説明

冷媒移送用ホース

【課題】最内層の耐劣化性能に優れる冷媒移送用ホースの提供。
【解決手段】ポリアミド100質量部に対して、受酸剤0.5〜20質量部を含有するポリアミド樹脂組成物を用いて得られる最内層3を有し、前記受酸剤が、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記ポリアミド樹脂組成物がさらにカルボキシル基含有変性ポリオレフィンを含有する冷媒移送用ホース1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒移送用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、カーエアコンの冷媒として使用されているHFC134aは地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)が大きいため、これに代わって地球温暖化係数の小さいHFO1234yfが新冷媒の有力な候補となっている。HFO1234yfのような冷媒と潤滑油とを含有する組成物として例えば特許文献1が提案されている。
また、従来、カーエアコン用ゴムホースには、冷媒の透過を抑えるためにポリアミド樹脂材料からなる最内層を有する樹脂とゴムとの積層構造が一般的に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−74017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者は、従来のカーエアコン用ゴムホースに対して、冷媒としてHFO−1234yfのような二重結合を有するフッ素系化合物と潤滑油とを含有する冷媒組成物を適用した場合、新しい冷媒に対する、ホースの最内層の耐劣化性能(耐久性)が低いことを見出した。
そこで、本発明は、最内層の耐劣化性能に優れる冷媒移送用ホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ポリアミドと受酸剤とを含有するポリアミド樹脂組成物を用いて得られる最内層が耐劣化性能に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜12を提供する。
1. ポリアミド100質量部に対して、受酸剤0.5〜20質量部を含有するポリアミド樹脂組成物を用いて得られる最内層を有する冷媒移送用ホース。
2. 前記受酸剤が、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1に記載の冷媒移送用ホース。
3. 前記ポリアミド樹脂組成物がさらにカルボキシル基含有変性ポリオレフィンを含有する上記1または2に記載の冷媒移送用ホース。
4. 前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4−6、ポリアミド6−6、ポリアミド6−10、ポリアミド6−12およびポリアミドMXD6からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜3のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
5. 前記ポリアミドと前記カルボキシル基含有変性ポリオレフィンとの量比(質量比)は90/10〜50/50である上記3または4に記載の冷媒移送用ホース。
6. 冷媒として二重結合を有するフッ素系化合物を含有する冷媒含有組成物に対して使用される上記1〜5のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
7. 前記フッ素系化合物が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンからなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロプロペンである上記6に記載の冷媒移送用ホース。
8. 前記ポリアミド樹脂組成物が、さらに、酸封止剤を含有する上記1〜7のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
9. 前記酸封止剤が、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、イソシアネート化合物およびアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記8に記載の冷媒移送用ホース。
10. 前記エポキシ化合物のエポキシ当量が、140〜3300g/当量である上記9に記載の冷媒移送用ホース。
11. 前記酸封止剤の量が、前記ポリアミド100質量部に対して、0.1〜10質量部である上記8〜10のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
12. 前記最内層の上にゴム層があり、前記ゴム層の上に補強層があり、前記補強層の上に外層がある上記1〜11のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
【発明の効果】
【0007】
本発明の冷媒移送用ホースは、最内層の耐劣化性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の冷媒移送用ホースの一例をホースの各層を切り欠いて模式的に表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明の冷媒移送用ホースは、
ポリアミド100質量部に対して、受酸剤0.5〜20質量部を含有するポリアミド樹脂組成物を用いて得られる最内層を有するホースである。
【0010】
本発明の冷媒移送用ホースは、耐劣化性能に優れる最内層を有する。
本発明において、最内層の耐劣化性能は、新冷媒や薬品等のアタックによる樹脂の化学的な劣化を抑制することを意味する。
通常、冷媒移送用ホースには冷媒と潤滑オイルとを含有する冷媒含有組成物が適用され、冷媒含有組成物が冷媒移送用ホース内を通過する。冷媒移送用ホースを長期間使用することによって、微量ながら水が冷媒移送用ホースを透過し、冷媒含有組成物に混入することがある。このような水の混入は高温での使用条件下において冷媒含有組成物の劣化を招き、冷媒含有組成物から酸性成分(例えば、フッ酸と考えられる成分。)が生成し、酸性成分が冷媒移送用ホースの最内層に使用されるポリアミドを加水分解させる触媒として作用すると本願発明者は考えている。ポリアミドの加水分解は最内層の耐劣化性能を低くするものである。
