説明

分散型無機EL素子およびその製造方法

【課題】発光素子用として充分に高い発光輝度を有する分散型無機EL素子とその製造方法を提供する。
【解決手段】平行な2つの電極板間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子をバインダー中に分散してなる発光層を備える分散型無機EL素子であって、全硫化亜鉛蛍光体粒子数の90%以上は長軸長/短軸長で表される軸長比が1.05〜1.50であり、かつ全硫化亜鉛蛍光体粒子数の40%以上は、前記面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度である分散型無機EL素子、および電場を印加して、前記面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度となるように、硫化亜鉛蛍光体粒子配向させる工程を含む分散型無機EL素子の製造方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度で長寿命の分散型無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子およびその製造方法に関する。特に本発明は、硫化亜鉛結晶中に発光中心となる付活剤および共付活剤を含有する硫化亜鉛蛍光体粒子が分散している発光層を備える分散型無機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
分散型無機EL素子は表示装置用のバックライト等に利用されている。分散型無機EL素子は、バインダー(通常、フッ素系樹脂あるいはシアノ基を有する樹脂等の高誘電性樹脂)中に蛍光体粒子を分散させた発光層と、該発光層の両面にそれぞれ配置された2つの電極板とを備える素子である。通常、分散型無機EL素子は、絶縁破壊を防ぐために高誘電性樹脂中にチタン酸バリウムのような誘電体物質を分散させた誘電層をさらに備える。
【0003】
分散型無機EL素子の発光層に含まれる蛍光体粒子としては、硫化亜鉛結晶と発光中心となる付活剤および共付活剤を含有する硫化亜鉛蛍光体粒子が広く知られている(特許文献1、2参照)。かかる硫化亜鉛蛍光体粒子を用いた分散型無機EL素子は、発光輝度、発光寿命等の改良が試みられてきた。
【0004】
一方、硫化亜鉛結晶の(111)面が印加する電場の方向と平行な場合に、硫化亜鉛蛍光体粒子が最も強い発光輝度を示すことが知られている(非特許文献1参照)。
さらに、硫化亜鉛蛍光体粒子の軸長比(長軸長/短軸長)を3以上とし、硫化亜鉛結晶の(111)面を短軸と平行に配向させた硫化亜鉛蛍光体粒子を電極板の表面に塗工して、該硫化亜鉛蛍光体粒子の長軸が電極板と平行になるように配向させることによって発光輝度を向上できることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−132947号公報
【特許文献2】特開2004−2867号公報
【特許文献3】特開2004−131583号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】フィジカル・レビュー(Physical Review)、1962年、第125巻、第1号、p.149−158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3には、軸長比が3以上の硫化亜鉛蛍光体粒子を電極板の表面に塗布することによって硫化亜鉛蛍光体粒子の長軸方向を電極板と平行に配置した分散型無機EL素子が開示されているが、かかる分散型無機EL素子の発光輝度を向上させる上で重要となる硫化亜鉛結晶の(111)面と硫化亜鉛蛍光体粒子の短軸方向を平行にするための方法が十分開示されているとはいえない。また、軸長比が3以上の硫化亜鉛蛍光体粒子を作製することは、結晶成長を促すことが困難な上、該結晶成長の促進に助剤(金属酸化物等)が必要となり、かかる助剤を除去する煩雑なプロセスを必要とするので、工業化が容易でないという問題があった。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、製造の容易な軸長比の小さい硫化亜鉛蛍光体粒子を用いて、充分に高い発光輝度を示す分散型無機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、分散型無機EL素子の製造において、電場および/または磁場を印加して一定量の硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させ、さらに分散型無機EL素子の発光輝度向上に望ましい硫化亜鉛蛍光体粒子中の面状欠陥の配向角度とその分布を見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)平行な2つの電極板間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子が非流動性バインダー中に分散している発光層を備える分散型無機EL素子であって、
全硫化亜鉛蛍光体粒子数の90%以上は、長軸長/短軸長で表される軸長比が1.05〜1.50であり、かつ
全硫化亜鉛蛍光体粒子数の40%以上は、前記面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度である、分散型無機EL素子;
(2)全硫化亜鉛蛍光体粒子数の80%以上は、前記面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が40〜90度である、(1)に記載の分散型無機EL素子;
(3)前記硫化亜鉛蛍光体粒子が銅および塩素を含有する、(1)または(2)の分散型無機EL素子;および
(4)平行な2つの電極板の間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子が流動性バインダーに分散している流動性マトリックス層を配置する工程A、
電場を印加して、面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度となるように、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させる工程B、
