説明

分析標準およびその作製方法

【課題】含有量が微量で、励起光の透過性が高い生体試料と同様の特性を有する分析標準を作製する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】微小ビーム蛍光X線分析に用いる分析標準の作製方法であって、ベース材料に元素を添加し、攪拌によってベース材料に元素を混和させて混和溶液を生成する混和工程Aと、混和溶液を脱気する脱気工程Bと、混和溶液を穏やかに凍結させる凍結工程Dと、凍結した混和溶液から薄切切片を切り出す切出工程Fとを含む方法を提供する。混和溶液中の気泡をより確実に除去するために、脱気工程Bが、混和溶液を室温で静置する静置工程を含んでもよいし、静置工程が、静置している混和溶液中の気体を吸引装置によって除去する工程を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小ビームを用いた元素分析に使用する分析標準の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、局所元素分析を行う技術として、微小ビーム蛍光X線分析がある。この技術は、ビーム径が数百ナノメータから数マイクロメータ四方のシャープな励起光を試料に照射し、発生する蛍光X線のエネルギーから元素の種類を特定し、発生する蛍光X線の強度からその存在量を特定するものである。微小ビーム蛍光X線分析は、励起光の種類によりいくつかのタイプに分類されるが、照射による試料へのダメージが少ないことから、シンクロトロン放射光を励起光としたシンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR−XRF:Synchrotron Radiation X-ray Fluorescence)や荷電粒子を光源とした荷電粒子励起X線分析(PIXE:Proton Induced X-ray Emission)が脚光を浴び、盛んに利用されている。微小ビーム蛍光X線分析が利用される分野としては、例えば、電子部品に蒸着した金属の均質性検査(材料工学)、鉱物試料の元素局在の解析(地球科学)、大気浮遊塵などの環境試料中の汚染元素の検出(環境科学)、頭髪分析による栄養状態の把握や組織中の微量元素の分布(医学)など多岐にわたる。また、近年では、大型微小ビーム分析施設の稼動により検出感度が飛躍的に向上したことで、微小ビーム蛍光X線分析を生物医学分野に適用する例が大幅に増加した。
【0003】
微小ビーム蛍光X線分析を行う際には、分析標準を用いる。ここで、分析標準とは、測定の精度管理や定量測定のために一連の測定において基準として用いる試料のことである。この分析標準は、既知の濃度の元素を含有しており、例えば、この分析標準から得られている各濃度における蛍光X線の強度を基準にして、測定対象の試料から得られた蛍光X線の強度から、測定対象の試料の濃度を求める。したがって、分析標準の物理的性状は測定対象の試料と類似していることが望ましい。
【0004】
分析標準としては、例えば、既知の濃度の元素を含有する薄切ガラスや、薄膜などに金属蒸着を施すことによって作製されるもの(以下、「蒸着タイプの分析標準」という)を用いる技術があり、その分析標準を微小ビーム蛍光X線分析に適用する技術が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで、金属蒸着とは、金属を蒸発させて素材の表面に付着させる表面処理のことをいう。
【0005】
また、分析標準として、例えば、濾紙の上に金属を滴下して乾燥させたもの(以下、「滴下法による分析標準」という)を用いる技術があり、その分析標準を微小ビーム蛍光X線分析に適用する技術が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】M. Watanabe, and D. B. Williams, Atomic-level detection by X-ray microanalysis in the analytical electron microscope, Ultramicroscopy 78 (1999) 89-101
【非特許文献2】K. Watanabe, O. Miyakawa, and M. Kobayashi, New method for quantitative mapping of metallic elements in tissue sections by electoron probe microanalyser with wavelength dispersive spectrometers, Journal of Electron Microscopy 50 (2001) 77-82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記非特許文献1に開示されている蒸着タイプの分析標準を、材料工学や計測工学の分野に適用することはできるが、生物医学分野で対象となる生体試料の測定には適用できないことが多いという問題がある。すなわち、測定対象となる生体試料に含まれる元素には、含有量が数ppmあるいはそれ以下と微量のものが多いため、測定対象となる生体試料と蒸着タイプの分析標準との間で元素の含有量に大きな隔たりが生じてしまう。また、測定対象となる生体試料は、励起光の透過性が高いことが多いため、測定対象となる生体試料と蒸着タイプの分析標準との間で励起光の透過性が著しく異なってしまう。
