円筒空胴共振器型フィルタ及び円筒空胴共振器
【課題】使用モードの通過特性に影響を与えることなく、不連続波を効果的に減衰させる多段結合構造の円筒空胴共振器型フィルタを提供する。
【解決手段】複数の円筒空胴共振器20、30,40を縦続接合して成る円筒空胴共振器型フィルタにおいて、少なくとも使用モード波60と異なるモードの不連続波70が最も多く発生する2段目の円筒空胴共振器30の空胴内で、使用モード波を避けつつ不連続波と接する部位に、不連続波により発熱する抵抗棒100を設置し、熱変換により不連続波を減衰させるようにした。
【解決手段】複数の円筒空胴共振器20、30,40を縦続接合して成る円筒空胴共振器型フィルタにおいて、少なくとも使用モード波60と異なるモードの不連続波70が最も多く発生する2段目の円筒空胴共振器30の空胴内で、使用モード波を避けつつ不連続波と接する部位に、不連続波により発熱する抵抗棒100を設置し、熱変換により不連続波を減衰させるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマイクロ波帯のレーダシステムや通信システム等から放散される不要な周波数を抑圧する円筒空胴共振器型フィルタ及び円筒空胴共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダシステム等で使用される小型で低損失のバンド・パス・フィルタとして、複数の円筒空胴共振器を縦続結合させた円筒空胴共振器型フィルタがある。縦続結合の態様は様々であり、複数の円筒空胴共振器を同じ方向(180度方向)に縦続結合したもの、結合方向が互いに90度タイプのもの等が知られている。
【0003】
90度タイプの円筒空胴共振器型フィルタの一例となる3段結合円筒空胴共振器型フィルタ(特許文献1参照)の上部外観図を図11に示す。
【特許文献1】特開2004−266641号公報
【0004】
この円筒空胴共振器型フィルタは、結合方向が90度となる3つの円筒空胴共振器20,30,40を縦続結合して構成される。図左側からみて初段の円筒空胴共振器20の一方のフランジ21は、曲がり導波管10のフランジ11と結合板1aを介して接合されており、3段目の円筒空胴共振器40の一方のフランジ42は、図右側の導波管50のフランジ51と結合板1dを介して接合されている。初段の円筒空胴共振器20の他方のフランジ22は、2段目の円筒空胴共振器30の一方のフランジ31と結合板1bを介して結合されており、2段目の円筒空胴共振器30の他方のフランジ32は、3段目の円筒空胴共振器40の他方のフランジ41と結合板1cを介して接合されている。
【0005】
図12は、この円筒空胴共振器型フィルタの入出力状態を簡略化した図である。曲がり導波管10を伝送してきた電磁波(IN)は、結合板1aを通じて初段の円筒空胴共振器20に導かれ、その後、結合板1bを通じて2段目の円筒空胴共振器30に導かれ、さらに結合板1cを通じて3段目の円筒空胴共振器31に導かれる。3段目の円筒空胴共振器31から出力された電磁波(OUT)は、結合板1dを通じて出力側の導波管50に導かれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種の円筒空胴共振器型フィルタでは、その多段縦続結合構造という性質上、いずれかの円筒空胴共振器において不連続波が発生する場合がある。特に、90度方向に結合する図11の構造の円筒空胴共振器型フィルタでは、2段目の円筒空胴共振器30において、不連続波が生じやすい。この不連続波は、使用モード(例えばTE01nモード(nは自然数))に悪影響を及ぼし、所望のフィルタ特性が得られない場合がある。このことを、図11に示した90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図13、および円筒空胴共振器の構造を示した図14を参照して説明する。
【0007】
図14(a)は、一つの円筒空胴共振器の空胴底面断面図、図14(b)はそのA−A断面図である。90度タイプの円筒空胴共振器20,30,40では、使用モードがTE012の場合、図13に実線で示すように、同心円状で互いに隣接する円筒空胴共振器間で方向が180度異なるTE波60が空胴内に生じるが、その際、少なくとも2段目の円筒空胴共振器30の空胴内では、構造上の不連続により、図13および図14に破線で示すようにTM012モードの不連続波70が発生する場合がある。この不連続波70の存在により、通過帯域における十分な通過特性、並びに、通過帯域近傍における十分な減衰特性が得られなくなる。
【0008】
