説明

分岐キトサン誘導体

【課題】分岐キトサン誘導体、その製造方法およびその用途を提供する。
【解決手段】式(I):


[式中、x+y+z=1であり、x、y、zは、それぞれ独立して、0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1であり、Rは式(II):


で示されるキトサン側鎖であり、Rは、H、アセチル基、該Rであり、aは0〜500の整数を示し、但し、全てのRは同一でも異なっていてもよい]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規分岐キトサン誘導体、その製造方法およびその用途に関する。さらに詳しくは、キトサン側鎖を有するキトサン誘導体、その製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
キチンはN−アセチルグルコサミンを繰り返しユニットとする天然由来のムコ多糖の一つである。キトサンも天然由来のムコ多糖の一つであるが、工業的にはキチンの脱アセチル化により製造されている。キチン、キトサンの材料特性は分子量分布、N−アセチル基の置換度の他、化学修飾により導入した機能性置換基により制御されることが知られている。遺伝子キャリヤー、生体接着剤、シーリング剤などの開発をめざした機能化の例も知られているが、水溶性(生体に適した溶媒への溶解性)と機能性(ポリアミンの特性、低粘性)の両立が不十分であったり(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等参照)、キチン、キトサン以外の分子構造を含む(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5等参照)などの問題があった。
【0003】
キトサンの水溶性向上技術に関する既存技術との比較を表1にまとめた。水溶性改善のためには親水性基を導入する方法が一般的であり、その中でもポリエチレングリコール(PEG)鎖の導入が代表例である(非特許文献6等参照)。しかし、キトサンに対するPEGの割合など、良好な水溶性を付与するには適用可能範囲が限られる。一方、単糖、二糖、オリゴ糖などの比較的短い鎖長の糖側鎖の導入(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2等参照)の効果は限定的であり、不十分である。またキトサンオリゴ糖は、非常に高価であり実用的ではない。キトサンを亜硝酸分解して得られる低分子化物を側鎖に導入する方法は簡便ではあるが(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5等参照)、亜硝酸分解すると還元末端が2、5−デヒドロ−D−マンノフラノース残基に変質しているため、キトサン鎖とは異なる構造である。
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO0027889号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Biomacromol., 2, 1133-1136, 2001.
【非特許文献2】Trends Glycosci. Glycotechnol., 14, 331-341, 2002.
【非特許文献3】J. Biomed. Mater. Res. A, 82, 201-212 2007.
【非特許文献4】Acta Biomaterialia, 5, 1575-1581 2009.
【非特許文献5】Biomacromol., 9, 3268-3276, 2008.
【非特許文献6】Carbohydr. Polym., 36, 49-59, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決課題は、水溶性(生体に適した溶媒への溶解性)と機能性(ポリアミンの特性、低粘性)が両立した、新規なキトサン誘導体を開発し、多方面に利用することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
キチン、キトサン(化1)はそのままでは水溶性が十分ではなく、また分子量の増大に伴い粘度が大きく上昇するため、応用、利用範囲の拡大に制限があった。
【化1】

【0008】
すなわち、キチン(化1で、x+y=1、一般にx<0.1)は通常の溶媒に難溶であり、キトサン(化1で、x+y=1、一般にy<0.2)は、酸性では水溶性を示すものの中性からアルカリ性域では難溶である。本発明者らは、上記解決課題に鑑みて、この問題について種々検討した結果、比較的分子量の大きいキトサン(HMW−キトサン)と比較的分子量の小さいキトサン(LMW−キトサン)との還元的N−アルキル化反応により、良好な水溶性とその水溶液が低い粘度を示す新規な分岐キトサン誘導体が得られることを見出した。さらに、本発明者らは、従来のキトサンは酸を用いて溶解させる必要があり、脱アセチル化度(DDA)約50%の部分アセチル化キトサンまたは部分脱アセチル化キチン(化1で、x=y=約0.5)の場合のみ中性の水に可溶であったが、分岐キトサン誘導体は、酸性水溶液への溶解性が改善されたのみならず、中性の水に対する良好な溶解・分散性を有することも見出した。加えて、本発明者らは、分岐キトサン誘導体が、免疫系を活性化させる作用を有するという、意外かつ顕著な効果も見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記のものを提供する:
(1)式(I):
【化2】


[式中、x+y+z=1であり、x、y、zは、それぞれ独立して、0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1であり、Rは式(II):
【化3】


