説明

再生装置、信号処理装置、信号処理方法

【課題】ノイズキャンセル機能を有する音楽再生装置を簡易にカラオケ装置として利用できるようにする。
【解決手段】マイクロホンから供給される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成し、入力されたデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成して、スピーカ出力用の音声信号として出力する第1のモードの信号処理と、マイクロホンから供給される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施し、また入力された楽曲としてのデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成し、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成して、スピーカ出力用の音声信号として出力する第2のモードの信号処理とを選択的に実行する。第1のモードはノイズキャンセルを伴ったオーディオ再生動作となり、第2のモードはカラオケ動作となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は再生装置、信号処理装置、信号処理方法に関し、特に音楽再生動作とカラオケ動作を選択的に実行できるようにする技術に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2001−34277号公報
【背景技術】
【0003】
一般ユーザの間で、携帯型のオーディオプレーヤ(再生装置)を用いて音楽等を聴くことが広く行われている。またオーディオプレーヤでは、イヤホン部分にマイクロホンを備え、マイクロホンで集音される外部ノイズ音を、逆相にしてオーディオ信号に加算することで、ノイズ環境下でもノイズの少ない音楽聴取ができるようにしたものも知られている。
また、一般ユーザの間ではカラオケを楽しむことも広く行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当然ながら、携帯用のオーディオプレーヤとカラオケシステムは全く別の装置であり、自宅などでカラオケを楽しむには、別のカラオケシステムを用意する必要があった。
本開示では、携帯型のオーディオプレーヤ等の再生装置において、ユーザがいつでも手軽にカラオケを楽しむことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の再生装置は、楽曲としてのデジタルオーディオ信号を出力する楽曲ソース部と、マイクロホンから供給される音声信号を入力するマイクロホン信号入力部と、上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセル信号生成部と、上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施してボーカル信号とするボーカル処理部と、上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成するカラオケ信号生成部と、上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成する第1の合成処理と、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成する第2の合成を行う合成部と、第1のモードの際には上記合成部で上記第1の合成処理が行われるようにし、第2のモードの際には上記合成部で上記第2の合成処理が行われるように制御する制御部と、上記合成部で合成された信号を、スピーカ出力用の音声信号として出力する出力部とを備える。
例えば上記ノイズキャンセル信号生成部と、上記ボーカル処理部と、上記カラオケ信号生成部と、上記合成部とは、演算処理装置内のソフトウエア処理機能として設けられ、上記制御部は、上記第1のモードの際には、上記演算処理装置に、上記ノイズキャンセル信号生成部の処理を実行させて、上記合成部で上記第1の合成処理が実行されるように制御し、上記第2のモードの際には、上記演算処理装置に、上記ボーカル処理部と上記カラオケ信号生成部の処理を実行させて、上記合成部で上記第2の合成処理が実行されるように制御する。
【0006】
本開示の信号処理装置は、マイクロホンから供給される音声信号を入力するマイクロホン信号入力部と、上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセル信号生成部と、上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施してボーカル信号とするボーカル処理部と、入力された楽曲としてのデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成するカラオケ信号生成部と、入力されたデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成する第1の合成処理と、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成する第2の合成を行う合成部と、第1のモードの際には上記合成部で上記第1の合成処理が行われるようにし、第2のモードの際には上記合成部で上記第2の合成処理が行われるように制御する制御部と、上記合成部で合成された信号を、スピーカ出力用の音声信号として出力する出力部とを備える。
【0007】
本開示の信号処理方法は、マイクロホンから供給される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成し、入力されたデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成して、スピーカ出力用の音声信号として出力する第1のモードの信号処理と、マイクロホンから供給される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施し、また入力された楽曲としてのデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成し、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成して、スピーカ出力用の音声信号として出力する第2のモードの信号処理とを選択的に実行する。
【0008】
このような本開示の技術では、例えば携帯型のオーディオプレーヤ等の再生装置において、デジタルオーディオ信号処理(特にノイズキャンセル処理)を行う演算処理装置(例えばDSP:Digital Signal Processor)の信号処理を変更し、カラオケとしての信号処理を実行するようにしている。従ってユーザは、再生装置を、第1のモードとして音楽等の聴取に使用することに加え、第2のモードとしてカラオケ装置としても使用できる。これは演算処理装置の内部処理を切り換えるのみで可能であるため、ハードウエアの追加等も必要ない。また、ノイズキャンセル用のマイクロホン、例えばイヤホンユニットに設けられたマイクロホンを、カラオケのボーカルマイクとしても利用できる。
