説明

凝集濾過方法

【課題】PACの注入量を最適化することが出来、濁度が1度以下に浄化された処理水を常に安定して得ることが出来る凝集濾過方法を提供する。
【解決手段】工業用水の濁度を測定し、当該測定値に基づき所定量のPACを注入し、凝集反応によってフロックを生成させた後、得られた凝集処理液をポンプで繊維濾過装置に圧送して固液分離する凝集濾過方法において、濁度が0〜C1の低濁度範囲、濁度がC2〜上限値(Cmax)の高濁度範囲、濁度がC1を超え且C2未満の中濁度範囲に3つに区分し(但し、上記のC1及びC2は特定の予備試験A及びBで決定される濁度を意味する)、前記の濁度の測定値に基づき、低濁度範囲の工業用水と高濁度範囲の工業用水には特定の予備試験A及びBで求められる一定量のPAC量Q2(Almg/L)を注入し、中濁度範囲の工業用水には以下の式(1)に規定するPAC量Q(Almg/L)を注入する。
[数1]
Q=Q1+[(Q2−Q1)/(C2−C1)]×(C−C1)・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集濾過方法に関し、詳しくは、工業用水を浄化するための凝集濾過方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水は、工場などの事業所に雑用水として地方公営企業から供給される。そして、工業用水は、濁度などの水質基準が定められ、濁度の上限値(Cmax)は一般に10〜20度である。それで、事業所においては、凝集濾過により、濁度が1度程度まで浄化される。因に、工業用水のpHは地方公営企業にもよるが、一般に5.8〜8.6である。
【0003】
凝集濾過方法は、原水に凝集剤を注入して凝集反応を行ってフロックを生成させた後、当該凝集処理液をポンプで濾過装置に圧送して固液分離する方法である。そして、凝集剤には一般的にポリ塩化アルミニウム(PAC)が使用される。また、濾過装置としては、設置面積が小さく且つ再生操作を含めた運転が容易であることから、好適には繊維濾過装置が使用される。そして、凝集濾過方法においては、工業用水の濁度の変動に対応するため、原水の濁度を濁度計で測定し、濁度に比例した量のPACを注入する濁度比例注入制御方式を採用されることが多い(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−336871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、工業用水にPACを注入し、凝集反応によってフロックを生成させた後、得られた凝集処理液をポンプで繊維濾過装置に圧送して固液分離する凝集濾過方法であって、PACの注入方法を改良した凝集濾過方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、濁度の上限値(Cmax)が10〜20度の範囲で且つ既知であり、しかも、pH値を6.0〜7.5の範囲の一定値に調整した工業用水の濁度を測定し、当該測定値に基づき所定量のポリ塩化アルミニウムを注入し、凝集反応によってフロックを生成させた後、得られた凝集処理液をポンプで繊維濾過装置に圧送して固液分離する凝集濾過方法において、濁度が0〜C1の低濁度範囲、濁度がC2〜上限値(Cmax)の高濁度範囲、濁度がC1を超え且C2未満の中濁度範囲に3つに区分し(但し、上記のC1及びC2は以下の予備試験A及びBで決定される濁度を意味する)、前記の濁度の測定値に基づき、低濁度範囲の工業用水には以下の予備試験Aで求められる一定量のポリ塩化アルミニウム量Q1(Almg/L)を注入し、高濁度範囲の工業用水には以下の予備試験Bで求められる一定量のポリ塩化アルミニウム量Q2(Almg/L)を注入し、中濁度範囲の工業用水には以下の式(1)に規定するポリ塩化アルミニウム量Q(Almg/L)を注入することを特徴とする凝集濾過方法に存する。
【0007】
[数1]
Q=Q1+[(Q2−Q1)/(C2−C1)]×(C−C1)・・・(1)
【0008】
[予備試験A]
(1)pH値を前記範囲の一定値に調整し、濁度が上限値(Cmax)×0.2の工業用水に所定量のポリ塩化アルミニウムを注入し、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で凝集濾過を行い、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度(MPa/h)を測定する。
