説明

円筒形二次電池

【課題】かしめにより一体化される電池缶と蓋体とが波打ち状態を生じることにより、電池缶との間に介在される絶縁部材との間に隙間が生じ、密封性が損なわれるのを防止する。
【解決手段】電池蓋3の一面側に配置された蓋体37は、周縁部が電池蓋3の外周側面に対応する部分で屈曲して他面側で内周側に折り返される。他面側に折り返された蓋体37のフランジ部37cには、切り欠き55がほぼ等しい間隔で形成されている。フランジ部37cを折り返してかしめる際、縁部52の長さと折り返し起点での周囲の長さの差は、切り欠き55の縁部52側の幅が狭くなることにより吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒形二次電池に関し、より詳細には、電池蓋と蓋体とがかしめにより固定された円筒形二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等に代表される円筒形二次電池は、円筒形の電池容器内に、正極板と負極板とがセパレータを介して軸芯の周囲に捲回された発電要素が収容され、電解液が注入されて構成される。
電池容器は、上部に開口部を有する筒状の電池缶と、この電池缶の上部開口部を塞ぎ、ガスケットといわれる絶縁部材を介して電池缶にかしめ工により固定される蓋部材とを備えている。
【0003】
蓋部材として、正・負極の一方に外部端子となる平面円形状の蓋キャップ(電池蓋)と、蓋キャップとガスケットとの間に配置され、蓋キャップに固定された平面円形状の蓋ケース(蓋体)とにより構成される構造が知られている。蓋キャップと蓋ケースとは、一般的に、蓋ケースの周縁部を、蓋キャップの外周側面と対応する部分で立ち上げ、プレスにより、反対面側で内周側に折り返し、蓋ケースと蓋キャップとの周縁部の全周囲をかしめることにより固定される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−213819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された蓋キャップと蓋ケースの固定構造では、蓋ケースの周縁部を、蓋キャップの外周側面と対応する部分において、反対面で内周側に折り返してかしめる。この場合、蓋ケースの内周側の周囲長さは、蓋ケースの外周の周囲長さよりも小さい。このため、蓋ケースの折返し部が波打った状態で蓋キャップにかしめられる。従って、従来は、蓋部材とガスケットとの間に隙間が生じ、円筒形二次電池の気密性が損なわれる恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の円筒形二次電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して軸芯の周囲に捲回された発電要素と、上部側に開口部を有し、発電要素が収容され、電解液が注入された電池缶と、電池缶の開口部を塞いで絶縁部材を介して電池缶にかしめにより固定された蓋部材とを具備し、蓋部材は、円形の外周側面を有する電池蓋と、電池蓋の一面側に配置され、電池蓋の外周側面に対応する部分で屈曲され、電池蓋の他面側において内周側に折り返されて電池蓋にかしめられた円形のフランジ部を有する蓋体とを含み、蓋体は、フランジ部に円周方向に配列された複数の切り欠き有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の円筒形二次電池によれば、蓋体のフランジ部に形成された切り欠きの幅が、かしめの際に小さくなることにより、蓋体のフランジ部における偏肉による変形量が吸収される。このため、蓋ケースのフランジ部の波打ちを抑えることができ、円筒形二次電池の気密性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る円筒形二次電池の一実施の形態の断面図。
【図2】図1に図示された円筒形二次電池の分解斜視図。
【図3】図1に示された円筒形二次電池における発電要素の詳細を示し、一部を切断した状態の斜視図。
【図4】図1に図示された電池蓋と電池缶との固定構造を示す拡大断面図。
【図5】蓋部材を構成する電池蓋と蓋体との固定構造を示す外観斜視図。
【図6】図5に図示された蓋体の作製工程における一状態を示す外観斜視図。
【図7】図6に図示された蓋体の切り欠きの形状を示す拡大正面図。
【図8】図5に図示されたかしめ後の蓋体の形状を示す拡大平面図。
【図9】蓋体の作製方法を説明するための図であり、最初の工程を説明するための斜視図。
【図10】図9に続く工程を説明するための斜視図。
【図11】図10に続く工程を説明するための斜視図。
