説明

分光装置

【課題】小型化を図ることができると共に、高感度な計測を実現する分光装置を提供する。
【解決手段】 分光装置1は、入力部13を通して入力される被測定光を分光素子9によって分光した後、分光された各波長の光を集光光学系7で集光して出力部15を通して光信号として出力する分光器3と、光信号の波長を走査する波長走査手段17と、光信号を検出して電気信号に変換して出力する光検出部19と、光検出部29から出力された電気信号から被測定光のスペクトルを算出する演算部21Bと、を備え、出力部15は、集光光学系7によって集光される各波長の光の集光位置を含む面に配置される基体15aに各波長の光を選択する複数の光成分選択部15b〜15eが設けられて構成されており、演算部は、出力部15が有する複数の光成分選択部の空間パターンと電気信号とを利用して被測定光のスペクトルを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定光のスペクトルを検出する分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この技術の分野の分光装置として、図15に示すようなツェルニー・ターナー型のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。図15に示す分光装置101では、入射用スリット(入力部)103を通して入射された被測定光は、球面鏡105によって平行光にされて平面回折格子107に照射される。そして、平面回折格子107によって回折された光は、球面鏡(集光光学系)109によって集光され、球面鏡109の焦点近傍に配置された出射側スリット(出力部)111を通って光検出器113によって検出される。分光装置101では、平面回折格子107を回転させることで、光検出器103前の出力側スリット111上で波長の走査を行い、出力側スリット111を通過した波長成分のみを検出することで、被測定光のスペクトルを検出する。このような分光装置では、検出器を、例えば、光電子増倍管にすることができるので、高感度な分光計測が可能となっている。
【特許文献1】特開昭63−182529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ツェルニー・ターナー型の分光装置では、検出器には、出力側スリットを通った光のみが到達する。そのため、計測可能な光信号は、全波長領域に対してスリットによって切り出されたもののみである。その結果として、スリットで切り出された波長領域以外の波長領域の光成分を捨てていることになる。
【0004】
上記問題を解決するために、出射側スリットの位置に、1次元又は2次元の検出器アレーを配置して、分光出力全体を計測することも考えられる。
【0005】
しかしながら、1次元又は2次元の検出器アレーでは、主に半導体フォトダイオードが用いられるため、微弱な光信号の検出が困難である。微弱な光信号を検出するためには、例えば、半導体フォトダイオードを冷却することで熱雑音を低減し、長時間積算する方法が考えられるが、装置が大型になる虞がある。また、半導体フォトダイオードの直前に光電面を配したイメージ増倍管を利用して計測の感度を向上することも考えられるが、この場合も装置が大型になる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、小型化を図ることができると共に、高感度な計測を実現する分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分光装置は、入力部を通して入力される被測定光を分光素子によって分光した後、分光された各波長の光を集光光学系で集光して出力部を通して光信号として出力する分光器と、光信号の波長を走査する波長走査手段と、光信号を検出して電気信号に変換して出力する光検出部と、光検出部から出力された電気信号から被測定光のスペクトルを算出する演算部と、を備え、出力部は、集光光学系によって集光される各波長の光の集光位置を含む面に配置される基体に各波長の光を選択する複数の光成分選択部が設けられて構成されており、複数の光成分選択部によって各波長の光を選択することで光信号して出力し、演算部は、出力部が有する複数の光成分選択部の空間パターンと電気信号とを利用して被測定光のスペクトルを算出することを特徴とする。
【0008】
この分光装置では、入力部を通って分光器内に入力された被測定光は、分光素子によって分光され、分光された各波長の光は集光光学系で出力部の異なる位置にそれぞれ集光される。そして、出力部が有する基体に設けられた複数の光成分選択部によって各波長の光が選択されて光信号として出力される。従って、あるタイミングで出力部から出力される光信号は、被測定光のスペクトルが、複数の光成分選択部の空間パターンで切り出されたものである。
