説明

分布制御ブロックコポリマーを含む弾性繊維

溶融物から高い製造速度で連続押出成形することが可能な、熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を含む複合繊維を作製する。この弾性化合物は、分布制御弾性ブロックを有する、選択的に水素化されたブロックコポリマーを含んでおり、この弾性ブロックは、40モル%未満のモノアルケニルアレーンブロック性指数を有し、流動性が高い。分布制御ブロックコポリマーおよびスリップ剤を含む弾性繊維も提供する。この繊維は、織布、スパンボンド不織布またはフィルター、ステープルファイバー、より糸または接着されたカードウェブ等の物品の製造に有用である。この複合繊維は、熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を共押出しすることによって、0.1から50g/9000mデニールの繊維を少なくとも1000mpmの紡糸速度で製造することを含む方法を用いて作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を含むかまたはスリップ剤および弾性化合物を含む弾性繊維に関する。特にこの弾性化合物は、モノアルケニルアレーンおよび共役ジエンの分布制御コポリマーである弾性ブロックを有する、モノアルケニルアレーンおよび共役ジエンのブロックコポリマーを含んでいる。本発明はまた、複合繊維の製造方法にも関する。さらに本発明は、弾性繊維から作製された物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
弾性材料から作製された繊維は、織布からスパンボンド弾性マットから使い捨ての個人衛生用品に至るまで、様々な用途における使用が見出されている。このような用途に使用するものとして、特にスチレンブロックコポリマーが注目されている。しかしながら、ブロックコポリマーの溶融物は典型的には相分離する性質を有しているため、溶融弾性および溶融粘度が高くなる。スチレンブロックコポリマーを紡糸口金において見られるような小さいオリフィスを通して加工するためには、高価で特殊な溶融物用ポンプ設備が必要となる。さらに、高い溶融弾性は、ダイから吐出されたとき繊維の破断を招き、弾性長繊維の形成を妨げる。このため、スチレンブロックコポリマーを高い加工速度で弾性長繊維に加工することは極めて難しいということがわかっている。
【0003】
スチレンブロックコポリマーのさらなる問題点は、溶融物が本来粘着性を示すことである。この特性のため、スチレンブロックコポリマーの溶融紡糸繊維は加工中にくっつき合ったり自己付着したりする傾向にある。この作用は望ましいものではなく、実際、分離した長繊維を得ようとする場合は大変な問題となり得る。結果として得られる繊維製品が許容できないだけではなく、繊維の自己付着によって設備が付着物で汚染されたり、費用の嵩む運転停止を招いたりしてしまう。これまで、スチレンブロックコポリマーを弾性繊維製品に適用する試みは大きな難問に直面してきた。
【0004】
米国特許第4892903号においては、弾性繊維を作製する1つの手法としてトリブロック/ジブロックコポリマーブレンドを使用することがハイムズ(Himes)によって教示されている。この種の組成物は粘度および溶融弾性が高いことがわかっており、この高粘度/溶融弾性は組成物を、メルトブローン不織布用途において用いられるような短繊維および長繊維の形成に限定している。
【0005】
欧州特許出願0461726においては、酸で官能化されたスチレンブロックコポリマーを含む複合繊維がグリーク(Greak)によって教示されている。酸官能性を有する従来の選択的に水素化されたスチレンブロックコポリマーが、ポリアミドと一緒にサイドバイサイド型複合繊維を形成するために用いられた。酸で官能化することによって2種の成分の付着力が増大する一方で、酸官能化によって溶融粘度および溶融弾性が官能化されていないブロックコポリマーよりもさらに高くなり得ることは当該技術分野において周知である。さらに、酸官能化された繊維またはこの中に残留している反応性成分は、酸または残留物が刺激物または感作物質として作用し得ることから、すべての用途に好適というわけではない。さらに、グリークによって教示されたサイドバイサイド型形態は、本来粘着性を有する繊維の加工中における自己付着を防止するものではない。
【0006】
米国特許第6225243号においては、ポリマーの中でも特に従来のスチレンブロックコポリマーを含む、様々な形態を有する複合繊維を用いて作製された、接着された不織布ウェブが、オースチン(Austin)によって教示されている。特に、芯部が従来のスチレンブロックコポリマーから構成される鞘芯型形態では、不織布ウェブを形成するのに好適な粘着性の低い繊維が得られた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のスチレンブロックコポリマーの粘度および溶融弾性が高いことは、依然として弾性長繊維の高速紡糸の妨げになっている。本発明は、弾性長繊維に形成することが可能なメルトフローの高いブロックコポリマーを提供することによって、このような長年にわたる要求に対処するものである。特に、驚くべきことに、分布制御された弾性ブロックを有するブロックコポリマーが、単独でまたは他のポリマーもしくは配合成分と組み合わせることにより、複合繊維の優れた弾性成分となることが見出された。さらに、分布制御されたブロックコポリマーのエラストマーに十分な量のスリップ剤を配合すると、単成分繊維においては、高い紡糸速度および優れた弾性が達成される。本発明により、これまで達成することができなかった機械特性を有する、非常に加工性の高い非粘着性繊維が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様においては、本発明は、熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を含む複合繊維であって、この弾性化合物は、一般構造A−B、A−B−A、(A−B)、(A−B−A)、(A−B−A)X、(A−B)X、またはこれらの混合物(nは、2から約30の整数であり、Xはカップリング剤残部である。)を有する選択的に水素化されたブロックコポリマーを含み、
a.水素化前は、Aブロックはそれぞれ、モノアルケニルアレーンポリマーブロックであり、Bブロックはそれぞれ、少なくとも1種の共役ジエンおよび少なくとも1種のモノアルケニルアレーンの分布制御コポリマーブロックであり;
b.水素化後は、アレーンの二重結合の約0から10%が還元されており、共役ジエンの二重結合の少なくとも約90%が還元されており;
c.Aブロックの数平均分子量はそれぞれ約3000から約60000であり、Bブロックの数平均分子量はそれぞれ約30000から約300000であり;
d.Bブロックはそれぞれ、Aブロックに隣接する、共役ジエン単位に富む末端領域およびAブロックに隣接していない、モノアルケニルアレーン単位に富む1つ以上の領域を含み;
e.水素化ブロックコポリマーにおけるモノアルケニルアレーンの総量は約20重量パーセントから約80重量パーセントであり;
f.Bブロックにおけるモノアルケニルアレーンの重量パーセントはそれぞれ約10パーセントから約75パーセントであり;
g.ブロックBはそれぞれ、40モル%未満のモノアルケニルアレーンブロック性指数(blockiness index)を有し、上記モノアルケニルアレーンブロック性指数は、ポリマー鎖上に2個の隣接するモノアルケニルアレーンを有するモノアルケニルアレーン単位のブロックBにおける比率であり;
h.ブロックコポリマーのメルトインデックスは、ASTM D1238により、230℃、荷重2.16kgにおいて12グラム/10分以上である
複合繊維である。
【0009】
他の態様においては、本発明は、本明細書に記載される複合繊維を含む、弾性モノフィラメント、織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布またはフィルター、ステープルファイバー、より糸または接着されたカードウェブ等の物品である。
【0010】
さらなる態様においては、本発明は、熱可塑性ポリマーと、本明細書に記載された選択的に水素化された分布制御ブロックコポリマーを含む弾性化合物との共押出しを含む複合繊維の製造方法であって、熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を別々の溶融物用ポンプを用いてダイから押し出すことによって、熱可塑性ポリマーから主として構成される鞘部またはマトリックス部と弾性化合物から構成される芯部または島部とを有する1本以上の繊維を、結果として得られる複合繊維の1フィラメント当たりのデニールが9000メートル当たり0.1から10グラムとなるように、1分当たり少なくとも1000メートルの紡糸速度で形成する方法である。
【0011】
さらなる態様においては、本発明は、選択的に水素化された分布制御ブロックコポリマーおよびスリップ剤から作製された弾性繊維である。