【図12】蓋体の作製成方法の異なる例を説明するための図であり、最初の工程を説明するための斜視図。
【図13】図12に続く工程を説明するための斜視図。
【図14】本発明の円筒形二次電池の実施形態2として蓋部材の外観斜視図。
【図15】図14に図示された蓋体の作製工程における一状態を示す外観斜視図。
【図16】図15に図示された蓋体の切り欠きの形状を示す拡大側面図。
【図17】図14に図示されたかしめ後の蓋体の形状を示す拡大平面図。
【図18】図14に図示された蓋体を作製する方法を説明するための斜視図。
【図19】図14に図示された蓋体の作製方法の異なる例を説明するための図であり、最初の工程を説明するための斜視図。
【図20】図19に続く工程を説明するための斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態1)
[円筒形二次電池の全体構造]
以下、この発明の円筒形二次電池の一実施の形態を図面と共に説明する。
図1は、この発明の円筒形二次電池の一実施の形態を示す拡大断面図であり、図2は、図1に示された円筒形二次電池の分解斜視図である。
円筒形二次電池1は、例えば、リチウムイオン二次電池であり、底部2cを有し、上部に開口部2bを有する円筒形の電池缶2および電池缶2の開口部2bを封口するハット型の電池蓋3で構成される電池容器を有する。電池容器の内部には、以下に説明する発電用の各構成部材が収容され、非水電解液5が注入されている。
【0010】
円筒形の電池缶2は、例えば、鉄(SPCC)製であり、内外両面にはニッケルめっきが施されている。電池缶2には、上端側に設けられた開口部2b側に電池缶2の内側に突き出した溝2aが形成されている。
電池缶2の中央部には、発電要素10が配置されている。発電要素10は、軸方向に沿う中空部を有する細長い円筒形の軸芯15と、軸芯15の周囲にセパレータを介して捲回された正極板および負極板とを備える。
【0011】
軸芯15は、軸に沿って形成された中空部を有する中空円筒状を有する。軸芯15の軸方向(図面の上下方向)の上端部の内面には中空部よりも径大の溝15aが形成されている。
【0012】
[発電要素]
図3は、発電要素10の構造の詳細を示し、一部を切断した状態の斜視図である。
図3に図示されるように、発電要素10は、軸芯15の周囲に、正極板11、負極板12、および第1、第2のセパレータ13、14が捲回された構造を有する。
【0013】
軸芯15は、例えば、PP(ポリプロピレン)により形成され、軸に沿って形成された中空部を有する中空円筒形状を有する。軸芯15には、第1のセパレータ13、負極板12、第2のセパレータ14および正極板11が、順に積層され、捲回されている。図3では図示を省略するが、最内周の負極板12の内側には第1のセパレータ13および第2のセパレータ14が数周捲回されている。
【0014】
内周(軸芯)側では、負極板12が正極板11よりも軸芯側に延出されている。また、外周側では負極板12が正極板11よりも外周側に延出されている。最外周の負極板12の外周に第2のセパレータ14が延出されている。最外周の第2のセパレータ14がPP等により形成された接着テープ19で止められる(図2参照)。
【0015】
正極板11は、アルミニウム箔により形成され長尺な形状を有し、正極金属箔11aと、この正極金属箔11aの両面に正極合剤が塗布された正極処理部11bを有する。正極金属箔11aの長手方向に延在する上方側の側縁は、正極合剤が塗布されず正極金属箔11aが露出した正極合剤未処理部11cとされている。この正極合剤未処理部11cには、軸芯15の軸に沿って上方に突き出す多数の正極リード16が等間隔に一体的に形成されている。
【0016】
正極合剤はリチウム酸化物等の正極活物質と、正極導電材と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等により形成された正極バインダとからなる。
正極合剤は、厚さ20μm程度のアルミニウム箔からなる正極金属箔11aの両面に、片側の厚さ40μm程度に塗布される。正極金属箔11aをプレスにより裁断する際、正極リード16を一体的に形成する。
【0017】
負極板12は、銅箔により形成され長尺な形状を有し、負極金属箔12aと、この負極金属箔12aの両面に負極合剤が塗布された負極処理部12bを有する。負極金属箔12aの長手方向に延在する下方側の側縁は、負極合剤が塗布されず銅箔が露出した負極合剤未処理部12cとなっている。この負極合剤未処理部12cには、軸芯15の軸に沿って正極リード16とは反対方向に延出された、多数の負極リード17が等間隔に一体的に形成されている。
【0018】
負極合剤は、黒鉛炭素等の負極活物質と、負極バインダと、増粘剤とからなる。
