説明

冷却装置

【課題】 本発明は断熱消磁を利用した冷却装置に関し、装置の小型化を図りつつ、漏れ磁場の発生を抑制することを課題とする。
【解決手段】 真空容器41と、断熱消磁冷凍部60(真空容器41に内設されており超電導マグネットコイル52、磁性体ソルトピル58、及び熱スイッチ65等を具備する)と、熱スイッチ65を介して磁性体ソルトピル58を冷却するGM冷凍機70とを有する冷却装置において、真空容器41の少なくと超電導マグネットコイル52及び磁性体ソルトピル58を囲繞する位置を磁性材料で形成し、漏れ磁場の発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却装置に係り、特に断熱消磁を利用した冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、低温化技術の一つして断熱消磁法が知られている。この断熱消磁法は、磁場によって磁性体の磁場エントロピーを制御することによって温度を変化させる方法である。この断熱消磁法によれば、磁性体と印加する磁場の強さを選ぶことで、常温から1K以下の超低温まで発生することが可能である。
【0003】
この断熱消磁法を利用して超低温を発生する冷却装置は、磁性体に超電導マグネットで発生させた磁場を印加すると共に、熱スイッチを介して例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(以下、GM冷凍機とする)を磁性体に熱的に接続し、磁性体の温度を制御する構成とされている。よって、断熱消磁法を利用した冷却装置は、必然的にその内部に強い磁場が形成されることとなる。
【0004】
上記の断熱消磁を利用した冷却装置は、例えばX線分析装置(エネルギー分散型X線分析装置等)に適用され、X線検出素子を冷却するのに用いられる。X線検出素子を冷却することにより、ノイズ低減図ることが可能となり、分析精度を高めることができる。
【0005】
また、この冷却装置の稼動中は、超電導マグネットは4K程度に冷却され、また磁性体は0.05Kの超低温となる。このため、この種の冷却装置では、超電導マグネット及び磁性体等は、多段の輻射シールドが行われた真空容器内に装着された構成とされる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−233332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで従来の冷却装置では、加工性,経年変化が少ない等の理由から真空容器の材質としては非磁性材であるステンレスが一般に用いられている。このため、磁場を用いることが冷凍原理となっている断熱消磁法を利用した冷却装置では、真空容器の外部に磁場が漏れ出ししまうという問題点があった。
【0007】
このように、漏れ磁場が発生すると、上記のエネルギー分散型X線分析装置の場合には、分析の為に照射する電子線が漏れ磁場により影響を受けてその軌道が曲げられてしまい、検出精度に悪影響が生じてしまう。この問題点は、エネルギー分散型X線分析装置ばかりではなく、電子顕微鏡に断熱消磁を利用した冷却装置を適用した場合にも発生する。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてさなれたものであり、装置の小型化を図りつつ、漏れ磁場の発生を抑制しうる冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明では、次に述べる各手段を講じたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項1記載の発明は、
真空容器と、
該真空容器に内設されており、超電導マグネットコイルと、該超電導マグネットコイル内に配設された磁性体と、該磁性体に対する熱伝導のスイッチ処理を行なう熱スイッチとを具備する断熱消磁冷凍部と、
前記熱スイッチを介して前記磁性体を冷却する冷凍機とを有する冷却装置において、
前記真空容器の少なくとも前記磁性体と対向する一部を磁性材料で形成したことを特徴とするものである。
【0011】
