説明

冷熱供給システム

【課題】供給量の変動幅が大きい液化天然ガスの冷熱を化学プラントで利用するにあたり、冷熱需要量の少ない化学プラントにおいても安定運転を確保しつつ、液化天然ガスの有する冷熱を効率的かつ最大限に利用する冷熱供給システムを構築する。
【解決手段】液化天然ガスAの冷熱を利用して炭酸ガスBを液化炭酸ガスDに変換した後、その液化炭酸ガスDをエチレンプラント42へ送液し、液化炭酸ガスDを炭酸ガスEに変換する際に発生する気化熱を、冷熱源として利用する工程を、エチレンプラント42における大型冷却装置を利用した冷熱供給システム内に組み込んで液化プロピレンHによる冷却システムの一部とし、かつ、その大型の冷却装置を必要とするエチレンプラント42と、従来は小型冷却装置を用いていた他の化学プラント43とで冷熱供給システムを統合し、この発明にかかる冷熱供給システムによりエチレンプラント42とともに他の化学プラント43へ、液化プロピレンHの移送により冷熱を供給した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液化天然ガスの冷熱を効率的に利用するシステムに関する。詳しくは、液化天然ガスの冷熱を利用して得られた液化二酸化炭素(以下、「液化炭酸ガス」と表記する。)を、二酸化炭素ガス(以下、「炭酸ガス」と表記する。)に変換する際に発生する冷熱を、化学プラントの冷熱源として有効に活用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、天然ガスを使用する際には、天然ガスを原産地から輸送する際に体積を圧縮するために冷却し液化された液化天然ガスを、一度気体に戻した上で、炭化水素化学材料や冷媒、都市ガス等の様々な用途に用いることが行われている。
【0003】
通常、この液化天然ガスを気体に戻す際には、空気や海水が熱源として用いられているが、この方法では単に空気や海水が冷やされるだけで、−100℃以下の低温である液化天然ガスの冷熱が有効に利用できない。そのため、この液化天然ガスが持つ冷熱を、化学プラント等の冷熱源として利用するシステムが特許文献1に記載されている。
【0004】
ところで、化学プラントにおいては、冷却・冷凍を必要とする工程が多くあり、これらの工程に冷熱を供給する冷熱供給システムが備えられている。
【0005】
冷熱供給システムは、メタン、エチレン、プロピレン、アンモニア、フロンといったガスを用い、ガスの圧縮、冷却による液化、減圧膨張、冷熱の供与による蒸発を繰り返す工程より構成されることが一般的であるが、ガスの圧縮、液化にあたっては多くのエネルギーを必要とする。
【0006】
そこで化学プラントでのエネルギー消費量削減のために、液化天然ガスの冷熱を、化学プラントの冷熱源として利用し、その冷熱媒体として液化二酸化炭素を用いることが提案されている。
【0007】
その具体的な運用例としては、図3に示す以下のような方法が挙げられる。
まず、液化天然ガス供給プラント11内の工程について説明する。液化天然ガス(LNG)aは、液化天然ガスを貯蔵してあるLNG貯蔵タンク1からLNG移送ライン2を通じて一部が液化炭酸ガス製造工程3に供給され、残りは液化天然ガス蒸発器4へ供給される。液化炭酸ガス製造工程3へ供給された液化天然ガスaは、炭酸ガスb等と熱交換を実施し、その結果、液化天然ガスaは加熱されて気化して天然ガスcとなる。気化した天然ガスcは天然ガス移送ライン5を通して、天然ガスcを利用する工程へ移す。一方で、液化炭酸ガスの原料となる炭酸ガスbは、液化炭酸ガス原料供給ライン6を通して液化炭酸ガス製造工程3に供給され、液化天然ガスaにより冷却されて液化し、液化炭酸ガスdとなる。
【0008】
次に、得られた液化炭酸ガスdは、液化炭酸ガス移送ライン7を通して、化学プラント中の冷熱需要プラント12へ送られ、その中の冷熱供給システム8内に設けられた液化炭酸ガス冷熱回収工程9に供給され、気化する。気化した炭酸ガスeは炭酸ガス移送ライン10を通じて、炭酸ガスeを利用する工程へ送られる。
