説明

再生ポリオールの製造方法

【課題】精製工程が不要で製造工程簡略にでき、しかも再生ポリウレタンフォームの原料として使用可能な再生ポリオールの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】硬質又は軟質ポリウレタンフォームを、ポリウレタンフォームの分解触媒として50℃〜250℃の温度で作用するアミンの塩からなる遅延触媒と、グリコール又はグリセリンの一方又は両方との存在下、100℃〜250℃の温度で所定時間加熱してポリウレタンフォームを分解し、再生ポリウレタンフォームの原料として使用可能な再生ポリオールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォームから再生ポリオールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオール、イソシアネート、発泡剤、触媒等を含むポリウレタン原料から形成されたポリウレタンフォームは、種々の分野で用いられている。例えば、自動車や家具等のクッション等には軟質ポリウレタンフォームが使用され、また冷蔵庫等の断熱材には硬質ポリウレタンフォームが使用されている。
【0003】
近年、石油資源の枯渇の問題、廃棄物による環境汚染の問題等からポリウレタンフォームを化学的に分解して再生ポリオールを製造する方法が提案されている。
従来、再生ポリオールの製造方法として、グリコシス法、アミノリシス法、アルカリ分解法が提案されている(特許文献1、2における従来の技術欄)。
【0004】
グリコシス法は、ポリウレタンフォームをジエチレングリコールなどの低分子グリコールを用いて加熱分解し、ポリウレタンフォーム中のウレタン結合や尿素結合を低分子化する方法である。
アミノリシス法は、ポリウレタンフォームをモノエタノールアミンで分解してポリウレタンフォーム中のウレタン結合や尿素結合を切断し、低分子化する方法である。
アルカリ分解法は、グリコシス法において苛性ソーダ水溶液等を使用してポリウレタンフォーム中のウレタン結合や尿素結合を分解する方法である。
【0005】
また、硬質ポリウレタンフォームを粉末状にして炭素数2〜4のグリコール類又はアミン類を混合し、100〜250℃で加熱して液状化させた後、前記液状化物と高温高圧水とを反応させることによりポリウレタン原料を製造する方法が提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかし、従来の方法においては、ポリウレタンフォームを分解するために、分解触媒としてアミン又は塩基を加えており、前記アミン、塩基がその後の再生原料に混入し、再生ポリウレタンフォームの反応発泡時に、反応の不具合を生じるため、アミン又は塩基を除去する精製工程が必要であり、工程が複雑になってコストが上昇する問題がある。
【0007】
また、廃棄冷蔵庫から分離された硬質ポリウレタンフォームを、炭素数2〜4のグリコール類又はアミン類と混合し、100〜250℃で加熱して液状化した後、この液状化物と高温高圧状態の水とを190〜400℃、10〜25MPaで反応させてポリウレタン原料とし、このポリウレタン原料にアルキレンオキサイドを付加重合してポリウレタン原料ポリオールとする方法が提案されている(特許文献2の特許請求の範囲)。しかし、この方法においては、ポリオール鎖も分解するため、重合工程が必要であり、工程が複雑になってコストが上昇する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−126344号公報
【特許文献2】特開2001−106763号公報
【特許文献3】特開2003−11122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、精製工程が不要で製造工程を簡略にできる再生ポリオールの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリウレタンフォームから再生ポリオールを製造する方法において、ポリウレタンフォームを、ポリウレタンフォームの分解触媒として50℃〜250℃の温度で作用する遅延触媒と、グリコール又はグリセリンの一方又は両方との存在下、100℃〜250℃の温度で加熱して再生ポリオールとすることを特徴とする。また、前記遅延触媒はアミンの塩が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、グリコール又はグリセリンの一方又は両方を用いるグリコシス法によりポリウレタンフォームを分解して低分子化し、再生ポリオールとする。その際、100℃〜250℃の加熱によって遅延触媒が作用するため、効率よくポリウレタンフォームを分解することができる。しかも、得られた再生ポリオールに含まれる遅延触媒は、その後に再生ポリオールを用いてポリウレタンフォームを製造する際の通常の発泡初期時の温度(25℃〜50℃未満)では触媒作用を発揮せず、ウレタン反応への影響が無いことから、再生ポリオールの製造時におけるポリウレタンフォームの分解後、遅延触媒等を除去する精製工程が不要である。