説明

再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。

【課題】 特性低下を抑制しつつ低鉛化あるいは無鉛化の要望を十分満足させ得る再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤およびポリ塩化ビニルレジンが含有されてなるポリ塩化ビニルコンパウンドを溶媒に溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンドを再生させる再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法であって、鉛安定剤除去工程前に前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程をさらに実施することを特徴とする再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法に関し、特に軟質ポリ塩化ビニルコンパウンドから鉛安定剤を除去して再生する再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境意識の高まりにより、鉛系化合物を安定剤として用いたポリ塩化ビニルコンパウンドの使用は抑えられつつあり、再生されたポリ塩化ビニルコンパウンドも鉛化合物が混入していないものが求められている。そのため、金属化合物、特に鉛系化合物を含むポリ塩化ビニル製の下水道パイプ、電線被覆材などからポリ塩化ビニルコンパウンドを再生するためには、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの製造プロセスにおいて鉛系化合物を除去する工程を追加する必要がある。
【0003】
一般的に有機溶媒中から金属化合物を除去する方法として、遠心分離等の比重分別法、溶媒抽出法等が挙げられる。下記特許文献1には、この溶媒抽出法により樹脂中から顔料を除去する方法が記載されている。
【0004】
この溶媒抽出法によれば、例えば、水系有機溶媒にポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解したポリ塩化ビニルコンパウンド溶液の中にさらに非水系有機溶媒を添加し、その後、酸性水溶液を添加しポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解している有機溶媒相と鉛安定剤を溶解している水相とに相分離させて鉛安定剤を選択的に除去させることができ、比重分別法に比べて効率よく鉛化合物を除去することが可能である。
【0005】
しかし実際は、特に軟質のポリ塩化ビニルコンパウンドにこの溶媒抽出法を適用しようとしても鉛安定剤の除去が不充分で、しかも、得られる再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの熱安定性が悪くなることから、この溶媒抽出法はポリ塩化ビニルコンパウンドの再生に殆ど用いられてはいない。
すなわち、従来の再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの製造方法においては、熱安定性などの特性低下を抑制しつつ低鉛化あるいは無鉛化の要望を十分満足させ得る再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを得ることが困難であるという問題を有している。
【特許文献1】米国特許 第3043785号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたもので、特性低下を抑制しつつ低鉛化あるいは無鉛化の要望を十分満足させ得る再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ポリ塩化ビニルコンパウンドの溶媒抽出法による鉛化合物の除去について鋭意検討を行い、可塑剤としてエステル化合物が用いられたポリ塩化ビニルコンパウンドを溶媒抽出法により鉛化合物を除去する場合には、酸性水溶液を添加したときに前記エステル化合物が分解して、有機酸やアルコールに転化すること、ならびに、この有機酸やアルコールが相分離の界面に存在して相分離を阻害することにより、鉛化合物の除去効率を低下させていることを見出した。また、この有機酸が再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中に残存して、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの熱安定性を低下させていることを見出して本発明の完成に到ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、上記課題を解決すべくなされたもので、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法にかかる請求項1記載の発明は、エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤およびポリ塩化ビニルレジンが含有されてなるポリ塩化ビニルコンパウンドを、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な溶媒に溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程と、該溶解工程で作製された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合してポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と酸性水溶液とを相分離させることによりポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程とを実施した後に、該鉛安定剤除去工程で鉛安定剤が除去されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液からポリ塩化ビニルコンパウンドを再生させる再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの製造方法であって、前記鉛安定剤除去工程前に前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程をさらに実施することを特徴としている。
【0009】
また、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法にかかる請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記溶解工程、前記可塑剤除去工程および前記鉛安定剤除去工程として、下記a〜cに示す工程を実施することを特徴としている。
a.鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態が形成可能で且つ前記ポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解可能な第一溶媒にポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程。
b.前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と相分離状態を形成可能で、しかも、前記第一溶媒よりも前記可塑剤の溶解性が高く、前記第一溶媒よりも前記塩化ビニルレジンの溶解性が低い第二溶媒と、前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液とを混合して、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記二溶媒とを相分離させることにより前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程。
