説明

冷凍機用潤滑油組成物

【課題】現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒であるフッ化エーテル化合物等特定の極性構造を有する冷媒を用いた冷凍機用として使用される、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、シール性が良好で、かつ摺動部分の摩擦係数が低く、しかも安定性に優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】基油として、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものを用いた冷凍機用潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍機用潤滑油組成物、さらに詳しくは、地球温暖化係数が低く、特に現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒であるフッ化エーテル化合物等特定の冷媒を用いた冷凍機用として使用される、特定の含酸素化合物を主成分とする基油を用いた冷凍機用潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧縮型冷凍機は少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)、蒸発器、あるいは更に乾燥器から構成され、冷媒と潤滑油(冷凍機油)の混合液体がこの密閉された系内を循環する構造となっている。このような圧縮型冷凍機においては、装置の種類にもよるが、一般に、圧縮機内では高温、冷却器内では低温となるので、冷媒と潤滑油は低温から高温まで幅広い温度範囲内で相分離することなく、この系内を循環することが必要である。一般に、冷媒と潤滑油とは低温側と高温側に相分離する領域を有し、そして、低温側の分離領域の最高温度としては−10℃以下が好ましく、特に−20℃以下が好ましい。一方、高温側の分離領域の最低温度としては30℃以上が好ましく、特に40℃以上が好ましい。もし、冷凍機の運転中に相分離が生じると、装置の寿命や効率に著しい悪影響を及ぼす。例えば、圧縮機部分で冷媒と潤滑油の相分離が生じると、可動部が潤滑不良となって、焼付きなどを起こして装置の寿命を著しく短くし、一方蒸発器内で相分離が生じると、粘度の高い潤滑油が存在するため熱交換の効率低下をもたらす。
【0003】
従来、冷凍機用冷媒としてクロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが主に使用されてきたが、環境問題の原因となる塩素を含む化合物であったことから、ハイドロフルオロカーボン(HFC)などの塩素を含有しない代替冷媒が検討されるに至った。このようなハイドロフルオロカーボンとしては、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン(以下、それぞれR134a、R32、R125、R143aと称せられる。)に代表されるハイドロフルオロカーボンが注目されるようになり、例えばカーエアコンシステムにはR134aが使用されてきた。
しかしながら、このHFCも地球温暖化の面で影響が懸念されることから、更に環境保護に適した代替冷媒として二酸化炭素などのいわゆる自然冷媒が注目されているが、この二酸化炭素は高圧を必要とするため、現行のカーエアコンシステムには使用することができない。
地球温暖化係数が低く、現行カーエアコンシステムに使用できる冷媒として、例えば不飽和フッ化炭化水素化合物(例えば、特許文献1参照)、フッ化エーテル化合物(例えば、特許文献2参照)、フッ化アルコール化合物、フッ化ケトン化合物など分子中に特定の極性構造を有する冷媒が見出されている。
このような冷媒を用いる冷凍機用潤滑油に対しては、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、シール性が良好で、かつ摺動部分の摩擦係数が低く、しかも安定性に優れることが要求される。
【0004】
【特許文献1】特表2006−503961号公報
【特許文献2】特表平7−507342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、地球温暖化係数が低く、特に現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒であるフッ化エーテル化合物等特定の極性構造を有する冷媒を用いた冷凍機用として使用される、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、シール性が良好で、かつ摺動部分の摩擦係数が低く、しかも安定性に優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、基油として特定の含酸素化合物を用い、好ましくは冷凍機の摺動部分に特定の材料を用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
【0007】
(1)下記の分子式(A)
pqrs ・・・(A)
[式中、Rは、Cl、Br、I又はHを示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いる冷凍機用の潤滑油組成物であって、基油として、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものを用いたことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物、
(2)フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いる冷凍機用の潤滑油組成物であって、基油として、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものを用いたことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物、
(3)基油の100℃における動粘度が2〜50mm2/sである上記(1)又は(2)項に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(4)基油の数平均分子量が500以上である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(5)基油の引火点が150℃以上である上記(1)〜(4)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
【0008】
(6)極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む上記(1)〜(5)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(7)冷媒のフッ化エーテル化合物がフッ化ジメチルエーテルである上記(1)〜(6)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(8)冷媒のフッ化アルコール化合物がフッ化メチルアルコールである上記(1)〜(7)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(9)冷媒のフッ化ケトン化合物がフッ化アセトンである上記(1)〜(8)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(10)冷媒の飽和フッ化炭化水素化合物が1,1−ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(9)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(11)冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである上記(1)〜(10)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(12)有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜又はポリアミドイミドコーティング膜である上記(11)項に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(13)無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜又はモリブデン膜である上記(11)項に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
(14)カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機又はショーケースの各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いられる上記(1)〜(13)項のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物、及び
(15)システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気量が10kPa以下である上記(14)項に記載の冷凍機用潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地球温暖化係数が低く、特に現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒であるフッ化エーテル化合物等特定の極性構造を有する冷媒を用いる冷凍機用として使用される、前記冷媒に対する優れた相溶性を有すると共に、シール性が良好で、かつ摺動部分の摩擦係数が低く、しかも安定性に優れる冷凍機用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、下記の分子式(A)
pqrs ・・・(A)
[式中、Rは、Cl、Br、I又はHを示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いる冷凍機用潤滑油組成物である。
【0011】
<冷媒>
前記分子式(A)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(A)は、炭素原子Cの数pが1〜6の含フッ素有機化合物を表している。炭素数が1〜6の含フッ素有機化合物であれば、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。
該分子式(A)において、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合、炭素―酸素二重結合などが含まれる。炭素−炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1以上であるが、1であるものが好ましい。
また、分子式(A)において、Oqで表されるq個の酸素原子の結合形態は、エーテル基、水酸基又はカルボニル基に由来する酸素であることが好ましい。この酸素原子の数qは、2であってもよく、2個のエーテル基や水酸基等を有する場合も含まれる。
また、Oqにおけるqが0であり分子中に酸素原子を含まない場合は、pは2〜6であって、分子中に炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有する。すなわち、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素−炭素不飽和結合であることが必要である。
また、分子式(A)において、Rは、Cl、Br、I又はHを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊する恐れが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。
上記のとおり、分子式(A)で表される含フッ素有機化合物としては、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物、フッ化ケトン化合物及び不飽和フッ化炭化水素化合物などが好適なものとして挙げられる。
以下、これらの化合物について説明する。
【0012】
[フッ化エーテル化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化エーテル化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜14、sは0〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化エーテル化合物として好ましくは、例えば、炭素数が2〜6で、1〜2個のエーテル結合を有し、アルキル基が直鎖状又は分岐状の鎖状脂肪族エーテルのフッ素化物や、炭素数が3〜6で、1〜2個のエーテル結合を有する環状脂肪族エーテルのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたジメチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたメチルエチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたジメトキシメタン、1〜10個のフッ素原子が導入されたメチルプロピルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたメチルブチルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたエチルプロピルエーテル類、1〜6個のフッ素原子が導入されたオキセタン、1〜6個のフッ素原子が導入された1,3−ジオキソラン、1〜8個のフッ素原子が導入されたテトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0013】
これらのフッ化エーテル化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテル、ビス(ジフルオロメチル)エーテル、フルオロメチルトリフルオロメチルエーテル、トリフルオロメチルメチルエーテル、ペルフルオロジメトキシメタン、1−トリフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメトキシペンタフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシー2,2,2−トリフルオロエタン、ペルフルオロオキセタン、ペルフルオロ−1,3−ジオキソラン、ペンタフルオロオキセタンの各種異性体、テトラフルオロオキセタンの各種異性体などが挙げられる。