【0009】
(2)上記の試験は、ポリ塩化アルミニウムの注入量が0.3〜0.6(Almg/L)の範囲において行い且つ最小の注入量から開始し、以下の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られるまでポリ塩化アルミニウムの注入量を漸次に増加させて繰り返し行う。
【0010】
[数2]
処理水濁度<1.0度・・・・・(2)
濾過装置の圧力損失の上昇速度<0.01MPa/h・・・・・(3)
【0011】
(3)そして、ポリ塩化アルミニウムの最大の注入量において上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られなかった場合は、上記(1)の工業用水を希釈して濁度を漸次低下させた各工業用水について、上記(1)及び(2)の操作を繰り返す。そして、上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られた場合、その際の工業用水の濁度を低濁度範囲の上限値C1として採用し、その際のポリ塩化アルミニウムの注入量を低濁度範囲のポリ塩化アルミニウム量Q1として採用する。
【0012】
[予備試験B]
(1)pH値を前記範囲の一定値に調整し、濁度が上限値(Cmax)×0.8の工業用水に所定量のポリ塩化アルミニウムを注入し、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で凝集濾過を行い、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度(MPa/h)を測定する。
【0013】
(2)上記の試験は、ポリ塩化アルミニウムの注入量が0.8〜3.0(Almg/L)の範囲において行い且つ最小の注入量から開始し、前記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られるまでポリ塩化アルミニウムの注入量を漸次に増加させて繰り返し行う。
【0014】
(3)そして、ポリ塩化アルミニウムの最大の注入量において前記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られなかった場合は、上記(1)の工業用水を希釈して濁度を漸次低下させた各工業用水について、上記(1)及び(2)の操作を繰り返す。そして、上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られた場合、その際の工業用水の濁度を高濁度範囲の下限値C2として採用し、その際のポリ塩化アルミニウムの注入量を高濁度範囲のポリ塩化アルミニウム量Q2として採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、PACの注入量を最適化することが出来、濁度の上限値(Cmax)が10〜20度の範囲の工業用水から濁度が1度以下に浄化された処理水を常に安定して得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は凝集濾過方法の説明図である。
【図2】図2は本発明で好適に使用される繊維濾過装置の模式的説明図である。
【図3】図3は工業用水の濁度の日間変動を示すグラフの一例である。
【図4】図4は工業用水の濁度とPACの注入量との関係を示すデータの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明の凝集濾過方法の概要について説明する。
【0019】
図1において、原水槽(10)に工業用水を引き込む。そして、原水槽(10)からポンプ(11)にて取り出された工業用水にPACの水溶液を注入しフロック形成槽(12)で凝集反応を行わせてフロックを生成させる。その後、凝集処理液を繊維濾過装置(13)に圧送して固液分離される。
【0020】
PAC水溶液はPAC貯留槽(14)からポンプ(15)によって工業用水に注入されてライン混合される。工業用水の濁度は濁度計(16)により測定され、測定値は演算器(17)に入力される。演算器(17)は、予め求めた工業用水の濁度とPACの注入量との関係を示すデータと工業用水の濁度の測定値に基づいてポンプ(15)を制御し、原水へのPAC注入量を制御する。なお、工業用水の濁度とPACの注入量との関係を示すデータについては後述する。なお、濁度計(16)の種類は特に制限されず従来公知のものを使用することができる。
