説明

分析法及びそのための装置

【課題】希釈されておらず、溶血されていない全血中のヘモグロビンを定量的に決定する方法の提供。
【解決手段】1mmより短い光路長を有する使い捨て毛細管を与え;前記キュベットに元のままの全血の試料を充填し;490〜520nmの範囲の波長で、キュベット中の試料に直接第一吸収測定を行い;更に第二吸収測定を行い;そして前記第一及び第二吸収測定の結果を処理して試料中のヘモグロビンの濃度を決定する;諸工程を行い、然も、前記処理工程が、試料中の散乱を補償することを含み、前記補償が、第二吸収測定の結果に依存している、ヘモグロビン決定法による。また、その方法を実施する装置も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析法及びその分析を行うための装置に関する。特に本発明は、元のままの全血中(unaltered whole blood)のヘモグロビンを決定するための方法及びその決定で用いることができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の試料を取り、その試料を試薬と混合し、その試薬と混合した試料を直接光学的分析にかける使い捨てキュベットは、既に米国特許第4,088,448号明細書により知られている。この既知のキュベットは、例えば、それが試料採取手順を簡単にし、器具の数を減少し、分析手順を、分析を行うオペレーターの操作技術とは無関係にすることにより分析精度を著しく向上させる点で幾つかの利点を有する。同じ原理に基づき、改良された流動特性を有するキュベット構造が、米国特許第5,674,457号明細書に記載されている。
【0003】
これらの特許により開発された使い捨てキュベットは、現在元のままの全血のヘモグロビン測定(Hb決定)のために現在広く用いられている。この目的から、キュベット空洞は試薬で予め処理されており、血液の試料がキュベット中に引き込まれた時、赤血球の壁が破壊され、化学反応が開始されるようになっている。反応の結果、キュベットの透明な器壁を通して直接吸収測定を行うことによりHbを決定することができる。その測定領域中の器壁は光学的窓とも呼ばれており、相対する平らな壁の内側表面間に予め定められた正確に規定された距離を有する。測定方法は、バンゼッティ(Vanzetti)G.、Am.J.Lab.& Clin.Med.,67,116(1966)による修正アジドメトヘモグロビン法に基づいている。
【0004】
分光測光による測定は、570及び880nmで行われる。この乾式化学に基づく定量的測定方法は、例えば、フォンシェンク(von Schenck)その他による、Clinical Chemistry,vol 32,No3,(1986)の文献に見られるように、かなりの成功を収めており、その方法は、Hbを決定するための標準化された湿式法で得られる結果と比較して、同等か又は優れてさえいる結果を与える。用いられる試薬は、赤血球を溶血するデオキシコール酸ナトリウム、アジ化ナトリウム及び亜硝酸ナトリウムから構成されており、それはヘモグロビンをアジドメトヘモグロビンへ転化する。
【0005】
用いられる試薬の吸湿性のため、保存寿命が限定されており、乾燥剤を含む密封包装内にキュベットを保存することが要求されている。更に面倒なことは、高い湿度の気候では、キュベットは、包装から取り出した後、数分以内に使用しなければならない。なぜなら、さもないと試薬が破壊され、測定が不正確になり、そのため役に立たなくなるからである。
【0006】
しかし、使用される試薬が吸湿性を持つことから起きる問題は、同時出願の特許出願PCT SE 01/01442に記載されているように、これらの試薬は使用しなくてもよいことが判明しているため、解消することができる。その特許出願によれば、最初の吸収測定がマイクロキュベット中の試料に対し直接490〜520nmの波長範囲で行われる。しかし、この特許出願に記載された発明によれば、測定を行う前に血液を溶血する必要がある。従って、キュベット空洞には、赤血球を破壊し、それらの細胞の中に含まれているヘモグロビンを放出させる溶血剤が入っていなければならない。血液試料中のヘモグロビンの測光による吸光度測定を行う時に溶血剤を使用する必要性は、例えば、米国特許第5,064,282号明細書〔アーテル(Artel)〕にも記載されている。
【0007】
溶血剤を用いないで全血中のヘモグロビンを光学的に決定する定量的方法が知られているが、これらの方法は、一般に全て比較的複雑である。これは、就中、赤血球の濃度が高く、その結果、不均一な血液試料のそれら粒子と相互作用して光が散乱されることによる血液の不均質性に起因するものである。従って、光を直接試料に通過させるのではなく、或る範囲の散乱角度に亙って偏向させる。問題を起こす別の因子は、血液が、五つもの多くの異なった種類のヘモグロビンを血液が含んでいると言うことにある。これらの問題を対象にした特許発行物は、例えば、米国特許第6,262,798号明細書〔シェファード(Shepherd)〕及びWO 01/53806(輻射系)である。