【0007】
また、前記非特許文献2に開示されている滴下法による分析標準は、元素の種類によっては分析標準として用いることが困難な場合があるという問題がある。例えば、水銀を滴下した場合、化学形態によっては水銀自体も蒸発してしまうことがあり、滴下した後の乾燥させる段階において、滴下部位における元素分布に偏りが生じるなど、所望の濃度の水銀を含んだ分析標準として用いることができなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題を解決し、微小ビームを用いた元素分析に使用する分析標準およびその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、微小ビーム蛍光X線分析に用いる分析標準の作製方法であって、ベース材料に元素を添加し、攪拌によって前記ベース材料に前記元素を混和させて混和溶液を生成する混和工程と、前記混和溶液を脱気する脱気工程と、前記混和溶液を穏やかに凍結させる凍結工程と、凍結した前記混和溶液から薄切切片を切り出す切出工程とを含む方法とした。
【0010】
このような方法によれば、混和によって、元素がベース材料にほぼ均一に混和された混和溶液を生成でき、脱気によって、混和溶液から気体を除去でき、穏やかな凍結によって、混和溶液から気体を除去できるとともに、薄い切片を作製することが可能となる。これによって、生体試料が有する特徴である、元素の含有量が微量で、励起光の透過性が高いという特徴を有する分析標準を作製することができるため、微小ビームを用いた元素分析を生体試料に適用することが可能となる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記凍結工程が、前記混和溶液を室温で静置する静置工程を含む方法とした。
【0012】
このような方法によれば、凍結の前に室温で混和溶液を静置することによって、混和溶液の温度の低下を緩やかにすることができる。したがって、混和溶液中の気体の除去をさらに確実に行うことが可能となる。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2において、前記静置工程が、静置している前記混和溶液中の気体を吸引装置によって除去する工程を含む方法とした。
【0014】
このような方法によれば、室温で混和溶液を静置する間に、吸引装置で混和溶液中の気体を除去することができるので、混和溶液中の気体の除去をさらに確実に行うことが可能となる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3において、前記凍結工程の冷却速度が−4.4℃/分より緩冷である方法とした。
【0016】
このような方法によれば、凍結工程において、冷却速度が−4.4℃/分より緩冷である条件で穏やかに凍結することができるので、混和溶液中の気体の除去をさらに確実に行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項3において、前記凍結工程の冷却速度が−2.9℃/分より緩冷である方法とした。
【0018】
このような方法によれば、凍結工程において、冷却速度が−2.9℃/分より緩冷である条件で穏やかに凍結することができるので、混和溶液中の気体の除去をさらに確実に行うことが可能となる。
【0019】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5に記載された分析標準の作製方法により作製された分析標準とした。
【0020】
このような分析標準によれば、請求項1ないし請求項5に記載された分析標準の作製方法によって作製された分析標準を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、微小ビームを用いた元素分析に使用する分析標準およびその作製方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における分析標準の作製方法を説明する図である。本実施形態における微小ビーム蛍光X線分析に用いる分析標準の作製方法は、ベース材料に元素を添加し、攪拌によってベース材料に元素を混和させて混和溶液を生成する混和工程Aと、混和溶液を脱気する脱気工程Bと、混和溶液を穏やかに凍結させる凍結工程Dと、凍結した混和溶液から薄切切片を切り出す切出工程Fとを含むものである。