負極合剤は、厚さ10μm程度の圧延銅箔からなる負極金属箔12aの両面に、片側の厚さ40μm程度に塗布される。負極金属箔12aを裁断する際、負極リード17を一体的に形成する。
【0019】
第1、第2のセパレータ13、14の幅は、正極板11および負極板12の幅よりも大きい。
負極板12の負極処理部12bの幅は、正極板11の正極処理部11bの幅よりも大きい。負極処理部12bの幅および長さを正極処理部11bの幅および長さよりも大きくして、正極処理部11bの全領域を負極処理部12bで覆う構造とされている。リチウムイオン二次電池の場合、負極側に負極活物質が形成されておらず負極金属箔12aが表出していると負極金属箔12aにリチウムが析出し、内部短絡を発生する原因となる。上記の如く、正極処理部11bの全領域を負極処理部12bで覆うことにより、このようなリチウム析出に伴う内部短絡を防止することができる。
【0020】
第1のセパレータ13および第2のセパレータ14は、それぞれ、例えば、厚さ40μm程度のポリエチレン製多孔膜で形成されている。
【0021】
[発電ユニット]
図1において、中空な円筒形状の軸芯15には、軸方向(図面の上下方向)の上端部の内面に中空部よりも径大の溝15aが形成され、この溝15aに大略薄い円筒状の正極集電板27が圧入されている。
【0022】
正極集電板27は、例えば、アルミニウム系金属により形成されている。
正極集電板27は、円盤状の基部27a、この基部27aの内周部において軸芯15側に向かって突出し、軸芯15の内面に圧入される下部筒部27b、および外周縁において電池蓋3側に突き出す上部筒部27cを有する。正極集電板27の基部27aには、電池内部で発生するガスを放出するための開口部27d(図2参照)が形成されている。
【0023】
正極集電板27の外周筒部27cの外周には、正極金属箔11aの正極リード16および押え部材28が接合されている。多数の正極リード16を、正極集電板27の外周筒部27cの外周に密着させておき、正極リード16の外周に押え部材28をリング状に巻き付けて仮固定し、この状態で超音波溶接により接合される。
【0024】
軸芯15の下端部には、負極集電板21が取り付けられている。負極集電板21は、例えば、銅により形成され、円盤状の基部21aに軸芯15の段部15bに圧入される開口部21bが形成され、外周縁に、電池缶2の底部側に向かって突き出す外周筒部21cが形成されている。
【0025】
負極集電板21の外周筒部21cの外周には、負極金属箔12aの負極リード17および押え部材22が接合されている。多数の負極リード17を、負極集電板21の外周筒部21cの外周に密着させておき、負極リード17の外周に押え部材22をリング状に巻き付けて仮固定し、この状態で音波溶接により接合される。
負極集電板21の下面には、ニッケルからなる負極通電リード23が溶接されている。
負極通電リード23は、鉄製の電池缶2の底部において、電池缶2に溶接されている。
【0026】
正極集電板27には、負極導電リード23を電池缶2に溶接するための電極棒を挿通するための開口部27e(図2参照)が形成されている。電極棒(図示せず)を正極集電板27に形成された開口部27eから軸芯15の中空部に差し込み、その先端部で負極通電リード23を電池缶2の底部2cの内面に押し付けて抵抗溶接を行う。負極集電板21に接続されている電池缶2の底部2cは一方の出力端子として用いられる。
【0027】
多数の正極リード16が正極集電板27に溶接され、多数の負極リード17が負極集電板21に溶接されることにより、正極集電板27、負極集電板21および発電要素10が一体的にユニット化された発電ユニット20が構成される(図2参照)。但し、図2においては、図示の都合上、負極集電板21、押え部材22および負極通電リード23は発電ユニット20から分離して図示されている。
【0028】
正極集電板27の基部27aの上面には、複数のアルミニウム箔が積層されて構成されたフレキシブルな接続リード33が、その一端部を溶接されて接合されている。接続リード33は、複数枚のアルミニウム箔を積層して一体化することにより、大電流を流すことが可能とされ、且つ、フレキシブル性を付与されている。
【0029】
[電池蓋ユニット]
正極集電板27の上部筒部27c上には、電池蓋ユニット40が配置されている。電池蓋ユニット40は、リング形状をした絶縁板34、絶縁板34に設けられた開口部34a(図2参照)に嵌入された接続板35、接続板35に溶接されたダイアフラム構造の蓋体37および蓋体37に、かしめにより固定された電池蓋3により構成される。
【0030】
絶縁板34は、例えば、PP等の絶縁性樹脂材料からなり、円形の開口部34aを有するリング形状を有し、正極集電板27の上部筒部27c上に載置されている。
