説明

処理ガス吐出装置及びこれを備えた表面処理装置

【課題】電気力線の集中を緩和して放電の集中を抑制することができる処理ガス吐出装置などを提供する。
【解決手段】処理ガス吐出装置20は、上部外周面に形成された供給穴23及び下部外周面に形成された吐出穴24を有する管状の外部誘電体22と、外部誘電体22の外周面に設けられ、接地された外部電極と、外部誘電体22の管内にこれと一定間隔を隔てて同軸に設けられる管状の内部誘電体35と、内部誘電体35の管内に設けられる内部電極37と、内部電極37と外部電極との間に高周波電圧を印加する高周波電源39と、外部誘電体22の軸線方向における外部電極の両端部に外部誘電体22と同軸に配置されて該外部電極にそれぞれ接続するとともに、外部誘電体22を間隔を隔てて囲むラッパ状の導電部材29と、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に処理ガスを供給するガス供給機構50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理ガスをプラズマ化して吐出する処理ガス吐出装置、及びこの処理ガス吐出装置を備え、当該処理ガス吐出装置から吐出された処理ガスによって処理対象物の表面を処理する表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記表面処理装置として、従来、例えば、特開2001−35835号公報に開示されたものが知られており、この表面処理装置は、適宜支持されたシート状の処理対象物の上方に配設され、当該処理対象物に向け、処理ガスをプラズマ化して吐出する吐出機構と、この吐出機構に処理ガスを供給するガス供給機構とからなる処理ガス吐出装置などを備える。
【0003】
前記吐出機構は、管状に形成され、処理対象物の上方に配置される外部誘電体と、外部誘電体の外周面に設けられ、接地された外部電極と、管状に形成され、外部誘電体の管内に、当該外部誘電体と一定間隔を隔てるように且つ当該外部誘電体と同軸に設けられる内部電極と、内部電極と外部電極との間に高周波電圧を印加する高周波電源と、前記内部電極の管内部に冷却液を流通,循環させる冷却液循環機構とを備える。
【0004】
前記外部誘電体は、上部外周面に開口し、処理ガスが供給される供給穴と、下部外周面に開口し、前記供給された処理ガスを処理対象物に向けて吐出する吐出穴とを備え、この供給穴及び吐出穴は、長手方向が外部誘電体の軸線と平行なスリット状にそれぞれ形成される。
【0005】
前記ガス供給機構は、外部誘電体の供給穴に接続したガス導入部を備え、当該ガス導入部を介してこの供給穴から外部誘電体と内部電極との間に処理ガスを供給する。
【0006】
この表面処理装置によれば、ガス供給機構によりガス導入部を介して供給穴から外部誘電体と内部電極との間に処理ガスが供給されるとともに、高周波電源により内部電極と外部電極との間に高周波電圧が印加され、当該内部電極と外部電極とによって高周波電界が形成される。
【0007】
外部誘電体と内部電極との間に供給された処理ガスは、当該外部誘電体と内部電極との間を吐出穴側に向けて流動するとともに、前記高周波電界によって内部電極と外部電極(外部誘電体)との間に生じる放電により、ラジカル原子やイオンなどを含んだプラズマとされ、吐出穴からその下方の処理対象物に向けて吐出される。そして、処理対象物は、このようにして吐出された、プラズマ化された処理ガスにより処理される。
【0008】
【特許文献1】特開2001−35835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記従来の表面処理装置において、外部電極101の、外部誘電体102の軸線方向における両端部では、図10に示すように電気力線Rが集中し、この両端部近傍は電界が強くなっている。このため、上記従来の表面処理装置では、当該端部と内部電極103との間で放電が集中的に生じることとなり、この端部近傍の外部誘電体102が局所的に温度上昇して破損するという問題を生じていた。
【0010】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、電気力線の集中を緩和して放電の集中を抑制することができる処理ガス吐出装置、及び当該処理ガス吐出装置を備えた表面処理装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、