本発明においては、このフッ化エーテル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
[フッ化アルコール化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられる一般式(A)で表されるフッ化アルコール化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが1〜6、qが1〜2、rが1〜13、sは1〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化アルコール化合物として好ましくは、例えば、炭素数が1〜6で、1〜2個の水酸基を有する直鎖状又は分岐状の脂肪族アルコールのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたメチルアルコール、1〜5個のフッ素原子が導入されたエチルアルコール、1〜7個のフッ素原子が導入されたプロピルアルコール類、1〜9個のフッ素原子が導入されたブチルアルコール類、1〜11個のフッ素原子が導入されたペンチルアルコール類、1〜4個のフッ素原子が導入されたエチレングリコール、1〜6個のフッ素原子が導入されたプロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0015】
これらのフッ化アルコール化合物としては、例えばモノフルオロメチルアルコール、ジフルオロメチルアルコール、トリフルオロメチルアルコール、ジフルオロエチルアルコールの各種異性体、トリフルオロエチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロエチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロエチルアルコール、ジフルオロプロピルアルコールの各種異性体、トリフルオロプロピルアルコールの各種異性体、テトラフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロプロピルアルコール、ジフルオロブチルアルコールの各種異性体、トリフルオロブチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロブチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロブチルアルコールの各種異性体、オクタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ノナフルオロブチルアルコール、ジフルオロエチレングリコールの各種異性体、トリフルオロエチレングリコール、テトラフルオロエチレングリコール、さらにはジフルオロプロピレングリコールの各種異性体、トリフルオロプロピレングリコールの各種異性体、テトラフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ化プロピレングリコール、及びこのフッ化プロピレングリコールに対応するフッ化トリメチレングリコールなどが挙げられる。
本発明おいては、これらのフッ化アルコール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0016】
[フッ化ケトン化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化ケトン化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜12、sは0〜11であるフッ化ケトン化合物が挙げられる。
このようなフッ化ケトン化合物として好ましくは、例えば、炭素数が3〜6で、アルキル基が直鎖状又は分岐状の脂肪族ケトンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたアセトン、1〜8個のフッ素原子が導入されたメチルエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたジエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたメチルプロピルケトン類などが挙げられる。
【0017】
これらのフッ化ケトン化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルケトン、ペンタフルオロジメチルケトン、ビス(ジフルオロメチル)ケトン、フルオロメチルトリフルオロメチルケトン、トリフルオロメチルメチルケトン、ペルフルオロメチルエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチルペンタフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,2,2,2−テトラフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトンなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化ケトン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
[不飽和フッ化炭化水素化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられる不飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが0、rが1〜12、sは0〜11である不飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
このような不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2〜6の直鎖状又は分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン類、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン類、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン類、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンなどが挙げられる。
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、プロペンのフッ化物が好ましく、例えばペンタフルオロプロペンの各種異性体、3,3,3−トリフルオロプロペン及び1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが好適である。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
[飽和フッ化炭化水素化合物]
この飽和フッ化炭化水素化合物は、前記の一般式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物に、必要に応じて混合することのできる冷媒である。
この飽和フッ化炭化水素化合物としては、炭素数2〜4のアルカンのフッ化物が好ましく、特にエタンのフッ化物である1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1,2−トリフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタンが好適である。これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、当該飽和フッ化炭化水素化合物の配合量は、冷媒全量に基づき、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
本発明は、また、前述したフッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いる冷凍機用潤滑油組成物をも提供する。
【0020】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物(以下、冷凍機油組成物と称することがある。)は、前述の冷媒を用いる冷凍機用の潤滑油組成物であって、基油として、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分とするものを用いたことを特徴とする。
【0021】
<基油>
[ポリオキシアルキレングリコール類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリオキシアルキレングリコール類としては、例えば一般式(I)
1−[(OR2m−OR3n ・・・(I)
(式中、R1は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、R2は炭素数2〜4のアルキレン基、R3は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数2〜10のアシル基、nは1〜6の整数、mはm×nの平均値が6〜80となる数を示す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0022】
上記一般式(I)において、R1、R3におけるアルキル基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。このアルキル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、粗分離を生じる場合がある。好ましいアルキル基の炭素数は1〜6である。
また、R1、R3における該アシル基のアルキル基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。該アシル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアシル基の炭素数は2〜6である。
1及びR3が、いずれもアルキル基又はアシル基である場合には、R1とR3は同一であってもよいし、たがいに異なっていてもよい。
【0023】
さらにnが2以上の場合には、1分子中の複数のR3は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
1が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基である場合、この脂肪族炭化水素基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。また、結合部位3〜6個を有する脂肪族炭化水素基としては、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール;1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン;1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
この脂肪族炭化水素基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離が生じる場合がある。好ましい炭素数は2〜6である。
【0024】
前記一般式(I)中のR2は炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
前記一般式(I)中のnは1〜6の整数で、R1の結合部位の数に応じて定められる。例えばR1がアルキル基やアシル基の場合、nは1であり、R1が結合部位2,3,4,5及び6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、nはそれぞれ2,3,4,5及び6となる。また、mはm×nの平均値が6〜80となる数であり、m×nの平均値が前記範囲を逸脱すると本発明の目的は十分に達せられない。
【0025】
前記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレングリコール類は、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコールを包含するものであり、該水酸基の含有量が全末端基に対して、50モル%以下になるような割合であれば、含有していても好適に使用することができる。この水酸基の含有量が50モル%を超えると吸湿性が増大し、粘度指数が低下するので好ましくない。
このようなポリオキシアルキレングリコール類としては、一般式
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、xは6〜80の数を示す。)
で表されるポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、一般式
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、a及びbは、それぞれ1以上で、かつそれらの合計が6〜80となる数を示す。)
で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、及び一般式
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、xは6〜80の数を示す。)
で表されるポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル、さらにはポリオキシプロピレングリコールジアセテートなどが、経済性及び効果の点で好適である。
なお、上記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレングリコール類については、特開平2−305893号公報に詳細に記載されたものをいずれも使用することができる。
本発明においては、このポリオキシアルキレングリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
[ポリビニルエーテル類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリビニルエーテル類としては、一般式(II)
【0033】
【化4】