【0012】
重要なことは、本発明には高いメルトフローを有する弾性化合物が含まれており、この弾性化合物によって、大量生産設備における複合繊維の高速加工が可能になることである。この弾性化合物の高いメルトフローは、分布制御弾性ブロックを有する選択的に水素化されたブロックコポリマーを用いて達成することができる。
【0013】
この弾性化合物は、鞘部またはマトリックス部の材料と組成的に同一であるかまたは異なる熱可塑性ポリマーをさらに含んでいてもよい。弾性化合物中に熱可塑性ポリマーを取り込むことによって、芯部−鞘部もしくは島部−海部の混和性および/もしくは接着性が向上し、弾性化合物の加工性が向上し、ならびに/または材料の経済性が改善され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合繊維は、熱可塑性ポリマーの鞘部と選択的に水素化された分布制御ブロックコポリマーを含む弾性化合物の芯部とを含む。この複合繊維は、熱可塑性ポリマーと弾性化合物の芯部とがダイまたは紡糸口金に別々に計量供給される共押出法によって作製される。このような共押出しされた複合繊維は、鞘芯型、サイドバイサイド型、海島型、二葉型、三葉型、パイ分割型(pie−section)等の様々な形態を有していてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の鞘芯型の実施形態においては、鞘部が繊維の外面の大半部分を形成することが重要である。特に、鞘部が芯部周囲の被覆を形成する鞘芯型形態は好ましい一実施形態である。この好ましい形態においては、芯部が繊維断面の中心であってもよいし、偏心していてもよい。鞘部は、繊維の周囲全体を囲む態様で芯部を覆っていてもよいし、繊維の周囲の一部のみを覆っていてもよい。周囲の一部が覆われている場合は、芯部が繊維の体積の大半部分を構成する。本発明における鞘対芯の体積比は、1/99から50/50である。鞘対芯の体積比の好ましい範囲は5/95から40/60であり、最も好ましい範囲は10/90から30/70である。鞘部は熱可塑性ポリマーから主としてなり、芯部は弾性化合物からなる。本明細書において用いられる「主としてなる」とは、体積基準で80%を超えることを意味する。
【0016】
本発明の海島型の実施形態においては、海部が、中に島部が存在する連続マトリックスを形成することが重要である。この海島型形態は、他の好ましい実施形態である。島部は、共押出しされた複合繊維の断面図における見た目からこのように呼ばれている。実際の島部は、海部である連続マトリックス中に埋設されている超極細繊維状の構成要素である。この好ましい実施形態においては、海部は熱可塑性ポリマーから主としてなり、島部は弾性化合物から主としてなる。本発明における海対島の体積比は、1/99から50/50である。海対島の体積比の好ましい範囲は5/95から40/60であり、最も好ましい範囲は10/90から30/70である。海島型形態を有する共押出しされた複合繊維から自己支持性を有する(free−standing)超極細繊維が製造できることは当該技術分野において周知である。このような超極細繊維は、選択的溶解等の方法により海マトリックスを除去することによって得られる。このようにすることで、自己支持性を有する超極細繊維が残留する。本発明の複合繊維は、分布制御ブロックコポリマーを含む超極細弾性繊維の製造に好適である。
【0017】
弾性化合物の芯部は、分布制御弾性ブロックを有するブロックコポリマーを含んでいる。このような分布制御ブロックコポリマーは、アルケニルアレーンおよびジエンの共重合により、モノアルケニルアレーン/共役ジエンブロックコポリマーの一部として得られるものである。驚くべきことに、(1)独特のモノマー付加制御および(2)溶媒の成分としてのジエチルエーテルまたは他の調節剤[このジエチルエーテルまたは他の調節剤を「分布調節剤(distribution agent)」と称することとする。]の使用を組み合わせることによって、2種類のモノマーが特定の特徴的な分布をする[以下、「分布制御」重合(すなわち、結果として「分布制御」構造を生じる重合)という用語を用いる。]とともに、ポリマーブロック中に、モノアルケニルアレーンに富む特定の領域および共役ジエンに富む特定の領域が存在するようになる。本明細書において、「分布制御」とは、以下の属性:(1)モノアルケニルアレーンホモポリマー(「A」)ブロックに隣接する、共役ジエン単位に富む末端領域、(2)Aブロックに隣接していない、モノアルケニルアレーン単位に富む1つ以上の領域、および(3)比較的ブロック性の低い全体構造を有する分子構造を指すものとして定義される。本明細書において、「に富む」とは、平均量を超えること、好ましくは平均量を5%超えることを意味する。分布制御(「B」)ブロックのブロック性が比較的低いことは、示差走査熱量測定(「DSC」)(熱的)方法を用いてまたは機械的方法によって分析した場合に、いずれかのモノマー単独のガラス転移点(Tg)の中間に唯1つのTgが存在することによって示すことができるか、またはプロトン核磁気共鳴(「H1−NMR」)法によって示される。ポリスチリルリチウム末端基の検出に好適な波長領域におけるUV−可視吸光度の測定をBブロックの重合中に実施することによって、ブロック性の可能性を推測することもできる。この値の急峻な実質的増加は、ポリスチリルリチウム鎖末端が実質的に増加していることを表している。この過程においてこのようなことが起こるのは、共役ジエン濃度が分布制御重合を維持するのに必要な境界値を下回った場合に限られる。この時点で存在するスチレンモノマーはブロック状に付加されることとなる。プロトンNMRを用いて当業者に測定される「スチレンブロック性」という用語は、ポリマー鎖上の最も近接した2個の隣り合うSを有するS単位の、ポリマーにおける比率と定義される。スチレンブロック性は、以下に示すように、H1−NMRを用いて2種類の実験値を測定した後に決定される。
【0018】
最初に、スチレン単位の総数(すなわち、装置の任意単位であり、これを比で表すと無名数になる。)を、H1−NMRスペクトルの7.5から6.2ppmのスチレン芳香族シグナルをすべて積分し、各スチレン芳香環上に5個の芳香族水素があることを考慮して、この量を5で除することによって決定する。
【0019】
次に、ブロック状スチレン単位を、H1−NMRスペクトルの6.88および6.80の間の最小シグナルから6.2ppmまでの芳香族シグナルの部分を積分し、ブロック状スチレンの各芳香環上に2個のオルト水素があることを考慮して、この量を2で除することによって決定する。このシグナルが、最も近接した2個の隣り合うスチレンを有するスチレン単位の環上の2個のオルト水素に帰属されることが、F.A.Bovey著、高分子の高解像度NMR(High Resolution NMR of Macromolecules)[アカデミックプレス(Academic Press)、ニューヨーク(NewYork)およびロンドン(London)、1972年]、第6章に報告されている。
【0020】
スチレンブロック性は、単純に総スチレン単位に対するブロック状スチレンの百分率である。
ブロック状%=(ブロック状スチレン単位/総スチレン単位)×100
このようにポリマー−Bd−S−(S)−S−Bd−ポリマー(nはゼロを超える。)のように表されるものをブロック状スチレンと定義する。例えば、上述の例においてnが8である場合、ブロック性指数は80%となる。ブロック性指数は約40%未満であることが好ましく、約25%未満であることがより好ましい。スチレン含有量が10重量%から40重量%であるポリマーの場合は、ブロック性指数が約10%未満であることが好ましい。
【0021】
本明細書において用いられる「熱可塑性ブロックコポリマー」は、1種以上のモノアルケニルアレーンの少なくとも第1ブロック(Aブロック)(スチレン等)と、ジエンおよびモノアルケニルアレーンの分布制御コポリマーの第2ブロック(Bブロック)とを有するブロックコポリマーとして定義される。この熱可塑性ブロックコポリマーの調製方法は、一般に周知のブロック重合法のいずれかによる。本発明には、熱可塑性コポリマー組成物が実施形態として含まれ、この熱可塑性コポリマー組成物は、ジブロックコポリマー、トリブロックコポリマー、テトラブロックコポリマー、またはマルチブロックコポリマー組成物のいずれであってもよい。ジブロックコポリマー組成物の場合、1つのブロックはアルケニルアレーンを基体とするホモポリマーブロックであり、これと一緒に重合されるのが、ジエンおよびアルケニルアレーンの分布制御コポリマーである第2ブロックである。トリブロックコポリマー組成物の場合は、末端ブロックとしてのアルケニルアレーンを基体とするガラス状ホモポリマーと、中間ブロックとしてのジエンおよびアルケニルアレーンの分布制御コポリマーとが含まれる。トリブロックコポリマー組成物を調製する場合は、分布制御ジエン/アルケニルアレーンコポリマーを本明細書においては「B」で表し、アルケニルアレーンを基体とするホモポリマーを「A」で表すことができる。A−B−Aトリブロックコポリマー組成物は、逐次重合またはカップリングのいずれかによって作製することができる。逐次溶液重合法においては、比較的硬質な芳香族ブロックを生成させるためにまずモノアルケニルアレーンが導入され、次いで、中間ブロックを形成させるために分布制御ジエン/アルケニルアレーン混合物が導入され、次いで、末端ブロックを形成させるためのモノアルケニルアレーンが導入される。直鎖状のA−B−A構造以外にも、このブロックを放射状(分岐)ポリマー(AB)Xを形成する構造にしてもよいし、構造の両方の種類を混合して組み合わせてもよい。A−Bジブロックポリマーもある程度存在してもよいが、強度を付与するために、好ましくはブロックコポリマーの少なくとも約70重量%はA−B−Aまたは放射状とする(それ以外の場合は、1分子内に2つ以上の末端樹脂状ブロックを有するように分岐させる。)。
