説明

分散性色材、及び該色材を含む水性インクジェット記録用インク

【課題】 優れた画像品位、特に画像濃度、ベタ均一性に優れたインクジェット記録画像を提供すること。更に、かかる画像を与える水性インク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】 色材と該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、上記色材と上記荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材において、上記の荷電性樹脂擬似微粒子が、少なくとも、紫外線吸収能、又は/及び光安定化能、及び/又は酸化防止能を有することを特徴とする分散性色材、及び該分散性色材を含む水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性色材、該色材を用いた水性インクジェット記録用インク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式は、種々の作動原理よりノズルからインクの微小液滴を飛翔させて被記録媒体(紙等)に到達させ、画像や文字等を記録する方法であるが、高速、低騒音、多色化が容易であり、記録パターンの融通性が高い、現像及び定着操作が不要等の特徴があり、様々な用途において急速に普及している。特に、近年はフルカラーの水性インクジェット記録方式技術がめざましい発達を遂げており、従来の製版方式による多色印刷や、カラー写真方式による印画と比較しても遜色のない多色画像を形成することも可能となっており、作成部数が少ない場合には、通常の多色印刷や印画よりも安価に印刷物が得られることから、フルカラー画像記録分野まで広く応用されつつある。
【0003】
そして、更なる記録の高速化、高精細化、フルカラー化等の記録特性向上の要求に伴って、水性インクジェット記録装置及び記録方法の改良が行われてきている。一般的に、インクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録用インクに要求される性能としては、(1)紙上で、滲みや、かぶりのない、高解像度、高濃度で均一な画像が得られること、(2)ノズル先端でのインクの乾燥による目詰まりが発生せず、常に吐出応答性、吐出安定性が良好であること、(3)紙上においてインクの定着性がよいこと、(4)画像の堅牢性(即ち、耐候性や耐水性等)がよいこと、(5)長期保存安定性がよいこと、等が挙げられる。特に、印字速度の高速化に伴って、コピー用紙等の普通紙に印字しても、インクの乾燥及び定着が速く、且つ高画質な印字が得られるインクが要求されている。更に、近年においては、印刷分野においても急速にインクジェット記録方式による印刷物が普及し、定着速度、画質のみならず、屋外用途等への展開の広がりとともに、一層の耐候性への要求が高くなっている。
【0004】
水性インクジェット記録方式に用いられる色材としては、主に染料と顔料があり、従来から水性インクとしての扱いやすさ、発色性の高さによって水溶性染料が主として用いられてきたが、高い画像の耐候性、耐水性を実現できる水性インクジェット記録用インクの色材として、本質的に水に不溶な色材、特に顔料を用いたインクの開発が精力的に進められている。
【0005】
水に不溶な色材、特に顔料を水性インクジェット記録用インクとして用いるためには、水中に色材を安定に分散させることが必要となる。この場合、一般的に界面活性剤若しくは高分子分散剤(以下、分散樹脂とも呼ぶ)を用いて分散安定化する方法が用いられてきた。又、水不溶性色材の表面を化学的に修飾する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、顔料を樹脂で被覆するマイクロカプセル型顔料が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。特許文献3では、「水不溶性着色剤を含有する水系着色微粒子分散物において、該着色微粒子分散物が水不溶性着色剤を分散剤の存在下で水系媒体中に分散させた後にビニルモノマーを添加して重合したものであり、該分散剤が水不溶性着色剤を分散した場合には分散安定性を示し、且つ、該分散剤のみの存在下で該ビニルモノマーを重合した場合には生じるラテックスの安定性が乏しいことを特徴とする水系着色微粒子分散物」が開示されており、「水不溶性着色剤分散物に乳化重合した場合に、ビニルモノマーや生じたポリマーに対する分散剤の親和性がそれほど高くないために、顔料表面からの分散剤の脱着が起こりにくく、分散剤が吸着した顔料表面で重合が進行したため」、「顔料表面が被覆された微粒子分散物を凝集することなく、高い収率で得られる」としており、該着色微粒子分散物を用いることで、分散安定性、印字適性に優れ、紙種依存性がなく、金属光沢が少なく、耐水性、耐光性、耐擦過性に優れた画像を与えるインクジェット記録用インクを得たとしている。
【0007】
又、画像の耐候性を改善する目的で、様々な紫外線吸収剤や光安定化剤等の検討がなされ、これらの添加により、耐候性に優れる画像を得たとしている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平10−195360号公報
【特許文献2】特開平8−183920号公報
【特許文献3】特開2003−34770公報
【特許文献4】特開平5−239389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した技術ではインクの分散安定性と長期保存安定性との両立が充分でない場合があった。特許文献1、2に示される方法によって水不溶性色材の表面を化学的に修飾する手法においては、修飾できる官能基やその密度には限界があり、又、色材が特に有機顔料である場合において直接化学修飾を行うと、本来水に不溶となって結晶化している顔料分子が、親水基の結合によって水溶化されて顔料粒子から溶け出す、いわゆる「顔料剥離」が起こって色調が著しく変化するという問題が生じる等(図6(a)、(b)参照)、十分に満足できる技術レベルではなかった。
