分子を評価するための方法、コンピュータプログラム、及び装置
本発明は、1つ以上の結晶性平面分子の回折パターンの1組の校正不要な特性から、前記1つ以上の結晶性平面分子の結晶構造及び/又は結晶構造の範囲を決定する方法、コンピュータプログラム、及び装置に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上の結晶性平面分子の回折パターンの1組の校正不要な特性から、前記1つ以上の結晶性平面分子の結晶構造及び/又は結晶構造の範囲を決定する方法、コンピュータプログラム、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ、ナノ突起(nanobud)、及び窒化ボロンナノチューブを含む様々な結晶性平面分子が発見されてきた。カーボンナノチューブは、その独特な物理的、化学的、熱的、及び電気的特性により、最も注目されてきた。単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)のような結晶性平面分子についての基礎研究及び応用研究のいずれにおいても根本的な問題が存在する。なぜなら、ナノチューブの物理的特性の多くは原子構造に極端に敏感だからである。たとえばSCNTの構造は、カイラル指数(n,m)として知られている1対の整数によって簡便に表すことができる。特性に対して構造が敏感であることの周知な例は、カーボンナノチューブは、(n-m)が3で割り切れる場合には金属的であり、それ以外の場合では半導体的になることである。よってn又はmの値がわずかにでも変化することで、ナノチューブの電子特性は劇的に変化しうる。たとえば(13,1)のチューブと(14,1)のチューブの幾何学構造は非常に似ているにも関わらず、(13,1)のチューブは金属的である一方で、(14,1)のチューブは半導体的である。従って個々のSWCNTの(n,m)を明確に決定することは、CNTに基づくナノテクノロジーの進歩にとって重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
SWCNTの構造評価についての現在の取り組みは大きくわけて2つに分類されうる。それはつまり光学的な評価と非光学的な評価である。光学的分光法には、たとえば共鳴ラマン散乱及びフォトルミネッセンスが含まれる。これらの手法では、固有光学遷移及び光子周波数(ラマン散乱)、又は光学吸収及び放出エネルギー(フォトルミネッセンス)を用いることによって、(n,m)が特定される。光学測定には限界がある。その理由は、光学測定は、通常様々なチューブを検出するために広範囲の波長がされ、かつ、限られた範囲のチューブ径でしか有効ではないためである。実験に係る作業には通常、測定とデータ解釈が含まれる。フォトルミネッセンスはさらなる課題を有する。なぜならその方法は半導体ナノチューブしか測定できないからである。それに加えて、光学測定の空間分解能が不十分であるため、解析にあたり、そのチューブの周囲からの影響を考慮せずに個々のSWCNTを探索することは不可能である。しかも光学測定によって、SWCNT中のカイラリティ分布を正確にマッピングすることは難しい。
【0004】
非光学測定では、カイラル指数は通常、実空間での直接可視化手法(たとえば走査型トンネル顕微鏡(STM)及び高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM))の手段によって、固有チューブ径D0及びカイラル角αを決定することによって、又は逆空間での電子回折手法によって割り当てられる。直接可視化手法は、チューブが通常、原子分解能かつ高倍率の高品質画像を得る上では安定ではないという問題に直面している。
【0005】
電子回折は、SWCNTを発見した際にそのSWCNTの評価に用いられた最初の手法であり、依然として構造解析にとって最も強力な手段の一つである。最新のナノビーム電子回折手法によって、個々のナノチューブの直接探索及びその構造の評価が独自に可能となる。しかし測定は典型的には、法線入射条件、又は小さなチューブ傾き角-たとえば6°未満-を仮定することによって行われる。対照的に、ナノチューブが水平面から20°の傾き角を有することは珍しくない。実際、係る小さな傾き角の要件を保証する実験系の設定は難しい。たとえ電子回折パターン(EDP)からカイラル角αを決定することがチューブの傾き角に対して独立であるように見えても、回折パターンが内部標準材料によって実際に校正されなければ、チューブ径の評価はそのチューブの傾きに依存する恐れがある。内部標準材料は現実には測定に利用できない。そのような標準材料がなければ、SWCNTのEDPの絶対校正は炭素-炭素(C-C)結合距離の値に依存し、その距離は0.142nm〜0.144nmの間で不確定さを有する。それに加えて、C-C結合は、チューブ径が小さいときには伸張する恐れがある。またC-C結合距離を用いたEDPの校正は、傾きに敏感であるか、又はチューブの曲率によって複雑になる。上記決定に対するチューブの傾き効果を考慮するため、面倒な試行錯誤シミュレーション手順が用いられなければならない。
【0006】
しかもD0及びαが、これまでの方法のように(n,m)を割り当てる前に決定されることが求められる場合、D0及びαはいずれも、カイラル指数n及びmを明確に決定するため、高精度で決定されなければならない。たとえばD0=1.06nmでα=3.7°の金属的(13,1)チューブは、D0=1.14nmでα=3.4°の半導体的(14,1)チューブと非常に似ている。明らかに、D0又はαのわずかな誤りが、容易にSWCNTの指数付けは不明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの欠点を克服するため、我々は新たな発明を導入する。その新たな発明とは、少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する方法である。
【0008】
当該方法は、
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手順、並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手順、
を有する。
【0009】
本発明の一の実施例では、回折パターンは電子回折パターンである。
【0010】
本発明の一の実施例では、回折パターンは、透過型電子顕微鏡を用いることによって、少なくとも1つの平面結晶性分子の試料から得られる。
【0011】
本発明の一の実施例では、少なくとも1つの平面結晶性分子はナノチューブを有する。
【0012】
本発明の一の実施例では、少なくとも1つの分子はカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノ突起である。
【0013】
本発明の一の実施例では、平面結晶性分子の結晶構造及び/又は結晶配向は、少なくとも2つの数学的に独立したパラメータによって一意的に特定される。
【0014】
本発明の一の実施例では、ナノチューブ又はナノ突起ベースの分子を固有に特定する数学的パラメータはカイラル指数である。
【0015】
本発明の一の実施例では、回折パターンの校正不要な特性は、層の線に沿った回折強度の擬周期性、及び/又は少なくとも2対の層の線間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最小値間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔、及び/又は層の線の強度曲線下の面積、及び/又は回折層の群の下限、及び/又は回折層の群の上限、及び/又は回折層でのギャップの下限、及び/又は回折層でのギャップの上限である。
【0016】
本発明の一の実施例では、少なくとも1つの校正不要な特性は、少なくとも1つの等しくない校正不要な特性で割ることで無次元化される。
【0017】
本発明の一の実施例では、少なくとも2つの無次元化した校正不要な特性を傾き補正されていないカイラル指数に関連づける少なくとも2つの結合した方程式を同時に解くことによって、カイラル指数は決定される。
【0018】
本発明の一の実施例では、無次元化される少なくとも2つの校正不要な特性は直径ではない層の線と直径層の線との間の間隔であり、かつ、無次元化した校正不要な特性は直径層の線に沿った回折強度の擬周期性である。
【0019】
本発明の一の実施例では、傾き補正されたカイラル指数を、平面結晶性分子の壁の蜂の巣格子構造に基づいて指数付けされた少なくとも2つの六角形の頂点に対応する少なくとも2つのベッセル関数の次数に関連づける少なくとも2つの結合した代数方程式を同時に解くことによって、傾き補正されていないカイラル指数は決定される。
【0020】
本発明の一の実施例では、所与の層の線からの信号強度の変化を表す各ベッセル関数の次数は、少なくとも1つの無次元化した校正不要な特性から決定される。
【0021】
本発明の一の実施例では、無次元化した校正不要な特性は、少なくとも1つの直径ではない層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔であり、かつ、無次元化した校正不要な特性は、同一の層の線に沿った回折強度の擬周期性である。
【0022】
本発明の一の実施例では、傾き補正されていないカイラル指数は傾き補正される。
【0023】
本発明の一の実施例では、傾き補正は、傾き補正されていないカイラル指数を、それよりも小さな整数のうちで最も近いものに切り捨てることによって実現される。
【0024】
本発明の一の実施例では、回折層の群の下限、及び/又は回折層の群の上限に対する回折層の群におけるギャップの下限、及び/又は回折層の群におけるギャップの上限を無次元化して、かつ、無次元化した下限を分子のカイラル角に関連づける方程式を解いて、束内に存在する最大及び/又は最小カイラル角を決定することによって、結晶性平面分子の束でのカイラル角の上限又は下限は決定される。
【0025】
さらに本発明の考え方は、少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定するコンピュータプログラムを有する。当該コンピュータプログラムはさらに、データ処理装置上で実行されるときには、上記方法の手順を実行するように備えられている。
【0026】
さらに本発明の考え方は、少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する装置を有する。当該装置は、上記方法の手順を実行する手段を有する。
【0027】
本発明によって与えられた方法では、SWCNTのカイラル指数(n,m)を、そのEDPから直接決定することが可能である。一意的に、当該方法は絶対的に校正不要であり、入射ビームに対する平面結晶性分子の傾きによる構造決定の誤りが特定される。入射電子ビームに対する炭素の平面結晶性分子の傾き角は同時に評価することが可能であるため、構造の決定においては、チューブの傾きの効果は補償可能である。それに加えて、回折パターンの新たな知見に基づく結果を照合する複数の独立した手順が提案される。
【0028】
本発明は初めて、平面結晶性分子の構造を明確に決定することを可能にした。よって本発明はその材料を厳密に評価する手段を供する。これは、科学研究にとっても、また材料、部品、及び素子への係る分子の商業的応用にとっても非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】平面結晶性分子の評価方法のブロック図を表す。
【図2】カイラル指数と、グラフェンシートを表すカーボンナノチューブのチューブ径及びカイラル角との関係を図示している。ここで各六角形は6つの炭素原子の環を表す。