【0034】
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分とするである。
上記一般式(II)におけるR4,R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素気を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。
ここで炭化水素基とは、具体的にはメチル基,エチル基,n−プロピル基,イソ
プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基,tert−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基のアルキル基、シクロペンチル基,シクロヘキシル基,各種メチルシクロヘキシル基,各種エチルシクロヘキシル基,各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基,各種メチルフェニル基,各種エチルフェニル基,各種ジメチルフェニル基のアリール基、ベンジル基,各種フェニルエチル基,各種メチルベンジル基のアリールアルキル基を示す。なお、これらのR4、R5、R6は水素
原子あるいは炭素数3以下の炭化水素基が特に好ましい。
【0035】
一方、一般式(II)中のR7は、炭素数2〜10の二価の炭化水素基を示すが、ここで炭素数2〜10の二価の炭化水素基とは、具体的にはエチレン基;フェニルエチレン基;1,2−プロピレン基;2−フェニル−1,2−プロピレン基;1,3−プロピレン基;各種ブチレン基;各種ペンチレン基;各種ヘキシレン基;各種ヘプチレン基;各種オクチレン基;各種ノニレン基;各種デシレン基の二価の脂肪族基、シクロヘキサン;メチルシクロヘキサン;エチルシクロヘキサン;ジメチルシクロヘキサン;プロピルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素に2個の結合部位を有する脂環式基、各種フェニレン基;各種メチルフェニレン基;各種エチルフェニレン基;各種ジメチルフェニレン基;各種ナフチレンなどの二価の芳香族炭化水素基、トルエン;キシレン;エチルベンゼンなどのアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分と芳香族部分にそれぞれ一価の結合部位を有するアルキル芳香族基、キシレン;ジエチルベンゼンなどのポリアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分に結合部位を有するアルキル芳香族基などがある。これらの中で炭素数2から4の脂肪族基が特に好ましい。また複数のR7Oは同一でも異なっていてもよい。
なお、一般式(II)におけるpは繰り返し数を示し、その平均値が0〜10、好ましくは0〜5の範囲の数である。
【0036】
さらに、一般式(II)におけるR8は炭素数1〜10の炭化水素基を示すが、この炭化水素基とは、具体的にはメチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基のアルキル基、シクロペンチル基,シクロヘキシル基,各種メチルシクロヘキシル基,各種エチルシクロヘキシル基,各種プロピルシクロヘキシル基,各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基,各種メチルフェニル基,各種エチルフェニル基,各種ジメチルフェニル基,各種プロピルフェニル基,各種トリメチルフェニル基,各種ブチルフェニル基,各種ナフチル基などのアリール基、ベンジル基,各種フェニルエチル基,各種メチルベンジル基,各種フェニルプロピル基,各種フェニルブチル基のアリールアルキル基を示す。この中で炭素数8以下の炭化水素基が好ましく、pが0のときは炭素数1〜6のアルキル基が、pが1以上のときは炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
【0037】
本発明におけるポリビニルエーテル系化合物は、上記一般式(II)で表される構成単位を有するものであるが、その繰り返し数(即ち重合度)は、所望する動粘度に応じて適宜選択すればよいが、通常は2〜50mm2/s(100℃)、好ましくは3〜40mm2/s(100℃)である。
【0038】
本発明のポリビニルエーテル系化合物は、対応するビニルエーテル系モノマーの重合により製造することができる。ここで用いることのできるビニルエーテル系モノマーは、一般式(III)
【0039】
【化5】

