説明

分析システム、並びにこれに用いるマイクロ化学チップ及び液駆動方法

【課題】安価で且つ簡易な構成及び方法で分析用物質の吸着体への吸着効率を高める。
【解決手段】複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えるマイクロ化学チップと、前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を、該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流す液駆動が可能に構成されたマイクロポンプと、前記マイクロポンプの液駆動を制御することで前記混在液を前記混合用流路中で攪拌させる制御系とを備えた分析システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体からDNA等を抽出する分析システムに関し、特に、このDNA等を所定の吸着体に吸着させて抽出することが可能な分析システム、並びにこれに用いるマイクロ化学チップ及び液駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術を応用して、化学分析(検査)や化学合成などを機器や手法を微細化することにより行うμ−TAS(maicro-Total Analysis System;マイクロ流体システムともいう)が注目されている。従来の装置に比べ、微細化されたμ−TASでは、試料の量が少ない、反応時間が短い、或いは廃棄物が少ないなどのメリットがある。これを、例えば医療分野に使用した場合、検体(例えば血液)の量が少なくて済むため患者への負担を軽減できるとともに、試薬の量が少なくて済むため検査のコストを下げることができる。また、検体や試薬の量が少なくて済むことから、反応時間が大幅に短縮されて検査の効率化を図ることができる。さらに携帯性に優れていることからも、医療分野、環境分析等、広く応用が期待されている。
【0003】
ところで、例えば上記医療分野においては、遺伝子検査等の需要が高まってきており、このμ−TASを用いて、検体からDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)等の分析用(検査用)物質を抽出(採取)する方法が検討されている。これに関し、一般的には、ポンプで一方向に検体を送り出してこれを流路内のビーズ群に通過させることで、検体中の分析用物質(被吸着体)をビーズ(吸着体)に吸着させるという手法がとられている。また、この分析用物質のビーズへの吸着に関し、例えば特許文献1に開示されるように、磁気ビーズ(常磁性ビーズ)に対して磁界をかけるつまり磁界を変化させることによってこの磁気ビーズを攪拌する方法が提案されている。
【特許文献1】特表2005−511066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記一方向にポンプで検体を送り出してビーズに通過させる方法では、ビーズが流路内の特定箇所に密集してしまうため、分析用物質は効率良くビーズと接触せず、結果として吸着の効率が低下する。また、このように密集すると抵抗が大きくなり、検体をこの密集ビーズ中に流すためには大きな圧力が必要となるすなわちより高出力なポンプが必要となる(ポンプが大型化する)。さらに、この検体やビーズが装填されているチップ(マイクロ化学チップ)も高耐圧なものにする必要があり、上記血液などの検体が流されるため使い捨てにすることが望まれる当該チップの低コスト化を図ることができない。
【0005】
また、上記磁気ビーズに対して磁界をかける方法では、磁界を発生させるための装置(磁気攪拌を行うための機構や回路)が必要となるため、μ−TASが複雑化し且つコスト高となる。さらに、磁界をかける対象物すなわちビーズが磁気を帯びたものでなければならず、このような磁気ビーズを用意する分だけコストも高くなる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、安価で且つ簡易な構成及び方法で、高性能なすなわち分析用物質(DNA等)の吸着体(ビーズ等)に対する吸着効率を高くすることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることが可能な分析システム、並びにこれに用いるマイクロ化学チップ及び液駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分析システムは、複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えるマイクロ化学チップと、前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を、該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流す液駆動が可能に構成されたマイクロポンプと、前記マイクロポンプの液駆動を制御することで前記混在液を前記混合用流路中で攪拌させる制御系とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、分析システムが、複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えるマイクロ化学チップと、混合用流路中の混合液と吸着体とが混在してなる混在液を、該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流す液駆動が可能に構成されたマイクロポンプと、マイクロポンプの液駆動を制御することで混在液を混合用流路中で攪拌させる制御系とを備えたものとされる。
【0009】
このように、マイクロポンプによって混在液を正方向及び逆方向に流して混合用流路中で攪拌させる構成であるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった構成とすることなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(所謂往復運動させて)攪拌するという簡易(安価)な構成を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることができる。また、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなり、高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)とともに、マイクロ化学チップを高耐圧なものにする必要がなくなることからも、低コスト化を図ることができる。
【0010】
また、上記構成において、前記マイクロポンプは、前記混合用流路よりも上流側の流路に配設された、前記正方向と逆方向との双方向の送液が可能に構成された双方向マイクロポンプであることが好ましい(請求項2)。
【0011】
これによれば、マイクロポンプが、混合用流路よりも上流側の流路に配設された、正方向と逆方向との双方向の送液が可能に構成された双方向マイクロポンプとされるので、混在液を混合用流路中で正方向及び逆方向に流して攪拌するための構成をこの双方向マイクロポンプを用いて容易に実現することができる。また、混合液を混合用流路に上流側から(正方向に)流し込んで充填する送液動作(液駆動)と、当該混合液を充填した混合用流路中での該混合液と吸着体との混在液を正方向及び逆方向に流して攪拌する送液動作と、さらには、混在液から不要物質を洗い流すための送液動作とを、この双方向マイクロポンプで兼用することができ、一層低コスト化を図ることができる。
【0012】
また、上記構成において、前記双方向マイクロポンプは、所定の室部と、該室部を挟んだ上流側及び下流側に配設された流出入する流体の流速に応じて流路抵抗が異なる2つのディフューザと、前記室部の底面を構成するダイヤフラムと、該ダイヤフラムに並設された圧電素子部材とを備え、前記制御系による前記圧電素子部材の圧電駆動制御によって前記ダイヤフラムを流路方向と直交する方向に上下運動させる速度を異なるものとすることで前記正方向及び逆方向に送液することが好ましい(請求項3)。
【0013】
これによれば、双方向マイクロポンプが、所定の室部と、該室部を挟んだ上流側及び下流側に配設された流出入する流体の流速に応じて流路抵抗が異なる2つのディフューザと、室部の底面を構成するダイヤフラムと、該ダイヤフラムに並設された圧電素子部材とを備え、制御系による圧電素子部材の圧電駆動制御によってダイヤフラムを流路方向と直交する方向に上下運動させる速度を異なるものとすることで上記正方向及び逆方向への送液が行われるものとされるので、当該正方向及びは逆方向への送液を行う双方向マイクロポンプを簡易な構成で実現できる。
【0014】
また、上記構成において、前記制御系は、前記圧電素子部材の圧電駆動制御を、該圧電素子部材に対する信号波形の制御に基づいて行うことが好ましい(請求項4)。これによれば、制御系によって、圧電素子部材の圧電駆動制御が、該圧電素子部材に対する信号波形の制御に基づいて行われるので、双方向マイクロポンプによる正方向及び逆方向への送液を行うための圧電素子部材の圧電駆動制御を、信号波形を制御するという簡易な方法で実現することができる。また、信号波形を制御するという簡易な方法で、正方向及び逆方向への送液量を任意に設定することができる(例えば正方向にXnl、逆方向にYnl(X>Y)送液する動作を繰り返して謂わば往復運動させながら結果として正方向に送液するといったことができる)。
【0015】
また、上記構成において、前記混合用流路は、蛇行状に折曲した形状に形成されていることが好ましい(請求項5)。これによれば、混合用流路が、蛇行状に折曲した形状に形成されているので、コンパクトで且つ流路の長い混合用流路を容易に実現することができる。また、このように混合用流路を長くすることができるので、分析用物質の抽出(分析用物質の吸着体への吸着)或いは不要物質の洗浄に際して、混合材を混合(反応)させるための時間を充分に確保することができる。