絶縁板34は、下方に延出され開口部側に突出する筒部34bを有している。絶縁板34の筒部34bには接続板35が嵌合されている。接続板35の下面には、接続リード33の他端部がレーザ溶接等により接合されている。接続リード33は他端部側において湾曲状に折り返されて、正極集電板27に溶接された面と同じ面が接続板35に接合されている。
【0031】
接続板35は、アルミニウム系金属により形成され、中央部を除くほぼ全体が均一で、かつ、ほぼ円盤形状を有している。接続板35の中央部には突起35aが形成され、蓋体37の中央部の底面に抵抗溶接または摩擦攪拌接合により接合されている。蓋体37はアルミニウム系金属により形成され、蓋体37の基部37aに円形の切込み37b(図2参照)を有する。切込み37bはプレスにより上面側をV字形状に押し潰して、残部を薄肉にしたものである。蓋体37は、電池の安全性確保のために設けられており、電池の内圧が上昇すると、上方に反り、切込み37aを起点として開裂し、内部のガスを放出する機能を有する。
【0032】
蓋体37はフランジ部37cにおいて電池蓋3の周縁部3aにかしめにより固定されている(図1参照)。蓋体37と電池蓋3とをかしめる方法については後述するが、蓋体37のフランジ部37cは、かしめる前は、図2に図示されるように、基部37aに対しほぼ垂直に立ち上げられている。蓋体37には、4つの接合用突出部37dが形成されている。接合用突出部37dも、かしめる前は、フランジ部37cと同様に、基部37aに対しほぼ垂直に立ち上げられている。
【0033】
電池蓋3は、鉄(SPCC)により形成されており、内外両面にニッケルめっきが施されている。電池蓋3は、蓋体37にかしめられる円盤状の周縁部3aと、この周縁部3aから上方に突出す筒部3bを有するハット型を有する。
【0034】
図1を参照して、蓋体37のフランジ部37cの外周に筒状形状のガスケット43が設けられている。ガスケット43は、例えば、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)等により形成されている。ガスケット43は、当初、図2に図示されるように、基部43aに垂直に立ち上げられた周縁部43bを有する。
ガスケット43を電池缶2の溝2aの上部に載置し、ガスケット43の開口部内に蓋部材30を収容する。この状態で、電池缶2の開口部2bの周縁部を溝2a側にプレスする。これにより、電池缶2の開口部2bの周縁部と溝2aとの間に介在する蓋部材30の周縁部にガスケット43の周縁部43bが屈曲されてかしめられる。電池缶2と蓋部材30をかしめることにより、外部に対して密封された電池容器が作製される。
【0035】
電池缶2の内部には、非水電解液5が所定量注入されている。非水電解液5の一例としては、リチウム塩がカーボネート系溶媒に溶解した溶液をあげることができる。
【0036】
[蓋部材の構造]
図4は、図1に図示された電池蓋と電池缶との固定構造を示す拡大断面図であり、図5は、蓋部材を構成する電池蓋と蓋体との固定構造を示す外観斜視図である。
上述した如く、電池蓋ユニット40は、蓋部材30と、絶縁板34と、接続板35が一体化されて構成されている。蓋部材30は、電池蓋ユニット40を作製する前に、予め、電池蓋3の周縁部3aに蓋体37の周縁部であるフランジ部37cをかしめることにより一体化されて構成されている。
【0037】
図5に図示されるように、蓋体37のフランジ部37cには、ほぼ等間隔に配列された4つの接合用突出部37dと、各接合用突出部37d間にほぼ等間隔に配列された複数の切り欠き55が形成されている。各接合用突出部37dの円周方向における両側の側部にも切り欠き55が形成されている。
蓋体37は電池蓋3の内面側に配置されており、フランジ部37cは、電池蓋3の外周側面に対応する部分において立ち上げられ、電池蓋3の外面側において内周側に折り返されている。各切り欠き55の一端55aは、折り返し起点、換言すれば、かしめ後における蓋体37の外周側面37s、よりも内側に形成されている。また、各切り欠き55の他端は、外周側面37sと接合用突出部37dの端部37dEとの間の縁部52に達している。
各切り欠き55は、一端55a側が幅広く、縁部52側が幅狭になるように、あるいは、縁部52側が閉塞されるように形成されている。
【0038】
従来技術で説明した切り欠き55が形成されていない蓋体37は、フランジ部37cを電池蓋3の外周側面で内側に折り返してかしめられるため、折り返した後の外周と内周との周長の差により蓋体37のフランジ部37c、すなわち蓋部材30の周縁部が波打った状態となる。