【図3】(23,10)の単層カーボンナノチューブについての典型的な測定による回折パターンとシミュレーションによる回折パターンを図示している。
【図4】特定の層の線に沿った強度プロファイルから利用可能な追加の独立した校正不要な特性を図示している。
【図5a】フィリップスCM2-FEG型TEMによって撮られたSWCNTの束の測定されたEDPを図示している。カイラル角は30°付近に集中している。
【図5b】SWCNTの束のシミュレーションによるEDPを図示している。カイラル角は0°付近に集中している。
【図6a】傾き角5°での(12,7)SWCNTのシミュレーションによるEDPを図示している。
【図6b】傾き角30°での(12,7)SWCNTのシミュレーションによるEDPを図示している。
【図7a】カイラル指数が(25,2)である単層カーボンナノチューブのシミュレーションによる法線入射回折パターンを図示している。
【図7b】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L2に沿ったシミュレーションによる強度プロファイルを図示している。
【図7c】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L3に沿ったシミュレーションによる強度プロファイルを図示している。
【図8a】カイラル指数が(25,2)である単層カーボンナノチューブのTEM測定による回折パターンを図示している。
【図8b】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L3に沿ったTEM測定による強度プロファイルを図示している。
【図8c】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L6に沿ったTEM測定による強度プロファイルを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1つ以上の平面結晶性分子の原子構造を決定する方法が図1で与えられている。最初に10で、1つ以上の平面結晶性分子の回折パターンが得られる。次に11で、1つ以上の校正不要な特性が、1つ以上の無次元化した校正不要な特性と共に前記回折パターンから測定される。次に12では、前記校正不要な特性が、前記1つ以上の無次元化した校正不要な特性によって無次元化される。最終的に13で、構造を明らかにする特性又は該特性の範囲が、前記構造を明らかにする特性に前記校正不要な特性を関連づける1つ以上の方程式を解くことによって得られる。
【0031】
本発明は、典型的な平面結晶性分子の一例として1つ以上の単層カーボンナノチューブのカイラリティの決定方法について記載している。しかし当該方法が、1つ以上の独立パラメータによって固有に明らかにされうる任意の分子に対しても容易に適用可能である。カーボンナノチューブについては、これらはカイラル指数、つまりは直径及びカイラル角である。これら2つの間の関係は、グラフェンシートを図示する図2において概略的に示されている。図2に図示されたグラフェンシートでは、各六角形20は6つの炭素原子からなる環を表す。21で表された原点(0,0)を参照すると、六角形はカイラル指数(n,m)を有する。21以外の六角形の各々は図2で図示されているように指数付けされている。よってある特定のカーボンナノチューブは、ある特定のカイラル指数によって表されて良い。その際は、原点が所与の指数付けがされた六角形と重なるように、シートが巻かれる。よって22で表されたナノチューブの直径D0及び23で表されたナノチューブのカイラル角αが特定される。図2の例では、カイラル指数(n,m)=(10,5)のナノチューブの直径D0及びカイラル角αが示されている。
【0032】
当該方法では、最初に、1つ以上の結晶性平面分子の回折パターンが、たとえば透過型電子顕微鏡(TEM)又は数学によるシミュレーションを用いることによって得られる。単層カーボンナノチューブについての典型的な測定及びシミュレーションによる回折パターンが図3a及び図3bに図示されている。ここで30は直径となる層の線で、31は直径ではない層の線である。係る像から、1つ以上の独立した校正不要な特性を測定することが可能である。この1つ以上の独立した校正不要な特性は、像の縮尺が変化するときには、線形的に変化する。よって、この1つ以上の独立した校正不要な特性について互いに校正を行う必要がない。元の回折パターンから、層の線の対間の間隔はこの基準を満たす。直径となる層の線d1、d2、d3、d4、d5、d6に対する複数の層の線が図示されている。さらに図4に図示されているように、他の独立した校正不要な特性も、任意の特別な層の線40に沿った強度プロファイルから得ることができる。各層の線は、例で説明するように、特定次数の2次ベッセル関数を表す。任意の特別な層の線iに沿った強度プロファイルから得ることのできる独立の校正不要な特性には、層の線41に沿った回折強度の最小値の第1対間の間隔Bi、層の線42に沿った回折強度の最大値の第1対間の間隔Ai、層の線43に沿った回折強度の擬周期性δi、及び層の線の強度曲線の下の面積が含まれるが、これらに限定されるわけではない。当該方法による回折パターンの他に考えられうる特性及び上記リストは、決して本発明の技術的範囲を限定しない。これらは、無次元化されることが可能な構成不要の特性を構成する。従って、第3の独立した校正不要の特性が同一のリストから選ばれる。これは無次元化した校正不要な特性となる。無次元化される校正不要な特性を無次元化した校正不要な特性で割ることによって、1つ以上の無次元化した校正不要な特性で構成される組が得られる。重要なことは、これらは、回折パターンの縮尺の変化に対して独立であるため、たとえば基準となるものや化学結合長のような測定された参照距離によって、絶対的又は独立に校正される必要がない。従って、無次元化された校正不要な特性を、決定されるべき特性に関連づける1組の方程式が選ばれる。その決定されるべき特性は分子構造を明らかにする。カーボンナノチューブの場合では、2つのカイラル指数、つまりはナノチューブの直径とカイラル角が必要となり、従ってナノチューブを一意的に明らかにするためには2つの無次元化された校正不要な特性が必要となる。他の結晶構造については、他のパラメータも可能であり、かつ上述の例は決して本発明の技術的範囲を限定するものではない。従って構造を明らかにする特性は、これらを無次元化された校正不要な特性に関連づける結合方程式を解くことによって決定される。本発明によると、このことを実現する多数の数学的手段が可能である。そのような数学的手段には、代数方程式の系を解くこと、又は理想的な回折パターンと測定された回折パターンとの誤差を最小にすることが含まれるが、これらに限定されるわけではない。このことについては以降の例で明らかにする。
【0033】
一般的には、回折パターンが、その回折パターンを生成する入射ビームに対して垂直ではない分子(の群)から得られる場合、計算した構造を明らかにする特性には誤差が存在する。本発明は、この誤差を打ちきりによって補正することを可能にする。これについては、当該方法を単層カーボンナノチューブに適用することで当該方法を実行する様子を図示する以下の例で明らかにされる。これは決して、他の結晶性平面分子について本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0034】
本発明による方法の好適実施例では、2つ以上の無次元化される校正不要な特性は、直径でない層の線と直径である層の線との間の間隔であり、かつ無次元化した校正不要な特性は直径である層の線に沿った回折強度の擬周期性である。
【0035】
図3aは、最大可能加速電圧である200kVで動作するフィリップスCM200-FEG型TEMによって撮られたEDP、及び法線入射での(23,10)SWCNTのシミュレーションによるEDPを図示している。顕微鏡には、デジタル記録用にガタン(Gatan)社794型マルチスキャンCCDカメラ(1k×1k)が備えられている。回折パターンは、多くの分離した層の線で構成される。その多くの分離した層の線は互いに平行であるが、チューブの軸に対して垂直である。カーボンナノチューブの動力学的回折理論によると、ある特定の層の線に沿った強度プロファイルは、2次ベッセル関数の級数の和で表される。特に、中心で直径となる線30に沿って、支配的なベッセル関数はJ0(πD0R)である。ここでRは、回折中心から直径となる線に沿って測定された半径距離である。
【0036】
数学的には、ベッセル関数は、疑似周期的に間隔が設けられた(ゼロ又はルートが繰り返される)有限個の最小値を有する。実際には、πD0R>>0のときは、ゼロ次ベッセル関数J0(πD0R)、又は単純に表すとJ0(x)は、√(2/πx)*cos(x-π/4)と近似することができる。ここでルート部分は、xj=πD0Rj=(j-1/4)πである。jは1よりも大きい整数で、隣接するルート部分の間隔は、xj+1-xj=πである。この近似によって、D0*δ0=1 (1)が得られる。ここでδ0=Rj+1-Rjである。直径となる線での強度プロファイルは全体としてはチューブの傾きに対して独立であるので、δ0の値の測定もチューブの傾きに対して独立であることに留意すべきである。
【0037】
直径となる線から測定された各直径ではない層の線の間隔di(図3)は、傾き因子1/cosτによるスケーリングの影響を受ける。ここでτはナノチューブの傾き角を表す。ここで法線入射条件ではτ=0°となる。3つの層の線のdiは、1次の六角形についてはd1、d2、d3が割り当てられ、2次の六角形についてはd4、d5、d6が割り当てられる。
【0038】
ここで新たな項を導入することによって、層の線-これは各直径ではない層の線に対応する-の固有間隔(ξi)は、ξi=D0*di (2)で定義される。幾何学上の考察により、di(i=1,2,…6)に対応する6つの最も重要な層の線のξiについての表式は次式で与えられて良い。
【0039】
【数1】
たとえば、
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
でかつ、
【0043】
【数5】
なので、
【0044】
【数6】
が得られる。
パラメータaはグラファイトの格子定数である。
【0045】
ξiは無次元のパラメータであり、カイラル指数(n,m)のみの関数である。他方、式(1)と式(2)とが組み合わせられる場合には、ξiは、ξi=di/δによって、回折パターンからすぐに測定可能である。層の線の固有間隔(ξiτ)の測定値が1/cosτによってスケーリングされることは明らかである。
【0046】
式(3)からの任意の2つの表式を同時に解くことで、カイラル指数(n,m)が与えられる。たとえばξ2及びξ3から得られるn及びmの解は、
【0047】
【数7】
である。
又は同様に、ξ3及びξ6からは、
【0048】
【数8】
が得られる。
【0049】
このようにして、構造を明らかにする特性(カイラル指数)は、代数系の方程式を解くことによって決定される。その代数系の方程式は、その特性を、δによって無次元化される直径ではない層の線と直径である層の線との間の2対の間隔である回折パターンの無次元化された校正不要な特性、及び直径である層の線の擬周期性に関連づける。本発明によると他の組合せも可能である。
【0050】
最も一般的な場合では、傾き角がゼロではないときには、実際の測定結果(nτ,mτ)は次式で与えられる。
【0051】
【数9】
ここで、εnとεmは傾きの効果による誤差で、正の整数である。ナノチューブについてはεi<2(i=n又はm)と計算される。ここでn又はmは、傾き角τ=20°で近似的に値30をとる。0≦εi<1となるように傾き角が小さいときには、次式が得られる。
