説明

冷媒冷却装置

【課題】循環冷媒の冷却温度が循環冷媒の凝固点付近であっても、循環冷媒を所定温度に効率よく安定した状態で冷却することができる冷媒冷却装置を提供する。
【解決手段】低温反応槽11などの被冷却物を冷却する循環冷媒と低温液化ガスとを熱交換器17で向流間接熱交換させて循環冷媒を冷却する装置において、熱交換器17から導出した循環冷媒の温度を第1温度検出手段20で検出して低温液化ガスの供給量を制御する第1流量制御手段23と、熱交換器内部の伝熱面温度を第2温度検出手段21で検出して低温液化ガスの供給量を制御する第2流量制御手段25とを、熱交換器へ低温液化ガスを供給する低温液化ガス導入経路16に直列に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒冷却装置に関し、詳しくは、化学工業におけるファインケミカル等の低温反応のための冷却源として用いられる冷媒を、低温液化ガスを冷却源として熱交換器での熱交換により冷却する冷媒冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応により発生する反応熱を除去するときには、メタノール,エタノール,ケトン,アミン,シリコーンオイル,有機ハロゲン化物等や、あるいはこれらの混合物からなり、一般にブラインと呼ばれる冷媒が循環使用されている。このような循環使用される冷媒(循環冷媒)を通常の冷凍機では困難な低温域、例えば−50℃以下に冷却するための冷却源としては、各種低温液化ガス、例えば液体窒素や液体空気が用いられており、低温液化ガスと循環冷媒とを熱交換器で熱交換させることにより循環冷媒を所定温度に冷却している。
【0003】
また、循環冷媒の温度を設定温度に制御するため、熱交換器の冷媒流路を流れる冷媒温度を検出する複数の温度センサを設けたり(例えば、特許文献1参照。)、熱交換器の冷媒出入口部に温度センサ及び圧力センサをそれぞれ設けるとともに熱交換器の排ガス出口部に温度センサを設けたり(例えば、特許文献2参照。)するなどして、これらのセンサからの信号で熱交換器に供給する低温液化ガスの供給量を制御することが行われている。
【特許文献1】実開平6−22880号公報
【特許文献2】特開平11−37623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の温度制御においても、循環冷媒の凝固点に比べて十分に高い温度の場合、例えば凝固点が−130〜−140℃程度の循環冷媒の場合、循環冷媒の設定温度が−90℃程度までなら循環冷媒の温度を十分に安定して制御することができるが、近年は、より低温域での制御が求められている。循環冷媒を従来より低温に制御しようとする場合、設定温度が凝固点に近くなると、熱交換器の伝熱面温度が局所的に循環冷媒の凝固点以下になるおそれがあり、循環冷媒の一部が凍結して伝熱面に付着し、熱交換効率が著しく低下するだけでなく、流路が狭くなって循環冷媒の流れが妨げられ、所定量の循環冷媒を被冷却物に循環供給できなくなることがあった。
【0005】
一方、凝固点の低い物質を循環冷媒に採用したり、中間冷媒を使用して熱交換器における温度差を小さくしたりすることによって循環冷媒の凍結を回避することは可能であるが、冷媒コストが嵩んだり、設備コストが大幅に増加したりする問題があった。
【0006】
また、特許文献1に記載されているように、熱交換器内の冷媒温度を検出することによって循環冷媒の凍結を回避することは可能ではあるが、循環冷媒の凝固点付近では循環冷媒の温度を一定に制御することが困難となっていた。
【0007】
そこで本発明は、循環冷媒の冷却温度が循環冷媒の凝固点付近であっても、循環冷媒を所定温度に効率よく安定した状態で冷却することができる冷媒冷却装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の冷媒冷却装置は、被冷却物を冷却する循環冷媒と低温液化ガスとを熱交換器で向流間接熱交換させることにより前記循環冷媒を冷却する冷媒冷却装置において、前記熱交換器から導出した前記循環冷媒の温度を検出する第1温度検出手段と、該第1温度検出手段で検出した循環冷媒の温度に応じて熱交換器に導入する前記低温液化ガスの供給量を制御する第1流量制御手段と、前記熱交換器の内部の伝熱面の温度を検出する第2