本発明は、かかる問題を解消し、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波を効果的に減衰させることができる多段結合構造の円筒空胴共振器型フィルタ、および、円筒空胴共振器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の円筒空胴共振器型フィルタは、複数の円筒空胴共振器を縦続接合して成る円筒空胴共振器型フィルタにおいて、前記複数の円筒空胴共振器のうち少なくとも使用モードと異なるモードの不連続波が最も多く発生する一つの円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする。不連続波のみが発熱体で熱に変換され、これにより減衰されるので、不連続波がフィルタ特性に与える影響を抑制することができる。
【0010】
ある実施の態様では、前記発熱体は棒状に成形されており、この棒状発熱体が、前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って円筒軸方向に設置されている。棒状発熱体は、1本のみならず、複数本であってもよい。この場合は、複数の棒状発熱体が、それぞれ前記円筒空胴共振器の中心軸と平行で前記中心軸と直交する軸線に沿って円筒軸方向に設置される。
他の実施の態様では、前記発熱体は板状に成形されており、この板状の発熱体の端部が前記円筒空胴共振器の直径方向に延び、当該発熱体の長尺部が前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って円筒軸方向に設置されている。
いずれの形状の発熱体も、当該円筒空胴共振器の空胴内に内装された支持体で支持され、あるいは、当該円筒空胴共振器の空胴内に所定間隔で懸垂支持される。支持体は、前記使用モードでの共振に影響を与えない素材から成る。これにより、使用モードに影響を与えることなく、発熱体を空胴内で支持することができる。
【0011】
本発明の円筒空胴共振器は、その空胴内に使用モードと異なるモードの不連続波が発生する円筒空胴共振器において、前記円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円筒空胴共振器型フィルタによれば、発熱体により不連続波が熱に変換され、減衰されるので、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波のみを効果的に減衰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[円筒空胴共振器]
以下、多段縦続結合したときに、使用モードがTE012モードで、TM012モードの不連続波が生じる円筒空胴共振器の実施の形態例を説明する。なお、不連続波を不要モードと称する場合がある。
【0014】
図1は、この円筒空胴共振器の構造の特徴を記載した図であり、(a)は空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図である。図示の円筒空胴共振器は、空胴内に、不連続波であるTM012波を受けて発熱する発熱体、例えば抵抗棒100を設置して構成される。抵抗棒100は、好ましくは、使用モード波であるTE012波を避けつつTM012波と接する部位、例えば、その軸線が円筒空胴共振器の中心軸に平行で、円筒空胴の長尺方向となるように、空胴内に、所定間隔で内装された支持体80により支持されている。
【0015】
支持体80は、使用モードでの共振に影響を与えず(つまり、電界に対する減衰量が小さく)、耐熱性に優れた素材、例えば、発泡ポリプロピレン、発泡スチロール等の多孔性樹脂材、あるいはテフロン等を用いる。
【0016】
抵抗棒100は、例えばガラス、アルミナ、マイカなどの誘電体から成る丸棒、あるいはこれらの素材から成る膜にニクロムを蒸着したものを使用する。素材は、炭化珪素、タングステンワイヤなど電気伝導度が大きく、電流が流れるものを使用することもできる。抵抗棒100の直径は、内径の約2[%]程度である。
なお、断面は必ずしも円形である必要はなく、矩形その他の形状であっても良い。
【0017】
このように構成される円筒空胴共振器は、図2(a),(b)に示されるように、抵抗棒100が、空胴内壁方向に向かうTM012波(図2(a),(b)において破線で示す波)を受けて発熱する。これは、不連続波を熱に変換することにより、そのレベルを減衰させたことに相当する。TE012波の方向(図示省略)は、抵抗棒100を囲む方向なので、抵抗棒100により熱に変換されるのは、ごく僅かである。
そのため、使用モードでの共振に与える影響は、無視できるほど小さい。これにより、簡易な構造でありながら、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波だけを効果的に減衰させることができる。
【0018】
なお、図1では、支持体80を円筒空胴器の中央部分に一つだけ設けた場合の例を示したが、支持体80を図示のものよりも薄くして、入力側と出力側、あるいは、それに加えて中間部分に1又は複数個設けるようにしても良い。
【0019】
また、図1に示した貫通構造の支持体80に代えて、図3(a)の空胴底面断面図、および図3(b)のA−A断面図に示されるように、例えばテフロン糸からなる懸垂支持体90を円筒空胴共振器の空胴外から空胴内に所定間隔で貫通させ、この懸垂指示体90で、抵抗棒100を懸垂支持するようにしても良い。このように構成される円筒空胴共振器は、使用モードに対する懸垂支持体90による影響を図1に示したものよりも小さくすることができる。