蓋部材30が周縁部において波打っていると、蓋部材30とガスケット43との間に隙間が生じるため、円筒形二次電池1の気密性が損なわれる恐れがある。
本実施形態における円筒形二次電池1の蓋体37においては、フランジ部37cに、縁部52から外周側の折り返し起点側に向かって延出された複数の切り欠き55が形成されている。かしめの際、蓋体37のフランジ部37cは、切り欠き55が縁部52側において幅狭になるように変形して、外周と内周との長さの差が吸収される。これにより、蓋体37のフランジ部37cの、波打ちが抑えられる。このため、本実施形態では、蓋部材30とガスケット43との間には、波打ちに起因する隙間が生じることがなく、円筒形二次電池1の気密性が向上する。
【0039】
蓋体37のフランジ部37cにおける外周の周長と内周の周長との差を完全に吸収するには、切り欠き55の幅は、その合計が、外周の周長と内周の周長との差に等しいか、それよりも大きくすることが好ましい。しかしながら、切り欠き55が形成されていれば、その分、波打ちの程度を低減するので、切り欠き55の幅の合計が、外周の周長と内周の周長との差より小さくても差し支えはない。
【0040】
図6は、図5に図示された蓋体の作製工程における一状態、具体的には、かしめる前の蓋体37の斜視図である。蓋体37には、上述した通り、基部37aに対して垂直に立ち上がるフランジ部37cが形成される。フランジ部37cには、縁部52から基部37a側に向かって延出された複数の切り欠き55が形成されている。切り欠き55の一端55aは、基部37aに達しておらず、基部37aから離間した位置にある。フランジ部37cの4つの接合用突出部37dは、縁部52より突き出して形成されている。4つの接合用突出部37dは、フランジ部37cの外周に沿ってほぼ等間隔に配置され、各接合用突出部37d間に、それぞれ、複数の切り欠き55が形成されている。
【0041】
図7は、蓋体37に形成された切り欠き55の拡大正面図である。
かしめる前の切り欠き55は、一端55a側が半円形形状とされ、全体としてU字形状を有する。切り欠き55の幅は、一端55aを除き、ほぼ均一である。
【0042】
図8は、電池蓋3にかしめた後の蓋体37を示す拡大平面図である。
蓋体37の切り欠き55は、かしめる前は均一であった幅が、かしめた後では縁部52側において幅狭になっている。あるいは、縁部52側において閉塞されている。つまり、蓋体37のフランジ部37cの縁部52が内周側に屈曲された際の周長の差の分、切り欠き55における縁部52側が幅狭になるように変形される。これにより、電池蓋3にかしめた蓋体37のフランジ部37cの波打ちが吸収または低減される。
【0043】
[蓋部材の作製方法1]
次に、電池蓋3に蓋体37をかしめることにより一体化して蓋部材30を形成する方法を図9〜11を参照して説明する。
まず、図9に図示されるように、アルミニウム系金属からなる金属板を、プレスにより円形に切り出して、蓋体素材37’を作製する。
次に、蓋体素材37’を絞り加工して、図10に図示されるように、周縁部にフランジ形成部37b’を有する円筒形状にする。
【0044】
次に、図10に図示された状態の蓋体素材37’を、図11に示すパンチ60を用いて加工して、蓋体37を形成する。
パンチ60は、前面部61が、電池缶2の外周部と同一の半径の円弧形状に形成されている。また、パンチ60の底部には、電池缶2に形成される切り欠き55に対応するU字形状の突起部62が複数個、形成されている。
突起部62の間隔は、円周に沿う長さがほぼ同一とされている。換言すれば、幅方向における直線的な間隔は、円周に沿って等間隔に配列された切り欠き55を、平面に投影した間隔となっている。
【0045】
図示はしないが、蓋体素材37’の内側には、外面が蓋体素材37’の内面に接する外径を有する円筒形のダイが収容される。ダイには、パンチ60の各突起部62に対応するスリットが形成されている。パンチ60を、その幅方向における中心軸が蓋体素材37’の基部37aの中心を通過するようにパンチ60の向きを決定し、蓋体素材37’の加工領域37−1〜37−4に打ち抜き加工を施す。打ち抜き加工の際、パンチ60を、図11に図示された矢印方向、換言すれば、基部37aの中心側に向かって移動する。これにより、例えば、加工領域37−1において、蓋体素材37’のフランジ形成部37c’に切り欠き55が形成される。また、隣接する2つの接合用突出部37dの一側部が、それぞれ、切り出される。次に、蓋体素材37’を90度回転させ、フランジ形成部37c’の加工領域37−2において、同様に、切り欠き55を形成する。この加工操作を領域37−3、37−4に対し行おうことにより、4つの接合用突出部37dと切り欠き55が形成される。