n=TRUNC(nτ)、又は、m=TRUNC(mτ) (7)
1≦εi<2となるように傾き角が比較的大きいときには、次式が得られる。
n=TRUNC(nτ)-1、又は、m=TRUNC(mτ)-1 (8)
ここで、TRUNCは、ある数をある整数に切り捨てる関数である。
【0052】
(n,m)が決定した後、傾き角τが、cosτ=n/nτ又はcosτ=m/mτによって、式(6)から計算されて良い。層の線の固有な間隔ξiがチューブの傾きに対してより敏感であるため、傾き角は、cosτ=ξi/ξiτによってより確実に評価される。cosτ=ξi/ξiτはたとえば次式のようなものである。
【0053】
【数10】
傾き角τを考慮すると、回折パターンの絶対校正が、任意の層の線間隔diによって帰納的に行うことが可能である。diとはたとえば次式のようなものである。
【0054】
【数11】
ここでグラファイトの格子定数aは0.246nmであることが知られている。
【0055】
当該方法における主な誤差の発生源は、δ0=Rj+1-Rj及びdiの固有の測定誤差に起因する。特に層の線間の固有間隔ξiτを計算する約数として相対的にその大きさδは小さい。
【0056】
他の誤差の発生源は、実際に(n,m)を決定する上で、式(7)と式(8)のどちらかを選ぶのが正しいのかを判断するための信頼性ある基準が存在しないほどに傾き角が大きいときに生じる。式(7)が有効である(つまり式(8)を用いないような)範囲にとどめるため、様々な(n,m)のナノチューブについて許容された傾き角τmaxを導入する。理論的には、あるnについてのτmaxは、次式によって推定することができる。
【0057】
【数12】
整数nが増大することで、許容された傾き角τmaxは減少する。たとえばεmax=0.9と仮定すると、許容された傾き角は、n=1.5については20°であることが許される。それに加えて、式(6)に基づき、(n,m)の関数である固有指数比βが導入される。ここでβ=m/n=(m+εm)/(n+εn)=εm/εn≦1、つまりεm≦εnである。(nと比較された)mを決定するとき、当該方法は傾き角以上の傾きを許容することが分かる。換言すると、最初に式(7)に基づいてmを計算することが好ましい。よってnは、固有指数比βを適用することによって、より高い信頼性で求めることができる。なぜならベータは、式(4)よりβ=m/n=(2ξ2-ξ3)/(2ξ3-ξ2)であり、又は式(5)よりβ=m/n=(2ξ2-ξ3)/(2ξ3-ξ2)であることにより、傾きに対して独立に測定できるためである。
【0058】
この手順により、傾き角が20°よりも大きくない一般的な状況では、カイラル指数が(n,m)(n≧15≧m)であるSWCNTについては、式(7)を用いて最初にmを求めることによって、明確に直接測定することができる。これまで通り、パラメータβを用いることによってnが計算されても良い。m又はnが、たとえば画素化の誤差によって正確に決定されない場合、その誤りは、結果として生じた不合理な傾き角から容易に認識されなければならず、あるいは結果は式(7)又は式(8)に基づくnの測定によって照合できる。たとえば図2a(τ=5°)から、mが誤って6であると判断された場合、パラメータβを適用することによって、nは10でなければならない。その結果として生じる傾き角は約33°であり、通常の場合としては大きすぎる。他方nが誤って11であると計算され、同時にmは正確に7であると計算される場合、このことが、ξiτからの測定値とm/nによる計算値との間の固有比βが深刻な不一致を示す。式(10)に基づくEDPの校正後のチューブ径D0の決定もまた、独立に結果を検証するのに用いることが可能である。もちろん、その結果は、異なる層の線を別個に測定することによってさらに照合されて良い。傾き角が許容限界を超えるときは、上述した照合手順に加えて、全ての隣接する(n,m)の候補の周囲で試行錯誤する手順が用いられて良い。
【0059】
この方法は、非カイラルナノチューブ(つまりアームチェアチューブ及びジグザグチューブ)の(n,m)の決定にも適用可能であることに留意して欲しい。ここで、アームチェアチューブはd1=0、d2=d3=d4=d5、d6=2d2で、ジグザグチューブはd1=d2、d3=2d1、d4=0、d5=d6=3d1である。
【0060】
層の線間の間隔di、及び直径となる線に沿ったゼロの間の間隔δ0しか測定には含まれないので、本発明の方法には重大な限界がない。対照的に、当該方法は、高い自由度を有し、かつ、層の線の間隔の様々な組合せを用いることによって、(n,m)を決定可能なことを検証することができる。一の重要な留意事項は、EDPは、δ0が信頼ある状態で測定できるように、直径となる線上のゼロを読み取ることが必要となる。
【実施例2】
【0061】
本方法の代替実施例では、カイラル指数は、2つ以上の結合代数方程式を同時に解くことによって決定される。その結合代数方程式は、傾き補正されたカイラル指数を、平面結晶性分子の壁の蜂の巣格子構造に基づいて指数付けされた2つ以上の六角形の頂点に対応する2つ以上のベッセル関数の次数に関連づける。ここで校正の不要な特性は最初に、所与の層の線からの信号強度の変化を表す各ベッセル関数の次数を定義するのに用いられる。無次元化される校正不要な特性は、1つ以上の直径ではない層の線に沿った回折強度での最大値の第1対間の間隔である。無次元化した校正不要な特性は、同一の層の線に沿った回折強度の擬周期性である。本発明によると、無次元化される校正不要な特性と無次元化した校正不要な特性の別な組合せ及び選択は可能である。
【0062】
SWCNTのカイラル指数(n,m)は、ナノチューブからの回折の形状因子として機能する(2次)ベッセル関数の次数に関連づけられる。これにより、カーボンナノチューブのカイラル指数を直接評価することが可能となる。よって明確な(n,m)の決定は、高い信頼性での対応するベッセル関数からのベッセル次数の取得に依存する。ベッセル因子はx=0の周りで鏡面対称性を有する。ゼロではない次数を有するベッセル因子については、x=0周辺で常に「強度ギャップ」が存在する。強度ギャップでは強度がゼロに接近する。そのギャップの幅もまたベッセル因子の次数の関数である。ベッセル因子の次数が高くなると、強度ギャップの幅が広がる。他方、ベッセル因子の第1の2つの正のルート間の間隔δiは、ベッセル次数の絶対値|ν|の増大と共にかなり緩やかに増大する。従って、各ベッセル因子の無次元の固有比は、Ai又はBiをδiで割ることによって計算されて良い。つまり、
RA=Ai/δi (11)、又は
RB=Bi/δi (12)
である。
【0063】
例として、次数ν=9とν=10のベッセル因子については、RAはそれぞれ5.51及び5.95で、差異の絶対値は0.44である。同様に、RBはそれぞれ6.87及び7.31で、差異の絶対値は0.44である。これら2つのベッセル因子を区別するための対応する差の精度は、RAを用いるときには7.9%で、RBを用いるときには6.2%である。高次である次数ν=29とν=30のベッセル因子の場合では、RAiの差異の絶対値とRBiの差異の絶対値はいずれも0.31で、差の精度はそれぞれ2.4%と2.2%である。従ってRAi及びRBiを導入することによって、より高い差の精度で隣接するベッセル因子を区別することが可能となるので、高次ベッセル関数によって支配される層の線の使用が可能となる。ベッセル関数は次式によって(n,m)と関連づけられる。
ν=nh-mk (13)
ν=0〜30までの次数のベッセル因子についての比RAi及びRBiの固有比が表1に列挙されている。回折層の線に沿った強度プロファイルから測定された比と表1に列挙された比とを比較することによって、ベッセル次数をすぐに理解することができる。ベッセル次数は、ナノチューブのカイラル指数に割り当てられる。様々な層の線の測定から得られるRAi及びRBiの組合せを用いて、測定でのRAi及びRBiの補完及び検証を行うことによって、高レベルの信頼性を実現することができる。
【0064】
【表1】
当該方法は、SWCNTの束中に存在するカイラル角の範囲の決定に適用されて良い。図5aは、フィリップスCM2-FEG型TEMによって撮られたSWCNTの束の測定されたEDPを図示している。カイラル角は30°付近に集中している。回折層の群50の下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最小カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することで、束中の最小カイラル角が決定される。
【0065】
【数13】
図5bは、SWCNTの束のシミュレーションによるEDPを図示している。カイラル角は0°付近に集中している。ここで回折層の群51でのギャップの下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最大カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することで、束中の最大カイラル角が決定される。
【実施例3】
【0066】
本発明による方法が、単層カーボンナノチューブのシミュレーションによる回折パターン及び実験による回折パターンの両方で実行される。当該方法は、カーボンナノチューブと似たような構造を有する他の材料のナノチューブ-たとえば窒化ボロンナノチューブやカーボンナノ突起-の構造解析にもすぐに拡張できる。
[例1]
材料:(12,7)SWCNT
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:d3及びd6
無次元化した校正不要な特性:δ
当該方法を試験するため、角度を振って(12,7)SWCNTのEDPのシミュレーションを行った。これらのうちの2つである、傾き角が5°でのEDPと傾き角が30°でのEDPが図6に図示されている。(ξ3,ξ6)の組の方程式を適用することによって、カイラル指数(n,m)及び傾き角τが、表2でまとめられているように決定される。ここで、ξiτ(i=3又は6)はシミュレーションパターンから測定され、2ξi(n,m)は式(3)から計算される。傾き角τi(i=3又は6)は、式(9)に基づく層の線の固有間隔を用いることによって決定される。
【0067】
傾き角が20°未満であるとき、カイラル指数は明確に直接することが可能であることがはっきりと分かる。傾きが5°(図6a)でεn=-0.02である場合についての誤差は、画素分解能の限界に起因する。これは、EDPの画素分解能を改善することによって回避できる。
【0068】
傾き角が25°にまで増大することで、εn=1.21>1となる一方で、εm=0.74<1となる。そのような状況では、式(7)又は式(8)から(n,m)を計算するときには注意しなければならない。これは以降でより詳細に論じる。
【0069】
【表2】
[例2]
材料:(12,7)SWCNT
回折パターン:TEMから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:d2、d3及びd6
無次元化した校正不要な特性:δ
当該方法を現実の問題に適用するためには、個々のSWCNTの高品質EDPが必要となる。しかし実際には、個々のSWCNTの散乱強度が弱く、かつチューブは電子ビームによって容易に改質されてしまいがちなため、そのような高品質EDPを得ることは困難である。図3aは個々のSWCNTの高分解能TEM像を表している。(ξ2,ξ3)の組の方程式及び(ξ3,ξ6)の組の方程式が、それぞれ表2(a)及び表2(b)にまとめられた結果による計算を行うのに独立に用いられる。よって両方程式の組から、SWCNTのカイラル指数(n,m)は(23,10)と決定され、かつ傾き角τは約10°と決定される。