【0021】
次に、本発明で使用する繊維濾過装置(13)について説明する。
【0022】
本発明においては、塔内に長繊維濾材を収容し、下向流形式で凝集処理液を供給し且つ上向流形式で洗浄水を供給し、凝集処理液供給時には濾材が圧密状態を形成し且つ洗浄水供給時には圧密状態を解除し得る構造を有する長繊維濾過装置が好適に使用される。長繊維濾過装置は、凝集処理液中のフロックの除去に有効であり、濁質除去装置と呼ばれることもある。本発明において、長繊維濾過装置の具体的な構造は限定されないが、例えば、特開2003−24714号公報に記載された「濁質除去装置」は好ましい一例である。
【0023】
図2は、本発明において、好適に使用される長繊維濾過装置の模式的説明図であり、図2(a)は凝集処理液の処理運転の説明図であり、図2(b)は洗浄運転の説明図である。
【0024】
上記の長繊維濾過装置は具体的には次の様な構造を備えている。すなわち、下向流形式で凝集処理液が供給され且つ上向流形式で洗浄水が供給される長繊維濾過装置であって、塔(1)の頂部にはバルブ付の凝集処理液供給配管と洗浄廃水排出配管とが設けられ、塔(1)の底部にはバルブ付の処理水排出配管と洗浄水供給配管と空気供給配管とが設けられ、塔内部には上部支持体(2)と下部支持体(3)とが配置され、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間には芯紐および当該芯紐の周側に突設されたフロック捕捉材から成る複数の濾材(4)が当該濾材の端部の上部吊り紐(7)と下部吊り紐(8)とによって懸垂状態で固定され、濾材(4)の芯紐ならびに上部吊り紐(7)及び下部吊り紐(8)は流水方向に沿って屈曲変形可能に構成され、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間の距離(LA)、濾材(4)の長さ(LB)、上部吊り紐(7)の長さ(Lb1)、下部吊り紐(8)の長さ(Lb2)の関係が以下に規定する式(4)〜(6)を満足する。
【0025】
[数3]
LA<(Lb1+LB+Lb2) (4)
LB<LA (5)
(LB+Lb2)<LA<(LB+Lb1) (6)
【0026】
上記の長繊維濾過装置においは、下向流形式で凝集処理液が供給され且つ上向流形式で洗浄水が供給される。従って、塔(1)の頂部にはバルブ付の凝集処理液供給配管と洗浄廃水排出配管とが設けられ、塔(1)の底部にはバルブ付の処理水排出配管と洗浄水供給配管と空気供給配管とが設けられている。図2に示す装置においては、凝集処理液処理運転および洗浄運転で使用される配管は共通しており、バルブ操作によって通水方向が変更される。
【0027】
すなわち、凝集処理液処理運転の場合、バルブ(61)及び(62)のみが開状態とされ、フロックを含む凝集処理液は、バルブ(61)から配管(51)を経由して塔(1)内に供給される。この際、濾材(4)は後述する様に圧密状態を呈し、凝集処理液に同伴されたフロックは濾材(4)によって捕捉される。フロックを含まない処理水は、配管(52)を経由してバルブ(62)から排出される。
【0028】
一方、洗浄運転の場合、凝集処理液処理運転時に開状態であったバルブ(61)及び(62)が閉止され、洗浄水は、バルブ(64)から配管(52)を経由して塔(1)内に供給される。一方、空気は、バルブ(63)から配管(53)を経由して塔(1)内に供給される。濾材(4)は後述する様に圧密状態を解除し、濾材(4)からフロックが除去される。空気のバブリング作用により、濾材(4)が振動させられ、濾材(4)に付着したフロックの剥離が促進される。フロックを含む洗浄水は、配管(51)を経由してバルブ(65)から排出される。
【0029】
塔内部には上部支持体(2)と下部支持体(3)とが配置され、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間には複数の濾材(4)が当該濾材の端部の上部吊り紐(7)と下部吊り紐(8)とによって懸垂状態で固定されている。
【0030】
上部支持体(2)及び下部支持体(3)の構造は、通水を妨げず且つ吊り紐(7)及び(8)によって濾材(4)を固定し得る構造である限り、特に制限されず、例えば、格子構造、目皿構造、編目構造などを適宜採用し得る。
