説明

冷却を制御する鋳造方法

【課題】センターゲート方式のスタックモールド型を用いる際の中間層型と上下層型との製品品質の均一化を図り、鋳物砂を効率的に回収・再利用可能にする鋳造方法を提供する。
【解決手段】鋳型への注湯後、上下層型に鋳込まれたワークが冷却されて共晶変態点を通過してから共析変態点に至るまでの間に、少なくとも鋳型の外周部にある砂を強制剥離する。これにより、中間層型の冷却は促進された上下層型との品質のばらつきが回避される。また、シェル鋳型もしくは自硬性鋳型に使用された樹脂の熱分解を助け、砂の回収を効率的に行うことができる。砂の剥離は、鋳型に振動を一時期に、もしくは断続的に付与することにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタックモールド型を利用して複数の環状部材を鋳込む鋳造方法に関し、特には環状部材用の鋳型の軸を垂直方向に向けて複数積み上げ、その軸心近傍に湯口、湯路を設けて各キャビティの軸心から半径方向に向けて湯を拡散して充填するセンターゲート方式の鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者らは先に、鋳造により環状部材を得るに際に、製品品質のばらつき、特には鋳造時の冷却時間のばらつきに起因した製品硬度の不均一を抑制する技術を提供しているこの技術内容は、本願出願時点において未公開である。この製品硬度の不均一さは、1個の製品における各部分間のばらつきと、スタックモールド鋳造法による複数取りをした場合の複数製品間のばらつきとが含まれている。
【0003】
図3に示す車両用ブレーキディスク素材1も、そのような鋳造によって製造される環状部材の1例として挙げられる。ブレーキディスク素材1は一般に、キャリパと呼ばれる摩擦材で挟むことにより制動力を発生するリング部2と、軸心側で車軸に取り付けられて全体を保持するハブ部3とから主に構成される。図示の例ではベンチレーテッドディスクと呼ばれる冷却用の複数の貫通穴4がリング部分2に放射状に穿孔されている。
【0004】
従来技術におけるブレーキディスク素材の鋳造方法に関し、例えば特許文献1ではブレーキディスク素材1のリング部2の外周に相当する一点に設けられた堰からキャビティ内に湯を注入し、ここからリング部全周に湯が行き渡るよう構成されている。複数製品取りの例となる特許文献2では、一つの湯口から湯路を通して4個のブレーキディスク用キャビティに湯を注ぎ、4個取りを可能にしている。コンベア上に多数の型を並べて搬送しつつこれに順次注湯を行う量産型の鋳造プラントにおいては、複数個取りの個数は型を構築する型枠の大きさによって制限される。特許文献2では4個取りとしているが、型枠サイズと製品サイズによっては、上記型枠の制約によって2個取りが限界となる場合がある。そのような場合には湯口から湯路が2つに分岐し、それぞれが各ブレーキディスク用キャビティにつながっている。
【0005】
図4(a)は、ブレーキディスク素材を2個取りする場合の型枠内の配置パターン(平面図)を示している。図において、ブレーキディスク用のキャビティ6は型枠7の略対角線上に一対が配置され、その両者に接近して型枠7の中央付近に設けられた湯路8と堰9が両方のキャビティ6に結ばれている。鋳込む際には湯口22から湯が注がれ、溶融した金属が湯路8から堰9を通ってキャビティ6内に注入される。後は冷却を待ってキャビティ6内で固まった素材を得、さらに機械加工等を経て製品とされる。
【0006】
図4(b)は、以上のようにして得られたブレーキディスク素材の硬度分布を示している。図はブリネル硬度(BHN)による測定結果と、そのスケールとを示すもので、図からも明らかなように、ブレーキディスク素材は図4(a)に示す湯路8(堰9)に近い位置で硬度が低く(硬度約206)、それから離れるにしたがって徐々に硬度が高まってリング部2の内の湯路8から最も離れた位置で最も高い硬度(約215)となっている。両者の中間では中間的な硬度(206から215)の間でばらつき、その硬度の変化は湯路8に近い位置からブレーキディスク素材のほぼ中心を横切って湯路8の反対側に及ぶ一方向に傾斜した変化となっていることが分かる。
【0007】