【0070】
傾き角τ=10°であることを考慮すると、たとえばd3=(2√(3)/3a)*(cosα/cosτ)=4.554nm-1を用いることによって、正確に回折パターンを校正することができる。従ってチューブ径は、式(1)に基づいてEDPから2.29nmと決定される。この値は(23,10)のチューブと正確に一致する。
[例3]
材料:(23,10)SWCNT
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:d3及びd6
無次元化した校正不要な特性:δ
傾き角が10°での(23,10)ナノチューブのシミュレーションによるEDPが図3bで与えられている。このシミュレーションについては同様な測定も行われている。対応する結果もまた、比較用に表2(a)及び表2(b)に列挙されている。ここでも、シミュレーションによる回折パターンからの結果と実験によるパターンは素晴らしい一致を示した。
[例4]
材料:(25,2)SWCNT
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:Ai及びBi
無次元化した校正不要な特性:δ
例として、図7aは、カイラル指数が(25,2)の単層カーボンナノチューブのシミュレーションによる法線入射回折パターンを表す。図7c及び図7bは、層の線L2及びL3に沿った対応する強度プロファイルを図示している。表3は、層の線L2と層の線L3の両方から計算された比RAi及びRBiを列挙している。表1の最も近い固有値と比較することによって、層の線L2と層の線L3についてのベッセル次数は、はっきりとνn=25でνm=2であると直接的に認識できる。
【0071】
【表3】
[例5]
材料:(18,11)SWCNT
回折パターン:TEMから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:Ai及びBi
無次元化した校正不要な特性:δ
提案した方法は、現実の単層カーボンナノチューブのカイラル指数の決定に適用された。図8aは、最大可能加速電圧である200kVで動作するフィリップスCM200-FEG型TEMによって撮られ個々のSWCNTのEDPを図示している。顕微鏡には、デジタル記録用にガタン(Gatan)社794型マルチスキャンCCDカメラ(1k×1k)が備えられている。図8aにおいてL3及びL6のラベルが付された(0,1)及び(1,0)反射を貫通する層の線が、(n,m)の決定に用いられる。層の線L3及びL6に沿った強度プロファイルが図8(c)及び図8(b)にそれぞれ図示されている。層の線L3からRAiは6.53と計算される。これに基づいて、カイラル指数mが高い信頼性で11と特定される。同様に層の線L6から、RAiは4.0と計算される。これにより、カイラル指数n-m=7が与えられることで、nが18であることが分かる。この(23,10)チューブは、直径D0=2.29nmでカイラル角α=17.2°の半導体ナノチューブである。
【0072】
【表4】
[例6]
材料:大きなカイラル角を有するSWCNTの束
回折パターン:TEMから得られた
構造を明らかにする特性:束中での最小カイラル角α
無次元化される校正不要な特性:din
無次元化した校正不要な特性:dout
提案した方法は、SWCNTの束中に存在するカイラル角の範囲の決定に適用された。図5aは、SWCNTの束の測定されたEDPを図示している。カイラル角は30°付近に集中している。回折層の群の下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最小カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することによって、束中での最小カイラル角は23.9°と決定される。
[例7]
材料:小さなカイラル角を有するSWCNTの束
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:束中での最大カイラル角α
無次元化される校正不要な特性:din
無次元化した校正不要な特性:dout
図5bは、SWCNTの束のシミュレーションによるEDPを図示している。カイラル角は0°付近に集中している。ここで回折層の群でのギャップの下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最大カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することによって、束中での最大カイラル角は13.9°と決定される。
【0073】
当業者にとっては、技術の進歩によって、本発明の基本的な考え方が様々な方法で実装可能となることは明らかである。よって本発明及び本発明の実施例は上述した例に限定されない。本発明の実施例は請求項の技術的範囲内で変化しうる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上の結晶性平面分子の回折パターンの1組の校正不要な特性から、前記1つ以上の結晶性平面分子の結晶構造及び/又は結晶構造の範囲を決定する方法、コンピュータプログラム、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ、ナノ突起(nanobud)、及び窒化ボロンナノチューブを含む様々な結晶性平面分子が発見されてきた。カーボンナノチューブは、その独特な物理的、化学的、熱的、及び電気的特性により、最も注目されてきた。単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)のような結晶性平面分子についての基礎研究及び応用研究のいずれにおいても根本的な問題が存在する。なぜなら、ナノチューブの物理的特性の多くは原子構造に極端に敏感だからである。たとえばSCNTの構造は、カイラル指数(n,m)として知られている1対の整数によって簡便に表すことができる。特性に対して構造が敏感であることの周知な例は、カーボンナノチューブは、(n-m)が3で割り切れる場合には金属的であり、それ以外の場合では半導体的になることである。よってn又はmの値がわずかにでも変化することで、ナノチューブの電子特性は劇的に変化しうる。たとえば(13,1)のチューブと(14,1)のチューブの幾何学構造は非常に似ているにも関わらず、(13,1)のチューブは金属的である一方で、(14,1)のチューブは半導体的である。従って個々のSWCNTの(n,m)を明確に決定することは、CNTに基づくナノテクノロジーの進歩にとって重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
SWCNTの構造評価についての現在の取り組みは大きくわけて2つに分類されうる。それはつまり光学的な評価と非光学的な評価である。光学的分光法には、たとえば共鳴ラマン散乱及びフォトルミネッセンスが含まれる。これらの手法では、固有光学遷移及び光子周波数(ラマン散乱)、又は光学吸収及び放出エネルギー(フォトルミネッセンス)を用いることによって、(n,m)が特定される。光学測定には限界がある。その理由は、光学測定は、通常様々なチューブを検出するために広範囲の波長がされ、かつ、限られた範囲のチューブ径でしか有効ではないためである。実験に係る作業には通常、測定とデータ解釈が含まれる。フォトルミネッセンスはさらなる課題を有する。なぜならその方法は半導体ナノチューブしか測定できないからである。それに加えて、光学測定の空間分解能が不十分であるため、解析にあたり、そのチューブの周囲からの影響を考慮せずに個々のSWCNTを探索することは不可能である。しかも光学測定によって、SWCNT中のカイラリティ分布を正確にマッピングすることは難しい。
【0004】
非光学測定では、カイラル指数は通常、実空間での直接可視化手法(たとえば走査型トンネル顕微鏡(STM)及び高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM))の手段によって、固有チューブ径D0及びカイラル角αを決定することによって、又は逆空間での電子回折手法によって割り当てられる。直接可視化手法は、チューブが通常、原子分解能かつ高倍率の高品質画像を得る上では安定ではないという問題に直面している。
【0005】
電子回折は、SWCNTを発見した際にそのSWCNTの評価に用いられた最初の手法であり、依然として構造解析にとって最も強力な手段の一つである。最新のナノビーム電子回折手法によって、個々のナノチューブの直接探索及びその構造の評価が独自に可能となる。しかし測定は典型的には、法線入射条件、又は小さなチューブ傾き角-たとえば6°未満-を仮定することによって行われる。対照的に、ナノチューブが水平面から20°の傾き角を有することは珍しくない。実際、係る小さな傾き角の要件を保証する実験系の設定は難しい。たとえ電子回折パターン(EDP)からカイラル角αを決定することがチューブの傾き角に対して独立であるように見えても、回折パターンが内部標準材料によって実際に校正されなければ、チューブ径の評価はそのチューブの傾きに依存する恐れがある。内部標準材料は現実には測定に利用できない。そのような標準材料がなければ、SWCNTのEDPの絶対校正は炭素-炭素(C-C)結合距離の値に依存し、その距離は0.142nm〜0.144nmの間で不確定さを有する。それに加えて、C-C結合は、チューブ径が小さいときには伸張する恐れがある。またC-C結合距離を用いたEDPの校正は、傾きに敏感であるか、又はチューブの曲率によって複雑になる。上記決定に対するチューブの傾き効果を考慮するため、面倒な試行錯誤シミュレーション手順が用いられなければならない。
【0006】
しかもD0及びαが、これまでの方法のように(n,m)を割り当てる前に決定されることが求められる場合、D0及びαはいずれも、カイラル指数n及びmを明確に決定するため、高精度で決定されなければならない。たとえばD0=1.06nmでα=3.7°の金属的(13,1)チューブは、D0=1.14nmでα=3.4°の半導体的(14,1)チューブと非常に似ている。明らかに、D0又はαのわずかな誤りが、容易にSWCNTの指数付けは不明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの欠点を克服するため、我々は新たな発明を導入する。その新たな発明とは、少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する方法である。
【0008】
当該方法は、
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手順、並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手順、
を有する。
【0009】
本発明の一の実施例では、回折パターンは電子回折パターンである。
【0010】
本発明の一の実施例では、回折パターンは、透過型電子顕微鏡を用いることによって、少なくとも1つの平面結晶性分子の試料から得られる。
【0011】
本発明の一の実施例では、少なくとも1つの平面結晶性分子はナノチューブを有する。
【0012】
本発明の一の実施例では、少なくとも1つの分子はカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノ突起である。
【0013】
本発明の一の実施例では、平面結晶性分子の結晶構造及び/又は結晶配向は、少なくとも2つの数学的に独立したパラメータによって一意的に特定される。
