説明

凝集磁気分離装置

【課題】塩酸等の薬品を使用することなく磁性粉の使用量を削減するとともに、回収した回収フロックを削減できる凝集磁気分離装置を提供する。
【解決手段】本発明の凝集磁気分離装置は、磁気分離装置16から排出される回収フロックを、急速撹拌槽26よりも上流側で、凝集剤が添加される前の位置の原水供給管12に返送する返送添加装置18を有している。回収フロックを原水供給管12に返送することによって、塩酸等の薬品を使用することなく回収フロックを再利用できる。また、回収フロックに含まれる磁性粉を再利用できるため、新品の磁性粉の使用量を削減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凝集磁気分離装置に係り、特にバラスト水に含まれるプランクトンや菌類を凝集して磁気力により分離処理する凝集磁気分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2004年に国際海事機関(IMO)で採択されたバラスト水管理条約では、バラスト水(海水)を介した微生物の移動、拡散による生態系のかく乱や健康被害を防ぐため、バラスト水に含まれるプランクトンや菌類を除去又は死滅させるための装置を船舶に搭載することが求められている。現在では、次亜塩素酸ナトリウム等を用いた薬品処理、オゾン処理、紫外線照射、加熱処理、及び磁気分離等、各種水処理技術を組み合わせたバラスト水処理技術が進められている。
【0003】
特許文献1に開示された凝集磁気分離装置は、原水であるバラスト水に磁性粉と凝集剤とを添加し、これを攪拌することでバラスト水中の微生物や菌類を含む磁性フロックを生成し、これを磁気分離手段によってバラスト水から分離するとともに、凝集できない比較的大きな固形物(数mmの小魚や海草類)をドラム型フィルタによって捕集する。この凝集磁気分離装置によれば、使用する凝集剤は水道水処理でも使用されている安全性の高いものであり、塩素等の薬品を使用した処理と比較して、排水時のバラスト水に残留した薬剤や副生成物が環境を2次汚染するリスクは少ない。また、バラスト水中の微生物や細菌類だけではなく、砂や泥も同時に凝集して分離除去できるため、バラストタンク底部への砂や泥の蓄積を防止できる副次的な効果もある。
【0004】
ところで、特許文献1等に開示された凝集磁気分離装置では、バラスト水の浄化性能を維持しつつ、高価な磁性粉の使用量を削減すること、及び回収した回収フロックを削減することが問題として提起されている。
【0005】
つまり、凝集磁気分離装置では、磁性フロックを生成する過程において、磁性粉をできるだけ全てのフロックに均等に抱かせるために、添加する磁性粉は、数ミクロンほどの非常に粒子径が小さく、かつ、均等な粒子径を持ったものを使用しなければならない。
【0006】
しかしながら、このような磁性粉は非常に高価であり、凝集磁気分離装置のランニングコストが高くなる一因となるため、磁性粉の使用量はできるだけ削減することが望まれている。また、凝集磁気分離装置を船舶に搭載する場合、磁性粉の使用量を削減することは、磁性粉を貯留するタンクの小型化につながるため、装置設置スペースが限られた船舶内への装置搭載においてはメリットが大きい。同時に、船舶内への磁性粉の補給作業頻度も低減できるため、船員の負担も軽減できる。
【0007】
一方、磁気分離手段から排出される回収フロックはタンクに貯留して産業廃棄物として処分しなければならない。貯留タンクの小型化、省スペース化、及び産業廃棄物処分費の削減のためにも、回収フロックはできるだけ再利用して、削減することが望まれている。
【0008】
そこで特許文献2には、回収フロックを攪拌しながら塩酸を加えることにより、高分子凝集剤を分解して油、処理水を含んだ凝集剤及び磁性粉に分解し、分解した凝集剤及び磁性粉を原水に戻して再利用する磁気分離浄化装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−117618号公報
【特許文献2】特開2006−718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2では、磁性粉を再利用するために塩酸を使用しているが、船舶で塩酸を使用するためには、強酸性物質である塩酸を用いる処理装置を船舶内に設置する上での安全性や、被処理物質の中和処理の確実性を証明するものをIMOに提出しなければならず、非常に煩雑な手続きが必要となる。
【0011】
このような背景から、特許文献1の如く、バラスト水中の微生物や菌類を物理的に取り除く凝集磁気分離装置において、磁性粉の使用量を削減するとともに、回収した回収フロックを削減できる凝集磁気分離装置が望まれていた。