一般にFe−C系溶融金属を冷却して固化する場合、冷却速度が速いほど、特には共析(A1)変態点(鋳鉄の場合730℃近傍)を通過する冷却速度が速いほどパーライトの緻密化が促進され、硬度が高まることが知られている。図4(a)に示すような型枠7内の配置において、湯路8から離れて型枠7に近い位置ほど冷却が促進され、型枠7の中央付近に位置する堰9の近傍では放熱効率が悪いために冷却速度が低くなることは容易に想像できる。その結果として、図4(b)に示すように、湯口から離れた部位で硬度が高くなり、湯口に近い部位で硬度が低くなる。
【0008】
このような位置による硬度の違いは、車両用ブレーキディスクなどの機能部品(重要保安部品)においては特に問題が大きい。一般に硬度が高いほど耐摩性に優れるため、車両の制動時、ブレーキディスクに摩擦材(キャリパ)が押し付けられると、この硬度差が問題となる。図3に示すブレーキディスク素材1から得られるブレーキディスクは、自身の回転対称軸を中心に回転するため、摩擦材が押し付けられるリング部2には、図4(b)に示すように硬度が高い部分と低い部分が混在するものとなる。これにより、摩擦材による長期間の繰り返し摩擦作用によってリング部2の円周方向の摩耗量にばらつきが生ずる。摩擦材(キャリパ)の側からこれを見ると、摩擦接触する相手側(リング部2)が波打ち状になることを意味し、これに摩擦材を押し付けることによってジャダー(びびり振動)や異音が発生する原因となる。激しい場合は振動の拡散によってブレーキ性能そのものにも影響を及ぼしかねないものとなる。
【0009】
このような問題を軽減するため、例えば特許文献2(表示された例は4個取り)では、湯路を延ばしてブレーキディスク素材のリング部の複数位置からキャビティ内に湯を流すよう対処している。しかしながらこの方法によっても、ある程度の改善が見られたとしても、湯口からの距離が不均等であることは不変であり、またキャビティ同士が向き合った位置と型枠に近い外周部分では当然ながら放熱効果には差があるため、ブレーキディスク素材のリング部の硬度差を無くすための完全な解決策とはなり得ない。
【0010】
本願発明者らはこれに対し、環状部材の軸心近傍に湯口を設け、この湯口から放射状に配置された湯路ならびに堰を介してキャビティ内に湯を放射状に流し込むセンターゲート方式を採用することにより、湯の冷却が環状部材の円周方向に対して均等となるよう制御して、図5に示すような硬度差(ブリネル硬度BHN203〜216)が同心円状に形成される環状部材の製法を提供している。環状部材が図3に示すようなブレーキディスクである場合、キャリパは回転するブレーキディスクのリング部2を挟んで摩擦力を及ぼすため、その摺動方向(ブレーキディスクの回転方向)においてはほとんど硬度差がないこととなり、リング部2に磨耗が発生するとしてもその磨耗量は円周方向においては均一なものとなる。これによって、従来技術にあるようなリング部2における円周方向(回転方向)の偏磨耗が生ずることはなく、したがってジャダー、異音の発生を有効に防ぐことができる。さらに加えて、ブレーキ性能に影響を及ぼすことがなく、また偏摩耗を排除してブレーキディスクの寿命を高めるというより重要な効果をも奏するものとなる。
【0011】
湯口を環状部際の軸心近傍に設けた場合、製品を複数取りとする手段としてはスタックモールド法を利用することができる。スタックモールド法は、幾つもの平坦状の型を積み重ねて何層ものキャビティを垂直方向に形成し、上方に設けられた湯口から下方に向いた湯路を介して各キャビティ内に湯を流すことにより複数個の製品取りを可能にしている。例えば、特許文献3では、スタックモールド法を用いることで、各階層において平坦部品をツリー状に多数個取りする方法が開示されている。スタックモールド法はこのように、比較的小物の製品を多数個取りする場合に主に使用されているが、環状部材において湯口を軸心近傍に設けて積み重ねることはそれまで知られておらず、多数個取りの際にもやはり外周から湯を充填させるよう構成されていた(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−59243号公報
【特許文献2】特開2007−211828号公報
【特許文献3】特開2001−129640号公報
