説明

分子ポンプ、及びフランジ

【課題】より容易に衝撃の緩衝構造を形成すること。
【解決手段】分子ポンプのフランジに、衝撃のエネルギーを消費させるための衝撃緩衝構造を設ける。嵌入孔をフランジに設け、この嵌入孔に、独立した小さな部品で構成された緩衝部材を嵌め込み固定する。緩衝部材の内部にフランジと真空容器とを固定するためのボルトを挿通するためのボルト孔が設けられている。緩衝部材には、空洞部を形成することによって薄肉部を設ける。分子ポンプに、ロータ部の破壊などによって、ロータ部の回転方向の衝撃が発生した場合、フランジが分子ポンプと共にロータ部の回転方向に滑る。すると、フランジと真空容器のフランジとを固定しているボルトが緩衝部材に当たり塑性変形する。このように、緩衝部材が塑性変形することにより、分子ポンプを回転させるエネルギーが費やされ、分子ポンプで発生した衝撃を緩衝することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子ポンプ、及びフランジに関し、例えば、真空容器の排気に用いるターボ分子ポンプとそのフランジに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプやねじ溝式ポンプなどの分子ポンプ(真空ポンプ)は、例えば、半導体製造装置の排気や、電子顕微鏡などの高真空を要する真空容器に多用されている。
これら分子ポンプの吸気口には、フランジが設けられており、真空容器の排気口にボルトなどで固定できるようになっている。このフランジと真空容器の排気口の間にはOリングやガスケットなどが挟んであり、分子ポンプと真空容器との間の気密性が保たれるようになっている。
【0003】
分子ポンプの内部には、回転自在に軸支され、モータ部により高速回転が可能なロータ部と、分子ポンプのケーシングに固定されたステータ部が設けられている。
分子ポンプは、ロータ部が高速回転することにより、ロータ部とステータ部が排気作用を発揮する。そして、この排気作用により、分子ポンプの吸気口より気体が吸引され、排気口から排気される。
通常、分子ポンプは、分子流領域(真空度が高く分子同士が衝突する頻度が小さい領域)にて気体を排気する。分子流領域で排気能力を発揮するためには、ロータ部は、例えば毎分3万回転程度の高速回転を行う必要がある。
【0004】
ところで、分子ポンプの運転中に何らかのトラブルが発生し、ロータ部がステータ部やその他の分子ポンプ内の固定した部材に衝突した場合、ロータ部の角運動量がステータ部や固定部材に伝達し、分子ポンプ全体をロータ部の回転方向に回転させる大きなトルクが瞬時に発生する。このトルクは、フランジを通じて真空容器にも大きな応力を及ぼす。
このようなトルクによる衝撃を緩和するための技術が下記の特許文献に提案されている。
【特許文献1】特開2004−162696公報
【0005】
特許文献1には、分子ポンプの吸気口端に配設されたフランジに、ロータの回転トルクによる衝撃を緩衝するための緩衝部を設ける技術が提案されている。
詳しくは、フランジにボルト孔に隣接して空洞部を設け、ボルト孔と空洞部との間に薄肉部を形成する。分子ポンプに、ロータ部の破壊などによって、ロータ部の回転方向の衝撃が発生した場合、分子ポンプのフランジと真空装置とを固定しているボルトがこの薄肉部に当たり塑性変形する。このように、薄肉部を塑性変形させることにより、分子ポンプで発生した衝撃を緩和することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の分子ポンプでは、ロータの破壊時などに発生する回転トルクの衝撃を吸収する緩衝部が、フランジに直接加工を施すことによって形成されている。
フランジと分子ポンプのケーシングは、一体形成されているため、ケーシングのサイズが大型になるほど、緩衝部を加工する際の作業性が低下してしまう。
そこで本発明は、より容易に衝撃の緩衝構造を設けることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明では、円筒形状のケーシングと、前記ケーシング内に形成されたステータ部と、前記ステータ部内に配設されたシャフトと、前記シャフトを前記ステータ部に対して回転自在に軸支する軸受と、前記シャフトに取り付けられ、前記シャフトと一体になって回転するロータと、前記シャフトを駆動して回転させるモータと、緩衝部材と、前記ケーシングの端部に設けられ、前記ケーシングと被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト孔、及び、前記ボルト孔に隣接して設けられた、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入孔を有するフランジ部と、を具備することにより前記目的を達成する。
請求項1記載の発明では、前記ボルト孔は、例えば、前記嵌入孔と連通して設けられていることが好ましい。
請求項1記載の発明では、前記嵌入孔は、フランジ部の厚み方向に貫通していることが好ましい。
請求項1記載の発明では、前記被固定部材は、例えば、当該分子ポンプにより排気処理が行われる真空容器であることが好ましい。
請求項2記載の発明では、円筒形状のケーシングと、前記ケーシング内に形成されたステータ部と、前記ステータ部内に配設されたシャフトと、前記シャフトを前記ステータ部に対して回転自在に軸支する軸受と、前記シャフトに取り付けられ、前記シャフトと一体になって回転するロータと、前記シャフトを駆動して回転させるモータと、緩衝部材と、前記ケーシングの端部に設けられ、前記ケーシングと被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト貫入部と、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入部とを有するフランジ部と、を具備したことにより前記目的を達成する。
請求項2記載の発明では、前記嵌入部は、フランジ部の厚み方向に貫通していることが好ましい。
請求項2記載の発明では、前記被固定部材は、例えば、当該分子ポンプにより排気処理が行われる真空容器であることが好ましい。
請求項3記載の発明では、請求項1または請求項2記載の分子ポンプにおいて、前記嵌入孔は、前記ボルトに対して前記ロータの回転方向の反対側に設けられていることを特徴とする。
請求項4記載の発明では、請求項1、請求項2または請求項3記載の分子ポンプにおいて、前記嵌入孔は、円周方向に長く延びる形状であることを特徴とする。
請求項5記載の発明では、請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の分子ポンプにおいて、前記緩衝部材は、前記フランジ部の厚み方向の長さより小さい厚みを有することを特徴とする。