【0009】
【特許文献1】特開2003−161574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、化学プラントでは、多くの冷却、冷凍を必要とする工程があり、プラントごとに冷熱供給システムが備えられているものの、冷凍システム規模が小さい設備も存在する。一方で、液化天然ガスが有する冷熱供給可能量は、液化天然ガスの使用量に依存して変動する。従って、液化天然ガスの使用量に対して必要冷熱量が小さいそれぞれの化学プラントで、液化天然ガスが有する冷熱を冷熱供給源として利用した場合には、冷熱供給量と冷熱需要量とが合わなくなり、液化天然ガスの冷熱利用量を上げることが出来ないという問題があった。
【0011】
また、化学プラントでは運転負荷に合わせた冷却、冷凍工程への冷熱供給が必要であり、冷熱供給工程の運転安定化が不可欠である。そのため、冷熱需要量が小さい化学プラントほど、液化天然ガスから供給される冷熱量の変動による影響は大きくなってしまい、液化天然ガスが有する冷熱を最大限に利用することができなかった。
【0012】
具体例として上記した図3の工程では、LNG移送ライン2を通じて液化炭酸ガス製造工程3へ供給される液化天然ガスaの量は、余剰の液化炭酸ガスが生じるのを避けるために、液化炭酸ガス冷熱回収工程9で気化可能な液化炭酸ガス量を製造するのに必要な液化天然ガス量に限られ、残りは液化天然ガス蒸発器4へ供給されて海水ライン13で供給される海水fと熱交換を行って気化し、天然ガス移送ライン5を通して天然ガスcを利用する工程へ移送される。
【0013】
一般的な化学プラントでは、冷熱供給システムに遠心式ガス圧縮機を使用することが多く、その運転範囲は最大出力の60〜100%程度である。ただし、急激な負荷変動は安定運転の面から避けることが好ましい。従って、液化炭酸ガス量の変化に伴う冷熱回収変動幅は、冷熱供給システムの冷熱供給能力の30%程度に抑えることが求められていた。その結果、天然ガスの使用量によっては、液化天然ガスの全量を液化炭酸ガス製造工程3へ供給することができず、余剰分を液化天然ガス蒸発器4へ供給して、冷熱を無駄にする場合が発生し、液化天然ガスaの冷熱量を最大限利用できない状況が発生していた。
【0014】
そこでこの発明は、冷熱需要量の少ない化学プラントにおいても液化天然ガスが有する冷熱を効率的に利用でき、かつ、液化天然ガス使用量の変動時にも安定運転の確保が可能である冷熱供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、液化天然ガスの冷熱を利用して炭酸ガスを液化炭酸ガスに変換した後、液化炭酸ガスを化学プラントへ送液し、液化炭酸ガスを炭酸ガスに変換する際に発生する気化熱を冷熱として利用する工程を、エチレンプラントで用いるプロピレンを用いた大型の冷熱供給システムに組み込み、冷熱需要量の少ない化学プラントへは、上記のプロピレンを用いた大型の冷熱供給システムから冷熱を供給する方式として、複数の化学プラントの冷熱供給システムを統合することで、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0016】
エチレンプラントにおいて一般に使用されているプロピレンガスを用いた冷熱供給システムは、他の化学プラントで用いられている冷熱供給システムと比べても、供給する冷熱量が非常に多い。この供給する冷熱量は、液化天然ガスが有する冷熱により炭酸ガスから変換された液化炭酸ガスにより供給された冷熱量に比べても、2〜10倍程度の冷熱供給能力を有している場合が多く、液化天然ガスの使用量変化に伴う液化炭酸ガスの製造量、ひいては液化炭酸ガスの気化に伴う冷熱回収量の変動があっても、プロピレンガス圧縮機の運転調整によって供給する冷熱量を必要量に対応させることが可能で、エチレンプラントへの冷熱供給並びに他の化学プラントへの冷熱供給継続が可能である。
【0017】