【0014】
本発明の一の実施例では、ナノチューブ又はナノ突起ベースの分子を固有に特定する数学的パラメータはカイラル指数である。
【0015】
本発明の一の実施例では、回折パターンの校正不要な特性は、層の線に沿った回折強度の擬周期性、及び/又は少なくとも2対の層の線間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最小値間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔、及び/又は層の線の強度曲線下の面積、及び/又は回折層の群の下限、及び/又は回折層の群の上限、及び/又は回折層でのギャップの下限、及び/又は回折層でのギャップの上限である。
【0016】
本発明の一の実施例では、少なくとも1つの校正不要な特性は、少なくとも1つの等しくない校正不要な特性で割ることで無次元化される。
【0017】
本発明の一の実施例では、少なくとも2つの無次元化した校正不要な特性を傾き補正されていないカイラル指数に関連づける少なくとも2つの結合した方程式を同時に解くことによって、カイラル指数は決定される。
【0018】
本発明の一の実施例では、無次元化される少なくとも2つの校正不要な特性は直径ではない層の線と直径層の線との間の間隔であり、かつ、無次元化した校正不要な特性は直径層の線に沿った回折強度の擬周期性である。
【0019】
本発明の一の実施例では、傾き補正されたカイラル指数を、平面結晶性分子の壁の蜂の巣格子構造に基づいて指数付けされた少なくとも2つの六角形の頂点に対応する少なくとも2つのベッセル関数の次数に関連づける少なくとも2つの結合した代数方程式を同時に解くことによって、傾き補正されていないカイラル指数は決定される。
【0020】
本発明の一の実施例では、所与の層の線からの信号強度の変化を表す各ベッセル関数の次数は、少なくとも1つの無次元化した校正不要な特性から決定される。
【0021】
本発明の一の実施例では、無次元化した校正不要な特性は、少なくとも1つの直径ではない層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔であり、かつ、無次元化した校正不要な特性は、同一の層の線に沿った回折強度の擬周期性である。
【0022】
本発明の一の実施例では、傾き補正されていないカイラル指数は傾き補正される。
【0023】
本発明の一の実施例では、傾き補正は、傾き補正されていないカイラル指数を、それよりも小さな整数のうちで最も近いものに切り捨てることによって実現される。
【0024】
本発明の一の実施例では、回折層の群の下限、及び/又は回折層の群の上限に対する回折層の群におけるギャップの下限、及び/又は回折層の群におけるギャップの上限を無次元化して、かつ、無次元化した下限を分子のカイラル角に関連づける方程式を解いて、束内に存在する最大及び/又は最小カイラル角を決定することによって、結晶性平面分子の束でのカイラル角の上限又は下限は決定される。
【0025】
さらに本発明の考え方は、少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定するコンピュータプログラムを有する。当該コンピュータプログラムはさらに、データ処理装置上で実行されるときには、上記方法の手順を実行するように備えられている。
【0026】
さらに本発明の考え方は、少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する装置を有する。当該装置は、上記方法の手順を実行する手段を有する。
【0027】
本発明によって与えられた方法では、SWCNTのカイラル指数(n,m)を、そのEDPから直接決定することが可能である。一意的に、当該方法は絶対的に校正不要であり、入射ビームに対する平面結晶性分子の傾きによる構造決定の誤りが特定される。入射電子ビームに対する炭素の平面結晶性分子の傾き角は同時に評価することが可能であるため、構造の決定においては、チューブの傾きの効果は補償可能である。それに加えて、回折パターンの新たな知見に基づく結果を照合する複数の独立した手順が提案される。
【0028】
本発明は初めて、平面結晶性分子の構造を明確に決定することを可能にした。よって本発明はその材料を厳密に評価する手段を供する。これは、科学研究にとっても、また材料、部品、及び素子への係る分子の商業的応用にとっても非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】平面結晶性分子の評価方法のブロック図を表す。
【図2】カイラル指数と、グラフェンシートを表すカーボンナノチューブのチューブ径及びカイラル角との関係を図示している。ここで各六角形は6つの炭素原子の環を表す。
【図3】(23,10)の単層カーボンナノチューブについての典型的な測定による回折パターンとシミュレーションによる回折パターンを図示している。
【図4】特定の層の線に沿った強度プロファイルから利用可能な追加の独立した校正不要な特性を図示している。
【図5a】フィリップスCM2-FEG型TEMによって撮られたSWCNTの束の測定されたEDPを図示している。カイラル角は30°付近に集中している。
【図5b】SWCNTの束のシミュレーションによるEDPを図示している。カイラル角は0°付近に集中している。
【図6a】傾き角5°での(12,7)SWCNTのシミュレーションによるEDPを図示している。
【図6b】傾き角30°での(12,7)SWCNTのシミュレーションによるEDPを図示している。
【図7a】カイラル指数が(25,2)である単層カーボンナノチューブのシミュレーションによる法線入射回折パターンを図示している。
【図7b】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L2に沿ったシミュレーションによる強度プロファイルを図示している。
【図7c】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L3に沿ったシミュレーションによる強度プロファイルを図示している。
【図8a】カイラル指数が(25,2)である単層カーボンナノチューブのTEM測定による回折パターンを図示している。
【図8b】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L3に沿ったTEM測定による強度プロファイルを図示している。
【図8c】(25,2)単層カーボンナノチューブの層の線L6に沿ったTEM測定による強度プロファイルを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
1つ以上の平面結晶性分子の原子構造を決定する方法が図1で与えられている。最初に10で、1つ以上の平面結晶性分子の回折パターンが得られる。次に11で、1つ以上の校正不要な特性が、1つ以上の無次元化した校正不要な特性と共に前記回折パターンから測定される。次に12では、前記校正不要な特性が、前記1つ以上の無次元化した校正不要な特性によって無次元化される。最終的に13で、構造を明らかにする特性又は該特性の範囲が、前記構造を明らかにする特性に前記校正不要な特性を関連づける1つ以上の方程式を解くことによって得られる。
【0031】
本発明は、典型的な平面結晶性分子の一例として1つ以上の単層カーボンナノチューブのカイラリティの決定方法について記載している。しかし当該方法が、1つ以上の独立パラメータによって固有に明らかにされうる任意の分子に対しても容易に適用可能である。カーボンナノチューブについては、これらはカイラル指数、つまりは直径及びカイラル角である。これら2つの間の関係は、グラフェンシートを図示する図2において概略的に示されている。図2に図示されたグラフェンシートでは、各六角形20は6つの炭素原子からなる環を表す。21で表された原点(0,0)を参照すると、六角形はカイラル指数(n,m)を有する。21以外の六角形の各々は図2で図示されているように指数付けされている。よってある特定のカーボンナノチューブは、ある特定のカイラル指数によって表されて良い。その際は、原点が所与の指数付けがされた六角形と重なるように、シートが巻かれる。よって22で表されたナノチューブの直径D0及び23で表されたナノチューブのカイラル角αが特定される。図2の例では、カイラル指数(n,m)=(10,5)のナノチューブの直径D0及びカイラル角αが示されている。
【0032】
当該方法では、最初に、1つ以上の結晶性平面分子の回折パターンが、たとえば透過型電子顕微鏡(TEM)又は数学によるシミュレーションを用いることによって得られる。単層カーボンナノチューブについての典型的な測定及びシミュレーションによる回折パターンが図3a及び図3bに図示されている。ここで30は直径となる層の線で、31は直径ではない層の線である。係る像から、1つ以上の独立した校正不要な特性を測定することが可能である。この1つ以上の独立した校正不要な特性は、像の縮尺が変化するときには、線形的に変化する。よって、この1つ以上の独立した校正不要な特性について互いに校正を行う必要がない。元の回折パターンから、層の線の対間の間隔はこの基準を満たす。直径となる層の線d1、d2、d3、d4、d5、d6に対する複数の層の線が図示されている。さらに図4に図示されているように、他の独立した校正不要な特性も、任意の特別な層の線40に沿った強度プロファイルから得ることができる。各層の線は、例で説明するように、特定次数の2次ベッセル関数を表す。任意の特別な層の線iに沿った強度プロファイルから得ることのできる独立の校正不要な特性には、層の線41に沿った回折強度の最小値の第1対間の間隔Bi、層の線42に沿った回折強度の最大値の第1対間の間隔Ai、層の線43に沿った回折強度の擬周期性δi、及び層の線の強度曲線の下の面積が含まれるが、これらに限定されるわけではない。当該方法による回折パターンの他に考えられうる特性及び上記リストは、決して本発明の技術的範囲を限定しない。これらは、無次元化されることが可能な構成不要の特性を構成する。従って、第3の独立した校正不要の特性が同一のリストから選ばれる。これは無次元化した校正不要な特性となる。無次元化される校正不要な特性を無次元化した校正不要な特性で割ることによって、1つ以上の無次元化した校正不要な特性で構成される組が得られる。重要なことは、これらは、回折パターンの縮尺の変化に対して独立であるため、たとえば基準となるものや化学結合長のような測定された参照距離によって、絶対的又は独立に校正される必要がない。従って、無次元化された校正不要な特性を、決定されるべき特性に関連づける1組の方程式が選ばれる。その決定されるべき特性は分子構造を明らかにする。カーボンナノチューブの場合では、2つのカイラル指数、つまりはナノチューブの直径とカイラル角が必要となり、従ってナノチューブを一意的に明らかにするためには2つの無次元化された校正不要な特性が必要となる。他の結晶構造については、他のパラメータも可能であり、かつ上述の例は決して本発明の技術的範囲を限定するものではない。従って構造を明らかにする特性は、これらを無次元化された校正不要な特性に関連づける結合方程式を解くことによって決定される。本発明によると、このことを実現する多数の数学的手段が可能である。そのような数学的手段には、代数方程式の系を解くこと、又は理想的な回折パターンと測定された回折パターンとの誤差を最小にすることが含まれるが、これらに限定されるわけではない。このことについては以降の例で明らかにする。
【0033】
