説明

凝固遅延剤を含む坑井ボア保全用組成物、その製造方法及びその使用方法

アルミン酸カルシウムセメント、水、ポリリン酸塩、ポゾラン及び凝固(set)遅延剤を含む組成物であって、前記凝固遅延剤がハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を含む組成物を調製し;該組成物を坑井ボア中に配置し;前記組成物を凝固させることを含む、坑井ボアを保全する方法。組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%の量のアルミン酸カルシウムセメント、及び約0.1重量%〜約15重量%の量の凝固遅延剤を含む組成物であって、前記凝固遅延剤が、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を、約3:1〜約1:3の比で含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明の開示は、概して坑井ボア(wellbore)を保全することに関する。より具体的には、本発明の開示は、凝固(set)遅延剤を含むカルシウムアルミナ(calcium alumina)セメントを用いて坑井ボアを保全すること、該組成物の製造及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
地下の地層、又は地下圏に存在するガス、石油、及び水などの天然資源は、通常、坑井ボアに掘削流体を循環させながら、坑井ボアを地下の地層まで掘削することによって回収される。掘削流体の循環を終了させた後、例えばケーシングなどのパイプストリングが坑井ボア内に通される。その後通常、そのパイプの内側を通して下方に、パイプの外側と坑井ボアの壁との間に位置する環状空間を通して上方に、掘削流体を循環させる。次に、一般的に1次セメンチングを行い、それによってセメントスラリーを環状空間内に配置し、かつ硬質マス(すなわち鞘部)へと硬化させ、その結果、パイプストリングを坑井ボアの壁に接着させ、かつ環状空間を封止する。それに続く2次セメンチング作業もまた行うことができる。
【0003】
坑井ボア保全流体は、しばしば、極限状態(例えば、高温/高圧、酸性環境)下における用途について機能するように修飾される。高い静的地中温度(static subterranean temperature)において、あるいは二酸化炭素を含む塩水の存在下で、従来の水硬セメントは、アルカリ炭酸化のために急速に変質する。従って、このような環境における、従来の水硬セメント組成物の使用は、坑井ボアの保全性の損失をもたらし得る。水蒸気圧入坑井又は蒸気生産坑井のような、厳しい環境下で硬化する場合の従来の水硬セメントの代替え案は、アルミン酸カルシウムをベースとするセメント(CABC)である。ポルトランドセメント/シリカ混合物と比較した場合の、CABCの高温耐性は、セメント鞘部の長期間の保全性のための利点である。CABCの使用は、高温及び低温耐性、硫酸塩、腐食及び酸性ガスに対する耐性に加え、それらが提供する、多くの利点を提供する。通常CABCを使用する坑井保全操作の更なる例には、地熱坑井又は二酸化炭素注入坑井の保全が含まれる。可溶性リン酸塩、例えば、メタリン酸ナトリウム、及びポゾラン材料、例えば、クラスFのフライアッシュと組み合わせたアルミン酸カルシウムセメント(CAC)は、凝固により坑井を地下層及びそれ自体と結合させ、高強度、炭酸化抵抗、低浸透性、及び高い耐食性等の望ましい機械的性質を示す急結セメント組成物を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
様々なアルミナ含有量の種々のCACが市販されている。経済的観点からは魅力的であるが、CACを使用することの1つの欠点は、その予測不可能な増粘時間(thickening time)である。そのため、CACスラリーの予測不可能な増粘時間は、このようなタイプのセメントを用いた、坑井の硬化を厳しいものとする。従って、CACスラリーが予測可能な増粘時間を示し、所望の位置に配置される前にポンプでポンプ送り可能(pumpable)なように、CASスラリーを遅延することができる材料が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
本発明の一態様によれば、アルミン酸カルシウムセメント、水、ポリリン酸塩、ポゾラン及び凝固遅延剤を含む組成物であって、前記凝固遅延剤がハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を含む組成物が提供される。
【0006】
他の態様においては、本発明は、組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%の量のアルミン酸カルシウムセメント、及び約0.1重量%〜約15重量%の量の凝固遅延剤を含む組成物であって、前記凝固遅延剤が、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を、約3:1〜約1:3の比で含む組成物を提供する。