さらに、カラオケとして使用する第2のモードの際には、ボーカル音声に関する各種音響処理も演算処理装置内の処理で実現可能である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ユーザは、再生装置で音楽等を聴取するのみでなく、その再生装置を用いて手軽にカラオケが楽しめるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本開示の実施の形態のオーディオプレーヤの説明図である。
【図2】実施の形態のオーディオプレーヤのカラオケ利用態様の説明図である。
【図3】実施の形態のオーディオプレーヤのカラオケ利用態様の説明図である。
【図4】実施の形態のオーディオプレーヤのカラオケ利用態様の説明図である。
【図5】実施の形態のオーディオプレーヤのブロック図である。
【図6】実施の形態のオーディオプレーヤのDSPのNCモード時とカラオケモード時の信号処理の説明図である。
【図7】実施の形態のオーディオプレーヤのNC信号生成部とボーカル処理部の説明図である。
【図8】実施の形態のDSP処理内容の具体例の説明図である。
【図9】実施の形態のDSP処理内容の具体例の説明図である。
【図10】実施の形態のイヤホン装着でのカラオケ利用態様での信号処理の説明図である。
【図11】実施の形態のイヤホン装着でのカラオケ利用態様でのDSP処理内容の説明図である。
【図12】実施の形態のボーカル処理部でのビームフォーミング部のブロック図である。
【図13】実施の形態のビームフォーミング部でのMPF特性の説明図である。
【図14】実施の形態のノイズキャンセルユニットの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態を次の順序で説明する。なお請求項でいう再生装置の実施の形態として携帯型のオーディオプレーヤを挙げる。また請求項でいう信号処理装置は、実施の形態のオーディオプレーヤ内部に搭載されるものとする。

<1.オーディオプレーヤのカラオケ利用態様>
<2.オーディオプレーヤの構成>
<3.NCモード及びカラオケモードでの信号処理>
<4.各種DSP処理例>
<5.変形例>
【0012】
<1.オーディオプレーヤのカラオケ利用態様>

本実施の形態としての携帯型のオーディオプレーヤは、ユーザが音楽等を再生させて楽しむことができるほか、カラオケ装置としても利用できる。
【0013】
図1は実施の形態のオーディオプレーヤ1の外観例を示している。オーディオプレーヤ1は、携帯に適した小型の筐体内に、後述する再生部や信号処理のためのDSP等を備え、音声信号を出力できる。また、ユーザインターフェースとして、表示部14や操作子12aを備える。
オーディオプレーヤ1の通常の使用態様として、イヤホン装置2が用いられる。イヤホン装置2は、Lチャンネル及びRチャンネルのスピーカユニット2L、2R、コード2b、プラグ2cを備える。
ユーザは、オーディオプレーヤ1のジャック部19にイヤホン装置2のプラグ部2cを接続し、またスピーカユニット2L、2Rを両耳に装着して、オーディオプレーヤ1からの再生音楽等を聴取する。なお、本実施の形態では耳内に挿入する「イヤホン」としての例を示しているが、当然、耳を覆うタイプの密閉型のヘッドホン等でもよい。
【0014】
後述するが、スピーカユニット2L、2Rには外部ノイズの集音のためのマイクロホンが搭載されている。
オーディオプレーヤ1では、マイクロホンで集音された音声信号に基づいてノイズキャンセル信号を生成し、それをオーディオ信号に加算することで、ノイズが低減された再生音声をユーザに提供する。
なお、本明細書では「ノイズキャンセル」を「NC」と表記する場合がある。
【0015】
このオーディオプレーヤ1を用いて、ユーザは次のような態様でカラオケを楽しむことができる。
図2Aは、ユーザがオーディオプレーヤ1を、外部のアンプ装置4に接続してカラオケとして使用する例である。
オーディオプレーヤ1には、外部接続端子(図示せず)が設けられており、その外部接続端子を用いてアンプ装置4と接続する。アンプ装置4にはスピーカ5,5が接続されている。この状態で、オーディオプレーヤ1から出力される音声信号が、スピーカ5,5から音声として出力される状態となる。
【0016】
ユーザは、イヤホン装置2のスピーカユニット2L、2Rに設けられているマイクロホン、即ち通常は外部ノイズ集音用のマイクロホンを、ボーカルマイクとして用いる。
また、オーディオプレーヤ1の内部では、再生した楽曲のオーディオデータから、ボーカルキャンセル処理を行ってカラオケ信号を生成する。さらに、そのカラオケ信号に、ユーザの歌声であるマイクロホン入力音声信号をミックスする。そのミックスした音声信号をアンプ装置4に供給し、スピーカ5,5から出力させる。
このようにすることで、ユーザは、外部のスピーカ5,5から聞こえてくる楽曲(カラオケ音楽)にあわせて歌うことができ、またその歌声もスピーカ5,5から出力されることとなり、カラオケシステムが実現される。
【0017】
図2Aでは、イヤホン装置2のノイズ集音用のマイクロホンを用いたが、これに代えて、例えばオーディオプレーヤ1のジャック部19に、図2Bに示すモノラルマイクロホン3M、或いは図2Cに示すステレオマイクロホン3Sを接続してもよい。
この場合ユーザは、オーディオプレーヤ1の筐体自体をボーカルマイクのように握って、歌唱することができる。
【0018】
図3は、ユーザがオーディオプレーヤ1を、外部のモニタ装置6(例えばテレビジョン受像器やパーソナルコンピュータ用モニタなど)に接続してカラオケとして使用する例である。モニタ装置6には、ディスプレイ6Dとスピーカ6S、6Sが設けられている。
ここでは、オーディオプレーヤ1をクレードル7に装着し、クレードル7とモニタ装置6が有線又は無線でデータ通信可能に接続されている例としている。オーディオプレーヤ1は、外部接続端子から出力オーディオデータをクレードル7に供給し、クレードル7がモニタ装置6にオーディオデータを送信する。
またオーディオプレーヤ1にはイヤホン装置2を接続し、スピーカユニット2L、2Rに設けられているノイズ集音用のマイクロホンを、二人のユーザがそれぞれボーカルマイクとして用いる。もちろん一人でも良いが、ステレオ方式のイヤホン装置2であるため、デュエットも可能となる。
【0019】
オーディオプレーヤ1の内部では、再生した楽曲のオーディオデータから、ボーカルキャンセル処理を行ってカラオケ信号を生成する。さらに、そのカラオケ信号に、ユーザの歌声であるマイクロホン入力音声信号をミックスする。そのミックスした音声信号をクレードル7を介してモニタ装置6に供給し、スピーカ6S、6Sから出力させる。
このようにすることで、ユーザは、モニタ装置6のスピーカ6S、6Sから聞こえてくる楽曲(カラオケ音楽)にあわせて歌うことができ、またその歌声もスピーカ6S,6Sから出力されることとなり、カラオケシステムが実現される。
【0020】
ところで、オーディオプレーヤ1としては再生する楽曲に合わせて、その歌詞を表示する機能を備えたものもある。その場合、再生する楽曲のオーディオデータに合わせた歌詞データも、モニタ装置6に供給するようにする。すると、モニタ装置6のディスプレイ6Dにおいて歌詞表示を行うことができ、カラオケとしての使用に好適となる。
なお、上述した図2A、図2Bの場合に、オーディオプレーヤ1の表示部14に歌詞表示をすることも可能である。