一般的には、回折パターンが、その回折パターンを生成する入射ビームに対して垂直ではない分子(の群)から得られる場合、計算した構造を明らかにする特性には誤差が存在する。本発明は、この誤差を打ちきりによって補正することを可能にする。これについては、当該方法を単層カーボンナノチューブに適用することで当該方法を実行する様子を図示する以下の例で明らかにされる。これは決して、他の結晶性平面分子について本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0034】
本発明による方法の好適実施例では、2つ以上の無次元化される校正不要な特性は、直径でない層の線と直径である層の線との間の間隔であり、かつ無次元化した校正不要な特性は直径である層の線に沿った回折強度の擬周期性である。
【0035】
図3aは、最大可能加速電圧である200kVで動作するフィリップスCM200-FEG型TEMによって撮られたEDP、及び法線入射での(23,10)SWCNTのシミュレーションによるEDPを図示している。顕微鏡には、デジタル記録用にガタン(Gatan)社794型マルチスキャンCCDカメラ(1k×1k)が備えられている。回折パターンは、多くの分離した層の線で構成される。その多くの分離した層の線は互いに平行であるが、チューブの軸に対して垂直である。カーボンナノチューブの動力学的回折理論によると、ある特定の層の線に沿った強度プロファイルは、2次ベッセル関数の級数の和で表される。特に、中心で直径となる線30に沿って、支配的なベッセル関数はJ0(πD0R)である。ここでRは、回折中心から直径となる線に沿って測定された半径距離である。
【0036】
数学的には、ベッセル関数は、疑似周期的に間隔が設けられた(ゼロ又はルートが繰り返される)有限個の最小値を有する。実際には、πD0R>>0のときは、ゼロ次ベッセル関数J0(πD0R)、又は単純に表すとJ0(x)は、√(2/πx)*cos(x-π/4)と近似することができる。ここでルート部分は、xj=πD0Rj=(j-1/4)πである。jは1よりも大きい整数で、隣接するルート部分の間隔は、xj+1-xj=πである。この近似によって、D0*δ0=1 (1)が得られる。ここでδ0=Rj+1-Rjである。直径となる線での強度プロファイルは全体としてはチューブの傾きに対して独立であるので、δ0の値の測定もチューブの傾きに対して独立であることに留意すべきである。
【0037】
直径となる線から測定された各直径ではない層の線の間隔di(図3)は、傾き因子1/cosτによるスケーリングの影響を受ける。ここでτはナノチューブの傾き角を表す。ここで法線入射条件ではτ=0°となる。3つの層の線のdiは、1次の六角形についてはd1、d2、d3が割り当てられ、2次の六角形についてはd4、d5、d6が割り当てられる。
【0038】
ここで新たな項を導入することによって、層の線-これは各直径ではない層の線に対応する-の固有間隔(ξi)は、ξi=D0*di (2)で定義される。幾何学上の考察により、di(i=1,2,…6)に対応する6つの最も重要な層の線のξiについての表式は次式で与えられて良い。
【0039】
【数1】
たとえば、
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
でかつ、
【0043】
【数5】
なので、
【0044】
【数6】
が得られる。
パラメータaはグラファイトの格子定数である。
【0045】
ξiは無次元のパラメータであり、カイラル指数(n,m)のみの関数である。他方、式(1)と式(2)とが組み合わせられる場合には、ξiは、ξi=di/δによって、回折パターンからすぐに測定可能である。層の線の固有間隔(ξiτ)の測定値が1/cosτによってスケーリングされることは明らかである。
【0046】
式(3)からの任意の2つの表式を同時に解くことで、カイラル指数(n,m)が与えられる。たとえばξ2及びξ3から得られるn及びmの解は、
【0047】
【数7】
である。
又は同様に、ξ3及びξ6からは、
【0048】
【数8】
が得られる。
【0049】
このようにして、構造を明らかにする特性(カイラル指数)は、代数系の方程式を解くことによって決定される。その代数系の方程式は、その特性を、δによって無次元化される直径ではない層の線と直径である層の線との間の2対の間隔である回折パターンの無次元化された校正不要な特性、及び直径である層の線の擬周期性に関連づける。本発明によると他の組合せも可能である。
【0050】
最も一般的な場合では、傾き角がゼロではないときには、実際の測定結果(nτ,mτ)は次式で与えられる。
【0051】
【数9】
ここで、εnとεmは傾きの効果による誤差で、正の整数である。ナノチューブについてはεi<2(i=n又はm)と計算される。ここでn又はmは、傾き角τ=20°で近似的に値30をとる。0≦εi<1となるように傾き角が小さいときには、次式が得られる。
n=TRUNC(nτ)、又は、m=TRUNC(mτ) (7)
1≦εi<2となるように傾き角が比較的大きいときには、次式が得られる。
n=TRUNC(nτ)-1、又は、m=TRUNC(mτ)-1 (8)
ここで、TRUNCは、ある数をある整数に切り捨てる関数である。
【0052】
(n,m)が決定した後、傾き角τが、cosτ=n/nτ又はcosτ=m/mτによって、式(6)から計算されて良い。層の線の固有な間隔ξiがチューブの傾きに対してより敏感であるため、傾き角は、cosτ=ξi/ξiτによってより確実に評価される。cosτ=ξi/ξiτはたとえば次式のようなものである。
【0053】
【数10】
傾き角τを考慮すると、回折パターンの絶対校正が、任意の層の線間隔diによって帰納的に行うことが可能である。diとはたとえば次式のようなものである。
【0054】
【数11】
ここでグラファイトの格子定数aは0.246nmであることが知られている。
【0055】
当該方法における主な誤差の発生源は、δ0=Rj+1-Rj及びdiの固有の測定誤差に起因する。特に層の線間の固有間隔ξiτを計算する約数として相対的にその大きさδは小さい。
【0056】
他の誤差の発生源は、実際に(n,m)を決定する上で、式(7)と式(8)のどちらかを選ぶのが正しいのかを判断するための信頼性ある基準が存在しないほどに傾き角が大きいときに生じる。式(7)が有効である(つまり式(8)を用いないような)範囲にとどめるため、様々な(n,m)のナノチューブについて許容された傾き角τmaxを導入する。理論的には、あるnについてのτmaxは、次式によって推定することができる。
【0057】
【数12】
整数nが増大することで、許容された傾き角τmaxは減少する。たとえばεmax=0.9と仮定すると、許容された傾き角は、n=1.5については20°であることが許される。それに加えて、式(6)に基づき、(n,m)の関数である固有指数比βが導入される。ここでβ=m/n=(m+εm)/(n+εn)=εm/εn≦1、つまりεm≦εnである。(nと比較された)mを決定するとき、当該方法は傾き角以上の傾きを許容することが分かる。換言すると、最初に式(7)に基づいてmを計算することが好ましい。よってnは、固有指数比βを適用することによって、より高い信頼性で求めることができる。なぜならベータは、式(4)よりβ=m/n=(2ξ2-ξ3)/(2ξ3-ξ2)であり、又は式(5)よりβ=m/n=(2ξ2-ξ3)/(2ξ3-ξ2)であることにより、傾きに対して独立に測定できるためである。
【0058】
この手順により、傾き角が20°よりも大きくない一般的な状況では、カイラル指数が(n,m)(n≧15≧m)であるSWCNTについては、式(7)を用いて最初にmを求めることによって、明確に直接測定することができる。これまで通り、パラメータβを用いることによってnが計算されても良い。m又はnが、たとえば画素化の誤差によって正確に決定されない場合、その誤りは、結果として生じた不合理な傾き角から容易に認識されなければならず、あるいは結果は式(7)又は式(8)に基づくnの測定によって照合できる。たとえば図2a(τ=5°)から、mが誤って6であると判断された場合、パラメータβを適用することによって、nは10でなければならない。その結果として生じる傾き角は約33°であり、通常の場合としては大きすぎる。他方nが誤って11であると計算され、同時にmは正確に7であると計算される場合、このことが、ξiτからの測定値とm/nによる計算値との間の固有比βが深刻な不一致を示す。式(10)に基づくEDPの校正後のチューブ径D0の決定もまた、独立に結果を検証するのに用いることが可能である。もちろん、その結果は、異なる層の線を別個に測定することによってさらに照合されて良い。傾き角が許容限界を超えるときは、上述した照合手順に加えて、全ての隣接する(n,m)の候補の周囲で試行錯誤する手順が用いられて良い。
【0059】
この方法は、非カイラルナノチューブ(つまりアームチェアチューブ及びジグザグチューブ)の(n,m)の決定にも適用可能であることに留意して欲しい。ここで、アームチェアチューブはd1=0、d2=d3=d4=d5、d6=2d2で、ジグザグチューブはd1=d2、d3=2d1、d4=0、d5=d6=3d1である。
【0060】
層の線間の間隔di、及び直径となる線に沿ったゼロの間の間隔δ0しか測定には含まれないので、本発明の方法には重大な限界がない。対照的に、当該方法は、高い自由度を有し、かつ、層の線の間隔の様々な組合せを用いることによって、(n,m)を決定可能なことを検証することができる。一の重要な留意事項は、EDPは、δ0が信頼ある状態で測定できるように、直径となる線上のゼロを読み取ることが必要となる。
【実施例2】
【0061】
本方法の代替実施例では、カイラル指数は、2つ以上の結合代数方程式を同時に解くことによって決定される。その結合代数方程式は、傾き補正されたカイラル指数を、平面結晶性分子の壁の蜂の巣格子構造に基づいて指数付けされた2つ以上の六角形の頂点に対応する2つ以上のベッセル関数の次数に関連づける。ここで校正の不要な特性は最初に、所与の層の線からの信号強度の変化を表す各ベッセル関数の次数を定義するのに用いられる。無次元化される校正不要な特性は、1つ以上の直径ではない層の線に沿った回折強度での最大値の第1対間の間隔である。無次元化した校正不要な特性は、同一の層の線に沿った回折強度の擬周期性である。本発明によると、無次元化される校正不要な特性と無次元化した校正不要な特性の別な組合せ及び選択は可能である。
【0062】
SWCNTのカイラル指数(n,m)は、ナノチューブからの回折の形状因子として機能する(2次)ベッセル関数の次数に関連づけられる。これにより、カーボンナノチューブのカイラル指数を直接評価することが可能となる。よって明確な(n,m)の決定は、高い信頼性での対応するベッセル関数からのベッセル次数の取得に依存する。ベッセル因子はx=0の周りで鏡面対称性を有する。ゼロではない次数を有するベッセル因子については、x=0周辺で常に「強度ギャップ」が存在する。強度ギャップでは強度がゼロに接近する。そのギャップの幅もまたベッセル因子の次数の関数である。ベッセル因子の次数が高くなると、強度ギャップの幅が広がる。他方、ベッセル因子の第1の2つの正のルート間の間隔δiは、ベッセル次数の絶対値|ν|の増大と共にかなり緩やかに増大する。従って、各ベッセル因子の無次元の固有比は、Ai又はBiをδiで割ることによって計算されて良い。つまり、
RA=Ai/δi (11)、又は
RB=Bi/δi (12)
である。
【0063】