【0040】
(式中、R4 ,R5 ,R6 ,R7 ,R8及びpは前記と同じである。)
で表されるものである。このビニルエーテル系モノマーとしては、上記ポリビニルエーテル系化合物に対応する各種のものがあるが、例えばビニルメチルエーテル;ビニルエチルエーテル;ビニル−n−プロピルエーテル;ビニル−イソプロピルエーテル;ビニル−n−ブチルエーテル;ビニル−イソブチルエーテル;ビニル−sec−ブチルエーテル;ビニル−tert−ブチルエーテル;ビニル−n−ペンチルエーテル;ビニル−n−ヘキシルエーテル;ビニル−2−メトキシエチルエーテル;ビニル−2−エトキシエチルエーテル;ビニル−2−メトキシ−1−メチルエチルエーテル;ビニル−2−メトキシ−プロピルエーテル;ビニル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル;ビニル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル;ビニル−1,4−ジメチル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル;ビニル−1,4,7−トリメチル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル;ビニル−2,6−ジオキサ−4−ヘプチルエーテル;ビニル−2,6,9−トリオキサ−4−デシルエーテル;1−メトキシプロペン;1−エトキシプロペン;1−n−プロポキシプロペン;1−イソプロポキシプロペン;1−n−ブトキシプロペン;1−イソブトキシプロペン;1−sec−ブトキシプロペン;1−tert−ブトキシプロペン;2−メトキシプロペン;2−エトキシプロペン;2−n−プロポキシプロペン;2−イソプロポキシプロペン;2−n−ブトキシプロペン;2−イソブトキシプロペン;2−sec−ブトキシプロペン;2−tert−ブトキシプロペン;1−メトキシ−1−ブテン;1−エトキシ−1−ブテン;1−n−プロポキシ−1−ブテン;1−イソプロポキシ−1−ブテン;1−n−ブトキシ−1−ブテン;1−イソブトキシ−1−ブテン;1−sec−ブトキシ−1−ブテン;1−tert−ブトキシ−1−ブテン;2−メトキシ−1−ブテン;2−エトキシ−1−ブテン;2−n−プロポキシ−1−ブテン;2−イソプロポキシ−1−ブテン;2−n−ブトキシ−1−ブテン;2−イソブトキシ−1−ブテン;2−sec−ブトキシ−1−ブテン;2−tert−ブトキシ−1−ブテン;2−メトキシ−2−ブテン;2−エトキシ−2−ブテン;2−n−プロポキシ−2−ブテン;2−イソプロポキシ−2−ブテン;2−n−ブトキシ−2−ブテン;2−イソブトキシ−2−ブテン;2−sec−ブトキシ−2−ブテン;2−tert−ブトキシ−2−ブテン等が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマーは公知の方法により製造することができる。
【0041】
本発明の冷凍機油組成物に主成分として用いられる前記一般式(II)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物は、その末端を本開示例に示す方法及び公知の方法により、所望の構造に変換することができる。変換する基としては、飽和の炭化水素,エーテル,アルコール,ケトン,アミド,ニトリルなどを挙げることができる。
本発明の冷凍機油組成物における基油に用いられるポリビニルエーテル系化合物としては、次の末端構造を有するものが好適である。
すなわち
(1)その一つの末端が、一般式(IV)
【0042】
【化6】

【0043】
(式中、R9 ,R10 及びR11 は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R12 は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R13は炭素数1〜10の炭化水素基、qはその平均値が0〜10の数を示し、R12 Oが複数ある場合には複数のR12 Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表され、かつ残りの末端が一般式(V)
【0044】
【化7】

【0045】
(式中、R14,R15及びR16は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R17は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R18は炭素数1〜10の炭化水素基、rはその平均値が0〜10の数を示し、R17Oが複数ある場合には複数のR17Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有するもの、
(2)その一つの末端が上記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端が一般式
(VI)
【0046】
【化8】

【0047】
(式中、R19、R20及びR21は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R22及びR24はそれぞれ炭素数2〜10の二価の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R23及びR25はそれぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、s及びtはそれぞれその平均値が0〜10の数を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、また複数のR22Oがある場合には複数のR22Oは同一であっても異なっていてもよいし、複数のR24Oがある場合には複数のR24 は同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有するもの、
(3)その一つの末端が前記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端がオレフィン性不飽和結合を有するもの、
(4)その一つの末端が前記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端が一般式 (VII)
【0048】
【化9】

【0049】
(式中、R26,R27及びR28は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造のもの、
である。
該ポリビニルエーテル系混合物は、前記(1)〜(4)の末端構造を有するものの中から選ばれた二種以上の混合物であってもよい。このような混合物としては、例えば前記(1)のものと(4)のものとの混合物、及び前記(2)のものと(3)のものとの混合物を好ましく挙げることができる。
【0050】
上記ポリビニルエーテル系化合物としては、冷媒と混合する前の冷凍機油組成物の動粘度は、100℃で2〜50mm2/sが好ましいため、この粘度範囲のポリビニルエーテル系化合物を生成するよう、前記原料、開始剤及び反応条件を選定することが好ましい。また、このポリマーの数平均分子量は、通常500以上、好ましくは600〜3000である。なお、上記動粘度範囲外のポリマーでも、他の動粘度のポリマーと混合することで、上記動粘度範囲内に粘度調整することも可能である。
本発明においては、このポリビニルエーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
[ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体]
なお、ポリ(オキシ)アルキレングリコールとは、ポリアルキレングリコール及びポリオキシアルキレングリコールの両方を指す。
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体としては、一般式(VIII)及び一般式(IX)
【0052】
【化10】

【0053】
で表される共重合体(以下、それぞれをポリビニルエーテル系共重合体I及びポリビニルエーテル系共重合体IIと称する。)を挙げることができる。
上記一般式(VIII)におけるR29、R30及びR31はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、R33は炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34は炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数1〜20の置換基を有してもよい芳香族基、炭素数2〜20のアシル基又は炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基、R32は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R34,R33,R32はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
ここでR29〜R31のうちの炭素数1〜8の炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基、各種ジメチルフェニル基のアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基などのアリールアルキル基を示す。なお、これらのR29,R30及びR31の各々としては、特に水素原子が好ましい。
【0054】
一方、R33で示される炭素数2〜4の二価の炭化水素基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基などの二価のアルキレン基がある。
なお、一般式(VIII)におけるvは、R33Oの繰り返し数を示し、その平均値が1〜50、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5の範囲の数である。R33Oが複数ある場合には、複数のR33Oは同一でも異なっていてもよい。
また、kは1〜50、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1、uは0〜50、好ましくは2〜25、さらに好ましくは5〜15、の数を示し、kおよびuはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。
【0055】
さらに、一般式(VIII)におけるR34は、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基を示す。
この炭素数1〜10のアルキル基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などを示す。
また、炭素数2〜10のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピパロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基などを挙げることができる。
さらに、炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、1,1−ビスメトキシプロピル基、1,2−ビスメトキシプロピル基、エトキシプロピル基、(2−メトキシエトキシ)プロピル基、(1−メチル−2−メトキシ)プロピル基などを好ましく挙げることができる。
【0056】
一般式(VIII)において、R32で示される炭素数1〜10の炭化水素基とは、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基のアリールアルキル基などを示す。
なお、R29〜R31,R34,R33及びv並びにR29〜R32は、それぞれ構成単位毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0057】
前記一般式(VIII)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系共重合体Iは共重合体にすることにより、相溶性を満足しつつ潤滑性、絶縁性、吸湿性等を向上させることができる効果がある。この際、原料となるモノマーの種類、開始剤の種類並びに共重合体の比率を選ぶことにより、油剤の上記性能を目的レベルに合わせることが可能となる。従って、冷凍システムあるいは空調システムにおけるコンプレッサーの型式、潤滑部の材質及び冷凍能力や冷媒の種類等により異なる潤滑性、相溶性等の要求に応じた油剤を自在に得ることができるという効果がある。
【0058】
一方、前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIにおいて、R29〜R32、R33及びvは前記と同じである。R33,R32はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。x及びyは、それぞれ1〜50の数を示し、xおよびyはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。X,Yは、それぞれ独立に水素原子、水酸基又は、1〜20の炭化水素基を示す。
【0059】
前記一般式(VIII)で表されるポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法については、それが得られる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、以下に示す製造方法1〜3により製造することができる。
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法1)
この製造方法1においては、一般式(X)
34−(OR33v−OH ・・・(X)
(式中、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物を開始剤とし、一般式(XI)
【0060】
【化11】

