説明

凍結薄切片作製装置

【課題】正確な診断を可能にする凍結薄切片作製装置を提供することを目的としている。
【解決手段】冷凍装置1内に設けられ、且つ、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である試料21と、該試料21が含有する水分を過冷却状態とするようなマイクロ波を前記試料21に照射可能なマイクロ波照射部28と、前記試料21の温度を検知する温度センサ24と、該温度センサ24にて検知した温度に基づいて前記マイクロ波照射部28にて照射されるマイクロ波を可変してなるマイクロ波生成部25とを有してなる凍結装置2と、前記冷凍装置1内に設けられ、且つ、前記凍結装置2を用いて凍結させた試料21を薄切可能な薄切装置3とを有してなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体等から採取した生体組織又は生体細胞を迅速に凍結し、且つ、薄切する凍結薄切片作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科手術において、術中に、短時間で病変部の性質(腫瘍が良性か悪性か)を判断したり、あるいは、病変部が残されていないかなどを判断したりする「術中迅速病理診断」という診断方法が一般的に採用されている。この術中迅速病理診断方法は、まず、術中に人体等から採取した生体組織又は生体細胞である試料を、OCTコンパウンド等の水溶性の凍結用包理剤で包理して標本を作製する。そして、その作製した標本を、クリオスタットという装置を用いて凍結させた上で薄切する。クリオスタットとは薄切用ミクロトームをマイナス10℃からマイナス30℃程度の冷凍装置内に設置し、冷凍下で上記標本を薄切する装置である。
【0003】
このようにクリオスタットを用いて、薄切した上記凍結標本をスライドガラスに貼り付け、その貼り付け後、10%ホルマリン等の固定液を用いて、上記スライドガラスに固定させる。固定後、水洗い作業を行い、凍結用包理剤を取り除き、その上でHE染色等の染色作業を行う。そして、染色された薄切試料を顕微鏡で観察する。これにより、病変部の性質(腫瘍が良性か悪性か)を判断したり、あるいは、病変部が残されていないかなどを判断したりするというのが術中迅速病理診断方法である。なお、上記試料の薄切方法として、他にパラフィン切片という方法が存在するが、この方法は早くても3〜4時間、通常は72時間と時間がかかるため、術中迅速病理診断には不向きな方法である。また、特許文献1には臓器等を凍結保存する発明が開示されているが、この発明は長期保存を目的とした発明であり、短時間で凍結を行い診断する術中迅速病理診断には不向きな発明である。
【0004】
ここで、上記説明した術中迅速病理診断方法にて使用される薄切試料を作製したものを図5及び図6に示す。図5及び図6に示す薄切試料の作製方法は、まず、ラットの肝臓の生体細胞を採取し、OCTコンパウンド(サクラファインテックUSA社製)の凍結用包理剤で包理して標本を作製した。そして、その作製した標本を、クリオスタット(サーモエレクトロン株式会社製のクリオトームFSE)内に載置し、マイナス10℃からマイナス20℃程度の冷凍下で10μmに薄切した。その薄切後、その薄切した凍結標本をスライドガラスに貼り付け、10%ホルマリンの固定液を用いてスライドガラス上に固定した。そして、水洗い作業を行った上で、HE染色し、図5及び図6に示す染色された薄切試料を作製した。このように作製した薄切試料を検鏡する際に、4倍に弱拡大した写真が図5であり、10倍に強拡大した写真が図6である。
【0005】
この図5及び図6を見れば明らかなように、多数の空隙Sが存在しており、中には空隙S内に細胞核Kが存在しているものもある。この空隙Sは、細胞が含有する水分が凍ったもの、すなわち氷であり、そして、その氷の中に細胞核Kが存在するということは、細胞室が水の凍結によって破壊されたと言うことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−251498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このように空隙Sが多数存在し、凍結によって細胞室が破壊された原因は、細胞内に含有されている水分が徐々に凍結されることにより、その水の体積が膨張して凍結されたためだと考えられる。このように細胞を凍結させることで、水の体積が膨張することが原因で、以下のような問題が生じていた。
【0008】