【0009】
そして、分光装置では、出力部から出力される光信号の波長は、波長走査手段によって走査される。これは被測定光のスペクトルに対する上記空間パターンによる切り出し位置が順に変化することに対応する。従って、波長走査手段で波長走査された光信号を光検出部で検出して変換された電気信号は、被測定光のスペクトルが上記空間パターンに異なる位置で切り出された光信号が順次積算されたものである。そのため、演算部において、光検出器から出力される電気信号と光成分選択部の空間パターンとを利用することで、被測定光のスペクトルを算出することができる。
【0010】
また、上記のように出力部から出力される光信号の波長を走査することで、被測定光のスペクトルを得ているので、例えば、アレー状の検出器を使用しなくてもよい。その結果として、分光装置の小型化を図ることが可能となっている。
【0011】
本発明に係る分光装置が有する演算部は、空間パターンを表す関数で電気信号をデコンボリューションすることによってスペクトルを算出することが好ましい。
【0012】
光検出部から出力される電気信号は、被測定光のスペクトルと、光成分選択部の空間パターンを表す関数とのコンボリューションで表される。そのため、演算部が、光検出部から出力される電気信号を、空間パターンを示す関数でデコンボリューションすることによって、被測定光のスペクトルを算出できる。
【0013】
更に、本発明に係る分光装置では、複数の光成分選択部の数は3つ以上であり、隣接する光成分選択部間の間隔のうちの少なくとも1つは、他の間隔と異なることが好ましい。このように光成分選択部間の間隔を不均一にすることで、スペクトルを算出する際に、アーチファクトが発生しにくく、より正確なスペクトルを算出できる傾向にある。
【0014】
更にまた、本発明に係る分光装置では、複数の光成分選択部各々は、光を通す通光部であることが好ましい。この場合、通光部を通った光が光信号として光検出部によって検出されることになる。
【0015】
更に、本発明に係る分光装置が有する複数の通光部は、出力部から出力される光信号の出力方向に対して交差する方向に配列された複数のスリットであり、複数のスリット各々は、その配列方向に略直交する方向に延在していることが好適である。これにより、各スリットを利用して、あるタイミングにおいて被測定光のスペクトルを確実に切り出すことが可能である。
【0016】
また、本発明に係る分光装置が有する複数の通光部は、2次元状に配置された開口であることも有効である。
【0017】
また、本発明に係る分光装置では、基体には、開口が形成されており、複数の光成分選択部は、出力部から出力される光信号の出力方向に対して交差する方向に配列されると共に、開口を分割するように基体に設けられた複数の線状体であることが好ましい。この場合、線状体によって線状体の位置に集光した波長の光が遮断され、隣接する線状体間の隙間を通る光が出力されるので、あるタイミングで出力部から出力される光信号は、被測定光のスペクトルが、複数の光成分選択部の空間パターンで切り出されるものになる。そして、開口に線状体を設けるので、線状体の空間パターンの再現性が高くなる傾向にある。
【0018】
更にまた、本発明に係る分光装置では、入力部は、基体に光導入部が形成されて構成されており、光導入部と光成分選択部との形状が略同一であることが好ましい。光検出部に入力される光信号には、光導入部と光成分選択部の形状の影響が含まれているが、上記のように光導入部及び光成分選択部を略同一の形状とすることによって、演算部での演算において光導入部と光成分選択部の形状の影響を抑制でき、より正確なスペクトルを算出することが可能である。
【0019】
また、本発明に係る分光装置の光検出部は、光電子増倍管が有効である。これにより、出力部から出力された光信号を高感度に検出することが可能である。
【0020】
更にまた、本発明に係る分光装置の光検出部は、波長感度の異なる2つ以上の光検出器を備えていることが好ましい。これにより、各光検出器によってそれぞれ異なる波長感度領域の光信号を同時に計測することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る分光装置は、小型化を図ることができると共に、高感度な計測を実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係る分光装置の実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る分光装置の一実施形態の構成を概略的に示すブロック図である。分光装置1は、被測定光を分光するツェルニー・ターナー型の分光器3を備える。