【0061】
(式中、R29〜R32は前記と同じである。)
で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの(オキシ)アルキレングリコールモノエーテルなどが挙げられる。
また、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物としては、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル等のビニルエーテル類;1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン等のプロペン類;1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテンなどのブテン類が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマーは公知の方法のより製造することができる。
【0062】
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法2)
この製造方法2においては、一般式(XII)
【0063】
【化12】

【0064】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表されるアセタール化合物を開始剤とし、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(XII)で表されるアセタール化合物としては、例えばアセトアルデヒドメチル(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドエチル(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドメチル(2−メトキシ1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドエチル(2−メトキシ−1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドメチル[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドエチル[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドメチル[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタール、アセトアルデヒドエチル[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタールなどが挙げられる。
また、前記一般式(XII)で表されるアセタール化合物は、例えば前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物1分子と、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物1分子とを反応させることにより、製造することもできる。得られたアセタール化合物は、単離して、又はそのまま開始剤として用いることができる。
【0065】
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法3)
この製造方法3においては、一般式(XIII)
【0066】
【化13】

【0067】
(式中、R29〜R31、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるアセタール化合物を開始剤として、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(XIII)で表されるアセタール化合物としては、例えばアセトアルデヒドジ(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドジ(2−メトキシ−1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドジ[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドジ[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタール等が挙げられる。
また、前記一般式(XIII)で表されるアセタール化合物は、例えば前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物1分子と、一般式(XIV)
【0068】
【化14】

【0069】
(式中、R29〜R31、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるビニルエーテル系化合物1分子とを反応させることにより、製造することもできる。得られたアセタール化合物は、単離して、又はそのまま開始剤として用いることができる。
一般式(VIII)で表されるビニルエーテル系共重合体Iは、その一つの末端が、一般式(XV)、(XVI)
【0070】
【化15】

【0071】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表され、かつ残りの末端が、一般式(XVII)又は一般式(XVIII)
【0072】
【化16】

【0073】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表される構造を有するポリビニルエーテル系共重合体Iとすることができる。
このようなポリビニルエーテル系共重合体1の中で、特に次に挙げるものが本発明の冷凍機油組成物の基油として好適である。
(1)その一つの末端が一般式(XV)又は(XVI)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVII)又は(XVIII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
(2)その一つの末端が一般式(XV)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVIII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
(3)その一つの末端が一般式(XVI)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
【0074】
一方、前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIの製造方法については、それが得られる方法であればよく、特に制限はないが、以下に示す方法により、効率よく製造することができる。
(ポリビニルエーテル系共重合体IIの製造方法)
前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIは、一般式(XIX)
HO−(R33O)v−H ・・・(XIX)
(式中、R33及びvは前記と同じである。)
で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコールを開始剤とし、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル化合物を重合させることにより得ることができる。
前記一般式(XIX)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
本発明においては、このポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
[ポリオールエステル類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリオールエステル類としては、ジオールあるいは水酸基を3〜20個程度有するポリオールと、炭素数1〜24程度の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。ここで、ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。ポリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトースなどの糖類、並びにこれらの部分エーテル化物、及びメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でもポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0076】
脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。炭素数1〜24の脂肪酸の中でも、潤滑性の点からは、炭素数3以上のものが好ましく、炭素数4以上のものがより好ましく、炭素数5以上のものがさらにより好ましく、炭素数10以上のものが最も好ましい。また、冷媒との相溶性の点からは、炭素数18以下のものが好ましく、炭素数12以下のものがより好ましく、炭素数9以下のものがさらにより好ましい。
また、直鎖状脂肪酸、分岐状脂肪酸の何れであっても良く、潤滑性の点からは直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の点からは分岐状脂肪酸が好ましい。更に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであっても良い。
【0077】
脂肪酸としては、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分岐のもの、あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などが挙げられる。さらに具体的には、吉草酸(n−ペンタン酸)、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、エナント酸(n−ヘプタン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、ペラルゴン酸(n−ノナン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが好ましい。
なお、ポリオールエステルとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0078】
このポリオールエステルの中でも、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンおよびペンタエリスリトールのエステルがさらにより好ましく、冷媒との相溶性及び加水分解安定性に特に優れることからペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0079】
好ましいポリオールエステルの具体例としては、ネオペンチルグリコールと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのジエステル、トリメチロールエタンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル、トリメチロールプロパンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル、トリメチロールブタンと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル、ペンタエリスリトールと吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。
【0080】
なお、二種以上の脂肪酸とのエステルとは、一種の脂肪酸とポリオールのエステルを二種以上混合したものでも良く、二種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステル、特に混合脂肪酸とポリオールとのエステルは、低温特性や冷媒との相溶性に優れる。
[ポリカーボネート類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリカーボネート類としては、1分子中にカーボネート結合を2個以上有するポリカーボネート、すなわち一般式(XX)
【0081】
【化17】