【0016】
また、上記構成において、前記混合用流路よりも下流側の流路の所定位置に配設された、該混合用流路に上流側から流入してきた前記混合液を検出するセンサをさらに備えることが好ましい(請求項6)。これによれば、混合用流路よりも下流側の流路の所定位置に配設されたセンサによって、混合用流路に上流側から流入してきた混合液が検出されるので、混合液が混合用流路内に充填されたことが、簡易な構成で且つ自動的(確実)に確認できる。
【0017】
また、上記構成において、前記混合材は、前記分析用物質が含まれる検体と、該検体から該分析用物質を溶出するための溶解液とであることが好ましい(請求項7)。これによれば、混合材が、分析用物質が含まれる検体と、該検体から該分析用物質を溶出するための溶解液とであるので、混合材を混合して混合材から分析用物質を溶出することが、検体及び溶解液を用いて容易に行える。
【0018】
また、上記構成において、前記混合材は、前記混合用流路における前記検体及び溶解液の混在液中の前記分析用物質が吸着された吸着体以外の不要物質を洗い流すための洗浄液であって、前記マイクロポンプは、前記不要物質を洗い流すべく、前記洗浄液を前記混合用流路中で攪拌しつつ前記正方向に送液することが好ましい(請求項8)。
【0019】
これによれば、混合材が、混合用流路における検体及び溶解液の混在液中の分析用物質が吸着された吸着体以外の不要物質を洗い流すための洗浄液とされ、マイクロポンプによって、不要物質が洗い流されるべく洗浄液が混合用流路中で攪拌されつつ正方向に送液されるので、洗浄液でより確実に(少ない洗浄液で効率良く)不要物質を洗い流すことができる。
【0020】
また、上記構成において、前記混合材は、前記分析用物質が吸着された吸着体から該分析用物質を溶出するための水であって、前記制御系は、前記分析用物質が吸着された吸着体及び前記水を前記混合用流路中で加熱する加熱部を備えることが好ましい(請求項9)。
【0021】
これによれば、混合材が、分析用物質が吸着された吸着体から該分析用物質を溶出するための水とされ、制御系が備える加熱部によって、分析用物質が吸着された吸着体及び水が混合用流路中で加熱されて暖められるので、該吸着体に吸着された分析用物質を水に確実に溶出させることができる。
【0022】
また、上記構成において、前記マイクロポンプは、前記混合用流路よりも上流側の流路及び下流側の流路に配設された、一方向のみの送液が可能に構成された一方向マイクロポンプであることが好ましい(請求項10)。
【0023】
これによれば、マイクロポンプが、混合用流路よりも上流側の流路及び下流側の流路に配設された、一方向のみの送液が可能に構成された一方向マイクロポンプとされるので、混在液を混合用流路中で正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するための構成を、一般的な(汎用の)一方向マイクロポンプを用いて容易に且つ安価に実現することができる。
【0024】
また、上記構成において、前記混合用流路は、流路が流路中心線に対して非対称な形状に形成されてなるものであることが好ましい(請求項11)。これによれば、混合用流路が、流路中心線に対して非対称な形状に形成された流路とされるので、混合用流路内に非対称な流れを容易に発生させることが可能となり、吸着体の密集を確実に防止することができ、混在液がより一層攪拌されて吸着効率をさらに向上することができる。
【0025】
また、上記構成において、前記混合用流路は、所定数の部分区間に区分された形状に形成されて且つ各部分区間の流路内に所定数の吸着体が移動可能に装填されてなるものであることが好ましい(請求項12)。これによれば、混合用流路が、所定数の部分区間に区分された形状に形成されて且つ各部分区間の流路内に所定数の吸着体が移動可能に装填されてなるものとされるので、吸着体の密集をより確実に防止することができるとともに、混在液がより一層攪拌されて吸着効率をさらに向上することができる。
【0026】
また、本発明に係るマイクロ化学チップは、複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えた、分析システムに用いられるマイクロ化学チップであって、前記分析システムが備える制御系及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプによって、前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流すことで、該混在液を該混合用流路中で攪拌させることを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、分析システムに用いられるマイクロ化学チップが、複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えたマイクロ化学チップであり、分析システムが備える制御系及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプによって、混合用流路中の混合液と吸着体とが混在してなる混在液が該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流されることで、該混在液が該混合用流路中で攪拌されるマイクロ化学チップとされるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった構成とすることなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するという簡易(安価)な構成を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることが可能なマイクロ化学チップを得ることができる。また、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなって高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)ため、マイクロ化学チップを高耐圧なものにする必要がなくなり、マイクロ化学チップの低コスト化を図ることができる。
【0028】
また、本発明に係る液駆動方法は、複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを有するマイクロ化学チップを備えた分析システムに用いられる液駆動方法であって、前記分析システムがさらに備える制御系及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプによって、前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流すことで、該混在液を該混合用流路中で攪拌させる工程を有することを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、分析システムに用いられる液駆動方法が、複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを有するマイクロ化学チップを備えた液駆動方法であり、分析システムがさらに備える制御系及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプによって、混合用流路中の混合液と吸着体とが混在してなる混在液を該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流すことで、該混在液を該混合用流路中で攪拌する工程を有する液駆動方法とされるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった工程を有することなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するという簡易な方法を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることができる。また、この液駆動方法を採用することにより、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなって高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)ため、マイクロ化学チップを高耐圧なものにする必要がなくなり、マイクロ化学チップの低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、マイクロポンプによって混在液を正方向及び逆方向に流して混合用流路中で攪拌する構成であるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった構成とすることなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するという簡易(安価)な構成を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることができる。また、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなり、高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)とともに、マイクロ化学チップを高耐圧なものにする必要がなくなることからも、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態1)