請求項6記載の発明では、請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の分子ポンプにおいて、前記緩衝部材は、前記フランジ部の厚み方向の長さより大きい厚みを有し、前記フランジ部と被固定部材との間に、スペーサ部材が設けられていることを特徴とする。
請求項7記載の発明では、請求項1から請求項6のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプにおいて、前記緩衝部材の脱落を防止する脱落防止構造を有することを特徴とする。
請求項8記載の発明では、請求項7記載の分子ポンプにおいて、前記脱落防止構造は、前記ボルトが貫入された座金で構成されていることを特徴とする。
請求項8記載の発明では、前記座金は、例えば、前記嵌入孔における、前記フランジ部の半径方向の長さより大きい直径を有することが好ましい。
請求項9記載の発明では、請求項7記載の分子ポンプにおいて、前記脱落防止構造は、前記フランジ部に設けられた突出部で構成されていることを特徴とする。
請求項9記載の発明では、前記突出部は、例えば、前記嵌入孔の開口端において、前記嵌入孔の内側面から内側方向に延びるように形成されていることが好ましい。
請求項10記載の発明では、請求項7記載の分子ポンプにおいて、前記脱落防止構造は、内側面の少なくとも一部が傾斜した前記嵌入孔で構成されていることを特徴とする。
請求項10記載の発明では、前記脱落防止構造は、例えば、内側面がテーパ状に加工された前記嵌入孔で構成されていることが好ましい。
請求項10記載の発明において、前記嵌入孔は、例えば、被固定部材との対向面側の開口端の面積が反対側の開口端の面積より大きく形成されていることが好ましい。
請求項11記載の発明では、請求項1から請求項10のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプにおいて、前記緩衝部材は、薄肉部を有することを特徴とする。
請求項11記載の発明では、前記薄肉部は、例えば、前記緩衝部材に複数の貫通孔を形成することにより形成されていることが好ましい。
請求項12記載の発明では、請求項1から請求項11のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプにおいて、前記緩衝部材は、ゲル材により構成されていることを特徴とする。
請求項13記載の発明では、請求項1から請求項12のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプにおいて、前記フランジ部と被固定部材との間に設けられた仲介フランジを有し、前記フランジ部は、前記仲介フランジを介して被固定部材に固定されていることを特徴とする。
請求項13記載の発明では、前記被固定部材は、例えば、前記仲介フランジに直接ボルトによって固定され、前記仲介フランジは、前記フランジ部にボルトによって固定されていることが好ましい。
請求項14記載の発明では、請求項2記載の分子ポンプにおいて、前記ボルト貫入部と、前記嵌入部とが、前記フランジ部に形成された同一の空所内に配置されていることを特徴とする。
請求項15記載の発明では、請求項14記載の分子ポンプにおいて、前記フランジ部に形成された空所は、前記ボルト貫入部に対して前記ロータの回転方向の反対側に延びている形状であることを特徴とする。
請求項16記載の発明では、分子ポンプのケーシングの端部を被固定部材に接続するためのフランジであって、緩衝部材と、該フランジ部と被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト孔と、前記ボルト孔に隣接して設けられた、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入孔と、を具備することにより前記目的を達成する。
請求項17記載の発明では、分子ポンプのケーシングの端部を被固定部材に接続するためのフランジであって、緩衝部材と、該フランジと前記被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト貫入部と、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入部と、を具備することにより前記目的を達成する。
請求項18記載の発明では、請求項17記載のフランジにおいて、前記ボルト貫入部と、前記嵌入部とが、前記フランジに形成された同一の空所内に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、緩衝部材をフランジ部の嵌入孔に設けることにより、より容易に衝撃の緩衝構造を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1〜図13を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
本実施の形態では、分子ポンプ1のフランジ61に、衝撃のエネルギーを消費させるための衝撃緩衝構造を設ける。
例えば、図3に示すように、嵌入孔40をフランジ61に設け、この嵌入孔40に別部材で構成された緩衝部材50を嵌め込み固定する。
緩衝部材50の内部にフランジ61と真空容器205とを固定するためのボルト65を挿通するためのボルト孔14が設けられている。
緩衝部材50は、ボルト65が衝突した際に塑性変形可能な部材で構成する。また、緩衝部材50には、図6や図7に示すように空洞部を形成することによって、薄肉部を形成する。
【0010】
分子ポンプに、ロータ部の破壊などによって、ロータ部の回転方向の衝撃が発生した場合、フランジ61が分子ポンプと共にロータ部の回転方向に滑る。すると、フランジ61と真空容器205のフランジとを固定しているボルト65が緩衝部材50に当たり塑性変形する。このように、緩衝部材50が塑性変形することにより、分子ポンプを回転させるエネルギーが費やされ、分子ポンプで発生した衝撃を緩衝することができる。
また、本実施の形態に係る分子ポンプ1では、緩衝部材50を独立した小さな部品(ピース)で構成されている。
そのため、緩衝部材50の加工を容易に行うことができる。
【0011】
(2)実施形態の詳細
図1は、本実施の形態の分子ポンプ1の真空容器205への取り付け形態の一例を示した図である。
分子ポンプ1は、高速回転するロータ部と、固定したステータ部との排気作用により、排気機能を発揮する真空ポンプであって、ターボ分子ポンプ、ねじ溝式ポンプ、あるいはこれら両方の構造を合わせ持ったポンプなどがある。
分子ポンプ1の吸気口にはフランジ61が形成され、排気側には排気口19が設けられている。
真空容器205は、半導体製造装置や電子顕微鏡の鏡塔などの真空装置を構成しており、排気口にはフランジ62が形成されている。
なお、真空容器205は、分子ポンプ1に対する被固定部材として機能する。
【0012】