【0010】
又、特許文献4によると、染料インクに紫外線吸収剤や酸化防止剤を添加することにより、耐候性が向上するとされているが、添加されたこれらの添加剤は、液体ともに記録媒体中に拡散してしまい、添加量に対して十分な効果を得ることができず、添加剤を増量するとインク特性が悪化する。このように、本発明者らの検討によると、十分に満足を与えるものではなかった。
【0011】
従って、本発明の目的は、これらの課題を解決し、充分に分散安定性が高く、長期にわたり安定であり、所望機能剤の量に対して効率良く機能し、耐候性に優れた記録画像を与える、水性インクの提供にある。本発明の別の目的は、斯かる優れた水性インクを用いた水性インクジェット記録用インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これに対し、本発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、紫外線吸収能、光安定化能、及び酸化防止能から選ばれる少なくとも1種の機能(以下「色材保護機能」という場合がある)を有する新規な分散性色材を含む水性インクとすることで、長期にわたり安定であり、耐候性に優れた記録画像を与える水性インクの開発を達成した。
【0013】
上記目的は以下の本発明によって達成される。
1.色材と該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、上記色材と上記荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材において、上記の荷電性樹脂擬似微粒子が、色材保護機能を有することを特徴とする分散性色材。
2.前記荷電性樹脂擬似微粒子が、紫外線吸収剤、光安定化剤及び酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の機能剤(以下「色材保護剤」という場合がある)を含む前記1に記載の分散性色材。
【0014】
3.前記荷電性樹脂擬似微粒子が、色材保護機能を有するエチレン性不飽和単量体からなる重合物である前記1に記載の分散性色材。
4.前記1〜3に記載の何れか1項に記載の分散性色材を含むことを特徴とする水性インク。
5.前記4に記載の水性インクを含むことを特徴とするインクタンク。
6.前記4に記載の水性インクを搭載してなることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0015】
7.前記4に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
8.前記4に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されたことを特徴とするインクジェット記録画像。
【発明の効果】
【0016】
本発明よれば、充分に分散安定性が高く、長期にわたり安定であり、耐候性に優れる記録画像を与える水性インクを提供することができる。更に、本発明によれば、斯かる優れた水性インクを用いた水性インクジェット記録用インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録画像を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明を具体的に説明する。
本発明の特徴は、色材と該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、該分散性色材が、上記色材と上記荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材であり、上記の荷電性樹脂擬似微粒子が色材保護機能を有することを特徴とする分散性色材であることである。該分散性色材の特徴と、分散性色材の構成要素について、以下に詳細に述べる。
【0018】
[分散性色材の特徴]
分散性色材は、色材と、荷電性樹脂擬似微粒子とからなる分散性色材であって、上記色材が、上記荷電性樹脂擬似微粒子を固着し、色材の表面に荷電性樹脂擬似微粒子による電荷が付与され、水又は水性インク媒体へ分散可能な分散性色材である。図1に、本発明を特徴づける、色材1に、荷電性樹脂擬似微粒子2が固着している分散性色材の模式図を示した。図1(b)の2’の部分は、色材1の表面に固着した荷電性樹脂擬似微粒子2の一部が融着している状態を模式的に示した部分である。
【0019】
色材表面と荷電性樹脂擬似微粒子との吸着は、樹脂成分の単純な物理吸着ではなく、本発明にかかる分散性色材の特徴である、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着された状態とすると、荷電性樹脂擬似微粒子が色材表面から脱離することがないため、本発明の分散性色材は長期保存安定性にも優れている。
【0020】
本発明において、色材が荷電性樹脂擬似微粒子を「固着」している状態は、簡易的には次のような三段階の分離を伴う手法で確認することができる。先ず、第一の分離にて、確認する対象の色材と、インク又は水分散体中に含まれるその他の水溶性成分(水溶性樹脂成分も含む)とを分離し、次に、第二の分離にて、第一の分離における沈殿物中に含まれる色材と水不溶性樹脂成分とを分離する。更に第三の分離にて、弱く吸着されている樹脂成分と、荷電性樹脂擬似微粒子を固着している分散性色材とを分離し、第三の分離の上澄みに含まれる樹脂成分の定量、及び第二の分離の沈殿物と第三の分離の沈殿物との比較、を行うことによって色材と荷電性樹脂擬似微粒子との固着を確認する。