【0008】
米国特許第6,262,798号明細書に記載された発明によれば、正確な測定を行うためには多数の波長が必要である。多くの波長が必要なことは、分光測光を比較的複雑なものにしている。波長は、最小限の散乱及び最大の吸光度でヘモグロビンの種類を区別することができるそれらの能力によって選択される。その特許には、検出範囲を超える散乱の問題を少なくする大きな検出器を用いることも記載されている。
【0009】
WO 01/53806には、全血に対し光学的測定を特に適用することができる装置が記載されている。この装置は吸収フィルター又は干渉フィルターを有し、検出器感度の変動及び種々の散乱レベルで観察される有効光路長の変動についての補正を与える。その装置は吸収フィルター又は干渉フィルターを通って伝達された散乱光を検出するために大きな検出器を使用している。
【0010】
溶血剤を使用しないのみならず、米国特許第6,262,798号明細書に記載されている多数の波長を用いることなく、或はWO 01/53806に記載されているような種々の散乱レベルで観察される有効光路長の変動及び検出器感度の変動に対し補正を与える特別な吸収又は干渉フィルターを用いることなく、全血中のヘモグロビンの全量を正確に決定することができると言う本発明による発見は、従って、全く思いもよらぬものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、元のままの全血中のヘモグロビンを決定するための迅速で定量的な方法を与えることにある。
【0012】
第二の目的は、使い捨てマイクロキュベットで行うことができる、元のままの全血中のヘモグロビンを決定する方法を与えることである。
【0013】
第三の目的は、元のままの全血中のヘモグロビンを決定するために、活性試薬及び溶血剤を用いずに、毛細管導入口を有するキュベットを与えることにある。
【0014】
第四の目的は、元のままの全血中のヘモグロビンを決定するために、吸収測定結果を処理する方法を与えることである。
【0015】
第五の目的は、元のままの全血中のヘモグロビンを決定するための方法を実施する装置を与えることにある。
【0016】
他の目的は、次の記載及び添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一つの態様に従い、そのようなヘモグロビン決定を行う方法であって、
1mmより短い光路長を有する使い捨て毛細管状キュベットを与える工程、
前記キュベットに元のままの全血の試料を充填する工程、
490〜520nmの範囲の波長で、キュベット中の試料に直接第一吸収測定を行う工程、
更に第二吸収測定を行う工程、及び
前記第一及び第二吸収測定の結果を処理して試料中のヘモグロビンの濃度を決定する工程、
を含み、然も、前記処理工程が、試料中の散乱を補償すること(compensating)を含み、前記補償が、第二測定の結果に依存している、ヘモグロビン決定方法を与える。
【0018】
本発明の別の態様によれば、490〜520nmの範囲の波長で行われた試料についての第一吸収測定の結果、及び試料に対して行われた第二の吸収測定の結果から、希釈されておらず、溶血されていない全血の試料中のヘモグロビンの濃度を決定するための方法が与えられる。この方法は、第一及び第二吸収測定の結果を処理して、試料中のヘモグロビンの濃度を決定することを含み、然も、その処理工程が、試料中の散乱に対して補償することを含み、その補償は第二の吸収測定の結果に依存している。
【0019】
本発明の更に別の態様に従い、そのようなヘモグロビンの決定を行う装置は、
490〜520nmの第一範囲内の第一波長、及び第二範囲内の第二波長で発光する手段、
1mmより短い光路長を有し、元のままの全血の試料を保持する毛細管状キュベットを受けるように配列された(arranged;構成された)キュベット保持器、
前記第一範囲内の光による第一吸収測定及び前記第二範囲内の光による第二吸収測定で、試料を通って伝達された光を検出するための検出器、及び
第一及び第二吸収測定の結果を処理し、前記試料内のヘモグロビンの濃度を決定するための処理ユニット、
を具え、然も、前記処理が、試料中の散乱を補償することを含み、前記補償が第二吸収測定の結果に依存している。
【0020】
ヘモグロビンの定量的決定を、アジ化ナトリウム及び亜硝酸ナトリウムのような化学的試薬のみならず溶血剤を用いることなく、元のままの(unaltered)、即ち、希釈及び溶血されていない全血(undiluted and unhemolysed,whole blood)に対し直接容易に行うことができると言うことが、全く思いがけなく発見された。元のままの全血は血球を含んでいるので、試料中には実質的な光の散乱が存在する。従って、これまで希釈されておらず、溶血されていない全血の定量的ヘモグロビンの決定は、散乱光を検出し、分析することが必要になると予想されていた。本発明によれば、ヘモグロビンの決定は、血液内容物の散乱係数を定量的に知る必要もなく、散乱光の測定効果を物理的に低下させる必要もなく、二つの吸収測定により行うことができる。第二吸収測定による試料の吸収レベルに対する補償を行うことにより、散乱効果を容易に算定することができることが図らずも発見された。従って、本発明によれば、ヘモグロビンの決定は簡単であり、二つの吸収測定を行いさえすればよい。