【0020】
[円筒空胴共振器型フィルタ]
上述した本発明の円筒空胴共振器は、例えば90度タイプの円筒空胴共振器型フィルタにおいて、特に威力を発揮する。図は、90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図であり、従来例の図9に対応する。抵抗棒100は、2段目の円筒空胴共振器30にのみ設けている。これは、上述したように、2段目の円筒空胴共振器30は、初段の円筒空胴共振器20および3段目の円筒空胴共振器40との縦続接合の際に、不連続波であるTM012波(破線)70が発生しやすいためである。抵抗棒100は、この不連続波を熱に変換して減衰させる一方、実線で示されるTE012波60については、減衰しない。そのため、フィルタ特性は、格段に向上する。
【0021】
抵抗棒100の有無によるフィルタ特性の変化の様子は、図5および図6に示す通りである。図5は抵抗棒100を設けた場合、図6は抵抗棒100を設けない場合のフィルタ特性図である。抵抗棒100を設けない場合は、通過帯域が、使用モード(TE012波)〜のほかにTM012波による不要モードの2つになるが、抵抗棒100を設けることにより、通過帯域が使用モードだけとなることがわかる。
【0022】
このように、本実施形態によれば、円筒空胴共振器型フィルタにおいて、少なくとも不連続波が最も多く発生する一つの円筒空胴共振器の空胴内で、使用モードの電磁波を避けつつ不連続波と接する部位、例えば空胴の中心軸に沿って長手方向に沿う部位に、不連続波により発熱する抵抗棒100を設置したので、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波だけを効果的に減衰させることができる。
【0023】
[変形例]
なお、上記の例では、使用モードがTE012モード、不連続波がTM012モードとして説明したが、使用モードはTE01n(nは1以上の自然数)であれば所要の効果が得られるものであり、上記の例に限定されるものではない。また、本実施形態では、不連続波により発熱する発熱体として抵抗棒100を用いた場合の例を示したが、発熱体は、板状、複数線状あるいは筒状であっても良く、その設置位置も、使用モード波を避けつつ不連続波と接する部位にあれば良いので、上記の例に限定されるものではない。
【0024】
このことを以下に説明する。
発熱体は、例えば図7に示すように2本の抵抗棒100を、それぞれ円筒空胴共振器の中心軸と平行で、円筒空胴共振器の中心軸と直交する軸線に沿って、円筒軸方向に設置した複合抵抗棒フィルタ、あるいは、図8に示すように、発熱体を薄板状に成形して抵抗板200とし、この抵抗板200の端部が円筒空胴共振器の直径方向に延び、長尺部が円筒空胴共振器の中心軸に沿って円筒軸方向に設置されるようにした抵抗板フィルタとすることができる。
【0025】
図7に示す複合抵抗棒フィルタでは、図9(a)〜(e)に示すモードで使用することができる。各図において左側は導波管断面の電界、右側は導波管伝送方向断面の電界の分布である。矢印は、電界の方向を示す。
【0026】
図9(a)はTE11モードであり、抵抗棒100と同じ方向の電界が無いため、減衰を受けない。図9(b)はTM01モードであり、中心軸に抵抗棒100と同じ方向の電界がある。従って、抵抗棒100に電流が流れ、減衰を生じる。但し、抵抗棒100が電界最大の位置に無いので、後述する抵抗板200よりも減衰効果が小さい。図9(c)はTE21モードであり、抵抗棒100と同じ方向の電界が無いので、減衰を受けない。図9(d)はTM11モードであり、中心軸に抵抗棒100と同じ方向の電界があるため、抵抗棒100に電流が流れ、減衰が生じる。抵抗棒100を電界が最大となる位置に設置することができるため、効果的に減衰させることができる。図9(e)はTE01モードであり、抵抗棒100と同じ方向の電界が存在しないため、抵抗棒100による減衰は期待できない。
【0027】
図8に示す抵抗板フィルタでは、図10(a)〜(e)に示すモードで使用することができる。各図において左側は導波管断面の電界、右側は導波管伝送方向断面の電界の分布である。矢印は、電界の方向を示す。
【0028】
図10(a)はTE11モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界が無いため、減衰を受けない。図10(b)はTM01モードであり、直径方向及び中心軸方向に抵抗板200と同じ方向の電界がある。従って、抵抗板200に電流が流れ、減衰を生じる。
