説明

冷凍二枚貝類食品及びその製造方法

【課題】 調理に供した際の高開口率の冷凍二枚貝類食品とこの冷凍二枚貝類食品を量産することのできる製造方法を提供すること。
【解決手段】 開口穴が設けられた熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類が充填され且つ該フィルムが加熱収縮されてなることを特徴とする冷凍二枚貝類食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサリ(Ruditapes philippinarum)、シジミ(Corbiculidae)、ハマグリ(Meretrix lusoria)、赤貝(Anadara broughtoni)等の二枚貝を殻付きのまま冷凍保存した冷凍二枚貝類食品とこの食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍二枚貝類食品としてはアサリやハマグリ等の二枚貝を殻付きのまま冷凍した加工品や、あるいは貝類から剥き身を分離して、この剥き身を急速冷凍するようにした加工品があった。
【0003】
上記の殻付きの冷凍加工品としては、生のまま袋詰めして急速冷凍するか、あるいは調味液と生の二枚貝を袋詰めして急速冷凍するものがあった。また、剥き身の冷凍加工品としては、二枚貝からカキやアサリ等の剥き身を脱殻して個別に急速冷凍した冷凍加工品があった。
【0004】
従来の殻付きの二枚貝の冷凍加工品では、殻付きの料理などに用いる場合には、重宝なものとなるが殻を使うことがない料理には適さないものであった。
一方、冷凍された剥き身の加工品の場合には、殻を使わない料理には適したものとなるが、上記剥き身の冷凍加工品は、二枚貝を蒸煮して剥き身を個別に冷凍処理するか、あるいは生の二枚貝から剥き身を取り出して個別に冷凍処理するものであるために、二枚貝の旨味成分である煮汁や液汁が流出する欠点があった。
その結果、従来の剥き身の冷凍加工品を料理に使う場合には二枚貝本来の旨味を料理に活かすことができないという欠点を有していた。
【0005】
アサリ(Ruditapes philippinarum)やシジミ(Corbiculidae)、ハマグリ(Meretrix lusoria)、赤貝(Anadara broughtoni)等に代表される二枚貝を殻付のまま冷凍処理を施し、長期の保存においても貝の旨味を損なわないようにするという技術が多く検討されている。
しかし、これら二枚貝を冷凍処理したものは調理の際に殻が開かない、即ち開口不良を生じたりあるいは開口状態で冷凍され解凍時には旨み成分が流出していることが多いなどという問題があった。
その原因は種々考えられるが、冷凍処理前の生貝が既に死んでいたり、或は傷んでいる等の損傷がある場合や、冷凍の前処理の加熱工程にむらがある場合等が考えられている。
【0006】
例えば、特許文献1は、上記した問題を解決しようとするものであり、冷凍処理を施す前の二枚貝に高電圧を印加して解凍時に二枚貝の開口率を上げようとするものである。
具体的には、電極間に二枚貝を配置して交流又は直流のパルス電圧を印加して、貝の閉殻筋(貝柱)を外れ易くするというものである。
【0007】
しかしながら、特許文献1の開示技術は印加電圧の条件によって開口率が変動するため、電圧印加処理の度に条件を最適化する必要があった。加えて、処理対象となる貝の数によって印加電圧の条件を変更する必要があり、また大量の貝に対しての処理には不適であるため、二枚貝類の冷凍食品を量産するのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−244275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した問題を解決しようとすべくなされたものであって、調理に供した際の高開口率の冷凍二枚貝類食品とこの冷凍二枚貝類食品を量産することのできる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、開口穴が設けられた熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類が充填され且つ該フィルムが加熱収縮されてなることを特徴とする冷凍二枚貝類食品に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋が少なくとも2層以上からなる多層フィルムで80℃〜95℃での熱水収縮率が22〜35%である袋からなることを特徴とする請求項1記載の冷凍二枚貝類食品に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋の略全面に亘って前記開口穴が設けられてなることを特徴とする請求項1又は2記載の冷凍二枚貝類食品に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、下記(1)乃至(4)の工程からなることを特徴とする冷凍二枚貝類食品の製造方法に関する。
(1)サイズ選別、砂抜き、異物割れ除去の前処理工程
(2)熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類を充填する充填工程
(3)二枚貝類を充填した熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋を熱水槽へ投入する投入工程
(4)二枚貝類を冷却した後に冷凍する冷凍処理工程
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、開口穴が設けられた熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類が充填され且つ該フィルムが加熱収縮されてなる冷凍二枚貝類食品であるから、解凍調理の際に殻が開かない、即ち開口不良を生じることがなく、更には開口状態で冷凍され解凍時に旨み成分が流出するということが無い冷凍二枚貝類食品とすることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋が少なくとも2層以上
からなる多層フィルムで80℃〜95℃での熱水収縮率が22〜35%である袋であるた
め、冷凍二枚貝類を加熱処理して貝の閉殻筋(貝柱)を外れ易くする工程において熱収縮性