【0021】
本発明によれば、このように、吸湿性試薬を除外することが出来ることが判明している。更に、分析決定を行うための時間を短くすることができることも判明している。分析は多量に、例えば、病院及び血液バンクで行うことができるので、時間の面は重要である。
【0022】
本願の内容に関連して、用語「吸収測定」(“absorption measurement”)とは、試料の吸収性に関する測定と解釈すべきである。吸収測定では、試料と相互作用した後に検出された光の強度が、試料に照射された光の強度と比較される。検出された光は、試料を通る透過率に相当する。検出器に到達しなかった光は、吸収されたものと考えられる。従って、測定結果中、透過率を吸収の代わりに用いることもできる。透過率は、収率の逆数なので、透過率を決定することも、やはり吸収測定をしたことになるであろう。しかし、測定された吸収は、試料中で真に吸収された光に相当するだけではない。なぜなら、幾らかの光は試料中で散乱され、それは検出器に到達しないからである。
【0023】
更に、用語「決定」(“determination”)とは、測定が、試料中のヘモグロビン濃度の絶対的に正確な値を得ることを必ずしも必要としていないものとして解釈されるべきである。なぜなら、ヘモグロビンの濃度は、合理的な許容誤差内で「決定」され、そのためその結果は、単に濃度の桁数を与え、必ずしも絶対的な値を与えるものとは限らないからである。
【0024】
本発明を、次に、例として、図面を参照して一層詳細に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明による方法の工程図である。
【図2】図2は、ヘモグロビンの吸光度の概略的図表である。
【図3】図3は、本発明による装置の模式的図である。
【図4A】図4Aは、現在用いられているヘモキュマイクロキュベットと比較した本発明の方法の予備的評価を例示する図表である。
【図4B】図4Bは、国際的基準法と比較した本発明の予備的評価を例示する図表である。
【0026】
本発明の詳細な記述
次に図1を参照して、本発明によるヘモグロビン決定方法を説明する。第一に、使い捨て毛細管状キュベットに、元のままの全血の試料を充填する、工程1。これにより分析すべき試料が得られる。次に、その試料についての第一吸収測定を、490〜520nmの波長で行う、工程2。更に、第二吸収測定を前記試料について行う、工程3。第二吸収測定は、650〜1200nmの範囲の波長で行う。この第二吸収測定は、下で一層詳細に説明するように、試料中の散乱光についての補償を行うために用いる。最後に、測定結果を、予め定められたアルゴリズムを用いて処理し、試料中のヘモグロビン濃度を決定する。工程4。
【0027】
本発明により用いられる使い捨てマイクロキュベットは、米国特許第4,088,448号明細書に記載されている型のものでもよく、或は好ましくは米国特許第5,674,457号明細書(それらの記載は参考のためここに入れてある)に記載されている型のものでもよい。キュベットは光学的窓を有する少なくとも一つの空洞(測定領域)を含む一体的本体部材として定めることができ、この場合空洞に面する二つの平坦又は曲がった表面は、互いに予め定められた距離の所に配置され、それによって予め定められた光路長を定める。測定領域を定める表面間のこの距離は、ヘモグロビン測定に対して適切な光路長を与える臨界的パラメーターである。光路長は、キュベット中の試料を通過する光の強度が試料中のヘモグロビンの決定を可能にするのに充分であるようにするためには、1mmより短くすべきである。好ましい態様として、この距離は0.2mmより短く、一層好ましくは、0.05〜0.2mmの間にある。空洞の残りの内側表面間の距離は、本体部材の外側と連通している空洞入口を通って毛細管力により試料を空洞内に入れることができるようにするのに効果的な0.1〜2mmの程度になっているのが好ましい。更に、空洞は、約25μlより小さい予め定められた固定された体積を有する。試薬又は溶血剤のような活性添加剤は、本発明の方法に従い決定するのに不必要である。
【0028】
本発明によるキュベットは、必要な密接な許容レベルの形成を可能にするどのような適当な材料から形成してもよい。キュベットは、透明重合体材料の射出成形により製造するのが好ましい。
【0029】