【0007】
他の態様においては、本発明は、本発明の組成物を調製し;該組成物を坑井ボア中に配置し;前記組成物を凝固させることを含む、坑井ボアを保全する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(詳細な説明)
最初に、1以上の実施態様の具体的な実施を以下に提供するが、開示されるシステム及び/又は方法は、現在公知であろうと、又は既存のものであろうと、あらゆる方法を用いて実施することができると理解すべきである。本発明は、本明細書に説明され、記載される具体的な設計及び実施を含む、具体的な実施、図面、及び後述する方法に決して限定されるべきでなく、その同等物の全ての範囲と共に添付する請求項の範囲内で修飾し得る。
【0009】
本明細書は、アルミン酸カルシウムセメント(CAC)、ポリリン酸塩、フライアッシュ、及び凝固遅延剤(SRA)を含む坑井ボア保全用組成物、並びにその使用方法を開示する。前記SRAは、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を含んでいてもよい。本明細書に開示されるタイプの、CAC、ポリリン酸塩、フライアッシュ、及びSRAを含む坑井ボア保全用組成物は、坑井ボアを保全するために油井の穴の中に配置することができ、所望の機械的及び/又は物理的性質を示し得る。
【0010】
一実施態様においては、更にカルシウム、アルミニウム及び酸素を含む、CACを含む坑井ボア保全用組成物は、水との反応により、凝固及び硬化する。一実施態様においては、CACは、酸化アルミニウム(Al2O3)及び酸化カルシウム(CaO)を含む。酸化アルミニウムは、CACの総重量を基準とし、約30重量%〜約80重量%、あるいは約40重量%〜約70重量%、あるいは約50重量%〜約60重量%の量で、CAC中に存在し;酸化カルシウムは、CACの総重量を基準とし、約20重量%〜約60重量%、あるいは約30重量%〜約50重量%、あるいは約35重量%〜約40重量%の量で、CAC中に存在し得る。また、CAC中の酸化カルシウムに対する酸化アルミニウム(Al2O3/CaO)の重量比は、約1:1〜約4:1、あるいは約2:1〜約1.5:1で変化し得る。
【0011】
CACを含む坑井ボア保全用組成物は、液体と混合した時に、約3〜約10、あるいは約4〜約9、あるいは約6〜約8の範囲のpHを有していてもよい。一実施態様においては、CACは、坑井ボア保全用組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%、あるいは約35重量%〜約55重量%、あるいは約40重量%〜約50重量%の量で、坑井ボア保全用組成物中に存在し得る。
【0012】
本開示において用いるのに適した、CACの非限定的な例には、KERNEOS INC., Cheasapeake, VAから市販されているSECAR 80、SECAR 60、SECAR 71、SECAR 41、及びSECAR 51;Almatis, Inc., Leetsdale, PAから市販されているCA-14、CA-270、及びCA-25セメント;Halliburton Energy Services, Inc.から市販されているTHERMALOCKセメントが含まれる。一実施態様においては、CAC(例えば、SECAR 51)は、一般的に、表1に示す化学組成及び性質を有している。
【表1】

【0013】
一実施態様においては、坑井ボア保全用組成物はSRAを含む。SRAは、液体スラリーから凝固した固体の塊への相転移を組成物が受けるのに必要な時間を変化させる(延長する)ように機能する物質である。このような物質は、操作者が、一部の使用者及び/又は作業が所望する要求に適合するように、組成物の増粘時間を制御する(本明細書に記載のように)ことを可能にする可能性がある。SRAは、更に、長期間の機械的性質に影響することなく、セメントの水和を遅延するように機能し得る。
【0014】
一実施態様においては、SRAはハロゲン化アルカリを含む。本開示において用いるのに適したハロゲン化アルカリの例には、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)、又はそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
一実施態様においては、SRAは塩基性リン酸塩を含む。塩基性リン酸塩は、一塩基性、二塩基性又は三塩基性リン酸塩であってもよい。本開示において用いるのに適した塩基性リン酸塩の例には、リン酸ナトリウム一塩基性、リン酸ナトリウム二塩基性、リン酸ナトリウム三塩基性、リン酸カルシウム一塩基性、リン酸カルシウム二塩基性、リン酸カルシウム三塩基性、リン酸カリウム一塩基性、リン酸カリウム二塩基性、リン酸カリウム三塩基性、又はそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