c.前記可塑剤が除去された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合して、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記酸性水溶液とを相分離させることにより前記鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程。
【0010】
また、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法にかかる請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記溶解工程でポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解に用いられる溶媒よりも塩化ビニルレジンの溶解性が高く且つ鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な第三溶媒を、前記可塑剤除去工程後、前記鉛安定剤除去工程前の前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に添加する溶媒添加工程をさらに実施することを特徴としている。
【0011】
また、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法にかかる請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記溶解工程でポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解に用いられる溶媒には、水系有機溶媒と非水系有機溶媒とが混在する混合系有機溶媒が用いられることを特徴とし、請求項5記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記混合系有機溶媒は、水系有機溶媒と非水系有機溶媒が質量比で(水系有機溶媒/非水系有機溶媒)=5/95〜50/50となる割合で混在していることを特徴としている。また、請求項6記載の発明は、請求項4または5に記載の発明において、水系有機溶媒がメチルエチルケトンであり、且つ、非水系有機溶媒がトルエンであることを特徴としている。
【0012】
さらに、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法にかかる請求項7記載の発明は、請求項2乃至6のいずれか1項に記載の発明において、前記第二溶媒にはジメチルスルホキシドが用いられていることを特徴とし、請求項8記載の発明は、請求項3乃至7のいずれか1項に記載の発明において前記第三溶媒には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびテトラヒドロフランのいずれかが用いられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤およびポリ塩化ビニルレジンが含有されてなるポリ塩化ビニルコンパウンドを、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な溶媒に溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程と、該溶解工程で作製された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合してポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と酸性水溶液とを相分離させることによりポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程とを実施した後に、該鉛安定剤除去工程で鉛安定剤が除去されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液からポリ塩化ビニルコンパウンドを再生させる再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法において、前記鉛安定剤除去工程前に前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程をさらに実施することから、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から鉛安定剤を除去すべくポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に酸性水溶液を接触させた際に、エステル化合物の分解生成物である有機酸やアルコールが生成されて相分離が阻害されることを抑制させ得る。したがって、鉛安定剤の除去効率を向上させ得る。
【0014】
また、エステル化合物の分解生成物である有機酸やアルコールが再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中に残存することを抑制するため、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの熱安定性が低下することも抑制し得る。
さらには、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドへの有機酸の残存や、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの熱安定性の低下が抑制されることから、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの混練を行う混練機などの設備が、この有機酸やポリ塩化ビニルコンパウンドからの脱塩酸により腐食されることも抑制させることができる。
【0015】
また、前記溶解工程、前記可塑剤除去工程および前記鉛安定剤除去工程として、a)鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態が形成可能で且つ前記ポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解可能な第一溶媒にポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程、b)前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と相分離状態を形成可能で、しかも、前記第一溶媒よりも前記可塑剤の溶解性が高く、前記第一溶媒よりも前記塩化ビニルレジンの溶解性が低い第二溶媒と、前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液とを混合して、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記二溶媒とを相分離させることにより前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程、c)前記可塑剤が除去された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合して、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記酸性水溶液とを相分離させることにより前記鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程を実施する場合には、溶液化されたポリ塩化ビニルコンパウンドに可塑剤の溶解性が高い溶媒を接触させて相分離により可塑剤を除去することから、可塑剤の除去効率をより向上させることができる。したがって、エステル化合物の分解生成物の形成がさらに抑制され、鉛安定剤の除去効率をさらに向上させ得るとともに再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの特性低下をさらに抑制させ得る。
