説明

出没式ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵した出没式ボールペン

【課題】 垂れ下がりと耐乾燥性の相反する機能を満足させ、筆記性能に優れた出没式ボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵した出没式ボールペンを提供する。
【解決手段】 出没式ボールペン用の水性インキ組成物であって、水と、染料と、λ−カラギーナンと、平均粒子径が0.2μm以下のアクリル系樹脂粒子と、下記一般式(1)又は(2)で与えられる少なくとも一種の脂肪族リン酸エステルとからなり、インキ粘度が1〜20mPa・sの範囲にある。
RO−(CHCHO)−PO(OH) (1)
[RO−(CHCHO)]−PO(OH) (2)
〔式中、Rは炭素数12〜15の脂肪族炭化水素であり、nは19以下の整数を示す。〕
前記インキ組成物を収容する出没式ボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は出没式ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵した出没式ボールペンに関する。更に詳細には、ペン先を外気に長期間晒しても、ペン先の乾燥に起因するカスレや筆記不能が発生することなく、保管時の垂れ下がり防止性能に優れた出没式ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵した出没式ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性インキをインキ収容管に直接内蔵し、該インキの後端にインキ逆流防止体を備えたボールペンレフィルを軸筒に収容した出没式ボールペンが多数市場に出回っている。前記出没式ボールペンにおいては、収容されるインキが比較的高い粘度であればペン先からのインキの垂れ下がりをある程度防止できるものの、低粘度のインキを用いると垂れ下がりを生じ易くなる。特に、ペン先にボール径の大きいボールを備えたものは、構造上インキを吐出する隙間が大きくなるため、ペン先を下向きにした場合のインキ垂れ下がりを生じ易い。
また、出没式ボールペンはペン先を大気中に露出した状態で保管されるため、ペン先近傍での耐乾燥性(耐ドライアップ性)が重要となる。特に、ボール径が大きいボールを備えたペン先は、大気に晒される面積が大きいため、耐ドライアップ性能に対して不利な傾向にある。そこで、インキ中に添加されるペン先乾燥防止剤として尿素やその誘導体の増量等が試みられてきた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、尿素やその誘導体は吸水性能の高さが耐乾燥性を発現させるため、これらを過剰に添加したインキは高湿度条件下で放置した際、ペン先で局部的に水分を吸収することになる。そのため、水分吸収によりペン先部分のインキ粘度が低下し、インキがペン先部分に溜まる「垂れ下がり」、或いは溜まったインキが落下する「ボタ落ち」現象が発生し易くなる。特に、着色剤のうち顔料は粒子状態でインキ中に分散されるため垂れ下がりやボタ落ちが生じ難いのに対して、染料を用いた場合、特に低粘度インキにおいては垂れ下がりやボタ落ちを抑制し難いという問題がある。
前述のように、インキ組成物の耐ドライアップ性を向上させる手段は存在するものの、垂れ下がりやボタ落ちといった他の筆記性能を十分に満足させるものではなく、特に、非筆記時に筆記先端部(ボールペンチップ)が常に大気中に開放された構造(キャップを要しない構成)の出没式ボールペンに使用する場合、耐ドライアップ性能を有すると共に、垂れ下がりやボタ落ちを生じないことは重要な要件となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−45372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はキャップを要しない出没式ボールペンに適用されるインキ組成物の問題点を解消するものであって、即ち、着色剤として染料を用いた低粘度のインキであっても、垂れ下がりと耐乾燥性の相反する機能を満足させ、筆記性能に優れた出没式ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵した出没式ボールペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、出没機構の作動によってボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没するボールペンに収容される出没式ボールペン用水性インキ組成物であって、水と、染料と、λ−カラギーナンと、平均粒子径が0.2μm以下のアクリル系樹脂粒子と、下記一般式(1)又は(2)で与えられる少なくとも一種の脂肪族リン酸エステルとからなり、インキ粘度が1〜20mPa・sの範囲にあることを要件とする。
RO−(CHCHO)−PO(OH) (1)
[RO−(CHCHO)]−PO(OH) (2)
〔式中、Rは炭素数12〜15の脂肪族炭化水素であり、nは19以下の整数を示す。〕
更に、前記アクリル系樹脂粒子が、スチレン−アクリル酸共重合物であること、前記λ−カラギーナンをインキ組成物全量中0.05〜0.5重量%含有し、アクリル系樹脂粒子をインキ組成物全量中0.5〜5.0重量%含有し、脂肪族リン酸エステルをインキ組成物全量中0.05〜2.0重量%含有してなることを要件とする。
