説明

円筒研削機

【課題】円筒研削工程のトラバース研削の際、研削負荷による結晶棒と回転する支持装置との間でのすべりや位置ズレの発生を軽減し、結晶棒の外周における研削面や結晶棒の直径が良好な結晶棒を作製することができる円筒研削機を提供する。
【解決手段】少なくとも、円錐状の凹部7が形成されている支持装置2a、2bが主軸3a及び副軸3bの先端に取付けられており、結晶棒6を軸方向に挟んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニット4a、4bと、結晶棒6の軸方向に沿って移動しつつ結晶棒6の外周をトラバース研削する研削ユニット5とを有する円筒研削機1であって、主軸3aに取付けられている支持装置2aは、弾性体8を介して結晶棒6を保持するものであることを特徴とする円筒研削機1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸及び副軸の先端にある支持装置によって結晶棒を軸方向に挟んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニットと、結晶棒の軸方向に沿って移動しつつ結晶棒の外周をトラバース研削する研削ユニットとを有する円筒研削機に関するものであり、特には、円錐状の凹部が形成されている支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスはその性能向上と製造コスト低減のため、半導体デバイス製造に使用されるウェーハの大直径化が進んでいる。このデバイス製造に使用されているウェーハは、チョクラルスキー法等により円筒状の直胴部の前後に円錐状のコーン部とテール部を有する結晶棒を作製し、円筒研削機にて結晶棒の外周を円筒研削後、軸方向に対して垂直にスライスして板状に切り出し、研磨工程を経て製造されている。そのため、1本の結晶棒から得るウェーハの枚数の増加やウェーハの大直径化に伴い、作製される結晶棒も大直径化し、高重量化している。
【0003】
このような結晶棒を円筒研削する際、一般的な円筒研削機は、結晶棒を保持するための支持ユニットと、結晶棒の外周をトラバース研削するための砥石を有する研削ユニットから構成されている。図3は、従来の支持装置の断面図である。支持ユニットは、例えば図3に示すような同芯円上に複数の異なる傾斜を持つ円錐状の凹部37が連続して形成されている支持装置32を具備しており、該支持装置は支持ユニットの有する主軸、副軸の回転中心軸に設置し、主軸、副軸による油圧、若しくはモータートルクにより結晶棒をクランプしている。そして、円筒研削の際、結晶棒36の凹凸した円錐状のコーン部又はテール部と支持装置32の円錐状の凹部37とが接触しており、その接触摩擦力により支持ユニットからの回転を結晶棒に伝えている。
【0004】
しかし、近年の結晶棒の大直径化及び高重量化に伴い、円筒研削時において円筒研削機の支持ユニットにかかる負荷が増大し、結晶棒を保持している支持装置と結晶棒との接触面ですべり、位置ずれ等が発生するようになった。
このため、支持ユニットに挟持される結晶棒に対して、回転駆動を結晶棒に伝達し軸周りに回転させるとともに、この結晶棒の例えば凹凸した外周面に研削ユニットの砥石を高速回転させながら接触させトラバース研削する円筒研削工程において研削面の不良、目標研削直径に対する直径不良が生じていた。
【0005】
このような結晶棒のすべり、位置ずれといった問題を解決するため、特許文献1では、主軸と副軸間で単結晶インゴットを支持し、副軸側に設けられた回転検出手段により検出した回転数と主軸側の回転数とを制御手段で比較し、副軸側に係合する押圧手段による押圧力を自動調節して単結晶インゴットを正常回転で回転させるという高精度な円筒研削機が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には主軸と副軸によって結晶棒を軸方向に挟み込んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニットと、結晶棒の軸方向に沿って移動しつつ結晶棒の外周をトラバース研削する研削ユニットを備えた円筒研削機であって、主軸と副軸をそれぞれの軸周りに回転可能にし、前者を同期回転機構によって同期して回転させるようにした円筒研削機が開示されている。
【0007】