本発明において、受酸剤は酸性成分を捕捉することができる。受酸剤は酸性成分と反応することによって酸性成分を捕捉することが可能である。
受酸剤は酸性成分を捕捉することによって、ポリアミドが加水分解するのを抑制することができる。このようなポリアミドの加水分解の抑制によって、最内層は耐劣化性能に優れると本願発明者らは考える。
【0011】
また、受酸剤は、最内層中に存在するカルボン酸および/または冷媒含有組成物中のエステル系オイルのような潤滑剤が加水分解することによって生じる酸を、捕捉することができる。受酸剤は、酸と反応することによって酸を捕捉することが可能である。
酸は、酸基(例えば、カルボキシ基)を少なくとも1個有する化合物であれば特に制限されない。例えば、カルボン酸、リン酸、スルホン酸のような酸;酸の部分エステルが挙げられる。部分エステルは少なくとも1個の酸基と少なくとも1個のエステルとを有するものが挙げられる。
酸としては、具体的には例えば、最内層中に存在するカルボン酸、冷媒移送用ホースに適用される冷媒含有組成物中に含まれるエステル系オイルのような潤滑剤が加水分解することによって生じる酸が挙げられる。最内層中に存在するカルボン酸としては、例えば、ポリアミドの末端に結合するカルボン酸、ポリアミドが冷媒含有組成物の変質等の影響を受けて加水分解することによって生じるカルボン酸が挙げられる。
受酸剤は、ポリアミドの末端に結合するカルボン酸、ポリアミドが冷媒含有組成物の変質等の影響を受けて加水分解することによって生じる酸、または冷媒含有組成物から生じる酸と反応することによって、ポリアミドが加水分解するのを抑制することができる。このようなポリアミドの加水分解の抑制によって、最内層は耐劣化性能に優れると本願発明者らは考える。
なお上記メカニズムは本願発明者らの推測であり、メカニズムが異なるものであっても本発明の範囲内である。
【0012】
本発明の冷媒移送用ホースの好適な実施態様の一例を添付の図面を用いて説明する。なお本発明は添付の図面に制限されない。
図1は、本発明の冷媒移送用ホースの一例をホースの各層を切り欠いて模式的に表す斜視図である。
図1において、冷媒移送用ホース1は、内管6、補強層7および外層9を有する。内管6は最内層3とゴム層5とを有する。最内層3(内面樹脂層)の上にゴム層5があり、ゴム層5の上に補強層7があり、補強層7の上に外層9がある。
【0013】
本発明の冷媒移送用ホースは、内管、補強層および外層を有し、内管が最内層(内面樹脂層)およびゴム層を有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
最内層の厚さは、最内層の耐劣化性能により優れ、かつ柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)に優れるという観点から、0.05〜0.3mmであるのが好ましい。
ゴム層の厚さは、耐疲労性能に優れ、かつ柔軟性(ゴム層およびホース全体の柔軟性)に優れるという観点から、1.0〜2.0mmであるのが好ましい。
補強層の厚さは、耐疲労性能に優れ、かつ柔軟性(補強層およびホース全体の柔軟性)に優れるという観点から、0.5〜1.5mmであるのが好ましい。
外層の厚さは、耐疲労性能に優れ、かつ柔軟性(外層およびホース全体の柔軟性)に優れるという観点から、0.5〜1.5mmであるのが好ましい。
【0014】
最内層について以下に説明する。
本発明の冷媒移送用ホースが有する最内層は、ポリアミド100質量部に対して、受酸剤0.5〜20質量部を含有するポリアミド樹脂組成物を用いて得られるものである。
【0015】
受酸剤は特に制限されない。例えば、金属化合物、無機マイクロポーラス・クリスタル、ハイドロタルサイトが挙げられる。
金属化合物としては、例えば、周期表第II族(2族および12族)金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩;周期表第III族(3族および13族)金属の酸化物、水酸化物、カルボン酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩;周期表第IV族(4族および14族)金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩、三塩基性硫酸塩等が挙げられる。
【0016】
金属化合物の具体例としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO、マグネシア)、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜鉛華、酸化錫、リサージ、鉛丹、鉛白、二塩基性フタル酸鉛、二塩基性炭酸鉛、ステアリン酸錫、塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜リン酸錫、塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛等が挙げられる。
【0017】
受酸剤は、最内層の耐劣化性能(具体的には例えば長期間にわたり破断伸びのような、最内層の機械的特性が低下しにくい。)により優れ、環境に対する安全性に優れるという観点から、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
また、一度キャッチしたハロゲンを放出しにくく、最内層の耐劣化性能(具体的には例えば長期間にわたり破断伸びのような、最内層の機械的特性が低下しにくい。)により優れ、環境に対する安全性に優れ、ポリアミド樹脂組成物がゲル化しにくくフィルムを形成しやすいという観点から、ハイドロタルサイトがより好ましい。
【0018】
受酸剤としてのハイドロタルサイトは特に制限されない。ハイドロタルサイトは天然物、合成物のいずれであってもよい。具体的には例えば、
Mg3ZnAl2(OH)12CO3・wH2O(wは正の実数を表す。)、
MgxAly(OH)2x+3y-2CO3・wH2O(但しxは1〜10、yは1〜10、wは正の実数を表す。)、
MgxAly(OH)2x+3y-2CO3[但しxは1〜10、yは1〜10を表す。具体的には例えばMg4.3Al2(OH)12.6CO3(商品名DHT−4A−2、協和化学工業社製)]、
Mg1-xAlx3.83x(0.2≦x<0.5。具体的には例えばMg0.7Al0.31.15(商品名KW−2200、協和化学工業社製)])が挙げられる。
