説明

再狭窄を治療および予防するための遠隔虚血コンディショニング

本発明は、遠隔虚血コンディショニングの使用により再狭窄の発生率および/または重症度を低減する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再狭窄を治療および予防するための遠隔虚血コンディショニングに関する。
【背景技術】
【0002】
脈管または他の狭小化した生体構造の再狭窄または再狭小化は、拡張術またはステント留置術後に見られる一般的な合併症である。それは、患者の10〜50%で起こることがある。特定の薬剤溶出ステントにより再狭窄の発生が低下すると報告されている。しかし、これらのステントもまた再狭窄を来たし、それ自体の欠点があり、その中でも無視できないのが費用である。再狭窄が発生する患者は、通常、狭小部を再拡張するためにまたはバイパスするために、繰り返し処置を受けなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、一般に、再狭窄の発生および重症度を低減するための、遠隔虚血コンディショニング(RIC)の使用に関する。再狭窄は、血管または生体の管状組織(食道、胆管(biliary tree)、および気管支等が挙げられるが、これらに限定されるものではない)を開くまたは広げることを目的とした医療処置(または介入)の後に発生することがある。このような処置としてはステント留置術およびバルーン血管形成術が挙げられる(しかし、これらに限定されるものではない)が、これらは共に脈管の損傷を引き起こす可能性がある。
【0004】
従って、本発明は、また、再狭窄を招くおそれがある脈管損傷を有する、または脈管損傷を受ける可能性がある対象に対するRICの使用も考える。これらの対象で、RICは、脈管損傷を誘発する可能性がある医療処置などのイベントの前に行われても、その後に行われてもよい。あるいは、RICは、脈管の損傷を誘発する可能性があるイベントの施行前に(プレコンディショニング)、その間に(パーコンディショニング)、および/またはその後に(ポストコンディショニング)、プレコンディショニング、パーコンディショニングおよびポストコンディショニングの任意の組み合わせで行われてもよい。
【0005】
ほとんどの場合、本発明は、対象が2回以上のRIC療法を受けることを考える。例えば、RICを1日に複数回、および/または複数日で1回以上行ってもよい。換言すれば、本発明は、イベントの前にRIC療法を1回だけ行うのではなく、RIC療法を複数回行うことを想定し、このようなRIC療法は1日で(例えば、イベントの前もしくはイベントの後に)行われてもよく、または2日以上で(例えば、イベントの前および/またはイベントの後に)行われてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明は、一態様では、再狭窄を有するまたはその発現リスクがある対象に、反復遠隔虚血コンディショニング(RIC)療法を行うことを含む、対象の再狭窄を低減する方法を提供する。一実施形態では、再狭窄の低減は、対照被験者または母集団と比較した再狭窄の発生率の低減を含み得る。一実施形態では、再狭窄の低減は、対象の再狭窄の重症度の低減を含み得る。一実施形態では、再狭窄の低減は、対象の再狭窄の発生の遅延(例えば、対照母集団と比較して)を含み得る。幾つかの実施形態では、遅延は数ヶ月または数年の長さであってもよい。
【0007】
一実施形態では、再狭窄は医療介入後に発生する。
様々な実施形態では、反復RIC療法は、1日で行われる2回以上のRIC療法を含む
。幾つかの実施形態では、反復RIC療法は、1日で行われる2回、3回、4回または5回のRIC療法を含む。
【0008】
様々な実施形態では、反復RIC療法は、2日以上で1回以上のRIC療法(例えば、複数日にわたる1日1回のRIC療法、または2日間以上にわたる1日2回以上のRIC療法)を含む。幾つかの実施形態では、反復RIC療法は、1ヶ月間以上にわたり毎日行われる1回以上のRIC療法を含む。幾つかの実施形態では、反復RIC療法は、1ヶ月間以上にわたり断続的に行われる1回以上のRIC療法を含む。
【0009】
様々な実施形態で、反復RIC療法は、2日以上で2回以上のRIC療法を含む。
重要な実施形態では、対象はヒトである。
一実施形態では、対象は医療介入を受けるものとする。一実施形態では、反復RIC療法は医療介入前に行われる。一実施形態では、反復RIC療法は医療介入後に行われる。一実施形態では、反復RIC療法は医療介入の前後に行われる。 さらに他の実施形態で
は、RIC療法は、医療介入の前とその間に、医療介入の前、その間およびその後に、または医療介入の間とその後に行われる。
【0010】
一実施形態では、医療介入は、ステント留置術または挿入(例えば、身体の狭小部への)である。一実施形態では、医療介入は、狭小部への血管内ステント留置術である。一実施形態では、血管内ステント留置術は動脈ステント留置術である。一実施形態では、血管内ステント留置術は静脈ステント留置術である。一実施形態では、血管内ステント留置術はベアメタルステント留置術である。一実施形態では、血管内ステント留置術は薬剤溶出ステント留置術である。
【0011】
一実施形態では、医療介入は、バルーン血管形成術(例えば、身体の狭小部の拡張に使用される)などの血管形成術である。
一実施形態では、医療介入は非血管ステント留置術である。一実施形態では、医療介入は、食道ステント留置術、気管ステント留置術、尿道ステント留置術、または胆管ステント留置術である。
【0012】
一実施形態では、少なくとも1回のRIC療法(反復RIC療法の中の)は、医療介入の24時間以内に行われる。一実施形態では、少なくとも1回のRIC療法は、医療介入の2時間以内に行われる。一実施形態では、少なくとも1回のRIC療法は、医療介入の1時間以内に行われる。このようなRICは医療介入の前および/または後に行われてもよい。
【0013】
各RIC療法は、超収縮期血圧(supra−systolic pressure)とそれに続く再灌流を1サイクルとして2サイクル、3サイクル、4サイクル、または5サイクル以上含んでもよい。各超収縮期血圧期は、約30秒、約1分、約2分、約3分、約4分、または約5分以上の持続時間を有してもよい。各再灌流期は、約30秒、約1分、約2分、約3分、約4分、または約5分以上の持続時間を有してもよい。超収縮期血圧期の持続時間は、再灌流期の持続時間と同じであっても、または異なってもよい。
【0014】
一実施形態では、少なくとも1回のRIC療法(反復RIC療法の中の)は、少なくとも4サイクルを含み、各サイクルは超収縮期血圧と再灌流とを含む。一実施形態では、少なくとも1回のRIC療法は、5分間の超収縮期血圧と5分間の再灌流とを含むサイクルを2サイクル以上含む。
【0015】
超収縮期血圧は、収縮期血圧より5mmHg、10mmHg、15mmHg、20mmHg、25mmHg、30mmHg、または35mmHg以上高くてもよい。一実施形態
では、超収縮期血圧は、収縮期血圧より少なくとも15mmHg高い圧力である。他の実施形態では、超収縮期血圧は、160mmHg、170mmHg、180mmHg、190mmHg、200mmHg、210mmHg、220mmHg、230mmHg、240mmHg、または250mmHg以上であってもよい。さらに他の実施形態では、超収縮期血圧を収縮期血圧のパーセンテージ、例えば、収縮期血圧の101%、102%、103%、104%、105%、106%、107%、108%、109%、または110%以上として表すことがある。
【0016】
一実施形態では、反復RIC療法は同じ部位で行われる。一実施形態では、反復RIC療法は肢(例えば、上肢または下肢)で行われる。一実施形態では、個々のRIC療法または反復RIC療法は、身体の異なる部位に任意選択により配置される2つ以上の装置(2つ以上のカフなど)を使用して行われる(例えば、各腕にカフを1つずつ、もしくは各脚にカフを1つずつ、または、片腕にカフを1つと片脚にカフを1つなど)。カフを1つ使用する場合でもまたは複数使用する場合でも、各カフは1つのブラダーまたは複数のブラダー(2つまたは3つ以上のブラダーを含む)を備えることができる。
【0017】
一実施形態では、本方法はさらに、対象に抗血小板剤を投与することを含む。一実施形態では、本方法はさらに、対象に抗炎症剤を投与することを含む。
一実施形態では、対象にアスピリンを投与する。一実施形態では、対象にクロピドグレルなどの抗血小板剤を投与する。一実施形態では、対象にヘパリンなどの抗凝固剤を投与する。一実施形態では、対象にエプチフィバチドまたはチロフィバンなどの糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤を投与する。一実施形態では、対象にスタチンを投与する。
【0018】
さらに他の実施形態では、本発明はさらに、遠隔虚血コンディショニングを行うための装置または装置構成要素と、ステントまたはカテーテルとを備えるキットを提供する。装置構成要素は、使い捨てカフなどのカフ、またはこのようなカフ用のライナーもしくはスリーブであってもよく、好ましくはこのようなライナーもしくはスリーブは使い捨てである。キットは、1つ、2つ、3つ、または4つ以上のカフ、ライナーまたはスリーブと、1つ以上のステントまたはカテーテルとを備えてもよい。
【0019】
様々な実施形態では、対象に前述のこれらの薬剤の2種類以上を投与してもよい。
本発明の前述および他の態様および実施形態を本明細書でより詳細に検討する。
添付の図面は、縮尺通りに描くことを意図したものではない。図中、様々な図に示されている同一またはほぼ同一の構成要素はそれぞれ、同様の番号で表される。理解し易いように、全ての図面に全ての構成要素を標示しないこともある。
【0020】
ここで本発明の様々な実施形態を例として添付の図面を参照して説明する:
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】対象の肢の周囲で縮径するように構成された空気で膨張可能なカフを備える、遠隔虚血コンディショニングシステムの一実施形態の概略図である。
【図2】RICシステムの動作スキームの一実施形態のブロック図である。
【図3】対象の肢の周囲で収縮するように構成されたカフの代替の実施形態を示す図である。
【図4】腸骨動脈バルーン傷害モデルにおける血管傷害の前およびその後の7日間にわたって行われる遠隔コンディショニングの効果を示す図である。使用可能な個々の測定値を全て使用し、パラメータ推定のための最尤法を使用して各パラメータに関する対象重み付け直線回帰モデルを作成した。p値の他に群平均および標準誤差を報告する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、対象に一過性虚血の誘発と再灌流とからなるサイクルを計画的に繰り返し行うことにより、再狭窄の発生率および/または重症度を低減することができるという知見に関する。これらの対象には、再狭窄が起こっている対象および再狭窄の発現リスクのある対象が含まれる。特に、これらの対象には、再狭窄を伴う医療処置を受けた対象が含まれる。従って、再狭窄の症状が現れていない対象も、特に、発生を遅延させる、再狭窄を緩徐化する(例えば、その重症度を低減する)または再狭窄を完全に予防する目的で、本発明により処置することができる。
【0023】