【0021】
図4は、オーディオプレーヤ1とイヤホン装置2のみでカラオケを実行する例である。
ユーザはイヤホン装置2のスピーカユニット2L、2Rを装着して、スピーカユニット2L、2R内のスピーカ21L、21Rからの音声出力を聴くことができる状態とする。
スピーカユニット2L、2Rには、ノイズ集音用のマイクロホン22L,22Rが設けられているが、これをボーカルマイクとして用いる。
この場合、ボーカルマイクがユーザの口元ではなく耳の近辺に位置することになるが、オーディオプレーヤ1において後述するビームフォーミングなどの処理を施すことで、ユーザの声を確実に集音する。
【0022】
オーディオプレーヤ1の内部では、再生した楽曲のオーディオデータから、ボーカルキャンセル処理を行ってカラオケ信号を生成する。さらに、そのカラオケ信号に、ユーザの歌声であるマイクロホン22L、22Rからの入力音声信号をミックスする。そのミックスした音声信号をスピーカ21L、21Rから出力させる。
このようにすることで、ユーザは、イヤホン装置2でカラオケ音楽を聴きながら歌うことができ、またその歌声もイヤホン装置2によって自分に聞こえることとなり、簡易なカラオケシステムが実現される。
【0023】
<2.オーディオプレーヤの構成>

以上のような態様でカラオケ装置として使用できる実施の形態のオーディオプレーヤ1の構成例を図5で説明する。
なお図5ではイヤホン装置2が接続された状態で示している。イヤホン装置2におけるスピーカユニット2L、2Rには、上述したようにスピーカだけでなく外部ノイズの集音用のマイクロホンも設けられている。
即ち図示のように、スピーカユニット2Lには、スピーカ21Lとマイクロホン22Lが設けられ、スピーカユニット2Rには、スピーカ21Rとマイクロホン22Rが設けられている。
このイヤホン装置2とオーディオプレーヤ1は、図1に示したプラグ部2cとジャック部19が接続されることで、図5に示すように電気的に接続される状態となる。
【0024】
図5に示すように、オーディオプレーヤ1は、再生部10、制御部11、操作部12、表示コントローラ13、表示部14、外部通信部15、DSP16、マイク入力部17、イヤホン出力部18を備える。
【0025】
再生部10は、楽曲等のデジタルオーディオ信号を出力する楽曲ソース部である。この再生部10は、例えば楽曲コンテンツを記憶する記憶媒体と、その記憶媒体から楽曲コンテンツのデータを読み出し、必要なデコード処理をおこなうデコード部等を有する。
記憶媒体の具体的な構成としては、例えばフラッシュメモリなどの固体メモリで構成されても良いし、例えばHDD(Hard Disk Drive)により構成されてもよい。また内蔵の記録媒体ではなく、可搬性を有する記録媒体、例えば固体メモリを内蔵したメモリカード、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスク、光磁気ディスク、ホログラムメモリなどの記録媒体に対応するドライブ装置などとして構成することもできる。もちろん、固体メモリやHDD等の内蔵タイプのメモリと、可搬性記録媒体に対するドライブ装置の両方が搭載されてもよい。
例えばこれらの記憶媒体には音楽コンテンツ等のデータが所定の音声圧縮符号化方式により圧縮符号化された状態で記憶されている。
再生部10内では、記憶媒体から読み出された音楽コンテンツ等のデータについて、圧縮データに対しての伸張デコード等を行い、例えばL、R各チャンネルのリニアPCMデータとしてのデジタルオーディオ信号DaL、DaRをDSP16に出力する。
なお、再生部10は、外部機器から無線又は有線で送信されてくるデジタルオーディオ信号を受信して、L、R各チャンネルのリニアPCMデータとしてのデジタルオーディオ信号DaL、DaRを出力するものとしてもよい。
【0026】
イヤホン装置2のマイクロホン22L、22Rで集音された音声信号は、マイク入力部17により、オーディオプレーヤ1に入力される。
マイクロホン22Lによる音声信号は、マイクアンプ32Lで増幅され、A/D変換器31Lでデジタル信号に変換される。
マイクロホン22Rによる音声信号は、マイクアンプ32Rで増幅され、A/D変換器31Rでデジタル信号に変換される。
そしてこれらデジタル信号に変換された音声信号(以下、マイク入力信号SmL、SmR)がDSP16に供給される。
【0027】
DSP16は、再生部10から供給されるデジタルオーディオ信号DaL,DaRについて、必要な処理を行う。
またDSP16は、ノイズキャンセル処理等のため、マイク入力部17を介して入力される音声信号(マイク入力信号SmL、SmR)についての処理も行う。
演算処理装置であるDSP16は、ソフトウエアにより実現される処理機能として、オーディオ処理部16a、ノイズキャンセル信号生成部(以下「NC信号生成部」ともいう)16b、ボーカル処理部16c、カラオケ信号生成部16d、合成部16eが設けられる。
【0028】
オーディオ処理部16aは、デジタルオーディオ信号DaL、DaRについて、イヤホン装置2へ出力するための処理を行う。例えばイコライジング、ゲイン調整などの処理である。イコライジング処理としては、振幅−周波数特性補正や位相−周波数特性補正、あるいはその両方などの音質補正がなされる。ゲイン調整では、デジタルオーディオ信号DaL、DaRについての音量増幅や音量制限などの処理を行う。
【0029】
NC信号生成部16bでは、マイク入力部17により入力されるマイク入力信号SmL、SmRに基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成する処理を行う。簡単に言えば、マイクロホン22L、22Rで集音された外部ノイズの逆相信号を生成する。
【0030】
ボーカル処理部16cは、マイク入力部17により入力されるマイク入力信号SmL、SmR対してボーカル音声用の音響処理を施してボーカル信号とする処理を行う。
カラオケ信号生成部は、デジタルオーディオ信号DaL、DaRについて、ボーカル音声成分をキャンセルしてボーカル音の無い(低減された)カラオケ信号を生成する。
合成部16eは、オーディオ処理部16aで処理されたデジタルオーディオ信号と、NC信号生成部16bで生成されたノイズキャンセル信号を合成する第1の合成処理を行う。また合成部16eは、カラオケ信号生成部16dで生成されたカラオケ信号と、ボーカル処理部16cからのボーカル信号を合成する第2の合成処理も行う。
【0031】
DSP16で処理された信号、即ち合成部16eで合成された信号は出力信号SsL、SsRとして、イヤホン出力部18に供給される。
出力信号SsLは、D/A変換器33Lでアナログ信号に変換され、パワーアンプ34Lで増幅されてスピーカ21Lに供給され、音として出力される。
出力信号SsRは、D/A変換器33Rでアナログ信号に変換され、パワーアンプ34Rで増幅されてスピーカ21Rに供給され、音として出力される。
即ちイヤホン出力部18は、DSP16からの出力信号SsL、SsRを、スピーカ21L、21Rでの出力用の音声信号として出力する。
なお、イヤホン出力部18はデジタルアンプ処理を行う構成としてもよい。
【0032】
外部通信部15は、例えば図2に示したアンプ装置4,図3に示したモニタ装置6やクレードル7等の外部装置との間で有線又は無線で各種通信を行う。