で示されるキトサン側鎖であり、Rは、H、アセチル基、該Rであり、aは0〜500の整数を示し、但し、全てのRは同一でも異なっていてもよい]で表わされる、分岐キトサン誘導体;
(2)(1)記載の分岐キトサン誘導体を含む、低粘度キトサン組成物;
(3)(1)記載の分岐キトサン誘導体を含む、免疫系活性化剤;
(4)(1)記載の分岐キトサン誘導体を含む飲食物;ならびに
(5)主鎖用キトサンと、主鎖用キトサンよりも低分子量の側鎖用キトサンとを、還元的N−アルキル化反応に供することを特徴とする、分岐キトサン誘導体の製造方法;
(6)主鎖用キトサンの重量平均分子量が450kDaよりも小さいものである、(5)記載の製造方法;
(7)主鎖用キトサンの重量平均分子量が80kDaないし190kDaの範囲である、(5)記載の製造方法;ならびに
(8)(5)〜(7)のいずれかに記載の方法により得られる分岐キトサン誘導体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の分岐キトサン誘導体はカニ殻、エビ殻由来のキチン、キトサンとその低分子化物を原料とするため、アミノ基のアセチル化度を調整することも容易であり、溶解性を制御することも可能である。本発明の分岐キトサン誘導体は水に対する溶解度が大きく、特に中性付近での溶解度が大きい。本発明の分岐キトサン誘導体の水溶液の粘度も低い。したがって、本発明の分岐キトサン誘導体は、従来キチン、キトサンが利用されていた領域、例えば創傷治癒剤、生体内充填剤、生体接着剤やコーティング剤、さらには医薬品などへの、さらに幅広い応用が可能であり、これを用いて優れた特性を有する製品を製造することができる。加えて、本発明の分岐キトサン誘導体は顕著な免疫系活性化効果を有するので、これを用いて優れた医薬品、健康食品などを製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、分岐キトサン誘導体の蛍光スペクトルを示す(励起波長 510nm)。
【図2】図2は、直鎖型のHMW−キトサンと分岐キトサンの粘度の比較を示すグラフである。
【図3】図3は、分岐キトサン誘導体、HMW−キトサン、LMW−キトサンを投与した場合のCD4+細胞の割合を比較したグラフである。*P<0.05、**P<0.01。
【図4】図4は、分岐キトサン誘導体、HMW−キトサン、LMW−キトサンを投与した場合のNK細胞の割合を比較したグラフである。*P<0.05、**P<0.01。
【図5】図5は、分岐キトサン誘導体、HMW−キトサン、LMW−キトサンを投与した場合の血清IL−6増加活性を比較したグラフである。*P<0.05。
【図6】図6は、分岐キトサン誘導体、HMW−キトサン、LMW−キトサンを投与した場合の血清TNF−α増加活性を比較したグラフである。*P<0.05、**P<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、1の態様において、式(I):
【化4】


[式中、x+y+z=1であり、x、y、zは、それぞれ独立して、0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1であり、Rは式(II):
【化5】


で示されるキトサン側鎖であり、Rは、H、アセチル基、該Rであり、aは0〜500の整数を示し、但し、全てのRは同一でも異なっていてもよい]で表わされる、新規な分岐キトサン誘導体を提供する。
【0013】
本発明の分岐キトサン誘導体は、グルコサミン残基(本明細書において「キトサンユニット」または「GlcN」と称する場合がある)、N−アセチルグルコサミン残基(本明細書において「キチンユニット」または「GlcNac」と称する場合がある)、および式(II)で示されるR基が2−位のNに結合したグルコサミン残基が結合したものである。本発明の分岐キトサン誘導体中のこれらの残基の割合は、x、y、zで示され、それぞれ独立して、0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1である。
【0014】
xおよびyの割合は、本発明の分岐キトサン誘導体の製造に使用する原料キトサンの種類によって異なり、また、原料キトサンまたは生成した分岐キトサン誘導体をアセチル化または脱アセチル化することによりコントロールすることができる。分岐残基の割合zは(分岐キトサン誘導体中の分岐残基数)/(分岐キトサン誘導体中の全残基数)によって定義されるものであり、本発明の分岐キトサン誘導体の製造方法に関して説明する、原料であるHMW−キトサンとLMW−キトサンの量比を変更することによって、変更可能である。
【0015】
aの値は分岐鎖の長さを規定する。通常は、aは1ないし500である。aの値が大きいほど分岐鎖が長くなる。直鎖型またはそれに近い分岐キトサン誘導体は分子鎖どうしが絡まりやすいので水溶液が高粘度となる傾向があり、球状またはそれに近い分岐キトサン誘導体は分子鎖どうしが絡まりにくいので水溶液が低粘度となる傾向があると考えられる。したがって、水溶液の粘度を低くするためにはaの値をある程度大きくする必要があると思われる。