すなわち、第1に、生体に近い状態で診断することができないため、例えば脂肪と氷の区別が付かない等の理由から誤診を招く恐れがあった。そして、第2に、凍結標本を薄切する際に薄切にばらつきが生じ、場合によっては細胞組織を破壊してしまい正確な診断ができないという問題があった。さらに、第3に、HE染色等を行った際、染色性が悪く、それゆえ正確な診断ができないという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記事情に鑑み、正確な診断を可能にする凍結薄切片作製装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る凍結薄切片作製装置を、図面の参照符号を付して示せば、冷凍室(冷凍装置1)内に設けられ、且つ、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である試料21と、該試料21が含有する水分を過冷却状態とするようなマイクロ波を前記試料21に照射可能なマイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)と、前記試料21の温度を検知する温度センサ24と、該温度センサ24にて検知した温度に基づいて前記マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)にて照射されるマイクロ波を可変してなるマイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)とを有してなる凍結装置2と、前記冷凍室(冷凍装置1)内に設けられ、且つ、前記凍結装置2を用いて凍結させた試料21を薄切可能な薄切装置3とを有してなることを特徴としている。
【0011】
一方、請求項2に係る凍結薄切片作製装置は、冷凍室(冷凍装置1)内に設けられ、且つ、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である複数の試料21と、該各試料21が含有する水分を過冷却状態とするようなマイクロ波を前記各試料に夫々照射可能なマイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)と、前記各試料21の温度を夫々検知する温度センサ24と、該各温度センサ24にて検知した温度に基づいて前記各マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)にて照射されるマイクロ波を夫々可変してなるマイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)とを有してなる凍結装置2と、前記冷凍室(冷凍装置1)内に設けられ、且つ、前記凍結装置2を用いて凍結させた複数の試料21を薄切可能な薄切装置3とを有してなることを特徴としている。
【0012】
また、請求項3の発明は、上記請求項1又は2に記載の凍結薄切片作製装置において、前記凍結装置2は、さらに、前記マイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)にて出力されるマイクロ波を受信し、その受信したマイクロ波を前記マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)に出力すると共に、該マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)にて前記試料21に照射したマイクロ波の反射波を受信することで電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)を計測する電力モニタ手段(電力モニタ部27)を有し、前記マイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)は、前記電力モニタ手段(電力モニタ部27)にて計測した電圧定在波比(VSWR)及び前記温度センサ24にて検知した温度に基づいて前記マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)にて照射されるマイクロ波を可変してなることを特徴としている。
【0013】
そして、請求項4の発明は、上記請求項3に記載の凍結薄切片作製装置において、前記試料21が含有する水分の過冷却状態を解除するように前記試料21に前記マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)を用いてマイクロ波を照射し、該マイクロ波の反射波を前記電力モニタ手段(電力モニタ部27)にて受信し、その受信した反射波を計測することで、前記試料21の凍結状態を確認可能であることを特徴としている。
【0014】