図10(c)はTE21モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界がある。従って、抵抗板200に電流が流れ、減衰が生じる。図10(d)はTM11モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界が存在しないので、減衰効果は期待できない。図10(e)はTE01モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界が存在しないため、減衰効果は期待できない。
【0029】
このように、抵抗棒100又は抵抗板200を設置する位置ないし角度には、最適なものが存在するので、使用モードによって使い分ける必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、マイクロ波帯のレーダシステム、通信システム等のバンド・パス・フィルタ又はその構成部品として、利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は本発明が適用される空胴共振器の空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【図2】図1の構造の空胴共振器の不連続波の発生状況を示した図であり、(a)は空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【図3】(a)本発明が適用される他の空胴共振器の空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【図4】90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図。
【図5】フィルタ特性図(抵抗棒を設けた場合)。
【図6】フィルタ特性図(抵抗棒を設けない場合)。
【図7】2本の抵抗棒を設置した複合抵抗棒フィルタの例を示した外観図。
【図8】抵抗板フィルタの例を示した外観図。
【図9】(a)〜(e)は複合抵抗棒フィルタで使用するモードの電界分布図。
【図10】(a)〜(e)は抵抗板フィルタで使用するモードの電界分布図。
【図11】90度タイプの円筒空胴共振器型フィルタの一例となる3段結合円筒空胴共振器型フィルタの上部外観図。
【図12】円筒空胴共振器型フィルタの入出力状態を簡略化した図。
【図13】図7に示した90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図。
【図14】(a)は、一つの円筒空胴共振器の空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【符号の説明】
【0032】
1a〜1d・・・結合板
11,21,22,31,32,41・・・フランジ
10・・・曲がり導波管
20,30,40・・・円筒空胴共振器
50・・・出力側の導波管
80・・・支持体
90・・・懸垂支持体
100・・・抵抗棒
200・・・抵抗板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマイクロ波帯のレーダシステムや通信システム等から放散される不要な周波数を抑圧する円筒空胴共振器型フィルタ及び円筒空胴共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダシステム等で使用される小型で低損失のバンド・パス・フィルタとして、複数の円筒空胴共振器を縦続結合させた円筒空胴共振器型フィルタがある。縦続結合の態様は様々であり、複数の円筒空胴共振器を同じ方向(180度方向)に縦続結合したもの、結合方向が互いに90度タイプのもの等が知られている。
【0003】
90度タイプの円筒空胴共振器型フィルタの一例となる3段結合円筒空胴共振器型フィルタ(特許文献1参照)の上部外観図を図11に示す。
【特許文献1】特開2004−266641号公報
【0004】
この円筒空胴共振器型フィルタは、結合方向が90度となる3つの円筒空胴共振器20,30,40を縦続結合して構成される。図左側からみて初段の円筒空胴共振器20の一方のフランジ21は、曲がり導波管10のフランジ11と結合板1aを介して接合されており、3段目の円筒空胴共振器40の一方のフランジ42は、図右側の導波管50のフランジ51と結合板1dを介して接合されている。初段の円筒空胴共振器20の他方のフランジ22は、2段目の円筒空胴共振器30の一方のフランジ31と結合板1bを介して結合されており、2段目の円筒空胴共振器30の他方のフランジ32は、3段目の円筒空胴共振器40の他方のフランジ41と結合板1cを介して接合されている。
【0005】