DSP16からの出力信号SsL、SsRは、外部通信部15により、外部装置に送信することができる。即ち外部通信部15は、DSP16からの出力信号SsL、SsRを、外部のスピーカでの出力用の音声信号として出力する。
【0033】
ユーザインターフェースのため操作部12,表示部14が設けられる。
操作部12は、例えば図1に示した操作子12aやタッチパネルなどによるユーザの操作入力を検知し、制御部11に操作情報を供給する。
表示部14は、液晶パネル、有機EL(Electroluminescence)パネルなどで構成され、表示コントローラ13の制御に応じて、各種表示を行う。例えば再生動作に関する表示、再生している音楽コンテンツを示す表示、メッセージ表示などを行う。
【0034】
制御部11は、マイクロコンピュータ(CPU:Central Processing Unit)で形成され、プログラム及び操作部12によるユーザ操作に従って各部を制御し、オーディオ信号出力等を実行させる。即ち制御部11は、再生部10でのデジタルオーディオ信号DaL、DaRの出力動作やDSP16の処理の制御を行う。
また制御部11は、動作状況等に応じて、表示コントローラ13に指示し、表示部14での必要な表示を実行させる。
また制御部11は、外部通信部15を介して外部装置との間での各種通信を行うことができる。
【0035】
特に本例の場合、制御部11はDSP16に対する制御として、NC(ノイズキャンセル)モードの場合と、カラオケモードの場合とで、DSP16で実行させる処理を切り換える制御も行う。
即ちNCモードの際には合成部16eで、上述の第1の合成処理が行われるようにし、カラオケモードの際には合成部16eで上述の第2の合成処理が行われるように制御する。詳しくは後述する。
【0036】
なお、再生部10では、音楽コンテンツの再生出力に伴って、その楽曲の歌詞データを出力することもできる。
その場合、歌詞データは表示コントローラ13に供給され、表示コントローラ13は歌詞表示を表示部14に実行させる。
また表示コントローラ13は歌詞データを表示用のデータとして、外部通信部15により外部装置に送信することもできる。例えば図3のような使用態様において、モニタ装置6のディスプレイ6Dで歌詞表示を実行させるようにもできる。
【0037】
<3.NCモード及びカラオケモードでの信号処理>

以上の構成のオーディオプレーヤ1では、ユーザ操作により、NCモードの動作とカラオケモードの動作を実行できる。具体的には、例えばユーザが操作部12による操作によってモードを選択することで、制御部11がDSP16にNCモードの動作、又はカラオケモードの動作を実行させる。
【0038】
図6により各モード時のDSP16の処理を説明する。
演算処理装置としてのDSP16では、ソフトウエアプログラムに基づいて、上述のようにオーディオ処理部16a、NC信号生成部16b、ボーカル処理部16c、カラオケ信号生成部16d、合成部16eとしての演算処理が実行可能であり、これらの実行が制御部11によって制御される。
【0039】
図6Aは制御部11がDSP16にNCモードを指示した場合の処理の流れを示している。この場合、オーディオ処理部16a、NC信号生成部16b、合成部16eの処理が実行される。
即ちオーディオ処理部16aでは、再生部10から供給されるデジタルオーディオ信号DaL、DaRについてイコライジングやゲイン処理などを行う。そして処理後のデジタルオーディオ信号DaL’を合成部16eの加算器16eLに供給し、処理後のデジタルオーディオ信号DaR’を合成部16eの加算器16eRに供給する。
【0040】
また、NC信号生成部16bは、マイク入力部17からのマイク入力信号SmL、SmRに基づいて、ノイズキャンセル信号SncL、SncRを生成する。そしてマイク入力信号SmLに基づくノイズキャンセル信号SncLを合成部16eの加算器16eLに供給し、マイク入力信号SmRに基づくノイズキャンセル信号SncRを合成部16eの加算器16eRに供給する。
【0041】
合成部16eでは、加算器16eLが、デジタルオーディオ信号DaL’とノイズキャンセル信号SncLを加算して出力信号SsLとする。また加算器16eRが、デジタルオーディオ信号DaR’とノイズキャンセル信号SncRを加算して出力信号SsRとする。
【0042】
DSP16がこのような処理を行うNCモードでは、再生部10で再生された音楽コンテンツの音が、スピーカ21L、21Rから出力され、ユーザに聴取されるとともに、外来ノイズを低減した快適な音楽再生をユーザに提供するものとなる。
【0043】
一方、図6Bは制御部11がDSP16にカラオケモードを指示した場合の処理の流れを示している。この場合、オーディオ処理部16a、カラオケ信号生成部16d、ボーカル処理部16c、合成部16eの処理が実行される。
オーディオ処理部16aでは、再生部10から供給されるデジタルオーディオ信号DaL、DaRについてイコライジングやゲイン処理などを行う。その処理後のデジタルオーディオ信号DaL’、DaR’はカラオケ信号生成部16dの処理に供される。カラオケ信号生成部16dは、例えばボーカルキャンセル処理などを行い、カラオケ信号SkL、SkR(ボーカルの無い(ボーカルレベルが低減された)信号)を生成し、そのLチャンネル、Rチャンネルのカラオケ信号SkL、SkRを合成部16eの加算器16eL、16eRに供給する。
【0044】
また、ボーカル処理部16cは、マイク入力部17からのマイク入力信号SmL、SmRについて、ボーカル用の音響処理を行う。そして音響処理をしたLチャンネル、Rチャンネルの信号(ボーカル信号SvL、SvR)を合成部16eの加算器16eL、16eRに供給する。
【0045】
合成部16eでは、加算器16eLが、Lチャンネルのカラオケ信号SkLとボーカル信号SvLを加算して出力信号SsLとする。また加算器16eRが、Rチャンネルのカラオケ信号SkRとボーカル信号SvRを加算して出力信号SsRとする。
【0046】
DSP16がこのような処理を行うカラオケモードでは、再生部10で再生された音楽コンテンツからボーカル音声を除いたカラオケの音がスピーカ21L、21Rから出力されるとともに、ユーザの歌声がボーカル音声としてスピーカ21L、21Rから出力される。つまり図4で説明したようなカラオケ動作が実行される。
また、DSP16からの出力信号SsL、SsRを外部通信部15から外部装置に送信することで、図2,図3で説明したようなカラオケ動作が実行される。
なお、この場合、図2Bのように単体のマイクロホン3M、3S等を接続することもできる。その場合、マイク入力部17からDSP16に入力されるマイク入力信号SmL、SmRは、マイクロホン3M、3Sで集音される音声の信号となる。
【0047】
以上のように本実施の形態のオーディオプレーヤ1では、DSP16内の信号処理を変更するだけで、音楽再生用途とカラオケ用途に切り換えることができる。ユーザはモード選択操作により、手軽に音楽再生とカラオケを選択してそれぞれ楽しむことができる。
カラオケモードとする場合、NC機能付きのイヤホン2におけるマイクロホン22L、22Rをそのままボーカルマイクとして使用する図4のような使用形態であれば、ユーザは最も手軽にカラオケを楽しめる。また図2,図3のように外部装置と接続したり、別のマイクロホンを使用することで、より本格的にカラオケを楽しめる。