【0022】
分布制御構造は、結果として得られる熱可塑性エラストマーの強さおよびTgの操作において非常に重要である。分布制御構造においてはスチレンブロック性が低く、このことによって、2種類のモノマーの相分離が実質的に起こらないことを確実にする。これは、実際にモノマーが分離した「ミクロ相」として残留しており、それによって別々の異なるTgを有するコポリマーとは対照的である。分布制御コポリマーにおいてはTgが1つしか存在しないので、結果として得られるコポリマーの熱的性能は予測可能であり、実際、予め定めることができる。
【0023】
1種以上の分布制御ジエン/アルケニルアレーンコポリマーブロック(Bブロック)および1種以上のモノアルケニルアレーン(Aブロック)を含む本発明の熱可塑性弾性ジブロック、トリ−ブロック、マルチブロック、および放射状ブロックコポリマーの重要な特徴は、AおよびBブロックのTgが異なっていることである。アルケニルアレーンAブロックのTgは分布制御コポリマーBブロックのTgよりも高い。分布制御ブロックのTgは、好ましくは少なくとも約−60℃、より好ましくは約−40℃から約+30℃、最も好ましくは約−40℃から約+10℃である。アルケニルアレーンAブロックのTgはこれよりも高く、好ましくは約+80℃から約+110℃、より好ましくは約+80℃から約+105℃である。
【0024】
このような分布制御構造が1つのブロックとしてジブロック、トリブロック、またはマルチブロックコポリマー中に用いられた場合、適切に構成された分布制御コポリマー領域の存在によって、流動性および加工性の改善につながる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態においては、対象とする分布制御コポリマーブロックは2種類の異なる領域:ブロックの末端の共役ジエンに富む領域およびブロックの中央または中心付近のモノアルケニルアレーンに富む領域を有する。モノアルケニルアレーン単位の比率が徐々に増加し、ブロックの中央または中心付近で最大となるモノアルケニルアレーン/共役ジエン分布制御コポリマーブロックが望ましい。この構造は、従来技術において議論されているテーパードおよび/またはランダム構造とは異なっており、区別されるものである。
【0026】
上記したように、分布制御ポリマーブロックは、Aブロックに隣接するジエンに富む領域およびAブロックに隣接しておらず、典型的にはBブロックの中心付近にあるアレーンに富む領域を有する。典型的には、Aブロックに隣接する領域は、ブロックの最初の15から25%を構成しており、またジエンに富む領域を含んでおり、そして残部はアレーンに富むものとみなされる。「ジエンに富む」という用語は、この領域のジエン対アレーンの比が、アレーンに富む領域と比較して測定可能なほど高いことを意味する。他の表現方法を用いるならば、モノアルケニルアレーン単位の比率がポリマー鎖に沿って徐々に増加してブロックの中央または中心付近で最大になり(ABA構造について説明する場合)、そしてポリマーブロックが完全に重合されるまで徐々に減少する。分布制御ブロックBの場合、モノアルケニルアレーンの重量パーセントは約10%から約75%である。より好ましい実施形態においては、モノアルケニルアレーンの含有量は約10%から約50重量%である。
【0027】
本発明のブロックコポリマーは、スチレンと、ブタジエン、イソプレン、およびこれらの混合物からなる群から選択されるジエンとのアニオン重合によって調製される。重合は、好適な溶媒中において、約−150℃から約300℃の範囲の温度、好ましくは約0℃から約100℃の範囲の温度で、スチレンおよびジエンモノマーを有機アルカリ金属化合物と接触させることによって達成される。特に有効なアニオン重合開始剤は、一般式RLi(Rは、1から20個の炭素原子を有する脂肪族、脂環式、芳香族、またはアルキル置換された芳香族炭化水素基であり、nは、1から4の値を有する。)を有する有機リチウム化合物である。好ましい開始剤としては、n−ブチルリチウムおよびsec−ブチルリチウムが挙げられる。アニオン重合の方法は周知であり、米国特許第4039593号や米国再発行特許第27145号等の参考文献において見ることができる。
【0028】
本発明のブロックコポリマーは、直鎖状、カップリングされた直鎖状、または2から6本の「腕」が混在する放射状ブロックコポリマーであってもよい。直鎖状ブロックコポリマーは、モノアルケニルアレーンを重合することにより第1Sブロックを形成し、モノアルケニルアレーンおよび共役ジエンを含む分布制御ブロックBを形成し、次いで、さらなるモノアルケニルアレーンを添加することにより第2Sブロックを形成することによって作製することができる。カップリングされた直鎖状ブロックコポリマーは、第1SブロックおよびBブロックを形成し、次いで、このジブロックを2官能性カップリング剤と接触させることによって作製される。放射状ブロックコポリマーは、少なくとも3官能性のカップリング剤を用いることによって調製される。
【0029】
直鎖状ブロックコポリマーの調製に有用な2官能性カップリング剤としては、例えば、米国特許第3766301号に開示されている安息香酸メチルが挙げられる。放射状ブロックコポリマーの形成に有用な2、3、または4個の官能基を有する他のカップリング剤としては、例えば、米国特許第3244664号、米国特許第3692874号、米国特許第4076915号、米国特許第5075377号、米国特許第5272214号、および米国特許第5681895号に開示されている四塩化ケイ素およびアルコキシシラン;米国特許第3281383号に開示されているポリエポキシド、ポリイソシアネート、ポリイミン、ポリアルデヒド、ポリケトン、ポリ無水物、ポリエステル、ポリハライド;米国特許第3594452号に開示されているジエステル;米国特許第3880954号に開示されているメトキシシラン;米国特許第3985830号に開示されているジビニルベンゼン;米国特許第4104332号に開示されている1,3,5−ベンゼントリカルボン酸三塩化物;米国特許第4185042号に開示されているグリシドオキシトリメトキシシラン;および米国特許第4379891号に開示されているオキシジプロピルビス(トリメトキシシラン)が挙げられる。
【0030】
本発明の一実施形態において使用されるカップリング剤は、一般式R−Si−(OR’)(xは、0または1、x+yは、3または4、RおよびR’は、同一であるかまたは異なっており、Rは、アリール、直鎖アルキル、および分岐アルキル炭化水素基から選択され、R’は、直鎖および分岐のアルキル炭化水素基から選択される。)のアルコキシシランである。アリール基は、好ましくは、6から12個の炭素原子を有する。アルキル基は、好ましくは、1から12個の炭素原子、より好ましくは1から4個の炭素原子を有する。溶融条件下においては、これらのアルコキシシランカップリング剤は、さらにカップリングすることによって4を超える官能性を供することが可能である。好ましいテトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン(「TMSi」)、テトラエトキシシラン(「TESi」)、テトラブトキシシラン(「TBSi」)、およびテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)シラン(「TEHSi」)である。好ましいトリアルコキシシランは、メチルトリメトキシシラン(「MTMS」)、メチルトリエトキシシラン(「MTES」)、イソブチルトリメトキシシラン(「IBTMO」)、およびフェニルトリメトキシシラン(「PhTMO」)である。これらの中でも、テトラエトキシシランおよびメチルトリメトキシシランがより好ましい。
【0031】
本発明の水素化ブロックコポリマーは、当該技術分野において周知の幾つかの水素化方法のいずれかを用いて選択的に水素化される。例えばこの水素化を、例えば米国特許第3494942号、米国特許第3634594号、米国特許第3670054号、米国特許第3700633号、および米国再発行特許第27145号に教示されている方法等を用いることによって達成してもよく、この開示を参照により本明細書に組込む。本発明の水素化ブロックコポリマーの調製には、共役ポリジエンブロック中の二重結合に選択的であり、ポリスチレンブロック中の芳香族不飽和が実質的に変化しないままである任意の水素化方法を使用することができる。