ガスバリアー合成樹脂袋が収縮して殻を押さえつけて貝を開口させること無く加熱するこ
とができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋の略全面に亘って開口
穴が設けられているため、二枚貝類を加熱処理して貝の閉殻筋(貝柱)を外れ易くする工
程において熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋が収縮して殻を押さえつけると共に、充填さ
れた二枚貝の全体がむら無く加熱されて冷凍後の二枚貝類の開口率を高めることができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、下記(1)乃至(4)の工程からなる冷凍二枚貝類食品
の製造方法であるため、解凍調理の際に殻が開かない、即ち開口不良を生じることがなく、
更には開口状態で冷凍され解凍時に旨み成分が流出するということがない冷凍二枚貝類食
品を確実に調製できるという効果を奏する。
(1)サイズ選別、砂抜き、異物割れ除去の前処理工程
(2)熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類を充填する充填工程
(3)二枚貝類を充填した熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋を熱水槽へ投入する投入工程
(4)二枚貝類を冷却した後に冷凍する冷凍処理工程
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施例にかかる冷凍二枚貝類食品の外観図である。
【図2】この発明の一実施例にかかる冷凍二枚貝類食品の縦断面図である。
【図3】この発明の一実施例で使用する熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋の縦断面図である。
【図4】この発明の一実施例にかかる冷凍二枚貝類食品の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
本発明において使用するアサリとは、学名 Ruditapes philippinarumで、アサリ属に属する二枚貝の総称であって、ヒメアサリ(学名 Ruditapes variegata)もアサリと呼ばれ、食用として重要な貝であり一般にマルスダレガイ目マルスダレガイ科に属する二枚貝を使用する。
【0020】
この発明において使用するハマグリは、ハマグリ属(Meretrix)の種、たとえばベニハマグリ(バカガイ科)、ノミハマグリ(ノミハマグリ科)など、学名 Meretrix lusoria 以外のハマグリも指し、使用される。
【0021】
この発明において使用する赤貝(Anadara broughtoni)は、フネガイ目フネガイ科に属する二枚貝で、呼吸色素がヘモグロビンと同様に鉄ポルフィリンを補欠分子団とするエリトロクルオリンのため血液が赤く、これが名前の元となっている貝である。
本発明においては、上記の二枚貝類に限定されず、通常食用とされる二枚貝類はすべて使用することができる。
【0022】
図1及び図2に示すように、これら二枚貝類(S)は開口穴(H)が所要数設けられた
熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋Rに充填され凍結されている。
図1に示す如く、熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)は収縮して二枚貝類を押圧し
てすべての二枚貝類(S)の殻を閉殻状態に保持している。
【0023】
図3に示す如く、この発明で使用する熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)は、少なくとも2層以上からなる多層フィルムから構成され、80℃〜95℃での熱水収縮率が22〜35%である袋からなる。
【0024】
本発明においては、熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)は二枚貝類(S)を熱水で加熱処理して閉殻筋(貝柱)を外れ易くする加熱工程を経るため80℃〜95℃での熱水耐熱性が必要であり、この温度での収縮率が22〜35%必要とされる。
80℃未満の温度では閉殻筋(貝柱)を外れ易くする処理が十分行えず好ましくない。また熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)の収縮率が22%未満であると、二枚貝類(S)の殻を閉殻状態で保持するのが難しく、収縮率が35%を超えると、二枚貝類(S)を押さえる際にフィルムに加わる張力でフィルムが裂ける虞があり、いずれの場合も好ましくない。
【0025】
本発明において用いられる熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)には、開口穴(H)が設けられている。
この開口穴(H)の大きさ、開口穴(H)同士の間隔、数は、二枚貝類(S)の大きさ、種類、充填量、熱水加熱時間等を勘案して、適宜定めることが可能である。
図1に示す如く、開口穴(H)を袋の略全面に亘って設けると、熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)に充填された二枚貝類(S)の開口率を高めることができ、好ましい。
【0026】
図4に基づいて、本発明に係る冷凍二枚貝類食品の製造方法を説明する。
先ず、二枚貝類(S)の前処理を行う。
この前処理工程においては、アサリ、ハマグリ等の二枚貝類(S)の砂抜き、異物割れ除去などを行い、夾雑物の除去や障害を持つ貝を除去する。
【0027】
次いで、熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)に二枚貝類(S)を充填する。
この二枚貝類(S)を充填した熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)を90℃以上の熱水槽へ投入する。熱水槽への投入時間は二枚貝の種類、充填量によっても異なるが、通常1kgのアサリであれば60秒程度浸漬する。