本発明は、幾つかの態様では、対象に反復RIC療法を行うことを考える。本明細書で使用する場合、RIC療法(または個々のRIC療法、本明細書ではこれらの用語を互換的に使用する)とは、一過性虚血イベントまたは一過性虚血期(本明細書では超収縮期血圧期とも称される)の誘発とそれに続く再灌流イベントまたは再灌流期を1サイクルとして少なくとも1サイクル行うことを意味する。従って、個々のRIC療法は、1、2、3、4、または5以上のこのようなサイクルからなってもよい。RICは、例えば、図4に示すように、RIPCと称されることもある。
【0024】
本明細書で使用する場合、反復RIC療法とは、1日で行われる2回以上の個々のRIC療法、および/または複数日で行われる1回以上のRIC療法である。例えば、反復RIC療法は、1日でRIC療法を複数回行うこと、または複数日で1回のRIC療法を行うこと、または複数日で複数回のRIC療法を行うことを含んでもよい。反復RIC療法を1日で行う場合、個々の療法間の時間は、例えば、少なくとも10分、少なくとも20分、少なくとも40分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、または少なくとも6時間であってもよい。
【0025】
反復RIC療法の中のRIC療法のいずれかまたは全てがタイミング、1回の療法当たりのサイクル数、超収縮期血圧、および位置などに関して同一である必要はないことは明らかであろう。
【0026】
RICは、通常、医療介入を受ける部位から離れた身体部位で行われる。通常、RICは、上肢または下肢などの肢で行われる。反復RIC療法は身体の1つの部位で行われても、または複数の部位で行われてもよい。例えば、反復RIC療法は、右上腕で行われる第1のRIC療法と、それに続いて左上腕で行われる第2のRIC療法とを含んでもよい。反復RIC療法は、身体の部位間で交互に行うことを含んでもよい。場合によっては、RIC療法を対象の2つの異なる部位で、時間的に重複して(同時を含む)行ってもよい。このような場合、後述のように2つの装置を使用してもよい。
【0027】
本発明の対象は、好ましくはヒトであるが、ヒト以外の対象も考えられる。本質的に、再狭窄が起こる可能性のある対象を本発明により処置することができる。幾つかの場合、対象は心筋梗塞のリスクがない。
【0028】
医療処置/介入
本発明による医療介入には、対象の異常な狭小部を拡張させるために行われる介入、および/または対象の血管損傷を誘発するまたは誘発する可能性がある介入が含まれる。本発明により処置される対象には、脈管の狭小化が起きた(または起きている)対象が含まれる。本発明により処置される対象には、脈管損傷を誘発したまたは誘発する可能性がある医療介入を受けた対象が含まれる。対象にはまた、このような医療介入を受ける予定がある対象が含まれる。これらの介入は、随意選択的な処置であっても、または応急処置であってもよい。従って、これらの介入は再狭窄を伴う。場合によっては、これらの介入自体は対象に虚血環境を作り出さない。
【0029】
脈管損傷を誘発することが知られているまたは誘発する可能性がある医療介入は、身体内のいずれかの脈管に損傷を生じる任意の外科的または非外科的処置であってもよい。脈管は動脈または静脈などの血管であってもよい。脈管は、胆管、食道、腸(大腸および小腸を含む)、気管、尿道、およびオイスタキオ管などの非血管(例えば、血液以外の流体を運ぶ、または血液の他にも流体を運ぶ脈管)であってもよい。
【0030】
このような介入の一例には、ステント留置術(または、挿入もしくは埋め込み)がある。ステント留置術または挿入は、本明細書に記載の脈管の多くを含む身体のいずれかの脈管内で、および身体のいずれかの部位で(例えば、頭蓋内ステントのように脳内で)行うことができるが、但し、好ましくはRIC療法はステントの位置から遠隔で行われる。一般に、ステント留置術は、動脈内または静脈内などの血管内で行われる。ステント留置術は、胆管内、食道内、オイスタキオ管内、および気管内を含む他の脈管内で行うこともできる。ステント留置術は、脈管の狭小部を正常な状態にするまたは改善するために、どの脈管内でも使用することができる。
【0031】
ステントは、「ベア」ステント(血管用ステントとして使用されるベアメタルステントなど)および薬剤溶出ステントを含む、任意の種類のものであってよい。薬剤溶出ステントは、本明細書で使用する場合、1種類以上の治療薬でコーティングされているまたは他の方法でそれらを含むステントを指す。他方、ベアステントはこのような薬剤を含まない。ベアステントおよび薬剤溶出ステントは、当該技術分野で公知である。
【0032】
医療介入の別の例には、血管形成術(または経皮経管的冠動脈形成術(PTCA))がある。再狭窄は、単純なバルーン血管形成術を受けた対象の30〜50%で起こると報告されている。
【0033】
当業者には、脈管損傷を引き起こす、および/または再狭窄を伴う他の医療介入が容易に分かる。本発明は、このようないずれかの介入を受ける対象の処置を包含することを意図していることを理解されたい。
【0034】
反復RICおよびタイミング
反復RIC療法は、医療介入の前および/またはその間および/またはその後に(例えば、脈管損傷を誘発する可能性がある医療介入または他のイベントの前に;その前とその間に;その前後に;その前、その間、およびその後に;その間に;その間とその後に;またはその後に)行われてもよい。
【0035】
幾つかの実施形態では、反復RIC療法は、全部または一部、医療介入の前に行われる。このような場合、少なくとも1回のRIC療法は、医療介入前48時間以内、24時間以内、12時間以内、6時間以内、4時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、20分以内、10分以内、5分以内または医療介入の直前に行われてもよい。
【0036】
幾つかの実施形態では、反復RIC療法は、全部または一部、医療介入の後に行われる。このような場合、少なくとも1回のRIC療法は、医療介入後48時間以内、24時間以内、12時間以内、6時間以内、4時間以内、2時間以内、1時間以内、30分以内、20分以内、10分以内、5分以内または医療介入の直後に行われてもよい。
【0037】
幾つかの実施形態では、反復RIC療法は複数日(2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、15日もしくは30日以上、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、もしくは6ヶ月以上を含む)にわたる。このような場合、対象はRIC療法を、例えば、毎日、1日おき、2日おき、3日おき、4日おきまたは5日おき、毎週、1週間おき、2週間おき、3週間おき、毎月、1ヶ月おき、2ヶ月おき、3ヶ月おき、
4ヶ月おき、5ヶ月おきに受けてもよいことを理解されたい。さらに、RIC療法は不定期にまたはランダムに行われてもよい。
【0038】
再狭窄の低減
本明細書で使用する場合、再狭窄とは、狭小化を軽減するために行われる処置の後に起こる脈管(または他の構造)の再狭小化を指す。本発明は、幾つかの場合、対象の再狭窄の発生(または発生率)を低減すること、および/または再狭窄の重症度または程度を低減すること、および/または再狭窄に伴う症状を低減または改善することを目的とする。
【0039】
再狭窄の発生の低減は、処置された対象を、反復RIC療法を受けなかったが処置された対象と他の点で医学的に同等である別の対象またはより好ましくは対象の母集団と比較することにより判定することができる。この対照群の平均再狭窄時間を処置された対象のものと比較し、処置された対象で対照と比較して再狭窄の発生が遅延していれば、発生が低減することが分かる。
【0040】
再狭窄の重症度または程度の低減は、直接測定されても、または間接的に測定されてもよい。例えば、再狭窄の重症度または程度は、例えば、脈管の直径を測定することにより直接測定されてもよい。間接的測定としては、機能的測定を挙げることができる。機能的測定の種類は、損傷した脈管の種類およびその正常な機能に依存する。機能的測定の一例には、脈管の流量および流動性がある。好ましくは、同等であるが処置されていない対象の病歴データに基づいて再狭窄が起こる可能性がある場合に、これらの測定を行う。このようなタイミングは、処置の数日後、数週間後、数ヶ月後または数年後であってもよい。
【0041】
再狭窄に関する症状の解析は、再狭窄し得る脈管の種類にも依存する。血管構造中で再狭窄が起こる場合、症状としては、心臓および脳の症状を含む血流障害に関連する循環器症状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらには、胸痛(血管痛)、特に身体的労作の後の胸痛(血管痛)、異常な疲労、息切れ、および胸部圧迫感を挙げることができる。
【0042】
再狭窄の指標として生物学的マーカーを測定してもよい。生物学的マーカーの一例にはトロポニンがあり、トロポニンは再狭窄があると上昇する。
再狭窄の検出には、画像検査(例えば、CT、磁気共鳴画像法、核医学画像法、血管造影法、ドップラー超音波法、MRAなど)および、運動負荷試験などの機能試験を含む様々な試験を使用することができる。
【0043】
追加の療法
本発明の反復RIC療法を、再狭窄の低減を目的とした他の療法または処置と併用してもよい。これらの療法には、局所血管内放射線治療(小線源照射療法)、ならびに血小板機能阻害剤、血小板数を減少させる薬剤、抗凝固剤、線維素溶解剤、抗炎症剤、高脂血症治療剤、直接トロンビン阻害剤、糖タンパク質IIb/IIIa受容体阻害剤、細胞接着分子に結合して、白血球がこのような分子に付着する能力を阻害する薬剤、カルシウムチャネル遮断薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤、およびアンジオテンシン系阻害剤などの様々な化学療法が含まれる。実施形態に応じて、反復RIC療法の前、それと同時に、もしくはその後に、および/または医療介入の前に、それと同時に、もしくはその後に、これらの薬剤の1種類以上を投与してもよい。
【0044】
線維素溶解剤は、通常、酵素作用でフィブリンを溶解することより血栓(例えば、血餅)を溶解する薬剤である。例としては、アンクロッド、アニストレプラーゼ、乳酸ビソブリン、ブリノラーゼ、ハーゲマン因子(即ち、第XII因子)フラグメント、モルシドミン、プラスミノーゲン活性化因子(ストレプトキナーゼ、組織型プラスミノーゲン活性化
因子(TPA)およびウロキナーゼなど)、ならびにプラスミンおよびプラスミノーゲンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
抗凝固剤は、血餅の形成に不可欠な因子の産生、蓄積、開裂および/または活性化に負の影響を及ぼすことにより凝固経路を阻害する薬剤である。抗凝固剤としては、クマリンおよびクマリン誘導体(例えば、ワーファリンナトリウム)などのビタミンK拮抗体;未分画の形態と低分子量の形態の両方のヘパリンなどのグリコサミノグリカン;アルデパリンナトリウム、ビバリルジン、ブロムインジオン、クマリン、ダルテパリンナトリウム、デシルジン、ジクマロール、リヤポレートナトリウム、ナファモスタットメシレート、フェンプロクモン、スルファチド、チンザパリンナトリウム、Xa因子阻害剤、TFPI因子阻害剤、VIIa因子阻害剤、IXc因子阻害剤、Va因子阻害剤、VIIIa因子阻害剤、ならびに他の凝固因子の阻害剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
