説明

分散補償器

【課題】空間位相変調素子を用いて、チャンネル毎に独立に分散補償を行なう可変分散補償器においては、多チャンネル化に伴って、空間位相変調素子の1辺のサイズが大きくなる。空間位相変調素子の大型化は、量産性および製造コストの点で好ましくない。また、空間位相変調素子を利用して可変分散補償器を構成する場合、AWGのFSRの端部に対応する光周波数(波長)において、光透過率が低下する問題があった。
【解決手段】AWGの分光軸に対応する方向のサイズを短く抑えた空間位相変調素子を利用した複数の可変分散補償器(TODC)ブロックを組み合わせ、多チャンネルの可変分散補償器を構成する。群分波フィルタを用いる通信システムで、TODCブロックによってカバーするWDM通信チャンネル群の全帯域幅と所定の関係を満たすようにFSRを設定し、光透過特性を平坦化する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、光ファイバ通信において利用される分散補償器に関する。
【0002】
インターネットの爆発的な普及を背景として、波長分割多重(WDM: Wavelength division multiplexing)通信は、従来のポイントツーポイント型のシステムからリング・メッシュ型の構成のシステムへ移りつつある。これは、リング・メッシュ型構成のシステムが、光信号を光の状態のままで処理するトランスペアレントな波長選択スイッチ等を用いることにより、ノード間の通信需要の変化に柔軟に対応できるためである。しかしながら、リング・メッシュ型のネットワークにおいては、光のパスの切り替えに伴って、そのパスの分散値も動的に変化する。このため、光通信のパスの分散補償にも適応性が求められている。従来の分散補償器は、複数のチャンネルを一括に補償するタイプのものが主流であった。しかし、波長選択スイッチを用いるようなリング・メッシュ型構成のネットワークでは、波長ごとに通過するパスの距離が異なる。このため、WDM波長ごとに異なる分散値を設定したいという要請もあった。
【0003】
このような要請に対応する適応的な分散補償技術として、例えば、分光器およびミラーアレイによるもの(特許文献1)、導波路によるもの(特許文献1、非特許文献1)、並びに3次元ミラーおよび分光素子によるもの(非特許文献2)などが提案されていた。
【0004】
さらに、アレイ導波路回折格子(以下AWG:Arrayed Waveguide Grating)および空間光学系を組み合わせ、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)型空間位相変調素子を利用した、より小型で低コストの可変分散補償器も提案されている。AWGを利用した可変分散補償器は、AWGの柔軟な光学設計に基づいて、数十から数千までの高い次数の回折次数を利用することで、大きな分散値を設置することができる特徴を持つ。通信チャンネルの帯域幅とAWGのFSR(Free Spectral Range)設計値との関係を適切に設定すれば、複数のチャンネルに対して一括して分散補償を行なうことができる。AWGにLCOS型空間位相変調素子を組み合わせることによって、さらに柔軟な分散補償値の設定が可能であった。
【0005】
図16は、従来技術による可変分散補償器の構成例を示した図である。図16の(A)は、1つのWDM通信チャンネルとAWGのFSR値を一致させた可変分散補償器(TODC:Tunable optical dispersion compensator)の構成を示す。TODCは、AWG、集光レンズおよび空間位相変調素子などから構成されている。AWGのFSRは、1つのWDM通信チャンネルに対応するように構成されている。図16の(A)の構成によれば、例えばλ1からλ40までの40のWDM通信チャンネルに対して、一括して分散補償を行なうことができる。
【0006】
図16の(B)には、(A)に示した構成による可変分散補償器の光透過率を示した図である。光周波数軸上で、FSRの周期と一致した40の通信チャンネルに対して一括して信号処理がなされることがわかる。しかしながら、各チャンネルに対して独立して分散補償を行なうことはできない。
【0007】
図17の(A)は、通信チャンネル毎に独立して分散補償が可能な分散補償器の構成例を示す図である。この可変分散補償器は、AWG34、シリンドリカルレンズ35、集光レンズ36およびLCOS素子37などから構成される。この構成は、LCOS素子によって光信号が反射され、1つのAWG34によって光信号の分波および合波を兼ねた反射型の可変分散補償器である。分散補償される光信号群は、光サーキュレータ11の入力ポート38へ入力される。分散補償された光信号群は、光サーキュレータ11の出力ポート39から出力される。LCOS素子37上において、AWG34の分光軸方向(x軸)に配列された複数のピクセル群を、6つのグループに分けて、各グループのピクセル群に1つのWDM通信チャンネル(ch1、・・ch6)を割り当てられている(非特許文献3)。LCOS素子上の各グループのピクセル群に対して異なる位相分布φ(x)を与えて、チャンネル毎に独立して分散補償を行なうことができる。図17の(B)には、各チャンネルに対して独立に設定された群遅延特性が示されている。
【0008】
図18は、図17の(A)の構成の可変分散補償器において、1つのWDM通信チャンネルに対する位相分布の設定例を示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−303805号公報(第5〜7頁、図1、図11)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K. Takiguchi, K. Okamoto, and T. Goh, “Dispersion slope equalizer on planar Lightwave circuit for 40Gbit/s based WDM transmission,” Electron. Lett, 37(24), p.1469-1470, 2001.
【非特許文献2】独立行政法人 情報通信研究機構, “平成16年度 研究開発成果報告書 経済的な光ネットワークを実現する高機能集積化光スイッチングノードの研究開発,” 2006
【非特許文献3】K. Seno, K. Suzuki, K. Watanabe et al., “Channel-by-channel tunable optical dispersion compensator consisting of arrayed-waveguide grating and liquid crystal on silicon”OWP4, Proceeding of OFC2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、空間位相変調素子を利用した従来技術の可変分散補償器には、次に述べるような課題があった。前述したように、図16の(A)の構成によれば、各WDM通信チャンネルに対して独立して分散補償を行なうことはできなかった。また、図17の(A)の構成によれば、複数のWDM通信チャンネルに対して、独立に分散補償を行なうことができるが、必要とされる空間位相変調素子が大型のものとなってしまう問題があった。すなわち、多くのチャンネルに対して分散補償を実現するためには、AWGの分光軸方向に対応する方向に長い空間位相変調素子が必要となる。
【0012】
例えば、図17の(A)の構成では、帯域幅が100GHzの6つの通信チャンネルに対して分散補償を行なっている。ここで、通信チャンネルの数が増えると、LCOS素子の分光軸方向(x軸方向)のサイズが大きくなる。より具体的には、1つのWDM通信チャンネルに対応するLCOS素子のピクセル数を128個として、ピクセルの配列ピッチを8μmとする。このとき、1チャンネル当たりのLCOS素子の分光軸(x軸)方向の長さは、約1000μm必要である。したがって、LCOS素子の全長は40mmを越える。LCOS素子の分光軸方向のサイズを短くしようとすると、分散補償量やチャンネル透過帯域等の特性が劣化する懸念がある。したがって、必要とされる波長分散値およびチャンネル数によっては、ピクセル数の多く、1辺のサイズが非常に長いLCOS素子が必要となる。
【0013】
一般的にも知られるように、チップサイズが大きくなると量産性が低下しおよびコストが増える。空間位相変調素子のサイズが大きくなることは、量産性および製造コストの点で好ましくない。従って、空間位相変調素子を利用した多チャンネルの可変分散補償器においては、より量産性と低コストを実現することが求められていた。
【0014】
また、空間位相変調素子を利用して可変分散補償器を構成する場合に、AWGのFSRの端部に対応する光周波数(波長)において、光透過特性が低下する問題がある。空間位相変調素子のピクセル群の中で、FSRの端部に対応するピクセル利用する場合の問題もあった。