【0016】
また、前記溶解工程でポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解に用いられる溶媒よりも塩化ビニルレジンの溶解性が高く且つ鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な第三溶媒を、前記可塑剤除去工程後、前記鉛安定剤除去工程前の前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に添加する溶媒添加工程をさらに実施する場合には、可塑剤が除去されてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に対する溶解性の低下した塩化ビニルレジンの溶解性を再び高めることができ、鉛安定剤除去工程時にポリ塩化ビニルレジンが析出することを抑制させ得る。
【0017】
また、前記溶解工程でポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解に用いられる溶媒には、水系有機溶媒と非水系有機溶媒とが混在する混合系有機溶媒が用いられる場合には、ポリ塩化ビニルコンパウンドに含まれる可塑剤の量や、そのエステル化合物の種類、その他の配合物などから、可塑剤除去や鉛安定剤除去あるいは相分離の形成に適した混在状態に溶媒を調整することが容易であるという効果を奏する。さらに、この前記混合系有機溶媒を、水系有機溶媒と非水系有機溶媒が質量比で(水系有機溶媒/非水系有機溶媒)=5/95〜50/50となる割合で混在しているものを用いることで、ポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解性を高めつつ鉛安定剤除去工程での安定した相分離状態が形成される。
特に、水系有機溶媒がメチルエチルケトンであり、且つ、非水系有機溶媒がトルエンである場合には、ポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解性を高めつつ鉛安定剤除去工程での安定した相分離状態が形成される効果をより顕著に奏する。
【0018】
また、前記第二溶媒にはジメチルスルホキシドが用いられている場合には、多くのエステル化合物に対して優れた溶解性を示し、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液中からより多くの可塑剤を除去することができ、鉛安定剤除去工程でのエステル化合物の分解生成物の形成がさらに抑制され、鉛安定剤の除去効率をさらに向上させ得るとともに再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの特性低下をさらに抑制させ得る。
また、前記第三溶媒には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびテトラヒドロフランのいずれかが用いられる場合には、鉛安定剤除去工程時に安定したポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と酸性水溶液との安定した相分離状態を形成させつつ、ポリ塩化ビニルレジンが析出することをさらに抑制させる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図を参照して説明する。
図1は、エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤が含有されている廃ポリ塩化ビニルコンパウンドから鉛安定剤を除去して再生させる再生方法を説明するためのブロック図である。
【0020】
本実施形態においては、まず、ポリ塩化ビニルコンパウンドに水系有機溶媒、非水系有機溶媒を添加して混合し、ポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解する溶解工程を実施する。
なお、水系有機溶媒、非水系有機溶媒との用語は、本明細書中においては、水と相溶するものを水系有機溶媒水と相溶しないものを非水系有機溶媒と意図して用いており、前記水系有機溶媒としてはメチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。
また、前記非水系有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ペンタン、n−ブタンなどが挙げられる。
中でも、塩化ビニルレジンの溶解性が高くポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解性を高めつつ鉛安定剤除去工程で安定した相分離状態を形成され得る点、および、沸点が低いことから、可塑剤や鉛安定剤を除去したポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から減圧蒸留や加熱により溶媒を容易に除去し得る点において前記水系有機溶媒にメチルエチルケトン、前記非水系有機溶媒にトルエンを用いることが好ましい。
【0021】
通常、上記に挙げた非水系有機溶媒であるトルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、イソヘキサン等はポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解しにくいが、水系有機溶媒であるメチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンを混合することによりポリ塩化ビニルコンパウンドに対する溶解性を高めることができる。また、非水系有機溶媒と水系有機溶媒とが混在した混合系有機溶媒によりポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解を行う場合には、このようにポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解性を制御しやすいのみならず、ポリ塩化ビニルコンパウンドに含まれる可塑剤の量や、そのエステル化合物の種類、その他の配合物などから、可塑剤除去や鉛安定剤除去あるいは相分離の形成に適したポリ塩化ビニル溶液を容易に調整することができる。
【0022】
ここで、非水系有機溶媒及び水系有機溶媒の割合は、後段において説明する可塑剤除去工程での効率の点から、水系有機溶媒/非水系有機溶媒の質量比を5/95〜50/50とすることが好ましい。水系有機溶媒の割合が前記割合よりも少なくなると、ポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解性が悪くなり、溶解工程において、十分にポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解させ難くなる。また、水系有機溶媒の混合割合が前記割合よりも高くなると、可塑剤除去工程における可塑剤の除去によりポリ塩化ビニルコンパウンド溶液からポリ塩化ビニルレジンが析出するおそれがある。したがって、非水系有機溶媒及び水系有機溶媒を混合添加する割合が上記範囲外の場合には、可塑剤除去工程での効率低下を招くおそれを有する。
【0023】