前記工程Aおよび工程Bの後に流動性マトリックス層を固定する工程Cを含む、(1)〜(3)いずれかの分散型無機EL素子の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高い発光輝度を有する分散型無機EL素子、および当該分散型無機EL素子の効率的な製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の分散型無機EL素子の概要を示す図である。
【図2】本発明の分散型無機EL素子における発光層のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において「〜」はその両端の値を含む。
[1.分散型無機EL素子]
(1)発光層
本発明の分散型無機EL素子は、平行な2つの電極板間に面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子を非流動性バインダー中に分散してなる発光層を備える。発光層とは、光を発する層であり、硫化亜鉛蛍光体粒子と該硫化亜鉛蛍光体粒子を分散し保持するための非流動性バインダーとを含む。非流動性バインダーは、流動性バインダーを固化してなる。非流動性バインダーは、光の吸収率が充分に低ければよく、その例には、シアノエチルセルロース系樹脂、シアノエチル化プルラン、シアノエチル化ポリビニルアルコール等のシアノエチル化ポリマー;ポリフッ化ビニリデンのような比較的誘電率の高いポリマー;およびポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂が含まれる。非流動性バインダーは、光硬化性または熱硬化性モノマーの硬化物であってもよい。発光時の発熱または通電による発熱により性状が変化しないために、ガラス転移温度は40℃よりも高いことが好ましい。BaTiOやSrTiOなどの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整してもよい。混合には、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機、遠心脱泡機等を使用できる。
【0014】
発光層の厚みは、10〜200μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。発光層が厚すぎると、厚み方向において所望の状態に配向しない硫化亜鉛蛍光体粒子の存在確率が増えて発光輝度が低くなる場合があり、一方で発光層が薄すぎると、厚み方向における硫化亜鉛蛍光体粒子の存在確率が低下して発光輝度が低くなる場合がある。
【0015】
硫化亜鉛蛍光体粒子とは、硫化亜鉛結晶、付活剤、および共付活剤を含有する粒子であり、外部からのエネルギーを光に変換する粒子である。本発明で用いる硫化亜鉛蛍光体粒子は、硫化亜鉛結晶間に面状欠陥を有する。かかる面状欠陥とは、硫化亜鉛結晶の結晶面のずれに起因して起こる面欠陥であり、具体的には双晶面ならびに相界面を指す。本発明に用いる硫化亜鉛蛍光体粒子が含有する硫化亜鉛結晶は実質的に硫化亜鉛立方晶からなり、実質的に硫化亜鉛立方晶の1つの(111)面と平行な面状欠陥を有することが極めて望ましい。かかる面状欠陥を製造するには、硫化亜鉛六方晶に超音波などの衝撃を加えることで該硫化亜鉛六方晶の(002)面に平行な面状欠陥を形成した後、加熱などの手段によって硫化亜鉛立方晶に転移させることが好ましい。面状欠陥の方向は、硫化亜鉛蛍光体粒子を塩酸等の酸でエッチングした際に粒子表面に現れる積層構造を観察することで容易に特定できる。
【0016】
硫化亜鉛蛍光体粒子が含有する付活剤とは、電場を印加することによってアクセプターとなる物質である。付活剤の例には、銅、マンガン、銀、金等の遷移金属元素、およびセリウム、ユーロピウム、テルビウム等の希土類金属元素が挙げられる。電場および/または磁場で硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させやすいという観点から、付活剤としては、銅、金、銀または希土類金属元素が好ましく、銅がより好ましい。
【0017】
付活剤の量は所望する発光色により異なるが、通常、質量基準で硫化亜鉛蛍光体粒子に対し50〜50000ppmであることが好ましく、100〜30000ppmであることがより好ましい。
【0018】
硫化亜鉛蛍光体粒子が含有する共付活剤とは、電場を印加することによってドナーとなる物質である。共付活剤の例には、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素、およびアルミニウム、ガリウム等の金属元素が挙げられる。共付活剤の量は通常、付活剤1質量部に対して0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。
【0019】
本発明の分散型無機EL素子において、全亜鉛蛍光体粒子数の90%以上は、軸長比(長軸長/短軸長)が1.05〜1.50である。かかる軸長比が1.05〜1.50である硫化亜鉛蛍光体粒子の数は全粒子数の95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。製造の容易さから軸長比は1.10〜1.50の範囲であることがより好ましい。本発明において軸長比が1.05〜1.50である硫化亜鉛蛍光体粒子は略球状であってもよい。軸長比が1.50を超える硫化亜鉛蛍光体粒子は結晶成長が困難なため製造が難しい上、発光輝度が低下する。
【0020】
硫化亜鉛蛍光体粒子の大きさは特に限定されないが、取扱い性、生産の歩留まり等の経済性を考慮すると、通常、メジアン径が10〜30μmであることが好ましく、14〜27μmであることがより好ましい。
【0021】
硫化亜鉛蛍光体粒子の調製方法は特に限定されず、例えば特許文献1に示されるような液相方法によって得られた前駆体を焼成する方法、また特許文献2に示されるような硫化亜鉛粉末に発光中心を固体混合して焼成する方法等により調製できる。
【0022】
硫化亜鉛蛍光体粒子の含有量は、発光層中の30〜90体積%が好ましく、40〜80体積%がより好ましく、50〜70体積%がさらに好ましい。硫化亜鉛蛍光体粒子の含有量が30体積%未満であると発光輝度が相対的に低くなることがある。また硫化亜鉛蛍光体粒子の含有量が90体積%超であると、発光層において硫化亜鉛蛍光体粒子を保持する非流動性バインダーの量が少なくなり、発光層に空隙が多く発生するため、電場が効率よく硫化亜鉛蛍光体粒子に印加されずに発光輝度が低下することがある。