例として、次数ν=9とν=10のベッセル因子については、RAはそれぞれ5.51及び5.95で、差異の絶対値は0.44である。同様に、RBはそれぞれ6.87及び7.31で、差異の絶対値は0.44である。これら2つのベッセル因子を区別するための対応する差の精度は、RAを用いるときには7.9%で、RBを用いるときには6.2%である。高次である次数ν=29とν=30のベッセル因子の場合では、RAiの差異の絶対値とRBiの差異の絶対値はいずれも0.31で、差の精度はそれぞれ2.4%と2.2%である。従ってRAi及びRBiを導入することによって、より高い差の精度で隣接するベッセル因子を区別することが可能となるので、高次ベッセル関数によって支配される層の線の使用が可能となる。ベッセル関数は次式によって(n,m)と関連づけられる。
ν=nh-mk (13)
ν=0〜30までの次数のベッセル因子についての比RAi及びRBiの固有比が表1に列挙されている。回折層の線に沿った強度プロファイルから測定された比と表1に列挙された比とを比較することによって、ベッセル次数をすぐに理解することができる。ベッセル次数は、ナノチューブのカイラル指数に割り当てられる。様々な層の線の測定から得られるRAi及びRBiの組合せを用いて、測定でのRAi及びRBiの補完及び検証を行うことによって、高レベルの信頼性を実現することができる。
【0064】
【表1】
当該方法は、SWCNTの束中に存在するカイラル角の範囲の決定に適用されて良い。図5aは、フィリップスCM2-FEG型TEMによって撮られたSWCNTの束の測定されたEDPを図示している。カイラル角は30°付近に集中している。回折層の群50の下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最小カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することで、束中の最小カイラル角が決定される。
【0065】
【数13】
図5bは、SWCNTの束のシミュレーションによるEDPを図示している。カイラル角は0°付近に集中している。ここで回折層の群51でのギャップの下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最大カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することで、束中の最大カイラル角が決定される。
【実施例3】
【0066】
本発明による方法が、単層カーボンナノチューブのシミュレーションによる回折パターン及び実験による回折パターンの両方で実行される。当該方法は、カーボンナノチューブと似たような構造を有する他の材料のナノチューブ-たとえば窒化ボロンナノチューブやカーボンナノ突起-の構造解析にもすぐに拡張できる。
[例1]
材料:(12,7)SWCNT
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:d3及びd6
無次元化した校正不要な特性:δ
当該方法を試験するため、角度を振って(12,7)SWCNTのEDPのシミュレーションを行った。これらのうちの2つである、傾き角が5°でのEDPと傾き角が30°でのEDPが図6に図示されている。(ξ3,ξ6)の組の方程式を適用することによって、カイラル指数(n,m)及び傾き角τが、表2でまとめられているように決定される。ここで、ξiτ(i=3又は6)はシミュレーションパターンから測定され、2ξi(n,m)は式(3)から計算される。傾き角τi(i=3又は6)は、式(9)に基づく層の線の固有間隔を用いることによって決定される。
【0067】
傾き角が20°未満であるとき、カイラル指数は明確に直接することが可能であることがはっきりと分かる。傾きが5°(図6a)でεn=-0.02である場合についての誤差は、画素分解能の限界に起因する。これは、EDPの画素分解能を改善することによって回避できる。
【0068】
傾き角が25°にまで増大することで、εn=1.21>1となる一方で、εm=0.74<1となる。そのような状況では、式(7)又は式(8)から(n,m)を計算するときには注意しなければならない。これは以降でより詳細に論じる。
【0069】
【表2】
[例2]
材料:(12,7)SWCNT
回折パターン:TEMから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:d2、d3及びd6
無次元化した校正不要な特性:δ
当該方法を現実の問題に適用するためには、個々のSWCNTの高品質EDPが必要となる。しかし実際には、個々のSWCNTの散乱強度が弱く、かつチューブは電子ビームによって容易に改質されてしまいがちなため、そのような高品質EDPを得ることは困難である。図3aは個々のSWCNTの高分解能TEM像を表している。(ξ2,ξ3)の組の方程式及び(ξ3,ξ6)の組の方程式が、それぞれ表2(a)及び表2(b)にまとめられた結果による計算を行うのに独立に用いられる。よって両方程式の組から、SWCNTのカイラル指数(n,m)は(23,10)と決定され、かつ傾き角τは約10°と決定される。
【0070】
傾き角τ=10°であることを考慮すると、たとえばd3=(2√(3)/3a)*(cosα/cosτ)=4.554nm-1を用いることによって、正確に回折パターンを校正することができる。従ってチューブ径は、式(1)に基づいてEDPから2.29nmと決定される。この値は(23,10)のチューブと正確に一致する。
[例3]
材料:(23,10)SWCNT
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:d3及びd6
無次元化した校正不要な特性:δ
傾き角が10°での(23,10)ナノチューブのシミュレーションによるEDPが図3bで与えられている。このシミュレーションについては同様な測定も行われている。対応する結果もまた、比較用に表2(a)及び表2(b)に列挙されている。ここでも、シミュレーションによる回折パターンからの結果と実験によるパターンは素晴らしい一致を示した。
[例4]
材料:(25,2)SWCNT
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:Ai及びBi
無次元化した校正不要な特性:δ
例として、図7aは、カイラル指数が(25,2)の単層カーボンナノチューブのシミュレーションによる法線入射回折パターンを表す。図7c及び図7bは、層の線L2及びL3に沿った対応する強度プロファイルを図示している。表3は、層の線L2と層の線L3の両方から計算された比RAi及びRBiを列挙している。表1の最も近い固有値と比較することによって、層の線L2と層の線L3についてのベッセル次数は、はっきりとνn=25でνm=2であると直接的に認識できる。
【0071】
【表3】
[例5]
材料:(18,11)SWCNT
回折パターン:TEMから得られた
構造を明らかにする特性:カイラル指数(n,m)
無次元化される校正不要な特性:Ai及びBi
無次元化した校正不要な特性:δ
提案した方法は、現実の単層カーボンナノチューブのカイラル指数の決定に適用された。図8aは、最大可能加速電圧である200kVで動作するフィリップスCM200-FEG型TEMによって撮られ個々のSWCNTのEDPを図示している。顕微鏡には、デジタル記録用にガタン(Gatan)社794型マルチスキャンCCDカメラ(1k×1k)が備えられている。図8aにおいてL3及びL6のラベルが付された(0,1)及び(1,0)反射を貫通する層の線が、(n,m)の決定に用いられる。層の線L3及びL6に沿った強度プロファイルが図8(c)及び図8(b)にそれぞれ図示されている。層の線L3からRAiは6.53と計算される。これに基づいて、カイラル指数mが高い信頼性で11と特定される。同様に層の線L6から、RAiは4.0と計算される。これにより、カイラル指数n-m=7が与えられることで、nが18であることが分かる。この(23,10)チューブは、直径D0=2.29nmでカイラル角α=17.2°の半導体ナノチューブである。
【0072】
【表4】
[例6]
材料:大きなカイラル角を有するSWCNTの束
回折パターン:TEMから得られた
構造を明らかにする特性:束中での最小カイラル角α
無次元化される校正不要な特性:din
無次元化した校正不要な特性:dout
提案した方法は、SWCNTの束中に存在するカイラル角の範囲の決定に適用された。図5aは、SWCNTの束の測定されたEDPを図示している。カイラル角は30°付近に集中している。回折層の群の下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最小カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することによって、束中での最小カイラル角は23.9°と決定される。
[例7]
材料:小さなカイラル角を有するSWCNTの束
回折パターン:シミュレーションから得られた
構造を明らかにする特性:束中での最大カイラル角α
無次元化される校正不要な特性:din
無次元化した校正不要な特性:dout
図5bは、SWCNTの束のシミュレーションによるEDPを図示している。カイラル角は0°付近に集中している。ここで回折層の群でのギャップの下限(din)及び上限(dout)は、束中に存在する最大カイラル角の限界に相当する。式(14)に従ってdoutによってdinを無次元化することによって、束中での最大カイラル角は13.9°と決定される。
【0073】
当業者にとっては、技術の進歩によって、本発明の基本的な考え方が様々な方法で実装可能となることは明らかである。よって本発明及び本発明の実施例は上述した例に限定されない。本発明の実施例は請求項の技術的範囲内で変化しうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する方法であって:
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手順;並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手順;
を有する方法。
【請求項2】
前記回折パターンは電子回折パターンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記回折パターンは、透過型電子顕微鏡を用いることによって、少なくとも1つの平面結晶性分子の試料から得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの平面結晶性分子はナノチューブを有する、請求項1-3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの分子はカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノ突起である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記平面結晶性分子の結晶構造及び/又は結晶配向は、少なくとも2つの数学的に独立したパラメータによって一意的に特定される、請求項1-5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ナノチューブ又はナノ突起ベースの分子を一意的に特定する数学的パラメータはカイラル指数である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記回折パターンの校正不要な特性は、層の線に沿った回折強度の擬周期性、及び/又は少なくとも2対の層の線間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最小値間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔、及び/又は層の線の強度曲線下の面積、及び/又は回折層の群の下限、及び/又は回折層の群の上限、及び/又は回折層でのギャップの下限、及び/又は回折層でのギャップの上限である、請求項1-7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの校正不要な特性は、少なくとも1つの等しくない校正不要な特性で割ることで無次元化される、請求項1-7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記カイラル指数は、少なくとも2つの無次元化した校正不要な特性を、傾き補正されていないカイラル指数に関連づける少なくとも2つの結合した方程式を同時に解くことによって決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つの無次元化される校正不要な特性は、直径ではない層の線と直径層の線との間の間隔であり、かつ、