処理ガスをプラズマ化して吐出する吐出手段と、該吐出手段に前記処理ガスを供給するガス供給手段とから構成される処理ガス吐出装置であって、
前記吐出手段は、
管状の部材からなり、前記処理ガスが供給される供給穴と、前記供給された処理ガスを吐出する吐出穴とが外周面に開口した外部誘電体と、
前記外部誘電体の外周面の、前記供給穴及び吐出穴を塞がない位置に設けられ、接地された外部電極と、
管状の部材からなり、前記外部誘電体の管内に、該外部誘電体の内周面と一定間隔を隔てるように且つ該外部誘電体と同軸に設けられる内部誘電体と、
前記内部誘電体の管内に設けられる内部電極と、
前記内部電極と外部電極との間に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記ガス供給手段は、前記供給穴から前記外部誘電体と内部誘電体との間に前記処理ガスを供給するように構成され、
前記外部誘電体と内部誘電体との間に供給された処理ガスは、前記電圧印加手段により前記内部電極と外部電極との間に電圧が印加されることによってプラズマ化された後、前記吐出穴から外部へ吐出されるように構成された処理ガス吐出装置において、
前記外部誘電体の軸線方向における、前記外部電極の両端部に配置され、且つ該外部電極にそれぞれ接続された導電部材を備え、該導電部材は、前記外部誘電体の円周方向において前記外部電極のある部分に少なくとも設けられ、該外部誘電体の外周面と間隔を隔てて円弧状に形成されるとともに、前記外部電極の両端部から該外部誘電体の軸線方向に離れるに従って内径が大きくなるように該外部誘電体の軸線に対し傾斜して形成されてなることを特徴とする処理ガス吐出装置に係る。
【0012】
この処理ガス吐出装置によれば、ガス供給手段によって供給穴から外部誘電体と内部誘電体との間に処理ガスが供給されると、供給された処理ガスは、当該外部誘電体と内部誘電体との間を吐出穴側に向けて流動する。
【0013】
内部電極と外部電極との間には、電圧印加手段によって電圧が印加され、当該内部電極と外部電極とによって電界が形成されており、前記処理ガスは、この電界によって当該内部電極(内部誘電体)と外部電極(外部誘電体)との間に生じる放電により、ラジカル原子やイオンなどを含んだプラズマとされる。そして、プラズマ化された処理ガスは、吐出穴から外部に向けて吐出される。
【0014】
本発明では、外部誘電体の軸線方向における外部電極の両端部に当該外部誘電体の外周面と間隔を隔てて円弧状に設けられ、外部電極の両端部から離れるに従って内径が大きくなるように外部誘電体の軸線に対して傾斜した導電部材を外部電極に接続して設けており、このような、外部誘電体の外周面から徐々に離れる導電部材を設けることで、導電部材側に電気力線を向かわせて外部電極の両端部に電気力線が集中するのを緩和することができ、上記従来の表面処理装置のように、外部電極の両端部に電気力線が集中してこの両端部近傍の電界が強くなるのを防止することができる。
【0015】
これにより、外部電極の両端部に放電が集中するのを抑制して、放電の集中による、当該両端部近傍の外部誘電体や内部誘電体の局所的な温度上昇を防止し、当該外部誘電体や内部誘電体が破損するのを防止することができる。
【0016】
尚、前記導電部材の、前記外部誘電体の軸線に対する傾斜角度は、2°〜30°であることが好ましい。これは、傾斜角度が2°よりも小さいと、導電部材の傾斜方向上側の端部に電気力線が集中して当該端部に放電が集中し、傾斜角度が30°よりも大きいと、導電部材の傾斜方向下側の端部に電気力線が集中して当該端部に放電が集中するため、外部誘電体や内部誘電体の局所的な温度上昇を防止することができないからである。したがって、上記角度範囲内であれば、電気力線の集中を効果的に緩和して放電の集中を抑制し、外部誘電体や内部誘電体の局所的な温度上昇を防止することができる。
【0017】
また、本発明は、
処理対象物を支持する支持手段と、
上述した処理ガス吐出装置とを備え、
前記処理ガス吐出装置は、前記吐出穴が前記支持手段によって支持された処理対象物と対峙するように配置され、
前記処理ガス吐出装置から吐出された処理ガスによって前記処理対象物の表面を処理するように構成されてなることを特徴とする表面処理装置に係る。
【0018】