図12は、この円筒空胴共振器型フィルタの入出力状態を簡略化した図である。曲がり導波管10を伝送してきた電磁波(IN)は、結合板1aを通じて初段の円筒空胴共振器20に導かれ、その後、結合板1bを通じて2段目の円筒空胴共振器30に導かれ、さらに結合板1cを通じて3段目の円筒空胴共振器31に導かれる。3段目の円筒空胴共振器31から出力された電磁波(OUT)は、結合板1dを通じて出力側の導波管50に導かれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種の円筒空胴共振器型フィルタでは、その多段縦続結合構造という性質上、いずれかの円筒空胴共振器において不連続波が発生する場合がある。特に、90度方向に結合する図11の構造の円筒空胴共振器型フィルタでは、2段目の円筒空胴共振器30において、不連続波が生じやすい。この不連続波は、使用モード(例えばTE01nモード(nは自然数))に悪影響を及ぼし、所望のフィルタ特性が得られない場合がある。このことを、図11に示した90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図13、および円筒空胴共振器の構造を示した図14を参照して説明する。
【0007】
図14(a)は、一つの円筒空胴共振器の空胴底面断面図、図14(b)はそのA−A断面図である。90度タイプの円筒空胴共振器20,30,40では、使用モードがTE012の場合、図13に実線で示すように、同心円状で互いに隣接する円筒空胴共振器間で方向が180度異なるTE波60が空胴内に生じるが、その際、少なくとも2段目の円筒空胴共振器30の空胴内では、構造上の不連続により、図13および図14に破線で示すようにTM012モードの不連続波70が発生する場合がある。この不連続波70の存在により、通過帯域における十分な通過特性、並びに、通過帯域近傍における十分な減衰特性が得られなくなる。
【0008】
本発明は、かかる問題を解消し、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波を効果的に減衰させることができる多段結合構造の円筒空胴共振器型フィルタ、および、円筒空胴共振器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の円筒空胴共振器型フィルタは、複数の円筒空胴共振器を縦続接合して成る円筒空胴共振器型フィルタにおいて、前記複数の円筒空胴共振器のうち少なくとも使用モードと異なるモードの不連続波が最も多く発生する一つの円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする。不連続波のみが発熱体で熱に変換され、これにより減衰されるので、不連続波がフィルタ特性に与える影響を抑制することができる。
【0010】
ある実施の態様では、前記発熱体は棒状に成形されており、この棒状発熱体が、前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って円筒軸方向に設置されている。棒状発熱体は、1本のみならず、複数本であってもよい。この場合は、複数の棒状発熱体が、それぞれ前記円筒空胴共振器の中心軸と平行で前記中心軸と直交する軸線に沿って円筒軸方向に設置される。
他の実施の態様では、前記発熱体は板状に成形されており、この板状の発熱体の端部が前記円筒空胴共振器の直径方向に延び、当該発熱体の長尺部が前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って円筒軸方向に設置されている。
いずれの形状の発熱体も、当該円筒空胴共振器の空胴内に内装された支持体で支持され、あるいは、当該円筒空胴共振器の空胴内に所定間隔で懸垂支持される。支持体は、前記使用モードでの共振に影響を与えない素材から成る。これにより、使用モードに影響を与えることなく、発熱体を空胴内で支持することができる。
【0011】
本発明の円筒空胴共振器は、その空胴内に使用モードと異なるモードの不連続波が発生する円筒空胴共振器において、前記円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円筒空胴共振器型フィルタによれば、発熱体により不連続波が熱に変換され、減衰されるので、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波のみを効果的に減衰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[円筒空胴共振器]
以下、多段縦続結合したときに、使用モードがTE012モードで、TM012モードの不連続波が生じる円筒空胴共振器の実施の形態例を説明する。なお、不連続波を不要モードと称する場合がある。
【0014】
図1は、この円筒空胴共振器の構造の特徴を記載した図であり、(a)は空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図である。図示の円筒空胴共振器は、空胴内に、不連続波であるTM012波を受けて発熱する発熱体、例えば抵抗棒100を設置して構成される。抵抗棒100は、好ましくは、使用モード波であるTE012波を避けつつTM012波と接する部位、例えば、その軸線が円筒空胴共振器の中心軸に平行で、円筒空胴の長尺方向となるように、空胴内に、所定間隔で内装された支持体80により支持されている。
【0015】
支持体80は、使用モードでの共振に影響を与えず(つまり、電界に対する減衰量が小さく)、耐熱性に優れた素材、例えば、発泡ポリプロピレン、発泡スチロール等の多孔性樹脂材、あるいはテフロン等を用いる。