キュベットの毛細管充填に関連した問題を解決するため、キュベットの内面を予め処理し、これらの表面に親水性特性を与えるようにすることが必要になることがある。これは、Brij35のような適当な洗剤でそれら表面を被覆することにより達成することができる。別な可能な方法は、キュベットを製造するのに親水性材料を選択することである。本発明方法の臨界的特徴は、490〜520nm、一層好ましくは500〜510nmの範囲、最も好ましくは506nmの波長で吸収決定を行うことができることである。第二の補償吸収測定は、好ましくは650〜1200nmの範囲、一層好ましくは850〜910nmの範囲、最も好ましくは860〜900nmの範囲の波長で行われる。
【0030】
吸収測定は、試料の全血に対し直接行われる。即ち、血液は元のままである(希釈及び溶血はされていない)。
【0031】
490〜520nmの波長範囲では、五種類の異なった形態のヘモグロビン、即ち、オキシ−、デオキシ−、カルボキシ−、メト−、及びサルフ(sulf)−ヘモグロビンの吸収は同様であり、顕著である。従って、この波長範囲での吸収は、血液中の異なった形態のヘモグロビンの分布には僅かにしか依存しない。特に506nmでは、オキシ−とデオキシ−とのヘモグロビンの吸光度の差は0に近い。これらのヘモグロビンの形態は、通常の血液中の主なものであるので、オキシ−及びデオキシ−ヘモグロビンの吸収を、吸収度を決定するのに用い、測定された吸収を506nmでのヘモグロビンの濃度に関係付けるのが有利であろう。従って、血液試料中の異なった形態のヘモグロビンの含有量に関して、或る仮定を行う。即ち、もし測定が、ヘモグロビンの形態が非常に異なった分布をしている血液試料について行われるならば、ヘモグロビンの決定は正確なものではなくなるか、又は測定結果の処理は修正されなければならないであろう。更に、測定はヘモグロビンの全濃度を決定するだけで、特定の形態のヘモグロビンの濃度を決定するのではない。
【0032】
第二の吸収測定は、血液中の光の吸収が実質的に一層小さくなる波長で行われる。そのような吸収測定は、650〜1200nmの範囲の波長で行われるのが適切であろう。その場合、吸収測定値の差は、ヘモグロビンの吸収によるものと考えられる。
【0033】
しかし、光の散乱は、試料中のヘモグロビンの濃度によって変化するが、光の散乱はヘモグロビンの濃度にだけ依存するのではない。光の散乱は、赤血球、白血球、血小板、脂質、及び他の巨大分子のような血液中の粒子との光相互作用による。本発明によれば、図2の概略的図表に関連して説明するように、散乱効果は、第二吸収測定の測定結果に関係していることが図らずも発見された。図2では、実線は、高濃度のヘモグロビンを有する第一試料による測定吸収を概略的に例示している。吸収は真の吸収と、検出器に到達しなかった散乱光との両方を含んでいる。図2の点線は、ヘモグロビンの濃度が低い第二試料による測定吸収を概略的に例示している。図2の概略的図表は、全血の試料の主たる吸収特性を強調して示しているだけで、実際の試料の吸収を例示しているのではないことに注意すべきである。図2から分かるように、506nmの第一波長と880nmの第二波長との間の第一試料についての吸収差は、第二試料による対応する吸収差に実質的に等しい。従って、ヘモグロビンの濃度が、測定された吸収の差から直接決定されるならば、少なくともそれらの試料の一方について誤った結果が戻されるであろう。従って、光散乱についての補償が必要であり、本発明によれば、吸収レベルについての補償は、散乱について行われ、簡単なヘモグロビンの決定を可能にすることが判明している。
【0034】
吸収レベルに比例した補償を用いた場合、ヘモグロビンの濃度の正確な値が得られることが経験的に決定されている。
【0035】
上で述べたことにより、吸収測定の結果は、試料のヘモグロビンの濃度を決定するために処理すべきである。この処理は、予め定められたアルゴリズムによって行うことができる。このアルゴリズムは、上に記載した方式に従ってヘモグロビンの濃度を計算する。
【0036】
光散乱についての補償は、第二吸収測定の結果に依存するのが好ましい。補償関数は、ヘモグロビンの濃度が知られている一組の血液試料について吸収測定を行うことにより決定することができるであろう。これらの吸収測定は、用いるべき測定装置で行われる。次に、正しい結果を得るために必要な光散乱に対する補償を、第二吸収測定の値と比較する。このようにして、ヘモグロビンの決定された濃度が許容可能な誤差範囲内に入るように、補償を与える第二吸収測定の関数を見出すことができる。
【0037】
簡単化したモデルでは、補償は、少なくとも第二吸収測定結果の範囲内で第二吸収測定の結果に直線的に依存する。第二吸収測定の結果のこの範囲は、特定の測定装置を用いて得られた第二吸収測定の典型的な値に跨がっている。
【0038】
その処理は、次の式:
[Tot Hb]=(Abs−Abs)・k+F(Abs
〔式中、[Tot Hb]は、試料中のヘモグロビンの全濃度であり、Absは、第一吸収測定で測定された吸光度であり、Absは、第二吸収測定で測定された吸光度であり、kは、測定装置に依存する補正係数であり、F(Abs)は、第二吸収測定で測定された吸光度に依存した関数である〕