この結果、液化天然ガスの使用量に対応して生成される液化炭酸ガスの全量を炭酸ガスに変換してその冷熱を無駄なく利用することができ、液化天然ガスが有する冷熱を最大限利用して、プラント全体で冷熱供給システムに必要とするエネルギーを節約することができる。
【0018】
さらに、複数の化学プラントの冷熱供給システムを統合することで、個々の化学プラントにおいて冷熱供給システムを用意するよりも、冷熱供給システムの簡素化、設備機器数の削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、プロピレンの(1)ガスの圧縮、(2)冷却による液化及び/又は過冷却、(3)減圧膨張、(4)冷熱の供与による蒸発、の各工程を順に繰り返す冷熱供給システムであって、
液化天然ガスの冷熱を炭酸ガスに吸収させて液化した液化炭酸ガスを気化させる際に発生する冷熱を、エチレンプラント内で行う前記工程(2)における冷却のための冷熱の一部として用い、
冷却により液化したプロピレンの一部を、前記エチレンプラント外の他の化学プラントに移送して、前記他の化学プラントにおける冷却システムの冷媒として用いて前記工程(4)を行い、前記他の化学プラントにおける冷却システムでガス化したプロピレンを前記エチレンプラント内に戻して、前記(1)乃至(4)の各工程を繰り返す、冷熱供給システムである。ここで、冷熱の供与とは熱の奪取を意味し、冷媒による冷熱供給システムとは、より低温の媒体に熱を移動させることで対象を冷却するシステムである。
【0020】
上記冷熱供給システムの各工程は、一般的な冷凍サイクルの工程であって、エチレンプラントにおいて冷却する冷媒にプロピレンを使用したものであり、具体的には以下の通りとなる。
【0021】
上記(1)工程の圧縮は、ガス状態であるプロピレンを断熱圧縮するものである。このガス状態であるプロピレンは、上記(4)工程で蒸発したプロピレンを循環させて用いる
ことが一般的であるが、不足する場合は外部から新たに追加したものでもよい。また、ガスの圧縮は、圧縮に要するエネルギーを削減するために、一段で圧縮するよりも多段圧縮を行うとより好ましく、プラント内の各所で必要とするプロピレン冷熱温度の違いに合わせて、1〜4段程度の多段圧縮機を採用することが好ましい。この発明にかかる冷熱供給システムで必要とするエネルギー消費量の大部分は、この上記(1)工程におけるガスの圧縮に要する圧縮機動力に要するエネルギー量であり、エネルギーの最適有効利用を図るためには、圧縮すべきガス量及び圧縮比を最小に抑えることが重要となる。なお、下記の冷却の際に海水などのエネルギーを必要としない冷却源を用いる場合には、この発明にかかる冷熱供給システムで必要とするエネルギー消費量は、前記の圧縮機動力に要するエネルギー消費量のみとなる。
【0022】
上記(2)工程の冷却では、プロピレンガスを液化して液化プロピレンとするか、又は、液化プロピレンをさらに冷却して過冷却状態にする。液化されるプロピレンガスは、上記(1)工程で圧縮されたプロピレンガス以外に、後述する上記工程(4)で冷熱の供与により蒸発したプロピレンガスであってもよい。この発明は、このプロピレンガス、もしくは液化プロピレンの冷却に用いる冷熱を供給する冷媒の少なくとも一部として、上記液化天然ガスを利用した液化炭酸ガスを使用するものである。
【0023】
上記(3)工程の減圧膨張により、液化プロピレンは、温度が低下するとともに、液体と気体とが混在した湿り蒸気となる。この工程は、出来るだけ熱の出入りの少ない断熱膨張弁により行うことが好ましい。
【0024】
上記(4)工程の冷熱の供与による蒸発では、液化プロピレンと、冷却対象とで熱交換が実施され、冷却対象が冷やされる。一方、液化プロピレンは温められた結果、蒸発して再びプロピレンガスとなる。ガス状態になったプロピレンは再び上記(1)工程に戻り、上記の各工程を順に繰り返すこととなる。なお、本明細書において冷熱を供与するとは、相手を冷却して熱を奪うことをいう。
【0025】
