説明

冷凍機を搭載した車両の制御装置

【課題】車両走行用エンジン4の発電機5により冷凍機のコンプレッサ駆動電動機2を運転する冷凍車において、車両の停車時であってエンジンがアイドル状態にあるときにも、エンジン及び冷凍機を安定して運転し十分な冷却を行わせる。
【解決手段】走行用エンジンの制御装置41は、車両の走行時に燃料供給量を決定する走行時マップ以外に負荷追従マップを備え、車両が停車しかつエンジンがアイドル状態である場合においてコンプレッサ駆動電動機2が作動されるときは、負荷追従マップを使用して燃料供給量を決定する。負荷追従マップでは、エンジン回転数の変化に対する燃料供給量の変化の割合が走行時マップよりも大きく、エンジン回転数の変動を小さく抑えることができるので、冷凍機及びエンジンの安定した作動が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮食料品あるいは冷凍食品等を運搬するため、冷凍機を搭載して荷物室の温度管理を可能としたトラック等の車両において、その冷凍機のコンプレッサを駆動する際の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の消費生活の多様化に伴って、物流の面では多種の荷物の運搬が行われるようになり、野菜、魚介類等の生鮮食料品、加工食品又は冷凍食品など、運搬中の温度管理が厳しく要求される荷物の扱いも増加している。このような荷物を輸送するため、冷凍機を装備し荷物室の温度を低温に保つ冷凍車が多用されるようになった。また、宅配便の普及やコンビニエンスストアへの商品の供給に見られるように、小口の荷物の配送あるいは食品の加工後直ちに配送する即時配送等の需要が高まっているが、こうした配送においては、配送中に頻繁に荷物の搬入、搬出が行われることから、冷凍車の荷物室の温度変化が激しくなり、温度管理の困難性が増すことになる。
【0003】
冷凍車に搭載される冷凍機は、冷媒を圧縮するコンプレッサ、凝縮器、膨張弁、蒸発器を備え、膨張弁により低温となった冷媒を蒸発器に送り込んで荷物室内を冷却する。冷媒は蒸発器からコンプレッサへと循環し、コンプレッサで再び圧縮される。そして、コンプレッサには、これを駆動する動力を供給する必要がある。
【0004】
コンプレッサを駆動するにはいくつかの方法がある。例えば、車両走行用のエンジンとは別に補助エンジンを車両に搭載し、これによってコンプレッサを駆動する方式があり、比較的大型の冷凍車に採用されている。また、特開2002−127740号公報に示されるように、走行用のエンジンによって駆動されるコンプレッサと電動機によって駆動されるコンプレッサとの2台のコンプレッサを装備し、電動機を商用電源又は車載のバッテリで回転させるように構成された冷凍車もある。ただし、これらの方式では、エンジン又はコンプレッサが2台必要となり、コストの上昇あるいは装備スペース確保の困難性等の問題を招く。
【0005】
これに対し、例えば特開2001−56162号公報に示されるように、コンプレッサを駆動する電動機を設け、車両走行用のエンジンに補機として装備された発電機からの電力を、電圧及び周波数を調整するインバータを介して、コンプレッサ駆動用電動機に供給する方式がある。以下、この公報に記載された冷凍機のコンプレッサ駆動方法について、図8により説明する。
【0006】
車両に搭載された冷凍機のコンプレッサ1にはコンプレッサ駆動電動機2が連結されており、コンプレッサ1により圧縮された冷媒は、凝縮器22から膨張弁23に送られ、ここで絞り膨張を起こして低温となる。その後冷媒は車両の荷物室に設置された蒸発器24を通過して荷物室を冷却し、再びコンプレッサ1に循環する。車両走行用エンジン4の補機である発電機5からの電力は、接続スイッチ13及び電力変換部を介してコンプレッサ駆動電動機2に供給される。電力変換部には整流回路64とインバータ61とが配置されており、発電機5からの電力は、冷凍機のコンプレッサ1に作用する負荷に見合うように電圧と周波数が変換されて、コンプレッサ駆動電動機2に送られる。なお、整流回路64とインバータ61との間には、平滑コンデンサ65と突入電流防止回路66が設けられている。
【0007】
荷物室内の温度は、温度センサ8で検出されて、コントローラ62に入力される。同時に、コントローラ62には、温度設定器9からの信号、発電機5の出力電流を検出する電流センサ12の信号等が入力される。コントローラ62は、これらの信号に応じてインバータ61を制御し、発電機5の発電電力を適正な電圧及び周波数の電力に変換してコンプレッサ駆動電動機2に供給し、冷凍機を高効率状態で運転させる。さらに、コントローラ10は発電機5の界磁電流調整装置31を制御して、発電機2の出力電圧等を調整する。