この表面処理装置によれば、処理ガス吐出装置が、上述のように、外部誘電体や内部誘電体の破損を防止することができることから、メンテナンス回数を減らすことができるなどプラズマ表面処理(例えば、表面改質処理や洗浄処理、成膜処理など)を効率的に実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る処理ガス吐出装置によれば、放電の集中による外部誘電体や内部誘電体の局所的な温度上昇を防止してこれらが破損するのを防止することができ、また、本発明に係る表面処理装置によれば、メンテナンス回数を減らすことができるなどプラズマ表面処理を効率的に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。尚、図1は、本発明の一実施形態に係る表面処理装置の概略構成を示した正断面図であり、図2は、図1における矢示A−A方向の断面図であり、図3は、図1における矢示B−B方向の断面図である。また、図4は、本実施形態に係る外部誘電体の概略構成を示した平面図であり、図5は、図4に示した外部誘電体の底面図であり、図6は、本実施形態に係る内部電極の概略構成を示した説明図であり、図7は、本実施形態に係る内部電極及び冷却管などの概略構成を示した断面図であり、図8は、本実施形態に係る接続部材及び整流板の概略構成を示した底面図である。
【0021】
図1乃至図3に示すように、本例の表面処理装置1は、処理対象物たる基板Kを水平に支持して所定の方向(図2及び図3の矢示方向)に搬送する搬送ローラ10と、この搬送ローラ10によって搬送される基板Kの上方に配設され、当該基板Kに向け処理ガスをプラズマ化して吐出する吐出機構21、及びこの吐出機構21に前記処理ガスを供給するガス供給機構50からなる処理ガス吐出装置20などを備えて構成される。
【0022】
前記搬送ローラ10は、その複数が基板搬送方向に沿って所定間隔で配設され、その回転軸10aの両端部が支持部材(図示せず)によって回転自在に支持されている。また、搬送ローラ10は、その回転軸10aの一方端が駆動機構(図示せず)に接続されており、この駆動機構(図示せず)によって回転軸10aが軸中心に回転せしめられることで、基板Kを前記基板搬送方向に搬送する。
【0023】
前記吐出機構21は、石英ガラス管などからなる外部誘電体22と、外部誘電体22の外周面に設けられた外部電極26と、アルミニウムなどの金属からなり、外部電極26を介して外部誘電体22を保持する保持部材27と、ステンレスなどの金属からなり、外部誘電体22の軸線方向における保持部材27の両端部にそれぞれ設けられたラッパ状の導電部材29と、石英ガラス管などからなり、外部誘電体22の管内に、当該外部誘電体22の内周面と一定間隔を隔てるように且つ当該外部誘電体22と同軸に設けられる内部誘電体35と、内部誘電体35の管内に設けられる内部電極36と、内部電極36と外部電極26との間に高周波電圧を印加する高周波電源39と、内部電極36及び保持部材27の内部に冷却液を流通,循環させる冷却液循環機構40とを備える。
【0024】
前記外部誘電体22は、その軸線が基板搬送方向と直交するとともに、基板Kの全幅に渡り当該基板Kと一定間隔を隔てて対峙するように当該基板Kの上方に設けられており、上部外周面に形成された凸部22aと、両端部に形成された鍔部22bと、凸部22aの上面から内周面に貫通し、ガス供給機構50から処理ガスが供給される供給穴23と、下部外周面から内周面に貫通し、前記供給された処理ガスを基板Kに向けて吐出する吐出穴24とを備える。
【0025】
前記供給穴23及び吐出穴24は、図4及び図5に示すように、外部誘電体22の軸線方向に一列に形成された複数のスリット穴からそれぞれ構成されており、当該各スリット穴は、所定長さL1,L4のスリット部23a,24aと、このスリット部23a,24aの両端に形成され、当該スリット部23a,24aのスリット幅L2,L5よりも直径D1,D2の大きい丸穴23b,24b(直径D1はスリット幅L2より大きく、直径D2はスリット幅L5より大きい)とから構成されるとともに、長手方向が外部誘電体22の軸線に沿うように且つ隣り合う端部間の距離が所定間隔L3,L6となるように形成されている。
【0026】
尚、前記スリット部23a,24aの長手方向の長さL1,L4は、300mm〜1200mmに設定され、前記スリット部23aのスリット幅L2は、0.2mm〜2.0mmに設定され、前記スリット穴の隣り合う端部間の距離L3,L6は、0.5mm〜2.0mmに設定され、前記丸穴23bの直径D1は、スリット幅L2の2倍〜6倍に設定され、前記丸穴24bの直径D2は、スリット幅L5の2倍〜6倍に設定される。