また、ノイズキャンセル用のマイクロホン22L、22Rを使用する場合、デュエットにも対応可能である。
【0048】
<4.各種DSP処理例>

続いて、DSP16の各演算機能としての具体的な処理例を説明していく。
図7AはNC信号生成部16bの処理例を示している。NC信号生成部16bがノイズキャンセル信号SncL、SncRを生成するのは、ユーザがオーディオプレーヤ1で通常に音楽等を聴いているNCモード時である。マイク入力信号SmL、SmRは、マイクロホン22L、22Rで得られた外部ノイズ音声の音声信号となる。
【0049】
NC信号生成部16bは、NCフィルタ41、43、及び反転アンプ42,44としての処理を行う。NCフィルタ41,43の処理内容は例えば高域を除去するフィルタ処理などである。
このNC信号生成部16bでは、マイク入力信号SmL、SmRについて、それぞれNCフィルタ41,43でフィルタ処理を行った後、反転アンプ42,44で位相反転を行ってノイズキャンセル信号SncL、SncRを生成し出力する。
このノイズキャンセル信号SncL、SncRがデジタルオーディオ信号DaL’、DaR’と加算されることで、イヤホン装置2を装着するユーザに対し、外来ノイズ音が空間的に打ち消されたノイズの少ない音楽再生を提供できる。
【0050】
図7Bは、ボーカル処理部16cの処理例を示している。
ボーカル処理部16cがボーカル信号SvL、SvRを生成するのは、オーディオプレーヤ1がカラオケモードとされた場合である。マイク入力信号SmL、SmRは、マイクロホン22L、22R、或いは他のマイクロホン3M、3S等で得られた、ユーザの歌声の音声信号となる。
【0051】
ボーカル処理部16cは、加算器51,エコー処理部52としての処理を行う。即ち、このボーカル処理部16cでは、マイク入力信号SmL、SmRを加算器51で加算し、加算した信号についてエコー処理部52でエコー処理を行う。そしてエコー処理した信号をL、Rチャンネルのボーカル信号SvL、SvRに振り分けて出力する。
ボーカル処理部16cがこのようにエコー処理を行うことで、歌声にエコーを付加したボーカル音を出力することができる。
なお、ここでは、L、Rチャンネルを合成してからエコー処理しているが、もちろん、マイク入力信号SmL、SmRに対して個別にエコー処理を施しても良い。
【0052】
図8は、カラオケモードにおけるカラオケ信号生成部16dとボーカル処理部16cの処理の具体例を示している。
カラオケ信号生成部16dは、ボーカルキャンセル処理を行うものとされ、加算器61、音声帯域通過フィルタ62、減算器63,64としての処理を行う。
デジタルオーディオ信号DaL’、DaR’は加算器61で加算されて音声帯域通過フィルタ62に供給される。音声帯域通過フィルタ62では、ボーカル音声としての帯域(例えば300Hz〜3KHz)を通過させる。
この音声帯域の信号成分は、減算器63,64に供給される。減算器63ではデジタルオーディオ信号DaL’から音声帯域の信号成分を減算する。減算器64ではデジタルオーディオ信号DaR’から音声帯域の信号成分を減算する。これによって、楽曲コンテンツのデジタルオーディオ信号DaL’、DaR’から、ボーカル音声が低減されたカラオケ信号SkL,SkRが生成される。
【0053】
ボーカル処理部16cでは、エコー処理を行う。この例の場合は、リバーブ処理部71〜74と、加算器75,76を有する例としている。
マイク入力信号SmLは、リバーブ処理部71で残響音が付加され加算器75に供給されるとともに、リバーブ処理部73で残響音成分が生成されて、加算器76に供給される。
マイク入力信号SmRは、リバーブ処理部72で残響音が付加され加算器76に供給されるとともに、リバーブ処理部74で残響音成分が生成されて、加算器75に供給される。
加算器75では、残響音付加されたマイク入力信号SmLと、マイク入力信号SmRの残響音成分を加算して、Lチャンネルのボーカル信号SvLとして出力する。
加算器76では、残響音付加されたマイク入力信号SmRと、マイク入力信号SmLの残響音成分を加算して、Rチャンネルのボーカル信号SvRとして出力する。
【0054】
以上のように生成されたカラオケ信号SkL,SkRと、ボーカル信号SvL、SvRは、合成部16eの加算器16eL、16eRで加算されて、DSP16の出力信号SsL、SsRとされる。
このような処理によれば、歌声に豊かなリバーブ効果を伴ったカラオケ音を楽しむことができる。
【0055】
図9も、カラオケモードにおけるカラオケ信号生成部16dとボーカル処理部16cの処理の具体例を示している。なお、カラオケ信号生成部16dの処理は図8と同様としている。
この例はボーカル処理部16cにおいてエコー(リバーブ)処理に加えてハウリング抑制処理を行うようにしたものである。
【0056】
ボーカル処理部16cは、加算器81、リバーブ処理部82、帯域制限フィルタ83、移相器84a〜84d、選択器85を備えている。
このボーカル処理部16cでは、マイク入力信号SmL、SmRを加算器81で加算し、加算した信号についてリバーブ処理部82で残響音付加処理を行う。
リバーブ処理部82からの信号は、帯域制限フィルタ83で帯域制限される。例えばボーカル音声帯域(300Hz〜3KHz)を通過させる。そしてボーカル帯域の信号が移相器84a〜84dに供給される。
【0057】
移相器84a〜84dは、それぞれ入力信号の位相を+90°、0°、−90°、180°移相させる。実際には、0°移相する移相器84bはゲイン=1の非反転アンプ、180°移相する移相器84dはゲイン=1の反転アンプで構成できる。また+90°、−90°移相する移相器84a、84cは、ヒルベルト変換フィルタを用いることができる。
選択器85は移相器84a〜84dのいずれかの出力を選択し、その選択して出力をL、Rチャンネルのボーカル信号SvL、SvRに振り分けて合成部16eの加算器16eL、16eRに供給する。選択器85の選択は、ユーザ操作によって切り換えられる。
合成部16eでは、このようなボーカル信号SvL、SvRが、それぞれカラオケ信号SkL,SkRと加算されて出力信号SsL、SsRが出力される。
【0058】
この図9の処理を行うようにすれば、ハウリング発生時にそれを抑制することができる。例えば歌い手であるユーザーがハウリング音を知覚した場合に、オーディオプレーヤ1の操作部12の操作により、移相モードを選択する。即ち選択器85の選択状態を任意に切り換えるようにする。ハウリングが解消するような選択状態を探して、ボーカル信号SvL、SvRの位相状態を変化させることで、ハウリングが発生しにくくなるようにすることができる。
【0059】
続いて図10,図11で、図4で説明したようにイヤホン装置2を用いて一人完結状態のカラオケを楽しむ場合に好適なDSP16の処理例を説明する。
図4で述べたように、ユーザがイヤホン装置2を装着し、マイクロホン22L、22Rをボーカルマイクとして用いると共に、スピーカ21L、21Rからボーカル及びカラオケ音声を聴くという場合、信号の流れは図10のようになる。
【0060】
再生部10で再生された楽曲コンテンツのデジタルオーディオ信号DaL、DaRは、DSP16においてオーディオ処理部16a、カラオケ信号生成部16dの処理でカラオケ信号SkL,SkRとされ、合成部16eに供給される。