上記発明によれば、真空容器の少なくとも前記磁性体と対向する一部を磁性材料で形成したことにより、超電導マグネットコイルで発生する磁場が真空容器の外部に漏れることを防止することができる。特に、磁性体の配設位置は最も磁場が強い部位であり、少なくともこの部位に真空容器の磁性体よりなる部分が対向することにより、漏れ磁場の発生を有効に抑制することができる。また、真空容器がヨークとして機能するため、強い磁界を形成することができる。よって、このように強い磁場を磁性体に印加することが可能となり、断熱消磁効果を高めることができる。更に、真空容器の少なくとも一部を磁性材料で形成したことにより、真空容器は内部を真空に保つ機能と、磁気シールドの機能との2つの機能を同時に奏することとなるため、この機能を夫々別部材により実現する構成に比べ、冷却装置の小型化を図ることができる。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、
請求項1記載の冷却装置において、
前記とを特徴とするものである。
【0013】
上記発明によれば、円筒形状の真空容器が超電導マグネットコイルの外周を囲繞する構成となるため、磁場の漏洩を確実に防止することができる。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、
請求項1または2記載の冷却装置において、
前記真空容器と前記超電導マグネットとの間の位置に、前記超電導マグネットコイルの発生する磁場の方向と逆方向の磁場を発生する補助コイルを設けたことを特徴とするものである。
【0015】
上記発明によれば、超電導マグネットコイルの発生する磁場の方向と逆方向の磁場を発生する補助コイルを真空容器と超電導マグネットとの間に設けたことにより、磁場が真空容器の外部に漏れることをより確実に防止することができる。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の冷却装置において、
前記冷凍機を前記断熱消磁冷凍部に対して下部に配置したことを特徴とするものである。
【0017】
上記発明によれば、重量物である冷凍機を、この冷凍機よりも軽量な熱消磁冷凍機構に対して下部に配置したことにより、冷却装置全体としての安定性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、真空容器の少なくとも一部を磁性材料で形成したことにより、超電導マグネットコイルで発生する磁場が真空容器の外部に漏れることを防止することができると共に、冷却装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施例である冷却装置40の全体構成を示す断面図である。同図に示されるように、冷却装置40は大略すると真空容器41、第1の輻射シールド46、第2の輻射シールド49、断熱消磁冷凍部60、熱スイッチ65、ギフォード・マクマホン型冷凍機70、熱リンク66等を有した構成とされている。
【0021】
真空容器41は、大略すると真空容器本体42、天板43、及び底板部材44等により構成されており、その内部に密閉された円筒空間41Aが形成されている。また、この真空容器本体42には、後述する外筒61、シールド部材64、及びフランジ95等が設けられる。
【0022】
真空容器本体42は円筒形状をしており、その上下端部には開口部(図示せず)が形成されている。真空容器本体42の上端部には、開口部を覆うよう天板43が配設されており、下端部には開口部を覆うよう底板部材44が配設されている。本実施例では、この真空容器41を構成する真空容器本体42、天板43、及び底板部材44を、鉄等の磁性材料で形成したことを特徴とする。尚、このように真空容器41を磁性材料で形成したことの作用効果については、説明の便宜上、後述するものとする。
【0023】
真空容器本体42の下端部に配設される底板部材44には、GM冷凍機70を真空容器41内に挿入するための開口部44Aが形成されている。また、真空容器本体42の側面部には、側方に向け延出した外筒61が配設されている。
【0024】
この外筒61は円筒空間41Aと連通しており、その内部は真空雰囲気となるよう構成されている。外筒61の真空容器本体42と接続された端部と反対側の端部(図中、右端部)には、シールド部材64が配設されている。
【0025】
シールド部材64は有底筒状の部材であり、その内部に同じく有底筒状の形状を有した第1のシールド部材63及び第2のシールド部材62が同心的に配設されている。また、最内周に位置する第2のシールド部材62の図中右側の端部近傍位置には検出器68が設けられている。
【0026】
この各シールド部材62〜64の検出器68と対向する端部には、計測用窓62A〜64Aが設けられている。この計測用窓62A〜64Aは、光や電磁波を検出器68に向け通過させるための窓である。