【0016】
抵抗棒100は、例えばガラス、アルミナ、マイカなどの誘電体から成る丸棒、あるいはこれらの素材から成る膜にニクロムを蒸着したものを使用する。素材は、炭化珪素、タングステンワイヤなど電気伝導度が大きく、電流が流れるものを使用することもできる。抵抗棒100の直径は、内径の約2[%]程度である。
なお、断面は必ずしも円形である必要はなく、矩形その他の形状であっても良い。
【0017】
このように構成される円筒空胴共振器は、図2(a),(b)に示されるように、抵抗棒100が、空胴内壁方向に向かうTM012波(図2(a),(b)において破線で示す波)を受けて発熱する。これは、不連続波を熱に変換することにより、そのレベルを減衰させたことに相当する。TE012波の方向(図示省略)は、抵抗棒100を囲む方向なので、抵抗棒100により熱に変換されるのは、ごく僅かである。
そのため、使用モードでの共振に与える影響は、無視できるほど小さい。これにより、簡易な構造でありながら、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波だけを効果的に減衰させることができる。
【0018】
なお、図1では、支持体80を円筒空胴器の中央部分に一つだけ設けた場合の例を示したが、支持体80を図示のものよりも薄くして、入力側と出力側、あるいは、それに加えて中間部分に1又は複数個設けるようにしても良い。
【0019】
また、図1に示した貫通構造の支持体80に代えて、図3(a)の空胴底面断面図、および図3(b)のA−A断面図に示されるように、例えばテフロン糸からなる懸垂支持体90を円筒空胴共振器の空胴外から空胴内に所定間隔で貫通させ、この懸垂指示体90で、抵抗棒100を懸垂支持するようにしても良い。このように構成される円筒空胴共振器は、使用モードに対する懸垂支持体90による影響を図1に示したものよりも小さくすることができる。
【0020】
[円筒空胴共振器型フィルタ]
上述した本発明の円筒空胴共振器は、例えば90度タイプの円筒空胴共振器型フィルタにおいて、特に威力を発揮する。図は、90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図であり、従来例の図9に対応する。抵抗棒100は、2段目の円筒空胴共振器30にのみ設けている。これは、上述したように、2段目の円筒空胴共振器30は、初段の円筒空胴共振器20および3段目の円筒空胴共振器40との縦続接合の際に、不連続波であるTM012波(破線)70が発生しやすいためである。抵抗棒100は、この不連続波を熱に変換して減衰させる一方、実線で示されるTE012波60については、減衰しない。そのため、フィルタ特性は、格段に向上する。
【0021】
抵抗棒100の有無によるフィルタ特性の変化の様子は、図5および図6に示す通りである。図5は抵抗棒100を設けた場合、図6は抵抗棒100を設けない場合のフィルタ特性図である。抵抗棒100を設けない場合は、通過帯域が、使用モード(TE012波)〜のほかにTM012波による不要モードの2つになるが、抵抗棒100を設けることにより、通過帯域が使用モードだけとなることがわかる。
【0022】
このように、本実施形態によれば、円筒空胴共振器型フィルタにおいて、少なくとも不連続波が最も多く発生する一つの円筒空胴共振器の空胴内で、使用モードの電磁波を避けつつ不連続波と接する部位、例えば空胴の中心軸に沿って長手方向に沿う部位に、不連続波により発熱する抵抗棒100を設置したので、使用モードについては通過特性に影響を与えることなく、不連続波だけを効果的に減衰させることができる。
【0023】
[変形例]
なお、上記の例では、使用モードがTE012モード、不連続波がTM012モードとして説明したが、使用モードはTE01n(nは1以上の自然数)であれば所要の効果が得られるものであり、上記の例に限定されるものではない。また、本実施形態では、不連続波により発熱する発熱体として抵抗棒100を用いた場合の例を示したが、発熱体は、板状、複数線状あるいは筒状であっても良く、その設置位置も、使用モード波を避けつつ不連続波と接する部位にあれば良いので、上記の例に限定されるものではない。
【0024】
このことを以下に説明する。
発熱体は、例えば図7に示すように2本の抵抗棒100を、それぞれ円筒空胴共振器の中心軸と平行で、円筒空胴共振器の中心軸と直交する軸線に沿って、円筒軸方向に設置した複合抵抗棒フィルタ、あるいは、図8に示すように、発熱体を薄板状に成形して抵抗板200とし、この抵抗板200の端部が円筒空胴共振器の直径方向に延び、長尺部が円筒空胴共振器の中心軸に沿って円筒軸方向に設置されるようにした抵抗板フィルタとすることができる。
【0025】
図7に示す複合抵抗棒フィルタでは、図9(a)〜(e)に示すモードで使用することができる。各図において左側は導波管断面の電界、右側は導波管伝送方向断面の電界の分布である。矢印は、電界の方向を示す。
