説明

分光光度計

【課題】分析時間が長くなることやデータの精度を低下させることなく、光電子増倍管を用いた非稼動の検出器の保護を行う。また、測定精度を保証するため光電子増倍管を用いた検出器に印加される印加電圧の監視を行う。
【解決手段】AD変換器を増やすことなく、暗信号の安定待機時間中に、電圧を印加された光電子増倍管によって異常な出力を検知したときに光電子増倍管の電源をオフにする。また、測定信号安定待機時間中に、光電子増倍管を用いた検出器に印加される電圧の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光光度計に関し、さらに詳しくは、回転セクタ鏡などにより測定光を2方向へ振り分けるダブルビーム方式の分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計には、その光路の構成によってダブルビーム方式とシングルビーム方式とがある。ダブルビーム方式は、吸光度を算出する過程で原理的に光源の光量変動による影響を相殺することが可能であるため、分析精度の点でシングルビーム方式よりも有利である。
【0003】
ダブルビーム方式の分光光度計では、分光器(モノクロメータ)により取り出された単色光を、回転セクタ鏡を用いて試料側光束と参照側光束とに振り分ける方式がよく知られている。例えば特許文献1に開示された分光光度計では、単色光は一定速度で回転駆動されるセクタ鏡により試料側光束と参照側光束とに交互に振り分けられ、試料側光束は被測定試料に照射され、参照側光束は被測定成分を含まない例えば溶媒のみの参照試料に照射される。つぎに、被測定試料を透過した光と参照試料を透過した光とは1つの検出器に対し交互に導入され、各透過光に対応した信号が検出される。また、光が検出器に入射しない状態での暗電流などによる暗信号を測定するために、光を遮蔽する遮光部がセクタ鏡に一体に設けられている。
【0004】
図3は従来のダブルビーム方式の分光光度計の構成図である。図3において、光源41から発した光は、入口スリット42、回折格子43、出口スリット44、およびステッピングモータ45を含む分光器46に導入され、分光器46から所定の波長の単色光が取り出される。ステッピングモータ45は、入口スリット42を通過した入射光に対し回折格子43の角度を変えることにより、出口スリット44を介して取り出される単色光の波長を変化させる。取り出された単色光つまり測定光は、モータ49により一定速度で回転駆動されるセクタ鏡48によって、2つの反射鏡50、51の方向に交互に送られる。
【0005】
セクタ鏡48の回転に伴い、分光器46からの単色光の照射位置に開口部93が到来したときには、単色光は開口部93を通過して反射鏡51に照射され、試料側光束Lsとなって被測定試料53に照射される。一方、単色光の照射位置に反射鏡92が到来したときには、単色光はその反射鏡92にて反射された後に反射鏡50に照射され、参照側光束Lrとなって参照試料52に照射される。また、単色光の照射位置に遮光部94、95が到来したときには、試料側光束Ls、参照側光束Lrはいずれも照射されない。
【0006】
例えば、被測定試料53は試料セルに被測定試料溶液が充填されたもの、参照試料52は同じ試料セルに溶媒のみが充填されたものである。セクタ鏡48には、開口部93、反射鏡92、遮光部94、95が軸の周りに45°の間隔で設けられ、また軸の点対称位置に同様の部分を有する。したがって、1サイクル(1/2回転期間)中で、被測定試料53と参照試料52とに光が照射される期間は等しく、その間で光が遮蔽される期間も等しい。
【0007】
参照試料52を通過した参照側光束Lrは反射鏡54で反射され、被測定試料53を通過した試料側光束Lsは反射鏡55、56で反射され、いずれも検出器75に入射される。ところで、分光光度計では紫外域から赤外域まで広い波長範囲で分光分析を行うために、波長範囲が広くなると一つの検出器で全波長を検出することが困難となり、複数の検出器を設置することが必要となる。
【0008】