【0019】
ハイドロタルサイトが酸(例えば、ハロゲンを含むもの。ここではフッ酸を例として説明する。)と反応してハロゲンをキャッチする化学反応式を以下に示す。
<化学反応式1>
Mg4.3Al2(OH)12.6CO3+2HF→Mg4.3Al2(OH)12.62+H2O+CO2
<化学反応式2>
Mg0.7Al0.31.15+0.3HF+0.85H2O→Mg0.7Al0.3(OH)20.3
【0020】
ハイドロタルサイトにキャッチされ反応生成物中に含まれるハロゲンは、反応生成物が450℃以上に加熱され分解されない限り反応生成物から放出されない。
カーエアコン用ホースの最高使用温度は150℃程度でありカーエアコン用途として本発明の冷媒移送用ホースを使用する場合一度キャッチしたハロゲンは再放出されないメリットがある。この点からも受酸剤としてハイドロタルサイトを使用することが好ましい。
【0021】
ハイドロタルサイトはなかでも、最内層の耐劣化性能により優れ、ハロゲンキャッチ能力がより高く、ハロゲンキャッチ後に水や二酸化炭素を発生させないという観点から、ハイドロタルサイトが有するOH量が少ないもの、Mg1-xAlx3.83xが好ましく、Mg0.7Al0.31.15がより好ましい。化学構造中のOH量が少ないハイドロタルサイトは、例えば合成によって得られたハイドロタルサイトをより高温で焼成することによって製造することができる。
【0022】
ハイドロタルサイトとして市販品を使用することができる。ハイドロタルサイトの市販品としては例えば、協和化学工業社製のDHTシリーズ(DHT−4A−2、DHT−4C)、同社製のKWシリーズ(DHTシリーズをより高温で焼成処理を行ったグレード、DHTシリーズよりハロゲンキャッチ能力が高い傾向にある。KW−2000、KW−2100、KW−2200)、堺化学工業社製STABIACE HTシリーズが挙げられる。
【0023】
受酸剤は天然物、合成物のいずれであってもよい。合成物である場合その製造方法としては例えば従来公知のものが挙げられる。
受酸剤は、そのハロゲンキャッチ能力が高いという観点から、例えば脂肪酸(高級脂肪酸を含む。)、脂肪酸エステルなどで表面処理されていないものとすることができる。
受酸剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明において、受酸剤の量は、ポリアミド100質量部に対して、0.5〜20質量部である。このような範囲の場合、最内層の耐劣化性能に優れ、柔軟性(ホース自身の曲げ剛性が低く、エンジンルーム内での取り回し性がよい。)、耐振動性(冷媒圧縮用コンプレッサーからの振動が車のボディー側に伝わりにくく、車内への振動や騒音の影響が少ない。)に優れる。
また、受酸剤の量は、最内層の耐劣化性能により優れ、柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)に優れるという観点から、ポリアミド100質量部に対して、2〜15質量部であるのが好ましく、3〜15質量部であるのがより好ましい。
【0025】
ポリアミドについて以下に説明する。
本発明において、ポリアミド樹脂組成物に含有されるポリアミドは特に制限されない。
ポリアミドは、耐冷媒透過性に優れるという観点から、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4−6、ポリアミド6−6、ポリアミド6−10、ポリアミド6−12およびポリアミドMXD6からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
ポリアミド樹脂組成物が加水分解しやすいポリアミド(例えば、ポリアミド6)を含有する場合であっても、本発明の冷媒移送用ホースが有する最内層は優れた耐劣化性能を示すことができる。
ポリアミドは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明においてポリアミド樹脂組成物はさらにカルボキシル基含有変性ポリオレフィンを含有することができる。ポリアミド樹脂組成物は最内層の耐劣化性能により優れ、柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)、耐振動性、ポリアミドとの親和性に優れるという観点から、さらにカルボキシル基含有変性ポリオレフィンを含有するのが好ましい。
カルボキシル基含有変性ポリオレフィンはカルボキシル基を有するポリオレフィンであれば特に制限されない。またポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミドは、ポリアミドとカルボキシル基含有変性ポリオレフィンとをブレンドして得られる変性ポリアミドであるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
なお、最内層(ガスバリア層)はポリアミド樹脂組成物(例えば上記の変性ポリアミドを含有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。)からなっていればよく、本発明の目的を達成できる範囲で他の成分(例えば添加剤等)を含んでもよい。このように他の成分を含んでいる場合であっても、本発明の範囲内である。
【0027】
カルボキシル基含有変性ポリオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブタジエンなどのオレフィンやジエンモノマーを単独重合または共重合したポリオレフィンに無水マレイン酸などの酸無水物をグラフト重合することにより官能基を約0.1〜10モル%導入した変性ポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0028】
ポリアミドとカルボキシル基含有変性ポリオレフィンとの量比[ポリアミド/(カルボキシル基含有変性ポリオレフィン)、質量比]は、柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)に優れるという観点から、90/10〜50/50が好ましく、85/15〜65/35がより好ましい。カルボキシル基含有変性ポリオレフィンの割合が50質量%以下の場合耐冷媒透過性に優れる。カルボキシル基含有変性ポリオレフィンの割合が10質量%以上の場合柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)に優れる。