次に、前記溶解工程にて溶液化されたポリ塩化ビニルコンパウンドに、このポリ塩化ビニルコンパウンド溶液との相分離状態を形成可能で、しかも、前記混合系有機溶媒(水系有機溶媒/非水系有機溶媒)よりも前記可塑剤の溶解性が高く且つ前記混合系有機溶媒よりも前記ポリ塩化ビニルレジンの溶解性が低い第二溶媒を、前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に混合して、前記可塑剤を第二溶媒に移行させて前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記第二溶媒とを相分離させた後に、この第二溶媒に同伴させて可塑剤を除去する可塑剤除去工程を実施する。
この第二溶媒としては、ポリ塩化ビニルコンパウンドに用いられるエステル化合物に対する溶解性が高く、前記混合系有機溶媒よりも鉛安定剤とポリ塩化ビニルレジンの溶解性が低いものであり、かつ、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液、さらには、前記溶解工程で用いた非水系有機溶媒とも相分離状態を形成するものが好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ジメチルホルムアシド(DMF)などを例示することができる。
中でも、多くのエステル化合物に対して優れた溶解性を示し、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液中からより多くの可塑剤を除去することができ、しかもトルエンなどの非水系有機溶媒とも相分離状態を形成させやすく、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液中から非水系有機溶媒を移行させることを抑制しつつ可塑剤を選択的に除去させ得る点においてジメチルスルホキシドが好ましい。
【0024】
なお、可塑剤やポリ塩化ビニルレジンに対する溶解性とは、通常、溶解度パラメータの比較により判断することができ、可塑剤やポリ塩化ビニルレジンの溶解度パラメータに比べてより近い値の溶解度パラメータを有する溶媒を可塑剤やポリ塩化ビニルレジンに対してより溶解性の高い溶媒として用いることができる。
【0025】
また、この可塑剤除去工程で第二溶媒に同伴させて除去した可塑剤は、別工程で精製して、ポリ塩化ビニルコンパウンドを再生する際に再び添加するようにしてもよく、これにより再生前に有していた特性と近い特性を有する再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを得ることができる。しかも、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドに対する新たな可塑剤を添加する必要性を低減させ得る。
この第二溶媒と可塑剤の分離精製方法としては溶媒抽出法、蒸留法等が挙げられる。
【0026】
次いで、可塑剤が除去されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に、前記溶解工程で用いられた混合系有機溶媒よりも塩化ビニルレジンの溶解性が高く且つ鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態が形成可能な第三溶媒を添加する溶媒添加工程をさらに実施する。
このように、可塑剤が除去されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に、塩化ビニルレジンの溶解性が高く且つ鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態が形成可能な第三溶媒を添加することで可塑剤が除去されてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に対する溶解性の低下した塩化ビニルレジンの溶解性を再び高めることができ、鉛安定剤除去工程時にポリ塩化ビニルレジンが析出することを抑制させ得る。
この第三溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。なかでも、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびテトラヒドロフランのいずれかが用いられる場合には、鉛安定剤除去工程時に安定したポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と酸性水溶液との安定した相分離状態を形成させることができる。このような点において特に第三溶媒としては、メチルエチルケトンが用いられることが好ましい。
【0027】
次いで、前記溶媒添加工程で溶媒が添加されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液を混合し、前記鉛安定剤をこの酸性水溶液に溶解させて前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記酸性水溶液とを相分離させた後に、この酸性水溶液に溶解させた鉛安定剤を酸性水溶液に同伴させて除去する鉛安定剤除去工程を実施する。
このとき、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液中に含まれる鉛の塩が形成されて酸性水溶液に移行されて水に溶解される。酸性水溶液としては、鉛安定剤を溶解させ得るものであれば特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。中でも、塩酸が好ましい。
【0028】
なお、実施形態において除去可能な鉛安定剤としては、例えば、ステアリン酸鉛、酸化鉛、酢酸鉛、三塩基性硫酸鉛などが挙げられる。
【0029】
なお、上記工程により得られたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から従来の方法によりポリ塩化ビニルコンパウンドを回収(再生)することができる。この方法としては、例えば、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に撹拌下で、ポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解度の低い溶媒(貧溶媒ともいう)の加熱蒸気を添加することにより、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液の溶媒を蒸発させつつ前記貧溶媒を凝集させてポリ塩化ビニルコンパウンドを析出させてろ過し、例えば、グラニューラ状の再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを得る方法や、単に貧溶媒を添加し、ポリ塩化ビニルコンパウンドを析出させ、さらに析出したポリ塩化ビニルコンパウンドを加熱することにより残存する水系有機溶媒や貧溶媒を除去し、再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを得る方法が挙げられる。
また、前記貧溶媒としては脂肪族炭化水素やメタノール、エタノール等の低級アルコールもしくは水を利用するのが好ましい。
また、得られた再生ポリ塩化ビニルコンパウンドは必要に応じて、ペレット化しても良い。このときさらに、鉛安定剤に代わる安定剤や、前記可塑剤除去工程で除去された可塑剤を前述のごとく精製して添加することもできる。
【0030】
本実施形態においては、エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤が配合された廃ポリ塩化ビニルコンパウンドから鉛安定剤を除去して再生させる再生方法を上記のような場合を例に説明したが本発明においては、ポリ塩化ビニルコンパウンドからの鉛安定剤除去方法ならびに再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの製造方法を上記のように場合に限定するものではない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