図1に示すように、まず、ベース材料に任意の量の元素を添加して標準試料200とし、容器100内で混和する(混和工程A)。ベース材料としては、固体状態で5〜40μm厚程度に薄切可能な素材(室温では粘性が高い液体)を使用するのが好ましく、凍結切片を作製する際に使用される支持体であるOTCコンパウンド(ポリエチレングリコール4.26%、ポリビニールアルコール10.24%、緩衝成分を含む水85.5%)を使用するのが好ましい。また、例えば、主成分がポリビニールアルコールで構成される溶液、例えば、アラビックのり(ヤマト株式会社)も素材自体に混入元素が少なく、支持体としての可能性がある。また、例えば、主成分がアクリル系樹脂である溶液、例えば、アクリトロン(三菱レイヨン株式会社)も支持体としての可能性がある。また、添加する元素としては、例えば、亜鉛、セレン、水銀、スズなどの金属元素を用いることができる。標準試料200における元素の濃度は、1〜500ppm程度になるように、ベース材料に元素を添加するのが好ましい。元素をベース材料に添加するには、例えば、その元素が水に溶けた水溶液をベース材料に添加すればよい。また、混和の際には、標準試料200内に攪拌子(不図示)を入れ、スターラー300で穏やかに攪拌しながら混和するのが好ましい。
【0023】
次に、標準試料(混和溶液)200を脱気する(脱気工程B)。ここで、脱気工程Bは、標準試料200を室温静置する静置工程を含むことが好ましい。室温は、特に限定されるものではないが、標準試料200が凍結しない程度の温度であれば、例えば4℃などの低温であっても可能である。また、室温静置の時間は、室温25℃程度の場合で5分以上であることが好ましく、低温になると長く設定する必要が生じる。混和工程Aの後には、標準試料200中に気体(気泡、溶存気体など)が含まれていることが多く、その状態の標準試料200を分析標準として用いると、標準試料200に励起光を照射した後に発生する蛍光X線のエネルギーや強度の正確な値が測定できない。したがって、標準試料200中の気体を除去するため、脱気工程Bや、後記する穏やかな凍結工程Dにおいて脱気する。また、この静置工程Bの間にアスピレータなどの吸引装置によって標準試料200の脱気の処理を促進させることとしてもよい。ここで、穏やかな凍結とは、次に述べるように凍結後に気泡が残留しない程度の冷却速度による凍結である。
【0024】
続いて、冷凍庫400の中に標準試料200の入った容器100を入れ(投入工程C)、標準試料200を穏やかに凍結する(凍結工程D)。穏やかに凍結するためには、冷却速度が−2.9℃/分より緩冷であることが好ましい。また、冷却速度が−4.4℃/分より緩冷であってもよい。この凍結工程Dを行うことによって、標準試料200を固体の状態(シャーベット状)にすれば、標準試料200から薄い切片を作製することが可能となる。また、この凍結工程Dを行うことによって、前記したように、標準試料200に含まれる気体を除去する効果も得られる。標準試料200が凍結した後、冷凍庫400から凍結した標準試料200の入った容器100を取り出す(取出工程E)。
【0025】
以上の工程で得られた標準試料200から薄切切片200Aを切り出し、乾燥させて薄切標準とすることによって分析標準(不図示)を作製する(切出工程F)。この切出工程Fでは、例えば、クリオスタットCM1510(ライカ社)を用いて、標準試料200から薄切切片200Aを切り出すことが可能である。このクリオスタットCM1510(ライカ社)は、特殊ナイフを滑走することによりサンプルが薄切されるミクロトームが冷却装置付のボックス内に設置されているものであり、-20℃で薄切操作をすることができる。また、この切出工程Fでは、凍結したブロックを瞬間的に室温でサンプル台に装着し、再び-20℃のクリオスタット内で薄切切片200Aの切り出し作業を行うことが好ましい。室温作業時間を10秒程度とすることにより、-20℃あるいは-20℃に近い状態を保ったまま作業することが好ましい。また、この薄切切片200Aの厚さは5〜40μm程度が好ましい。
【0026】
以上説明したような分析標準の作製方法によれば、作製された分析標準中の元素の含有量を生体試料内の元素の含有量(数ppmあるいはそれ以下)と同程度の値に調整することが可能となる。また、励起光の透過性についても、作製された分析標準の透過性を生体試料の透過性と同程度の高さとすることができる。したがって、このような工程を経て得られた分析標準を用いれば、微小ビームを用いた元素分析を生体試料にも適用することが可能となる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。
<実験例1>
図2は、前記実施形態の分析標準の作製方法によって作製された分析標準中の元素の分布を示す図であり、図2(a)は、元素として亜鉛を用いた場合、図2(b)は、元素としてセレンを用いた場合を示す図である。
【0028】
図2に示す例では、容器(長軸27mm、短軸22mm、深さ4mmの楕円形容器)にOTCコンパウンド1.98gを入れ、元素溶液(図2(a)では、塩化亜鉛を蒸留水に溶解し、亜鉛として50000ppmの濃度とした塩化亜鉛溶液、図2(b)では、亜セレン酸ナトリウムを蒸留水に溶解し、セレンとして50000ppmの濃度とした亜セレン酸ナトリウム溶液)を20μl添加して、OTCコンパウンド中の亜鉛の最終濃度を500ppmとし、攪拌子(長さ15mm、直径2mm)を容器に入れ、マグネチックスターラーを用いて攪拌を5分間行い、室温静置(室温は25℃程度)を5分間行った後、-20℃の冷凍庫内で凍結した。冷凍庫に入れた後、10分程度で白い固体状に変化し始めた。凍結した後、ごく表層部約400μmを除き、20μm厚の切片を作製して、薄いポリプロピレンのフィルムに貼って室温に置くことで乾燥させ、分析標準とした。マイクロビーム分析システム(オクスフォードマイクロビーム社モデルOM2000)により薄切標準の500 x 500μm2の範囲をナノビームでスキャンした(ビーム径0.4μm x 0.65μm、積算電流0.25-0.3μC)。ドットは元素の存在を示している。OTCコンパウンドに添加した亜鉛(図2(a)参照)やセレン(図2(b)参照)がほぼ均一に分布していることがわかる。