これは、円筒研削機の主軸と副軸をそれぞれ軸周りに回転可能にし、両者を同期回転機構によって同期して回転させることによって、結晶棒が大型化、高重量化した場合でも、回転ずれ、回転遅れ等を防止して結晶棒全体を均一に回転させるようにしたものであるが、様々な結晶形状に対するすべり防止対策としては充分ではなく、依然として円筒研削中の結晶棒のすべり、位置ずれ等の原因による研削面の不良、目標研削直径に対する直径不良という問題が発生していた。
【0008】
【特許文献1】特開平6−246630号公報
【特許文献2】特開平11−291145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上記の問題を解決するためになされたものであって、本発明の目的は、円筒研削工程のトラバース研削の際、研削負荷によるの結晶棒と回転する支持装置との間でのすべりや位置ズレの発生を軽減し、結晶棒の外周における研削面や結晶棒の直径が良好な結晶棒を作製することができる円筒研削機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、少なくとも、円錐状の凹部が形成されている支持装置が主軸及び副軸の先端に取付けられており、前記主軸及び前記副軸によって結晶棒を軸方向に挟んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニットと、前記結晶棒の軸方向に沿って移動しつつ前記結晶棒の外周をトラバース研削する研削ユニットとを有する円筒研削機であって、
前記主軸に取付けられている支持装置は、弾性体を介して前記結晶棒を保持するものであることを特徴とする円筒研削機を提供する(請求項1)。
【0011】
このように本発明は、円錐状の凹部が形成されている支持装置が主軸及び副軸の先端に取付けられており、主軸及び副軸によって結晶棒を軸方向に挟んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニットと、結晶棒の軸方向に沿って移動しつつ結晶棒の外周をトラバース研削する研削ユニットとを有する円筒研削機であって、主軸に取付けられている支持装置が弾性体を介して結晶棒を保持するものである。
【0012】
これにより、結晶棒の円錐部分が不均一な凸凹形状で且つ結晶棒が高重量あっても、支持装置に取付けられている弾性体により、支持装置と結晶棒の接触面積を増やすことができ、支持装置と結晶棒の接触面における接触摩擦力が増え、研削負荷による結晶棒と支持装置との間でのすべりや位置ズレの発生を軽減することができる。従って、結晶棒外周の研削面や結晶棒の直径が良好な結晶棒を作製することができる円筒研削機となる。
【0013】
また、本発明における前記弾性体は、前記支持装置の凹部に形成された溝にはめ込まれ、該溝から突出するものとすることができ(請求項2)、このとき、前記弾性体の溝から突出している突出部の高さが2〜5mmであり、前記溝との隙間が0〜0.4mmであり、前記弾性体の幅が5mm以上であることが好ましく(請求項3)、より好ましくは、前記溝及び前記弾性体の形状がリング形状であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
このように、弾性体は支持装置の凹部に形成された溝にはめ込むことができ、その際、弾性体の溝から突出している突出部の高さが2〜5mmであり、はめ込まれた弾性体と溝との隙間が0〜0.4mmであり、弾性体の幅が5mm以上であるリング形状のものであることにより、円筒研削時における弾性体の支持装置からの脱落を防止することができ、さらに、弾性体は溝にはまっているだけなので、老朽化して交換する際に簡単に弾性体の交換を行うことができる。
【0015】
そして、前記副軸に取付けられている支持装置は、弾性体を介して前記結晶棒を保持するものであることが好ましい(請求項5)。
このように、副軸に取付けられている支持装置も結晶棒を弾性体を介して保持することにより、さらに、結晶棒と支持装置との間でのすべりや位置ズレの発生をより確実に軽減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従う円筒研削機であれば、結晶棒の円錐部分が不均一な凸凹形状で且つ高重量あっても、研削負荷による結晶棒と回転する支持装置との間でのすべりや位置ズレの発生を軽減することができ、結晶棒の外周における研削面や結晶棒の直径が良好な結晶棒を作製することができる円筒研削機となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明に係る円筒研削機の概略を示す図であり、図1(A)は円筒研削機の全体の概略図、図1(B)は円筒研削機の支持ユニットが具備する支持装置の断面図である。