質量で28%のジオクチルフタレート(以下「DOP」ともいう)と1%の鉛安定剤(ステアリン酸鉛と三塩基性硫酸鉛の混合物)を含むポリ塩化ビニルコンパウンド製の電線被覆材10gをトルエン80gとメチルエチルケトン(以下「MEK」ともいう)20gの混合系有機溶媒100gに溶解させる溶解工程を実施してポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製した。
次いで、50gのジメチルスルホキシド(以下「DMSO」ともいう)を添加し撹拌したものを分液ロートに移して静置し、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液とDMSOとを相分離させてDMSO相のみを分離除去する可塑剤除去工程を実施した。
さらにポリ塩化ビニルコンパウンド溶液にMEK50gを添加して溶媒添加工程を実施した後に、質量で10%濃度の塩酸水溶液30gを添加して撹拌した。そして、分液ロートにて静置して相分離させたものから塩酸水溶液相のみを分離除去する鉛安定剤除去工程を実施した。
次に、残ったポリ塩化ビニルコンパウンド溶液にスチームを吹き込みトルエンとMEKとを蒸発させて除去しながら吹き込んだスチームの凝縮水中にポリ塩化ビニルコンパウンド成分を析出沈澱させて再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。
このとき、可塑剤除去工程後のポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に含まれるDOPの濃度をガスクロマトグラフ(島津製作所社製、型式:GC−2014)で分析測定した。結果を表1に示す。
また、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中の鉛濃度を酸分解法により測定した。酸分解法とは、詳しくは、再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中に硫酸と過酸化水素水を加え、マイクロ波により有機物を完全に分解した分解残渣中の鉛を高周波誘導結合プラズマ放電(ICP)分析装置で分析した。結果を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
可塑剤除去工程に用いたヘキサンジメチルスルホキシドの添加量を10gとしたこと以外は、実施例1と同様な方法により再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。
可塑剤除去工程後のポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に含まれるDOPの濃度測定ならびに再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中の鉛濃度の測定結果を表1に示す。
【0034】
(実施例3)
溶解工程において、トルエンに代えてキシレンを用い、MEKに代えてテトラヒドロフラン(以下「THF」ともいう)を用い、キシレンを40gとTHFを10gを混合して、混合系有機溶媒の量を50gとしたこと以外は、実施例1と同様な方法により再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。
可塑剤除去工程後のポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に含まれるDOPの濃度測定ならびに再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中の鉛濃度の測定結果を表1に示す。
【0035】
(実施例4)
溶解工程において、ヘキサンに代えてトルエンを用い、可塑剤除去工程に用いたジメチルスルホキシドの量を10gとしたこと以外は、実施例1と同様な方法により再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。
可塑剤除去工程後のポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に含まれるDOPの濃度測定ならびに再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中の鉛濃度の測定結果を表1に示す。
【0036】
(実施例5)
鉛安定剤除去工程において、塩酸に代えて10%濃度の硫酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様な方法により再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。
可塑剤除去工程後のポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に含まれるDOPの濃度測定ならびに再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中の鉛濃度の測定結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
可塑剤除去工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様に再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。なお、この比較例1では、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に10%濃度の塩酸水溶液30gを添加して撹拌したところ、ポリ塩化ビニルコンパウンドの一部が析出し、しかも、相分離状態が形成されなかったため、酸性水溶液を除去することなくスチームを吹き込みトルエンとMEKとを蒸発させて除去しながら吹き込んだスチームの凝集水中にポリ塩化ビニルコンパウンド成分を析出沈殿させ、この凝集水とともに酸性水溶液を除去することにより再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを製造した。
再生ポリ塩化ビニルコンパウンド中の鉛濃度の測定結果を表1に示す。
【0038】
(熱安定性の比較)
実施例1〜5及び比較例1により得られた再生ポリ塩化ビニルコンパウンド100gに熱安定剤(旭電化工業社「アデカスタブ AC−278」)2gと安定補助剤(旭電化工業社「アデカサイザー O−130P」)2gを添加し、160℃で混練した。
このとき、比較例1の再生ポリ塩化ビニルコンパウンドは、混練の途中でDOPの分解生成物であるフタル酸やオクタノールの発生が確認された。実施例1〜5の再生ポリ塩化ビニルコンパウンドの混練においては発生されなかった。
さらに混練した後、冷却し、熱安定性評価試料とした。この熱安定性評価試料を下記に示すDHC法により評価した。
(DHC法:200℃に加熱された直径24mm、高さ150mmのガラス管容器中に熱安定性評価試料0.5gを入れて、熱安定性評価試料を200℃に加熱しつつ、ガラス管容器内を7L/時間の流量の窒素ガスでパージし、このガラス管容器から排出されるパージガスを純水中でバブリングさせて、熱安定性評価試料をガラス管容器中に入れてからこの純水の導電度が50μS/cmに到達するまでの時間を測定した。
なお、この純水は、60mLの量を直径45mm、高さ91mmのプラスチック管容器に収容させて用いた。)
結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