図1は、第1の実施形態に係る分析システム1(マイクロ化学チップシステム)の一例を模式的に示すブロック構成図である。分析システム1は、上記μ−TASの一種であって検体からDNAやRNA等の検査用物質(本実施形態では検査用物質がDNAであるとして説明する)を抽出(採取)するものであ。分析システム1は、マイクロ化学チップ2、駆動部3及び制御系4を備えている。マイクロ化学チップ2は、検体21やビーズ252が装填された例えば透明なチップ(流体チップ)であり、これら検体21とビーズ252とを混合するものである。検体21は、血液、唾液などの生体液等、DNA、RNA、細胞、たんぱく質などを含む液体である。
【0032】
駆動部3は、マイクロ化学チップ2に対する液駆動を行うもの、すなわちマイクロ化学チップ2内に各種液体を流し込むものである。駆動部3は、液駆動用の駆動液31を用いて上記各種液体を流し込むためのマイクロポンプ32を備えている。
【0033】
制御系4は、マイクロ化学チップ2及び駆動部3に対する動作制御を行うものであり、全体制御部41、駆動制御回路42、加熱部43、センサ部44及び切換部45を備えている。全体制御部41は、マイクロコンピュータ等を備え、所定の制御プログラム等を実行することによって分析システム1全体の動作制御を司るものである。駆動制御回路42は、駆動部3(マイクロポンプ32)における液駆動の制御(駆動制御)を行う回路である。加熱部43は、マイクロ化学チップ2に対して局所的な加熱を行うもの例えばヒータである。センサ部44は、マイクロ化学チップ2における流体の状態(後述する流路中の流体先端)を検出するものである。切換部45は、マイクロ化学チップ2における排出用流路の切り換えを行うものである。駆動制御回路42、加熱部43、センサ部44及び切換部45は、全体制御部41からの制御指示信号等に応じて動作する。これら各部42〜45の構成や動作の詳細については後述する。なお、分析システム1は当該各部を動作させるための電源(図示省略)も備えている。また、全体制御部41は、後述の往復回数を計測する機能(カウンタ)も有している。
【0034】
図2は、分析システム1におけるマイクロ化学チップ2及び駆動部3の実際の構成例を示す模式図である。先ず駆動部3において、マイクロポンプ32は複数の双方向マイクロポンプ32a〜32dからなる。これら双方向マイクロポンプ32a〜32dは、タンク33等に溜められている例えば水などの駆動液31を送液することで後述する混合材を溶解セル部25に流し込む或いは溶解セル部25からさらに下流へ押し流すように駆動(液駆動)する。なお、駆動部3は、タンク33から各双方向マイクロポンプ32a〜32dを経てマイクロ化学チップ2へ駆動液をそれぞれ流すための流路341、342を備えている。双方向マイクロポンプ32a〜32dの詳細は後述する。
【0035】
次にマイクロ化学チップ2は、分析用混合材部20、溶解セル部25、流路26及び分岐流路切換部27を備えている。分析用混合材部20は、当該DNA抽出に際して混合する複数種類の混合材(分析用液体ともいう)、すなわち検体21(サンプル)、溶解液22、洗浄液23及び溶出液24を備えるものである。これら混合材はそれぞれ液溜部201に予め装填されている。なお、混合材が混合されたもの例えば検体21と溶解液22とが混合されたものを「混合液」と表現する。
【0036】
溶解液22は、検体21内における細胞膜やタンパク質の殻を溶解(破壊・破砕)し、当該細胞膜やタンパク質の殻に包まれた検体21の内部に含まれる核酸(DNAやRNA)を露出させる作用と、溶解液22中に露出した核酸をビーズ252の表面に吸着させる作用とを持つ。検体21内における細胞膜やタンパク質の殻を溶解させるには、界面活性剤等、例えばポリエチレングリコール(PEG)が用いられる。溶解液22中に露出した核酸をビーズ252表面に吸着させるには、カオトロピック塩溶液、例えばグアニジンチオシアン酸塩が用いられる。これは、カオトロピック塩溶液中では、核酸(DNAやRNA)は、ガラス表面に吸着する性質があることを利用したものである。溶解液22は、例えば、グアニジンチオシアン酸塩、或いはグアニジンチオシアン酸塩にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)やトリス塩酸塩(Tris−HCl)を加えた緩衝液という形で用いられる。なお、溶解液22は、必ずしもここに挙げた物質の組み合わせでなくともよく、要は、検体21内における細胞膜やタンパク質の殻を溶解(破壊・破砕)し、細胞膜やタンパク質の殻に包まれた検体21の内部に含まれる核酸(DNAやRNA)を露出させる作用と、溶解液22中に露出した核酸をビーズ252表面に吸着させる作用を併せ持つものであれば、任意の物質の組み合わせからなる溶解液22が採用可能である。
【0037】
洗浄液23は、ビーズ252表面に吸着した核酸(DNAやRNA)は吸着させたまま、ビーズ252表面から、破壊された膜、タンパク質や脂質などの不要物のみを洗い流す作用を持つ。洗浄液23には、例えばエタノール、又はエタノールと水との混合液、又はエタノールと水と塩化ナトリウムとの混合液が用いられる。なお、洗浄液23は、必ずしもここに挙げた物質の組み合わせでなくともよい。
【0038】
溶出液24は、ビーズ252表面に吸着した核酸(DNAやRNA)をビーズ252から分離し、精製された核酸として液中に溶出する作用を持つ。溶出液24には、例えば水、又はTrisバッファー、又はTE(Tris−EDTA)バッファーが用いられる。なお、溶出液24は、必ずしもここに挙げた物質の組み合わせでなくともよい。また、吸着体も上記ガラス製や球体(ビーズ)でなくともよく、当該核酸が吸着可能なものであれば任意の材質(物質)及び形状で構わない。
【0039】
溶解セル部25は、例えば1cm角程度の大きさを有するセル部であり、同図に示すような蛇行状の流路(混合用流路という)251と、この混合用流路251内を自由に移動可能に適量が装填(収納)されてなる複数個のビーズ252(ビーズ群)とを備えている。図2ではビーズ252が混合用流路251内の流れによって混合用流路251の下流部に集まった状態が示されている。ビーズ252は、例えばガラス製(ガラスビーズ)であり、その径は例えば約20μm〜50μmである。
【0040】
図3はマイクロ化学チップ1における混合用流路251の下流側端部の一例を示す部分拡大図である。この図に示すように、混合用流路251の下流端は、下流側方向に徐々に流路幅が狭められた所謂テーパ状に形成されており、このテーパ状部の先端の流路幅(或いは流路径)は、ビーズ252が混合用流路251つまり溶解セル部25から下流側に流出しないように、上記ビーズ252の最小径20μmよりも小さい例えば約18μm(後述の狭窄流路2641の流路幅と同じ)とされている。なお、テーパ状部の流路方向の長さは例えば約250μmであり、テーパ状部以外の混合用流路251の幅は例えば約510μmとなっている。また、混合用流路251は、後述するDNA抽出(DNAの吸着体への吸着)或いは洗浄において各分析用混合材を混合(反応)させるための時間が充分に得られるような最適長さ(上記蛇行状)に設計されていることが好ましい、すなわちDNAが細胞(検体21)から溶け出して遊離している状態で例えば上記下流端部でビーズ252と出会って攪拌されるために、当該最適長さを有したものにすることが好ましい。なお、混合用流路251を当該蛇行状に曲げた(折り畳んだ)形状とすることにより、コンパクトで且つ長い流路が確保された混合用流路251ひいてはマイクロ化学チップ2を容易に得ることが可能となる。
【0041】
溶解セル部25は、その周囲例えば例えば図2の点線で囲む範囲(加熱領域)の下部に上記加熱部43が設置されており、後述するDNA溶出時に溶解セル部25内を加熱することが可能に構成されている。また、混合用流路251の下流側端部付近或いは流路264の上流側端部付近には、上記センサ部44が設置されており、分析用混合材部20から送られてきた所定の液体が溶解セル部25に到達したか(溶解セル部25に充填されたか)否かを確認するための検出が行われる。具体的には、流路に対して(例えば流路を挟んで)フォトダイオード(発光素子及び受光素子)を設置しておき、流体によって光が遮られる量を検出することで所定の液体の先頭(例えば液先端面)がこのフォトダイオードの位置に到達したかつまり上記液体が溶解セル部25に到達したか否かを全体制御部41によって判定する。
【0042】
流路26は、マイクロ化学チップ2において上流から下流へ流体を流す流路であって、双方向マイクロポンプ32a〜32dの流路342からの駆動液を分析用混合材部20の各液溜部201へ流すための各流路260と、各液溜部201から溶解セル部25へ分析用液を流すための流路261、262及び263と、溶解セル部25からの液体を流すための流路264、265及び266とを備えている。流路261及び262は流路263で合流しており、流路264は流路265及び266に分岐している。
【0043】
なお、上記図3に示すように、流路264には、混合用流路251との接続部において流路幅が狭められた狭窄流路2641と端部における上記同様のテーパ状部が形成されており、狭窄流路2641の幅及び流路方向の長さがそれぞれ上記18μm及び約90μmとなっており、また、テーパ状部の流路方向の長さが例えば約50μm、このテーパ状部及び狭窄流路264以外の流路幅が約108μmとなっている。ただし、これら寸法数値はこれに限らない。また、流路261、262を流れてきた流体が流路263で混合開始されることから、流路263を混合用流路251に含んでもよい。
【0044】
分岐流路切換部27は、上記切換部45による切換制御によって、流路265と流路266との流路を切り換える、すなわち流路264から流路265への流れ状態から、流路264から流路266への流れ状態に切り換えるものである。分岐流路切換部27は要は分岐流路の切り換えが可能であれば任意の構成が採用可能である。なお、通常、つまり上記混合或いは反応過程では、流路266側(これをDNA排出側という)へ流れずに、流路265側(これを廃液排出側という)へ流れるように分岐流路切換部27によって切り換えられている。