【0031】
濾材(4)は、芯紐および当該芯紐の周側に突設されたフロック捕捉材から成る。濾材(4)の芯紐ならびに上部吊り紐(7)及び下部吊り紐(8)は流水方向に沿って屈曲変形可能に構成される。斯かる構成は、素材の種類、形態、太さ等の選択によって達成される。
【0032】
上記の各要素は、通常、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂素材にて構成される。また、上記の各紐は、組み、撚り、編み、織り、束ね、くけ又は裁断の各加工で得られた各種の紐の他、十分な強度を有する限り、単糸(モノフィラメント)も使用することが出来る。また、濾材(4)のフロック捕捉材の形状は、通常フィルム小片または糸状とされる。濾材(4)の一例としては、撚り加工された芯紐の周側に無数の糸状フロック捕捉材を放射状に突設した濾材が挙げられる。斯かる濾材は、特開平8−299707号に記載されて公知である。なお、濾材(4)の芯紐が長くフロック捕捉材の突設範囲の両端から突出している場合は、両端突出部の芯紐を上部吊り紐(7)及び下部吊り紐(8)として使用することが出来る。
【0033】
上部支持体(2)と下部支持体(3)との間の距離(LA)、濾材(4)の長さ(LB)、上部吊り紐(7)の長さ(Lb1)、下部吊り紐(8)の長さ(Lb2)は、前述の式(1)〜(3)を満足する必要がある。
【0034】
すなわち、式(4)に示す様に、濾材(4)と上部支持体(2)と下部支持体(3)の合計長さ(Lb1+LB+Lb2)は、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間の距離(LA)より長い。従って、上記の各要素の何れかは塔(1)内に弛んだ状態で存在する。
【0035】
また、式(5)に示す様に、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間の距離(LA)は、濾材(4)の長さ(LB)より長い。従って、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間には流水方向に沿って濾材(4)が存在しない領域が形成されている。換言すれば、流水方向に沿って濾材(4)の可動範囲が形成されている。なお、図2の模式的説明図では濾材(4)同士の間に隙間が存在しているが、実際は濾材(4)同士の間に隙間はなく、複数の濾材(4)は密状態となる様に懸垂され、従って、複数の濾材(4)の全体は、流水方向(上下方向)に沿ってのみ移動する。
【0036】
更に、式(6)に示す様に、濾材(4)と上部吊り紐(7)との合計長さ(LB+Lb1)は、濾材(4)と下部吊り紐(8)との合計長さ(LB+Lb2)より長い。従って、下向流形式で凝集処理液が供給される凝集処理液処理運転時においては、図2(a)に示す様に、濾材(4)は下部支持体(3)に当接して下部吊り紐(8)と共に塔底部近傍で圧密され、上向流形式で洗浄水が供給される洗浄運転時においては、図2(b)に示す様に、濾材(4)は上部支持体(2)に当接せずに下部吊り紐(8)と共に塔内の上方に伸長した状態となる。
【0037】
以上の結果、長繊維濾過装置においては、凝集処理液処理運転時における濾材の圧密状態と洗浄運転時における濾材の圧密状態の解除とにより、濾材によるフロックの捕捉と排出とが効率的に行われる。
【0038】
長繊維濾過装置において、前記の各要素は以下に規定する式(4’)〜(6’)を満足するのが好ましい。式(4’)〜(6’)中の各要素の大小関係の数値は、装置の経済性を考慮して決定された値である。
【0039】
[数4]
1.01×LA<(Lb1+LB+Lb2)<2.00×LA (4’)
1.01×LB<LA<1.50×LB (5’)
1.01×(LB+Lb2)<LA<1.01×(LB+Lb1) (6’)
【0040】
長繊維濾過装置の前記した各要素の寸法は次の通りである。すなわち、上部支持体(2)と下部支持体(3)との間の距離(LA)は100〜400cm、濾材(4)の長さ(LB)は70〜300cm、上部吊り紐(7)の長さ(Lb1)は10〜250cm、下部吊り紐(8)の長さ(Lb2)は5〜20cm、塔(1)の直径は20〜360cmである。
【0041】