フランジ61、62には、複数個のボルト孔が同心上の同じ位置に形成されている。そして、これらのボルト孔にボルト65を挿通し、これらボルト65にナット66をねじ込んで締め付けることにより、分子ポンプ1は真空容器205の下部に取り付けられ固定されている。真空容器205内の気体は、分子ポンプ1の吸気口から吸引され、排気口19から排出される。これにより、例えば、半導体製造のための反応ガスやその他のガスを真空容器205から排出することができる。
【0013】
なお、図の例では、真空容器205の下部に分子ポンプ1を取り付け、分子ポンプが真空容器205からつり下げられた形になっているが、分子ポンプ1の取り付け位置はこれに限定するものではなく、分子ポンプ1を横にして真空容器205の横に取り付けたり、あるいは、分子ポンプ1の吸気口を下側にして真空容器205の上部に取り付けることもできる。
更に、真空容器205の排気口と分子ポンプ1の吸気口の間に排気ガスの流量を調節するための弁を設ける場合もある。
また、排気口19は、一般にロータリーポンプなどの粗引き用ポンプに接続されている。
【0014】
図2は、本実施の形態の分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示した図である。
本実施の形態では、分子ポンプの一例としてターボ分子ポンプ部とねじ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合翼タイプの分子ポンプを例にとり説明する。
分子ポンプ1の外装体を形成するケーシング16は、円筒状の形状をしており、ケーシング16の底部に設けられた円盤状のベース27と共に分子ポンプ1の筐体を構成している。そして、ケーシング16の内部には、分子ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物が収納されている。
これら排気機能を発揮する構造物は、大きく分けて回転自在に軸支されたロータ部24とケーシング16に対して固定されたステータ部から構成されている。
また、ポンプの種類から見た場合、吸気口6側がターボ分子ポンプ部により構成され、排気口19側がねじ溝式ポンプ部から構成されている。
【0015】
ロータ部24は、吸気口6側(ターボ分子ポンプ部)に設けられたロータ翼21と、排気口19側(ねじ溝式ポンプ部)に設けられた円筒部材29、及びシャフト11などから構成されている。ロータ翼21は、シャフト11の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト11から放射状に伸びたブレードから構成されており、ターボ分子ポンプ部では、これらロータ翼21が軸線方向に複数段形成されている。
円筒部材29は、外周面が円筒形状をした部材であり、ねじ溝式ポンプ部のロータ部24を構成している。
シャフト11は、ロータ部24の軸を構成する円柱部材であって、その上端部にはロータ翼21と円筒部材29からなる部材がボルト25によりねじ止めされている。
【0016】
シャフト11の軸線方向中程には、外周面に永久磁石が固着してあり、モータ部10のロータを構成している。この永久磁石がシャフト11の外周に形成する磁極は、外周面の半周に渡ってN極となり、残り半周に渡ってS極となるようになっている。
更に、シャフト11のモータ部10に対して吸気口6側、及び排気口19側には、シャフト11をラジアル方向に軸支するための磁気軸受部8、12のロータ部24側の部分が形成されており、シャフト11の下端には、シャフト11を軸線方向(スラスト方向)に軸支する磁気軸受部20のロータ部24側の部分が形成されている。
【0017】
また、磁気軸受部8、12の近傍には、それぞれ変位センサ9、13のロータ側の部分が形成されており、シャフト11のラジアル方向の変位が検出できるようになっている。更に、シャフト11の下端には変位センサ17のロータ側の部分が形成されており、シャフト11の軸線方向の変位が検出できるようになっている。
これら、磁気軸受部8、12及び変位センサ9、13のロータ側の部分は、ロータ部24の回転軸線方向に鋼板を積層した積層鋼板により構成されている。これは、磁気軸受部8、12、変位センサ9、13のステータ側の部分を構成するコイルが発生する磁界によって、シャフト11に渦電流が発生するのを防ぐためである。
以上に説明したロータ部24はステンレスやアルミニウム合金などの金属を用いて構成されている。
【0018】
ケーシング16の内周側には、ステータ部が形成されている。このステータ部は、吸気口6側(ターボ分子ポンプ部)に設けられたステータ翼22と、排気口19側(ねじ溝式ポンプ部)に設けられたねじ溝スペーサ5などから構成されている。
ステータ翼22は、シャフト11の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してケーシング16の内周面からシャフト11に向かって伸びたブレードから構成されており、ターボ分子ポンプ部では、これらステータ翼22が軸線方向に、ロータ翼21と互い違いに複数段形成されている。各段のステータ翼22は、円筒形状をしたスペーサ23により互いに隔てられている。
【0019】
ねじ溝スペーサ5は、内周面にらせん溝7が形成された円柱部材である。ねじ溝スペーサ5の内周面は、所定のクリアランス(間隙)を隔てて円筒部材29の外周面に対面するようになっている。ねじ溝スペーサ5に形成されたらせん溝7の方向は、らせん溝7内をロータ部24の回転方向にガスが輸送された場合、排気口19に向かう方向である。らせん溝7の深さは排気口19に近づくにつれ浅くなるようになっており、らせん溝7を輸送されるガスは排気口19に近づくにつれて圧縮されるようになっている。
これらステータ部はステンレスやアルミニウム合金などの金属を用いて構成されている。
【0020】
ベース27は、円盤形状を有した部材であって、ラジアル方向中央には、ロータの回転軸線と同心に円筒形状を有するステータコラム18が、吸気口6方向に取り付けられている。
ステータコラム18は、モータ部10、磁気軸受部8、12、及び変位センサ9、13のステータ側の部分を支持している。
モータ部10では、所定の極数のステータコイルがステータコイルの内周側に等間隔で配設され、シャフト11に形成された磁極の周囲に回転磁界を発生できるようになっている。また、ステータコイルの外周には、ステンレスなどの金属で構成された円筒部材であるカラー49が配設されており、モータ部10を保護している。
【0021】
磁気軸受部8、12は、回転軸線の回りの90度ごとに配設されたコイルから構成されている。そして、磁気軸受部8、12は、これらコイルの発生する磁界でシャフト11を吸引することにより、シャフト11をラジアル方向に磁気浮上させる。
ステータコラム18の底部には、磁気軸受部20が形成されている。磁気軸受部20は、シャフト11から張り出した円板と、この円板の上下に配設されたコイルから構成されている。これらコイルが発生する磁界がこの円板を吸引することにより、シャフト11が軸線方向に磁気浮上する。
【0022】