【0029】
<実験例2>
図3は、前記実施形態の分析標準の作製方法によって作製された分析標準中の元素の深さ方向の分布を示す図であり、図3(a)は、元素としてセレンを用いた場合、図3(b)は、元素として水銀を用いた場合を示す図である。
【0030】
汎用の微小ビーム蛍光X線分析では、検出器の性質上、約1〜20keVのエネルギー領域で検出可能な蛍光X線を測定対象とするため、主要ピークであるK線の蛍光X線がこのエネルギー領域から外れる元素についてはK線よりも検出効率が劣るL線やM線で検出することになる。このような元素の代表例として水銀を選び、K線で検出可能なセレンと比較した。水銀は滴下法による分析標準(前記非特許文献2参照)では、乾燥の際に蒸発等があり良好な成績が得られない元素の一つでもある。
【0031】
図3に示す例では、元素溶液(図3(a)では、セレンの濃度が50000ppmである亜セレン酸ナトリウム溶液、図3(b)では、水銀の濃度が50000ppmである塩化第二水銀溶液)を用いた。他の条件は、実験例1と同様である。凍結した後、この約2.4cm2のブロック状の固体から薄切切片を作製し、分析標準とした。このブロックの均質性をマイクロビーム分析システム(オクスフォードマイクロビーム社モデルOM2000)により検証した。すなわち、ブロックの底部(L)、中央部(M)、およびごく表層をのぞく上部(U)から薄切標準(20μm厚)を作製し、各試料について3箇所500 x 500μm2の範囲をナノビーム(ビーム径0.4μm x 0.65μm)でスキャンし(積算電流0.24μC)、得られた強度の平均値と標準偏差をプロットした。OTCコンパウンドに添加したセレン(図3(a)参照)や水銀(図3(b)参照)がブロックの薄切切片の切り出し部位に関わらず、再現性の高い分析標準が得られることがわかる。水銀については、L線の検出のため、セレンと比較して検出効率が悪いにもかかわらず、前記実施形態の分析標準の作製方法で作製された分析標準では良好な結果が得られ、本手法の有効性が示された。
【0032】
<実験例3>
図4は、前記実施形態の分析標準の作製方法によって作製された分析標準の検量線を示す図であり、図4(a)は、元素としてセレンを用いた場合、図4(b)は、元素として亜鉛を用いた場合、図4(c)は、元素として水銀を用いた場合を示す図である。
【0033】
図4に示す例では、OTCコンパウンドに元素溶液(図4(a)では、亜セレン酸ナトリウム溶液、図4(b)では、塩化亜鉛溶液、図4(c)では、塩化第二水銀溶液)が終濃度100、250、および500ppmになるように添加した。他の条件は、実験例1と同様である。また、実験例2と同様の分析装置により500 x 500μm2の領域をナノビームで各試料について3箇所スキャンし(積算電流0.24μC)、得られた強度の平均値と標準偏差をプロットして検量線を作製した。セレン、亜鉛、および水銀のいずれからも直線性の高い検量線が得られることがわかった。
【0034】
<実験例4>
図5は、前記実施形態の分析標準の作製方法によって作製された分析標準の経時的安定性を示す図である。
【0035】
図5に示す例では、実験例3と同様の方法によって、水銀500ppmの分析標準を作製した。この分析標準は専用ケースに入れ、クリーンボックス内で保存した。作製後4日および184日(約6ヶ月)の分析標準について、実験例2と同様の分析装置を用い、500 x 500μm2の領域をナノビーム(ビーム径0.4μm x 0.65μm)で各経過日数について3箇所をスキャンし(積算電流0.24μC)、得られた強度の平均値と標準偏差をプロットした。これまで滴下法などの分析標準では不安定とされてきた水銀であるが、本手法では6ヶ月後も安定していることがわかった。
【0036】
<実験例5>
図6は、前記実施形態の分析標準の作製方法およびその他の方法で作製された分析標準の状態を示す図であり、図6(a)は、前記実施形態の分析標準の作製方法で作製された場合(冷却時間15分)、図6(b)〜(e)は、分析標準の冷却時間を変化させた場合(冷却時間は(b)が10分、(c)が3分、(d)が2分、(e)が30秒)、図6(f)は、分析標準を室温静置しなかった場合の状態を示す図である。
【0037】