更に、前記出没式ボールペン用水性インキ組成物を、ボールを抱持したボールペンチップを直接又は中継部材を介して取り付けたインキ収容管内に内蔵し、更に前記インキ組成物後端面にインキ逆流防止体を配設してなるボールペンレフィルが、出没機構の作動によってボールペンチップを軸筒前端開口部から出没する出没式ボールペンを要件とする。
更に、前記出没式ボールペン用水性インキ組成物を、ボールを抱持したボールペンチップを直接又は中継部材を介して取り付けたインキ収容管内に内蔵し、更に前記インキ組成物後端面にインキ逆流防止体を配設してなるボールペンレフィルが軸筒内に複数本収容され、出没機構の作動によって一本のボールペンレフィルのボールペンチップが軸筒前端開口部から出没する出没式ボールペンを要件とする。
更には、前記ボールペンチップのボールが直径0.7mm〜1.6mmの範囲であることを要件とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、低粘度のインキであっても耐ドライアップ性能と垂れ下がり防止性能に優れ、初期及び経時後の書き出しが良好であると共に、筆跡のかすれやボタ落ち等の不具合を生じることなく、良好な筆跡が継続して得られる筆記性能に優れた出没式ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵した出没式ボールペンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のインキ組成物は、λ−カラギーナンと、平均粒子径が0.2μm以下のアクリル系樹脂粒子と、前記一般式で与えられる脂肪族リン酸エステルの三成分を含む低粘度の染料系水性インキ組成物である。
前記インキ組成物においては、アクリル系樹脂粒子と脂肪族リン酸エステルの作用によって、保管時に迅速に形成されると共に筆記時に容易に剥がれる耐乾燥性と耐垂れ下がり性を付与できる、適度な硬さの乾燥皮膜がペン先に形成され、更に、λ−カラギーナンと脂肪族リン酸エステルの作用によって、非筆記時の耐垂れ下がり性と筆記時のインキ吐出流量調整が付与される。そのため、前記三成分を用いることで、低粘度インキであっても耐乾燥性と耐垂れ下がり性を備え、筆跡形成等の筆記性能に優れたボールペン用水性インキ組成物を構成できる。
【0008】
前記λ−カラギーナンは、アクリル系樹脂粒子のインキ分散安定性を向上させることができ、更に一般式の脂肪族リン酸エステルと併用することで、低粘度インキで生じ易いペン先からの過剰なインキ吐出を調整する効果を発現するものである。
前記λ−カラギーナンはインキ組成物全量中0.05〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%添加することができる。0.05%未満では所定の効果を得ることが困難であり、また、0.5%を越えて添加すると、インキ粘度が上昇して所望のインキ粘度範囲を得ることができなくなる。
【0009】
前記アクリル系樹脂粒子は、保管時にペン先に乾燥皮膜を形成するものであり、低粘度インキにおける分散安定性を阻害し難いことから平均粒子径0.2μm以下のエマルションタイプのものが用いられる。特に、被膜形成性能に優れていることから、スチレン−アクリル共重合物が好適である。
前記アクリル系樹脂粒子はインキ組成物全量中0.5〜5.0重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%添加することができる。0.5重量%未満では所定の効果を得ることが困難であり、また、5.0重量%を越えて添加しても、インキ垂れ下がり防止性能の向上は見られず、形成される乾燥皮膜の強度が強くなりすぎて書き出し時の筆跡にカスレが生じる等の悪影響を及ぼすことがあるため、これ以上の添加は必要としない。
【0010】
前記一般式で与えられる脂肪族リン酸エステルは、前記乾燥皮膜の強度を適度に調節するものであり、ペン先部分での水分蒸発によって形成される前記乾燥皮膜中に析出し、乾燥皮膜を不連続な層とすることで強度を弱めていると推測される。また、前記脂肪族リン酸エステルは、前記λ−カラギーナンの効果と相乗し、ペン先からの過剰なインキ吐出を効果的に抑制することができる。
前記脂肪族リン酸エステルは、インキ組成物全量中0.05〜2.0重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%添加することができる。0.05%未満では所定の効果を得ることが困難であり、また、2.0%を越えて添加しても所望効果の向上は見られないため、これ以上の添加は必要としない。
【0011】
前記染料としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能なものが全て使用可能であり、その具体例を以下に例示する。
酸性染料としては、
ニューコクシン(C.I.16255)、
タートラジン(C.I.19140)、
アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、
ギニアグリーン(C.I.42085)、
ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、
アシッドバイオレット6BN(C.I.43525)、
ソルブルブルー(C.I.42755)、
ナフタレングリーン(C.I.44025)、
エオシン(C.I.45380)、