血小板機能阻害剤は、成熟した血小板がその正常な生理学的役割(即ち、その正常な機能)を果たす能力を低下させる薬剤である。例としては、アカデシン、アナグレリド、アニパミル、アルガトロバン、アスピリン、クロピドグレル、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(非ステロイド系抗炎症剤および合成化合物FR−122047など)、ダナパロイドナトリム、塩酸ダゾキシベン、ジアデノシン5’,5’’’−P1,P4−四リン酸(Ap4A)類似体、デフィブロチド(difibrotide)、塩酸ジラゼプ、1,2−および1,3−グリセリルジニトレート、ジピリダモール、ドーパミンおよび3−メトキシチラミン、硫酸エフェガトラン、エノキサパリンナトリウム、グルカゴン、糖タンパク質IIb/IIIa拮抗体(Ro−43−8857およびL−700,462など)、イフェトロバン、イフェトロバンナトリウム、イロプロスト、イソカルバサイクリンメチルエステル、イソソルビド−5−モノニトレート、イタジグレル、ケタンセリンおよびBM−13.177、ラミフィバン、リファリジン、モルシドミン、ニフェジピン、オキサグレレート、PGE、血小板活性化因子拮抗体(レキシパファントなど)、プロスタサイクリン(PGI)、ピラジン類、ピリジノールカルバメート、ReoPro(即ち、アブシキマブ)、スルフィンピラゾン、合成化合物であるBN−50727、BN−52021、CV−4151、E−5510、FK−409、GU−7、KB−2796、KBT−3022、KC−404、KF−4939、OP−41483、TRK−100、TA−3090、TFC−612およびZK−36374、2,4,5,7−テトラチアオクタン、2,4,5,7−テトラチアオクタン2,2−ジオキサイド、2,4,5−トリチアヘキサン、テオフィリン、ペントキシフィリン、トロンボキサンおよびトロンボキサン合成酵素阻害剤(ピコタミドおよびスロトロバンなど)、チクロピジン、チロフィバン、トラピジルおよびチクロピジン、トリフェナグレル、トリリノレイン、3−置換5,6−ビス(4−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン、ならびに抗糖タンパク質IIb/IIIa抗体および米国特許第5,440,020号明細書に開示されているもの、ならびに抗セロトニン薬、クロプリドグレル;スルフィンピラゾン;アスピリン;ジピリダモール;クロフィブレート;ピリジノールカルバメート;PGE;グルカゴン;抗セロトニン薬;カフェイン;テオフィリン、ペントキシフィリン;チクロピジンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
抗炎症剤としては、アルクロフェナク;プロピオン酸アルクロメタゾン;アルゲストンアセトニド;アルファアミラーゼ;アムシナファル;アムシナフィド;アンフェナクナトリウム;塩酸アミプリロース;アナキンラ;アニロラク;アニトラザフェン;アパゾン;バルサラジド二ナトリウム;ベンダザック;ベノキサプロフェン;塩酸ベンジダミン;ブロメライン類;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン(Cintazone);クリプロフェン;プロピオン酸クロベタゾール;酪酸クロベタゾン;クロピラク;プロピオン酸クロチカゾン;酢酸コルメタゾン(Cormeth
asone Acetate);コルトドキソン;デフラザコート;デソニゾ;デスオキシメタゾン;ジプロピオン酸デキサメタゾン;ジクロフェナクカリウム;ジクロフェナクナトリウム;酢酸ジフロラゾン;ジフルミドンナトリウム(Diflumidone Sodium);ジフルニサル;ジフルプレドナート;ジフタロン;ジメチルスルホキシド;ドロシノニド;エンドリソン;エンリモマブ;エノリカムナトリウム;エピリゾール;エトドラク;エトフェナメート;フェルビナク;フェナモール;フェンブフェン; フェ
ンクロフェナク;フェンクロラク;フェンドサル;フェンピパロン;フェンチアザク;フラザロン;フルアザコート;フルフェナム酸;フルミゾール;酢酸フルニソリド;フルニキシン;フルニキシンメグルミン;フルオコルチンブチル;酢酸フルオロメトロン(Fluorometholone Acetate);フルクアゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;プロピオン酸フルチカゾン;フラプロフェン;フロブフェン;ハルシノニド;プロピオン酸ハロベタゾール;酢酸ハロプレドン;イブフェナク;イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール;イロニダップ(Ilonidap);インドメタシン;インドメタシンナトリウム;インドプロフェン;インドキソール;イントラゾール;酢酸イソフルプレドン(Isoflupredone Acetate);イソキセパック;イソキシカム;ケトプロフェン;塩酸ロフェミゾール;ロルノキシカム;エタボン酸ロテプレドール;メクロフェナム酸ナトリウム;メクロフェナム酸;二酪酸メクロリゾン(Meclorisone Dibutyrate);メフェナム酸;メサラミン;メセクラゾン;スレプタン酸メチルプレドニゾロン;モルニフルマート(Morniflumate);ナブメトン;ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジンナトリウム;オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;塩酸パラニリン;ペントサンポリ硫酸ナトリウム;フェンブタゾンナトリウムグリセラート;ピルフェニドン;ピロキシカム;ケイ皮酸ピロキシカム;ピロキシカムオラミン;ピルプロフェン;プレドナザート;プリフェロン;プロドール酸;プロカゾン;プロキサゾール;クエン酸プロキサゾール;リメキソロン;ロマザリット;サルコレクス;サルナセジン;サルサレート;サリチル酸誘導体;塩化サングイナリウム;セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダク;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルメート;タロサラート;テブフェロン;テニダップ;テニダップナトリウム;テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン;チオピナク;ピバル酸チキソコルトール;トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド;トリフルミダート;ジドメタシン;糖質コルチコイド;ゾメピラックナトリウムが挙げられる。好ましい抗炎症剤の1つにはアスピリンがある。
【0048】
高脂血症治療剤としては、ゲムフィブロジル、コレスチラミン(cholystyramine)、コレスチポール、ニコチン酸、プロブコール、ロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチン(cirivastatin)が挙げられる。
【0049】
直接トロンビン阻害剤としては、ヒルジン、ヒルゲン、ヒルログ、アガトロバン、PPACK、トロンビンアプタマーが挙げられる。
糖タンパク質IIb/IIIa受容体阻害剤には抗体と非抗体の両方があり、ReoPro(アブシキマブ(abcixamab))、ラミフィバン、チロフィバンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
カルシウムチャネル遮断薬には、高血圧、アンギナ、および心不整脈などの幾つかの心血管障害を含む様々な疾患のコントロールに重要な治療価値を有する、化学的に様々な種類の化合物がある(Fleckenstein,Cir.Res.v.52,(suppl.1),p.13−16(1983);Fleckenstein,Experimental Facts and Therapeutic Prospects,John Wiley,New York(1983);McCall,D.,Curr Pr
act Cardiol,v.10,p.1−11(1985))。カルシウムチャネル遮断薬は、細胞カルシウムチャネルを調節することによりカルシウムが細胞内に入るのを予防または緩徐化する異種群の薬物である。(Remington,The Science and Practice of Pharmacy,Nineteenth Edition,Mack Publishing Company,Eaton,PA,p.963(1995))。現在入手可能で、本発明に有用なカルシウムチャネル遮断薬の大部分は、3つの主要な化学的薬物群、即ち、ジヒドロピリジン類(ニフェジピンなど)、フェニルアルキルアミン類(ベラパミルなど)、およびベンゾチアゼピン類(ジルチアゼムなど)の1つに属する。本発明に有用な他のカルシウムチャネル遮断薬としては、アムリノン、アムロジピン、ベンシクラン、フェロジピン、フェンジリン、フルナリジン、イスラジピン、ニカルジピン、ニモジピン、ペルヘキシレン、ガロパミル、チアパミルおよびチアパミル類似体(1993RO−11−2933など)、フェニトイン、バルビツレート、ならびにペプチドであるダイノルフィン、ω−コノトキシン、およびω−アガトキシン等、および/またはこれらの薬学的に許容される塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
β−アドレナリン受容体遮断薬は、狭心症、高血圧、および心不整脈におけるカテコールアミンの心血管作用に拮抗する薬物の一種である。β−アドレナリン受容体遮断薬としては、アテノロール、アセブトロール、アルプレノロール、ベフノロール、ベタキソロール、ブニトロロール、カルテオロール、セリプロロール、メドロキサロール(hedroxalol)、インデノロール、ラベタロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノール、メチンドール、メトプロロール、メトリゾラノロール(metrizoranolol)、オクスプレノロール、ピンドロール、プロプラノロール、プラクトロール、プラクトロール、ソタロール、ナドロール、チプレノロール、トマロロール(tomalolol)、チモロール、ブプラノロール、ペンブトロール、トリメプラノール、2−(3−(1,1−ジメチルエチル)−アミノ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3−ピリデンカルボニトリルHCl、1−ブチルアミノ−3−(2,5−ジクロロフェノキシ)−2−プロパノール、1−イソプロピルアミノ−3−(4−(2−シクロプロピルメトキシエチル)フェノキシ)−2−プロパノール、3−イソプロピルアミノ−1−(7−メチルインダン−4−イルオキシ)−2−ブタノール、2−(3−t−ブチルアミノ−2−ヒドロキシ−プロピルチオ)−4−(5−カルバモイル−2−チエニル)チアゾール、7−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチルアミンプロポキシ)フタリドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前述の化合物は、異性体混合物として使用されても、またはそれらの各左旋性異性体もしくは右旋性異性体の形態で使用されてもよい。