【0024】
分光器3は、球面鏡5、球面鏡(集光光学系)7及び分光素子としての平面回折格子9を収容する筐体11と、球面鏡5の焦点面に配置されており筐体11内に被測定光を入力するための入力部13と、球面鏡7の焦点面に配置されており筐体11内で分光された光を光信号として出力するための出力部15とを有する。
【0025】
ここでは、分光素子は、平面回折格子9としているが、分光器に利用されるものであって被測定光を分光できれば特に限定されず、プリズム等も例示できる。また、集光光学系を球面鏡7としているが、分光素子で分光された各波長の光を集光できれば特に限定されない。
【0026】
図2は、入力部の平面図である。入力部13は、ステンレス製の箔等からなる基体13aに一方向に延在する開口であるスリット(光導入部)13bが一つ形成された一重スリット構造を有するものである。入力部13は、例えば、基体13aにレーザ光等を利用してスリット13bを高精度に形成することで作製される。入力部13は、スリット13bの延在方向が被測定光の分光器3への入射方向と略直交する方向(鉛直方向)になるように配置される。
【0027】
図3は、出力部の平面図である。出力部15は、ステンレス製の箔等からなる基体15aに一方向に延在する開口である複数のスリット(通光部)15b,15c,15d,15eが互いに平行に配列されたものである。各スリット15b〜15eの幅は均一であり、隣接するスリット15b〜15e間の間隔は不均一となっている。また、出力部15から出力される光信号の解析において、入力部13と出力部15との形状の違いの影響を低減する観点から、各スリット15b〜15eの幅は入力部13のスリット13bの同じ幅であることが好ましい。出力部15は、例えば、基体15aにスリット15b〜15eをレーザ光等を利用して高精度に切り出して作製される。出力部15は、スリット15b〜15eの配列方向が分光器3からの光信号の出力方向と略直交するように配置されるが、これに限定されず、スリット15b〜15eの配列方向が上記出力方向と交差していればよい。
【0028】
入力部13及び出力部15は、筐体11の一側面11aに形成された開口(不図示)に嵌め込むこと等によって開口と一体的に形成されていてもよいし、開口から若干離して配置されていてもよい。また、筐体11の一側面11aを基体13a,15aとして利用して形成してもよい。
【0029】
図1に示すように、分光器3では、入力部13を通って入力された被測定光は、球面鏡5によって平行光にされて、平面回折格子9に入射される。平面回折格子9に入射され波長に応じて特定の方向に回折された光は球面鏡7によって集光される。出力部15は、球面鏡7の焦点面、言い換えれば、球面鏡8による各波長の光の集光位置を含む面に配置されているので、各波長の光は出力部15上の異なる位置に集光されることになる。
【0030】
そして、出力部15が有する各スリット15b〜15eの位置に集光される光が、対応するスリット15b〜15eを通って選択的に分光器3外部に光信号として出力される。この場合、あるタイミングでの分光器3から出力される光信号には、被測定光のスペクトルのうちスリット15b〜15eで切り出された所定の波長幅を有する光成分が含まれることになる。このようにスリット15b〜15eによってスペクトルの一部の光成分が選択的に切り出されるので、スリット15b〜15eは、光成分選択部として機能することになる。
【0031】
出力部15から出力される光信号の波長を走査するために、分光装置1は制御部17を備える。制御部17は例えばパーソナルコンピュータであり、平面回折格子9を回転させて球面鏡5から入射される光に対する平面回折格子9の角度を変化させる。
【0032】
このように平面回折格子9の角度が変化することで、平面回折格子9から特定の方向に回折される光の波長が変化する。よって、出力部15の各スリット15b〜15eを通る光の波長がそれぞれ変化するので、結果として、出力部15から出力される光信号の波長が走査される。制御部17が平面回折格子9を回転させることで波長が走査されるので、制御部17は、波長走査手段として機能していることになる。この波長走査の速度は、制御部17による平面回折格子9の回転速度に対応している。ここでは、平面回折格子9を回転させることで波長を走査しているが、波長走査手段による波長走査は、出力部15から出力される光信号の波長を走査できればよく、分光素子の形態に応じたものとすればよい。
【0033】
図1に示すように、分光装置1は、分光器3から出力される光信号を検出して電気信号に変換する検出器(光検出部)19と、検出器19の検出結果である電気信号から被測定光のスペクトルを算出する解析部21と、解析部21の解析結果を表示するディスプレイ等の表示部23を更に備える。
