説明

凝固センサ

【課題】
液体の凝固状態を高精度でリアルタイムに計測でき、小型かつ低消費電力な凝固センサを提供する。
【解決手段】
液体を吸収可能な部材で構成された液体吸収部4と、液体吸収部4に接続された基板2と、基板2のひずみを測定するひずみセンサ1とを備え、液体吸収部4に吸収された液体の凝固時の体積変化によって基板2にひずみを生じさせ、そのひずみをひずみセンサ1で検知することにより液体の凝固を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の凝固状態を検知するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体の凝固状態を測定する技術として、液体の入った容器に光ファイバを設け、液体の相転移に伴う容器の膨張を光ファイバの中を通る光の変化から検出する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−3889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来技術では、光源と測定器が必要であり、装置が大型化してしまうという問題がある。また、ワイヤレスで凝固状態を検知しようとすると、センサを電池で駆動させる必要があるが、開示されているセンサの場合、消費電力が大きいために、電池駆動することができないという問題がある。
【0005】
また、凝固が予測される温度を検出することで、間接的に凝固状態を検知する方法もあるが、この場合、過冷却現象や不純物が含まれて融点が変化した場合には正確な測定が難しいという問題がある。
【0006】
よって、本発明の目的は、液体の凝固状態を高精度でリアルタイムに計測でき、小型かつ低消費電力な凝固センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、液体を吸収可能な部材で構成された液体吸収部4と、液体吸収部4に接続された基板2と、基板2のひずみを測定するひずみセンサ1とを備えた凝固センサとすることにより解決することができる。この凝固センサは、液体吸収部4に吸収された液体の凝固時の体積変化によって基板2にひずみを生じさせ、そのひずみをひずみセンサ1で検知することにより液体の凝固を検知する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記液体吸収部に吸収された液体が、温度の低下により液体から固体へ相転移した際に体積変化が生じる。この体積変化に伴い液体吸収部の長さが変化し、液体吸収部と接続されている基板にひずみが生じるため、このひずみ変化をひずみセンサにより高精度に検出することが可能であり、ひずみ変化と対応している液体の凝固状態を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、本発明における第1の実施形態を図1により説明する。
【0011】
本実施形態による凝固センサの主要部の断面図を図1に示す。
【0012】
図1に示す本実施形態の凝固センサにおいては、基板2の一方の面2aに少なくともひずみセンサ1が接着層3を介して設けられ、基板2のもう一方の面2bに、液体吸収部4が接続部5を介して基板2と接続されるように設けられている。この凝固センサを、凝固状態検出対象である液体に液体吸収部4が浸るように設置する。
【0013】
本実施形態によれば、液体吸収部4に吸収された液体が、温度の低下により液体から固体へ相転移した際に体積変化が生じる。液体が潜熱蓄熱材の場合には、体積が収縮し、この体積変化に伴い液体吸収部4の長さが変化し、液体吸収部4と接続されている基板2にひずみが生じるため、このひずみ変化をひずみセンサ1により高精度に検出することが可能となる。
【0014】
液体を冷却していくと、液体の凝固とともに液体吸収部4が収縮し、それに伴い基板2がUの字に変形する。この基板変形量は凝固率増加に伴い大きくなる。本実施形態による凝固センサの測定結果を、図6に示す。時間の経過とともに測定対象が液体から固体へ相転移したときの基板のひずみを測定した結果、凝固開始とともにひずみの増加が始まり、凝固完了後はひずみが一定になることが分かる。このように凝固状態とひずみ量との関係より、液体の凝固状態をリアルタイムで計測することが可能である。
【0015】
また、温度を上昇させたときに基板2のひずみが減少するのを検知すれば、凝固して固体状態となったものが融解して液体に戻る相転位を検知することができる。
【0016】
なお、測定対象の液体が水のように凝固により体積が増加する液体である場合にも、本発明の凝固センサは使用可能である。この場合、液体の状態で図1のように基板2にひずみがない状態にしておくと、凝固が生じて液体吸収部4が伸びたときに、液体吸収部4が外側にたわんでしまい、基板2にひずみが生じなくなることが懸念される。そのため、基板2と液体吸収部4は、液体吸収部4の体積が大きい状態で形状を調整する必要がある。例えば、液体吸収部4を短くして、液体状態のときに基板2にひずみが生じるようにし、液体が凝固して液体吸収部4が伸びたときに基板2のひずみが小さくなるように変化するようにしてもよい。
【0017】
ここで、ひずみセンサ1は、半導体基板内に形成した不純物層から構成されたひずみ検知部を有するひずみセンサとすることが望ましい。ひずみセンサの計測方向は、基板2の長手方向に合わせる。ひずみ検知部を不純物層とすることにより、消費電力を低減することができ、かつ、基板2のひずみを高感度に検出することが可能である。
【0018】
さらに、ひずみセンサ1のひずみ検知部が4本の不純物層でホイートストンブリッジ回路を形成した構造とすることにより、温度による抵抗値変動を抑制することができるため、高精度はひずみ測定、すなわち凝固状態測定が可能である。