【0027】
また、シールド部材64の中心位置、即ち第2のシールド部材62の内部位置には、円柱状の熱リンク66が配設されている。この熱リンク66は、熱伝導率の高い材質(例えば、銅)により形成されており、図中右側端部が検出器68に熱的に接続され、図中左側端部が後述する断熱消磁冷凍部60に熱的に接続された構成とされている。
【0028】
真空容器本体42の外周部には、フランジ95が配設されている。このフランジ95には、図5に示されるように、複数のボルト穴105が形成されている。このボルト穴105にボルト96を挿入し、フランジ95と真空容器支持体100とをボルト96により締結することで、真空容器41は、真空容器支持体100に固定支持される。
【0029】
真空容器支持体100は前記した真空容器41を支持するものであり、図4に示すように、矩形状をした2つの枠部材101,102と、その角部に立設された4本の支柱部材104とにより構成とされている。
【0030】
この真空容器支持体100は、後述する冷凍機支持体80と振動的に分離された構成とされている。真空容器41は、この真空容器支持体100により床上に設置される。
【0031】
一方、真空容器41は、その内部に第1の輻射シールド46と第2の輻射シールド49を内設した構成とされている。第1の輻射シールド46は円筒形状をしており、その内部には円筒空間46Aが形成されている。
【0032】
この第1の輻射シールド46は、真空容器本体42の内壁との間に隙間を介在するよう構成されている。このように、真空容器本体42と第1の輻射シールド46との間に間隙を形成することにより、真空容器本体42の外部の熱が直接第1の輻射シールド46に輻射されるのを遮断することができる。
【0033】
第1の輻射シールド46の側面部には、前記した第1のシールド部材63が設けられている。第1のシールド部材63は図中右方向に延出するよう形成されおり、外筒61及びシールド部材64と隙間を介在させるよう外筒61内及びシールド部材64内に配置されている。
【0034】
また、第1の輻射シールド46は、その下端部が開放された構成とされており、この下端部には第1の冷却ステージ47が配設されている。この第1の冷却ステージ47は、GM冷凍機70を挿入するための開口部(図示せず)が設けられている。
【0035】
また、第1の冷却ステージ47と底板部材44との間には、支柱45が設けられており、第1の冷却ステージ47及び第1の輻射シールド46は、支柱45を介して、底板部材44に支持されている。第1の冷却ステージ47は、後述する第1のコールドヘッド75から発生する寒冷により、第1の輻射シールド46内を冷却するためのものである。
【0036】
第2の輻射シールド49は、第1の輻射シールド46との間に隙間を介在させるよう第1の輻射シールド46内(円筒空間46A)に配設されている。第2の輻射シールド49は、第1の輻射シールド46との間において輻射熱が遮断されるよう機能するものである。
【0037】
この第2の輻射シールド49も円筒形状を有しており、その内部には円筒空間49Aが形成されている。また、第2の輻射シールド49の側面部には、前記した第2のシールド部材62第2のシールド部材62は、第1のシールド部材63と隙間を介在させるよう第1のシールド部材63内に配置されている。
【0038】
また、第2の輻射シールド49は下端部が開放された構成とされており、この下端部には第2の冷却ステージ50が配設されている。断熱消磁冷凍部60は、この第2の冷却ステージ50の上部に配設されている。このため、第2の冷却ステージ50には、断熱消磁冷凍部60を構成する磁性体ソルトピル58を挿入するための開口部(図示せず)が設けられている。
【0039】
第2の冷却ステージ50と第1の冷却ステージ47との間には、支柱51が設けられており、第2の冷却ステージ50及び第2の輻射シールド49は、支柱51を介して第1の冷却ステージ47に支持されている。第2の冷却ステージ50は、後述する第2のコールドヘッド81から発生する寒冷により、第2の輻射シールド49内に配設された磁性体ソルトピル58を冷却するためのものである。
【0040】
また、第2の冷却ステージ50と磁性体ソルトピル58との間には、第2の冷却ステージ50の寒冷が磁性体ソルトピル58に伝達されるのをオン/オフする熱スイッチ65が設けられている。
【0041】
