーションを行った結果、次の様な課題があることを突き止めた。
すなわち、給電アンテナ素子と無給電アンテナ素子とが接近するとその両者の位相差は少なくなり、かつ誘導される電流も大きくなるので、同相の電流が卓越し、円偏波に向かないというシミュレーションの結果を得た。
【0006】
具体的に説明すると、特許文献1では、前記無給電アンテナ素子は、前記給電素子に沿う並行辺を中心として、その先端をクランク状に折り曲げ加工して並行辺から左右に伸びた左右辺を有している構造であり、しかも、前記無給電アンテナ素子は前記給電アンテナ素子に非接触で交差する構造であるから、前記無給電アンテナ素子の並行辺と前記給電アンテナ素子との間隔を調整すると、前記無給電アンテナ素子の左右辺と前記給電アンテナ素子との交差する位置が変動する、即ち無給電アンテナ素子の並行辺を中心とした無給電アンテナ素子の左右の長さにアンバランスが生じる。
そのため、前記無給電アンテナ素子と前記給電アンテナ素子との位相差を十分に確保することが不可能となり、円偏波に向かない事となる。
【0007】
本発明の目的は、簡易な構成で良好な円偏波特性を得ることができ、且つ小型化を図る円偏波アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1に開示された円偏波アンテナについてシミュレーションを行った結果によると、給電アンテナ素子と無給電アンテナ素子とが接近するとその両者の位相差は少なくなり、かつ誘導される電流も大きくなるので、同相の電流が卓越し、円偏波に向かなくなるという課題がある。
本発明は、無給電素子を排除し、且つ給電素子の構造を改造することにより、特許文献1の課題を解決するものである。
すなわち、本発明に係る円偏波アンテナは、円偏波を対象とする円偏波アンテナにおいて、屈曲方向が互いに異なって連続する屈曲辺からなるアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子を直角の範囲の角度に屈曲形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無給電素子を排除し、しかも1本のアンテナ素子により、円偏波に必要な電流に位相差をもたせることができるという効果を奏するものである。また、アンテナ素子を直線ではなく屈曲状に形成したことによりアンテナ素子長を稼ぐことができ、アンテナを小型化することができる。また、螺旋状などの中空を有する形状にすれば、その中空中にコアを挿入することができ、さらに小型化できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る円偏波アンテナを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る円偏波アンテナを示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるアンテナ素子を平面に投影した状態を示す図である。
【図4】アンテナ素子の屈曲度合いに応じた放射パターンを示す特性図である。
【図5】アンテナ素子の屈曲度合いに応じた放射パターンを示す特性図である。
【図6】アンテナ素子の屈曲度合いに応じた放射パターンを示す特性図である。
【図7】アンテナ素子の屈曲度合いに応じた放射パターンを示す特性図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施形態に係る円偏波アンテナは、円偏波を対象とするアンテナであって、図1〜図3に示す様に、軸方向2に対して屈曲方向が互いに異なって連続する屈曲辺1a1,1a2・・・1anからなるアンテナ素子1を有しており、前記アンテナ素子1を直角の範囲に屈曲形成したことを特徴とするものである。
【0013】
次に、アンテナ素子1としてコイル状素子を用いた例を説明する。図1及び図2に示す様に、前記アンテナ素子1は線材を螺旋状に巻き付けてコイル状に形成し、その一端に立ち上がり辺1Cを形成し、コイル状に形成した領域のアンテナ素子1(1A,1B)を直角の範囲の角度に屈曲させている。
次に、前記アンテナ素子1を支える支持構造について説明する。接地板3上には、誘電体4が貼り付けてある。前記接地板3と前記誘電体4とには、前記アンテナ素子1の立ち上がり辺1Cを挿通するための開口5が形成されている。
前記アンテナ素子1の立ち上がり辺1Cを前記誘電体4及び前記接地板3の開口5に通し、かつ前記アンテナ素子1のコイル状の領域(1A,1B)を前記誘電体4で支えている。なお、前記アンテナ素子1の立ち上がり辺1Cは、前記接地板3の開口5に通した際に前記接地板3に接触せず電気的に分離されている。また、前記誘電体4に開口5を設けずに、前記アンテナ素子1の立ち上げ辺1Cを前記誘電体4に差し込むようにしてもよいものである。