【0023】
発光層中の全硫化亜鉛蛍光体粒子数の40%以上は硫化亜鉛蛍光体粒子が有する面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度に配向している。本発明において、電極板主面とは分散型無機EL素子が備える2つの電極板の内側の主面を意味し、本発明の分散型無機EL素子は該二つの内側の主面が平行である。この結果、発光層の厚さは均一になり、電極板からの電場は発光層に均一に印加されるので均一な発光が得られる。
【0024】
以下、本発明の分散型無機EL素子の配向状態について図1を参照しながら説明する。図1中、10は電極板、12は電極板主面、14は電極板主面の法線、20は硫化亜鉛蛍光体粒子、22は硫化亜鉛蛍光体粒子が有する面状欠陥、24は該面状欠陥の法線、30は発光層である。面状欠陥の法線24と電極板主面の法線14とのなす角度としては、図1に示すとおりα、βが存在するが、本発明において、硫化亜鉛蛍光体粒子の面状欠陥の法線24と電極板主面の法線14とのなす角度とは、90度以下の角度として定義されるαを指す。
【0025】
硫化亜鉛蛍光体粒子が有する面状欠陥22は該硫化亜鉛蛍光体粒子が含有する硫化亜鉛結晶の(111)面と平行である。すなわち面状欠陥の法線24は、硫化亜鉛蛍光体粒子が含有する硫化亜鉛結晶の(111)面と垂直である。
【0026】
通常、電極板は厚さが均一なので1の電極板の両側の主面は平行であるが、より正確には、本発明の分散型無機EL素子を構成する電極板主面は、電極板のうち発光層と対面する側(すなわち内側)の主面である。後述するとおり、2つの電極板の内側の主面はそれぞれ平行であり、電極板主面の法線14は一方向に特定される。電場は電極板の厚み方向(短手方向)に印加されるので、電極板主面の法線14は、電場の方向に平行である。
【0027】
面状欠陥の法線24と電極板主面の法線14は電子顕微鏡像やマイクロスコープ像により特定できる。本発明の分散型無機EL素子において、全硫化亜鉛蛍光体粒子数の40%以上はαが70〜90度である。αがこの範囲にあることは、硫化亜鉛蛍光体粒子20の面状欠陥の角度が電場の方向と平行もしくは平行に近い状態にあることを意味する。硫化亜鉛結晶の(111)面と平行な面状欠陥の角度が印加する電場の方向と一致すると最も高い発光輝度を示すと推定される。よって全硫化亜鉛蛍光体粒子数の40%以上の粒子が、前記αが70〜90度となるように配向していると高い発光輝度が得られる。このように配向する硫化亜鉛蛍光体粒子は全硫化亜鉛蛍光体粒子数の50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。加えて、この場合のαは、80〜90度であることが好ましく、85〜90度であることがより好ましい。
【0028】
本発明においては、発光輝度をより高める観点から、さらに、前記αが40〜90度である硫化亜鉛蛍光体粒子が全硫化亜鉛蛍光体粒子数の80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
(2)電極板
本発明の分散型無機EL素子は平行な2つの電極板を備える。前述したとおり「平行な2つの電極板」とは電極板主面すなわち、「それぞれの電極板の内側の主面が平行な2つの電極板」を意味する。2つの電極板が平行であることで発光層の厚さが均一になり、均一に発光する分散型無機EL素子を形成できる。電極板は光透過性のある透明電極板、光透過性のない背面電極板のいずれであってもよい。分散型無機EL素子が2つの透明電極板を備える場合、発光層の両面から光を取り出すことができる。また、分散型無機EL素子が1つの透明電極板と1つの背面電極板を備える場合、発光層の透明電極板が位置する片面から光を取り出すことができる。分散型無機EL素子が2つの背面電極板を備える場合、発光層の側面から光を取り出すことができる。透明電極板および背面電極板については後述する。
【0030】
(2−1)透明電極板
前述のとおり、本発明の分散型無機EL素子は電極板として透明電極板を備えてもよい。該透明電極板の材料としては、例えば、錫をドープした酸化インジウム、フッ素をドープした酸化錫、アンチモンをドープした酸化錫、アルミニウムをドープした酸化亜鉛、ガリウムをドープした酸化亜鉛等の酸化物などの微粒子とポリマーからなる導電性ペースト、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造物、ポリアニリン、ポリピロール等のπ共役系高分子等が含まれる。透明電極板の厚みは特に限定されない。
【0031】
透明電極板の形成方法に特に制限はなく、スパッタリング、真空蒸着等の気相法や、ペースト状のITOや酸化錫を塗工またはスクリーン印刷する方法、あるいは透明基板上でITO等の透明導電膜を加熱して成膜する方法等を使用できる。
【0032】
透明電極板の表面抵抗率は、1000Ω/□以下であることが好ましく、0.1Ω/□〜800Ω/□がより好ましく、0.2Ω/□〜500Ω/□がさらに好ましい。透明電極板の表面抵抗率は、JIS K6911に準じて測定できる。透明電極板における波長400〜800nmの光線の透過率は、通常70%以上が好ましいが、発光輝度の低下を防ぐため80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0033】
(2−2)背面電極板
本発明の分散型無機EL素子は電極板として背面電極板を備えてもよい。背面電極板は、任意の不透明な導電性材料からなり、かかる導電性材料は、無機EL素子の形態や製造工程の温度等に応じて選択でき、その例としては、金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウム等の金属、グラファイトが挙げられる。光を吸収しにくい材料であれば、発光層から出た光を反射して出光方向へ向けることができるので分散型無機EL素子の発光効率が高くなり好ましい。背面電極板の厚みは特に限定されない。
【0034】
(3)誘電層