【0034】
検出器19は光電子増倍管であり、制御部17によって駆動される。検出器19は、出力部15の各スリット15b〜15eを通った光を含む光信号を検出して電気信号に変換して解析部21に入力する。解析部21は、A/D変換回路21Aと演算回路(演算部)21Bとを有している。A/D変換回路21Aは検出器19からの電気信号を受けてA/D変換した後、演算回路21Bに入力する。演算回路21Bは、A/D変換回路21Aから入力される電気信号と、制御部17から入力される波長走査速度等の所定の情報に基づいて被測定光のスペクトルを算出し、表示部23に入力する。演算回路21Bでの演算方法は後述する。なお、A/D変換回路21Aの前後にデコンボリューションにおける信号のS/N劣化を避けるために、平滑化回路(図示しない)や周波数フィルター(図示しない)を導入するとなおよい。
【0035】
分光装置1では、出力部15が前述したように複数のスリット15b〜15eを有する多重スリット構造であることを特徴とする。
【0036】
このように出力部15が多重スリット構造を有することで、あるタイミングで分光器3から出力される光信号は、前述したように被測定光のスペクトルのうち、ある空間パターンで配置されたスリット15b〜15eで選択的に切り出された光成分を含んでいる。
【0037】
そして、制御部17が平面回折格子9を回転させることで、出力部15から出力される光信号の波長は走査されるので、被測定光のスペクトルに対する上記空間パターンによる切り出し位置が順に変化する。よって、波長走査された光信号を検出器19で検出することで、被測定光のスペクトルが上記空間パターンによって異なる位置で切り出された光信号が順次積算されたものが電気信号として得られる。そのため、解析部21において、検出器19から出力される電気信号を、スリット15b〜15eの空間パターンを利用して解析することで、被測定光のスペクトルが算出されることになる。
【0038】
ここで、図1、図4及び図5を利用して、多重スリット構造としての出力部15から出力された光信号を利用して被測定光のスペクトルを解析する方法について具体的に説明する。図4は、出力部15が有する複数のスリット(通光部)15b〜15eと出力部15上でのスペクトル分布との配置関係を示す模式図である。図5は、各スリット15b〜15eからの光の強度に対応する電気信号強度を示す模式図である。
【0039】
出力部15でのスペクトル分布は時間的に変化しないものとしてS(λ)と表す。また、スリット15b〜15eの配列方向をx軸方向としたとき同じスリット幅を有するスリット15b〜15eの空間パターンを表す空間関数をSL(x)とする。また、波長走査速度をvとする。
【0040】
前述したように波長が走査されると、各波長の光の集光位置が変化するので、図4に示すように、S(λ)は、同じスリット幅を有するスリット15b〜15e上を波長走査速度vで通過することになる。従って、個々のスリット15b〜15eから出力される光のスペクトルは全て同じS(λ)で表されることになる。
【0041】
しかしながら、S(λ)は、個々のスリット15b〜15eを時間的にずれて通過する。そのため、各スリット15b〜15eから出力される光信号に対応する電気信号は、図5に示すように、スリット15b〜15eの位置とS(λ)の走査速度vによって決まるタイミングのずれをもったS(t)、S(t)、S(t)、S(t)で表される。
【0042】
分光装置1では、各スリット15b〜15eから出力される各光を1つの検出器19で全て検出するため、検出器19からは、S(t)〜S(t)が時間的にずれたまま重なった電気信号V(t)が得られる。従って、V(t)は
【数1】


と、各信号の和であらわされる。
【0043】
また、フーリエ変換の関係を用いるとV(t)は、
【数2】


なるコンボリューションで表される。ここでSL(t)は、SL(x)で表されるスリット15b〜15eの空間パターンを波長走査速度vで割って決まるスリット15b〜15eからの光信号の時間遅れを示す時間関数である。S(t)は、波長走査速度vでスペクトルをスリット15bと同じ幅を有する単一スリットで読み出した際の出力関数である。より具体的には、S(t)は、被測定光を分光し、波長走査速度vで波長を走査しながらスリット15bと同じ幅を有する単一スリットで読み出して得られる被測定光のスペクトルを表すスペクトル関数ある。
【0044】
式(2)の両辺をフーリエ変換すると、
【数3】


となるので、式(3)より、
【数4】


が成り立つ。
【0045】
従って、式(4)を次式のように逆フーリエ変換することにより被測定光のスペクトル関数S(t)を得ることが可能である。