【0019】
さらに、該半導体基板をシリコン単結晶とした場合、該ホイーストンブリッジ回路を構成する不純物拡散抵抗は、(100)面を有するシリコン基板に、図13(a)に示すように長手方向をシリコン単結晶の<110>方向に配置した4本のp型拡散層14a〜
14dにより構成したり、または図13(b)に示すようにシリコン単結晶の<100>方向に配置した4本のn型拡散層15a〜15dにより構成することにより、高感度、かつ温度変化による出力変動の抑制効果を向上させることが可能である。
(基板と液体吸収体の接続方法)
なお、図1では、基板2と液体吸収部4はそれらの両端が接続部5を介して接続された構造となっている。
【0020】
このように、両端で固定した場合、基板の変形が大きいという利点があるが、基板2の両端でなくても、液体吸収部4に体積変化が生じたときに基板2のひずみセンサを取り付けた位置にひずみが生じるようにとりつけてあればよい。
【0021】
図1では、基板2と液体吸収部4の長さが同一の場合を示したが、図2に示すように、液体吸収部4の長さが基板よりも短く、基板がU字型になるようにすることにより、液体凝固時の基板2変形を一方向(曲げ変形)に導きやすい効果がある。また、液体吸収部のだぶつきを防止する効果もある。
【0022】
また、図3に示すように、基板2と液体吸収部4を接続する際、基板の一方の面2b全面を液体吸収部4と接続することにより液吸収部の体積変化を基板2に伝達しやすいという利点がある。
【0023】
接続部5は、接着材やテープなどでボルト締め、かしめなどで構成される。ボルト締めやかしめの場合、基板2と液体吸収部4の接続が強固なものになる。この場合、基板2と液体吸収部4の外側に金属板を設けることにより、接続はさらに強固なものになる。
【0024】
また、基板2の上から見た形状を短冊状(長方形)とすることにより基板2のひずみ場を長方形の長辺方向の一軸ひずみ場とすることができ、ひずみセンサの測定方向を長辺方向に向けることでひずみセンサ1によるひずみと凝固状態との関係をより単純にすることができる。
【0025】
また、図4に示すように、ひずみセンサを設ける基板2の端部付近が液体吸収部側に折れ曲がっている構造、すなわち基板2の断面形状をコの字型とすることにより、液体吸収部4に吸収された液体が液相の場合に液体吸収部4に機械的な力が負荷されるのを防止し、なおかつ、液体が凝固する際に基板2に容易に変形を伝達することが可能となる。さらに、液面からひずみセンサ1を遠ざける効果もある。
【0026】
また、図4に示したような、コの字型基板2の変形例として、図5のように、基板2の両端に異なる部材をコの字型にしても図4と同様の効果が得られる。
【0027】
また、基板2の材料としては、金属などの液体を吸収しない材料が好ましい。これにより、基板2の変形が液体吸収部4の変形によるものとなり、高精度に凝固状態を計測することが可能である。
【0028】
基板2の材料を樹脂などの材料としてもよいが、この場合、基板2の全面を液体が吸収しにくい材料でコーティングすることにより、高精度な計測が可能である。
【0029】
また、液体吸収部4の材料としては、不織布などの布や、スポンジなどのように、液体を吸収し、なおかつ変形しやすい材料とすることにより、液体が凝固した場合の体積変化をしやすくなり、基板2に伝える変形量(ひずみ)を大きくすることが可能である。
【0030】
また、図11に示すように、基板2上にひずみセンサ1および温度センサ100を搭載することにより、温度によるひずみセンサの出力変動を補正することが可能である。このとき温度センサ100はひずみセンサ1近傍に配置することが望ましい。
【0031】
また、図12に示すように、ひずみセンサ1中にひずみ検知部101および温度センサ100を形成することもできる。これによりひずみセンサの温度変化による出力変動を高精度に補正することが可能であり、さらに装置を単純化にする利点がある。なお、温度センサ100は、PN接合からなるダイオードであることが好ましい。これにより、ひずみセンサ上に容易に温度センサを設けることが可能であり、ひずみの変化による影響を受けることが無く、ひずみ検出部付近の温度変化を正確に測定することが可能となる。ひずみセンサ1中にひずみ検知部101および温度センサ100を形成する場合、ひずみ検知部101をひずみセンサ1の中央部、温度センサをひずみ検知部101よりも周辺側に設けることが望ましい。これにより、基板のひずみをより高精度に測定し、なおかつ温度による出力変動の補正をすることができるため、凝固状態を高精度に計測することができる。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明における第2の実施形態を図7により説明する。図4は第2の本実施形態による力学量測定装置の主要部を示しており、第1の実施形態と共通の部分には同一の符号を付している。
【0033】
第1の実施形態による図1から図5に示した凝固センサにおいては、ひずみセンサ1が接着層3を介して基板2に設けられていたが、図7に示す本実施形態の力学量測定装置においては、シリコン基板11表面にひずみ検知部10が設けられており、シリコン基板
11と液体吸収部4が接続部5を介して接続された構造をしている。なお、ひずみ検知部
10は、シリコン基板表面にヒ素,リン,ボロンなどの不純物を導入し、形成された不純物拡散抵抗からなる。
【0034】
これにより、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態においては、ひずみ検知部10がシリコン基板11表面に直接設けられているため、ひずみセンサとひずみセンサを設ける基板との間に接着層を設ける必要がなく、基板のひずみを直接検知できるため、高感度での測定が可能となる。また、接着層の劣化の心配が無く、信頼性の高い凝固センサを得られるという利点もある。