熱リンク66は前記のように第2のシールド部材63内に配設された銅よりなる棒状部材であり、一方の端部が磁性体ソルトピル58と熱的に接続されると共に、他方の端部が検出器68と熱的に接続されている。この熱リンク66は、磁性体ソルトピル58で発生した超低温(例えば、0.05K)の寒冷により検出器66を冷却する機能を奏する。
【0042】
検出器68は、第2のシールド部材62内に設けられており、測定用窓62A〜63Aと対向するよう配置されている。検出器68は、電子ビーム、及び電磁波(X線)等の検出を行うものであり、試料に対する分析・検査内容に応じて適宜選択される。
【0043】
冷凍機支持体80は、GM冷凍機70を支持するためのものであり、真空容器支持体100が設けられた領域よりも内側に設けられている。冷凍機支持体80は、大略するとベース91と、冷凍機固定板89と、支持部85とを有した構成とされている。
【0044】
ベース91の上方には、4本の支持部85により支持された冷凍機固定板89が配置されている。ベース91は、床上に設置されるものである。冷凍機固定板89の中央部には、GM冷凍機70を挿入するための開口部89Aが形成されている。冷凍機固定板89には、GM冷凍機70のモータ部71がボルトを介して固定される。
【0045】
このように、真空容器支持体100が設けられた領域の内側に冷凍機支持体80を設けることにより、真空容器支持体100が設けられた領域の外側に冷凍機支持体80を設ける場合と比較して、冷却装置40の大きさ(フットプリント)を小さくすることができる
冷凍機支持体80と底板部材44との間は、GM冷凍機70を囲繞するように設けられた真空ベローズ88により接続されている。図6に示すように、振動抑制部材である真空ベローズ88は、蛇腹構造をしており、GM冷凍機70からの振動が真空容器41に伝わることを抑制するためのものである。
【0046】
このように、GM冷凍機70を支持する冷凍機支持体80と真空容器41との間を真空ベローズ88で接続することにより、GM冷凍機70から発生する振動が真空容器41に伝わることを抑制できる。これにより、GM冷凍機70から発生する振動が真空容器41を介して、検出器68に振動が伝わることが抑制され、検出器68の検出を精度良く行うことができる。
【0047】
尚、図6は図2に示した冷却装置の領域Bに対応した部分を拡大して示す部分断面斜視図であり、また図6においてGM冷凍機70の内部構造の図示は省略してある。
【0048】
断熱消磁冷凍部60は、真空容器41内、第1輻射シールド46内、及び第2の輻射シールド49内に配設されており、大略すると超伝導マグネットコイル52、磁性体ソルトピル58、及び熱スイッチ65等により構成されている。この断熱消磁冷凍部60とGM冷凍機70により、断熱消磁法に基づく冷却装置40が構成される。
【0049】
超伝導マグネットコイル52は、超伝導マグネットコイル54に設けられた円筒状開口部に配設されており、巻枠53と超伝導線57とを有した構成とされている。巻枠53には、超伝導線57が巻回されている。巻枠53の中央部には、Y,Y方向に貫通する円筒状開口部53Aが形成されており、巻枠53の両端部には、フランジ部53Bが形成されている。磁性体ソルトピル58は、円筒状開口部53Aに配設される。
【0050】
更に、超電導マグネットコイル52の外周には、補助コイル67が配設されている。この補助コイル67は、第2の輻射シールド49内に配設されており、巻枠55と超伝導線59とを有した構成とされている。巻枠55には、超伝導線59が巻回されており、巻枠55の中央部には、図中上下方向に貫通する円筒状開口部(図示せず)が形成されている。この円筒状開口部には、超伝導マグネットコイル52が配設される。また、巻枠55の両端部には、フランジ部55Bが形成されている。
【0051】
上記構成とされた超伝導マグネットコイル52,67は、超伝導マグネットコイル52の下端部に設けられたフランジ部53B,55Bと第2の冷却ステージ50との間に配設された熱伝導支持部材56により支持されている。
【0052】
磁性体ソルトピル58は、円筒状開口部53Aに配設されている。磁性体ソルトピル58は、図示していない容器内に多数の金線と、断熱消磁の際の冷却媒体となる鉄ミョウバンとが収納された構成とされている。磁性体ソルトピル58は、熱リンク66を介して、被冷却物である検出器68と熱的に接続されている。熱スイッチ65は、磁性体ソルトピル58とGM冷凍機70との熱的な接続をオン/オフするためのものである。
【0053】
GM冷凍機70は、大略するとモータ部71、第1の冷却部73、及び第2の冷却部78等により構成されている。このGM冷凍機70は、冷却装置40を構成する構成部品の内、最も重量が大きなものである。