【0029】
変性ポリアミドとしては、例えばポリアミド6と無水マレイン酸変性ポリオレフィンとをアロイ化したもの(ブレンド物)と考えられるデュポン社製のザイテルST801、ザイテルST811、ザイテルST811HSなどのザイテルSTシリーズなどがあげられる。
【0030】
最内層(ガスバリア層)は前記変性ポリアミドを例えば管状に押出し成形することによって形成することができる。
【0031】
ポリアミド樹脂組成物は、最内層の耐劣化性能により優れ(具体的には例えば長期間にわたり破断伸びのような、最内層の機械的特性が低下しにくい。)、柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)に優れ、環境に対する安全性に優れ、一度キャッチしたハロゲンを放出しにくく、ポリアミド樹脂組成物がゲル化しにくくフィルムを形成しやすいという観点から、ポリアミドとカルボキシル基含有変性ポリオレフィンとハイドロタルサイトとを含有するのが好ましい。
【0032】
本発明において、ポリアミド樹脂組成物はさらに酸封止剤を含有することができる。
ポリアミド樹脂組成物がさらに酸封止剤を含有する場合、最内層の耐劣化性能により優れる。
【0033】
本発明において、酸封止剤は、酸を封止または捕捉(以下これらを「封止等」ということがある。)することができる。酸封止剤は酸と反応することによって酸を封止等する。
酸は、酸基(例えば、カルボキシ基)を少なくとも1個有する化合物であれば特に制限されない。例えば、カルボン酸、リン酸、スルホン酸のような酸;酸が酸基を2個以上有する場合、その部分エステルが挙げられる。部分エステルは少なくとも1個の酸基と少なくとも1個のエステルとを有する。
酸としては、具体的には例えば、最内層中に存在するカルボン酸、冷媒輸送用ホースに適用される冷媒含有組成物中のエステル系オイルのような潤滑剤が加水分解することによって生じるカルボン酸などのカルボン酸;潤滑剤に含まれるリン酸エステル系添加剤が加水分解することによって生じるリン酸;スルホン酸が挙げられる。
最内層中に存在するカルボン酸としては、例えば、ポリアミドの末端に結合するカルボン酸、ポリアミドが冷媒含有組成物の変質等の影響を受けて加水分解することによって生じるカルボン酸が挙げられる。
リン酸としては例えば、冷媒含有組成物中に含まれるエステル系オイルのような潤滑剤に含まれるトリアリールリン酸エステルのような添加剤が加水分解することによって生じる、酸性度の高いリン酸部分エステルが挙げられる。
酸封止剤は、ポリアミドの末端に結合するカルボン酸を封止し、ポリアミドが冷媒含有組成物の変質等の影響を受けて加水分解することによって生じるカルボン酸、冷媒含有組成物から生じる酸を封止または捕捉することによって、ポリアミドが加水分解するのを抑制することができる。このようなポリアミドの加水分解の抑制によって、最内層の耐劣化性能がより優れると本願発明者らは考える。
また、酸封止剤は酸を封止するほか、冷媒含有組成物から生じる酸性成分を捕捉することができる。
なお上記メカニズムは本願発明者らの推測であり、メカニズムが異なるものであっても本発明の範囲内である。
【0034】
酸封止剤は、酸(部分エステルを含む。)を封止等することができる化合物であれば特に制限されない。また、例えば、冷媒含有組成物から生じる酸を捕捉することができる。
酸封止剤が有する、酸と反応可能な官能基としては、例えば、カルボジイミド基、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基が挙げられる。
酸封止剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、イソシアネート化合物、アルコールからが挙げられる。
なかでも、最内層の耐劣化性能により優れるという観点から、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物が好ましい。
また、酸封止剤は、取り扱いに優れるという観点から、常温(23℃)の条件下において固体であるのが好ましい。
【0035】
酸封止剤は、ポリアミドが有するカルボン酸を少なくとも封止することができるという観点から、カルボン酸(部分エステルを含む。)を少なくとも封止等することができるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
なお、本発明において、少なくともカルボン酸を封止等する酸封止剤を「カルボン酸封止剤」という。
カルボン酸封止剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、イソシアネート化合物、アルコールが挙げられる。
酸封止剤がカルボン酸封止剤である場合、カルボン酸封止剤はカルボン酸のほかに、リン酸、スルホン酸、これらの部分エステルを封止等することができる。
以下の酸封止剤に関する記載はカルボン酸封止剤にも当てはまるものとする。
【0036】
酸封止剤としてのカルボジイミド化合物は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、ポリカルボジイミド、モノカルボジイミドが挙げられる。
なかでも、最内層の耐劣化性能により優れるという観点から、ポリカルボジイミドが好ましい。
【0037】
本発明に用いることができるポリカルボジイミドは、分子鎖(例えば、ポリマー主鎖)中にカルボジイミド基を複数個有するものであれば、特に限定されない。ポリカルボジイミドは、例えば、任意の有機ジイソシアネートを縮合させることにより得ることができ、その方法は公知の技術を利用することができる。例えば、有機ジイソシアネートの脱炭酸ガス縮合反応により得られるものを用いることができる。
【0038】
ポリカルボジイミドとしては、例えば、ポリ[1,1−ジシクロヘキシルメタン(4,4−ジイソシアナート)]とシクロヘキシルアミンのウレア付加物などが挙げられる。
ポリカルボジイミドの市販品としては、例えば、常温で細かい顆粒状のポリカルボジイミド化合物である日清紡績社製の“カルボジライトHMV−8CA”、“カルボジライトLA−1”などが入手のし易さおよび操作性の面において好ましい態様として挙げられる。
【0039】