【0012】
なお、塩酸等の薬品を使用することなく、磁性粉の使用量を削減し、かつ回収した回収フロックを削減しようとする課題は、バラスト水に限定されるものではなく、陸上で処理される原水においても同様に有している。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塩酸等の薬品を使用することなく磁性粉の使用量を削減できるとともに、回収した回収フロックを削減できる凝集磁気分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記目的を達成するために、原水を供給する原水供給管に接続され、磁性粉供給手段から供給された磁性粉と凝集剤とが添加された前記原水を急速撹拌することにより、前記磁性粉を含む磁性マイクロフロックを生成する第1の撹拌槽と、前記第1の撹拌槽から流出した前記磁性マイクロフロックを含む前記原水に高分子凝集剤が添加された原水を、前記第1の撹拌槽よりも遅い回転速度で撹拌を行うことにより前記磁性マイクロフロックを粗大化させる第2の撹拌槽と、前記第2の撹拌槽から流出した粗大化フロックを含む前記原水から、前記粗大化フロックを磁気力によって回収する磁気分離手段と、前記磁気分離手段によって回収された回収フロックを、前記第1の撹拌槽よりも上流側で、前記凝集剤が添加される前の位置で前記原水供給管に返送して前記原水に添加する返送添加手段と、を備えたことを特徴とする凝集磁気分離装置を提供する。
【0015】
本発明の凝集磁気分離装置によれば、磁気分離手段から排出される回収フロックを、第1の撹拌槽よりも上流側で、凝集剤が添加される前の位置の原水供給管に返送する返送添加手段を有している。磁気分離手段から排出された回収フロックは、回収フロック受槽に一旦溜められた後、返送添加手段によって原水供給管に返送される。すなわち、本発明は、回収フロック中の磁性粉を再利用するので、塩酸等の薬品を使用することなく磁性粉の使用量を削減できるとともに、回収した回収フロックを削減できる。また、磁性粉の分離抽出処理が不要になる。なお、返送されない回収フロックは、回収フロック受槽から余剰回収フロックとしてオーバーフローさせて、回収フロック貯留槽に別途貯留する。
【0016】
本発明は、前記磁性粉、前記凝集剤、及び前記回収フロックが添加される前の位置で前記原水の懸濁物質濃度を検出する濃度検出手段と、前記濃度検出手段によって検出された懸濁物質濃度と予め設定された最大原水懸濁物質濃度とに基づいて、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送量、及び前記磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を制御する制御手段と、を備えることが好ましい。
【0017】
本発明の制御手段は、濃度検出手段によって検出された懸濁物質濃度と予め設定された最大原水懸濁物質濃度(凝集磁気分離装置の設計値)とに基づいて、前記返送添加手段による回収フロックの返送量、及び磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を制御する。本発明の如く、原水の懸濁物質濃度を検出し、最大原水懸濁物質濃度を下回ることを確認することによって、分離抽出処理が不要になり、これによって簡素で低コストな構成で回収フロックを再利用できる。また、回収フロックに含まれる磁性粉を再利用できるため、新品の磁性粉の使用量を削減できる。更に、新品の磁性粉に起因する回収フロックの発生量も削減できる。
【0018】
本発明によれば、前記制御手段は、前記濃度検出手段によって検出された前記懸濁物質濃度が、前記最大原水懸濁物質濃度と等しい場合には、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送を停止するとともに、前記磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を制御し、前記懸濁物質濃度が前記最大原水懸濁物質濃度に対し低くなるに従って、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送量を増加させるとともに、前記磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を減少させるように制御することが好ましい。これにより、本発明は、原水の懸濁物質濃度に影響を受けることなく、凝集磁気分離装置の処理能力が安定する。
【0019】