【0054】
本実施例では、このように重量が大であるGM冷凍機70を下部に配置し、GM冷凍機70に比べ軽量である真空容器41(内部に配設された構成物を含む)をGM冷凍機70よりも高い位置に配置した構成としている。このように、重量物を下部に配置し、軽量物を上部に配置することにより、冷却装置40全体としての安定性を高めることができる。
【0055】
本実施例では、GM冷凍機70はモータ部71が最下部に位置するよう配設されている。モータ部71は、第1及び第2の冷却部73,78に設けられたシリンダ(図示せず)を駆動させるためのモータが内設されている。このモータ部71にはフランジ70Bが設けられており、フランジ70Bはボルトにより冷凍機固定板89に固定されている。これにより、GM冷凍機70は、冷凍機支持体80に支持される。
【0056】
このモータ部71の上部には、底板部材44を貫通する第1の冷却部73が配設されている。この第1の冷却部73は、モータ部71と一体的に構成されている。
【0057】
第1の冷却部73は、第1のシリンダ部74、第1のコールドヘッド75、及びフランジ76等により構成されている。第1のシリンダ部74は、第1のコールドヘッド75とモータ部71との間に配設されている。第1のシリンダ部74には、図示していないシリンダが内設されている。シリンダは、モータ部71に内設されているモータにより、図中上下方向に駆動され、これにより寒冷が発生する。
【0058】
第1のコールドヘッド75は、40K程度の寒冷を発生させるものである。第1のコールドヘッド75の外周部には、円盤形状のフランジ76が配設されている。フランジ76は、第1のコールドヘッド75と熱的に接続されている。フランジ76は、可撓性高熱伝導部材77を介して、第1の冷却ステージ47と熱的に接続されている。
【0059】
可撓性高熱伝導部材77は、第2の冷却部78を囲繞するようフランジ76と第1の冷却ステージ47との間に複数設けられている。可撓性高熱伝導部材77は、可撓性を有すると共に、高熱伝導性を有しており、側面視した状態において、S字に湾曲したリボン状の部材である。可撓性高熱伝導部材77には、金箔、銀箔、銅箔、及びアルミ箔からなる群のうち少なくとも一種を重ね合わせたものを用いることができる。
【0060】
このように、フランジ76と第1の冷却ステージ47との間に、可撓性を有すると共に、第2の冷却部78を囲繞するよう高熱伝導性を有する可撓性高熱伝導部材77を複数設け、第1の冷却部73と第1の冷却ステージ47との間を熱的に接続することにより、第1の冷却ステージ47及び第1の輻射シールド46の冷却を効率良く行うと共に、GM冷凍機70から発生した振動が第1の冷却ステージ47及び第1の輻射シールド46に伝わることを抑制することができる。これにより、GM冷凍機70から発生した振動が検出器68に伝わることを抑制できる。
【0061】
第2の冷却部78は、第1の冷却ステージ47を貫通するように、第1の冷却部73と磁性体ソルトピル58との間に配設されている。第2の冷却部78は、第1の冷却部73と一体的に構成されており、磁性体ソルトピル58と熱的に接続されている。第2の冷却部78は、大略すると第2のシリンダ部79と、第2のコールドヘッド81と、フランジ82とを有した構成とされている。
【0062】
第2のシリンダ部79は、第2のコールドヘッド81と第1のコールドヘッド75との間に配設されている。第2のシリンダ部79には、図示していないシリンダが内設されており、このシリンダが前記のモータにより図中上下方向に駆動されることにより寒冷が発生する。
【0063】
第2のコールドヘッド81は、4K程度の寒冷を発生させる部分である。第2のコールドヘッド81の上部には、第2のコールドヘッド81と熱的に接続されたフランジ82が配設されている。このフランジ82は円盤形状に構成されており、可撓性高熱伝導部材84を介して第2の冷却ステージ50と熱的に接続されている。
【0064】
可撓性高熱伝導部材84は、第2の冷却部78を囲繞するようフランジ82と第2の冷却ステージ50との間に複数設けられている。可撓性高熱伝導部材84は、可撓性を有すると共に高熱伝導性を有しており、側面視した状態においてS字に湾曲したリボン状の部材である。可撓性高熱伝導部材84には、金箔、銀箔、銅箔、及びアルミ箔からなる群のうち少なくとも一種を重ね合わせたものを用いることができる。
【0065】