図3に、例として非稼動の検出器57に光電子増倍管、稼動の検出器75にフォトダイオードを使用した場合を示す。負高圧回路74を備えた検出器57は電流電圧変換器72、AD変換器58を経て制御部40へ、また検出器75は電流電圧変換器71およびAD変換器58を経て制御部40へ接続されている。ところで、非稼動の検出器57の光電子増倍管は測定波長が変わった場合、稼動の検出器75のフォトダイオードからすぐに切り替え、計測が開始されるように、常時高電圧が印加されることが望ましい。しかし、非稼動の検出器57の光電子増倍管は外光などの異常に大きな光が入力すると過大な信号が出力され劣化してしまうので、非稼動の検出器57の光電子増倍管にかける負高圧電圧をほぼゼロにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−156655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非稼動の検出器57の光電子増倍管にかける負高圧電圧をほぼゼロにしているので、稼動の検出器75のフォトダイオードから非稼動の検出器57の光電子増倍管に切り替える際に、再度非稼動の検出器57の負高圧電圧を高くする必要があり、安定するまでに時間がかかるため分析時間が長くなるという欠点があった。また、負高圧電圧が安定するのを待たずにデータを取ればデータの精度が悪くなるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、測定光を試料側光路と参照側光路とに交互に振り分ける手段と、前記振り分けにおける1サイクル中の一定期間測定光を遮蔽する光路切替手段と、前記試料側光路中に配設された被測定試料を通過した試料側信号と前記参照側光路中に配設された参照試料を通過した参照側信号とを検出する複数の検出器を具備するダブルビーム方式の分光光度計において、前記測定光が前記光路切替手段で切り替えられる際に生じる測定光遮蔽時の暗信号の安定待機時間に、電圧を印加された光電子増倍管を用いた非稼動の前記検出器の保護を行うための保護手段を備えたものである。
【0012】
さらに本発明は、測定光を試料側光路と参照側光路とに交互に振り分ける手段と、前記振り分けにおける1サイクル中の一定期間測定光を遮蔽する光路切替手段と、前記試料側光路中に配設された被測定試料を通過した試料側信号と前記参照側光路中に配設された参照試料を通過した参照側信号とを検出する複数の検出器を具備するダブルビーム方式の分光光度計において、前記測定光が前記光路切替手段で切り替えられる際に生じる前記試料側信号または参照側信号の測定信号安定待機時間に、光電子増倍管を用いた前記検出器に印加される電圧の測定を行うための測定手段を備えたものである。
【0013】
前記測定信号安定待機時間および暗信号の安定待機時間に分光器の性能を向上させる新たな機能を追加するものである。
【発明の効果】
【0014】
AD変換器を増やすことなく、光電子増倍管の信号の異常を検知して即自己の保護動作を行えるので確実な保護ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例による分光光度計の要部の構成図である。
【図2】本発明の実施例の分光光度計におけるデータ処理を説明するためのタイミング図である。図2(a)は「検出器に入力される信号」を表す。図2(b)は「測定信号測定時間」を表す。図2(c)は「安定待機時間」を表す。図2(d)は「セクタ鏡のフォトセンサから制御部に入力される信号」を表す。図2(e)「セクタ鏡のモード」を表す。
【図3】従来の分光光度計の要部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明のダブルビーム方式の分光光度計の要部の構成図である。図1において、光源1から発した光は、入口スリット2、回折格子3、出口スリット4、およびステッピングモータ5を含む分光器6に導入され、分光器6から所定の波長の単色光が取り出される。ステッピングモータ5は、入口スリット2を通過した入射光に対し回折格子3の角度を変えることにより、出口スリット4を介して取り出される単色光の波長を変化させる。取り出された単色光すなわち測定光は、モータ9により一定速度で回転駆動されるセクタ鏡8によって、2つの反射鏡10、11の方向に交互に送られる。
【0017】
セクタ鏡8の回転に伴い、分光器6からの単色光の照射位置に開口部83が到来したとき、単色光は開口部83を抜けて反射鏡11に照射され、試料側光束Lsとなって被測定試料13に照射される。一方、単色光の照射位置に反射鏡82が到来したとき、単色光はその反射鏡82で反射された後に反射鏡10に照射され、参照側光束Lrとなって参照試料12に照射される。また、単色光の照射位置に遮光部84、85が到来したときには、試料側光束Ls、参照側光束Lrのいずれも照射されない。