一実施態様においては、SRAは、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩の混合物であり、成分は、約3:1〜約1:3、あるいは約2:1〜約1:2、あるいは約1.5:1〜約1:1.5のハロゲン化アルカリ:塩基性リン酸塩の比であってもよい。一実施態様においては、SRAは、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩の混合物、例えば、塩化ナトリウム及びリン酸ナトリウム一塩基性の混合物を含む。一実施態様においては、SRAは、NaCl及びNaH2PO4の50:50の混合物を含む。
【0017】
一実施態様においては、SRAは、坑井ボア保全用組成物の総重量を基準とし、約0.1重量%〜約15重量%、あるいは約0.3重量%〜約10重量%、あるいは約1重量%〜約8重量%の量で、坑井ボア保全用組成物中に存在する。
【0018】
一実施態様においては、坑井ボア保全用組成物は、重合リン酸塩、例えば、ポリリン酸塩を更に含む。重合リン酸塩は、カルシウムと結合し、リン酸カルシウム化合物を生成するように機能する。本開示において用いるのに適した重合リン酸塩は、一般式:(NaPO3n(式中、nはリン酸塩単位の重合度を表す)により表すことができる。一実施態様においては、nは約3〜約30、あるいは約10〜約25、あるいは約4〜約7の範囲である。ある実施態様においては、重合リン酸塩は、更にアルカリ金属を含む。本開示において用いるのに適した重合リン酸塩の非限定的例には、(ヘキサ)メタリン酸ナトリウム(SHMP)、トリポリリン酸ナトリウム、又はそれらの組合せが含まれる。一実施態様においては、重合リン酸塩は、CACの総重量を基準とし、約1重量%〜約20重量%、あるいは約2重量%〜約10重量%、あるいは約3重量%〜約8重量%、あるいは約3重量%〜約6重量%の量で、坑井ボア保全用組成物中に存在し得る。
【0019】
一実施態様においては、坑井ボア保全用組成物中は、ポゾラン、例えば、限定されないがASTMクラスFのフライアッシュを更に含む。クラスFのフライアッシュは、無煙炭及び歴青炭を燃焼することにより製造される。このようなフライアッシュは、本来はポゾラン性(pozzolanic)であり、10%未満の石灰(CaO)を含む。一実施態様においては、フライアッシュは、坑井ボア保全用組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%、あるいは約35重量%〜約55重量%、あるいは約40重量%〜約50重量%の量で、坑井ボア保全用組成物中に存在し得る。
【0020】
いくつかの実施態様においては、坑井ボア保全用組成物は、従来の凝固遅延剤を含む。本明細書において、従来の凝固遅延剤は、セメント系材料の水和の発生を遅延させるように機能する物質を意味し、本明細書に開示されるタイプのSRAを含まない。従来の凝固遅延剤の例には、有機酸、有機酸のアルカリ金属塩、リグノスルホン酸塩等が含まれるが、これらに限定されない。従来の凝固遅延剤として機能し得る、有機酸及びその塩の例には、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、グルコン酸、オレイン酸、尿酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸ナトリウム、又はそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。従来の凝固遅延剤の他の例には、全て、Halliburton Energy Services,Incから市販されている、化学的に修飾されたリグノスルホン酸塩であるHR-5凝固遅延剤、非リグノスルホン酸塩セメント遅延剤であるSCR-100凝固遅延剤、及び有機酸含有遅延剤、HR-25及びFE-2が含まれる。
【0021】
坑井ボア保全用組成物は、ポンプ送り可能なスラリーを形成するのに十分な量の水を含んでいてもよい。水は淡水又は塩水であってよく、例を挙げると、食塩水又は海水等の、不飽和水性塩溶液又は飽和水性塩溶液などである。水は、組成物の総重量を基準とし、約20重量%〜約180重量%、あるいは約28重量%〜約60重量%の量で存在し得る。水の量は、セメントスラリーの所望の密度及び所望のスラリーレオロジーに依存し、それ自体は、本開示により、当業者によって測定することができる。
【0022】