前記無次元化した校正不要な特性は前記直径層の線に沿った回折強度の擬周期性である、
請求項1-10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記傾き補正されていないカイラル指数は、前記傾き補正されたカイラル指数を、平面結晶性分子の壁の蜂の巣格子構造に基づいて指数付けされた少なくとも2つの六角形の頂点に対応する少なくとも2つのベッセル関数の次数に関連づける少なくとも2つの結合した代数方程式を同時に解くことによって、決定される、請求項1-11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
所与の層の線からの信号強度の変化を表す各ベッセル関数の次数は、少なくとも1つの無次元化した校正不要な特性から決定される、請求項1-12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記無次元化される校正不要な特性は、少なくとも1つの直径ではない層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔であり、かつ、
前記無次元化した校正不要な特性は、前記少なくとも1つの直径ではない層と同一の層の線に沿った回折強度の擬周期性である、
請求項1-13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記傾き補正されていないカイラル指数は傾き補正される、請求項1-14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記傾き補正は、前記傾き補正されていないカイラル指数を、該指数よりも小さな整数のうちで最も近いものに切り捨てることによって実現される、請求項1-15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
結晶性平面分子の束中でのカイラル角の上限又は下限は、前記回折層の群の下限、及び/又は前記回折層の群の上限に対する回折層の群におけるギャップの下限、及び/又は前記回折層の群におけるギャップの上限を無次元化して、かつ、無次元化した下限を分子のカイラル角に関連づける方程式を解いて、前記束内に存在する最大及び/又は最小カイラル角を決定することによって、決定される、請求項1-16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定するコンピュータプログラムであって、データ処理装置上で実行されるときに:
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手順;並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手順;
を実行するように備えられているコンピュータプログラム。
【請求項19】
少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する装置であって:
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手段;並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手段;
を有する装置。
【請求項1】
少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する方法であって:
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手順;並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手順;
を有する方法。
【請求項2】
前記回折パターンは電子回折パターンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記回折パターンは、透過型電子顕微鏡を用いることによって、少なくとも1つの平面結晶性分子の試料から得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの平面結晶性分子はナノチューブを有する、請求項1-3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの分子はカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノ突起である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記平面結晶性分子の結晶構造及び/又は結晶配向は、少なくとも2つの数学的に独立したパラメータによって一意的に特定される、請求項1-5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ナノチューブ又はナノ突起ベースの分子を一意的に特定する数学的パラメータはカイラル指数である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記回折パターンの校正不要な特性は、層の線に沿った回折強度の擬周期性、及び/又は少なくとも2対の層の線間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最小値間の間隔、及び/又は層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔、及び/又は層の線の強度曲線下の面積、及び/又は回折層の群の下限、及び/又は回折層の群の上限、及び/又は回折層でのギャップの下限、及び/又は回折層でのギャップの上限である、請求項1-7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの校正不要な特性は、少なくとも1つの等しくない校正不要な特性で割ることで無次元化される、請求項1-7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記カイラル指数は、少なくとも2つの無次元化した校正不要な特性を、傾き補正されていないカイラル指数に関連づける少なくとも2つの結合した方程式を同時に解くことによって決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つの無次元化される校正不要な特性は、直径ではない層の線と直径層の線との間の間隔であり、かつ、
前記無次元化した校正不要な特性は前記直径層の線に沿った回折強度の擬周期性である、
請求項1-10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記傾き補正されていないカイラル指数は、前記傾き補正されたカイラル指数を、平面結晶性分子の壁の蜂の巣格子構造に基づいて指数付けされた少なくとも2つの六角形の頂点に対応する少なくとも2つのベッセル関数の次数に関連づける少なくとも2つの結合した代数方程式を同時に解くことによって、決定される、請求項1-11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
所与の層の線からの信号強度の変化を表す各ベッセル関数の次数は、少なくとも1つの無次元化した校正不要な特性から決定される、請求項1-12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記無次元化される校正不要な特性は、少なくとも1つの直径ではない層の線に沿った回折強度における第1対の最大値間の間隔であり、かつ、
前記無次元化した校正不要な特性は、前記少なくとも1つの直径ではない層と同一の層の線に沿った回折強度の擬周期性である、
請求項1-13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記傾き補正されていないカイラル指数は傾き補正される、請求項1-14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記傾き補正は、前記傾き補正されていないカイラル指数を、該指数よりも小さな整数のうちで最も近いものに切り捨てることによって実現される、請求項1-15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
結晶性平面分子の束中でのカイラル角の上限又は下限は、前記回折層の群の下限、及び/又は前記回折層の群の上限に対する回折層の群におけるギャップの下限、及び/又は前記回折層の群におけるギャップの上限を無次元化して、かつ、無次元化した下限を分子のカイラル角に関連づける方程式を解いて、前記束内に存在する最大及び/又は最小カイラル角を決定することによって、決定される、請求項1-16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定するコンピュータプログラムであって、データ処理装置上で実行されるときに:
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手順;並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手順;
を実行するように備えられているコンピュータプログラム。
【請求項19】
少なくとも1つの平面結晶性分子の原子構造を決定する装置であって:
少なくとも1つの平面結晶性分子の回折パターンを取得する手段;並びに
前記回折パターンのうちの少なくとも1つの校正不要な特性を用いることによって、前記原子構造の少なくとも1つの特徴、及び/又は原子構造の範囲を計算する手段;
を有する装置。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【公表番号】特表2010−511164(P2010−511164A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538735(P2009−538735)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050518
【国際公開番号】WO2008/065236
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(509148500)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050518
【国際公開番号】WO2008/065236
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(509148500)
【Fターム(参考)】
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