上記(4)工程における冷却対象は、この発明にかかる冷熱供給システムを有するエチレンプラント内の冷却対象とともに、他の化学プラントの冷却を必要とする流体も冷却対象となる。上記の他の化学プラントにおいて上記(4)工程を行う場合は、液化プロピレンを上記エチレンプラントから上記の他の化学プラントに送液して、上記の他の化学プラントにおいて冷却対象となる流体との間で熱交換を行い、蒸発したプロピレンガスを送液して上記エチレンプラントに返還し、上記(1)工程に戻す。
【0026】
次に、上記(2)工程において、プロピレンを冷却して液化する際の冷媒として用いる液化炭酸ガスについて説明する。この液化炭酸ガスは、液化天然ガスをガス化する際に、液化天然ガスが有する冷熱を利用し、炭酸ガスを液化したものである。液化の方法は、炭酸ガスそのものを冷却する方法や、空気などの炭酸ガスを含有する混合ガスを冷却して液化した液化炭酸ガスを分離する方法などが挙げられる。ここで、炭酸ガスを用いるのは、移送がし易いだけでなく、炭酸ガスがエチレンプラントにおける原料になり得るため、エチレンプラントに移送されてガス化した炭酸ガスをその場で原料として使用できるからである。ここで移送がし易いとは、液化天然ガスの液化装置とエチレンプラントとは距離が離れていることが一般的であり、−100℃以下の低温である液化天然ガスを直接移送すると、放熱ロスが大きく非経済的となるが、液化炭酸ガスの温度は天然ガスの沸点より高く、移送時の放熱ロスが低く抑えることができることを示す。
【0027】
なお、液化天然ガスの有する冷熱をエチレンプラントで利用する際の、冷熱移送媒体としては、上記のような液化天然ガスの冷熱で直接冷却した液化炭酸ガスを用いるだけでなく、液化天然ガスと化学プラントで必要な冷媒であるプロピレンの温度との間の温度である二酸化炭素以外の他の中間冷媒を用いても、同様に液化天然ガスの冷熱を利用する効果を得ることができる。この中間冷媒としては、沸点が、天然ガスの主成分であるメタンの沸点と、冷却すべきプロピレンの沸点との中間にある物質を用いることができる。例えば、三フッ化メタン、四フッ化メタンなどのフッ素化炭化水素、エタンなどが挙げられる。これらの中間冷媒は、液化天然ガスのガス化装置とエチレンプラントとの距離を考慮して選択すると好ましい。ただし、これらの中間冷媒の中でも、二酸化炭素を用いると、沸点温度と液化する圧力との条件が最適であるので扱いやすく、最も好ましい。
【0028】
上記の液化炭酸ガスを、上記(2)工程におけるプロピレンを冷却する冷媒として用いる際の液化炭酸ガスの圧力は、ゲージ圧力で0.52MPa以上、3MPa以下の圧力であることが必要である。以下、圧力はゲージ圧力を示す。液化炭酸ガスの飽和温度は圧力により決定されるが、0.52MPa未満であると、二酸化炭素は固体又は気体の状態でしか存在できず、液化した液化炭酸ガスをガス化する際の潜熱を利用するという方法での冷熱利用が出来なくなる。一方で、3MPaを超えると、液化炭酸ガスのガス化温度が常温近くになり、冷媒としての効果が少なくなってしまう。
【0029】
上記の液化炭酸ガスを、上記(2)工程におけるプロピレンを冷却する冷媒として用いる際の液化炭酸ガスの温度は、−55℃以上である必要がある。−55℃未満であると、圧力によっては、二酸化炭素が固体又は気体の状態でしか存在できず、液化炭酸ガスを冷媒として使用できなくなるおそれがあるためである。一方で、−10℃以下であると好ましく、−30℃以下であるとより好ましい。−10℃を超えると、液化炭酸ガスのガス化温度が高く、冷媒としての効果が少なくなってしまう。
【0030】