【0008】
このように冷凍機のコンプレッサに電動機を連結し、その電動機に走行用のエンジンに付属する発電機の電力を供給して駆動するように構成すると、1台のエンジン及びコンプレッサにより冷凍機を運転できる。また、電動機として業務用又は家庭用に広く用いられる誘導電動機を使用すると、商用電源によって直接コンプレッサを運転することも可能となる。宅配便やコンビニエンスストアへの荷物の配送等は住宅地で行われることが多いので、騒音を発生するエンジンを作動させずに、停車中に商用電源により冷凍機の静粛な運転が可能であることは大きな利点となる。
【特許文献1】特開2002−127740号公報
【特許文献2】特開2001−56162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
車両走行用のエンジンの補機である発電機からの電力を用い、インバータを介してコンプレッサ駆動電動機を作動するようにすると、冷凍機の駆動装置の簡易化や商用電源との共用化などのメリットが生じる。そして、基本的には走行用のエンジンだけで冷凍機の所要電力をまかなうので、車載バッテリの容量を増やす必要はないというメリットもある。しかし、走行用のエンジンに供給される燃料量は、通常、運転者が操作するアクセルの踏込み量をパラメータとしてエンジン回転数に応じて決定され、エンジン制御装置はこれを決定するマップを備えている。エンジン補機である発電機の出力は、当然エンジンの作動状況に応じて変化し、車両が走行中であるときは、エンジンは高回転であり発電機の出力も大きいが、車両が停車しエンジンがアイドル状態にあるときには、エンジンの回転数が最少となり発電機の出力は非常に小さい。また、回転数が小さいときでも大電力を得るには、エンジン出力の増大とともに発電機の大型化が必要となる。
【0010】
一方、冷凍車への荷物の搬出、搬入は車両の停車中に行われ、このときには荷物室の温度は急に上昇することとなる。したがって、車両の停車中において冷凍機のコンプレッサを運転することも多い。この際、大電力を利用できる商用電源により運転する場合には問題ないけれども、エンジンにより冷凍機を運転する場合には、発電機に作用するコンプレッサ駆動電動機の負荷によりアイドル状態にあるエンジンの作動が不安定となり、回転数の変動が生じやすい。回転数が変動すると、危険回転数付近でエンジンの振動が激しくなるおそれがあり、エンジンがストップすることもある。このような現象は、冷凍機のコンプレッサを運転しながら走行していた車両が信号待ちで停車してエンジンがアイドル状態となったときにも生じる可能性がある。
【0011】
殊に、コンプレッサの始動時にはコンプレッサ駆動電動機が停止しており、始動トルク発生のため電動機には大きな電流が流れる。始動に要するトルクは、コンプレッサ作動停止直後のように、コンプレッサの吸入側と吐出側における冷媒圧力の差が大きい場合には、より一層大きくなる。本発明は、車両の停車中にコンプレッサ駆動電動機を作動するときに、エンジンのアイドル状態での安定した運転を可能とし、冷凍機、インバータ等を円滑に作動させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明は、車両走行用エンジンに連結された発電機により冷凍機のコンプレッサを駆動する冷凍車において、車両の停車時であってエンジンがアイドル状態にあるときにも、エンジン及び冷凍機を安定して運転し十分な冷却を行わせることを目的とするものである。すなわち、本発明は、
「車両の荷物室を冷却する冷凍機を搭載した冷凍車であって、前記冷凍機は冷媒を圧縮するコンプレッサとこれを駆動するコンプレッサ駆動電動機とを有しており、前記コンプレッサ駆動電動機は前記車両の走行用エンジンにより駆動される発電機の電力によって作動される冷凍車において、
前記走行用エンジンの制御装置は、車両の走行時にエンジン回転数に応じて燃料供給量を決定する走行時マップと、エンジン回転数の変化に対する燃料供給量の変化の割合が走行時マップよりも大きい負荷追従マップとを備えており、前記車両が停車状態でありかつ前記走行用エンジンがアイドル状態である場合において前記コンプレッサ駆動電動機が作動されるときは、前記走行用エンジンの制御装置が前記負荷追従マップを使用して燃料供給量を決定する」