ケーシング16の吸気口6には、ケーシング16の外周側に張り出したフランジ61が形成されている。
フランジ61には、後述する緩衝部材50を嵌入するための嵌入孔40が複数設けられている。この嵌入孔40に嵌込まれる緩衝部材50には、即ち、嵌入孔40の領域内には、ボルト65を挿通するためのボルト孔14が形成されている。
また、フランジ61には、真空容器205側のフランジ62との気密性を保つためのOリングを装着するための溝15が形成されている。
緩衝部材50は、分子ポンプ1でロータ部24の回転方向の衝撃が生じた場合、これを緩衝するための機構(衝撃緩衝構造)として機能する。この機構については後ほど詳細に説明する。
【0023】
以上のように構成された分子ポンプ1は、以下のように動作し、真空容器205からガスを排出する。
まず、磁気軸受部8、12、20がシャフト11を磁気浮上させることにより、ロータ部24を非接触で空間中に軸支する。
次に、モータ部10が作動し、ロータを所定の方向に回転させる。回転速度は例えば毎分3万回転程度である。本実施の形態では、ロータ部24の回転方向を図2の矢線A方向に見て時計回り方向とする。なお、反時計回り方向に回転するように分子ポンプ1を構成することも可能である。
ロータ部24が回転すると、ロータ翼21とステータ翼22の作用により、吸気口6からガスが吸引され、下段に行くほど圧縮される。
ターボ分子ポンプ部で圧縮されたガスは、更にねじ溝式ポンプ部で圧縮され、排気口19から排出される。
【0024】
図3(a)は、フランジ61を図2の矢線A方向に見たところを示した図である。図を簡略化するため、Oリング用の溝15と分子ポンプ1の内部構造は図示していない。
また、図3(b)は、図3(a)の波線円で示されるフランジ61に設けられた衝撃緩衝構造の拡大図を示した図である。
図3(c)は、図3(b)におけるA−A’部の断面を示した図である。
図に示したように、フランジ61には同心上に所定間隔で嵌入孔40が複数個形成されている。
嵌入孔40の内部には、別部材で形成された緩衝部材50が嵌め込み固定されている。
緩衝部材50には、その端領域に、厚み方向に貫通したボルト孔14が形成されている。
【0025】
嵌入孔40は、ボルト孔14からロータ部24の回転方向に延びる長穴形状に形成されている。
ボルト65は、緩衝部材50に設けられたボルト孔14に挿入されるように構成されている。
また、緩衝部材50は、自身が塑性変形することによりロータの回転トルクによる衝撃を緩衝するための部材であり、例えば、フランジ61を形成する部材より低い強度を有する材質で構成されている。具体的には、例えば、シリコーンを主原料とするゲル状素材などのゲル材料で形成されている。
なお、ボルト孔14は、緩衝部材50で充填されている必要はない。
【0026】
次に、このように、構成されたフランジ61の緩衝機能について説明する。
分子ポンプ1で、ロータ部24が高速回転しているときに、これが破断するなどしてステータ部などに衝突すると、分子ポンプ1の全体をロータ部24の回転方向に回転させようとするトルクによる衝撃が発生する。
すると、この衝撃によりフランジ61が真空容器205のフランジ62に対してロータ部24の回転方向に滑って回転しようとする。
【0027】
一方、ボルト65の位置はフランジ62で固定されているため、フランジ61がロータ部24の回転方向に回転すると、ボルト65はボルト孔14内において、他端部方向に相対的に移動することになる。
ボルト孔14は、ロータ部24の回転方向に延びる長形状の緩衝部材50に設けられているため、緩衝部材50の内周の側壁がボルト65に当たり、緩衝部材50がロータ部24の回転方向と逆の方向の接線方向からラジアル方向外側に向いた方向に押されて塑性変形する。
緩衝部材50が塑性変形する過程で分子ポンプ1を回転させるエネルギーが消費され、これによって衝撃が緩和される。
【0028】
以上に述べたように、本実施の形態では、フランジ61に、分子ポンプ1を回転させるトルクによって塑性変形するように構成された緩衝機構(衝撃緩衝構造)を備えることによって、万が一ロータ部24が破断したり、あるいは、半導体製造装置で反応ガスを排出する際にロータ部24やステータ部などに積層した堆積物が分子ポンプ1内で衝突したりなどの不具合が発生した場合でも、安全性を高めることができる。
また、本実施の形態によれば、嵌入孔40に別部材に構成された緩衝部材50を嵌め込むことで容易に緩衝機構(衝撃緩衝構造)を構成することができる。
緩衝部材50は、小さな形状であるため、例えば、型成型やプレス加工により容易に形成することができる。これにより、製造コストの削減を図ることができる。
なお、緩衝部材50として嵌入孔40に、例えば、ゴムやその他の弾性部材を充填してもよい。
【0029】
図4(a)は、衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジ61aを説明するための図である。図4(b)は、図4(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ61aは、ボルト孔14aをフランジ61aに設け、嵌入孔40aをボルト孔14a外部に設けたものである。
詳しくは、フランジ61aには同心上に所定間隔でボルト孔14aが複数個形成されている。
そして、ボルト孔14aのロータ部24の回転方向と逆方向に略半月形状の嵌入孔40aが形成され、この嵌入孔40aに別部材で構成された緩衝部材50aが嵌入されている。
【0030】
ボルト孔14aと嵌入孔40aは互いに一部分が連接しており、両者により一連の貫通孔がフランジ61aに形成されている。
また、緩衝部材50aにおけるボルト65との対向面は平面(フラット)に形成されている。
ロータ部24が破壊するなどして分子ポンプ1にロータ部24の回転方向の大きなトルクが生じて回転した場合、緩衝部材50aがボルト65に当たって塑性変形する。これにより、分子ポンプ1の回転エネルギーが吸収され、分子ポンプ1に生じた衝撃が緩和される。
なお、この実施例では、ボルト孔14aと嵌入孔40aとの境界面に段差99が設けられているが、この段差99が生じない形状も可能である。
【0031】
図5(a)は、衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジ61bを説明するための図である。図5(b)は、図5(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ61bは、嵌入孔40bをフランジ61bに設け、嵌入孔40bに嵌め込まれた緩衝部材50bの中央にボルト孔14bを設けたものである。
詳しくは、フランジ61bには同心上に所定間隔で円周方向に長く延びる形状の嵌入孔40bが複数個形成されている。
そして、別部材で構成された、嵌入孔40bに嵌入される緩衝部材50bの長手方向の中央部(中心部)にボルト孔14bが形成されている。
【0032】