【0021】
具体的には、例えば、次のような条件で確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体20gをとり、全固形分重量が約10%程度となるように調製し、遠心分離装置にて、12,000回転、60分の条件で第一の分離を行う。分離したうちの、色材を含んでいる下層の沈降物を、該沈降物のほぼ3倍量の純水に再分散し、続いて、80,000回転、90分の条件にて第二の分離を行う。色材を含んでいる下層の沈降物を3倍量の純水に再分散したものを、再び80,000回転、90分の条件にて第三の分離を行い、色材を含んでいる下層の沈降物を取り出す。第二の分離における沈降物と、第三の分離における沈降物をそれぞれ固形分で0.5g程度となるようにとり、30℃、18時間にて減圧乾燥させたものを、走査型電子顕微鏡にて5万倍で観察する。そして、観察された分散性色材が、その表面に微粒子様物質又はそれに準ずる微小集合体を複数付着している様子が確認され、且つ第二の分離と第三の分離からのそれぞれの沈降物が同様の形態を有していれば、この色材は樹脂擬似微粒子を固着していると判断される。更に、第三の分離における上層の上澄み分を上から静かに体積で半分程度となるようにとり、60℃、8時間にて乾燥させた前後の重量変化から固形分率重量を算出し、1%未満であれば、分散性色材から樹脂擬似微粒子の脱離がないと考えられ、分散性色材は樹脂擬似微粒子を固着していると判断できる。
【0022】
上記した分離条件は好ましい例であり、その他のどのような分離方法又は分離条件にあっても、上述した第一の分離及び第二、第三の分離の目的を達する手法であれば、本発明にかかる分散性色材であるか否かの判定方法として適用することができる。
【0023】
本発明に用いられる分散性色材は、水不溶性色材1が、荷電性樹脂擬似微粒子2を固着した状態で、単独で分散してなる分散性色材である。前述したように、本発明にかかる分散性色材は、本質的には他の界面活性剤や高分子分散剤等の助けがなくとも、安定に水及び水性インク中に分散できる、自己分散性色材である。この定義及び判定方法については後に詳細に述べる。
【0024】
本発明の分散性色材の自己分散性については、例えば、次のように確認できる。色材が分散しているインク又は水分散体を純水で10倍に希釈し、分画分子量50,000の限外ろ過フィルターを用いて元の濃度になるまで濃縮する。この濃縮液を遠心分離装置にて12,000回転、2時間の条件で分離し、沈降物を取り出して純水に再分散させる。このとき、沈降物が良好に再分散し得るものが、自己分散性を有すると判断される。良好に再分散しているかどうかは、目で見て均一に分散していること、1〜2時間静置している間に目立った沈降物が発生しないか、あっても軽く震蕩すれば元に戻ること、動的光散乱法にて分散粒径を測定した際に、平均粒径が操作前の粒径の2倍以内であること、等から総合的に判断できる。
【0025】
前述したように、本発明にかかる分散性色材は、色材が荷電性樹脂擬似微粒子を固着することによって高い比表面積を有する形態をとり、その広大な表面に多くの電荷を有することで、優れた保存安定性を実現する。このような形態は、本発明の水性インクジェット記録用インクを透過型電子顕微鏡或いは走査型電子顕微鏡で観察することにより確認される。
【0026】
又、本発明の分散性色材は、色材に固着する荷電性樹脂擬似微粒子が、色材保護機能を有することを特徴とする。荷電性樹脂擬似微粒子に色材保護機能を付与する方法としては、荷電性樹脂擬似微粒子の中に色材保護剤を取り込む方法、或い、荷電性樹脂擬似微粒子を形成する樹脂の原料成分である単量体として、色材保護機能を有する単量体を用いる方法等が挙げられる。
【0027】
水性インク中に紫外線吸収剤や酸化防止剤を外添する場合では、インクの記録媒体中への浸透に伴い、色材と紫外線吸収剤や酸化防止剤が拡散するのに対し、本発明の分散性色材では色材保護機能を有する荷電性樹脂微粒子を固着することで、色材の近傍に、これらの効果に寄与する成分が確実に存在しているので、その色材保護効果に寄与する成分が極めて有効に色材に対して作用することができる。
【0028】
次に、分散性色材(A)の各構成成分について説明する。
[色材]
本発明にかかる分散性色材の構成成分である色材について以下に説明する。本発明で用いられる色材としては公知又は新規に開発された色材のうち、どのようなものでも用いることができるが、好ましくは、疎水性染料、無機顔料、有機顔料、金属コロイド、着色樹脂粒子等、水に不溶な色材で、分散剤とともに水中にて安定に分散できるものが望ましい。好ましくは、分散粒径が0.01〜0.5μm(10〜500nm)の範囲、特に好ましくは0.03〜0.3μm(30〜300nm)の範囲となる色材を使用する。この範囲に分散された色材を用いた本発明の分散性色材は、水性インクとして用いた場合に、高い着色力と高い耐候性を有する画像を与える好ましい分散性色材となる。
【0029】
本発明において、色材に有効に用いることのできる無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、トリポン、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。
【0030】
本発明において有効に用いることのできる有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系等の各種顔料が挙げられる。
【0031】
その他、本発明で用いることのできる有機性の不溶性色材としては、例えば、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、フタロシアニン系、カルボニル系、キノンイミン系、メチン系、キノリン系、ニトロ系等の疎水性染料が挙げられる。これらの中でも分散染料が特に好ましい。