いくつかの実施態様においては、組成物の性質を向上又は変更するために、坑井ボア保全用組成物に添加剤を含ませてもよい。このような添加剤の例には、消泡剤、発泡性界面活性剤(foaming surfactants)、液体喪失剤(fluid loss agent)、増量材、ラテックスエマルション、分散剤、ガラス固化頁岩、又はけい砂粉末、砂及びスラグ、構造調整剤(formation-conditioning agents)、中空ガラス、セラミックビーズ等の他の充填材、又はそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。機械的性質を更に改変させるために、他の機械的性質を調整する添加剤、例えば、エラストマー、カーボンファイバー、グラスファイバー、金属繊維、鉱物繊維等を加えることができる。これらの添加剤は、単独又は組み合わせて含有させることができる。これらの添加剤の導入方法、及びそれらの有効量は、本明細書により、当業者にとって公知である。
【0023】
一実施態様においては、坑井ボア保全用組成物は、本明細書に開示されるタイプの、CAC、水、SRA(例えば、塩化ナトリウム及びリン酸ナトリウム一塩基性)、ポゾラン(例えば、フライアッシュ)、及び重合リン酸塩(例えば、(ヘキサ)メタリン酸ナトリウム(SHMP)及び/又はトリポリリン酸ナトリウム)を含む。また、坑井ボア保全用組成物は、本明細書に開示されるタイプの、CAC、水、SRA(例えば、塩化ナトリウム及びリン酸ナトリウム一塩基性)、重合リン酸塩(例えば、(ヘキサ)メタリン酸ナトリウム(SHMP)及び/又はトリポリリン酸ナトリウム)、ポゾラン(例えば、フライアッシュ)及び従来の凝固遅延剤を含む。
【0024】
一実施態様においては、坑井ボア保全用組成物は、約40重量%〜約50重量%の量でCAC;約0.5重量%〜約10重量%の量でNaCl及びNaH2PO4の50:50混合物;約40重量%〜約50重量%の量でフライアッシュ;約3重量%〜約6重量%の量で重合リン酸塩を含む(ここで、重量%は乾燥固体の総重量を基準とする)。
【0025】
本明細書に開示されるSRAを含む坑井ボア保全用組成物の成分は、ユーザーが所望する任意の順序で混合して、坑井ボア中に配置され得るスラリーを形成してもよい。SRAを含む坑井ボア保全用組成物の成分は、該組成物に適合する任意の混合装置を使用して混合されてよく、その例としてはバルクミキサー又は循環ミキサーが挙げられる。
【0026】
本明細書に開示されるSRAを含む坑井ボア保全用組成物は、SRAを欠如する他の同様の組成物(例えば、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩の組合せのような、本明細書に開示されるSRAと対照的に従来の遅延剤を用いる他の同様の組成物)と比較した場合に増粘時間が長くなることにより特徴づけられる。増粘時間は、組成物が70 Bearden単位のコンシステンシー(Bearden units of Consistency)(Bc)を達成するのに必要な時間を意味する。約70Bcにおいては、スラリーは、ポンプ送り可能な流体状態からポンプ送り不可能なペーストへと変化する。一実施態様においては、SRAを含む坑井ボア保全用組成物は、約100°F(37.8°C)〜約300°F(148.9°C)で、あるいは約125°F(51.7°C)〜約275°F(135°C)で、あるいは約150°F(65.6°C)〜約250°F(121.1°C)で、約2時間を超える、あるいは約3時間を超える、あるいは約4時間を超える増粘時間を有し得る。
【0027】
一実施態様においては、SRAを含む坑井ボア保全用組成物は、混合後、すぐに、例えば、混合後、約1時間〜約24時間、あるいは約2時間〜約12時間、あるいは約5時間〜約8時間で硬い塊に変化する。凝固したセメントは、約250psi〜約20,000psi、あるいは約500psi〜約5,000psi、あるいは約1,000psi〜約3,000psiの圧縮強度を示し得る。本明細書において、圧縮強度は、軸方向に押す力に抵抗する、材料の能力として定義される。軸方向の力に対する、材料の最大抵抗は、米国石油協会(American Petroleum Institute (API))の推奨案(Recommended Practice)10B、第22版、1997年12月に従い、測定される。圧縮強度の限界を超え、材料は不可逆的に変形し、もはや構造的サポート及び/又は帯状分離をもたらさない。
【0028】
一実施態様においては、SRAは、非−CACセメントを含む組成物において利用してもよい(単独で、又は1種以上の従来の遅延剤と組み合わせて)。例えば、SRAは、ポルトランドセメント又はソーレルセメントを含む、坑井ボア保全用組成物において用いてもよい(単独で、又は1種以上の従来の遅延剤と組み合わせて)。このような実施態様においては、SRAは、セメント材料の水和の遅延において効果が低いかもしれない。一実施態様においては、SRAは、CACからなる、又は基本的にCACからなるセメント材料を含む坑井ボア保全用組成物において使用される。
【0029】