分子ポンプ1の運転中に何らかのトラブルが発生し、例えば、ロータ部24の破壊が生じた場合、ロータ部24とステータ部の衝突モードによっては、ロータ部24の回転方向の逆方向に大きな力が作用することがある。
しかし、このように構成されたフランジ61bを用いた分子ポンプ1では、ロータ部24の回転方向、または、回転方向と逆方向に大きな力(トルク)が作用した場合であっても、緩衝部材50bがボルト65に当たって塑性変形する。これにより、分子ポンプ1の回転エネルギーが吸収され、分子ポンプ1に生じた衝撃が緩和される。
なお、本実施の形態では、円周方向に長く延びる形状(円周に沿った形状)を有する嵌入孔40bをフランジ61bに形成するように構成されているが、嵌入孔40bの形状はこれに限定されるものではなく、例えば、直線的に延びる長方形状であってもよい。
なお、ボルト孔14bは、緩衝部材50bで充填されている必要はない。
【0033】
図6(a)は、衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジ61cを説明するための図である。図6(b)は、図6(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ61cは、嵌入孔40cに嵌め込まれた緩衝部材50cに空洞部71を設け、ボルト孔14cと空洞部71の間に薄肉部81を形成したものである。
詳しくは、フランジ61cには同心上に所定間隔で円周方向に長く延びる形状の嵌入孔40cが設けられ、嵌入孔40cの内部には、別部材で形成された緩衝部材50cが嵌め込み固定されている。
そして、緩衝部材50cには、その端領域に、厚み方向に貫通したボルト孔14cが形成されている。
【0034】
更に、緩衝部材50cには、ボルト孔14cのロータ部24の回転方向と逆方向に所定の距離を隔てて長穴状の貫通孔からなる空洞部71が形成されている。これにより、緩衝部材50cには、ボルト孔14cと空洞部71の間に薄肉部81が形成されている。
このように構成されたフランジ61cを用いた分子ポンプ1に、ロータ部24の回転方向の大きなトルクが発生して回転すると、ボルト孔14cに挿通されたボルト65により、薄肉部81がロータ部24の回転方向と逆方向に圧迫されて塑性変形する。これにより衝撃が吸収される。
なお、ボルト孔14cは、緩衝部材50cで充填されている必要はない。
【0035】
図7(a)は、衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジ61dを説明するための図である。図7(b)は、図7(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ61dは、嵌入孔40dに嵌め込まれた緩衝部材50dに空洞部72及び空洞部73を設け、ボルト孔14dと空洞部72の間に薄肉部82を形成し、空洞部72と空洞部73との間に薄肉部83を形成したものである。
詳しくは、フランジ61dには同心上に所定間隔で円周方向に長く延びる形状の嵌入孔40dが設けられ、嵌入孔40dの内部には、別部材で形成された緩衝部材50dが嵌め込み固定されている。
そして、緩衝部材50dには、その端領域に、厚み方向に貫通したボルト孔14dが形成されている。
【0036】
更に、緩衝部材50dには、ボルト孔14dのロータ部24の回転方向と逆方向に所定の距離を隔てて長穴状の貫通孔からなる空洞部72と空洞部73が形成されている。これにより、緩衝部材50dには、ボルト孔14dと空洞部72の間に薄肉部82が形成され、空洞部72と空洞部73の間に薄肉部83が形成されている。
このように構成されたフランジ61dを用いた分子ポンプ1に、ロータ部24の回転方向の大きなトルクが発生して回転すると、ボルト孔14dに挿通されたボルト65により、薄肉部82及び薄肉部83がロータ部24の回転方向と逆方向に圧迫されて塑性変形する。これにより衝撃が吸収される。
なお、ボルト孔14dは、緩衝部材50dで充填されている必要はない。
【0037】
なお、上述した薄肉部を有する緩衝部材50c、50dの材質は、空洞部が形成可能なものであればよく、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などの金属部材を加工することにより形成することができる。
また、緩衝部材50c、50dに形成される薄肉部81〜83の厚さは、空洞部の配設部位を変えることにより任意に設定することができる。
なお、本実施の形態に係る分子ポンプ1では、薄肉部81〜83の厚さは、緩衝部材50c、50dの材質や厚さなどにもよるが、0.5ミリメートル程度から数ミリ程度に設定されている。
また、緩衝部材50に設ける薄肉部(薄板部)の数は、形成する空洞部の数を変化させることによって、任意に設定することができ、2つ以上設けるようにしてもよい。
【0038】
次に、上述した嵌入孔40(40a〜d)に嵌入される緩衝部材50(50a〜d)の脱落を防止するための脱落防止構造について説明する。
図8(a)は、本実施の形態の分子ポンプ1の衝撃緩衝構造における脱落防止構造を示した図である。図8(b)は、図8(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
なお、ここでは、図5に示すフランジ61bに設けられた緩衝部材50bの脱落を防止する脱落防止構造を例に説明するが、脱落防止構造は、緩衝部材50bの脱落防止に限定されるものではなく、上述した緩衝部材50(50a〜d)に適用することができる。
【0039】
図に示したように、緩衝部材50bの脱落防止構造を座金(ワッシャー)91を用いて構成する。
座金91は、その中心部にボルト65が貫通する円環(リング)状の板部材からなり、その外径(外側の直径)は、嵌入孔40bにおける、フランジ61bの半径方向の長さより長く構成されている。
このように構成された座金91は、ボルト65が貫入された状態でフランジ61bとナット66(図1参照)の間に挟み込まれて、即ち、フランジ61bとナット66で挟持されている。
【0040】
なお、座金91は、嵌入孔40bの内部における緩衝部材50bを静止させるためのストッパーとして機能する。
このような脱落防止構造を設けることにより、緩衝部材50bの脱落や、嵌入孔40bの内部における緩衝部材50bの軸方向の位置ずれを防止することができる。
これにより、ロータ部24が破壊するなどして分子ポンプ1にロータ部24の回転方向の大きなトルクが生じて回転した場合、適切(確実)に緩衝部材50bを塑性変形させて、分子ポンプ1に生じた衝撃を緩和することができる。
なお、真空容器205と分子ポンプ1とを固定する際に、分子ポンプ1のフランジ61側からボルト65を押入することにより、予めボルト65に座金91を取り付け(組み付け)た状態での組み立て作業を行うことができる。
なお、ボルト孔14bは、緩衝部材50bで充填されている必要はない。