フロキシン(C.I.45410)、
エリスロシン(C.I.45430)、
ニグロシン(C.I.50420)、
アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
【0012】
塩基性染料としては、
クリソイジン(C.I.11270)、
メチルバイオレットFN(C.I.42535)、
クリスタルバイオレット(C.I.42555)、
マラカイトグリーン(C.I.42000)、
ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、
ローダミンB(C.I.45170)、
アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、
メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
【0013】
直接染料としては、
コンゴーレッド(C.I.22120)、
ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、
バイオレットBB(C.I.27905)、
ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、
カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、
ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、
フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
染料を着色剤として用いる場合、キャップを要しないノック式のボールペンに適用する系ではドライアップが顕著であるため、耐ドライアップ性能は重要な要件となる。
前記染料は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中1〜25重量%、好ましくは2〜15重量%の範囲で用いられる。
【0014】
更に、前記染料と併用して、各種顔料を配合することもできる。
前記顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤や樹脂を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:Sandye Super Blue GLL、顔料分24%、山陽色素(株)製〕、
C.I.Pigment Red 146〔品名:Sandye Super Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素(株)製〕、
C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業(株)製〕、
C.I.Pigment Red 220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業(株)製〕等を挙げることができる。
また、水溶性樹脂を用いた水分散顔料としては、
C.I.Pigment Black 7〔商品名:WA color Black A25、顔料分15%、大日精化工業(株)製〕、
C.I.Pigment Green 7〔商品名:WA−S color Green、顔料分8%、大日精化工業(株)製〕、
C.I.Pigment Violet 23〔商品名:マイクロピグモ WMVT−5、顔料分20%、オリエント化学工業(株)製〕、
C.I.Pigment Yellow 83〔商品名:エマコールNSイエロー4618、顔料分30%、山陽色素(株)製〕が挙げられる。
【0015】
更に、蛍光顔料として、各種蛍光染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。その他、金属光沢顔料、蓄光性顔料、二酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム等の白色顔料、可逆熱変色性組成物を内包したカプセル顔料、香料や香料を内包したカプセル顔料等を例示できる。
前記金属光沢顔料としては、アルミニウムや真鍮等の金属粉、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料、金属蒸着膜の片面又は両面に透明又は着色透明フィルムを設けた金属光沢フィルム片を細かく裁断したもの、透明性樹脂層を複数積層した虹彩性フィルムを細かく裁断したものを例示できる。
尚、前記アルミニウムや真鍮等の金属粉を用いる場合、インキ組成物中での安定性に優れることから、前記金属粉の表面を透明性樹脂や着色透明性樹脂で被覆したものが好適に用いられる。
【0016】
また、顔料を併用する場合、必要に応じて顔料分散剤を添加できる。
前記顔料分散剤としてはアニオン、ノニオン等の界面活性剤、ポリアクリル酸、スチレンアクリル酸等のアニオン性高分子、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の非イオン性高分子等が用いられる。
【0017】
更に、水溶性有機溶剤を添加することもでき、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオプレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用することもできる。
【0018】