【0032】
[色材保護機能を有する荷電性樹脂擬似微粒子]
本発明の分散性色材のもう一つの構成成分である色材保護機能を有する荷電性樹脂擬似微粒子(以下荷電性樹脂擬似微粒子という)は、水に対し実質的に不溶であり、固着する対象である色材の水中(或いはインク中)での分散単位(分散粒径)は小さく、充分に重合度の高い樹脂成分が集合してなる微小体と定義される。微小体の形態としては擬似的に球体に近いか、又は複数の微小体(荷電性樹脂擬似微粒子)の大きさが一定範囲内で揃っているものである。好ましくは荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、互いに物理的に又は化学的に架橋されていることが望ましい。荷電性樹脂擬似微粒子の水中での分散粒径としては、動的光散乱法にて測定可能な場合においては、通常キュムラント平均値が10nm以上200nm以下の範囲で用いられる。
【0033】
本発明における荷電性とは、水系媒体中においてそのもの自身が何らかのかたちでイオン化した官能基を保持しており、望ましくはその荷電性によって自己分散可能である状態をいう。荷電性樹脂擬似微粒子に、上記の性能を付与する方法のひとつとしては、荷電性樹脂擬似微粒子の中に色素保護剤を取り込む方法がある。
【0034】
色材保護剤が荷電性樹脂擬似微粒子中における存在形態としては、荷電性樹脂擬似微粒子を形成する樹脂の疎水成分との疎水−疎水相互作用等の物理的相互作用、荷電性部位との静電的な相互作用、イオン結合、化学結合等による化学的相互作用等、何れの形態として存在してもよい。又、色材保護剤は荷電性樹脂擬似微粒子中に取り込まれてもよいし、微粒子表面に存在してもよい。
【0035】
荷電性樹脂擬似微粒子を構成する樹脂成分は、一般的に用いられるあらゆる天然又は合成高分子、或いは本発明のために新規に開発された高分子等、いかなる樹脂成分であっても制限なく使用できる。使用できる樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、多糖類、ポリペプチド類等が挙げられる。特に、一般的に使用でき、荷電性樹脂擬似微粒子の機能設計を簡便に行える観点から、アクリル樹脂やスチレン/アクリル樹脂が類される、ラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー成分の重合体或いは共重合体が、好ましく使用できる。
【0036】
本発明で好ましく用いられるラジカル重合性不飽和結合を有するモノマー(以降、ラジカル重合性モノマー或いは単にモノマーとして表記する)としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。疎水性モノマーと分類される、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ベンジル等の如き(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の如きスチレン系モノマー;イタコン酸ベンジル等の如きイタコン酸エステル;マレイン酸ジメチル等の如きマレイン酸エステル;フマール酸ジメチル等の如きフマール酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0037】
又、以下のような親水性モノマーとして分類されるものも好ましく用いられる。例えば、アニオン性基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマール酸等の如きカルボキシル基を有するモノマー及びこれらの塩、スチレンスルホン酸、スルホン酸−2−プロピルアクリルアミド、アクリル酸−2−スルホン酸エチル、メタクリル酸−2−スルホン酸エチル、ブチルアクリルアミドスルホン酸等の如きスルホン酸基を有するモノマーとこれらの塩、メタクリル酸−2−ホスホン酸エチル、アクリル酸−2−ホスホン酸エチル等の如きホスホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。これらの中でも特に、アクリル酸及びメタクリル酸を使用することが好ましい。
【0038】
又、カチオン性基を有するモノマーとしてはアクリル酸アミノエチル、アクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノプロピル等の如き第1級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸メチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノプロピル、アクリル酸エチルアミノエチル、アクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノプロピル、メタクリル酸エチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル等の如き第2級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノプロピル、アクリル酸ジエチルアミノプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノプロピル等の如き第3級アミノ基を有するモノマー、アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩等の如き第4級アンモニウム基を有するモノマー、各種ビニルイミダゾール類等が挙げられる。
【0039】