図6(a)に示す例では、実験例1と同様な方法で、OTCコンパウンドに1/100量の蒸留水を添加し(元素溶液の添加に相当する操作)、攪拌を5分間行い、静置を5分間行った後、-20℃の冷凍庫内で15分間凍結した。図6(b)〜(e)に示す例では、液体窒素やドライアイスを使用し、図6(a)と比較して冷却時間のみを変えた。すなわち、冷却時間は(b)が10分、(c)が3分、(d)が2分、(e)が30秒である。図6(f)に示す例では、同じ濃度の分析標準に対して攪拌を5分間行った後、室温静置せずに、直ちに-20℃の冷凍庫内で凍結した。各々の方法によって得られた分析標準(20μm厚)の写真が図6(a)〜(f)に示されている。図6(a)を参照すると、前記実施形態の分析標準の作製方法によって、分析標準中に気泡が入らないことがわかる。他方、図6(b)〜(d)を参照すると、急激な凍結で分析標準中に気泡が入ることがわかり、(b)が分析標準の品質を保つための限界ラインと判断した。すなわち、図6(b)の場合、10分間で室温24℃から冷凍庫内の温度−20℃に冷却するため、冷却速度は(−20℃−24℃)/10分=−4.4℃/分であり、図6(a)の場合、15分間で室温24℃から冷凍庫内の温度−20℃に冷却するため、冷却速度は(−20℃−24℃)/15分=−2.9℃/分であるので、少なくとも冷却速度は−4.4℃/分よりも穏冷であることが好ましく、−2.9℃/分よりも緩冷であればより好ましいと考えられた。また、図6(c)を参照すると、室温静置を行わずに直ちに凍結させているので分析標準中に気泡が入ることがわかる。
【0038】
<実験例6>
図7は、前記実施形態の分析標準の作製方法における静置工程でアスピレータによる脱気を行って作製した分析標準の状態を示す図である。
【0039】
図7に示す例では、攪拌を5分間行った後、室温静置しながら直ちにアスピレータで25分脱気し、-20℃の冷凍庫内で15分間凍結した。この方法によって得られた分析標準(20μm厚)の写真を図7に示す。気泡は無く状態は良かった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態における分析標準の作製方法を説明する図である。
【図2】実施形態における分析標準の作製方法によって作製された分析標準中の元素の分布を示す図であり、図2(a)は、元素として亜鉛を用いた場合、図2(b)は、元素としてセレンを用いた場合を示す図である。
【図3】実施形態における分析標準の作製方法によって作製された分析標準中の元素の深さ方向の分布を示す図であり、図3(a)は、元素としてセレンを用いた場合、図3(b)は、元素として水銀を用いた場合を示す図である。
【図4】実施形態における分析標準の作製方法によって作製された分析標準の検量線を示す図であり、図4(a)は、元素としてセレンを用いた場合、図4(b)は、元素として亜鉛を用いた場合、図4(c)は、元素として水銀を用いた場合を示す図である。
【図5】実施形態における分析標準の作製方法によって作製された分析標準の経時的安定性を示す図である。
【図6】実施形態における分析標準の作製方法およびその他の方法で作製された分析標準の状態を示す図であり、図6(a)は、前記実施形態の分析標準の作製方法で作製された場合、図6(b)〜(e)は、分析標準の冷却時間を変化させた場合、図6(f)は、分析標準を室温静置しなかった場合の状態を示す図である。
【図7】実施形態における分析標準の作製方法における静置工程でアスピレータによる脱気を行って作製した分析標準の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
100 容器
200 標準試料
300 スターラー
400 冷凍庫
A 混和工程
B 脱気工程
C 投入工程
D 凍結工程
E 取出工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小ビーム蛍光X線分析に用いる分析標準の作製方法であって、
ベース材料に元素を添加し、攪拌によって前記ベース材料に前記元素を混和させて混和溶液を生成する混和工程と、
前記混和溶液を脱気する脱気工程と、
前記混和溶液を穏やかに凍結させる凍結工程と、
凍結した前記混和溶液から薄切切片を切り出す切出工程と
を含むことを特徴とする分析標準の作製方法。
【請求項2】
前記脱気工程は、
前記混和溶液を室温で静置する静置工程
を含むことを特徴とする請求項1に記載の分析標準の作製方法。
【請求項3】
前記静置工程は、
静置している前記混和溶液中の気体を吸引装置によって除去する工程
を含むことを特徴とする請求項2に記載の分析標準の作製方法。
【請求項4】
前記凍結工程は、
冷却速度が−4.4℃/分より緩冷であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の分析標準の作製方法。
【請求項5】
前記凍結工程は、
冷却速度が−2.9℃/分より緩冷であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の分析標準の作製方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の分析標準の作製方法により作製された分析標準。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−89441(P2008−89441A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271419(P2006−271419)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】