ところで上記発明では、原水の懸濁物質濃度が最大原水懸濁物質濃度を上回った場合には、回収フロックを原水供給管に返送することができない。そこで、このような場合でも回収フロックを返送して、回収フロック中の磁性粉を再利用するためには、返送過程において、回収フロックから磁性粉のみを抽出して、それ以外の懸濁物質成分を除去する必要がある。
【0020】
そこで本発明によれば、前記返送添加手段と前記原水供給管との間の返送管路に磁性粉抽出手段を設け、前記磁性粉抽出手段を、前記回収フロックをせん断力によって破砕する破砕手段と、破砕した回収フロックから磁性粉のみを磁気力によって選択的に抽出する抽出手段と、前記抽出した前記磁性粉を前記原水供給管に返送する返送手段とから構成した。
【0021】
本発明の磁性粉抽出手段によれば、回収フロックからの磁性粉の抽出、及びその他の懸濁物質成分の除去を2段の工程で行う。
【0022】
1段目の工程では、回収フロックに物理的な力を加えて回収フロックを破砕する。回収フロックでは、磁性粉とその他の懸濁物質成分が、無機凝集剤と高分子凝集剤によって強固に凝集しているため、それを破砕するために、超音波破砕機、ラインミル、又はボールミルを使用する。これにより、塩酸等の薬品を使用することなく、物理的な力のみで回収フロックを破砕するため、薬品漏洩のリスクがなく安全性が高い。また、船舶搭載に当たってはIMOの承認手続きが簡素化される。
【0023】
2段目の工程では、抽出手段の磁気力によって、破砕した回収フロックから磁性粉を抽出し、その他の懸濁物質成分を除去する。そして、抽出した前記磁性粉を返送手段によって原水供給管に返送する。返送する回収フロックは、磁性粉の以外の懸濁物質成分が除去されているため、その回収フロック中に含有する磁性粉の純度は高い。よって、原水懸濁物質濃度が高い場合でも、その回収フロックを原水供給管に返送できる。
【0024】
本発明によれば、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送経路には、前記回収フロックに含まれるプランクトン、及び菌類を殺菌する殺菌手段が設けられていることが好ましい。
【0025】
本発明の凝集磁気分離装置が、船舶に設置されるバラスト水処理用の装置の場合には、回収フロックに含まれるプランクトン、及び菌類を殺菌手段によって殺菌して原水供給管に戻すので、原水への新たな負荷とはならない。
【発明の効果】
【0026】
本発明の凝集磁気分離装置によれば、塩酸等の薬品を使用することなく磁性粉の使用量を削減できるとともに、回収した回収フロックを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態の凝集磁気分離装置の全体構成図
【図2】図1に示した凝集磁気分離装置から磁性粉抽出装置を取り除いた基本型の凝集磁気分離装置の概略ブロック図
【図3】図1に示した凝集磁気分離装置の概略ブロック図
【図4】図2に示した凝集磁気分離装置における回収フロック返送率を示したグラフ
【図5】図3に示した凝集磁気分離装置における回収フロック返送率を示したグラフ
【図6】磁性粉添加濃度とフロック除去率の関係を示したグラフ
【図7】原水SSと回収フロック返送率の関係を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に従って本発明に係る凝集磁気分離装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、実施の形態の凝集磁気分離装置10の全体構成図である。この凝集磁気分離装置10は、原水供給管12、凝集装置14、磁気分離装置(磁気分離手段)16、返送添加装置(返送添加手段)18、磁性粉抽出装置(磁性粉抽出手段)20、加熱殺菌装置(殺菌手段)22、及び制御部24を備えている。
【0030】
なお、実施の形態の凝集磁気分離装置10は、船舶に設置されるバラスト水処理用の装置のため、加熱殺菌装置22を備えているが、陸上に設置される凝集磁気分離装置の場合には、加熱殺菌装置22は必須の構成ではない。また、磁気分離装置16で回収された回収フロックを、返送添加装置18によって原水供給管12に直接返送する装置の場合には、磁性粉抽出装置20も必須の構成ではない。
【0031】
凝集装置14は、高速攪拌槽(第1の攪拌槽)26と緩速攪拌槽(第2の攪拌槽)28とを有し、原水供給管12を介して送水された原水(被処理水:海水)から磁性マイクロフロックを生成する。このため、原水供給管12には、磁性粉供給装置(磁性粉供給手段)30と凝集剤添加装置32とが設けられ、また、高速攪拌槽26から緩速攪拌槽28へ送水する管路34には高分子凝集剤添加装置36が設けられる。
【0032】