【0027】
また、前記スリット部24aのスリット幅L5は、加工上の問題から0.2mmよりも小さくすることは難しいが、できるだけ小さいことが好ましい。これは、スリット幅L5を細くすることで、吐出穴24から吐出される処理ガスの流速を速くし、励起状態にある処理ガスを、通常の状態に戻る前に基板Kの表面に到達させることができるからである。
【0028】
前記外部電極26は、アルミニウムなどの金属膜から構成され、外部誘電体22の左右両側の、凸部22aと吐出穴24の近傍との間の外周面に当接して設けられており、保持部材27を介して接地されている。
【0029】
前記保持部材27は、冷却液を流通させるための冷却流路27aを備えた左右対称な2部材を一組として構成されており、外部電極26の外周面に当接して外部誘電体22を左右両側から挟持するとともに、外部誘電体22をその両端部が当該保持部材27及び導電部材29から突出した状態で保持する。また、左右の各保持部材27は、その上面に取り付けられた連結部材28によって連結,固定されている。
【0030】
前記導電部材29は、外部誘電体22の軸線方向における保持部材27の両端部に取り付けられ(即ち、外部誘電体22の軸線方向における外部電極26の両端部に配置され)、外部誘電体22と同軸の貫通穴30aを備える平板状の取付部30と、取付部30の表面に固設され、外部誘電体22の外周面と間隔を隔てて円弧状に形成されるとともに、取付部30側から外部誘電体22の軸線方向に離れるに従って内径が大きくなるように外部誘電体22の軸線に対して傾斜角度θで傾斜し且つ外部誘電体22と同軸に形成された傾斜部31とを備える。斯くして、この導電部材29(傾斜部31)により、外部誘電体22の外周面は、その下部側部分を除いて囲まれた状態となっている。尚、導電部材29は、左右対称な2部材を一組として構成され、また、前記傾斜角度θは、2°〜30°の範囲に設定される。
【0031】
前記内部誘電体35は、その両端部が外部誘電体22の両端部から突出した状態で当該外部誘電体22の内部に配置されており、一端部が封止部材35aによって封止されている。また、内部誘電体35は、外部誘電体22の内周面に当該外部誘電体22の軸線方向に一定間隔で設けられる図示しないスペーサによって、外部誘電体22の内周面との間に一定の隙間を確実に形成して配置される。尚、内部誘電体35と外部誘電体22との間の隙間は、当該外部誘電体22の各鍔部22bの端面に一端側が当接して設けられる筒状の封止部材32,33によって封止されている。
【0032】
前記内部電極36は、図1乃至図3、図6及び図7に示すように、一端部が封止部材37aによって封止されたステンレス管などからなり、内部誘電体35の管内に当該内部誘電体35と同軸に配置される心材37と、ステンレスなどからなる、厚みが20μm〜50μmのシート状の部材から構成され、心材37の外周面に筒状に巻かれる金属箔38とを備えており、当該金属箔38は、外力が加えられることで変形し、当該外力が取り除かれることで形状が原形に回復するように構成される(即ち、スプリングバック特性を備える)とともに、形状回復作用によって金属箔38の表面が内部誘電体35の内周面に当接するように構成される。
【0033】
尚、心材37は、図6に示すように、金属箔38が、その外径が内部誘電体35の内径よりも小さくなるように巻き付けられた後、内部誘電体35の管内に挿入されるようになっており、内部誘電体35の管内に挿入されて、金属箔38に作用する外力が取り除かれると、金属箔38のスプリングバックによって外径が大きくなることから、内部誘電体35の内周面の全面にこの金属箔38を介して当接することとなる。また、心材37の一端部は、外部電極26や保持部材27、導電部材29よりも外部誘電体22の端部側に位置している。
【0034】
前記高周波電源39は、内部電極36の心材37と外部電極26との間に高周波電圧を印加するように構成される。
【0035】