この実施例では、座金91に市販の座金を用いることができるので、製品のコストを抑制することができる。
【0041】
図9(a)は、脱落防止構造の他の例に係るフランジ61eを説明するための図である。図9(b)は、図9(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ61eでは、内側面がテーパ状に加工された嵌入孔40b’に緩衝部材50b’を嵌め込むことにより脱落防止構造を構成するものである。
詳しくは、嵌入孔40b’の内側面(内壁面)における相対する面が対称的に傾斜するテーパ状に加工されている。
嵌入孔40b’は、図1に示される真空容器205のフランジ62側の開口部の面積が反対側の開口部の面積より大きく形成されている。即ち、嵌入孔40b’は、真空容器205のフランジ62側の開口部から反対側(ナット66側)の開口部に向かって面積が小さくなるように形成されている。
【0042】
そして、この嵌入孔40b’に嵌るように、即ち、嵌入孔40b’の内側面(内壁面)と対応するように外側面(外壁面)がテーパ状に加工された緩衝部材50b’が嵌入孔40b’に嵌め込まれる。なお、緩衝部材50b’は、真空容器205のフランジ62側の開口部から、即ち、図9(b)の上方から嵌め込む(挿入する)。
このように、嵌入孔40b’の内側面(内壁面)にテーパ(勾配)加工を施すことにより、容易に緩衝部材50b’の脱落防止構造を構成することができる。
このような脱落防止構造を設けることにより、緩衝部材50b’の脱落や、嵌入孔40b’の内部における緩衝部材50b’の軸方向の位置ずれを防止することができる。
また、図1に示すように、分子ポンプ1を真空容器205の下側に設けるような場合には、嵌入孔40b’の真空容器205のフランジ62側の開口部、即ち、緩衝部材50b’の挿入口がフランジ61eの上方に位置する。
そのため、緩衝部材50b’を嵌入孔40b’に挿入した(嵌め込んだ)際に緩衝部材50b’の仮固定をすることができるため、組み立て時の作業性を向上させることができる。
なお、上述した実施形態では、内側面における相対する面が対称的に傾斜するテーパ状の嵌入孔40b’からなる脱落防止構造について説明したが、脱落防止構造は、嵌入孔40b’の内側面の少なくとも一部を傾斜させることにより設けることができる。
なお、ボルト孔14bは、緩衝部材50b’で充填されている必要はない。
【0043】
図10(a)は、脱落防止構造の他の例に係るフランジ61fを説明するための図である。図10(b)は、図10(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ61fでは、嵌入孔40bの内側面(内壁面)から内側に突出する突出部92を設けることによりに緩衝部材50b”の脱落防止構造を構成するものである。
詳しくは、嵌入孔40bの内側面(内壁面)における、図1に示される真空容器205のフランジ62と反対側、即ちナット66側の端部から内側方向に突出するフランジ状の突出部92が、嵌入孔40bの長手方向の両端部(端近傍)に設けられている。
突出部92は、上述した座金91と同様に、嵌入孔40bの内部における緩衝部材50b”を静止させるためのストッパーとして機能する。
【0044】
なお、緩衝部材50b”は、緩衝部材50b’より突出部92の厚みだけ薄く形成されている。
このような脱落防止構造を設けることにより、緩衝部材50b”の脱落や、嵌入孔40bの内部における緩衝部材50b”の軸方向の位置ずれを防止することができる。
また、図1に示すように、分子ポンプ1を真空容器205の下側に設けるような場合には、嵌入孔40bの突出部92側の開口部がフランジ61fの下方に位置する。
そのため、緩衝部材50b”を嵌入孔40bに挿入した(嵌め込んだ)際に緩衝部材50b”の仮固定をすることができるため、組み立て時の作業性を向上させることができる。
上述した脱落防止構造を設ける代わりに、接着剤を塗布することによって、緩衝部材50(50a〜d)の脱落を防止するようにしてもよい。
なお、ボルト孔14bは、緩衝部材50b”で充填されている必要はない。
【0045】
上述した実施形態では、緩衝部材50(変形例の緩衝部材50a〜dを含む)が、フランジ61(変形例のフランジ61a〜fを含む)の厚みと同等の厚みを有する場合について示している。
しかしながら、緩衝部材50(50a〜d)の厚みは、これに限定されるものではない。
図11は、フランジ61より小さい厚みを有する緩衝部材50を用いた衝撃緩衝構造を説明するための図である。
例えば、図11に示すように、フランジ61より小さい厚みを有する緩衝部材50を用いて衝撃緩衝構造を構成するようにしてもよい。
フランジ61より小さい厚みを有する緩衝部材50を用いることにより、緩衝部材50の影響を受けることなく、真空容器205と分子ポンプ1の固定を、フランジ62とフランジ61とを接合(密着)することにより適切に行うことができる。
即ち、高精度に形成されたフランジ61とフランジ62に基づいて、分子ポンプ1の位置が設定されるため、分子ポンプ1の位置決め精度を低下させることなく、精度良く(正確に)排気口19や冷却水口への配管接続を施すことができる。
なお、ここで、フランジ61より小さい厚みを有するとは、加工図面上の公差で小さく設定されているものを含むこととする。
【0046】
図12は、フランジ61より大きい厚みを有する緩衝部材50を用いた衝撃緩衝構造を説明するための図である。
例えば、図12に示すように、フランジ61より大きい厚みを有する緩衝部材50を用いて衝撃緩衝構造を構成するようにしてもよい。
ただし、フランジ61より大きい厚みを有する緩衝部材50を用いる場合には、図12に示すように、緩衝部材50の形状のばらつき、即ち、フランジ61からの突出した部分の高さのばらつきに起因する、フランジ61とフランジ62の接合精度の低下を解消するために、位置決め(位置出し)部材として機能するスペーサ95を併用する。
【0047】
スペーサ95は、フランジ61の外周端の近傍に設けられた円環状の部材である。また、スペーサ95は、その厚みが全領域に渡って均一になるように高精度に形成された金属製の部材である。
スペーサ95は、緩衝部材50の形状のばらつきを考慮し、フランジ61からの突出した部分の高さよりも、その厚みが大きくなるように形成されている。
このようなスペーサ95を介してフランジ61とフランジ62を接合することにより、緩衝部材50の形状のばらつきの影響を受けることなく、真空容器205と分子ポンプ1の固定時の位置決め(位置出し)を適切に行うことができる。これにより、精度良く(正確に)排気口19や冷却水口への配管接続を施すことができる。
【0048】
なお、本実施の形態では、リング状のスペーサ95を用いているが、スペーサ95の形状はこれに限定されるものではない。例えば、フランジ61上に部分的に配設可能な複数の部材(ピース)で構成するようにしてもよい。
また、スペーサ95は、予めフランジ61と一体的に形成されていてもよい。