また、前記成分以外に耐乾燥性を妨げない範疇でアルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、λ−カラジーナン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩等の水溶性高分子を一種又は二種以上添加することができる。
その他、必要に応じてpH調整剤、防錆剤、防腐剤或いは防黴剤、潤滑剤、湿潤剤を添加することができる。
前記pH調整剤としては、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、トリエタノールアミンやジエタノールアミン等の水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等が挙げられる。
前記防錆剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩、サポニン、ジアルキルチオ尿素等が挙げられる。
前記防腐剤或いは防黴剤としては、石炭酸、1、2−ベンズイソチアゾリン−3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等が挙げられる。
前記潤滑剤としては、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、或いは、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。
前記湿潤剤としては、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。
その他、溶剤の浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン、アニオン、カチオン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサン等の消泡剤を添加することもできる。
【0019】
前記インキ組成物をインキ収容管内に内蔵し、且つ、インキ組成物後端面にインキ逆流防止体を配設するタイプのボールペンに用いる場合、インキ中に気体が混入していると、経時により気体が集まって気泡が発生し、筆記時のインキ出に悪影響を与えると共に、筆記先端部に気泡が存在すると筆記不能になる虞があるため、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸、エルソルビン酸誘導体、α−トコフェロール、カテキン、カテキン誘導体、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α−グルコシルルチン、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、ホルムアミジンスルフィン酸、グルタチオン等を添加して化学的に気泡を除去することが好ましい。
【0020】
本発明の水性インキ組成物には、所望により剪断減粘性付与剤、例えば、水に可溶乃至分散性の、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する増粘多糖類、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸アミド等のHLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキル又はジアルケニルスルホコハク酸の塩類等を例示でき、単独或いは混合して使用することもできる。
更に、N−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤の混合物、ポリビニルアルコールとアクリル系樹脂の混合物を用いることもできる。
インキの剪断減粘性とは静止状態あるいは応力の低い時は高粘度で流動し難い性質を有し、応力が増大すると低粘度化して良流動性を示すレオロジー特性を言うものであり、チクソトロピー性あるいは擬似可塑性とも呼ばれる液性を意味している。
【0021】
本発明のインキの粘性特性としては、粘度計(EL型、20℃)での測定粘度が、1〜20mPa・sの範囲にある低粘度インキが有効である。前記粘度のインキは滑らかな筆記感が得られるものの、ペン先下向き状態でのインキ漏れや垂れ下がりに対して不利であるため、本願構成のインキ組成物が特に有用に作用する。
更に、前記インキの物性として、剪断減粘指数〔粘度計による剪断応力値(T)及び剪断速度(j)値の流動学的測定により導かれる、実験式(T=Kj:但し、Kは計算された定数である)を適用して計算されるn値〕が、0.4〜0.9の範囲にあるものが好適である。
【0022】
本発明の出没式ボールペン用水性インキ組成物を収容する出没式ボールペンの構造、形状は特に限定されるものではなく、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造である。
出没機構の操作方法としては、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部を押圧にすることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、軸筒後部に回転部を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に