本明細書に開示される、SRAを含むセメント組成物は、任意の目的のために用いることができる。一実施態様においては、本明細書に開示される、SRAを含むセメント組成物は、地下層に浸透する坑井ボアを保全するための坑井ボア保全用組成物として用いられる。「地下層」は、露出した地面より下の領域、及び海洋又は淡水などの水によって覆われた地面より下の領域の両方を包含することが理解されるべきである。坑井ボアを保全することには、SRAを含む坑井ボア保全用組成物を坑井ボア中に配置して、地下の地層を坑井ボアの一部から隔離すること;坑井ボア中の導管を支持すること;導管中の隙間又は亀裂を埋めること;坑井ボアの環内に配置されたセメント鞘部内の隙間又は亀裂を埋めること;穿孔を埋めること;セメント鞘部と導管との間の開口を埋めること;隙間、カニ穴状(vugular)区域、又は割れ目等の損失循環区域(loss circulation zones)内への水性又は非水性掘削流体の損失を防止すること;廃棄目的のために坑井を埋めること;処理流体を迂回させるための臨時隔壁;及び坑井ボアと拡張可能なパイプ又はパイプストリングとの間の環状空間を封止することを含むが、これらに限定されない。例えば、SRAを含む坑井ボア保全用組成物は、損失循環区域内で凝固し、その結果、循環を回復させ得る。凝固組成物は、該区域を埋め、それに続くポンプ送りされる掘削流体の損失を阻害し、更なる掘削を可能にする。組成物を坑井ボア中に導入して地下領域を封止する方法は、米国特許番号第5,913,364号、6,167,967号、及び6,258,757号に記載されており、これらの特許の各々は参照により、全体が本明細書中に組み込まれている。
【0030】
一実施態様において、SRAを含む、坑井ボア保全用組成物は、1次及び2次セメンチング作業などの坑井完成作業において使用され得る。該組成物は坑井ボアの環状空間内に配置されて硬化し、坑井ボアの別の部分から地下の地層を隔離し得る。こうして、SRAを含む、坑井ボア保全用組成物は、その地下の地層中の流体が他の地下の地層へと移動するのを防ぐ防壁を形成する。該環状空間内で、該流体は、坑井ボア中の例えばケーシングなどの導管を支持する働きもする。
【0031】
一実施態様においては、SRAを含む坑井ボア保全用組成物が配置された坑井ボアは、多元的坑井ボアの形態に属する。多元的坑井ボアの形態には、1以上の補助的な坑井ボアにより接続する少なくとも2個の主要な坑井ボアが含まれることを理解すべきである。しばしばスクイーズセメンチング(squeeze cementing)と呼ばれる2次セメンチングにおいては、SRAを含む坑井ボア保全用組成物は、導管中の隙間又は亀裂を埋め、環状部にある硬化したシーラント(例えば、セメント鞘部)中の隙間又は亀裂を埋め、硬化したシーラントと導管との間の微小環状部として知られている、比較的小さい開口部を埋める等のため、戦略的に坑井ボア中に配置することができ、それ故、シーラント組成物として作用する。坑井ボア中で、坑井ボア保全用組成物を用いるために採用することができる種々の方法は、その全体が引用により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,346,012号及び第5,588,488号に開示されている。
【実施例】
【0032】
本開示は一般的に説明されてきたが、以下の実施例は、本開示の特定の実施態様として与えられ、その実施及び利点を示すものである。該実施例が例証の目的で与えられ、いかなる方法によっても明細書又は請求項を限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0033】
実施例1
種々の遅延剤を含むアルミン酸カルシウムセメント組成物のゲル化時間を調べた。試料1〜9と呼ばれる、9種のセメントスラリーを、指定量のクラスFのフライアッシュ、SECAR 51、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)、FE-2有機酸、塩化ナトリウム(NaCl)、リン酸ナトリウム一塩基性(NaH2PO4)、HR-5セメント遅延剤、SCR-100セメント遅延剤、HR-25セメント遅延剤、SCR-100、FE-2及びNaClの混合物、リン酸ナトリウム一塩基性及びNaClの混合物、並びに脱イオン(DI)水を用いて調製した。各スラリー中のこれらの成分の量を表2に示す。SECAR 51は、約58%のアルミナ含有量を有し、KERNEOS INC.から市販されているアルミン酸カルシウム水硬セメントである。FE-2は鉄イオン封鎖剤であり、HR-5は化学的に修飾されたリグノスルホン酸塩であり、SCR-100は非リグノスルホン酸塩セメント遅延剤であり、HR-25は高温遅延剤であり、それぞれは、Halliburton Energy Services, Inc.から市販されている。ゲル化時間は、試料1〜8について、試料を大気条件下に静止して配置することにより、試料9について、Halliburton Energy Services, Inc.から市販されている大気セメントコンシストメータ中で測定し、結果を表2に示す。
【表2】