本発明の分散型無機EL素子は通常、電極板間に誘電層をさらに含む。誘電層とは、発光層の絶縁破壊を防止するために設けられる高誘電性樹脂中に誘電性の高い無機物を誘電体物質として分散させた層であり、絶縁層とも称される。絶縁層に用いる高誘電性樹脂としては、フッ素系樹脂あるいはシアノ基を有する樹脂が挙げられる。また誘電層は、誘電体物質の薄膜結晶層で構成されてもよく、誘電体物質の粒子で構成されてもよい。これらは単独で使用してもよいし複合して使用してもよい。該誘電層は、発光層の片側に設けてもよいし両側に設けてもよいが、エネルギー効率を考慮すると両側に設けることが好ましい。誘電体物質は、誘電率と絶縁性とが高く、かつ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば、特に限定されないが、金属酸化物または窒化物が好ましい。金属酸化物または窒化物の具体例として、TiO、BaTiO、SrTiO、PbTiO、KNbO、PbNbO、Ta、BaTa、LiTaO、Y、Al、ZrO、AlON、ZnSが挙げられる。これらは、単独で使用しても、複数種を合わせて使用してもよい。
【0035】
誘電層が誘電体物質の薄膜結晶層で構成される場合、該薄膜結晶層は、基板に化学気相成長(CVD)、スパッタリング等の気相法で形成した薄膜であっても、Ba、SrやTiなどの金属のアルコキシド等より形成されたゾルゲル膜またはその焼結膜であってもよい。
【0036】
誘電層が誘電体物質の粒子で構成される場合、該粒子の大きさは、硫化亜鉛蛍光体粒子の誘電層への混入防止、光の誘電層中での反射によるロスの防止等を考慮すると、小さいほど好ましく、硫化亜鉛蛍光体粒子のメジアン径の1/3〜1/1000が好ましい。
誘電層の厚みは特に限定されないが、通常5〜2000nmが好ましい。
【0037】
[2.分散型無機EL素子の製造方法]
本発明の分散型無機EL素子は、平行な2つの電極板の間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子が流動性バインダーに分散している流動性マトリックス層を配置する工程A、電場を印加して、面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度となるように、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させる工程B、ならびに前記工程Aおよび工程Bの後に、配向した硫化亜鉛蛍光体粒子を固定する工程Cを含む方法で製造されることが好ましい。さらに誘電層を形成する工程Dを含んでもよい。以下、それぞれ説明する。
【0038】
(1)工程A
工程Aは、平行な2つの電極板の間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子が流動性バインダーに分散している流動性マトリックス層を配置する工程である。
【0039】
工程Aで用いる電極板は、一方または両方をそのまま本発明の分散型無機EL素子の電極板としてよい。本工程に使用する電極板の材質は、既に述べた分散型無機EL素子の電極板と同じ材質としてよい。電極板を分散型無機EL素子の電極板として用いない場合は、工程Cの後に電極板を取り外して、別の電極板を設けて分散型無機EL素子とすることができる。さらに、発光層の表面に工程Dによってさらに誘電層を設ける場合、工程Dの後に別の電極板を設けることが好ましい。
【0040】
2つの電極板が平行に配置されていることで、工程Bにおいて一方向の電場を印加でき、硫化亜鉛蛍光体粒子が有する面状欠陥の法線と形成される電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度の範囲に配向する。
【0041】
工程Aでは、前記硫化亜鉛蛍光体粒子と流動性バインダーとを含む流動性マトリックスを調製し、当該流動性マトリックスを一方の電極板の表面に塗工して流動性マトリックス層を形成した後、当該流動性マトリックス層上に他方の電極板を配置する。硫化亜鉛蛍光体粒子を含む流動性マトリックスを電極板に塗工する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、スライドコート法、またはスプレー塗工法が挙げられ、スクリーン印刷法、スライドコート法が好ましい。スクリーン印刷法においては、前記硫化亜鉛蛍光体粒子を含む流動性マトリックスを、スクリーンメッシュを通して塗工する。スクリーン印刷法は、スクリーンメッシュの厚さおよび開口率、ならびに塗工回数を選択することにより塗工量を制御でき、大面積化も容易である。
【0042】
流動性バインダーとは前記硫化亜鉛蛍光体粒子を分散させうる、流動性を有する分散媒である。かかる流動性バインダーとしては、ポリマーを有機溶媒に溶解したポリマー溶液、熱硬化性モノマー、光硬化性モノマーが挙げられる。ポリマー溶液は、溶媒が除去されることで固化されて、発光層における非流動性のバインダーとなる。かかるポリマー溶液に用いることができるポリマーに特に限定はないが、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、シアノエチルセルロース、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルプルランなどのシアノ樹脂が挙げられる。また、かかるポリマー溶液に用いることができる有機溶媒としては、該ポリマーを溶解できるものであればよいが、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類が挙げられる。熱硬化性モノマー、光硬化性モノマーはそれぞれ熱、光によって硬化されて非流動性バインダーとなる。以下、非流動性バインダーを単に「バインダー」ともいう。流動性バインダーが、ポリマー溶液である場合、有機溶媒/ポリマー比(質量比)は0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。流動性バインダーが、熱硬化性モノマーまたは光硬化性モノマーである場合、公知の熱硬化性モノマー、光硬化性モノマーを用いてよい。熱硬化性モノマーとしては、オキセタンなどの環状エーテル、スチレンなどの不飽和炭化水素、メチロールフェノール、メチロールメラミンが挙げられる。光硬化性モノマーとしてはアクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、イミド、イソシアネートなどが挙げられる。
【0043】