本発明においては、繊維濾過装置としては、図2に示す長繊維濾過装置の他、濾過室の濾材支持床を構成する目板等の多孔板の適所に、植物繊維或いは樹脂繊維など長手方向に沿って屈曲変形可能な素材より成る濾材の芯部材の一端を取付けて、適宜数の前記濾材を濾過室に収設すると共に、濾材を、前記芯部材と当該芯部材にその長手方向に沿って放射状に取付けた無数の捕捉糸とで構成した濾過装置(特開平8−299707号公報)、濾過室の濾材支持床を構成する多孔板と当該多孔板に相対する前記濾過室の構成材との離開距離よりも所定量長い芯紐と、当該芯紐の周側に突出させたフロックの捕捉材とで濾材を構成し、適宜数の当該濾材を前記濾過室に収設し、当該濾材の前記芯紐の一端を前記多孔板に、他の一端を前記構成材にそれぞれ止着した、濾過装置(特開2002−45612号公報)、濾過塔内に凝集処理液の流れ方向に沿う複数個の濾過室を並列させて設け、各濾過室の濾材支持床に、長手方向に屈曲変形可能な素材より成る濾過材の少なくとも長手側の一端を取付けて、適量の前記濾過材を前記濾過室に収容した、濾過装置(特開2004−832号公報)、濾材支持床を構成する目板等の多孔板と当該多孔板に相対する上側多孔板で区画して濾過室を構成し、当該濾過室に、適宜数の、縦長繊維濾材を、前記多孔板に下端を取付けて収設し、当該縦長繊維濾材に凝集処理液の下降流を接触させて濾過操作を行うようにした濾過装置において、前記縦長繊維濾材と前記上側多孔板との間の、前記濾過室の上部に形成される空間域に、前記下降流によって移動し、かつ、前記縦長繊維濾材同士間又は縦長繊維濾材と前記濾過室の側壁間に係合する大きさの、浮上性のない繊維塊状物を収納した、濾過装置(特開2008−289973号公報)等を使用することが出来る。
【0042】
次に、工業用水の濁度とPACの注入量との関係を示すデータについて図4を参酌して説明する。
【0043】
本発明の凝集濾過方法は、濁度の上限値(Cmax)が10〜20度の範囲で且つ既知であり、しかも、pH値を6.0〜7.5の範囲の一定値に調整した工業用水を処理対象としている。pH値の調整は、常法に従って、適宜選択されたpH調整剤(アルカリ剤,酸剤)を添加することによって行われ、上記のpH値の範囲においてPACの凝集効果は一層高められる。なお、ここで、採用された一定のpH値は、後述の予備試験AとBとにおいても採用される。
【0044】
本発明において、上記の工業用水は、濁度が0〜C1の低濁度範囲、濁度がC2〜上限値(Cmax)の高濁度範囲、濁度がC1を超え且C2未満の中濁度範囲に3つに区分される。ここで、上記のC1及びC2は以下の予備試験A及びBで決定される濁度を意味する。一方、上限値(Cmax)は、水質基準として地方公営企業によって保証された値を採用することが出来る。そして、本発明においては各区分毎に異なるPACの注入方式を採用する。
【0045】
先ず、濁度が0〜C1の低濁度範囲と濁度がC2〜上限値(Cmax)の高濁度範囲について説明する。これらについては、以下の予備試験A及びBにおいて、C1及びC2とQ1及びQ2を決定する必要がある。
【0046】
[予備試験A]
(1)pH値を前記範囲の一定値に調整し、濁度が上限値(Cmax)×0.2の工業用水に所定量のPACを注入し、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で凝集濾過を行い、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度(MPa/h)を測定する。
(2)上記の試験は、PACの注入量が0.3〜0.6(Almg/L)の範囲において行い且つ最小の注入量から開始し、以下の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られるまでPACの注入量を漸次に増加させて繰り返し行う。
【0047】
[数5]
処理水濁度<1.0度・・・・・(2)
濾過装置の圧力損失の上昇速度<0.01MPa/h・・・・・(3)
【0048】
(3)そして、PACの最大の注入量において上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られなかった場合は、上記(1)の工業用水を希釈して濁度を漸次低下させた工業用水について、上記(1)及び(2)の操作を繰り返す。そして、上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られた場合、その際の工業用水の濁度を低濁度範囲の上限値C1として採用し、その際のPACの注入量を低濁度範囲のPAC量Q1として採用する。