(aに関する記載は正しいでしょうか)
【0016】
本発明の分岐キトサン誘導体の分子量は、用途や必要な物性に応じて幅広く選択あるいは調節することができる。かかる分子量の選択あるいは調節は、本発明の分岐キトサン誘導体の原料である主鎖用キトサン(本明細書において「HMW−キトサン」と称することがある)と側鎖用キトサン(本明細書において「LMW−キトサン」と称することがある)の分子量を選択あるいは調節すること、あるいは還元剤の種類、反応温度、反応時間などの反応条件を選択することによってコントロール可能である(下記の製造方法に関する説明も参照のこと)。一般に、キチンあるいはキトサンの分子量は、酸、アルカリあるいは酵素でのキチン、キトサンの加水分解の条件を調節することによって調節することができ、その手法は当業者に公知である。また、HMW−キトサンの重量平均分子量(Mw)が約450kDaよりも大きい場合は、分岐キトサン誘導体の水溶性が低下し、その水溶液の粘度が上昇する傾向がある。
【0017】
本発明の分岐キトサン誘導体は、式(I)で示されるもののほか、その修飾体を包含する。ただし、これらの修飾体が式(I)に示される本発明の分岐キトサン誘導体の性質を保持していることが条件である。例えば、本発明の分岐キトサン誘導体の構成糖残基の1つまたはそれ以上が式(I)に示されるもの以外の残基であってもよい。また例えば、本発明の分岐キトサン誘導体の構成糖残基の1つまたはそれ以上において、2−位のNを介して配糖体が形成されていてもよい。また例えば、本発明の分岐キトサン誘導体の構成糖残基の1つまたはそれ以上において、水酸基がメチル化等の修飾を受けていてもよい。また例えば、本発明の分岐キトサン誘導体の構成糖残基の1つまたはそれ以上が非天然型の糖残基であってもよい。また例えば、構成糖残基を連結している結合の1つまたはそれ以上がα−1,4結合以外のものであってもよい。
【0018】
本発明は、もう1つの態様において、主鎖用キトサン(HMW−キトサン)と、主鎖用キトサンよりも低分子量の側鎖用キトサン(LMW−キトサン)とを、還元的N−アルキル化反応に供することを特徴とする、上記の分岐キトサン誘導体の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の分岐キトサン誘導体の原料であるHMW−キトサンおよびLMW−キトサンは、キチンを公知の方法に従って脱アセチル化して用いても良いが、市販キトサンをそのまま用いることができる。また、市販品のキトサンを用いる場合にも、アセチル化反応又は脱アセチル化反応を行って、キトサンユニット及びキチンユニットの割合を所望の値に調整することができる。従って、本発明で用いるキトサンの脱アセチル化度は特に限定されず、好ましくは5%以上、より好ましくは30〜99%の脱アセチル化度を有するものであればよい。なお、キトサンの脱アセチル化度は、例えば、プロトン核磁気共鳴分析により測定することができる。なお、HMW−キトサンおよびLMW−キトサンは直鎖型であってもよいが、すでに側鎖キトサンが付いた分岐キトサン誘導体であってもよい。
【0020】
本発明の分岐キトサン誘導体の製造に供されるHMW−キトサンキトサンは、取り扱い易さの観点から、重量平均分子量(Mw)は約5,000〜約600,000が好ましく、約5,000〜約200,000がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は約1,000〜約500,000が好ましく、約2,000〜約100,000がより好ましいが、これらの分子量に限定されない。ただし、HMW−キトサンの重量平均分子量(Mw)が約450kDaよりも大きい場合は、得られる分岐キトサン誘導体の水溶性が低下し、その水溶液の粘度が上昇する傾向があるので、用いるHMW−キトサンの重量平均分子量は約450kDa未満であることが好ましく、例えば、約80kDa以上約450kDa未満であってもよい。また、LMW−キトサンの分子量(重量平均分子量または数平均分子量)は、HMW−キトサンのそれよりも小さいものである。通常は、LMW−キトサンに含まれる糖残基数は1ないし約500個である。キトサンの重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。HMW−キトサンおよびLMW−キトサンの分子量(あるいはLMW−キトサンに含まれる糖残基数)は、製造すべき分岐キトサン誘導体の用途や必要な物性に応じて変更することができる。
【0021】
分岐型キトサンは、分岐度zが約0.01〜約0.6であるものが好ましく、約0.02〜約0.5がより好ましい。分岐度は、還元的N−アルキル化反応に用いるキトサン側鎖の量を調節することにより調整することができる。本明細書において、キトサンの分岐度は、例えば、プロトン核磁気共鳴分析及び元素分析に基づいて算出することができる。
【0022】
HMW−キトサンとLMW−キトサンとの還元的N−アルキル化反応を行うことにより、本発明の分岐キトサン誘導体(式(I))を得ることができる。還元的N−アルキル化反応は、還元剤の存在下で行われ、還元剤として、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素とPd/C(パラジウム/カーボン)触媒などが挙げられるが、これらに限定されない。還元剤の存在量は、その種類にもよるが、各反応に供される原料100重量部に対して、5〜50重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
【0023】
還元的N−アルキル化反応に供するHMW−キトサンとLMW−キトサンとの量比は、目的とする分岐キトサンの分岐度〔式(I)におけるz〕に応じて、適宜決定することができる。例えば、式(I)におけるzが0.3である場合には、反応に供するHMW−キトサンの糖残基数の合計とLMW−キトサンのモル比(親水性基/分岐キトサン誘導体の全糖残基)が0.3/1以上となる割合で両者を反応させればよい。