ユーザの歌声は、マイクロホン22L、22Rで集音され、マイク入力部17を介してDSP16にマイク入力信号SmL,SmRとして入力される。このマイク入力信号SmL,SmRはボーカル処理部16cで後述するビームフォーミング処理等が施されてボーカル信号SvL、SvRとされて合成部16eに供給される。
合成部16eでは、ボーカル信号SvL、SvRと、カラオケ信号SkL,SkRがそれぞれ加算されて出力信号SsL、SsRが出力される。出力信号SsL、SsRはイヤホン出力部18でD/A変換、パワーアンプ増幅が行われ、スピーカ21L、21Rからカラオケ音と歌声のミックスされた音声としてユーザの聴覚に届く。
【0061】
図11に、この場合に適したDSP16のボーカル処理部16c、カラオケ信号生成部16dの処理の具体例を示している。なお、カラオケ信号生成部16dの処理は図8と同様のボーカルキャンセル処理を行うものとしている。
この例ではボーカル処理部16cにおいてビームフォーミング処理部91とリバーブ処理部92を備えるようにしている。
この場合、イヤホン装置2をユーザが装着していることで、マイクロホン22L、22Rはユーザーの口元ではなく耳元に存在する。そこでビームフォーミング処理を施すことにより、歌い手の声を確実に集音するようにするものである。即ちビームフォーミングの手法をとることで、集音時の指向性を形成する。
【0062】
一般的に、2つのマイクロホン(ステレオマイクロホン)を用いる場合であって、仮に、必要な指向性が正面または後ろだとすると、もっとも簡単なビームフォーミング処理は、左右のマイクロホンからの音声信号の加算処理で良い。すると、正面又は後方からの音声、つまりマイクロホンから等距離の音源からの音声についての左右チャンネルの音声信号成分は位相が一致しており、加算により強調される。他の方向からの音の音声信号成分は左右チャンネルの音声信号成分は位相がずれているため、その分、低減される。これによって例えば正面方向に指向性をもった音声信号を得ることができる。
イヤホン装置2のスピーカユニット2L、2Rに設けられた2つのマイクロホン22L、22Rは、ユーザの口元からの距離がほぼ同等である。従って、ビームフォーミング処理部91では、左右のマイク入力信号SmL、SmRを加算するのみでも、周囲のノイズに比してユーザの歌声を取り出すことができるようになる。つまりビームフォーミング処理によって、ユーザの歌声を的確に集音するような指向性を形成しつつ、同時に周囲のノイズを低減することが可能となる。
なお、ビームフォーミング自体は正面以外の方向のものでも強調することができ、その場合は片側のチャンネルに遅延装置を組み込むことで、各マイクに到達する同一波面の時間差を吸収することができ、斜め方向や横方向のビームフォーミングも形成できるものである。従ってイヤホン装置2の装着時のマイクロホン22L、22Rとユーザの口の位置関係に応じて、必要な遅延処理を施すようにしてもよい。
【0063】
また、さらにビームフォーミングの精度(この場合、マイクロホン22L、22Rから見たユーザの口元方向の指向性強調、及び周囲ノイズ低減)を高めるためには、バンドパスフィルタを用いたノイズサプレッション装置を使用することができる。
【0064】
図12に、図11のビームフォーミング処理部91として用いることができる構成例(ノイズサプレッション処理部)を示す。
図12のようにビームフォーミング処理部(ノイズサプレッション処理部)91は、音源方向判定部100Aとフィルタ処理部100Bを有する構成とされる。
音源方向判定部100Aは、L/Rチャンネルのマイク入力信号SmL,SmRについて、この例では第1〜第3の各帯域毎に、それぞれ音源方向を判定する。
フィルタ処理部100Bは、上記の第1〜第3の帯域についての音声信号の強調又は減衰を行う直列接続された3つのフィルタ(ミッドプレゼンスフィルタ(MPF:Mid Presence Filter)158,159,160)を有する。
【0065】
音源方向判定部100Aは、バンドパスフィルタ151L、152L、153L、151R、152R、153R、音源方向角度解析部154,155,156を備える。
バンドパスフィルタ151L、152L、153Lは、それぞれが通過中心周波数をfc1,fc2,fc3とされている。説明上、それぞれの通過帯域をBD1,BD2,BD3と表記することとする。
またバンドパスフィルタ151R、152R、153Rも、それぞれが通過中心周波数をfc1,fc2,fc3とされている。それぞれの通過帯域は同じくBD1,BD2,BD3である。
左チャンネルのマイク入力信号SmLは、バンドパスフィルタ151L、152L、153Lに入力され、各帯域BD1,BD2,BD3の音声信号成分が抽出される。
また右チャンネルのマイク入力信号SmRは、バンドパスフィルタ151R、152R、153Rに入力され、各帯域BD1,BD2,BD3の音声信号成分が抽出される。
【0066】
バンドパスフィルタ151L、151Rの出力である、左右各チャンネルの帯域BD1の音声信号成分は音源方向角度解析部154に供給される。
バンドパスフィルタ152L、152Rの出力である、左右各チャンネルの帯域BD2の音声信号成分は音源方向角度解析部155に供給される。
バンドパスフィルタ153L、153Rの出力である、左右各チャンネルの帯域BD3の音声信号成分は音源方向角度解析部156に供給される。
【0067】
音源方向角度解析部154は、帯域BD1に対応し、供給された帯域BD1の音声信号成分のうちで支配的な音の音源方向を判定する。
音源方向角度解析部155は、帯域BD2に対応し、供給された帯域BD2の音声信号成分のうちで支配的な音の音源方向を判定する。
音源方向角度解析部154は、帯域BD3に対応し、供給された帯域BD3の音声信号成分のうちで支配的な音の音源方向を判定する。
音源方向角度解析部154,155,156のそれぞれは、対応する帯域について、各チャンネルの音声信号のエネルギー差分に基づいて音源方向を判定する。
そして音源方向角度解析部154,155,156は、判定した方向に応じて、制御信号SG1,SG2,SG3により、1:1で対応して設けられているMPF158、159,160を制御する。図からわかるように、音源方向角度解析部154はMPF158を、音源方向角度解析部155はMPF159を、音源方向角度解析部156はMPF160を、それぞれ制御対象としている。
【0068】
フィルタ処理部100Bは、加算器157、ミッドプレゼンスフィルタ(MPF)158,159,160から成る。MPF158,159,160は直列接続されたフィルタ群とされている。
加算器157は、左右チャンネルのマイク入力信号SmL,SmRを加算する。加算器157による左右チャンネルのマイク入力信号を合成した音声信号(LR加算信号)はMPF158に供給される。
【0069】
MPF158,159,160は、それぞれ対応する帯域の強調又は減衰を行う。ここで3つのMPFが設けられているのは、音源方向判定部100Aのバンドパスフィルタ151L、152L、153L、151R、152R、153Rがマイク入力信号SmL,SmRをそれぞれ3つの帯域にわけていることによる。