【数5】


なお、上記式(1)〜式(5)までに示した計算の流れをV(t)をSL(t)でデコンボリューションするという。
【0046】
解析部21が有する演算回路21Bは、上記解析を実施するためのデコンボリューション回路である。すなわち、演算回路21Bは、A/D変換回路21Aから入力された電気信号V(t)と、SL(x)及び波長走査速度vとを用いて、前述した方法によってS(t)を求める。SL(x)及び波長走査速度vは、演算回路21Bに予め記憶させていてもよいが、波長走査速度vは制御部17における平面回折格子9の回転速度で決まるため、制御部17を利用することが好ましい。すなわち、制御部17でSL(x)と波長走査速度vとから予めSL(t)を算出し数値化して記憶しておき、分光計測時に、演算回路21Bに所定の情報として入力する。
【0047】
そして、演算回路21Bは、制御部17から入力された所定の情報とA/D変換回路21Aからの電気信号に基づいて上記方法によってS(t)を算出し、表示部23に入力する。これにより、表示部23に被測定光のスペクトルが表示されることになる。
【0048】
分光装置1では、隣接するスリット15b〜15eの間隔が不均一になっているので、コンボリューションの際に不必要なアーチファクトの発生が抑制されており、結果として、より高精度にスペクトルを算出できる。
【0049】
ところで、従来のように出力部が単一のスリットから形成されていると、全波長領域に対してその1つのスリットで切り出された光信号しか取得できず、多くの重要な信号を見過ごしてしまう虞がある。
【0050】
これに対して、分光装置1では、出力部15が複数のスリット15b〜15eを有しているので、全波長領域に対して出力部15で切り出される光信号の数が増える。よって、より多くの重要な情報を取得することが可能であり、また、光信号の利用効率が向上している。スリット15b〜15eが複数設けられているので、光信号の損失が少ない。これにより、スリット15b〜15e以外の部分で反射・散乱された光による散乱光雑音への転換が抑制されているため、雑音信号の低減を図れる。
【0051】
また、波長走査することで被測定光のスペクトルを得ていることから、検出器19に光電子増倍管を利用できている。その結果、例えば、1次元や2次元アレイなどを利用する場合に比べて、分光装置1の小型化の実現を図ると共に、微弱な光の計測が可能となっており、更に分光装置1の製造コストの低コスト化も図られている。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。入力部13は単一のスリットを有するスリット構造としたが、光ファイバを導入・固定可能な円形開口(光導入部)を有する入力構造としてもよい。この場合、図6に示すように、出力部25は、基体25aに複数の円形のアパーチャ(開口)25b〜25fを1次元状に配列することが有効である。出力部15から出力される光信号には、入力部13の形状の影響も含まれているが、このように入力部13と出力部15との形状を揃えることで、形状上の差異の影響を低減できる、より具体的には、読み出しの際の応答関数の変化を抑制できるため、被測定光のスペクトルをより正確に算出可能である。そして、被測定光のスペクトルをより正確に算出する観点から、開口25b〜25fの直径は、入力部13側のファイバのコア径と同じ大きさが好ましい。
【0053】
また、図7に示すように、出力部27は、基体27aに複数のアパーチャー(開口)27b〜27mを2次元状に配列したものとすることも可能である。この場合には、解析部21での解析を2次元に拡張して行う。また、この場合も、デコンボリューションの解析の際に不要なアーチファクトを抑制する観点から、開口27b〜27mの配置は、ランダムであることが好ましい。
【0054】
更に、検出器19は光電子増倍管としたが、高感度半導体フォトダイオードも利用できる。また、検出器19の数は2つ以上でもよい。
【0055】
図8は、複数の検出器を利用した場合の分光装置の一実施形態の概略構成図である。図9は、複数の検出器を利用した場合の分光装置の他の実施形態の概略構成図である。図8及び図9では、分光器3と複数の検出器29、31,33の配置関係を示しており、入力部13の記載は省略している。また、図8では、1つの出力部15に対して並列して、異なる分光感度を有する検出器29〜33を3つ設けた例を示している。図9では、スリットの形成状態の異なる3つの出力部35,37,39に対して異なる分光感度を有する検出器29,31,33をそれぞれ設けた例を示している。
【0056】