【0045】
なお、上記流路341、342及び260には双方向マイクロポンプ32a〜32dによって駆動液が流されるが、すなわち検体21、溶解液22、洗浄液23及び溶出液24はこの駆動液(水)によって下流側に押されるが、当該各分析用混合材は流路中において(駆動液と各分析用混合材とが液境界で混ざることなく且つ空気等が液境界に挟まれてダンパが形成されることなく)駆動液に直接押される構成となっている。
【0046】
また、双方向マイクロポンプ32a〜32dは同じ駆動液(水)によって駆動されるが、これは、検体21、溶解液22及び洗浄液23はそれぞれ流体の特性(粘度や粘度の温度依存性など)が異なるため、マイクロポンプにおける上記層流や乱流を利用した液駆動の性能が一様でなくなるので、これを回避するためである。
【0047】
また、分析システム1において、マイクロ化学チップ2と駆動部3とは分離可能に合体されている。すなわち、使用後(DNA抽出処理後)に、分析システム1(駆動部3及び制御系4)からマイクロ化学チップ2だけを取り外して交換できるようになっている。これにより、化学分析(DNA抽出)が終了するとこのマイクロ化学チップ2のみを廃棄することが容易に行えるため、都度、分析システム1全部(駆動部3や制御系4も併せて)を廃棄するといったことがなくなり、コストダウンが図れる。
【0048】
図4は、上記双方向マイクロポンプ32a〜32d(ここでは双方向マイクロポンプ32aで説明する)の一例を概念的に示す断面構成図である。双方向マイクロポンプ32aは、送液方向を変えることが可能、すなわち流体を正方向(順方向)又は逆方向の双方向に送ることが可能なマイクロポンプであって、略中央部に設けられたポンプ室321(圧力発生室)と、ポンプ室321を構成する第1隔壁322を挟んで設けられた第1室323と、第2隔壁324を挟んで設けられた第2室325とが形成されるとともに、ポンプ室321の底部を構成するダイヤフラム326を備えたシリコン(Si)基板320と、シリコン基板320の下面で且つダイヤフラム326(Siダイヤフラム)の位置に配設された圧電素子板327(圧電アクチュエータ;PZT板)と、第1室323及び第2室325それぞれに対して液体を流入又は流出させるための第1及び第2流路331、332が形成されたガラス基板330とを備えている。
【0049】
なお、ガラス基板330の下面と第1隔壁322及び第2隔壁324の上面との隙間は、それぞれ第1流路328及び第2流路329となっている。ただし、第1隔壁322の流路方向の長さL1(厚み)は第2隔壁324の流路方向の長さL2よりも短くなっている。圧電素子板327に制御電圧が印加されると圧電素子板327が伸縮(圧電駆動)し、これによりダイヤフラム326が矢印P方向に上下運動することで所謂ポンプ駆動が行われて第1及び第2流路328、329を流体(上記駆動液)が流される。
【0050】
ところで、上記長さL1、L2に違いがあることによる流路抵抗の違いと、圧電素子板327の駆動の仕方(伸縮動作の制御)とによって、送液方向を変えることができる。図5は、双方向マイクロポンプ32aにおける正方向又は逆方向の送液時の動作を概念的に説明するための模式図であって、左側図510は、正方向に送液する場合の圧電素子板327の動作の様子及び制御電圧を縦軸とする信号波形511(標準波形)を、右側図520は同様に、逆方向に送液する場合の圧電素子板327の動作及び制御電圧の信号波形521を示している。
【0051】
左側図510において、信号波形511に示す制御電圧を圧電素子板327に印加すると、符号530、540で示すように、初め圧電素子板327はダイヤフラム326を速く持ち上げ、その後ゆっくりと下げる。ここで、第1流路328及び第2流路329内の流速が速い場合(ダイヤフラム326を速く持ち上げた場合)、長さL1の第1流路328では流路抵抗が大きくなり(乱流が発生し)、長さL2の第2流路329では層流が維持されて(層流支配となり)流路抵抗は第1流路328よりも小さくなる。流体は流路抵抗の小さい側へ流れようとするため、ポンプ室321から矢印531方向に(第2流路329から)より多くの流体が流出する。一方、第1流路328及び第2流路329内の流速が遅い場合(ダイヤフラム326をゆっくり下げた場合)、第1流路328及び第2流路329内はいずれも層流となり、したがって、流路抵抗は流路長さに比例することから第1流路328の方が第2流路329よりも流路抵抗が小さくなり、矢印541方向により多くの流体が流入する。これらの結果、双方向マイクロポンプ32a全体で見た場合、第1室323から第2室325への流れ(図中左側から右側への流れ;このときの送液方向を正方向とする)が生じる。
【0052】
一方、右側図520においては上述と逆の流れ現象が生じる。すなわち、信号波形521に示す制御電圧を圧電素子板327に印加すると、符号550、560で示すように、初め圧電素子板327はダイヤフラム326をゆっくり持ち上げ、その後、速く下げる。ダイヤフラム326をゆっくり上げた場合、第1及び第2流路328、329内の流速は遅いのでこれら流路内は層流となり、流路抵抗は流路長さに比例することから第1流路328の方が第2流路329よりも流路抵抗が小さいため、ポンプ室321から矢印551方向に(第1流路328から)より多くの流体が流出する。一方、ダイヤフラム326を速く下げた場合、第1流路328では流路抵抗が大きくなり(乱流が発生し)、第2流路329では層流が維持されて流路抵抗は第1流路328よりも小さくなるため、矢印561方向に(第2流路329から)より多くの流体が流入する。これらの結果、第2室325から第1室323へ(逆方向)の流れが生じる。
【0053】
図6は、上記信号波形511、521に関する実際の信号波形(駆動信号パターン)を示すグラフ図である。符号610で示す図は上記正方向の送液を行う場合の駆動信号パターン(パターンA)を、符号620で示す図は上記逆方向の送液を行う場合の駆動信号パターン(パターンB)を示している。パターンAでは、所定のインターバル(例えば6μs;マイクロ秒)をおいて、符号611で示すような急傾斜での電圧レベル上昇と符号612で示すような緩やかな電圧レベル降下とが交互に繰り返される。このようにして1周期が例えば92μsの信号波形(台形波)が繰り返されることによって各双方向マイクロポンプ32a〜32dのポンプ駆動が行われる。パターンBでは、所定のインターバル(例えばパターンAと同じ6μs)をおいて、符号621で示すような緩やかな電圧レベル上昇と符号622で示すような急傾斜での電圧レベル降下とが交互に繰り返されて、同じく1周期が例えば上記と同じ92μsの信号波形によりポンプ駆動が行われる。圧電素子板327の伸縮動作は駆動制御回路42によるこれら駆動信号パターンを用いた電圧制御によって制御される。なお、ここでは符号613、623で示すように60Vを制御電圧(信号波形の振幅)としているが60Vでなくともよい。換言すれば、この制御電圧値を変化させることで、圧電素子板327の変位量すなわち送液量(流量、流体を押し流す圧力)を調整することが可能である。また、パターンA、Bにおける制御電圧や周期を同じにする必要はなく、それぞれ異なるものとして構わない。
【0054】
なお、マイクロポンプ32(各双方向マイクロポンプ32a〜32d)は、実際には図7に示すように、ポンプ室321の上流及び下流側に流路抵抗の異なる符号351で示すインレットと符号352で示すアウトレットと呼ばれる2つのディフューザ(ディフューザ351、352)を備えたもの(1個の双方向マイクロポンプ)が、符号353、354で示す2本の流路(各流路の両端には液体が流出入する開口部355、356が形成されている)にそれぞれ内蔵されてなるチップ(マイクロポンプチップ;例えば17mm×35mmサイズ)として構成される。
【0055】
本実施形態は、DNA抽出に際して、検体21と溶解液22とビーズ252とを混合させてこれをマイクロポンプ32によって往復運動させて攪拌することを主な特徴点とするが、この点について以下、フローチャートを用いて説明する。なお、「往復運動」とは必ずしも厳密に同じ距離を往復移動することを示すのではなく、正方向及び逆方向それぞれの方向に任意の距離だけ移動(運動)することを表現するものとする。図8〜10は一連のDNA抽出動作を示すフローチャートであり、図8は、検体21と溶解液22とビーズ252との混在液を往復運動により攪拌してDNAをビーズ252に吸着させる動作の一例を示すフローチャートであり、図9は、混在液から不要物質を洗浄する動作の一例を示すフローチャートであり、図10は、DNAが吸着したビーズ252から該DNAを溶出させてマイクロ化学チップ2から取り出す(採取する)動作の一例を示すフローチャートである。
【0056】
図2を参照し、双方向マイクロポンプ32a〜32dをそれぞれマイクロポンプA〜Dとすると、図8のフローチャートにおいて、先ずマイクロポンプB、Cが上記パターンA(正方向)で駆動されて(マイクロポンプA、Dは駆動しない(OFF))駆動液の送液が行われる、すなわち液溜部201の検体21及び溶解液22が溶解セル部25へ向けて流される(ステップS1)。センサ部44による検出動作によってこれら検体21及び溶解液22が溶解セル部25に到達したかが確認されると(ステップS2)、全体制御部41の上記カウンタにおけるカウント値Nがゼロにセットされる(N=0)(ステップS3)。このように検体21と溶解液22とが混合されると、溶解液22によって検体21における細胞膜が破壊され、検体21からDNAが溶出してくる。したがって、このとき溶解セル部25内には、溶出したDNA、ビーズ252、及び破壊された細胞膜等が混在することになる。このように混合用流路251中における各種物質が混在したものを「混在液」と表現する。なお、混在液はビーズ252(吸着体)が含まれるものとしているが、別の見方をすれば、混在液は、ビーズ252と上記混合液(検体21や溶解液22が混合されてなる液体)とが混ざったものであると言える。