【特許文献4】特開昭62−240140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図6は、本願発明者らが提案したブレーキディスク素材の鋳造方法にて使用されるスタックモールド型の概要を、垂直方向に切断した断面で示している。図6において、スタックモールド型10は下から順に最下層型11、4つの中間層型12、最上層型13の計6つの鋳型が垂直方向に積み重ねられ、これらが上下の押さえ板14、16に挟まれて固定具である長ボルト17により固定されている。クランプ、錘など他の方法で固定されてもよい。中間層型12は、それぞれ下面側では下方に位置する製品の上面のパターンを提供し、上面側では上方に位置する中間層型12を支持する支持パターンを提供する。また、最下層型11の上面側には上方に位置する中間層型12を支持する支持パターンを提供し、最上層型13の下面側では下方に位置する製品の上面のパターンを提供する。これらを図示のように中心軸を合わせて積み重ねることによって、ブレーキディスク素材を鋳造するキャビティCが垂直方向に5枚配置されたスタックモールド型10を得るものとなる。なお、図6に示す例では、中間層型12はキャビティCを挟んで中子12aと中間型12bの2つを重ねて形成されているが、本明細書ではこの両者を合わせたものを中間層型12と呼ぶものとする。
【0014】
各鋳型11〜13には、ブレーキディスク素材1の回転対称軸となる部分に中心軸方向に抜ける貫通穴が設けられており、各鋳型11〜13が重ねられることによってこの貫通穴が上下方向に連なって湯路18を形成している。そして湯路18の上端に湯口19を取り付けることで、スタックモールド型10が形成されている。各鋳型11〜13を積み上げた際には湯路18から各キャビティCにつながる堰9が各鋳型の間に形成されるよう型取りがされている。本実施の形態では、中間層型12の中子12aと中間型12bとの間に(最下段では中子12aと最下層型11との間に)堰9が設けられている。堰9は湯が放射状に均等にキャビティ内に流れるよう、適切な数が設けられて良いが、ここでは周囲3箇所に設けられている(図では左側半分に堰9が表示されている)。
【0015】
以上のように構成されたスタックモールド型10を使用する際の動作は、準備されたスタックモールド型10の湯口19に溶融した湯(溶融鉄)が注がれ、湯が湯路18に沿って降下すると共に、各型11〜13の堰9を通過して各キャビティC内に充填される。その後所定温度に下がるまで放置され、冷却した後に長尺ボルト17を外し、スタックモールド型10を分解して製品が取り出される。その後の加工工程は従来技術と同様である。
【0016】
しかしながら、この鋳造方法にも未だ改善の余地があった。1つは、スタックモールド型の特徴である縦方向に積み上げられる型具に関し、その内の最下層型11、最上層型13については、それぞれ下方または上方が解放されているため放熱性が良く、比較的短時間で冷却される。これに対してそれ以外の中間層型12は上下方向に他の鋳型のキャビティCが存在し、その中に高温の溶融材が充填されているためこれらに挟まれて放熱性が劣り、冷却速度が遅くなる傾向にあると言う問題である。このため、最下層型11、最上層型13から得られる製品と中間層型12から得られる製品との間に硬度差が生じるものとなり、これが製品品質のばらつきの要因となり得る。なお、図6では中間層型12を5つ設けているが、この数は任意である。
【0017】
さらなる改善の余地として、上述した従来のセンターゲート方式の鋳型10を利用した鋳造時における鋳砂の回収と再生利用の効率化にある。鋳造用の砂は、シェルモールド法においてはバインダであるレジンをまぶして加熱・凝固して使用している。他の造型方法としてまぶした液状レジンを化学反応によって常温で固化させる自硬性鋳型法(コールドボックス法、CO2プロセス等)が有る。そして、鋳造後にはこれら鋳型を分解し、砂を回収して再使用しているが、そのためには鋳造後の砂の再生処理が必要となる。具体的には、研磨による砂の塊の分解と、培焼によるレジンの除去という工程が付加される。
【0018】