この熱水槽への投入工程は貝類の閉殻筋(貝柱)を外れ易くする加熱工程であるが、加熱時に貝の殻が開こうとするのを熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)が収縮して殻を押さえつけて貝を開口させることが無い。
【0028】
本発明において用いられる熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)は、開口穴(H)が設けられているため、充填された二枚貝類(S)の表面部だけでなく、中心部にも熱を伝えることができ、全体がむら無く加熱されて二枚貝類の閉殻筋(貝柱)を外れ易くする。
【0029】
この熱水処理の後、1℃〜3℃程度の氷水中で冷却する。
氷水での冷却後、二枚貝類(S)を熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)に充填したまま、或は袋から貝を取り出して−18℃〜−25℃程度の低温で凍結、冷凍食品とする。
【0030】
このようにして製造された冷凍二枚貝類食品は、解凍調理の際に殻が開かない、即ち、開口不良を生じることなく、更には開口状態で冷凍され解凍時に旨み成分が流出するということがない。
【0031】
以下に本発明の冷凍二枚貝類食品の実施例及び比較例について説明し、本発明をより明
確なものとする。
【0032】
(実施例)
原料貝類として、愛知県産の活きアサリを用いた。
<砂出し洗浄工程>
活きアサリの鮮度状態、形状などを検品した後、砂出し洗浄工程において、原料アサリを海水タンクに移し、約一昼夜蓄養した。この工程において、原料アサリからほぼ砂出しが完了する。
尚、気温が低いときにはスチームにより室温を20℃前後に保持する。
【0033】
<異物割れ除去工程>
生貝から障害貝や異物や夾雑物等を除去し洗浄した。
この洗浄処理は、3%の塩水と真水、3%の塩水で順次処理する。真水での処理は約5秒程度である。この時、目視により異物や割れ貝を除外する。
【0034】
<充填工程>
前処理した貝1kgを熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)(商品名マルチエクシードE 大倉工業(株)製)に充填した。
この袋の表裏面には直径5mmの小穴が、約2cmの間隔で百個設けられている。
【0035】
<加熱工程>
この熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)に充填された二枚貝類(S)を、90℃の熱水槽に60秒投入した。
熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)が収縮し、二枚貝類(S)を全て閉殻状態で保持したまま加熱した。
【0036】
<冷却工程>
この熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)に充填された二枚貝類(S)を1℃の氷水槽に2分浸漬して冷却した。
【0037】
<凍結工程>
冷却後−25℃で17分間凍結冷凍した。
【0038】
(比較例)
熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋(R)の代わりに非熱収縮性合成樹脂製ネットを用いた以外は、実施例と全く同様にして冷凍二枚貝類食品を得た。
【0039】
(開口数の計測)
実施例で得られた5つの冷凍二枚貝類食品(実施例1〜5)であるアサリ1kg中より無作為に各十粒ずつ選んで、凍結状態での開口数、加熱解凍後の開口数を計測した。
比較例で得られた5つの冷凍二枚貝類食品(比較例1〜5)であるアサリについても同様の試験を行った。
【0040】
実施例及び比較例で得られた、凍結状態における開口数と解凍後における開口数を表1及び表2に夫々示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る冷凍二枚貝類食品及び冷凍二枚貝類食品の製造方法は、アサリ(Ruditapes philippinarum)、シジミ(Corbiculidae)、ハマグリ(Meretrix lusoria)、赤貝(Anadara broughtoni)等の二枚貝を殻付きのまま冷凍保存して冷凍二枚貝類食品とすることができると共に、調理に供した際に開口不良の生じない、即ち高開口率の冷凍二枚貝類食品の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
S・・・二枚貝類
H・・・開口穴
R・・・熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口穴が設けられた熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類が充填され且つ該フィルムが加熱収縮されてなることを特徴とする冷凍二枚貝類食品。
【請求項2】
前記熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋が少なくとも2層以上からなる多層フィルムで80℃〜95℃での熱水収縮率が22〜35%である袋からなることを特徴とする請求項1記載の冷凍二枚貝類食品。
【請求項3】
前記熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋の略全面に亘って前記開口穴が設けられてなることを特徴とする請求項1又は2記載の冷凍二枚貝類食品。
【請求項4】
下記(1)乃至(4)の工程からなることを特徴とする冷凍二枚貝類食品の製造方法。
(1)サイズ選別、砂抜き、異物割れ除去の前処理工程
(2)熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋に二枚貝類を充填する充填工程
(3)二枚貝類を充填した熱収縮性ガスバリアー合成樹脂袋を熱水槽へ投入する投入工程
(4)二枚貝類を冷却した後に冷凍する冷凍処理工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101(P2011−101A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148032(P2009−148032)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(309020404)有限会社渡辺水産 (1)
【Fターム(参考)】