この発明で用いる冷熱供給システムは、大容量の冷熱供給源を必要とするエチレンプラントで用いる大型のガス圧縮機を有する冷媒供給システムの一部として液化炭酸ガスのガス化を行うため、液化炭酸ガスを冷却の際に用いる冷媒の一部として用いても、その冷熱量が冷熱供給システムにより供給される冷熱量全体に占める割合は小さい。一般的にエチレンプラントで用いられる遠心式ガス圧縮機は、60〜100%の運転範囲を有するため、液化天然ガスの有する冷熱を最大限に利用するためには、液化天然ガスの最大使用時に得られる液化炭酸ガスが有する冷熱量と同等以上、より好ましくは3倍以上の冷熱供給システムにおいて、液化炭酸ガスのガス化を行うと好ましい。これにより、液化天然ガスの使用量、すなわち液化炭酸ガスのガス化量が減少しても、ガス圧縮機の運転調整で、エチレンプラント及び他の化学プラントで必要とする冷熱供給量を十分に供給でき、安定運転が実現できる。一方で、液化天然ガスの使用量が増加した際には、ガス圧縮機により供給すべき冷熱の一部を液化炭酸ガスの冷熱が担うために、ガス圧縮機で必要とするエネルギーを節約することが出来る。
【0031】
なお、この冷熱供給システムで冷熱を供給可能な上記の他のプラントの条件としては、まず、エチレンプラントのプロピレン冷凍機等の上記冷熱供給システムでの供給冷媒温度に近い冷熱温度を必要とするプラントであることが前提となる。例えばプロピレン冷凍機を用いる場合であると−35℃以上10℃以下程度の冷熱を必要とするものである。次に、上記の他のプラントが必要とする冷熱量が、液化炭酸ガスによる冷熱量以下であることが好ましい。液化炭酸ガスによる冷熱を直接利用すると液化炭酸ガスの全ての冷熱を利用しきれないが、上記冷熱供給システムを介することでその全てを上記の他のプラントで使用することが発明の目的だからである。また、上記の他のプラントが必要とする冷熱量は、上記冷熱供給システムによる冷熱量の3分の1以下であると、他のプラントでの運転停止時に代表される冷熱供給の変動幅に対応しやすいのでより好ましい。これらの条件を満たした上で、さらに、エチレンプラントに近接したプラントである必要がある。遠く離れていると冷熱の移送の際に失われる冷熱量が多すぎて効率が悪くなってしまうためである。このようなプラントとしては、具体的には塩化ビニルモノマープラントや、パラキシレンプラントが挙げられ、これらがエチレンプラントの近くにある場合に、この発明を好適に用いることができる。
【0032】
一方、エチレンプラントの冷熱供給システムにより液化プロピレンの供給を受ける他の化学プラントにおいては、従来から上記(1)乃至(4)工程と同様の冷熱供給システムを有していた。この発明にかかる冷熱供給システムでは、他の化学プラントは、エチレンプラントの冷熱供給システムから、必要とする冷熱量に見合った液化プロピレンの供給を受けて冷却を必要とする流体と熱交換を行い、ガス化したプロピレンガスをエチレンプラントの冷熱供給システムへ返還することにより、従来、他の化学プラントで使用していた冷熱供給システムが不要となり、設備の簡素化が図れる。また、液化炭酸ガスの供給量に応じて運転調整をする必要なく、必要な冷熱量を安定供給されることができる。
【0033】
この発明にかかる冷熱供給システムの具体的なフローを、図1を用いて説明する。まず、液化天然ガス供給プラント41での工程について説明する。液化天然ガス(LNG)Aは、LNG貯蔵タンク21からLNG移送ライン22を通じて液化炭酸ガス製造工程23に供給され、炭酸ガスB等と熱交換を実施する。その結果、液化天然ガスAは加熱されて気化する。気化した天然ガスCは天然ガス移送ライン25を通して、天然ガスCを利用する工程へ移す。一方で、液化炭酸ガスDの原料となる炭酸ガスBは液化炭酸ガス原料供給ライン26を通して液化炭酸ガス製造工程23に供給され、液化天然ガスAにより冷却され、液化炭酸ガスDが製造される。
【0034】
この液化炭酸ガスDは、液化炭酸ガス移送ライン27を通して、エチレンプラント42に送られる。エチレンプラント42内の冷熱供給システム28内に設けた液化炭酸ガス冷熱回収工程29に供給された液化炭酸ガスDは、プロピレンガスGを液化、又はさらなる冷却化をするために冷熱を供与することで、気化して炭酸ガスEとなる。この炭酸ガスEは、炭酸ガス移送ライン30を通して炭酸ガスEを利用する工程へ送られる。なお、プロピレンガスGの液化にあたっては、液化炭酸ガスDから供給される冷熱以外に、冷熱供給システム28が本来有する冷却能力によっても冷却される。