したがって本発明は、従来技術にあるこのような問題点を解消し、センターゲート方式のスタックモールド型を用いる際においても中間層型と上下層型との間の硬度差をなくして製品品質の均一化を図り、また鋳物砂を回収・再利用する際の省エネルギ化と効率化を可能とする鋳造方法を提供することを目的としている。なお、本願出願時点において、環状部材の軸心近傍に湯口を設けて環状部材となるキャビティ内に放射状に湯を拡散させるよう充填するセンターゲート方式のスタックモールド鋳造方法は知られていない。したがって、以下に記す型具構造ならびに鋳造方法に関する複数の発明は、いずれもセンターゲート方式のスタックモールド型を使用する新規な鋳造方法に関わる問題点を解消するという、共通の技術的課題に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明では、鋳型への注湯の後、ワークが冷却されて共析変態点に至る前の早い段階にて鋳型の外周部にある砂を強制剥離することにより上記課題を解決するもので、具体的には以下の内容を含む。
【0020】
すなわち、本発明に係る1つの態様は、砂と樹脂とから造型される複数の環状部材用のシェル鋳型もしくは自硬性鋳型を用い、前記環状部材の軸を垂直に向けて積み重ね、該軸の軸心近傍に湯口と湯路を配して湯を軸心近傍から各鋳型内の半径方向外周部に向けて充填するよう鋳込むスタックモールド法による鋳造方法であって、少なくとも前記鋳型の外周部にある砂を、積み重ねられた鋳型の内の最上層型もしくは最下層型内に鋳込まれた環状部材が共晶変態点を通過した後共析変態点に至るまでの間に強制剥離することを特徴とする鋳造方法に関する。
【0021】
前記型具の外周部にある砂は、最上層型もしくは最下層型内に鋳込まれた環状部材が共晶変態点を通過してから共析変態点に至るまでの間に一時に剥離することもでき、もしくは共晶変態点を通過してから共析変態点に至るまでの間に徐々に剥離することもできる。
【0022】
前記砂を一次に剥離する際には、前記鋳型に振動を付与することにより、また前記砂を段階的に剥離する際には所定間隔を設けて所定時間の振動を前記鋳型に繰り返し断続的に付与することにより、それぞれ実施することができる。
【0023】
本発明に係る他の態様は、上述したいずれか一の方法により、スタックモールド型の上下層型と中間層型との間の冷却速度のばらつきを抑制することを特徴とする鋳造方法に関する。
【0024】
本発明に係るさらに他の態様は、型内部の鋳砂に外気を浸透させてシェル鋳型又は自硬性鋳型の樹脂層の熱分解を促進し、砂の再生利用時の研磨作業、培焼作業を軽減し、もしくは無くすることを特徴とする鋳造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施により、スタックモールド型を使用するセンターケート方式の鋳造方法で環状部材を鋳造する際、最上層型もしくは最下層型と中間層型との間の冷却特性の差異により生ずる製品品質のばらつきを解消する効果を生む。また、本発明の実施により、砂の回収、再生をより効率的に無駄なエネルギを要することなく実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る型外周部の砂の強制剥離のタイミングとこれによる効果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施の形態に係る型具外周部の砂の強制剥離状態を示す型具の側面断面図である。
【図3】ブレーキディスク素材の外観を示す斜視図である。
【図4】従来技術による非軸心に湯口を設ける場合のブレーキディスク素材の鋳型パターン例(平面図)と、これによって得られる製品の硬度分布を示す説明図である。
【図5】軸心近傍に湯口と湯路を設けて湯が放射状に充填されて得られる環状部材の硬度分布を示す模式図である。
【図6】軸心近傍に湯口と湯路を設けるスタックモールド型の構成を示す鋳型の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の実施の形態にかかる鋳造方法について、図面を参照して説明する。図1は、図6に示すようなスタックモールド型を使用して鋳造する際の冷却温度の推移を示している。なお、以下の各実施の形態では、図3に示すブレーキディスク素材1を鋳造する場合を例に挙げて説明するが、本実施の形態にかかる鋳造方法はこれに限定されるものではなく、湯口を軸心近傍に設けて湯をキャビティ内に放射状に拡散させて充填するセンターゲート方式のスタックモールド型を使用して環状部材を得る鋳造に等しく適用することが可能である。また、本明細書でいう「環状部材」は、必ずしも円形の環状に限定されず、楕円形環状、多角形環状など他の環状形の部材をも含むものとする。