【0018】
例えば、被測定試料13は試料セルに被測定試料溶液が充填されたもの、参照試料12は同じ試料セルに溶媒のみが充填されたものである。セクタ鏡8には、開口部83、反射鏡82、遮光部84、85が軸の周りに45°の間隔で設けられ、また軸の点対称位置に同様の部分を有する。したがって、1サイクル(1/2回転期間)中で、被測定試料13と参照試料12とに光が照射される期間は等しく、その間で光が遮蔽される期間も等しい。
【0019】
つぎに、セクタ鏡8の動きを詳しく説明する。セクタ鏡8には、軸の周りには反射鏡82、開口部83、遮光部84、85が、交互に設けられている。いま、分光器6から取り出された単色光の光束が図1中に示す点線に沿って入射する位置にセクタ鏡8が設置されているとした場合、セクタ鏡8が1回転する間に、光束は、反射鏡82→遮光部84→開口部83→遮光部85→反射鏡82→遮光部84の順に進行する。図2に本発明の分光光度計におけるデータ処理を説明するためのタイミング図を示しているが、セクタ鏡8のモードとしては、図2(e)に示すとおり、反射(R)→遮光(DR)→通過(S)→遮光(DS)→反射(R)→遮光(DR)の順に切り替えられる。
【0020】
通過(S)の期間には被測定試料に試料側光束が照射され、反射(R)の期間には参照試料に参照側光束が照射される。なお、遮光(DS、DR)の期間には検出器へ光が入射しない。その結果、検出器において、通過(S)の期間には試料側信号が、反射(R)の期間には参照側信号が、遮光(DS、DR)の期間には暗信号が、時分割で得られる。
【0021】
この検出信号の変化の一例を図2(a)に示す。通常、セクタ鏡8が回転する際に各セクタの切り替わりの前後で信号は大きく変化するが、検出器やその後段の電気回路の周波数応答の制約などのために、信号の変化は図示するとおり、立ち上がりと立ち下がりに鈍りが生じる。このため、図2(c)に示す信号の静定しない安定待機時間が生じる。この検出信号はAD変換器において所定のサンプリング周期でサンプリングされてデジタル値に変換されるが、上述のとおり信号が静定していない範囲では正確なデータを得ることができないため、実際には図2(b)に示した期間にデータを収集する。なお、図2(d)に、セクタ鏡8に設置されたフォトセンサ(図示せず)より、セクタ鏡8が開口部83、反射鏡82、遮光部84、85と切り替わるときを表すタイミング信号を示す。
【0022】
即ち、図2(b)において、Dsは試料側信号データの収集期間、Drは参照側信号データの収集期間、Ddsは試料側暗信号データの収集期間、Ddrは参照側暗信号データの収集期間である。また、図2(c)において、Tsは試料側信号安定待機時間、Trは参照側信号安定待機時間、Tdsは試料側暗信号安定待機時間、Tdrは参照側暗信号安定待機時間である。
【0023】
参照試料12を通過した参照側光束Lrは反射鏡14で反射され、被測定試料13を通過した試料側光束Lsは反射鏡15、16で反射され、いずれも検出器19に導入される。検出器19による検出信号は電流電圧変換器31を経てAD変換器18に入力され、所定のサンプリング周期でサンプリングされてデジタル値に変換される。これにより、検出器19に入射した光の強度に対応したデータが得られ、これが制御部20に入力される。
【0024】
ところで、分光光度計では紫外域から赤外域まで広い波長範囲で分光分析を行うために、波長範囲が広くなると一つの検出器で全波長を検出することが困難となり、複数の検出器を設置することが必要となる。図1に、例として非稼動の検出器17に光電子増倍管、稼動の検出器19にフォトダイオードを使用した場合を示す。検出器17は電流電圧変換器32、AD変換器18を経て制御部20へ、また検出器19はAD変換器18を経て制御部20へ接続されている。ここで、非稼動の検出器17は常時電圧が印加されており、測定波長が変わった場合、稼動の検出器19からすぐに切り替え、即検出器17による測定が開始される。ところで、非稼動の検出器17の光電子増倍管は外光などの異常に大きな光が入力すると過大な信号が出力され劣化してしまうので、検出器17を保護することが必要となる。
【0025】