【0052】
多くの選択的「COX−2阻害剤」が当該技術分野で公知である。これらには、米国特許第5,474,995号明細書「Phenyl heterocycles as cox−2 inhibitors」;米国特許第5,521,213号明細書「Diaryl bicyclic heterocycles as inhibitors of cyclooxygenase−2」;米国特許第5,536,752「Phenyl heterocycles as COX−2 inhibitors」;米国特許第5,550,142号明細書「Phenyl heterocycles as COX−2 inhibitors」;米国特許第5,552,422号明細書「Aryl substituted 5,5 fused aromatic nitrogen compounds as anti−inflammatory agents」;米国特許第5,604,253号明細書「N−benzylindol−3−yl propanoic acid derivatives as cyclooxygenase inhibitors」;米国特許第5,604,260号明細書「5−methanesulfonamido−1−indanones as an inhibitor of cyclooxygenase−2」;米国特許第5,639,780号明細
書「N−benzyl indol−3−yl butanoic acid derivatives as cyclooxygenase inhibitors」;米国特許第5,677,318号明細書「Diphenyl−1,2−3−thiadiazoles as anti−inflammatory agents」;米国特許第5,691,374号明細書「Diaryl−5−oxygenated−2−(5H)−furanones as COX−2 inhibitors」;米国特許第5,698,584号明細書「3,4−diaryl−2−hydroxy−2,5−dihydrofurans as prodrugs to COX−2 inhibitors」;米国特許第5,710,140号明細書「Phenyl heterocycles
as COX−2 inhibitors」;米国特許第5,733,909号明細書「Diphenyl stilbenes as prodrugs to COX−2
inhibitors」;米国特許第5,789,413号明細書「Alkylated styrenes as prodrugs to COX−2 inhibitors」;米国特許第5,817,700号明細書「Bisaryl cyclobutenes derivatives as cyclooxygenase inhibitors」;米国特許第5,849,943号明細書「Stilbene derivatives useful as cyclooxygenase−2 inhibitors」;米国特許第5,861,419号明細書「Substituted pyridines as selective cyclooxygenase−2 inhibitors」;米国特許第5,922,742「Pyridinyl−2−cyclopenten−1−ones as selective cyclooxygenase−2 inhibitors」;米国特許第5,925,631号明細書「Alkylated styrenes as prodrugs to COX−2 inhibitors」(これらの特許文献は全てMerck Frosst Canada,Inc.(Kirkland,CA)に譲渡されている)に記載のCOX−2阻害剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。その他のCOX−2阻害剤は、G.D.Searle&Co.(Skokie,IL)に譲渡され、「Substituted sulfonylphenylheterocycles as cyclooxygenase−2 and 5−lipoxygenase inhibitors.」と題された米国特許第5,643,933号明細書にも記載されている。
【0053】
前述の多くのCOX−2阻害剤は選択的COX−2阻害剤のプロドラッグであり、薬理活性を有する選択的COX−2阻害剤に生体内で変換することによりその作用を及ぼす。前述のCOX−2阻害剤プロドラッグから生成される、薬理活性を有する選択的COX−2阻害剤は、国際公開第95/00501号パンフレット(1995年1月5日公開)、国際公開第95/18799号パンフレット(1995年7月13日公開)および米国特許第5,474,995号明細書(1995年12月12日発行)に詳述されている。「Human cyclooxygenase−2 cDNA and assays for evaluating cyclooxygenase−2 activity」と題された米国特許第5,543,297号明細書の教示から、当業者は薬剤が選択的COX−2阻害剤であるか、またはCOX−2阻害剤の前駆体であるか、従って本発明の一部となるかを判定することができるであろう。
【0054】
アンジオテンシン系阻害剤は、アンジオテンシンIIの機能、合成または異化作用を妨げる薬剤である。これらの薬剤としては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、アンジオテンシンIIの異化作用を活性化させる薬剤、およびアンジオテンシンI(これから最終的にアンジオテンシンIIが誘導される)の合成を防止する薬剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。レニン−アンジオテンシン系は、血行動態および水・電解質平衡の調節に関与する。血液量、腎灌流圧、または血漿中Na濃度を低下させる因子は、レニン−
アンジオテンシン系を活性化させる傾向があり、これらのパラメータを上昇させる因子はその機能を抑制する傾向がある。
【0055】
アンジオテンシンII拮抗薬は、アンジオテンシンII受容体に結合し、その活性を妨げることによりアンジオテンシンIIの活性を妨げる化合物である。アンジオテンシンII拮抗薬は周知であり、ペプチド化合物と非ペプチド化合物を含む。大部分のアンジオテンシンII拮抗薬は、僅かに構造が異なる同族体であり、フェニルアラニンの8位を他の何らかのアミノ酸で置換することによりその作動薬活性が減弱され;生体内での変性を緩徐化する他の置換により安定性を高めることができる。アンジオテンシンII拮抗薬の例としては、ペプチド性化合物(例えば、サララシン[(San)(Val)(Ala)]アンジオテンシン(1−8)オクタペプチドおよび関連類似体);N−置換イミダゾール−2−オン(米国特許第5,087,634号明細書);2−N−ブチル−4−クロロ−1−(2−クロロベンジル)イミダゾール−5−酢酸を含む酢酸イミダゾール誘導体(Long et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.247(1),1−7(1988)参照);4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−6−カルボン酸および類似誘導体(米国特許第4,816,463号明細書);N2−テトラゾールβ−グルクロニド類似体(米国特許第5,085,992号明細書);置換ピロール、ピラゾール、およびトリアゾール(tryazoles)(米国特許第5,081,127号明細書);1,3−イミダゾールなどのフェノールおよび複素環誘導体(米国特許第5,073,566号明細書);イミダゾ縮合7員環複素環化合物(米国特許第5,064,825号明細書);ペプチド(例えば、米国特許第4,772,684号明細書);抗アンジオテンシンII抗体(例えば、米国特許第4,302,386号明細書);ビフェニル−メチル置換イミダゾールなどのアラールキルイミダゾール化合物(例えば、欧州特許第253,310号明細書、1988年1月20日);ES8891(N−モルホリノアセチル−(−1−ナフチル)−L−アラニル−(4,チアゾリル)−L−アラニル(35, 45)−4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−シクロ
−ヘキサペンタノイル−N−ヘキシルアミド、三共株式会社、東京、日本);SKF108566(E−α−2−[2−ブチル−1−(カルボキシフェニル)メチル]1H−イミ
ダゾール−5−イル[メチレン]−2−チオフェンプロピオン酸、Smith Kline
Beecham Pharmaceuticals,PA);ロサルタン(DUP753/MK954,DuPont Merck Pharmaceutical Company);レミキレン(Remikirin)(RO42−5892,F.Hoffman LaRoche AG);A作動薬(Marion Merrill Dow)および特定の非ペプチド複素環化合物(G.D.Searle and Company)が挙げられる。
【0056】
ACE阻害剤としては、アミノ酸およびこれらの誘導体、ペプチド(ジ−およびトリ−ペプチドを含む)ならびに抗ACE抗体が挙げられ、これらはACEの活性を阻害し、それにより昇圧物質であるアンジオテンシンIIの生成を低減するまたはそれが生成されないようにすることによりレニン−アンジオテンシン系に介入する。ACE阻害剤は、高血圧、鬱血性心不全、心筋梗塞、および腎臓病を治療するために、医療上使用されてきた。ACE阻害剤として有用であることが知られている化合物の種類には、カプトプリル(米国特許第4,105,776号明細書)およびゾフェノプリル(米国特許第4,316,906号明細書)などのアシルメルカプトおよびメルカプトアルカノイルプロリン類、エナラプリル(米国特許第4,374,829号明細書)、リシノプリル(米国特許第4,374,829号明細書)、キナプリル(米国特許第4,344,949号明細書)、ラミプリル(米国特許第4,587,258号明細書)、およびペリンドプリル(米国特許第4,508,729号明細書)などのカルボキシアルキルジペプチド類、シラザプリル(米国特許第4,512,924号明細書)およびベナゼプリル(benazapril)(米国特許第4,410,520号明細書)などのカルボキシアルキルジペプチド模倣
物、フォシノプリル(米国特許第4,337,201号明細書)およびトランドラプリル(trandolopril)などのホスフィニルアルカノイルプロリン類が挙げられる。
【0057】