【0028】
図1のグラフにおいて、縦軸は環状部材の鋳造時における鋳型のキャビティ内におけるワーク温度(℃)、横軸は注湯からの経過時間(分)を示している。鋳込み直後は溶融鉄が最高温度に達しており、その後鋳型に熱が吸収されるなどして冷却される。図の曲線はその冷却曲線を示しており、その曲線の内、二点鎖線A1で示す曲線は、図6の最下層型11での冷却曲線、実線A2で示す曲線は、同じく中間層型12での冷却曲線、そして一点鎖線A3で示す曲線は、同じく最上層型13での冷却曲線をそれぞれ示している。各ワークは、最高温度に達した後にまずT1で示す共晶変態点を通過する際に冷却曲線に屈曲点が表われる。Fe−C系合金における共晶変態点T1は1150℃近傍で、この共晶変態点の通過にて素材中の黒鉛の形態が定まる。その後温度は低下するが、共晶変態点を通過する辺りまで冷却曲線は同一であったものが、それ以降、冷却効率の差異に起因して上下層型11、13における冷却速度曲線(A1、A3)と中間層型12の冷却速度曲線(A2)とが徐々に乖離している。T2で示す共析変態点(Fe−C系合金で730℃近傍)の屈曲点への到達は、上下層型11、13(曲線A1、A3)にて約30分後に、中間層型12(曲線A2)ではこれより遅れて約55分後になる。上述したように、冷却速度が早く、特に共析変態点通過速度が早いほど基地組織の硬度が高まるため、このような冷却速度のばらつきが生ずることは品質均一化の観点から好ましくはない。
【0029】
これを解消するため、本実施の形態では、鋳型の外周部にある砂を早目に強制剥離し、これにより、特には中間層型12の冷却を促進させるよう対応している。図2はその状況を示すものであり、図6に示すスタックモールド型10に比較し、図2では、太い破線Bで示すキャビティC内にあるワークの外周部先端部分の位置まで、細い破線で示すように鋳型10外周部にあった砂を落としている。従来技術では、この外周部分は鋳型10が冷却した際にその一部が自然に脱落するか、あるいは型を分解して除去していた。本実施の形態では当該部分を早期に強制剥離することにより、スタックモールド型10全体の周囲が開放されて外気に触れるため、特には中間層型12における冷却が飛躍的に促進されるものとなる。
【0030】
図1において、時間t2およびt1に示す太い一点鎖線は、注湯完了後、それぞれ共晶変態、共析変態が始まるタイミングを示している。前者は温度T1に達するタイミング、後者は温度T2に達するタイミングとなるが、共晶変態点であるT1、共析変態点であるT2は、それぞれ材料によって特定される性格のものである。これに対して横軸の温度は、鋳型の構造、注湯温度、環境温度などによって多少なりともばらつきが生じる。本実施の形態では、共晶変態が完了(初期結晶及び共晶凝固が完了)するのは注湯完了後約5分、共析変態が始まるのが冷却効率が良好な上下層型11、13で約30分となっている。
【0031】
鋳型外周部の砂を強制剥離するタイミングは、湯が高温である早い段階にし過ぎると内部に未凝固箇所が残り、製品形状への影響や、また冷却が急激に進み過ぎることから製品硬度が高くなり過ぎる懸念がある。逆にタイミングが遅すぎると中間層型12を冷却する効果が薄れ、本来の目的が達成し難い。本実施の形態では、強制剥離するタイミングを、共晶凝固が完了した後、すなわち共晶変態点を過ぎた後、最も冷却の早い下層型11もしくは上層型13のいずれかが共析変態点T2に達するまでの間に行うものとしている。図1においてこれを温度範囲で表せば、強制剥離のタイミングTは、
T1>T>T2 …… (式1)
となり、本実施の形態ではこの間のタイミングTにて鋳型外周部を一時に剥離するものとしている。上記タイミングを時間で表せば、好ましいタイミングtは、
t0<t<t1 (式2)
となり、ここにt0は、共晶凝固の完了、すなわち共晶変態が完了したタイミングとなる。なお、「一時に」剥離するとは、必ずしも鋳型の全周囲にある砂を「瞬時」に除くことを意味せず、振動付与などの物理的な作用を施すための常識的な時間(例えば数分)を含む概念であることは理解されよう。