ことを特徴とする冷凍車となっている。
【0013】
請求項2に記載のように、負荷追従マップを使用するときには、燃料供給量は、エンジン回転数及び前記コンプレッサ駆動電動機に作用する負荷に応じて決定されるようにすることができる。ここで「コンプレッサ駆動電動機に作用する負荷」としては、例えば、冷凍車の荷物室の温度と設定温度との差又は電力制御を行うインバータが出力する電力を採用することが可能である。
【0014】
コンプレッサ駆動電動機が始動中であると負荷トルクは大きくなるから、請求項3に記載のように、前記車両が停車状態でありかつ前記走行用エンジンがアイドル状態である場合において前記コンプレッサ駆動電動機が始動中であるときは、前記走行用エンジンの制御装置が燃料供給量を増量するよう補正することが好ましい。
【0015】
請求項4に記載のごとく、前記コンプレッサ駆動電動機として誘導電動機を用い、周波数及び電圧を調整するインバータを介して、前記車両の走行用エンジンにより駆動される発電機の電力によって作動されるように構成することができる。この場合には、請求項5に記載のように、前記車両が停車状態でありかつ前記走行用エンジンがアイドル状態である場合において前記コンプレッサ駆動電動機が始動中であるときは、前記インバータは、周波数及び電圧が所定時間徐々に上昇するよう制御することが好ましい。また、請求項6に記載のように、コンプレッサ駆動電動機である誘導電動機を、商用電源によって駆動することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の冷凍車では、冷凍機におけるコンプレッサ駆動電動機は車両の走行用エンジンの補機である発電機の電力によって作動され、そして、走行用エンジンの制御装置は、車両の走行時に燃料供給量を決定する走行時マップ以外に負荷追従マップを備えている。車両が停車しかつ走行用エンジンがアイドル状態である場合においてコンプレッサ駆動電動機が作動されるときは、走行用エンジンの制御装置が負荷追従マップを使用して燃料供給量を決定するが、負荷追従マップでは、エンジン回転数の変化に対する燃料供給量の変化の割合が走行時マップよりも大きく、コンプレッサ駆動電動機の負荷がエンジンに作用し回転数が低下したときは、走行マップよりも燃料供給量が大きく増加する。したがって、走行用エンジンの回転数は再び速やかに増加して元の回転数の近傍に復帰するようになり、アイドル状態のエンジン回転数の変動を小さく抑えることができる。
【0017】
つまり、冷凍機のコンプレッサの運転に伴う負荷変動が生じたとしても負荷変動に迅速に追従しエンジンを安定して動作させることが可能となる。迅速な負荷追従により、一時的な電力の不足を補うバッテリの容量の増大が不要となり、また、発電機として比較的小型のものを採用することができる。さらに、回転数の大幅な変動に起因する振動の増加やエンジンストップを防止することもできる。請求項2の発明のように、コンプレッサ駆動電動機に作用する負荷を表す量をパラメータとし、エンジン回転数に応じて燃料供給量を決定する負荷追従マップを使用すると、冷凍機の負荷状態を正確に反映した走行用エンジンの作動が可能となり、負荷追従性がさらに向上する。
【0018】
コンプレッサが停止している状態から始動する場合には、始動トルク発生のためコンプレッサ駆動電動機には大きな電流が流れ、定常運転時よりも負荷が増加する。請求項3の発明のように、コンプレッサ駆動電動機が始動中であるときは、走行用エンジンの制御装置が燃料供給量を増量するよう補正することにより、発電機が増加した負荷に見合う電力を発生させることができる。
【0019】
コンプレッサ駆動電動機としては、一般的に広く使用されている誘導電動機を用いることがコストあるいは信頼性の面で好ましい。請求項4の発明のように、誘導電動機を採用し、周波数及び電圧を調整するインバータを介して、走行用エンジンにより駆動される発電機の電力によって運転するようにしたときは、発電機の回転数や発生電圧にかかわらず、適正な状態の電力をコンプレッサ駆動電動機に供給できる。殊に、請求項5の発明のように、コンプレッサ駆動電動機の始動中においては電圧及び周波数を徐々に増加させる、いわゆるV/F制御を行うことにより、始動中の過大な電流を防ぐことが可能となる。また、請求項6の発明のように、誘導電動機を商用電源で運転することが可能であるので、住宅地や夜間において、走行用エンジンを作動させることなく、冷凍機の静粛な運転を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面によって本発明の冷凍車について説明する。図1は本発明が適用される冷凍車の概要を表す図であり、図2は本発明における冷凍車の制御装置の基本的な機器及び回路を表す図である。なお、図面においては、図13に示す従来例の装置の機器、部品と対応するものについては同一の番号が付してある。