【0034】
表2を参照すると、従来の遅延剤を、単独で又は組み合わせて用いて調製した試料1〜7は、20分以下のゲル化時間を示した。しかし、本明細書に開示されたタイプのSRAを用いて調製した試料8及び9のゲル化時間は、試料8について1時間を超え、試料9については3時間を超えて増大した。結果は、セメント組成物のゲル化時間を増大させるという、本明細書に開示されるタイプのSRA(すなわち、ハロゲン化アルカリ金属及び塩基性リン酸塩の混合物)の予期しない能力を示した。
【0035】
実施例2
種々の温度における、アルミン酸カルシウムセメント組成物の増粘時間におけるSRAの量の影響を調べた。試料10〜26と呼ばれる、17種の試料を、表3に示す量の、クラスFのフライアッシュ、SECAR 51、SHMP、並びにNaCl:NaH2PO4を含むSRA、並びにDI水を用いて調製した。試料10〜26中のNaCl:NaH2PO4のSRA比は1:1であった。表3に示すように、試料を150°F(65.6°C)で42分間、200°F(93.3°C)で55分間、又は250°F(121.1°C)で76分間加熱し、圧力を1000psiから10,000psiに上昇させた。増粘時間を表3に示す。
【表3】

【0036】
結果は、150°F〜250°Fの温度で、SECAR 51、SHMP、フライアッシュ、及び水の混合物に、1:1:の比でNaCl及びNaHPO4を加えることにより、増粘時間の増大がもたらされることを示した。
【0037】
実施例3
アルミン酸カルシウムセメント組成物の増粘時間における、SRA中のNaCl及びNaH2PO4比の影響を調べた。試料27〜34と呼ばれる、8種の試料を、表4に示す量の、クラスFのフライアッシュ、SECAR 51、SHMP、NaCl、NaH2PO4の混合物を含むSRA、並びにDI水を用いて調製した。試料27〜30及び32〜34におけるNaCl:NaH2PO4の比は2:1であったが、試料31における比は1:2であった。表4に示すように、試料を、150°Fで42分間、200°Fで55分間、又は250°Fで76分間硬化させ、圧力を1000psiから10,000psiに上昇させた。増粘時間を表4に示す。
【表4】

【0038】
結果は、スラリーへのNaCl:NaH2PO4の2:1混合物の添加が、増粘時間の増大をももたらすことを示した。
【0039】
実施例4
本明細書に開示されるタイプのSRAを欠如するアルミン酸カルシウムセメント組成物の増粘時間を調べるための比較例が示される。試料35〜39と呼ばれる、5種の試料を、表5に示す量の、クラスFのフライアッシュ、SECAR 51、SHMP、NaCl、NaH2PO4、及びDI水を用いて調製した。試料35〜37及び39はハロゲン化アルカリを含んでいたが、試料38は一塩基性アルカリ性リン酸塩を含んでいた。更に、試料37中のSHMPの量を40gから60gに増加させた。試料を、表5に示すように、200°Fで55分間加熱し、圧力を1000psiから10,000psiに上昇させた。実施例2からの試料18についてのデータも示す。増粘時間を表5に示す。
【表5】

【0040】
結果は、CAC/フライアッシュ/SHMP/水系のためのSRAとしてのNaH2PO4及びNaClの組合せの相乗効果を示す。40gのSHMP及び20gのNaClを含む試料36は1:24の増粘時間を有していた。リン酸塩含有SHMPを20g増加させても(試料37)、増粘時間は有意に増大しなかった(1:42)。しかし、SHMPを40gに維持し、NaH2PO4を20g加えた場合(試料18)、増粘時間は3:08に増大した。
【0041】
実施例1〜3に示すように、結果は、NaClを含み、NaH2PO4を欠如するアルミン酸カルシウムセメント組成物、並びにNaH2PO4を含み、NaClを欠如するアルミン酸カルシウムセメント組成物の増粘時間が、NaCl及びNaH2PO4の両方を含む(すなわち、SRA)アルミン酸カルシウムセメント組成物の増粘時間と比べた場合に低かったことをも示した。結果は、坑井ボア保全用組成物に個々の成分を加えた場合に同様の増粘時間をもたらす、用いられたSRAの成分(すなわち、NaCl及びNaH2PO4)の意外な相乗効果を示す。
【0042】
実施例5
本明細書に開示されるタイプの、SRAを含む、アルミン酸カルシウムセメント組成物の増粘時間における分散剤の影響を調べた。試料40〜43と呼ばれる、4種の試料を、表6に示す量の、クラスFのフライアッシュ、SECAR 51、SHMP、NaCl、NaH2PO4、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、クエン酸ナトリウム、及び脱イオン水を用いて調製した。試料を150°Fで42分間加熱し、圧力を1000psiから10,000psiに上昇させ、増粘時間を表6に示す。
【表6】

【0043】
結果は、SRAを含むアルミン酸カルシウムセメント組成物中の分散剤の存在は、組成物の増粘時間に影響しないことを示した。