【0032】
本発明の水素化ブロックコポリマーの調製に有用な、従来技術において周知の方法には、好適な触媒、特に、鉄族金属原子(特にニッケルまたはコバルト)および好適な還元剤(アルキルアルミニウム等)を含む触媒または触媒前駆体を使用することが含まれる。チタン系の触媒系も同様に有用である。通常、水素化は、好適な溶媒中において約20℃から約100℃の範囲の温度、約100psig(689kPa)から約5000psig(34473kPa)の範囲の水素分圧で実施することができる。触媒濃度は、通常、溶液全体を基準として鉄族金属が約10重量ppmから約500重量ppmとなる範囲内で使用され、水素化条件下における接触は、通常、約60から約240分間の範囲の時間継続される。水素化完了後、水素化触媒および触媒残渣は、通常、ポリマーから分離される。
【0033】
本発明の実施において、水素化された分布制御ブロックコポリマーの水素化率は80パーセントを超える。これは、弾性Bブロックにおいて共役ジエンの二重結合の80パーセント超がアルケンからアルカンに水素化されたことを意味する。一実施形態においては、弾性Bブロックの水素化率は約90パーセントを超える。他の実施形態においては、弾性Bブロックの水素化率は約95パーセントを超える。
【0034】
分布制御ブロックコポリマーのアルケニルアレーンモノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、パラ−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、およびパラ−ブチルスチレン、またはこれらの混合物から選択してもよい。これらの中でもスチレンが最も好ましく、これは様々な製造業者から比較的安価で市販されている。本明細書において使用される共役ジエンは、1,3−ブタジエンおよび置換されたブタジエン(イソプレン、ピペリレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、および1−フェニル−1,3−ブタジエン、またはこれらの混合物等)である。これらの中でも1,3−ブタジエンが最も好ましい。本明細書および特許請求の範囲において用いられる「ブタジエン」とは、具体的には「1,3−ブタジエン」を指す。
【0035】
分布制御すなわち弾性Bブロックの場合、各Bブロックにおけるモノアルケニルアレーンの重量パーセントは、選択的に水素化されたポリマーの場合は約10重量パーセントから約75重量パーセント、好ましくは約25重量パーセントから約50重量パーセントである。
【0036】
各種ブロックの分子量を制御することも重要である。ABジブロックの場合、所望のブロック重量は、モノアルケニルアレーンAブロックが3000から約60000であり、分布制御共役ジエン/モノアルケニルアレーンBブロックが30000から約300000である。好ましい範囲は、Aブロックが5000から45000であり、Bブロックが50000から約250000である。トリブロック(トリブロックは、逐次ABAまたはカップリング(AB)Xブロックコポリマーであってもよい。)の場合は、Aブロックは3000から約60000、好ましくは5000から約45000であることが必要であり、一方、逐次ブロックのBブロックは約30000から約300000であることが必要であり、カップリングされたポリマーのBブロック(2つ)はこの半量であることが必要である。トリブロックコポリマー全体の平均分子量は、逐次的に作製されたものまたはカップリングによるもののいずれであっても約40000から約400000であることが必要であり、放射状コポリマーの場合は約60000から約600000であることが必要である。テトラブロックコポリマーABABの場合は、末端Bブロックのブロックサイズは約2000から約40000であることが必要であり、他のブロックは、逐次トリブロックコポリマーのサイズと類似していてもよい。
【0037】
本明細書および特許請求の範囲において参照される分子量は、ASTM3536で実施されるような、ポリスチレン較正標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。GPCは周知の方法であり、ポリマーが分子の大きさに従って分離され、最も大きな分子が最初に溶出されるというものである。クロマトグラフは市販のポリスチレン分子量標準を用いて較正される。GPCを用いて測定され、そしてこのように較正されたポリマーの分子量は、スチレン換算分子量である。スチレン換算分子量は、ポリマーのスチレン含有量およびジエンセグメントのビニル含有量が既知である場合は真の分子量に換算され得る。使用される検出器は、好ましくは、紫外線および屈折率検出器を組み合わせたものである。本明細書において表される分子量は、GPC曲線のピークで測定し、真の分子量に換算され、これは一般に「ピーク分子量」と称される。
【0038】
本発明の重要な態様は、分布制御コポリマーブロックにおける共役ジエンの微細構造またはビニル含有量を制御することである。「ビニル含有量」という用語は、共役ジエンが1,2−付加(これはブタジエンの場合であり、イソプレンの場合は3,4−付加となる。)によって重合されることを指している。純粋な「ビニル」基は、1,3−ブタジエンが1,2−付加重合した場合にのみ形成されるが、イソプレンの3,4−付加重合(および他の共役ジエンの同様の付加)がブロックコポリマーの最終特性に及ぼす効果もこれと同様である。「ビニル」という用語は、ポリマー鎖上にペンダントビニル基が存在することを指している。ブタジエンの共役ジエンとしての使用に関して言えば、プロトンNMR解析により決定すると、コポリマーブロック中の縮合ブタジエン単位の約20から約80モルパーセントが1,2ビニル配置を有していることが好ましい。選択的に水素化されたブロックコポリマーの場合、好ましくは、縮合ブタジエン単位の約30から約70モルパーセントが1,2配置を有することが必要である。不飽和ブロックコポリマーの場合は、好ましくは縮合ブタジエン単位の約20から約40モルパーセントが1,2−ビニル配置を有していることが必要である。これは、分布調節剤の相対量を変化させることによって効果的に制御される。重合中に用いられる分布調節剤は、典型的には、ジエチルエーテルやオルト−ジメトキシベンゼン等の非キレート性エーテルである。分布調節剤は、モノアルケニルアレーンおよび共役ジエンの分布を制御すると同時に、共役ジエンの微細構造も制御するという2つ目的を果たすことが理解される。分布調節剤対リチウムの好適な比率は米国再発行特許第27145号に開示および教示されており、この開示を参考として援用する。
【0039】
従来の水素化ブロックコポリマーに対する本発明の分布制御ブロックコポリマーの利点の1つは、これらを容易に成型したり、成形品やフィルムに連続押出成形したり、繊維に紡糸したりすることを可能にする高いメルトフローを有していることである。この特性によって、最終使用者は、特性を低下させ、周囲の汚染(area contamination)の原因となり、発煙し、型枠やダイに堆積さえする添加剤の使用を回避するか少なくとも抑えることが可能になる。
【0040】
本発明の水素化ブロックコポリマーの特徴の1つは、秩序−無秩序相転移温度が低いことである。本発明の水素化ブロックコポリマーの秩序−無秩序相転移温度(ODT)は、典型的には、約250℃未満である。250℃を超えるとポリマーの加工がより難しくなるが、場合によってはODTが250℃を超えても利用可能な用途もある。この一例が、加工性を改善するためにブロックコポリマーを他の成分と併用する場合である。この種の他の成分は、熱可塑性ポリマー、油、樹脂、ワックス等であってもよい。一実施形態においては、ODTは約240℃未満である。好ましくは、本発明の水素化ブロックコポリマーは、約210℃から約240℃のODTを有する。ODTが210℃未満であるとブロックコポリマーがクリープを起こす場合があり、そうなると強度が望ましくない過度または低いものになるため、この特性が重要となり得る用途もある。本発明の目的では、秩序−無秩序相転移温度とは、その温度を超えるとキャピラリーレオロジー(capillary rheology)または動的レオロジーによってゼロ剪断粘度が測定できる温度として定義される。
【0041】