【0024】
なお、上記製造方法で得られた分岐キトサン誘導体は、公知の方法に従って精製してもよく、例えば、得られた未精製の誘導体を有機溶媒(例、アセトン)中で攪拌した後、吸引ろ過、減圧乾燥することにより精製することができる。本発明の分岐キトサン誘導体は、常法を用いて粉末、溶液、懸濁液などの形態に加工することができる。
【0025】
本発明の分岐キトサン誘導体は、直鎖状キトサンに比べて水溶性が高く、水溶液の粘度が低いという特徴を有する。この点において、本発明は、本発明の分岐キトサン誘導体を含む低粘度キトサン組成物を提供する。該組成物の溶媒の例としては水、生理食塩水、リン酸緩衝液などの緩衝液、ブドウ糖水溶液、酢酸水溶液、ビタミンC水溶液、クエン酸水溶液などの酸性水溶液、アルコール類、グリコールエーテル類などの各種極性溶媒等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。本発明の上記組成物には、必要性や用途に応じて、pH調整用バッファー、塩類または糖類などの等張性調整物質、保存料、ビタミンC、ビタミンB群などの水溶液ビタミン、アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸、水溶性ゼラチン、ペプチド、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、キサンタンガム、グアーガムなどの各種多糖類等を含んでいてもよい。上記組成物は、従来キチン、キトサンが利用されていた領域のみならず医薬品や飲食品あるいは化粧品などの分野においても利用可能である。本発明は、例えば、遺伝子キャリヤー、生体接着剤、シーリング剤の他、創傷治癒材、生体適合性フィルム、コーティング材、保湿剤、抗菌剤、吸着剤、ならびに生体免疫活性化剤などの医薬品、健康食品等の製造において利用可能である。
【0026】
本発明の分岐キトサン誘導体は、顕著な生体免疫系活性化作用を有する。したがって、本発明は、本発明の分岐キトサン誘導体を含む免疫系活性化剤を提供する。本発明の免疫系活性化剤は、本発明の分岐キトサン誘導体を適当な担体または賦形剤と混合して調製することができる。本発明の免疫系活性化剤の剤形は特に制限はなく、液体(例:溶液、懸濁液)、固体(例:粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤)、半固体(例:パスタ、軟膏、チューブ入り)とすることができる。これらの剤形の製造方法は当業者に公知であり、容易に製造することができる。本発明の免疫系活性化剤はあらゆる動物に投与することができる。投与経路は特に制限はないが、経口投与が好ましい。例えば、ヒトに経口投与する場合において、本発明の分岐キトサン誘導体の用量は、医師が患者の状態を見ながら適宜決定することができる。例えば、本発明の分岐キトサン誘導体のヒトへの投与量は、約1mg〜約1000mg/体重/日であってもよく、1日に1回〜数回に分けて投与することもできる。免疫系活性化が必要な期間中、本発明の免疫系活性化剤を投与することができる。
【0027】
本発明の分岐キトサン誘導体は天然素材キチン、キトサンに由来するものである。したがって、本発明の分岐キトサン誘導体は医薬組成物のほか、飲食物に用いることもできる。この点において、本発明は、本発明の分岐キトサン誘導体を含む飲食物を提供する。飲食物の種類は特に限定されず、例えば、ドリンクやジュースであってもよく、調味料の形態であってもよい。さらに、本発明の分岐キトサン誘導体を食品原料や素材に直接添加してもよく、できあがった食品に添加してもよい。また例えば、本発明の分岐キトサン誘導体を、クッキー、ビスケット、ケーキなどの菓子類や、インスタントスープやインスタント味噌汁の粉の成分として用いてもよい。本発明の分岐キトサン誘導体を含む飲食物は健康食品やいわゆる「トクホ」を包含する。また、本発明の分岐キトサン誘導体を含む飲食物はサプリメントの形態であってもよい。サプリメントの製造は、上記医薬組成物の製造方法に準じて行うことができる。
【0028】
本明細書における用語の意味は、当該分野において一般に認識されている意味に解される。
【0029】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例はあくまでの例示説明であり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0030】
実施例1(分岐キトサン誘導体1aの合成)
キトサン(1.20g、アミノ基として6.99mmol)〔甲陽ケミカル社製、Lot L05261、脱アセチル化度(DDA) 95%、重量平均分子量(Mw) 80,000、数平均分子量(Mn) 21,000〕の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン〔6.33g、還元末端残基として3.17mmol〕(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(1.65g、DDA 78%)。分岐型キトサンのプロトン核磁気共鳴スペクトル及び赤外吸収スペクトルを以下に示す。
【0031】
H−NMR(400MHz、DO):δ2.07(NHCOCHのCH由来)、3.19(GlcNのC(2)位のH)、3.80−4.20(GlcNAc残基のC(2)位及び糖残基のC(3)、C(4)、C(5)、C(6)位のH)。
【0032】
IR(KBr):3700−3100、2931、2887、1640、1548、1417、1383、1319、1155、1072、1031、920cm−1。
【0033】
なお、各ユニットの構成比率は、以下のように算出した。まず、キトサン誘導体(分岐型キトサン誘導体)のzを、下記に示す式A、式Bにより求めた。