前記冷却液循環機構40は、図1乃至図3、図6及び図7に示すように、心材37の管内に配置され、一端及び外周面が当該心材37の内面と間隔を隔てて設けられる冷却管41と、ステンレスワイヤなどからなり、冷却管41の外周面に螺旋状に巻かれて心材37の内周面と冷却管41の外周面との間に一定間隔を確保するための金属ワイヤ42と、心材37の他端が接続し、冷却管41の他端側が貫通して設けられる継手43と、冷却管41の他端に接続した第1接続管44と、継手43を介して心材37と冷却管41との間に接続した第2接続管45と、保持部材27の冷却流路27aの一端側に接続した第3接続管(図示せず)と、冷却流路27aの他端側に接続した第4接続管(図示せず)と、第1接続管44及び第3接続管(図示せず)から冷却液を供給するとともに、供給した冷却液を第2接続管45及び第4接続管(図示せず)から還流させる循環装置46とを備える。
【0036】
前記ガス供給機構50は、図1乃至図3及び図8に示すように、一端が封止され、当該一端部が外部誘電体22の上方に外部誘電体22の軸線と平行に配置された導入管51と、導入管51の他端が接続され、圧力スイング吸着(PSA)式窒素ガス生成装置などから構成されて窒素ガスを主成分とする処理ガスを生成する処理ガス生成装置52と、上下に開口した中空状の部材からなり、上端部が導入管51の一端側下部の外周面からその管内に接続し、下端部が外部誘電体22の凸部22aの上面に接続した接続部材53と、接続部材53の上端側内部に重ねられて設けられる平板状且つ細長の部材からなり、上下に貫通し且つ長手方向に一列に形成された複数の貫通穴54aを備える複数の整流板54とを備えており、処理ガス生成装置52から導入管51,接続部材53(整流板54),供給穴23を順次介して外部誘電体22と内部誘電体35との間に前記処理ガスを供給する。尚、接続部材53の下面には供給穴23の周囲を囲むように凹溝53aが形成されて、この凹溝53a内にシール部材55が配置されており、このシール部材55によって接続部材53と凸部22aとの接続部が気密に保たれている。
【0037】
以上のように構成された本例の表面処理装置1によれば、ガス供給機構50の処理ガス生成装置52によって生成された処理ガスが導入管51,接続部材53及び整流板54を介して供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給されると、供給された処理ガスは、当該外部誘電体22と内部誘電体35との間を吐出穴24側に向けて流動する。
【0038】
内部電極36の心材37と外部電極26との間には、高周波電源39により高周波電圧が印加され、金属箔38(内部電極36)と外部電極26とによって高周波電界が形成されており、前記処理ガスは、この高周波電界によって当該金属箔38(内部誘電体35)と外部電極26(外部誘電体22)との間に生じる放電により、ラジカル原子やイオンなどを含んだプラズマとされる。
【0039】
そして、プラズマ化された処理ガスは、吐出穴24から外部へ吐出され、吐出された処理ガス中のラジカル原子やイオンによって、搬送ローラ10により搬送される基板Kの表面が処理される(例えば、表面改質処理や洗浄処理、成膜処理などが行われる)。
【0040】
尚、保持部材27及び外部電極26や、内部電極36の心材37及び金属箔38は、冷却液循環機構40の循環装置46から供給され、冷却流路27a内や、心材37と冷却管41との間を流通する冷却液によって冷却されており、これによって、外部誘電体22及び内部誘電体35たる石英ガラス管が破損するのが防止されている。
【0041】
また、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給される処理ガスの流量は、ガス供給機構50の接続部材53内に設けられた複数の整流板54によって均一となるように調整されており、これによって、外部誘電体22と内部誘電体35と間のプラズマ状態が均一とされたり、吐出穴24から吐出される処理ガスの吐出流量が均一とされている。
【0042】
上述のように、本例の表面処理装置1における処理ガス吐出装置20では、外部誘電体22の軸線方向における保持部材27の両端部に、取付部30及び傾斜部31からなるラッパ状の導電部材29を設け、当該導電部材29により外部誘電体22をその外周面との間の間隔が徐々に広くなるように囲んでいるので、図9に示すように、導電部材29の傾斜部31側に電気力線Rを向かわせて保持部材27の両端部(取付部30の表面)に電気力線Rが集中するのを緩和することができ、上記従来の表面処理装置のように、保持部材27(外部電極26)の両端部に電気力線Rが集中してこの両端部近傍の電界が強くなるのを防止することができる。
【0043】