さらに、請求項5の発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の凍結薄切片作製装置において、前記凍結装置2は、さらに前記試料21の凍結を検知する凍結センサを有してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。まず請求項1の発明にかかる凍結薄切片作製装置では、冷凍室(冷凍装置1)内に、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である試料21を載置し、その試料21の温度を温度センサ24で検知している。そして、その検知した温度に基づいてマイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)にてマイクロ波を可変させて、マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)に出力し、そのマイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)は試料21にマイクロ波を照射している。そのため、本発明によれば、試料の温度を一定に保つようにマイクロ波を照射することができるため、当該試料の組織を破壊するようなマイクロ波を上記試料に照射するようなことがない。
【0016】
また一方、マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)は、試料21が含有する水分が過冷却状態となるようなマイクロ波を照射することができる。それゆえ、試料21が含有する水分が過冷却状態となった後、上記マイクロ波の照射を解除させれば、試料21が含有する水分が瞬時に凍結することとなる。
【0017】
しかして、本発明によれば、試料21が凍結する際に発生する水の体積の膨張を防ぐことができるため、薄切装置3用いてその凍結した試料を薄切すれば、組織破壊がない新鮮な凍結薄切片を作製することができる。それゆえ、本発明によれば、正確な診断が可能となる。
【0018】
一方、請求項2の発明にかかる凍結薄切片作製装置では、複数の試料21が設けられ、その各試料21の温度は、夫々温度センサ24で検知され、又、その各試料21夫々には、マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)によってマイクロ波が照射されている。また、上記各マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)から照射されるマイクロ波は、夫々、上記各温度センサ24にて検知した夫々の温度に基づいてマイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)にて生成されている。そのため、本発明によれば、請求項1に記載の効果に加え、複数の試料21の凍結作業を同時に行うことができるため、作業が非常に簡便となるという効果も奏する。
【0019】
また、請求項3の発明によれば、VSWRを計測できる電力モニタ手段(電力モニタ部27)を有し、その電力モニタ手段(電力モニタ部27)にて計測したVSWR及び温度センサ24にて検知した温度に基づいてマイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)にて照射されるマイクロ波を可変しているから、より高精度なマイクロ波をマイクロ波生成手段(マイクロ波生成部25)より出力させることができる。それゆえ、本発明によれば試料が含有する水分を確実に過冷却状態にすることができる。
【0020】
そして、請求項4の発明によれば、前記試料21が含有する水分の過冷却状態を解除するように前記試料21に前記マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)を用いてマイクロ波を照射し、該マイクロ波の反射波を前記電力モニタ手段(電力モニタ部27)にて受信し、その受信した反射波を計測している。しかして、試料21が凍結すると、マイクロ波を吸収しにくくなるため、電力モニタ手段(電力モニタ部27)にて受信した反射波を計測することで試料21が凍結したか否かを確認することができる。そのため、冷凍室内の試料の凍結状態を遠隔地で確認することができる。
【0021】
一方、請求項5の発明によれば、前記試料21の凍結を検知する凍結センサを新たに設けているから、マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)から照射されるマイクロ波を別途操作する必要がなくなるため、操作が簡便となる。
【0022】
なお、本明細書における、前記試料21が含有する水分の過冷却状態を解除するように前記試料21に前記マイクロ波照射手段(マイクロ波照射部28)を用いてマイクロ波を照射するとは、マイクロ波照射部28から照射されるマイクロ波を一旦停止し、所定時間経過後に再度マイクロ波照射部28からマイクロ波を照射させる場合、あるいは、試料21に含有する水分子の配列が不規則とならないような微弱なマイクロ波を照射させる場合等を全て含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る凍結薄切片作製装置のブロック図である。
【図2】(a)〜(c)は薄切装置を使用して凍結標本を薄切する手順を示した図である。
【図3】実施例において、同実施形態に係る凍結薄切片作製装置を用いて作製した薄切試料を4倍に弱拡大した写真である。