を計算することにより試料中のヘモグロビンの濃度を決定することができる。補正係数kは、ヘモグロビンを決定するために用いられる夫々の道具について特定的なものである。補償関数F(Abs)は、各道具についての補正でもある一定部分及び第二吸収測定の結果に依存し、上で述べたようにして得られる変動部分を有する。この場合には、その変動部分は、第二吸収測定の結果の範囲の中心部にある第二吸収測定の結果については0になることがある。
【0039】
次に図3に関し、上述の方法を実施する装置を説明する。その装置は、490〜520nmの第一範囲の第一波長、及び650〜1200nm第二範囲の第二波長の光を発する手段10を有する。この発光手段10は、幾つかの波長で発光するか、又はフィルターと一緒になって広い波長範囲で発光する光源の組合せによって実施することができる。例えば、光源は、第一波長と、第二波長の両方で発光するように配列(構成)する。フィルターを用いることにより、発光する波長は、これらの範囲の一方の中に入るように選択的に制御することができる。別法として、第一及び第二光源を用い、第一波長と第二波長とを夫々発光させることもできる。光源として発光ダイオードを用いることができる。その場合、二つの光源をオン・オフで切り替えることにより、発光手段10を、第一波長又は第二波長で発光するように選択的に制御することができる。
【0040】
発光手段10により発光する第一波長は、好ましくは500〜510nmの範囲にあり、一層好ましくは506nmの所にある。更に、発光手段10により発光する第二波長は、好ましくは850〜910nmの範囲にあり、一層好ましくは860〜900nmの範囲にある。
【0041】
装置は、更に毛細管状キュベットを受けるように配列したキュベット保持器12を有し、そのキュベットは1mmより短い光路長を有し、元のままの全血の試料を保持する。キュベットを保持器12中に入れた時、光学的窓が、光源からの光によってそれが照射されるように正しく配置されている。キュベット保持器は、好ましくは0.2mmより小さく、一層好ましくは0.05〜0.2mmの範囲にある光路長を有するキュベットを受けるように配列する。
【0042】
試料を通過した光は検出器14によって検出され、第一吸収測定値が第一範囲の光について得られ、第二吸収測定値が、第二範囲の光について得ることができる。
【0043】
その装置は、更に第一及び第二吸収測定の結果を処理して、上で述べたアルゴリズムに従って試料中のヘモグロビンの濃度を決定する処理ユニット16を有する。
【0044】
装置は、発光手段10、キュベット保持器12、及び検出器14を具えた測光器として実施されるのが適切である。これらの測定を行うのに適切な測光器は、適当な波長フィルター及び発光ダイオードによって修正された測光器を用いることにより得ることができる。本発明の好ましい態様に従い、測光器は、二つの波長での吸光度を測定し、組込まれたマイクロプロセッサーによりプログラムされたアルゴリズムに従い血液中のヘモグロビンの全濃度を計算する。このように、WO 01/53806に記載されているような検出器感度の変動及び有効光路長の変動についての補正を与える特定の吸収フィルター又は干渉フィルターは不必要になる。
【0045】
上の場合には、処理ユニット16が測光器中に埋め込まれている。しかし、処理ユニット16は、測光器へ接続してもよく、それにより測光器の外部で実施することもできる。例えば、コンピューターを測光器へ接続して用いてもよい。
【0046】
検出器14は、本質的に直接透過した光だけを検出するように配列することもできる。なぜなら、散乱光を検出する必要がないからである。このことは、検出器14が、試料に照射された光ビームの本質的に直径内に入り、試料を通過して直接伝達された光を検出することを意味する。勿論、幾らかの光が散乱されてもよく、それも依然としてこの直径内に入る。好ましい態様に従い、検出器14の検出領域の直径は、約2mmであるのが典型的である。好ましくは、検出器14は、試料保持器に対し10mmより近く配列する。このことは、小さな角度で散乱された光は検出されることを意味する。
【0047】
次の実施例は本発明を例示するが、それを限定するものではない。
【0048】
血液を分析するための時間は、現在用いられている既知のヘモキュ(HemoCue)マイクロキュベットによるヘモグロビンを決定するための方法と比較して、本発明の方法の方が約30秒短くなっていることが判明している。このことは、ヘモグロビン決定の全時間の明白な減少を可能にし、そのことは忙しい病院や、決定が行われる他の状況で有利になる。別の利点は、活性試薬又は溶血剤の入ったキュベットを必要としていないことである。従って、キュベットの保存は貯蔵環境の温度や湿度に対して敏感ではなくなり、そのことはそれらを使用する前のキュベットの取扱いを遥かに簡単にしている。
【0049】