【0035】
エチレンプラント42内の冷熱供給システム28でプロピレンガスGを液化して得られた液化プロピレンHは、エチレンプラント42内の冷熱需要対象へ送るとともに、一部は液化プロピレン移送ライン31を通じて、冷熱需要を有する他の化学プラント43へ送られる。液化プロピレンHを送られた他の化学プラント43では、液化プロピレン冷熱供給工程33で、液化プロピレンが有する冷熱を冷却対象に供給してガス化し、プロピレンガスGとなる。このプロピレンガスGは、プロピレンガス返還ライン32により、他の化学プラント43からエチレンプラント42の液化炭酸ガス冷熱回収工程29に返還され、再び液化プロピレンHとなり、リサイクルされる。この結果、図3に記載の従来の方法で必要であった、冷熱需要プラント12ごとの冷熱供給システム8は不要となる。
【0036】
上記の液化炭酸ガス冷熱回収工程29と、液化プロピレン冷熱供給工程33とを組みこんだ冷熱供給システムのより詳細な冷熱のフローの例を、図2に示す。エチレンプラント42内のガス圧縮機51で圧縮されたプロピレンガスG’は、圧縮機吐出ライン52を通して、吐出ガス凝縮器53に供給され、冷却液供給ライン54から供給される冷却液Iと熱交換を行って、冷却、液化され、液化プロピレンHとなる。冷却液Iは、プロピレンガスG’の圧力により選定されるが、一般的には、海水、もしくは冷却水が使用される。液化プロピレンHは、減圧器55を経て減圧膨張することで、減圧後圧力の飽和温度まで温度が低下して液化プロピレンとプロピレンガスとの混合物H’となって、液化炭酸ガス冷熱回収工程29である液化炭酸ガス蒸発器56に供給される。
【0037】
液化炭酸ガス蒸発器56では、混合物H’と液化炭酸ガスDとで熱交換を行い、液化炭酸ガスDが有する冷熱を混合物H’に供与して、混合物H’に含まれるプロピレンガスの液化、又は液化プロピレンの過冷却を行ってさらに温度を低下させる。さらに冷却された混合物H’は、一部を除いてプロピレン蒸発器57に供給される。プロピレン蒸発器57では、プラント流体供給ライン58から供給される、エチレンプラント42内において冷却を必要とするプラント流体Jと熱交換を行い、蒸発して完全にプロピレンガスGとなる。この発明にかかる冷熱供給システムでは、このプロピレン蒸発器57によって、冷却を必要とするプラント流体Jを冷却することで、冷熱供給の役目を果たす。このプロピレン蒸発器57は、最低1器以上からなり、一般的な化学プラントで従来用いられている蒸発器と同様に、複数の蒸発器で、複数のプラント流体の冷却を行うと好ましい。プロピレン蒸発器57で蒸発したプロピレンガスGは、蒸発器出口プロピレンガスライン59を通して、ガス圧縮機51に供給され、再度圧縮されてこの冷熱供給システムをリサイクルする。
【0038】
この発明にかかる冷熱供給システムにおいて、プラント流体Jに供給できる冷熱量は、プロピレン蒸発器57へ供給するプロピレンの量及び温度、圧力条件により決定されるが、プロピレン蒸発器57での必要交換熱量は、プロセス側の要求に応じて一定となるように調整する必要があり、プロピレン流量をガス圧縮機51で調整することにより、プロセス側の必要熱量を満足させている。
【0039】
ここで、液化炭酸ガス蒸発器56での冷却により、プロピレンのプロピレン蒸発器57への供給温度が低下すると、同じプロピレン流量でもプロピレン蒸発器57で完全にプロピレンガスとする場合の蒸発熱量が増加するので、相対的にプロピレン蒸発器57へ供給するプロピレンの流量を少なくすることができ、プロピレン蒸発器57で生じるプロピレンガスGの量も低下する。この結果、ガス圧縮機51でプロピレンガスGの圧縮に必要となる動力も少なくなり、冷熱供給システム全体で必要とするガス圧縮に要するエネルギー量の削減を図ることが出来、液化炭酸ガスを気化し炭酸ガスとする際の冷熱を有効に利用することが出来る。また、液化炭酸ガスの流量、すなわち液化炭酸ガスから供給される冷熱量が変化した場合には、ガス圧縮機51の運転調整によって、この発明にかかる冷熱供給システムを循環しているプロピレンガス量を変化させ、プロピレン蒸発器57における熱交換量を所定量に保つことが可能である。なお、一般的にガス圧縮機51の運転調整は、スチーム蒸気タービン、又は電気駆動のモーターによって実施される。