【0015】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、より高い量産性および低コストを実現した多チャンネルの可変分散補償器を実現することにある。さらに、FSRに対応する空間位相変調素子のピクセルを有効に利用して、光透過特性をより平坦化した多チャンネルの可変分散補償器を実現する。可変分散補償器の保守も簡単化し低コスト化する。さらに、群分波フィルタとしてインターリーバを使用した通信システムにも対応可能であって、光透過帯域が平坦な可変分散補償器も実現する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、このような目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、連続するN個の通信チャンネルの光信号群を、所定のチャンネル間隔で離散的に選択されたチャンネルを含む複数の波長群に分岐して信号処理を行なうインターリーブ型の通信システムに対する分散補償器において、前記N個の通信チャンネルの光信号群を、各々が最大(a−1)個の通信チャンネルを持つb個の波長群に合分波するインターリーブ型の群分波フィルタと、前記b個の各波長群の各々に対応するb個の分散補償器ブロックとを備え、各分散補償器ブロックは、前記b個の波長群内の対応する1つの波長群の光信号をさらに分波する光合分波手段であって、1つの通信チャンネルの帯域幅をBとするとき、前記光合分波手段は(B×a)のFSRを持ち、各々が1つの通信チャンネル帯域幅Bに相当する光周波数差を持つb個の入出力ポートを備え、前記b個の入出力ポートの内の前記対応する1つの波長群に対応した入出力ポートが選択されることと、前記光合分波手段の分波軸方向に配列された複数の要素素子を含む空間位相変調素子であって、前記複数の要素素子は、各々が1つの通信チャンネルに対応するa個の区画に分けられ、前記a個の区画の内の1つは光信号処理に使用されないことと、を含み、aおよびbは互いに素の関係であって、N≧(a―1)×bを満たすように選択されることを特徴とする分散補償器である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1の分散補償器であって、前記各空間位相変調素子において、前記各光信号に対応する前記各区間に対して独立に、前記分波軸の距離をパラメータとして2次以上の関数で規定される位相が設定されることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の分散補償器であって、前記合分波手段はアレイ導波路回折格子(AWG)であり、前記空間位相変調素子はLCOSであることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3いずれかの分散補償器であって、前記bは、2のべき乗数が選択されることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの分散補償器であって、前記空間位相変調素子は、前記通信波長に対応する入射した光信号を反射させ、前記光群合分波手段、前記群分波フィルタは、分散補償された光信号を合波する反射型構成であること特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、AWGの分光軸に対応する方向のサイズを短く抑えた空間位相変調素子を利用した可変分散補償器ブロック(以下TODCブロックと呼ぶ)を複数組み合わせ、より良い量産性をおよび低コストを実現した多チャンネル可変分散補償器を実現することができる。可変分散補償器の保守・運用も簡単化・低コスト化することができる。さらに、TODCブロックにおいて使用されるAWGのFSRを、そのTODCブロックによってカバーするWDM通信チャンネル群の全帯域幅と等しく成るように設定してTODCブロックの種類を減らすことができる。さらに、FSRを、そのTODCブロックによってカバーするWDM通信チャンネル群の全帯域幅と所定の関係と成るように設定することにより、光透過特性の平坦化も実現できる。
【0022】
さらには、インターリーブ型の群分波フィルタを使用した場合にも、波長群数とFSRを適切に選択して、LCOS(空間位相変調素子)上のセルにチャンネルを重複させること無く、かつ、隙間なく割り当てることが可能となり、光透過特性の平坦化も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施例1に係る可変分散補償器の光透過率特性を示す図である。
【図3】実施例2の可変分散補償器で使用されるTODCブロックの構成図である。
【図4】実施例2に係るTODCブロックの光透過率を示す図である。
【図5】実施例2に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。
【図6】実施例3の可変分散補償器で使用されるTODCブロックの構成図である。
【図7】実施例3の可変分散補償器で使用されるTODCブロックで使用されるLCOS素子の構成図である。
【図8】実施例3に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。
【図9】実施例4の可変分散補償器で使用されるTODCブロックの構成図である。
【図10】実施例4に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。
【図11】実施例5に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。
【図12】実施例5の可変分散補償器で使用されるAWGの構成を示す図である。
【図13】実施例5の可変分散補償器におけるチャンネル割当を説明する図である。
【図14】実施例5の可変分散補償器におけるチャンネル割当を説明する図である。
【図15】実施例5の可変分散補償器に適用可能な総波長数およびLCOS素子数の関係を示す図である。
【図16】空間位相変調素子を用いた従来技術の可変分散補償器の構成を示す図である。
【図17】空間位相変調素子を用いた従来技術の可変分散補償器の他の構成を示す図である。
【図18】空間位相変調素子を用いた従来技術の可変分散補償器における位相設定の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、AWGの分光軸に対応する方向のサイズを短く抑えた空間位相変調素子を利用した可変分散補償器ブロック(TODCブロック)を複数組み合わせ、多チャンネルの可変分散補償器を構成する点に特徴を有する。さらに、TODCブロックにおいて使用されるAWGのFSRを、そのTODCブロックによってカバーするWDM通信チャンネル群の全帯域幅と等しく成るように設定する。また、FSRを、そのTODCブロックによってカバーするWDM通信チャンネル群の全帯域幅と所定の関係と成るように設定することにより、光透過特性の平坦化も実現できる。インターリーブ型の群分波フィルタを用いた通信システムにも対応できる。以下、実施例とともに本発明について詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の実施例1に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。本可変分散補償器100は、複数のTODCブロックおよび群分波フィルタから構成されている。例えば、λからλ40までの40の波長を持つ光信号群が多重化された光信号は、第1の群分波フィルタ101の入力ポートInに入力される。多重化された光信号は、第1の群分波フィルタ101によってλからλ10、λ11からλ20、λ21からλ30ならびにλ31からλ40の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)に群分波される。波長群分波フィルタ101のポート1、ポート2、ポート3、ポート4から出力される各波長群の光信号群は、それぞれ、光ファイバなどによってTODCブロック103a、103b、103c、103dに入力される。G1からG4の各波長群の光信号群は、それぞれTODCブロック103a、103b、103c、103dによって分散補償されて、第2の波長群分波フィルタ102の各ポート1からポート4に接続される。分散補償後の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)の光信号群は、第2の波長群分波フィルタ102によって合波され、再びλからλ40までの中心波長を持つ40の通信チャンネルの光信号に多重化されて、出力ポートoutから出力される。
【0026】
図1に示したブロック図では、波長群分波フィルタ101、102が2つあるものとして記載されているが、TODCブロックとして反射型の構成のものを利用する場合は、反射板を設けて合波および分波ができる1つの波長群分波フィルタにより同等の機能を実現できる。波長群分波フィルタ101、102は、例えば、誘電多層膜により構成することができる。
【0027】
本発明の可変分散補償器の各TODCブロック103は、例えば図17の(A)に示した可変分散補償器と同一構成ものを使用できる。したがって、図1における各TODCブロックの入力と出力は、図17の(A)においては光サーキュレータ11の入力ポート38および出力ポート39に対応する。尚、図17の(A)では、反射型の構成の可変波長分散補償器を示しているが、AWG等を2つ配置した透過型の構成によっても実現できることに留意されたい。
【0028】
個々のTODCブロック103a、103b、103c、103dについては、AWGの構成パラメータを、分光動作の中心波長をそれぞれG1−G4の各帯域の中心波長に対応させ、各帯域内にある所定の通信チャンネル数に適合した線分散値となるようにそれぞれ設定する。各TODCブロックの基本的な構成は、全く同一とすることができる。図17の(A)に示したように、各TODCブロックに含まれるLCOS素子上における、AWGの分光軸方向に配列された複数のピクセルによって、チャンネル毎に独立して位相設定を行なうことができる。図1の構成の場合、1つの波長群帯域の中の10のWDM通信チャンネルに対して、独立に分散補償を行なうことができる。
【0029】
したがって、図1に示した構成により、各TODCブロックにおいて分散補償を行なう通信チャンネル数を少なく抑えることで、各LCOS素子の分光軸に対応するサイズを短くすることができる。すなわち、LCOS素子の大型化を抑えて、量産性およびコストに優れた多チャンネル可変分散補償器を実現することができる。特に、分散補償が必要なチャンネル数が非常に多い場合は、1辺が大きいサイズの、LCOS素子を1つだけ使用したTODCブロックを1つ使用する場合と比較して、小型のLCOS素子を使用した複数のTODCブロックによって構成するほうが、コストが安くなる。