【0057】
次に、カウント値がカウントアップ(N=N+1)される(ステップS4)。そして、マイクロポンプB、CがパターンAで駆動されて駆動液つまり検体21及び溶解液22)が正方向にXnl(nl:ナノリットル)分だけ送液された(ステップS5)後、このマイクロポンプB、Cが今度はパターンBで駆動されて駆動液つまり検体21及び溶解液22が(混合用流路251中の検体21及び溶解液22とビーズ252との混在液が)上記送液のときと同じXnl分だけ逆方向に送液される(上流側に戻される)(ステップS6)。カウンタにおけるカウント値Nが「20」に満たなければ(ステップS7のNO)、「20」に達するまでつまり20回の攪拌が完了するまでステップS4〜S6の動作が繰り返される。カウント値Nが「20」に達すると(ステップS7のYES)、次の洗浄動作に移る。なお、パターンA、Bそれぞれにおける各信号波形(1つの台形波)の繰り返し回数或いは制御電圧値の制御に基づいて上記Xnlの送液を行う、つまり例えば所定レベルの制御電圧の信号波形で且つこの信号波形10個分の信号を用いてXnlの流量分だけ送液する。また、攪拌回数(N)も20回に限らず任意の回数でよい。
【0058】
このように上記混在液を所定回数、往復運動させて攪拌することで、DNAが各ビーズ252の表面に吸着する。ここで、仮に、従来の送液方法つまり一方方向のみの送液を行ったとすると、例えば図16に示すように、混合用流路251の下流端(流路出口付近)でビーズ252が密集し(目詰まりしてしまい)且つ抵抗も大きくなるため、攪拌され難くなり、DNAとビーズ252とが均一に接触できず吸着効率(接触確率)が低下する。また、不純物(不要物質)がこの密集したビーズ252間に挟まり、ますます抵抗も大きくなってさらに流れ難くなる(攪拌され難くなる)。なお、図17に示すグラフ図は、ビーズが流路(チップ流路)に存在することで、液体が流れ難くなることを示すものである。すなわちビーズが無い場合と比べて、ビーズが存在する場合の方が液体を押し流す圧力(kPa)が大きくなる。なお、液体の流速が高くなるにつれ、また、ビーズ径が大きくなるにつれ、この液体を押し流す圧力の増加は顕著になる。
【0059】
しかしながら、本実施形態のように、往復運動を行うことによって攪拌することにより、換言すれば送液方向を正方向及び逆方向の双方向とすることにより、図3に示すようにビーズ252が密集して流路端等で目詰まりすることなく、混在液内でビーズ252が互いに所要の間隔を空けて分散した状態で自由に移動する(双方向に往復移動する)ことができる(抵抗も小さい)。これにより、混在液が好適に攪拌されて上記吸着効率(接触確率)が高く(良く)なる。このことは、従来よりも少量のビーズでDNAを吸着させることが可能となりDNA抽出効率が向上することを意味する。また、抵抗が小さくなることにより、マイクロポンプ32(双方向マイクロポンプ32a〜32d)に対する発生圧力の要求レベルを下げる、及び、チップつまりマイクロ化学チップ2(マイクロポンプチップも含む)の耐圧要求レベルを下げることが可能となり、ひいては構成の簡易化及びコスト低下を図ることができる。
【0060】
次に、図8のフローチャートに引き続き、図9のフローチャートにおいて洗浄動作が行われる。先ず切換部45(流路切換部27)によって流路が廃液排出側(流路265側)に切り換えられる(ステップS11)。次に、液溜部201の洗浄液23を溶解セル部25(このとき溶解セル部25内ではDNAがビーズ252に吸着された状態の上記混在液が存在している)へ向けて流すべく、マイクロポンプDの液駆動が開始される(マイクロポンプA、B、Cは駆動しない)(ステップS12)。そして、上記ステップS3〜S7と同様に、カウント値Nがゼロから例えば100になるまで正方向への送液及び逆方向への送液が行われる(ステップS13〜S17)。ただし、ここでは正方向へXnlした後、逆方向(パターンB)へYnl(X>Y)送液する(例えば正方向に3nl、逆方向に2nl送液する)ことをN回(100回)繰り返すという方法により、洗浄液23が謂わば攪拌されながら(X−Y)×Nすなわち(X−Y)×100(nl)正方向に送液される。この送液方法により混合用流路251中で目詰まりが生じないように正方向に送液することが可能となる。このように洗浄液23を溶解セル部25内に流し込むことで、混合用流路251内に溜められていた上記溶解液22や破壊された細胞膜等の不要物質がこの洗浄液23によって押し流され、流路265(廃液排出側)から排出される。
【0061】
上記洗浄液23に対するN=100回分の送液が終了すると(ステップS17のYES)、次に液溜部201の溶出液24を溶解セル部25(このとき溶解セル部25内では洗浄液23とDNAが吸着されたビーズ252とが存在している)へ向けて流すべく、マイクロポンプAの液駆動が開始される(マイクロポンプB、C、Dは駆動しない)(ステップS18)。そして上記ステップS13〜S17と同様に、カウント値Nがゼロから例えば100になるまで正方向への送液及び逆方向への送液が行われる(ステップS19〜S23)。この場合も、正方向(パターンA)へXnl、逆方向(パターンB)へYnl(X>Y)送液するということを繰り返すことにより、溶出液24が攪拌されながら(X−Y)×100(nl)正方向に送液される。当該N=100回分の送液の終了を以って(ステップS23のYES)洗浄動作が終了する。このように溶出液24を溶解セル部25内に流し込むことで、先の洗浄において混合用流路251内に溜められていた洗浄液23がこの溶出液24により押し流され、流路265(廃液排出側)から排出されることになる。
【0062】
図9のフローチャートに引き続き、図10のフローチャートにおいてDNA採取動作が行われる。先ず、全てのマイクロポンプA〜D(上記ステップS18で駆動されていたマイクロポンプA)の駆動を停止した状態で(ステップS31)、切換部45(流路切換部27)によって流路がDNA排出側(流路266側)に切り換えられる(ステップS32)。そして、加熱部43(ヒータ)によって溶解セル部25(加熱領域)の加熱が開始され(ステップS33)、例えば約1分間加熱が行われて溶解セル部25内が温められる(ステップS34)。このようにして、ビーズ252に吸着していたDNAが溶出液24に溶出する。なお、加熱領域(全体)が加熱されることで、ビーズ252と共に溶出液24も(混合用流路251も)温められるので、より迅速にDNAの溶出液24への溶出が進行する。そして、再びマイクロポンプAの液駆動が開始され(マイクロポンプB、C、Dは駆動しない)(ステップS35)、上記ステップS13〜S17と同様に、正方向への送液及び逆方向への送液が行われる(ステップS36〜S40)。この場合も、正方向へXnl、逆方向へYnl(X>Y)送液することがカウント値Nがゼロから例えば100になるまで繰り返される。これにより、DNAの溶出液24への溶出が確実に行われるように当該溶出液24が攪拌されながら(X−Y)×100(nl)正方向に送液され、流路266(DNA排出側)から排出される(採取される)。以上によってDNA抽出動作が完了する。
【0063】
(実施形態2)
上記第1の実施形態では、マイクロポンプ32として双方向の送液が可能な双方向マイクロポンプ32a〜32dを使用して往復運動を行う構成であったが、第2の実施形態では、双方向マイクロポンプでなく、一般的なマイクロポンプすなわち一方向の送液が可能なマイクロポンプ(一方向マイクロポンプという)を用いて当該往復運動を行う構成としている。図11は、第2の実施形態に係る分析システム1aの一例を模式的に示すブロック構成図である。分析システム1aは、分析システム1と比べて、マイクロ化学チップ2’の一部分と第1駆動部3’のマイクロポンプ32’との構成が変更されるとともに、第2駆動部37が追加され、また、センサ部44が削除された構成である制御系4’となっている。以下、図12と併せてこれら各部の構成を説明する。
【0064】
図12は、上記分析システム1aにおけるマイクロ化学チップ2’並びに第1及び第2駆動部3’、37の実際の構成例を示す模式図である。同図に示すように、第1駆動部3’には、上記双方向マイクロポンプ32a〜32dの代わりに一方向マイクロポンプ381〜384(マイクロポンプ32’)が、上流から下流へ向けて送液される向きとなるように配設されている。また、マイクロ化学チップ2’には、溶解セル部25よりも下流側の流路の所定箇所、例えば溶解セル部25よりも下流側で且つ分岐流路切換部27よりも上流側の流路264の所定箇所に、第2駆動部37を構成する一方向マイクロポンプ371が、下流から上流へ向けて送液される向きとなるように配設されている。なお、一方向マイクロポンプ371は、一方向マイクロポンプ381〜384と同様に駆動液31によって液駆動がなされてもよいし、混合用流路251から流れてきた溶解液22や洗浄液23や溶出液24を直接、送液可能に構成されたものとしてもよい。これら一方向マイクロポンプのポンプ駆動は、全体制御部41及び駆動制御回路42によって制御される。
【0065】
第2の実施形態では、このように溶解セル部25の上流側と下流側とに設けた一方向マイクロポンプを順番に駆動させることで、溶解セル部25内の混在液を攪拌する。以下、フローチャートを用いて本実施形態における一連のDNA抽出動作を説明する。一方向マイクロポンプ381〜384及び371をそれぞれマイクロポンプE〜Iとすると、図13のフローチャートにおいて、先ず、全てのマイクロポンプE〜Iの駆動を停止した状態で、切換部45(流路切換部27)によって流路が廃液排出側(流路265側)に切り換えられる(ステップS51)。