又、ノニオン性の親水性モノマーとしては、具体的には、例えば、構造内にラジカル重合性の不飽和結合と強い親水性を示すヒドロキシル基を同時に有するモノマー類がこれに当てはまり、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル等がこれに分類される。この他、公知又は新規の各種オリゴマー、マクロモノマー等についても制限なく使用できる。
【0040】
更に、架橋性モノマーを用いることも好ましい様態である。例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられ、その他、公知又は新規の各種架橋性モノマーについても使用できる。
【0041】
[色材保護剤を含む荷電性樹脂擬似微粒子の合成及び色材への固着]
色材保護剤を含む荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法、及び色材への固着方法は、その手順及び方法は公知である荷電性樹脂擬似微粒子の合成方法や、荷電性樹脂擬似微粒子と色材の複合化方法によって実施し得る。
【0042】
本発明者らの検討の結果、上述したような特性を有する本発明にかかる分散性色材は、下記の条件で水系析出重合法を適用することによって、極めて簡便に製造できることが明らかとなった。かかる製造方法では、先ず、分散剤にて水不溶性色材を分散することによって該水不溶性色材の分散水溶液を調製する。次いで、この分散水溶液にて、水性ラジカル重合開始剤を用いて色材保護剤の存在下でラジカル重合性モノマーを水系析出重合する工程によって、色材保護剤を含む荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着される。この水系析出重合する工程を経て得られた分散性色材は、水系析出重合過程にて合成された荷電性樹脂擬似微粒子が、均一且つ点在した状態で色材に強力に固着した水不溶性色材となり、単独での分散安定性に優れたものとなる。
【0043】
[ラジカル重合性モノマー]
本発明の製造方法で用いられるラジカル重合性モノマーは、前記で説明した水系析出重合工程を経て、荷電性樹脂擬似微粒子を構成する成分となるので、先の[実質的に水に不溶な樹脂微粒子]の項で述べたように、得ようとする荷電性樹脂擬似微粒子及び分散性色材の特性によって適宜に選択すればよい。
【0044】
上述した工程にて得た、本発明にかかる、荷電性樹脂擬似微粒子が色材に固着した水不溶性色材を用いて水性インクを調製する際には、上記の工程に加えて、更に精製処理を行うことが望ましい。特に、上記において、未反応の重合開始剤、モノマー成分、分散剤、固着に至らなかった水溶性樹脂成分及び荷電性樹脂擬似微粒子等について精製処理を行うことは、分散性色材の保存安定性を高く維持する点で重要である。使用する精製方法としては、通常一般的に用いられている精製方法から最適なものを選択して用いればよい。例えば、遠心分離法や、限外ろ過法を用いて精製することも好ましい実施形態である。
【0045】
[色材保護剤]
本発明で用いられる色材保護剤としては、特に限定されず、公知のものでも、もちろん、本発明のために開発された新規の物質でも用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、フェニルサリシレート、4−t−ブチルフェニルサリシレート等のフェニルサリチル酸系紫外線吸収剤、2−エトキシ−2’−エチルオキザリックアシッドビスアリニド等のオキザリックアシッドビスアリニド系紫外線吸収剤、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0046】
光安定化剤としては、ビス−[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル]セバケート、ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−2−(3,5−ジ−テトラ−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート等のヒンダードアミン系光安定化剤を挙げられる。
【0047】
酸化防止剤としては、2,6−t−ジブチル−p−クレゾール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0048】
本発明おいて、分散性色材に固着する荷電性樹脂擬似微粒子に色材保護剤を含んでいるか、否かの判断は、以下のようにして行うことができる。5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去し、その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、分散性色材を得る。該分散性色材を水中に再分散し、10%塩酸水溶液を加え、析出物を得る。該析出物をメチルエチルケトン等の有機溶剤でソックスレー抽出したのち、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等により色素保護剤の存在を確認する。
【0049】
[色材保護機能を有する単量体を構成成分とする荷電性樹脂擬似微粒子の色材への固着]
本発明において、荷電性樹脂擬似微粒子に色材保護機能を付与する方法として、荷電性樹脂擬似微粒子を形成する樹脂の原料成分である単量体として、色材保護機能を有する単量体を用いる方法等が挙げられる。
【0050】
具体的には、[色材保護剤を含む荷電性樹脂擬似微粒子の合成及び色材への固着]の項で述べたように、水系析出重合法を適用することができる。水不溶性色材の分散水溶液中にて、水性ラジカル重合開始剤を用いて色材保護機能を有するラジカル重合性モノマーと、先の[実質的に水に不溶な樹脂微粒子]の項で述べたような、ラジカル重合性モノマー等と重合を行うことにより得ることができる。