このようにして、図6に図示された蓋体37が作製される。なお、図11においては、説明の都合上、蓋体37は、パンチ60による打ち抜き加工が完了し、フランジ部37cの全周に切り欠き55が形成された状態を示している。
【0046】
上記において、パンチ60に形成された突起部62の各間隔は、蓋体37に形成された切り欠き55を平面に投影した間隔に等しくした場合、すなわち、突起部62のピッチがそれぞれ異なる場合で例示した。しかし、切り欠き55の間隔は、格別、正確である必要はなく、パンチ60のすべての突起部62を等間隔で形成してもよい。
【0047】
蓋部材30を作製するには、図6に図示された蓋体37のフランジ部37cの内側に電池蓋3を収容し、プレスにより、フランジ部37cを電池蓋3の外周側面に対応する部分で屈曲して内側に折り返し、電池蓋3の周縁部3aにかしめる。蓋体37のフランジ部37cを内側に屈曲して折り返すには、図示はしないが、傾斜した押圧面を有する金型により、一旦、フランジ部37cを基部37aに対して所定角度内側に傾斜した状態にする。次に、平坦な押圧面を有する金型により、傾斜したフランジ部37cをプレスする。この後、各接合用突出部37dを、抵抗溶接または摩擦攪拌接合により電池蓋3に接合することにより図5に図示される蓋部材30が作製される。図5において、56は接合部である。
【0048】
[蓋部材の作製方法2]
次に、蓋部材30の作製方法の他の例を、図12および図13を参照して説明する。
第2の方法は、図12に図示されるように、円形の蓋体素材37’をパンチ70とダイ80により、図13に図示された展開された状態の蓋体37に打ち抜く方法である。
パンチ70は、蓋体37の切り欠き55に対応するU字形状の溝71および蓋体37の接合用突出部37dに対応する突出側部72が形成された柱状形状を有する。
ダイ80は、中央部の中空部に、パンチ70の溝71に対応する突出側部81およびパンチ70の突出側部72に対応する凹部82が形成された筒状形状を有する。
【0049】
円形の蓋体素材37’をパンチ70とダイ80の間に装着して打ち抜くことにより、図13に図示されるように、パンチ70の突出側部72に対応する4つの接合用突出部37dと、ダイ80の突出側部81に対応する複数の切り欠き55を有する平坦な板状の蓋体板37Aが形成される。
次に、図13に図示される蓋体板37Aを絞り加工することにより、図6に図示された蓋体37が作製される。
この後、蓋部材30を作製する方法は、上述した作製方法1と同様である。
【0050】
[実施形態1の効果]
上記一実施の形態では、電池蓋3の周縁部3aにかしめにより固定される蓋体37のフランジ部37cに、縁部52から折り返し起点側に延出される複数の切り欠き55を形成した。切り欠き55は、かしめの際、縁部52側が幅狭となるように変形するため、フランジ部37cの外周と内周の各長さの差が吸収される。これに伴い、蓋体37のフランジ部37cは波打ちが吸収または低減される。このため、電池缶と蓋部材30とをガスケット43を介在してかしめる際、蓋部材30とガスケット43との間に蓋部材30の波打ちに起因する隙間が生じることがなく、円筒形二次電池1の気密性の信頼性が向上する。
【0051】
上記一実施の形態では、蓋体37のフランジ部37cに接合用突出部37dを形成した。
接合用突出部37dは、縁部52よりも内周側に突き出している。蓋体37を電池蓋3に溶接する接合部56の面積は、電池の充放電電流に基づき所定の値が必要とされるが、接合用突出部37dに接合部56を設けることにより、フランジ部37cそのものに接合部56を設ける必要がなく、フランジ部37cの折り返し起点からの縁部52の高さを小さくすることが可能となる。これに伴ってフランジ部37cの外周と内周の各周長の差を小さくすることができるので、切り欠き55の幅を小さくすることができる。その結果、切り欠き55の形成に伴って発生するかしめ強度の低減を抑えることができる。
【0052】
(実施形態2)
図14は、本発明の円筒形二次電池の実施形態2としての蓋部材の外観斜視図であり、図15は、図14に図示された蓋体の作製工程における一状態、具体的には、電池蓋にかしめる前の状態を示す外観斜視図である。また、図16は、図15に図示された蓋体の切り欠きの形状を示す拡大側面図である。
実施形態2に示す蓋部材30が、実施形態1と異なる点は、蓋体37のフランジ部37cに形成される切り欠き55’をV字形状とした点である。
【0053】
図16に図示されるように、蓋体37のフランジ部37cに形成される切り欠き55’は、折り返し起点側の一端55aが先鋭な形状とされたV字形状に形成されている。
図17は、図14に図示されたかしめ後の蓋体の拡大平面図である。