さらに、上述した様に、支持された前記アンテナ素子1の立ち上がり辺1Cと前記接地板3との間に給電系6が接続される。前記給電系6は送信の場合に送信回路であり、受信の場合に受信回路となる。
【0014】
上述した様に本発明の実施形態において、アンテナ素子1として用いたコイル状素子は図1及び図2に示す様に、その軸方向2に螺旋状に線材を屈曲させた構造になっている。
前記アンテナ素子1の構造を平面上に投影すると、図3に示す様に、2以上の屈曲辺1a1,1a2・・・1anは、軸方向2に対して互いに屈曲方向が異なった状態で連続した構造になっている。
すなわち、前記アンテナ素子1の隣接する屈曲辺1a1〜1an同士は、軸方向2に対して屈曲方向が異なっている。具体的に説明する。隣接する屈曲辺1a1,1a2,1a3を例に取る。隣接する屈曲辺1a1と1a2とでは、一方の屈曲辺1a1は軸方向2に対する屈曲方向が右上がりに傾斜した方向であり、他方の屈曲辺1a2は軸方向2に対する屈曲方向が右下がりに傾斜した方向である。さらに、隣接する屈曲辺1a2と1a3とでは、一方の屈曲辺1a2は軸方向2に対する屈曲方向が右上がりに傾斜した方向であり、他方の屈曲辺1a3は軸方向2に対する屈曲方向が右下がりに傾斜した方向である。そして、これらの屈曲辺1a1,1a2及び1a3は連続して形成されている。
したがって、軸方向2に対して互いに屈曲方向が異なった状態で連続した2以上の屈曲辺1a1〜1anに電流が流れると、隣接する屈曲辺1a1〜1anに電流が流れることにより発生する電界の向きが互いに異なるため、軸方向2に対して屈曲した方向での電界成分が互いに打ち消し合い、軸方向2のみの電界成分と、軸方向2に対して直角の範囲の角度の方向の電界成分とになるため、前記アンテナ素子1はアンテナとして機能するものと考えられる。
【0015】
さらに、本発明の実施形態では、図1と図2に示す様に前記アンテナ素子1を直角の範囲の角度に屈曲形成している。前記アンテナ素子1を直角の範囲に屈曲形成するに当たっては、直角の範囲の角度に屈曲された前記アンテナ素子1の辺1Aと1Bの長さの比が1対1であることが望ましいものである。なお、前記1対1には、±数%の誤差を含むものである。理論的には、1対1であるが、前記接地板3による反射や前記誘電体4による浮遊容量などの影響により変動するものであり、±数%の誤差を含む場合が想定されるから、1対1には、1±数%の範囲は含まれることとなる。
【0016】
次に、前記アンテナ素子1を直角の範囲に屈曲形成することにより、前記アンテナ素子1の直角の範囲での辺1Aと1Bに電流を流した場合に、前記辺1Aと1Bとに円偏波に必要な位相差をもたせることが可能であることについて解析する。
理論的に解析すると次の様に考えられる。図2及び図3に示す様に、直角の範囲の角度に屈曲させた端面Dから辺1Aと辺1Bとにおける屈曲辺1a1〜1anの軸方向2に対する屈曲方向に着目する。直角の範囲に屈曲させた部分で隣接する屈曲辺を屈曲辺1a5と屈曲辺1a6とする。
前記アンテナ素子1はコイル状に巻き付けてあるから、屈曲辺1a5の巻方向と屈曲辺1a6との巻方向は同一であるが、隣接する屈曲辺1a5と屈曲辺1a6とがなす角度は直角の範囲にあるため、屈曲辺1a6は軸方向2に対して直角の範囲の角度だけずれており、このずれによって、前記辺1Aと1Bとに円偏波に必要な位相差をもたせることが可能であると考えられる。このことを裏付けるために、前記アンテナ素子1の屈曲辺1a5と屈曲辺1a6とのなす角度を種々変更して実測値により確かめた。その結果について説明する。
【0017】
線材として線径が0.6mmの線材を用い、これを内径が約2mmのコイル状に10ターン巻き付け、コイル状をなす領域(1A,1B)の長さを使用周波数λの1/2の長さに設定したアンテナ素子1を形成した。この場合、アンテナ素子1の立ち上がり辺1Cの長さは、コイル状の巻き付けた中心1Dまでの長さで約8mmに設定した。さらに、アンテナ素子1の屈曲辺1Aと屈曲辺1Bとを5ターンのコイルでそれぞれ形成した、すなわち屈曲辺1Aの長さと屈曲辺1Bの長さとを1対1に設定した。また、使用周波数λを1.4GHzとした。
【0018】
アンテナ素子1の屈曲辺1Aと屈曲辺1Bとを軸方向2に沿って直線にして特性を測定すると、その放射パターンP1は図4に示す様な直線偏波によるものであった。