磁性粉供給装置30は、磁性粉注入用ポンプ38を有し、磁性粉注入用ポンプ38の回転数が制御部24によって制御されることにより、原水供給管12に対する新品磁性粉の添加量が制御される。
【0033】
また、原水供給管12の上流側には、原水の懸濁物質〔以下、SS(Suspended Solid)と称する〕濃度を検出するSS濃度計(濁度計でもよい)40が取り付けられている。SS濃度計40によって計測されたSS濃度情報は制御部24に出力され、制御部24は、そのSS濃度情報に基づいて磁性粉注入用ポンプ38の回転数、及び返送添加装置18を構成する回収フロック返送用ポンプ42の回転数を制御する。これにより、原水供給管12を流れる原水に新品の磁性粉と回収フロックとが添加される。なお、SS濃度計40の設置位置は、原水供給管12に限定されるものではなく、前記磁性粉、前記凝集剤、及び前記回収フロックが添加される前の位置であればよい。例えば、原水を一時貯留するタンクに設置してもよい。
【0034】
ここで、磁性粉としては例えば四三酸化鉄を好適に用いることができ、凝集剤としてはポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の水溶性の無機凝集剤を好適に用いることができる。また、高分子凝集剤としては、アニオン系及びノニオン系のものを好適に用いることができる。
【0035】
高速攪拌槽26は、原水と、原水に添加した磁性粉、凝集剤、及び前記回収フロックとを攪拌するために高速回転する攪拌羽根(不図示)を有する。磁性粉、凝集剤、及び前記回収フロックが添加された原水は、前記攪拌羽根によって高速攪拌される。これにより、数十μm程度の大きさの微小な磁性マイクロフロックが高速攪拌槽26内で生成される。磁性マイクロフロックが生成される際、原水中の微生物や菌類は、電荷を帯びているため磁性粉を核として吸着されて磁性マイクロフロックに取り込まれる。
【0036】
緩速攪拌槽28は、複数段の連続した多段攪拌槽として構成されており、各段の攪拌槽には攪拌羽根(不図示)が設けられている。このような構成の緩速攪拌槽28では、上流側の攪拌槽から下流側の攪拌槽にかけて段階的に攪拌速度が低下するように設定されている。緩速攪拌槽28には高速攪拌槽26から、磁性マイクロフロックを含む被処理水と、この被処理水に添加された高分子凝集剤が送水される。このため、上流側の攪拌槽から下流側の攪拌槽にかけて段階的に低速攪拌が行われることで、磁性マイクロフロックが成長していき粗大化したフロック(粗大化フロック)となる。また、攪拌速度が段階的低速化して行くため、粗大化フロックがそれぞれの攪拌羽根の衝突により破壊される虞が少ない。
【0037】
磁気分離装置16は、前記粗大化フロックを被処理水から回収する。磁気分離装置16は、磁気分離槽44と磁気フィルタ46、及びスクレーパ(不図示)と移送装置48が備えられている。磁気分離槽44には、粗大化フロックを含有する被処理水が緩速攪拌槽28から送水される。磁気フィルタ46は、例えば回転ドラムの体を成し、少なくとも一部を磁気分離槽44中の被処理水に浸漬させることで、磁気分離槽44中に漂う粗大化フロックを被処理水から回収する。回収された粗大化フロック(回収フロック)は、磁気フィルタ46の回転によって磁気分離槽44から引き上げられ、前記スクレーパによって磁気フィルタ46から掻き落とされる。そして、掻き落とされた回収フロックは、スクリュウコンベア等の移送装置48によって回収フロック受槽50に移送され、ここで一時溜められる。
【0038】
回収フロック受槽50に溜められた回収フロックは、ポンプ42によって加熱殺菌装置22へ送られる。加熱殺菌装置22は、回収フロックを加熱処理することにより、回収フロック内に含有された微生物や菌類を死滅させる。なお、回収フロックはスラリー状であるため、ポンプ42としてはチューブポンプ又は一軸ネジ式ポンプなどの容積式ポンプを使用することが好ましい。なお、加熱により菌類等を死滅させるための温度は75〜80℃であり、加熱時間は約3分である。
【0039】
一方、磁性粉抽出装置20は、回収フロックをせん断力によって破砕する破砕装置(破砕手段)52、54と、破砕した回収フロックから磁性粉を磁気力によって選択的に抽出する抽出装置(抽出手段)56と、抽出した磁性粉を原水供給管12に返送するポンプ(返送手段)58とを備えている。
【0040】
すなわち、図1に示した凝集磁気分離装置10は、返送添加装置18による回収フロックの返送経路において、その上流側に加熱殺菌装置22を設け、その下流側に磁性粉抽出装置20を設けた形態である。
【0041】