【0026】
図9(a)はTE11モードであり、抵抗棒100と同じ方向の電界が無いため、減衰を受けない。図9(b)はTM01モードであり、中心軸に抵抗棒100と同じ方向の電界がある。従って、抵抗棒100に電流が流れ、減衰を生じる。但し、抵抗棒100が電界最大の位置に無いので、後述する抵抗板200よりも減衰効果が小さい。図9(c)はTE21モードであり、抵抗棒100と同じ方向の電界が無いので、減衰を受けない。図9(d)はTM11モードであり、中心軸に抵抗棒100と同じ方向の電界があるため、抵抗棒100に電流が流れ、減衰が生じる。抵抗棒100を電界が最大となる位置に設置することができるため、効果的に減衰させることができる。図9(e)はTE01モードであり、抵抗棒100と同じ方向の電界が存在しないため、抵抗棒100による減衰は期待できない。
【0027】
図8に示す抵抗板フィルタでは、図10(a)〜(e)に示すモードで使用することができる。各図において左側は導波管断面の電界、右側は導波管伝送方向断面の電界の分布である。矢印は、電界の方向を示す。
【0028】
図10(a)はTE11モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界が無いため、減衰を受けない。図10(b)はTM01モードであり、直径方向及び中心軸方向に抵抗板200と同じ方向の電界がある。従って、抵抗板200に電流が流れ、減衰を生じる。
図10(c)はTE21モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界がある。従って、抵抗板200に電流が流れ、減衰が生じる。図10(d)はTM11モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界が存在しないので、減衰効果は期待できない。図10(e)はTE01モードであり、抵抗板200と同じ方向の電界が存在しないため、減衰効果は期待できない。
【0029】
このように、抵抗棒100又は抵抗板200を設置する位置ないし角度には、最適なものが存在するので、使用モードによって使い分ける必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、マイクロ波帯のレーダシステム、通信システム等のバンド・パス・フィルタ又はその構成部品として、利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は本発明が適用される空胴共振器の空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【図2】図1の構造の空胴共振器の不連続波の発生状況を示した図であり、(a)は空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【図3】(a)本発明が適用される他の空胴共振器の空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【図4】90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図。
【図5】フィルタ特性図(抵抗棒を設けた場合)。
【図6】フィルタ特性図(抵抗棒を設けない場合)。
【図7】2本の抵抗棒を設置した複合抵抗棒フィルタの例を示した外観図。
【図8】抵抗板フィルタの例を示した外観図。
【図9】(a)〜(e)は複合抵抗棒フィルタで使用するモードの電界分布図。
【図10】(a)〜(e)は抵抗板フィルタで使用するモードの電界分布図。
【図11】90度タイプの円筒空胴共振器型フィルタの一例となる3段結合円筒空胴共振器型フィルタの上部外観図。
【図12】円筒空胴共振器型フィルタの入出力状態を簡略化した図。
【図13】図7に示した90度タイプの円筒空胴共振器の空胴底面部分を模式的に表した図。
【図14】(a)は、一つの円筒空胴共振器の空胴底面断面図、(b)はそのA−A断面図。
【符号の説明】
【0032】
1a〜1d・・・結合板
11,21,22,31,32,41・・・フランジ
10・・・曲がり導波管
20,30,40・・・円筒空胴共振器
50・・・出力側の導波管
80・・・支持体
90・・・懸垂支持体
100・・・抵抗棒
200・・・抵抗板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の円筒空胴共振器を縦続接合して成る円筒空胴共振器型フィルタにおいて、
前記複数の円筒空胴共振器のうち少なくとも使用モードと異なるモードの不連続波が最も多く発生する一つの円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする、
円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項2】
前記発熱体は棒状に成形されており、