設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記出没式ボールペンは軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなる複合式のボールペンであってもよい。
なお、前記ボールペンレフィルを構成するインキ収容管は樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
【0023】
前記ボールペンチップは、例えば、金属を切削加工して内部にボール受け座とインキ導出部を形成したもの、金属製パイプの先端近傍の内面に複数の内方突出部を外面からの押圧変形により設け、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成したもの等を適用でき、特に押圧変形によるチップは、ボール後端との接触面積が比較的小であり、低筆記圧でのスムーズな筆記感を与えることができる。
前記ボールペンチップに抱持されるボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等の外径0.1〜2.0mm、好ましくは0.5〜1.8mm、より好ましくは0.7〜1.6mmのボールが有効であり、前記チップのボール抱持部の内径とボールとの径方向の可動距離は10〜50μm、ボールの軸方向の可動距離は10〜30μmの範囲であることが好ましい。
ボールペンチップは構造上、ボール径に比例して大気に晒される面積が増大するため、ボールの外径が大きいほど耐ドライアップ性能が不利な傾向にある。また、ボール径に比例して前記ボール可動距離が大きくなるためインキ吐出量が増え、ペン先を下向きにした場合のインキ漏れが生じ易くなる傾向がある。そのため、本願インキ組成物を収容するボールペンは、0.7mm以上のボールを備えたものでより有効となる。
尚、前記ボールペンチップには、チップ内にボールの後端を前方に弾発する弾発部材を配して、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能に構成することもでき、不使用時のインキ漏れを抑制できる。
前記弾発部材は、金属細線のスプリング、前記スプリングの一端にストレート部(ロッド部)を備えたもの、線状プラスチック加工体等を例示でき、10〜40gの弾発力により、押圧可能に構成して適用される。
【0024】
前記ボールペンレフィルに収容したインキの後端にはインキ逆流防止体を充填することもできる。
前記インキ逆流防止体組成物は不揮発性液体又は難揮発性液体からなる。
具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
【0025】
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物を例示できる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物と、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例のボールペン用水性インキの組成、粘度、剪断減粘指数を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
各実施例、比較例のインキ粘度は、20℃でEL型回転粘度計〔東京計器(株)製、ELアダプター使用〕を用いて、20rpm(比較例2のみ10rpm)にて測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)オリエント化学工業(株)製、商品名:ウォーターブラック100−L
(2)アイゼン(株)製、商品名:フロキシン
(3)ポリオキシエチレンラウリル(C12)エーテルリン酸(n=2)、東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールML−220
(4)ポリオキシエチレンアルキル(C12〜15)エーテルリン酸(n=4)、東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールRS−410
(5)ポリオキシエチレンアルキル(C12〜15)エーテルリン酸(n=9)、東邦化学工業(株)製、商品名:フォスファノールRS−710
(6)スチレン−アクリル酸共重合物、BASFジャパン(株)製、商品名:ジョンクリル7610(固形分52.0重量%、平均粒子径0.13μm)
(7)スチレン−アクリル酸共重合物、BASFジャパン(株)製、商品名:ジョンクリルPDX−7630A(固形分32.0重量%、平均粒子径0.16μm)
(8)アクリル樹脂エマルジョン、DIC(株)製、商品名:VONCOART CF−6140(固形分47.0〜49.0重量%、平均粒子径0.10〜0.15μm)
(9)ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルリン酸モノエステル及びジエステル混合物、第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL
(10)アクリル樹脂エマルジョン、DIC(株)製、商品名:VONCOART 550EF(固形分39.0〜41.0重量%、平均粒子径0.5〜1.5μm)
(11)ウレタン樹脂エマルジョン、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス600(固形分25重量%、平均粒子径0.01μm)
【0030】
ボールペンレフィルの作製