【図4】図3の薄切試料を10倍に強拡大した写真である。
【図5】従来の術中迅速病理診断にて用いられる装置を用いて作製した薄切試料を4倍に弱拡大した写真である。
【図6】図5の薄切試料を10倍に強拡大した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る一実施形態について、図1及び図2を参照して具体的に説明する。
【0025】
本実施形態に係る凍結薄切片作製装置は、図1に示すように、冷凍装置1と、凍結装置2と、薄切装置3とで構成されている。冷凍装置1は、図示はしないが外部の冷凍機(圧縮機、凝縮器等)と冷凍配管で連結することで冷凍サイクルを構成し、室内をマイナス60℃程度まで設定可能なものである。
【0026】
一方、凍結装置2は、前記冷凍装置1内に設けられている複数の標本室20(図示では2つ)を有し、その各標本室20内には、夫々、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である試料21を包理するOCTコンパウンド等の水溶性の凍結用包理剤22からなる標本23が載置されている。そして、その各標本23には、夫々、先端部が鋭利に尖っている温度センサ24が埋設され、その各温度センサ24によって上記各標本23の温度が夫々検知されている。より詳しくは、標本23の凍結用包理剤22の温度を検知することで、その凍結用包理剤22に包理されている試料21の温度が間接的に検知されている。なお、本実施形態においては、間接的に試料21の温度を検知する例を示したが、温度センサ24の先端部を試料21の表面に接触させ、直接的に試料21の温度を検知しても良い。なおまた、本実施形態においては、より確実に試料21を凍結させるため、凍結用包理剤22を用いたものを例示したが、凍結用包理剤を用いなくても良い。
【0027】
上記のように各温度センサ24によって検知された温度はマイクロ波生成部25に出力される。そして、出力された温度に基づいてマイクロ波生成部25は、上記各試料21の温度を一定に保つために、マイクロ波を略連続的に可変させて、時間的に連続したマイクロ波(時間的に断続的でないマイクロ波(出力が0となる時間が連続しないマイクロ波))を出力させる。なお、「略連続的」とは、所定の割合(例えば一定の割合)で低周波数・低出力から高周波数・高出力に多段階で変更できることを意味し、例えば、1MHz単位ごとに周波数を変更できるものを含む趣旨である。
【0028】
このようにマイクロ波生成部25からは、上記各試料21に対応するマイクロ波が夫々出力され、その出力された各マイクロ波は、夫々マイクロ波増幅部26によって増幅され電力モニタ部27に出力される。そして、各電力モニタ部27は、スロットアンテナやモノポールアンテナ等からなるマイクロ波を照射するマイクロ波照射部28に夫々上記増幅されたマイクロ波を出力する。さらに、各電力モニタ部27は、上記各マイクロ波照射部28から出力される反射波を夫々受信し、その受信した各反射波に基づいてVSWRを夫々計測し、その計測した各VSWR値をマイクロ波生成部25に出力する。
【0029】
ところで、上記VSWR値を受信したマイクロ波生成部25は、そのVSWR値及び各温度センサ24によって検知した試料21の夫々の温度に基づいて可変させたマイクロ波を出力させることができる。これにより、より高精度なマイクロ波を出力させることができるため、後述する試料21が含有する水分を確実に過冷却状態にすることができる。
【0030】
一方、各マイクロ波照射部28は、夫々、各標本23の試料21の下面部に沿うように設けられ、各試料21に含有する水分子の配列が不規則となるようにマイクロ波を夫々照射させる。これにより、各試料21が含有する水分子の配列が夫々不規則となるため、各試料21が含有する水分が水の凝固点である0℃に達しても夫々凍結せず過冷却状態となる。
【0031】
このように各試料21が含有する水分を過冷却状態とした後、マイクロ波生成部25を用いて、各マイクロ波照射部28から照射されるマイクロ波を夫々停止させるか、あるいは、各試料21に含有する水分子の配列が不規則とならないような微弱なマイクロ波を夫々照射させる。これにより、各試料21が含有する水分が夫々瞬時に凍結する。そのため、試料21が凍結する際に発生する水の体積の膨張を防ぐことができる。
【0032】