本発明に用いることができるモノカルボジイミドは、カルボジイミド基を1個有しているものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ジメチルカルボジイミド、ジエチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、2,2,6,6−テトラメチルジフェニルカルボジイミド、2,2,6,6−テトラエチルジフェニルカルボジイミド、2,2,6,6−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられる。
【0040】
エポキシ化合物について以下に説明する。
酸封止剤としてのエポキシ化合物は、エポキシ基を1個以上有する化合物であれば特に制限されない。
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー、エポキシ基含有ポリスチレン、エポキシ化大豆油のようなエポキシ基を含有するポリマー;グリシジルエステル(ポリマーおよびモノマーを含む。);グリシジルエーテル(ポリマーおよびモノマーを含む。)が挙げられる。
【0041】
エポキシ化合物のエポキシ当量は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、140〜3300g/当量であるのが好ましい。
エポキシ化合物がエポキシ基を含有するポリマーである場合、そのエポキシ当量は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、170〜3300g/当量であるのが好ましい。
エポキシ化合物がエポキシ基を含有するモノマーである場合、そのエポキシ当量は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、140〜400g/当量であるのが好ましい。
【0042】
エポキシ化合物は、なかでも、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー、グリシジルエーテル(ポリマーおよびモノマーを含む。)が好ましい。
また、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(特に常温で固体のもの)が好ましい。
【0043】
エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーについて以下に説明する。
酸封止剤としてのエポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、主鎖が(メタ)アクリル系ポリマーであり、エポキシ基を少なくとも1個有するポリマーであれば特に制限されない。
なお、本発明において、(メタ)アクリルはアクリルおよびメタクリルのうちの一方または両方を意味する。
【0044】
主鎖としての(メタ)アクリル系ポリマーは、ホモポリマーおよびコポリマーのうちのいずれであってもよい。
エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0045】
エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくく、取り扱い性に優れるという観点から、5,000〜300,000であるのが好ましく、8,000〜250,000であるのがより好ましい。
【0046】
エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、なかでも、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくく、取り扱い性に優れるという観点から、メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体が好ましい。
【0047】
グリシジルエーテルについて以下に説明する。
酸封止剤としてのグリシジルエーテルは、グリシジルオキシ基を有する化合物であれば特に制限されない。
グリシジルエーテルとしては、例えば、ブチル−グリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリル−グリシジルエーテル、アリル−グリシジルエーテル、フェニル−グリシジルエーテル、ブチルフェニル−グリシジルエーテル、ブトキシ−ポリエチレングリコール−グリシジルエーテル、グリシドール、グリセリン・エピクロルヒドリン−0〜1モル付加物の−ポリグリシジルエーテル、エチレングリコール−エピクロルヒドリン−0〜2モル付加物の−ポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール−ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン−ポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0048】
エポキシ化合物として市販品を使用することができる。
エポキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの市販品としては、例えば、マープルーフG−0150M(アクリル系ポリマー、粉体、重量平均分子量8,000〜10,000、エポキシ当量310g/当量、日油社製)、マープルーフG−2050M(アクリル系ポリマー、粉体、重量平均分子量200,000〜250,000、エポキシ当量340g/当量、日油社製)が挙げられる。
エポキシ基含有ポリスチレンの市販品としては、例えば、マープルーフG−1010S(スチレン系ポリマー、粉体、重量平均分子量100,000、エポキシ当量1,700g/当量、日油社製)が挙げられる。
エポキシ化大豆油の市販品としては、例えば、ニューサイザー510R(日油社製)が挙げられる。
【0049】
酸封止剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
酸封止剤の量は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、ポリアミド100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.5〜5質量部であるのがより好ましい。
酸封止剤がカルボジイミド化合物である場合、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、ポリアミド100質量部に対して、0.1〜2質量部であるのが好ましく、0.3〜1質量部であるのがより好ましい。