かしめ前に、蓋体37のフランジ部37cに形成された切り欠き55’は、その幅が、折り返し起点側から縁部52側に向かって、直線的に増大している。このため、かしめ後における切り欠き55’の幅は、全長に亘り、ほぼ均一となる。V字形状が適切であれば、かしめ後における切り欠き55’の幅を、全長に亘りほぼ0とすることも可能である。
実施形態2における、他の構成は実施形態1と同様であり、対応する部材に同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0054】
図18は、実施形態2に示された蓋体37を作製する第1の方法を説明するための図である。
この方法は、基本的に、実施形態1に関して説明した蓋部材の作製方法1と同じである。
図9に図示されるように、円形の蓋体素材37’を切り出し、蓋体素材37’を絞り加工して、図10に図示されるように周縁部にフランジ形成部37c’を有する円筒形に形成する。
【0055】
そして、図10に図示された状態の蓋体素材37’を、パンチ60を用いて加工して、蓋体37を形成する。
ここで、パンチ60の底部に形成された突起部62’がV字形状を有している点が実施形態1における蓋部材30の作製方法1と相違する点である。
【0056】
図19および図20は、実施形態2に示された蓋体37を作製する第2の方法を説明するための図である。
この方法は、基本的に、実施形態1に関して説明した蓋部材の作製方法2と同じである。
図19に図示されるように、円形の蓋体素材37’を切り出し、パンチ70とダイ80により、図20に図示された展開された状態の蓋体37に打ち抜く。
パンチ70は、蓋体37の切り欠き55’に対応する溝71’および蓋体37の接合用突出部37dに対応する突出側部72が形成された柱状形状を有する。
ダイ80は、中央部の中空部に、パンチ70の溝71’に対応する突出側部81’およびパンチ70の突出側部72に対応する凹部82が形成された筒状形状を有する。
ここで、パンチ70の溝71’およびダイ80の突出側部81’がV字形状を有する点が実施形態1の蓋部材の作製方法2と相違する点である。
【0057】
[実施形態の効果]
実施形態2においても、蓋体37のフランジ部37cに、複数の切り欠き55を形成したので、かしめの際、切り欠き55の縁部52側が幅狭となるように変形し、外周の周長と内周の週長の差が吸収される。従って、電池缶2と蓋部材30とをガスケット43を介在してかしめる際、蓋部材30とガスケット43との間に、蓋部材30の波打ちに起因する隙間が生じることがなく、実施形態1と同様に、円筒形二次電池1の気密性の信頼性が向上する効果を奏する。
【0058】
実施形態2においては、かしめ前の蓋体37のフランジ部37cに形成される切り欠き55’が、蓋体37の折り返し起点側に先鋭な一端55aを有し、内周側の縁部52側で幅広となるV字形状とされている。このため、かしめ後において、切り欠き55の幅が、実施形態1のU字形状に比べて、全長に亘って、均一な幅となり、かしめの強度を大きくすることができる。
なお、上述した通り、縁部52側の切り欠き55’を縁部52の周長とフランジ折り返し側の周長との差に等しくなるV字形状とすれば、かしめ後の切り欠き55’の幅をほぼ0にすることができるので、かしめ強度の向上のうえでさらに好ましい。
【0059】
また、実施形態2においても、実施形態1と同様に、蓋体37のフランジ部37cに縁部52より内周側に突き出す接合用突出部37dを形成した。従って、実施形態1で説明したのと同じ理由により、フランジ部37cにおける折り返し基点からの縁部52の高さを小さくすることができるので、切り欠き55の形成に伴うかしめ強度の低減を抑えることができる。
【0060】
なお、上記実施形態1、2において、蓋体37のフランジ部37cに形成される切り欠き55、55’の形状を、U字形状またはV字形状として例示したが、この形状に限定されるものではない。切り欠き55の形状は、例えば、矩形状、楕円形状、逆台形としたり、あるいは、これらの形状を組み合わせた複合形状としたりしてもよい。
【0061】
上記各実施形態においては、蓋体37のフランジ部37cに接合用突出部37dが形成されているとして例示した。しかし、フランジ部37cに接合用突出部37dを形成しないようにしてもよい。
蓋体37のフランジ部37cに接合用突出部37dを形成しない場合には、切り欠き55を、縁部52の全周に亘り、ほぼ等間隔で形成することができる。あるいは、フランジ部37cの所定の領域には、切り欠き55を形成しないようにしてもよい。
【0062】