【0040】
液化炭酸ガス移送ライン27から供給される液化炭酸ガスDは、液化炭酸ガス蒸発器56で、減圧器55から出た液化プロピレンとプロピレンガスとの混合物H’と熱交換を行い、プロピレンガスを液化、又は液化プロピレンを過冷却する。これにより液化炭酸ガスD自体は気化して炭酸ガスEとなり、炭酸ガス移送ライン30から、炭酸ガスEを必要とする工程へ送られる。なお、液化炭酸ガス蒸発器56において、液化炭酸ガスDを気化する条件は、前記の温度条件及び圧力条件であると好ましい。
【0041】
また、液化炭酸ガス蒸発器56を出た液化プロピレンとプロピレンガスとの混合物H’の一部は、液化プロピレン移送ライン31を通して、冷熱需要のある他の化学プラント43における、プロピレン蒸発器61に移送される。ここで混合物H’は、プロセス供給ライン62から供給される、冷却を必要とするプロセス流体Kと熱交換を行い、ガス化してプロピレンガスGとなり、プロピレンガス返還ライン32を通してガス圧縮機51に戻され、圧縮を行いリサイクルする。これにより、従来の冷熱需要がある他の化学プラント43で個別に冷熱を供給していた冷熱供給システムは不要となり、設備の簡素化が図ることができる。
【0042】
以下、この発明について実施した具体例として、小型冷熱共有システムを有する化学プラントにおいて、液化天然ガスが有する冷熱を、液化炭酸ガスを介して冷熱利用を図る場合の、従来法とこの発明にかかる冷熱供給システムを用いた方法との違いを説明する。
【0043】
例として、エチレンプラントにおける冷熱供給システムにおける冷熱供給能力を10、冷熱需要が小さい他の化学プラントにおける冷熱供給システムでの冷熱供給能力を1とする。また、液化天然ガスによる供給可能な冷熱量を、昼夜の液化天然ガス使用量変動を想定し、化学プラントにおける冷熱供給能力の0.35〜1.2とする。さらに、各々の冷熱供給システムにおいて、液化天然ガスによる利用冷熱量の変動に対応可能である変動幅は35%以下であるとする。
【0044】
従来法によると、液化天然ガスによる冷熱供給が変動しても、その変動に他の化学プラントにおける冷熱供給システムが対応しきれないために、最も少なくなった場合に合わせて、冷熱供給可能量の下限である0.35までしか利用できない。これに対して、この発明にかかる冷熱供給システムを用いた場合は、液化天然ガスの使用量が最大となっても、エチレンプラントで採用している大型冷熱供給システムで供給する冷熱量全体の12%であり、十分に変動幅の範囲内である。従って、液化天然ガスの使用量が変動しても、常に最大限に液化天然ガス由来の冷熱を利用可能である。
【0045】
また、別の例として、エチレンプラントでの必要冷熱量が1.0であり、他の化学プラントである塩化ビニルモノマープラントでの必要冷熱量が0.15で、各々冷熱供給システムを有しており、液化天然ガスでの冷熱発生量が昼夜で0.05〜0.2の間で変動する場合に、この発明にかかる冷熱供給システムを用いた例を示す。
【0046】
従来技術のように、塩化ビニルモノマープラントのみで液化天然ガスの冷熱回収を行う場合、このプラントで活用できる冷熱量は、液化天然ガスの発生量が変動しても対応できる冷熱量の範囲となるため、冷熱供給システムの全体の1/3である0.05となり、液化天然ガスの冷熱量が0.05より増加した場合でもその分の冷熱量を利用出来ない。
【0047】