また、マイクロ波生成部25を用いて、マイクロ波照射部28から照射されるマイクロ波を停止させた後、一定時間経過後、再び上記各試料21にマイクロ波を照射させるか、あるいは、各試料21に含有する水分子の配列が不規則とならないような微弱なマイクロ波を上記各試料21に夫々照射させる。これにより、その各試料21に照射させたマイクロ波の反射波が各マイクロ波照射部28を介して夫々電力モニタ部27に出力される。しかして、試料21が凍結すると、その試料21はマイクロ波を吸収しにくくなるため、電力モニタ部27にて受信した反射波を計測することで試料21が凍結したか否かを確認することができる。そのため、冷凍装置1内の試料21の凍結状態を遠隔地で確認することができる。なお、本実施形態においては、電力モニタ部27及びマイクロ波照射部28を用いて試料21の凍結を確認したが、新たに超音波センサや光センサ等を用いた凍結センサを設けても良い。このように新たな凍結センサを設けることで、マイクロ波照射部28から照射されるマイクロ波を別途操作する必要がなくなるため、操作が簡便となる。なおまた、図1に示す符号29は、液晶等からなる表示部であり、マイクロ波生成部25を介して温度センサ24にて検知した温度を表示したり、又は、電力モニタ部27にて計測したVSWR値を表示したり、あるいは、電力モニタ部27にて計測した上記反射波を表示したりするものである。
【0033】
一方、薄切装置3は、公知のロータリーミクロトームからなるもので、上記冷凍装置1内に載置されている。このロータリーミクロトームは、上記凍結装置2にて凍結させた標本23を、厚さ数ミクロン(例えば、5μm〜10μm程度)に薄切することができる。より詳しくは、図2を参照して具体的に説明する。
【0034】
このロータリーミクロトームは、図2(a)に示すように、凍結させた標本23をナイフ30の刃先30aに対して矢印31の方向に送ることで、凍結させた標本23の薄切を開始する。そして、図2(b)に示すように、凍結させた標本23の主面とほぼ平行に刃先30aを相対的に移動させると、厚さ数ミクロンに薄切し薄切凍結標本40を作製する。これを繰り返すことにより、図2(c)に示すように、連続的に薄切凍結標本40を作製することができる。なお、本実施形態において、薄切装置3は、公知のロータリーミクロトームを用いたが、それに限らず、標本あるいは試料を薄切できる装置であればどのような装置を用いても良い。
【0035】
このように作製された薄切凍結標本40は、従来と同様、スライドガラスに貼り付けられ、10%ホルマリン等の固定液を用いて、上記スライドガラスに固定される。そして固定後、水洗い作業を行い、凍結用包理剤22を取り除いた上でHE染色等の染色作業を行い検鏡すれば、術中迅速病理診断を行うことができる。
【0036】
しかして、本実施形態によれば、冷凍装置1内に、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である試料21を載置し、その試料21の温度を温度センサ24で検知している。そして、その検知した温度に基づいてマイクロ波生成部25にてマイクロ波を可変させて、マイクロ波照射部28に出力し、そのマイクロ波照射部28は試料21にマイクロ波を照射している。そのため、本実施形態によれば、試料21の温度を一定に保つようにマイクロ波を照射することができるため、当該試料21の組織を破壊するようなマイクロ波を試料21に照射するようなことがない。
【0037】
また一方、マイクロ波照射部28は、試料21が含有する水分子の配列が不規則となるようなマイクロ波を照射することで、試料21が含有する水分子を過冷却状態とすることができる。それゆえ、試料21が含有する水分子が過冷却状態となった後、マイクロ波生成部25を用いて、マイクロ波照射部28から照射されるマイクロ波を停止させるか、あるいは、試料21に含有する水分子の配列が不規則とならないような微弱なマイクロ波を照射させれば、試料21が含有する水分が瞬時に凍結することとなる。
【0038】
しかして、本実施形態によれば、試料21が凍結する際に発生する水の体積の膨張を防ぐことができるため、ロータリーミクロトーム等からなる凍結装置3を用いて上記凍結した試料21を薄切すれば、組織破壊がない新鮮な凍結薄切片を作製することができる。それゆえ、本実施形態によれば、正確な診断が可能となる。
【0039】
また本実施形態によれば、複数の試料21(図示では2つ)が設けられ、その各試料21の温度は、夫々温度センサ24で検知され、又、その各試料21夫々には、マイクロ波照射部28によってマイクロ波が照射されている。また、上記各マイクロ波照射部28から照射されるマイクロ波は、夫々、上記各温度センサ24にて検知した夫々の温度に基づいてマイクロ波生成部25にて生成されている。そのため、本実施形態によれば、複数の試料21の凍結作業を同時に行うことができるため、作業が非常に簡便となる。
【0040】
なお、本実施形態においては、本実施形態に係る凍結薄切片作製装置を術中迅速病理診断にて使用する方法を例示したが、その凍結薄切片作製装置は、in situ ハイブリダイゼーション(ISH)法、in situ RT−PCR法、核 run‐on アッセイ法、マイクロダイセクション法、組織アレイによる遺伝子発現解析法、免疫組織化学染色(蛍光抗体法、酵素抗体法)等のバイオテクノロジーにも応用可能である。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を用いて、本発明を更に詳しく説明する。
【0042】