MPF158,159,160は、それぞれが中心周波数がfc1,fc2,fc3とされる。そして図13のような特性を持ち、特定の対象帯域(周波数fcを中心とする帯域)に対して、ゲインの増幅や低減を行うものとされる。MPF158,159,160では、このようなゲイン可変調整による対象の帯域の強調又は減衰が、上記のように、音源方向角度解析部154,155,156によって制御される。
【0070】
つまり、MPF158は、周波数fc1を中心とする帯域BD1の強調又は減衰を行うが、このMPF158はバンドパスフィルタ151L、151R、音源方向角度解析部154に対応する。
またMPF159は、周波数fc2を中心とする帯域BD2の強調又は減衰を行うが、このMPF159はバンドパスフィルタ152L、152R、音源方向角度解析部155に対応する。
またMPF160は、周波数fc3を中心とする帯域BD3の強調又は減衰を行うが、このMPF160はバンドパスフィルタ153L、153R、音源方向角度解析部156に対応する。
【0071】
そして、ビームフォーミング処理として、マイクロホン22L、22Rから見てユーザの口元の方向を目的の方向とする場合は、音源方向が当該方向と判定された帯域についてはブーストされ、音源方向が他の方向と判定された帯域についてはアッテネートされる。ブースト(強調)/アッテネート(減衰)のレベルは、方向角度の判定による。
【0072】
MPF158,159,160のそれぞれでは、音源方向角度解析部154,155,156による制御で、マイク入力信号SmR、SmRの加算信号に対する強調又は減衰が行われる。そしてMPF160の出力が、このビームフォーミング処理部91の出力信号Soutとなる。
結果、ビームフォーミング処理部91の出力は、ユーザの歌声(口元方向の音)を的確に集音し、かつ周囲の他の方向からのノイズを低減した信号となる。
【0073】
このようなビームフォーミング処理部91の出力が、図11に示すようにリバーブ処理部92で残響音付加される。そしてリバーブ処理部92の出力がL、Rチャンネルのボーカル信号SvL、SvRとして合成部16eの加算器16eL、16eRに供給される。
合成部16eでは、このようなボーカル信号SvL、SvRが、それぞれカラオケ信号SkL,SkRと加算されて出力信号SsL、SsRが出力される。
以上の処理により、一人完結型のカラオケを楽しむ際に、ユーザに品質のよいカラオケ及びボーカル音声を提供できるものとなる。
【0074】
<5.変形例>

以上、実施の形態について説明してきたが、本開示の技術については多様な変形例が考えられる。
実施の形態では、NCモード及びカラオケモードの動作を行うための構成部位、即ちマイク入力部17、DSP16、イヤホン出力部18、及び制御部11(制御部11のDSP16に対する制御機能)が、オーディオプレーヤ1の内部に設けられた例を示した。一方で、図14に示すように、オーディオプレーヤ1とは別体のノイズキャンセルユニット8を、例えばイヤホン装置2の途中に接続する構成のものもある。
この場合、ノイズキャンセルユニット8を、上述のマイク入力部17、DSP16、イヤホン出力部18、及び制御部11(制御部11のDSP16に対する制御機能)に相当する構成を有する信号処理装置とすることで、ユーザは同様に音楽聴取とカラオケを選択的に楽しむことができる。
即ちNCモードとカラオケモードの動作を実現するための信号処理装置としては、オーディオプレーヤ1等の再生装置とは別体の装置として構成されてもよい。
【0075】
また実施の形態では、マイクロホン22L、22R(或いは他のマイクロホン)を用いてデュエットも、可能と述べた。この場合に、ボーカル処理部16cでは、2系統のマイク入力信号SmL、SmRにそれぞれ対応して独立にエコー処理等の音響処理を施すようにしてもよい。
【0076】
またボーカル処理部16cの処理としては上記例で挙げたもの以外の音響処理を行うようにしてもよい。例えばボーカル強調処理、ボイスチェンジ処理、ハモリ付加処理、ボーカルレベル調整などである。
ボーカル強調処理としては、例えばボーカル帯域をブーストするようなイコライジングや、ボーカル成分についての高調波成分の付加などが考えられる。
ボイスチェンジ処理としても、信号の周波数特性を変化させることが考えられる。
ハモリ付加処理としては、ボーカル音声信号を抽出し、抽出したボーカル音声信号をピッチシフトして、ボーカル音声信号に加算する等の処理が考えられる。
【0077】
またカラオケ信号生成部16dの処理としては、キー変換(ピッチシフト)を行うようにしてもよい。即ち楽曲のカラオケ信号についてピッチシフトを行い、曲のキーをユーザの望むキーに変化させる処理である。
【0078】
また、DSP16からの出力信号SsL、SsRを外部通信部15から外部装置に送信する場合、その外部装置でスピーカ出力するだけで無く、録音機器により録音させて楽しむことも可能である。
【0079】
また、マイクロホン3M、3S、或いはマイクロホン22L、22Rとしてデジタルマイクロホンを用いることもできる。その場合、マイク入力部17としてはマイクアンプ(32L、32R)、A/D変換器(31L、31R)を不要とできる。従ってマイク入力部17は、デジタルマイクからの入力インターフェースとして構成されればよく、或いはマイク入力部17の機能をDSP16が備えるようにすることも想定される。
【0080】
なお、本開示の再生装置は、以下のような構成を採ることもできる。
(1)楽曲としてのデジタルオーディオ信号を出力する楽曲ソース部と、
マイクロホンから供給される音声信号を入力するマイクロホン信号入力部と、
上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセル信号生成部と、
上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施してボーカル信号とするボーカル処理部と、
上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成するカラオケ信号生成部と、
上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成する第1の合成処理と、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成する第2の合成を行う合成部と、
第1のモードの際には上記合成部で上記第1の合成処理が行われるようにし、第2のモードの際には上記合成部で上記第2の合成処理が行われるように制御する制御部と、
上記合成部で合成された信号を、スピーカ出力用の音声信号として出力する出力部と、
を備えた再生装置。
(2)上記ノイズキャンセル信号生成部と、上記ボーカル処理部と、上記カラオケ信号生成部と、上記合成部とは、演算処理装置内のソフトウエア処理機能として設けられ、
上記制御部は、上記第1のモードの際には、上記演算処理装置に、上記ノイズキャンセル信号生成部の処理を実行させて、上記合成部で上記第1の合成処理が実行されるように制御し、上記第2のモードの際には、上記演算処理装置に、上記ボーカル処理部と上記カラオケ信号生成部の処理を実行させて、上記合成部で上記第2の合成処理が実行されるように制御する上記(1)に記載の再生装置。
(3)上記ボーカル処理部は、上記ボーカル音声用の音響処理として、ビームフォーミング処理を行う上記(1)又は(2)に記載の再生装置。