【0082】
(式中、Zは炭素数1〜12のe価のアルコールから水酸基を除いた残基、R35は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、R36は炭素数1〜12の一価の炭化水素基又はR38(O−R37f−(ただし、R38は水素原子又は炭素数1〜12の一価の炭化水素基、R37は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、fは1〜20の整数を示す。)で示すエーテル結合を含む基、cは1〜30の整数、dは1〜50の整数、eは1〜6の整数を示す。)
で表される化合物、及び(ロ)一般式(XXI)
【0083】
【化18】

【0084】
(式中、R39は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、gは1〜20の整数を示し、Z、R35、R36、c、d及びeは前記と同じである。)
で表される化合物の中から選ばれる少なくとも一種を好ましく挙げることができる。
前記一般式(XX)及び一般式(XXI)において、Zは炭素数1〜12の一価〜六価のアルコールから、水酸基を除いた残基であるが、特に炭素数1〜12の一価のアルコールから、水酸基を除いた残基が好ましい。
【0085】
Zを残基とする炭素数1〜12の一価〜六価のアルコールとしては、一価のアルコールとして、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−又はイソプロピルアルコール、各種ブチルアルコール、各種ペンチルアルコール、各種ヘキシルアルコール、各種オクチルアルコール、各種デシルアルコール、各種ドデシルアルコールなどの脂肪族一価アルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコールなどの脂環式一価アルコール、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、ナフトールなどの芳香族アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの芳香脂肪族アルコールなどを、二価のアルコールとして、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族アルコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルコール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ジヒドロキシジフェニルなどの芳香族アルコール、三価のアルコールとして、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン、1,3,5−ペンタントリオールなどの脂肪族アルコール、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノールなどの脂環式アルコール、ピロガロール、メチルピロガロールなどの芳香族アルコールなどを、四価〜六価のアルコールとして、例えばペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、ジペンタエリスリトールなどの脂肪族アルコールなどを挙げることができる。
このようなポリカーボネート化合物としては、前記一般式(XX)で表される化合物として、一般式(XX−a)
【0086】
【化19】

【0087】
(式中、R40は炭素数1〜12の一価アルコールから水酸基を除いた残基、R35、R36、c及びdは前記と同じである。)
で表される化合物、及び/又は一般式(XXI)で表される化合物が、一般式(XXI−a)
【0088】
【化20】