【0032】
以上に示すタイミングにおいてスタックモールド型の外周部の砂を強制的に落とすことにより中間層型12の冷却が促進され、その際の中間層型12の冷却曲線は、図1の実線A2で示す当初曲線から破線A2aで示す曲線へと変化する。中間層型12の冷却が促進される結果、中間層型12にて成形されるワークは、図示の例では約45分ほどで共析変態が完了するものとなり、砂落しをしない場合の約70分に対して大幅な時間短縮となる。この結果、上下層型11、13の共析変態の完了時点である約40分と大差がなくなり、さらには中間層型12の共析変態に要する時間が上下層型11、13の共析変態の時間と同等に短縮されるため、硬度のバラツキも大幅に圧縮されるものとなる。さらに加えて、共析変態点以降に行っていた型全体の分解作業も冷却の促進によって早期に取り組むことができ、鋳造のサイクル時間を圧縮するという追加の効果を奏するものとなる。なお、図示の例では共析変態点T2の直前に砂剥離を行った際の冷却曲線A2aを示しており、より早い段階で砂剥離を行うことで冷却をやや早めることができる。
【0033】
型具外周部にある砂を強制的に剥離する方法は各種考えられ、本実施の形態ではスタックモールド型が載置されたテーブルを加振してスタックモールド型全体に振動を付与することにより行っている。この際の振動としては、例えば振動数60サイクル/秒、振幅±0.4mm、加速度1.38Gを採用しているが、振動以外にも、外周部にショットをぶつけたり、ハンマーなどで物理的な衝撃を与えたりすることなどの方策が考えられる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る鋳造方法について説明する。本実施の形態は、鋳物砂の効率的な回収・再生と、省エネルギ技術に関する。鋳造に使用されるシェル鋳型あるいはシェル中子(以下、突起ない場合には鋳型には中子をも含むものとする)は、上述したように珪砂に熱硬化性樹脂をまぶしたものを加熱して成型される。加熱により樹脂が硬化してバインダの役割を果たし、砂同士が結合される。従来技術においては、鋳込み後にキャビティ内の製品が冷却されて鋳造が完了した後に型を分解し、砂を粉砕して回収していた。この際には結合材となった樹脂が残ってほとんどの砂が塊の状態で回収されるため、砂を再生するためにはこれを研磨により適当な大きさまで砕き、さらに約800℃に加熱、培焼して樹脂成分を熱分解により分離した後に砂を回収していた。この回収方法は、自硬性鋳型においても同様であった。
【0035】
しかしながらこの方法によれば、回収のための研磨と培焼のための余分な工程が必要となる。これに加えて、研磨作業による騒音と粉塵の問題、培焼時の臭気、培焼のための加熱エネルギの必要性など、さらなる弊害がみられた。さらに、製品の冷却を待って作業を行うため、鋳造のサイクルに余分な時間を必要としていた。本実施の形態では、このような問題点を解消する鋳型の分解と砂の回収とを改善する方法を提供するものである。
【0036】
図1に示すように、Fe−C系材料の鋳造直後には1300℃を越える溶湯が型内で冷却されて、この例では約5分後に共晶変態点T1を通過し、その後さらに冷却されて一番早い鋳型で約30分後に共析変態点T2を通過して冷却される。この間に溶湯は固化されるが、従来技術においては製品安定化の観点から少なくともこの共析変態点T2を通過するまでは型崩しは行わず、そのままの状態で自然冷却を待っていた。
【0037】
シェル鋳型(以下、シェル鋳型を例に説明するが、自硬性鋳型においても同様である)に使用される樹脂の熱分解温度は、一般に800℃ほどであり、溶融鉄に触れる部分においてシェル砂の一部はこれ以上の温度に曝されることとなる。しかしながら、鋳型は一般に、崩壊を防止するために鋳枠やバックアップサンドと呼ばれる補助砂に囲まれており、シェル型が加熱されても酸素欠乏状態で存在している。このため、加熱された樹脂は酸素欠乏で蒸し焼き状態となり、炭化物化して砂の周囲を覆った状態で残留するものとなる。これが原因となって、砂の回収には上述したような研磨、培焼工程が必要になっている。
【0038】