次に、特開平06−77722号公報の図5及び図6に示されているように、軸方向2に対して屈曲辺1Bを屈曲辺1Aに対して約135°の角度に屈曲させて放射パターンを実測した。その放射パターンP2は図5に示す様に下部が膨らんだ鶏卵のようになった。この放射パターンからすると、円偏波の放射パターンのように無指向性ではなく、その放射パターンに指向性が出ている。また、この放射パターンP2は図5に示す様に下部が膨らんだ鶏卵の形状であって、楕円形状でなかった。
次に、アンテナ素子1の屈曲辺1Bを軸方向2に対して直角に屈曲させて放射パターンを実測した。その放射パターンP3は図6に示す様に円形状になった。この放射パターンは円形状であるから、円偏波の放射パターンとしての無指向性を満足するものであった。
次に、アンテナ素子1の屈曲辺1Bを軸方向2に対して75°に屈曲させて放射パターンを実測した。その放射パターンは図7に示す様に下部が膨らんだ鶏卵のようになった。この放射パターンからすると、円偏波の放射パターンのように無指向性ではなく、その放射パターンに指向性が出ている。また、この放射パターンP4は図7に示す様に下部が膨らんだ鶏卵の形状であって、楕円形状でなかった。
【0019】
以上に示した実測結果からして、前記アンテナ素子1を直角に屈曲形成することにより、前記アンテナ素子1の直角をなす辺1Aと1Bに電流を流した場合に、前記辺1Aと1Bとに円偏波に必要な位相差をもたせることが可能であることが分かった。
【0020】
次に、円偏波として用いる場合には、放射パターンが円形状であることが望ましいものであるが、その放射パターンが楕円形状であっても実用上支障がないことが分かっている。前記放射パターンが楕円形状になる範囲を実測すると、上限値が約100°、下限値が約80°の範囲であった。
したがって、直角には、90°を基準として±10°の範囲を含めて考えてもよいものである。この範囲の角度を直角の範囲の角度として定義する。
【0021】
なお、以上の説明では、アンテナ素子1として線材をコイル状に巻き付けた立体的な構造を採用したが、これに限られるものではない。前記アンテナ素子1が図3に示す様に、軸方向2に対して屈曲方向が互いに異なって連続する屈曲辺1a1〜1anからなる構造であれば、立体構造或いは平面構造のいずれであってもよいものである。具体的には、立体構造の場合、上記した螺旋状に代えて中空を有する角型螺旋状のものを挙げることができ、平面構造の場合、矩形状やジグザグ状のものを挙げることができる。なお、螺旋状などの中空を有する形状にすれば、その中空中にコアを挿入することができ、さらに小型化することができるという利点がある。
また、前記アンテナ素子1の屈曲辺1Aと屈曲辺1Bとを5ターンのコイルでそれぞれ形成したが、上述した理由から、そのターン数は5ターンに限られるものではなく、しかも必ずしも同数のターン数である必要はない。
【0022】
以上の様に本発明の実施形態によれば、軸方向に対して屈曲方向が互いに異なって連続する屈曲辺からなるアンテナ素子を有し、前記アンテナ素子を直角の範囲の角度に屈曲形成することにより、1本のアンテナ素子により、円偏波に必要な電流に位相差をもたせることができる。
【0023】
また、アンテナ素子を直線ではなく屈曲状に形成したことによりアンテナ素子長を稼ぐことができ、アンテナを小型化することができる。また、螺旋状などの中空を有する形状にすれば、その中空中にコアを挿入することができ、さらに小型化できるという効果を奏するものである。
【0024】
さらに、無給電素子を排除することができ、アンテナ素子が1本であるから、アンテナ構造が簡素化できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、円偏波を対象とするアンテナの構造の簡素化に貢献できるものである。
【符号の説明】
【0026】
1 アンテナ素子
1a1〜1an,1A,1B 屈曲辺
2 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円偏波を対象とする円偏波アンテナにおいて、
屈曲方向が互いに異なって連続する屈曲辺からなるアンテナ素子を有し、
前記アンテナ素子を直角の範囲の角度に屈曲形成したことを特徴とする円偏波アンテナ。
【請求項2】
直角の範囲の角度をなす前記アンテナ素子の辺の長さの比が1対1である請求項1に記載の円偏波アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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