本発明の目的では、「メルトインデックス」という用語は、ASTM D1238による、230℃、荷重2.16kgにおけるポリマーのメルトフローの測定値である。これは、溶融物用レオメータ(melt rheometer)のオリフィスを10分間で通過したポリマーをグラム単位で表したものである。本発明の水素化された分布制御ブロックコポリマーは、容易な加工を可能にする望ましい高メルトインデックスを有している。一実施形態においては、本発明の水素化ブロックコポリマーは、12以上のメルトインデックスを有している。他の実施形態においては、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも15のメルトインデックスを有している。さらなる他の実施形態においては、本発明の水素化ブロックコポリマーは、少なくとも40のメルトインデックスを有している。本発明の他の実施形態には、約20から約100のメルトインデックスを有する水素化ブロックコポリマーが含まれる。本発明のさらなる他の実施形態には、約50から約85のメルトインデックスを有する水素化ブロックコポリマーが含まれる。
【0042】
さらなる実施形態においては、弾性化合物の芯部は、さらに熱可塑性ポリマーを含む。この実施形態においては、弾性の芯部は、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル[ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)等]、および熱可塑性ポリマー組成物に関し本明細書において記載される他の熱可塑性物質等の熱可塑性ポリマーを50重量%まで含んでいる。
【0043】
本発明の複合繊維は、熱可塑性ポリマーから主として構成される鞘部またはマトリックスを含む。例示的な熱可塑性ポリマーとしては、例えば、エチレンホモポリマー、エチレン/α−オレフィンコポリマー、プロピレンホモポリマー、プロピレン/α−オレフィンコポリマー、耐衝撃性ポリプロピレンコポリマー、ブチレンホモポリマー、ブチレン/αオレフィンコポリマー、および他のαオレフィンコポリマーまたはインターポリマーが挙げられる。
【0044】
代表的なポリエチレンとしては、例えば、実質的に直鎖状のエチレンポリマー、均一に分岐した直鎖状エチレンポリマー、不均一に分岐した直鎖状エチレンポリマー[直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(ULDPEまたはVLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)等]が挙げられるが、これらに限定されるものではない。熱可塑性ポリマーがポリエチレンである場合、メルトフローインデックスとも称されるメルトフローレートは、ASTM D1238により、190℃、荷重2.16kgにおいて少なくとも10g/10分でなければならない。好ましいポリエチレンの種類は直鎖状低密度ポリエチレンである。
【0045】
代表的なポリプロピレンとしては、例えば、実質的にアイソタクチックなプロピレンホモポリマー、ランダムα−オレフィン/プロピレンコポリマー(モル基準でプロピレンが主成分である。)、およびポリプロピレン耐衝撃性コポリマー(ポリマーマトリックスは主としてポリプロピレンホモポリマーまたはランダムコポリマーであり、ゴム相はα−オレフィン/プロピレンランダムコポリマーである。)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ポリプロピレンの好適なメルトフローレートは、230℃、2.16kgにおいて、ASTM D1238により少なくとも10g/10分である。少なくとも20g/10分のメルトフローレートがより好ましい。少なくとも30g/10分のメルトフローレートが最も好ましい。ポリプロピレンホモポリマーが好ましいポリプロピレンの種類である。
【0046】
エチレン/α−オレフィンコポリマーおよびプロピレン/α−オレフィンコポリマーの例としては、Dow Chemical製のAFFINITY、ENGAGE、およびVERSIFYポリマー、ならびにExxon Mobil製のEXACTおよびVISTAMAXXポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この種のコポリマーの好適なメルトフローレートは、230℃、荷重2.16kgにおいて、ASTM D1238により少なくとも10g/10分でなければならない。本発明には少なくとも20g/10分のメルトフローレートが好ましく、少なくとも30g/10分のメルトフローレートが最も好ましい。
【0047】
本明細書に包含されるさらなる他の熱可塑性ポリマーは、ポリ塩化ビニル(PVC)およびPVCと他の材料とのブレンド、ポリスチレン、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ならびにポリエステル[ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)等]である。この熱可塑性ポリマーは、具体的な種類に拘わらず、繊維または繊維の構成要素に加工するのに好適な粘度を有していなければならない。好適なポリエステルは、少なくとも0.5の極限粘度数(LVN)を有し、好ましい範囲は0.5から3である。
【0048】
本発明のスリップ剤は、エラストマー化合物の加工性を高めるとともに繊維の粘着性を低減させる役割を果たす。したがって、高い押出速度および紡糸速度を達成することができる。好適なスリップ剤としては、低分子量アミド、ステアリン酸金属化合物(ステアリン酸カルシウムおよび亜鉛等)、シリコーン、フッ素化炭化水素、アクリルおよびシリコーン、ワックス等が挙げられる。好適な第1級アミドの例としては、ベハンアミド(behanamide)[Croda製Crodamide BRとして、およびAkzo Nobel製ARMOSLIP(登録商標)Bとして入手可能]、エルカ酸アミド[Croda製Crodamide Eとして、Akzo Nobel製ARMOSLIP Eとして、およびUniqema製ATMER(登録商標)SA1753として入手可能]、オレイン酸アミド(Croda製Crodamide VRXとして、Akzo Nobel製ARMOSLIP CPとして、およびUniqema製ATMER SA1758として入手可能)、およびステアリン酸アミド(Croda製Crodamide SRとして、Akzo Nobel製ARMOSLIP 18LFとして、およびUniqema製ATMER SA1750として入手可能)が挙げられる。好適な第2級アミンの例としては、オレイルパリタミド(oleyl palitamide)(Croda製Crodamide203として入手可能)およびステアリルエルカ酸アミド(Croda製Crodamide212として入手可能)が挙げられる。飽和および不飽和アミドはいずれも好適である。
【0049】
スリップ剤は、弾性化合物99.99から95重量部に対し0.01から2.0重量部の範囲の量で用いられる。より好ましくは、弾性化合物99.9から98重量部に対しスリップ剤は0.1から1.0重量部である。
【0050】
エラストマー化合物中に他の添加剤を使用することが望ましい場合もある。この種の添加剤の例が、他のブロックコポリマー、オレフィンポリマー、スチレンポリマー、粘着付与樹脂、ポリマー伸展油、ワックス、フィラー、補強材、滑剤、安定剤、およびこれらの混合物からなる群から選択されるメンバーである。
【0051】
本発明の実施形態においては、弾性化合物の弾性分布制御ブロックと混和性のある樹脂を含有させることが特に有用である。これは、弾性化合物の流動性を高める役割を果たす。様々な樹脂が知られており、例えば、米国特許第4789699号、米国特許第4294936号、および米国特許第3783072号において議論されており、この樹脂に関する内容を参考として本明細書に援用する。弾性化合物のゴムEおよび/もしくはEブロックならびに/またはポリオレフィンと混和性があり、高い加工(例えば押出成形)温度に耐えることができる任意の樹脂を使用することができる。通常は、温度安定性がよりよいという理由から、水素化された炭化水素樹脂が好ましい樹脂である。有用な樹脂の実例としては、水素化炭化水素樹脂(低分子量完全水素化α−メチルスチレンであるREGALREZ(登録商標)[Eastman Chemical]、ARKON(登録商標)Pシリーズの樹脂[Arakawa Chemical])、およびテルペン炭化水素(ZONATAC(登録商標)501Lite[Arizona Chemical])が挙げられる。本発明は、ここに列挙した樹脂を使用することに限定されない。通常は、樹脂を、C炭化水素樹脂、水素化C炭化水素樹脂、スチレン化C樹脂、C/C樹脂、スチレン化テルペン樹脂、完全水素化または部分水素化C炭化水素樹脂、ロジンエステル、ロジン誘導体、およびこれらの混合物からなる群から選択してもよい。本組成物の成分と混和性があり、高い加工温度に耐えることができ、本発明の目的を達成することができる他の樹脂も使用できることは当業者に理解されよう。
【0052】
弾性繊維は、流動性および/または混和性を高めるためにワックスも含んでいてよい。ワックスの好適な量は、弾性化合物の重量を基準として0.1から30重量%、好ましくは1から15重量%である。動物、昆虫、植物、合成、および鉱物系ワックスを使用してもよく、鉱物油から誘導されたものが好ましい。鉱物油系ワックスの例としては、ブライトストックスラックワックス、中質機械油(medium machine oil)スラックワックス、高融点ワックス、およびマイクロクリスタリンワックスが挙げられる。スラックワックスの場合は、油が25重量%まで存在してもよい。ワックスの凝固点を上昇させるための添加剤も存在してもよい。