流動性バインダーの室温における粘度は、塗工作業性および硫化亜鉛蛍光体粒子の配向性に影響する。流動性バインダーの25℃での粘度は0.1〜100Pa・sが好ましい。当該粘度が100Pa・sよりも高いと、塗工作業性が低下し、かつ流動性マトリックス層における硫化亜鉛蛍光体粒子が配向しにくくなる。また、当該粘度が0.1Pa・sよりも低いと、流動性マトリックス層において硫化亜鉛蛍光体粒子が沈降することがある。かかる粘度は、レオメーターとも称される粘度・粘弾性測定装置により測定できる。
【0044】
硫化亜鉛蛍光体粒子の濃度は、硫化亜鉛蛍光体粒子を含む流動性マトリックス中、0.1〜90質量%が好ましいが、塗工性、配向性を考慮すると0.2〜80質量%がより好ましい。
【0045】
(2)工程B
工程Bでは、前記流動性マトリックス層中の硫化亜鉛蛍光体粒子に電場を印加して、硫化亜鉛蛍光体粒子が有する面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度となるように、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させる工程である。
【0046】
工程Bで印加できる電場は、直流印加または交流印加のいずれでもよい。前工程で得た流動性マトリックス層の厚み方向に電位差が生じるように直流または交流電圧をかけることにより電場を印加できる。印加電圧の強さは特に限定されず、直流印加電圧は0.001〜5V/μm、交流印加電圧は0.01〜50V/μmが好ましい。交流電圧の周波数は10Hz〜100kHzが好ましい。このように電場を印加すると、硫化亜鉛蛍光体粒子に分極が生じ、静電引力により前記αが70〜90度となるように硫化亜鉛蛍光体粒子が配向する。
【0047】
(3)工程C
工程Cは、工程Bで配向した硫化亜鉛蛍光体粒子を含む流動性マトリックス層を固化させることにより固定する工程である。工程Cにより発光層が形成される。
【0048】
例えば有機溶媒によってポリマーを溶解させて得た流動性バインダーを用いて流動性マトリックス層を形成した場合、かかる流動性マトリックス層から有機溶媒を除去することにより流動性マトリックス層を固化することで硫化亜鉛蛍光体粒子を固定できる。また、流動性バインダーとして熱硬化性モノマーまたは光硬化性モノマーを用いた場合、加熱または光照射処理して前記モノマーを硬化させることにより、流動性マトリックス層を固化できる。本発明においては、作業性の観点から、熱または光による硬化によって流動性マトリックス層を固化することが好ましい。特に流動性マトリックス層を加熱する場合、当該層の流動性が変化して、硫化亜鉛蛍光体粒子の配向状態が変化することがある。このような観点からは、流動性マトリックス層を光硬化して固化する方法が好ましい。
このようにして得られた発光層の硫化亜鉛蛍光体粒子は、全粒子の40%以上が面状欠陥の法線と発光層主面の法線とのなす角度が70〜90度の範囲に配向している。
【0049】
(4)工程D
工程Dは誘電層を形成する工程である。誘電層は、発光層の両面または片面に形成することが好ましい。工程Dは工程Cの後に実施することが好ましい。すなわち、工程Cで得た両面に電極板を備える発光層から電極板を取り外した後、発光層表面に誘電層を形成する。誘電層は、発光層と同様に、誘電体物質の粒子を流動性バインダー(例えば高誘電性樹脂の溶液)に分散した分散液を用いて、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、スライドコート法、またはスプレー塗工法等により発光層の表面に形成できる。用いることができる誘電体物質は、既に述べたとおりである。これらの配合比は特に制限されない。
【0050】
上記製造方法において、工程Dの後、形成した誘電層の上に、さらに硫化亜鉛蛍光体粒子を含む流動性マトリックス層を配置し、次いで工程B〜工程Dを実施して、2層目の発光層、誘電層を形成してもよい。またさらに同様の工程を複数回行ない、発光層と誘電層がそれぞれ複数層形成されている分散型無機EL素子を製造してもよい。
【0051】
(5)流動性マトリックス層の形成と硫化亜鉛蛍光体粒子の配向を同時に行なう工程
また、上記工程Aおよび工程Bの代わりに、平行な2つの板状の電極板を準備し、一方の電極板の面に面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子を、他方の電極板の硫化亜鉛蛍光体粒子と対向する面に流動性バインダー層を配置し、前記2つの電極板間に静電場を印加して、面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度αが70〜90度となるように、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させながら、当該粒子を前記流動性バインダー層中に包埋させる工程を実施してもよい。この方法によれば、静電場によって硫化亜鉛蛍光体粒子表面に電荷が生じ、面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度となるように配向するので、前記工程AとBとを同時に行なうことができる。この方法は、例えば、1)2つの電極板を1〜100cmの間隔をおいて向きあうように上下平行に配置し、2)上に配置した第一電極板の下面に流動性バインダーを塗工して流動性バインダー層を形成し、下に配置した第二電極板の上面に硫化亜鉛蛍光体粒子を配置し、3)第一および第二電極間に静電場を印加して硫化亜鉛蛍光体粒子を前記流動性バインダー層中に包埋させることで実施できる。
【0052】
静電場を発生させる電圧は、通常、500V〜500kVが好ましく、1kV〜100kVがより好ましい。このようにして静電場を印加すると、前記αが70〜90度となるように硫化亜鉛蛍光体粒子が配向しながら電極板表面の接着層に付着し、配置される。
【0053】
当該方法で用いる流動性バインダーとしては、前記工程Aで述べたものと同じものを使用できる。しかしながら電極板からの液垂れ防止、硫化亜鉛蛍光体粒子の包埋性などの観点から、当該流動性バインダーの25℃での粘度は30〜100Pa・sが好ましい。
【0054】
(6)磁場を印加する工程を含む製造方法
本発明の分散型無機EL素子の発光層の形成において、支持体上に配置した硫化亜鉛蛍光体粒子を含む流動性マトリックス層に磁場を印加することによって該粒子を配向させた後、上記工程Cと同様の方法で硫化亜鉛蛍光体粒子を固定する方法を採用することもできる。磁場は硫化亜鉛蛍光体粒子の外から印加できればよく、永久磁石、電磁石、超伝導磁石等を用いて印加できる。具体的には、前工程で形成された流動性マトリックス層の主面法線方向に磁石を接触させる等により、磁場を印加できる。このように磁場を印加すると、硫化亜鉛蛍光体粒子に磁化力が生じ、磁束密度の高い方向に引力が働いて、前記αが70〜90度となるように硫化亜鉛蛍光体粒子が配向する。