これにより、当該両端部に放電が集中するのを抑制して、放電の集中による、当該両端近傍の外部誘電体22や内部誘電体35の局所的な温度上昇を防止し、当該外部誘電体22や内部誘電体35が破損するのを防止することができる。
【0044】
尚、傾斜部31の、外部誘電体22の軸線に対する傾斜角度θは2°〜30°の範囲に設定することが好ましく、このようにすれば、電気力線の集中を効果的に緩和して放電の集中を抑制し、外部誘電体22や内部誘電体35の局所的な温度上昇を更に効果的に防止することができる。これは、傾斜角度θが2°よりも小さいと、傾斜部31の傾斜方向上側の端部に電気力線が集中して当該端部に放電が集中し、傾斜角度θが30°よりも大きいと、傾斜部31の傾斜方向下側の端部(傾斜部31の付根部)などに電気力線が集中して当該端部に放電が集中するため、外部誘電体22や内部誘電体35の局所的な温度上昇を防止することができないからである。
【0045】
また、内部電極36を、心材37と、その外周面に巻き付けられる金属箔38とから構成し、当該金属箔38を、スプリングバック特性を備えるように構成するとともに、スプリングバックによって金属箔38の表面が内部誘電体35の内周面に当接するように構成したので、内部電極36(金属箔38)を内部誘電体35の内周面に、隙間を生じさせることなく完全に当接させることができる。
【0046】
これにより、内部誘電体35と内部電極36との間で放電が生じるのを防止して無駄な電力を消費するのを防止することができ、また、心材37の管内を流通する冷却液によって内部誘電体35を効率的且つ均一に冷却し、内部誘電体35の温度上昇を防止して当該内部誘電体35が破損するのを防止することができる。
【0047】
尚、金属箔38の厚みは20μm〜50μmの範囲に設定することが好ましく、このようにすれば、製造の容易化や取り扱いの容易化を図ったり、筒状に巻き易くすることができる。これは、厚みが20μmよりも薄いと、薄過ぎて製造上の問題や取り扱い上の問題を生じ、厚みが50μmよりも厚いと、強度が高くなって筒状に巻き難くなるからである。
【0048】
また、心材37及び冷却管41を2重管構造に構成し、心材37及び冷却管41の他端側に第1接続管44及び第2接続管45を接続しているので、内部誘電体35の片側から効率的にメンテナンスすることができる。また、心材37の両端部にそれぞれ接続管44,45を接続したときのように、接続管の配置スペースなどを内部誘電体35の両側に設ける必要は無く、片側だけで良いので、装置構成のコンパクト化を図ることもできる。
【0049】
また、供給穴23を、長手方向が外部誘電体22の軸線に沿うように一列に形成された複数のスリット穴から構成したので、供給穴を一つのスリット穴から構成する場合に比べて、スリット穴一つ当たりの長手方向における長さを短くし、スリット幅L2を一定に加工し易くしたり、スリット穴(スリット部23a)の長手方向を外部誘電体22の軸線と平行に加工し易くすることができるなど、スリット穴の加工精度を向上させることができる。
【0050】
これにより、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給される、外部誘電体22の軸線方向における処理ガスの流量を略均一にして、吐出穴24から吐出される処理ガスの流量を略均一にすることができる。
【0051】
また、吐出穴24についても、供給穴23と同様、長手方向が外部誘電体22の軸線に沿うように一列に形成された複数のスリット穴から構成したので、スリット穴の加工容易化を図って加工精度を高めることができ、当該吐出穴24から外部に吐出される、外部誘電体22の軸線方向における処理ガスの流量を略均一にすることができる。
【0052】
尚、スリット部23a,24aの長手方向の長さL1,L4は300mm〜1200mmの範囲に設定することが好ましく、このようにすれば、当該スリット部23a,24aの長さを好適なものとして、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給されたり、吐出穴24から外部に吐出される処理ガスの流量を略均一にすることができる。これは、スリット部23a,24aの長手方向の長さL1,L4が300mmよりも短いと、スリット穴一つ当たりの長さを短くして複数のスリット穴を設ける必要がなく、スリット部23a,24aの長手方向の長さL1,L4が1200mmよりも長くなると、スリット穴を精度良く加工することができないからである。