【0053】
弾性繊維は油も含んでいてもよい。繊維の加工性を改善するかまたは柔軟性を高めるために油を添加してもよい。ブロックコポリマーの分布制御弾性ブロックと混和性のある種類の油が特に好ましい。より高い芳香族含有量の油であれば十分であるが、揮発性が低く、芳香族含有量が50%未満である石油系の白油が好ましい。この油はさらに、揮発性が低いことが必要であり、好ましくは初留点が約260℃を超える。油の使用量は、ゴムまたはブロックコポリマー100重量部に対し約0から約300重量部、好ましくは約20から約150重量部の間で変化する。
【0054】
弾性化合物は、典型的には、酸化防止剤または酸化防止剤の混合物を添加することによって安定化されている。立体障害フェノール系安定剤が使用されるか、または日本国特許第94055772号に開示されているように、リン系安定剤が立体障害フェノール系安定剤と組み合わせて用いられるか、または日本国特許第94078376号に開示されているように、フェノール系安定剤の組合せが使用される場合が多い。
【0055】
本発明の弾性繊維に、顔料、染料、蛍光増白剤、青味剤、難燃剤等の他の添加剤を使用してもよい。
【0056】
本発明の弾性繊維は、様々な物品の形成に使用することができる。このような物品としては、弾性モノフィラメント、織布、スパンボンド不織布またはフィルター、メルトブローン不織布、ステープルファイバー、より糸または接着されたカードウェブ等が挙げられる。これらの物品の作製に通常用いられる方法のいずれかを用いることができる。
【0057】
特に不織布またはウェブは、当該技術分野において周知の方法のいずれかによって形成することができる。一般にスパンボンドと称される1つの方法が当該技術分野において周知である。米国特許第4405297号には典型的なスパンボンド法が記載されている。スパンボンド法は、一般に、紡糸口金を通して溶融物から繊維を押出成形することと、空気流を用いて繊維を急冷および/または延伸することと、不織ウェブを捕集および接着することとを含む。不織ウェブの接着は、典型的には、ウェブの繊維間に複数の中間接着を生じさせるのに有効な任意の熱的、化学的、または機械的方法(水、音波、または空気による絡合やニードルパンチ法等)によって達成される。本発明の不織ウェブは、米国特許第5290626号に記載されているようなメルトブローン法を用いて形成することもできる。不織ウェブを不織ウェブ自体の上に幅方向に折り畳んで接着することによって、不織ウェブからカードウェブを形成してもよい。
【0058】
本発明の不織布は、おむつ、ウエストバンド、ストレッチパネル、使い捨て衣類、医療用および個人用衛生用品、フィルター等の様々な弾性布帛に使用することができる。
【0059】
本発明の弾性モノフィラメントは様々な目的に使用される弾性長単繊維であり、紡糸、延伸、急冷、および巻取りを含む、当該技術分野において周知の方法のいずれかによって形成することができる。本明細書において用いられるステープルファイバーとは、連続共押出しされた複合繊維を切断または短く切断した(chopped)断片を意味する。
【0060】
弾性繊維の糸は一般的な方法によって形成することができる。米国特許第6113825号には、糸の形成の一般的な方法が教示されている。通常、この方法は、多数の繊維を紡糸口金から溶融押出成形することと、この繊維を一緒に延伸および巻き取ることによってマルチフィラメント糸を形成することと、この糸を1つ以上の熱処理領域を場合により通過させて伸長(extending)または延伸(stretching)することと、この糸を冷却および巻き取ることとを含む。
【0061】
本発明の物品は、単独で使用しても、弾性繊維から作製されるかまたは他の種類の材料から作製された他の物品と組み合わせて用いてもよい。例えば、不織ウェブを弾性モノフィラメントと組み合わせて弾性ストレッチパネルを提供することができる。他の例としては、不織ウェブを他の非弾性不織ウェブまたは多くの種類のポリマーフィルムと接着してもよい。
【0062】
本発明の複合繊維の製造方法においては、熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を2つの別個の溶融物用ポンプに押し出すために2つの別個の単軸押出機が用いられる。溶融物用ポンプを出たポリマーは、一連の板および邪魔板を経て紡糸口金内に集められて複合形状になる。紡糸口金を出ると、繊維は冷気急冷キャビネット内で冷却/急冷される。急冷後、繊維は吸引装置または一連の冷却ロールによって延伸される。冷却ロールが使用される場合、繊維はワインダーに引き取られる。吸引装置が使用される場合、繊維は吸引装置の下方にある好適な容器に捕集することができ、または対象とする基板上に繊維を直接紡糸することにより例えば不織物品が形成される。
【0063】
この方法の1つの重要な態様は、弾性繊維が製造可能な速度である。本発明の繊維によって得られる高い流動特性により、高い押出速度および高い紡糸速度が可能になる。本発明における「紡糸速度」という用語は、最終繊維が巻き取られるかまたは基板上に堆積される速度を意味し、典型的には1分当たりのメートルとして測定される。業務用の設備は高い押出速度および紡糸速度で動作するので、押出速度および紡糸速度が高いことは実用上重要である。このようにして、工業的に魅力的な速度を達成することができる。本発明においては、1分当たり少なくとも500メートル(mpm)の紡糸速度が求められる。少なくとも1000mpmの紡糸速度がより好ましく、少なくとも2000mpmの紡糸速度が最も好ましい。「ポリマー処理量」という用語は、繊維組成物が紡糸口金から押し出される速度を意味し、典型的には、1孔および1分当たりのポリマーのグラム数で測定される。
【0064】
本明細書において開示される用途のためには、細いデニールの繊維が好ましい。このような細いデニールの繊維は、こうして構成される物品において弾性挙動にごく少量の材料を使用して影響を与えることができるという意味で極めて効率的な弾性材料である。本発明においては、デニール数(繊維9000m当たりのグラム数)が0.1から30の複合繊維を作製することができる。より好ましくは、繊維のデニール数は0.5から20であり、最も好ましくは、繊維のデニール数は1から10である。
【実施例】
【0065】
本明細書において用いられる「弾性」という用語は、付勢力によって伸縮させることができる、すなわち、少なくとも約60パーセント(すなわち、付勢力をかけずに緩めたときの長さの少なくとも約160パーセントである、付勢力をかけて引き伸ばした長さまで)伸長可能であり、引き伸ばして伸長させている力を解放すると、この伸びが少なくとも50パーセント回復する任意の材料を意味する。仮の例を挙げると、ある材料の1インチの試料が少なくとも1.60インチ(4.06cm)に伸長可能であり、1.60インチ(4.06cm)に伸長させてから解放すると、1.30インチ(3.30cm)以下の長さまで回復するものである。多くの弾性材料は、60パーセントよりもはるかに長く(すなわち緩めていたときの長さの160%よりもはるかに長く)伸長することが可能であり、例えば100パーセント以上伸長し、これらの多くは、引き伸ばしている力を解放すると、実質的に初期の緩められていたときの長さまで、例えば、初期の緩められていたときの長さの105パーセント以内まで回復する。
【0066】
弾性繊維から形成された糸の弾性を測定した。この糸は、72本の別々の長繊維からなっていた。この糸を、100%伸長するまで予め引き伸ばした後、緩めておいた。次いでこの糸を周期的に50パーセント伸長するように、1分当たり10インチの速度で1周期伸長した。弾性を、回復した伸びの百分率として決定した。
【0067】
本明細書において用いられる「テナシティ」とは、1デニール当たりのグラムで測定される糸の引張強さの尺度を指す。
【0068】
実施例1−10