【0051】
[色材保護機能を有するラジカル重合性モノマー]
色材保護機能を有するラジカル重合性モノマーとしては、汎用的なラジカル重合性モノマー、本発明のために開発されたラジカル重合性モノマーいかなるものでも用いることができる。例えば、ベンゾフェノン骨格、ベンゾトリアゾール骨格、ヒンダードフェノール骨格、サリチレート骨格、シアノアクリレート骨格、ヒンダードアミン骨格等の部位を有するモノマーが挙げられる。具体的には、紫外線吸収能を有するベンゾトリアゾール骨格を含む2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルアクリルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学製)、ヒンダードアミン骨格を有する光安定化能を有するモノマーとして、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート(旭電化工業社製)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート(旭電化工業社製)等が挙げられる。
【0052】
前記の分散性色材において、荷電性樹脂擬似微粒子が色材保護機能を有するエチレン性不飽和単量体からなる重合物であるかの判断は、例えば、以下の方法により行うことができる。5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去し、その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより、分散性色材を得る。該分散性色材を水中に再分散し、10%塩酸水溶液を加え、析出物を得る。該析出物をメチルエチルケトン等の有機溶剤でソックスレー抽出したのち、熱分解ガスマスクロマトグラフィーにより、原料モノマーである色材保護機能を有するエチレン性不飽和単量体の検出を行うことができる。
【0053】
[水性インク]
本発明にかかる水性インクジェット記録用インクは、以上説明した本発明にかかる分散性色材を含むことを特徴とする。前記水不溶性色材が顔料である場合には、一般的には顔料含有量がインクに対して0.1〜20質量%、好ましくは0.3〜15質量%とする。更に、水性媒体として水、水溶性の有機溶媒を必要に応じて含むことも好ましい。又、記録媒体への浸透性を助けるための浸透剤、防腐剤、防黴剤等を含んでもよい。
【0054】
[記録画像]
本発明にかかるインクジェット記録画像は、前記した構成の色材を含む本発明の水性インクを用いて、後述するようなインクジェット記録装置にて記録媒体上に形成される。本発明において使用する記録媒体は、インクジェット記録可能等のような媒体でも制限なく用いることができる。
【0055】
[画像記録方法及び記録装置]
本発明にかかる分散性色材、及び該色材を含有する水性インクは、インクジェット吐出方式のヘッドに用いられ、又、そのインクが収納されているインクタンクとしても、或いは、その充填用のインクとしても有効である。特に、本発明は、インクジェット記録方式の中でもバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらす。
【0056】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置された電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰させて、結果的にこの駆動信号に一対一に対応し、インク内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明である米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0057】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成にも本発明は有効である。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通すると吐出孔を電気熱変換体の吐出部とする構成(特開昭59−123670号公報等)に対しても、本発明は有効である。更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0058】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或いは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも、本発明は有効である。又、本発明は、適用される記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは、本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャピング手段、クリーニング手段、加圧或いは吸引手段、電気熱変換体、或いはこれとは別の加熱素子或いはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードである。
【実施例】
【0059】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0060】
[実施例1]
実施例1にかかる記録インク1を下記の要領で作製した。
<分散性色材(A−1)の調整>