レニン阻害剤は、レニンの活性を妨げる化合物である。レニン阻害剤としては、アミノ酸およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、ならびに抗レニン抗体が挙げられる。米国特許の対象となっているレニン阻害剤の例は以下の通りである:ペプチドの尿素誘導体(米国特許第5,116,835号明細書);非ペプチド結合により結合したアミノ酸(米国特許第5,114,937号明細書);ジ−およびトリ−ペプチド誘導体(米国特許第5,106,835号明細書);アミノ酸およびその誘導体(米国特許第5,104,869号明細書および米国特許第5,095,119号明細書);ジオールスルホンアミドおよびスルフィニル(米国特許第5,098,924号明細書);修飾ペプチド(米国特許第5,095,006号明細書);ペプチジルβ−アミノアシルアミノジオールカルバメート(米国特許第5,089,471号明細書);ピロールイミダゾロン(pyrolimidazolones)(米国特許第5,075,451号明細書);フッ素および塩素スタチン(statine)またはスタトン(statone)含有ペプチド(米国特許第5,066,643号明細書);ペプチジルアミノジオール(米国特許第5,063,208および米国特許第4,845,079号明細書);N−モルホリノ誘導体(米国特許第5,055,466号明細書);ペプスタチン誘導体(米国特許第4,980,283号明細書);N−複素環式アルコール(米国特許第4,885,292号明細書);抗レニンモノクローナル抗体(米国特許第4,780,401号明細書);および他の様々なペプチドおよびその類似体(米国特許第5,071,837号明細書、米国特許第5,064,965号明細書、米国特許第5,063,207号明細書、米国特許第5,036,054号明細書、米国特許第5,036,053号明細書、米国特許第5,034,512号明細書、および米国特許第4,894,437号明細書)。
【0058】
本発明の薬剤と併用投与するのに有用なHMG−CoA還元酵素阻害剤としては、シンバスタチン(米国特許第4,444,784号明細書)、ロバスタチン(米国特許第4,231,938号明細書)、プラバスタチンナトリウム(米国特許第4,346,227号明細書)、フルバスタチン(米国特許第4,739,073号明細書)、アトルバスタチン(米国特許第5,273,995号明細書)、セリバスタチン、ならびに米国特許第5,622,985号明細書、米国特許第5,135,935号明細書、米国特許第5,356,896号明細書、米国特許第4,920,109号明細書、米国特許第5,286,895号明細書、米国特許第5,262,435号明細書、米国特許第5,260,332号明細書、米国特許第5,317,031号明細書、米国特許第5,283,256号明細書、米国特許第5,256,689号明細書、米国特許第5,182,298号明細書、米国特許第5,369,125号明細書、米国特許第5,302,604号明細書、米国特許第5,166,171号明細書、米国特許第5,202,327号明細書、米国特許第5,276,021号明細書、米国特許第5,196,440号明細書、米国特許第5,091,386号明細書、米国特許第5,091,378号明細書、米国特許第4,904,646号明細書、米国特許第5,385,932号明細書、米国特許第5,250,435号明細書、米国特許第5,132,312号明細書、米国特許第5,130,306号明細書、米国特許第5,116,870号明細書、米国特許第5,112,857号明細書、米国特許第5,102,911号明細書、米国特許第5,098,931号明細書、米国特許第5,081,136号明細書、米国特許第5,025,000号明細書、米国特許第5,021,453号明細書、米国特許第5,017,716号明細書、米国特許第5,001,144号明細書、米国特許第5,001,128号明細書、米国特許第4,997,837号明細書、米国特許第4,996,234号明細書、米国特許第4,994,494号明細書、米国特許第4,992,429号明細書、米国特許第4,970,231号明細書、米国特許第4,968,693号明細書、米国特許第
4,963,538号明細書、米国特許第4,957,940号明細書、米国特許第4,950,675号明細書、米国特許第4,946,864号明細書、米国特許第4,946,860号明細書、米国特許第4,940,800号明細書、米国特許第4,940,727号明細書、米国特許第4,939,143号明細書、米国特許第4,929,620号明細書、米国特許第4,923,861号明細書、米国特許第4,906,657号明細書、米国特許第4,906,624号明細書および米国特許第4,897,402号明細書(これらの特許の開示内容は参照により本明細書に援用される)に記載の他の多くのものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明は、前述の薬剤のいずれかの1種類以上と本発明の反復RIC療法(regiment)との併用を考えるものと理解されたい。
RIC
本明細書で使用する場合、RIC療法は、一過性虚血イベントの誘発とそれに続く再灌流イベントを1サイクルとして少なくとも1サイクル行うものである。通常、これらの療法は、対象の肢または周囲組織の血流を制限した後、血流制限を取り除き、血液を肢または組織に再灌流させることにより行われる。療法は、1サイクルまたは複数のサイクル(2サイクル、3サイクル、4サイクル、または5サイクル以上を含む)を含んでもよい。1つの重要な実施形態では、療法は、虚血と再灌流を1サイクルとして4サイクル含む。
【0060】
血流制限は、通常、収縮期血圧より高い肢または組織への加圧力(即ち、超収縮期血圧)の形態を取る。それは、収縮期血圧より約5mmHg、約10mmHg、約15mmHg、約20mmHg、約25mmHg、約30mmHg、または約35mmHg以上高くてもよい(大きくてもよい)。収縮期血圧は対象により異なるため、虚血を誘発するのに必要な絶対圧力は対象により異なる。他の実施形態では、圧力は、例えば200mmHgに事前設定されてもよい。他の実施形態では、約160mmHg、約170mmHg、約180mmHg、約190mmHg、約200mmHg、約210mmHg、約220mmHg、約230mmHg、約240mmHg、または約250mmHg以上に事前設定されてもよい。本発明はこれに関して限定されないため、任意の方法を使用して血流制限を達成してもよい。通常、膨張可能なカフを用いてそれを達成してもよいが、止血帯装置も適している。RICを行うための他の自動装置の例を後述する。
【0061】
誘発される虚血イベントは一過性である。即ち、その持続時間は約1分、約2分、約3分、約4分、または約5分以上であってもよい。同様に、再灌流イベントの持続時間は約1分、約2分、約3分、約4分、または約5分以上であってもよい。実施例は、5分間の虚血とそれに続く5分間の再灌流を1サイクルとして4サイクル行った場合の運動機能に対する効果を示す。
【0062】
肢を使用して行う場合、上肢を使用してもまたは下肢を使用してもよいが、上肢が好ましい場合もある。場合によっては、身体の2つの異なる部位で重複してまたは同時にRICを行う。
【0063】
手動であってもまたは自動であっても、一過性の虚血と再灌流を誘発することができれば、どのような装置を使用してRICを行ってもよい。
その最も簡単な形態の1つでは、血圧計(即ち、対象の血圧を測定するのに通常使用される機器)を使用して本方法を実施してもよい。血圧計のカフを対象の肢(即ち、腕または脚)の周囲に配置し、肢の血流を閉塞するのに十分大きい圧力(即ち、対象の収縮期血圧より大きい圧力)になるまで膨張させる。規定の時間(本明細書では虚血持続時間と称される)、カフを膨張状態に維持して肢の血流を止める。虚血持続時間の後、一定時間(本明細書では再灌流持続時間と称される)、カフから圧力を解放して肢に血液を再灌流させる。その後、カフを再膨張させ、処置を直ぐに何回か繰り返す。
【0064】
手動タイプの止血帯を使用して、本方法を同様に実施してもよい。PCT出願国際公開第83/00995号パンフレットおよび米国特許出願公開第20060058717号明細書に記載のものなどの装置を使用してもよい。
【0065】
米国特許出願公開第20080139949号明細書に記載の別のシステムを使用してもよい。このシステムの利点は、医師と独立してそれを使用することができ、且つ、それが必要なRIC療法を自動的に誘発するということである。このシステムを一部、図1に例示しており、それにはカフ10、アクチュエータ12、制御装置14およびユーザ・インターフェース16が示されている。カフは、対象の肢15(対象の腕または脚など)の周囲に配置されるように構成されている。アクチュエータは、作動時に、カフを肢の周囲で縮径させ、肢の血流を閉塞する。制御装置は、サイクルを1回以上繰り返すことを含むプロトコルを実行する。サイクル自体は、カフを作動させて血流を止めること、虚血持続時間、カフを作動状態に維持すること、カフを解放すること、およびカフを弛緩状態に維持して再灌流させることを含む。
【0066】
図2は、RICの実施に使用され得るスキームを表すブロック図を示す。スキームは、対象の肢の周囲にカフを配置することから開始する。次いで、システムを作動させ、制御装置によりプロトコルを開始する。一実施形態では、医療従事者がシステムを作動させる。別の実施形態では、対象がシステムを作動させてもよい。カフは縮径して、対象の肢に、収縮期血圧より高い初期圧力を加える。本明細書に記載のように、初期圧力はシステムのデフォルト値であってもよく、または特定のプロトコルにプログラムされてもよい。次いで、カフが収縮し、対象の収縮期血圧が測定される。これは対象のコロトコフ音または振動の発生を監視することにより達成されてもよい。代替として、または追加で、末端部遠隔センサ(例えば、血流の有無または血流の維持を検知する、指先に装着される装置)を使用してもよい。収縮期血圧を測定した後、システムはプロトコルの第1のサイクルを開始する。幾つかの実施形態では、プロトコルの初期部分として収縮期血圧を測定してもよい。本明細書で使用する場合、プロトコルおよび療法という用語は互換的に使用される。
【0067】
サイクルが開始すると、カフが縮径し、プロトコルに定められた量だけ対象の収縮期血圧より高い目標の圧力を対象の肢に加える。これにより、対象の肢の血流が閉塞される。対象の肢に対する外部圧力が、プロトコルに定められた虚血持続時間、維持される。システムは、虚血持続時間中、対象の圧力解放基準を監視するが、これにはシステム電源異常、システム出力スパイク、およびクイックリリース機構の手動操作を含むことができる。システムはまた、虚血持続時間中、対象の肢の再灌流のあらゆる兆候に関して対象を監視し、それに従って、カフにより加えられる外部圧力を増加させ、このような再灌流を防止する。再灌流の兆候としては、コロトコフ音または振動の発生を挙げることができる。虚血持続時間の経過後、カフは対象の肢の周囲から圧力を解放し、再灌流させる。サイクルに定められた再灌流持続時間、再灌流させる。
【0068】
初期サイクルは、通常、再灌流持続時間後に終了する。この時、次のサイクルが開始してもよく、その場合、カフが作動して、対象の肢の周囲で縮径し、再度、虚血持続時間、肢の血流を閉塞する。
【0069】
図1に示すカフは対象の肢の周囲に配置され、作動時に肢の周囲で縮径するように構成されている。一実施形態では、スリーブは対象の上腕、腓腹、または大腿の周囲に巻き付けられ、所定の位置にぴったりと固定される。カフの一部は、対象の肢の周囲の所定の位置にスリーブを固定するのに使用することができる面ファスナタイプの材料を備えてもよい。アクチュエータは、対象の肢の血流を閉塞する点まで肢が締め付けられるように、カ
フを膨張させる。
【0070】