【0044】
実施例6
SRAを含むアルミン酸カルシウムセメント組成物の圧縮強度を調べた。試料44〜48と呼ばれる、5種の試料を、表7に示す量の、クラスFのフライアッシュ、SECAR 51、SHMP、NaCl、NaH2PO4、EDTA、クエン酸ナトリウム、及び脱イオン水を用いて調製した。試料49は、従来の凝固遅延剤、クエン酸及び酒石酸を含む比較試料である。表7に示すように、試料を150°Fで42分間、200°Fで55分間、又は250°Fで76分間加熱した。24時間圧縮強度を、超音波セメントアナライザー(UCA)を用いて測定し、結果を表7に示す。
【表7】

【0045】
結果は、24時間圧縮強度が、従来の遅延剤を含み、本明細書に開示されたタイプのSRAを欠如するアルミン酸カルシウムセメント組成物(試料49)と同程度であることを示した。
【0046】
本開示の実施態様が示され、説明されてきたが、本開示の教示から逸脱することなく、当業者によってその変形がなされ得る。本明細書に記載されている実施態様は、ただ例証的なものであり、限定を意図していない。本明細書に開示されている発明の多くの変化及び変形が可能であり、それらは本発明の範囲に含まれる。数値範囲又は限定が明確に記載されている場合、そのような明確な範囲又は限定は、該明確に記載されている範囲又は限定に含まれる同様な大きさの反復範囲又は限定を含むことが理解されるべきである(例えば、「約1〜約10」は2、3、4などを含む;「0.10より大きい」は0.11、0.12、0.13などを含む。)。例えば、下限値がR、及び上限値がRである数値範囲が開示されるときはいつでも、範囲内の任意の数が具体的にに開示されている。特に、範囲内の以下の数が具体的に開示される:R=R+k(R−R)(式中、kは、1パーセントの増加を伴う、1パーセントから100パーセントの範囲の変数であり、すなわち、kは、1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、…50パーセント、51パーセント、52パーセント、…95パーセント、96パーセント、97パーセント、98パーセント、99パーセント、又は100パーセントである。)。さらに、上記で定義された2つのRの数値によって定義される任意の数値範囲も又、具体的に開示される。クレームのいかなる要素についても、用語「任意に」の使用は、対象要素が必要とされる、あるいは必要とされないことを意味するよう意図されている。両方の選択肢がクレームの範囲内に含まれることが意図されている。例えば「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「有する(having)」などの広範な用語の使用は、例えば「〜からなる」、「本質的に〜からなる」、「実質的に〜からなる」などのより狭い用語のサポートを提供すると理解されるべきである。
【0047】
従って、保護の範囲は、以上に明確に書かれた記載によって限定されず、添付のクレームによってのみ限定され、その範囲はクレームの対象の全ての均等物を含んでいる。各々の及び全てのクレームが本開示の実施態様として本明細書中に組み込まれている。こうして、これらのクレームはさらなる記載であり、本開示の実施態様への追加である。本明細書における参考文献、特に本件出願の優先日後の公開日を有し得るいかなる参考文献の議論も、本発明に対する先行技術であることを容認するものではない。本明細書中で引用されている全ての特許、特許出願、及び公開の開示は、それらが本明細書中で説明されているものに対して補助的な、例証的、手順的、又はその他の詳細を提供する範囲まで、参照によってここに組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミン酸カルシウムセメント、水、ポリリン酸塩、ポゾラン及び凝固遅延剤を含む組成物であって、前記凝固遅延剤がハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を含む組成物。
【請求項2】
前記凝固遅延剤が、約3:1〜約1:3のハロゲン化アルカリ:塩基性リン酸塩の比を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記凝固遅延剤が、保全組成物の総重量を基準とし、約0.1重量%〜約15重量%の量で前記組成物中に存在する、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記アルミン酸カルシウムセメントが、組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%の量で前記組成物中に存在する、請求項1、2又は3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%の量のアルミン酸カルシウムセメント、及び約0.1重量%〜約15重量%の量の凝固遅延剤を含む組成物であって、前記凝固遅延剤が、ハロゲン化アルカリ及び塩基性リン酸塩を、約3:1〜約1:3の比で含む組成物。