脱アセチル化度(DDA)(%)=[(分岐型キトサン誘導体のGlcN残基数)/TR]×100 (式A)

z=(分岐残基数)/TR (式B)

ここで、TRは分岐型キトサン誘導体の総残基数を意味する。分岐残基数は、分岐鎖が結合する残基数を意味し、側鎖の本数と同じである。実施例1で用いた原料キトサンのうち、分子量の大きい方を主鎖キトサン、小さい方を側鎖キトサンとすると、主鎖キトサン(DDA 95%、Mn 21,000)の平均残基分子量及び残基数は、グルコサミン残基分子量(FW)が161、N−アセチルグルコサミン残基(FW)が203であることから

主鎖キトサンの平均残基分子量=161×0.95+203×0.05=163.1

主鎖キトサンの残基数=21000/163.1=129

となる。一方、側鎖キトサン(DDA 71%、Mn 2,000)の平均残基分子量及び残基数は、同様にして算出すると、

側鎖キトサンの平均残基分子量=161×0.71+203×0.29=173.2

側鎖キトサンの残基数=2000/173.2=11.5

となる。また、主鎖キトサンの残基数に対する分岐鎖キトサンの本数の割合をDSとすると、分岐型キトサン誘導体の総残基数、TRは

TR=(主鎖の残基数)+(全側鎖の残基数を合計したもの)
=(主鎖の残基数)+[(側鎖の残基数)×(側鎖の本数)]
=(主鎖の残基数)+[(側鎖の残基数)×〔(主鎖の残基数)×DS〕]
=129+[11.5×〔129×DS〕]

と表わすことができる。実施例1で得られた分岐型キトサンのDDAは78(%)であることから、式Aに上記TRを代入すると

78=(分岐型キトサン誘導体のGlcN残基数)/TR×100
=〔(主鎖のGlcN残基数)+(全側鎖のGlcN残基数を合計したもの)〕/TR×100
=〔(主鎖のGlcN残基数)+[(側鎖のGlcN残基数)×(側鎖の本数)]/TR×100
=〔(主鎖のGlcN残基数)+[(側鎖のGlcN残基数)×〔(主鎖の残基数)×DS〕]/TR×100
=〔(129×0.95)+[(11.5×0.71)×〔129×DS〕]/129+[11.5×〔129×DS〕]×100