温度検出手段と、該第2温度検出手段で検出した伝熱面の温度に応じて熱交換器に導入する前記低温液化ガスの供給量を制御する第2流量制御手段とを備えるとともに、前記第1流量制御手段と前記第2流量制御手段とを前記熱交換器に低温液化ガスを導入する低温液化ガス導入経路に直列に配設したことを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の冷媒冷却装置は、前記熱交換器が直列に配置された複数の熱交換ユニットで形成され、少なくとも前記循環冷媒の流れ方向最下流に位置する熱交換ユニットが二重管式、他の熱交換ユニットがプレートフィン式又はプレート式であって、前記第2温度検出手段は、二重管式の熱交換ユニットにおける内管内を流れる循環冷媒の流れ方向下流側に位置する内管の伝熱面温度を検出することを特徴とし、また、前記第2温度検出手段は、前記熱交換器における前記低温液化ガスの流入部に対応した伝熱面の循環冷媒側に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の冷媒冷却装置によれば、熱交換器から導出した循環冷媒温度と熱交換器内部の伝熱面温度とを検出し、これらの検出温度に基づいて低温液化ガスの供給量を制御する手段を低温液化ガス導入経路に直列に配設したことにより、循環冷媒の一部が凍結して伝熱面に付着することを回避しながら循環冷媒を所定温度に安定して冷却することができ、被冷却物を効率よく冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の冷媒冷却装置の一形態例を示す系統図、図2は熱交換器内部の状態を示す説明図である。
【0012】
本形態例に示す冷媒冷却装置は、低温反応槽11を所定温度に冷却するための低温循環冷媒、例えば炭化水素系冷媒を、低温液化ガス、例えば液化窒素との熱交換により冷却するためのものであって、流量計12、冷媒循環ポンプ13及びリザーブタンク14を備えた冷媒循環経路15を流れる循環冷媒と低温液化ガス導入経路16から導入される低温液化ガスLとを向流間接熱交換させる熱交換器17を備えている。
【0013】
熱交換器17は、冷媒循環経路15における循環冷媒の流れ方向上流側に配置されるプレートフィン式又はプレート式の第1熱交換ユニット18と、循環冷媒の流れ方向下流側に配置される二重管式の第2熱交換ユニット19とで構成されており、熱交換効率に優れたプレートフィン式又はプレート式の第1熱交換ユニット18で設定温度付近まで循環冷媒を冷却し、二重管式の第2熱交換ユニット19で循環冷媒を設定温度に冷却するように形成されている。
【0014】
図2に示すように、第2熱交換ユニット19は、外管19aと内管19bとの間に低温液化ガスLの流路が形成され、内管19b内に循環冷媒Dの流路が形成されている。内管19bの循環冷媒出口側に接続した冷媒循環経路15の熱交換器出口側経路15aには、熱交換器17から導出された循環冷媒の温度を検出する第1温度検出手段20が設けられている。さらに、内管19b内を流れる循環冷媒の流れ方向下流側で、循環冷媒の温度が最も低くなる位置、あるいはこの最低温度位置の近傍には、内管19bの内周面となる循環冷媒流路側の伝熱面温度を検出する第2温度検出手段21が設けられている。この第2熱交換ユニット19が向流式の場合、通常は、循環冷媒Dの流路における第2熱交換ユニット19の出口部で、低温液化ガスLの流路に低温液化ガスが流入する流入部に対応した位置に前記第2温度検出手段21が設けられる。
【0015】
一方、低温液化ガス導入経路16には、前記第1温度検出手段20で検出した冷媒温度及びあらかじめ設定された第1温度設定値に基づいて作動する第1温度指示調節計(TIC−1)22により制御される第1流量制御手段23と、前記第2温度検出手段21で検出した伝熱面温度及びあらかじめ設定された第2温度設定値に基づいて作動する第2温度指示調節計(TIC−2)24によりに制御される第2流量制御手段25とが直列に配設されている。
【0016】