上述したように、本実施の形態によれば、緩衝部材50の形状に応じて真空容器205(フランジ62)と分子ポンプ1(フランジ61)の取り付け方法を変えることにより、分子ポンプ1の位置決めを適切(正確)に行うことができる。
【0049】
図13は、本実施の形態の分子ポンプ1の真空容器205への他の取り付け形態を示した図である。
分子ポンプ1におけるフランジ61と、真空容器205におけるフランジ62との接合は、図に示されるように、フランジ61と同一形状の仲介フランジ63を介して行うようにしてもよい。
詳しくは、フランジ62には、ボルト67を挿通するボルト孔31が設けられている。
仲介フランジ63には、ボルト67を締め付け固定するための、内側面(内壁面)にねじ山(ねじ溝)が設けられたボルト孔32が設けられている。
ボルト孔31及びボルト孔32は、同心上の同じ位置に複数形成されている。
そして、これらのボルト孔31にボルト67を挿通し、ボルト孔32にボルト67をねじ込んで締め付けることにより、真空容器205のフランジ62と仲介フランジ63が固定されている。
【0050】
また、分子ポンプ1のフランジ61と仲介フランジ63には、それぞれ緩衝部材51を嵌め込むための同一形状の嵌入孔33、34が同心上の同じ位置に複数形成されている。嵌入孔33及び嵌入孔34には、連続して緩衝部材51が嵌入されている。
緩衝部材51には、上述した緩衝部材50や緩衝部材50a〜eと同様に、ボルト68を挿通するボルト孔35が設けられている。また、ボルト孔35は、図4に示すフランジ61aと同様に緩衝部材51の嵌入孔33、34の外部に設けるようにしてもよい。
分子ポンプ1のフランジ61と仲介フランジ63とを重ね合わせた状態で、嵌入孔33及び嵌入孔34に緩衝部材51が嵌め込まれており、更に、緩衝部材51のボルト孔35にボルト68を挿通し、ボルト68にナット69をねじ込んで締め付けることにより、分子ポンプ1のフランジ61と仲介フランジ63が固定されている。
【0051】
嵌入孔33、34は、上述した変形例を含む実施形態で説明した嵌入孔40(40a〜d)と同様の形状で構成されている。
緩衝部材51もまた、上述した変形例を含む実施形態で説明した緩衝部材50(50a〜d)と同様の形状で構成されている。
ただし、緩衝部材51の厚みは、フランジ61と仲介フランジ63の厚みの和に相当するように形成されている。即ち、緩衝部材51は、仲介フランジ63とフランジ61との境界部での継ぎ目はなく、嵌入孔33、34に渡って一体に形成されている。
【0052】
このように、真空容器205のフランジ62と分子ポンプ1のフランジ61を仲介フランジ63を介して接合(固定)することにより、分子ポンプ1の運転中に何らかのトラブルが発生し、例えば、ロータ部24の破壊が生じた場合、緩衝部材51がボルト68に当たって塑性変形する。従って、分子ポンプ1の回転エネルギーが分子ポンプ1のフランジ61と仲介フランジ63で吸収することができるため、分子ポンプ1に生じた衝撃による真空容器205への影響(ダメージ)を低減させることができる。
この実施例において、仲介フランジ63を用いることにより、フランジ61と仲介フランジ63の境界面にボルト68が直接当たることがないので、ボルト68に掛かる負担を軽減させることができる。
【0053】
図14(a)は、衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジ161aを説明するための図である。図14(b)は、図14(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
フランジ161aには、ボルトを貫入するボルト貫入部114aと、緩衝部材が嵌め込まれる嵌入部140aとが設けれれている。この図から明らかなように、このボルト貫入部114aと嵌入部140aとは、フランジ161aに形成された同一の空所内に配置されている。
詳しくは、フランジ161aには、所定間隔でロータ部24の回転方向と逆方向に略半月形状の嵌入孔140aが複数設けられ、この嵌入孔140aに別部材で構成された緩衝部材150aが嵌入されている。そして、各々の嵌入孔140a内部にボルト孔114aが設けられている。この図に示すように、嵌入孔140aは、ボルト孔114aに対して前記ロータの回転方向の反対側に延びている形状となっている。
【0054】
そして、ロータ部24が破壊するなどして分子ポンプ1にロータ部24の回転方向の大きなトルクが生じて回転した場合、緩衝部材150aがボルト165に当たって塑性変形する。これにより、分子ポンプ1の回転エネルギーが吸収され、分子ポンプ1に生じた衝撃が緩和される。
なお、この実施例では、図4に示した例と異なり、ボルト孔114aと嵌入孔140aとの境界面に段差が設けられていない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施の形態の分子ポンプの真空容器への取り付け形態の一例を示した図である。
【図2】本実施の形態の分子ポンプの軸線方向の断面図を示した図である。
【図3】(a)はフランジを図2の矢線A方向に見たところを示した図であり、(b)は(a)の波線円で示されるフランジに設けられた衝撃緩衝構造の拡大図を示した図であり、(c)は(b)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図4】(a)は衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図5】(a)は衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図6】(a)は衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図7】(a)は衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図8】(a)は本実施の形態の分子ポンプの衝撃緩衝構造における脱落防止構造を示した図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図9】(a)は脱落防止構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図10】(a)は脱落防止構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【図11】フランジより小さい厚みを有する緩衝部材を用いた衝撃緩衝構造を説明するための図である。
【図12】フランジより大きい厚みを有する緩衝部材を用いた衝撃緩衝構造を説明するための図である。
【図13】本実施の形態の分子ポンプの真空容器への他の取り付け形態を示した図である。
【図14】(a)は衝撃緩衝構造の他の例に係るフランジを説明するための図であり、(b)は(a)におけるA−A’部の断面を示した図である。