【請求項6】
前記ハロゲン化アルカリが、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、又はそれらの組合せを含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記塩基性リン酸塩が、一塩基性リン酸塩、リン酸ナトリウム一塩基性、リン酸カルシウム一塩基性、リン酸カリウム一塩基性、二塩基性リン酸塩、リン酸ナトリウム二塩基性、リン酸カルシウム二塩基性、リン酸カリウム二塩基性、三塩基性リン酸塩、リン酸ナトリウム三塩基性、リン酸カルシウム三塩基性、リン酸カリウム三塩基性、又はそれらの組合せを含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記凝固遅延剤が、約3:1〜約1:3の比で、塩化ナトリウム及びリン酸ナトリウム一塩基性を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記アルミン酸カルシウムセメントが、約1:1〜約4:1の酸化アルミニウム:酸化カルシウム比を有して、酸化アルミニウム及び酸化カルシウムを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記酸化アルミニウムが、カルシウムアルミナ(calcium alumina)セメントの総重量を基準とし、約30重量%〜約80重量%の量で、前記アルミン酸カルシウムセメント中に存在する、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
水が、組成物の総重量を基準とし、約20重量%〜約180重量%の量で、組成物中に存在する、請求項1〜4又は6〜10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、重合リン酸塩を更に含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
前記重合リン酸塩が、アルカリ金属塩の重合塩、(ヘキサ)メタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、又はそれらの組合せを含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記重合リン酸塩が、組成物の総重量を基準とし、約1重量%〜約20重量%の量で、組成物中に存在する、請求項12又は13記載の組成物。
【請求項15】
前記ポゾランがクラスFのフライアッシュを含む、請求項1〜4又は6〜14のいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
前記ポゾランが、組成物の総重量を基準とし、約30重量%〜約60重量%の量で、組成物中に存在する、請求項1〜4又は6〜15のいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、従来の凝固遅延剤を更に含む、請求項1〜16のいずれか1項記載の組成物。
【請求項18】
前記従来の凝固遅延剤が、有機酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、グルコン酸、オレイン酸、リン酸、尿酸、エチレンジアミン四酢酸、有機酸のアルカリ金属塩、クエン酸ナトリウム、リグノスルホン酸塩遅延剤、非リグノスルホン酸塩遅延剤、又はそれらの組合せを含む、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、約1時間よりも長い増粘時間を有する、請求項1〜18のいずれか1項記載の組成物。
【請求項20】
前記凝固セメントが、約250psi〜約20,000psiの圧縮強度を有する、請求項1〜19のいずれか1項記載の組成物。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項記載の組成物を調製し;該組成物を坑井ボア中に配置し;前記組成物を凝固させることを含む、坑井ボアを保全する方法。

【公表番号】特表2012−520821(P2012−520821A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500302(P2012−500302)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000453
【国際公開番号】WO2010/106308
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(507251077)ハルリブルトン エネルギ セルビセス インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】