破砕装置52は、特殊形状の撹拌羽根60を高速回転させて強力なせん断力を発生させるラインミルであり、破砕装置54は、超音波の周波数で振動する棒状の振動子62を浸漬して液64中にせん断力を発生させる超音波破砕機(周波数20kHz程度)である。なお、実施の形態では2台の破砕装置52、54を設置したが、いずれか1台の破砕装置を設置すればよい。また、破砕装置としてボールミル65を使用してもよい。
【0042】
破砕装置52、54によって破砕された回収フロックは、抽出装置56に供給される。抽出装置56は、破砕した回収フロックから磁性粉を磁気力によって抽出する。抽出装置56としては、永久磁石が埋め込まれた磁気ディスクあるいは磁気ドラムを用いた装置を使用する。これにより、回収フロックから磁性粉が抽出され、磁性粉以外のSS物質が排出される。
【0043】
磁性粉以外のSS物質の排出量は、凝集磁気分離装置10の処理量の0.2%程度であるため、ここで使用する抽出装置56は、主たる構成の磁気分離装置16と比較して小型なものでよい。磁性粉の抽出処理を終えた回収フロックは、分離回収フロックとして、回収フロック受槽50で発生した余剰回収フロックと同様に回収フロック貯留槽(不図示)に貯留される。なお、磁気力により抽出された磁性粉は含水率が低く、流動性が悪いため、清水66が溜められたタンク68に供給し、タンク68内で希釈した後、ポンプ58によって原水供給管12に返送される。これにより、原水供給管12を流れる原水に純度の高い磁性粉が添加される。原水供給管12に対する回収フロックの返送位置、及び前記磁性粉の添加位置は、SS濃度計40の下流側であって高速攪拌槽26の上流側であり、かつ凝集剤が添加される位置の上流側である。なお、ポンプ58の回転数は、SS濃度計40によって計測されたSS濃度情報に基づき制御部24によって制御されている。
【0044】
次に、前記の如く構成された凝集磁気分離装置10の作用について説明する。
【0045】
図2に示す概略ブロック図は、図1に示した凝集磁気分離装置10から磁性粉抽出装置20を取り除いた基本型の凝集磁気分離装置10を示している。すなわち、図2の凝集磁気分離装置10は、返送添加装置18による回収フロックの返送経路に加熱殺菌装置22のみを設けた形態である。
【0046】
図2の凝集磁気分離装置10によれば、磁気分離装置16から排出される回収フロックを、凝集剤が添加される前の位置の原水供給管12に返送し添加する返送添加装置18を設けている。磁気分離装置16から排出された回収フロックは、回収フロック受槽50(図1参照)に一旦溜められた後、返送添加装置18のポンプ42によって原水供給管12に返送される。返送されない回収フロックは、回収フロック受槽50から余剰回収フロックとしてオーバーフローさせて、回収フロック貯留槽に別途貯留される。
【0047】
前述の如く回収フロックを原水供給管12に返送することによって、塩酸等の薬品を使用することなく回収フロックを再利用できる。これにより、回収フロックに含まれる磁性粉を再利用できるため、新品の磁性粉の使用量を削減できる。また、新品の磁性粉に起因する回収フロックの発生量も削減される。
【0048】
一方、制御部24は、SS濃度計40によって検出されたSS濃度と、予め設定された最大原水SS濃度とに基づいて、返送添加装置18による回収フロックの返送量と磁性粉供給装置30による新品磁性粉の添加量を制御する。
【0049】
すなわち、制御部24は、SS濃度計40によって検出されたSS濃度が、最大原水SS濃度と等しい場合には、返送添加装置18による回収フロックの返送を停止するとともに、磁性粉供給装置30による新品磁性粉の添加量を制御する。また、制御部24は、SS濃度が最大原水SS濃度に対し低くなるに従って、返送添加装置18による回収フロックの返送量を増加させるとともに、磁性粉供給装置30による新品磁性粉の添加量を減少させるように制御する。
【0050】
これにより、図2の凝集磁気分離装置10によれば、原水のSS濃度に影響を受けることなく、処理能力が安定する。なお、符号70はフィルタであり、このフィルタ70は、磁気分離装置16によって分離された被処理水から処理水と洗浄排水とを分離する。前記洗浄排水は、管路72を介して原水供給管12に戻される。
【0051】
次に、制御部24による具体的な制御方法について説明する。
【0052】
まず、前提として回収フロックの返送量は、ポンプ42の回転数を制御部24が制御することにより、回収フロック排出量の0〜100%の範囲内で制御する。
【0053】
また、回収フロックの返送量は、SS濃度計40によって検出された原水のSS濃度と、予め設定された最大原水SS濃度に基づいて制御部24が制御する。
【0054】