図示するカフは、カフを膨張させ、対象の肢の周囲で縮径させる空気などの流体が入る膨張可能なブラダー(図示せず)を備える。ブラダーは、軟質プラスチックまたはゴムなどの空気不透過性材料で構成される。膨張時に空気がブラダーに入る、または収縮時に空気がブラダーから出ることができるように、ブラダーの一端に接続口18が設けられている。接続口は、空気ホースなどによるアクチュエータへの接続を容易にする係合機構を備えてもよい。これらの機構としては、ねじ、およびクリップ等を挙げることができる。図示する実施形態は、カフ内に配置された単一のブラダーを備えるが、他の実施形態も可能であることを理解されたい。例として、幾つかの実施形態によれば、別々のブラダーを必要としないように、布帛スリーブ自体が空気不透過性であってもよい。他の実施形態では、本発明の態様はこの点に関して限定されないため、共通のスリーブに複数の別々の膨張可能なブラダーを組み込んでもよい。
【0071】
RICを受ける対象の全身サイズは非常に様々となる可能性があり、特に、本方法を適用できる種の範囲を考慮すると、非常に様々となる可能性がある。このばらつきを考慮すると、カフの幾つかの実施形態は、予想され得る様々な対象の肢の周囲寸法に適合するように、広範囲にわたり調節可能であることが望ましい場合がある。幾つかの実施形態によれば、カフは、0.91m(3フィート)以下の周囲寸法に適合し得るように、長さが0.91m(3フィート)より長い膨張可能な布帛スリーブを備える。カフの実施形態は、ずっと小さい対象(新生児を含む)の上腕または脚に適合するように、5.08cm(2インチ)、2.54cm(1インチ)、またはさらにはそれ以下の小さい幅を備えてもよい。しかし、本発明の態様はこの点に関して限定されないため、他の実施形態は、ずっと狭い範囲の肢サイズを取り囲むように構成できることも理解されたい。
【0072】
対象の肢の周囲にカフを締め付けるまたはカフを解放するためのアクチュエータとして、様々な装置を使用することができる。図1の実施形態に示すように、アクチュエータは、膨張可能なカフに空気ホースを通して圧縮空気を供給する空気ポンプを備える。アクチュエータはまた、対象の肢の周囲でカフが緩むように、作動時に膨張可能なカフと外部環境との間の通路を開放し、カフから圧縮空気を逃がす排気弁20も備える。
【0073】
空気ポンプは、圧縮空気を送給することができる任意の装置を備えてもよい。幾つかの実施形態によれば、空気ポンプはピストン圧縮機を備えるが、渦巻きポンプおよびスクロール圧縮機のような他の種類のポンプを使用することもできる。幾つかの実施形態によれば、ポンプは毎分2.8×10−3〜0.57m(毎分0.1〜20立方フィート)の速度、頭部圧力345kPa(50psi)以下の気流を供給するように構成されてもよい。しかし、本発明の態様はこの点に関して限定されないため、他の流量および/または圧力も可能である。
【0074】
前述のように、アクチュエータは、対象の肢の周囲からカフを解放する解放機構を備えてもよい。図示する実施形態では、解放は、制御装置ハウジング内に配置される排気弁20を備える。図示するように、排気弁は、完全に閉鎖した位置と完全に開放した位置との間を迅速に移動し、カフから空気を迅速に放出して対象からカフを迅速に解放するソレノイドであってもよい。幾つかの実施形態によれば、例えば、カフの圧力を調節するために、または対象の血圧を測定するときに必要とされ得るような比較的制御された圧力解放を可能にするために、同じ排気弁または別の排気弁を、ゆっくり開放するように作動させてもよい。
【0075】
本システムの実施形態は、対象の肢からカフを迅速に解放することを可能にする安全機構を備えてもよい。さらに、これらの実施形態の幾つかは、対象が不快感を感じるときな
どに、対象が容易に作動させることができる。一実施形態では、安全解放機構22は、カフに、またはカフの近傍に配置された大きなボタンを備える。この点に関して、安全解放機構は対象の手が届く範囲にある。他の実施形態では、安全解放機構は、対象の空いている手に保持することができるものなどの、別個のアクチュエータを備えてもよい。安全解放機構の作動により空気カフの排気弁が開放し、それによりカフから空気を迅速に排出することができる。
【0076】
本システムはまた、連続的に動作するカフ解放機構を備えることもできる。例として、カフから圧縮空気を連続的にゆっくりと放出するために、緩速排気弁を空気カフに組み込んでもよい。連続的な緩速解放機構は、電源異常、または、冗長安全機構が適切に作動することを妨げ得る他の事態に直面しても、対象の肢を安全に解放することができる。連続的な緩速解放機構は空気カフに限定されないため、空気で膨張可能なカフを使用しない実施形態に類似のタイプの機構を組み込んでもよい。
【0077】
本システムの実施形態は、プロトコルおよびシステム内の他の任意のセンサから情報を受け取り、アクチュエータを制御してRICを行う制御装置を備える。制御装置とプロトコルの組み合わせは、多くの方法のいずれかで実行することができる。例えば、一実施形態では、制御装置とプロトコルの組み合わせは、ハードウェア、ソフトウェア、またはこれらの組み合わせを使用して実行されてもよい。ソフトウェアで実行する場合、ソフトウェアコードは、1台のコンピュータに設けられたものであってもまたは複数のコンピュータに分配されたものであっても、任意の適したプロセッサまたはプロセッサの集合ですることが実行できる。本明細書に記載の機能を果たす任意の構成要素または構成要素の集合は、一般的に、本明細書に記載の機能を制御する1つ以上の制御装置と見なされることを理解されたい。1つ以上の制御装置は、専用のハードウェアを用いる、またはマイクロコードもしくはソフトウェアを使用して前述の機能を果たすようにプログラムされる汎用のハードウェア(例えば、1つ以上のプロセッサ)を用いるなどの多くの方法で実行することができる。1つ以上の制御装置は1つ以上のホストコンピュータ、1つ以上の記憶システム、または1つ以上の制御装置に連結された1つ以上の記憶装置を備え得る他の任意の種類のコンピュータに備えられていてもよい。一実施形態では、制御装置は、無線で、または電気ケーブルもしくは光ケーブルで離れた場所に通信する通信回路を備える。
【0078】
この点に関して、本発明の実施形態の実行の1つには、制御装置により実行されると本発明の実施形態の本明細書に記載の機能を果たすコンピュータプログラム(即ち、複数の命令)の形態のプロトコルがコード化された少なくとも1つのコンピュータ読み取り可能な媒体(例えば、コンピュータメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク、テープなど)が含まれることを理解されたい。コンピュータ読み取り可能な媒体は、それに記憶されたプロトコルを任意のコンピュータシステム資源にロードし、本明細書に記載の本発明の態様を実行することができるように、携帯可能であってもよい。さらに、実行されると本明細書に記載の機能を果たすプロトコルまたは制御装置とは、ホストコンピュータで実行されるアプリケーションプログラムに限定されるものではないことを理解されたい。むしろプロトコルという用語は、本明細書では一般的な意味で使用され、本発明の本明細書に記載の態様を実行するようにプロセッサをプログラムするのに使用できる任意の種類のコンピュータコード(例えば、ソフトウェアまたはマイクロコード)を指す。
【0079】
システムは、また、対象および/またはシステム自体の一部から情報を受け取る1つ以上のセンサ26を備えてもよい。このようなセンサは、処置される肢を含む、対象の任意の部分の血流に関する情報を受け取ることができる。これらのセンサは、また、空気カフ内の空気圧、カフにより加えられる圧力の直読値、または張力帯(tension band)の一部の張力などの、システムの他の動作パラメータに関する情報を受け取ること
もできる。
【0080】
空気カフは、カフ内の圧力を測定するセンサを備えてもよい。カフ圧力は、カフの下の肢の血管内に存在する圧力を直接示すことが多い。システムの制御装置は、本明細書に記載のようにサイクルの虚血持続時間中に維持されなければならない特定のカフ圧力を目標にするようにプログラムされることが多い。空気カフを備える実施形態では、圧力センサは、カフの加圧空間内、空気ホース、またはさらにはアクチュエータ自体の中のどこに配置されてもよい。圧力センサはまた、カフと対象の肢の外面との間の圧力を直接測定するようにカフの内面に配置されてもよい。使用中、カフは、目的の血管の圧力がより直接的に測定されるように、圧力センサが対象の動脈上に直接配置されるような向きに配置されてもよい。
【0081】
一実施形態では、システムは、また、コロトコフ音を検出するため、1つ以上の振動および/または超音波センサ28を備えてもよい。コロトコフ音は、一般に、収縮期と拡張期の間の圧力が対象の動脈に外部から加えられるときに存在するものと理解される。収縮期血圧は対象の血管の血流を完全に閉塞する圧力値と関連し、この点に関して、システムがそれをフィードバックとして使用し、システム内の圧力が血流を可能にするのに十分低い、または血流を閉塞するのに十分高いことを確認することができる。
【0082】
カフを装着する肢の血流または再灌流の停止を確認するため、1つ以上のセンサを備えてもよい。例えば、幾つかの場合、カフを装着する肢の末端部(肢の手指または足指など)にパルスオキシメータ30を配置してもよい。パルスオキシメータは、対象の血管内の血液の脈動および酸素で飽和されているヘモグロビンのパーセンテージに関する情報を提供することができる。肢の血流が生じていないとき、パルスオキシメータは脈拍がないことを検出し、血流の閉塞が確認される。さらに、パルスオキシメータは、酸素で飽和されているヘモグロビンのパーセンテージも検出することができ、それは肢の血流が停止すると低下することになる。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、光電脈波変換器、超音波流量変換器、温度変換器、赤外線検出器、および近赤外線変換器などの他のセンサを使用して血流の停止を確認してもよいことを理解されたい。
【0083】
前述のように、本システムは、制御装置により、システムの動作を指示するプロトコルを備える。プロトコルの実施形態には、カフ作動、虚血持続時間、カフ解放、および再灌流持続時間を含むサイクルが含まれる。プロトコルの多くの実施形態では、サイクルを複数回繰り返してもよい。さらに、プロトコルの幾つかの実施形態には、収縮期血圧の測定が含まれる。
【0084】
サイクルのカフ作動部分は、対象の肢の周囲でカフを縮径させ、肢の血流を閉塞することを含む。カフの縮径は、目標とするカフ圧力設定値などのプロトコルからの命令を読み取る制御装置により、および制御装置を起動してカフを目標とする設定値に到達させることにより達成される。目標とする設定値の達成は、本明細書に記載のセンサおよび方法のいずれかにより検知されてもよい。
【0085】
サイクルの虚血期の間、対象の肢の周囲で圧力を維持し、肢の血流の再灌流を防止する。虚血期の長さは虚血持続時間と称され、通常、医師または他の医療従事者により定められ、プロトコルにプログラムされる。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、虚血持続時間は数秒間と短くてもよく、または20分間と長くてもよく、またはさらにはそれより長くてもよい。幾つかの実施形態では、虚血持続時間は、同じプロトコル中、サイクル毎に異なるが、他の実施形態では虚血持続時間は一定である。
【0086】
制御装置は、カフにより加えられる圧力を対象の収縮期血圧より高い設定値に維持する