【0049】
[予備試験B]
(1)pH値を前記範囲の一定値に調整し、濁度が上限値(Cmax)×0.8の工業用水に所定量のPACを注入し、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で凝集濾過を行い、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度(MPa/h)を測定する。
【0050】
(2)上記の試験は、PACの注入量が0.8〜3.0(Almg/L)の範囲において行い且つ最小の注入量から開始し、前記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られるまでPACの注入量を漸次に増加させて繰り返し行う。
【0051】
(3)そして、PACの最大の注入量において前記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られなかった場合は、上記(1)の工業用水を希釈して濁度を漸次低下させた各工業用水について、上記(1)及び(2)の操作を繰り返す。そして、上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られた場合、その際の工業用水の濁度を高濁度範囲の下限値C2として採用し、その際のPACの注入量を高濁度範囲のPAC量Q2として採用する。
【0052】
本発明において、前記の予備試験AとBとを規定する意義は次の通りである。
【0053】
先行文献である前述の特開2002−336871号公報の段落[0005]には、PACの自動注入システムとして、原水の濁度を濁度計で測定し、濁度に比例した量のPACを注入する濁度比例注入制御を採用した凝集沈殿は、そのまま膜ろ過における前処理に適用した場合の問題について指摘している。すなわち、原水の低濁時には、PACの注入量が減少するために水質によっては膜ろ過水質の悪化と膜の目詰まりが発生しやすくなり、逆に原水の高濁時には、大量のPACが注入されるために過剰にフロックが形成されて膜の閉塞が発生することがある。
【0054】
ところで、本発明者らの知見によれば、上記と同様の問題は、濾過装置に繊維濾過装置を使用した場合においても惹起される。すなわち、原水の低濁時には、PACの注入量が減少するために水質によっては繊維濾過水質の悪化が発生しやすくなり、逆に原水の高濁時には、大量のPACが注入されるために過剰にフロックが形成されて繊維濾材の閉塞が発生することである。そのため、濁度比例注入制御は、低濁度範囲と高濁度範囲のPAC注入方式としては適切ではない。
【0055】
ところが、本発明者らの有する永年の実績に基づき検討した結果、本発明の規定する前記の予備試験AとBとにより、低濁度範囲における濁度の上限(C1)と高濁度範囲における濁度の下限(C2)とを決定して修正された低濁度範囲と高濁度範囲とを画定し、そして、その際に得られた各PAC注入量Q1及びQ2(すなわち、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度の両者を考慮して選択された必要且つ最小のPAC注入量)を採用するならば、前記の問題を解決することが出来る。
【0056】
そして、前記の予備試験AとBにおいて、PACの注入量の漸次増加は、特に制限されないが、通常、小数点以下1桁の単位で行うのがよい。例えば、予備試験Aの場合、0.3(Almg/L)の注入量で満足な結果が得られない場合、次の試験は0.4(Almg/L)の注入量で行う。また、工業用水の濁度の漸次低下は、特に制限されないが、通常、小数点以下1桁の単位で行うのがよい。例えば、予備試験Aの場合、濁度2.0度の工業用水で満足な結果が得られない場合、次の試験は1.5度の工業用水で行う。
【0057】
また、前記の予備試験AとBにおける凝集濾過は、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で行われるが、必ずしも、同一の繊維濾過装置を使用する必要はない。しかしながら、小規模の繊維濾過装置を使用する場合、少なくとも繊維濾過装置の高さ(具体的には繊維濾材長)と通液速度(LV)は実施する繊維濾過装置の運転と同一の条件にする必要がある。
【0058】