本実施の形態では、このような従来技術から発想の転換をし、溶湯完了の後の比較的早い段階から型崩しを行ってシェル型の内部まで外気を浸透させ、特にはスタックモールド型における中間層型12内部にも外気に触れ易い環境を作り出す。これによって鋳込まれた製品が保有する熱を利用して、砂を覆っている樹脂の分解を可能とし、回収後の研磨、培焼工程を不要にしようとするものである。分解された樹脂はCOもしくはCO2となって大気中に放出される。
【0039】
より具体的に、図1において、ほぼ共晶変態温度を通過する注湯完了後の約5分後から型具外周部の強制剥離を段階的に行う。本実施の形態では、型具10を載置したテーブルに、約20秒間の振動を約2分間隔で6回繰り返して与えている。この際の振動としては、例えば振動数60サイクル/秒、振幅±0.4mm、加速度1.38Gが採用される。これにより、共晶変態点(T1)通過後、共析変態点(T2)に至るまでの間に図2に示すように鋳型の外周部にある砂を可能な限り剥離し、除去している。この作業のため、本実施の形態では上述した鋳枠やバックアップサンドは使用していないが、これらが使用されている場合には上記振動を付与する前にこれらは取り除いておく必要がある。なお、砂の剥離にはテーブルに振動を付与することのほか、ショットの衝突、ツールによる衝撃付与など、他の物理的手段が利用されてもよい。ただし、型具10の外周部を早い段階で一気に剥離した場合には外周部が急激に冷却され、製品硬度への悪影響も生じ得る。このため、共晶変態点T1通過後から共析変態点T2に至るまでの間で徐々に段階的に剥離させることが好ましい。この点で、型具が載置されたテーブルへ間欠的に振動を付与する方法は好適な手段であるといえる。
【0040】
図1を参照して、鋳型外周部剥離動作を行うタイミング条件を温度Tで表せば、式(1)で示すと同様、
T1>T>T2
となる。ただし、第1の実施の形態ではこの温度条件の間に一時に剥離を行うものとしているが、本実施の形態ではこのタイミングの間に連続して、もしくは断続的に振動などの物理的作用を付与して徐々に剥離を行っている。これによって樹脂が熱分解する領域を、冷却の相対的に早い部位から同じく相対的に遅い領域に向けて段階的に広げるものとしている。このタイミングを時間軸で表せば、剥離を行うタイミングtは式(2)と同様に、
t0<t<t1 (但し、t0:共晶変態完了時)
となり、この間に段階的に剥離を行うものとなる。
【0041】
上記振動付与により、外周部付近にある砂に限らず、図2のキャビティCの間にある鋳型、中子の砂も一部脱落、除去される。これらの効果により、型の外周部はもとより図2の軸心にある湯路18、堰9付近に至るまで外気が浸透し易い環境が醸成され、各部位に位置する樹脂が製品の保有熱によって外気中の酸素と反応してCOガス又はCO2ガスに分解して大気中に散逸される。結果として得られる使用後の砂粒は、培焼された後の砂とほぼ同様に樹脂がほとんど付着していない状態のものとなる。
【0042】
樹脂の熱分解によってその結合力が失われた砂はサラサラの砂粒状態となるため、培焼工程を経ることなくそのまま再生利用可能となる。勿論、全ての砂がこのようにして回収されることはなく、外気が浸透し難い部分では相変わらず樹脂が炭化されて塊状となった砂も残る。これらは篩にかけて選別され、残った部分のみが従来の研磨、培焼に回される。本願発明者らが行った実験によれば、鋳造に供された砂の約70〜80%が研磨、培焼不要の状態で回収することができる。回収されたサラサラの砂は、この後熱硬化性樹脂がまぶされ、シェル鋳型として再利用され、あるいは液状レジンがコーティングされ自硬性鋳型として再利用される。これによって大幅な省エネルギ化が実現できるほか、上述した諸問題の改善につながっている。
【0043】
なお、以上は図2に示すスタックモールド型を例にして説明してきたが、本実施の形態に係る鋳造方法はこれに限定されず、環状部材をセンターゲート方式の型を用いて鋳造する際には同様に利用することができる。ただし、スタックモールド型においては中間層型内において上下に挟まれて蒸し焼き、炭化され易い状態にあるため、本発明の効果はより大きなものとなる。
【0044】