そのため、フォトダイオードによってAD変換器18が使用されていない暗信号の安定待機時間中に、AD変換器18を使用して光電子増倍管によって異常を検知した場合には、制御部20からの指令により即光電子増倍管の電源をオフにするという保護動作を行う。ただし、暗信号の安定待機時間以外は光電子増倍管への異常入力は監視されないが、安定待機時間は、通常測定で5〜6msec間隔、最もゆっくりした測定でも10〜12msec間隔で発生するので、光電子増倍管の保護は可能である。
【0026】
また、検出器17には常時電圧が印加されており、測定精度を保証するため常に電圧の監視が必要である。そのため、AD変換器を新たに追加することなく、試料側検出信号および参照側検出信号の計測のみに使用されていたAD変換器18を用いて、AD変換器18が使用されていない試料側信号または参照側信号の検出信号安定待機時間中に、負高圧回路34によって検出器17の光電子増倍管に印加される電圧がモニタ回路33によって計測される。前記測定データはAD変換器18を経て制御部20に入力され、もし基準電圧を外れた場合、制御部20からの指令により光電子増倍管の電源をオフにして分光器の計測を中断する。
【0027】
AD変換器18に入力された検出信号は所定のサンプリング周期でサンプリングされてデジタル値に変換され、検出器19に入射した光の強度に対応したデータが得られ、これが制御部20に入力される。セクタ鏡8に設置されたフォトセンサ(図示せず)より、セクタ鏡8の開口部83、反射鏡82、遮光部84、85と切り替わるときの入力光量の変化のタイミング信号(図2(d)参照)が制御部20に取り込まれ、また制御部20は、ステッピングモータ5およびモータ9などを制御する制御信号を送る。制御部20は必要なデータを取捨選択するとともに分類して保存し、さらにはそのデータを用いた所定の演算処理を実行し、被測定試料による吸光度を波長毎に計算する。
【符号の説明】
【0028】
1、41:光源
2、42:入口スリット
3、43:回折格子
4、44:出口スリット
5、45:ステッピングモータ
6、46:分光器
8、48:セクタ鏡
9、49:モータ
10、11、14、15、16、50、51、54、55、56:反射鏡
12、52:参照試料
13、53:被測定試料
17、57:検出器(光電子増倍管)
19、75:検出器(フォトダイオード)
18、58:AD変換器
20、40:制御部
31、32、71、72:電流電圧変換器
33 :モニタ回路
34、74:負高圧回路
82、92:反射鏡
83、93:開口部
84、94:遮光部(R)
85、95:遮光部(S)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を試料側光路と参照側光路とに交互に振り分ける手段と、前記振り分けにおける1サイクル中の一定期間測定光を遮蔽する光路切替手段と、前記試料側光路中に配設された被測定試料を通過した試料側信号と前記参照側光路中に配設された参照試料を通過した参照側信号とを検出する複数の検出器を具備するダブルビーム方式の分光光度計において、前記測定光が前記光路切替手段で切り替えられる際に生じる測定光遮蔽時の暗信号の安定待機時間に、電圧を印加された光電子増倍管を用いた非稼動の前記検出器の保護を行うための保護手段を備えたことを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
測定光を試料側光路と参照側光路とに交互に振り分ける手段と、前記振り分けにおける1サイクル中の一定期間測定光を遮蔽する光路切替手段と、前記試料側光路中に配設された被測定試料を通過した試料側信号と前記参照側光路中に配設された参照試料を通過した参照側信号とを検出する複数の検出器を具備するダブルビーム方式の分光光度計において、前記測定光が前記光路切替手段で切り替えられる際に生じる前記試料側信号または参照側信号の測定信号安定待機時間に、光電子増倍管を用いた前記検出器に印加される電圧の測定を行うための測定手段を備えたことを特徴とする分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−177635(P2012−177635A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41152(P2011−41152)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】