【0066】
次に、全体制御部41のカウンタにおけるカウント値Nが例えば20にセットされる(N=20)(ステップS52)。そして、カウント値がカウントダウン(N=N−1)されるとともに(ステップS53)、マイクロポンプF、Gの液駆動が開始されて(マイクロポンプE、H、Iは駆動しない)(ステップS54)、液溜部201の検体21及び溶解液22が溶解セル部25へ向けて正方向にXnl送液される(ステップS55)。次に、マイクロポンプIの液駆動が開始されて(マイクロポンプE、F、G、Iは駆動しない)(ステップS56)、逆方向(戻す方向)につまり混合用流路251における下流側から上流側へ向けて、検体21及び溶解液22が(或いは溶解液22のみが、或いは検体21及び溶解液22と共にビーズ252が)Ynl送液される(ステップS57)。ただし、X>Yである。これにより、検体21及び溶解液22がが(X−Y)×20(nl)送液される。カウンタ値がN=0でなければ(ステップS58のNO)、ステップS53に戻り、当該正方向及び逆方向への送液が、カウント値がN=0にカウントダウンされるまで繰り返される(ステップS58のYES)。
【0067】
この正方向及び逆方向への送液回数(Nの値)は、検体21及び溶解液22が丁度、溶解セル部25の位置にくるような(混合用流路251の下流端位置を超えてマイクロポンプIの位置まで流れ込んでしまわないような)値が予めの測定等により定められている。なお、第1の実施形態のように、センサ部44を備えてこれにより検体21及び溶解液22の液先頭を検出することで当該送られてきた液体が溶解セル部25内に充填完了したことを判定する構成としてもよい。上記のようにステップS54〜S57の送液動作が繰り返されることにより、往復運動が行われて攪拌されつつ検体21及び溶解液22が溶解セル部25内に送液されるので、検体21と溶解液22との混合により検体21内における細胞膜が破壊されてDNAが溶出されるとともに、溶出したDNAがビーズ252に吸着される効率(吸着効率)が高くなる。なお、上記第1の実施形態では、初めに検体21及び溶解液22を溶解セル部25に流し込んで充填しておき(ステップS1)、その後、ステップS3〜S7にて混在液を攪拌する動作を行うといったように、当該充填動作と攪拌動作とを分けて実行していたが、本実施形態では充填動作を行いながら攪拌動作も同時に行う構成としている。これによりDNA抽出動作の時間短縮が図れる。
【0068】
次に、今度は洗浄液23によって上記混在液における不要物質の洗浄が行われる。すなわち、カウンタのカウント値Nが例えば30にセットされる(N=30)(ステップS59)。そして、カウント値がカウントダウン(N=N−1)されるとともに(ステップS60)、マイクロポンプHの液駆動が開始されて(マイクロポンプE、F、G、Iは駆動しない)(ステップS61)、液溜部201の洗浄液23が溶解セル部25へ向けて正方向にXnl送液される(ステップS62)。次に、マイクロポンプIの液駆動が開始されて(マイクロポンプE、F、G、Hは駆動しない)(ステップS63)、逆方向に洗浄液23が(洗浄液23と共にビーズ252が)Ynl(X>Y)送液される(ステップS64)。カウンタ値がN=0でなければ(ステップS65のNO)、ステップS60に戻り、当該正方向及び逆方向への送液が、カウント値がN=0にカウントダウンされるまで繰り返される(ステップS65のYES)。これにより、洗浄液23が(X−Y)×30(nl)送液され、洗浄液23と共に不要物質が流路265(廃液排出側)から排出され、次のDNA採取動作に移る。
【0069】
図13のフローチャートに引き続き、図14のフローチャートにおいてDNA採取動作が行われる。上記と同様に、カウンタのカウント値Nが例えば30にセットされる(N=30)(ステップS71)。そして、カウント値がカウントダウン(N=N−1)されるとともに(ステップS72)、マイクロポンプEの液駆動が開始されて(マイクロポンプF、G、H、Iは駆動しない)(ステップS73)、液溜部201の溶出液24が溶解セル部25へ向けて正方向にXnl送液される(ステップS74)。次に、マイクロポンプIの液駆動が開始されて(マイクロポンプE、F、G、Hは駆動しない)(ステップS75)、逆方向に溶出液24が(溶出液24と共にビーズ252が)Ynl(X>Y)送液される(ステップS76)。カウンタ値がN=0でなければ(ステップS77のNO)、ステップS72に戻り、当該正方向及び逆方向への送液が、カウント値がN=0にカウントダウンされるまで繰り返される(ステップS77のYES)。これにより、溶出液24が(X−Y)×30(nl)送液され、溶解セル部25に溶出液24が充填される。このとき、洗浄液23が、或いは溶出液24及び洗浄液23(不要物質が残っている場合はそれも含む)が往復運動によって攪拌されながら、確実に流路265(廃液排出側)から排出される。
【0070】
次に、全てのマイクロポンプE〜I(上記ステップS75で駆動されていたマイクロポンプI)の駆動を停止した状態で(ステップS78)、切換部45(流路切換部27)によって流路がDNA排出側(流路266側)に切り換えられる(ステップS79)。そして、加熱部43(ヒータ)によって溶解セル部25(加熱領域)の加熱が開始され(ステップS80)、例えば約1分間加熱が行われて溶解セル部25内が温められる(ステップS81)。これによりビーズ252に吸着していたDNAが溶出液24に溶出する。そして、カウンタのカウント値Nが例えば30にセットされる(N=30)(ステップS82)。
【0071】
上記カウント値がカウントダウン(N=N−1)されるとともに(ステップS83)、再びマイクロポンプEの液駆動が開始され(マイクロポンプF、G、H、Iは駆動しない)(ステップS84)、上記ステップS73〜S77と同様に、正方向への送液及び逆方向への送液が行われる(ステップS84〜S88)。この場合も、正方向へXnl、逆方向へYnl(X>Y)送液することがカウント値Nが例えば30からゼロにカウントダウンされるまで繰り返される。これにより、DNAの溶出液24への溶出が確実に行われるように当該溶出液24が攪拌されながら(X−Y)×30(nl)正方向に送液され、流路266(DNA排出側)から排出される。なお、ここでは、さらにマイクロポンプEの液駆動を行い(マイクロポンプF、G、H、Iは駆動しない)(ステップS89)、正方向のみに溶出液24を所定量例えば上記Xnl送る(ステップS90)ことで、確実に、DNAが溶出した溶出液24が排出されるようにしている。以上によってDNA抽出動作が完了する。
【0072】
以上のように本発明の実施形態によれば、分析システム1(1a)が、複数種類の混合材(検体21や溶解液22)を混合するための混合用流路251と、混合用流路251内に移動可能に装填された吸着体(ビーズ252)であって、複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質(DNA)を吸着可能な吸着体とを備えるマイクロ化学チップ2と、混合用流路251中の混合液と吸着体とが混在してなる混在液を、該混合用流路251の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流す液駆動が可能に構成されたマイクロポンプ(マイクロポンプ32;双方向マイクロポンプ32a〜32d)(マイクロポンプ32’;一方向マイクロポンプ381〜384、及び一方向マイクロポンプ371)と、マイクロポンプの液駆動を制御することで混在液を混合用流路251中で攪拌させる制御系4(4’)とを備えたものとされる。
【0073】
このように、マイクロポンプによって混在液を正方向及び逆方向に流して混合用流路251中で攪拌させる構成であるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった構成とすることなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するという簡易(安価)な構成を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路251内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることができる。また、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなり、高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)とともに、マイクロ化学チップ2を高耐圧なものにする必要がなくなることからも、低コスト化を図ることができる。
【0074】
また、マイクロポンプが、混合用流路251よりも上流側の流路(例えば流路341、342)に配設された、正方向と逆方向との双方向の送液が可能に構成された双方向マイクロポンプ32a〜32dとされるので、混在液を混合用流路251中で正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するための構成をこの双方向マイクロポンプ32a〜32dを用いて容易に実現することができる。また、混合液を混合用流路251に上流側から(正方向に)流し込んで充填する送液動作(液駆動)と、当該混合液を充填した混合用流路251中での混合液と吸着体との混在液を正方向及び逆方向に流して攪拌する送液動作と、さらには、混在液から不要物質を洗い流すための送液動作とを、この双方向マイクロポンプ32a〜32dで兼用することができ、一層低コスト化を図ることができる。
【0075】