ボールペンレフィルは、先端部に直径1.0mmのボールを回転可能に抱持したボールペンチップ(ボールを前方に弾発するボール押しバネを収容する)と、該ボールペンチップが前部に固着された接続部材と、該接続部材が先端開口部に固着され、且つ、内部にインキ及びインキ逆流防止体が収容されたインキ収容管と、該インキ収容管の後端開口部に固着された尾栓からなる。
前記インキは、各実施例、比較例に記載されたものを混合して室温でディスパーにて3000rpmで1時間攪拌し、濾過することにより作製した。また、前記インキ逆流防止体は、基油としてポリブテン、増粘剤として脂肪酸アマイドを用いて混練したインキ逆流防止体である。
【0031】
ボールペンの作製
ボールペンは、軸筒の後部外面にクリップを形成するとともに、軸筒の内部に、前記各ボールペンレフィルがバネ(コイルスプリング)により後方付勢状態で収容され、軸筒の後端部(ノック操作部)を前方へノック操作することにより、軸筒の先端孔よりボールペンチップが外部に突出するものである。
【0032】
前記各ボールペンにより以下の試験を行った。
垂れ下がり性試験
各ボールペンを用いて、ボールペンチップを軸筒から露出させてチップを下向きで保持し、温度20℃、相対湿度95%の雰囲気下に20時間放置した後、チップ先端の外観を目視で観察し、評価した。
耐乾燥性試験
各ボールペンを用いて、ボールペンチップを軸筒から露出させて横置き状態で保持し、温度20℃で60日間放置した後、旧JIS P3201筆記用紙Aに手書きで丸を一行に12個連続で筆記し、何個目から正常に筆記できるかを目視により観察した。
筆記性試験
作成した直後の各ボールペンを用いて、旧JIS P3201筆記用紙Aに手書きで丸を一行に12個連続で筆記し、何個目から正常に筆記できるかを目視により観察した。
インキ安定性試験
各インキ組成物をガラス容器に収容し、50℃にて30日間放置した後の状態を目視により観察した。
【0033】
試験結果を以下の表に示す。
【表3】

【0034】
尚、テスト結果の評価の記号の内容は以下のとおり。
垂れ下がり性試験
○:インキの漏れだし(垂れ下がり)が認められない。
△:チップ先端にインキの小滴が認められる。
×:チップ先端に、大きいインキ滴が認められる、或いはチップ先端から漏れたインキが落下している。
耐乾燥性試験
○:良好な筆跡が得られる。
△:初期にカスレ等が見られるが一行以内に良好に筆記可能。
×:一行以内に良好な筆跡が得られない、或いは、筆記不能。
筆記性試験
○:良好な筆跡で滑らかに筆記できる。
×:筆跡に線ワレやボテが見られ、滑らかな筆記ができない。
インキ安定性試験
○:インキ全体が均一である。
×:凝集、沈降が見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出没機構の作動によってボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没するボールペンに収容されるインキ組成物であって、水と、染料と、λ−カラギーナンと、平均粒子径が0.2μm以下のアクリル系樹脂粒子と、下記一般式(1)又は(2)で与えられる少なくとも一種の脂肪族リン酸エステルとからなり、インキ粘度が1〜20mPa・sの範囲にある出没式ボールペン用水性インキ組成物。
RO−(CHCHO)−PO(OH) (1)
[RO−(CHCHO)]−PO(OH) (2)
〔式中、Rは炭素数12〜15の脂肪族炭化水素であり、nは19以下の整数を示す。〕
【請求項2】
前記アクリル系樹脂粒子が、スチレン−アクリル酸共重合物である請求項1記載の出没式ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記λ−カラギーナンをインキ組成物全量中0.05〜0.5重量%含有し、アクリル系樹脂粒子をインキ組成物全量中0.5〜5.0重量%含有し、脂肪族リン酸エステルをインキ組成物全量中0.05〜2.0重量%含有してなる請求項1又は2に記載の出没式ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の出没式ボールペン用水性インキ組成物を、ボールを抱持したボールペンチップを直接又は中継部材を介して取り付けたインキ収容管内に内蔵し、更に前記インキ組成物後端面にインキ逆流防止体を配設してなるボールペンレフィルが、出没機構の作動によってボールペンチップを軸筒前端開口部から出没する出没式ボールペン。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の出没式ボールペン用水性インキ組成物を、ボールを抱持したボールペンチップを直接又は中継部材を介して取り付けたインキ収容管内に内蔵し、更に前記インキ組成物後端面にインキ逆流防止体を配設してなるボールペンレフィルが軸筒内に複数本収容され、出没機構の作動によって一本のボールペンレフィルのボールペンチップが軸筒前端開口部から出没する出没式ボールペン。
【請求項6】
前記ボールペンチップのボールが直径0.7mm〜1.6mmの範囲である請求項4又は5に記載の出没式ボールペン。

【公開番号】特開2010−189555(P2010−189555A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35690(P2009−35690)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】