一方、中濁度範囲、すなわち、濁度がC1を超え且C2未満の範囲おいては、以下の式(1)に規定するPAC量Q(Almg/L)を注入する。
【0059】
[数6]
Q=Q1+[(Q2−Q1)/(C2−C1)]×(C−C1)・・・(1)
【0060】
式(1)は、前記の予備試験AとBとにより、求められたC1とC2及びQ1とQ2を利用した式である。すなわち、本発明においては、中濁度範囲においては、予備試験を行って各濁度に最適なPAC量を求めることを行わず、式(1)に基づく単純な比例制御を行う。これは、このような内挿方式を採用しても濁度が1度以下に浄化された処理水を常に安定して得ることが出来るとの本発明者らの知見に基づくものである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1:
濁度の上限値(Cmax)が15度の工業用水を使用し、図1に示す凝集濾過方法を行った。図1中の濾過装置(13)としては、図2に示したのと同様の構造を備え且つ以下の表1に示す条件の長繊維濾過装置に通液した。
【0063】
【表1】

【0064】
[予備試験A]
原水槽(10)に一定量の工業用水を引き込み、希釈して濁度を3.0度に調整し、更にpHを6.5に調整した。その後、原水槽(10)からポンプ(11)にて取り出し、PAC水溶液:0.3(Almg/L)を注入しフロック形成槽(12)で凝集反応を行わせてフロックを生成させた。その後、凝集処理液を長繊維濾濾過装置(13)に圧送して固液分離した。PAC水溶液の注入は、PAC貯留槽(14)からポンプ(15)によって原水に注入してライン混合させた。濾過水の濁度を測定した結果、0.1度であり、濾過装置の圧力損失の上昇速度は殆どなかった(0.01MPa/h未満)。
【0065】
[予備試験B]
原水槽(10)に濁度が上限値(Cmax)の15度近傍である一定量の工業用水を引き込み、希釈して濁度を12度に調整し、更にpHを6.5に調整した。その後、原水槽(10)からポンプ(11)にて取り出し、PAC水溶液:0.8(Almg/L)を注入しフロック形成槽(12)で凝集反応を行わせてフロックを生成させた。その後、凝集処理液を長繊維濾濾過装置(13)に圧送して固液分離した。PAC水溶液の注入は、PAC貯留槽(14)からポンプ(15)によって原水に注入してライン混合させた。濾過水の濁度を測定した結果、0.4度であり、濾過装置の圧力損失の上昇速度は殆どなかった(0.01MPa/h未満)。
【0066】
[本格運転]
原水槽(10)に工業用水を連続的に引き込み、pHを6.5に調整し、ポンプ(11)にて取り出し、PAC水溶液を注入しフロック形成槽(12)で凝集反応が行わせてフロックを生成させ、得られた凝集処理液を濾過装置(13)に圧送して固液分離した。
【0067】
PAC水溶液の注入は、PAC貯留槽(14)からポンプ(15)によって原水に注入してライン混合させた。この際、濁度計(16)によって工業用水の濁度を測定し、演算器(17)に入力し、これによりポンプ(15)を制御し、PAC水溶液の注入量を以下のように制御した。
【0068】
すなわち、工業用水の濁度が3.0度以下の範囲は0.3(Almg/L)の一定値、工業用水の濁度が12.0度以上の範囲は0.8(Almg/L)の一定値とし、それ以外の範囲は、C1=3.0度、C2=12.0度、Q1=0.3(Almg/L)、Q2=0.8(Almg/L)とし、前記の式(1)に規定するPAC量Q(Almg/L)とした。
【0069】
濾過水の濁度を連続的に測定した結果、最高水質が0.1度以下であり、11時間以上0.5度以下を維持した。また、その間、ポンプ(11)の急激な圧力損失の上昇は認められなかった。
【符号の説明】
【0070】
10:原水槽
11:ポンプ
12:フロック形成槽
13:濾過装置
14:PAC貯留槽
15:ポンプ
16:濁度計
17:演算器
1:塔
2:上部支持体
3:下部支持体
4:濾材
7:上部吊り紐
8:下部吊り紐
51〜53:配管