【0035】
なお、本実施形態においては、シリコン基板の場合について示したが、シリコンだけでなく、その他の半導体基板でも同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明による凝固センサを、再生医療用恒温輸送容器中に設け、容器内に入っている潜熱蓄熱材の凝固状態をリアルタイムで計測することにより、容器中に入れる潜熱蓄熱材の量を最適な量にすることが可能である。その結果、信頼性の高い再生医療用恒温輸送容器が得られる。また輸送容器に本凝固センサと加温装置を設けることにより、凝固センサによる計測結果により加温装置をON,OFFすることにより、輸送容器内部の温度を所望の温度に保つことが可能となる。
【0037】
なお、ここでは、潜熱蓄熱材に本凝固センサを用いた例について示したが、これに限定するものではなく、液体が固体になり、収縮と膨張のいずれでも体積変化を伴う材料であれば、何でも適用することが可能である。水,潜熱蓄熱材については凝固状態が検知できることを実験により確認してある。
【0038】
また、本発明による凝固センサを用いて凝固状態を検知する場合、図9に示すように、本凝固センサにおけるひずみセンサ1に、配線22を介して電源20を接続、配線23を介して電圧計21を接続することにより計測される。すなわち、電圧変化はひずみ変化、すなわち凝固状態に対応するものである。
【0039】
また、図10に示すように、本凝固センサにおけるひずみセンサ1に、配線22を介して電池24を接続、配線23を介して送信モジュール25を接続することにより、凝固センサで計測されたデータを無線で受信モジュール26で受信することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態による凝固センサの主要部断面構造を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による凝固センサの測定例を示す。
【図7】本発明の第2の実施形態による凝固センサの主要部断面構造を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図9】本発明による凝固センサの計測方法を示す図である。
【図10】本発明による凝固センサの別の計測方法を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態による凝固センサの変形例の主要部断面構造を示す図である。
【図13】本発明の一実施例に用いるひずみセンサの配置図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ひずみセンサ
2 基板
3 接着層
4 液体吸収部
5 接続部
6 接続層
7 基板
10,101 ひずみ検知部
11 シリコン基板
15,16 不純物層
20 電源
21 電圧計
22,23,27,28 配線
24 電池
25 送信モジュール
26 受信モジュール
100 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吸収可能な部材で構成された液体吸収部と、
前記液体吸収部に接続された基板と、
前記基板のひずみを測定するひずみセンサとを備えた凝固センサ。
【請求項2】
請求項1において、前記ひずみセンサを設ける基板の形状が短冊状であることを特徴とする凝固センサ。
【請求項3】
請求項1において、前記液体吸収部が、前記ひずみセンサを設ける基板の両端に接続されていることを特徴とする凝固センサ。
【請求項4】
請求項1において、前記ひずみセンサを設ける基板の断面形状はコの字型、あるいはU字型であることを特徴とする凝固センサ。
【請求項5】
請求項1において、前記ひずみセンサを設ける基板の長さより液体吸収部の長さの方が短いことを特徴とする凝固センサ。
【請求項6】
請求項1において、前記基板は帯状の形状を有しており、前記液体吸収部は、前記基板の両端に接続した帯状布であることを特徴とする凝固センサ。
【請求項7】
請求項1において、前記液体吸収部が、前記基板の一方の面全面に接続されていることを特徴とする凝固センサ。
【請求項8】
請求項1において、前記板は金属材料であることを特徴とする凝固センサ。
【請求項9】
請求項1において、前記ひずみセンサが、シリコン基板上の不純物層により形成したブリッジを有することを特徴とする凝固センサ。
【請求項10】
請求項1において、前記ひずみセンサが、<110>方向に配置した4本のp型不純物層を有していることを特徴とする凝固センサ。
【請求項11】
請求項1において、前記ひずみセンサが、<100>方向に配置した4本のn型不純物層を有していることを特徴とする凝固センサ。
【請求項12】
ひずみ検知部を設けたシリコン基板と、前記シリコン基板と接続された液体吸収部で構成されていることを特徴とする凝固センサ。
【請求項13】
請求項1において、
温度センサを備えたことを特徴とする凝固センサ。
【請求項14】
請求項13において、
前記温度センサは、前記ひずみセンサ内に設けられていることを特徴とする凝固センサ。
【請求項15】
液体吸収部に液体を吸収させ、
前記液体吸収部の体積変化により基板にひずみを生じさせ、
前記基板に生じたひずみを検知する凝固検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−128920(P2008−128920A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316443(P2006−316443)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】