【0030】
より好ましくは、本実施例の各TODCブロックにおいては、AWGのFSRが、1つの波長群に含まれる通信チャンネルの全帯域幅と等しくなるように設定することができる。具体的には、AWGのFSRを、WDM通信チャンネルの10チャンネル分に相当する光周波数幅に設定することができる。例えば、1つのWDM通信チャンネル幅を100GHzとすると、FSRを、1000GHzに設定する。
【0031】
AWGのFSRと1つの波長群に含まれる複数の通信チャンネルの全帯域幅とを、等しい値に設定することによって、TODCブロック103a、103b、103c、103dの構成を全く同一のものとすることができる。すなわち、図1に示した可変分散補償器100を、同一の設計仕様の1種類のTODCブロックのみで構成できる。可変分散補償器100の構成要素の種類を減らすことができるので、可変分散補償器の製造コストを減らすことができる。さらには、可変分散補償器の保守および運用の観点においても、保守作業のより簡易化と、低コスト化を実現できる。可変分散補償器の故障に対応するために、複数種類(例えば4種類)のTODCブロックを備える必要がなく、保守用に1種類のTODCブロックだけ備えておけば良い。保守交換作業も簡単化できることに注目されたい。
【0032】
図2は、本発明の可変分散補償器の光透過率特性の一例を示す図である。AWGのFSRを、1つの波長群に含まれる通信チャンネルの全帯域幅と同一の値に設定した場合を示している。横軸は、光周波数を示し、縦軸は分散補償器としての光透過特性を示している。分散補償特性は、AWGの周回性によって、FSR毎に同じ特性が繰り返される。光透過率についても、FSR毎に繰り返す帯域特性を示す。1つのFSRには、1つの波長群(G1、G2、G3、G4)の10の通信チャンネルの波長が対応している。
【0033】
図1に示した構成の可変分散補償器では、1つの波長群に10のWDM通信チャンネルが含まれている構成を例として説明したが、これに限定されない。同様に、分散補償の対象とするシステムのチャンネル総数を40、波長群の数を4、ならびに対応するTODCブロックの数も4として説明したが、これらの数もなんら限定されない。
【0034】
以上説明した実施例1の可変波長分散補償器によれば、多重化されたWDM光信号を複数の波長群に分離して、波長群毎に対応するTODCブロックを備えることで、分光軸方向にサイズが短いLCOS素子を使用することができる。大型のLCOS素子を必要とせずに、量産性およびコストに優れた、多チャンネル可変分散補償器を実現することができる。さらに、AWGのFSRと1つの波長群内に含まれる通信チャンネルの全帯域幅とを、等しい値に設定することによって、可変分散補償器の低コスト化ならびに保守の簡易化および低コスト化を実現できる。
【実施例2】
【0035】
本実施例においては、完全に同一仕様のTODCブロックを利用可能とし、さらに光透過特性を平坦化させた可変分散補償器を示す。実施例1においては、各TODCブロックの基本的な構成を、同一のものとすることができる。しかしながら、AWGのFSRと1つの波長群内に含まれる通信チャンネルの全帯域幅とを等しい値に設定しない限り、各波長群に対応した専用のTODCブロックを準備する必要がある。すなわち、波長群毎に、AWGの分光動作の中心波長がそれぞれG1−G4の各帯域の中心波長に対応するように、TODCブロック内に含まれるAWGの構成パラメータを設定する必要がある。TODCブロックを構成しているAWGのチップは、TODCブロック毎に異なるものを使用しなければならない。
【0036】
AWGのFSRと1つの波長群内に含まれる通信チャンネルの全帯域幅とを等しい値に設定した場合は、TODCブロックを1種類とすることができる。しかしながら、図2に示したように、FSRの両端部に対応する通信チャンネルにおいて光透過率が低下することが避けられなかった。AWGのFSRと1つの波長群内に含まれる通信チャンネルの全帯域幅とを等しい値に設定すると、分散補償器の透過率についても、FSR毎に繰り返す特性を示す。図2に示したように、一般に、1つの波長群の両端の通信チャンネルでは、透過率が低下する。例えば、λおよびλ10に対応する通信チャンネルにおいては、1つの波長群の中央部にある通信チャンネルと比較して、光透過率が低下する問題がある。本実施例においては、この問題をさらに改善する。
【0037】
図3は、実施例2に係る可変分散補償器において使用されるTODCブロックの構成を示す図である。このTODCブロック103は、図5とともに後述する実施例2に係る可変分散補償器の構成要素として使用される。図3に示したTODCブロック103の基本的構成は、図17の(A)で示した従来技術における可変分散補償器の構成と同じである。また、図18に示した位相分布のように、分波軸の距離をパラメータとして、2次以上の関数で規定される。AWGが、スラブ導波路の境界面上で0.5FSR相当離れた位置に接続された2つの入出力導波路を持つ点で、従来技術の構成と相違している。
【0038】
図3を参照すれば、TODCブロックは、AWG1、シリンドリカルレンズ6、集光レンズ7およびLCOS素子などによる空間位相変調素子8から構成されている。AWG1はスラブ導波路3およびアレイ導波路4を含んでいる。多重化された光信号群は、アレイ導波路4の一端から光信号の波長に応じた出射角度で分波され、AWG基板の端面Aから出射される。LCOS素子8上には、複数のWDM通信チャンネル(例えば10チャンネル)に対応して、AWG1の分光軸(x軸方向)に沿って複数のピクセルが配置されている。本TODCブロック103は反射型構成であり、AWG1から出射した各光信号は、LCOS素子8において所定の位相が付与された後に反射され、再びAWG1へ戻る。
【0039】
本TODCブロックのAWG1は、異なる複数の波長群の光信号群を入出力することができる2つの入出力導波路16、17を持つ。第1の入出力導波路16は、スラブ導波路3のアレイ導波路4との接続面とは反対側の境界面B上のa点で、スラブ導波路3と接続される。第1の入出力導波路16は、光ファイバなどを経て第1の光サーキュレータ11に接続される。第1の光サーキュレータ11は、ポートAとして機能し、所定の波長群の光信号が入力(Ain)および出力(Aout)される。同様に、第2の入出力導波路17は、スラブ導波路3の境界面B上のb点で、スラブ導波路3と接続される。第2の入出力導波路17は、光ファイバなどを経て第2の光サーキュレータ14に接続される。第2の光サーキュレータ14は、ポートBとして機能し、ポートAとは別の波長群の光信号が入力(Bin)および出力(Bout)される。
【0040】
2つの入出力導波路16、17が接続されるa点およびb点は、AWG1に設定されるFSRの1/2に相当する距離だけずれた位置にあることに注目されたい。したがって、ポートAから入出力される光信号の透過帯域と、ポートBから入出力される光信号の透過帯域とは、光周波数軸上において0.5FSRだけずれることとなる。
【0041】
図4は、実施例2に係るTODCブロックの光透過率を示した図である。ポートAを使用して入出力された光信号の光透過率は、実線の透過率線21で表示され、ポートBを使用して入出力された光信号の光透過率は、点線の透過率線22で表示されている。いずれの透過率線も、同一のAWGの透過率であるので、FSRを繰り返しの周期とした透過率特性を示す。しかしながら、透過帯域の中心は、2つのポート間で0.5FSRずれている点に注目されたい。
【0042】
ポートAによる透過率特性において、透過帯域の中央にある平坦部を波長群G1の光信号の使用のために割り当てることができる。波長群G1に隣接する波長群G2の光信号の使用のためには、ポートBによる透過率特性における透過帯域の中央にある平坦部を利用できる。さらに波長群G2に隣接する波長群G3については、再びポートAによる透過率特性において、波長群G1に使用した透過帯域からFSR離れた次の透過帯域の中央にある平坦部を利用できる。同様に、波長群G3に隣接する波長群G4については、再びポートBによる透過率特性において、波長群G2に使用した透過帯域からFSR離れた次の透過帯域の中央にある平坦部を利用できる。
【0043】
上述のように、図3に示したTODCブロックにおいて使用するポートを、波長群毎に交互に選択することによって、多数のWDM通信チャンネルを含む連続した通信帯域に対して光透過特性が平坦な可変分散補償を実現できる。このとき、TODCブロック内のAWG1に設定されるFSRは、1つの波長群内にあるチャンネルの全帯域幅の2倍となっている。実施例1においては、図2に示したように、AWGのFSRと1つの波長群内にあるチャンネルの全帯域幅と同一に設定されていた。すなわち、実施例1では、TODCブロックのAWGのFSR値を、群分波フィルタ101、102の波長分離間隔に一致するように設定していた。これに対し、実施例2では、TODCブロックのAWGのFSR値を、群分波フィルタの分離間隔の2倍に設定している点に注目されたい。次に、図3に示したTODCブロックを使用した可変波長分散補償器の全体構成についてさらに説明する。
【0044】
図5は、本発明の実施例2に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。実施例1と同様に、λからλ40までの40の波長を持つ光信号が多重化された光信号を、4つの波長群(G1、G2、G3、G4)に群分波をして、4つのTODCブロックを使用して分散補償を行なう。実施例2においては、TODCブロックにおいて2つの群分波フィルタと接続されるポートが、AポートおよびBポートの間で、波長群ごとに順次交互に選択される点で、実施例1と相違する。
【0045】