例えば、凝集磁気分離装置10が、最大原水SS濃度50mg/Lで設計されていたとする。このとき、SS濃度50mg/Lの原水が原水供給管12に流入した場合、回収フロックを100%返送すると、回収フロックに含まれる50mg/L相当のSSが原水に戻るため、高速攪拌槽26に流入するSS濃度は50+50=100mg/Lとなり、凝集磁気分離装置10の能力である最大原水SS濃度を上回ってしまう。
【0055】
一方、SS濃度10mg/Lの原水が原水供給管12に流入している場合は、最大原水SS濃度50mg/Lに対して、40mg/Lの余裕があるため、その余裕分だけ回収フロックを原水供給管12に返送しても問題はない。
【0056】
試算によると、図2の凝集磁気分離装置10の場合、原水SS濃度(mg/L)(A)と返送可能な回収フロック量(排出量に対する回収フロックの返送率%)(B)と新品磁性粉の添加量(mg/L)(C)との関係は、図4に示すグラフ、及び下記の表1のようになる。図4のグラフ及び表1は、設計最大原水SS濃度50mg/Lの場合の返送可能な回収フロック量を示している。
【0057】
図4のグラフの縦軸は、磁気分離装置16に送水される直前のフロック中の磁性粉比率を示し、横軸は排出量に対する回収フロックの返送率を示している。また、磁気分離装置16における磁気分離を有効に実行させるため、フロック中の磁性粉比率の下限値を31.6%と設定し、それ以上の磁性粉比率となるように回収フロックの返送率と新品磁性粉の添加量とが定められている。
【0058】
なお、実施の形態では、フロック中の磁性粉比率が下限値の31.6%となるように回収フロックの返送率と新品磁性粉の添加量とが設定されている。具体的には、表1に示すように、原水SS濃度50mg/Lの場合には、回収フロックを返送せず、新品磁性粉のみを30mg/L添加する。原水SS濃度は、SS濃度計40によって検知し、その測定結果に応じて回収フロックの返送量と新品磁性粉の添加量とを表1のように制御する。
【0059】
凝集磁気分離装置10を船舶のバラスト水処理に適用する場合、IMOの規定により、最大原水SS濃度は50mg/Lで設計される。しかしながら、実際の海水のSS濃度は10mg/L未満の場合が多いため、このように回収フロックを原水供給管12に返送することで、新品磁性粉の使用量を削減できる。これによって、新品磁性粉の必要貯留量も削減できるため、装置設置スペースが限られている船舶内においては非常にメリットが大きい。なお、バラスト水処理においてはプランクトンや菌類(生存個体)が除去対象となっているため、回収フロックを原水供給管12に返送する際には、返送管路の途中に加熱殺菌装置22を設けて、プランクトンや菌類を殺滅しながら返送する。
【0060】
【表1】

【0061】
一方、新品磁性粉の注入量は、制御部24がポンプ38の回転数を制御することにより行う。制御範囲は、回収フロックを原水供給管12に返送しない場合の注入量を100%(30mg/L)として0〜100%の範囲とする。新品磁性粉の注入量は、回収フロックの返送量に応じて決定する。例えば、回収フロック返送量が排出量の50%の場合、高速攪拌槽26に流入する磁性粉の50%も返送されるため、新品磁性粉の注入量は約50%(16mg/L)でよい。回収フロックの返送量は回収フロックの返送管路に設置した流量計74により検知し、その測定結果に基づいて制御部24がポンプ38の回転数を制御することにより、新品磁性粉の注入量を制御する。
【0062】
ここで、図2の凝集磁気分離装置10では、原水SS濃度が設計最大原水SS濃度を上回った場合は、回収フロックを返送することができない。そこで、このような場合でも回収フロックを返送して、回収フロック中の磁性粉を再利用するためには、返送過程において、回収フロックから磁性粉のみを抽出して、それ以外のSS成分を除去する必要がある。
【0063】
図3の凝集磁気分離装置10は、磁性粉抽出装置20を磁気分離装置16の後段に配置するとともに、磁性粉抽出装置20の後段に加熱殺菌装置22を配置したものである。
【0064】
すなわち、図3に示した凝集磁気分離装置10は、返送添加装置18による回収フロックの返送経路において、その上流側に磁性粉抽出装置20を設け、その下流側に加熱殺菌装置22を設けた形態である。
【0065】
磁性粉抽出装置20では、磁気分離装置16から排出された回収フロックにおいて、回収フロックに含有する磁性粉の抽出、及びその他SS成分除去を2段の工程に分けて行う。
【0066】