ように作動する。カフの実施形態は、経時的に対象の肢に対して弛緩し、それにより圧力を低下させ、最終的に再灌流させることができる。これは、対象の肢の筋肉の弛緩、肢の周囲でのカフの伸張、および空気漏れ(意図的なまたは偶発的な)等を含む様々な要因によって起こり得る。この目的のために、センサが制御装置に圧力読取値をフィードバックとして提供してもよい。制御装置は、設定値と実際の圧力読取値との差を測定することができ、必要なコマンドをアクチュエータに与えて、誤差を補償することができる。
【0087】
様々な方法を使用して、虚血持続時間中の制御装置の適切な設定値を定めることができる。一実施形態によれば、設定値は、医師(または他の医療従事者)により手動でプロトコルに入力される。あるいは、医師が対象の収縮期血圧に関する設定値を選択してもよい。一実施形態では、設定値は、対象の収縮期血圧より一定の圧力量高い値として、例えば、対象の収縮期血圧より5mmHg、10mmHg、15mmHg、20mmHg、25mmHg、30mmHg、または他の任意の一定量高い値として選択されてもよい。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、他の実施形態では、設定値は対象の収縮期血圧のパーセンテージとして、例えば、収縮期血圧の102%、105%、110%、115%および他のパーセンテージとして定められてもよい。収縮期血圧より高い設定値は、医療従事者により設定されてもよく、対象の身体のサイズ、対象の肢のサイズ、対象の血圧、および血流停止の確認等を含む幾つかの要因に依存し得るが、これらに限定されるものではない。
【0088】
プロトコルは、幾つかの実施形態によれば、対象の収縮期血圧を測定する段階を含む。センサで肢のコロトコフ音または振動の発生を監視しながら、カフを対象の肢の周囲で、収縮期血圧より高いと考えられる点から意図的に緩めてもよい。収縮期血圧を測定した後、プロトコルを通常の手順で継続してもよい。
【0089】
収縮期血圧の測定は、任意選択により、プロトコル中いつ行われてもよく、または全く行われなくてもよい。幾つかの実施形態によれば、各サイクルは、対象の収縮期血圧の測定から開始する。他の実施形態では、プロトコルの初期部分の間に1回だけ収縮期血圧を測定してもよい。さらに他の実施形態では、各サイクルのカフ解放部分の間、カフが解放される時に収縮期血圧を測定してもよい。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、さらに本明細書に記載のように、プロトコル中、収縮期血圧を全く測定しなくてもよい。
【0090】
システムは、虚血持続時間中、圧力設定値を調節するように構成されてもよい。本明細書に記載のように、システムは再灌流の発生を検出するセンサを備えてもよい。一例として、これは、コロトコフ音または振動の存在を検出することにより達成されてもよい。虚血持続時間中のコロトコフ音の存在は、カフ圧力が収縮期血圧より低くなったか、または収縮期血圧が、以前は収縮期血圧よりも高かった設定値を越えたことを示す可能性がある。追加でまたは代替として、例えば、血流の有無を検出する指に装着される装置を含む、他の装置を使用してもよい。このような場合、制御装置は、新たに測定された収縮期血圧および/または他の情報に基づいて設定値を調節してもよく、この点に関して、さもなければ起こり得る望ましくない再灌流を検出および防止することができる。
【0091】
サイクルのカフ解放部分は虚血持続時間の終わりに行われ、カフを拡張期血圧より低い点まで解放することを含む。 幾つかの実施形態によれば、カフの解放は、カフの圧力ま
たは張力の解放を含む。空気カフを使用する実施形態では、これは、単に排気弁を全開位置に移動させて、カフ圧力を迅速に低下させ、それに対応して対象の肢の周囲でカフを迅速に弛緩させることにより行われてもよい。しかし、本発明の態様はこの点に関して限定されないため、他の実施形態では、カフ弛緩は比較的緩速に、比較的制御して行われてもよいことを理解されたい。さらに、本明細書に記載のように、カフの解放は、コロトコフ
音または振動の発生を監視し、対象の収縮期血圧を測定または確認しながら行ってもよい。
【0092】
サイクルの実施形態では、カフ解放後に再灌流持続時間が続く。一定時間(再灌流持続時間と称される)肢に再灌流させる。虚血持続時間と同様に、様々な長さの時間、即ち5秒間、または1分間以上の短時間、および20分間、またはさらにはそれ以上の長時間、再灌流させてもよい。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、再灌流持続時間は、共通プロトコル中、毎サイクル一定であってもよく、またはサイクル毎に異なってもよい。
【0093】
プロトコルは、任意の数のサイクルを備えてもよい。本明細書に記載のように、共通のサイクルを単に複数回、例えば、2回、3回、または4回以上繰り返して、プロトコルを完了してもよい。あるいは、異なるパラメータ(異なる虚血持続時間、再灌流持続時間、および虚血持続時間中の圧力設定値など)を有するように、プロトコルのサイクルをプログラムしてもよい。
【0094】
幾つかの実施形態では、システムは、プロトコルの全段階のシステムパラメータ(カフ圧力または張力など)を記録するデータロギング機構を備えてもよい。また、動作の日時が記録されてもよい。また、対象を識別する個人情報などの他の特徴がシステムにより記録されてもよい。
【0095】
システムの実施形態は、対象または医療従事者にプロトコルの進行に関して知らせる様々な機構を組み込んでもよい。可聴または可視インジケータがプロトコルの段階のいずれかに付随してもよい。例として、クロックが、プロトコルの所与の部分またはプロトコル全体に対する経過時間または残り時間を示してもよい。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、実施形態は、対象および/または医療従事者が常に情報を得ることができるようにする他の機構を備えてもよい。
【0096】
幾つかの実施形態によれば、システムは、対象による改ざんまたは偶発的再プログラムを防止する機構を備える。例として、幾つかの実施形態では、コードを入力しないと再プログラム可能な機構にアクセスできないようにしてもよい。これにより、対象が誤ってプロトコルを再プログラムすること、または他にシステムの動作を妨げることを防止することができる。電子キーおよび機械的ロック等の他の装置を使用して偶発的再プログラムを防止してもよいことを理解されたい。
【0097】
システムは様々な環境で使用されるように構成されてもよい。例として、システムは、容易に移動できるように、キャスター付きの移動式スタンドに取り付けられてもよい。スタンドは、制御装置、ユーザ・インターフェース、およびカフへの接続部品を対象に好都合な高さに配置することができる。他の実施形態では、システムは携帯用として構成される。このような実施形態では、システムは、持ち運びし易いようにスーツケースに容易に入るように構成されてもよい。
【0098】
システムは、また、図1の実施形態に示す構成要素に限定されるものではない。例として、図3に示すもののような他の実施形態によれば、カフは、代替の機構で対象の肢を縮径するように構成されてもよい。図示する実施形態では、カフは、一端に配置されたラチェット機構を有する帯状体として構成されている。使用中、帯状体の自由端をラチェット機構に通して、帯状体を対象の肢の周囲に巻く。このような実施形態では、アクチュエータは、帯状体の自由端を引いてラチェット機構をさらに通るようにし、肢の周囲でカフを縮径させる、またはラチェット機構を解除して帯状体を解放し、肢から帯状体を解放する機構を備えてもよい。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、止血帯機構など
のさらに他の機構も可能である。
【0099】
図3を参照して前述したように、幾つかの実施形態は、膨張せず、別の機構により対象の肢の周囲に締め付けられる帯状体を備えるカフを有してもよい。このような機構では、アクチュエータは、帯状体に張力が加わるように、帯状体の一端を帯状体の他の部分に対して移動させるように構成された張力調整機構を備えてもよい。図示するように、機構は、ハウジング内で互いに至近距離に保持された対向するローラを備えてもよい。ハウジングは、帯状体の自由端を受け入れるスロットと、帯状体の反対側の端部に固定取り付けするための固定点を備えてもよい。帯状体の自由端をスロットに入れてローラの間に通す。電気モーターなどにより、ローラを互いに対して回転するように機械的に作動させ、自由端をハウジングを通して引き、このようにして対象の肢の周囲に帯状体を締め付けてもよい。
【0100】
張力調整機構は、フリーホイールラチェット機構に取り付けられた対向するローラを備えてもよい。フリーホイール機構により、僅かな抵抗で帯状体をスロットを通して一方向に引くことが可能であるため、帯状体を迅速に引いて対象の肢の周囲にぴったりと配置することができる。フリーホイール機構はまた、この機構が解除されない限り、または対向するローラが作動しない限り、帯状体がスロットを通って緩む方向に移動することを防止する。本発明の態様はこの点に関して限定されないため、全ての実施形態がフリーホイール機構を備えるわけではないことを理解されたい。
【0101】
対向するローラは、使用中、どちらかの方向に回転して帯状体の締め付けと緩めを行う。必要に応じて、ローラは、帯状体が特定の張力を達成するまで迅速に回転することができる。使用中、帯状体の張力を微調整するためにローラをさらに作動させてもよい。対象の肢からカフを解放する場合、ラチェット機構またはクラッチを解除して対向するローラが自由に動き、従って張力が迅速に解放されるようにしてもよい。
【0102】
本発明はさらに、医療介入を行うための装置(例えば、ステントまたはカテーテルなど)と、遠隔虚血コンディショニングを行うための構成要素または装置全体(例えば、使い捨てカフなどのカフ、またはカフを汚染することなく繰り返し使用できるようにするカフ用の被覆(例えば、スリーブ)など)とを備えるキットを考える。一例として、本発明は、ステントまたはカテーテルと、使い捨てカフまたは血圧カフ用の使い捨てライナーもしくはスリーブとを備えるキットを考える。キットは、2つ以上のカフ(2つ、3つ、または4つ以上のカフを含む)を備えてもよい。キットは、2つ以上のライナーまたはスリーブ(2つ、3つ、または4つ以上のライナーまたはスリーブを含む)を備えてもよい。
【0103】
本発明の態様は、本明細書に示すカフの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0104】
方法
12匹のニュージーランドホワイト種ウサギ(平均体重3.4キロ)にペントバルビタールを筋肉内投与した後、亜酸化窒素で全身麻酔した。気管内挿入後、間欠的血液ガス分析によるPaCOが32〜35 mmHgに維持されるように換気を機械的に制御した
。計器装備の完了後、5分間動物を安定化させ、シャムまたは実際の虚血プレコンディショニング刺激を行った。虚血プレコンディショニング刺激は、5分間の左後肢虚血とそれに続く5分間の再灌流を1サイクルとして4サイクルからなった。止血帯の有効性を同側の足へのパルスオキシメトリーおよび虚血中の蒼白および再灌流時の潮紅を視診することにより検証した。シャム群の動物を同様に処置し、麻酔持続時間も同様にして、その間、後肢の周囲に巻いた止血帯のシャム締め付けを行ったが、シャム虚血期中には血流または血液還流の抑制は行わなかった。