ポリプロピレンの鞘部および分布制御ブロックコポリマーの芯部を有する複合繊維を30/70および20/80の鞘/芯比で作製して試験した。図2に、巻き取る前の、鞘/芯比が20/80の代表的な繊維を示す。ポリプロピレン鞘部は、公称メルトフローレート(MFR、230℃、2.16kg)が38の、ダウケミカルカンパニー(Dow Chemical Company)からのホモポリマー(5D49)とした。分布制御ブロックコポリマー(ポリマーA)は、分布制御スチレンエチレン/ブチレン中間ブロックを有する直鎖状のカップリングブロックコポリマー(coupled block copolymer)であった。ポリマーA全体のスチレン換算ピーク分子量は68300であり、総スチレン含有量は47重量%であった。スチレン末端ブロックは7200のピーク分子量を有していた。分布制御中間ブロックは、中間ブロックのスチレンおよびブタジエンの総量を基準としてスチレンモノマーを25%含んでいた。中間ブロックのスチレンブロック性は3%であり、これは、分布制御合成手順によってのみ達成できる、スチレン単位の分離の程度が高いことを示していた。ポリマーのカップリング効率は95%であった。メルトフローレートは、230℃、2.16kgにおいて55g/10分であった。複合化技術およびヒルズインコーポレーテッド(Hills Inc)からの紡糸口金を用いて従来の高速紡糸法により繊維を作製した。紡糸口金は、大きさが0.35mmの孔を72個有するものとした。ポリマーの処理量を0.77g/孔/分とした。表1に、繊維の典型的な紡糸性能および機械特性を示す。表1から、デニールの細い繊維が高い紡糸速度で得られた(実施例5、6、9、および10)ことがわかる。この繊維はまた、良好な繊維引張強さおよび高い破断伸びを有していた。弾性測定から示されるように、弾性性能もすべての実施例について非常に良好である。
【0069】
【表1】

【0070】
比較例11−14
実施例11から14は、ポリマーAのみおよびポリプロピレン(5D49)のみからの単成分繊維を表す。この繊維を、実施例1から10の方法を用いて押出成形した。しかし、各比較例の場合は、単成分のみを押出成形した。両成分を同時に共押出しすることは行わなかった。紡糸口金は、大きさが0.35mmの孔を72個有するものとした。ポリマー処理量を0.77g/孔/分とした。比較例11のポリマーAのみのモノフィラメントは紡糸可能であったが、糸は過度の粘着性を有していた。繊維を巻き取るとブロッキングした。スパンボンド法を実施する際は、均一な布帛の形成を確実にするために繊維が互いに付着しないことが重要である。比較例12から14は、ポリプロピレンのみから作製された繊維を例示する。ポリプロピレンは優れた紡糸性能および引張強さを提供することができる。しかし、弾性特性に関しては、本発明の実施例1から10に比べて劣っている。本発明の実施例1から10は、良好な引張強さおよび優れた弾性特性を兼ね備えている。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例15
36個の島部を有する海島型構造の紡糸口金を使用し、実施例1から10の方法を用いて複合繊維を共押出しした。図1に、このようにして作製された繊維を示す。紡糸口金は、大きさが0.35mmの孔を72個有するものとした。ポリマーの処理量を0.77g/孔/分とした。ポリプロピレンの海部およびポリマーAの島部を海/島比20/80で有する複合繊維とした。ポリプロピレンの海部はダウケミカルカンパニーからのホモポリマー5D49とした。エラストマー芯部をポリマーAとした。この紡糸構成に関する紡糸性能および機械特性を表3に示す。高速紡糸と良好な繊維引張強さおよび高い破断伸度を有する細い繊維が達成されたことがわかる。これに類似した鞘芯型複合繊維を実施例9として作製した。これと同等な海島型形態を有する繊維は、これよりも伸びが著しく高く、また触感が著しく軟らかかった。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例16−21
スパンボンド法を模擬するため、6インチ幅の単独の吸引装置[ヒルズインコーポレーテッドデザイン(Hills Inc design)]によって同様に複合繊維を紡糸した。紡糸口金は、0.35mmの大きさの孔を72個有するものとした。表4の実施例16から21は、鞘/芯型弾性繊維およびスパンボンド法を用いて弾性不織布を作製できることを実証している。鞘部をポリプロピレン(5D49)とし、エラストマー芯部をポリマーAとした。吸引装置内の空気圧を用いて最大紡糸速度を定めやすくした。すなわち、圧力が高くなるほど紡糸速度は高くなる。紡糸口金1孔当たりのポリマー処理量(0.77g/孔/分)を実施例のすべてについて同じにした。最終繊維径から紡糸速度を見積もった。
【0075】
【表4】

【0076】
実施例22−23および比較例24
ポリマーAおよびCrodamideVRXスリップ剤0.5重量%を含む弾性繊維を作製した(実施例22および23)。比較として、ポリマーAのみの繊維も作製した(比較例24)。従来の高速紡糸法を用いてヒルズインコーポレーテッドからの紡糸口金で単成分繊維を加工した。紡糸口金は、大きさが0.35mmの孔を72個有するものとした。ポリマー処理量を0.77g/孔/分とした。繊維実施例22および23は粘着性がなく、高速繊維紡糸法に好適であった。繊維比較例24は粘着性を有しており、このようにして作製された繊維は分離が困難であった。粘着性のある繊維は、繊維の接着が望ましい高速メルトブローン法に利用される可能性があるが、この比較用繊維は高速スパンボンド法には適していなかった。これらの単成分繊維は高い弾性を示している。
【0077】
【表5】

【0078】
実施例25
ポリアミドの鞘部およびエラストマー芯部としてのポリマーAを有し、鞘/芯比が20/80である複合繊維を、実施例1から10の方法に従い作製した。実施例25のポリアミド鞘部は、相対粘度が2.4から2.46であるBASFナイロン6グレード(BS400)とした。複合化技術およびヒルズインコーポレーテッドからの紡糸口金を用いた従来の高速紡糸法により繊維を作製した。紡糸口金は、大きさが0.35mmの孔を72個有するものとした。ポリマー処理量を約0.8g/孔/分とした。表6に、繊維の典型的な紡糸性能および機械特性を示す。引張および弾性特性に優れた直径の細い繊維が得られた。
【0079】
【表6】

【0080】
実施例26
ポリエステルの鞘部およびエラストマー芯部としてのポリマーAを20/80の鞘/芯比で有する複合繊維を、実施例1から10の方法に従い作製した。ポリエステルの鞘部は、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)[シェルケミカルカンパニー(Shell Chemical Co.)2700シリーズ]であり、LVNが0.92であった。複合化技術およびヒルズインコーポレーテッドからの紡糸口金を用いた従来の高速紡糸法により繊維を作製した。紡糸口金は、大きさが0.35mmの孔を72個有するものとした。ポリマー処理量を約0.8g/孔/分とした。表7に、繊維の典型的な紡糸性能および機械特性を示す。優れた初期引張特性を有する直径の細い繊維が得られた。
【0081】
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の海島型形態を有する複合繊維の束の断面を示す図である。弾性化合物は、熱可塑性ポリマーのマトリックス中に埋設されている超極細繊維を構成する。
【図2】本発明の鞘芯型形態を有する複合繊維の束の断面を示す図である。熱可塑性ポリマーの鞘部は、弾性化合物の各芯部を取り囲む環状領域として識別できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を含む複合繊維であって、前記弾性化合物は、A−B、A−B−A、(A−B)、(A−B−A)、(A−B−A)X、(A−B)X、またはこれらの混合物(nは、2から約30の整数であり、Xは、カップリング剤残部である。)の一般構造を有する選択的に水素化されたブロックコポリマーを含み、
a.水素化前は、Aブロックはそれぞれ、モノアルケニルアレーンポリマーブロックであり、Bブロックはそれぞれ、少なくとも1種の共役ジエンおよび少なくとも1種のモノアルケニルアレーンの分布制御コポリマーブロックであり;
b.水素化後は、前記アレーンの二重結合の約0から10%が還元されており、前記共役ジエンの二重結合の少なくとも約90%が還元されており;
c.Aブロックの数平均分子量はそれぞれ約3000から約60000であり、Bブロックの数平均分子量はそれぞれ約30000から約300000であり;
d.Bブロックはそれぞれ、前記Aブロックに隣接する、共役ジエン単位に富む末端領域および前記Aブロックに隣接していない、モノアルケニルアレーン単位に富む1つ以上の領域を含み;
e.前記水素化ブロックコポリマーにおけるモノアルケニルアレーンの総量は約20重量パーセントから約80重量パーセントであり;ならびに
f.Bブロックにおけるモノアルケニルアレーンの重量パーセントはそれぞれ、約10パーセントから約75パーセントであり;
g.ブロックBはそれぞれ、40モル%未満のモノアルケニルアレーンブロック性指数を有し、前記モノアルケニルアレーンブロック性指数は、ポリマー鎖上に2個の隣接するモノアルケニルアレーンを有するモノアルケニルアレーン単位の前記ブロックBにおける比率であり;ならびに
h.前記ブロックコポリマーのメルトインデックスは、ASTM D1238により、230℃、荷重2.16kgにおいて12グラム/10分以上である
複合繊維。
【請求項2】
前記モノ−アルケニルアレーンがスチレンであり、ならびに前記共役ジエンがイソプレンおよびブタジエンから選択される、請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