【0018】
図1のように、本発明の円筒研削機1は、主軸3a及び副軸3bによって結晶棒6を軸方向に挟んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニット4a、4bと、結晶棒6の軸方向に沿って移動しつつ結晶棒6の外周をトラバース研削するための砥石10と該砥石10を高速回転させる機構が備わっている研削ユニット5とを具備している。そして、主軸3a及び副軸3bの先端には支持装置2a、2bが取付けられており、該支持装置2a、2bには、同芯円上に複数の異なる傾斜を持つ円錐状の凹部7が形成されている。特に、主軸3aに取付けられている支持装置2aは、弾性体8が取付けられており、この弾性体8を介して支持装置2aは結晶棒6を保持している。
【0019】
このように少なくとも主軸3a側の支持装置2aに弾性体8が取付けられ、支持装置2aがこの弾性体8を介して結晶棒6を保持する構成とすることにより、結晶棒6のテール部又はコーン部といった円錐部分が不均一な凸凹形状であっても、さらにそのような結晶棒6が高重量であっても、支持装置2aに取付けられている弾性体8により、支持装置2aと結晶棒6の接触面積を増やすことができ、該接触面における接触摩擦力が増すため、研削の負荷による結晶棒6と支持装置2aとの間で、すべりや位置ズレの発生を軽減することができる。従って、結晶棒外周の研削面や結晶棒の直径が良好な結晶棒を作製することができる円筒研削機となる。
【0020】
そして本発明の円筒研削機1において、弾性体8は、図1(B)、図2のような形状とすることが好ましい。図2は、リング形状の弾性体がはめ込まれている支持装置の正面図である。このように、弾性体8は、支持装置2aの円錐状の凹部7に形成された溝9にはめ込まれ、該溝9から突出しており、その突出部の高さは2〜5mm、弾性体8と溝9との隙間は0〜0.4mm、弾性体8の幅は5mm以上で、溝9及び弾性体8の形状はリング形状とすることが好ましい。
【0021】
これにより、円筒研削時に弾性体8が支持装置2aからの脱落を防止することができる。さらに、弾性体8は溝9はめ込まれているので、老朽化して摩耗したり、弾性力、摩擦力が減退した弾性体8を交換する際に、リング状の弾性体8を簡単に交換することができる。弾性体8の材質としては、繊維質の芯線、JIS硬さ30〜95程度のゴムを用いるのが好ましい。
【0022】
そして弾性体8は図2のような形状とすることもできるが、これに限られず図4のような形状であってもよい。図4は、支持装置に付けられた弾性体の一実施例を示す図であり、図4(A)は支持装置の断面図、図4(B)は支持装置の正面図である。
このように支持装置2aの円錐状の凹部7に全面的に弾性体8を糊等で貼り付けてもよい。
【0023】
また、図5は支持装置に弾性体がはめ込まれている別実施形態の正面図である。このように、弾性体8はリング形状でなくても、円弧状の弾性体8を複数組み合わせて構成することもできる。
【0024】
弾性体8の断面形状は図1(B)のような台形であってもよい。しかし、これに限定されず、円形や半円形、四角形やV字形でもよい。特に図1(B)のように弾性体8の断面形状を台形とすることで、結晶棒6の凸凹な円錐部分との接触面積をより増やすことができる。
【0025】
尚、本発明において、弾性体8を取付ける又は形成された溝9に弾性体8をはめ込む対象を、通常回転駆動をかける主軸3a側の支持装置2aとしていたが、副軸3b側の支持装置2bにも取付けてもよく、主軸3a及び副軸3bの支持装置2a、2bの両方に取付ける方がより好ましい。主軸3aは回転駆動が結晶棒6に伝達されるので、すべりが発生し易いため、弾性体8が必要であり、主軸により結晶棒が回転させられたなら、従軸である副軸は、これに従って回転する。しかし、より確実に結晶棒を所望の回転数とするには、副軸の支持装置にも弾性体を具備した方がよい。この場合、副軸に取付けられる支持装置も図1(B)、図2のような主軸に取付けられるものと同じものとすることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
図1(A)のような円筒研削機1において、図1(B)、図2のように、主軸3a側の支持装置2aに同芯円上に2種類の異なる傾斜を持つ円錐状の凹部7を形成し、溝9をリング状に形成した。次に、断面形状が台形であるリング状のゴムを弾性体8として溝9にはめ込んだ。このとき、ゴムの幅つまり台形の高さは5mmとし、溝9からの弾性体の突出部は、最大で4mmとした。副軸の支持装置には弾性体を設置しなかった。