循環冷媒は、流量計12の検出流量に基づいて作動する冷媒循環ポンプ13から一定量が吐出されて熱交換器17に導入される。熱交換器17では、最初に上流側のプレートフィン式又はプレート式の第1熱交換ユニット18にて設定温度より僅かに高い温度にまで冷却され、次いで下流側の二重管式の第2熱交換ユニット19にて設定温度に冷却される。設定温度に冷却された循環冷媒は、被冷却物である低温反応槽11のジャケット11a内に導入され、低温反応槽11を冷却した後、流量計12を経て冷媒循環ポンプ13に吸引されることによって冷媒循環経路15を循環する。また、温度による循環冷媒の体積変化に応じてリザーブタンク14内の循環冷媒が冷媒循環経路15に出入りする。
【0017】
低温液化ガスは、第1流量制御手段23及び第2流量制御手段25を通って低温液化ガス導入経路16から熱交換器17の循環冷媒出口側から熱交換器17に導入され、第2熱交換ユニット19及び第1熱交換ユニット18にて循環冷媒と向流間接熱交換を行い、循環冷媒を冷却する。循環冷媒を冷却することにより温度上昇して気化したガスは、第1熱交換ユニット18から排ガス導出経路26に排ガスGとして導出される。
【0018】
このように熱交換器17にて低温液化ガスで循環冷媒を設定温度に冷却するにあたり、第1温度指示調節計22には循環冷媒の設定温度が第1温度設定値として入力され、第2温度指示調節計24には循環冷媒の凝固点(融点)あるいは凝固点に近い温度が第2温度設定値として入力される。第1流量制御手段23及び第2流量制御手段25として共にON−OFF制御(開閉制御)される遮断弁を用いた場合、第1温度指示調節計22による第1流量制御手段23の制御は、第1温度検出手段20で検出した冷媒温度が第1温度設定値より高いときに開き、冷媒温度が第1温度設定値より低いときに閉じる動作を行う。同様に、第2温度指示調節計24による第2流量制御手段25の制御は、第2温度検出手段21で検出した伝熱面温度が第2温度設定値より高いときに開き、伝熱面温度が第2温度設定値より低いときに閉じる動作を行う。
【0019】
すなわち、第1温度検出手段20で検出した冷媒温度と第2温度検出手段21で検出した伝熱面温度とに基づいて低温液化ガス導入経路16に直列に配設した第1流量制御手段23及び第2流量制御手段25をそれぞれ制御することにより、設定温度が循環冷媒の凝固点付近の場合であっても、循環冷媒の一部が内管19b内で凍結することを防止することができ、図2に示すように凍結物Fが伝熱面Sに大量に付着して循環冷媒の流れを妨げたり、熱交換効率を低下させたりすることがなく、安定した状態で効率よく熱交換を行うことができる。
【0020】
また、熱交換器17は、二重管式の熱交換ユニットを1基だけ用いることも可能であるが、循環冷媒の流れ方向上流側に、二重管式に比べて伝熱面が多く、熱交換効率が高いプレートフィン式又はプレート式の熱交換ユニット18を配置することにより、温度上昇している循環冷媒を効率よく冷却することができ、熱交換器全体の小型化が図れるとともに、低温液化ガスの消費量も低減することができる。
【0021】
さらに、第2温度検出手段21の取付位置は任意であり、設置数も任意であるが、第2熱交換ユニット19において冷媒が最低温度となる出口部分又はその近傍部分、交流式熱交換ユニットの場合には低温液化ガス流路に低温液化ガスが流入する部分に対応した伝熱面の循環冷媒流路側面に設置することにより、循環冷媒が凍結して付着するおそれが最も高くなる部分の伝熱面温度を検出することができるので、第2流量制御手段25の制御を一つの温度検出手段(温度センサ)で確実に行うことができる。
【0022】
なお、熱交換器の構成及び設置数は任意であり、複数の熱交換ユニットを設置する場合、循環冷媒の流れ方向最下流には伝熱面温度を確実に測定可能な二重管式の熱交換ユニットを配置する。また、流量制御手段は、開閉制御を行う遮断弁に限るものではなく、流量調整を行える流量調整弁であってもよい。さらに、低温液化ガス導入経路における第1流量制御手段と第2流量制御手段との位置関係は任意であり、どちらが上流側に位置してもよい。また、各熱交換ユニットにおける熱交換方式は、向流、並流のいずれであってもよく、浸漬方式であってもよい。
【実施例1】
【0023】
前記形態例に示した構成の冷媒冷却装置を使用し、循環冷媒として凝固点が−136℃の循環冷媒を用いて低温反応槽の冷却運転を行った。第1温度指示調節計の温度設定値を−110℃に、第2温度指示調節計の温度設定値を−136℃にそれぞれ設定するとともに、循環冷媒を一定流量で循環させて冷却運転を行った。排ガス温度T1、第1温度検出手段で検出した冷媒温度T2、第2温度検出手段で検出した伝熱面温度T3及び循環冷媒の熱交換器前後の差圧P1の経時変化を図3に示す。図3から明らかなように、冷却運転開始30分後には各検出値が安定し、循環冷媒を安定した状態で−110℃に冷却し、一定流量で低温反応槽に供給できていることがわかる。