【0055】
磁場の大きさは、変動の最大値が0.05T(テスラ)〜10Tが好ましく、0.5T〜10Tがより好ましい。また、磁場は周期的あるいは非周期的に変動してもよい。周期的変動の場合には、回転速度ωを、流動性マトリックス層の磁化容易軸が静磁場下で配向する時間τの逆数以上(ω>1/τ)とすることが好ましい。回転速度ωは、ω>5/τがより好ましく、ω>10/τがさらに好ましい。τは対象物体の磁化率、形状、流動性バインダーの粘度、印加磁場強度により決まる値である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下に示す具体例によって限定されず、以下の実施例に示す材料、使用量、配合割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。
【0057】
[試験例1]硫化亜鉛蛍光体粒子の調製
高純度硫化亜鉛粉末(製品名:堺化学工業株式会社製、RAK−N)150gに2.0gの酢酸銅水和物(Cu(CHCO・HO)を加え、さらに融剤として30gの塩化マグネシウム(MgCl)、20gの塩化ナトリウム(NaCl)、および10gの塩化カリウム(KCl)を混合し、遊星型撹拌脱泡機(装置名:株式会社シンキー製、AR−250)に装入し、10分間混合した。
【0058】
次いで、この原料粉体を磁製ルツボに封入し、1050℃で3時間焼成した後、イオン交換水3リットルを用いて洗浄、濾過の工程を10回繰り返して融剤を完全に洗い流した。洗浄後の生成物を乾燥して中間硫化亜鉛蛍光体粒子(平均粒径22μm)を得た。次に、この中間硫化亜鉛蛍光体粒子120gをイオン交換水600gに分散し、超音波振動器(装置名:BRANSON社製、Degital Sonifier)を用いて、出力60%で5分間連続照射、5分間停止のサイクルを3回行ない、超音波振動を加えた後、脱水し、熱風乾燥機内で80℃で12時間乾燥した。以上のように処理した中間硫化亜鉛蛍光体粒子100gに、硫酸銅5水和物2.5g、硫酸亜鉛7水和物25gを混合し、遊星型撹拌脱泡機(装置名:株式会社シンキー製、AR−250)に装入し、10分間混合し、原料粉体とした。
【0059】
次いで、この原料粉体を磁製ルツボに封入し、窒素雰囲気下700℃で3時間再焼成し、室温に冷却した。焼成物を1.8質量%塩酸水溶液1200g中に分散し、30分間撹拌して、残留した塩の洗浄および表面エッチング処理を行なった。その後、イオン交換水で洗浄し、さらに5質量%のシアン化ナトリウム水溶液500gで洗浄して、粒子表面の硫化銅を除去した。さらにその後、イオン交換水2リットルで2回洗浄し、熱風乾燥機内で80℃で12時間乾燥して硫化亜鉛蛍光体粒子80gを得た。得られた硫化亜鉛蛍光体粒子をSEM(装置名:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、走査型電子顕微鏡 TM−1000 MINISCOPE)で撮影し、200個の粒子についてその軸長比(長軸長/短軸長)を測定した。200個の粒子中、98%の粒子の軸長比が1.10〜1.50の範囲であった。また、硫化亜鉛蛍光体粒子の比誘電率は20であった。
【0060】
[試験例2]硫化亜鉛蛍光体粒子のエッチング処理
試験例1で得られた硫化亜鉛蛍光体粒子40gに、1mol/Lの塩酸水溶液を200ml加え、80℃で30分間撹拌した。その後、蒸留水でpHが6〜8になるまで硫化亜鉛蛍光体粒子を洗浄した。次いで蒸留水を除去し、硫化亜鉛蛍光体粒子に3質量%の過酸化水素水(H)を200ml加え、50℃で90分間撹拌した。その後、蒸留水で硫化亜鉛蛍光体粒子を複数回洗浄した。次いで、硫化亜鉛蛍光体粒子に1質量%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)水溶液200mlを加え、25℃で90分間撹拌した。これらのエッチング処理を行った後、硫化亜鉛蛍光体粒子を500Pa、35℃で12時間減圧乾燥することにより、水分を除去した。得られた硫化亜鉛蛍光体粒子をSEM(装置名:株式会社キーエンス製、走査型電子顕微鏡 VE―9800)で1500倍の倍率にて観察した。結果を図2に示す。図2中、14は電極板主面の法線、20は硫化亜鉛蛍光体粒子、22が面状欠陥である。エッチング処理により、面状欠陥22は硫化亜鉛蛍光体粒子20の表面に縞状に観察された。
【0061】
[実施例1]
アクリル系光硬化性モノマー(製品名:日本化薬株式会社製、FR21)40gに試験例1で得られた硫化亜鉛蛍光体粒子60gを遊星型撹拌脱泡機(装置名:株式会社シンキー製、AR−250)を用いて混合し、硫化亜鉛蛍光体粒子が分散した流動性マトリックスを調製した。なお、ここで用いた光硬化性モノマーを単独で硬化させた場合、硬化物の誘電率は5.5である。
【0062】
この流動性マトリックスを第一の透明導電膜付ガラス(株式会社倉元製作所製、表面抵抗率:5Ω/□以下)の透明導電膜上に59μmの厚さで塗工して流動性マトリックス層を形成した。この流動性マトリックス層の表面に、第二の透明導電膜付ガラス(株式会社倉元製作所製、表面抵抗率:5Ω/□以下)の透明導電膜が流動性マトリックス層と接し、かつ第一の透明導電膜付ガラスの透明導電膜と第二の透明導電膜付ガラスの透明導電膜とが平行となるように配置した。次いで透明電極板間に電圧を供給するためのリード線を付設した。流動性マトリックス層へ15V、1kHzの交流電圧を2分間印加して硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させ、同時にUV照射装置(装置名:SAN−EI ELECTRIC社製、SUPERCURE−351S、照射条件:3.5J/cm)を用いてUV照射を開始し、合計で2分間照射してアクリル系光硬化性モノマーを硬化させた。このようにして膜厚59μmの発光層を調製した。
【0063】