この棒状の発熱体が、前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って設置されていることを特徴とする、
請求項1記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項3】
複数本の前記棒状の発熱体が、それぞれ前記円筒空胴共振器の中心軸と平行で前記中心軸と直交する方向に設置されていることを特徴とする、
請求項2記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項4】
前記発熱体は板状に成形されており、
この板状の発熱体の端部が前記円筒空胴共振器の直径方向に延び、当該発熱体の長尺部が前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って設置されていることを特徴とする、
請求項1記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項5】
前記発熱体が、当該円筒空胴共振器の空胴内に内装された支持体で支持されており、
該支持体が、前記使用モードでの共振に影響を与えない素材から成ることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかの項記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項6】
前記発熱体が、当該円筒空胴共振器の空胴内に所定間隔で懸垂支持されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかの項記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項7】
その空胴内に使用モードと異なるモードの不連続波が発生する円筒空胴共振器において、
前記円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする、
円筒空胴共振器。
【請求項1】
複数の円筒空胴共振器を縦続接合して成る円筒空胴共振器型フィルタにおいて、
前記複数の円筒空胴共振器のうち少なくとも使用モードと異なるモードの不連続波が最も多く発生する一つの円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする、
円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項2】
前記発熱体は棒状に成形されており、
この棒状の発熱体が、前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って設置されていることを特徴とする、
請求項1記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項3】
複数本の前記棒状の発熱体が、それぞれ前記円筒空胴共振器の中心軸と平行で前記中心軸と直交する方向に設置されていることを特徴とする、
請求項2記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項4】
前記発熱体は板状に成形されており、
この板状の発熱体の端部が前記円筒空胴共振器の直径方向に延び、当該発熱体の長尺部が前記円筒空胴共振器の中心軸に沿って設置されていることを特徴とする、
請求項1記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項5】
前記発熱体が、当該円筒空胴共振器の空胴内に内装された支持体で支持されており、
該支持体が、前記使用モードでの共振に影響を与えない素材から成ることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかの項記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項6】
前記発熱体が、当該円筒空胴共振器の空胴内に所定間隔で懸垂支持されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかの項記載の円筒空胴共振器型フィルタ。
【請求項7】
その空胴内に使用モードと異なるモードの不連続波が発生する円筒空胴共振器において、
前記円筒空胴共振器の空胴内で、使用モード波を避けつつ前記不連続波と接する部位に、前記不連続波により発熱する発熱体を設置したことを特徴とする、
円筒空胴共振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−41657(P2010−41657A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205559(P2008−205559)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)
【Fターム(参考)】
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