【0053】
また、スリット部23aのスリット幅L2は0.2mm〜2.0mmの範囲に設定することが好ましく、このようにすれば、加工の容易化を図ったり、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給される処理ガスの流量や流速を調整し易くすることができる。これは、スリット幅L2が0.2mmよりも小さくなると、加工が困難になるという問題を生じ、スリット幅L2が2.0mmよりも大きくなると、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給される処理ガスの流量や流速を調整し難くなるからである。
【0054】
また、スリット穴の隣り合う端部間の距離L3,L6は0.5mm〜2.0mmの範囲に設定することが好ましく、このようにすれば、外部誘電体22の強度低下を招くのを防止したり、処理ガスが供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給されない部分や、処理ガスが吐出穴24から外部に吐出されない部分を狭くして処理ガス流量のムラを少なくすることができる。これは、端部間の距離L3,L6が0.5mmよりも小さいと、当該端部間の強度が低下して亀裂や割れなどを生じる恐れが高くなるからであり、端部間の距離L3,L6が2.0mmよりも大きいと、処理ガスが供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給されない部分や、処理ガスが吐出穴24から外部に吐出されない部分が広くなって、処理ガス流量のムラが大きくなるからである。
【0055】
また、スリット部23a,24aの長手方向両端部に、スリット幅L2,L5よりも大きい直径D1,D2の丸穴23b,24bをそれぞれ形成し、スリット穴端部の応力集中を緩和するようにしたので、外部誘電体22に衝撃が加わっても当該端部に亀裂や割れを生じ難くして破損を防止することができ、取り扱いを容易にすることができる。また、丸穴23b,24b部分から供給されたり、吐出される処理ガスが、処理ガスの供給や処理ガスの吐出がない、スリット穴間の部分の処理ガス流量を補うので、供給穴23や吐出穴24から短い距離で処理ガス流量の均一化を図ることができる。
【0056】
尚、前記丸穴23b,24bの直径D1,D2はスリット幅L2,L5の2倍〜6倍の範囲に設定することが好ましく、このようにすれば、応力集中を効果的に緩和して外部誘電体22の破損を防止したり、スリット部23a,24aと丸穴23b,24bの部分との間における処理ガスの流量差を小さくすることができる。これは、直径D1,D2がスリット幅L2,L5の2倍よりも小さくなると、応力集中の緩和が不十分となって外部誘電体22が破損し易く、直径D1,D2がスリット幅L2,L5の6倍よりも大きくなると、スリット部23a,24aから供給されたり、吐出される処理ガスと、丸穴23b,24bから供給されたり、吐出される処理ガスとの間における流量差が大きくなり過ぎるからである。
【0057】
したがって、本例の表面処理装置1によれば、上記処理ガス吐出装置20が、放電の集中による外部誘電体22や内部誘電体35の局所的な温度上昇を防止してこれらが破損するのを防止することができ、また、内部誘電体35と内部電極36との間で放電が生じるのを防止して無駄な電力を消費するのを防止したり、内部誘電体35を効率的且つ均一に冷却して内部誘電体35の破損を防止することができ、更に、供給穴23から外部誘電体22と内部誘電体35との間に供給される処理ガスの流量や、吐出穴24から外部に吐出される処理ガスの流量を均一にしたり、外部誘電体22の強度を高めることができるので、プラズマ表面処理を均一且つ効率的に実施したり、プラズマ表面処理にかかるコストを低減したり、取り扱いの容易化を図ることができる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0059】
上例では、ラッパ状の導電部材29により、外部誘電体22の下部側部分を除いた外周面を間隔を隔てて囲むようにしたが、導電部材29の形状は、外部電極26の形状に応じて適宜変更することが可能である。例えば、外部電極26が外部誘電体22の外周面の一部分にしか設けられていない場合には、導電部材29は、外部誘電体22の円周方向において外部電極26のある部分にのみ設けられるように円弧状に形成されていても良い。また、導電部材29は、外部電極26や保持部材27などと一体的に単一部材から構成されていても良い。