酸封止剤がエポキシ化合物である場合、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、ポリアミド100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.5〜5質量部であるのがより好ましい。
【0050】
受酸剤と酸封止剤との合計量は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、ポリアミド100質量部に対して、3〜20質量部であるのが好ましく、5〜15質量部であるのがより好ましい。
受酸剤と酸封止剤との量比は、最内層の耐劣化性能により優れ、組成物がゲル化を生じにくいという観点から、受酸剤100質量部に対して、酸封止剤が50〜150質量部であるのが好ましく、70〜130質量部であるのがより好ましい。
【0051】
ポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて本発明の目的を損わない範囲で、添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、補強剤、老化防止剤、可塑剤、顔料(染料)、粘着付与剤、滑剤、分散剤、加工助剤が挙げられる。
【0052】
ポリアミド樹脂組成物はその製造について特に制限されない。例えば、ポリアミドおよび受酸剤と、必要に応じて使用することができる酸封止剤および/または添加剤とを、2軸混練押出機を用いて混合する方法が挙げられる。
混合温度は、混合加工性に優れるという観点から、180〜300℃であるのが好ましく、200〜280℃であるのがより好ましい。
【0053】
ポリアミド樹脂組成物から形成される硬化物(例えば、シート)のヤング率は、300MPa以下であるのが好ましく、270MPa以下であるのがより好ましい。
また、ポリアミド樹脂組成物から形成される硬化物(例えば、シート)を水を含む冷媒含有組成物に浸漬させる試験後の、硬化物のヤング率は、300MPa以下であるのが好ましく、270MPa以下であるのがより好ましい。上記浸漬試験後の硬化物のヤング率が300MPa以下である場合、最内層の耐劣化性能により優れ、柔軟性(ホース自身の曲げ剛性が低く、エンジンルーム内での取り回し性がよい。)、耐振動性(冷媒圧縮用コンプレッサーからの振動が車のボディー側に伝わりにくく、車内への振動や騒音の影響が少ない。)に優れる。硬化物のヤング率が300MPaを超える場合、ホース自身の曲げ剛性が高くなり、エンジンルーム内での取り回し性が悪く、冷媒圧縮用コンプレッサーの振動が車のボディー側に伝わってしまい、振動と音の面で問題が発生しやすい。
本発明においては、ポリアミド100質量部に対する受酸剤の量が0.5〜20質量部であることによって、浸漬試験後の硬化物のヤング率を300MPa以下とすることができる。
【0054】
本発明においてヤング率は、ポリアミド樹脂組成物を用いて230℃の条件下シートを作製し、シートから幅5mm、長さ80mm、厚さ0.15mmの大きさの試験片を切り出して試験体(実施例の試験体1)とし、次に、オートクレーブに、水を含む冷媒含有組成物[冷媒としてHFO−1234yf(ハネウェル社製)を50質量%含有し、潤滑油として商品名:アトモスGU−10(新日本石油社製)を50質量%含有する冷媒含有組成物100質量部に対して水0.1質量部を加えたもの]と、上記のようにして得られた試験体1とを入れ、150℃の加熱および加圧(計算値で7MPa)の条件下に168時間置く浸漬試験を行い、得られた試験体(実施例での、試験体1および試験体2)について50mm/分の引張速度でJIS K 7161に準じて測定されたものである。
【0055】
ゴム層について以下に説明する。
本発明において内管はゴム層を有することができる。内管がゴム層を有する場合ゴム層は最内層に隣接する。
【0056】
ゴム層の製造の際に使用されるゴム組成物について以下に説明する。
本発明において、ゴム組成物に含有されるゴムは特に制限されない。ゴムとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(Cl−IIR)、ブロモブチルゴム(Br−IIR)、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンが挙げられる。
【0057】
ゴムは、ゴム層の耐疲労性能に優れ、耐透過性に優れるという観点から、ブチルゴム(IIR)を含むのが好ましい。
ゴムはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
本発明において、ゴム組成物は、必要に応じて本発明の目的を損わない範囲で、添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、補強剤、老化防止剤、加硫活性化剤、可塑剤、顔料(染料)、粘着付与剤、滑剤、分散剤、加工助剤が挙げられる。
【0059】
本発明において、ゴム組成物はその製造について特に制限されない。例えば、ゴム、必要に応じて使用することができる添加剤を、オープンロール、ニーダー、押出し機、万能かくはん機、バッチ式混練機を使用して混合(混練)する方法が挙げられる。
【0060】
補強層について以下に説明する。
本発明の冷媒移送用ホースは補強層を有することによって、強度保持を保持することができ、耐圧性、金具加締固定力に優れるものとなる。
【0061】
本発明の冷媒移送用ホースが有することができる補強層はその材料について特に制限されない。
補強層に使用される材料としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリケトン繊維、ポリアリレート繊維、ポリケトン繊維のような繊維材料;硬鋼線(例えば、ブラスメッキが施されたワイヤ、亜鉛メッキワイヤー等)などの金属材料が挙げられる。
【0062】
なかでも、補強層の耐疲労性能に優れ、所定要求性能に対するコストパフォーマンスに優れるという観点から、ポリエステル系繊維が好ましい。
補強層はその形状について特に制限されない。例えば、ブレード状、スパイラル状のものが挙げられる。
補強層の材料はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
外層について以下に説明する。
本発明の冷媒移送用ホースは外層を有することによって、補強層を保護することができ、かつ外部からの耐水分侵入性に優れるものとなる。
【0064】