λからλ40までの40の波長を持つ光信号群が多重化された光信号は、第1の群分波フィルタ201の入力ポートinに入力される。多重化された光信号は、第1の群分波フィルタ201によって、λからλ10、λ11からλ20、λ21からλ30ならびにλ31からλ40の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)に群分波される。波長群分波フィルタ201のポート1、ポート2、ポート3、ポート4から出力される各波長群の光信号群は、それぞれ、光ファイバなどを経由してTODCブロック203a、203b、203c、203dに入力される。各波長群の光信号は、それぞれTODCブロック203a、203b、203c、203dによって分散補償されて、第2の波長群分波フィルタ202の各ポートに入力される。分散補償された4つの波長群(G1、G2、G3、G4)の光信号群は、第2の波長群分波フィルタ202によって合波され、各々が再びλからλ40までの中心波長を持つ40の通信チャンネルの光信号群を含む光信号に多重化される。
【0046】
波長群G1の光信号群を分散補償するTODC203aにおいては、ポートAが使用されている。波長群G1に隣接する波長群G2の光信号群を分散補償するTODC203bにおいては、ポートBが使用されている。さらに、波長群G2に隣接する波長群G3の光信号群を分散補償するTODC203cにおいては、再びポートAが使用されている。波長群G3に隣接する波長群G4の光信号群を分散補償するTODC203dにおいては、再びポートBが使用されている。上述のように、G1からG4の各波長群に対して、AポートおよびBポートが順次交互に使用される。この結果、図4に示したように隣接する波長群に対して、順次交互に、ポートAおよびポートBに対応した透過帯域が使用されることが分かる。このとき波長分散補償器としては、光周波数軸上でFSRに対応する1つの透過帯域内において、平坦な光透過率を持つ中央領域だけが使用される。このため、FSRの両端に対応し、透過帯域の両端であって光透過率が低下する領域を使用せずに、平坦な中央領域のみが使用される。
【0047】
本実施例2の構成によれば、多重化されたWDM光信号を複数の波長群に分離し、複数の1種類のTODCブロックを備えることで、分光軸方向にサイズが短いLCOS素子を使用することができる。大型のLCOS素子を必要とせずに、量産性およびコストに優れた、多チャンネル可変分散補償器を実現することができる。TODCブロックのAWGのFSR値を、群分波フィルタの分離間隔の2倍に設定することによって、光透過帯域が平坦な可変分散補償器を実現できる。可変分散補償器の低コスト化ならびに保守の簡易化および低コスト化を実現できる。
【0048】
尚、上述の実施例2では、2つの入出力導波路のスラブ導波路との接続点は、AWG1に設定されるFSRの1/2に相当する距離だけずれた位置にあった。しかしながら、同じ技術思想を適応すれば、FSRの1/3に相当する距離だけずれた位置でスラブ導波路と接続された3つの入出力導波路を備えた構成とすることもできる。この場合、TODCブロックとしては、ポートA、ポートBおよびポートCの3つのポート備えることになる。連続する複数の波長群を、順次交互に繰り返す3つのグループに分けることで、1つの波長群において、光透過率の平坦部分を使用できることは容易に理解できるだろう。このとき、TODCブロックのAWGのFSR値を、群分波フィルタの分離間隔の3倍に設定することになる。さらに、同様の考え方により、入出力導波路の数およびポート数を3以上に拡張することも可能である。
【実施例3】
【0049】
上述の実施例1および実施例2では、LCOS素子としてAWGの分光軸方向にのみピクセルが配列された1次元構成のLCOS素子を使用していた。しかし、LCOS素子上に2次元にピクセルを配列するとともに、TODCブロックに第2の分光素子を導入することによって、さらに可変分散補償器の構成を簡単化し、LCOS素子も小型化することができる。まず、2次元にピクセルが構成されたLCOS素子を含むTODCブロックについて説明する。
【0050】
図6は、本発明の実施例3に係るTODCブロックの構成を示す図である。実施例1、実施例2と同様に反射型の構成であるが、バルク型回折格子15をさらに含み、光信号をバルク型回折格子によっても分波する構成である点で、相違している。さらに、本実施例においては、光路を通して見た場合にAWGとバルク型回折格子の分波面が直交している点に大きな特徴を持っている。以下、実施例1および実施例2のTODCブロックとの差異に着目して、詳しく説明する。
【0051】
実施例1および実施例2のTODCブロックと同様に、入力ファイバ10より入力された光信号は、サーキュレータ11および接続ファイバ13を介して、AWG1の入力導波路2に入射する。入力導波路2に入射した光信号は、スラブ導波路3を介してアレイ導波路4へ伝搬する。アレイ導波路4において、異なる波長を持つ光信号群が分波される。すなわち、出射端5から出射される光信号は、x−z面(分波面)内で、その波長に応じた異なる出射角度でz軸方向のバルク型回折格子15へ向かって伝搬する。
【0052】
出射端5から出射された光信号は、AWG基板の厚さ方向すなわちy方向に対しては、シリンドリカルレンズ6によって平行ビームに変換される。シリンドリカルレンズ6から出射する光信号はy−z面内で平行光とみなすことができる。一方、AWG基板の面内のx方向に対しては、スラブ導波路3のレンズ作用によって十分幅広い平行ビームに変換される。すなわち、出射端5から出射した時点で、AWG1から出射する光信号はx−z面内で平行光とみなすことができる。シリンドリカルレンズ6を通過することで、光信号をx方向、y方向いずれについても平行光とみなすことができる。
【0053】
実施例3のTODCブロックの構成は、AWG1により分波された光信号をさらに分波するバルク型回折格子を備えている点に特徴がある。シリンドリカルレンズ6から出射した光信号は、その法線がz軸に対してθiだけ傾き、格子ベクトルがyz面内に設定されたバルク型回折格子15により、さらに分波される。バルク型回折格子15により分波された光信号は、集光レンズ7によって空間位相制御素子8上に集光される。ここで、AWG1の分散方向およびバルク型回折格子15の分散方向は、光路に沿ってそれぞれの分波面を見ると、2つの分波面が直交する関係にある。
【0054】
図6の(A)によれば、AWG1および空間位相制御素子8は、互いに平行な位置関係に配置されているように記載されているが、厳密には平行でなくて良い。図6は、後述する特定のバルク型回折格子を使用する場合であって、入射角θiが46.76°の場合を例示的に示している。この時、光路はバルク型回折格子おいてほぼ90°で屈折する。このため、図面上は、AWGおよび空間位相制御素子が、互いに平行な位置関係に配置されているかのように表現されている。したがって、本実施例において、バルク型回折格子の屈折角θiには何ら限定はない。本実施例のTODCブロックは、光路に沿って見た場合に、AWG1の分波面とバルク型回折格子15の分波面とが相対的に直交する関係であることにより、空間位相制御素子のピクセルを、異方性を持った2次元に構成できる点に特徴がある。
【0055】
波長(光周波数)と光信号の集光ビームの位置との関係を説明するため、仮想的に波長を連続的に変えた場合に、集光ビームが空間位相制御素子上に描く軌跡を検討してみる。本実施例においては、AWG1の角度分散をバルク型回折格子15の角度分散よりも十分大きく設定することによって、空間位相制御素子8上の集光ビームは光信号の波長に応じてラスタ状スキャンされる。
【0056】
例えば、バルク型回折格子15の回折次数を1に、AWG1のFSRを、分散補償の対象となる通信システムにおける1つの波長群のWDM通信チャンネルの全帯域幅に等しくなるように設定すれば良い。このようなビームのラスタ状スキャンは、第1の分光素子として、設計パラメータの自由度が大きく、簡単に所望のFSRを実現できるAWGを用いることで可能となる。第1の分光素子としてバルク型の回折格子を用いても、簡単に所望の角度分散を設定できない。第1の分光素子の分波特性および第2の分光素子の分波特性に適切な角度分散を配分し組み合わせることによって、本実施例に特有の分散補償の動作が実現される点に注目されたい。空間位相制御素子8おいて反射された光信号は、実施例1、2のTODCブロックと同様に、その光路を反転させて往路とは逆方向へ伝搬し、サーキュレータ11を介して、出力ファイバ12から出射される。
【0057】
図7の(A)は、実施例3のTODCブロックに好適な空間位相制御(LCOS)素子の構成を示す図である。空間位相制御素子8上の座標系を、u軸−v軸と定義する。上述のようにAWG1のFSRは、分散補償の対象となる通信システムにおける1つの波長群内にあるWDM通信チャンネルの全帯域幅に等しく設定されている。このとき、1つの波長群の全帯域内にある光信号は、AWG1のある回折次数の干渉光に対応する。仮想的に無変調の光信号の波長を連続的に変化させたとすれば、AWG1の分波作用によって、回折次数mの光信号については、集光ビームの位置は線分Lm上の軌跡を描く。
【0058】
この回折次数mの光信号は、例えばm番目の特定の波長群内にある光信号群に対応する。同様に、回折次数m+1の光信号については、隣接するLm+1上の軌跡を描く。この回折次数m+1の光信号は、m番目の波長群に隣接するm+1番目の波長群にある光信号群に対応する。したがって、1つの波長群の全帯域内にある光信号成分は、空間位相制御素子8上をスキャンされて描かれる1つの軌跡線Lm上に局在するピクセル列に対応する。換言すれば、1つの波長群の全帯域内にある各光信号は、1つの軌跡Lm上に局在するu軸方向に配列された複数のピクセル列によってそれぞれ独立に位相が付与され、分散補償が実現される。
【0059】