本実施例では、上記実施形態に係る凍結薄切片作製装置のうち、標本室20、温度センサ24、マイクロ波増幅部26、電力モニタ部27、スロットアンテナからなるマイクロ波照射部28を夫々1つずつ設けた。そして、標本室20内に、ラットから採取した肝臓の生体細胞である試料を載置し、その試料に30Wのマイクロ波を照射した。一方、冷凍装置2の室温としては、マイナス10℃からマイナス20℃程度の室温に設定した。
【0043】
この状態で、上記試料に30Wのマイクロ波を3分間照射させた後、マイクロ波生成部25を用いてそのマイクロ波の照射を停止させ、上記試料を凍結させた。そして、その試料が凍結したことを確認した後、ロータリーミクロトームからなる薄切装置3を用いて10μmに薄切し、その薄切した凍結切片をスライドガラスに貼り付け、10%ホルマリンの固定液を用いてスライドガラス上に固定した。その固定後、HE染色を行い検鏡した結果が図3及び図4である。図3は、4倍に弱拡大した写真であり、図4は、10倍に強拡大した写真である。
【0044】
図3及び図4と図5及び図6を比較すれば明らかなように、図3及び図4では、細胞核Kが氷内に存在せず、細胞室内に存在している。そのため、水分の膨張により細胞室が破壊されていないことが分かる。
【0045】
したがって、本発明の凍結薄切片作製装置によれば、生体に近い状態で診断することができ、しかも、薄切にばらつきが生じることがないため細胞組織を破壊することもなく、さらには、染色性が良いため正確な診断が可能であると言える。
【符号の説明】
【0046】
1 冷凍装置
2 凍結装置
3 薄切装置
21 試料
24 温度センサ
25 マイクロ波生成部(マイクロ波生成手段)
27 電力モニタ部(電力モニタ手段)
28 マイクロ波照射部(マイクロ波照射手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍室内に設けられ、且つ、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である試料と、該試料が含有する水分を過冷却状態とするようなマイクロ波を前記試料に照射可能なマイクロ波照射手段と、前記試料の温度を検知する温度センサと、該温度センサにて検知した温度に基づいて前記マイクロ波照射手段にて照射されるマイクロ波を可変してなるマイクロ波生成手段とを有してなる凍結装置と、
前記冷凍室内に設けられ、且つ、前記凍結装置を用いて凍結させた試料を薄切可能な薄切装置とを有してなることを特徴とする凍結薄切片作製装置。
【請求項2】
冷凍室内に設けられ、且つ、人体等から採取される生体組織又は生体細胞である複数の試料と、該各試料が含有する水分を過冷却状態とするようなマイクロ波を前記各試料に夫々照射可能なマイクロ波照射手段と、前記各試料の温度を夫々検知する温度センサと、該各温度センサにて検知した温度に基づいて前記各マイクロ波照射手段にて照射されるマイクロ波を夫々可変してなるマイクロ波生成手段とを有してなる凍結装置と、
前記冷凍室内に設けられ、且つ、前記凍結装置を用いて凍結させた複数の試料を薄切可能な薄切装置とを有してなることを特徴とする凍結薄切片作製装置。
【請求項3】
前記凍結装置は、さらに、前記マイクロ波生成手段にて出力されるマイクロ波を受信し、その受信したマイクロ波を前記マイクロ波照射手段に出力すると共に、該マイクロ波照射手段にて前記試料に照射したマイクロ波の反射波を受信することで電圧定在波比を計測する電力モニタ手段を有し、
前記マイクロ波生成手段は、前記電力モニタ手段にて計測した電圧定在波比及び前記温度センサにて検知した温度に基づいて前記マイクロ波照射手段にて照射されるマイクロ波を可変してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の凍結薄切片作製装置。
【請求項4】
前記試料が含有する水分の過冷却状態を解除するように前記試料に前記マイクロ波照射手段を用いてマイクロ波を照射し、該マイクロ波の反射波を前記電力モニタ手段にて受信し、その受信した反射波を計測することで、前記試料の凍結状態を確認可能であることを特徴とする請求項3に記載の凍結薄切片作製装置。
【請求項5】
前記凍結装置は、さらに前記試料の凍結を検知する凍結センサを有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の凍結薄切片作製装置。
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232299(P2011−232299A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105483(P2010−105483)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(595081770)
【出願人】(501429427)株式会社サニーエンヂニアリング (5)
【Fターム(参考)】