本発明の冷媒移送用ホースが有することができる外層はゴム層であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明の冷媒移送用ホースが有することができる外層はその材料について特に制限されない。外層に使用される材料としては、本発明におけるゴム層に使用されるゴム組成物と同様のもの、それ以外のゴム組成物が挙げられる。
耐候性により優れるという観点から、エチレン−プロピレン共重合体ゴムを含むのが好ましく、耐透過性に優れるという観点から、ブチルゴム(IIR)を含むのが好ましい。
【0065】
本発明の冷媒移送用ホースは、その製造について特に制限されない。例えば、マンドレル上に、最内層、ゴム層、補強層および外層をこの順に積層させた後に、それらの層を加硫して接着させる方法が挙げられる。また、最内層とゴム層との間に接着処理(例えば、接着剤の塗布、最内層への表面処理)を行うことができる。ゴム層と補強層との間に接着処理(例えば、接着剤の塗布)を行うことができる。外層が内管のゴム層と同様のゴム層である場合、補強層と外層との間に接着処理(例えば、接着剤の塗布)を行うができる。
【0066】
本発明において最内層を押し出しする際のポリアミド樹脂組成物の温度は、加工性に優れるという観点から、230〜250℃であるのが好ましい。
加硫の際の温度は、ゴムの品質及び経済性に優れるという観点から、130〜180℃であるのが好ましい。
加硫時間は、ゴムの品質及び経済性に優れるという観点から、30〜120分間であるのが好ましい。
加硫の方法としては、例えば、プレス加硫、蒸気加硫、オーブン加硫(熱気加硫)、温水加硫が挙げられる。
【0067】
本発明の冷媒移送用ホースに対して使用することができる冷媒含有組成物は特に制限されない。例えばフッ素系化合物のような冷媒と潤滑剤とを含有する組成物が挙げられる。
冷媒含有組成物に含有される冷媒としては、例えば、二重結合を有するフッ素系化合物;HFC−134a(構造式:CF3−CFH2)のような飽和ハイドロフルオロカーボンが挙げられる。
二重結合を有するフッ素系化合物としては、例えば、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(構造式:CF3−CF=CH2、HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペンのようなフルオロプロペンが挙げられる。
【0068】
本発明の冷媒移送用ホースが有する最内層は、フルオロプロペンのような二重結合を有するフッ素系化合物等(特に、HFO−1234yfのような新しい冷媒)に対して、耐劣化性能に優れる。また、最内層の耐劣化性能が改善されることによって、冷媒移送用ホースが変形や振動を受けたときに最内層が割れにくくなり、最内層の動的な疲労性能が改善される。
【0069】
冷媒含有組成物に含有される潤滑油は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0070】
本発明の冷媒移送用ホースは、冷媒を移送するために使用することができるホースであり、例えば、エアコン用ホース(例えば、カーエアコン)のような流体輸送用ホースに適用することができる。また、本発明の冷媒移送用ホースは、エアコン用ホース以外にも例えば温水用ホース(温調機器用)に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
<評価>
下記のようにして得られた試験体を用いて、次に示す方法で浸漬試験、引張試験を行い、試験体の引張強さ(TB)、伸び(EB)、浸漬試験後の試験体の状態を評価した。結果を第1表に示す。
1.試験体1の作製
下記のようにして得られたポリアミド樹脂組成物を230℃の条件下で電熱プレスを用いてシートを作製し、シートから幅5mm、長さ80mm、厚さ0.15mmの大きさの試験片を切り出し、これを試験体1とした。
【0072】
2.浸漬試験(劣化促進試験)
オートクレーブに、水を含む冷媒含有組成物[冷媒としてHFO−1234yf(ハネウェル社製)を50質量%含有し、潤滑油として商品名:アトモスGU−10(新日本石油社製)を50質量%含有する冷媒含有組成物100質量部に対して水0.1質量部を加えたもの]と、上記のようにして得られた試験体1とを入れ、150℃の加熱および加圧(計算値で7MPa)の条件下に168時間置く浸漬試験を行った。
浸漬試験後、試験体1を水を含む冷媒含有組成物から引き揚げ、浸漬試験後に得られた試験体を試験体2とする。
【0073】
3.引張試験
引張試験はJIS K 7161に準じて、上記のようにして得られた、試験体1および試験体2について23℃における引張強さ(TB)および伸び(EB)を測定した。引張速度は50mm/分とした。
【0074】
4.浸漬試験前後の試験体の状態の評価
上記のようにして得られた、試験体1および試験体2を曲げて、浸漬試験前後の試験体の状態を評価した。
【0075】
5.ヤング率(引張弾性率)
上記のようにして得られた試験体2について50mm/分の引張速度でJIS K 7161に準じてヤング率を測定した。
【0076】
<ポリアミド樹脂組成物の製造>
第1表に示す各成分を同表に示す量(質量部)で用いて、これらを2軸混練押出機を用いて均一に混合し、ポリアミド樹脂組成物を製造した。
【0077】
【表1】

【0078】
第1表に示されている各成分は、以下のとおりである。
・ポリアミド(1):ポリアミド6とカルボキシル基含有変性ポリオレフィンとのブレンド物[商品名Zytel ST811HS、デュポン社製]
・ポリアミド(2):ポリアミド11(ARKEMA Inc.製の商品名RILSAN BESNO TL)
・受酸剤1:水酸化カルシウム(消石灰)、入交石灰工業株式会社製
・受酸剤2:酸化マグネシウム(キョーワマグ150)、協和化学工業株式会社製
・受酸剤3:ハイドロタルサイト(KW−2200、協和化学工業社製)
・受酸剤4:ハイドロタルサイト(DHT−4A−2、協和化学工業社製)
・酸封止剤1:メタクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル共重合体(商品名マープルーフ G−2050M、重量平均分子量200,000〜250,000、エポキシ当量340g/当量、日油社製)
【0079】