発光層の表面の第二の透明導電膜付ガラスを取り外し、発光層の表面に誘電層として比誘電率約45のチタン酸バリウムペースト(製品名:デュポン社製、8153)を100メッシュスクリーンを用いて印刷面が第一の透明導電膜付ガラスと平行になるようにスクリーン印刷し、120℃で30分間乾燥した(誘電層厚さ20μm)。当該誘電層の表面に背面電極板として銀ペースト(製品名:ヘンケル株式会社製、ELECTRODAG461S)をスクリーン印刷し、透明電極板と背面電極板に電圧を供給するためのリード線を付設した後、全体を封止フィルムで封止して分散型無機EL素子を得た。第一の透明導電膜付ガラスの透明導電膜と銀ペーストは平行であった。硫化亜鉛蛍光体粒子は光硬化性樹脂中に均一に分散しており、硫化亜鉛蛍光体粒子の体積分率は30体積%であった。
【0064】
上記のように作製された分散型無機EL素子の透明電極板の一端に接続した電圧印加用リード線と、背面電極板の一端に接続した電圧印加用リード線との間に、周波数1kHzの交流電圧を印加し、分散型無機EL素子を発光させ、その発光輝度を色彩輝度計(装置名:株式会社トプコン製、BM7)にて測定した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度は2.83V/μmとした。発光輝度は206cd/cmであった。
【0065】
このように形成した発光層を、カッターを用いて分散型無機EL素子から剥離して単離した。単離した発光層を2本のピンセットで挟み込み、液体窒素中に30秒間浸漬した後、応力を加え破断した。破断した発光層をガラスに貼り合わせ、発光層の破断面が観察できるようにSEMの試料台にセットした。硫化亜鉛蛍光体粒子の表面に現れた面状欠陥をSEM(装置名:株式会社キーエンス製、走査型電子顕微鏡 VE―9800)で1500倍以上の倍率で観察した(図2)。この画像から面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度を観察した。図2の画像の上辺および下辺は電極板主面と平行である。発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個の該硫化亜鉛蛍光体粒子の面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の67%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の89%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【0066】
[実施例2]
アクリル系光硬化性モノマー(2−ヒドロキシ−3―フェノキシプロピルアクリレート、製品名:共栄化学工業株式会社製、M600A)を85体積%およびシアノエチル化シュークロース(信越化学工業株式会社製)を15体積%含む混合物を用いたこと、また厚み90μmの流動性マトリックス層へ交流電圧を60V、50kHzで2分間印加して硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させた以外は、実施例1と同様にして分散型無機EL素子を得た。なお、ここで用いた光硬化性モノマーを単独で硬化させた場合、硬化物の誘電率は7.6である。硫化亜鉛蛍光体粒子は光硬化性樹脂中に均一に分散しており、硫化亜鉛蛍光体粒子の体積分率は30体積%であった。実施例1と同様にして分散型無機EL素子を発光させ、発光輝度を評価した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度を2.83V/μmとした。発光輝度は284cd/cmであった。
【0067】
発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個について面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の65%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の90%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【0068】
[実施例3]
アクリル系光硬化性モノマー(2−ヒドロキシ−3―フェノキシプロピルアクリレート、製品名:共栄化学工業株式会社製、M600A)を80体積%およびシアノエチル化シュークロース(信越化学工業株式会社製)を20体積%含む混合物を用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で分散型無機EL素子を得た。なお、ここで用いた光硬化性モノマーを単独で硬化させた場合、硬化後の誘電率は8.2である。硫化亜鉛蛍光体粒子は光硬化性樹脂中に均一に分散しており、硫化亜鉛蛍光体粒子の体積分率は30体積%であった。実施例2と同様にして分散型無機EL素子を発光させ、発光輝度を評価した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度を2.83V/μmとした。発光輝度は257cd/cmであった。発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個の面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の57%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の84%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【0069】
[比較例1]
流動性マトリックス層へ電場を印加せず、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させなかった以外は、実施例1と同様の方法で分散型無機EL素子を得た。硫化亜鉛蛍光体粒子は光硬化性樹脂中に均一に分散しており、硫化亜鉛蛍光体粒子の体積分率は30体積%であった。実施例1と同様にして分散型無機EL素子を発光させ、発光輝度を評価した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度を2.83V/μmとした。発光輝度は71cd/cmであり、実施例1と比較して34%の発光輝度を示すにとどまった。
【0070】
発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個の面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の4%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の50%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【0071】