【0105】
虚血プレコンディショニングまたはシャム処置後、無作為化に対して盲検化された外科医が、全ての動物の右頚動脈切開を行った。直視下に3フレンチの動脈シースを右頚動脈に挿入し、3フレンチのジャドキンズ冠動脈ガイディングカテーテルを、ワイヤ上を遠位腹部大動脈に進めたが、ここでそれは左腸骨動脈と右腸骨動脈に分かれる。これを、手術室にあるcアームカメラを使用し直接蛍光透視法により視覚化した。造影剤注入を使用して、3.6mm(0.14”)のガイドワイヤを右腸骨動脈に導き、3mmまたは3.5mmのノンコンプライアントバルーンを右腸骨(ileac)動脈の中間点でワイヤに被せた。これを遠位大動脈から約20mmの、側枝のない、直線状の径を有する部位に配置することを試みた。バルーンを腸骨動脈のサイズの約1.5倍に膨張させ、30秒間の膨張と30秒間の収縮を行う膨張サイクルを3回繰り返した。バルーン傷害後、および最終的な血管造影で順行性血流を確認した後、バルーンおよびガイディングカテーテルを頚動脈シースと共に抜去し、右頚動脈を結紮し、切開部位を縫合した。
【0106】
長期コンディショニングプロトコル
バルーン傷害の前に遠隔プレコンディショニングに無作為に割り付けられた動物は、バルーン傷害後もさらに6日間毎日、反復コンディショニングで処置された。これは、左後肢に、5分間の虚血とそれに続く5分間の再灌流を1サイクルとして4サイクル行う同一のプロトコルを使用して達成され、評価は前述のものと同一であった。動物には麻酔をかけず、簡単に拘束してコンディショニング刺激を与えた。血管傷害時にシャム群に入っていた動物は、事後期間も引き続きシャム群に入れた。それらは遠隔コンディショニングを受ける代わりに、7日間毎日、同じ時間拘束され、左後肢の周囲に止血帯を巻いたが締め付けは行わなかった。
【0107】
見出しの外科処置の後、30日間、全ての動物を経過観察した。その時点で、それらにペントバルビタールで麻酔をかけ、安楽死させた。右腸骨動脈と左腸骨動脈を採取した。それらを固定、染色し、盲検化された観察者が分析した。各動物について血管傷害の目視評価およびその程度の等級付けを行い、詳細な形態計測を行うために各傷害部位の薄片を6つ得た。処置への無作為割付に対して盲検化された観察者が血管組織の評価を行った。
【0108】
結果
詳細な形態計測の結果を図4に示す。長期コンディショニングを受けるように無作為に割り付けられた動物では、観察した切片の新生内膜増殖が非常に有意に(p=0.02)低減し、中膜の変化を示す証拠はなかった。その結果、内膜対中膜の厚さの比が有意に(p=0.04)低減した。
【0109】
結論
これらのデータは、長期コンディショニングに伴う血管傷害の低減を示唆し、これらの動物では測定可能な血管傷害が約50%低減する。
【0110】
均等物
前述の明細書は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに十分であると考えられる。実施例は本発明の1つ以上の態様の例示に過ぎないため、本発明の範囲は記載した実施例に限定されるものではない。他の機能的に同等の実施形態も本発明の範囲に入ると考えられる。前述の説明から当業者には、本明細書に図示し記載するものの他に本発明の様々な変更形態が明らかとなるであろう。本発明の限定のそれぞれは、本発明の様々な実施形態を包含することができる。従って、いずれか1つの要素または要素の組み合わせを含む本発明の限定のそれぞれを本発明の各態様に含むことができることが予想される。本発明の適用は、前述した、または図面に示した構成要素の構成および配置の詳細に限定されるものではない。本発明は、他の実施形態、および様々な方法で実施または実行するこ
とが可能である。
【0111】
また、本明細書で使用する語法および用語は、説明を目的とするものであって、本発明を限定するものと見なされるべきではない。本明細書における「含む(including)」、「備える」、または「有する」、「含有する」、「含む(involving)」およびこれらの変形の使用は、その後に記載されるものおよびそれらの均等物ならびに追加のものを包含することを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の再狭窄を低減する方法であって、
再狭窄を有するまたはその発現リスクがある対象に反復遠隔虚血コンディショニング(RIC)療法を、再狭窄の発生率または重症度を低減するのに十分な量と頻度で行うこと、を含む方法。
【請求項2】
医療介入の後に再狭窄が発生する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反復RIC療法が、1日で行われる2回以上のRIC療法を含む、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反復RIC療法が、1日で行われる2回、3回、4回、または5回のRIC療法を含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反復RIC療法が、2日以上で1回以上のRIC療法を含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反復RIC療法が、1ヶ月間毎日行われる1回以上のRIC療法を含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反復RIC療法が、1ヶ月間1日おきに行われる1回以上のRIC療法を含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記反復RIC療法が、6ヶ月間にわたる1回以上のRIC療法を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反復RIC療法が、2日以上で2回以上のRIC療法を含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象がヒトである、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が医療介入を受ける、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記反復RIC療法が前記医療介入の前に行われる、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反復RIC療法が医療介入中に行われる、
請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記反復RIC療法が医療介入後に行われる、
請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記反復RIC療法が医療介入の前後に行われる、
請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記医療介入が血管内ステント留置術である、
請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記血管内ステント留置術が動脈ステント留置術である、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記血管内ステント留置術が静脈ステント留置術である、
請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記血管内ステント留置術がベアメタルステント留置術である、
請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記血管内ステント留置術が薬剤溶出ステント留置術である、
請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記医療介入が血管形成術である、
請求項2または請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記医療介入が非血管ステント留置術である、
請求項2および請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記医療介入が食道ステント留置術、気管ステント留置術、尿管ステント留置術、または胆管ステント留置術である、
請求項2および請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1回のRIC療法が前記医療介入の24時間以内に行われる、
請求項2および請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1回のRIC療法が前記医療介入の2時間以内に行われる、
請求項2および請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1回のRIC療法が前記医療介入の1時間以内に行われる、
請求項2および請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1回のRIC療法が少なくとも4サイクルを含み、各サイクルが超収縮期血圧と再灌流とを含む、
請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1回のRIC療法が、5分間の超収縮期血圧と5分間の再灌流とを含むサイクルを2サイクル以上含む、
請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記超収縮期血圧が収縮期血圧より少なくとも15mmHg高い圧力である、
請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記反復RIC療法が同じ部位で行われる、
請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記反復RIC療法が上肢で行われる、
請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記反復RIC療法が下肢で行われる、
請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記対象に抗血小板剤を投与することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記対象に抗炎症剤を投与することをさらに含む、
請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−518618(P2013−518618A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551380(P2012−551380)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【国際出願番号】PCT/US2011/023296
【国際公開番号】WO2011/094730
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(501181075)
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【Fターム(参考)】