上述のu軸方向に配列されたピクセル列毎に、異なる波長群に対して分散特性(群遅延特性)を設定できる。すなわち、実施例3のTODCブロックは、ピクセル列毎に独立して異なる位相分布を設定することによって、波長群毎に異なる分散特性(群遅延特性)を設定できる特徴を持つ。図6において、バルク型回折格子15の分光面(すなわちyz面)と空間位相制御素子8のピクセル形成面との交線の方向が、空間位相制御素子8上におけるバルク型回折格子15による分散方向となる。この交線で規定される分散軸をz’軸とする。図7の(A)および(B)においては、z’軸は、Lm、Lm+1等の各軌跡線の終了点を結ぶ方向または開始点を結ぶ方向となる。
【0060】
図7の(A)を用いて、集光ビーム径と、u軸およびv軸面上に形成されるピクセル構造との関係についてさらに検討する。図7の(A)では、簡単のため各ピクセルの形状を正方形のものとして表示している。以下では、u軸およびv軸それぞれにおいて、集光スポットビーム半径とピクセルピッチとの相対関係に着目して、各ピクセルに対する位相の設定方法が説明されることに留意されたい。また、変調を受けていないある光周波数(波長)の光信号に対応する集光ビームの形状は、集光レンズおよびシリンドリカルレンズの特性に応じて、一般に楕円となる。ここで、v軸方向の楕円半径をwvとする。楕円半径は、集光スポットの光強度がピーク値の1/eとなる半径、すなわちピーク光強度の13.5%となる半径を言うものとする。
【0061】
v軸方向については、軌跡Lmを描く集光スポットラスタは、バルク型回折格子15の角度分散に基づいて、アレイ導波路格子のFSRに対応する光周波数毎にdv移動する。したがって、集光スポットのv軸方向の楕円半径について、次式を満たすようにすることによって、隣接する波長群のビームの重なりを除去することができる。
wv≦dv/2 式(1)
v軸方向の楕円半径wvは集光スポットの光強度がピーク値の1/eとなる半径であるので、式(1)の条件を満たすことによって、光通信で一般に求められる−30dB以下のクロストーク性能を実現することができる。
【0062】
図7の(A)の構成では、AWG1およびバルク回折格子15の線分散値によって決まる軌跡Lmの方向を、空間位相変調素子8のu軸方向と一致させている。さらに、v軸方向のピクセルピッチをpSLMvとして、pSLMvとdvとを一致させている。上述のピクセル構成によって、1つの波長群の全帯域内にある各光信号を、u軸方向に並んだピクセル列1列に対応させることができる。その結果、最少のピクセル数を持つLCOSを用いて、全波長群内の光信号へ分散付与することが可能となる。ピクセル数を減らすことによって、LCOSに掛かるコストを低く抑えることができる。
【0063】
以下に、具体的な数値例とともに本実施例のTODCブロックの例を示す。アレイ導波路格子は比屈折率差が1.5%の石英系光導波路を用いて作製した。アレイ導波路の行路長差ΔLを202μm、アレイ導波路の出射端5におけるアレイ導波路ピッチを12μmとした。この構成によれば、アレイ導波路格子の自由スペクトルレンジはおよそ1000GHzになる。
【0064】
バルク型回折格子15は、例えば、格子周期が940本/mmの体積位相ホログラフィック回折格子(VPHG: Volume phase holographic grating)を用いる。バルク型回折格子15はVPHGタイプに限られず、透過型ブレーズ回折格子、反射型のホログラフィック回折格子または反射型のブレーズ回折格子を用いても、VPHGと同様の機能を実現できる。入射角θiが46.76°のとき格子周期940本/mmのVPHGの角度分散値は、1.37mrad/nmである。シリンドリカルレンズ6の焦点距離は1mm、集光レンズ7の焦点距離は80mmとした。
【0065】
LCOS型空間位相制御素子8は、u軸方向のピクセル数およびピッチが、それぞれ1280個および8μmであり、v軸方向のピクセル数およびピッチが、それぞれ4個および920μmである。したがって、LCOSのピクセルが形成された領域のサイズは、約10.2mm×3.7mmである。この構成は、あくまで一例であって、u軸方向のピクセルピッチは5μm〜10μmの範囲あってもよい。
【0066】
上述の光学系の構成によれば、v軸方向のビーム半径wvは、約300μmとなり、式(1)の関係を満たしていることを確認した。LCOS上におけるv軸方向の線分散値は、前述のVPHGの角度分散値と集光レンズの7の焦点距離の積として、0.11mm/nmと求まる。よって、集光スポットの位置は、AWGのFSRである1000GHz(約8.4nm)当り、dv=920μm移動する。アレイ導波路格子のFSRに対応するスポット移動量dvと、v軸方向のピクセルピッチpSLMvとがいずれも920μmに一致していることを確認した。
【0067】
LCOS素子のu軸方向の線分散値は、1.22mm/nmとなり、128個のピクセルが、100GHzの周波数レンジを持つ光信号の位相変調に寄与することになる。したがって、本実施例の構成のTODCブロックによって、1つの波長群において、100GHz間隔で配置された10のWDM通信チャンネルの各光信号に対して、独立して分散補償することが可能になる。さらに、v軸方向に配列したピクセル列毎に、複数の異なる波長群の光信号群に対しても独立して分散補償することができる。
【0068】
図7の(A)に示したLCOSの構成例では、pSLMvとdvとをほぼ一致させて、u軸方向に並んだピクセル列1列を1つの波長群に対応させた場合を、例示的に説明した。別の構成例として、図7の(B)に示すように、dvをpSLMvより大きく設定して、v軸方向について複数のピクセルを1つの波長群に割り当てる構成例を説明する。この場合も、式(1)の関係を満たすことによって、隣接する波長群の間のクロストークを低く抑えることができる。図7の(A)のピクセル構成では、軌跡Lmの方向とu軸の方向とを一致させる必要があった。これに対し、図7の(B)のピクセル構成では、v軸方向について、軌跡Lmを中心としてdvの幅に含まれる複数のピクセルを、1つの波長群mの制御のために用いることによって、軌跡Lmとu軸とが平行である必要がなくなる。
【0069】
図7の(B)のピクセル構成の利点は、光信号に任意の光結合損失を付加できるところにある。v軸方向における複数のピクセルによって、u軸方向に対する位相設定とは独立して、v軸方向に対して傾いた位相を設定することができる。再び図6を参照すれば、LCOSにおいて反射してバルク型回折格子15を通過した光信号は、アレイ導波路格子の出射端5において、y軸方向のAWG導波路固有モードに対して傾いた電界分布を持った状態で、AWG1へ入射する。したがって、TODCブロックの透過特性に波長依存性を持った損失を付加し、光信号強度の波長依存を補償することが可能となる。
【0070】
図7の(B)の構成を実現するLCOSとして、一般的な正方格子上にピクセルが並んだLCOSを使用した。ピクセルピッチは、u軸方向およびv軸方向共に8μmである。LCOS以外の光学系の構成は、図7の(A)で説明したのと同様のものを用いた。dv=920μmであるので、軌跡Lmを中心にしてv軸方向に115個のピクセルを1つの波長群に割り当てた。任意の波長、すなわち、任意の波長群番号mおよび任意のu軸上の位置において、v軸方向に割り当てられた115のピクセルに与える位相値を、最大で、傾き角0.3度の位相変化に相当するだけv軸方向に線形的に変化させた。この線形的に傾斜させた位相により、その波長の光信号強度を0dB〜−40dBの範囲で制御する事が出来た。
【0071】
図7の(A)または(B)に示したピクセルが2次元に配列されたLCOS素子で構成されたTODCブロックを利用することによって、図1に示した実施例1に係る可変分散補償器を、より簡単な構成に変形することができる。
【0072】
以上のLCOSに関わる説明では、ピクセルピッチのみに着目して、ピクセルの幅およびピクセル間のスペースには触れなかったが、用法を問わず、ピクセル間スペースは、光の制御効率を高めるために狭くすることが好ましい。一般には、1μm以下が好ましい。
【0073】
図8は、実施例3に係る分散補償器の全体構成を示したブロック図である。図8は、分散補償器としての機能に着目したブロックに分けて分散補償器を表現している。以下、図6に示したTODCブロックと、具体的な構成との対比関係を説明する。図6のTODCブロックにおけるLCOS素子8は、図7の(A)および(B)に示したように、2次元(2-Dimension)にピクセルが配列された構成を持つものとし、以下2D−LCOS素子と呼ぶ。
【0074】
図8の可変分散補償器300においては、例えば、λからλ40までの40の波長を持つ光信号群が多重化された光信号が、分光器301の入力ポートInに入力されて分波され、さらに第1の群分波フィルタ302に入力される。多重化された光信号は、第1の群分波フィルタ302によってλからλ10、λ11からλ20、λ21からλ30ならびにλ31からλ40の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)に群分波される。第1の波長群分波フィルタ302からの各波長群の光信号群は、2D−LCOS素子305上の、各列(第1列、第2列、第3列第4列)のピクセル群306a、306b、306c、306dによって分散補償される。分散補償後の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)の光信号群は、第2の波長群分波フィルタ303および分光器304によって合波され、再びλからλ40までの中心波長を持つ40の通信チャンネルの光信号に多重化されて、出力ポートoutから出力される。
【0075】