1段目の工程では、回収フロックに物理的な力を加えて回収フロックを破砕する。回収フロックでは磁性粉とその他SS成分が、無機凝集剤と高分子凝集剤によって強固に凝集しているため、それを破砕するために、図1に如くラインミル52、及び/又は超音波破砕機54を使用する。回収フロックは、ラインミル52及び/又は超音波破砕機54による数10秒〜数分の破砕処理によって、ほとんど分解されることが実験にて確認されている。
【0067】
ここで特許文献2の如く、薬品を用いてpH調整を行い、回収フロックの分解を促進する方法もあるが、特に船舶内で実施する場合は、IMOの規制などを考慮すると、物理的方法のみにより回収フロックの分解を行うことが望ましい。
【0068】
2段目の工程では、破砕した回収フロックから磁性粉のみを磁気力により抽出する。抽出装置56としては、永久磁石が埋め込まれた磁気ディスクあるいは磁気ドラムを用いた装置を使用する。そして、抽出した磁性粉を清水66によって希釈した後、ポンプ58によって原水供給管12に返送する。
【0069】
これら2段の工程により、返送する磁性粉の純度が向上するので、原水SS濃度が高くなっても、回収フロックを返送できる。
【0070】
回収フロックから磁性粉以外のSSを30%分離した場合の試算によると、図3の凝集磁気分離装置10の場合、原水SS濃度(mg/L)(A)と返送可能な回収フロック量(排出量に対する回収フロックの返送率%)(B)と新品磁性粉の添加量(mg/L)(C)との関係は、図5に示すグラフ、及び下記の表2のようになる。
【0071】
これにより、磁性粉抽出装置20の無い図2に示した凝集磁気分離装置10と比較して、原水SS濃度に応じた回収フロックの返送率を上げることができるとともに、新品磁性粉の添加量を少なくできる。
【0072】
【表2】

【0073】
また、回収フロック中の磁性粉以外のSS成分の60%を磁性粉抽出装置20によって分離除去できれば、原水SS濃度50mg/Lの場合に、原水SS濃度20mg/L相当の回収フロックとなり、排出量の50%を返送可能となる。原水SS濃度が設計最大原水SS濃度を上回るケースが多い場合、あるいは、より多くの回収フロックを返送して新品磁性粉の使用量を削減したい場合は、磁性粉抽出装置20を設置することが望ましい。
【0074】
〔付記〕
「磁性凝集フロック中の磁性粉比率の最適値に関する説明」
バラスト水処理における処理対象はプランクトンと菌類である。一方、バラスト水処理装置を船舶に搭載する際には、監督官庁が規定した処理性能確認試験が必要となり、その規定では、バラスト水中に砂等の懸濁物質(SS)が最大50mg/L含まれているバラスト水においても、バラスト水排出基準を満たす処理ができることを求めている。
【0075】
そこで、発明者らは、プランクトンや菌類の凝集磁気分離条件を決定する試験においては、砂等の模擬物質としてカオリンという鉱物系微粒子を試験水に添加している。具体的な試験方法を以下説明する。
【0076】
まず、プランクトンや菌類が含まれる海水に、上記カオリンを50mg/Lの濃度で添加し、磁性粉、無機凝集剤および高分子凝集剤の添加率をパラメータ(変数)とした凝集試験を行い、磁性凝集フロックの形成状況を目視等により評価する。その後、磁性凝集フロックの含まれる海水を、永久磁石を並べた水路に通水し、所定時間(数秒)だけ磁石に接触・吸着処理を行い、水路から出てくる海水の磁性凝集フロックの濃度を測定し、その除去率を評価する。
【0077】
上記試験の結果、無機凝集剤として使用したポリ塩化アルミニウムの添加率は5mgAl/L、高分子凝集剤の添加率は1mg/Lの条件で、プランクトンや菌類が十分凝集できることが明らかになった。
【0078】
また、図6に示すように凝集磁性フロックの除去率は磁性粉添加率とともに増加し、添加率30mg/L以上では除去率が頭打ちとなる傾向がみられた。処理コストの観点からは磁性粉添加率はできるだけ少ないことが望ましいため、磁性粉の添加率は30mg/Lとした。
【0079】
上記、磁性粉、無機凝集剤および高分子凝集剤添加率の場合の、磁性凝集フロック中の磁性粉比率は次の式から計算できる。
【0080】
磁性凝集フロック中の磁性粉比率(%)=(磁性粉添加率)/(カオリン添加率+磁性粉添加率+無機凝集剤添加率+高分子凝集剤添加率)×100…(式1)
ここで、磁性粉添加率=30mg/L、カオリン添加率=50mg/L、無機凝集剤添加率=5×(78/27)=14.4mg/L、高分子凝集剤添加率=1mg/Lである。なお、無機凝集剤として添加したポリ塩化アルミニウムは、磁性凝集フロック中では水酸化アルミニウム(Al(OH))として存在するため、添加率5mgAl/Lに係数として、Al(OH)の分子量78/Alの分子量27を乗じている。
それぞれの数値を(式1)に代入すると、
磁性凝集フロック中の磁性粉比率(%)=30/(50+30+14.4+1)=31.4(%)