となる。これより、DS=0.21と算出でき、さらにこの値を代入して、TR=440となる。また、式Bは、

z=(分岐残基数)/TR
=(側鎖の本数)/TR
=〔(主鎖の残基数)×DS〕]/TR
=〔129×0.21〕/440
=0.06

となった。
【0034】
次に、分岐型キトサン誘導体のGlcNAc残基、即ち、キチンユニットに対応するyの値は、脱アセチル化度(DDA)との間に、y=1−DDA/100の関係にある。また、H−NMR分析における[3.19(GlcN残基のC(2)位のH)のピーク面積]と、[2.07(GlcNAc残基のNHCOCHのCH由来)のピーク面積]との比率からも算出することができる。この関係は、分岐型キトサンから合成された分岐型キトサン誘導体のH−NMR分析においても同じであり、y=0.22となった。
【0035】
また、y=0.22と算出されたことにより、分岐型キトサン誘導体のGlcN残基に対応する(x+z)の値は、x+z=1−y=0.78と算出される。一方、H−NMR分析におけるGlcN残基に対応するピーク、即ち、[3.19(GlcN残基のC(2)位のH)のピーク]は、キトサンユニット、分岐ユニットのいずれにおいても観測されるピークであるため、該ピークの面積は前記2ユニットの合計量と考えることができる。よって、xはx=0.78−0.06=0.72となった。
【実施例2】
【0036】
実施例2(分岐キトサン誘導体1bの合成)
キトサン(2.00g、アミノ基として10.3mmol)(和光純薬工業社製、「キトサン5」Lot TSQ4638、DDA 86%、Mw 100,000、Mn 20,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(6.33g、還元末端残基として3.15mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(2.56g、DDA 77%)。
【0037】
各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、x=0.71、y=0.23、z=0.06であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
【実施例3】
【0038】
実施例3(分岐キトサン誘導体1cの合成)
キトサン(2.00g、アミノ基として10.0mmol)(甲陽ケミカル社製、「SK−10」Lot 1023−10、DDA 84%、Mw 140,000、Mn 31,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(5.00g、還元末端残基として2.50mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(2.20g、DDA 76%)。
【0039】
各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、x=0.69、y=0.24、z=0.07であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
【実施例4】
【0040】
実施例4(分岐キトサン誘導体1dの合成)
キトサン(2.52g、アミノ基として10.0mmol)(共和テクノス社製、「Flonac−c」Lot 93−1−20、DDA 84%、Mw 160,000、Mn 37,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン(6.33g、還元末端残基として3.15mmol)(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(3.20g、DDA 78%)。
【0041】
各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、x=0.72、y=0.22、z=0.06であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
【実施例5】
【0042】
実施例5(分岐キトサン誘導体1eの合成)
キトサン(2.52g、アミノ基として6.16mmol)(甲陽ケミカル社製、「DAC−50」Lot 107311、DDA 45%、Mw 190,000、Mn 88,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン〔6.33g、還元末端残基として3.17mmol〕(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(3.25g、DDA 58%)。
【0043】
各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、x=0.56、y=0.42、z=0.04であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
【実施例6】
【0044】
実施例6 (分岐キトサン誘導体1fの合成)
キトサン(2.00g、アミノ基として10.3mmol)(甲陽ケミカル社製、FM−80L Lot 0817−18、DDA 86%、Mw 450,000、Mn 82,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン〔6.50g、還元末端残基として3.25mmol〕(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(2.25g、DDA 75%)。
【0045】
各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、x=0.69、y=0.25、z=0.06であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
【実施例7】
【0046】
実施例7 (分岐キトサン誘導体1gの合成)
キトサン(2.00g、アミノ基として10.5mmol)(甲陽ケミカル社製、FH−80 Lot 1208−15、DDA 87%、Mw 650,000、Mn 73,000)の1%酢酸溶液(200mL)に、室温で、キトサン〔6.50g、還元末端残基として3.25mmol〕(甲陽ケミカル社製、Lot 1101−13T、DDA 71%、Mw 8,000、Mn 2,000)を加え、12時間攪拌した。その後、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(0.40g、6.37mmol)を加え、さらに12時間攪拌した。透析後、凍結乾燥することにより分岐型キトサンを得た(2.25g、DDA 76%)。
【0047】
各ユニットの構成比率は、実施例1と同様にして算出し、x=0.70、y=0.24、z=0.06であった。なお、得られた誘導体の同定は実施例1と同様に行った。
【0048】
以上の実施例で得られた分岐キトサン誘導体を表2にまとめた。
【表2】

【0049】
新規分岐キトサン誘導体1は、主鎖であるHMW−キトサンのアミノ基と側鎖となるLMW−キトサンの還元末端との反応により合成されるため、反応の初期の生成物を模式的に示すと下式のAのようなくし型の構造と考えられる。しかし、その側鎖キトサンに存在するアミノ基も主鎖キトサンに存在するアミノ基と同じ反応性をもち、しかも立体障害を考慮すると側鎖キトサンに存在するアミノ基の方が有利であると考えられるので、反応の進行に伴い分岐型のB、さらに多重分岐型のCの構造に進化すると考えられる。多重分岐型のCの構造は、従来のくし型の構造Aにおける置換度(DS)では認識が困難であり、分岐残基の割合z(表2)を下記のように定義した。なお、上記考察は本発明を限定するものではない。
z=(分岐キトサン誘導体1中の分岐残基数)/(分岐キトサン誘導体1中の全残基数)
【化6】