ヘモキュ法と比較した新しい方法の予備的評価を、図4Aに示す。この評価は、実験室条件で行われた。それらの方法の間の一致性は非常に良好であることが分かるであろう。
【0050】
分光測光による吸収測定は、既知の方法については約570nmで行われ、新しい方法については約505nmで行われた。両方の方法について、補償測定は、約880nmで行われた。
【0051】
更に、標準的ICSH法と比較して、新しい方法の第二の評価を図4Bに記載する。これらの方法の間の一致性も非常に良好であることが分かるであろう。
【0052】
上で述べたことは、本発明の或る好ましい態様についての記述であるが、それは本発明をなんら限定するものではない。むしろ、詳細な点での多くの修正、変更、及び変化を、本発明の範囲内で行うことができるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈されておらず、溶血されていない全血中のヘモグロビンを定量的に決定する方法であって、
1mmより短い光路長を有する使い捨て毛細管状キュベットを与える工程、
前記キュベットに元のままの全血の試料を充填する工程、
490〜520nmの範囲の波長で、キュベット中の試料に直接第一透過吸収測定を行う工程、
更に第二透過吸収測定を行う工程、及び
前記第一及び第二吸収測定の結果を処理して試料中のヘモグロビンの濃度を決定する工程、
を含み、然も、前記処理工程が、試料中の散乱を補償することを含み、前記補償が、第二吸収測定の結果に依存しており、
前記処理が、次の式:
[Tot Hb]=(Abs−Abs)・k+F(Abs
〔式中、[Tot Hb]は、試料中のヘモグロビンの全濃度であり、Absは、第一吸収測定で測定された吸光度であり、Absは、第二吸収測定で測定された吸光度であり、kは、測定装置に依存する補正係数であり、F(Abs)は、測光器の補正用である定数部分と第二吸収測定で測定された吸光度に依存する変数部分とを含む関数である。〕
を計算することにより試料中のヘモグロビンの濃度を決定する、
上記方法。
【請求項2】
第一吸収測定を、500〜510nmの範囲の波長で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第二吸収測定を、650〜1200nmの範囲の波長で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
吸収測定を、検出器感度の変動及び有効光路長の変動についての補正を与える吸収フィルター又は干渉フィルターを用いずに、測光器で行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
キュベットが、0.2mmより短い光路長を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
キュベットが、0.05〜0.2mmの範囲の光路長を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
処理を、予め定められたアルゴリズムにより行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第一吸収測定を、506nmの波長で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第二吸収測定を、850〜910nmの範囲の波長で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第二吸収測定を、860〜900nmの範囲の波長で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
490〜520nmの範囲の波長で行われた試料についての第一の透過吸収測定の結果と、試料に対して行われた第二の透過吸収測定の結果とから、希釈されておらず、溶血されていない全血の試料中のヘモグロビンの濃度を決定するための方法であって、
第一及び第二の吸収測定の結果を処理して、試料中のヘモグロビンの濃度を決定する工程を含み、然も、その処理工程が、試料中の散乱に対して補償することを含み、その補償は第二の吸収測定の結果に依存しており、
前記処理が、次の式:
[Tot Hb]=(Abs−Abs)・k+F(Abs
〔式中、[Tot Hb]は、試料中のヘモグロビンの全濃度であり、Absは、第一吸収測定で測定された吸光度であり、Absは、第二吸収測定で測定された吸光度であり、kは、測定装置に依存する補正係数であり、F(Abs)は、測光器の補正用の定数部分と第二吸収測定で測定された吸光度に依存した変数部分を含む関数である。〕
を計算することにより試料中のヘモグロビンの濃度を決定する、
上記方法。
【請求項12】
第一吸収測定を、500〜510nmの範囲の波長で行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第二吸収測定を、650〜1200nmの範囲の波長で行う、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