また、双方向マイクロポンプ32a〜32dが、所定の室部(ポンプ室321)と、この室部を挟んだ上流側及び下流側に配設された流出入する流体の流速に応じて流路抵抗が異なる2つのディフューザ351、352と、室部の底面を構成するダイヤフラム326と、ダイヤフラム326に並設された圧電素子部材(圧電素子板327)とを備え、制御系4による圧電素子部材の圧電駆動制御によってダイヤフラム326を流路方向と直交する方向に上下運動させる速度を異なるものとすることで上記正方向及び逆方向への送液が行われるものとされるので、当該正方向及びは逆方向への送液を行う双方向マイクロポンプ32a〜32dを簡易な構成で実現できる。
【0076】
また、制御系4によって、圧電素子部材の圧電駆動制御が、圧電素子部材に対する信号波形(信号波形511や521)の制御に基づいて行われるので、双方向マイクロポンプ32a〜32dによる正方向及び逆方向への送液を行うための圧電素子部材の圧電駆動制御を、信号波形を制御するという簡易な方法で実現することができる。また、信号波形を制御するという簡易な方法で、正方向及び逆方向への送液量を任意に設定することができる(例えば正方向にXnl、逆方向にYnl(X>Y)送液する動作を繰り返して往復運動させながら結果として正方向に送液するといったことができる)。
【0077】
また、混合用流路251が、蛇行状に折曲した形状に形成されているので、コンパクトで且つ流路の長い混合用流路を容易に実現することができる。また、このように混合用流路251の流路長を長くすることができるので、分析用物質の抽出(分析用物質の吸着体への吸着)或いは不要物質の洗浄に際して、混合材を混合(反応)させるための時間を充分に確保することができる。
【0078】
また、混合用流路251よりも下流側の流路(例えば流路264)の所定位置に配設されたセンサ部44によって、混合用流路251に上流側から流入してきた混合液が検出されるので、混合液が混合用流路251内に充填されたことが、簡易な構成で且つ自動的(確実)に確認できる。
【0079】
また、混合材が、分析用物質(DNA)が含まれる検体21と、検体21から分析用物質を溶出するための溶解液22とであるので、混合材を混合して混合材から分析用物質を溶出することが、検体21及び溶解液22を用いて容易に行える。
【0080】
また、混合材が、混合用流路251における検体21及び溶解液22の混在液中の分析用物質が吸着された吸着体以外の不要物質を洗い流すための洗浄液23(例えばエタノール)とされ、マイクロポンプによって、不要物質が洗い流されるべく洗浄液23が混合用流路251中で正方向及び逆方向に送液されて(往復運動されて)攪拌されつつ正方向に送液されるので、洗浄液23でより確実に(少ない洗浄液で効率良く)不要物質を洗い流すことができる。
【0081】
また、混合材が、分析用物質が吸着された吸着体から分析用物質を溶出するための溶出液24(例えば水)とされ、制御系4が備える加熱部43によって、分析用物質が吸着された吸着体及び溶出液24が混合用流路251中で加熱されて暖められるので、吸着体に吸着された分析用物質を溶出液24に確実に溶出させることができる。
【0082】
また、マイクロポンプが、混合用流路251よりも上流側の流路(例えば流路341、342)及び下流側の流路(例えば流路264)に配設された、一方向のみの送液が可能に構成された一方向マイクロポンプ371、381〜384とされるので、混在液を混合用流路251中で正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するための構成を、一般的な(汎用の)一方向マイクロポンプ371、381〜384を用いて容易に且つ安価に実現することができる。
【0083】
また、本発明の実施形態によれば、分析システム1(1a)に用いられるマイクロ化学チップ2(2’)が、複数種類の混合材を混合するための混合用流路251と、混合用流路251内に移動可能に装填された吸着体(ビーズ252)であって、複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質(DNA)を吸着可能な吸着体とを備えたマイクロ化学チップ2であり、分析システム1が備える制御系4(4’)及びこの制御系4により液駆動制御されるマイクロポンプ(双方向マイクロポンプ32a〜32d)(一方向マイクロポンプ371、381〜384)によって、混合用流路251中の混合液と吸着体とが混在してなる混在液が混合用流路251の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流されることで、混在液が混合用流路251中で攪拌されるマイクロ化学チップ2とされるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった構成とすることなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するという簡易(安価)な構成を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路251内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることが可能なマイクロ化学チップを得ることができる。また、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなって高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)ため、マイクロ化学チップ2を高耐圧なものにする必要がなくなり、マイクロ化学チップ2の低コスト化を図ることができる。
【0084】
また、本発明の実施形態によれば、液駆動方法が、複数種類の混合材を混合するための混合用流路251と、混合用流路251内に移動可能に装填された吸着体(ビーズ252)であって、複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質(DNA)を吸着可能な吸着体とを有するマイクロ化学チップ2(2’)を備えた分析システム1(1a)に用いられる液駆動方法であり、分析システム1がさらに備える制御系4(4’)及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプ(双方向マイクロポンプ32a〜32d)(一方向マイクロポンプ371、381〜384)によって、混合用流路251中の混合液と吸着体とが混在してなる混在液を混合用流路251の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流すことで、混在液を混合用流路251中で攪拌する工程を有する液駆動方法とされるので、磁気ビーズに対して磁界をかけるといった工程を有することなくポンプにより正方向及び逆方向に流して(往復運動させて)攪拌するという簡易な方法を用いて、例えば正方向のみの一方向に送液する場合のように吸着体が混合用流路251内の特定箇所に密集することなく分析用物質を効率良く吸着体と接触させて吸着効率を高めることができ、ひいては分析用物質の抽出効率を向上させることができる。また、この液駆動方法を採用することにより、吸着体が密集しないので送液時の抵抗が小さくなって高出力なポンプが必要でなくなる(ポンプが小型化できる)ため、マイクロ化学チップ2を高耐圧なものにする必要がなくなり、マイクロ化学チップ2の低コスト化を図ることができる。なお、本発明は以下の態様をとることも可能である。
【0085】
(A)上記実施形態では、図3に示すようにビーズ252が混合用流路251の下流端部に存在して、この場所で混在液が攪拌されるような構成とされているが、これに限らず、混合用流路251の中流位置或いは上流側など、任意の場所で攪拌される構成でもよい。ビーズ252が混合用流路251全体に散在して混合用流路251全体で混在液が攪拌される構成でもよい。
【0086】
(B)上記実施形態では、溶解セル部25の混合用流路251は図3に示すような形状となっているが、これに限らず、例えば図15(a)、(b)に示すような形状でもよい。すなわち、図15(a)に示すように、混合用流路251が非対称形状、つまり混合用流路251の流路中心を示す中心線Mに対して流路幅方向に対称でない形状、例えば中心線Mを挟んだ一方側に混合用流路251の流路幅より小さい流路253を備えた形状であってもよい。これは、混合用流路251(混合用流路251の上記下流端)に、流路幅方向における一方の流路壁に沿った流路253から流体が流れ込む或いは流出することが可能な流路室部254を備えた形状ということもできる。これにより、例えば図中の矢印に示すように流路室部254で非対称な流れ(乱流;例えば渦の様な乱れた流れ)が生じ易くなるので、ビーズ252の密集が確実に防止されて混在液をより一層攪拌(混合)することができ、ひいてはDNAの吸着効率(抽出効率)を一層高めることができる。なお、ビーズ252を混合用流路251全体に散在させないように(混合用流路251の一箇所つまり例えば下流端部で集中的に攪拌するために)、流路253の流路幅をビーズ252の径よりも小さくして、謂わば流路室部254内にビーズ252を閉じ込めたようにしてもよい。
【0087】
(C)また、混合用流路251を、図15(b)に示すように混合用流路251を所定数の小区画255〜258に区分けした形状としてもよい。この場合、各小区画間の流路259の幅はビーズ252径よりも小さくなっており、各小区画には、該小区画内で自由に移動可能な適量(所定個数)のビーズ252が装填されている。これにより、各小区画でより確実に攪拌が行われて(目詰まりすることなく)ビーズ252へのDNAの吸着効率が一層向上する。また、ここでは、謂わば蛇行した流れとなるように各小区画間の流路(狭窄流路)259が中心線Mに対して交互に配置されて上述と同様の非対称な流れが生じ易い形状となっていることから、ビーズ252の密集が確実に防止されて混在液がより一層攪拌され、DNAの吸着効率をさらに向上させることができる。なお、各小区画間の狭窄流路259が中心線Mに対して交互でなく例えば一方側など任意に配置された形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】第1の実施形態に係る分析システムの一例を模式的に示すブロック構成図である。