図8における2つの分光器301、304は、図6のTODCブロックにおけるAWG1に対応する。ここで、図6に示したTODCブロックは反射型の構成を持つために、1つのAWGによって分光器301および分光器304の機能を実現できることに留意されたい。図8における2つの群分波フィルタ302、303は、図6に示したTODCブロックにおけるバルク型回折格子15(第2の分光手段)に対応する。AWG1と同様に、1つのバルク型回折格子15によって、2つの群分波フィルタ302、303の機能を実現できる。
【0076】
2D−LCOS素子305は、波長群G1に対応する第1列のピクセル群306a、波長群G2に対応する第2列のピクセル群306b、波長群G3に対応する第3列のピクセル群306c、波長群G4に対応する第4列のピクセル群306dによって、それぞれ分散補償される。ここで、2D−LCOS素子は、1つの素子面内にu軸方向に並んだ各列(第1列、第2列、第3列、第4列)のピクセル群が一体となって2次元にピクセルが配置されて構成されることに注目されたい。したがって、光信号が分光器301(AWG1)から空間に出射し、バルク型回折格子および2D−LCOS素子によって光信号処理をされて、再び分光器304(AWG1)に入射するまでの光信号処理は、1式のTODCブロックによって実現される。すなわち、図6に示された1つのTODCブロックによって、図1に示した4つのTODCブロックを必要とする可変分散補償器と同じ機能を実現できる。
【0077】
尚、2D−LCOS素子305の各ピクセル列は、第1列から第4列まであるものとして説明したが、1つの波長群に対してv軸方向に複数のピクセルを使用して位相設定を行なうこともできることに留意されたい。この場合、1つの波長群に対して、u軸方向に配列されたピクセル列が複数列配置されることになる。
【0078】
図1に示した実施例1に係る可変分散補償器によれば、4つのTODCブロックのほかに個別の波長群分波フィルタ101、102を必要とした。これに対して、実施例3の可変分散補償器300は、図6に示したTODCブロックを1つだけで構成できるので、可変分散補償器の構成を大幅に簡略化することができる。
【実施例4】
【0079】
実施例1の可変分散補償器と同様に、図5に示した実施例2の可変分散補償器も、図6に示した2D−LCOS素子を利用することによって、より簡単な構成に変形することができる。すなわち、図6に示した2次元にピクセルが構成されたLCOS素子を利用したTODCブロックにおいて、図3と同様にAWGに接続された2つの入出力導波路16、17を備えることによって、多数のWDM通信チャンネルを含む連続した通信帯域(波長群)に対して光透過特性が平坦な可変分散補償を実現できる。
【0080】
図9は、実施例4の可変分散補償器で使用されるTODCブロックの構成図である。図9に示した構成は、実施例2の可変分散補償器に使用されるTODCブロック(図3)に第2の分波手段(バルク型回折格子)15を追加している点で、図3に示したTODCブロックの構成と相違している。さらに、スラブ導波路3の境界面上で0.5FSR相当離れた位置に接続された2つの入出力導波路16、17を持つ点では、図3のTODCブロックの構成と共通するが、接続されるインターリーブ型群分波フィルタ19を持つ点で相違している。以下、これらの相違点に着目して説明する。尚、図9は、簡単のため第2の分波手段15による光路の折り曲がりは省略し、簡略化して記載している。
【0081】
図9に示したTODCブロックは反射型構成をしている。λからλ40までの40の波長を持つ光信号群が多重化された光信号が、光サーキュレータ11を経由して、TODCブロックに入力される。TODCブロックにおいて分散補償された後で、再び光サーキュレータ11から出力される。光サーキュレータ11への多重化された入力光信号は、インターリーブ型群分波フィルタ19に入力される。インターリーブ型群分波フィルタ19は、複数の波長群を含む多重化された光信号群を、奇数番目の波長群と偶数番目の波長群とに群分波をする。すなわち、インターリーブ型群分波フィルタ19のポートA側の出力には、λからλ10、λ21からλ30の2つの波長群(G1、G3)が群分波される。インターリーブ型群分波フィルタ19のポートB側の出力には、λ11からλ20、λ31からλ40の2つの波長群(G2、G4)が群分波される。AポートおよびBポートからの光信号群は、それぞれスラブ導波路3の境界面上で0.5FSR相当離れた位置に接続された2つの入出力導波路16、17に入力される。実施例2のTODCと同様に、AWG1のFSR値を、インターリーブ型群分波フィルタ19の波長群分離間隔の2倍に設定している。
【0082】
図9のTODCブロックにおけるLCOS素子8は、第3の実施例と同様に、図7に示した2次元(2-Dimension)にピクセルが配列された2D−LCOS素子である。
【0083】
図10は、実施例4に係る分散補償器の全体構成を示すブロック図である。図10は、分散補償器としての機能に着目したブロックに分けて分散補償器を表現している。以下、図9に示したTODCブロックの具体的な構成と対比して説明する。
【0084】
図10の可変分散補償器400においては、例えば、λからλ40までの40の波長を持つ光信号群が多重化された光信号が、インターリーブ型群分波フィルタ401によって、奇数番目の波長群と偶数番目の波長群とにインターリーブ群分波される。インターリーブ群分波された、Aの波長群(G1、G3)およびBの波長群(G2、G4)は、それぞれ分光器402のAポートおよびBポートに入力される。ここで分光器402は、図9におけるAWG1に対応する。さらに、実施例3と同様に、第1の波長群分波フィルタ403が図9の第2の分波手段15に対応する。第1の波長群分波フィルタ403からの各波長群の光信号群は、2D−LCOS素子407上の、各列(第1列、第2列、第3列、第4列)のピクセル群408a、408b、408c、408dによって分散補償される。分散補償後の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)の光信号群は、第2の波長群分波フィルタ404および分光器405によって合波される。さらに、インターリーブ型群分波フィルタ406によって、奇数番目の波長群および偶数番目の波長群はインターリーブ群合波され、再びλからλ40までの中心波長を持つ40の通信チャンネルの光信号に多重化されて、出力ポートOutから出力される。
【0085】
実施例3と同様に、図9の反射型の構成のTODCブロックによって、分光器402、405および群分波フィルタ403、404は、それぞれ1つのAWG1および1つの第2の分波手段15によって実現できるのは言うまでもない。
【0086】
2D−LCOS素子407は、波長群G1に対応する第1列のピクセル群408a、波長群G2に対応する第2列のピクセル群408b、波長群G3に対応する第3列のピクセル群408c、波長群G4に対応する第4列のピクセル群408dによって、それぞれ分散補償される。ここで、2D−LCOS素子407は、1つの素子面内に各列のピクセル群が一体となって2次元にピクセルが配置構成されることに注目されたい。したがって、光信号が分光器402(AWG1)から空間に出射し、バルク型回折格子15および2D−LCOS素子によって光信号処理をされて、再び分光器405(AWG1)に入射するまでの光信号処理は、1式のTODCブロックによって実現される。すなわち、図9によって示された1つのTODCブロックは、図5に示した可変分散補償器と同じ機能を実現できることに注意されたい。
【0087】
図5に示した実施例2に係る可変分散補償器では、4つのTODCブロックのほかに個別の波長群分波フィルタ201、202を必要とした。これに対して、実施例4の可変分散補償器400は、図9に示したTODCブロックを1つだけで構成できるので、可変分散補償器の構成を大幅に簡単にすることができる。
【0088】
実施例2と同様に、多重化されたWDM光信号を複数の波長群に分離し、ただ1つのTODCブロックを備えることで、分光軸方向にサイズが短いLCOS素子を使用することができる。大型のLCOS素子を必要とせずに、量産性およびコストに優れた、多チャンネル可変分散補償器を実現することができる。TODCブロックのAWGのFSR値を、インターリーブ型群分波フィルタの波長群分離間隔の2倍に設定することによって、光透過帯域が平坦な可変分散補償器を実現できる。可変分散補償器の低コスト化ならびに保守の簡易化および低コスト化を実現できる。
【0089】
以上詳細に述べたように、実施例3および実施例4は、実施例1または実施例2の構成の可変分散補償器よりもさらにTODCブロックの数を減らして、多チャンネルの可変分散補償器を構成することができる。FSRを、そのTODCブロックによってカバーするWDM通信チャンネル群の全帯域幅と所定の関係に成るように設定することにより、光透過特性の平坦化を実現することもできる。
【0090】
実施例3および実施例4で詳細に説明したように、2D−LCOS素子を使用してピクセルを2次元に構成することで、AWGの分光軸に対応する方向のサイズを短く抑えたLCOS素子を利用するのと同じ効果が得られることに注目されたい。
【実施例5】
【0091】
実施例2の分散補償器では、群分波フィルタ201、202は、λからλ10、λ11からλ20、λ21からλ30およびλ31からλ40の4つの波長群(G1、G2、G3、G4)に光信号群を合分波した。このような光信号群の合分波を実現するためには、群分波フィルタには、波長群G1の波長帯域のλからλ10の光信号を低損失で透過させ、隣接する波長群G2の波長帯域のλ11からλ20の光信号を遮断するような急峻なフィルタ特性が求められる。このような急峻なフィルタ特性を持つ群分波フィルタを実現するのは難しい。
【0092】