前記共役ジエンがブタジエンであり、ならびにブロックBにおける縮合ブタジエン単位の約20から約80モルパーセントが1,2−配置を有する、請求項2に記載の複合繊維。
【請求項4】
前記共役ジエンがブタジエンであり、ならびにBブロックにおける縮合ブタジエン単位の約20から約40モルパーセントが1,2−配置を有する、請求項2に記載の複合繊維。
【請求項5】
Bブロックにおけるスチレンの重量百分率が約10重量パーセントから約50重量パーセントであり、ならびにブロックBのスチレンブロック性指数が約25パーセント未満であり、前記スチレンブロック性指数が、ポリマー鎖上に2個の隣接するスチレンを有するスチレン単位の前記Bブロックにおける比率である、請求項2に記載の複合繊維。
【請求項6】
カップリング剤残部が、ジビニルアレーン、ハロゲン化ケイ素、アルコキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、脂肪族エポキシ、グリシジル芳香族エポキシ、およびジエステルから選択されるカップリング剤に由来する、請求項1から5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項7】
弾性化合物の芯部が、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、およびポリ(トリメチレンテレフタレート)から選択される熱可塑性ポリマーを50重量%までさらに含む、請求項1から6のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項8】
鞘芯型形態を有し、前記芯部が弾性化合物からなり、前記鞘部が熱可塑性ポリマーから主としてなり、熱可塑性ポリマー鞘部対弾性化合物芯部の体積比が1/99から50/50である、請求項1から7のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項9】
海島型形態を有し、前記島部が弾性化合物から主としてなり、前記海部が熱可塑性ポリマーから主としてなり、熱可塑性ポリマー海部対弾性化合物島部の体積比が1/99から50/50である、請求項1から7のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項10】
ブロックコポリマーのメルトフローレートが、ASTM D1238により、230℃、荷重2.16kgにおいて少なくとも40g/10分である、請求項1から9のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項11】
ブロックコポリマーが、250℃未満の秩序−無秩序相転移温度(ODT)を有する、請求項1から9のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項12】
前記Aブロックが、プラス80℃からプラス110℃のガラス転移温度を有し、前記Bブロックが、少なくとも約マイナス60℃を超える単一のガラス転移温度を有する、請求項1から9のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項13】
熱可塑性ポリマーが、ポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、およびポリ(トリメチレンテレフタレート)から選択される、請求項1から12のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項14】
熱可塑性ポリマーが、230℃、2.16kgにおいて、ASTM D1238により少なくとも20g/10分のメルトフローを有するポリプロピレンである、請求項13に記載の複合繊維。
【請求項15】
ブロックBのスチレンブロック性指数が約10パーセント未満である、請求項1から14のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の複合繊維を含む、弾性モノフィラメント、織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布もしくはフィルター、ステープルファイバー、より糸または接着されたカードウェブである物品。
【請求項17】
熱可塑性ポリマーおよび弾性化合物を共押出しすることを含む、鞘芯型または海島型形態を有する請求項1から15のいずれか一項に記載の複合繊維の製造方法であり、前記熱可塑性ポリマーおよび前記弾性化合物を別々の溶融物用ポンプを用いてダイから強制的に押し出すことによって、1本以上の繊維を、前記複合繊維の1フィラメント当たりのデニールが9000メートル当たり0.1から30グラムとなるように1分当たり少なくとも1000メートルの紡糸速度で形成する方法。
【請求項18】
スリップ剤0.01から2.0重量部および弾性化合物99.99から95重量部から本質的になる弾性繊維であり、前記弾性化合物は、A−B、A−B−A、(A−B)、(A−B−A)、(A−B−A)X、(A−B)X、またはこれらの混合物(nは、2から約30の整数であり、Xは、カップリング剤残部である。)の一般構造を有する選択的に水素化されたブロックコポリマーを含み、
a.水素化前は、Aブロックはそれぞれ、モノアルケニルアレーンポリマーブロックであり、Bブロックはそれぞれ、少なくとも1種の共役ジエンおよび少なくとも1種のモノアルケニルアレーンの分布制御コポリマーブロックであり;
b.水素化後は、前記アレーンの二重結合の約0から10%が還元されており、前記共役ジエンの二重結合の少なくとも約90%が還元されており;
c.Aブロックの数平均分子量はそれぞれ約3000から約60000であり、Bブロックの数平均分子量はそれぞれ約30000から約300000であり;
d.Bブロックはそれぞれ、前記Aブロックに隣接する、共役ジエン単位に富む末端領域および前記Aブロックに隣接していない、モノアルケニルアレーン単位に富む1つ以上の領域を含み;
e.前記水素化ブロックコポリマーにおけるモノアルケニルアレーンの総量は約20重量パーセントから約80重量パーセントであり;ならびに
f.Bブロックにおけるモノアルケニルアレーンの重量パーセントはそれぞれ、約10パーセントから約75パーセントであり;
g.ブロックBはそれぞれ、40モル%未満のモノアルケニルアレーンブロック性指数を有し、前記モノアルケニルアレーンブロック性指数は、ポリマー鎖上に2個の隣接するモノアルケニルアレーンを有するモノアルケニルアレーン単位の前記ブロックBにおける比率であり;ならびに
h.前記ブロックコポリマーのメルトインデックスは、ASTM D1238により、230℃、荷重2.16kgにおいて12グラム/10分以上である
弾性繊維。
【請求項19】
前記モノアルケニルアレーンがスチレンであり、ならびに共役ジエンがイソプレンおよびブタジエンから選択される、請求項18に記載の弾性繊維。
【請求項20】
前記共役ジエンがブタジエンであり、ならびにブロックBにおける縮合ブタジエン単位の約20から約80モルパーセントが1,2−配置を有する、請求項19に記載の弾性繊維。
【請求項21】
Bブロックにおけるスチレンの重量百分率が約10重量パーセントから約50重量パーセントであり、ならびにブロックBのスチレンブロック性指数が約25パーセント未満であり、前記スチレンブロック性指数が、ポリマー鎖上に2個の隣接するスチレンを有するスチレン単位の前記Bブロックにおける比率である、請求項19に記載の弾性繊維。
【請求項22】
スリップ剤が、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸金属化合物、ワックス、シリコーン、ならびにフッ素化されたアクリル、シリコーン、およびオレフィンから選択される、請求項18に記載の弾性繊維。
【請求項23】
ブロックBのスチレンブロック性指数が約10パーセント未満である、請求項18から22のいずれか一項に記載の弾性繊維。
【請求項24】
請求項18から23のいずれか一項に記載の弾性繊維を含む、弾性モノフィラメント、織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布もしくはフィルター、ステープルファイバー、より糸または接着されたカードウェブである物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−504928(P2009−504928A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526305(P2008−526305)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/034185
【国際公開番号】WO2007/027990
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(501140348)クレイトン・ポリマーズ・リサーチ・ベー・ベー (44)
【Fターム(参考)】