61〜65:バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁度の上限値(Cmax)が10〜20度の範囲で且つ既知であり、しかも、pH値を6.0〜7.5の範囲の一定値に調整した工業用水の濁度を測定し、当該測定値に基づき所定量のポリ塩化アルミニウムを注入し、凝集反応によってフロックを生成させた後、得られた凝集処理液をポンプで繊維濾過装置に圧送して固液分離する凝集濾過方法において、濁度が0〜C1の低濁度範囲、濁度がC2〜上限値(Cmax)の高濁度範囲、濁度がC1を超え且C2未満の中濁度範囲に3つに区分し(但し、上記のC1及びC2は以下の予備試験A及びBで決定される濁度を意味する)、前記の濁度の測定値に基づき、低濁度範囲の工業用水には以下の予備試験Aで求められる一定量のポリ塩化アルミニウム量Q1(Almg/L)を注入し、高濁度範囲の工業用水には以下の予備試験Bで求められる一定量のポリ塩化アルミニウム量Q2(Almg/L)を注入し、中濁度範囲の工業用水には以下の式(1)に規定するポリ塩化アルミニウム量Q(Almg/L)を注入することを特徴とする凝集濾過方法。
[数1]
Q=Q1+[(Q2−Q1)/(C2−C1)]×(C−C1)・・・(1)
[予備試験A]
(1)pH値を前記範囲の一定値に調整し、濁度が上限値(Cmax)×0.2の工業用水に所定量のポリ塩化アルミニウムを注入し、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で凝集濾過を行い、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度(MPa/h)を測定する。
(2)上記の試験は、ポリ塩化アルミニウムの注入量が0.3〜0.6(Almg/L)の範囲において行い且つ最小の注入量から開始し、以下の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られるまでポリ塩化アルミニウムの注入量を漸次に増加させて繰り返し行う。
[数2]
処理水濁度<1.0度・・・・・(2)
濾過装置の圧力損失の上昇速度<0.01MPa/h・・・・・(3)
(3)そして、ポリ塩化アルミニウムの最大の注入量において上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られなかった場合は、上記(1)の工業用水を希釈して濁度を漸次低下させた各工業用水について、上記(1)及び(2)の操作を繰り返す。そして、上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られた場合、その際の工業用水の濁度を低濁度範囲の上限値C1として採用し、その際のポリ塩化アルミニウムの注入量を低濁度範囲のポリ塩化アルミニウム量Q1として採用する。
[予備試験B]
(1)pH値を前記範囲の一定値に調整し、濁度が上限値(Cmax)×0.8の工業用水に所定量のポリ塩化アルミニウムを注入し、実施する繊維濾過装置の運転と実質的に同一条件下で凝集濾過を行い、処理水濁度と濾過装置の圧力損失の上昇速度(MPa/h)を測定する。
(2)上記の試験は、ポリ塩化アルミニウムの注入量が0.8〜3.0(Almg/L)の範囲において行い且つ最小の注入量から開始し、前記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られるまでポリ塩化アルミニウムの注入量を漸次に増加させて繰り返し行う。
(3)そして、ポリ塩化アルミニウムの最大の注入量において前記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られなかった場合は、上記(1)の工業用水を希釈して濁度を漸次低下させた各工業用水について、上記(1)及び(2)の操作を繰り返す。そして、上記の式(2)及び(3)を同時に満足する結果が得られた場合、その際の工業用水の濁度を高濁度範囲の下限値C2として採用し、その際のポリ塩化アルミニウムの注入量を高濁度範囲のポリ塩化アルミニウム量Q2として採用する。
【請求項2】
繊維濾過装置が、塔内に長繊維束の濾材を収容し、下向流形式で原水を供給し且つ上向流形式で洗浄水を供給し、原水供給時には濾材が圧密状態を形成し且つ洗浄水供給時には圧密状態を解除し得る構造を有する、請求項1に記載の凝集濾過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43139(P2013−43139A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183581(P2011−183581)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【Fターム(参考)】