となる。この磁性粉比率が、磁性凝集フロックの除去率を確保しつつ、処理コストが最小化できる最適な数値であると発明者らは判断した。
【0081】
磁性粉再利用に当たっては、磁性凝集フロックの除去率を確保して、処理性能を維持するために、本磁性粉比率を下回らないように、その処理フローを構成する必要がある。
【0082】
また、図7のグラフは、原水SS(mg/L)に対する回収フロック返送率を示している。このグラフに基づいて回収フロック返送率を設定する。
【符号の説明】
【0083】
10…凝集磁気分離装置、12…原水供給管、14…凝集装置、16…磁気分離装置、18…返送添加装置、20…磁性粉抽出装置、22…加熱殺菌装置、24…制御部、26…高速攪拌槽、28…緩速攪拌槽、30…磁性粉供給装置、32…凝集剤添加装置、34…管路、36…高分子凝集剤添加装置、38…磁性粉注入用ポンプ、40…SS濃度計、42…回収フロック返送用ポンプ、44…磁気分離槽、46…磁気フィルタ、48…移送装置、50…回収フロック受槽、52…破砕装置(ラインミル)、54…破砕装置(超音波破砕機)、56…抽出装置、58…ポンプ、60…撹拌羽根、62…振動子、64…液、66…清水、68…タンク、70…フィルタ、72…管路、74…流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を供給する原水供給管に接続され、磁性粉供給手段から供給された磁性粉と凝集剤とが添加された前記原水を急速撹拌することにより、前記磁性粉を含む磁性マイクロフロックを生成する第1の撹拌槽と、
前記第1の撹拌槽から流出した前記磁性マイクロフロックを含む前記原水に高分子凝集剤が添加された原水を、前記第1の撹拌槽よりも遅い回転速度で撹拌を行うことにより前記磁性マイクロフロックを粗大化させる第2の撹拌槽と、
前記第2の撹拌槽から流出した粗大化フロックを含む前記原水から、前記粗大化フロックを磁気力によって回収する磁気分離手段と、
前記磁気分離手段によって回収された回収フロックを、前記第1の撹拌槽よりも上流側で、前記凝集剤が添加される前の位置で前記原水供給管に返送して前記原水に添加する返送添加手段と、
を備えることを特徴とする凝集磁気分離装置。
【請求項2】
前記磁性粉、前記凝集剤、及び前記回収フロックが添加される前の位置で前記原水の懸濁物質濃度を検出する濃度検出手段と、
前記濃度検出手段によって検出された懸濁物質濃度と予め設定された最大原水懸濁物質濃度とに基づいて、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送量、及び前記磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を制御する制御手段と、
を備えた請求項1に記載の凝集磁気分離装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記濃度検出手段によって検出された前記懸濁物質濃度が、前記最大原水懸濁物質濃度と等しい場合には、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送を停止するとともに、前記磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を制御し、前記懸濁物質濃度が前記最大原水懸濁物質濃度に対し低くなるに従って、前記返送添加手段による前記回収フロックの返送量を増加させるとともに、前記磁性粉供給手段による前記磁性粉の添加量を減少させるように制御する請求項2に記載の凝集磁気分離装置。
【請求項4】
前記返送添加手段と前記原水供給管との間の返送管路には、磁性粉抽出手段が設けられ、
前記磁性粉抽出手段は、前記回収フロックをせん断力によって破砕する破砕手段と、破砕した回収フロックから磁性粉のみを磁気力によって選択的に抽出する抽出手段と、前記抽出した前記磁性粉を前記原水供給管に返送する返送手段とを備えた請求項1、2又は3に記載の凝集磁気分離装置。
【請求項5】
前記返送添加手段による前記回収フロックの返送経路には、前記回収フロックに含まれるプランクトン、及び菌類を殺菌する殺菌手段が設けられている請求項4に記載の凝集磁気分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−152708(P2012−152708A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15362(P2011−15362)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】