【0060】
また、上例では、基板Kを処理するように構成したが、処理対象物は基板Kに限定されるものではなく、また、処理ガスも窒素ガスを主成分とするものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る表面処理装置の概略構成を示した正断面図である。
【図2】図1における矢示A−A方向の断面図である。
【図3】図1における矢示B−B方向の断面図である。
【図4】本実施形態に係る外部誘電体の概略構成を示した平面図である。
【図5】図4に示した外部誘電体の底面図である。
【図6】本実施形態に係る内部電極の概略構成を示した説明図である。
【図7】本実施形態に係る内部電極及び冷却管などの概略構成を示した断面図である。
【図8】本実施形態に係る接続部材及び整流板の概略構成を示した底面図である。
【図9】本例における電気力線の状態を示した説明図である。
【図10】従来例における電気力線の状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 表面処理装置
10 搬送ローラ
20 処理ガス吐出装置
21 吐出機構
22 外部誘電体
23 供給穴
24 吐出穴
26 外部電極
27 保持部材
29 導電部材
30 取付部
31 傾斜部
35 内部誘電体
36 内部電極
37 心材
38 金属箔
39 高周波電源
40 冷却液循環機構
41 冷却管
42 金属ワイヤ
50 ガス供給機構
51 導入管
52 処理ガス生成装置
53 接続部材
54 整流板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理ガスをプラズマ化して吐出する吐出手段と、該吐出手段に前記処理ガスを供給するガス供給手段とから構成される処理ガス吐出装置であって、
前記吐出手段は、
管状の部材からなり、前記処理ガスが供給される供給穴と、前記供給された処理ガスを吐出する吐出穴とが外周面に開口した外部誘電体と、
前記外部誘電体の外周面の、前記供給穴及び吐出穴を塞がない位置に設けられ、接地された外部電極と、
管状の部材からなり、前記外部誘電体の管内に、該外部誘電体の内周面と一定間隔を隔てるように且つ該外部誘電体と同軸に設けられる内部誘電体と、
前記内部誘電体の管内に設けられる内部電極と、
前記内部電極と外部電極との間に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記ガス供給手段は、前記供給穴から前記外部誘電体と内部誘電体との間に前記処理ガスを供給するように構成され、
前記外部誘電体と内部誘電体との間に供給された処理ガスは、前記電圧印加手段により前記内部電極と外部電極との間に電圧が印加されることによってプラズマ化された後、前記吐出穴から外部へ吐出されるように構成された処理ガス吐出装置において、
前記外部誘電体の軸線方向における、前記外部電極の両端部に配置され、且つ該外部電極にそれぞれ接続された導電部材を備え、該導電部材は、前記外部誘電体の円周方向において前記外部電極のある部分に少なくとも設けられ、該外部誘電体の外周面と間隔を隔てて円弧状に形成されるとともに、前記外部電極の両端部から該外部誘電体の軸線方向に離れるに従って内径が大きくなるように該外部誘電体の軸線に対し傾斜して形成されてなることを特徴とする処理ガス吐出装置。
【請求項2】
前記導電部材の、前記外部誘電体の軸線に対する傾斜角度は、2°〜30°であることを特徴とする請求項1記載の処理ガス吐出装置。
【請求項3】
処理対象物を支持する支持手段と、
前記請求項1又は2記載の処理ガス吐出装置とを備え、
前記処理ガス吐出装置は、前記吐出穴が前記支持手段によって支持された処理対象物と対峙するように配置され、
前記処理ガス吐出装置から吐出された処理ガスによって前記処理対象物の表面を処理するように構成されてなることを特徴とする表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−185635(P2007−185635A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7576(P2006−7576)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】