【0089】
(式中、R35、R36、R39、R40、c、d及びgは前記と同じである。)
で表される化合物を挙げることができる。
前記一般式(XX−a)及び一般式(XXI−a)において、R40で示される炭素数1〜12の一価のアルコールから水酸基を除いた残基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基などの脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基などの脂環式炭化水素基、フェニル基、各種トリル基、各種キシリル基、メシチル基、各種ナフチル基などの芳香族炭化水素基、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、各種ナフチルメチル基などの芳香脂肪族炭化水素基などを挙げることができる。これらの中で、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。
【0090】
35は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基であるが、中でも炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基及びプロピレン基が、性能及び製造の容易さなどの点から好適である。さらに、R36は炭素数1〜12の一価の炭化水素基又はR38(O−R37f−(ただし、R38は水素原子又は炭素数1〜12、好ましくは1〜6の一価の炭化水素基、R37は炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基、fは1〜20の整数を示す。)で示されるエーテル結合を含む基であり、上記炭素数1〜12の一価の炭化水素基としては、前記R40の説明で例示したものと同じものを挙げることができる。また、R37で示される炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基としては、前記R35の場合と同様の理由から、炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基及びプロピレン基が好ましい。
【0091】
このR36としては、特に炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基が好ましい。
一般式(XXI−a)において、R39で示される炭素数2〜10の直鎖状若しくは分岐状アルキレン基としては、前記R35の場合と同様の理由から、炭素数2〜6のものが好ましく、特にエチレン基及びプロピレン基が好ましい。
このようなポリカーボネート化合物は、各種の方法により製造することができるが、通常炭酸ジエステル又はホスゲンなどの炭酸エステル形成性誘導体とアルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールを、公知の方法に従って反応させることにより、目的のポリカーボネート化合物を製造することができる。
本発明においては、このポリカーボネート類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
本発明の冷凍機油組成物においては、基油として、前述のポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものが用いられる。ここで、主成分として含むとは、当該含酸素化合物を50質量%以上の割合で含むことを指す。基油中の当該含酸素化合物の好ましい含有量は70質量%以上、より好ましい含有量は90質量%以上、さらに好ましい含有量は100質量%である。
本発明においては、基油の100℃の動粘度は、好ましくは2〜50mm2/s、より好ましくは3〜40mm2/s、さらに好ましくは4〜30mm2/sである。該動粘度が2mm2/s以上であれば良好な潤滑性能(耐荷重性)が発揮されると共に、シール性もよく、また50mm2/s以下であれば省エネルギー性も良好である。
また、基油の数平均分子量は、500以上であることが好ましく、600〜3000がより好ましく、700〜2500がさらに好ましい。基油の引火点は150℃以上であることが好ましい。基油の数平均分子量が500以上であれば、冷凍機油としての所望の性能を発揮することができると共に、基油の引火点を150℃以上にすることができる。
【0093】
本発明においては、基油として、前記の性状を有していれば、当該含酸素化合物と共に、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で、他の基油を含むものを用いることができるが、他の基油を含まないものがさらに好ましい。
当該酸素化合物と併用できる基油としては、例えば他のポリエステル類、α−オレフィンオリゴマーの水素化物、さらには鉱油、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物などを挙げることができる。
本発明の冷凍機油組成物には、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤などの中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることができる。
前記極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
【0094】
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩が挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3〜60のカルボン酸、さらには炭素数3〜30、特に12〜30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12〜30の脂肪酸及び炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
また、極圧剤としては、さらに、上記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
上記極圧剤の配合量は、潤滑性及び安定性の点から、組成物全量に基づき、通常0.001〜5質量%、特に0.005〜3質量%の範囲が好ましい。
前記の極圧剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0095】
前記油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコールと脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量に基づき、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0096】
前記酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N.N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤は、効果及び経済性などの点から、組成物中に通常0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%配合する。
【0097】
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができる。中でも相溶性の点でフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドが好ましい。
このアルキルグリシジルエーテルのアルキル基、及びアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよく、炭素数は通常3〜30、好ましくは4〜24、特に6〜16のものである。また、α−オレフィンオキシドは全炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、特に6〜16のものを使用する。本発明においては、上記酸捕捉剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果及びスラッジ発生の抑制の点から、組成物に対して、通常0.005〜5質量%、特に0.05〜3質量%の範囲が好ましい。
【0098】
本発明においては、この酸捕捉剤を配合することにより、冷凍機油組成物の安定性を向上させることができる。前記極圧剤及び酸化防止剤を併用することにより、さらに安定性を向上させる効果が発揮される。
前記消泡剤としては、シリコーン油やフッ素化シリコーン油などを挙げることができる。
本発明の冷凍機油組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の公知の各種添加剤、例えばN−[N,N’−ジアルキル(炭素数3〜12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾールなどの銅不活性化剤などを適宣配合することができる。
【0099】
本発明の冷凍機油組成物は、前記分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合わせを含む冷媒を用いた冷凍機に適用される。
また、本発明の冷凍機油組成物は、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いた冷凍機に適用される。
本発明の冷凍機油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法において、前記各種冷媒と冷凍機油組成物の使用量については、冷媒/冷凍機油組成物の質量比で99/1〜10/90、更に95/5〜30/70の範囲にあることが好ましい。冷媒の量が上記範囲よりも少ない場合は冷凍能力の低下が見られ、また上記範囲よりも多い場合は潤滑性能が低下し好ましくない。本発明の冷凍機油組成物は、種々の冷凍機に使用可能であるが、特に、圧縮型冷凍機の圧縮式冷凍サイクルに好ましく適用できる。
【0100】
本発明の冷凍機油組成物が適用される冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)及び蒸発器、あるいは圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器及び蒸発器を必須とする構成からなる冷凍サイクルを有するとともに、冷凍機油として前述した本発明の冷凍機油組成物を使用し、また冷媒として前述の各種冷媒が使用される。
ここで乾燥器中には、細孔径0.33nm以下のゼオライトからなる乾燥剤を充填することが好ましい。また、このゼオライトとしては、天然ゼオライトや合成ゼオライトを挙げることができ、さらにこのゼオライトは、25℃、CO2ガス分圧33kPaにおけるCO2ガス吸収容量が1.0%以下のものが一層好適である。このような合成ゼオライトとしては、例えばユニオン昭和(株)製の商品名XH−9、XH−600等を挙げることができる。
本発明において、このような乾燥剤を用いれば、冷凍サイクル中の冷媒を吸収することなく、水分を効率よく除去できると同時に、乾燥剤自体の劣化による粉末化が抑制され、したがって粉末化によって生じる配管の閉塞や圧縮機摺動部への進入による異常摩耗等の恐れがなくなり、冷凍機を長時間にわたって安定的に運転することができる。
【0101】
本発明の冷凍機油組成物が適用される冷凍機においては、圧縮機内に様々な摺動部分(例えば軸受など)がある。本発明においては、この摺動部分として特にシール性の点から、エンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものが用いられる。
前記エンジニアリングプラスチックとしては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂などを好ましく挙げることができる。
また、有機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばフッ素含有樹脂コーティング膜(ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜など)、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜などを挙げることができる。
一方、無機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、ニッケル膜、モリブデン膜、スズ膜、クロム膜などが挙げられる。この無機コーティング膜は、メッキ処理で形成してもよいし、PVD法(物理的気相蒸着法)で形成してもよい。
なお、当該摺動部分として、従来の合金系、例えばFe基合金、Al基合金、Cu基合金などからなるものを用いることもできる。
【0102】
本発明の冷凍機油組成物は、例えばカーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機又はショーケースなどの各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いることができる。
本発明においては、前記システム内の水分含有量は、300質量ppm以下が好ましく、200質量ppm以下がより好ましい。また該システム内の残存空気量は、10kPa以下が好ましく、5kPa以下がより好ましい。
本発明の冷凍機油組成物は、基油として、特定の含酸素化合物を主成分として含むものであって、粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができ、しかもシール性に優れている。
【実施例】
【0103】
次に、本発明を、実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、基油の性状及び冷凍機油組成物の諸特性は、以下に示す要領に従って求めた。
<基油の性状>
(1)100℃動粘度
JIS K2283−1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
(2)引火点
JIS K2265に準じ、C.O.C法により測定した。
(3)数平均分子量
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)法により測定した。
<冷凍基油組成物の諸特性>
(4)二層分離温度
二層分離温度測定管(内容積10mL)に油/冷媒(0.6g/2.4g)を充填し、恒温槽に保持した。恒温槽の温度を室温(25℃)より、温度を1℃/minの割合で上げ、二層分離温度を測定した。
(5)安定性(シールドチューブ試験)
ガラス管に、油/冷媒4mL/1g(水分含有量(200ppm)、及び鉄、銅、アルミニウムの金属触媒を充填して封管し、空気圧26.6kPa、温度175℃の条件にて10日間保持後、油外観、触媒外観、スラッジの有無を目視観察すると共に、酸価を測定した。
【0104】
また、冷凍機油組成物の調製に用いた各成分の種類を以下に示す。
(1)基油
A1:ポリプロピレングリコールジメチルエーテル、100℃動粘度9.25mm2/s、引火点212℃、数平均分子量1139
A2:ポリプロピレングリコール(PPG)/ポリエチレングリコール(PEG)ジメチルエーテル(PPG/PEGモル比9/1)、100℃動粘度10.34mm2/s、引火点223℃、数平均分子量1116
A3:ポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PPG/PEGモル比8/2)、100℃動粘度20.05mm2/s、引火点230℃、数平均分子量1730
A4:ポリプロピレングリコールメチルノニルフェニルエーテル、100℃動粘度11.76mm2/s、引火点220℃、数平均分子量1100
A5:ポリプロピレングリコールジオクチルエーテル、100℃動粘度11.31mm2/s、引火点219℃、数平均分子量1090
A6:ポリエチルビニルエーテル、100℃動粘度15.97mm2/s、引火点222℃、数平均分子量1250
A7:ポリエチルビニルエーテル(PEV)/ポリイソブチルビニルエーテル(PIBV)共重合体(PEV/PIBVモル比9/1)、100℃動粘度8.26mm2/s、引火点206℃、数平均分子量830
A8:ポリプロピレングリコール(PPG)/ポリエチルビニルエーテル(PEV)共重合体(PPG/PEVモル比7/11)、100℃動粘度9.56mm2/s、引火点218℃、数平均分子量1200
A9:ポリエチレングリコール(PEG)/ポリエチルビニルエーテル(PEV)共重合体(PEG/PEVモル比3/21)、100℃動粘度17.64mm2/s、引火点232℃、数平均分子量1680
A10:ポリプロピレングリコール(PPG)/ポリエチルビニルエーテル(PEV)共重合体(PPG/PEVモル比16/5)、100℃動粘度13.49mm2/s、引火点223℃、数平均分子量1280
A11:ペンタエリスリトールオクタン酸(C8酸)ノナン酸(C9酸)エステル(C8酸/C9酸モル比1/1.1)、100℃動粘度9.64mm2/s、引火点268℃、数平均分子量670
A12:ペンタエリスリトールオクタン酸ノナン酸エステル(C8酸/C9酸モル比1/1.7)、100℃動粘度15.99mm2/s、引火点289℃、数平均分子量685
A13:パラフィン系鉱油、100℃動粘度10.68mm2/s、引火点266℃
A14:アルキルベンゼン、100℃動粘度5.85mm2/s、引火点196℃
(2)添加剤
極圧剤B1:トリクレジルホスフェート
酸捕捉剤B2:C14α−オレフィンオキシド
酸化防止剤B3:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
消泡剤B4:シリコーン系消泡剤
【0105】
また、使用した冷媒の種類を以下に示す。
Ref1−1:1,1,1−トリフルオロジメチルエーテル
Ref1−2:1,1,2−トリフルオロジメチルエーテル
Ref1−3:1,1,1,2−テトラフルオロジメチルエーテル
Ref1−4:1,1,2,2−テトラフルオロジメチルエーテル
Ref1−5:Ref1−2/Ref1−4混合物(質量比1/1)
Ref2−1:トリフルオロメチルアルコール
Ref2−2:ジフルオロメチルアルコール
Ref2−3:モノフルオロメチルアルコール
Ref2−4:1,1,1−トリフルオロエチルアルコール
Ref2−5:1,1,2−トリフルオロエチルアルコール
Ref3−1:1,1−ジフルオロアセトン
Ref3−2:1,1,1−トリフルオロアセトン
Ref3−3:1,1,2−トリフルオロアセトン
Ref3−4:1,1,1,2−テトラフルオロアセトン
Ref3−5:Ref3−1/Ref3−3混合物(質量比1/1)
【0106】
実施例1〜12及び比較例1、2
第1表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、第1表に示すフッ化エーテル化合物からなる冷媒であるRef1−1、Ref1−2、Ref1−3、Ref1−4及びRef1−5を用いて、前記組成物の特性を評価した。その結果を第1表に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
第1表から分かるように、本発明の冷凍機油組成物(実施例1〜12)は、各種冷媒Ref1−1〜Ref1−5の全てに対して,二層分離温度が40℃を超え、かつRef1−1を用いたシールドチューブ試験において安定性に優れている。これに対し、比較例1及び2は、Ref1−1〜Ref1−5の全ての冷媒に対して室温で分離する。
【0110】
実施例13〜24及び比較例3、4
第2表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、第2表に示すフッ化アルコール化合物からなる冷媒であるRef2−1、Ref2−2、Ref2−3、Ref2−4及びRef2−5を用いて、前記組成物の特性を評価した。その結果を第2表に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】