また、遅延触媒をアミンの塩とすれば、ポリウレタンフォームの分解時における加熱で遅延触媒が分解されてアミンと酸になり、そのアミンによってポリウレタンフォーム中のウレタン結合を分解し、しかもポリオール鎖を分解することがないため、良好に再生ポリオールを製造することができる。さらに、ポリウレタンフォームの分解によって得られた再生ポリオール中では、再びアミンの塩となるため、再生ポリオールを使用してポリウレタンフォームを発泡させる際に影響を与えることがない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、ポリウレタンフォームを、ポリウレタンフォームの分解触媒としての遅延触媒と、グリコール又はグリセリンの一方又は両方との存在下100℃〜250℃の温度で加熱して再生ポリオールを製造する。
本発明において使用するポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォーム又は硬質ポリウレタンフォームの何れでもよく、さらには、エーテルタイプあるいはエステルタイプの何れでもよい。また、複数種類のポリウレタンフォームが混合されたものでもよい。ポリウレタンフォームは、分解が容易なように粉砕して使用するのが好ましい。
【0013】
ポリウレタンフォームの分解触媒として使用する遅延触媒は、感温性触媒とも称され、50℃〜250℃の温度でポリウレタンフォームの分解触媒として作用するもの、すなわちポリウレタンフォームの分解触媒としての触媒開始温度が50℃〜250℃のもの、好ましくは50℃〜150℃、特に好ましくは50℃〜80℃のものである。なお、触媒開始温度は、触媒として作用を開始する温度であり、触媒開始温度以上の温度で触媒として作用する。遅延触媒としては、50℃〜250℃の温度、好ましくは50℃〜150℃、特に好ましくは50℃〜80℃の触媒開始温度(この場合は分解温度とも称される)でアミンと酸に分解するアミンの塩がより好ましい。前記アミンの塩の分解により生じるアミンは、ポリウレタンフォーム中のウレタン結合を化学的に分解して液状化し、しかもその際にポリオール鎖を分解することがない。
【0014】
遅延触媒として好適なアミンの塩としては、アミンのフェノール塩、ギ酸塩、オクチル酸塩、オレイン酸塩等の誘導体のような環状アミン化合物の有機酸塩等を挙げることができる。これらのうち、感温性触媒として触媒活性の高いジアザビシクロアルケンのフェノール塩、オクチル酸塩等の塩が好ましい。
また、アミンとしては、ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−(2−ジメチルアミノ)エチルピペラジン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン等のピペラジン系アミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のモルホリン系アミン、1,8−ジアザビシクロ−[5,4,0]−ウンデセン−7(略称DBU)、1,5−ジアザビシクロ−[4,3,0]−ノネン−5(略称DBN)、1,8−ジアザビシクロ−[5,3,0]−デセン−7(略称DBD)、1,4−ジアザビシクロ−[3,3,0]オクテン−4(略称DBO)等のDBU同属体と称されるアミン等を挙げることができる。なお、本発明に好適な遅延触媒として市販されているものとして、例えば、ジアザビシクロノネン(アミン)とオクチル酸との塩からなる1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5−オクチル酸塩(品番:U−CAT 1102、サンアプロ(株)製、触媒開始温度70−80℃)、ジアザビシクロウンデセン(アミン)とフェノールとの塩からなる1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7−フェノール塩(品番:U−CAT SA1、サンアプロ(株)製、触媒開始温度70−80℃)、3級アミン塩(品番:TOYOCAT−NCT、東ソー(株)製、触媒開始温度50−70℃)、3級アミン塩、(品番:TOYOCAT−DB−70、東ソー(株)製、触媒開始温度50−70℃)、3級アミン塩、(品番:TOYOCAT−DB−30、東ソー(株)製、触媒開始温度50−70℃)などを挙げることができる。触媒開始温度(分解温度)は、DSC(10℃/min、測定範囲30℃〜)により確認した。遅延触媒の量は、ポリウレタンフォーム100重量部に対して2〜10重量部が好ましい。
【0015】
グリセリン又はグリコールは、ポリウレタンフォームを分解して低分子化するものであり、何れか一方又は両者が使用される。グリコールとしては、炭素数2〜4の低分子グリコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル等を挙げることができる。グリセリンとグリコールの何れか一方又は両方の使用量は、ポリウレタンフォーム100重量部に対して100〜300重量部が好ましい。
【0016】