【0021】
図1に示されるように、冷凍車の荷台には冷媒を圧縮するコンプレッサ1と、ベルトによりこれを駆動するコンプレッサ駆動電動機2と有する冷凍機が搭載される。冷凍機の蒸発器により低温となった冷気は、荷物室3に送風され、これを冷却する。また、冷凍車には、走行用のエンジン4とその補機である発電機5とが搭載され、発電機5の電力は電力制御盤6を経由してコンプレッサ駆動電動機5に供給される。コンプレッサ駆動電動機2は商用電源によって駆動可能な誘導電動機であって、車両には、例えば200Vの商用電源を接続できる接続口7が設けられている。
【0022】
コンプレッサ駆動電動機2に供給する電力を制御する電力制御盤6は、図2に示されるとおり、周波数及び電圧を変換するインバータ61とこれを制御するコントローラ62、そして、冷凍機の運転停止中に電力を遮断する遮断器63を備えている。エンジン4の補機として装備される発電機5は、本実施例では、車載のバッテリ(図示しない)へそのまま並列接続し充電できるよう、発電した交流電力を直流に整流するダイオードを備えており、インバータ61には直流電力が入力される。コントローラ62には、荷物室3の温度を検出する温度センサ8からの検出信号と荷物室の温度の目標値を設定する温度設定器9からの信号が入力され、さらに、インバータ61の電圧及び電流を検出するセンサ11、12からの信号が入力される。これらの入力信号に応じて、コントローラ62はインバータ61を制御してコンプレッサ駆動電動機2に給電する電力を制御する。また、電力制御盤6には商用電源からの電力が供給可能であって、商用電源を接続したときは、遮断器63によりコンプレッサ駆動電動機2への通電が制御される。
【0023】
走行用エンジン4は、エンジン制御装置(ECU)41を備えている。ECU41には、車両の走行時に、運転者の操作するアクセルの踏込み量をパラメータとしエンジン回転数に対応してエンジン4への燃料供給量を決定する、図3に示すマップ(走行マップ)が格納されている。このマップは、アクセル踏込み量が一定であれば、エンジン回転数の変化に対する燃料供給量の変化が比較的小さい特性、すなわち、負荷の変動に対してエンジン回転数の変化が大きい特性を有するものである。
【0024】
本発明におけるECU41は、車両の走行時にエンジンへの燃料供給量を定める図3の走行マップの外に、回転数の変化に対する燃料供給量の変化の割合が大きい図4に示すマップ(負荷追従マップ)を有している。このマップによると、例えば負荷が増加してエンジン回転数が低下するとエンジンへの燃料供給量が増えるが、その増加量は図3の走行マップよりも相当大きい。そのため、エンジン回転数の変化が少なくとも負荷の増大に見合う出力となるので、図4のマップを使用することにより、エンジン4は負荷変動に対してエンジン回転数の変動の少ない特性となる。
【0025】
本発明においては、コントローラ62は、入力信号に応じてインバータ61を制御するとともに走行用エンジン4のECU41をも制御するものであり、コントローラ62によるエンジン制御の作動について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0026】
この制御では、S1において冷凍機のコンプレッサ1をONとする指示信号が出力されているか否かを判定する。コンプレッサ1をONとする指示信号は、例えば、温度センサ8で検出される荷物室3の温度が温度設定器9の設定温度よりも高くなったときに出力される。ONの指示信号が出されているときは、S2、S3に進み、車速がゼロであるか、また、アクセルが踏込まれていない状態(アクセル0%)か否かを判断する。ONの指示信号が出されていないとき、車両の走行中であるとき又はアクセルが踏込まれているときは、コントローラ62は、ECU41が図3の通常の走行マップにより走行用エンジン4を制御するように指令する(S4)。
【0027】