先ず、イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74)10部、スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤10部、及び水74部からなる組成の混合液を、金田理化工業社製のサンドミルにて、1,500rpmで5時間分散し、顔料分散液1を得た。サンドミルでは0.6mm径のジルコニアビーズを使用し、ポット内の充填率は70%とした。スチレン−アクリル酸系樹脂分散剤には、共重合比70:30、Mw=8,000、酸価170のものを使用した。かかるスチレン−アクリル酸系樹脂分散剤は、予め、水及び、上記の酸価と当量の水酸化カリウムを加えて80℃にて攪拌し、水溶液としたものを使用した。得られた顔料分散液1は、平均分散粒径110nmであった。
【0061】
次に、上記で得た顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃にで、攪拌しながら下記の2種類の混合液を同時に徐々に滴下して加え、5時間重合を行った。該混合液は、メタクリル酸メチル5.5部及び2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン0.5部からなる混合液、アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.12部、過硫酸カリウム0.05部及び水20部からなる混合液である。得られた分散液を10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製して、沈降物である分散性色材1を得た。
【0062】
この分散性色材1を水に分散し、12,000回転、60分間の遠心分離を行って沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察したところ、該分散性色材1は、樹脂微粒子が顔料の表面に固着している状態が観察された。
【0063】
分散性色材1を水中に再分散し、10%塩酸水溶液を加え、析出物を得た。該析出物を乾燥し、乾燥物をテトラヒドロフランにてソックスレー抽出した。抽出液を、高速液体クロマトグラフィー(ウオーターズ社製)にて分析したところ、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンが検出された。
【0064】
<インクの調製>
得られた色材分散物1が、インク中に4%濃度になるように、下記成分を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧濾過し、本実施例の記録インク1とした。
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレノールEH(商品名:川研ファインケミカ
ル社製) 0.2部
・イオン交換水 残部(全体が100部になる量)
【0065】
[実施例2]
顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃にで、攪拌しながら下記の2種類の混合液を同時に徐々に滴下して加え、5時間重合を行った。該混合液は、メタクリル酸メチル5.0部及び2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルアクリルオキシスエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール1.0部からなる混合液、アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.12部、過硫酸カリウム0.05部及び水20部からなる混合液である。得られた分散液を10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製して、沈降物である分散性色材2を得た。
【0066】
この分散性色材2を水に分散し、12,000回転、60分間の遠心分離を行って沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察したところ、該分散性色材2は、樹脂微粒子が顔料の表面に固着している状態が観察された。
得られた色材分散物2が、インク中に4%濃度になるように、実施例1と同様の成分を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧濾過し、本実施例の記録インク2とした。
【0067】
分散性色材2を水中に再分散し、10%塩酸水溶液を加え、析出物を得た。該析出物を乾燥し、乾燥物をテトラヒドロフランにてソックスレー抽出した。抽出液を、熱分解ガスマスクロマトグラフィー(ウオーターズ社製)にて分析したところ、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルアクリルオキシスエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール由来のフラグメントが検出された。
【0068】
[参考例]
顔料分散液1を100部として、窒素雰囲気下、70℃にで、攪拌しながら下記の2種類の混合液を同時に徐々に滴下して加え、5時間重合を行った。該混合液は、メタクリル酸メチル6.0部、アクリル酸0.5部、水酸化カリウム0.12部、過硫酸カリウム0.05部と水20部からなる混合液である。得られた分散液を10倍に希釈し、5,000rpmにて10分間遠心分離を行って凝集成分を除去した。その後、更に12,500rpm、2時間の条件で遠心分離することにより精製して、沈降物である分散性色材3を得た。
【0069】
この分散性色材2を水に分散し、12,000回転、60分間の遠心分離を行って沈降物を水に再分散させたものを乾燥させ、走査型電子顕微鏡JSM−6700(日本電子ハイテック(株)製)にて5万倍にて観察したところ、該分散性色材3は、樹脂微粒子が顔料の表面に固着している状態が観察された。得られた色材分散物3が、インク中に4%濃度になるように、実施例1と同様の成分を混合し、更に、ポアサイズが2.5ミクロンのメンブレンフィルターにて加圧濾過し、本参考例の記録インク3とした。