これに対して、エチレンプラントで液化天然ガスの冷熱を回収して塩化ビニルモノマープラントへ冷熱を供給する場合は、エチレンプラントで回収できる液化天然ガスの冷熱量は全体の1/3である0.35であり、これは液化天然ガスの最大冷熱量0.2を上回るので、液化天然ガスの冷熱量を全て利用することができる。一方で、液化天然ガスからの冷熱供給量が仮に0、すなわち、最大値から−0.2減少し、塩化ビニルモノマープラントの必要冷熱量の0.15と合わせて、冷熱供給システムが負担する冷熱の変動幅が最大となっても、合計して−0.35であり、これは対応できる範囲の変動幅である。なお、エチレンプラントから塩化ビニルモノマーへ冷熱供給を行う場合には、−30℃程度のプロピレンで行うと好ましい。
【0048】
さらに、従来法では、冷熱需要の小さい化学プラントで冷熱供給システムを維持することが必要となるが、この発明にかかる冷熱供給システムでは不要となり、設備維持費を節約でき、大型のシステムに集約することで細かいエネルギーロスを避けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明にかかるシステムのフロー例を示す図
【図2】この発明にかかるシステムの液化プロピレンの詳細なフロー例を示す図
【図3】冷熱を必要とする従来のプラントにおける冷熱利用のフロー例を示す図
【符号の説明】
【0050】
1,21 LNG貯蔵タンク
2,22 LNG移送ライン
3,23 液化炭酸ガス製造工程
4 液化天然ガス蒸発器
5,25 天然ガス移送ライン
6,26 液化炭酸ガス原料供給ライン
7,27 液化炭酸ガス移送ライン
8,28 冷熱供給システム
9,29 液化炭酸ガス冷熱回収工程
10,30 炭酸ガス移送ライン
11,41 液化天然ガス供給プラント
12 冷熱需要プラント
13 海水ライン
31 液化プロピレン移送ライン
32 プロピレンガス返還ライン
33 液化プロピレン冷熱供給工程
42 エチレンプラント
43 他の化学プラント
51 ガス圧縮機
52 圧縮機吐出ライン
53 吐出ガス凝縮器
54 冷却液供給ライン
55 減圧器
56 液化炭酸ガス蒸発器
57 プロピレン蒸発器
58 プラント流体供給ライン
59 蒸発器出口プロピレンガスライン
61 プロピレン蒸発器
62 プロセス供給ライン
a,A 液化天然ガス
b,B 炭酸ガス
c,C 天然ガス
d,D 液化炭酸ガス
e,E 炭酸ガス
f 海水
G,G’ プロピレンガス
H 液化プロピレン
H’ (液化プロピレンとプロピレンガスとの)混合物
I 冷却液
J プラント流体
K プロセス流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンの(1)ガスの圧縮、(2)冷却による液化及び/又は過冷却、(3)減圧膨張、(4)冷熱の供与による蒸発、の各工程を順に繰り返す、プロピレンによる冷熱供給システムであって、
液化天然ガスの冷熱を二酸化炭素ガスに吸収させて液化した液化二酸化炭素を、圧力がゲージ圧力で0.52MPa以上、3MPa以下、温度が−55℃以上、−10℃以下の状態で、エチレンプラント内で行う前記工程(2)における冷却の際に用いる冷媒の少なくとも一部として用い、
冷却により液化したプロピレンの一部を、前記エチレンプラント外の他の化学プラントに移送して、前記他の化学プラントにおける冷却システムの冷媒として用いて前記工程(4)を行い、前記他の化学プラントにおける冷却システムでガス化したプロピレンを前記エチレンプラント内に戻して、前記(1)乃至(4)の各工程を繰り返す、液化天然ガスの冷熱を利用したプロピレンによる冷熱供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−225143(P2007−225143A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43954(P2006−43954)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(502053100)石油コンビナート高度統合運営技術研究組合 (72)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(500280076)ヴイテック株式会社 (8)
【Fターム(参考)】