【0027】
このような円筒研削機1で研削前の直胴の平均直径が310mm、円筒部分(直胴部分)が1mで円錐状のコーン部およびテール部からなるシリコン単結晶棒6を円筒研削した結果を図6に示す。図6は、本発明に係る円筒研削機で結晶棒を円筒研削したときの結果を示す図である。縦軸は、結晶棒の直径を任意の3方向から測定した平均値であり、横軸は結晶棒の軸方向の長さである。図6のとおり、本発明の円筒研削機であれば、結晶棒の軸方向長さに対して結晶棒の直径がほぼ均一に制御できているのがわかる。
【0028】
(比較例)
比較のため、実施例で使用した円筒研削機1において、支持装置2aに溝9が形成されてなく、さらに弾性体8も取付けない状態で、実施例と直胴部の直径、長さが同じで、コーン部とテール部の形状もほぼ同じシリコン単結晶棒の円筒研削を行った。その結果を図7に示す。図7は、従来の円筒研削機で結晶棒を円筒研削したときの結果を示す図である。
【0029】
図7のとおり、従来の円筒研削機では結晶棒と支持装置との接触面積が少なく、すべりや位置ズレが発生してしまったため一部分で研削が多く行われ、直径が目標直径の300mmに対し0.1mm〜数mm細くなってしまい、直径が不均一となってしまった。
【0030】
実施例、比較例の結果を比べても、本発明に従う円筒研削機であれば、結晶棒の円錐部分が不均一な凸凹形状で且つ高重量あっても、研削負荷による結晶棒と回転する支持装置との間でのすべりや位置ズレの発生を軽減することができ、結晶棒の外周における研削面や結晶棒の直径が良好な結晶棒を作製することができることがわかる。
【0031】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る円筒研削機の概略を示す図である。(A)は円筒研削機の全体の概略図。(B)は円筒研削機の支持ユニットが具備する支持装置の断面図。
【図2】リング形状の弾性体がはめ込まれている支持装置の正面図である。
【図3】従来の支持装置の断面図である。
【図4】支持装置に付けられた弾性体の一実施例を示す図である。(A)は支持装置の断面図。(B)は支持装置の正面図。
【図5】支持装置に弾性体がはめ込まれている別実施形態の正面図である。
【図6】本発明に係る円筒研削機で結晶棒を円筒研削したときの結果を示す図である(実施例)。
【図7】従来の円筒研削機で結晶棒を円筒研削したときの結果を示す図である(比較例)。
【符号の説明】
【0033】
1…円筒研削機、 2a、2b、32…支持装置、 3a…主軸、
3b…副軸、 4a、4b…支持ユニット、 5…研削ユニット、
6、36…結晶棒、 7、37…円錐状の凹部、 8…弾性体、
9…溝、 10…砥石。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、円錐状の凹部が形成されている支持装置が主軸及び副軸の先端に取付けられており、前記主軸及び前記副軸によって結晶棒を軸方向に挟んで軸周りに回転可能に保持する支持ユニットと、前記結晶棒の軸方向に沿って移動しつつ前記結晶棒の外周をトラバース研削する研削ユニットとを有する円筒研削機であって、
前記主軸に取付けられている支持装置は、弾性体を介して前記結晶棒を保持するものであることを特徴とする円筒研削機。
【請求項2】
前記弾性体は、前記支持装置の凹部に形成された溝にはめ込まれ、該溝から突出するものであることを特徴とする請求項1に記載の円筒研削機。
【請求項3】
前記弾性体の溝から突出している突出部の高さが2〜5mmであり、前記溝との隙間が0〜0.4mmであり、前記弾性体の幅が5mm以上であるものであることを特徴とする請求項2に記載の円筒研削機。
【請求項4】
前記溝及び前記弾性体の形状がリング形状であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の円筒研削機。
【請求項5】
前記副軸に取付けられている支持装置は、弾性体を介して前記結晶棒を保持するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の円筒研削機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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