(4)上記ボーカル処理部は、上記ボーカル音声用の音響処理として、リバーブ処理を行う上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の再生装置。
(5)上記ボーカル処理部は、上記ボーカル音声用の音響処理として、ハウリング抑制処理を行う上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の再生装置。
(6)上記カラオケ信号生成部は、上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号からボーカル音声成分を抽出し、該ボーカル音声成分を、上記デジタルオーディオ信号から減算することで、ボーカル音声成分をキャンセルしたカラオケ信号を生成する上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の再生装置。
(7)上記マイクロホン信号入力部は、接続されたイヤホンの筐体に設けられたマイクロホンから供給される音声信号を入力する構成とされている上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の再生装置。
(8)上記楽曲ソース部から出力されるデジタルオーディオ信号に対応した歌詞データを表示データとして出力する表示制御部を、さらに備える上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の再生装置。
【符号の説明】
【0081】
1 オーディオプレーヤ、2 イヤホン装置、8 ノイズキャンセルユニット、10 再生部、11 制御部、12 操作部、13 表示コントローラ、14 表示部、15 外部通信部、16 DSP、16a オーディオ処理部、16b NC信号生成部、16c ボーカル処理部、16d カラオケ信号生成部、16e 合成部、17 マイク入力部、18 イヤホン出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽曲としてのデジタルオーディオ信号を出力する楽曲ソース部と、
マイクロホンから供給される音声信号を入力するマイクロホン信号入力部と、
上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセル信号生成部と、
上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施してボーカル信号とするボーカル処理部と、
上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成するカラオケ信号生成部と、
上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成する第1の合成処理と、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成する第2の合成を行う合成部と、
第1のモードの際には上記合成部で上記第1の合成処理が行われるようにし、第2のモードの際には上記合成部で上記第2の合成処理が行われるように制御する制御部と、
上記合成部で合成された信号を、スピーカ出力用の音声信号として出力する出力部と、
を備えた再生装置。
【請求項2】
上記ノイズキャンセル信号生成部と、上記ボーカル処理部と、上記カラオケ信号生成部と、上記合成部とは、演算処理装置内のソフトウエア処理機能として設けられ、
上記制御部は、上記第1のモードの際には、上記演算処理装置に、上記ノイズキャンセル信号生成部の処理を実行させて、上記合成部で上記第1の合成処理が実行されるように制御し、上記第2のモードの際には、上記演算処理装置に、上記ボーカル処理部と上記カラオケ信号生成部の処理を実行させて、上記合成部で上記第2の合成処理が実行されるように制御する請求項1に記載の再生装置。
【請求項3】
上記ボーカル処理部は、上記ボーカル音声用の音響処理として、ビームフォーミング処理を行う請求項1に記載の再生装置。
【請求項4】
上記ボーカル処理部は、上記ボーカル音声用の音響処理として、リバーブ処理を行う請求項1に記載の再生装置。
【請求項5】
上記ボーカル処理部は、上記ボーカル音声用の音響処理として、ハウリング抑制処理を行う請求項1に記載の再生装置。
【請求項6】
上記カラオケ信号生成部は、上記楽曲ソース部から供給されるデジタルオーディオ信号からボーカル音声成分を抽出し、該ボーカル音声成分を、上記デジタルオーディオ信号から減算することで、ボーカル音声成分をキャンセルしたカラオケ信号を生成する請求項1に記載の再生装置。
【請求項7】
上記マイクロホン信号入力部は、接続されたイヤホンの筐体に設けられたマイクロホンから供給される音声信号を入力する構成とされている請求項1に記載の再生装置。
【請求項8】
上記楽曲ソース部から出力されるデジタルオーディオ信号に対応した歌詞データを表示データとして出力する表示制御部を、さらに備える請求項1に記載の再生装置。
【請求項9】
マイクロホンから供給される音声信号を入力するマイクロホン信号入力部と、
上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成するノイズキャンセル信号生成部と、
上記マイクロホン信号入力部により入力される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施してボーカル信号とするボーカル処理部と、
入力された楽曲としてのデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成するカラオケ信号生成部と、
入力されたデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成する第1の合成処理と、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成する第2の合成を行う合成部と、
第1のモードの際には上記合成部で上記第1の合成処理が行われるようにし、第2のモードの際には上記合成部で上記第2の合成処理が行われるように制御する制御部と、
上記合成部で合成された信号を、スピーカ出力用の音声信号として出力する出力部と、
を備えた信号処理装置。
【請求項10】
マイクロホンから供給される音声信号に基づいて、外部ノイズ成分をキャンセルする信号特性となるノイズキャンセル信号を生成し、入力されたデジタルオーディオ信号と上記ノイズキャンセル信号を合成して、スピーカ出力用の音声信号として出力する第1のモードの信号処理と、
マイクロホンから供給される音声信号に対してボーカル音声用の音響処理を施し、また入力された楽曲としてのデジタルオーディオ信号から、ボーカル音声成分をキャンセルしてカラオケ信号を生成し、上記カラオケ信号と上記ボーカル信号を合成して、スピーカ出力用の音声信号として出力する第2のモードの信号処理と、
を選択的に実行する信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−252240(P2012−252240A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125949(P2011−125949)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】