第1表に示す結果から明らかなように、受酸剤を含有しない比較例1は浸漬試験後脆くなり最内層の耐劣化性能に劣った。受酸剤の量がポリアミド100質量部に対して0.5質量部未満である比較例2は浸漬試験後に曲げると割れが発生し最内層の耐劣化性能に劣った。受酸剤の量がポリアミド100質量部に対して20質量部を超える比較例3は、浸漬試験後のポリアミド樹脂組成物の硬化物が硬くなりすぎ最内層の耐劣化性能に劣った。
これに対して、実施例1〜11は、試験体の引張強さ(TB)および伸び(EB)の低下が抑制され、浸漬試験後曲げても割れることがなく、冷媒移送用ホースの最内層としての耐劣化性能に優れる。なお、浸漬試験後、試験体の引張強さ(TB)および伸び(EB)の低下が抑制され、曲げても割れることがないことは、実施例1〜11の試験体(最内層)が耐劣化性能に優れることを示すものである。
また、実施例1〜11は、浸漬試験後のヤング率が適切な範囲であり試験体が硬くなりすぎず柔軟性(最内層およびホース全体の柔軟性)に優れる。
また、実施例10よりOH量が少ない受酸剤(ハイドロタルサイト)を含有する実施例8は、試験体の引張強さ(TB)および伸び(EB)の低下がより抑制された。このことから、受酸剤としてのハイドロタルサイトはOH量が少ないもの、Mg1-xAlx3.83xが最内層の耐劣化性能により優れることが分かる。
【0080】
[実施例12]<ホース1の製造>
外径11mmの熱可塑性樹脂製マンドレルの表面に樹脂押出し機を用いて、実施例1のポリアミド樹脂組成物で最内層を0.15mmの厚さに押出し(押出し温度240℃)、その表面に厚さ1.2mmのチューブゴム層(以下に示すブチルゴム系組成物A)を押出し、総糸量80,000dtexのPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維を交互にスパイラル状に巻きつけた2層の補強層を形成し、その上にその表面に厚さ1.0mmのカバーゴム層(上記のブチルゴム系組成物Aと同様の組成物を使用した。)を押し出して押出し外層とし、更にその上に周知のポリメチルペンテン樹脂を押出し外皮とし、得られた管状の積層体を160℃の条件下で100分間加硫した後、管状積層体から外皮とマンドレルを取り除いてホースを作製した。
実施例12の冷媒移送用ホースは上述のとおり耐劣化性能に優れる実施例1の最内層を有する。
【0081】
ブチルゴム系組成物A(チューブゴム・カバーゴム共通):ブチルゴム100質量部、カーボンブラック(HAF)80質量部、ステアリン酸3質量部、パラフィン油10質量部、酸化亜鉛2質量部、および臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂8質量部を含有する組成物。
【0082】
[実施例13]<ホース2の製造>
実施例1のポリアミド樹脂組成物を実施例7のポリアミド樹脂組成物に代えたほかは実施例12と同様にして実験を行いホース2を作製した。
実施例13の冷媒移送用ホースは上述のとおり耐劣化性能に優れる実施例1の最内層を有する。
【符号の説明】
【0083】
1 冷媒移送用ホース
3 最内層
5 ゴム層
6 内管
7 補強層
9 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド100質量部に対して、受酸剤0.5〜20質量部を含有するポリアミド樹脂組成物を用いて得られる最内層を有する冷媒移送用ホース。
【請求項2】
前記受酸剤が、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の冷媒移送用ホース。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂組成物がさらにカルボキシル基含有変性ポリオレフィンを含有する請求項1または2に記載の冷媒移送用ホース。
【請求項4】
前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4−6、ポリアミド6−6、ポリアミド6−10、ポリアミド6−12およびポリアミドMXD6からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
【請求項5】
前記ポリアミドと前記カルボキシル基含有変性ポリオレフィンとの量比(質量比)は90/10〜50/50である請求項3または4に記載の冷媒移送用ホース。
【請求項6】
冷媒として二重結合を有するフッ素系化合物を含有する冷媒含有組成物に対して使用される請求項1〜5のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
【請求項7】
前記フッ素系化合物が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンからなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロプロペンである請求項6に記載の冷媒移送用ホース。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂組成物が、さらに、酸封止剤を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
【請求項9】
前記酸封止剤が、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、イソシアネート化合物およびアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の冷媒移送用ホース。
【請求項10】
前記エポキシ化合物のエポキシ当量が、140〜3300g/当量である請求項9に記載の冷媒移送用ホース。
【請求項11】
前記酸封止剤の量が、前記ポリアミド100質量部に対して、0.1〜10質量部である請求項8〜10のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。
【請求項12】
前記最内層の上にゴム層があり、前記ゴム層の上に補強層があり、前記補強層の上に外層がある請求項1〜11のいずれかに記載の冷媒移送用ホース。

【図1】
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【公開番号】特開2011−58622(P2011−58622A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20912(P2010−20912)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】