図8及び図9の何れの場合も、各検出器29〜33に光信号を与えるスリットの空間パターンを表す空間関数は各検出器29〜33ごとに決まっているため、個々の検出データに対してデコンボリューションを行えばよい。異なる波長感度を有する検出器29〜33を複数個取り付けることで、それぞれの波長感度領域のデータを同時に計測することが可能となる。なお、分光出力では、波長ごとに異なる位置に出てくるのであるから、複数の検出器29〜33の配置は、各検出器29〜33の感度特性に多少依存した配置を行ってもよい。
【0057】
また、図10に示すように、検出器41は、多重の光電子増倍管が1つの真空管に封じ込まれたマルチ光電子増倍管の光電面に、異なる感度の半導体光電面43,45,47,49を取り付けたものを利用しても良い。この場合、1つの真空管で高感度検出が可能となる。
【0058】
更にまた、実施形態では、出力部15は、例えば、ステンレスの箔にレーザなどを利用してスリット15b〜15eを形成するとしたが、次のようにして作製したものとしてもよい。
【0059】
すなわち、図11に示す出力部51のように、予め基板(基体)51aに矩形の開口51bを1つ形成しておき、次いで、被測定光を通さない材質からなる複数の線状体(光成分選択部)51c〜51iを張り込むことで作製したものとしてもよい。各線状体51c〜51iの幅は均一であることが好ましく、また、線状体51c〜51i間の間隔は不均一であることが好ましい。この場合、各線状体51c〜51iによって特定の波長幅の光成分がブロックされ、隣接する線状体51c〜51i間の隙間から光が出力される。
【0060】
ここで、線状体51c〜51iを利用した出力部51を適用して得られるスペクトルと、出力部15のように基体にスリットが形成されてなる出力部を適用して得られるスペクトルとの関係について説明する。
【0061】
図12は、図11に示した出力部を適用した分光器によって単一スペクトルのレーザ光を観測した場合に得られるスペクトルを示す模式図である。図12において、横軸は分光器内の平面回折格子の回転角度を表しており、縦軸は光信号強度を表している。図13は、図11に示した複数の線状体と同じ数のスリットが基体に形成されてなる出力部の平面図である。図13に示した出力部53は、出力部15と同様に基体53aにスリット53b〜53hを形成することで作製されたものである。図14は、図13に示した出力部を適用した分光器によって単一スペクトルのレーザ光を観測した場合に得られるスペクトルを示す模式図である。図14において、横軸は分光器内の平面回折格子の回転角度を表しており、縦軸は光信号強度を表している。
【0062】
図11に示した出力部51の場合には、図12に示すように、常時レーザ光が検出されていて、線状体51c〜51iのあるところにくるとブロックされて、信号出力が得られないことになる。一方、図13に示した出力部53の場合は、図14に示すように、信号出力ゼロから、それぞれのスリット53b〜53hをレーザ光が通過した際に信号が得られる。すなわち、出力部51適用して得られるスペクトルは、出力部53を適用して得られるスペクトルを反転したものに対応する。このように、線状体51c〜51iを利用することで、スペクトルは反転するが、線状体51c〜51iによって被測定光のスペクトルが切り出されることは、出力部53(又は出力部15)の場合と同様である。従って、図11に示した出力部53を利用した場合でも、実施形態の場合と同様の方法で被測定光のスペクトルを算出することができる。
【0063】
そして、線状体51c〜51iはより高精度に作製可能であるので、出力部53を再現性よく作製することが可能である。また、スリットを利用する場合よりも、光の利用効率の向上を図ることが可能である。
【0064】
また、これまで説明してきた光成分選択部としての通光部(スリットや開口)や線状体の数は、2以上であれば特に限定されないが、3つ以上である場合には、それらの間の間隔の少なくとも1つが他の間隔の何れか1つと異なっていることが、より正確なスペクトルを算出する観点から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る分光装置の一実施形態の構成を概略的に示すブロック図である
【図2】入力部の一実施形態の平面図である。
【図3】出力部の一実施形態の平面図である。
【図4】出力部が有する複数の通光部と、出力部上でのスペクトル分布との配置関係を示す模式図である。
【図5】図4に示した各通光部からの光の強度に対応する電気信号強度を示す模式図である。
【図6】出力部の他の実施形態の平面図である。
【図7】出力部の更に他の実施形態の平面図である。
【図8】複数の検出器を利用した分光装置の一実施形態の概略構成図である。
【図9】複数の検出器を利用した分光装置の他の実施形態の概略構成図である。
【図10】光検出部の他の実施形態を示す概略構成図である。