【図2】上記分析システムにおけるマイクロ化学チップ及び駆動部の実際の構成例を示す模式図である。
【図3】マイクロ化学チップにおける混合用流路の下流側端部の一例を示す部分拡大図である。
【図4】双方向マイクロポンプの一例を概念的に示す断面構成図である。
【図5】上記双方向マイクロポンプにおける正方向又は逆方向の送液時の動作を概念的に説明するための模式図である。
【図6】上記双方向マイクロポンプを駆動する信号波形の具体例を示すグラフ図である。
【図7】上記双方向マイクロポンプの実際の構成例を示す斜視図である。
【図8】第1の実施形態に係る一連のDNA抽出動作を示すフローチャートであって、検体と溶解液とビーズとの混在液を往復運動により攪拌してDNAをビーズに吸着させる動作の一例を示すフローチャートである。
【図9】第1の実施形態に係る一連のDNA抽出動作を示すフローチャートであって、混在液から不要物質を洗浄する動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】第1の実施形態に係る一連のDNA抽出動作を示すフローチャートであって、DNAが吸着したビーズからDNAを溶出させてマイクロ化学チップから取り出す動作の一例を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態に係る分析システムの一例を模式的に示すブロック構成図である。
【図12】図11に示す分析システムにおけるマイクロ化学チップ並びに第1及び第2駆動部の実際の構成例を示す模式図である。
【図13】第2の実施形態に係る一連のDNA抽出動作を示すフローチャートであって、検体と溶解液とビーズとの混在液を往復運動により攪拌してDNAをビーズに吸着させるとともに、混在液から不要物質を洗浄する動作の一例を示すフローチャートである。
【図14】第2の実施形態に係る一連のDNA抽出動作を示すフローチャートであって、DNAが吸着したビーズからDNAを溶出させてマイクロ化学チップから取り出す動作の一例を示すフローチャートである。
【図15】(a)、(b)はいずれも混合用流路の一変形例を示す模式図である。
【図16】従来における混合用流路内でビーズが密集した状態を示す模式図である。
【図17】流路内におけるビーズのサイズ(又は有無)と液体を押し流す圧力との関係の一例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0089】
1、1a 分析システム
2、2’ マイクロ化学チップ
20 分析用混合材部
21 検体(混合材)
22 溶解液(混合材)
23 洗浄液(混合材)
24 溶出液(混合材)
25 溶解セル部
251 混合用流路
252 ビーズ(吸着体)
254 流路室部
255〜258 小区画(部分区間)
259 狭窄流路
26 流路
260〜263、266 流路
264 流路(請求項10に記載の混合用流路よりも下流側の流路)
2641 狭窄流路
27 分岐流路切換部
3 駆動部
3’ 第1駆動部
31 駆動液
32 マイクロポンプ
32’ マイクロポンプ
32a〜32d 双方向マイクロポンプ
320 シリコン基板
321 ポンプ室(室部)
322 第1隔壁
323 第1室
324 第2隔壁
325 第2室
326 ダイヤフラム
327 圧電素子板(圧電素子部材)
328 第1流路
329 第2流路
33 タンク
341、342 流路(請求項2、10に記載の混合用流路よりも上流側の流路)
351、352 ディフューザ
37 第2駆動部
371 一方向マイクロポンプ
381〜384 一方向マイクロポンプ
4、4’ 制御系
41 全体制御部
42 駆動制御回路
43 加熱部
44 センサ部(センサ)
45 切換部
511、521 信号波形
M 中心線(流路中心線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えるマイクロ化学チップと、
前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を、該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流す液駆動が可能に構成されたマイクロポンプと、
前記マイクロポンプの液駆動を制御することで前記混在液を前記混合用流路中で攪拌させる制御系とを備えることを特徴とする分析システム。
【請求項2】
前記マイクロポンプは、前記混合用流路よりも上流側の流路に配設された、前記正方向と逆方向との双方向の送液が可能に構成された双方向マイクロポンプであることを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記双方向マイクロポンプは、
所定の室部と、該室部を挟んだ上流側及び下流側に配設された流出入する流体の流速に応じて流路抵抗が異なる2つのディフューザと、前記室部の底面を構成するダイヤフラムと、該ダイヤフラムに並設された圧電素子部材とを備え、
前記制御系による前記圧電素子部材の圧電駆動制御によって前記ダイヤフラムを流路方向と直交する方向に上下運動させる速度を異なるものとすることで前記正方向及び逆方向に送液することを特徴とする請求項2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記制御系は、前記圧電素子部材の圧電駆動制御を、該圧電素子部材に対する信号波形の制御に基づいて行うことを特徴とする請求項3に記載の分析システム。
【請求項5】
前記混合用流路は、蛇行状に折曲した形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析システム。
【請求項6】
前記混合用流路よりも下流側の流路の所定位置に配設された、該混合用流路に上流側から流入してきた前記混合液を検出するセンサをさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分析システム。
【請求項7】
前記混合材は、前記分析用物質が含まれる検体と、該検体から該分析用物質を溶出するための溶解液とであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分析システム。
【請求項8】
前記混合材は、前記混合用流路における前記検体及び溶解液の混在液中の前記分析用物質が吸着された吸着体以外の不要物質を洗い流すための洗浄液であって、
前記マイクロポンプは、前記不要物質を洗い流すべく、前記洗浄液を前記混合用流路中で攪拌しつつ前記正方向に送液することを特徴とする請求項7に記載の分析システム。
【請求項9】
前記混合材は、前記分析用物質が吸着された吸着体から該分析用物質を溶出するための水であって、
前記制御系は、前記分析用物質が吸着された吸着体及び前記水を前記混合用流路中で加熱する加熱部を備えることを特徴とする請求項8に記載の分析システム。
【請求項10】
前記マイクロポンプは、前記混合用流路よりも上流側の流路及び下流側の流路に配設された、一方向のみの送液が可能に構成された一方向マイクロポンプであることを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項11】
前記混合用流路は、流路が流路中心線に対して非対称な形状に形成されてなるものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の分析システム。
【請求項12】
前記混合用流路は、所定数の部分区間に区分された形状に形成されて且つ各部分区間の流路内に所定数の吸着体が移動可能に装填されてなるものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の分析システム。
【請求項13】
複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを備えた、分析システムに用いられるマイクロ化学チップであって、
前記分析システムが備える制御系及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプによって、前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流すことで、該混在液を該混合用流路中で攪拌させることを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項14】
複数種類の混合材を混合するための混合用流路と、該混合用流路内に移動可能に装填された吸着体であって、前記複数種類の混合材が混合されてなる混合液における所定の分析用物質を吸着可能な吸着体とを有するマイクロ化学チップを備えた分析システムに用いられる液駆動方法であって、
前記分析システムがさらに備える制御系及び該制御系により液駆動制御されるマイクロポンプによって、前記混合用流路中の前記混合液と前記吸着体とが混在してなる混在液を該混合用流路の上流側から下流側への正方向、及び下流側から上流側への逆方向に流すことで、該混在液を該混合用流路中で攪拌させる工程を有することを特徴とする液駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−209281(P2008−209281A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47040(P2007−47040)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】