上記実施形態においては、電池蓋ユニット40は、電池蓋3、蓋体37、絶縁板34、接続板により構成されたものとして例示した。しかし、電池蓋ユニット40は、上記構成に限られるものではなく、本発明は、他の構成部材が追加されたり、上記構成部材の一部が削除されたりして構成される電池蓋ユニット40にも適用が可能である。
【0063】
上記実施形態においては、蓋部材30は、一方の外部電極端子となる電池蓋3と、ダイヤフラム構造を有する蓋体37により構成されるとして例示した。しかし、本発明は、電池蓋3および蓋体37がかしめにより一体化される構造に対して幅広く適用することができるものであり、その機能は上記に限定されるものではない。
【0064】
上記実施形態では、リチウムイオン円筒形二次電池の場合で説明した。しかし、本発明は、ニッケル水素電池またはニッケル・カドミウム電池、鉛蓄電池のように水溶性電解液を用いる円筒形二次電池にも適用が可能である。また、円筒形のリチウムイオンキャパシタにも適用することができる。
【0065】
その他、本発明の円筒形二次電池は、発明の趣旨の範囲内において、種々、変形して適用することが可能であり、要は、正極板と負極板とがセパレータを介して軸芯の周囲に捲回された発電要素と、上部側に開口部を有し、発電要素が収容され、電解液が注入された電池缶と、電池缶の開口部を塞いで絶縁部材を介して電池缶にかしめにより固定された蓋部材とを具備し、蓋部材は、円形の外周側面を有する電池蓋と、電池蓋の一面側に配置され、電池蓋の外周側面に対応する部分で屈曲され、電池蓋の他面側において内周側に折り返されて電池蓋にかしめられた円形のフランジ部を有する蓋体とを含み、蓋体は、フランジ部に円周方向に配列された複数の切り欠き有するものであればよい。
【符号の説明】
【0066】
1 円筒形二次電池
2 電池缶
3 電池蓋
4 電池容器
5 非水電解液
10 発電要素
11 正極板
12 負極板
20 発電ユニット
30 蓋部材
37 蓋体
37b フランジ部
37d 接合用突出部
40 電池蓋ユニット
43 ガスケット(絶縁部材)
52 縁部
55、55’ 切り欠き
55a 一端




【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とがセパレータを介して軸芯の周囲に捲回された発電要素と、
上部側に開口部を有し、前記発電要素が収容され、電解液が注入された電池缶と、
絶縁部材を介して前記電池缶にかしめにより固定されて前記電池缶の開口部を塞ぐ蓋部材とを具備し、
前記蓋部材は、円形の外周側面を有する電池蓋と、前記電池蓋の一面側に配置され、前記電池蓋の外周側面に対応する部分で屈曲され、前記電池蓋の他面側において内周側に折り返されて前記電池蓋にかしめられたフランジ部を有する蓋体とを含み、
前記フランジ部に円周方向に配列された複数の切り欠きが形成されていることを特徴とする円筒形二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の円筒形二次電池において、前記蓋体の切り欠きは、それぞれ、U字形状に形成されていることを特徴とする円筒形二次電池。
【請求項3】
請求項1に記載の円筒形二次電池において、前記蓋体の切り欠きは、それぞれ、V字形状に形成されていることを特徴とする円筒形二次電池。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の円筒形二次電池において、前記複数の切り欠きの幅の合計は、前記フランジ部の内周縁における周長と前記電池蓋の外周側面の周長との差と同一もしくはそれよりも大きいことを特徴とする円筒形二次電池。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の円筒形二次電池において、前記フランジ部には、前記内縁部よりも内周側に突き出された接合用突出部が形成されていることを特徴とする円筒形二次電池。
【請求項6】
請求項5に記載の円筒形二次電池において、前記接合用突出部の円周方向における両側の側部に接して、前記切り欠きが形成されていることを特徴とする円筒形二次電池。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の円筒形二次電池において、前記切り欠きは、内周側の端部側が折り返し起点側の端部より幅が広く形成されていることを特徴とする円筒形二次電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−243635(P2012−243635A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113870(P2011−113870)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】