【図11】出力部の更に他の実施形態の平面図である。
【図12】図11に示した出力部を適用した分光器によって単一スペクトルのレーザ光を観測した場合に得られるスペクトルを示す模式図である。
【図13】図11に示した出力部の複数の線状体と同じ数のスリットが基体に形成されてなる出力部の平面図である。
【図14】図13に示した出力部を適用した分光器によって単一スペクトルのレーザ光を観測した場合に得られるスペクトルを示す模式図である。
【図15】従来の分光装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0066】
1…分光装置、3…分光器、7…球面鏡(集光光学系)、9…平面回折格子(分光素子)、13…入力部、13a…基体、13b…スリット(入力用通光部)、15…出力部、15a…基体、15b〜15e…スリット(光成分選択部、通光部)、17…制御部(波長走査手段)、19…検出器(光検出部)、21B…演算回路(演算部)、25…出力部、25a…基体、25b〜25f…開口(光成分選択部、通光部)、27…出力部、27a…基体、27b〜27m…開口(光成分選択部、通光部)、29〜33…検出器、35〜39…出力部、41…検出器、51…出力部、51b…開口、51c〜51i…線状体、53…出力部、53a…基体、53b〜53h…スリット(光成分選択部、通光部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部を通して入力される被測定光を分光素子によって分光した後、分光された各波長の光を集光光学系で集光して出力部を通して光信号として出力する分光器と、
前記光信号の波長を走査する波長走査手段と、
前記光信号を検出して電気信号に変換して出力する光検出部と、
前記光検出部から出力された前記電気信号から前記被測定光のスペクトルを算出する演算部と、
を備え、
前記出力部は、前記集光光学系によって集光される各波長の光の集光位置を含む面に配置される基体に前記各波長の光を選択する複数の光成分選択部が設けられて構成されており、前記複数の光成分選択部によって前記各波長の光を選択することで前記光信号として出力し、
前記演算部は、前記出力部が有する前記複数の光成分選択部の空間パターンと前記電気信号とを利用して前記被測定光のスペクトルを算出することを特徴とする分光装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記空間パターンを表す関数で前記電気信号をデコンボリューションすることによって前記スペクトルを算出することを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【請求項3】
前記複数の光成分選択部の数は3つ以上であり、
隣接する前記複数の光成分選択部間の間隔のうちの少なくとも1つは、他の間隔と異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の分光装置。
【請求項4】
前記複数の光成分選択部各々は、光を通す通光部であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項5】
前記複数の通光部は、前記出力部から出力される前記光信号の出力方向に対して交差する方向に配列された複数のスリットであり、
前記複数のスリット各々は、その配列方向に略直交する方向に延在していることを特徴とする請求項4に記載の分光装置。
【請求項6】
前記複数の通光部は2次元状に配置された開口であることを特徴とする請求項4に記載の分光装置。
【請求項7】
前記基体には開口が形成されており、
前記複数の光成分選択部は、前記出力部から出力される前記光信号の出力方向に対して交差する方向に配列されると共に、前記開口を分割するように前記基体に設けられた複数の線状体であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項8】
前記入力部は、基体に光導入部が形成されて構成されており、
前記光導入部と前記光成分選択部との形状が略同一であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項9】
前記光検出部は、光電子増倍管又は半導体光検出器であることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項10】
前記光検出部は、波長感度の異なる2つ以上の光検出器を備えていることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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