[比較例2]
流動性マトリックス層へ電場を印加せず、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させなかった以外は実施例2と同様の方法で分散型無機EL素子を得た。実施例2と同様にして分散型無機EL素子を発光させ、発光輝度を評価した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度を2.83V/μmとした。発光輝度は117cd/cmであり、実施例2と比較して41%の発光輝度を示すにとどまった。
【0072】
発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個の面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の16%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の44%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【0073】
[比較例3]
流動性マトリックス層へ電場を印加せず、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させなかった以外は実施例3と同様の方法で分散型無機EL素子を得た。実施例3と同様にして分散型無機EL素子を発光させ、発光輝度を評価した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度は2.83V/μmとした。発光輝度は135cd/cmであり、実施例3と比較して53%の発光輝度を示すにとどまった。
【0074】
発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個の面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の11%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の42%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【0075】
[実施例4]
硬化後の誘電率が9.4である光硬化性モノマー(2−ヒドロキシ−3―フェノキシプロピルアクリレート、製品名:共栄化学工業株式会社製、M600A)を70体積%およびシアノエチル化シュークロース(信越化学工業株式会社製)を30体積%含む混合物を用いたこと、さらに厚み78μmの流動性マトリックス層へ交流電圧を60V、50kHzで2分間印加して硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させた以外は、実施例1と同様にして分散型無機EL素子を得た。硫化亜鉛蛍光体粒子は光硬化性樹脂中に均一に分散しており、硫化亜鉛蛍光体粒子の体積分率は30体積%であった。実施例1と同様にして分散型無機EL素子を発光させ、発光輝度を評価した。この際、硫化亜鉛蛍光体粒子にかかる電場強度を2.83V/μmとした。発光輝度は190cd/cmと実施例1〜3よりは低くなったが、比較例1〜3よりは高い発光輝度であった。
【0076】
発光層中の硫化亜鉛蛍光体粒子100個の面状欠陥の法線と電極板主面の法線のなす角度αを測定したところ、全粒子数の41%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが70〜90度に配向していた。また、全粒子数の76%の硫化亜鉛蛍光体粒子においてαが40〜90度に配向していた。
【符号の説明】
【0077】
10 電極板
12 電極板主面
14 電極板主面の法線
20 硫化亜鉛蛍光体粒子
22 硫化亜鉛蛍光体粒子の面状欠陥
24 硫化亜鉛蛍光体粒子の面状欠陥の法線
30 発光層
α 硫化亜鉛蛍光体粒子の面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度(≦β)
β 硫化亜鉛蛍光体粒子の面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度(≧α)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な2つの電極板間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子が非流動性バインダー中に分散している発光層を備える分散型無機EL素子であって、
全硫化亜鉛蛍光体粒子数の90%以上は、長軸長/短軸長で表される軸長比が1.05〜1.50であり、かつ
全硫化亜鉛蛍光体粒子数の40%以上は、前記面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度である、分散型無機EL素子。
【請求項2】
全硫化亜鉛蛍光体粒子数の80%以上は、前記面状欠陥の法線と電極板主面の法線とのなす角度が40〜90度である、請求項1に記載の分散型無機EL素子。
【請求項3】
前記硫化亜鉛蛍光体粒子が銅および塩素を含有する、請求項1または2に記載の分散型無機EL素子。
【請求項4】
平行な2つの電極板の間に、面状欠陥を有する硫化亜鉛蛍光体粒子が流動性バインダーに分散している流動性マトリックス層を配置する工程A、
電場を印加して、面状欠陥の法線と前記電極板主面の法線とのなす角度が70〜90度となるように、硫化亜鉛蛍光体粒子を配向させる工程B、
前記工程Aおよび工程Bの後に流動性マトリックス層を固定する工程Cを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の分散型無機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−199086(P2012−199086A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62664(P2011−62664)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】