また、インターリーバを使用した通信システムにおいては、通信チャネルが飛び飛びに使用されており、実施例2のような連続して配置された隣り合う通信チャンネルに対応する波長群の光信号群を合分波する分散補償器をそのまま使用することはできない。そこで、本実施例では群分波フィルタとしてインターリーバを使用し、かつ光透過帯域が平坦な可変分散補償器を説明する。尚、以下の説明においては、通信チャンネルと波長とは一対一に対応することに留意されたい。すなわち、光信号の物理的な性質としての観点から特定の波長の光信号を選択することは、対応する通信チャンネルに対する機能の観点から対応するチャンネルを選択することと同じである。
【0093】
図11は、本発明の実施例5に係る可変分散補償器の全体構成を示すブロック図である。本実施例の可変分散補償器500は、図1の実施例1および図5の実施例2の可変分散補償器と同様の全体構成を持つ。すなわち、可変分散補償器500は透過型の構成を持つものとして示されており、多重化された光信号を群分波する群分波フィルタ501、群分波された光信号群を分散補償するTODCブロック503a、503b、503c、503dおよび分散補償された光信号群を再び群合波する群分波フィルタ502から成る。TODCブロックを反射型の構成とすれば、反射型の可変分散補償器として構成することも可能であり、その場合には、1つの群分波フィルタで良いことは言うまでも無い。以下、実施例2の構成との相違点に着目して説明する。
【0094】
本実施例においては、群分波フィルタ501、502として、多重化された光信号を群分波するためにインターリーブ型群の群分波フィルタを用いる。以下、本実施例におけるインターリーブ型の群分波フィルタを、簡単のためインターリーバと呼ぶ。本実施例では、40チャンネル(チャンネル番号1〜40)の分散補償器を構成するために、インターリーバ501、502は、λからλ40までの40の波長を持つ光信号が多重化された光信号を、4つの波長群(G1、G2、G3、G4)に群分波する。本実施例では、分波される各波長群の波長が、G1(λ,λ,λ,・・・λ37)、G2(λ,λ,λ10,・・・λ38)、G3(λ,λ,λ11,・・・λ39)、G4(λ,λ,λ12,・・・λ40)となる点で、実施例1および実施例2における動作と相違する。すなわち、インターリーバは、対象とする全波長群(ここでは40チャンネルに対応する波長群)を所定の波長群数(4)に分波または合波する。ここで、1つの波長群内の波長(チャンネル)は、等間隔に選択されるものとする。例えば、本実施例の波長群G1については、チャンネル番号1,5,9、・・37となるので、4チャンネル間隔で選択されている。
【0095】
ここでインターリーバは具体的には、波長を1つおきに2群に分けるものを2段接続して構成しても良い。あるいは、アレイ導波路回折格子であって、λ,λ,λ,・・・λ37という間隔の周回性を持つもので構成しても良い。
【0096】
上述の分波された4つの波長群の各々に、4つのTODCブロック503a、503b、503c、503dがそれぞれ対応する。各TODCブロックは、実施例2における図5で示した構成のようにAWG、集光レンズおよび空間位相変調素子(LCOS)などを含む。次に説明するように、本実施例において使用されるTODCブロックでは、1チャンネルの差に相当する位置に、4つの入出力導波路を備えている。この4つの入出力導波路は、TODCブロックにおける4つの入出力ポート(P1,P2,P3,P4)に対応する。
【0097】
図12は、実施例5の可変分散補償器で使用されるAWGの構成を示す図である。図5では、簡単のため反射型のTODCブロックにおけるAWG601の構成を示していることに留意されたい。したがって、集光レンズや信号処理素子は表示されていない。AWG601は、4本の入出力導波路602a、602b、602c、602d、スラブ導波路603およびアレイ導波路604を含む。アレイ導波路604は、導波路の数を省略して記載してある。入出力導波路は、スラブ導波路603の一端の境界面で接続されるが、その接続点は、AWGから出射したビームの同一の集光点に対して、1チャンネル分の差を生じさせる距離だけ離れている。4本の入出力導波路602a、602b、602c、602dの端は、TODCブロックの外部への接続ポートP4,P3,P2,P1に対応する。
【0098】
本実施例の可変分散補償器では、空間位相変調素子としてLCOSを用いた例で説明する。本実施例では、1つのチャンネル(波長)に対応しているLCOSの要素素子群(セル)の数とAWGのFSRとを、以下に説明するような関連付け、さらに離散的かつ周期的に選択されたチャンネルをLCOSの各セルに割り当てる。これによって、光周波数軸上でFSRに対応する1つの透過帯域内の両端において光透過率が低下する影響を避けることができる。以下の説明では、セルは、1つの通信チャンネルの信号処理に対応する要素素子群のことを言う。LCOSを例とすれば、分波軸方向に配列された複数のピクセルの内で、1つの区画内にある一群の液晶ピクセルがセルに対応する。以下の説明では、1つのセルによって1つの通信チャンネルに対する信号処理が行なわれることに留意されたい。
【0099】
図13は、実施例5の可変分散補償器におけるチャンネル割当を説明する図である。ここでLCOSのセル番号は、AWGの方からLCOSに向かって見た状態で番号付けしている。(A)〜(D)は、それぞれTODC1〜TODC4に対してどのようにチャンネルが割り当てられるかを示している。以下(A)によって、TODC1に割り当てられるチャンネルを説明する。本実施例では、連続する40の通信チャンネル、すなわち40の波長を、G1〜G4の4つの波長群に分波している。TODC1に対しては、波長群G1(λ,λ,λ,λ13,λ17,λ21,λ25,λ29,λ33,λ37)の10波長の光信号に対してLCOSの各セル(10セル)によって分散補償が実行される。
【0100】
図13の(A)の上方には、LCOS上に配列されたの11個のセルを、セル番号(1)〜(11)によって示している。上記のように、LCOSのセル番号は、かっこ付きの数字によってセル番号(*)として示す。一方、(A)の下方には、特定のセル番号(*)から始めて、順次、各セルにチャンネル番号1〜40を配置してチャンネルを割り当てた場合の割当表を示す。ここで、チャンネルは、LCOSのセル数11の周期で同一のセルに割り当てられる。例えば、セル番号(4)に対しては、チャンネル番号1、12、23、34が割り当てられる。図13では、右端のセル番号(11)のセルにチャンネル番号8、19、30が割り当てられるが、このセルを使用しないで済むように、このTODCには入射しない(使われない)チャネルを割り当てている。
【0101】
図13に示したチャンネル割当表からわかるように、本実施例では、10の波長数すなわち10の通信チャンネルを含む1つの波長群に対して、11のLCOSセルが割り当てられている点に特徴がある。すなわち、各TODCブロックにおけるAWGは、11チャンネル分に相当するFSRを持つ。(A)に再び戻ると、TODC1は、インターリーバによって波長群G1に分波された光信号群が入力されるため、飛び飛びの波長(チャンネル)に対して分散補償を行なえば良い。波長群G1に対応する波長(チャンネル)は、(A)のチャンネル割当表でハッチングを施したチャンネルに対応する。(A)から明らかなように、波長群G1に含まれるすべての波長(チャンネル)は、LCOSのセル番号(1)からセル番号(10)の各セルに、重複することなくかつ隙間無く割り当てられている。同様に、図13の(B)から(D)で示されるように、TODC2〜TODC4についても、対応する波長群G2〜G4の各波長(チャンネル)が、LCOSのセル番号(1)から(10)に、それぞれ重複することなくかつ隙間無く割り当てられている。
【0102】
ここで、チャンネル番号1が割り当てられるセルのセル番号(*)は、TODC毎に、1つずつずれていくことに注意されたい。すなわち、TODC1では、セル番号(4)のセルからチャンネル番号1が割り当てられる。一方、TODC2ではセル番号(3)のセルから、TODC3ではセル番号(2)から、TODC4ではセル番号(1)のセルからそれぞれチャンネル番号1が割り当てられる。TODCブロック毎に、同一チャンネルの光信号をセル番号(*)を1チャンネル分ずらして割り当てるためには、TODCブロック毎に、AWGの入出力導波路のスラブ導波路との接続位置を、1チャンネル相当分ずらせば良い。これは、図12で示したように4本の入出力導波路602a、602b、602c、602dを備えて、各入出力導波路とスラブ導波路603との境界面における接続位置を1チャンネル分ずらすことにより実現できる。実際に図11の可変分散補償器を実装する場合は、4本の入出力導波路に対応する接続ポートP1〜P4を選択すれば良い。
【0103】
図14は、実施例5の可変分散補償器の各TODCブロックにおけるチャンネル割当をFSRと関連付けて説明した別の図である。図13と同様に、LCOSのセル番号と各TODCに割り当てられたチャンネル番号をまとめて示している。さらに、図14の最上部に、本実施例で使用されるAWGにおける光透過率特性を、その波長軸とLCOS素子の配列方向とを揃えて表示している。図14に示すように、AWGは11チャンネル相当分のFSRを持ち、光透過率の低下部分とLCOSの未使用とするセル番号(11)の位置とを一致させることによって、FSRに対応する1つの透過帯域の両端における光透過率の低下の影響を避けることができる。
【0104】
上述の実施例の構成を用いることによってFSRの影響を減らしても、透過帯域の両端の光透過率の低下が依然として残ることもある。その時には、空間位相変調素子において位相差等を付加することにより可変減衰(VOA:Variable optical attenuator)機能を付与して、チャンネル間の光損失レベルをさらに均一にすることも可能である。
【0105】