【実施例8】
【0050】
実施例8 本発明の分岐キトサン誘導体が主鎖であるHMW−キトサンと側鎖となるLMW−キトサンの両方を含むことの証明
表2に示したzの値は、原料キトサンの脱アセチル化度(DDA)と生成物1の脱アセチル化度(DDA)との比較により計算できる。しかし、主鎖であるHMW−キトサンと側鎖となるLMW−キトサンの両方を含むことの直接的な証明は容易ではない。よって、下のスキームに示すように主鎖であるHMW−キトサンと側鎖となるLMW−キトサンを、異なる蛍光波長をもつ蛍光プローブで標識したR−6 とFITC−8を原料に用いて分岐キトサン誘導体11を合成した。図1に示したように生成物11の蛍光スペクトルには、R−6 とFITC−8に固有の蛍光波長(570nm付近と530nm付近)が両方とも観測されたことから、分子内に主鎖であるHMW−キトサンと側鎖となるLMW−キトサンの両方を含むことを確認することができた。
【化7】

【実施例9】
【0051】
実施例9 本発明の分岐キトサン誘導体水溶液の粘度測定
本発明で得られた分岐キトサン誘導体の溶解性と1%酢酸水溶液に溶かした溶液(10mg/ml)の粘度を、表3に示した。原料のHMW−キトサンはいずれも中性の水に溶解しないことから、本発明による多重分岐化は水溶性向上効果が大きいと言える。酸を用いることなく中性水溶液化できることは、本発明の分岐キトサン誘導体の材料としての応用範囲を拡大するものである。
【表3】