ONの指示信号が出されており、しかも車速がゼロでアクセルが踏込まれていないとき、つまりエンジン4がアイドル状態にあるときは、コントローラ62は、ECU41が燃料供給量を決定するマップを切換え、エンジン回転数の変化に対する燃料供給量の変化の割合が大きい図4に示す負荷追従マップにより走行用エンジン4を制御するように指令する(S5)。コンプレッサ駆動電動機2に作用する負荷は、センサ8で検出された荷物室3の温度と目標設定温度との差が大きくなると増加するため、負荷追従マップを使用するときは、温度差に応じてアクセル踏込み量の擬似信号を与える。例えば、温度の差が2℃以下であれば踏込み量0%の特性により燃料供給量を定め、2〜5℃であれば踏込み量5%の特性により燃料供給量を定めるというように、温度差が増大するにつれアクセル踏込み量の大きな特性を用いるようにする。
【0028】
このようにマップを切換えることにより、冷凍機のコンプレッサ1の負荷変動が生じたとしても、エンジン回転数の大幅な変化を伴うことなく発電機5の発電電力を負荷変動に追従させることが可能となる。さらに、コンプレッサ駆動電動機2の負荷は、荷物室3の温度に応じて変動するので、アクセル踏込み量の擬似信号を用いて温度差をパラメータとする燃料供給量の決定を行うと、より的確な負荷追従を行うことができる。あるいは、コンプレッサ駆動電動機2の負荷により変化する、インバータ61から出力される電力をパラメータとしてもよい。
【0029】
また、コンプレッサ駆動電動機2が始動中であるときは、通常運転中よりも一般的に負荷が大きいので、S6において始動中であるか否かの判定を行う。この判定は、コンプレッサ駆動電動機2の回転数が所定値に達したかどうかを検出する、あるいはコンプレッサONの指示信号が立ち上がった後の経過時間を検出する、などによって行えばよい。始動中である場合は、マップによって決定された値に一定量増量するよう補正して、エンジン4への燃料供給量とすることにより始動中の負荷に対応させる(S7)。増量補正に代え、コンプレッサ駆動電動機2が始動中であるときは、上記のアクセル踏込み量の擬似信号として、実際の温度の差よりも大きな温度差に相当する信号を与えるようにし、実質的に燃料供給量の増加を図ることもできる。
【0030】
次いで、コンプレッサ駆動電動機2へ給電するインバータ61等の制御作動について図6のフローチャートによって説明する。この制御では、S11においてコンプレッサONの指示が出されているか否かを判断し、さらにS12でコンプレッサ駆動電動機2が始動状態であるかどうかを判定する。この判定は、前述のエンジン制御の場合と同様に、コンプレッサONの指示信号立ち上がり後の経過時間等により行う。コンプレッサ駆動電動機2は、始動中であればいわゆるV/F制御方式によるインバータ制御によって駆動され(S13)、また、始動完了後の定常運転中であれば、基本的には一定電圧及び一定周波数により駆動される(S14)。
【0031】
すなわち、図7に示すように、始動中であればインバータ61は電圧及び周波数を徐々に増加させて、コンプレッサ駆動電動機2に給電する。コンプレッサ駆動電動機2は誘導電動機であるが、このようなV/F制御を実施することにより、回転数が低い場合であっても過大な電流が流れることはなく、そのスムースな始動が可能となる
【0032】
始動が終了しコンプレッサ駆動電動機2が定常運転となると、インバータ61は、商用電源と同じ電圧及び周波数の電力に変換し、コンプレッサ駆動電動機2を運転する。そして、荷物室の温度が設定温度に低下した時点で冷凍機ONの指示信号が消滅し、遮断器63が遮断されて、コンプレッサ駆動電動機2は停止する。なお、定常運転中においても、インバータ61によって周波数を変更し、コンプレッサ駆動電動機2の回転数を変化させて冷凍能力を調節することもできる。
【0033】
この制御装置においては、図2に示されるように、電圧センサ11及び電流センサ12により常時インバータ電圧とインバータ電流とを監視している。フローチャートのS15、S16においてこれらを判定し、インバータ電圧が所定値よりも低下した場合あるいはインバータ電流が過大となったときは、インバータ61、コンプレッサ駆動電動機2等の機器を保護するため、遮断器63を遮断する(S18)。このような異常は、コンプレッサの停止直後で吸入側と吐出側とのガス圧の差が非常に大きく、始動トルクが過大であるときに生じやすい。そのため、インバータの電圧又は電流値の異常により遮断器63を遮断した場合は、所定時間の経過後にコンプレッサ駆動電動機2の始動を再試行するようにしている(S19)。
【0034】