以上、本発明の各実施の形態に係る鋳造方法について説明してきたが、解決すべき課題として、第1の実施の形態ではスタックモールド型の中間層型における冷却の促進と品質(硬度)の均一化であり、第2の実施の形態では効率的な砂の回収である点で両者は相違している。しかしながらその手段としては、センターゲート方式の鋳造において、外周部の砂を早期に強制剥離する点では共通している。すなわち、両者の方法は同一の作用によって2つの異なる効果を発揮できるものであり、例えば第2の実施の形態にあるように、共晶変態点(図1の温度T1、時間t2)通過直後において型外周部の砂の段階的剥離動作(間欠振動付与ほか)を開始し、その動作を継続して共析変態点(同、温度T2、時間t1)を通過する前に型外周部の砂を強制剥離させることで砂の効率的回収(研磨、培焼不要)が可能になると共に、スタックモールド型における中間層型の冷却を促進させる効果を同時に生むものとなる。
【0045】
また、第1の実施の形態にあるように、共析変態点(同、温度T2、時間t1)の直前に型外周部にある砂を強制剥離することにより、中間層型の冷却を促進させる効果が得られる一方において、これにより外気が型内に浸透し易い環境が醸成され、シェル鋳型または自硬性鋳型を構成する樹脂の熱分解が促進されて砂の効率的回収をも可能とする。この際、第2の実施の形態にあるように共晶変態点(図1の温度T1、時間t2)通過直後に振動の付与を開始するなどのより早期に強制剥離動作を開始する場合に比べて回収効率はやや劣るものとなることは想定され得る。いずれにせよ、本願発明の各実施の形態では、環状部材をセンターゲート方式により鋳造するという新規の技術における課題を解消する点において両者に変わるところはない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、造型の技術分野、鋳造の技術分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1.ブレーキディスク素材、 2.リング部、 3.ハブ部、 6.キャビティ、 8.湯路、 9.堰、 10.スタックモールド型、 11.最下層型、 12.中間層型、12a.中子、 12b.中間型、 13.最上層型、 18.湯路、 19.湯口。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂と樹脂とから造型される複数の環状部材用のシェル鋳型もしくは自硬性鋳型を用い、前記環状部材の軸を垂直に向けて積み重ね、該軸の軸心近傍に湯口と湯路を配して湯を軸心近傍から各鋳型内の半径方向外周部に向けて充填するよう鋳込むスタックモールド法による鋳造方法において、
少なくとも前記鋳型の外周部にある砂を、積み重ねられた鋳型の内の最上層型もしくは最下層型内に鋳込まれた環状部材が共晶変態点を通過した後共析変態点に至るまでの間に強制剥離することを特徴とする鋳造方法。
【請求項2】
前記型具の外周部にある砂を、最上層型もしくは最下層型内に鋳込まれた環状部材が共晶変態点を通過してから共析変態点に至るまでの間に一時に剥離すること、または共晶変態点を通過してから共析変態点に至るまでの間に段階的に剥離することのいずれかである、請求項1に記載の鋳造方法。
【請求項3】
前記砂を一次に剥離することが、前記鋳型に振動を付与することによって行われる、請求項2に記載の鋳造方法。
【請求項4】
前記砂を段階的に剥離することが、所定間隔を設けて所定時間の振動を前記鋳型に繰り返し断続的に付与することによって行われる、請求項2に記載の鋳造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の強制剥離により、スタックモールド型の上下層型と中間層型との間の冷却速度のばらつきを抑制することを特徴とする鋳造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の強制剥離により、型内部の鋳砂に外気を浸透させてシェル鋳型または自硬性鋳型の樹脂層の熱分解を促進し、砂の再生利用時の研磨作業、培焼作業を軽減し、もしくは無くすることを特徴とする鋳造方法。


【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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