再生ポリオールの製造時における加熱温度は、100℃よりも低い場合、ポリウレタンフォームの分解の進行が遅くなって効率が悪く、一方250℃よりも高い場合には、ポリオールが分解する。また加熱時間は、1〜10時間が好ましい。さらに、加熱時には撹拌するのが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下にポリウレタンフォームから再生ポリオールを製造する例、さらには得られた再生ポリオールを用いて再生ポリウレタンフォームを作製する例について示す。以下の例では、まず、ポリウレタンフォームを作製し、得られたポリウレタンフォームから再生用ポリオールを製造している。
【0018】
(実施例1)
1A.ポリウレタンフォームの作製
ポリエーテルポリオール(品番:PML7001、旭硝子ウレタン(株)製、水酸基価28mgKOH/g、分子量6000)100重量部、発泡剤としての水0.5重量部、アミン触媒(33LV)1重量部、架橋剤(1,4−BD、三菱化学(株)製)5重量部を混合し、これにMDI(品番:MR200、BASF(株)製)44重量部を混合し、発泡させることにより再生用ポリウレタンフォームを作製した。
【0019】
1B.再生ポリオールの製造
前記再生用ポリウレタンフォームを5〜30mmキュービックに粉砕し、その粉砕物10gと遅延触媒0.5g(再生用ポリウレタンフォーム100重量部に対して5重量部)及びグリセリン20g(再生用ポリウレタンフォーム100重量部に対して200重量部)を加熱容器に投入し、撹拌しながら200℃で5時間加熱し、24gの液体を得た。この液体は、KOH滴定により測定した結果、水酸基価1191mgKOH/gのポリオール(再生ポリオール)であった。また、再生ポリオールの粘度は5000mPa・s(25℃)であった。再生ポリオールの収率は、[24÷(10+20)]×100=80%である。使用した遅延触媒は、ジアザビシクロノネン(アミン)とオクチル酸との塩からなる1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5−オクチル酸塩(品番:U−CAT 1102、サンアプロ(株)製、触媒開始温度70−80℃)である。
【0020】
1C.再生ポリウレタンフォームの作製
ポリエーテルポリオール(品番:PML7001、旭硝子ウレタン(株)製、水酸基価28mgKOH/g、分子量6000)100重量部、発泡剤としての水0.5重量部、アミン触媒(33LV)1重量部、再生ポリオール(水酸基価1191mgKOH/g)5重量部を混合し、これにMDI(品番:MR200、BASF(株)製)44重量部を混合し、発泡させることにより再生ポリウレタンフォームを作製した。得られた再生ポリウレタンフォームは、密度150kg/m、アスカーC硬度25であり、制振・防振材用あるいは遮音材用として使用可能なものであった。
【0021】
(実施例2)
1Aで製造したポリウレタンフォームを用い、1Bにおけるグリセリンに代えてエチレングリコール20gを用いた以外は実施例1と同様にして再生ポリオールの製造及び再生ポリウレタンフォームの製造を行った。得られた再生ポリオールは、水酸基価1191mgKOH/g、粘度5000mPa・s(25℃)、再生ポリオールの収率は80%であった。また、得られた再生ポリウレタンフォームは、密度150kg/m、アスカーC硬度25であり、制振・防振材用あるいは遮音材用として使用可能なものであった。
【0022】
(実施例3)
1Aで製造したポリウレタンフォームを用い、1Bにおけるグリセリンに代えてグリセリン10gとエチレングリコール10gを併用した以外は実施例1と同様にして再生ポリオールの製造及び再生ポリウレタンフォームの製造を行った。得られた再生ポリオールは、水酸基価1191mgKOH/g、粘度5000mPa・s(25℃)、再生ポリオールの収率は80%であった。また、得られた再生ポリウレタンフォームは、密度150kg/m、アスカーC硬度25であり、制振・防振材用あるいは遮音材用として使用可能なものであった。
【0023】
このように本発明によれば、精製工程を行うことなく再生ポリオールを製造することができ、しかも本発明によって製造した再生ポリオールを利用して再生ポリウレタンフォームを製造することができ、ポリウレタンフォームのリサイクルが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームから再生ポリオールを製造する方法において、
ポリウレタンフォームを、ポリウレタンフォームの分解触媒として50℃〜250℃の温度で作用する遅延触媒と、グリコール又はグリセリンの一方又は両方との存在下、100℃〜250℃の温度で加熱して再生ポリオールとすることを特徴とする再生ポリオールの製造方法。
【請求項2】
前記遅延触媒がアミンの塩であることを特徴とする請求項1に記載の再生ポリオールの製造方法。

【公開番号】特開2011−246568(P2011−246568A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120093(P2010−120093)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】