このように、フランジ82と第2の冷却ステージ50との間に、可撓性を有すると共に、第2の冷却部78を囲繞するよう高熱伝導性を有する可撓性高熱伝導部材84を複数設け、第2の冷却部78と第2の冷却ステージ50との間を熱的に接続することにより、第2の冷却ステージ50及び第2の輻射シールド49内の冷却を効率良く行うと共に、GM冷凍機70から発生した振動が第2の冷却ステージ50及び第2の輻射シールド49に伝わることを抑制することができる。これにより、GM冷凍機70から発生した振動が検出器68に伝わることを抑制できる。
【0066】
ここで、断熱消磁冷凍部60における断熱消磁法による冷却原理について説明する。磁性体ソルトピル58を構成する磁性原子の磁気モーメントは、温度が非常に高くない限り無秩序であり、その系のエントロピーは高い状態にある。
【0067】
ここに、外部から超伝導マグネットコイル52により強い磁場を印加すると、磁気モーメントは外磁場の方向に整列し、部分的に秩序化されて、系全体のエントロピーは減少する。また、磁性体ソルトピル58を等温に保った状態で外部磁界を印加すると、磁性体ソルトピル58を構成する磁性原子の磁気モーメントは磁界の方向に配列し、系全体のエントロピーは減少する。
【0068】
等温磁化を行う際、磁化熱が発生し温度が上昇し、この熱を取り去った後、GM冷凍機70と磁性体ソルトピル58とを熱スイッチ65により熱的に分離して断熱状態に系を孤立させ、外部磁場を徐々に取り去ると、磁場の減少と共に磁性体ソルトピル58の温度が低下する。この断熱消磁により、液体He温度(4K)以下の極低温の寒冷を得ることができる。
【0069】
本実施例に係る冷却装置40は、上記構成とされた断熱消磁冷凍部60を設け、断熱消磁法により超低温を実現し、熱リンク66を介してこの超低温を検出器68に熱伝導して冷却する構成としている。これにより、検出器68を液体He温度(4K)以下の極低温で冷却することが可能となり、検出器68の分解能を向上させて精度の良い検出を行うことができる。
【0070】
ここで、真空容器41の材質に注目する。前記したように、本実施例に係る冷却装置40は、真空容器41を構成する真空容器本体42、天板43、及び底板部材44を、鉄等の磁性材料で形成している。
【0071】
よって、磁場を形成する超電導マグネットコイル52及びこの発生磁場が印加される磁性体ソルトピル58と対向する位置は、磁性材よりなる真空容器41で囲繞させた構成となる(本実施例では、磁性体ソルトピル58は、超電導マグネットコイル52を介して真空容器41と対向する)。このように、超電導マグネットコイル52及び磁性体ソルトピル58と対向する位置が磁性材で覆われた構成とすることにより、超電導マグネットコイル52で発生する磁場が真空容器41の外部に漏れることを防止することができる。
【0072】
特に、磁性体ソルトピル58が配設される位置は最も磁場が強い部位であり、よってこの部位を真空容器41により囲繞しシールドすることにより、漏れ磁場の発生を有効に抑制することができる。従って、この点から必ずしも真空容器41の全部を磁性材料により形成する必要はなく、特に磁場の漏れが発生しやすい部位を局所的に磁性材料により形成する構成としてもよい。
【0073】
また、真空容器41ばかりでなく、この真空容器41に内設される第1及び第2の輻射シールド46,49の全て、或はその一部を磁性材料により形成する構成としてもよい。更に、検出器68が内設されるシールド部材64、及び/或はこのシールド部材64が挿通される外筒61を磁性材料で形成する構成としてもよい。
【0074】
上記構成とすることにより、断熱消磁法を実施するために必然的に超電導マグネットコイル52で発生する磁場は、図2に示すように真空容器41に吸収されるため、真空容器41(外筒61)の外部に漏れ出すことを確実に防止することができる。これにより、検出器68に入射してくる電子ビームや電磁波(X線)が、漏れ磁界により影響を受けることはなくなり、精度の高い検出処理を行うことが可能となる。
【0075】
また本実施例では、真空容器41を磁性材料で形成することにより、真空容器41が磁力線の通過道となるヨークとして機能する。このため、磁性体ソルトピル58に対して効率よく磁場を印加することが可能となり断熱消磁効果を高めることができる。
【0076】
また、本実施例では真空容器41内に、真空容器41と別個に磁性材料を配設するのではなく、真空容器41自体を磁性材料で形成したことにより、真空容器41は真空容器としての機能と、磁気シールドとしての機能との2つの機能を同時に奏することとなる。よって、この機能を夫々別部材により実現する構成に比べ、冷却装置40の小型化及び部品点数の削減を図ることができる。