※1 質量比。
※2 表中「−」とは、検出限界以下であったことを示す。
【0040】
この表からも、エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤およびポリ塩化ビニルレジンが含有されてなるポリ塩化ビニルコンパウンドを、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な溶媒に溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程と、該溶解工程で作製された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合してポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と酸性水溶液とを相分離させることによりポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程とを実施した後に、該鉛安定剤除去工程で鉛安定剤が除去されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液からポリ塩化ビニルコンパウンドを再生させる再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法において、前記鉛安定剤除去工程前に前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程をさらに実施するにより、熱安定性の低下を抑制しつつ十分低鉛化された再生ポリ塩化ビニルコンパウンドを提供させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態に係る再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法を説明するためのブロック図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化合物を含む可塑剤、鉛安定剤およびポリ塩化ビニルレジンが含有されてなるポリ塩化ビニルコンパウンドを、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な溶媒に溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程と、該溶解工程で作製された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合してポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と酸性水溶液とを相分離させることによりポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程とを実施した後に、該鉛安定剤除去工程で鉛安定剤が除去されたポリ塩化ビニルコンパウンド溶液からポリ塩化ビニルコンパウンドを再生させる再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法であって、
前記鉛安定剤除去工程前に前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程をさらに実施することを特徴とする再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
【請求項2】
前記溶解工程、前記可塑剤除去工程および前記鉛安定剤除去工程として、下記a〜cに示す工程を実施する請求項1に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
a.鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態が形成可能で且つ前記ポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解可能な第一溶媒にポリ塩化ビニルコンパウンドを溶解させてポリ塩化ビニルコンパウンド溶液を作製する溶解工程。
b.前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と相分離状態を形成可能で、しかも、前記第一溶媒よりも前記可塑剤の溶解性が高く、前記第一溶媒よりも前記塩化ビニルレジンの溶解性が低い第二溶媒と、前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液とを混合して、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記二溶媒とを相分離させることにより前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液から前記可塑剤を除去する可塑剤除去工程。
c.前記可塑剤が除去された前記ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と、前記鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液とを混合して、ポリ塩化ビニルコンパウンド溶液と前記酸性水溶液とを相分離させることにより前記鉛安定剤を除去する鉛安定剤除去工程。
【請求項3】
前記溶解工程でポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解に用いられる溶媒よりも塩化ビニルレジンの溶解性が高く且つ鉛安定剤を溶解可能な酸性水溶液との相分離状態を形成可能な第三溶媒を、前記可塑剤除去工程後、前記鉛安定剤除去工程前のポリ塩化ビニルコンパウンド溶液に添加する溶媒添加工程をさらに実施する請求項1または2に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
【請求項4】
前記溶解工程でポリ塩化ビニルコンパウンドの溶解に用いられる溶媒には、水系有機溶媒と非水系有機溶媒とが混在する混合系有機溶媒が用いられる請求項1乃至3のいずれか1項に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
【請求項5】
前記混合系有機溶媒には、水系有機溶媒と非水系有機溶媒が質量比で(水系有機溶媒/非水系有機溶媒)=5/95〜50/50となる割合で混在している請求項4に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
【請求項6】
前記水系有機溶媒がメチルエチルケトンであり、且つ、前記非水系有機溶媒がトルエンである請求項4または5に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
【請求項7】
前記第二溶媒にはジメチルスルホキシドが用いられている請求項2乃至6のいずれか1項に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。
【請求項8】
前記第三溶媒には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびテトラヒドロフランのいずれかが用いられる請求項3乃至7のいずれか1項に記載の再生ポリ塩化ビニルコンパウンド製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−191586(P2007−191586A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11251(P2006−11251)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】