実施例1においては、1つの波長群の透過帯域とAWGのFSRとを完全に一致させる構成としたが、本実施例においては、1つの波長群に含まれる最大数の波長数(10波長)に対応した全帯域幅(10チャンネル)に対して、AWGが11チャンネル分に相当するFSRを持つ構成としている点で相違している。LCOSのセル数(11)は、AWGのFSRとも対応している。本実施例では、1つの波長群内に含まれる各波長がインタリーバによって離散的に選択されたものである点で、実施例1から実施例4と相違している点も注目されたい。
【0106】
上述のような関係のFSRを持つことにより、透過帯域端部の光透過率の低下領域とLCOSの1つの未使用セルとを一致させ、光透過率低下の影響を回避することができる。また、本実施例において群分波された1つの波長群では、インターリーバによって離散的かつ周期的に波長(チャンネル)が選択されている点で、連続した複数のチャンネルが選択された実施例1〜4と相違している点に注目されたい。インターリーバによって所定の条件に従って離散的かつ周期的に選択されたチャンネルに、LCOSの所定の数の各セルを対応させることによって、LCOS上のすべてのセルにチャンネルを重複させること無く、かつ、隙間なく割り当てることができる。
【0107】
実施例5の特徴を持つ構成を、より広く一般化することができる。以下、群分波フィルタの特性、群分波フィルタにより群分波される波長群の数、ならびにAWGのFSRおよびLCOSのセル数の関係を検討する。図14にも示したように、波長群フィルタによって分波される波長群の数をbとする。実施例5ではb=4となる。ここでは簡単のため、bは2をべき乗したものとし、b=2、4、8、16、32・・とする。AWGのFSRは、1つの波長群内に含まれる最大のチャンネル数に未使用分のセル数1を加えた数をaとして、1つの通信チャンネルの帯域幅をBとすると、次式で表される。
FSR=a×B 式(2)
このとき、1つの波長群内に含まれる最大の通信チャンネル数すなわちAWGによって合分波される通信チャンネルの数は、(a−1)となる。上述の実施例5の具体的な数値条件では、本実施例の分散補償器が処理を行なう総チャンネル数(波長数)Nは、N=(a−1)×bとなる。総チャンネル数Nが(a−1)×b以上であって端数を含んでいても、一部のTODCブロックにおいて対応する通信チャンネルがないセルが含まれるだけで、本発明の特有の光透過帯域が平坦さや、LCOSセルへの効率的なチャンネル割当の効果は維持される。
【0108】
実施例5に具体例に対応させれば、a=11となり、1つの通信チャンネルの帯域幅Bを100GHzとした場合、FSRは11×100GHz=1100 GHzとなる。LCOSのセル数は11となり、最大の通信チャンネル数は、10となる。LCOS上に配置された11のセルの内、10のセルが分散補償のための信号処理に使用される。上記条件で、aとbが互いに素の関係にあるとき、LCOS上のすべてのセルにチャンネルを重複させること無く、かつ、隙間なく割り当てることができる。
【0109】
図13および図14では、LCOSのセルの右端のセルを未使用としたが、これには限定されない。LCOSの11のセルの内、任意の1つを未使用とすることもできる。ただし、すべてのTODCブロックで同一位置のセルを未使用としなければならない。図13において、各TODCブロックでチャンネル番号1が割り当てられるセル番号(*)は、TODCブロックごとに1つずつずれているが、これは、ポートの選択により実現できる。すなわち、各TODCブロックのAWGは全く同一の構成でよく、各TODCブロックの波長群に対応するポートを選択するだけで良い。
【0110】
図15は、実施例5の分散補償器に適用可能な総波長数およびLCOS素子数の関係を示す図である。分散補償を行なう総チャンネル数(波長数)およびインターリーバにより合分波される波長群(G1、G2、・・Gb)の数および1つの波長群内に含まれる最大通信チャンネル数に応じて、適切なLCOS素子のセル数および対応するAWGのFSRを選択すれば、本実施例の条件を満たすことができる。
【0111】
本実施例の分散補償器により、LCOSの複数のセルの内の未使用の1つのセルを、FSRの透過帯域内において透過率が低下する領域と一致させることによって、透過率低下の影響を効果的に避けることができる。1つの未使用セルを除いて、LCOSの他のすべてのセルに対して無駄なく効率的に通信チャンネルを割り当てることができ、光透過帯域が平坦な可変分散補償器を実現できる。未使用のセルによって、AWGのFSR透過帯域の端部における設計条件を緩和することもできる。尚、本実施例においても、各セルに対して、先の各実施例で説明したような様々の形状を持つ位相特性を付与することができる。
【0112】
本実施例は、反射型および透過型いずれの分散補償器にも適用できる。また、LCOSだけに限られず、要素素子を含む他の空間位相変調素子にも適用できる。また、実施例5において利用される対象通信チャンネル数、LCOSのセル数およびAWGのFSRの関係は、AWGのFSRに関連する透過特性の低下の影響を避けることができる点において、分散補償器以外の信号処理を行なう光信号処理装置にも適応できる。
【0113】
以上詳細に述べたように、実施例1または実施例2の構成の可変分散補償器よりもさらにTODCブロックの数を減らして、多チャンネルの可変分散補償器を構成することができる。また、インターリーブ型の群分波フィルタを用いた場合でも、光透過特性の平坦化を実現することもできる。さらに、各TODCブロックによってカバーする通信チャンネル群の全帯域幅と所定の関係に成るように、FSRを設定することにより、光透過特性の平坦化を実現することもできる。
【0114】
また本実施例5においても、実施例3および実施例4で詳細に説明したように、2D−LCOS素子を使用してピクセルを2次元に構成することによって、AWGの分光軸に対応する方向のサイズを短く抑えたLCOS素子を利用するのと同じ効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、光通信システムにおける波長分散補償器に利用することができる。
【符号の説明】
【0116】
1、34、601 AWG
3、603 スラブ導波路
4、604 アレイ導波路
7、36 集光レンズ
8、37 空間位相変調素子
11、14、30 光サーキュレータ
15 バルク型回折格子
16、17、602a、602b、602c、602d 入出力導波路
19、401、406、501、502 インターリーブ型群分波フィルタ
100、200、300、500 可変分散補償器
101、102、201、202、302、303 群分波フィルタ
103、103a、103b、103c、103d、203a、203b、203c、203d、400、503a、503b、503c、503d TODCブロック
301、304 分波器
305、407 2D−LCOS素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続するN個の通信チャンネルの光信号群を、所定のチャンネル間隔で離散的に選択されたチャンネルを含む複数の波長群に分岐して信号処理を行なうインターリーブ型の通信システムに対する分散補償器において、
前記N個の通信チャンネルの光信号群を、各々が最大(a−1)個の通信チャンネルを持つb個の波長群に合分波するインターリーブ型の群分波フィルタと、
前記b個の各波長群の各々に対応するb個の分散補償器ブロックとを備え、
各分散補償器ブロックは、
前記b個の波長群内の対応する1つの波長群の光信号をさらに分波する光合分波手段であって、1つの通信チャンネルの帯域幅をBとするとき、前記光合分波手段は(B×a)のFSRを持ち、各々が1つの通信チャンネル帯域幅Bに相当する光周波数差を持つb個の入出力ポートを備え、前記b個の入出力ポートの内の前記対応する1つの波長群に対応した入出力ポートが選択されることと、
前記光合分波手段の分波軸方向に配列された複数の要素素子を含む空間位相変調素子であって、前記複数の要素素子は、各々が1つの通信チャンネルに対応するa個の区画に分けられ、前記a個の区画の内の1つは光信号処理に使用されないことと、を含み、
aおよびbは互いに素の関係であって、N≧(a―1)×bを満たすように選択されることを特徴とする分散補償器。
【請求項2】
前記各空間位相変調素子において、前記各光信号に対応する前記各区間に対して独立に、前記分波軸の距離をパラメータとして2次以上の関数で規定される位相が設定されることを特徴とする請求項1に記載の分散補償器。
【請求項3】
前記合分波手段はアレイ導波路回折格子(AWG)であり、前記空間位相変調素子はLCOSであることを特徴とする請求項1または2に記載の分散補償器。
【請求項4】
前記bは、2のべき乗数が選択されることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の分散補償器。
【請求項5】
前記空間位相変調素子は、前記通信波長に対応する入射した光信号を反射させ、前記光群合分波手段、前記群分波フィルタは、分散補償された光信号を合波する反射型構成であること特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の分散補償器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図3】
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【図7】
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【図9】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−224155(P2010−224155A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70520(P2009−70520)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】