【0070】
[水性インクジェット記録用インクの評価方法及び評価結果]
上述した方法で得た各記録インクを用いて、インクの特性の評価を以下のように行った。又、インクジェット記録装置にて記録媒体への印字を行って、得られた画像について評価した。使用したインクジェット記録装置としては、キヤノン株式会社から上市されるBJ S600を使用して、カラーテキスト画像を形成した。そして、印字した印字物の耐候性を、以下のようにして評価し、その結果を表1に示した。
【0071】
<インクの長期保存安定性>
保存安定性は、ガラス製のサンプル瓶中に各インクを入れ、その状態で室温にて1ヶ月放置した後におけるインク中の分散状態を目視にて判断した。評価基準は以下の通りである。
A:固形分の凝集・沈降がみられない。
B:固形分の沈降がややみられるが、軽く振ると元の均一な分散状態に戻る。
C:固形分の凝集・沈降がみられ、軽く振っても均一にならない。
【0072】
<耐候性>
各記録インクを用いて光沢紙(キヤノン社製 PR101)にテキストを印字後した。画像濃度が約1.0の記録画像について、以下の条件にて耐候性試験を行った。試験後の画像濃度を測定し、試験前後での、画像濃度を比較した。
【0073】
〔耐候性試験〕
記録画像を、キセノンフェードメーターにて、0.39W/m2、100hrの条件にて、耐候性試験を行った。
【0074】
〔画像濃度〕
耐候性試験前後での画像の画像濃度は、反射濃度計(マクベス社製RD914)にて測色した。
【0075】

【0076】
実施例1、2に示すように、分散安定性に優れ、優れた耐候性に優れる画像を与える水性インクが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、新規の分散性色材が提供される。又、かかる分散性色材を用いた水性インク、インクジェット記録用インク、インクタンク、インクジェット記録装置、インクジェット記録方法が提供される。別の発明の効果として、分散安定性に優れ、耐候性に優れる画像を与える、水性インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明による、荷電性樹脂擬似微粒子を固着している分散性色材の基本的構造を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法における代表的な工程の模式図である。
【図3】本発明の製造方法における荷電性樹脂擬似微粒子の精製と色材への固着過程を示す模式図である。
【図4】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子を、色材と固着する界面側から拡大した模式図である。
【図5】本発明の荷電性樹脂擬似微粒子と色材が固着している界面を拡大した模式図である。
【図6】特許文献1に代表される、有機顔料に親水性基を直接修飾した際の、顔料剥離現象の模式図である。
【符号の説明】
【0079】
1:色材
1a:色材の一部
2:荷電性樹脂擬似微粒子
3:分散樹脂
4:モノマー
5:重合開始剤水溶液
6:分散性色材
7:モノマーが重合して形成されたオリゴマー
8:オリゴマーが水に不溶化した析出物
9−1:荷電性樹脂擬似微粒子中の親水性モノマーユニット部分
9−2:荷電性樹脂擬似微粒子中の疎水性モノマーユニット部分
10:色材との結合部位
11:荷電性樹脂擬似微粒子の色材との界面部分
12:色材に直接修飾された親水性基
13:親水化された色材分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と該色材より小さい荷電性樹脂擬似微粒子とを有する分散性色材であって、上記色材と上記荷電性樹脂擬似微粒子とが固着している分散性色材において、上記の荷電性樹脂擬似微粒子が、紫外線吸収能、光安定化能、及び酸化防止能から選ばれる少なくとも1種の機能を有することを特徴とする分散性色材。
【請求項2】
前記荷電性樹脂擬似微粒子が、紫外線吸収剤、光安定化剤及び酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種の機能剤を含む請求項1に記載の分散性色材。
【請求項3】
前記荷電性樹脂擬似微粒子が、紫外線吸収能、光安定化能、及び酸化防止能から選ばれる少なくとも1種の機能を有するエチレン性不飽和単量体からなる重合物である請求項1に記載の分散性色材。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の何れか1項に記載の分散性色材を含むことを特徴とする水性インク。
【請求項5】
請求項4に記載の水性インクを含むことを特徴とするインクタンク。
【請求項6】
請求項4に記載の水性インクを搭載してなることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
請求項4に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により画像を形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項8】
請求項4に記載の水性インクを用いて、インクジェット記録装置により形成されたことを特徴とするインクジェット記録画像。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−8811(P2006−8811A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186992(P2004−186992)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】