【0024】
一方、前記特許文献2に記載された構成の従来の冷媒冷却装置を使用し、該冷媒冷却装置における第一温度指示調節計の温度設定値を−80℃から−110℃まで段階的に変化させて冷却運転を行った。冷媒温度検出部で検出した循環冷媒温度T4及び蒸発ガス温度検出部で検出した排ガス温度T5の経時変化を図4に示す。
【0025】
図4において、第一温度指示調節計の温度設定値が−80℃から−95℃までの範囲(運転開始後30分から190分までの範囲)では、循環冷媒を各温度設定値に対応した温度に安定して冷却することができたが、第一温度指示調節計の温度設定値を−95℃以下の低温に設定すると循環冷媒の温度が不安定になり、温度設定値を−110℃にすると(運転開始後290分)、排ガス温度も急激に変化するようになり、循環冷媒を−110℃に安定した状態で冷却することができなくなったことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の冷媒冷却装置の一形態例を示す系統図である。
【図2】熱交換器内部の状態を示す説明図である。
【図3】本発明の冷媒冷却装置で冷却運転を行っているときの排ガス温度、冷媒温度、伝熱面温度及び差圧の経時変化を示す図である。
【図4】従来の冷媒冷却装置で冷却運転を行っているときの循環冷媒温度及び排ガス温度の経時変化を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
11…低温反応槽、11a…ジャケット、12…流量計、13…冷媒循環ポンプ、14…リザーブタンク、15…冷媒循環経路、15a…熱交換器出口側経路、16…低温液化ガス導入経路、17…熱交換器、18…第1熱交換ユニット、19…第2熱交換ユニット、19a…外管、19b…内管、20…第1温度検出手段、21…第2温度検出手段、22…第1温度指示調節計、23…第1流量制御手段、24…第2温度指示調節計、25…第2流量制御手段、26…排ガス導出経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物を冷却する循環冷媒と低温液化ガスとを熱交換器で向流間接熱交換させることにより前記循環冷媒を冷却する冷媒冷却装置において、前記熱交換器から導出した前記循環冷媒の温度を検出する第1温度検出手段と、該第1温度検出手段で検出した循環冷媒の温度に応じて熱交換器に導入する前記低温液化ガスの供給量を制御する第1流量制御手段と、前記熱交換器の内部の伝熱面の温度を検出する第2温度検出手段と、該第2温度検出手段で検出した伝熱面の温度に応じて熱交換器に導入する前記低温液化ガスの供給量を制御する第2流量制御手段とを備えるとともに、前記第1流量制御手段と前記第2流量制御手段とを前記熱交換器に低温液化ガスを導入する低温液化ガス導入経路に直列に配設したことを特徴とする冷媒冷却装置。
【請求項2】
前記熱交換器は、直列に配置された複数の熱交換ユニットで形成され、少なくとも前記循環冷媒の流れ方向最下流に位置する熱交換ユニットが二重管式、他の熱交換ユニットがプレートフィン式又はプレート式であって、前記第2温度検出手段は、二重管式の熱交換ユニットにおける内管内を流れる循環冷媒の流れ方向下流側に位置する内管の伝熱面温度を検出することを特徴とする請求項1記載の冷媒冷却装置。
【請求項3】
前記第2温度検出手段は、前記熱交換器における前記低温液化ガスの流入部に対応した伝熱面の循環冷媒側に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の冷媒冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−287822(P2009−287822A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139955(P2008−139955)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】