【0052】
本発明で得られた分岐キトサン誘導体溶液の粘度と直鎖型のHMW−キトサン溶液の粘度を図2において比較した。原料に用いた直鎖型のHMW−キトサンの粘度は、その分子量が増大するに伴い増大した。しかし、分岐キトサンの粘度はこの範囲ではほぼ一定の値を示した。しかし、表3のEntry 6と7のように、原料に用いた直鎖型のHMW−キトサンの重量平均分子量(Mw)が450kDaよりも大きい場合は水溶性が低下し、大きく粘度が上昇した。従来、キトサンの分子量増大による溶解度低下および溶液粘度の上昇は、注射、注入などの利用方法を制限してきた問題点であったが、本発明によりこの問題が解決された。本発明の分岐キトサン誘導体の応用範囲は、従来のキチン、キトサン系の材料の応用範囲よりもはるかに拡大されたものといえる。
【実施例10】
【0053】
実施例10 本発明の分岐キトサン誘導体の免疫系活性化作用
(1)実験方法
(a)マウスへの投与ならびに生体サンプルの採取
ICRマウス(メス、10週齢)を1週間以上予備飼育した後、実験に供した。マーゲンゾンデを用いて分岐キトサン誘導体(表2のIa)、HMW−キトサン(Mw=80,000)、LMW−キトサン(Mw=8,000)を、それぞれ2mg/0.2ml/headで、1日1回3日間連続して胃内投与した。コントロール群としては、分岐キトサン誘導体群およびLMW−キトサン群に対しては水投与群、HMW−キトサン群に対しては酢酸水溶液投与群を用いた。3回目投与1〜2時間後にジエチルエーテル麻酔下にて心臓穿刺法にて血液を採取し、血液採取後に脾臓を摘出した。採取した血液から常法にて血清を得て、血清サイトカイン濃度の測定に供した。本発明の分岐キトサン誘導体を上記のごとく動物に投与した場合、動物に対する毒性は認められなかった。
【0054】
(b)脾細胞の調製
摘出した脾臓はFBS0.5%加PBS(以下PBS)に浸し(3〜4ml)、ピンンセットを用いて周囲の結合組織を取り除いた。PBSを交換し(3〜4ml)、24G注射針ならびに1mlプラスチックシリンジの内筒を用いて細胞を浮遊させた。浮遊した細胞液を42μmナイロンメッシュで濾過し1200rpmで5分間遠心分離し、上清を捨てた。溶血剤を加えよく混和し、同様に遠心分離した。上清を捨てPBSを加え、同様に再び遠心分離した。細胞数が1x10/mlとなるようにPBSにて希釈し、細胞液とした。
【0055】
溶血剤は以下のようにして調製した。NHCl 82.9g、KHCO 10g、EDTA・2Na(株式会社同仁化学研究所、Kumamoto、Japan)0.372gを1リットルの超純粋水に溶解し4℃で保存した。使用時にはさらに超純粋水で10倍希釈した。
【0056】
(c)免疫細胞活性の測定
以下の抗体を使用した:
CD4+細胞(ヘルパーT細胞)活性測定用としてFITC rat anti−mouse CD4:BD(Pharmingen,USA);および
ナチュラルキラー(NK)T細胞活性測定用としてRAT ANTI MOUSE NKG2A/C/E:FITC(フナコシ株式会社、Tokyo,Japan)。
各抗体は最終希釈倍率が1:200となるようにPBSにて希釈して抗体液とした。エッペンドルフチューブに細胞液((b)で調製)100μlおよび抗体液100μlを加え、遮光し4℃で20分間反応させた。反応終了後、PBSを500μl加えよく混和し、4℃にて1200rpmで5分間遠心分離した。上清除去後PBSを500μl加え、測定に供した。フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定することにより各免疫細胞の割合を測定した。
【0057】
(d)血清サイトカイン濃度測定
上記(a)で得た血清サンプルに、Flowcytomix Mouse Th1/Th2 10plex Kit(Bendermedsystem、USA)を適用して、製造元の指示に従ってインターロイキン−6(IL−6)およびTNF−α量を測定した。
【0058】
(2)実験結果
ヘルパーT細胞の割合は分岐キトサン誘導体で有意に上昇し、コントロール(蒸留水群)の2倍近い割合となった。HMW−キトサンは酢酸の成績と差がなく、LMW−キトサンにも効果は認められなかった(図3)。NK細胞の割合は分岐キトサン誘導体でコントロール、HMW−キトサンよりも有意に上昇し、コントロール(蒸留水群)の約12倍の割合となった(図4)。血清IL−6、TNF−α量も分岐キトサン誘導体で有意に増加し、IL−6はコントロール(蒸留水群)よりも約15倍増加し、TNF−αはコントロール(蒸留水群)よりも約10倍増加した(図5、図6)。以上の結果から分岐キトサン誘導体は明らかにヘルパーT細胞のTh−1、Th−2を活性化させ、バランスとしては細胞性免疫を賦活する成績が得られた。この活性効果はHMW−キトサン、LMW−キトサンにはなく、分岐キトサン誘導体独自の特徴である。このように、本発明の分岐キトサン誘導体は顕著な生体免疫系活性化作用を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、キトサンに多重分岐構造を付与することにより水溶性の向上と水溶液の粘性を低く保つ分子形態の両立を達成したものである。したがって、従来キチン、キトサンが利用されていた領域のみならず医薬品や飲食品などの分野においても利用可能である。本発明は、例えば、遺伝子キャリヤー、生体接着剤、シーリング剤の他、創傷治癒材、生体適合性フィルム、コーティング材、ならびに生体免疫活性化剤などの医薬品、健康食品等の製造において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


[式中、x+y+z=1であり、x、y、zは、それぞれ独立して、0≦x<1、0≦y<1、0<z≦1であり、Rは、
【化2】


で示されるキトサン側鎖であり、Rは、H、アセチル基、該Rであり、aは0〜500の整数を示し、但し、全てのRは同一でも異なっていてもよい]で表わされる、分岐キトサン誘導体。
【請求項2】
請求項1記載の分岐キトサン誘導体を含む低粘度キトサン組成物。
【請求項3】
請求項1記載の分岐キトサン誘導体を含む免疫系活性化剤。
【請求項4】
請求項1記載の分岐キトサン誘導体を含む飲食物。
【請求項5】
主鎖用キトサンと、主鎖用キトサンよりも低分子量の側鎖用キトサンとを、還元的N−アルキル化反応に供することを特徴とする、分岐キトサン誘導体の製造方法。
【請求項6】
主鎖用キトサンの重量平均分子量が450kDaよりも小さいものである、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
主鎖用キトサンの重量平均分子量が80kDaないし190kDaの範囲である、請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項記載の方法により得られる分岐キトサン誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132369(P2011−132369A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293083(P2009−293083)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成21年 7月 1日 日本キチン・キトサン学会の「キチン・キトサン研究」第15巻 第2号に掲載 2.平成21年 8月21日 日本キチン・キトサン学会主催の「第23回キチン・キトサンシンポジウム」において発表
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(595004849)大村塗料株式会社 (5)
【出願人】(391003130)甲陽ケミカル株式会社 (17)
【Fターム(参考)】