【符号の説明】
【0056】
1 分子ポンプ
5 ねじ溝スペーサ
6 吸気口
7 らせん溝
8 磁気軸受部
9 変位センサ
10 モータ部
11 シャフト
12 磁気軸受部
13 変位センサ
14 ボルト孔
15 溝
16 ケーシング
17 変位センサ
18 ステータコラム
19 排気口
20 磁気軸受部
21 ロータ翼
22 ステータ翼
23 スペーサ
24 ロータ部
25 ボルト
27 ベース
29 円筒部材
31 ボルト孔
32 ボルト孔
33 嵌入孔
34 嵌入孔
35 ボルト孔
40 嵌入孔
49 カラー
50 緩衝部材
51 緩衝部材
61 フランジ
62 フランジ
63 仲介フランジ
65 ボルト
66 ナット
67 ボルト
68 ボルト
69 ナット
71 空洞部
72 空洞部
73 空洞部
81 薄肉部
82 薄肉部
83 薄肉部
91 座金
92 突出部
95 スペーサ
99 段差
114 ボルト貫入部
140 嵌入部
150 緩衝部材
161 フランジ
165 ボルト
205 真空容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のケーシングと、
前記ケーシング内に形成されたステータ部と、
前記ステータ部内に配設されたシャフトと、
前記シャフトを前記ステータ部に対して回転自在に軸支する軸受と、
前記シャフトに取り付けられ、前記シャフトと一体になって回転するロータと、
前記シャフトを駆動して回転させるモータと、
緩衝部材と、
前記ケーシングの端部に設けられ、前記ケーシングと被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト孔、及び、前記ボルト孔に隣接して設けられた、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入孔を有するフランジ部と、
を具備したことを特徴とする分子ポンプ。
【請求項2】
円筒形状のケーシングと、
前記ケーシング内に形成されたステータ部と、
前記ステータ部内に配設されたシャフトと、
前記シャフトを前記ステータ部に対して回転自在に軸支する軸受と、
前記シャフトに取り付けられ、前記シャフトと一体になって回転するロータと、
前記シャフトを駆動して回転させるモータと、
緩衝部材と、
前記ケーシングの端部に設けられ、前記ケーシングと被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト貫入部と、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入部とを有するフランジ部と、
を具備したことを特徴とする分子ポンプ。
【請求項3】
前記嵌入孔は、前記ボルトに対して前記ロータの回転方向の反対側に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の分子ポンプ。
【請求項4】
前記嵌入孔は、円周方向に長く延びる形状であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の分子ポンプ。
【請求項5】
前記緩衝部材は、前記フランジ部の厚み方向の長さより小さい厚みを有することを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の分子ポンプ。
【請求項6】
前記緩衝部材は、前記フランジ部の厚み方向の長さより大きい厚みを有し、
前記フランジ部と被固定部材との間に、スペーサ部材が設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の分子ポンプ。
【請求項7】
前記緩衝部材の脱落を防止する脱落防止構造を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプ。
【請求項8】
前記脱落防止構造は、前記ボルトが貫入された座金で構成されていることを特徴とする請求項7記載の分子ポンプ。
【請求項9】
前記脱落防止構造は、前記フランジ部に設けられた突出部で構成されていることを特徴とする請求項7記載の分子ポンプ。
【請求項10】
前記脱落防止構造は、内側面の少なくとも一部が傾斜した前記嵌入孔で構成されていることを特徴とする請求項7記載の分子ポンプ。
【請求項11】
前記緩衝部材は、薄肉部を有することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプ。
【請求項12】
前記緩衝部材は、ゲル材により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプ。
【請求項13】
前記フランジ部と被固定部材との間に設けられた仲介フランジを有し、
前記フランジ部は、前記仲介フランジを介して被固定部材に固定されていることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一の請求項に記載の分子ポンプ。
【請求項14】
前記ボルト貫入部と、前記嵌入部とが、前記フランジ部に形成された同一の空所内に配置されていることを特徴とする請求項2記載の分子ポンプ。
【請求項15】
前記フランジ部に形成された空所は、前記ボルト貫入部に対して前記ロータの回転方向の反対側に延びている形状であることを特徴とする請求項14記載の分子ポンプ。
【請求項16】
分子ポンプのケーシングの端部を被固定部材に接続するためのフランジであって、
緩衝部材と、
該フランジと前記被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト孔と、
前記ボルト孔に隣接して設けられた、前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入孔と、
を具備したことを特徴とするフランジ。
【請求項17】
分子ポンプのケーシングの端部を被固定部材に接続するためのフランジであって、
緩衝部材と、
該フランジと前記被固定部材とを固定するためのボルトを貫入するボルト貫入部と、
前記緩衝部材が嵌め込まれる嵌入部と、
を具備したことを特徴とするフランジ。
【請求項18】
前記ボルト貫入部と、前記嵌入部とが、前記フランジに形成された同一の空所内に配置されていることを特徴とする請求項17記載のフランジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−278267(P2007−278267A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167968(P2006−167968)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(598021579)BOCエドワーズ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】