第一吸収測定を、506nmの波長で行う、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
第二吸収測定を、850〜910nmの範囲の波長で行う、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項16】
第二吸収測定を、860〜900nmの範囲の波長で行う、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項17】
希釈されておらず、溶血されていない全血中のヘモグロビンを定量的に決定するための装置であって、
490〜520nmの第一範囲内の第一波長、及び第二の範囲の第二波長で発光する手段、
1mmより短い光路長を有し、元のままの全血の試料を保持する毛細管状キュベットを受けるように構成されたキュベット保持器、
前記第一範囲内の光による第一吸収測定及び前記第二範囲内の光による第二吸収測定で、試料を通って伝達された光を検出するための検出器、及び
第一及び第二吸収測定の結果を処理し、前記試料内のヘモグロビンの濃度を決定するための処理ユニット、
を具え、然も、前記処理が、試料中の散乱を補償することを含み、前記補償が第二吸収測定の結果に依存しており、
前記処理が、次の式:
[Tot Hb]=(Abs−Abs)・k+F(Abs
〔式中、[Tot Hb]は、試料中のヘモグロビンの全濃度であり、Absは、第一吸収測定で測定された吸光度であり、Absは、第二吸収測定で測定された吸光度であり、kは、測定装置に依存する補正係数であり、F(Abs)は、測光器の補正用の定数部分と第二吸収測定で測定された吸光度に依存する変数部分を含む関数である。〕
を計算することにより試料中のヘモグロビンの濃度を決定する、
上記装置。
【請求項18】
発光手段、キュベット保持器、及び検出器が、測光器中に配列されている、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
処理ユニットが、測光器中に埋め込まれている、請求項17に記載の装置。
【請求項20】
処理ユニットが、測光器に接続されている、請求項17に記載の装置。
【請求項21】
検出器の検出領域が、本質的に直接伝達された光だけを検出するような大きさを有する、請求項17〜20のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
検出器が、試料保持器に対し10mmより近く配列されている、請求項17〜21のいずれか1項に記載の装置。
【請求項23】
前記の発光手段が、第一波長の光を発し、第二波長の光を発するように配列された一つの光源を含む、請求項17〜22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
発光手段が、第一波長の光を発するように配列された第一光源、及び第二波長の光を発するように配列された第二光源を含む、請求項17〜22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項25】
発光手段により発光した第一波長が、500〜510nmの範囲である、請求項17〜24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
第一の吸収測定を506 nmの波長で行う、請求項17に記載の装置。
【請求項27】
発光手段により発光した第二波長が、650〜1200nmの範囲にある、請求項17〜26のいずれか1項に記載の装置。
【請求項28】
第二の吸収測定を850〜910nmの範囲で行う、請求項17に記載の装置。
【請求項29】
第二の吸収測定を860〜900nmの範囲で行う、請求項17に記載の装置。
【請求項30】
キュベット保持器が、0.2mmより短い光路長を有するキュベットを受けるように配列されている、請求項17〜29のいずれか1項に記載の装置。
【請求項31】
キュベット保持器が、0.05〜0.2mmの範囲の光路長を有するキュベットを受けるように配列されている、請求項30に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2010−117364(P2010−117364A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25049(P2010−25049)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【分割の表示】特願2003−556801(P2003−556801)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(500154353)ヘモク アクチボラゲット (11)
【Fターム(参考)】