【0113】
第2表から分かるように、本発明の冷凍機油組成物(実施例13〜24)は、各種冷媒Ref2−1〜Ref2−5の全てに対して,二層分離温度が40℃を超え、かつRef2−1を用いたシールドチューブ試験において安定性に優れている。これに対し、比較例3及び4は、Ref2−1〜Ref2−5の全ての冷媒に対して室温で分離する。
【0114】
実施例25〜36及び比較例5、6
第3表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、第3表に示すフッ化ケトン化合物からなる冷媒であるRef3−1、Ref3−2、Ref3−3、Ref3−4及びRef3−5を用いて、前記組成物の特性を評価した。その結果を第3表に示す。
【0115】
【表5】

【0116】
【表6】

【0117】
第3表から分かるように、本発明の冷凍機油組成物(実施例25〜36)は、各種冷媒Ref3−1〜Ref3−5の全てに対して,二層分離温度が40℃を超え、かつRef3−2を用いたシールドチューブ試験において安定性に優れている。これに対し、比較例5及び6は、Ref3−1〜Ref3−5の全ての冷媒に対して室温で分離する。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、地球温暖化係数が低く、特に現行カーエアコンシステムなどに使用可能な冷媒であるフッ化エーテル化合物等特定の極性構造を有する冷媒を用いた冷凍機用として使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の分子式(A)
pqrs ・・・(A)
[式中、Rは、Cl、Br、I又はHを示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いる冷凍機用の潤滑油組成物であって、基油として、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものを用いたことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項2】
フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物の中から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物、又は前記含フッ素有機化合物と飽和フッ化炭化水素化合物との組合せを含む冷媒を用いる冷凍機用の潤滑油組成物であって、基油として、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリオールエステル類及びポリカーボネート類の中から選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を主成分として含むものを用いたことを特徴とする冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項3】
基油の100℃における動粘度が2〜50mm2/sである請求項1叉は2に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項4】
基油の数平均分子量が500以上である請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項5】
基油の引火点が150℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項6】
極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項7】
冷媒のフッ化エーテル化合物がフッ化ジメチルエーテルである請求項1〜6のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項8】
冷媒のフッ化アルコール化合物がフッ化メチルアルコールである請求項1〜7のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項9】
冷媒のフッ化ケトン化合物がフッ化アセトンである請求項1〜8のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項10】
冷媒の飽和フッ化炭化水素化合物が1,1−ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜9のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項11】
冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである請求項1〜10のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項12】
有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜又はポリアミドイミドコーティング膜である請求項11に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項13】
無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜又はモリブデン膜である請求項11に記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項14】
カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機又はショーケースの各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いられる請求項1〜13のいずれかに記載の冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項15】
システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気量が10kPa以下である請求項14に記載の冷凍機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−115266(P2008−115266A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299418(P2006−299418)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】