以上詳述したように、本発明は、車両走行用エンジンの発電機により冷凍機のコンプレッサを駆動する冷凍車において、車両の停車時であってエンジンがアイドル状態にあるときには、コンプレッサを駆動する際にエンジン制御装置が負荷追従性の優れたマップを使用して燃料供給量を決定するものである。これによって、アイドル状態のエンジンを安定して作動させることが可能となる。このような本発明の作用効果からして、本発明の冷凍車には、非常に低温のいわゆる冷凍製品を扱う車両ばかりではなく、コンプレッサを用いた冷凍サイクルを有する装置によって荷物室の温度管理を行う車両が含まれることは明らかである。さらに、車両走行用エンジンとしては、ディーゼルエンジンあるいはガソリンエンジン等のエンジンの種類を問わないことも言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に基づく冷凍車を概観的に示す図である。
【図2】本発明に基づく冷凍車の制御装置を示す図である。
【図3】エンジン制御装置における走行マップを示す図である。
【図4】エンジン制御装置における負荷追従マップを示す図である。
【図5】本発明のエンジン制御装置の作動を示すフローチャートである。
【図6】本発明の電動機制御装置の作動を示すフローチャートである。
【図7】本発明の電動機制御装置の制御作動を示すグラフである
【図8】従来の冷凍車の制御装置を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 コンプレッサ
2 コンプレッサ駆動電動機
3 荷物室
4 走行用エンジン
41 エンジン制御装置(ECU)
5 発電機
6 電力制御盤
61 インバータ
62 コントローラ
63 遮断器
8 温度センサ
9 温度設定器
11 電圧センサ
12 電流センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の荷物室(3)を冷却する冷凍機を搭載した冷凍車であって、前記冷凍機は冷媒を圧縮するコンプレッサ(1)とこれを駆動するコンプレッサ駆動電動機(2)とを有しており、前記コンプレッサ駆動電動機(2)は前記車両の走行用エンジン(4)により駆動される発電機(5)の電力によって作動される冷凍車において、
前記走行用エンジン(4)の制御装置(41)は、車両の走行時にエンジン回転数に応じて燃料供給量を決定する走行時マップと、エンジン回転数の変化に対する燃料供給量の変化の割合が走行時マップよりも大きい負荷追従マップとを備えており、前記車両が停車状態でありかつ前記走行用エンジン(4)がアイドル状態である場合において前記コンプレッサ駆動電動機(2)が作動されるときは、前記走行用エンジン(4)の制御装置(41)が前記負荷追従マップを使用して燃料供給量を決定することを特徴とする冷凍車。
【請求項2】
前記負荷追従マップを使用するときは、燃料供給量は、エンジン回転数及び前記コンプレッサ駆動電動機(2)に作用する負荷に応じて決定される請求項1に記載の冷凍車。
【請求項3】
前記車両が停車状態でありかつ前記走行用エンジン(4)がアイドル状態である場合において前記コンプレッサ駆動電動機(2)が始動中であるときは、前記走行用エンジン(4)の制御装置(41)が燃料供給量を増量するよう補正する請求項1又は請求項2に記載の冷凍車。
【請求項4】
前記コンプレッサ駆動電動機(2)は誘導電動機であって、周波数及び電圧を調整するインバータ(61)を介して、前記車両の走行用エンジン(4)により駆動される発電機(5)の電力によって作動される請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の冷凍車。
【請求項5】
前記車両が停車状態でありかつ前記走行用エンジン(4)がアイドル状態である場合において前記コンプレッサ駆動電動機(2)が始動中であるときは、前記インバータ(61)は、周波数及び電圧が所定時間徐々に上昇するよう制御する請求項4に記載の冷凍車。
【請求項6】
前記コンプレッサ駆動電動機(2)が、商用電源により駆動可能である請求項4又は請求項5に記載の冷凍車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−62384(P2006−62384A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243751(P2004−243751)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】