説明

冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法

【課題】熱間圧延時の硬さムラに起因して発生する鋼板先端部100m程度に対する周期の短いゲージ変動(板厚変動)が抑制され、冷間圧延後の板厚精度に優れた高炭素熱延鋼板を得ることができる冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造に際し、熱間圧延、次いで、焼鈍を施した後、圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与することを特徴とする冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法に関するものである。なお、ここでいう高炭素熱延鋼板とは、Cを0.08〜1.5質量%含有した熱延鋼板のことであり、例えば、下記の規格で規定される熱延鋼板である。
【0002】
・JIS G 4401 炭素工具鋼鋼材
・JIS G 4405 合金工具鋼鋼材
・JIS G 4051 機械構造用炭素鋼鋼材
・JIS G 4053 機械構造用合金鋼鋼材
・JIS G 4805 高炭素クロム軸受鋼鋼材
・JIS G 4801 ばね鋼鋼材
・SAE J 403 Chemical Compositions of SAE Carbon Steels
・SAE J 404 Chemical Compositions of SAE Alloy Steels
【背景技術】
【0003】
従来、冷間圧延後に高度な板厚精度(例えば、板厚公差が±20μm)を要求される高炭素鋼板の素材となる熱延鋼板(冷間圧延用高炭素熱延鋼板)を得るために、各種の技術が実施されている。
【0004】
例えば、特許文献1においては、熱間圧延された冷間圧延用高炭素熱延鋼板に焼鈍を施すに際して、加熱・均熱後の冷却速度を15℃/時間以下、脱炉温度を630℃以下とする焼鈍を行うようにしている。これによって、熱延鋼板の焼鈍ムラに起因するゲージ変動(板厚変動)を低減しようとしている。
【0005】
また、熱間圧延における巻き取り温度を高温にすることもよく行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−285242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高炭素鋼板の製造においては、熱間圧延中に鋼板の先端部100m程度に発生した硬さムラによる周期の短いゲージ変動(板厚変動)に起因して、冷間圧延後の高炭素鋼板(高炭素冷延鋼板)の先端部に板厚変動が生じることが多い。図2は、そのような高炭素冷延鋼板の先端部に生じる板厚変動の一例を示している。鋼板先端部の板厚変動幅が非常に大きくなっている。
【0008】
そして、このように鋼板先端部の板厚変動幅が大きくなり、要求される板厚公差を外れた場合には、その部分を切り捨てることとなり、歩留の低下を招くことになる。
【0009】
これに対して、特許文献1に記載の技術は、熱間圧延後の高炭素鋼板の焼鈍ムラに起因するゲージ変動を低減しようとしたものであり、熱間圧延中に高炭素鋼板の先端部に発生する短周期のゲージ変動の抑制には、効果が不明である。
【0010】
また、熱間圧延における巻き取り温度を高温にするのは、熱間圧延後の高炭素鋼板の表層に粒界酸化や脱炭が発生するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、冷間圧延後の板厚精度に優れた高炭素熱延鋼板を得ることができる冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0013】
[1]冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造に際し、熱間圧延、次いで、焼鈍を施した後、圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与することを特徴とする冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、冷間圧延時に、熱間圧延時の硬さムラに起因して発生する板厚変動が抑制される。特に、熱間圧延時に硬さムラが発生しやすい鋼板先端部100m程度に対する板厚変動の抑制効果が顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高炭素冷延鋼板の板厚チャートの一例である。
【図2】焼鈍後の軽圧下による高炭素冷延鋼板の板厚変動幅の抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を述べる。
【0017】
本発明の一実施形態においては、熱間圧延機で熱間圧延、次いで、焼鈍炉で焼鈍を施した後、軽圧下冷間圧延機(例えば、スキンパスミル)で圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与して高炭素熱延鋼板を製造・出荷するようにしている。そして、その高炭素熱延鋼板を購入した顧客が冷間圧延機(例えば、リバース式冷間圧延機)で冷間圧延を行う。
【0018】
ここで、図1は、熱間圧延機で熱間圧延、次いで、焼鈍炉で焼鈍を施した後、軽圧下冷間圧延機で圧下率を変化させて軽圧下を行って冷間圧延用の高炭素熱延鋼板を製造し、それらの高炭素熱延鋼板を冷間圧延機で冷間圧延した後の板厚変動幅を示している。
【0019】
図1に示すように、焼鈍後の鋼板に圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与することで、その後の冷間圧延による板厚変動幅が抑制されることを示している。
【0020】
なお、上記したように、焼鈍後の鋼板に軽圧下を付与することで、その後の冷間圧延による板厚変動が抑制される理由は明らかではないが、軽圧下の圧延にて歪を付与することで、鋼板内の軟質な部分が特に大きく歪付与の影響を受け、鋼板内の硬さムラが軽減される結果、その後の冷間圧延の圧下が均等に行われ、板厚変動が抑制されるものと考えられる。
【0021】
ちなみに、圧下率が1.0%未満であると、熱間圧延時の硬さムラの軽減が不充分であり、圧下率が5.0%を超えると、熱間圧延時の硬さムラにより、板厚変動が大きくなるため、圧下率は1.0〜5.0%が最適である。
【0022】
なお、この実施形態では、熱間圧延機で熱間圧延、次いで、焼鈍炉で焼鈍を施した後、軽圧下冷間圧延機(例えば、スキンパスミル)で圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与して高炭素熱延鋼板を製造・出荷し、その高炭素熱延鋼板を購入した顧客が冷間圧延機(例えば、リバース式冷間圧延機)で冷間圧延を行うようにしているが、熱間圧延機で熱間圧延、次いで、焼鈍炉で焼鈍を施して高炭素熱延鋼板を製造・出荷し、その高炭素熱延鋼板を購入した顧客が冷間圧延機(例えば、リバース式冷間圧延機)で、まず、圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与してから、通常の冷間圧延を行うようにしてもよい。
【実施例1】
【0023】
熱間圧延、次いで、焼鈍を施した後、軽圧下を付与して高炭素熱延鋼板を製造した。そして、その高炭素熱延鋼板を冷間圧延して高炭素冷延鋼板を製造した。
【0024】
その際に、本発明例では、焼鈍後に付与する軽圧下の圧下率を1.0〜5.0%とした。一方、比較例では、焼鈍後に付与する軽圧下の圧下率を1.0%未満または5.0%超えとした。
【0025】
冷間圧延後の板厚変動幅を表1に示す。なお、高炭素冷延鋼板の一般的な板厚公差は±20μmであることから、冷間圧延後の板厚変動幅が40μmを超えていると、その部分は切り捨てることになる。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、比較例では、冷間圧延後の板厚変動幅が40μmを超えているのに対して、本発明例では、冷間圧延後の板厚変動幅が40μm未満である。
【0028】
これによって、本発明の有効性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造に際し、熱間圧延、次いで、焼鈍を施した後、圧下率1.0〜5.0%の軽圧下を付与することを特徴とする冷間圧延用高炭素熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−130943(P2012−130943A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285623(P2010−285623)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】