【0077】
更に本実施例に係る冷却装置40は、真空容器41と超電導マグネットコイル52との間の位置に、補助コイル67を設けた構成としている。この補助コイル67は、前記したように超電導マグネットコイル52で発生する磁場の方向と逆方向の磁場を発生する構成とされている。よって、この補助コイル67を設けることにより、これによっても磁場が真空容器41真空容器の外部に漏れることを防止できる。
【0078】
即ち、超電導マグネットコイル52で発生する磁場の内、磁性体ソルトピル58に向かう磁場(図2に矢印B1で示す)は外部に漏れ出す磁場としては弱く、漏れ磁場となるのは超電導マグネットコイル52より外側に向う磁場(図2に矢印B2で示す)である。補助コイル67で発生する磁場(図2に矢印B3で示す)は、主に超電導マグネットコイル52より外側に向う磁場B2に作用して、この磁場B2を相殺する。よって、補助コイル67を設けることにより、真空容器41の外部に磁場が漏れ出すことをより有効に防止することができる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の一実施例である冷却装置の全体を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例である冷却装置の磁性体ソルトピルの近傍を拡大して示す図である。
【図3】図3は、図1に示した冷却装置の領域Aに対応した部分の拡大図である。
【図4】図4は、真空容器支持体の側面図である。
【図5】図5は、真空容器支持体の平面図である。
【図6】図6は、図1に破線で囲って示した領域Bに対応した部分の断面斜視図である。
【符号の説明】
【0081】
40 冷却装置
41 真空容器
52,54 超電導マグネットコイル
42 真空容器本体
43 天板
44 底板部材
46 第1の輻射シールド
47 第1の冷却ステージ
49 第2の輻射シールド
50 第2の冷却ステージ
56 熱伝導支持部材
57,59 超伝導線
58 磁性体ソルトピル
60 断熱消磁冷凍機
61 外筒
62 第2のシールド部材
63 第1のシールド部材
64 シールド部材
65 熱スイッチ
62A,63A,64A 計測用窓
66 熱リンク
67 補助コイル
68 検出器
70 GM冷凍機
73 第1の冷却部
74 第1のシリンダ部
75 第1のコールドヘッド
77,84 可撓性高熱伝導部材
78 第2の冷却部
79 第2のシリンダ部
80 冷凍機支持体
81 第2のコールドヘッド
88 真空ベローズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
該真空容器に内設されており、超電導マグネットコイルと、該超電導マグネットコイル内に配設された磁性体と、該磁性体に対する熱伝導のスイッチ処理を行なう熱スイッチとを具備する断熱消磁冷凍部と、
前記熱スイッチを介して前記磁性体を冷却する冷凍機とを有する冷却装置において、
前記真空容器の少なくと前記磁性体と対向する一部を磁性材料で形成したことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
請求項1記載の冷却装置において、
前記真空容器を円筒形状とし、前記超電導マグネットコイルの外周を囲繞するよう構成したことを特徴とする冷却装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の冷却装置において、
前記真空容器と前記超電導マグネットとの間の位置に、前記超電導マグネットコイルの発生する磁場の方向と逆方向の磁場を発生する補助コイルを設けたことを特徴とする冷却装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の冷却装置において、
前記冷凍機を前記断熱消磁冷凍部に対して下部に配置したことを特徴とする冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−38395(P2006−38395A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221992(P2004−221992)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】